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  • 特開-蓄熱材組成物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010569
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】蓄熱材組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
C09K5/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111980
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上田 亨
(57)【要約】
【課題】日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温で安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供する。
【解決手段】テトラデカンおよび所定量の特定の高級アルコールを含む主剤と、所定量のゲル化剤と、を含む蓄熱材組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラデカン(A)と炭素数14の高級アルコール(B1)とを含む主剤と、
ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、
前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、前記高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、
前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む、蓄熱材組成物。
【請求項2】
前記主剤100モル%中、前記高級アルコール(B1)を1.0モル%超、5.0モル%以下含む、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項3】
前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超、10.0重量%以下含む、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項4】
前記蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度の差が1.0℃以下であり、かつ、前記高級アルコール(B1)に由来する結晶核生成温度がテトラデカン(A)の過冷却温度以上、8.0℃以下である、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項5】
融解温度と凝固温度との差(ΔT)が1.0℃以下である、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項6】
前記高級アルコール(B1)がミリスチルアルコールである、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項7】
前記ゲル化剤(C)が2-エチルヘキサン酸アルミニウムである、請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項8】
テトラデカン(A)と炭素数15~18の高級アルコール(B2)とを含む主剤と、
ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、
前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、
前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む、蓄熱材組成物。
【請求項9】
前記主剤100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%~5.0モル%含む、請求項8に記載の蓄熱材組成物。
【請求項10】
前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超、10.0重量%以下含む、請求項8に記載の蓄熱材組成物。
【請求項11】
前記蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度の差が1.0℃以下であり、かつ、前記高級アルコール(B2)に由来する結晶核生成温度がテトラデカン(A)の過冷却温度以上、8.0℃以下である、請求項8に記載の蓄熱材組成物。
【請求項12】
融解温度と凝固温度との差(ΔT)が1.0℃以下である、請求項8に記載の蓄熱材組成物。
【請求項13】
前記高級アルコール(B2)がセチルアルコールまたはオクチルアルコールである、請求項8に記載の蓄熱材組成物。
【請求項14】
前記ゲル化剤(C)が2-エチルヘキサン酸アルミニウムである、請求項8に記載の蓄熱材組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物を備える、蓄熱材。
【請求項16】
テトラデカン(A)および高級アルコール(B1)を含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物を調製する調製工程と、
当該調製工程にて得られた蓄熱材組成物を容器に充填する充填工程と、を有し、
前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、
前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含み、かつ、
前記調製工程および前記充填工程では、前記蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持する、蓄熱材の製造方法。
【請求項17】
テトラデカン(A)および高級アルコール(B2)を含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物を調製する調製工程と、
当該調製工程にて得られた蓄熱材組成物を容器に充填する充填工程と、を有し、
前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、
前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含み、かつ、
前記調製工程および前記充填工程では、前記蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持する、蓄熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品および食品等の物品のなかには、その品質を保持するため、所定の温度範囲内に保冷または保温される必要があるものがある。そして、このような物品を輸送する場合に、当該物品を所定の温度範囲内に保冷または保温する方法が問題となる場合がある。
【0003】
従来、このような物品を保冷または保温する方法として、断熱性を有する輸送容器内に、予め融解または凝固させた蓄熱材を配置し、この蓄熱材の潜熱を利用して、輸送容器内に収容した物品を保冷または保温する方法が知られている。
【0004】
このような蓄熱材として、高級炭化水素を主剤(相変化剤)として使用する蓄熱材組成物が知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-31451号公報
【特許文献2】特開2018-154796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の高級炭化水素を主剤とする蓄熱材組成物には、蓄熱材組成物の安全性、温度保持性および凍結可能温度の観点から、改善の余地があった。
【0007】
したがって、本発明の一態様は、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温された際に安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕テトラデカン(A)と炭素数14の高級アルコール(B1)とを含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100.0モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3重量%超含む、蓄熱材組成物。
〔2〕前記主剤100モル%中、前記高級アルコール(B)を1.0モル%超、5.0モル%以下含む、〔1〕に記載の蓄熱材組成物。
〔3〕前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超、10.0重量%以下含む、〔1〕または〔2〕に記載の蓄熱材組成物。
〔4〕前記蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度の差が1.0℃以下であり、かつ、前記高級アルコール(B1)に由来する結晶核生成温度がテトラデカン(A)の過冷却温度以上、8.0℃以下である〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔5〕融解温度と凝固温度との差(ΔT)が1.0℃以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔6〕前記高級アルコール(B1)がミリスチルアルコールである、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔7〕前記ゲル化剤(C)が2-エチルヘキサン酸アルミニウムである、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔8〕テトラデカン(A)と炭素数15~18の高級アルコール(B2)とを含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む、蓄熱材組成物。
〔9〕前記主剤100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%~5.0モル%含む、〔8〕に記載の蓄熱材組成物。
〔10〕前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超、10.0重量%以下含む、〔8〕または〔10〕に記載の蓄熱材組成物。
〔11〕前記蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度の差が1.0℃以下であり、かつ、前記高級アルコール(B2)に由来する結晶核生成温度がテトラデカン(A)の過冷却温度以上、8.0℃以下である、〔8〕~〔10〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔12〕融解温度と凝固温度との差(ΔT)が1.0℃以下である、〔8〕~〔11〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔13〕前記高級アルコール(B2)がセチルアルコールまたはオクチルアルコールである、〔8〕~〔12〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔14〕前記ゲル化剤(C)が2-エチルヘキサン酸アルミニウムである、〔8〕~〔13〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物。
〔15〕〔1〕~〔14〕のいずれか1つに記載の蓄熱材組成物を備える、蓄熱材。
〔16〕テトラデカン(A)および高級アルコール(B1)を含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物を調製する調製工程と、当該調製工程にて得られた蓄熱材組成物を容器に充填する充填工程と、を有し、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含み、かつ、前記調製工程および前記充填工程では、前記蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持する、蓄熱材組成物の製造方法。
〔17〕テトラデカン(A)および高級アルコール(B2)を含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物を調製する調製工程と、当該調製工程にて得られた蓄熱材組成物を容器に充填する充填工程と、を有し、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含み、かつ、前記調製工程および前記充填工程では、前記蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持する、蓄熱材組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温された際に安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】上図は融解状態から凝固状態へ相転移する間(凝固過程)の蓄熱材組成物の温度変化を模式的に示したグラフであり、下図は凝固状態から融解状態へ相転移する間(融解過程)の蓄熱材組成物の温度変化を模式的に示したグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係る蓄熱材の一例を、概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明は係る実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0012】
<1.本発明の技術的思想>
バイオ製薬等の厳格な温度管理が必要な物品(温度管理対象物品)の輸送に多用されている、2~8℃の温度保持を目的とした蓄熱材(5℃タイプ蓄熱材)として、テトラデカンのような高級アルカンを主剤とし、当該高級アルカンの相転移に伴う潜熱を利用して温度保持を行う蓄熱材(潜熱蓄熱材)が知られている。
【0013】
高級アルカンの中でも、5℃タイプ蓄熱材に使用する蓄熱材組成物の主剤としては、融解温度が約5℃であるテトラデカンが特に適当であるが、テトラデカンは、日本国の消防法における危険物第四類に該当し、基本的に危険物として扱われる。
【0014】
日本国の消防法における危険物第四類に該当する危険物は、危険物倉庫での保管および管理を必要とされる、および、保管量が制限されるなど、保管において特段の制限が設けられる場合があり、また、車両、航空機、船舶等の輸送手段による輸送にて、危険物であることの表示および手続きを必要とされる、および、搭載量が制限されるなど、輸送においても特段の制限が設けられる場合がある。
【0015】
逆に言えば、消防法上で非危険物として扱われる蓄熱材組成物は、危険物として扱われる蓄熱材組成物と比して、危険物倉庫での保管および管理が不要であり、また、車両、航空機、船舶等の輸送手段による輸送にて、危険物であることの表示および手続きが不要、かつ、搭載量制限が緩和されるなどの多くの利点を有する。したがって、蓄熱材組成物には、日本国の消防法における危険物第四類に該当しないことが望まれる。
【0016】
また、5℃タイプ蓄熱材は、温度保持初期の温度逸脱を防止するため、パッキング前に蓄熱材の温度を2~8℃の範囲内に調整する必要がある。
【0017】
5℃タイプ蓄熱材を夏場および温暖地のような、環境温度が8℃を超える環境において使用する場合は、当該蓄熱材を凍結した状態でパッキングする必要がある。従来の蓄熱材は、該蓄熱材中の蓄熱材組成物が確実に凍結するような非常に低い温度(例えば-20℃)で冷却して凍結させた後、改めて2℃程度に温度調整(2℃調温)され、パッキングされている。上記のように、2℃調温される前に非常に低い温度で蓄熱材を冷却することが必要な理由としては、蓄熱材組成物に過冷却が存在することが挙げられる。蓄熱材組成物に過冷却が存在する場合、2℃調温のみでは、蓄熱材組成物の凍結が不安定となり、凍結品と未凍結品が混在してしまうか、あるいは、凍結品自体が得られなくなるため、安定的に温度管理対象物品を温度保持することが困難となる。
【0018】
しかしながら、-20℃のような非常に低い温度での冷却には、手間やコストが掛かると共に、操作ミスを引き起こす可能性がある。さらに、より簡便に5℃タイプ蓄熱材を凍結状態とする観点から、より高い温度環境、具体的には、一般家庭で使用されている冷蔵庫の調温温度の目安である、4℃調温において安定的に凍結可能な、過冷却が抑制された蓄熱材が希望されている。
【0019】
蓄熱材組成物の過冷却を抑制する方法として、蓄熱材組成物中に適切な結晶核剤を添加する方法が挙げられる。例えば、主剤が高級アルカンである場合は、高級アルコールが結晶核剤として機能し得る。結晶核剤として主剤の高級アルカンの凝固温度よりも高い凝固温度を有する高級アルコールを添加することにより、蓄熱材組成物を凝固させる際に、高級アルカンの凝固に先立って生成した結晶核剤に由来する結晶が結晶核として働き、高級アルカンの凝固を促進することで、過冷却を抑制できる。
【0020】
一方で、5℃タイプ蓄熱材を冬場および寒冷地のような、環境温度が2℃未満の環境において使用する場合、蓄熱材は、8℃程度に温度調整(8℃調温)され、融解した状態でパッキングされる。ここで、8℃調温した際に結晶核剤の結晶が生成した場合、該結晶を結晶核として、高級アルカンの凝固が開始してしまう虞がある。このように、8℃調温した際に高級アルカンの凝固が開始した場合、パッキング時に蓄熱材組成物の凍結/未凍結状態の判別ができなくなるとともに、凝固時に消費されるべき潜熱量が、温度管理対象物品の温度保持を開始する前に消費されてしまい、安定的に温度管理対象物品を温度保持することが困難となる。すなわち、2~8℃の温度領域で安定的に温度管理対象物品を温度保持する観点からは、結晶核剤が、8℃調温においては結晶核を生成しないこと、例えば、結晶核生成温度が8℃以下であることが望ましい。
【0021】
以上のような状況にあって、本発明者らは、上述した各課題を一挙に解決し得る蓄熱材組成物、すなわち、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温された際に安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供することを目的として鋭意検討した結果、以下の構成を有する蓄熱材組成物(蓄熱材組成物(i)または蓄熱材組成物(ii))によれば、上述した各課題を解決し得る蓄熱材組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った:
テトラデカン(A)と炭素数14の高級アルコール(B1)とを含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む、蓄熱材組成物(蓄熱材組成物(i));
テトラデカン(A)と炭素数16~18の高級アルコール(B2)とを含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む、蓄熱材組成物(蓄熱材組成物(ii))。
【0022】
なお、本発明の一実施形態に係る蓄熱材組成物である、蓄熱材組成物(i)および(ii)において、必要とされる主剤における高級アルコールの含有量が異なる理由として、本発明者らは以下のように推察している:テトラデカンおよび結晶核剤として高級アルコールを含む蓄熱材組成物における結晶核生成温度は、使用する高級アルコールの融点およびその濃度に比例して変化する。基本的に、高級アルコールの融点が高いほど、また、その濃度(量)が高いほど、蓄熱材組成物の結晶核生成温度は高くなる。高級アルコールの融点もまた、その炭素数に比例して変化する傾向がある。比較的炭素数の少ない炭素数14の高級アルコール(高級アルコール(B1))は、融点も比較的低いため、その量が少ない場合(1.0モル%以下)、蓄熱材組成物の結晶核生成温度が下がりすぎてしまう(テトラデカンの過冷却温度未満となる)。一方で、比較的炭素数の多い炭素数15~18の高級アルコール(高級アルコール(B2))は、融点も比較的高いため、比較的量が少なくとも(1.0モル%)、結晶核生成温度が下がりすぎない(テトラデカンの過冷却温度以上を維持できる)。
【0023】
また、炭素数14未満の高級アルコールは融点が低いため、その量(モル%)を多くしても(例えば、5.0モル%程度)、十分な(テトラデカンの過冷却温度以上の)結晶核生成温度を実現することができず、逆に炭素数18超の高級アルコールは融点が高いため、その量を相当に少なく(例えば、0.5モル%程度)しても、結晶核生成温度が高くなりすぎる(8℃超となる)。また、炭素数18超の高級アルコールは、室温で保管した際に結晶が析出、沈降して結晶核としての機能を発現しなくなる虞もある。これらの理由から、炭素数14未満の高級アルコール、および炭素数18超の高級アルコール(その他の高級アルコールと称する場合がある)は、本発明の一実施形態に係る蓄熱材組成物の結晶核剤としては、好ましいとは言えない。
【0024】
〔2.蓄熱材組成物〕
≪蓄熱材組成物(i)≫
本発明の一実施形態に係る蓄熱材組成物(i)(以下、本蓄熱材組成物(i)と称する場合がある)について説明する。本蓄熱材組成物(i)は、テトラデカン(A)と炭素数14の高級アルコール(B1)とを含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む。
【0025】
上記構成を有することにより、本蓄熱材組成物(i)は、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃で安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供することできる、との利点を有する。
【0026】
本蓄熱材組成物は、蓄熱材組成物が凝固状態(固体)から融解状態(液体)に相転移する間(換言すれば、融解する間)に熱エネルギーを吸収することによって、潜熱型の蓄熱材として利用できるものである。また、本蓄熱材組成物は、蓄熱材組成物が融解状態(液体)から凝固状態(固体)に相転移する間(換言すれば、凝固する間)に熱エネルギーを放出することによって、潜熱型の蓄熱材としても利用できるものである。従って、本蓄熱材組成物は「潜熱蓄熱材組成物」ともいえる。
【0027】
<主剤>
本蓄熱材組成物(i)は、テトラデカン(A)と炭素数14の高級アルコール(B1)とを含む主剤を含む。
【0028】
本蓄熱材組成物(i)における主剤の含有量は、蓄熱材組成物100重量%中、90.0重量%以上、97.0重量%未満であり、92.0重量%~96.5重量%であることが好ましく、94.0重量%~96.0重量%であることがより好ましい。本蓄熱材組成物における主剤の含有量が上記範囲であることにより、本蓄熱材組成物は、主剤に含まれるテトラデカンの相転移による潜熱効果に基づく温度保持性を十分に発揮することができる。
【0029】
(テトラデカン(A))
本蓄熱材組成物(i)の主剤は、テトラデカン(A)を含む。テトラデカン(A)は、n-テトラデカンとも言える。
【0030】
本蓄熱材組成物(i)の主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、テトラデカン(A)を95.0モル%以上、99.0モル%未満含み、95.5モル%~98.5モル%含むことが好ましく、96.0モル%~98.0モル%含むことがより好ましく、96.5モル%~97.5モル%含むことがさらに好ましい。上記の構成によれば、テトラデカンの相転移による潜熱効果に基づく温度保持性を十分に発揮することができる蓄熱材組成物を提供することができる。
【0031】
(高級アルコール(B1))
本蓄熱材組成物(i)の主剤は、高級アルコール(B1)を、テトラデカン(A)と高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、1.0モル%超含む。高級アルコール(B1)は、炭素数が14の高級アルコールである。高級アルコール(B1)は、本蓄熱材組成物の凍結時に結晶核剤として機能する物質である。したがって、高級アルコール(B1)は結晶核剤であるとも言える。
【0032】
高級アルコール(B1)の具体例としては、ミリスチルアルコールが挙げられる。
【0033】
本蓄熱材組成物(i)の主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超、5.0モル%以下含み、1.5モル%~4.5モル%含むことが好ましく、1.0モル%~4.0モル%含むことがより好ましく、96.5モル%~97.5モル%であることがさらに好ましい。上記の構成によれば、高級アルコール(B)が結晶核として機能することで、本蓄熱材組成物の過冷却を抑制でき、4℃で安定して凍結可能となるとともに、結晶核生成温度を、テトラデカン(A)の過冷却温度以上、8℃以下という、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持するために好適な範囲に調整することができる。
【0034】
<ゲル化剤(C)>
本蓄熱材組成物(i)は、蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む。
【0035】
本蓄熱材組成物は、主剤としてテトラデカンを含む。テトラデカンは、消防法上で危険物(危険物第四類)として扱われるため、テトラデカンを含む蓄熱材組成物もまた、危険物として扱われる虞がある。
【0036】
一方で、本蓄熱材組成物(i)は、ゲル化剤(C)を3.0重量%超含むことにより、融解状態(蓄熱材組成物の融解温度以上の環境下)であってもゲル状の性状を有する。そのため、消防法危険物判定における40℃液状確認試験において、形状保持すると判定される。上記試験により、40℃において形状保持すると判定された蓄熱材組成物は、総務省消防庁が規定する第四類及び指定可燃物判断フローチャートに基づく試験によって、「40℃で液状でない」と判定される。それ故、上記試験により40℃において形状保持すると判定される本蓄熱材組成物(i)は、日本国の消防法における危険物(危険物第四類)に該当しない。
【0037】
消防法上で危険物として扱われる物質は、保管において特段の制限が設けられる、危険物であることの表示および手続きを必要とされる、ならびに、搭載量が制限されるなど、使用において制限が設けられる場合があるところ、本蓄熱材組成物は、消防法上で危険物として扱わない。そのため、危険物倉庫での保管および管理が不要であり、また、車両、航空機、船舶等の輸送手段による輸送にて、危険物であることの表示および手続きが不要、かつ、搭載量制限が緩和されるなどの多くの利点を有する。
【0038】
本蓄熱材組成物(i)の含み得るゲル化剤(C)としては、例えば、2-エチルヘキサン酸アルミニウム、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、ゲル状シリカ、高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)またはそのエステル、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、および、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。ゲル化剤(C)としては、これらの1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
前述したゲル化剤(C)の中でも、少量の添加で40℃において形状保持する蓄熱材組成物を提供できるという利点があるから、2-エチルヘキサン酸アルミニウムが好ましい。すなわち、本蓄熱材組成物(i)は、ゲル化剤(C)として、2-エチルヘキサン酸アルミニウムを含むことが好ましく、ゲル化剤(C)として、2-エチルヘキサン酸アルミニウムのみを含むことがより好ましい。
【0040】
本蓄熱材組成物(i)におけるゲル化剤(C)の含有量は、蓄熱材組成物100重量%中、3.0重量%超、10.0重量%以下であり、3.5重量%~8.0重量%であることが好ましく、4.0重量%~6.0重量%であることがより好ましい。本蓄熱材組成物(i)におけるゲル化剤(C)の含有量が3.0重量%超であることにより、消防法危険物判定における40℃液状確認試験において、形状保持すると判定される蓄熱材組成物、すなわち、消防法上の危険物に該当しない蓄熱材組成物を提供することができる。また、本蓄熱材組成物(i)におけるゲル化剤(C)の含有量が10.0重量%以下であることにより、蓄熱材組成物中のテトラデカンの含有量の割合を高くすることが可能となり、テトラデカンの相転移による潜熱効果に基づく温度保持性を十分に発揮することができるという利点を有する。
【0041】
<その他の成分>
本蓄熱材組成物(i)は、主剤およびゲル化剤(C)以外の成分(その他の成分)を含んでもよい。その他の成分としては、炭素数14未満の高級アルコール、炭素数15以上の高級アルコール、高級アルコール以外の結晶核剤(例えば、四ホウ酸ナトリウム10水和物、ケイ酸塩、または氷晶石)、相分離防止剤(例えば、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、メタリン酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、またはイソステアリン酸カリウム)、香料、着色剤、抗菌剤、高分子ポリマー、界面活性剤、熱伝導性物質、反応促進剤、難燃剤、骨材、緩衝剤、分散剤、架橋剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、防藻剤、湿潤剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、その他の有機化合物、または、その他の無機化合物等が挙げられる。
【0042】
本蓄熱材組成物(i)におけるその他成分の含有量は、所望の目的に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0043】
≪蓄熱材組成物(ii)≫
本発明の一実施形態に係る蓄熱材組成物(ii)(以下、本蓄熱材組成物(ii)と称する場合がある)について説明する。本蓄熱材組成物(ii)は、テトラデカン(A)と炭素数15~18の高級アルコール(B2)とを含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物であって、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、高級アルコール(B2)を1.0モル%超含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む。
【0044】
上記構成を有することにより、本蓄熱材組成物(ii)は、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃で安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供することできる、との利点を有する。
【0045】
<主剤>
本蓄熱材組成物(ii)は、テトラデカン(A)と炭素数15~18の高級アルコール(B2)とを含む主剤を含む。
【0046】
本蓄熱材組成物(ii)における主剤の含有量は、蓄熱材組成物100重量%中、90.0重量%以上、97.0重量%未満であり、92.0重量%~96.0重量%であることが好ましく、94.0重量%~96.0重量%であることがより好ましい。本蓄熱材組成物における主剤の含有量が上記範囲であることにより、本蓄熱材組成物は、主剤に含まれるテトラデカンの相転移による潜熱効果に基づく温度保持性を十分に発揮することができる。
【0047】
(テトラデカン(A))
本蓄熱材組成物(ii)の主剤は、テトラデカン(A)を含む。テトラデカン(A)は、n-テトラデカンとも言える。
【0048】
本蓄熱材組成物(ii)の主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、テトラデカン(A)を95.0モル%~99.0モル%含み、95.5モル%~98.5モル%含むことが好ましく、96.0モル%~98.0モル%含むことがより好ましく、96.5モル%~97.5モル%含むことがさらに好ましい。上記の構成によれば、テトラデカンの相転移による潜熱効果に基づく温度保持性を十分に発揮することができる蓄熱材組成物を提供することができる。
【0049】
(高級アルコール(B2))
本蓄熱材組成物(ii)の主剤は、高級アルコール(B2)を、テトラデカン(A)と高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、1.0モル%超含む。高級アルコール(B2)は、炭素数が15~18の高級アルコールである。高級アルコール(B2)は、本蓄熱材組成物の凍結時に結晶核剤として機能する物質である。したがって、高級アルコール(B2)は結晶核剤であるとも言える。
【0050】
高級アルコール(B2)の具体例としては、ペンタデカノール(炭素数15)、セチルアルコール(炭素数16)、ヘプタデカノール(炭素数17)、オクチルアルコール(炭素数18)、等が挙げられる。これらの1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、テトラデカンとの融点差が適度にあり、蓄熱材組成物の結晶核生成温度を8℃以内に調整しやすいこと、および、蓄熱材組成物を室温で保管した際の結晶の析出および沈降を抑制できることから、高級アルコール(B2)は、セチルアルコール、および/または、オクチルアルコールを含むことが好ましく、セチルアルコール、および/または、オクチルアルコールのみを含むことがより好ましい。
【0051】
本蓄熱材組成物(ii)の主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、1.0モル%~5.0モル%含むことが好ましく、1.5モル%~4.5モル%含むことがより好ましく、1.0モル%~4.0モル%含むことがより好ましく、96.5モル%~97.5モル%であることがさらに好ましい。上記の構成によれば、高級アルコール(B2)が結晶核として機能することで、本蓄熱材組成物の過冷却を抑制でき、4℃で安定して凍結可能となるとともに、結晶核生成温度を、テトラデカン(A)の過冷却温度以上、8℃以下という、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持するために好適な範囲に調整することができる。
【0052】
<ゲル化剤(C)>
本蓄熱材組成物(ii)は、蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含む。本蓄熱材組成物(ii)の含むゲル化剤(C)については、上記≪蓄熱材組成物(i)≫項におけるゲル化剤(C)に関する記載を適宜援用する。すなわち、本蓄熱材組成物(ii)の含むゲル化剤(C)の態様としては、好ましい態様およびその理由を含み、蓄熱材組成物(i)の含むゲル化剤(C)の態様と同じである。
【0053】
<その他の成分>
本蓄熱材組成物(ii)は、主剤およびゲル化剤(C)以外の成分(その他の成分)を含んでもよい。その他の成分としては、高級アルコール以外の結晶核剤(例えば、四ホウ酸ナトリウム10水和物、ケイ酸塩、または氷晶石)、ゲル化補助剤、香料、着色剤、抗菌剤、高分子ポリマー、界面活性剤、熱伝導性物質、反応促進剤、難燃剤、骨材、緩衝剤、分散剤、架橋剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、防藻剤、湿潤剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、その他の有機化合物、または、その他の無機化合物等が挙げられる。
【0054】
上記ゲル化補助剤としては、脂肪酸、脂肪酸の金属塩、および脂肪酸エステル等の脂肪酸化合物;ならびに高級アルコール;等を挙げることができる。ゲル化補助剤は、ゲル化助剤とも言える。
【0055】
上記脂肪酸化合物は、特に限定されず、例えば、常温(例えば、25℃)にて固体状の脂肪酸化合物であってもよいが、常温にて液体状の脂肪酸化合物であることが好ましい。
【0056】
上記脂肪酸化合物における脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよいし、不飽和脂肪酸であってもよい。当該脂肪酸化合物を構成する炭素原子の数の下限値は、限定されず、例えば、4個、5個、6個、7個、または8個であり得る。当該脂肪酸化合物を構成する炭素原子の数の上限値は、限定されず、例えば、30個、28個、26個、24個、または22個であり得る。
【0057】
上記脂肪酸の具体例としては、例えば、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびベヘン酸、並びに、これらの脂肪酸の混合物を挙げることができる。
【0058】
上記脂肪酸の金属塩の具体例としては、例えば、カプリル酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、およびベヘン酸ナトリウム、並びに、これらの金属塩の混合物等を挙げることができる。
【0059】
上記脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0060】
上記ソルビタン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノミリステート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノベヘネート、ソルビタンジカプリレート、ソルビタンジラウレート、ソルビタンジミリステート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンジベヘネート、ソルビタントリカプリレート、ソルビタントリラウレート、ソルビタントリミリステート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリベヘネート、ソルビタンセスキカプリレート、ソルビタンセスキラウレート、ソルビタンセスキミリステート、ソルビタンセスキパルミテート、ソルビタンセスキステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンセスキベヘネート、等が挙げられる。
【0061】
また、ソルビタンと脂肪酸とからなるエステル結合を有する限り、ソルビタン脂肪酸エステルは、他の構造、例えばポリオキシエチレン(poly(oxyethylene)、POEとも称する。)の構造(構造式;-[OCHCH]n-(nは、任意の自然数))、を有していてもよい。ポリオキシエチレンの構造を有するソルビタン脂肪酸エステルを、POEソルビタン脂肪酸エステル、またはPOE(X)ソルビタン脂肪酸エステルと称する場合もある。上記Xは、オキシエチレンの繰り返し単位の数を表し、上記構造式中におけるnの値を表す。
【0062】
POEソルビタン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、POE(20)ソルビタンモノラウレート、POE(6)ソルビタンモノラウレート、POE(20)ソルビタンモノパルミテート、POE(20)ソルビタンモノステアレート、POE(6)ソルビタンモノステアレート、POE(20)ソルビタントリステアレート、POE(20)ソルビタンモノオレエート、POE(6)ソルビタンモノオレエート、POE(20)ソルビタントリオレエート、POE(160)ソルビタントリイソステアレート、POE(20)ソルビタンモノラウレートを挙げることができる。
【0063】
例示した各化合物の中でも、ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタンに1つの脂肪酸がエステル結合したソルビタンモノ脂肪酸エステル、および/または、ソルビタン2分子に脂肪酸が3分子結合したソルビタンセスキ脂肪酸エステルであることが好ましく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンセスキオレエートおよびソルビタンモノステアレートからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ソルビタンモノオレエートおよびソルビタンセスキオレエートからなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。当該構成によると、得られる蓄熱材組成物の凝固開始温度を、2℃~8℃に制御することが容易となる。その結果、2℃~8℃の範囲内であり、かつ所望の管理温度にて温度管理対象物品をより安定的にかつより精度高く温度保持できる蓄熱材組成物を提供し得るという利点を有する。
【0064】
上述したように、ゲル化補助剤としては、高級アルコールを使用することもできる。ゲル化補助剤としての高級アルコールとしては、上述した、高級アルコール(B1)または(B2)を使用することができる。当該高級アルコール(B1)または(B2)の具体例は、上記高級アルコール(B1)または(B2)の項で示したとおりである。
【0065】
なお、ゲル化補助剤として使用する高級アルコールは、主剤における高級アルコール成分とは異なる成分を意図する。すなわち、本蓄熱材組成物(i)においては、ゲル化補助剤として例えば高級アルコール(B2)を使用し、高級アルコール(B1)は使用しない。また、本蓄熱材組成物(ii)においては、ゲル化補助剤として例えば高級アルコール(B1)を使用し、高級アルコール(B2)は使用しない。
【0066】
ゲル化補助剤としては、上記の脂肪酸化合物または高級アルコールの一方のみを使用してもよく、脂肪酸化合物および高級アルコールを組み合わせて使用してもよい。また、脂肪酸化合物または高級アルコールとしては、それらの1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
本蓄熱材組成物におけるゲル化補助剤の含有量は、ゲル化補助剤が脂肪酸化合物の場合は、ゲル化剤の量の1/2~1/3倍量であることが好ましい。ゲル化補助剤が高級アルコールの場合は、本蓄熱材組成物におけるゲル化補助剤の含有量は、ゲル化剤の量の1~6倍量であることが好ましい。当該構成によれば、蓄熱材組成物のゲル化を長い時間遅らせることができるのみならず、容器内で蓄熱材組成物を十分にゲル化させることができる。
【0068】
上記のように、本蓄熱材組成物におけるゲル化補助剤の含有量は、使用するゲル化補助剤の種類およびゲル化剤の含有量によって好適な範囲が変化するが、例えば、蓄熱材組成物100重量%中、0.1重量%~30.0重量%が好ましい。ゲル化補助剤が脂肪酸化合物である場合、蓄熱材組成物におけるゲル化補助剤の含有量は、0.2重量%~5.0重量%が好ましく、0.3重量%~4.0重量%がより好ましく、0.4重量%~3.0重量%が特に好ましい。また、ゲル化補助剤が高級アルコールである場合、蓄熱材組成物におけるゲル化補助剤の含有量は、1.0重量%~30.0重量%が好ましく、3.0重量%~30.0重量%がより好ましく、5.0重量%~25.0重量%が特に好ましい。
【0069】
本蓄熱材組成物(i)および(ii)におけるゲル化補助剤以外のその他の成分の含有量は、所望の目的に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0070】
≪蓄熱材組成物の物性≫
以下、本蓄熱材組成物の物性について説明する。なお、本明細書において、本蓄熱材組成物(i)または本蓄熱材組成物(ii)の何れであるかを特定せず、単に「本蓄熱材組成物」と記載する場合は、本蓄熱材組成物(i)および本蓄熱材組成物(ii)の両方を意図する。
【0071】
(融解温度)
本蓄熱材組成物の融解温度は、2.0℃~8.0℃であることが好ましく、3.0℃~7.0℃であることがより好ましく、3.5℃~6.5℃であることがさらに好ましく、4.0℃~6.0℃であることがよりさらに好ましく、4.5℃~5.5℃であることが特に好ましい。本蓄熱材組成物の融解温度が上記範囲であることは、本蓄熱材組成物が上記温度範囲内で凝固状態から融解状態への相転移を行い、潜熱効果を発揮すること、すなわち、温度管理対象物品を上記温度範囲内に温度保持し得ることを意味する。
【0072】
本明細書において、蓄熱材組成物の「融解温度」とは、広義には「固体状の蓄熱材組成物が融解し始めて液化する間に、当該蓄熱材組成物が呈する温度」のことを意図し、実施例に記載の方法で測定される値である。なお、上記「液化」には上述した「ゲル化」も含まれる。
【0073】
(凝固温度)
本蓄熱材組成物の凝固温度は、2.0℃~8.0℃であることが好ましく、3.0℃~7.0℃であることがより好ましく、3.5℃~6.5℃であることがさらに好ましく、4.0℃~6.0℃であることがよりさらに好ましく、4.5℃~5.5℃であることが特に好ましい。本蓄熱材組成物の凝固温度が上記範囲であることは、本蓄熱材組成物が上記温度範囲内で融解状態から凝固状態への相転移を行い、潜熱効果を発揮すること、すなわち、温度管理対象物品を上記温度範囲内に温度保持し得ることを意味する。
【0074】
本明細書において、蓄熱材組成物の「凝固温度」とは、広義には「液体状の蓄熱材組成物が凝固して固化する間に、当該蓄熱材組成物が呈する温度」のことを意図し、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0075】
(過冷却温度と凝固開始温度の差)
本蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度との差は、1.0℃以下であることが好ましく、0.8℃以下であることがより好ましく、0.6℃以下であることがさらに好ましく、0.5℃以下であることがよりさらに好ましい。蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度との差が上記範囲であることは、当該蓄熱材組成物が、過冷却が抑制された蓄熱材組成物であることを意味し、調温(例えば、4℃調温)した際の個々の蓄熱材組成物間の凍結度合いのバラツキが小さく、安定して凍結できる蓄熱材組成物であることを意味する。一方で、蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度との差が1.0℃超であることは、当該蓄熱材組成物において、顕著な過冷却が発生しており、調温(例えば、4℃調温)した際の個々の蓄熱材組成物間の凍結度合いのバラツキが大きく、安定して凍結することができない蓄熱材組成物であることを意味する。また、本蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度との差は、0℃であることが特に好ましい。蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度との差が0℃であることは、当該蓄熱材組成物が、過冷却が発生しない蓄熱材組成物であることを意味し、調温(例えば、4℃調温)した際の個々の蓄熱材組成物間の凍結度合いのバラツキがなく、凝固開始温度以下(例えば、4℃の環境下)で安定して凍結できる蓄熱材組成物であることを意味する。
【0076】
本明細書において、蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度との差は、蓄熱材組成物の凝固開始温度から過冷却温度を減じた値である。なお、蓄熱材組成物の過冷却温度および蓄熱材組成物の凝固開始温度は実施例に記載の方法で測定される値である。
【0077】
(結晶核生成温度)
本蓄熱材組成物の結晶核生成温度は、テトラデカン(A)の過冷却温度以上、8.0℃以下であることが好ましい。本蓄熱材組成物の結晶核生成温度が上記範囲であることは、結晶核剤が(1)テトラデカンの凝固前に結晶核を生成し、テトラデカンの凝固を促進することで、蓄熱材組成物の過冷却を抑制でき、かつ、(2)8℃調温した際には結晶核を生成せず、8℃調温時の蓄熱材組成物の意図しない凝固を促進する虞がないことを意味する。
【0078】
本明細書において、蓄熱材組成物の「結晶核生成温度」は、結晶核剤である高級アルコール(高級アルコール(B1)または高級アルコール(B2))に由来する結晶核が生成する温度を意図し、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0079】
2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温した際に安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供する観点から、本蓄熱材組成物は、過冷却温度と凝固開始温度との差が1.0℃以下であり、かつ、高級アルコール(高級アルコール(B1)または高級アルコール(B2))に由来する結晶核生成温度がテトラデカン(A)の過冷却温度以上、8℃以下であることが好ましい。
【0080】
(融解温度と凝固温度との差)
本蓄熱材組成物の融解温度と凝固温度との差は、-1.0℃超、1.0℃以下であることが好ましく、-0.8℃~0.8℃であることがより好ましく、-0.6℃~0.6℃であることがさらに好ましい。蓄熱材組成物の調温(融解、凝固)および保管の温度設定を単純化できること、および、温度管理対象物品のより厳密な温度管理が可能となることから、蓄熱材組成物の融解温度と凝固温度との差は、絶対値が小さいほど好ましく、0℃であることが特に好ましい。すなわち、蓄熱材組成物の融解温度と凝固温度とは、同じ温度であることが好ましい。本明細書において、蓄熱材組成物の融解温度と凝固温度との差を「ΔT」と称する場合がある。
【0081】
本明細書において、蓄熱材組成物の融解温度と凝固温度との差は、蓄熱材組成物の融解温度から凝固温度を減じた値である。なお、蓄熱材組成物の融解温度および凝固温度は、上記の通り、実施例に記載の方法で測定される値である。
【0082】
(4℃恒温槽中48時間後の凍結の有無)
本蓄熱材組成物は、融解状態の本蓄熱材組成物が、4℃恒温槽中で48時間静置後に凍結するものであることが好ましい。
【0083】
4℃調温した際に安定的に凍結可能である蓄熱材組成物は、市販の冷蔵庫での凍結が可能であるため、民生用途(患者携帯用途)に使用することが可能となる。
【0084】
〔3.蓄熱材〕
本発明の一実施形態では、上述した蓄熱材組成物を備える蓄熱材も提供する。本発明の一実施形態に係る蓄熱材は、上述した本蓄熱材組成物を備えるものであればよく、その他の構成、材料等については限定されるものではない。本発明の一実施形態に係る蓄熱材は、相変化剤として、本蓄熱材組成物を含む蓄熱材であるとも言える。
【0085】
本発明の一実施形態に係る蓄熱材は、該蓄熱材を形成する蓄熱材組成物が凝固状態(固体)から融解状態(液体)に相転移する間(換言すれば、融解する間)に熱エネルギーを吸収することによって、潜熱型の蓄熱材として利用できるものである。従って、本発明の一実施形態に係る蓄熱材は「融解型潜熱蓄熱材」ともいえる。また、本発明の一実施形態に係る蓄熱材は、該蓄熱材を形成する蓄熱材組成物が融解状態(液体)から凝固状態(固体)に相転移する間(換言すれば、凝固する間)に熱エネルギーを放出することによって、潜熱型の蓄熱材としても利用できるものである。従って、本発明の一実施形態に係る蓄熱材は「凝固型潜熱蓄熱材」ともいえる。本発明の一実施形態に係る蓄熱材は「潜熱蓄熱材」ともいえる。
【0086】
本明細書において、蓄熱材の融解温度とは、その主な部分の相状態が凝固状態(固体)から融解状態(液体)に変化する間に当該蓄熱材が呈する温度のことを言う。本明細書において、蓄熱材の「凝固温度」とは、その主な部分の相状態が融解状態(液体)から凝固状態(固体)に変化する間に当該蓄熱材が呈する温度のことを言う。ここで、「蓄熱材の主な部分の相状態」とは、当該蓄熱材を形成する蓄熱材組成物の主剤の相状態を意味しており、蓄熱材を形成する蓄熱材組成物の80重量%が固体で20重量%が液体の状態の場合、この蓄熱材の相状態は固体(凝固状態)とする。ここで、相状態とは、一般的な固体、液体、ゲル状又は気体の状態を表す。本発明では、主に、固体と液体、または固体とゲル状の相状態を利用する。
【0087】
本発明の一実施形態に係る蓄熱材は、上述した蓄熱材組成物が容器または袋等に充填されたものであり得る。
【0088】
本発明の一実施形態で用いられる容器または袋は、蓄熱材組成物を、内部に収容できる構成である限り、その他の構成は特に限定されない。上記容器または袋は、可撓性を有する柔らかい容器または袋であってもよく、可撓性を有さない硬い容器であってもよい。また、上記容器または袋は、蓄熱材組成物に対して非透過性を有し、蓄熱材組成物の融点よりも高い融点を有する材料、から構成されていることが好ましい。また、液体(またはゲル状)の蓄熱材組成物が凝固して固体になるとき、凝固による体積膨張のため、上記容器または袋の内部に力(内圧)が加えられる場合がある。また、蓄熱材を居住空間の快適な温度保持を目的として住環境に適用する場合、当該蓄熱材を建材として利用することがある。このとき、蓄熱材を形成する容器または袋に対して外部から衝撃が加えられる場合がある。従って、上記容器または袋は、引き裂き強度および破れ強度等の機械的強度が優れていることが好ましい。
【0089】
上記容器または袋を構成する材料としては、金属および樹脂(例えば合成樹脂)等があげられる。
【0090】
金属としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、真鍮、亜鉛、マグネシウム、およびニッケル等があげられる。
【0091】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、およびポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリスチレン樹脂、およびポリエステル樹脂等があげられる。
【0092】
上記容器または袋は、1種類の成分からなる材料から構成されていてもよく、耐熱性、強度およびバリア性を高めるために、2種類以上の成分が組み合わされてなる材料から構成されていてもよい。
【0093】
上記2種類以上の成分が組み合わされてなる材料としては、例えば、多層構造とした材料があげられる。多層構造の構成としては、(a)熱可塑性樹脂からなる層に、アルミニウム箔等の金属製の層を積層した多層構造、および(b)熱可塑性樹脂からなる複数の層の間に、アルミニウム箔等の金属製の層を挿入して形成した構造層シート材、等があげられる。
【0094】
上記容器または袋の材料として多層構造とした材料を用いる場合、最も内側の層、すなわち蓄熱材組成物と接する層は、蓄熱材組成物に対する耐腐食性に優れることから、樹脂から形成される層であることが好ましい。
【0095】
上記容器または袋としては、特に限定されないが、タツノ化学株式会社製のミデア、およびオカモト株式会社製のエマソフト等のオレフィン素材、カンボウプラス株式会社製のターポリンシリーズ等の塩ビ素材、並びに、京阪セロファン株式会社、株式会社エムエーパッケージングおよび昭和電工パッケージング株式会社製等のアルミラミネートフィルム等が挙げられる。これらのなかでも特に、内容物がブリードしにくい(滲みにくい)ことから、高バリア性を有する多層構造のラミネートフィルムが好ましく、例えば、京阪セロファン株式会社、株式会社エムエーパッケージングおよび昭和電工パッケージング株式会社製等のアルミラミネートフィルムが挙げられる。
【0096】
上記容器または袋の形状としては、特に限定されないが、容器または袋を介して蓄熱材組成物と温度管理対象物品またはその周辺の空間との間で効率良く熱交換を行うという観点から、厚みが薄く、且つ表面積を大きく確保できる形状が好ましい。これらの容器または袋に対して、蓄熱材組成物を充填することによって、蓄熱材を形成することができる。
【0097】
本発明の一実施形態に係る蓄熱材の一例を図2に示す。図2は、本発明の一実施形態に係る蓄熱材201を、概略的に示す斜視図である。図2に示すように、本発明の一実施形態に係る蓄熱材201は、開口部を有する容器10と、キャップ11と、前記開口部を介して容器10の内部に充填される蓄熱材組成物20と、からなる。なお、蓄熱材201において、容器10の開口部はキャップ11によって完全に塞がれている。
【0098】
なお、上記容器または袋のさらに具体的な例は、特開2015-78307号公報に開示の容器または袋を用いることができる。当該文献は、本明細書中において参考文献として援用される。
【0099】
本発明の一実施形態に係る蓄熱材の融解温度および凝固温度のそれぞれは、当該蓄熱材が備える蓄熱材組成物の融解温度および凝固温度のそれぞれと同一であるとみなすことができる。本発明の一実施形態に係る蓄熱材の融解温度および/または凝固温度は、2.0℃~8.0℃付近であることが好ましい。
【0100】
本発明の一実施形態に係る蓄熱材は、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温した際に安定して凍結可能である。そのため、バイオ製薬等の厳格な温度管理が必要な物品(温度管理対象物品)の輸送等の用途に好適に利用することができる。
【0101】
〔4.蓄熱材組成物および蓄熱材の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る蓄熱材組成物を備える蓄熱材の製造方法(以下、本蓄熱材の製造方法と称する場合がある)は、特に限定されないが、例えば、以下の方法によって、本蓄熱材組成物(i)を備える蓄熱材を製造することができる:テトラデカン(A)および高級アルコール(B1)を含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物を調製する調製工程と、当該調製工程にて得られた蓄熱材組成物を容器に充填する充填工程と、を有し、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B1)の合計量100モル%中、高級アルコール(B1)を1.0モル%超含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含み、かつ、前記調製工程および前記充填工程では、前記蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持する、方法。
【0102】
また、本蓄熱材組成物(ii)を備える蓄熱材を製造する場合は、以下の方法を適用することができる:テトラデカン(A)および高級アルコール(B2)を含む主剤と、ゲル化剤(C)と、を含む蓄熱材組成物を調製する調製工程と、当該調製工程にて得られた蓄熱材組成物を容器に充填する充填工程と、を有し、前記主剤は、前記テトラデカン(A)と前記高級アルコール(B2)の合計量100モル%中、前記高級アルコール(B2)を1.0モル%以上含み、前記蓄熱材組成物100重量%中、前記ゲル化剤(C)を3.0重量%超含み、かつ、前記調製工程および前記充填工程では、前記蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持する、方法。
【0103】
本蓄熱材の製造方法に関して、以下に詳説する事項以外は、適宜、〔2.蓄熱材組成物〕項および〔3.蓄熱材〕項の記載を援用することができる。
【0104】
本蓄熱材組成物は所定量のゲル化剤(C)を含むため、ゲル状の性状を有するものであるが、製造直後(調整工程において、蓄熱材組成物にゲル化剤(C)を添加した直後)は、ゲル化が進行しておらず、液体状の性状を有する。続く充填工程において、蓄熱材組成物を容器に充填する際には、作業性、充填効率およびゲル化した蓄熱材組成物の充填装置内への残存の防止等の観点から、蓄熱材組成物は液体状であることが好ましい。すなわち、充填工程は、蓄熱材組成物のゲル化が進行する前に行うことが好ましい。
【0105】
特に、蓄熱材を工業的に大規模に製造する場合には、一度に大量の蓄熱材組成物を調製し、この大量の蓄熱材組成物を複数の容器に個別に(複数回にわたって)充填するか、あるいは、大型の容器にまとめて充填する必要があり、何れの場合においても、充填工程には、長い時間(例えば、3時間程度)を要する。したがって、効率的かつ大規模に蓄熱材組成物を調製するためには、このような長時間にわたる充填工程の間に、蓄熱材組成物の性状を液体状に維持する必要があり、そのためには、蓄熱材組成物のゲル化の進行を抑制する必要がある。
【0106】
本蓄熱材の製造方法においては、調製工程および充填工程において、蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持することで、蓄熱材組成物のゲル化に要する時間を延長することができる。例えば、本製造方法において、蓄熱材組成物は、製造直後から3.0時間以上もの間、液体状であり得る。そのため、本製造方法においては、調製した蓄熱材組成物を容器に充填するまでの間に、十分に長い作業時間を確保することができる。さらに、一実施形態においては、調製工程と充填工程との間に所望の別工程を行うこともできる。
【0107】
本蓄熱材の製造方法に係る調製工程では、(1)テトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、ゲル化剤(C)と、任意でその他の成分(例えば、ゲル化補助剤)と、を混合時に撹拌して、蓄熱材組成物を調製してもよいし、(2)上記の各成分をブレンドし、蓄熱材組成物を調製した後、当該蓄熱材組成物を撹拌してもよいし、(3)上述した(1)および(2)の撹拌の両方を行ってもよい。また、テトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、ゲル化剤(C)と、任意でその他の成分とを一纏めに混合してもよいし、先ずテトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、を混合して主剤を調製し、得られた主剤に別途ゲル化剤(C)および任意でその他の成分を混合してもよい。なお、蓄熱材組成物を撹拌する方法は、限定されず、例えば、公知のスタティックミキサー等の攪拌機を用いて撹拌すればよい。
【0108】
上述した(1)~(3)の撹拌の各々では、(i)撹拌処理と非撹拌処理とからなるサイクルを所望の数だけ繰り返し行うことによって、所望の時間、撹拌を行ってもよいし、(ii)撹拌処理のみを行うことによって、所望の時間、撹拌を行ってもよい。
【0109】
本蓄熱材の製造方法に係る調製工程および充填工程では、蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持(制御)する。調製工程および充填工程において蓄熱材組成物を維持する温度は、20.0℃以下であれば特に限定されず、19.0℃以下であってもよく、18.0℃以下であってもよい。また、当該温度の下限は特に限定されないが、製造過程における高級アルコール(B1)および(B2)の結晶化を抑制する観点から、15.0℃以上であることが好ましい。蓄熱材組成物を上記温度に維持することにより、蓄熱材組成物のゲル化に要する時間をより長く延長することができる。
【0110】
なお、本蓄熱材の製造方法においては、調製工程および充填工程において、あくまで「蓄熱材組成物」を20.0℃以下に維持すればよく、蓄熱材組成物以外の物質を必ずしも20.0℃以下に維持する必要は無い。例えば、ゲル化剤(C)の添加に先んじて、テトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、を混合し、主剤を調製する場合、主剤を調製する際の温度、換言すると、テトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、を混合する温度は20.0℃以下に制御される必要はなく、20.0℃超の温度で上記の混合を行ってもよい。本製造方法において、20.0℃超の温度でテトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、を混合した場合は、前記混合物にゲル化剤(C)を添加(混合物)し、蓄熱材組成物を調製する時点から、その温度を20.0℃以下に制御すればよい。例えば、20.0℃超の温度でテトラデカン(A)と、高級アルコール(B1)または(B2)と、を混合した後、得られた混合物にゲル化剤(C)を添加する前に、当該混合物を20.0℃以下に調整すればよい。
【0111】
本蓄熱材の製造方法において、蓄熱材組成物を上述した温度に維持する方法は、特に限定されない。例えば、冷却装置によって上述した温度範囲に設定された槽の中で、調製工程を行えばよい。
【0112】
本蓄熱材の製造方法は、前記調製工程および前記充填工程に加えて、ゲル化工程を含んでもよい。ゲル化工程は、ゲル化していない、あるいは、ゲル化が完了していない状態の蓄熱材組成物のゲル化を完了させる工程である。ゲル化工程の態様としては、蓄熱材組成物のゲル化を完了できる限り特に限定されないが、例えば、蓄熱材組成物を20.0℃超の温度に一定時間維持する方法が挙げられる。
【0113】
ゲル化工程において蓄熱材組成物を維持する温度は、20.0℃超であれば特に限定されないが、蓄熱材組成物のゲル化を安定的かつ高速に進行させる観点から、30.0℃以上であることが好ましく、40.0以上であることがより好ましい。
【0114】
また、ゲル化工程において蓄熱材組成物を上記の温度に維持する時間は特に限定されないが、蓄熱材組成物のゲル化を確実に完了させる観点から、4時間以上であることが好ましく、6時間以上であることがより好ましい。
【0115】
本蓄熱材の製造方法に係るゲル化工程おいて、蓄熱材組成物を上述した温度に維持する方法は、特に限定されない。例えば、加温装置によって上述した温度範囲に設定された槽の中で、ゲル化工程を行えばよい。
【0116】
本発明の別の一実施形態において、本蓄熱材の製造方法として、テトラデカン(A)、高級アルコール(B2)、および、任意でその他の成分(例えば、ゲル化補助剤)を含むA剤と、テトラデカン(A)およびゲル化剤(C)を含むB剤と、を個別に調製する2液調製工程を有する方法を適用することもできる。このように、蓄熱材組成物をA剤とB剤との2種類に分けて調製する、2液調製工程を有する蓄熱材の製造方法を、2液充填方法と称する場合がある。作業負担が軽減できることから、本蓄熱材組成物の製造方法としては、2液充填方法が好ましい。
【0117】
本蓄熱材の製造方法として、2液調製工程を有する方法を適用する場合、(I)続く充填工程において、調製したA剤およびB剤を逐次容器に充填した後、当該容器内で前記A剤およびB剤を混合することで、前記容器内で蓄熱材組成物を調製してもよく、(II)調製したA剤およびB剤を、続く充填工程において容器に充填する直前に混合した後(蓄熱材組成物を調製した後)、当該容器内に充填してもよい。なお、上記(II)において、蓄熱材組成物を混合する方法は、限定されず、例えば、スタティックミキサー等を用いて混合することができる。
【0118】
したがって、本発明の別の一実施形態において、本蓄熱材組成物(i)を備える蓄熱材を製造する方法としては、以下の方法を適用することもできる:テトラデカン(A)、高級アルコール(B1)、および、任意でその他の成分(例えば、ゲル化補助剤)を含むA剤と、テトラデカン(A)およびゲル化剤(C)を含むB剤と、を調製する2液調製工程と、当該2液調製工程にて得られたA剤およびB剤を容器に充填する2液充填工程と、を有し、前記2液充填工程においては、(I)A剤およびB剤を逐次容器に充填した後、当該容器内で前記A剤およびB剤を混合する、または、(II)前記A剤およびB剤を、容器に充填する直前に混合した後、当該容器内に充填する、方法。
【0119】
また、本発明の別の一実施形態において、本蓄熱材組成物(ii)を備える蓄熱材を製造する方法としては、以下の方法を適用することもできる:テトラデカン(A)、高級アルコール(B2)、および、任意でその他の成分(例えば、ゲル化補助剤)を含むA剤と、テトラデカン(A)およびゲル化剤(C)を含むB剤と、を調製する2液調製工程と、当該2液調製工程にて得られたA剤およびB剤を容器に充填する2液充填工程と、を有し、前記2液充填工程においては、(I)A剤およびB剤を逐次容器に充填した後、当該容器内で前記A剤およびB剤を混合する、または、(II)前記A剤およびB剤を、容器に充填する直前に混合した後、当該容器内に充填する、方法。
【0120】
本蓄熱材の製造方法として、2液充填方法を適用する場合においても、2液調製工程および2液充填工程においては、上記調製工程および充填工程と同様の理由から、蓄熱材組成物を20.0℃以下の温度に維持(制御)することが好ましい。また、2液充填方法を適用する場合においても、本蓄熱材の製造方法は、ゲル化工程を含むことができる。なお、温度維持およびゲル化工程に係る具体的な態様は、上記の通りである。
【0121】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0122】
実施例および比較例で使用した原料は、以下のとおりであった。
【0123】
〔テトラデカン(A)〕
テトラデカン(ISU社製、製品名:N-PAR14、C14、分子量:198.34、融点5.1℃)
〔高級アルコール(B)〕
(高級アルコール(B1))
ミリスチルアルコール(花王株式会社製、製品名:カルコール4098、C14-OH(炭素数14)、分子量:214.39、融点:37.2℃)
(高級アルコール(B2))
セチルアルコール(花王株式会社製、製品名:カルコール6098、C16-OH(炭素数16)、分子量:242.44、融点:48.3℃)
オクチルアルコール(富士フィルム和光社製、C18-OH(炭素数18)、分子量:270.49、融点:57.3℃)
〔ゲル化剤(C)〕
2-エチルヘキサン酸アルミニウム(ホープ製薬社製、製品名:オクトープアルミA)
〔その他の高級アルコール〕
ラウリルアルコール(花王株式会社製、製品名:カルコール2098、C12-OH(炭素数12)、分子量:186.34、融点:23.4℃)
トリデシルアルコール(富士フィルム和光社製、C13-OH(炭素数13)、分子量:200.36、融点:31.1℃)
エイコシルアルコール(富士フィルム和光社製、C20-OH(炭素数20)、分子量:298.55、融点:63.7℃)
なお、その他の高級アルコールとして使用したラウリルアルコール。トリデシルアルコールおよびエイコシルアルコールは、それぞれ、炭素数が12個、13個または20個であり、炭素数が14個である高級アルコール(B1)および炭素数15~18個である高級アルコール(B2)の何れの要件をも満たさない。したがって、本発明の一実施形態に係る「高級アルコール(B)」とは見做さない。
【0124】
実施例および比較例中の測定、評価は、次の条件・方法により行った。
【0125】
〔40℃における形状保持性試験〕
各蓄熱材組成物について、40℃において形状保持するか否か(換言すれば、流動性を有するか否か)を、以下の試験で確認した:
(1)内径30mm、高さ120mmの平底円筒型透明ガラス管中に、底から55mmの高さまで蓄熱材組成物(試料)を入れた。なお、ガラス管には、底から85mmに標線を設けた;
(2)40℃に調整した恒温水槽中で、ガラス管を直立させた状態で10分間放置した;
(3)10分間の放置後、ガラス管を恒温水槽から取り出し、水平に倒した;
(4)ガラス管を水平に倒してから、ガラス管内の試料が85mmの標線を超えるまでの時間を測定した;
(5)測定結果に基づき、以下の基準で、蓄熱材組成物が40℃において形状保持するか否か(換言すれば、流動性を有するか否か)を判定した:
〇(合格):試料が標線を超えるまで90秒以上を要する。形状保持試験の評価が〇であることは、蓄熱材組成物が40℃において形状保持する(流動性を有さない)ことを意味する。
×(不合格):試料が90秒以内に標線を超える。形状保持試験の評価が×であることは、蓄熱材組成物が40℃において形状保持しない(流動性を有する)ことを意味する。
【0126】
なお、上記形状保持試験により、「40℃において形状保持する」と判定された(〇評価である)蓄熱材組成物は、総務省消防庁が規定する第四類及び指定可燃物判断フローチャートに基づく試験によって、「40℃で液状でない」と判定される。それ故、上記形状保持試験により「40℃において形状保持する」と判定された蓄熱材組成物は、日本国の消防法における危険物第四類に該当しないと判定される。一方で、上記形状保持試験により、「40℃において形状保持しない」と判定された(×評価である)蓄熱材組成物は、総務省消防庁が規定する第四類及び指定可燃物判断フローチャートに基づく試験によって、「40℃で液状である」と判定され、日本国の消防法における危険物第四類に該当すると判定される。
【0127】
〔凝固過程評価〕
40℃の蓄熱材組成物を、ポリプロピレン製クライオバイアル内に充填し、50℃に調温した恒温槽[サイニクス社製、超低温アルミブロック恒温槽 クライオポーター(登録商標)CS-80CP]内に1時間静置した。その後、50℃~-25℃の温度範囲内で、1.0℃/分の降温速度で、恒温槽(恒温槽内)の温度下降を行った。
【0128】
上記の温度下降過程において、恒温槽内の蓄熱材組成物の、時間(温度下降開始時点からの経過時間)に対する温度をプロットしたグラフを作成した。上記の温度下降過程における蓄熱材組成物の温度変化を示す上記グラフを模式的に示したグラフが図1のグラフである。温度下降過程においては、恒温槽の温度が一定速度で下降するのに対して、蓄熱材組成物の温度は、例えば、図1(実線)に示すように、次の(1)~(5)の順で変化した:(1)蓄熱材組成物の温度は一定速度または略一定速度で50℃からある温度(温度T1とする)まで、下降した;(2)温度T1を境に、蓄熱材組成物の温度は上昇し、温度T1からある温度(温度T2とする)まで上昇した;(3)温度T2を境に、蓄熱材組成物の温度は再び温度下降に伴い降下し、温度T2からある温度(温度T4とする)まで一定速度または略一定速度で下降した;(4)温度T4からある温度(温度T5とする)まで、蓄熱材組成物の温度は、恒温槽の温度を下降させているにも関わらず、潜熱によりほとんど変化しなくなった;(5)温度T5を境に、蓄熱材組成物の温度は再び降下し、-25℃まで一定速度または略一定速度で下降した。
【0129】
別の一例として、蓄熱材組成物の温度は、図1(破線)に示すように、次の(1’)~(4’)の順で変化した:(1’)蓄熱材組成物の温度は一定速度または略一定速度で50℃からある温度(温度T3とする)まで下降した;(2’)温度T3を境に、蓄熱材組成物の温度は上昇し、温度T3からある温度(温度T4)まで上昇した。;(3’)温度T4からある温度(温度T5とする)まで、蓄熱材組成物の温度は、恒温槽の温度を下降させているにも関わらず、潜熱によりほとんど変化しなくなった;(4’)温度T5を境に、蓄熱材組成物の温度は再び降下し、-25℃まで一定速度または略一定速度で下降した。
【0130】
本明細書において、上記温度T2を「結晶核生成温度」と称し、温度T3を「過冷却温度」と称し、温度T4「凝固開始温度」と称し、温度T5を「凝固終了温度」と称する。また、温度T4と温度T5との中点の温度T6を、蓄熱材組成物の「凝固温度」と定義する。蓄熱材組成物の凝固過程評価においては、上記の方法により得られた蓄熱材組成物の温度降下時の温度変化のグラフに基づき、蓄熱材組成物の凝固温度(T6)、過冷却温度(T3)、凝固温度開始温度(T4)、結晶核生成温度(T2)の測定を行った。なお、図1の実線のグラフのように、過冷却温度(T3)が明確に認められない場合、過冷却温度(T3)と凝固開始温度(T4)は同一とし、過冷却温度(T3)として凝固開始温度(T4)を採用する。また、図1の破線のグラフのように結晶核生成温度(T2)が明確に認められない場合、(i)評価対象の蓄熱材組成物の過冷却温度(T3)が、テトラデカン単体の過冷却温度(本明細書においては4.3℃)よりも高い場合は、評価対象の蓄熱材組成物の結晶核生成温度(T2)として、当該蓄熱材組成物の過冷却温度(T3)を採用し、(i)評価対象の蓄熱材組成物の過冷却温度(T3)が、テトラデカン単体の過冷却温度(本明細書においては4.3℃)よりも低い場合は、結晶核生成温度(T2)として「テトラデカンの過冷却温度未満(×)」を採用する。また、図示はしないが、蓄熱材組成物の温度下降過程において、定温を保持する領域(上記(4)または(3’)に相当する領域)が存在しない場合もある。この場合、温度T5を判定することが難しいため、温度T4を「凝固温度」と定義する。
【0131】
凝固過程評価の測定結果より得られた結晶核生成温度(T2)の測定値を用いて、下記の基準で評価を行った:
〇(良好):テトラデカンの過冷却温度以上かつ8℃以下。
△(高すぎる):8℃を超える。
×(低すぎる):テトラデカンの過冷却温度未満。
【0132】
〔融解過程評価〕
-25℃に調温した恒温槽[サイニクス社製、超低温アルミブロック恒温槽 クライオポーター(登録商標)CS-80CP]内で、同じく-25℃に調温した、ポリプロピレン製クライオバイアル内に充填した蓄熱材組成物について、-25℃~50℃の温度範囲内で、1.0℃/分の昇温速度で、恒温槽(恒温槽内)の温度上昇を行った。
【0133】
上記の温度上昇過程において、恒温槽内の蓄熱材組成物の、時間(温度上昇開始時点からの経過時間)に対する温度をプロットしたグラフを作成した。上記の温度上昇過程における蓄熱材組成物の温度変化を示す上記グラフを模式的に示したグラフが図2のグラフである。温度上昇過程においては、恒温槽の温度が一定速度で上昇するのに対して、蓄熱材組成物の温度は、例えば、図1(実線および破線)に示すように、次の(1)~(5)の順で変化した:(1)蓄熱材組成物の温度は一定速度または略一定速度で-25℃からある温度(温度T7とする)まで上昇した;(2)温度T7を境に、蓄熱材組成物の温度は、恒温槽の温度を上昇させているにも関わらず、潜熱によりほとんど変化しなくなった;(3)温度T8を境に、蓄熱材組成物の温度は再び上昇し、50℃まで一定速度または略一定速度で下降した。
【0134】
本明細書において、上記温度T7を「融解開始温度」と称し、温度T8を「融解終了温度」と称する。また、温度T7と温度T8との中点の温度T9を、蓄熱材組成物の「融解温度」と定義する。蓄熱材組成物の凝固過程評価においては、上記の方法により得られた蓄熱材組成物の温度上昇時の温度変化のグラフに基づき、融解温度(T9)の測定を行った。
【0135】
〔過冷却温度と凝固開始温度との差〕
前記凝固過程評価結果より得られた蓄熱材組成物の凝固開始温度(T4)から過冷却温度(T3)を減じた値を用いて、下記基準に基づき、蓄熱材組成物の「過冷却温度と凝固開始温度との差」を評価した。
〇(良好):過冷却温度と凝固開始温度との差が1℃以下
△(不良):過冷却温度と凝固開始温度との差が1℃を超える。
【0136】
〔融解温度と凝固温度の差〕
前記凝固過程評価および前記融解過程評価の結果より得られた蓄熱材組成物の凝固温度(T6)から融解温度(T9)を減じた値を用いて、下記基準に基づき、蓄熱材組成物の「融解温度と凝固温度の差」を評価した。
〇(良好):凝固温度と融解温度との差が1℃以下
×(不良):凝固温度と融解温度との差が1℃を超える。
【0137】
〔4℃恒温槽中での凍結の有無〕
PVC容器内に封入した蓄熱材組成物(蓄熱材)を4.0℃に設定した恒温槽(ナガノサイエンス製CH43-15P)に投入し、48時間後静置した。静置後、恒温槽から前記蓄熱材組成物を封入した容器を取り出し、その外観を確認した。確認された容器内の蓄熱材組成物の外観より、下記基準に基づいて「4℃恒温槽中での凍結」の判定を行った。
◎(良好):蓄熱材組成物全体が均一に凍結している。
〇(合格):部分的に蓄熱材組成物の色の濃淡が存在するものの、蓄熱材組成物全体が凍結している(不均一に凍結)。
△(不合格):蓄熱材組成物の一部は凍結しているが、未凍結の部分が存在する。
×(不良):蓄熱材組成物全体が未凍結。
【0138】
〔融解/凝固評価後の結晶析出〕
前記凝固過程評価と融解過程評価を3回繰り返した後の、クライオバイアル内に充填した蓄熱材組成物、すなわち、50℃に調温した蓄熱材組成物について、50℃から-25℃までの降温操作および-25℃から50℃までの昇温操作を3回繰り返した後の、クライオバイアル内に充填した蓄熱材組成物について、23℃に調温した恒温槽内に1時間以上静置した後、恒温槽内からクライオバイアルを取り出し、クライオバイアル内に充填した蓄熱材組成物の外観確認を行った。確認された蓄熱材組成物の外観より、下記基準に基づいて「融解/凝固評価後の結晶析出」の判定を行った。
〇(合格):蓄熱材組成物は、透明液体であり、クライオバイアル内に結晶の析出は認められない。
△(注意):蓄熱材組成物は、白濁しているが、クライオバイアル内に結晶の析出は認められない。
×(不良):クライオバイアル内に結晶の析出が認められる。
【0139】
〔実施例1~7〕
(蓄熱材組成物(i)の作製)
40℃に加熱したテトラデカン(テトラデカン(A))中に、高級アルコール(B1)として、50℃に加熱し、溶解させたミリスチルアルコールを表1に記載の割合で混合した。この液体状の混合物を液温が18℃となるように冷却しながら30分間混合攪拌した。上記混合物の液温が18℃であることを確認した後、ゲル化剤(C)として、2-エチルヘキサン酸アルミニウムを表1に記載の割合で添加し、18℃で10分攪拌し、蓄熱材組成物を得た(調製工程)。得られた蓄熱材組成物を、40℃恒温槽(ナガノサイエンス製 CH43-15P)中で6時間加温することにより(ゲル化工程)、蓄熱材組成物のゲル化を完了させ、ゲル化した蓄熱材組成物を得た。
【0140】
(蓄熱材組成物(i)を備える蓄熱材の作製)
上記の工程で得られた、製造直後(ゲル化剤(C)を添加後、18℃で10分攪拌した直後)の蓄熱材組成物1000g(液温18℃)を、液送ポンプ(兵神装備製 NHL-15FN)を用いて、1L容量のPVC製容器に充填し、さらに、キャップと容器とを熱融着により一体化し、封止することで、容器内に蓄熱材組成物(実施例1~7の蓄熱材組成物(i))を充填してなる(備える)蓄熱材を得た(充填工程)。上記調製工程および充填工程において、蓄熱材組成物のゲル化は進行せず、40℃に設定した恒温槽(ナガノサイエンス製CH43-15P)中で6時間加熱することでゲル化が完了していることを確認した。
【0141】
得られた蓄熱材組成物および蓄熱材について、各物性の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0142】
〔参考例1〕
40℃に加熱したテトラデカン(テトラデカン(A))中に、高級アルコール(B1)として、50℃に加熱し、溶解させたミリスチルアルコールを表1に記載の割合で混合した。この液体状の混合物を液温が40℃となるよう加温しながら、30分間混合攪拌した。攪拌後、ゲル化剤(C)として、2-エチルヘキサン酸アルミニウムを表1の割合で添加し、液温が40℃となるよう加温しながら混合攪拌し、蓄熱材組成物を得た(調製工程)。この蓄熱材組成物1000gを、液温を40℃に維持した状態で液送ポンプ(兵神装備製 NHL-15FN)を用いて、1L容量のPVC製容器に充填し、さらに、キャップと容器とを熱融着により一体化し、封止することで、容器内に蓄熱材組成物を充填してなる蓄熱材を製造することを試みた(充填工程)。しかしながら、充填工程開始後約1時間で、蓄熱材組成物のゲル化が進行し、液送が困難となったため充填作業を中止した。
【0143】
〔実施例8~10〕
(蓄熱材組成物(ii)の作製)
40℃に加熱したテトラデカン(テトラデカン(A))中に、高級アルコール(B2)として、室温のセチルアルコール(粉末状)を表1に記載の割合で混合した。この液体状の混合物を液温が18℃となるように冷却しながら30分間混合攪拌した後、ゲル化剤(C)として、2-エチルヘキサン酸アルミニウムを表1に記載の割合で添加し、18℃で10分攪拌後、40℃恒温槽(ナガノサイエンス製 CH43-15P)中で6時間加温することにより、蓄熱材組成物を得た。
【0144】
(蓄熱材組成物(ii)を備える蓄熱材の作製)
上記の工程で得られた蓄熱材組成物1000gを、製造直後(ゲル化剤(C)を添加後、18℃で10分攪拌した直後に)に、1L容量のPVC製容器に充填し、さらに、キャップと容器とを熱融着により一体化し、封止することで、容器内に蓄熱材組成物(実施例8~10の蓄熱材組成物(ii))を充填してなる(備える)蓄熱材を得た。
【0145】
得られた蓄熱材組成物および蓄熱材について、各物性の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
〔比較例1~6〕
40℃に加熱したテトラデカン中に、50℃に加熱し、溶解させたミリスチルアルコールまたは室温のセチルアルコール(粉末状)を表2に記載の割合で混合した。この液体状の混合物を液温が18℃となるように冷却しながら30分間混合攪拌した後、2-エチルヘキサン酸アルミニウムを表2に記載の割合で添加し、18℃で10分攪拌することにより、蓄熱材組成物を得た。
【0148】
上記の工程で得られた蓄熱材組成物1000gを、製造直後(2-エチルヘキサン酸アルミニウムを添加後、18℃で10分攪拌した直後に)に、実施例1と同様の手順により、1L容量のPVC製容器に充填し、比較例1~6の蓄熱材組成物を充填してなる(備える)蓄熱材を得た。
【0149】
得られた蓄熱材組成物および蓄熱材について、各物性の測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0150】
【表2】
【0151】
〔参考例2〕
テトラデカンのみからなる蓄熱材組成物、および、テトラデカン1000gを1L容量のPVC製容器に充填してなる蓄熱材を得た。
【0152】
得られた蓄熱材組成物および蓄熱材について、各物性の測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0153】
〔参考例3~15〕
40℃に加熱したテトラデカン中に、50℃に加熱/溶解させたトリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、室温のラウリルアルコール(液体状)、または、室温のセチルアルコール(粉末状)、を表3に記載の割合で混合し、50℃で10分間混合攪拌することにより参考例3~15の蓄熱材組成物を得た。
【0154】
さらに、得られた蓄熱材組成物1000gを1L容量のPVC製容器に充填し、参考例3~15の蓄熱材組成物を充填してなる(備える)蓄熱材を得た。
【0155】
得られた蓄熱材組成物および蓄熱材について、各物性の測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0156】
【表3】
【0157】
〔参考例16~21〕
40℃に加熱したテトラデカン中に、室温のオクチルアルコール(粉末状)、または、エイコシルアルコール(ペレット状)、を表3に記載の割合で混合し、60℃で60分間混合攪拌することにより参考例16~21の蓄熱材組成物を得た。
【0158】
さらに、得られた蓄熱材組成物1000gを1L容量のPVC製容器に充填し、参考例16~21の蓄熱材組成物を充填してなる(備える)蓄熱材を得た。
【0159】
得られた蓄熱材組成物および蓄熱材について、各物性の測定および評価を行った。結果を表4に示す。
【0160】
【表4】
【0161】
表1~4より明らかなように、実施例1~10の蓄熱材組成物(蓄熱材組成物(i)および蓄熱材組成物(ii))は、(1)40℃における形状保持性試験の結果が〇(合格)であることから、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、(2)蓄熱材組成物の過冷却温度と凝固開始温度の差が1.0℃未満であり、過冷却が抑制されていること、および、高級アルコール(B1)または(B2)に由来する結晶核生成温度がテトラデカン(A)の過冷却温度以上、8℃以下の範囲内であることから、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、さらに、(3)4℃恒温槽中で48時間後静置した場合に、蓄熱材組成物全体が凍結していることから、4℃調温で安定して凍結可能であることが分かる。
【0162】
この結果から、本蓄熱材組成物(本蓄熱材組成物(i)または本蓄熱材組成物(ii))によれば、日本国の消防法における危険物第四類に該当せず、2℃~8℃で安定的に温度管理対象物品を温度保持することができ、かつ、4℃調温で安定して凍結可能な蓄熱材組成物を提供することができることが分かる。
【0163】
一方で、比較例1~3および参考例の結果から、蓄熱材組成物がゲル化剤を含まないか、あるいは、ゲル化剤の含有量が3重量%以下である場合は、蓄熱材組成物がゲル化しないか、あるいは、ゲル化が不十分であり、40℃において形状保持することができない、日本国の消防法における危険物第四類に該当する蓄熱材組成物となることが分かる。
【0164】
比較例4および5の結果より、蓄熱材組成物(i)の主剤において、高級アルコール(B1)の含有量が1.0モル%以下である場合は、結晶核生成温度がテトラデカンの過冷却温度未満まで低下してしまい、高級アルコール(B1)に由来する結晶核が、蓄冷剤組成物の過冷却を抑制することができなくなる。このことから、蓄熱材組成物(i)において、高級アルコール(B1)の含有量が1.0モル%以下である場合は、当該蓄熱材組成物を2℃調温で安定して凍結することが困難となることが分かる。
【0165】
比較例6の結果より、蓄熱材組成物(ii)の主剤において、高級アルコール(B2)の含有量が1.0モル%未満である場合は、結晶核生成温度がテトラデカンの過冷却温度未満まで低下してしまい、高級アルコール(B2)に由来する結晶核が、蓄冷剤組成物の過冷却を抑制することができなくなる。このことから、蓄熱材組成物(ii)において、高級アルコール(B2)の含有量が1.0モル%未満である場合は、当該蓄熱材組成物を2℃調温で安定して凍結することが困難となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の一実施形態に係る蓄熱材組成物は、蓄熱材、特に、2~8℃の温度保持を目的とした蓄熱材(5℃タイプ蓄熱材)として好適に利用することができる。
図1
図2