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特開2024-105618硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質、全固体電池、及び硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105618
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質、全固体電池、及び硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20240730BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240730BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20240730BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080606
(22)【出願日】2024-05-17
(62)【分割の表示】P 2024066451の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2018161831
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018232775
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019045347
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019103611
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】西井 克弥
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 諒
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 忠司
(72)【発明者】
【氏名】越智 龍也
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱的安定性の向上した硫化物固体電解質、その製造方法及び当該硫化物固体電解質を備えた全固体電池の提供。
【解決手段】構成元素として、P、S、N、元素A、元素X、及び元素Mを含有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質であって、ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、P、S、N、元素A、元素X、及び元素Mを含有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質。ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質、全固体電池、及び硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法に関する。
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。
【0003】
近年、非水電解質二次電池の非水電解質として、硫化物固体電解質が着目されており、種々の研究がなされている。
【0004】
特許文献1には、Li2S、P25、及びLi3Nを出発原料として、75Li2S-25P25-yLi3Nの組成を有する硫化物固体電解質を製造することが記載されている。
特許文献2には、Li2S、P25、LiBr、LiI、及びLi3Nからなる原料組成物を用いて、硫化物固体電解質を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-041671
【特許文献2】特開2015-011898
【特許文献3】特開2018-156735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、硫化物固体電解質がNを含有することで、硫化物固体電解質の大気安定性(耐水性)を向上できることが記載されている。しかしながら、硫化物固体電解質の原料としてLi3Nを使用すると、Nが系外に排出される問題があった。
【0007】
特許文献2には、Li2S、P25、LiI、及びLiBrを含有する原料組成物を非晶質化して熱処理することで高Liイオン伝導相が析出することが記載されている。しかし、熱処理温度が高すぎると、低Liイオン伝導相が析出してしまう問題があった。
特許文献3には、Li3Nの添加により高Liイオン伝導相の生成する温度と低Liイオン伝導相の生成する温度との差を大きくできることが記載されているものの、その差は最大でも30℃程度と小さく、更なる改善が求められていた。
【0008】
本発明は上述の事情に基づいてなされたものであり、本発明の一態様の課題は、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できる硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法、及び当該硫化物固体電解質を備えた全固体電池を提供することにある。
本発明の他の一態様の課題は、熱的安定性の向上した硫化物固体電解質を得ること、その製造方法、及び当該硫化物固体電解質を備えた全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、硫化物固体電解質の製造方法であって、P、S、N、元素A、及び元素Mを含む組成物を準備することと、上記組成物を反応させて中間体を得ることと、上記中間体を加熱して硫化物固体電解質を得ることと、を備え、上記組成物がN、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を含む、硫化物固体電解質の製造方法である。Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【0010】
本発明の他の一態様は、硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法であって、
上記原料化合物の候補として、N、元素A´、及び元素M´を含有する候補材料を選定することと、第一原理計算を用いて、上記候補材料の内部におけるNの欠陥生成エネルギーENdefectを算出することと、を備え、上記ENdefectが、4.00eV以上である場合に、上記候補材料を上記原料化合物として選択する、原料化合物の選択方法である。
【0011】
本発明の他の一態様は、構成元素として、P、S、N、元素A、元素X、及び元素Mを含有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質である。ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様の硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法、及び硫化物固体電解質によれば、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できる。
本発明の他の一態様の硫化物固体電解質によれば、熱的安定性の向上した硫化物固体電解質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態における硫化物固体電解質の製造工程のフローチャートである。
図2図2は、本発明の一実施形態における全固体電池を示す模式的断面図である。
図3図3は、実施例の硫化物固体電解質のXRD回折パターンである。
図4図4は、比較例の硫化物固体電解質のXRD回折パターンである。
図5図5は、実施例及び比較例の硫化物固体電解質の、ミリング処理後且つ熱処理前の中間体のDSC曲線である。
図6図6は、実施例及び比較例の硫化物固体電解質の、ミリング処理後且つ熱処理前の中間体のDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
はじめに、本明細書によって開示される硫化物固体電解質の製造方法の概要について説明する。
【0015】
本発明の一態様に係る硫化物固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質の製造方法であって、P、S、N、元素A、及び元素Mを含む組成物を準備することと、上記組成物を反応させて中間体を得ることと、上記中間体を加熱して硫化物固体電解質を得ることと、を備え、上記組成物がN、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を含む、硫化物固体電解質の製造方法である。ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Ti からなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【0016】
本発明において、「組成物」とは、二種以上の化合物を混合してなる混合物を意味する。「原料化合物」とは、上記組成物を構成する特定の化合物を意味する。
【0017】
発明者らは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素Aと、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素Mと、Nとを含有する原料化合物を用いることで、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0018】
当該硫化物固体電解質の製造方法によれば、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できる。このため、硫化物固体電解質中に含まれるNの含有量の制御が容易になる。この理由については定かではないが、以下の理由が推測される。
特許文献1及び特許文献3に開示されたLi3Nを用いた硫化物固体電解質の製造方法では、Li3NのNの欠陥生成エネルギーが小さく、N2ガスが生成しやすい。
これに対し、N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を用いる当該硫化物固体電解質の製造方法では、Nの欠陥生成エネルギーが大きく、硫化物固体電解質の合成過程でNの欠陥が生成しにくいために、N2ガスが生成しにくい。このため、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できる。
なお、元素Mはいずれも後述する第一原理計算によって算出される、LiαMβNで表される化合物(α及びβは、元素Mの種類に応じて、化学量論比を与える数値である)におけるNの欠陥生成エネルギーが4.00eV以上である元素である。Nの欠陥生成エネルギーの定義は後述する。
【0019】
上記N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物は、Li、N、元素A、及び元素Mを含有することが好ましい。
【0020】
これによれば、当該製造方法によって製造される硫化物固体電解質を備えた全固体電池の質量エネルギー密度を高めることができる。これは、Liはアルカリ金属元素の中で最も原子量が小さく、イオンサイズも小さいことによる。
【0021】
上記N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物は、元素Mの窒化物と元素Aの窒化物とを反応させることで得てもよく、工業的に製造され、販売されているものを使用してもよい。
【0022】
元素Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、Pからなる群より選択される1つの元素であると好ましい。これらの元素は、後述する第一原理計算によって算出されるNの欠陥生成エネルギーが、4.10eV以上となる元素である。
【0023】
これにより、硫化物固体電解質の製造過程における、Nの系外への排出をより確実に抑制することができる。
【0024】
元素Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、Bからなる群より選択される少なくとも1つの元素であるとより好ましい。これらの元素は、後述する第一原理計算によって算出されるNの欠陥生成エネルギーが、4.35eV以上となる元素である。
【0025】
これにより、硫化物固体電解質の製造過程における、Nの系外への排出をさらに確実に抑制することができる。
【0026】
上記組成物は、硫化リチウム、硫化リン、並びに上記N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を含むと好ましい。これらの化合物は取り扱いが容易であることから、硫化物固体電解質の製造性を高めることができる。
【0027】
上記組成物は、上記元素AがLiを含有し、上記組成物におけるPに対するLiの含有割合がモル比で2.30以上4.20以下であり、上記組成物におけるPに対するNの含有割合がモル比で0.0100以上1.20以下であると好ましい。また、上記元素AがLiを含有し、上記組成物におけるPに対するLiの含有割合がモル比で2.77以上3.38以下であり、上記組成物におけるPに対するNの含有割合がモル比で0.280以上0.650以下であるとより好ましい。これにより、大気安定性に優れ、25℃におけるイオン伝導度が高い硫化物固体電解質を提供できる。
【0028】
上記組成物が、元素Xを含有すると好ましい。Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0029】
Li、P、S、及び元素Xを含有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度の高い準安定相(以下、HICP(High Ion Conduction Phase)ともいう)が生成することが知られている(特許文献2)。また、このような硫化物固体電解質がNを含有することで、HICPが析出する熱処理温度と、HICPがイオン伝導度の低い別の相(以下、LICP(Low Ion Conduction Phase)ともいう)に相転移する熱処理温度との差が広がることが知られている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3ではLi3Nを用いて硫化物固体電解質を製造しているため、硫化物固体電解質の製造過程で系外にNが排出され、HICPが安定な熱処理温度領域を広げる効果を十分に得られなかった。
これに対し、当該硫化物固体電解質の製造方法では、Nの系外への排出が抑制される。このため、HICPの熱的安定性が向上する効果を十分に発揮することができる。
【0030】
上記組成物は、上記組成物におけるPに対するLiの含有割合がモル比で3.10以上4.20以下であり、上記組成物におけるPに対するNの含有割合がモル比で0.0600以上0.750以下であり、上記組成物におけるPに対するXの含有割合がモル比で0.180以上1.30以下であると好ましい。
【0031】
これにより、HICPの熱的安定性が高い硫化物固体電解質を提供することができる。
【0032】
本発明の他の一態様に係る硫化物固体電解質は、当該硫化物固体電解質の製造方法により製造された硫化物固体電解質である。このような硫化物固体電解質であれば、硫化物固体電解質の製造過程における系外へのNの排出が抑制されるので、Nを含むことによる種々の効果を十分に発揮することができる。
【0033】
本発明の他の一態様に係る全固体電池は、当該硫化物固体電解質の製造方法によって製造された硫化物固体電解質を含む。このような全固体電池であれば、硫化物固体電解質の製造過程における系外へのNの排出が抑制されるので、Nを含むことによる種々の効果を十分に発揮することができる。
【0034】
本発明の他の一態様に係る硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法は、硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法であって、上記原料化合物の候補として、N、元素A´、及び元素M´を含有する候補材料を選定することと、第一原理計算を用いて、上記候補材料の内部におけるNの欠陥生成エネルギーENdefectを算出することと、を備え、上記ENdefectが、4.00eV以上である場合に、上記候補材料を上記原料化合物として選択する、原料化合物の選択方法である。
なお、候補材料の結晶構造においてNの占有サイトが複数存在する場合、それぞれのNの占有サイトごとにENdefectを算出し、最も値が低いものを当該候補材料のENdefectとして用いる。
【0035】
当該選択方法によって選択された原料化合物は、Nの欠陥生成エネルギーが大きく、硫化物固体電解質の合成過程でNの欠陥が生成しにくいために、N2ガスが生成しにくい。このため、上記原料化合物を用いて硫化物固体電解質を製造すると、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できる。
【0036】
上記ENdefectが4.10eV以上である場合に、上記候補材料を上記原料化合物として選択することが好ましい。
【0037】
これによれば、硫化物固体電解質の製造過程におけるNの系外への排出をより確実に抑制することができる。
【0038】
上記ENdefectが4.35eV以上である場合に、上記候補材料を上記原料化合物として選択することがより好ましい。
【0039】
これによれば、硫化物固体電解質の製造過程におけるNの系外への排出をさらに確実に抑制することができる。
【0040】
本発明の他の一態様に係る硫化物固体電解質の製造方法は、当該硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法により選択された原料化合物を含む組成物を準備することと、上記組成物を反応させて中間体を得ることと、上記中間体を加熱して硫化物固体電解質を得ることと、を備える硫化物固体電解質の製造方法である。
【0041】
これによれば、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制できる。このため、硫化物固体電解質中に含まれるNの含有量の制御が容易になる。
【0042】
本発明の他の一態様に係る硫化物固体電解質は、当該製造方法により製造された硫化物固体電解質である。このような硫化物固体電解質であれば、硫化物固体電解質の製造過程における系外へのNの排出が抑制されるので、Nを含むことによる種々の効果を十分に発揮することができる。
【0043】
本発明の他の一態様に係る全固体電池は、当該選択方法により選択された原料化合物を用いて製造された硫化物固体電解質を含む。このような硫化物固体電解質であれば、製造過程における系外へのNの排出が抑制されるので、Nを含むことによる種々の効果を十分に発揮することができる。
【0044】
本発明の他の一態様に係る硫化物固体電解質は、構成元素として、P、S、N、元素A、元素X、及び元素Mを含有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質である。ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【0045】
このような硫化物固体電解質であれば、Li、P、S、N、及び元素Xのみからなる硫化物固体電解質に比べ、HICPの熱的安定性を高めることができる。
【0046】
元素Mが、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、Bからなる群より選択される少なくとも1つの元素であることが好ましい。
【0047】
これによれば、HICPの熱的安定性をより高めることができる。
【0048】
上記結晶構造が、CuKα線を用いるX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°に回折ピークを有することが好ましい。
【0049】
当該硫化物固体電解質が上記結晶構造を有することで、良好なLiイオン伝導度が得られる。
【0050】
本発明の他の一態様に係る全固体電池は、構成元素として、P、S、N、元素A、元素X、及び元素Mを含有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質を含む全固体電池である。
【0051】
全固体電池を非水電解液電池と比べた際の利点の一つに、作動温度の上限が極めて高いことが挙げられる。固体電解質の熱的安定性が高いために、このような利点が得られる。
ところが、特許文献2、及び特許文献3には、Li、P、S、N、Br及びIを含有する硫化物固体電解質は、加熱温度が高いと、高Liイオン伝導相が低Liイオン伝導相に相転移することが記載されている。つまり、このような硫化物固体電解質を備えた全固体電池の作動温度は、高Liイオン伝導相の相転移温度によって制限されていた。
これに対し、当該硫化物固体電解質は、元素Mを含まない従来の硫化物固体電解質に比べてHICPの熱的安定性が高い。このため、本発明の硫化物固体電解質を備えた全固体電池は、電池の作動温度の上限を高くできる全固体電池の利点を十分に享受することができる。
【0052】
本発明の他の一態様に係る硫化物固体電解質は、P、S、N、元素A、及び元素Mを含み、結晶性を有する硫化物固体電解質である。ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【0053】
このような硫化物固体電解質であれば、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制することで、大気安定性等を高めることができる。
【0054】
元素Mが、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、Bからなる群より選択される少なくとも1つの元素であることが好ましい。
【0055】
これによれば、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出をより確実に抑制することで、大気安定性等をより高めることができる。
【0056】
以下、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質、全固体電池、及び硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法について詳述する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0057】
<硫化物固体電解質の製造方法>
[実施形態]
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、P、S、N、元素A、及び元素Mを含む組成物を準備する準備工程と、上記組成物を反応させて中間体を得る反応工程と、上記中間体を加熱して硫化物固体電解質を得る加熱工程と、を備え、上記組成物はN、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を含む。ここで、Aは、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
本実施形態では、元素AとしてLiを含有する場合を例に、当該硫化物固体電解質の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートであり、以下、これに沿って説明する。
【0058】
(準備工程)
本工程では、Li、P、S、N、及び元素Mを含む組成物が準備される。
上記組成物は、N、Li、及び元素Mを含有する1種以上の原料化合物(以下、Li-M-N含有化合物とも記載する)と、Li、P、及びSを含む1種以上の原料化合物との混合物であることが好ましい。
【0059】
図1においては、まず、Li3Nと元素Mの窒化物とを準備し、乳鉢等で混合する。次に、混合した上記原料化合物のペレットを製造する。次に、上記ペレットを熱処理することで、Li-M-N含有化合物を製造する。
【0060】
なお、Li-M-N含有化合物を準備する手段はこれに限定されず、他の方法で作製してもよい。例えば、Li-M-N含有化合物の原料は、N、Li、元素Mのいずれかを含む2種以上の化合物であればよい。Li-M-N含有化合物はメカニカルミリングによって作製してもよい。M-N含有化合物として、工業的に製造され、販売されているものを準備してもよい。
【0061】
Li-M-N含有化合物としては、元素Mのリチウム複合窒化物が好適に使用される。元素Mのリチウム複合窒化物としては、例えば、Li3/2Al1/2N、Li3/21/2N、Li5/3Si1/3N、Li9/5Si3/10N、Li7/41/4N、LiMgN、LiHf1/2N、Li3/2Sc1/2N、LiZr1/2N、Li5/3Ti1/3N、Li4/3Ta1/3N、Li7/4Ta1/4N、Li7/4Nb1/4N、LiC1/2N等のリチウム複合窒化物等が挙げられる。これらの中でも、入手が容易であることから、Li3/2Al1/2N、Li3/21/2N、及びLi5/3Si1/3Nが好ましい。また、Li2Sの析出を抑制する観点からはLi3/2Al1/2Nが特に好ましく、HICPの熱的安定性を向上させる観点からはLi3/21/2N及びLi5/3Si1/3Nが特に好ましい。硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制する観点からは、Li3/2Al1/2N及びLi3/21/2Nが特に好ましい。
【0062】
元素Mを含む原料化合物としては、元素Mの酸化物、元素Mの硫化物、元素Mの窒化物、元素MとLiとの合金等が挙げられる。元素Mの硫化物としては、例えば、Al23、SiS2等が挙げられる。元素Mの窒化物としては、例えば、AlN、Si34、BN、Mg32等が挙げられる。元素Mを含む原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
当該製造方法における元素Mは、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiからなる群より選択される少なくとも1つの元素であればよく、特に限定されない。これらの中でも、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出をより確実に抑制する観点から、元素MはAl、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、Pのいずれかであることが好ましく、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、Bのいずれかであることがより好ましい。また、入手が容易であることから、元素MはAl、Si、Bのいずれかであることがさらに好ましい。特に、元素MはAlであってもよい。
【0064】
Nを含む原料化合物としては、例えば、Li3N、PN、P35、S44、S22、S42等が挙げられる。これらの中でも、Li3Nが好ましい。Nを含む原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
Liを含む原料化合物(Li化合物とも記載する)としては、例えば、Li2S、Li2O、Li3N、Li2CO3、金属リチウム等が挙げられる。これらの中でも、Li2Sが好ましい。Liを含む原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
Pを含む原料化合物(P化合物とも記載する)としては、例えば、P23、P25、P25、P35、単体リン等が挙げられる。これらの中でも、P23及びP25が好ましく、P25が特に好ましい。Pを含む原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
Sを含む原料化合物としては、例えば、Li2S、P23、P25、元素Mの硫化物、単体硫黄等が挙げられる。Sを含む原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
上記組成物は、Li化合物、P化合物、及びLi-M-N含有化合物を含むことが好ましく、上記Li化合物及び上記P化合物の少なくとも一方がSを含有するとより好ましい。Li化合物、P化合物、及びLi-M-N含有化合物として、硫化リチウム、硫化リン、及び一般式LiαMβN(α及びβは、元素Mの種類に応じて、化学量論比を与える数値である)で表される化合物を含有するとさらに好ましい。
【0069】
硫化物固体電解質は、Liの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはイオン伝導度が低下する虞がある。また、Nの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはNを含有することによる大気安定性向上等の効果を十分に発揮できない虞がある。
これらの観点から、上記組成物は、混合状態での元素比率が、それぞれモル比で以下の式を同時に満たすことが好ましい。
2.30 ≦ Li/P ≦ 4.20
0.0100 ≦ N/P ≦ 1.20
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとより好ましい。
2.36 ≦ Li/P ≦ 4.12
0.0200 ≦ N/P ≦ 1.11
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとさらに好ましい。
2.36 ≦ Li/P ≦ 4.00
0.0600 ≦ N/P ≦ 0.900
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとよりさらに好ましい。
2.60 ≦ Li/P ≦ 3.40
0.190 ≦ N/P ≦ 0.710
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすと特に好ましい。
2.77 ≦ Li/P ≦ 3.38
0.280 ≦ N/P ≦ 0.650
【0070】
また、上記組成物は、Li、P、S、N、及び元素Mの各元素のモル比が一般式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβN(但し、0<z≦40、0.50≦y≦0.75、α及びβは、元素Mの種類に応じて、化学量論比を与える数値である)を満たすと好ましい。これによれば、大気安定性と25℃におけるイオン伝導度に優れた硫化物固体電解質を製造することができる。なお、上記一般式は、Li、S、P、N、元素Mの含有割合を示したものであり、上記組成物が、Li2S、P25、及びLiαMβNからなることを特定するものではない。
【0071】
上記一般式におけるzは0超40以下であると好ましく、1以上30以下であるとより好ましい。上記一般式におけるzが上記範囲であることで、大気安定性とイオン伝導度に優れた硫化物固体電解質を製造することができる。さらに、1≦z≦30であることで、25℃におけるイオン伝導度を高めた硫化物固体電解質を製造することができる。10≦z≦40であることで、大気に不安定ないわゆる架橋硫黄P27 4-(S3P-S-PS3)が減少し、水と反応しやすいLi2Sを実質的に含有しない、大気安定性に優れた硫化物固体電解質を製造することができる。
【0072】
上記一般式におけるyは0.50以上0.75以下であると好ましく、0.67以上0.70以下であるとより好ましい。上記組成物におけるLi2S及びP25の含有割合が上記範囲であることで、25℃におけるイオン伝導度を高めた硫化物固体電解質を製造することができる。
【0073】
上記一般式におけるα及びβは、元素Mの種類に応じて、化学量論比を与える数値である。α及びβの値は特に限定されないが、例えば、0.80≦α≦3.0、0.10≦β≦1.2であってもよい。
【0074】
(反応工程)
本工程では、Li、P、S、N、及び元素Mを含む組成物に対してメカニカルミリングを行うことで上記組成物を反応させ、中間体を得る。
なお、中間体を得る手段はこれに限定されず、他の方法で得てもよい。例えば、図1において、メカニカルミリングに代えて、溶融急冷法等をおこなってもよい。
【0075】
メカニカルミリングは、乾式、湿式のいずれであってもよいが、原料化合物をより均一に混合できるため、湿式であると好ましい。メカニカルミリングとしては、例えば、容器駆動型ミル、媒体撹拌ミル、高速回転粉砕機によるミリング、ローラーミル、ジェットミル等が挙げられる。容器駆動型ミルとしては、例えば、回転ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられる。媒体撹拌ミルとしては、例えば、アトライター、ビーズミル等が挙げられる。高速回転粉砕機によるミリングとしては、例えば、ハンマーミル、ピンミル等が挙げられる。これらの中でも、容器駆動型ミルが好ましく、特に遊星ミルが好ましい。
【0076】
反応工程で得る中間体は、結晶構造を有しても差し支えないが、いわゆる硫化物ガラスであることが好ましい。「硫化物ガラス」とは、アモルファス構造を含む硫化物固体電解質を意味する。中間体が硫化物ガラスであると、Li2S等の大気安定性の低い結晶相が少なく、N、元素M等が高分散した硫化物固体電解質を得ることができる。
【0077】
(熱処理工程)
本工程では、中間体を結晶化温度以上の温度で熱処理することにより、硫化物固体電解質が製造される。熱処理は、減圧雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。結晶化温度は、示差走査熱計(DSC)による測定で求めることができる。例えば、Li7311結晶構造を得るためには、熱処理温度が250℃以上400℃以下であることが好ましく、β-Li3PS4結晶構造を得るためには、熱処理温度が200℃以上400℃以下であることが好ましい。また、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°及び29.8°±0.5°に回折ピークを有する第一の結晶構造を得るためには、熱処理温度が250℃以上400℃以下であることが好ましい。これは、500℃のような高温で熱処理した場合、安定相であるLi426に相転移してしまう可能性があるためである。
【0078】
[変形例]
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0079】
上記実施形態では、Li2S-P25系の硫化物固体電解質を例に説明したが、LGPS型の硫化物固体電解質や、アルジロダイト型の硫化物固体電解質を、当該製造方法によって製造してもよい。
LGPS型の硫化物固体電解質としては、例えば、Li10GeP212等が挙げられる。Li10GeP212の結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=14.4°±0.5°、20.1°±0.5°、20.4°±0.5°、26.9°±0.5°、29.5°±0.5°、47.3°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
アルジロダイト型の硫化物固体電解質としては、例えば、Li6PS5Cl等が挙げられる。Li6PS5Clの結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=15.6°±0.5°、25.5°±0.5°、30.0°±0.5°、31.4°±0.5°、45.0°±0.5°、52.5°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
【0080】
[変形例1]
変形例1として、LGPS型の硫化物固体電解質を製造する態様について説明する。
上記準備工程における上記組成物にGeを含む原料化合物を加えることで、LGPS型の硫化物固体電解質を製造することができる。Geを含む原料化合物としては、例えば、GeS2等が挙げられる。LGPS型の硫化物固体電解質を製造する場合、上記組成物は、元素比率がモル比で以下の式を同時に満たすことが好ましい。
5.01 ≦ Li/P ≦ 5.61
0.0051 ≦ N/P ≦ 0.41
上記組成物における元素の含有割合を上記範囲とすることで、Li10GeP212の結晶相を有し、25℃におけるイオン伝導度の高い硫化物固体電解質を製造することができる。
【0081】
[変形例2]
変形例2として、構成元素としてLi、P、S、N、元素X、及び元素Mを含有し、結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造する態様について説明する。Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0082】
変形例2では、上記組成物に元素Xを含む原料化合物を加えることで、Li、P、S、N、元素X、及び元素Mを含有し、結晶性を有する硫化物固体電解質を製造する。これによれば、HICPを有し、且つHICPの熱的安定性の向上した硫化物固体電解質を製造することができる。
【0083】
元素Xを含む原料化合物としては、例えば、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化硫黄、ハロゲン化リン、MηXσ(但し、η=1又は2であり、σ=1乃至10の整数である。)で表される元素Mのハロゲン化物等が挙げられる。
ハロゲン化リチウムとしては、例えば、LiCl、LiBr、LiI等が挙げられる。
ハロゲン化硫黄としては、例えば、SCl2、S2Cl2、SBr2、S2Br2、SI2、S22等が挙げられる。
ハロゲン化リンとしては、例えば、PCl3、PCl5、POCl3、PBr3、PBr5、POBr3、PI3、PCI4、P24等が挙げられる。
上記元素Mのハロゲン化物としては、例えば、AlBr3、BBr3、AlCl3、AlBr3、AlI3、SiCl3、SiCl4、SiBr4、SiI4、SiBrI3、SiBr22、SiBr3I、BCl3、BBr3、BI3等が挙げられる。
これらの中でも、ハロゲン化リチウム及びハロゲン化リンが好ましく、ハロゲン化リチウムがより好ましい。ハロゲン化リチウムとしては、LiBr及びLiIが好ましい。
元素Xを含む原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記組成物は元素Xとして1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。特に、25℃におけるイオン伝導度を高める観点から、元素XとしてBr又はIを単独で含有することが好ましく、Brを単独で含有することがより好ましい。また、BrとIとを同時に含有することも好ましい。
【0084】
変形例2において、上記組成物がBr及びIを同時に含有する場合、上記組成物におけるBrとIとの合計量に対するBrの含有量は、1mol%以上99mol%以下であると好ましく、5mol%以上80mol%以下であるとより好ましい。
【0085】
硫化物固体電解質は、Liの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはHICPが析出しない虞がある。また、Nの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはNを含有することによる効果を十分に発揮できない虞がある。また、元素Xの含有量が多い場合には、硫化物固体電解質中にハロゲン化リチウムの結晶相が残存してイオン伝導度を低下させることがあり、少ない場合には元素Xを含有することによる効果を十分に発揮できない虞がある。
これらの観点から、変形例2の準備工程における組成物は、混合状態での元素比率が、それぞれモル比で以下の式を同時に満たすことが好ましい。
3.10 ≦ Li/P ≦ 4.20
0.0600 ≦ N/P ≦ 0.750
0.180 ≦ X/P ≦ 1.30
また、上記Li/P、上記N/Pは、上記X/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとより好ましい。
3.10 ≦ Li/P ≦ 3.90
0.0900 ≦ N/P ≦ 0.750
0.180 ≦ X/P ≦ 1.00
【0086】
上記組成物は、Li、P、S、N、元素X、及び元素Mの各元素のモル比が、一般式(100-z){(1-y)[xLi2S・(1-x)P25]・yLiαMβN}・zLiX(但し、0.50≦x≦0.80、0<y≦0.50、5≦z≦40、α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)を満たすことが好ましく、x、y及びzは、それぞれ0.67≦x≦0.73、0.10≦y≦0.30、10≦z≦30であるとより好ましい。これにより、HICPの熱的安定性を向上できる。
また、上記組成物、元素Xとして2種類の元素X1及びX2を含む場合、上記一般式は、(100-z1-z2){(1-y)[xLi2S・(1-x)P25]・yLiαMβN}・z1LiX1・z2LiX2(但し、0.50≦x≦0.80、0<y≦0.50、5≦(z1+z2)≦40、α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)で表すこともでき、この場合、x、y、z1及びz2は、それぞれ0.67≦x≦0.73、0.10≦y≦0.30、10≦(z1+z2)≦30であると好ましい。
なお、上記一般式は、Li、S、P、N、元素M、元素Xの含有割合を示したものであり、上記組成物が、Li2S、P25、LiαMβN、及びLiXからなることを特定するものではない。
【0087】
上記一般式において、元素MがAl、Bのいずれかである場合、α=2/3、β=1/2であってもよい。この場合、x、y及びzは、それぞれ0.50≦x≦0.80、0<y≦0.50、5≦z≦40であると好ましく、0.60≦x≦0.75、0.050≦y≦0.40、10≦z≦30であるとより好ましく、0.67≦x≦0.73、0.10≦y≦0.30、15≦z≦25であるとさらに好ましい。
【0088】
変形例2の反応工程において使用する原料は、Li化合物、P化合物、ハロゲン化合物、及びLi-M-N含有化合物を含むことが好ましく、上記Li化合物及び上記P化合物の少なくとも一方がS元素を含有するとより好ましい。また、上記Li化合物、上記P化合物、上記ハロゲン化化合物、及び上記Li-M-N含有化合物として、硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化リチウム、及び一般式LiαMβN(α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)で表される化合物を含有するとさらに好ましい。
【0089】
変形例2の熱処理工程では、中間体を結晶化温度以上の温度で熱処理することで硫化物固体電解質を製造する。熱処理は、減圧雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。結晶化温度は、示差走査熱計(DSC)による測定で求めることができる。
【0090】
変形例2では、HICPを有する硫化物固体電解質を製造する。HICPは、LICP及び特定結晶構造Cの何れかに相転移した後、さらにβ-Li3PS4に相転移するものと推測される。これらの結晶相のうち、HICPが最もイオン伝導度が高い。
したがって、変形例2における熱処理工程では、熱処理温度の下限はHICPの生成温度TH以上であると好ましい。また、熱処理温度の上限は、β-Li3PS4の生成温度Tβ以下であると好ましく、LICPの生成温度TL又は特定結晶構造Cの生成温度TC以下であるとより好ましい。TH、TL、TC及びTβは、XRD測定で求めることができる。
変形例2で製造される硫化物固体電解質は、Tβ-THが、Tβ-TH≧40℃であると好ましく、Tβ-TH≧50℃であるとより好ましく、Tβ-TH≧60℃であるとさらに好ましく、Tβ-TH≧70℃であると特に好ましい。
【0091】
変形例2で製造される硫化物固体電解質は、イオン伝導度が低下しない熱処理温度範囲が広い。つまり、熱処理工程において、熱処理温度が意図した温度からずれても、製造される硫化物固体電解質のイオン伝導度が低下する虞が少ない。したがって、変形例2の態様によれば、熱処理工程において厳密な温度管理を必要としなくてもイオン伝導度が高い硫化物固体電解質を製造できる利点がある。
【0092】
なお、「HICP」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。この結晶構造は、特許文献2等に記載された結晶相であり、Liイオン伝導度が高い結晶相である。「LICP」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=21.0°±0.5°、28.0°±0.5°に回折ピークを有する結晶相である。この結晶構造は、特許文献2等に記載された結晶相であり、Liイオン伝導度が低い結晶相である。「特定結晶構造C」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.5°±0.5°、24.9°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「β-Li3PS4」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.5°±0.5°、18.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.9°±0.5°、31.2°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。
【0093】
本明細書におけるCuKα線を用いるX線回折測定は、以下の手順により行う。気密性のX線回折測定用試料ホルダーに、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、測定に供する固体電解質粉末を充填する。X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて、粉末X線回折測定を行う。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折X線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出する。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。
【0094】
<原料化合物の選択方法>
本発明の硫化物固体電解質の製造方法によれば、N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を用いることで、硫化物固体電解質の製造過程でNが系外に放出されることを抑制できる。
このような効果が得られる元素A及び元素Mを選択するにあたり、本発明者らは第一原理計算を用いた。
以下、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造に用いる原料化合物の選択方法について説明する。
【0095】
本実施形態では、(1)乃至(3)に示す手順によって、原料化合物を選択する。
(1)N、元素A´、及び元素M´を含有し、上記元素A´及び上記元素M´の第一近接原子がNである候補材料を選定する。
(2)第一原理計算を用いて、上記候補材料の内部におけるNの欠陥生成エネルギーENdefectを算出する。
(3)上記ENdefectが4.00eV以上である場合に、上記候補材料を上記原料化合物として選択する。
【0096】
第一原理計算とは、非経験的に物性の予測を行う計算方法であり、原子番号と空間座標が既知の原子を含むモデルの全エネルギーと、電子のエネルギーバンド構造を計算することができる手法である。原子に働く力を計算することで構造最適化が可能になり、また、格子定数、0K時の安定構造及びバンドギャップ等が計算できる。計算方法には、大きく分けると、「波動関数理論」系と「密度汎関数理論」系の二種類が存在する。本願明細書において用いた計算方法は、密度汎関数理論に基づくものである。
【0097】
Nの欠陥生成エネルギーENdefectとは、結晶構造中からNを脱離して欠陥を生成させるために必要なエネルギー値である。
Nの欠陥生成エネルギーとは、欠陥を含まない結晶構造の全エネルギーEperfectと、N欠陥を含む結晶構造の全エネルギーENvacancyと、N原子の化学ポテンシャルμNとを用いて算出される値であり、以下の式(1)によって定義される。
Ndefect = ( ENvacancy + μN ) - Eperfect 式(1)
即ち、Nの欠陥生成エネルギーENdefectを算出する手順は次のとおりである。
(a)候補材料の組成、及び結晶構造を得る。
(b)欠陥として脱離させるN原子の化学ポテンシャルμNを計算する。
(c)欠陥を含まない結晶構造の全エネルギーEperfectを構造最適化計算によって算出する。
(d)N欠陥を含む結晶構造の全エネルギーENvacancyを構造最適化計算によって算出する。
(e)式(1)に従ってNの欠陥生成エネルギーENdefectを算出する。
候補材料の結晶構造においてNの占有サイトが複数存在する場合、それぞれのNの占有サイトごとにENdefectを算出し、最も値が低いものを当該候補材料のENdefectとして用いる。
候補材料の組成、及び結晶構造は、公知の刊行物やデータベース等から入手できるものから任意で選択できる。候補材料は、N、元素A´、及び元素M´を含む化合物であれば特に限定されないが、常温常圧下で安定な化合物であることが好ましい。
【0098】
本実施形態において、元素A´は金属元素である。元素M´は周期表の第2族から第15族のいずれかに属する窒素以外の元素であって、元素A´とは異なる元素である。Nは窒素元素である。
元素A´は特に限定されないが、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、アルミニウム元素のいずれかであると好ましく、Li、Na、K、Mg、Ca、Alから選択される少なくとも1種であるとより好ましく、Liであるとよりさらに好ましい。これにより、当該硫化物固体電解質を電池として作動させることが容易になる。
【0099】
本実施形態では、LiαM´βN(α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)で表される候補材料、及びLi3Nについて、Nの欠陥生成エネルギーを算出した。すなわち、元素A´としてLiを選択した。元素M´としては、B、Mg、Al、Si、P、Ca、Sr、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、In、Sn、Ce、Hf、Ta、Cを評価した。
第一原理計算にあたっては、計算ソフトウェア Vienna Ab-initio Simulation Package (VASP)を用いた。計算条件は次のとおりである。k点はk-resolutionの値が1000程度となるように設定した。k-resolutionはモデル中の原子数とa、b、c軸方向のk点との積である。
平面波基底関数のカットオフエネルギー :520eV
交換相関相互作用の近似法 :GGA+U
擬ポテンシャル :PAW(PBEsol)
k点 :k-resolution≒1000
SCF計算の収束条件 :10-4eV
各原子サイトの占有率(Occ.) :1
3d軌道が最外殻軌道であり、安定とされる価数のカチオンの状態で3d軌道が閉殻でなく、3d軌道に電子が存在する遷移金属元素であるV、Cr、Mn、Fe、Co、Niを含む材料の第一原理計算については、表1に示したハバードのUeff値を計算条件として使用した。これによりd軌道における電子の局在化効果を計算に反映した。表1に示したハバードのUeff値は、結晶構造データベースMaterials Project(https://materialsproject.org/#search/materials)において実施された第一原理計算の計算条件より引用したものである(2019年8月22日時点)。データベースにおいて、V、Cr、Mn、Fe、Co、Niを含む材料を検索することでUeff値を取得した。
【0100】
【表1】
【0101】
また、上記手順(d)では、N欠陥同士の相互作用を低減させるために、総原子数が200を越えない範囲で格子定数a、b、cがいずれも10Å程度となるよう計算モデルセルを設計した。表2に、一部の候補材料の計算に用いた格子定数を示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表3に、元素M´、各候補材料の化学組成およびNの欠陥生成エネルギーENdefectを示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3から、N欠陥が生成しやすいLi3NにおけるNの欠陥生成エネルギーENdefectが2.94eVであることが分かる。
また、V、Y、Ga、Ca、Ce、Sn、Zn、Ge、Cr、Mn、Sr、In、Co、Ni、Feの各元素は、LiαM´βNにおけるNの欠陥生成エネルギーENdefectが3.88eV以下と小さいことがわかる。このため、元素M´としてV、Y、Ga、Ca、Ce、Sn、Zn、Ge、Cr、Mn、Sr、In、Co、Ni、Feのいずれかを含む候補材料では、N欠陥が生成しやすく、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制する本発明の効果が得られない、又は効果が小さいことが予測される。
一方、Al、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiの各元素は、LiαM´βNにおけるNの欠陥生成エネルギーENdefectが4.00eV以上と大きいことが分かる。したがって元素M´としてAl、Ta、Si、Sc、Mg、Nb、B、Hf、C、P、Zr、Tiのいずれかを含む候補材料であれば、N欠陥が生成しにくく、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出を抑制する本発明の効果が発揮される可能性が極めて高いことが予測される。
【0106】
候補材料は、Nの欠陥生成エネルギーENdefectの値が大きいほどよりN欠陥が生成しにくく、硫化物固体電解質の製造工程におけるNの系外への排出をさらに抑制できることが予測される。このため、本実施形態では、候補材料のNの欠陥生成エネルギーENdefectは、4.00eV以上であり、4.10eV以上であると好ましく、4.20eV以上であるとより好ましく、4.30eV以上であるとさらに好ましく、4.35eV以上であると特に好ましい。
【0107】
本実施形態では、元素A´としてLiを含む場合について計算した。すなわち、LiαM´βNをモデルとして第一原理計算を行った。しかし、本発明はこれに限定されない。元素A´は金属元素であればよく、例えば、元素A´として、Na、K、Mg、Ca、Alのいずれかを含む候補材料を選定し、第一原理計算を用いて原料化合物を選択してもよい。
【0108】
<硫化物固体電解質>
[実施形態1]
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質は、P、S、N、元素A、及び元素Mを含む組成物であって、N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物を準備することと、上記組成物を反応させて中間体を得ることと、上記中間体を加熱して硫化物固体電解質を得ることと、を備える製造方法によって製造される。以下、元素AとしてLiを含有する場合を例に、当該硫化物固体電解質について説明する。
【0109】
当該硫化物固体電解質は、結晶構造を有する。「結晶構造を有する」とは、X線回折測定において、X線回折パターンに上記硫化物固体電解質の結晶構造由来のピークが観測されることを意味する。当該硫化物固体電解質には非晶部が含まれていてもよい。
【0110】
当該硫化物固体電解質が有する上記結晶構造としては、例えばHICP、LGPS型、アルジロダイト型、Li7311およびThio-LISICON系などが挙げられる。これらの中でも上記結晶構造としては、リチウムイオン伝導性の観点からはHICP、LGPS型、アルジロダイト型、及びLi7311が好ましく、これらの中でもLiに対する安定性が高いことからLi7311がより好ましい。大気に対する安定性の観点からはLi426若しくはβ-Li3PS4の結晶相を有する結晶構造又はCuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°及び29.8°±0.5°に回折ピークを有する第一の結晶構造を含むことが好ましく、これらの中でもリチウムイオン伝導度性が高いことからCuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°及び29.8°±0.5°に回折ピークを有する第一の結晶構造であることがより好ましい。
【0111】
上記第一の結晶構造は上記X線回折測定において2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.8°±0.5°及び30.9°±0.5°に回折ピークを有する特定結晶構造A又は上記X線回折測定において2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°及び29.8°±0.5°に回折ピークを有し、30.9°±0.5°に回折ピークを有さない特定結晶構造Bを含んでもよい。上記構成により、当該固体電解質を備えた全固体電池の初回クーロン効率を高めることができる硫化物固体電解質が得られる。
【0112】
上記第一の結晶構造における上記回折ピークは、上記2θの範囲が、±0.3°の範囲内にあってもよく、±0.1°の範囲内にあってもよい。
【0113】
上記Li7311の結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.8°±0.5°、18.5°±0.5°、23.7°±0.5°、29.6°±0.5°、30.0°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
【0114】
上記LGPS型の硫化物固体電解質としては、例えば、Li10GeP212等が挙げられる。Li10GeP212の結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=14.4°±0.5°、20.1°±0.5°、20.4°±0.5°、26.9°±0.5°、29.5°±0.5°、47.3°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
【0115】
上記アルジロダイト型の硫化物固体電解質としては、例えば、Li6PS5Cl等が挙げられる。Li6PS5Clの結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=15.6°±0.5°、25.5°±0.5°、30.0°±0.5°、31.4°±0.5°、45.0°±0.5°、52.5°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
【0116】
上記Li426の結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=16.9°±0.5°、27.1°±0.5°、32.1°±0.5°、32.5°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
【0117】
上記β-Li3PS4の結晶相を有する結晶構造は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.5°±0.5°、18.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.9°±0.5°、31.2°±0.5°の位置に回折ピークを有する。
【0118】
当該硫化物固体電解質は、いわゆるオルト組成のアニオン構造を主成分として含有することが好ましい。例えば、当該硫化物固体電解質がLi2S-P25系固体電解質である場合、PS4 3-構造を主成分として含有することが好ましい。ここで、「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が、50mol%以上であることを意味する。
【0119】
当該硫化物固体電解質がオルト組成のアニオン構造を主成分として含有する場合、当該硫化物固体電解質を構成する全アニオン構造に対するオルト組成のアニオン構造の含有量は50mol%以上100mol%未満であり、60mol%以上100mol%未満が好ましく、70mol%以上100mol%未満がより好ましく、80mol%以上100mol%未満がさらに好ましく、90mol%以上100mol%未満が特に好ましい。
【0120】
当該硫化物固体電解質は、架橋硫黄を実質的に含有しないことが好ましい。架橋硫黄は水と反応して硫化水素を生じるため、架橋硫黄を実質的に含有しないことで大気安定性を向上できる。例えば、当該硫化物固体電解質がLi2S-P25系固体電解質である場合、S3P-S-PS3構造を実質的に含有しないことが好ましい。
架橋硫黄を実質的に含有しないことは、励起波長532nmのレーザでラマン分光スペクトルを測定した際に、架橋硫黄構造に対応するピークが検出されないことによって確認できる。例えば、S3P-S-PS3構造を実質的に含有しないことは、励起波長532nmのレーザでラマン分光スペクトルを測定した際に、402cm-1にピークが検出されないことによって確認できる。
なお、当該硫化物固体電解質は、少量の架橋硫黄を含有しても差し支えない。この場合、ラマン分光スペクトル測定における、オルト組成のアニオン構造に帰属されるピークの強度IOに対する、架橋硫黄に帰属されるピークの強度IPの比IP/IOが、0.7以下であると好ましく、0.5以下であるとより好ましく、0.35以下であるとさらに好ましい。例えば、当該硫化物固体電解質がLi2S-P25系固体電解質である場合、PS4 3-構造由来の417cm-1におけるピーク強度が上記IOに相当し、S3PS-PS3構造由来の402cm-1におけるピーク強度が上記IPに相当する。
【0121】
当該硫化物固体電解質は、Li2Sを実質的に含有しないことが好ましい。Li2Sは水と反応して硫化水素を生じるため、Li2Sを実質的に含有しないことで大気安定性を向上できる。ここで、「Li2Sを実質的に含有しない」とは、CuKα線を用いるX線回折測定において、2θ=27.0±0.5°、31.2±0.5°、44.8±0.5°、53.1±0.5°に回折ピークを有する結晶構造を含まないことを意味する。
【0122】
硫化物固体電解質は、Liの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはイオン伝導度が低下する虞がある。また、Nの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはNを含有することによる大気安定性向上等の効果を十分に発揮できない虞がある。
これらの観点から、当該硫化物固体電解質は、元素比率がそれぞれモル比で以下の式を同時に満たすことが好ましい。
2.30 ≦ Li/P ≦ 4.20
0.0100 ≦ N/P ≦ 1.20
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとより好ましい。
2.36 ≦ Li/P ≦ 4.12
0.0200 ≦ N/P ≦ 1.11
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとさらに好ましい。
2.36 ≦ Li/P ≦ 4.00
0.0600 ≦ N/P ≦ 0.900
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとよりさらに好ましい。
2.60 ≦ Li/P ≦ 3.40
0.190 ≦ N/P ≦ 0.710
上記Li/P、上記N/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすと特に好ましい。
2.77 ≦ Li/P ≦ 3.38
0.280 ≦ N/P ≦ 0.650
【0123】
当該硫化物固体電解質としては、一般式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβN(但し、0<z≦40、0.50≦y≦0.75、α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)で表される組成を有することが好ましい。当該硫化物固体電解質が、上記一般式で表される組成を有することで、大気安定性と25℃におけるイオン伝導度を向上できる。なお、上記一般式は、Li、S、P、N、元素Mの含有割合を示したものであり、上記組成物が、Li2S、P25、及びLiαMβNからなることを特定するものではない。
【0124】
当該硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度の下限としては、0.4×10-3S/cmが好ましく、1.0×10-3S/cmがより好ましく、1.5×10-3S/cmがさらに好ましい。当該硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度が上記範囲であることで、全固体電池のレート特性を向上できる。
【0125】
なお、当該硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度は、以下の方法で交流インピーダンスを測定して求める。露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、内径10mmの粉体成型器に試料粉末を120mg投入したのちに、油圧プレスをもちいて試料面積あたりの圧力50MPa以下で一軸加圧成形する。圧力解放後に、試料の上面および下面に集電体としてSUS316L粉末を投入したのちに、ペレット面積あたりの圧力360MPaで、5分間一軸加圧成形することによりイオン伝導度測定用ペレットを得る。このイオン伝導度測定用ペレットを宝泉社製HSセル内に挿入して交流インピーダンス測定を行う。測定条件は、印加電圧振幅20mV、周波数範囲1MHzから100mHz、測定温度25℃とする。
【0126】
このように、当該硫化物固体電解質は、全固体電池の固体電解質として好適に使用できる。
【0127】
[実施形態2]
本発明の他の実施形態に係る硫化物固体電解質は、Li、P、S、N、元素X、及び元素Mを含有する。元素Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される少なくとも1つの元素を示す。
【0128】
当該硫化物固体電解質は、元素MとしてAl、B、Siから成る群より選択される1種を含有してもよく、元素MとしてAlを含有してもよい。
【0129】
当該硫化物固体電解質は、Liの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはHICPが析出しない虞がある。また、Nの含有量が多い場合にはLi2Sが析出するために大気安定性が低下し、少ない場合にはNを含有することによる効果を十分に発揮できない虞がある。また、元素Xの含有量が多い場合には、硫化物固体電解質中にハロゲン化リチウムの結晶相が残存してイオン伝導度を低下させることがあり、少ない場合には元素Xを含有することによる効果を十分に発揮できない虞がある。
これらの事情から、当該硫化物固体電解質は、上記Pに対する上記Liの含有割合Li/P、上記Pに対する上記Nの含有割合N/P、及び上記Pに対する上記Xの含有割合X/Pが、それぞれモル比で以下の式を同時に満たすことが好ましい。
3.10 < Li/P < 4.20
0.0600 < N/P < 0.750
0.180 < X/P < 1.30
また、上記Li/P、上記N/P、及び上記X/Pは、それぞれ以下の式を同時に満たすとより好ましい。
3.10 < Li/P < 3.90
0.0900 < N/P < 0.750
0.180 < X/P < 1.00
【0130】
当該硫化物固体電解質は、一般式(100-z){(1-y)[xLi2S・(1-x)P25]・yLiαMβN}・zLiX(但し、0.50≦x≦0.80、0<y≦0.50、5≦z≦40、α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)で表される組成を有することが好ましく、x、y及びzは、それぞれ0.67≦x≦0.73、0.10≦y≦0.30、10≦z≦30であるとより好ましい。当該硫化物固体電解質が、上記一般式で表される組成を有することで、HICPの熱的安定性を向上できる。
また、当該硫化物固体電解質が、元素Xとして2種類の元素X1及びX2を含む場合、上記一般式は、(100-z1-z2){(1-y)[xLi2S・(1-x)P25]・yLiαMβN}・z1LiX1・z2LiX2(但し、0.50≦x≦0.80、0<y≦0.50、5≦(z1+z2)≦40、α及びβは元素Mの種類に応じて化学量論比を与える数値である)で表すこともでき、この場合のx、y、z1及びz2は、それぞれ0.67≦x≦0.73、0.10≦y≦0.30、10≦(z1+z2)≦30であると好ましい。
なお、上記一般式は、Li、S、P、N、元素M、元素Xの含有割合を示したものであり、上記組成物が、Li2S、P25、LiαMβN、及びLiXからなることを特定するものではない。
【0131】
上記一般式において、元素MがAl、B、Scのいずれかである場合、α=2/3、β=1/2であってもよい。この場合、x、y及びzは、それぞれ0.50≦x≦0.80、0<y≦0.50、5≦z≦40であると好ましく、0.60≦x≦0.75、0.050≦y≦0.40、10≦z≦30であるとより好ましく、0.67≦x≦0.73、0.10≦y≦0.30、15≦z≦25であるとさらに好ましい。
【0132】
当該硫化物固体電解質は元素XとしてBr又はIを単独で含有することが好ましく、Brを単独で含有することがより好ましい。また、BrとIとを同時に含有することも好ましい。
当該硫化物固体電解質がBr及びIを同時に含有する場合、当該硫化物固体電解質に含まれるBrとIとの合計量に対するBrの含有量は、1mol%以上99mol%以下が好ましく、5mol%以上80mol%以下がより好ましい。
【0133】
当該硫化物固体電解質は、HICPを含むことが好ましい。即ち、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°に回折ピークを有する結晶構造を含むことが好ましい。
【0134】
当該硫化物固体電解質は、LICPを含まないことが好ましい。即ち、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=21.0°±0.5°、28.0°±0.5°に回折ピークを有する結晶構造を含まないことが好ましい。
当該硫化物固体電解質は、少量のLICPを含んでも差し支えない。この場合、CuKα線を用いるX線回折測定における2θ=20.2°±0.5°の回折ピーク強度IHに対する、2θ=21.0°±0.5°の回折ピーク強度ILの、回折ピーク強度比IL/IHは、0<IL/IH<3.2であると好ましく、0<IL/IH<2.5であるとより好ましく、0<IL/IH<2.0であるとさらに好ましく、0<IL/IH<1.0であるとよりさらに好ましい。回折ピーク強度比IL/IHは、当該硫化物固体電解質に含まれるHICPと、LICPとの存在比率を示す。つまり、回折ピーク強度比IL/IHが小さいことは、HICPに対して、LICPの量が相対的に少ないことを示す。
【0135】
実施形態2の当該硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度は2.0×10-3S/cm以上であることが好ましく、2.5×10-3S/cm以上であることがより好ましく、3.0×10-3S/cm以上であることがさらに好ましく、4.0×10-3S/cm以上であると特に好ましい。上記構成により、当該硫化物固体電解質を備える全固体電池の高率放電性能を向上できる。
【0136】
<全固体電池>
当該全固体電池は、負極層と、固体電解質層と、正極層とを備える。図2は、本発明の一実施形態における全固体電池を示す模式的断面図である。二次電池である全固体電池10は、負極層1と、正極層2とが固体電解質層3を介して配置される。負極層1は、負極基材層4及び負極合剤層5を有し、負極基材層4が負極層1の最外層となる。正極層2は、正極基材層7及び正極合剤層6を有し、正極基材層7が正極層2の最外層となる。図2に示す全固体電池10においては、正極基材層7上に、正極合剤層6、固体電解質層3、負極合剤層5及び負極基材層4がこの順で積層されている。
【0137】
当該全固体電池は、負極層1、固体電解質層3、正極層2又はこれらの組み合わせが当該硫化物固体電解質を含有する。当該全固体電池は、負極層1、固体電解質層3、正極層2又はこれらの組み合わせが当該硫化物固体電解質を含有するので、初回クーロン効率が優れる。当該硫化物固体電解質は耐還元性に優れるため、負極層1及び/又は固体電解質層3が当該硫化物固体電解質を含有することが好ましい。上記構成により、本発明の効果がより一層優れたものとなる。
【0138】
当該全固体電池は、当該硫化物固体電解質以外のその他の固体電解質を併せて用いるようにしてもよい。その他の固体電解質としては、当該硫化物固体電解質以外の硫化物固体電解質であってもよいし、酸化物系固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、擬似固体電解質であってもよい。
【0139】
当該硫化物固体電解質以外の硫化物固体電解質としては、Liイオン伝導性が高いことが好ましく、例えばLi2S-P25、Li2S-P25-LiI、Li2S-P25-LiCl、Li2S-P25-LiBr、Li2S-P25-Li2O、Li2S-P25-Li2O-LiI、Li2S-P25-Li3N、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B23-LiI、Li2S-SiS2-P25-LiI、Li2S-B23、Li2S-P25-Zm2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LiδXOε(ただし、δ、εは正の数、Xは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP212等を挙げることができる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が良好な観点から、Li2S-P25や、Li10GeP212等が好ましい。Li2S-P25としては、xLi2S・(100-x)P25(70≦x≦80)が好ましい。
【0140】
[負極層]
負極層1は、負極基材層4と、この負極基材層4の表面に積層される負極合剤層5とを備える。負極層1は負極基材層4と負極合剤層5との間に図示しない中間層を有していてもよい。
【0141】
(負極基材層)
負極基材層4は導電性を有する層である。負極基材層4の材質としては、導電体であれば限定されない。例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、金、銀、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム及びこれらの一種以上を含む合金並びにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属を挙げることができる。
【0142】
負極基材層4の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましく、8μmがさらに好ましい。負極基材層4の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。負極基材層4の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材層4の強度を十分に高くできるため、負極層1を良好に形成できる。負極基材層4の平均厚さを上記上限以下とすることで、他の構成要素の体積を十分に確保できる。
【0143】
(負極合剤層)
負極合剤層5は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができる。負極合剤は、負極活物質と当該硫化物固体電解質とを含む負極混合物又は負極複合体を含有してもよい。負極合剤は、必要に応じて、当該硫化物固体電解質以外の固体電解質、導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。
【0144】
〈負極活物質〉
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えば、金属リチウム;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料;チタン酸リチウム等のリチウム金属複合酸化物等が挙げられる。
【0145】
負極合剤における負極活物質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。負極活物質の含有量の上限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、90質量%が特に好ましく、95質量%であってもよい。負極活物質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0146】
〈負極混合物又は負極複合体〉
上記負極混合物とは、負極活物質及び当該硫化物固体電解質をメカニカルミリング等で混合することにより作製される混合物である。例えば、負極活物質と当該硫化物固体電解質との混合物は、粒子状の負極活物質及び粒子状の当該硫化物固体電解質を混合して得ることができる。
上記負極複合体としては、負極活物質及び当該硫化物固体電解質間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、負極活物質及び当該硫化物固体電解質を機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に負極活物質及び当該硫化物固体電解質が存在しているものであり、例えば、負極活物質及び当該硫化物固体電解質が凝集状態を形成しているもの、負極活物質の表面の少なくとも一部に当該硫化物固体電解質含有皮膜が形成されているものなどが挙げられる。
上記負極混合物又は負極複合体は、当該硫化物固体電解質以外の固体電解質を含有してもよい。
負極合剤が含有する負極活物質及び当該硫化物固体電解質が、負極混合物又は負極複合体を構成することで、イオン伝導度を向上できる。
【0147】
負極合剤が固体電解質を含有する場合、負極合剤における固体電解質の含有量の下限としては、5質量%であってもよく、10質量%が好ましい。負極合剤における固体電解質の含有量の上限は、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、75質量%が特に好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。負極合剤は、当該硫化物固体電解質を含有してもよく、当該硫化物固体電解質以外の固体電解質を含有してもよい。
【0148】
〈その他の任意の成分〉
上記導電剤としては、特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。上記負極合剤における導電剤の含有量としては、例えば0.5質量%以上30質量%以下とすることができる。上記負極合剤は、導電剤を含有しなくてもよい。
【0149】
上記バインダー(結着剤)としては、特に限定されない。例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアクリル酸等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0150】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素などが挙げられる。
【0151】
負極合剤層5の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。負極合剤層5の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。負極合剤層5の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができる。負極合剤層5の平均厚さを上記上限以下とすることで、レート特性に優れ、活物質利用率の高い負極を備える全固体電池を得ることができる。
【0152】
(中間層)
上記中間層は、負極基材層4の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材層4と負極合剤層5との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0153】
[正極層]
正極層2は、正極基材層7と、この正極基材層7の表面に積層される正極合剤層6とを備える。正極層2は、負極層1と同様、正極基材層7と正極合剤層6との間に中間層を有していてもよい。この中間層は負極層1の中間層と同様の構成とすることができる。
【0154】
(正極基材層)
正極基材層7は、負極基材層4と同様の構成とすることができる。正極基材層7の材質としては、導電体であれば限定されない。例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、金、銀、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム及びこれらの一種以上を含む合金、並びにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属を挙げることができる。
【0155】
正極基材層7の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。正極基材層7の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。正極基材層7の平均厚さが上記下限以上とすることで、正極基材層7の強度を十分に高くできるため、正極層2を良好に形成できる。正極基材層7の平均厚さを上記上限以下とすることで、他の構成要素の体積を十分に確保できる。
【0156】
(正極合剤層)
正極合剤層6は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。正極合剤は、正極活物質と固体電解質とを含む正極混合物又は正極複合体を含有してもよい。上記固体電解質として、当該硫化物固体電解質を用いてもよい。正極合剤層6を形成する正極合剤は、負極合剤と同様、必要に応じて、固体電解質、導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。なお、正極合剤層は固体電解質を含まない形態であってもよい。
【0157】
〈正極活物質〉
正極合剤層6に含まれる正極活物質としては、全固体電池に通常用いられる公知のものが使用できる。上記正極活物質としては、例えばLixey(Meは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα-NaFeO2型結晶構造を有するLixCoO2、LixNiO2、LixMnO3、LixNiαCo(1-α)2、LixNiαMnβCo(1-α-β)2等、スピネル型結晶構造を有するLixMn24、LixNiαMn(2-α)4等)、LiwMex(AOyz(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Aは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li32(PO43、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0158】
正極活物質としては、Li-Al、Li-In、Li-Sn、Li-Pb、Li-Bi、Li-Ga、Li-Sr、Li-Si、Li-Zn、Li-Cd、Li-Ca、Li-Ba等のリチウム合金や上記一般式で表される化合物以外のMnO2、FeO2、TiO2、V25、V613、TiS2等の、酸化還元電位が負極材料よりも貴な材料を用いることができる。
【0159】
正極合剤における正極活物質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。正極活物質の含有量の上限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、90質量%が特に好ましく、95質量%であってもよい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0160】
〈正極混合物又は正極複合体〉
上記正極混合物は、負極の場合と同様、正極活物質及び固体電解質等をメカニカルミリング等で混合することにより作製される混合物である。例えば、正極活物質と固体電解質等との混合物は、粒子状の正極活物質及び粒子状の固体電解質等を混合して得ることができる。
上記正極複合体も、負極の場合と同様、正極活物質及び固体電解質等間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、正極活物質及び固体電解質等を機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に正極活物質及び固体電解質等が存在しているものであり、例えば、正極活物質及び固体電解質等が凝集状態を形成しているもの、正極活物質の表面の少なくとも一部に固体電解質等含有皮膜が形成されているものなどが挙げられる。
上記正極混合物又は正極複合体は、当該硫化物固体電解質以外の固体電解質を含有してもよい。
正極合剤が含有する正極活物質及び固体電解質等が、正極混合物又は正極複合体を構成することで、イオン伝導度を向上できる。
【0161】
正極合剤が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量の下限としては、5質量%であってもよく、10質量%が好ましい。正極合剤における固体電解質の含有量の上限は、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、75質量%が特に好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0162】
正極合剤層6の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。正極合剤層6の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。正極合剤層6の平均厚さが上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができる。正極合剤層6の平均厚さを上記上限以下とすることで、高率放電性能に優れ、活物質利用率の高い負極を備える全固体電池を得ることができる。
【0163】
[固体電解質層]
固体電解質層3は、固体電解質層用電解質を含有する。固体電解質層用電解質としては、上述の当該硫化物固体電解質以外にも、例えば酸化物系固体電解質、その他の硫化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、擬似固体電解質などを挙げることができる。これらの中では、イオン伝導度が良好であり、界面形成が容易であるなどの観点から硫化物固体電解質が好ましく、当該硫化物固体電解質がより好ましい。固体電解質層3が、当該硫化物固体電解質を含有することで、固体電解質層が高いイオン伝導度を発現できるため、全固体電池の内部抵抗を低減できる。
【0164】
当該全固体電池に含まれる固体電解質の合計量に対する、当該硫化物固体電解質の含有量は、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、90質量%以上100質量%以下がよりさらに好ましい。特に、当該全固体電池に含まれる固体電解質が当該硫化物固体電解質のみから構成されることが好ましい。
特に、元素Xを含有する当該硫化物固体電解質は熱的安定性が高いため、当該全固体電池の構成を上記のようにすることで、電池の作動温度の上限を高くできる全固体電池の利点を十分に享受することができる。
【0165】
固体電解質層用電解質は、結晶構造を有してもよく、結晶構造を有さない非晶質であってもよい。固体電解質層用電解質には、Li3PO4等の酸化物やハロゲン、ハロゲン化合物等を添加してもよい。
【0166】
固体電解質層3の平均厚さとしては、1μm以上50μm以下が好ましく、3μm以上20μm以下がより好ましい。固体電解質層3の平均厚さを上記の範囲とすることで、全固体電池のエネルギー密度を高めつつ、正極と負極とを確実に絶縁することが可能となる。
【0167】
<全固体電池の製造方法>
当該全固体電池の製造方法は、例えば硫化物固体電解質作製工程と、負極合剤作製工程と、固体電解質層用電解質作製工程と、正極合剤作製工程と、負極層、固体電解質層及び正極層を積層する積層工程とを主に備える。
【0168】
(硫化物固体電解質作製工程)
本工程では、例えば、当該硫化物固体電解質の製造方法によって、硫化物固体電解質を作製する。
【0169】
(負極合剤作製工程)
本工程では、負極層を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤が、負極活物質と当該硫化物固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程では、例えばメカニカルミリング法等を用いて負極活物質と、当該硫化物固体電解質とを混合し、負極活物質と当該硫化物固体電解質との混合物又は複合体を作製することを備える。
【0170】
(固体電解質層用電解質作製工程)
本工程では、固体電解質層を形成するための上記固体電解質層用電解質が作製される。本工程では、固体電解質層用電解質の所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。溶融急冷法により固体電解質層用電解質の所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で両者を溶融混合し、急冷することにより固体電解質層用電解質を作製してもよい。その他の固体電解質層用電解質の合成方法としては、例えば減圧封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成することなどが挙げられる。なお、固体電解質層用電解質が当該硫化物固体電解質である場合は、固体電解質層用電解質の作製工程では、上述の硫化物固体電解質作製工程が行われる。
【0171】
(正極合剤作製工程)
本工程では、正極層を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、正極活物質の圧縮成形、正極合剤の所定の材料のメカニカルミリング処理、正極活物質のターゲット材料を用いたスパッタリング等が挙げられる。正極合剤が、正極活物質と当該硫化物固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程では、例えばメカニカルミリング法等を用いて正極活物質と、当該硫化物固体電解質とを混合し、正極活物質と当該硫化物固体電解質との混合物又は複合体を作製することを備える。
【0172】
(積層工程)
本工程は、負極基材層及び負極合剤層を有する負極層、固体電解質層、並びに正極基材層及び正極合剤層を有する正極層が積層される。本工程では、負極層、固体電解質層、及び正極層を順次形成してもよいし、この逆であってもよく、各層の形成の順序は特に問わない。上記負極層は、負極基材及び負極合剤を加圧成型することにより形成され、上記固体電解質層は、固体電解質層用電解質を加圧成型することにより形成され、上記正極層は、正極基材及び正極合剤を加圧成型することにより形成される。
【0173】
負極基材、負極合剤、固体電解質層用電解質、正極基材及び正極合剤を一度に加圧成型することにより、負極層、固体電解質層及び正極層が積層されてもよい。正極層、負極層、又はこれらの層を予め成形し、固体電解質層と加圧成型して積層してもよい。
【0174】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0175】
上記実施形態では、N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物として、N、Li、及び元素Mのみを含有する原料化合物を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、N、元素A、及び元素Mを含有する原料化合物は、本発明の課題解決に差し支えない範囲で、さらに他の元素を含有してもよい。
【0176】
本発明に係る全固体電池の構成については特に限定されるものではなく、例えば中間層や接着層のように、負極層、正極層及び固体電解質層以外のその他の層を備えていてもよい。
【実施例0177】
以下、実証実験によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0178】
まず、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、及び比較例3から本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法の、系外へのNの排出を抑制する効果を示す。
[実施例1]
以下の処理により、80(0.70Li2S・0.30P25)・20Li3/2Al1/2Nを合成した。
(準備工程)
Li3N及びAlNをモル比で1.2:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した。次に、750℃で1時間熱処理してLi3/2Al1/2Nを作製した。作製したLi3/2Al1/2Nは、XRD測定によって主相がLi3/2Al1/2Nであることを確認した。
次に、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)及びLi3/2Al1/2Nをモル比で56:24:20となるように秤量したのちに、乳鉢で混合し、Li、P、S、N、及びAlを含む組成物を準備した。
(反応工程)
上記組成物を、直径4mmのジルコニアボールが160g入った密閉式の80mLジルコニアポットに投入した。遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数510rpmで45時間のミリング処理を行い、中間体を得た。
(熱処理工程)
上記中間体を2時間熱処理して硫化物固体電解質を得た。この熱処理は、結晶化温度以上であって、結晶化温度より100℃以上とならない温度にて行った。結晶化温度はDSCを測定することにより求めた。DSC測定は、以下の条件にて行った。即ち、DSC装置(リガク社製、Thermo Plus DSC8230)を用い、SUS製密閉パンを用い、室温から400℃まで10℃/minで昇温した。
上記合成手順で作製した組成物を試料a、中間体を試料b、硫化物固体電解質を試料cとした。
【0179】
[実施例2]
準備工程を以下のとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、80(0.70Li2S・0.30P25)・20Li3/21/2Nを合成した。
(準備工程)
Li3N及びBNをモル比で1.1:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した。次に、800℃で10分熱処理してLi3/21/2Nを作製した。作製したLi3/21/2Nは、XRD測定によって主相がLi3/21/2Nであることを確認した。
次に、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)及びLi3/21/2Nをモル比で56:24:20となるように秤量したのちに、乳鉢で混合し、Li、P、S、N、及びBを含む組成物を準備した。
【0180】
[比較例1]
準備工程を以下のとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、56.8Li2S・27.0P25・16.2Li3Nを合成した。
(準備工程)
露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)、及びLi3Nをモル比で56.8:27.0:16.2となるように秤量したのちに、乳鉢で混合し、Li、P、S、及びNを含む組成物を準備した。
【0181】
[比較例2]
準備工程を以下のとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、80(0.70Li2S・0.30P25)・20Li3/2Al1/2Nを合成した。
(準備工程)
露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)、Li3N、及びAlNをモル比で56:24:10:10となるように秤量したのちに、乳鉢で混合し、Li、P、S、N、及びAlを含む組成物を準備した。
【0182】
[比較例3]
準備工程を以下のとおり変更したこと以外は実施例1と同様にして、80(0.70Li2S・0.30P25)・20Li7/41/4Nを合成した。
(準備工程)
Li3N及びVNをモル比で3:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した。次に、750℃で10時間熱処理してLi7/41/4Nを作製した。作製したLi7/41/4Nは、XRD測定によって主相がLi7/41/4Nであることを確認した。
次に、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)及びLi7/41/4Nをモル比で56:24:20となるように秤量したのちに、乳鉢で混合し、Li、P、S、N、及びVを含む組成物を準備した。
【0183】
[評価]
(1)XRD
以下の方法にてX線回折測定を行った。気密性のX線回折測定用試料ホルダーを用い、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で実施例及び比較例の硫化物固体電解質粉末を充填した。X線回折装置(Rigaku社製「miniFlex II」)を用いて粉末X線回折測定を行った。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折X線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra2)にて検出した。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/分、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとした。
【0184】
(2)イオン伝導度(σ)
イオン伝導度(σ25)は、25℃におけるイオン伝導度を、(Bio-Logic)社製「VMP-300」を用いて上述の方法で交流インピーダンスを測定して求めた。また、一部の実施例及び比較例については、-30℃、-20℃、-10℃、0℃、50℃の各温度におけるイオン伝導度も測定し、アレニウス式により活性化エネルギー(Ea)を算出した。
【0185】
表4に実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、及び比較例3のXRDパターン及び25℃におけるイオン伝導度(σ25)を示す。表4に示すように、全ての実施例及び比較例の硫化物固体電解質は、XRDスペクトルでピークが観測され、特定結晶構造Aを有することが確認された。なお、特定結晶構造Aとは、X線回折測定において2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.8°±0.5°及び30.9°±0.5°に回折ピークを有する結晶構造である。また、実施例1、実施例2、及び比較例3の硫化物固体電解質は、同程度のイオン伝導度を示すことが確認された。
よって、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、及び比較例3は、類似の構造を有すると言える。
【0186】
【表4】
【0187】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の各試料に関して、ICP発光分光分析装置を用いて、試料中のLi、B、Al、及びPの含有量を求めた。また、実施例1、実施例2、及び比較例1乃至比較例3の各試料に関して、酸素・窒素・水素分析装置を用いて、試料中のNの含有量を求めた。この分析結果から、試料中のNの含有割合の変化率を算出した。表5に分析結果を示す。なお、表中、「変化なし」は、試料aに対するNの含有割合の変化率が±5質量%以下であったことを表す。
【0188】
【表5】
【0189】
表5から、実施例1及び実施例2では、試料a、試料b、及び試料cにおけるNの含有割合がほとんど変化しないことが分かる。つまり、実施例1及び実施例2では、Nの含有率が、反応工程、熱処理工程の各工程を経てもほとんど変化せず、系外へのNの排出が抑制されたことが分かる。
一方、比較例1、比較例2及び比較例3では、試料a、試料b、及び試料cにおけるNの含有割合が試料a、試料b、試料cの順に小さくなることが分かる。つまり、比較例1、比較例2及び比較例3では、Nの含有率が、反応工程、熱処理工程の各工程を経るごとに減少し、系外へNが排出されてしまうことが分かる。
以上より、第一原理計算を用いてNの排出抑制効果を予測して選定された、Al、及びBについて、実際に効果が得られることが実証された。さらに、第一原理計算を用いてNの排出抑制効果が得られないことが予測されたVについて、実際に効果が得られないことも実証された。
【0190】
次に、実施例3乃至実施例20、及び比較例4乃至比較例8から、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の熱的安定性を向上させる効果を示す。
[実施例3]
以下の処理により、組成式85(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・10LiBr・5LiIで表される硫化物固体電解質を合成した。
Li3N及びAlNをモル比で1.2:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した。次に、750℃で1時間熱処理してLi3/2Al1/2Nを作製した。作製したLi3/2Al1/2Nは、XRD測定によって主相がLi3/2Al1/2Nであることを確認した。
次に、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)、LiBr(99.999%、Aldrich)、LiI(99.999%、Aldrich)、及びLi3/2Al1/2Nをモル比で47.6:20.4:10:5:17となるように秤量したのちに、乳鉢で混合した。この混合試料を、直径4mmのジルコニアボールが160g入った密閉式の80mLジルコニアポットに投入した。遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数510rpmで45時間のミリング処理を行った。245℃で2時間熱処理して実施例3の硫化物固体電解質を得た。この熱処理温度は、結晶化温度以上であって、結晶化温度より100℃以上とならないように設定した。結晶化温度は、ミリング処理後の試料の一部を取り出し、DSC測定に供することにより求めた。DSC測定は、以下の条件にて行った。即ち、DSC装置(リガク社製、Thermo Plus DSC8230)を用い、SUS製密閉パンを用い、室温から400℃まで10℃/minで昇温した。
【0191】
[比較例4、比較例5]
硫化物固体電解質の組成を、85(0.75Li2S・0.25P25)・10LiBr・5LiI、85(0.72Li2S・0.25P25・0.020Li3N)・10LiBr・5LiIに変更し、熱処理温度をいずれも225℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、比較例4及び比較例5の硫化物固体電解質を合成した。
【0192】
[実施例4乃至実施例7、比較例6]
硫化物固体電解質の組成を80(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・12LiBr・8LiI、80(0.70(0.67Li2S・0.33P25)・0.30Li3/2Al1/2N)・12LiBr・8LiI、80(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/21/2N)・12LiBr・8LiI、80(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li5/3Si1/3N)・12LiBr・8LiI、80(0.6975Li2S・0.25P25・0.035Li3N)・12LiBr・8LiIに変更し、熱処理温度をそれぞれ255℃、275℃、270℃、270℃、250℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4乃至実施例7、及び比較例6の硫化物固体電解質を合成した。
なお、実施例4の硫化物固体電解質は、熱処理温度を255℃とした試料に加えて、熱処理温度を215℃、230℃、275℃、290℃、310℃とした試料も合成した。実施例5の硫化物固体電解質は、熱処理温度を275℃とした試料に加えて、熱処理温度を235℃、290℃、310℃、330℃とした試料も合成した。実施例6の硫化物固体電解質は、熱処理温度を270℃とした試料に加えて、熱処理温度を230℃、270℃、290℃、310℃、330℃とした試料も合成した。実施例7の硫化物固体電解質は、熱処理温度を270℃とした試料に加えて、熱処理温度を230℃、290℃、310℃、330℃とした試料も合成した。また、比較例6の硫化物固体電解質は、熱処理温度を250℃とした試料に加えて、熱処理温度を210℃、及び230℃とした試料も合成した。
各熱処理温度で合成した硫化物固体電解質は、熱処理温度が低い順に、それぞれ実施例4-1乃至実施例4-6、実施例5-1乃至実施例5-5、実施例6-1乃至実施例6-5、実施例7-1乃至実施例7-5、及び比較例6-1乃至比較例6-3とする。
【0193】
[実施例8、比較例7]
硫化物固体電解質の組成を75(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・15LiBr・10LiI、75(0.72Li2S・0.25P25・0.020Li3N)・15LiBr・10LiIに変更し、熱処理温度をそれぞれ215℃、195℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8及び比較例7の硫化物固体電解質を合成した。
【0194】
[実施例9乃至実施例11、比較例8]
硫化物固体電解質の組成を90(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・10LiBr、80(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・20LiBr、70(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・30LiBr、90(0.72Li2S・0.25P25・0.020Li3N)・10LiBrに変更し、熱処理温度をそれぞれ265℃、250℃、240℃、225℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例9、実施例10、実施例11及び比較例8の硫化物固体電解質を合成した。
【0195】
[実施例12、実施例13]
硫化物固体電解質の組成を90(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・10LiI、80(0.80(0.7Li2S・0.30P25)・0.20Li3/2Al1/2N)・20LiIに変更し、熱処理温度をそれぞれ255℃、240℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例12、実施例13の硫化物固体電解質を合成した。
【0196】
[実施例14乃至実施例17]
硫化物固体電解質の組成を80(0.97(0.745Li2S・0.255P25)・0.03Li3/21/2N)・12LiBr・8LiI、80(0.95(0.74Li2S・0.26P25)・0.05Li3/21/2N)・12LiBr・8LiI、80(0.90(0.73Li2S・0.27P25)・0.10Li3/21/2N)・12LiBr・8LiI、80(0.85(0.715Li2S・0.285P25)・0.15Li3/21/2N)・12LiBr・8LiIに変更し、熱処理温度をそれぞれ250℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例14乃至実施例17の硫化物固体電解質を合成した。
【0197】
[実施例18乃至実施例20]
硫化物固体電解質の組成を75(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/21/2N)・15LiBr・10LiI、70(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/21/2N)・17LiBr・13LiI、65(0.80(0.70Li2S・0.30P25)・0.20Li3/21/2N)・20LiBr・15LiIに変更し、熱処理温度をそれぞれ230℃、195℃、185℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例18乃至実施例20の硫化物固体電解質を合成した。
【0198】
実施例3乃至実施例20の硫化物固体電解質は、一般式(100-z1-z2){(1-y)[xLi2S・(1-x)P25]・yLiαMβN}・z1LiX1・z2LiX2で表される。比較例5乃至比較例7の硫化物固体電解質は、一般式(100-z1-z2){(x-1.5y)Li2S・(1-x)P25・yLi3N}・z1LiX1・z2LiX2で表される。
【0199】
表6乃至表12に、実施例3乃至実施例20、及び比較例4乃至比較例8のXRDパターンから同定された結晶構造を示す。表13に、実施例4-1乃至実施例4-6、実施例5-1乃至実施例5-5、実施例6-1乃至実施例6-5、実施例7-1乃至実施例7-5、及び比較例6-1乃至比較例6-3のXRDパターンから同定された結晶構造を示す。
なお、表中、「HICP」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「LICP」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=21.0°±0.5°、28.0°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「特定結晶構造C」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.5°±0.5°、24.9°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「β-Li3PS4」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=17.5°±0.5°、18.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.9°±0.5°、31.2°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「Unknown」は、結晶相が帰属不明なピークを表す。
また、図3に実施例4-1乃至実施例4-6のXRDパターンを示す。図4に比較例6-1乃至比較例6-3のXRDパターンを示す。
【0200】
表6乃至表12に、実施例3乃至実施例20、及び比較例4乃至比較例8の25℃におけるイオン伝導度(σ25)と、活性化エネルギー(Ea)を示す。表13に、実施例4-1乃至実施例4-6、実施例5-1乃至実施例5-5、実施例6-1乃至実施例6-5、実施例7-1乃至実施例7-5、及び比較例6-1乃至比較例6-3の25℃におけるイオン伝導度(σ25)と、活性化エネルギー(Ea)を示す。
【0201】
(3)DSC
以下の方法にてDSC測定を行った。DSC装置(リガク社製、Thermo Plus DSC8230)を用い、SUS製密閉パンを用い、室温から400℃まで10℃/minで昇温した。
【0202】
実施例4乃至実施例7、実施例14乃至実施例17、及び比較例6の硫化物固体電解質について、ミリング処理後且つ熱処理前の中間体を、DSC測定に供した。図5及び図6に、これらの試料のDSC曲線を示す。
【0203】
【表6】
【0204】
【表7】
【0205】
【表8】
【0206】
【表9】
【0207】
【表10】
【0208】
【表11】
【0209】
【表12】
【0210】
【表13】
【0211】
表6から、比較例4及び比較例5の硫化物固体電解質は、熱処理温度を225℃とした場合にLICPが生成し、25℃におけるイオン伝導度が低下することが分かる。一方で、Li、P、S、N、Br、I、及びAlを含有する実施例3の硫化物固体電解質は、比較例4及び比較例5の硫化物固体電解質よりも高い温度で熱処理したにも関わらず、LICPが生成せず、高いイオン伝導度を示すことが分かる。つまり、実施例3の硫化物固体電解質では、比較例4及び比較例5の硫化物固体電解質よりもイオン伝導度が低下する熱処理温度の下限が上昇していることが理解できる。
【0212】
表7から、実施例4乃至実施例7の硫化物固体電解質は、比較例6の硫化物固体電解質よりも高い温度で熱処理したにも関わらず、LICPが生成せず高いイオン伝導度を示すことが分かる。つまり、実施例4乃至実施例7の硫化物固体電解質では、比較例6の硫化物固体電解質よりもイオン伝導度が低下する熱処理温度の下限が上昇していることが理解できる。
【0213】
表8から、実施例8の硫化物固体電解質は、比較例7の硫化物固体電解質よりも高い温度で熱処理したにも関わらず、より高いイオン伝導度を示すことが分かる。つまり、実施例8の硫化物固体電解質は、比較例7の硫化物固体電解質よりもイオン伝導度が低下する熱処理温度の下限が上昇していることが理解できる。これは、実施例8の硫化物固体電解質では、HICPのLICPへの相転移が抑制されたためと考えられる。
【0214】
表9から、実施例9乃至実施例11の硫化物固体電解質は、いずれも比較例8の硫化物固体電解質よりも高い温度で熱処理したにも関わらず、より高いイオン伝導度を示すことが分かる。また、当該硫化物固体電解質が、元素XとしてBrのみを含有する場合においても、硫化物固体電解質の高Liイオン伝導相の熱的安定性を向上する本発明の効果が得られることが分かる。
また、Brの含有量が同一である実施例9及び比較例8を対比すると、比較例8ではHICP及びLICPのいずれも生成しなかったのに対し、実施例9ではHICPが生成したことが分かる。つまり、硫化物固体電解質がLi、P、S、N、元素X、及び元素Mを含有する場合には、元素Mを含まない場合に比して、より少ない元素Xの含有量でHICPを生成できる効果が認められた。
【0215】
表10から、当該硫化物固体電解質が、元素XとしてIのみを含有する場合においても、HICPを含む硫化物固体電解質が得られることが分かる。
【0216】
表11から、実施例6及び実施例15乃至実施例17の硫化物固体電解質は、比較例6の硫化物固体電解質以上の温度で熱処理したにも関わらず、HICPの存在が認められ、高いイオン伝導度を示すことが分かる。つまり、これらの実施例の硫化物固体電解質では、比較例6の硫化物固体電解質よりもイオン伝導度が低下する熱処理温度の下限が上昇していることが理解できる。
また、図6から、実施例6及び実施例14乃至実施例17の硫化物固体電解質は、比較例6の硫化物固体電解質と比較して、HICP由来と推測される結晶化ピークと、β-Li3PS4由来の結晶化ピークとの温度差が大きくなることが分かる。例えば、比較例6ではHICP由来と推測される結晶化ピークとβ-Li3PS4由来の結晶化ピークとは、それぞれ190℃付近と260℃付近に観測されたのに対し、実施例14では、それぞれ190℃付近と280℃付近に観測される。このことから、実施例の硫化物固体電解質では、HICPが安定に存在する温度範囲が広がり、高Liイオン伝導相の熱的安定性が向上することが理解できる。
なお、図6におけるHICP由来と推測される結晶化ピークとは、概ね180℃から220℃の範囲に観測されたピークを示す。図6におけるβ-Li3PS4由来の結晶化ピークとは、実施例6、実施例14乃至実施例16、及び比較例6において、それぞれ345℃付近、280℃付近、300℃付近、310℃付近、335℃付近、及び260℃付近に観測されたピークを示す。
以上より、当該硫化物固体電解質のPに対するNの含有割合N/Pが、0.060、0.10、0.21、0.31、0.42となる場合であっても、高Liイオン伝導相の熱的安定性が向上する効果が得られることが分かる。
【0217】
表12から、当該硫化物固体電解質のPに対する元素Xの含有割合X/Pが、0.52、0.70、0.90、1.12となる場合であっても、HICPを含む硫化物固体電解質が得られることが分かる。
【0218】
表13に示す比較例6-1乃至比較例6-3から、比較例6の硫化物固体電解質は、熱処理温度を250℃以上とすると、HICPがLICP及びβ-Li3PS4に相転移することが分かる。また、これに伴って25℃におけるイオン伝導度も著しく低下することが分かる。
一方で、実施例4-1乃至実施例4-6から、実施例4の硫化物固体電解質では、熱処理温度を290℃まで高めてもHICPが存在し、高いイオン伝導度を維持できることが分かる。
また、実施例5-1乃至実施例5-5から、実施例5の硫化物固体電解質においても、広い温度範囲でHICPが存在し、高いイオン伝導度を維持できることが分かる。
さらに、実施例6-1乃至実施例6-5、及び実施例7-1乃至実施例7-5から、元素MとしてAlに代えてB及びSiを含有する場合であっても、広い温度範囲で高いイオン伝導度を維持できる本発明の効果が得られることが分かる。
つまり、表13から、実施例4乃至実施例7の硫化物固体電解質では、イオン伝導度が低下しない熱処理温度範囲が広がることが理解できる。
また、表13の実施例6及び実施例7と実施例4及び実施例5との対比から、当該硫化物固体電解質が元素MとしてSi及びBのいずれかを含む場合に、イオン伝導度が低下しない熱処理温度範囲が少なくとも80℃の範囲に亘って存在し、特に優れた高Liイオン伝導相の熱的安定性を示すことが分かる。なお、図5の実施例6及び実施例7のDSC曲線における210℃付近のピークは、HICP由来と推測される結晶化ピークである。したがって、実施例6及び実施例7では、イオン伝導度が低下しない熱処理温度範囲が100℃の範囲に亘って存在することも推測できる。このような結果が得られた理由は定かでは無いが、例えば、Si及びBのいずれかとNとの結合エネルギーの強さが、本発明の効果を発揮するのに適した値であったことが考えられる。
【0219】
表6乃至表13から明らかなように、実施例の硫化物固体電解質は、イオン伝導度が低下する熱処理温度の下限が上昇し、イオン伝導度が低下しない熱処理温度範囲が広がることが確認された。つまり、Li、P、S、N、元素X、及び元素Mを含有する硫化物固体電解質は、HICPの熱的安定性に優れていた。これは、製造工程における系外へのNの排出が抑制されたために、硫化物固体電解質がNを含むことによる熱的安定性向上効果が十分に発揮されたためと考えられる。
【0220】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、Nの系外への排出を抑制できることに加え、Li2Sの析出を抑制できることが示唆されている。Li2Sの析出を抑制できると、硫化物固体電解質の大気安定性を向上できるため好ましい。
【0221】
すなわち、実施例21乃至実施例41比較例9、及び比較例10から、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、Li2Sの析出を抑制できることが示唆される。
【0222】
[実施例21]
以下の処理により、組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおけるLiαMβNがLi3/2Al1/2Nであり、z=1、y=0.70である硫化物固体電解質、即ち99(0.7Li2S・0.3P25)・1Li3/2Al1/2Nを合成した。
Li3N及びAlNをモル比で1.2:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した。次に、750℃で1時間熱処理してLi3/2Al1/2Nを作製した。
次に、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98%、Aldrich)、P25(99%、Aldrich)及びLi3/2Al1/2Nをモル比で69.3:29.7:1.0となるように秤量したのちに、乳鉢で混合した。この混合試料を、直径4mmのジルコニアボールが160g入った密閉式の80mLジルコニアポットに投入した。遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数510rpmで45時間のミリング処理を行った。2時間熱処理して実施例1の硫化物固体電解質を得た。この熱処理は、結晶化温度以上であって、結晶化温度プラス100℃以下の温度にて行った。結晶化温度はDSCを測定することにより求めた。DSC測定は、以下の条件にて行った。即ち、DSC装置(リガク社製、Thermo Plus DSC8230)を用い、SUS製密閉パンを用い、室温から400℃まで10℃/minで昇温した。
【0223】
[実施例22乃至実施例29]
硫化物固体電解質の組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおけるzの値を、5、7、10、15、20、25、30、40に変更したこと以外は実施例21と同様にして、実施例22乃至実施例29の硫化物固体電解質を合成した。
【0224】
[実施例30乃至実施例32]
硫化物固体電解質の組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおいて、y=0.67とし、zの値を20、25、30にそれぞれ変更したこと以外は実施例21と同様にして、実施例30乃至実施例32の硫化物固体電解質を合成した。
【0225】
[実施例33乃至実施例36]
Li3N及びBNをモル比で1.1:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した後、800℃で10分間熱処理してLi3/21/2Nを作製した。作製したLi3/21/2Nについて、XRD測定によって主相がLi3/21/2Nであることを確認した。
硫化物固体電解質の組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおけるLiαMβNをLi3/21/2Nに変更し、zの値を1、10、20、30に変更したこと以外は実施例21と同様にして、実施例33乃至実施例36の硫化物固体電解質を合成した。
【0226】
[実施例37乃至実施例41]
Li3N及びSi34をモル比で5.1:1となるように秤量し、乳鉢で混合した後ペレット化した後、800℃で10分間熱処理してLi5/3Si1/3Nを作製した。
作製したLi5/3Si1/3Nについて、XRD測定によって主相がLi5/3Si1/3Nであることを確認した。
硫化物固体電解質の組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおけるLiαMβNをLi5/3Si1/3Nに変更し、zの値を1.5、15、20、30、45に変更したこと以外は実施例21と同様にして、実施例37乃至実施例41の硫化物固体電解質を合成した。
【0227】
[比較例9]
硫化物固体電解質の組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおけるLiαMβNをLi3Nに変更し、zの値を20に変更したこと以外は実施例21と同様にして、比較例9の硫化物固体電解質を合成した。
【0228】
[比較例10]
硫化物固体電解質の組成式(100-z)(yLi2S・(1-y)P25)・zLiαMβNにおいて、y=0.68とし、zの値を16に変更したこと以外は比較例9と同様にして、比較例10の硫化物固体電解質を合成した。
【0229】
[評価]
(1)XRD、イオン伝導度(σ)
上述の方法でX線回折測定を行った。また、25℃におけるイオン伝導度(σ25)を、(Bio-Logic)社製「VMP-300」を用いて上述の方法で交流インピーダンスを測定して求めた。
【0230】
(2)ラマン分光分析
以下の方法にてラマンスペクトルを測定した。レーザラマン分光光度計(堀場製作所社製「LabRAM HR Revolution」)を用い、励起レーザ波長532nm(YAGレーザ)、グレーティング600gr/mmの条件において、100cm-1から1800cm-1の波数範囲でラマン分光測定を行った。
【0231】
表14に実施例21乃至実施例41、比較例9、及び比較例10の25℃におけるイオン伝導度と、XRDパターンから同定された結晶構造、及びラマンスペクトルを示す。なお、表中、「特定結晶構造A」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.8°±0.5°、30.9°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「特定結晶構造B」は、CuKα線を用いるX線回折測定において2θ=2θ=17.9°±0.5°、19.1°±0.5°、29.1°±0.5°、29.8°±0.5°に回折ピークを有する結晶相を表す。「-」は測定を実施していないことを表す。
【0232】
【表14】
【0233】
比較例9の硫化物固体電解質では、Li2Sの結晶構造由来のピークのみが観測された。この結果から、Li3Nを使用するとLi2Sが析出しやすいことが分かる。
このような結果が得られた理由は定かでは無いが、Li3Nと他の原料化合物とが劇的に反応してLi2Sを析出するためと考えられる。
【0234】
実施例21乃至実施例35、実施例37乃至実施例40では、Li2Sのピークが認められなかった。中でも、z=20、y=0.70である実施例(実施例26、35、39、及び比較例9)の比較から、実施例の硫化物固体電解質ではLi2Sの析出が抑制されたことが確認された。
【0235】
また、実施例27乃至実施例29、実施例32、実施例39、及び実施例40の硫化物固体電解質は、いずれも比較例10の硫化物固体電解質に比べてPに対するLiの含有割合Li/Pが高いにも関わらず、Li2Sのピークが観測されなかった。特に、実施例29はPに対するLiの含有割合が4.00であり、比較例9及び比較例10よりも高い値であるにも関わらず、Li2Sのピークが観測されなかった。実施例26及び実施例35の硫化物固体電解質は、比較例10の硫化物固体電解質と、Li/Pが略同一であるにも関わらず、Li2Sのピークが観測されなかった。
実施例32の硫化物固体電解質は、比較例10とyの値が略同一であり、Li/Pも同一であるにも関わらず、Li2Sのピークが観測されなかった。
硫化物固体電解質では、Liの含有量が多い場合にLi2Sが析出する傾向があるところ、上記のような結果が得られたことから、実施例の硫化物固体電解質の製造方法では、Li2Sの析出が抑制されることが示唆された。
【0236】
すなわち、実施例28、実施例29、実施例36、実施例40及び実施例41の比較から、元素MとしてAlを含む場合に、Li2Sの析出抑制が顕著であることが示唆された。
【0237】
以上のことから、実施例の硫化物固体電解質の製造方法では、Li2Sの析出が抑制されることが示唆された。当該硫化物固体電解質が元素Mを含むことでLi2Sの析出が抑制できる理由としては、以下のことが考えられる。Nを含む硫化物系固体電解質の出発材料としてLi3Nを用いる場合には、Li3NとP25とが劇的に反応してN2が放出され、Li2Sが析出する。これは、Li3NのNの欠陥生成エネルギーが小さいためと考えられる。これに対し本願発明では、LiαMβNのNの欠陥生成エネルギーが、Li3NのNの欠陥生成エネルギーよりも大きいため、硫化物系固体電解質の合成過程で反応が緩やかに進行し、N2の放出と、Li2Sの析出とが抑制される。
【0238】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0239】
本発明に係る硫化物固体電解質を備えた全固体電池は、例えばHEV用のリチウムイオン全固体電池として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0240】
1 負極層
2 正極層
3 固体電解質層
4 負極基材層
5 負極合剤層
6 正極合剤層
7 正極基材層
10 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6