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特開2024-10558転写因子FoxO1阻害による動脈硬化抑制
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010558
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】転写因子FoxO1阻害による動脈硬化抑制
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240117BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/10 101
A61P43/00 111
A61K31/47
A61K31/713
A61K48/00
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111955
(22)【出願日】2022-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年3月7日、第66回日本リウマチ学会総会・学術集会プログラム・抄録集、一般社団法人日本リウマチ学会
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】津久井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】河野 肇
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳貴
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA45
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC30
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA45
(57)【要約】
【課題】動脈硬化症に対する新規の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【解決手段】前記医薬組成物は、FoxO1阻害薬を有効成分として含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FoxO1阻害薬を有効成分として含む、動脈硬化症の予防または治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写因子FoxO1阻害による動脈硬化抑制、より具体的には、FoxO1阻害薬を含有する動脈硬化症の予防または治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、動脈硬化症の新規の治療標的の探索の中で、ヒト動脈硬化病変で高発現が認められる非受容体型チロシンキナーゼSyk(spleen tyrosine kinase)遺伝子に着目し、Syk遺伝子欠失マウスを作製し、高脂肪食を摂取させて動脈硬化を誘導したところ、動脈硬化の抑制(動脈硬化病変の低下)と共に、動脈硬化病変形成において中心的な役割をもつマクロファージの減少、マクロファージの細胞運動・遊走能の低下を確認した。また、Syk遺伝子欠失マウスの骨髄中単球を使用してRNA-Seqを行い、発現が低下した遺伝子の中から、接着因子CD11cに着目したところ、Syk遺伝子欠失マウスの末梢血単球の細胞表面でもCD11cの発現が低下していることを確認した。
なお、CD11cは細胞遊走に関与し、CD11cノックアウトマウスでは動脈硬化が抑制されることが知られている(非特許文献1)。
しかしながら、Syk下流におけるCD11c発現調整因子はこれまで明らかにされていなかった。
【0003】
一方、FoxO1は、アイソフォームであるFoxO3a、FoxO4と共に、フォークヘッドドメインを有する転写因子群のOサブファミリー(Forkhead bOX-containing protein, O subfamily)に属する転写因子であり、インスリンシグナル、脂質代謝、細胞分化・増殖に関与することが知られている(非特許文献2)。
【0004】
FoxO1と動脈硬化症との関連については、これまで、以下の報告がある:
・FoxO1の核内過剰発現で動脈硬化が促進(2012年,非特許文献3)
・FoxO1の骨格筋特異的過剰発現で動脈硬化が抑制(2021年,非特許文献4)
・FoxO1/FoxO3a/FoxO4血管内皮特異的トリプルノックアウトマウスで動脈硬化が抑制(2012年,非特許文献5)
・FoxO1/FoxO3a/FoxO4骨髄特異的トリプルノックアウトマウスで動脈硬化が促進(2013年,非特許文献6)
参考までに、非特許文献3,5,6は同一グループからの報告である。
【0005】
いずれの報告も、マウスにおける動脈硬化病変の変化を確認しているが、FoxO1核内過剰発現により動脈硬化が促進する(非特許文献3)のに対して、FoxO1骨格筋特異的過剰発現により動脈硬化が抑制する(非特許文献4)、あるいは、FoxO1/FoxO3a/FoxO4血管内皮特異的トリプルノックアウトマウスにおいて動脈硬化が抑制される(非特許文献5)のに対して、FoxO1/FoxO3a/FoxO4骨髄特異的トリプルノックアウトマウスにおいて動脈硬化が促進される(非特許文献6)といったように、組織の違いにより全く逆の結果が報告されており、全身におけるFoxO1阻害による動脈硬化に対する作用は不明であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wu H, et al. Functional role of CD11c+ monocytes in atherogenesis associated with hypercholesterolemia. Circulation. 2009;119(20):2708-2717.
【非特許文献2】Adipose Tissue and FoxO1: Bridging Physiology and Mechanisms Cells. 2020 Mar 31;9(4):849. doi: 10.3390/cells9040849
【非特許文献3】L., Qiang et al, THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, VOL. 287, NO. 17, pp. 13944-13951, April 20, 2012
【非特許文献4】Y. Shimba, Biochemical and Biophysical Research Communications 540 (2021) 61-66
【非特許文献5】K. Tsuchiya, Cell Metabolism 15, 372-381, March 7, 2012
【非特許文献6】K. Tsuchiya, Circulation Research March 29, 2013, 992-1003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明者は、Syk下流におけるCD11c発現調整因子を同定することを目的として、Sykが影響するCD11cプロモーター領域を、骨髄由来マクロファージを用いるレポーターアッセイにより探索したところ、CD11cの転写開始点から上流約1kbpに、目的とするSykが影響するCD11cプロモーター領域があることを見出した。その領域の塩基配列に結合する転写因子を推定し、推定した転写因子の阻害薬を骨髄由来マクロファージに投与し、細胞表面のCD11cをフローサイトメトリーで測定したところ、転写因子FoxO1阻害薬の投与によりCD11c発現が低下することを確認した。続いて、同FoxO1阻害薬を動脈硬化症モデルマウスに2週間腹腔内投与したところ、骨髄中単球、末梢血単球のいずれにおいても、CD11cの低下が確認できたため、同FoxO1阻害薬を動脈硬化症モデルマウスに8週間腹腔内投与して大動脈洞の動脈硬化病変を評価したところ、動脈硬化の抑制を確認することができた。
【0008】
このように、Syk遺伝子欠失マウス及びCD11c遺伝子欠失マウスにおいて、それぞれ、動脈硬化が抑制されるとの公知知見があったものの、SykとCD11cとを介在する因子の存在が不明であったとの出願当時の状況下、本発明者は、Syk下流におけるCD11c発現調整因子が転写因子FoxO1であることを発見し、更に、FoxO1阻害薬を動脈硬化症モデルマウスに投与したところ、動脈硬化を抑制することを発見したものである。
本発明はこのような新規の知見に基づくものであり、本発明が解決しようとする課題は、動脈硬化症に対する新規の予防または治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明による、FoxO1阻害薬を有効成分として含む、動脈硬化症の予防または治療用医薬組成物により解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、動脈硬化症に対する新規の予防または治療用医薬組成物を提供することができる。本発明によれば、FoxO1阻害は、動脈硬化症における新規の治療介入点となる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Sykが影響しているCD11cプロモーター領域をレポーターアッセイにより同定した結果を示すグラフである。
図2】Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)からそれぞれ採取した骨髄由来マクロファージにFoxO1阻害薬AS1842856を投与し、細胞表面のCD11cをフローサイトメトリーにより測定した結果を示すグラフである。
図3】Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)からそれぞれ採取した骨髄由来マクロファージにおけるFoxO1の核内の分布をウエスタンブロッティングにより評価した結果を示す画像である。
図4】Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)にFoxO1阻害薬AS1842856(20mg/kg)を2週間腹腔内に投与した後、採取した骨髄中単球におけるCD11c発現をリアルタイムPCRで測定した結果を示すグラフである。
図5】Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)にFoxO1阻害薬AS1842856(20mg/kg)を2週間腹腔内に投与した後、採取した末梢血単球(CD115陽性細胞)におけるCD11c発現(%)をフローサイトメトリーで測定した結果を示すグラフである。
図6】野生型マウス(Syk+/+)にFoxO1阻害薬AS1842856(20mg/kg)を8週間腹腔内に投与した後、HE染色により大動脈洞の動脈硬化病変の評価を行った結果を示す、図面に代わる写真である。
図7】野生型マウス(Syk+/+)にFoxO1阻害薬AS1842856(20mg/kg)を8週間腹腔内に投与した後、HE染色により大動脈洞の動脈硬化病変の評価を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の動脈硬化症の予防または治療用医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物と称することがある)は、有効成分として、FoxO1阻害薬を含む。FoxO1は、アイソフォームであるFoxO3a、FoxO4と共に、フォークヘッドドメインを有する転写因子群のOサブファミリー(Forkhead bOX-containing protein, O subfamily)に属する転写因子であり、インスリンシグナル、脂質代謝、細胞分化・増殖に関与することが知られている。
【0013】
FoxO1阻害薬としては、例えば、下記構造式:
【化1】
で表されるAS1842856〔5-amino-7-(cyclohexylamino)-1-ethyl-6-fluoro-4-oxo-1,4-dihydroquinoline-3-carboxylic acid〕、下記構造式:
【化2】
で表されるAS1708727〔2-Cyclopentyl-N-[2,4-dichloro-3-(isoquinolin-5-yloxymethyl)phenyl] N-methylacetamide〕、干渉核酸分子(例えば、siRNA)、抗FoxO1抗体等を挙げることができる。
【0014】
或る化合物がFoxO1阻害薬であるか否かは、例えば、質量分析とレポーター細胞を用いて評価することができる。具体的には、FoxO1と或る化合物を反応させ、得られた複合体を抽出し乖離させた後、質量分析器により解析を行いFoxO1に結合する化合物を同定する。続いて、同定した化合物を、FoxO1が結合する既知のプロモーター領域およびレポーター遺伝子から成るプラスミドを導入したレポーター細胞に投与しFoxO1の転写活性が抑制されるか否かを測定することにより確認することができる。
【0015】
これらの有効成分は、単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、本発明の医薬組成物は、医薬として、有効成分単独で、あるいは、好ましくは製剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤と共に、対象(例えば、動物、好ましくは哺乳動物、特にはヒト)に有効な量で投与することができるし、あるいは、飲食物の形で提供することもできる。
【0016】
本発明の医薬組成物を医薬として提供する場合には、経口剤または非経口剤として投与することができ、好ましくは経口剤である。前記経口剤としては、例えば、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤などの液剤、あるいは、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤などの固形製剤を挙げることができる。前記非経口剤としては、例えば、注射剤を挙げることができる。
【0017】
製剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、矯味剤、発泡剤、甘味剤、香料、滑沢剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、流動化剤などを挙げることができる。
【0018】
本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、患者の状態、体重、年齢、性別、投与経路等により適宜選択することができるが、一般に投与量の下限として、成人1日当たり約1μg~10μgの範囲で、投与量の上限としては成人1日当たり約100μg~1000μgの範囲内で選択でき、1日1~3回に分けて投与することができる。
【0019】
本発明の医薬組成物は、動脈硬化症の予防または治療、特には動脈硬化の抑制に使用することができる。
【実施例0020】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
《実施例1:Syk下流におけるCD11c発現調整因子の同定》
本実施例では、上流側から段階的に部分欠失させた各種塩基長のCD11cプロモーター領域と、その下流に連結させたルシフェラーゼとを含むレンチウイルスベクターを作製し、Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)からそれぞれ採取した骨髄由来マクロファージに感染させ、両マウス間のルシフェラーゼ活性の違いを指標として、Sykが影響しているCD11cプロモーター領域を探索したところ、CD11cの転写開始点から上流約1kbpの領域にSykが影響していることが判明した(図1)。
【0022】
続いて、決定した前記領域の塩基配列に結合する転写因子がFoxO1であると推定し、Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)からそれぞれ採取した骨髄由来マクロファージにFoxO1阻害薬AS1842856を投与し、細胞表面のCD11cをフローサイトメトリーにより測定したところ、野生型マウスから採取した骨髄由来マクロファージにおいて、コントロール群(ジメチルスルホキシド(DMSO)投与群)と比較して、AS1842856投与群ではCD11cの発現が有意に低下した(図2)。
図2における野生型マウス(Syk+/+)から採取した骨髄由来マクロファージのDMSO投与群と、Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)から採取した骨髄由来マクロファージのDMSO投与群との比較が示すようにSyk遺伝子欠失マウスから採取した骨髄由来マクロファージでは、元々、CD11cの発現が低下しており、Syk遺伝子欠失ではコントロール群(DMSO投与群)とAS1842856投与群との間に有意差は認められなかった。
【0023】
転写因子FoxO1は核内、細胞質に分布し、条件、刺激に応じて核内へ移動して転写を促進させるため、Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)からそれぞれ採取した骨髄由来マクロファージにおけるFoxO1の核内の分布をウエスタンブロッティングにより評価した。全細胞ライセート(total cell lysate;TCL)では、両者にFoxO1量の差は認められなかったが、核内(Nuclear)FoxO1量については、Syk遺伝子欠失マウスから採取した骨髄由来マクロファージでは減少が認められた(図3)。
【0024】
以上の結果から、Syk下流におけるCD11c発現調整因子は、転写因子FoxO1であることが判明した。
【0025】
《実施例2:FoxO1阻害による動脈硬化抑制》
本実施例では、始めに、Syk遺伝子欠失マウス(Sykdel/del)及び野生型マウス(Syk+/+)にFoxO1阻害薬AS1842856(20mg/kg)を2週間腹腔内に投与した後、採取した骨髄中単球におけるCD11c発現をリアルタイムPCRで測定すると共に、採取した末梢血単球(CD115陽性細胞)におけるCD11c発現(%)をフローサイトメトリーで測定した。なお、CD115は単球のマーカーである。
骨髄中単球におけるCD11c発現については、野生型マウスから採取した骨髄中単球において、コントロール群(DMSO投与群)と比較して、AS1842856投与群ではCD11cの発現が有意に低下した(図4)。
末梢血単球(CD115陽性細胞)におけるCD11c発現(%)については、野生型マウスから採取した末梢血単球において、コントロール群(DMSO投与群)と比較して、AS1842856投与群ではCD11c/CD115比が有意に低下した(図5)。
【0026】
続いて、野生型マウス(Syk+/+)にFoxO1阻害薬AS1842856(20mg/kg)を8週間腹腔内に投与した後、HE染色により大動脈洞の動脈硬化病変の評価を行った。コントロール群(DMSO投与群)と比較して、AS1842856投与群では動脈硬化が抑制された(図6図7)。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、動脈硬化抑制剤として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7