(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105696
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】回収バッグセット及び血小板溶解物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240730BHJP
A61K 35/19 20150101ALI20240730BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20240730BHJP
A61J 1/10 20060101ALI20240730BHJP
A61J 1/20 20060101ALI20240730BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20240730BHJP
【FI】
C12M1/26
A61K35/19
A61J1/05 351B
A61J1/10 333A
A61J1/20 314Z
C12N5/078
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084243
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2020572335の分割
【原出願日】2020-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019025982
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】細江 薫
(57)【要約】
【課題】簡便な装置構成で効率よく血小板溶解物を製造できる回収バッグセット及び血小板溶解物の製造方法を提供する。
【解決手段】回収バッグセット16は、凍結及び融解される工程を経た濃縮血小板濃厚液が流入する接続チューブ16eと、遠心分離によって分離された血小板溶解物を流出させる移送ポート16fとを有するPL分離バッグ16aと、移送ポート16fに接続された移送チューブ16dと、移送チューブ16dを介してPL分離バッグ16aに接続され、血小板溶解物を回収するPL回収バッグ16bと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血からバフィーコートを採取する工程と、前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを血小板溶解物として回収する工程と、を有する血小板溶解物の製造方法に使用される回収バッグセットであって、
前記凍結及び融解される工程を経た前記濃縮血小板濃厚液が流入する接続チューブと、遠心分離によって分離された前記血小板溶解物を流出させる移送ポートとを有する分離バッグと、
前記移送ポートに接続された移送チューブと、
前記移送チューブを介して前記分離バッグに接続され、前記血小板溶解物を回収する回収バッグと、を備える、回収バッグセット。
【請求項2】
請求項1に記載の回収バッグセットであって、前記回収バッグには、内容物のサンプリングを行うためのサンプリングポーチが設けられる、回収バッグセット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回収バッグセットであって、前記移送チューブには、前記血小板溶解物に含まれる異物の除去を行う異物除去フィルタが設けられる、回収バッグセット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回収バッグセットであって、前記分離バッグに前記凍結及び融解される工程を経た前記濃縮血小板濃厚液が収容される、回収バッグセット。
【請求項5】
接続チューブと、遠心分離によって分離された血小板溶解物を流出させる移送ポートとを有する分離バッグと、前記移送ポートに接続された移送チューブと、前記移送チューブを介して前記分離バッグに接続され、前記血小板溶解物を回収する回収バッグと、を備える、回収バッグセットを使用した血小板溶解物の製造方法であって、
全血からバフィーコートを採取する工程と、
前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、
前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、
前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、
前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを前記血小板溶解物として回収する工程と、を有し、
前記血小板溶解物を回収する工程は、
前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を、前記接続チューブを通じて前記分離バッグにプーリングする工程と、
前記分離バッグに遠心力を作用させて、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を細胞膜の残渣と前記血小板溶解物からなる上澄みとに分離する工程と、
前記分離バッグに遠心力を作用させたまま、前記分離バッグを押圧することにより、前記血小板溶解物からなる上澄みを、前記移送チューブを通じて前記回収バッグに移送する工程と、を有する、血小板溶解物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の血小板溶解物の製造方法であって、前記プーリングする工程は、前記濃縮血小板濃厚液を収容した複数の濃縮バッグを直列に連結して前記接続チューブを通じて前記分離バッグに接続して行なう、血小板溶解物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板に含まれる成長因子を抽出するための回収バッグセット及び血小板溶解物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体組織から採取した細胞を生体外で培養し、必要な細胞数まで増幅させた後、治療に使用する細胞療法の臨床応用が進められている。中でも、間葉系幹細胞は様々な細胞に分化可能であることから、骨や血管、心筋の再構築等の再生医療への応用が期待されている。このような細胞療法を普及させるためには、必要とされる細胞を効率よく培養できる細胞培養培地が求められる。
【0003】
従来、間葉系幹細胞の細胞培養培地には、ウシ胎児血清(FBS;fetal bovine serum)といった動物由来の成長因子が必須とされていた。ところが、近年、FBS等の動物由来の成長因子の代替として、ヒトの血液に含まれる血小板から取り出した成長因子が提案されている(非特許文献1)。この成長因子は、血小板の細胞内の顆粒の中に含まれる成長因子を細胞外に取り出したものであり、血小板を溶解させて得られることから、血小板溶解物(PL:Platelet Lysate)とも呼ばれる。血小板溶解物は、FBSよりも間葉系幹細胞の培養能力が高いとの報告もある。
【0004】
このような血小板溶解物を作製する方法として、全血(WB:Whole Blood)から分離した血小板を凍結及び融解させて細胞膜を破壊させ、顆粒中にある成長因子を細胞外に抽出する手法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Human platelet lysate: Replacing fetal bovine serum as a gold standard for human cell propagation?", Thierry Burnouf, et.al., Biomaterials,Vol.76, January 2016, Pages 371-387.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の血小板溶解物の製造に関してなされたものであり、簡便な装置構成で効率よく血小板溶解物を製造できる回収バッグセット及び血小板溶解物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)下記開示の一観点は、全血からバフィーコートを採取する工程と、前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを血小板溶解物として回収する工程と、を有する血小板溶解物の製造方法に使用される回収バッグセットであって、前記凍結及び融解される工程を経た前記濃縮血小板濃厚液が流入する接続チューブと、遠心分離によって分離された前記血小板溶解物を流出させる移送ポートとを有する分離バッグと、前記移送ポートに接続された移送チューブと、前記移送チューブを介して前記分離バッグに接続され、前記血小板溶解物を回収する回収バッグと、を備える、回収バッグセットにある。
【0008】
(2)項目(1)に記載の回収バッグセットであって、前記回収バッグには、内容物のサンプリングを行うためのサンプリングポーチが設けられてもよい。
【0009】
(3)項目(1)又は(2)に記載の回収バッグセットであって、前記移送チューブには、前記血小板溶解物に含まれる異物の除去を行う異物除去フィルタが設けられてもよい。
【0010】
(4)項目(1)~(3)のいずれか1項に記載の回収バッグセットであって、前記分離バッグに前記凍結及び融解される工程を経た前記濃縮血小板濃厚液が収容されてもよい。
【0011】
(5)下記開示の別の一観点は、接続チューブと、遠心分離によって分離された血小板溶解物を流出させる移送ポートとを有する分離バッグと、前記移送ポートに接続された移送チューブと、前記移送チューブを介して前記分離バッグに接続され、前記血小板溶解物を回収する回収バッグと、を備える、回収バッグセットを使用した血小板溶解物の製造方法であって、全血からバフィーコートを採取する工程と、前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを前記血小板溶解物として回収する工程と、を有し、前記血小板溶解物を回収する工程は、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を、前記接続チューブを通じて前記分離バッグにプーリングする工程と、前記分離バッグに遠心力を作用させて、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を細胞膜の残渣と前記血小板溶解物からなる上澄みとに分離する工程と、前記分離バッグに遠心力を作用させたまま、前記分離バッグを押圧することにより、前記血小板溶解物からなる上澄みを、前記移送チューブを通じて前記回収バッグに移送する工程と、を有する、血小板溶解物の製造方法にある。
【0012】
(6)項目(5)に記載の血小板溶解物の製造方法であって、前記プーリングする工程は、前記濃縮血小板濃厚液を収容した複数の濃縮バッグを直列に連結して前記接続チューブを通じて前記分離バッグに接続して行なってもよい。
【0013】
(7)下記開示のさらに別の一観点は、接続チューブと、移送ポートと、連結チューブとが設けられた血小板濃縮バッグと、前記移送ポートに接続された移送チューブと、前記移送チューブを介して前記血小板濃縮バッグに接続された上澄み回収バッグと、を備え、前記血小板濃縮バッグは、一端に前記接続チューブと前記移送ポートとが形成され、前記接続チューブと反対側の他端に前記連結チューブが設けられた濃縮バッグセットを用いた、血小板溶解物の製造方法であって、全血からバフィーコートを採取する工程と、前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを血小板溶解物として回収する工程と、を有し、前記回収する工程は、遠心分離に先だって、回収バッグセットに複数の前記血小板濃縮バッグに収容された濃縮血小板濃厚液をプーリングする工程を有し、前記プーリングする工程において、前記血小板濃縮バッグは、連結チューブを、他の血小板濃縮バッグの接続チューブに連結することで、直列に複数の前記血小板濃縮バッグを接続して行なわれる、血小板溶解物の製造方法にある。
【0014】
(8)項目(7)に記載の血小板溶解物の製造方法であって、前記プーリングする工程は、直列に接続された複数の前記血小板濃縮バッグの列が、複数列前記回収バッグセットに接続されて行なわれてもよい。
【0015】
(9)下記開示のさらに別の一観点は、全血からバフィーコートを採取する工程と、前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを血小板溶解物として回収する工程と、を有する血小板溶解物の製造方法に使用される濃縮バッグセットであって、接続チューブと、移送チューブと、連結チューブと、洗浄液チューブと、が設けられた血小板濃縮バッグと、前記移送チューブを通じて前記血小板濃縮バッグに接続された回収バッグと、前記洗浄液チューブを介して前記血小板濃縮バッグに接続され、洗浄液を収容した洗浄液バッグと、を備え、前記血小板濃縮バッグは、前記移送チューブの反対側の端部に、前記洗浄液チューブと、前記連結チューブとが設けられている、濃縮バッグセットにある。
【0016】
(10)項目(9)に記載の濃縮バッグセットであって、前記血小板濃縮バッグは、前記移送チューブと同じ側の端部に前記接続チューブを備えてもよい。
【0017】
(11)下記開示のさらに別の一観点は、接続チューブと、移送チューブと、連結チューブと、洗浄液チューブとが設けられた血小板濃縮バッグと、前記移送チューブを通じて前記血小板濃縮バッグに接続された回収バッグと、前記洗浄液チューブを介して前記血小板濃縮バッグに接続され、洗浄液を収容した洗浄液バッグと、を備え、前記血小板濃縮バッグは、前記移送チューブの反対側の端部に、前記洗浄液チューブと、前記連結チューブとが設けられている、濃縮バッグセットを使用した血小板溶解物の製造方法であって、全血からバフィーコートを採取する工程と、前記バフィーコートを遠心分離して血小板濃厚液を採取する工程と、前記血小板濃厚液を遠心分離して前記血小板濃厚液をさらに濃縮した濃縮血小板濃厚液を調製する工程と、前記濃縮血小板濃厚液を凍結及び融解させる工程と、前記凍結及び融解させる工程を経た前記濃縮血小板濃厚液を遠心分離して上澄みを血小板溶解物として回収する工程と、を有し、前記濃縮血小板濃厚液を調製する工程において、前記血小板濃厚液を収容した前記血小板濃縮バッグに遠心力を作用させて遠心分離を行う工程と、前記血小板濃縮バッグに前記洗浄液を送り込むことで、分離された濃縮血小板濃厚液の洗浄を行なう工程と、前記洗浄液を分離した血漿とともに、前記回収バッグに移送する工程と、を有する血小板溶解物の製造方法にある。
【発明の効果】
【0018】
上記観点によれば、簡便な装置構成で効率よく血小板溶解物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の血小板溶解物の製造システムの全体構成を示す説明図である。
【
図5】第1実施形態に係る血小板溶解物の製造方法のフローチャートである。
【
図6】
図5のバフィーコートのプーリングまでの工程を工程順に示す説明図である。
【
図7】血小板濃厚液を採取するまでの工程を工程順に示す説明図である。
【
図8】血小板濃厚液の移送までの工程を工程順に示す説明図である。
【
図9】濃縮血小板濃厚液を調製するまでの工程を、工程順に示す説明図である。
【
図10】濃縮血小板濃厚液のプーリングまでの工程を工程順に示す説明図である。
【
図11】血小板溶解物を採取するまでの工程を、工程順に示す説明図である。
【
図12】第2実施形態に係る濃縮バッグセットの平面図である。
【
図13】第2実施形態の血小板濃厚液の濃縮及び洗浄工程を工程順に示す説明図である。
【
図14】第3実施形態に係るバッグセットのブロック図である。
【
図15】第3実施形態に係る血小板溶解物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図16】第4実施形態に係るバッグセットのブロック図である。
【
図17】第4実施形態に係る血小板溶解物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図18】
図18Aは、第4実施形態の変形例に係るバッグセットのブロック図であり、
図18Bは
図18Aの白血球除去フィルタから血小板を回収するためのバッグセットのブロック図である。
【
図19】第4実施形態における血小板の回収の際のバッグセットの接続状態を示すブロック図である。
【
図20】第5実施形態に係るバッグセットのブロック図である。
【
図21】第5実施形態に係る血小板溶解物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図22】第5実施形態に係る血小板溶解物の製造方法における、バッグセット内の液体の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態で使用されるバッグにはチューブ類を接続するための接続ポート(移送ポート)が設けられているが、これらの接続ポートの少なくとも一部には破断又は開通可能なクリックチップ(易破断可能部)が含まれていてよい。
【0021】
(第1実施形態)
本実施形態の血小板溶解物の製造方法は、例えば、ドナーから採取した血液を処理して種々の血液製剤を製造する血液センターで実施されるものであり、血液センターに設置された遠心分離機18及び冷凍保管庫20を含む製造システム10を使用して実施される。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の血小板溶解物の製造システム10は、血小板採取セット12と、濃縮バッグセット14と、回収バッグセット16と、遠心分離機18と、冷凍保管庫20と、を備えている。
【0023】
血小板採取セット12は、全血WBを遠心分離して得られたバフィーコートBCから白血球を除去して血小板濃厚液PC(Platelet Concentrate)を抽出するために用いられるものであり、使い捨ての製品として提供される。血小板採取セット12は、BC分離バッグ12aと、白血球除去フィルタ12bと、PC回収バッグ12cとを備えている。
【0024】
BC分離バッグ12aには、移送チューブ12dと移送チューブ12eとが設けられている。
図6に示すように、移送チューブ12dは、クランプ12fを介して分岐部12gに接続されるチューブであり、分岐部12gを介して複数のBCバッグ13に接続される。すなわち、移送チューブ12dは、BCバッグ13に収容されたバフィーコートBCを、BC分離バッグ12aに移送する流路を構成する。
【0025】
移送チューブ12eは、BC分離バッグ12aとPC回収バッグ12cとを連通している。移送チューブ12eは、バフィーコートBCを遠心分離して得られる上澄み液である血小板濃厚液PCをPC回収バッグ12cに移送する流路を構成する。白血球除去フィルタ12bは、移送チューブ12eの途上に設けられている。白血球除去フィルタ12bは、移送される上澄みに残留する白血球を除去するように構成されている。
【0026】
BC分離バッグ12aは、複数のドナーから採取したバフィーコートBCを収容できる容量を有している。特に限定されるものではないが、本実施形態では、1つのBC分離バッグ12aが5人のドナーから採取したバフィーコートBCを収容する例で説明する。この場合には、BC分離バッグ12aには例えば600ml程度のバッグを用いることができる。
【0027】
PC回収バッグ12cは、移送チューブ12eを介してBC分離バッグ12aに連通したバッグであり、BC分離バッグ12aで分離された血小板濃厚液PCを収容するように構成されている。PC回収バッグ12cは、例えば600ml程度の容量のものを用いることができる。
【0028】
図2に示すように、濃縮バッグセット14は、血小板濃厚液PCを濃縮して濃縮血小板濃厚液CPCを抽出するために用いられるものであり、使い捨ての製品として提供される。濃縮バッグセット14は、PC濃縮バッグ14aと、上澄み回収バッグ14bと、PC濃縮バッグ14aと上澄み回収バッグ14bとを繋ぐ移送チューブ14dと、を備えている。
【0029】
PC濃縮バッグ14aは、PC回収バッグ12c内に収容された血小板濃厚液PCを移送するとともに、遠心分離機18にセットされて血小板濃厚液PCを濃縮するように構成されている。PC濃縮バッグ14aは、矩形状に形成された一対の樹脂シートを重ね合わせ、それらの周縁部143を接合して形成された容器である。PC濃縮バッグ14aの一端部141からは、接続チューブ14cと、移送ポート14fとが延び出ている。また、一端部141と反対側の他端部142からは、連結チューブ14gが延び出ている。
【0030】
接続チューブ14c及び連結チューブ14gは、PC濃縮バッグ14aの内部に連通している。製品提供の際には接続チューブ14cの端部及び連結チューブ14gの端部は溶着されて封じられている。接続チューブ14c又は連結チューブ14gは、必要に応じて不図示の無菌接合装置で他のチューブと接続可能となっている。
【0031】
接続チューブ14cは、
図1のPC回収バッグ12cに接続されて、PC回収バッグ12cの血小板濃厚液PCを移送するための流路となる。また、接続チューブ14cは、他のPC濃縮バッグ14aの連結チューブ14gに接続されて、濃縮血小板濃厚液CPCを回収バッグセット16に移送する流路にもなる。連結チューブ14gは、他のPC濃縮バッグ14aに接続されて濃縮血小板濃厚液CPCを移送するための流路を構成する。
【0032】
PC濃縮バッグ14aの移送ポート14fには、移送チューブ14dが接続されている。この移送チューブ14dを介して、PC濃縮バッグ14aと上澄み回収バッグ14bとが連通している。移送チューブ14dは、PC濃縮バッグ14aを遠心分離にかけた際に生じる血小板濃厚液PCの上澄みを上澄み回収バッグ14bに移送する流路を構成する。移送チューブ14dには、後述する遠心分離機18のクランプ34(
図4参照)、センサ32及びポンプ等が取り付け可能となっている。
【0033】
上澄み回収バッグ14bは、血小板濃厚液PCの上澄み液を回収する。血小板濃厚液PCの濃縮の完了後は、移送チューブ14dが切断されることにより、上澄み回収バッグ14bがPC濃縮バッグ14aから分離されて回収される。上澄み回収バッグ14bから切り離したPC濃縮バッグ14aに対して、冷凍保管庫20での冷凍処理及び解凍処理が行われる。上澄み回収バッグ14b中の上澄みは、血漿であり、原料血漿として利用することができる。
【0034】
PC濃縮バッグ14a及び上澄み回収バッグ14bの容量は、PC回収バッグ12cの容量と同様とすることができる。特に限定されるものではないが、5人のドナーから採取したバフィーコートBCを1単位として処理する場合には、PC濃縮バッグ14a及び上澄み回収バッグ14bの容量は300ml程度あればよい。この場合、PC濃縮バッグ14aにプーリングされる血小板濃厚液PCの量は250ml程度であり、濃縮後にPC濃縮バッグ14aに残留する濃縮血小板濃厚液CPCの容量は、25ml程度に減少する。
【0035】
図3に示すように、回収バッグセット16は、凍結及び解凍を行った濃縮血小板濃厚液CPCから血小板溶解物PLを分離して回収するために用いられるものであり、使い捨ての製品として提供される。回収バッグセット16は、PL分離バッグ16aと、血小板溶解物PLを回収するPL回収バッグ16bと、PL分離バッグ16aとPL回収バッグ16bとを接続する移送チューブ16dとを備えている。
【0036】
PL分離バッグ16aは、複数のPC濃縮バッグ14aに収容された濃縮血小板濃厚液CPCをプーリングして、血小板溶解物PLと血小板の細胞膜の残渣とを分離するように構成されている。PL分離バッグ16aは、凍結及び解凍プロセスに用いられるバッグであるため、凍結及び解凍プロセスにおいて破損しない材料を用いることが好ましい。したがって、PL分離バッグ16aの材料としては、通常の血液バッグ等で使用されるポリビニルアルコール(PVC)樹脂よりも、エチレン・酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂のほうが好ましい。また、EVA樹脂は、血漿タンパクが吸着しにくいという特性もあるため、PL分離バッグ16aとして好適である。
【0037】
PL分離バッグ16aには、さらに接続チューブ16eと移送ポート16fとが設けられている。接続チューブ16eは、
図10に示すように、分岐部16jを介して複数のPC濃縮バッグ14aに接続され、PC濃縮バッグ14aの濃縮血小板濃厚液CPCをPL分離バッグ16aに移送する流路を構成する。
図3に示すように、移送ポート16fには、移送チューブ16dが接続される。すなわち、PL分離バッグ16aとPL回収バッグ16bとは、移送チューブ16dを介して連通している。
【0038】
移送チューブ16dは、PL分離バッグ16aで遠心分離された濃縮血小板濃厚液CPCの上澄みである血小板溶解物PLを移送する流路を構成する。また、移送チューブ16dには、血小板溶解物PLに含まれるウィルス等の異物(0.2μm程度)の除去を行う異物除去フィルタ16cが設けられており、この異物除去フィルタ16cにより異物が除去された血小板溶解物PLがPL回収バッグ16bに回収されるように構成されている。
【0039】
PL回収バッグ16bは、血小板溶解物PLを回収する。PL回収バッグ16bには、内容物のサンプリングを行うためのサンプリングポーチ16hが設けられていてもよい。
【0040】
PL分離バッグ16a及びPL回収バッグ16bには、一般的な血液バッグを用いることができる。例えば20個のPC濃縮バッグ14a(すなわち、ドナー100人分)の濃縮血小板濃厚液CPCをプーリングする場合、PL分離バッグ16a及びPL回収バッグ16bの容量は、公称容量600mlとすることができる。
【0041】
遠心分離機18は、
図1に示すように、血小板溶解物PLの製造工程において、繰り返し使用される機器である。遠心分離機18は、箱状の装置本体22と、装置本体22内に回転自在に設けられたロータ30(遠心分離部)とを備える。
【0042】
装置本体22は、血小板採取セット12、濃縮バッグセット14、及び回収バッグセット16の各バッグを内部又は外部に保持し、各バッグ内の所定の成分の遠心分離を制御する機能を有している。この装置本体22は、遠心分離を行う際の操作を受け付け及び動作状態の表示を行うとともに各部の動作制御を行う制御部26を備えている。血小板採取セット12、濃縮バッグセット14、及び回収バッグセット16は、インサートユニット28に収容され、ロータ30内に取り付けられる。
【0043】
図4に示すように、インサートユニット28には、センサ32、クランプ34及び不図示のポンプが装着される。また、インサートユニット28には、血小板採取セット12、濃縮バッグセット14、及び回収バッグセット16を押圧する押圧部33が配置される。センサ32は、移送チューブ12e、14d、16dを介した所定成分の移送状態を検出する。センサ32は、移送チューブ12e、14d、16dの光透過率の変化を検出するものであってもよい。また、センサ32は、後述する押圧部33の変位を検出するものであってもよい。
【0044】
図1に示すように、装置本体22のロータ30は、円筒状に形成され、周方向に、複数の区画に分けられ、各区画にインサートユニット28が収容される。ロータ30の底部には、ロータ30を回転させる図示しない回転駆動源が設けられる。また、ロータ30のインサートユニット28の内周側に隣接する部分には、インサートユニット28に装着された血小板採取セット12、濃縮バッグセット14、及び回収バッグセット16を押圧する押圧部33が設けられている。
【0045】
インサートユニット28は、ロータ30から取り出し自在に構成され、血小板採取セット12、濃縮バッグセット14、及び回収バッグセット16を容易に取り付けできる。遠心分離機18の各部は、制御部26の制御の下で動作する。
【0046】
図1に示すように、冷凍保管庫20は、複数の収容部20aが設けられている。各収容部20aには、濃縮によって減容された複数のPC濃縮バッグ14aが収容される。冷凍保管庫20内において、濃縮血小板濃厚液CPCの凍結処理が行われる。
【0047】
本実施形態の血小板溶解物の製造システム10は以上のように構成される。以下、本実施形態の血小板溶解物の製造方法について説明する。
【0048】
血小板溶解物の製造方法は、
図5のフローチャートに示す手順にしたがって、行われる。まず、ステップS10において、医師や看護師等の医療従事者により全血採血が行われる。その後、ステップS20において、採血された血液は、医療施設、採血用車両、又は血液センター等に設けられた遠心分離機18により遠心分離される。遠心分離によって、全血WBの赤血球、血小板、白血球及び血漿がその比重にしたがって、分離する。その結果、全血WBは、濃厚赤血球と、血漿と、濃厚赤血球と血漿との間に現れるバフィーコートBCとに分離する(ステップS30)。バフィーコートBCには、主に血小板と白血球が含まれる。
【0049】
その後、ステップS300において、バフィーコートBCから白血球を除去して血小板濃厚液PCを採取する工程が行われる。まず、ステップS40において、複数のドナーから採取したバフィーコートBCをプーリングする。すなわち、
図6のステップS41に示すように、血小板採取セット12と、バフィーコートBCを収容した複数のBCバッグ13と、血小板保存液(PAS:Platelet Additive Solution)を収容したPASバッグ11とを用意する。
【0050】
次に、ステップS42において、血小板採取セット12のBC分離バッグ12aにBCバッグ13及びPASバッグ11を無菌的に接続する。その後、クランプ12fを開いて、バフィーコートBC及び血小板保存液PASをBC分離バッグ12aにプーリングする。複数のドナーのバフィーコートBCをプーリングすることにより、バフィーコートBCのばらつきを抑制することができる。
【0051】
その後、ステップS43において、移送チューブ12dを切断して、血小板採取セット12から、BCバッグ13及びPASバッグ11を切り離す。
【0052】
次に、
図5のステップS50において、遠心分離機18により、血小板採取セット12にプーリングしたバフィーコートBCを遠心分離する。すなわち、
図7のステップS51に示すように、血小板採取セット12を遠心分離機18にセットし、BC分離バッグ12aに遠心力を作用させる。これにより、ステップS52に示すように、BC分離バッグ12aのバフィーコートBCは、赤血球及び白血球を含んだ懸濁液と、血小板を多く含んだ血漿(多血小板血漿)の上澄み液とに分離する。
【0053】
次に、ステップS53に示すように、遠心分離機18のロータ30を回転させて遠心力を作用させながら、BC分離バッグ12aの上澄み液をPC回収バッグ12cに移送する。BC分離バッグ12aの上澄み液は、移送チューブ12eを経てPC回収バッグ12cに移送される途中で、白血球除去フィルタ12bを通過する。これにより、上澄み液に残留する白血球が除去される。その結果、PC回収バッグ12cに血小板濃厚液PCが回収される。
【0054】
ステップS54に示すように、遠心分離機18は、センサ32がBC分離バッグ12aからの赤血球の漏出を検知すると、遠心分離部の動作を停止する。その後、ステップS60において、血小板採取セット12を遠心分離機18から取り出して、PC回収バッグ12cをBC分離バッグ12aから切り離して、血小板濃厚液PCの採取が完了する。
【0055】
次に、
図5のステップS70において、濃縮バッグセット14にステップS60で採取した血小板濃厚液PCを移送する。すなわち、
図8のステップS71に示すように、濃縮バッグセット14と、血小板濃厚液PCを収容したPC回収バッグ12cとを用意する。
【0056】
次に、ステップS72において、PC回収バッグ12cとPC濃縮バッグ14aとを接続チューブ14cを介して無菌的に接続する。そして、PC回収バッグ12cの血小板濃厚液PCをPC濃縮バッグ14aに移送する。
【0057】
次に、ステップS73において、接続チューブ14cを切断してPC回収バッグ12cを切り離す。以上により、
図5のステップS70の移送工程が完了する。
【0058】
次に、ステップS400において、濃縮血小板濃厚液CPCを調製する。まず、ステップS80において血小板濃厚液PCを遠心分離する。すなわち、
図9のステップS81において、濃縮バッグセット14を遠心分離機18にセットし、遠心分離機18のロータ30を回転させて濃縮バッグセット14のPC濃縮バッグ14aに遠心力を作用させる。その結果、ステップS82に示すように、PC濃縮バッグ14a内の血小板濃厚液PCが、水分を多く含んだ血漿と、血小板を高濃度で含んだ濃縮血小板濃厚液CPC(Highly Concentrated Platelet Concentrate)とに分離する。血漿は上澄みとして分離する。
【0059】
次に、
図5のステップS90に移行して、血漿の回収を行う。すなわち、
図9のステップS91において、遠心分離機18は、遠心分離部(ロータ30)を動作させた状態で、押圧部33を動作させてPC濃縮バッグ14aを押圧して、上澄みの血漿を上澄み回収バッグ14bに移送する。その後、ステップS92において、遠心分離機18は、血漿の上澄み回収バッグ14bへの移送状態又は押圧部33の変位をセンサ32で検出して、遠心分離部の動作を停止させる。
【0060】
その後、ステップS93において、濃縮バッグセット14を遠心分離機18から取り外す。そして、ステップS100において、移送チューブ14dを切断して、上澄み回収バッグ14bをPC濃縮バッグ14aから切り離す。PC濃縮バッグ14aには、濃縮された血小板が残存しており、PC濃縮バッグ14a内の血小板の濃縮が完了する。PC濃縮バッグ14a内の濃縮血小板濃厚液CPCの容積は元の血小板濃厚液PCの容積の1/10程度にまで減少する。以上のようにして、
図5のステップS400の血小板濃厚液PCの濃縮が完了する。
【0061】
次に、
図5のステップS500において、濃縮血小板濃厚液CPCの凍結及び融解を行う。すなわち、PC濃縮バッグ14aを冷凍保管庫20内に収納して濃縮血小板濃厚液CPCの凍結を行うステップS110、S130と、凍結した濃縮血小板濃厚液CPCを融解させるステップS120、S140と、を交互に複数回行う。図示の例では2回繰り返し行うがこれに限定されず、凍結と融解を1度だけ行ってもよい。また、凍結と融解を3度以上繰り返し行ってもよい。凍結と融解を複数回行うと、血小板の細胞膜の破壊をより確実に行うことができ、血小板溶解物PLの収量が向上して好適である。
【0062】
次に、ステップS600において、凍結及び融解を行った後の血小板溶解物PLの回収を行う。まず、ステップS150において、凍結と融解を行った濃縮血小板濃厚液CPCのプーリングを行う。すなわち、
図10のステップS151に示すように、複数のPC濃縮バッグ14aと、回収バッグセット16を用意する。PC濃縮バッグ14aは、連結チューブ14gを他のPC濃縮バッグ14aの接続チューブ14cに連結することで、直列に複数のPC濃縮バッグ14aを連結する。これにより、分岐部の数を増やすことなく、多数のPC濃縮バッグ14aを連結させることができる。さらに、直列に連結されたPC濃縮バッグ14a群を複数用意する。
【0063】
次に、ステップS152において、分岐部16jを介して回収バッグセット16に、複数のPC濃縮バッグ14a群を接続する。そして、クランプ16gを開いて、PC濃縮バッグ14a内の凍結及び融解後の濃縮血小板濃厚液CPCを、回収バッグセット16のPL分離バッグ16aにプーリングする。図示の例では、20個のPC濃縮バッグ14aの凍結及び融解後の濃縮血小板濃厚液CPCが、PL分離バッグ16aに収容される。そのため、100人のドナーからの凍結及び融解後の濃縮血小板濃厚液CPCがPL分離バッグ16aに収容されることになり、品質の均一化が図れる。
【0064】
次に、ステップS153において、接続チューブ16eを切断して、回収バッグセット16から、PC濃縮バッグ14aを分離する。以上により、
図5のステップS150の凍結及び融解を行った後の濃縮血小板濃厚液CPCのプーリング工程が完了する。
【0065】
次に、
図5のステップS160において、凍結及び融解後の濃縮血小板濃厚液CPCの遠心分離を行う。すなわち、
図11のステップS161において、回収バッグセット16を遠心分離機18にセットして、遠心分離機18を動作させて、PL分離バッグ16aに遠心力を作用させる。その結果、ステップS162に示すように、PL分離バッグ16aの凍結及び融解後の濃縮血小板濃厚液CPCが、細胞膜の残渣と、血小板溶解物PLからなる上澄みとに分離する。
【0066】
次に、
図5のステップS170において、上澄みの回収を行う。すなわち、
図11の、ステップS171において、遠心分離機18は、PL分離バッグ16aに遠心力を作用させたまま、PL分離バッグ16aを押圧する。これにより、血小板溶解物PLからなる上澄みが、移送チューブ16dを通じてPL回収バッグ16bに移送される。その際に、血小板溶解物PLからなる上澄みは、異物除去フィルタ16cを通過することで除菌(ウィルス等の異物の除去を含む)される。
【0067】
その後、ステップS172において、遠心分離機18は、規定量の血小板溶解物PLをPL回収バッグ16bに回収した後、動作を停止する。
【0068】
その後、ステップS173に示すように、回収バッグセット16を遠心分離機18から取り外し、PL回収バッグ16bを切り離して血小板溶解物PLを回収する。以上により、本実施形態の血小板溶解物PLの製造が完了する。PL回収バッグ16bには、例えば100人のドナーから採取した血小板溶解物PLが含まれる。
【0069】
以上の本実施形態の血小板溶解物の製造方法、製造システム10及び回収バッグセット16は、以下の効果を奏する。
【0070】
本実施形態の血小板溶解物の製造方法では、血小板濃厚液PCを凍結させる前に、血小板濃厚液PCの濃縮を行う。これにより、冷凍処理を行うPC濃縮バッグ14a内の濃縮血小板濃厚液CPCの容積が減容され、小規模な冷凍保管庫20であっても、多数のドナーから採取した血小板の凍結処理を行うことができる。また、血小板溶解物PLの回収を行う際に、多数のドナーの濃縮血小板濃厚液CPCをプーリングする場合であっても、容量がそれ程大きくならないことから、操作性に優れる。
【0071】
血小板溶解物の製造方法において、濃縮血小板濃厚液CPCを調製する工程(ステップS70、S400)は、複数のドナーから採取した血小板濃厚液PCをPC濃縮バッグ14aに移送する工程(ステップS70)と、PC濃縮バッグ14aを遠心分離機18にセットして血小板濃厚液PCを遠心分離する工程(ステップS80)と、PC濃縮バッグ14a内の上澄み部分を上澄み回収バッグ14bに移送して除去する工程(ステップS90)と、を有してもよい。これにより、血小板濃厚液PCの容積の大部分を占める水分(血漿)を除去することができ、処理対象となるPC濃縮バッグ14aの容積を大幅に減容できる。
【0072】
血小板溶解物の製造方法において、血小板溶解物PLを回収する工程(ステップS600)は、複数のPC濃縮バッグ14aに収容された濃縮血小板濃厚液CPCを、PL分離バッグ16aにプーリングする工程(ステップS150)と、PL分離バッグ16aを遠心分離機18にセットして、濃縮血小板濃厚液CPCを細胞膜の残渣からなる沈殿物と血小板溶解物PLを含んだ上澄みとに分離する工程(ステップS160)と、血小板溶解物PLを含んだ上澄みをPL回収バッグ16bに回収する工程(ステップS170)と、を有してもよい。濃縮血小板濃厚液CPCをプーリングすることにより、小規模な設備であっても、多数のドナーからの血小板を用いた製剤を製造できる。これにより、品質の均一化を図ることができる。
【0073】
血小板溶解物の製造において、濃縮血小板濃厚液CPCを凍結及び融解させる工程を複数回行ってもよい。これにより、血小板の細胞膜をより効果的に破壊することができ、血小板溶解物PLを効率よく取り出すことができる。
【0074】
本実施形態の血小板溶解物の製造システム10は、血小板濃厚液PCを収容したPC濃縮バッグ14aと、移送チューブ14dを介してPC濃縮バッグ14aに接続された上澄み回収バッグ14bと、を有する濃縮バッグセット14と、濃縮バッグセット14に遠心力を与えるロータ30と、PC濃縮バッグ14aを押圧してPC濃縮バッグ14a内の上澄み液を上澄み回収バッグ14bに移送する押圧部33と、上澄み液の移送量を検出するセンサ32と、を有する遠心分離機18と、を備え、遠心分離機18は、PC濃縮バッグ14a内の血小板濃厚液PCを遠心分離した上澄み液を規定量だけ上澄み回収バッグ14bに移送させてロータ30を停止させるように構成してもよい。これにより、血小板濃厚液PCを濃縮する工程を人手を介さずに行うことができ、生産性が向上する。
【0075】
本実施形態の濃縮バッグセット14は、接続チューブ14cと、移送ポート14fと、連結チューブ14gとが設けられたPC濃縮バッグ14aと、移送ポート14fに接続された移送チューブ14dと、移送チューブ14dを介してPC濃縮バッグ14aに接続された上澄み回収バッグ14bと、を備えている。接続チューブ14cに加えて、連結チューブ14gを設けたことにより、複数のPC濃縮バッグ14aを直列に接続することができ、血小板溶解物PLの回収の際の作業性が向上する。
【0076】
濃縮バッグセット14において、PC濃縮バッグ14aは、一端に接続チューブ14cと移送ポート14fとが形成され、接続チューブ14cと反対側の他端に連結チューブ14gが設けられていてもよい。このような構成により、接続チューブ14cと連結チューブ14gとを上下方向に配置した状態で、複数のPC濃縮バッグ14aを直列に接続すると、重力の作用で濃縮血小板濃厚液CPCを簡単に集めることができ、作業性が向上する。
【0077】
(第2実施形態)
本実施形態では、
図1~
図11を参照しつつ説明した血小板溶解物の製造方法の、血小板濃厚液PCを濃縮する工程(ステップS400)において、洗浄液で濃縮血小板濃厚液CPCから血漿成分及び凝固因子を除去する工程を追加する例について説明する。
【0078】
図12に示すように、本実施形態の濃縮バッグセット14Aは、PC濃縮バッグ14aと上澄み回収バッグ14bとに加えて、洗浄液バッグ14hを有している。洗浄液バッグ14hは、血小板保存液PAS又は生理食塩水等よりなる洗浄液を収容している。洗浄液バッグ14hは、PC濃縮バッグ14aに洗浄液チューブ14iを介して接続されている。洗浄液チューブ14iは、図示のように、連結チューブ14gと同じ端部においてPC濃縮バッグ14aに接続されている。すなわち、洗浄液チューブ14iは、移送チューブ14dが形成された端部と反対側の端部に設けられている。遠心分離を行う際には、分離した濃縮血小板濃厚液CPCが遠心外壁側に集まる。遠心分離の際に洗浄液チューブ14iから洗浄液をPC濃縮バッグ14aに導入することにより、濃縮血小板濃厚液CPCを洗浄液で攪拌する効果が期待できる。
【0079】
なお、本実施形態の上澄み回収バッグ14bには、PC濃縮バッグ14aから分離される血漿とともに、洗浄液バッグ14hの洗浄液が収容される。したがって、上澄み回収バッグ14bの容積は、PC濃縮バッグ14aの容積と、洗浄液バッグ14hに収容された洗浄液の容量よりも大きくすることが好ましい。
【0080】
以下、本実施形態の血小板溶解物の製造方法について説明する。濃縮バッグセット14Aを、遠心分離機18にセットして、PC濃縮バッグ14aに遠心力を作用させて遠心分離を行う工程までは、
図8と同様である。その後、
図13のステップS91Aにおいて、分離した上澄みを回収する工程において、洗浄液バッグ14hの洗浄液をPC濃縮バッグ14aに流し込み、濃縮血小板濃厚液CPCの洗浄を行う。これにより、濃縮血小板濃厚液CPCの血漿が洗浄液に置換されるとともに、濃縮血小板濃厚液CPCのフィブリノーゲン等の凝固因子が洗浄液とともに洗い流される。
【0081】
洗浄液は分離した血漿とともに、上澄み回収バッグ14bに移送される。遠心分離機18は、センサ32の検出結果に基づいて、規定の洗浄液及び血漿の移送の完了を検出し、動作を停止する(ステップS92A)。以上により、本実施形態の血小板溶解物の製造方法の、血小板濃厚液PCの濃縮及び洗浄工程が完了する。
【0082】
以上に説明した本実施形態の血小板溶解物の製造方法及び濃縮バッグセット14Aは、以下の効果を奏する。
【0083】
本実施形態の血小板溶解物の製造方法は、PC濃縮バッグ14aの血小板濃厚液PCを遠心分離する際に、PC濃縮バッグ14aに洗浄液を供給して血小板濃厚液PCの洗浄を行う。これにより、血小板濃厚液PC中の血漿が洗浄液に置換されるとともに、フィブリノーゲン等の凝固因子が除去される。その結果、血小板溶解物PLにヘパリン等の抗凝固薬を添加する必要がなくなる。
【0084】
また、本実施形態の濃縮バッグセット14Aは、さらに、洗浄液チューブ14iを介してPC濃縮バッグ14aに接続され、PC濃縮バッグ14aに洗浄液を供給する洗浄液バッグ14hを備えている。これにより、血小板濃厚液PCの濃縮と洗浄を行うことができる。
【0085】
(第3実施形態)
図1~
図13を参照しつつ説明した実施形態では、提供者(ドナー)から採取した全血WBからバフィーコートBCを分離し、そのバフィーコートBCから血小板濃厚液PCを取得する例で説明した。しかし、本発明はこれらの形態に限られるものではない。以下に説明する実施形態では、ドナーからの成分採血により直接、血小板濃厚液PCを採取する例について説明する。
【0086】
本実施形態の血小板溶解物の製造方法には、
図14に示すバッグセット50が用いられる。バッグセット50は、血液分離チャンバ54と、リザーバ60aと、血漿バッグ60bと、濃縮バッグセット68と、これらを接続するチューブ59と、所定の経路に構成されたチューブ59が保持又は接続されるカセット53と、穿刺針を備える採血部51と、初流血バッグ52とを備える。このうち、カセット53は血液分離チャンバ54の遠心分離部58として、遠心分離機18(
図1参照)に装着される。バッグセット50は、汚染防止や衛生のため、1回の使用毎に使い捨てにされる。
【0087】
採血部51から採取された全血WBは、初流血バッグ52で初流血を回収した後、血液分離チャンバ54に導入される。血液分離チャンバ54は、帯状の袋に形成されており、遠心分離機18のロータ30に装着されるように構成される。血液分離チャンバ54は、提供者からの全血WBが供給される血液分離部を内部に有する軟質バッグであり容易に折り曲げることができる。血液分離チャンバ54の血液分離部に導入された全血WBは、一端から他端に流動する間に遠心分離される。
【0088】
血液分離チャンバ54の一端付近には、白血球除去チャンバ56が設けられている。白血球除去チャンバ56は、遠心力の作用により、血液分離チャンバ54内を流動する全血WBから白血球を除去する。血液分離チャンバ54には、チューブ59aを介してカセット53が接続されている。
【0089】
カセット53には、チューブ59b及びチューブ59cが接続されている。カセット53は、チューブ59bを介して採血部51及び初流血バッグ52に接続されている。また、カセット53は、チューブ59cを介してリザーバ60a及び濃縮バッグセット68に接続されている。チューブ59cは途中でリザーバ60aに向かうチューブ57aと、血漿バッグ60bに向かうチューブ57bと、濃縮バッグセット68に向かうチューブ61とに分岐している。
【0090】
濃縮バッグセット68は、血小板回収バッグ62と血小板溶解物バッグ66と、異物除去フィルタ64とを備えている。チューブ61には、血小板回収バッグ62が接続され、血液分離チャンバ54で分離された血小板は、血小板回収バッグ62に収容される。血小板回収バッグ62は、チューブ63を介して血小板溶解物バッグ66と接続されている。チューブ63には、異物除去フィルタ64が設けられている。
【0091】
採血部51から導入された全血WBは、カセット53を介して血液分離チャンバ54に導入される。血液分離チャンバ54で全血WBの分離が行われ、分離された血小板がチューブ61を介して血小板回収バッグ62に収容される。また、血液分離チャンバ54で分離された赤血球と血漿は、それぞれ、リザーバ60a及び血漿バッグ60bに収容される。分離された赤血球のうち、血液分離チャンバ54に収容しきれない部分の赤血球がリザーバ60aに収容される。赤血球は、遠心分離が完了した後、採血部51を通じて提供者に返血される。血漿バッグ60bに収容された血漿は製剤原料として利用することができる。
【0092】
以下、バッグセット50を用いた本実施形態の血小板溶解物の製造方法について
図15を参照しつつ説明する。
【0093】
まず、提供者から成分採血を行う(ステップS202)。成分採血は、
図14のバッグセット50の採血部51の穿刺針を提供者に穿刺して、血液(全血WB)を採取する。初流血バッグ52で初流血を除去した後、全血WBは遠心分離部58の血液分離チャンバ54に導入される。血液分離チャンバ54において、全血WBが、白血球、血小板、血漿、及び赤血球に分離される。このうち、白血球は白血球除去チャンバ56で分離除去される。また、血漿(Plasma)はチューブ59a、59c及びチューブ57bを通じて血漿バッグ60bに収容される。赤血球はチューブ59a、59c及びチューブ57aを通じてリザーバ60aに収容される。リザーバ60aに収容された赤血球はその後、提供者に返血される。
【0094】
一方、血小板濃厚液PCは、チューブ59a、59c、61を通じて濃縮バッグセット68の血小板回収バッグ62に収容される(ステップS204)。本実施形態においては、採血者から直接、血小板濃厚液PCが濃縮バッグセット68に採取できる。濃縮バッグセット68においてチューブ63は初期状態ではクランプ等で閉塞されており、血小板回収バッグ62と血小板溶解物バッグ66とは連通していない。
【0095】
その後、濃縮バッグセット68をバッグセット50から分離する(ステップS206)。濃縮バッグセット68は、高周波溶着装置(チューブシーラー)で、チューブ61を熱溶着により閉塞しつつ切断することにより、無菌的に分離される。
【0096】
その後、分離した濃縮バッグセット68を冷凍庫中で冷却することにより、血小板回収バッグ62内の血小板濃厚液PCを凍結させる(ステップS207)。次に、濃縮バッグセット68を室温に戻して、凍結した血小板濃厚液PCを融解させる(ステップS208)。以上のステップS207、S208を含む凍結及び融解処理(ステップS210)は、複数回繰り返してもよい。この操作により、血小板の細胞膜が破壊されて血小板溶解物PLが生成される。
【0097】
次に、血小板溶解物PLを血小板溶解物バッグ66に回収する(ステップS212)。濃縮バッグセット68を遠心分離機18(
図1参照)にセットし、血小板回収バッグ62の内容物を遠心分離する。血小板溶解物PLは、血小板回収バッグ62の上澄みとして分離される。その後、チューブ63を開いて血小板回収バッグ62と血小板溶解物バッグ66とを連通させて、血小板回収バッグ62の上澄みを血小板溶解物バッグ66に移送する。血小板溶解物PLは、チューブ63を通じて移送される途中で、異物除去フィルタ64を通過することで、異物が除去される。その後、血小板溶解物PLを回収した血小板溶解物バッグ66を、チューブシーラーで、チューブ61を熱溶着により閉塞しつつ切断することにより、無菌的に分離される。以上により、血小板溶解物PLの製造が完了する。
【0098】
なお、バッグセット50に白血球除去チャンバ56が付属していない場合には、
図16に示すように、成分採血(ステップS202)において、血小板及び白血球を含むバフィーコートBCを得た後、そのバフィーコートBCを遠心分離して白血球を除去する工程を追加することで、血小板濃厚液PCを、濃縮バッグセット68に採取することができる。
【0099】
また、遠心分離による成分採血(ステップS202)に先立って、提供者から提供された全血WBを白血球除去フィルタに通ずることで、白血球を除去するようにしてもよい。
【0100】
本実施形態の血小板溶解物の製造方法は、以下の効果を奏する。
【0101】
血小板溶解物の製造方法は、血小板を含む成分の採取は、提供者の全血WBを遠心分離して血小板濃厚液PCを採取し、他の成分を前記提供者に返還する工程と、血小板濃厚液PCを凍結及び融解させる工程と、凍結及び融解させる工程の後に、血小板濃厚液PCを遠心分離して血小板溶解物PLを回収する工程と、を有する。これにより、血小板のみを提供者から採取し、それ以外の成分を提供者に返還できるため、提供者の負担を軽減できる。また、処理が簡素化されるとともに、必要となるバッグが少なくて済むので、廃棄物の量も削減できる。
【0102】
上記の血小板溶解物の製造方法において、提供者の全血WBを遠心分離する際に、白血球除去チャンバ56で白血球を除去してもよい。これにより、白血球除去のための工程の追加が不要となるとともに、バッグセット50の構成を簡素化できる。
【0103】
(第4実施形態)
図16に示す本実施形態のバッグセット80は、全血WBを採取する際に使用される際において、使用後に廃棄される白血球除去フィルタ74から血小板を回収可能に構成されている。
【0104】
バッグセット80は、穿刺針を備えた採血部51と、初流血を収容する初流血バッグ52と、採血部51から流入する全血WBを収容する、第1全血バッグ70と、第1全血バッグ70の下流側に接続された第2全血バッグ76と、第1全血バッグ70と第2全血バッグ76の間に接続された白血球除去フィルタ74と、第2全血バッグ76に接続された保存液バッグ78及び血漿回収バッグ77とを備えている。さらに、バッグセット80は、白血球除去フィルタ74の下流側に接続された、回収液バッグ72と、白血球除去フィルタ74の上流側に接続された濃縮バッグセット68とを備えている。
【0105】
第1全血バッグ70は、柔軟な樹脂フィルム等によって構成され、第1ポート70a及び第2ポート70bを備えている。第1全血バッグ70の第1ポート70aにはチューブ75aを介して採血部51及び初流血バッグ52が接続されている。また、第1全血バッグ70の第2ポート70bには、チューブ75bが接続されており、チューブ75bを介して第2全血バッグ76に接続されている。第2ポート70bは閉塞可能に構成されている。また、チューブ75b上には、白血球除去フィルタ74が接続されている。
【0106】
白血球除去フィルタ74は、例えばポリエステル系の超極細繊維マイクロファイバー不織布よりなり、全血中の白血球を除去するように構成されている。白血球除去フィルタ74と第1全血バッグ70との間のチューブ75bには第1弁部75cが設けられ、白血球除去フィルタ74と第2全血バッグ76との間のチューブ75bには第2弁部75dが設けられている。第1弁部75cと白血球除去フィルタ74の間のチューブ75bには濃縮バッグセット68が接続されている。濃縮バッグセット68とチューブ75bとの間には、クランプ71が設けられている。また、第2弁部75dと白血球除去フィルタ74との間のチューブ75bには、回収液バッグ72が接続されている。回収液バッグ72とチューブ75bとの間にはクランプ73が設けられている。
【0107】
第2全血バッグ76は、第1ポート76aと第2ポート76bとを備えている。第2全血バッグ76の第1ポート76aには、チューブ75bを介して第1全血バッグ70が接続されている。第2全血バッグ76には、第1ポート76aを介して白血球が除去された全血WBが導入される。第2全血バッグ76の第2ポート76bには、チューブ79が接続され、チューブ79を介して血漿回収バッグ77及び保存液バッグ78が接続されている。
【0108】
保存液バッグ78は、血液の保存液(MAP)が収容されており、第2全血バッグ76の全血WBに保存液を供給可能に構成されている。血漿回収バッグ77は、第2全血バッグ76内の全血WBを遠心分離した際に生ずる血漿を回収可能に構成されている。
【0109】
本実施形態のバッグセット80は以上のように構成されるが、濃縮バッグセット68、回収液バッグ72、血漿回収バッグ77、及び保存液バッグ78は最初から付属している必要はない。例えば、
図18Aに示すように、濃縮バッグセット68及び回収液バッグ72がない状態のバッグセット90として構成してもよい。この場合には、全血WBの白血球除去が完了したタイミングで、無菌接合装置を用いて、
図18Bに示す濃縮バッグセット68及び回収液バッグ72をバッグセット90に接続してもよい。
【0110】
以下、
図17を参照しつつ、本実施形態の血小板溶解物の製造方法について説明する。
【0111】
まず、提供者から全血WBを採取する(ステップS302)。このステップS302は、
図16に示すように、採血部51を提供者の血管に穿刺し、初流血を初流血バッグ52で除去した後、全血WBを第1全血バッグ70に収容して行う。
【0112】
次に、
図17のステップS304において、白血球除去フィルタ74に白血球と血小板とを捕捉(トラップ)する。すなわち、
図16の第1全血バッグ70の全血WBを、第2ポート70b及びチューブ75bを介して第2全血バッグ76に移送する。その途中で、全血WBが白血球除去フィルタ74を通り、白血球が白血球除去フィルタ74に捕捉されて除去される。白血球除去フィルタ74には、白血球とともに血小板が捕捉される。その後、第2全血バッグ76を取り外す。第2全血バッグ76の全血WBは、製剤用原料として、又は輸血用の血液として種々の目的に使用される。白血球除去フィルタ74は、従来であればそのまま廃棄されていたが、上述のように細胞培養培地として有効な血小板を含んでいる。そこで、本実施形態では、この白血球除去フィルタ74に含まれる血小板を回収して利用する。
【0113】
すなわち、
図17のステップS306において、白血球除去フィルタ74の全血WBの流出側から流入側へと血小板回収液を流入(逆流)させる。血小板回収液は、例えば血小板保存液(PAS)等を用いることができる。このステップS306では、
図16のバッグセット80において、第1弁部75c及び第2弁部75dを閉じ、クランプ71及びクランプ73を開く。これにより、白血球除去フィルタ74の下流側に回収液バッグ72が連通し、白血球除去フィルタ74の上流側に濃縮バッグセット68が連通した状態となる。そして、回収液バッグ72の血小板回収液を押し出して、白血球除去フィルタ74に血小板回収液を流入(逆流)させて洗浄する。白血球除去フィルタ74から回収した血小板は、血小板回収液とともに濃縮バッグセット68の血小板回収バッグ62に回収される。
【0114】
なお、ステップS306の操作は、
図19に示すように、白血球除去フィルタ74をバッグセット80から取り外して行ってもよい。この場合には、白血球除去フィルタ74の流出(下流)側に回収液バッグ72を接続し、白血球除去フィルタ74の上流側に濃縮バッグセット68を接続する。そして、白血球除去フィルタ74の下流側から血小板回収液を逆流させることで、白血球除去フィルタ74に捕捉されていた血小板を回収することができる。
【0115】
その後、
図17のステップS308において、濃縮バッグセット68を分離する。次いで、ステップS310において、血小板の濃縮を行う。すなわち、濃縮バッグセット68を遠心分離機18(
図1参照)にセットして遠心分離する。これにより、血小板を高濃度で含む液体が沈殿し、それ以外の成分が上澄み液として分離される。上澄み液を血小板回収バッグ62から除去することにより、血小板回収バッグ62に血小板濃厚液PCが得られる。なお、血小板含有液の遠心分離において、細胞培養に有害な白血球も同時に除去することが好ましい。
【0116】
次に、ステップS312において、濃縮バッグセット68の血小板濃厚液PCを凍結及び融解させる。ステップS312の凍結及び融解は複数回行ってもよい。これにより、血小板の細胞膜が破壊される。
【0117】
次に、ステップS314において、血小板溶解物PLを回収する。すなわち、濃縮バッグセット68を遠心分離機18にセットし、血小板回収バッグ62の内容物を遠心分離する。これにより、血小板回収バッグ62内に血小板溶解物PLが上澄み液として得られる。その上澄み液を血小板溶解物バッグ66に回収することにより、血小板溶解物PLが得られる。
【0118】
本実施形態の血小板溶解物の製造方法及びバッグセット80は、以下の効果を奏する。
【0119】
本実施形態の血小板溶解物の製造方法は、提供者から全血WBを採取する工程(S302)と、採取した全血WBを白血球除去フィルタ74を通過させて白血球を除去する工程(S304)と、全血WBを流した白血球除去フィルタ74に、全血WBが流入した方向と逆方向に血小板回収液を流して白血球除去フィルタ74に含まれる血小板を血小板含有液として回収する工程(ステップS306)と、血小板含有液をさらに遠心分離して上澄みを除去して血小板を濃縮することにより、血小板濃厚液PCを調製する工程(ステップS310)と、血小板濃厚液PCを凍結及び融解させる工程(ステップS312)と、凍結及び融解させる工程の後に、血小板濃厚液PCを遠心分離して上澄みを血小板溶解物PLとして回収する工程(S314)と、を有する。これにより、全血採取の際に廃棄されていた白血球除去フィルタ74から血小板を回収して利用することができる。
【0120】
上記の血小板溶解物の製造方法において、血小板含有液を濃縮する工程(ステップS310)と同時に、又は、血小板含有液を濃縮する工程(S310)の前に、血小板含有液から白血球を除去する工程を行ってもよい。これにより、細胞培養に有害な白血球を除去することができて好適である。
【0121】
上記の血小板溶解物の製造方法において、血小板含有液を濃縮する工程(S310)の前に、複数の提供者から採取した血小板含有液をプーリングする工程を有してもよい。すなわち、複数の白血球除去フィルタ74から回収した血小板含有液を血小板回収バッグ62に集めておき、これを遠心分離する。これにより、遠心分離の操作回数を減らすことができ、作業性及び生産効率が向上して好適である。
【0122】
本実施形態のバッグセット80は、第1全血バッグ70と、第1全血バッグ70の下流側に接続された白血球除去フィルタ74と、白血球除去フィルタ74を介して第1全血バッグ70の下流側に接続された第2全血バッグ76と、白血球除去フィルタ74の下流側に接続され、白血球除去フィルタ74から血小板を剥離させる血小板剥離液(回収液)を収容した回収液バッグ72と、白血球除去フィルタ74の上流側に接続された濃縮バッグセット68と、を備えている。これにより、全血WBから白血球を除去する白血球除去フィルタ74に付着した血小板を、血小板剥離液(回収液)を逆流させて濃縮バッグセット68に回収することができる。
【0123】
上記のバッグセット80において、濃縮バッグセット68は、血小板回収バッグ62と、チューブ63を介して前記血小板回収バッグ62に接続された血小板溶解物バッグ66と、を備えていてもよい。
【0124】
(第5実施形態)
図20に示す本実施形態のバッグセット80Aは、全血WBを遠心分離して濃厚赤血球(RCC:Red Cells Concentrate)及び乏血小板血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)の採取と同時に、血小板の回収を可能としている。
【0125】
なお、本実施形態のバッグセット80Aにおいて、
図16のバッグセット80と同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。図示のように、バッグセット80Aは、第1全血バッグ70の下流に白血球除去フィルタ74Aを介して第2全血バッグ76Aが接続されている。第1全血バッグ70と第2全血バッグ76Aとを繋ぐチューブ75bに白血球除去フィルタ74Aが設けられている。白血球除去フィルタ74Aの上流側のチューブ75bには回収液バッグ72Aが接続され、白血球除去フィルタ74Aの下流側のチューブ75bには残血回収バッグ62Aが接続されている。
【0126】
白血球除去フィルタ74Aは、例えばポリエステル系の超極細繊維マイクロファイバー不織布よりなり、全血中の白血球(WBC:White Blood Cells)を除去する一方で、血小板を通過させることができる。回収液バッグ72Aは、クランプ73を介してチューブ75bに接続されている。回収液バッグ72Aは、内部に血小板保存液(PAS:Platelet Additive Solution)等の洗浄液を収容している。
【0127】
残血回収バッグ62Aは、クランプ83を介してチューブ75bに接続されている。残血回収バッグ62Aは、第2全血バッグ76Aへの全血の移送完了後に、白血球除去フィルタ74Aに残った残血を回収するために用いられるバッグである。残血回収バッグ62Aは、遠心処理が可能な可撓性樹脂よりなるバッグとして構成される。残血回収バッグ62Aは、遠心分離された血小板を含む成分の分離回収を容易にするべく、分離バッグ66Aが接続されていてもよい。この場合には、残血回収バッグ62Aと分離バッグ66Aとにより回収バッグセット68Aが構成される。
【0128】
第2全血バッグ76Aは、上下にポート(排出口)を有するトップ&ボトムタイプのバッグであり、図示の例のように、上側に第1ポート76a、第2ポート76bを有し、下側に第3ポート76cを有している。上側の第1ポート76aにはチューブ75bが接続されている。また、第2ポート76bには、チューブ79を介して血漿回収バッグ77が接続されている。血漿回収バッグ77は、第2全血バッグ76Aで遠心分離された乏血小板血漿(PPP:Platelet poor plasma)を収容する。第2ポート76bには易破断可能部が設けられており、乏血小板血漿の移送の直前まで、閉塞されている。
【0129】
第2全血バッグ76Aの第3ポート76cには、チューブ82を介して赤血球バッグ84が接続されている。赤血球バッグ84は、第2全血バッグ76Aで遠心分離された濃厚赤血球を収容する。第3ポート76cには易破断可能部が設けられており、濃厚赤血球の移送の直前まで、閉塞されている。赤血球バッグ84には、チューブ86を介して保存液バッグ78が接続されている。
【0130】
保存液バッグ78には、例えばMAP液等の赤血球保存液が封入されている。保存液バッグ78と赤血球バッグ84とを繋ぐチューブ86の端部には、易破断可能部が設けられており、使用直前に破断されて開通する。
【0131】
以下、
図21及び
図22を参照しつつ、本実施形態の血小板溶解物の製造方法について説明する。
【0132】
まず、提供者から全血WBの採取が行われる(ステップS401)。提供者の全血WBは、第1全血バッグ70に収容される。
【0133】
次に、第1全血バッグ70の全血WBは、チューブ75bを介して第2全血バッグ76Aに移送される。その際に、全血中の白血球は白血球除去フィルタ74Aによって除去される(ステップS402)。第2全血バッグ76Aへの全血の移送が完了した後、第2弁部75dが閉塞される。
【0134】
次に、白血球除去フィルタ74Aの残血の回収が行われる(ステップS403)。残血の回収は、
図22の第1弁部75c及び第2弁部75dを閉じ、クランプ73、83を開き、回収液バッグ72Aの血小板保存液PAS(線状液)を残血回収バッグ62Aに向けて流す操作により行われる。白血球除去フィルタ74Aは、血小板保存液PASによって洗浄され、そのリンス液は、残血回収バッグ62Aに収容される。
【0135】
その後、残血回収バッグ62Aが
図22のAの部分でチューブ75bから切り離される(ステップS404)。チューブ75bからの切り離しは、無菌切断装置を用いて行われ、切断と同時に端部が熱溶着させることで、無菌的に切断される。また、ステップS404において、白血球除去フィルタ74の下流側(
図22のBの部分)でチューブ75bが切断されて、第2全血バッグ76Aが、切り離される。
【0136】
次に、第2全血バッグ76A、血漿回収バッグ77、赤血球バッグ84及び保存液バッグ78が遠心分離機18(
図1参照)にセットされ、第2全血バッグ76A内の全血の遠心分離が行われる(ステップS405)。遠心分離により、第2全血バッグ76Aの全血は、上層側から乏血小板血漿(PPP)、多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)、濃厚赤血球(RCC)に分離される。そして、乏血小板血漿(PPP)は、血漿回収バッグ77に移送され、濃厚赤血球(RCC)は赤血球バッグ84に移送される。第2全血バッグ76Aには、多血小板血漿(PRP)が残る。
【0137】
次に、第2全血バッグ76Aに残っている多血小板血漿(PRP)を、血小板濃厚液(PC)に濃縮するべく、第2全血バッグ76Aに二次遠心が行われる(ステップS406)。
【0138】
その後、
図5のステップS80~ステップS170を参照しつつ説明した処理により、血小板溶解物の製造が行われる。
【0139】
なお、
図22の残血回収バッグ62Aについても遠心処理が行われ、残血からバフィーコートBCが分離される。残血回収バッグ62Aで分離されたバフィーコートBCは、プーリングされ、
図5のステップS40~S170を参照しつつ説明した処理により血小板溶解物の製造が行われる。
【0140】
以上のように、本実施形態は、白血球除去フィルタ74Aが血小板を通過させ(白血球のみを除去し)、濾過後の全血を遠心して乏血小板血漿PPP、多血小板血漿PRP及び濃厚赤血球RCCの3層に分離する。そして、第2全血バッグ76Aに残った中層成分としての多血小板血漿(PRP)を、血小板濃厚液(PC)へと加工する。また、白血球除去フィルタ74に残存する血液(全血)を、血小板保存液PASでリンスし(洗浄)、そのリンス液を残血回収バッグ62Aに回収・遠心分離する。これにより、白血球除去フィルタ74Aを通過した全血及び、白血球除去フィルタ74Aに残留する血液の両方から、血小板を無駄なく回収できる。
【0141】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0142】
10…血小板溶解物の製造システム 12…血小板採取セット
14…濃縮バッグセット 16…回収バッグセット
18…遠心分離機 20…冷凍保管庫