(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105703
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】検出装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/484 20060101AFI20240730BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20240730BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S17/931
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084478
(22)【出願日】2024-05-24
(62)【分割の表示】P 2023005626の分割
【原出願日】2016-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】阿部 義徳
(72)【発明者】
【氏名】波多野 誠
(57)【要約】
【課題】移動体の周辺の物体を好適に検出することが可能な検出装置を提供する。
【解決手段】ライダ1は、パルストリガ信号PTに応じて射出光Loを照射する走査部55と、射出光Loの戻り光Lrを受光するAPD41と、DSP16とを備える。DSP16は、車両の位置を示す現在位置情報IP等を車載機2から取得する。そして、DSP16は、現在位置情報IP等に基づいて、走査部55が射出する射出光Loの強度及び射出頻度を制御する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に配置可能な検出装置であって、
光を射出する射出部と、
対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、
前記移動体の位置を示す位置情報を取得する第1取得部と、
前記位置情報に基づいて、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する制御部と、を備える検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用の光パルスの射出制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、周辺に存在する物体との距離を測定する技術が知られている。例えば、特許文献1には、レーザ光を間欠的に発光させつつ水平方向を走査し、その反射光を受信することで、物体表面の点群を検出するライダを搭載した車載システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ライダを利用して、周囲環境にあるランドマークを捕捉するとき、当該ランドマークが遠方にある場合など、走査角度分解能に対して走査面内に含まれるランドマークが相対的に小さい場合には、当該ランドマークに対応する計測点が過度に少なくなり、ランドマークの形状等が正しく認識できないことがある。このように、従来のライダでは、一定の光の強度により一定の走査角度分解能で光を射出させるため、周囲の物体を的確に検出できない場合があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、移動体の周辺の物体を好適に検出することが可能な検出装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項に記載の発明は、移動体に配置可能な検出装置であって、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、を備え、前記射出部は、側方に射出する前記光を、反対側の側方に射出する前記光の強度よりも高い強度で射出する、又は、側方に射出する前記光を、反対側の側方に射出する前記光の頻度よりも高い頻度で射出する。
【0007】
請求項に記載の発明は、移動体に配置可能な検出装置であって、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、側方に射出する前記光の強度が、反対側の側方に射出する前記光の強度に対して高くなるように制御する、又は、側方に射出する前記光の頻度が、反対側の側方に射出する前記光の頻度に対して高くなるように制御する。
【0008】
請求項に記載の発明は、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、前記移動体の位置を示す位置情報を取得する第1取得部と、を有し、移動体に配置可能な検出装置が実行する制御方法であって、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する制御工程を有し、前記制御工程は、前記位置情報に基づいて、側方に射出する前記光の強度が、反対側の側方に射出する前記光の強度に対して高くなるように制御する、又は、側方に射出する前記光の頻度が、反対側の側方に射出する前記光の頻度に対して高くなるように制御する。
【0009】
請求項に記載の発明は、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、前記移動体の位置を示す位置情報を取得する第1取得部と、を有し、移動体に配置可能な検出装置のコンピュータが実行するプログラムであって、前記射出部は、射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御し、前記射出部は、前記位置情報に基づいて、側方に射出する前記光の強度が、反対側の側方に射出する前記光の強度に対して高くなるように制御する、又は、側方に射出する前記光の頻度が、反対側の側方に射出する前記光の頻度に対して高くなるように制御する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例に係る物体検出システムの概略構成を示す。
【
図5】同期制御部が生成する制御信号のレジスタ設定例を示す。
【
図6】同期制御部が生成する制御信号の時間的関係を示す。
【
図7】ADC出力信号とゲートの関係を示すグラフである。
【
図8】ロータリーエンコーダのパルス列の時間的関係を示す。
【
図9】定常状態でのエンコーダパルスとセグメントスロットの時間関係を示す。
【
図10】DSPによる信号処理のブロック図である。
【
図11】第1制御モードでの360度の走査における射出光の射出パワー及び走査角度分解能を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
【
図12】第2制御モードでの360度の走査における射出光の射出パワー及び走査角度分解能を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
【
図13】第3制御モードでの360度の走査における射出光の射出パワー及び走査角度分解能を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
【
図14】第4制御モードでの360度の走査における射出光の射出パワー及び走査角度分解能を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1つの好適な実施形態では、移動体に配置可能な検出装置であって、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、前記移動体の位置を示す位置情報を取得する第1取得部と、前記位置情報に基づいて、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する制御部と、を備える。
【0012】
上記検出装置は、光を射出する射出部と、対象物によって反射された光を受光する受光部と、第1取得部と、制御部とを備える。第1取得部は、移動体の位置を示す位置情報を取得する。制御部は、第1取得部が取得した位置情報に基づいて、射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する。この態様によれば、検出装置は、移動体の位置に応じて優先的に検出すべき物体を好適に検出することができる。
【0013】
上記検出装置の一態様では、検出装置は、前記移動体の移動経路に関する経路情報を取得する第2取得部を更に備え、前記制御部は、前記位置情報及び前記経路情報に基づいて、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する。一般に、移動する経路(例えば右折する経路か左折する経路か等)ごとに優先的に検出すべき物体が存在する方向が異なる。従って、この態様によれば、検出装置は、移動体の移動経路を勘案し、検出すべき優先度が高い方向に存在する物体を好適に検出することができる。
【0014】
上記検出装置の他の一態様では、前記制御部は、前記移動体の前方と側方とで、前記光の強度及び射出の頻度が異なるように前記射出部を制御する。この態様により、検出すべき優先度が高い方向に存在する物体を好適に検出することができる。
【0015】
上記検出装置の他の一態様では、前記制御部は、前記移動体の前方が、前記移動体の側方に対し、前記光の強度が高く且つ射出の頻度が少なくなるように制御する。これにより、検出装置は、アイセーフの基準を満たしつつ、移動体の前方の障害物等を早期に検出することができる。
【0016】
上記検出装置の他の一態様では、前記制御部は、前記移動体の側方に歩道が存在する場合に、前記歩道が存在する側の側方の前記光の強度が、反対側の側方に対して高くなるように制御する。この態様により、検出装置は、運転時に特に注意が必要である歩道側に存在する物体(例えば歩行者等)を好適に検知することができる。
【0017】
上記検出装置の他の一態様では、前記制御部は、前記移動体の側方に歩道が存在する場合に、前記歩道が存在する側の側方の前記光が射出される頻度が、反対側の側方に対して高くなるように制御する。この態様により、運転時に特に注意が必要である歩道側に存在する物体(例えば歩行者等)を好適に検知することができる。また、この態様により、検出装置は、キロポストや看板などの細い形状を有する地物等についても好適に検知することができる。
【0018】
上記検出装置の他の一態様では、前記制御部は、前記移動体が右折をするときには、前記移動体の前方右側が、他方に対して、前記光の強度が高く、且つ、前記光が射出される頻度が少なくなるように制御する。この態様により、検出装置は、移動体の右折時において、例えば当該右折地点に向かって高速に走行している対向車についても早期に検出することができる。
【0019】
上記検出装置の他の一態様では、前記制御部は、前記移動体が左折をするときには、前記移動体の左側方が、他方に対し、前記光の強度が弱く且つ前記光が射出される頻度が多くなるように制御する。この態様により、検出装置は、移動体の左折時に巻き込む可能性がある歩行者や二輪車などを的確に検出することができる。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態では、移動体に配置可能な検出装置であって、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、前記移動体の前方における前記射出部が射出する光の強度が、前記移動体の側方における前記射出部が射出する光の強度よりも高く、且つ、前記前方における前記射出部の射出頻度が、前記側方における射出頻度よりも少なくなるように、前記射出部を制御する制御部と、を備える。この態様によれば、検出装置は、アイセーフの基準を満たしつつ、移動体の前方の障害物等を早期に検出することができる。
【0021】
本発明の他の好適な実施形態では、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、を有し、移動体に配置可能な検出装置が実行する制御方法であって、前記移動体の位置を示す位置情報を取得する第1取得工程と、前記位置情報に基づいて、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する制御工程と、を有する。検出装置は、この制御方法を実行することで、移動体の位置に応じて優先的に検出すべき物体を好適に検出することができる。
【0022】
本発明の他の好適な実施形態では、光を射出する射出部と、対象物によって反射された前記光を受光する受光部と、を有し、移動体に配置可能な検出装置のコンピュータが実行するプログラムであって、前記移動体の位置を示す位置情報を取得する第1取得部と、前記位置情報に基づいて、前記射出部が射出する光の強度及び射出の頻度の少なくとも一方を制御する制御部として前記コンピュータを機能させる。このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記の検出装置を実現することができる。このプログラムは、記憶媒体に記憶して取り扱うことができる。
【実施例0023】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0024】
[物体検出システムの概要]
図1は、本実施例に係る物体検出システムの概略構成である。物体検出システムは、車両と共に移動するライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)1と、ライダ1と通信可能な車載機2とを有する。
【0025】
ライダ1は、水平方向および垂直方向の所定の角度範囲に対してパルスレーザを射出することで、外界に存在する物体までの距離を離散的に測定し、当該物体の位置を示す3次元の点群情報を生成し、車載機2へ供給する。本実施例では、ライダ1は、車載機2から現在位置情報、地図情報、及び経路情報を受信することで、パルスレーザの射出パワー及び射出間隔(即ち射出頻度又は走査角度分解能)を方向ごとに変化させる。ライダ1は、本発明における「検出装置」の一例である。
【0026】
車載機2は、ライダ1が出力する点群情報に基づき、車両周辺の物体を検出し、運転支援(自動運転も含む)のための車両の制御を行ったり、所定の表示や音声出力等を行ったりする。本実施例では、車載機2は、現在位置情報「IP」、地図情報「IM」及び経路情報「IR」をライダ1へ供給する。ここで、車載機2は、GPS受信機等が出力する位置情報を現在位置情報IPとしてライダ1へ送信してもよく、ライダ1又は他の外界センサの出力を用いた公知の自己位置推定処理により推定した位置情報を現在位置情報IPとしてライダ1へ送信してもよい。また、車載機2は、例えば、地図データベースから抽出した現在位置周辺の地図情報を地図情報IMとしてライダ1へ送信する。また、車載機2は、設定された目的地への経路に関する情報を、経路情報IRとしてライダ1へ送信する。
【0027】
なお、
図1の構成は一例であり、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。例えば、ライダ1は、車載機1から地図情報IMを受信する態様に代えて、地図データベースを記憶する図示しないサーバ装置からネットワークを介して地図情報IMを受信してもよい。他の例では、車載機1から現在位置情報IPを受信する態様に代えて、ライダ1は、GPS受信機等を備えることで現在位置情報IPを自ら生成してもよく、ライダ1が生成する点群情報等に基づき自己位置推定を行うことで現在位置情報IPを生成してもよい。
【0028】
また、ここでの経路情報IRは、典型的には、車載機2によって設定された目的地への経路に関する情報であるが、これに限られるものではない。例えば、車載機2の利用者によって設定されたもの以外に、車両が今後進むであろうと予測される進路(走行軌跡)を示す情報であっても良い。
【0029】
[ライダの基本構成]
まず、実施例に係るライダの基本的な構成について説明する。
【0030】
(1)
全体構成
図2は、実施例に係るライダの全体構成を示す。ライダ1は、繰り返し射出される光パルスの射出方向(以下、「走査方向」という。)を適切に制御することにより周辺空間を走査し、その戻り光を観測することにより、周辺に存在する物体に関する情報(例えば距離やその存在確率あるいは反射率など)を把握する。具体的に、ライダ1は、光パルス(以下、「射出光Lo」と呼ぶ。)を射出し、外部の物体(ターゲット)により反射された光パルス(以下、「戻り光Lr」と呼ぶ。)を受光することにより、物体に関する情報を生成する。
【0031】
図2に示すように、ライダ1は、大別して、システムCPU5と、ASIC10と、トランスミッタ30と、レシーバ40と、走査光学部50とを備える。トランスミッタ30は、ASIC10から供給されるパルストリガ信号PTに応じて幅5nsec程度のレーザ光パルスを繰り返し出力する。トランスミッタ30から出力された光パルスは走査光学部50に導かれる。
【0032】
走査光学部50は、トランスミッタ30が出力する光パルスを、適切な方向に射出するとともに、この射出光が空間中の物体に出会って反射あるいは散乱されることにより戻ってきた戻り光Lrを集光してレシーバ40に導く。走査光学部50は、本発明における「射出部」の一例である。レシーバ40は、戻り光Lrの強度に比例した信号をASIC10に出力する。レシーバ40は、本発明における「受光部」の一例である。
【0033】
ASIC10は、レシーバ40の出力信号を解析することにより、走査空間中の物体に関するパラメータ、例えばその距離を推測して出力する。また、ASIC10は、適切な走査がなされるように、走査光学部50を制御する。更にASIC10はトランスミッタ30とレシーバ40に対して夫々が必要とする高電圧を供給する。
システムCPU5は、少なくとも、通信インターフェースを通じてASIC10の初期設定、監視、制御を行う。その他の機能は、アプリケーションに応じて異なる。最も単純なライダの場合には、システムCPU5は、ASIC10が出力するターゲット情報TIを適切なフォーマットに変換して出力するのみである。システムCPU5は、例えば、ターゲット情報TIを汎用性の高い点群フォーマットに変換した後、USBインターフェースを通じて出力する。
【0034】
(2)
トランスミッタ
トランスミッタ30は、ASIC10から供給されるパルストリガ信号PTに応じて、幅5nsec程度の光パルスを出力する。トランスミッタ30の構成を
図3(A)に示す。トランスミッタ30は、充電抵抗31と、ドライバ回路32と、キャパシタ33と、充電ダイオード34と、レーザダイオード(LD)35と、CMOSスイッチ36とを備える。
【0035】
ASIC10から入力されるパルストリガ信号PTは、ドライバ回路32を介してCMOSなどのスイッチ36を駆動する。ドライバ回路32は、スイッチ36を高速駆動するために挿入されている。パルストリガ信号PTの非アサート期間ではスイッチ36は開いており、トランスミッタ30内のキャパシタ33がASIC10から供給される高電圧「VTX」で充電される。一方、パルストリガ信号PTのアサート期間では、スイッチ36は閉じ、キャパシタ33に充電されていた電荷がLD35を通じて放電される。この結果、LD35から光パルスが出力される。
【0036】
(3)
レシーバ
レシーバ40は、物体からの戻り光Lrの強度に比例した電圧信号を出力する。一般的に、PDあるいはAPDなどの光検出素子は電流出力であるため、レシーバ40はこの電流を電圧に変換(I/V変換)して出力する。レシーバ40の構成を
図3(B)に示す。レシーバ40は、APD(Avalanche Photodiode)41と、I/V変換部42と、抵抗45と、キャパシタ46と、ローパスフィルタ(LPF)47とを備える。I/V変換部42は、帰還抵抗43と、オペアンプ44とを備える。
【0037】
本実施例では、光検出素子としてAPD41が使用されている。APD41には、ASIC10から供給される高電圧「VRX」が逆バイアスとして印加されており、物体からの戻り光Lrに比例した検出電流が流れる。APD41の降伏電圧に近い逆バイアスを印加することにより、高いアバランチゲインを得ることができ、微弱な戻り光も検出することが可能となる。最終段のLPF47は、ASIC10内のADC20によるサンプリングに先立って、信号の帯域幅を制限する目的で設置されている。本実施例では、ADC20のサンプリング周波数は512MHzであり、LPF47の遮断周波数は250MHz程度となっている。
【0038】
(4)
走査光学部
走査光学部50は、トランスミッタ30から入力される光パルスを射出光Loとして適切な方向に射出するとともに、この射出光Loが空間中の物体に出会って反射あるいは散乱されることにより戻ってきた戻り光Lrをレシーバ40に導く。走査光学部50の構成例を
図4に示す。走査光学部50は、回転ミラー61と、コリメータレンズ62と、集光レンズ64と、光学フィルタ65と、同軸ミラー66と、ロータリーエンコーダ67とを備える。
【0039】
トランスミッタ30のLD35から出力された光パルスは、コリメータレンズ62に入射する。コリメータレンズ62は、レーザ光を適切な発散角度に(一般的には0~1°程度に)コリメートする。コリメータレンズ62からの射出光は小型の同軸ミラー66により鉛直下方に反射され、回転ミラー61の回転軸(中心)に入射する。回転ミラー61は、鉛直上方より入射するレーザ光を水平方向に反射して、走査空間に射出する。回転ミラー61はモータ54の回転部に取り付けられており、回転ミラー61によって反射されたレーザ光はモータ54の回転に伴って射出光Loとして水平平面を走査する。
【0040】
走査空間に存在する物体により反射あるいは散乱されることでライダ1に戻ってきた戻り光Lrは、回転ミラー61により鉛直上方向に反射され、光学フィルタ65に入射する。光学フィルタ65には、戻り光Lrに加えて、物体が太陽等により照らされていることによって生じる背景光も入射する。光学フィルタ65は、こうした背景光を選択的に排除するために設置されている。具体的には、光学フィルタ65は、射出光Loの波長(本実施例では905nm)の前後±10nm程度の成分のみを選択的に通過せしめる。光学フィルタ65の通過帯域が広い場合には、多くの背景光が後続段のレシーバ40に入光することになる。この結果、レシーバ40内のAPD41の出力には大きなDC電流成分が現れることとなり、このDC成分に起因するショット雑音(背景光ショット雑音)の影響によりSNが劣化することとなり、好ましくない。しかしながら、通過帯域が過度に狭い場合には、射出光自体も抑圧されることになり、好ましくない。集光レンズ64は、光学フィルタ65を通過した光を集光して、レシーバ40のAPD41へと導く。
【0041】
モータ54には、走査方向を検出するために、ロータリーエンコーダ67が取り付けられている。ロータリーエンコーダ67は、モータ回転部に取り付けられた回転盤68と、モータベースに取り付けられたコード検出器69とを備える。回転盤68の外周にはモータ54の回転角度を表すスリットが刻まれており、コード検出器69はこれを読み取り出力する。なお、ロータリーエンコーダ67の具体的仕様、及びその出力に基づくモータ制御については、後述する。
【0042】
以上の構成では、コリメータレンズ62が
図2に示す送信光学系51を構成し、回転ミラー61とモータ54が
図2に示す走査部55を構成し、光学フィルタ65と集光レンズ64が
図2に示す受信光学系52を構成し、ロータリーエンコーダ67が
図2における走査方向検出部53を構成している。
【0043】
(5)
ASIC
ASIC10は、射出光パルスのタイミング制御、APD出力信号のAD変換などを行う。また、ASIC10は、AD変換出力に対して適切な信号処理を施すことにより、物体に関するパラメータ(距離、戻り光強度など)の推定を行い、その推定結果を外部に出力する。
図2に示すように、ASIC10は、レジスタ部11と、クロック生成部12と、同期制御部13と、ゲート抽出部14と、受信セグメントメモリ15と、DSP16と、トランスミッタ用高電圧生成部(TXHV)17と、レシーバ用高電圧生成部(RXHV)18と、プリアンプ19と、AD変換器(ADC)20と、走査制御部21とを備える。
【0044】
レジスタ部11には、外部プロセッサであるシステムCPU5との通信用のレジスタが配置されている。レジスタ部11に設けられるレジスタは、外部からの参照のみが可能なRレジスタと、外部から設定が可能なWレジスタとに大別される。Rレジスタは、主にASIC内部のステイタス値を保持しており、システムCPU5はこれらの値を通信インターフェースを通じて読み取ることで、ASIC10の内部ステイタスを監視できる。一方、Wレジスタは、ASIC10の内部で参照される各種パラメータ値を保持する。これらの各種パラメータ値は、通信インターフェースを通じてシステムCPU5から設定できる。なお、通信用レジスタは、フリップフロップにより実現してもよく、RAMとして実現してもよい。
【0045】
クロック生成部12は、システムクロック「SCK」を生成し、ASIC10内の各ブロックに供給する。ASIC10の多くのブロックは、システムクロックSCKに同期して動作する。本実施例ではシステムクロックSCKの周波数は512MHzとする。システムクロックSCKは、外部より入力されるリファレンスクロック「RCK」に同期するように、PLLで生成される。通常、リファレンスクロックRCKの発生源には水晶発振器が用いられる。
【0046】
TXHV17は、トランスミッタ30が必要とする高電圧VTXを生成する。この高電圧は、DCDCコンバータ回路によって、低電圧を昇圧することによって生成される。後述するように、TXHV17は、DSP16から供給される制御信号「Ct」に基づき生成する高電圧VTXを変化させ、トランスミッタ30内のLD35への印加電圧を調整する。
【0047】
RXHV18は、レシーバ40が必要とするDC高電圧(100V程度)を生成する。この高電圧は、DCDCコンバータ回路によって、低電圧(5V~15V程度)を昇圧することによって生成される。
【0048】
同期制御部13は、各種の制御信号を生成し出力する。本実施例における同期制御部13は、2つの制御信号、即ち、パルストリガ信号PTとADゲート信号GTを出力する。これらの制御信号の設定例を
図5に示し、それらの時間的関係を
図6に示す。
図6に示すように、これらの制御信号は所定の間隔で分割された時間区間(セグメントスロット)に同期して生成される。セグメントスロットの時間区間幅(セグメント周期)は「nSeg」で設定可能である。ここで、セグメント周期nSegが長いほど、射出光Loの360度の走査におけるセグメントスロットの数が少なくなり、射出光Loの射出間隔が粗くなる。一方、セグメント周期nSegが短いほど、射出光Loの360度の走査におけるセグメントスロットの数が多くなり、射出光Loの射出間隔が密になる。
【0049】
パルストリガ信号PTは、ASIC10の外部に設けられたトランスミッタ30に供給される。トランスミッタ30は、パルストリガ信号PTに応じて光パルスを出力する。パルストリガ信号PTについては、セグメントスロット始点に対する遅延「dTrg」とパルス幅「wTrg」を設定可能である。なお、パルス幅wTrgは、狭すぎるとトランスミッタ30が反応しないため、トランスミッタ30のトリガ応答仕様に鑑みて決定される。
【0050】
ADゲート信号GTは、ゲート抽出部14に供給される。後述するように、ゲート抽出部14は、ADC20から入力されるADC出力信号のうち、ADゲート信号GTのアサート区間のみを抽出して受信セグメントメモリ15に格納する。ADゲート信号GTについては、セグメントスロット始点に対する遅延時間「dGate」とゲート幅「wGate」を設定可能である。ここで、ゲート幅wGateが長いほど、ライダ1の最大測距距離(測距限界距離)が長くなる。
【0051】
また、本実施例では、同期制御部13は、DSP16から供給される制御信号「Cs」に基づき、セグメント周期nSegを変更する。具体的には、同期制御部13は、制御信号Csに基づき、射出光Loを密に射出する走査方向では、セグメント周期nSegを通常の周期(例えばnSeg=8192)よりも短く設定し、射出光Loを粗く射出する走査方向では、セグメント周期nSegを通常の周期よりも長く設定する。また、同期制御部13は、これに加え、射出光Loの射出パワーを強くする走査方向では、ゲート幅wGateを通常幅(例えばwGate=1024)より長く設定することで、ライダ1の最大測距距離を長くし、射出光Loの射出パワーを弱くする走査方向では、ゲート幅wGateを通常幅より短く設定することで、ライダ1の最大測距距離を短くしてもよい。
【0052】
プリアンプ19は、ASIC10の外部に設置されたレシーバ40から入力されるアナログ電圧信号を電圧増幅し、後続のADC20に供給する。なお、プリアンプ19の電圧ゲインはWレジスタにより設定可能である。
【0053】
ADC20は、プリアンプ19の出力信号をAD変換してデジタル系列に変換する。本実施例においては、ADC20のサンプリングクロックとしてシステムクロックSCKが使用されており、ADC20の入力信号は512MHzでサンプリングされる。
【0054】
ゲート抽出部14は、ADC20から入力されるADC出力信号のうち、ADゲート信号GTのアサート区間のみを抽出して受信セグメントメモリ15に格納する。ゲート抽出部14により抽出された区間信号を以下「受信セグメント信号RS」と呼ぶ。即ち、受信セグメント信号RSは、ベクター長がゲート幅wGateに等しい実数ベクトルである。
【0055】
ここで、ADC出力信号と受信セグメントとの関係、及びゲート位置の設定について説明する。
図7(A)はセグメントスロットを示している。
図7(B)に示すように、パルストリガ信号PTはセグメントスロット始点に対してdTrgだけ遅れてアサートされる。
図7の例では「dTrg=0」であるので、パルストリガ信号PTはセグメントスロット始点でアサートされる。
図7(C)は、ライダの走査原点に物体が置かれている場合のADC出力信号(受信セグメント信号RS)を示している。即ち、
図7(C)は、ターゲット距離(動径R)が0mの場合の受信セグメント信号RSを例示している。図示のように、R=0mの場合であっても、受信パルスの立ち上がりは、パルストリガ信号の立ち上がりよりシステム遅延D
SYSだけ遅れて観測される。なお、システム遅延D
SYSの発生要因としては、トランスミッタ30内のLDドライバ回路の電気的遅延、送信光学系51での光学的遅延、受信光学系52での光学的遅延、レシーバ40での電気的遅延、ADC20での変換遅延などが考えられる。
【0056】
図7(D)は、物体が動径Rに置かれている場合の受信セグメント信号RSを例示している。この場合には、
図7(C)と比べて、走査原点から物体までの光の往復時間だけ、遅延が増加することになる。この増加した遅延が、いわゆる「TOF(Time Of Flight)遅延」である。このTOF遅延をDサンプルとするならば、動径Rは下記の式で算出できる。
【0057】
【数1】
図7(F)は、「dGate=0」の場合のADゲート信号GTを例示するものである。前述したとおり、ゲート抽出部14は、ADC出力信号から、ADゲート信号GTのアサート区間のみを抽出する。後述するDSP16は、この抽出区間のみに基づいて、物体に関するパラメータ推定を行う。したがって、TOF遅延時間が大きい場合には、物体からの戻りパルス成分がゲートからはみ出してしまい正当なパラメータ推定が行えない。正当なパラメータ推定が行われるためにはTOF遅延時間Dが次式を満たしていることが必要となる。
【0058】
【数2】
ここでL
IRはシステムの総合インパルス応答の長さであり、D
MAXは正当なパラメータ推定が可能な最大TOF遅延時間として定義される。
図7(E)は、TOF遅延時間がこの最大TOF遅延時間に等しい場合の受信セグメント信号RSを例示している。
【0059】
なお、
図7の例に代えて、ゲート遅延dGateがシステム遅延時間に等しく設定されてもよい。このように設定することで、より遠い距離の物体まで、正当なパラメータ推定が可能となる。
【0060】
走査制御部21は、ASIC10の外部に設置されたロータリーエンコーダ67の出力を監視し、これに基づいてモータ54の回転を制御する。具体的には、走査制御部21は、走査光学部50のロータリーエンコーダ67(走査方向検出部53)から出力される走査方向情報「SDI」に基づいて、トルク制御信号「TC」をモータ54に供給する。本実施例におけるロータリーエンコーダ67は、A相とZ相の2つのパルス列(以下、「エンコーダパルス」と呼ぶ。)を出力する。両パルス列の時間関係を
図8(A)に示す。図示のように、A相については、モータ54の回転1°毎に1パルスが生成出力される。従って、モータ54の1回転毎に360のA相エンコーダパルスが生成出力されることになる。一方、Z相については、モータ54の1回転につき1パルスが、所定の回転角に対応して、生成出力される。
【0061】
走査制御部21は、エンコーダパルスの立ち上がり時刻をシステムクロックSCKのカウンタ値として計測し、これが所望の値となるようにモータ54のトルクを制御する。即ち、走査制御部21は、エンコーダパルスとセグメントスロットが所望の時間関係となるようにモータ54をPLL制御する。
【0062】
エンコーダパルスとセグメントスロットの時間関係は、
図8(B)に示されるWレジスタによって設定可能となっている。「nPpr」には、モータ回転毎のA相エンコーダパルス数が設定される。これは、ロータリーエンコーダ67の仕様で決まる値であり、本実施例では前述の360が設定される。「nRpf」はフレーム毎の回転数を与えるものであり、「nSpf」はフレーム毎のセグメント数を与えるものである。また、「dSmpA」、「dSmpZ」は、エンコーダパルスの立ち上がりとセグメントスロットとの時間関係をサンプルクロック単位で調整するために用意されており、エンコーダパルスのセグメントスロット始点に対する遅延を規定することができる。一方、「dSegZ」は、Z相パルスの立ち上がりとフレームとの時間関係をセグメント単位で調整するために用意されている。
【0063】
定常状態でのエンコーダパルスとセグメントスロットの時間関係を
図9に示す。図示のように、デフォルト設定においては、1フレームは1800のセグメントから構成され、1フレームでモータ54は1回転することになる。
【0064】
(6)DSP
まず、DSP16が受信セグメントメモリ15から受信セグメント「yfrm,seg」を読み出して実行する処理について説明する。ここで、「frm」はフレームインデックス、「seg」はセグメントインデックスである。以下、誤解の恐れのない範囲でこれらインデックスの表記を省略する。
【0065】
図10(A)は、DSP16の行う信号処理のブロックダイアグラムを示す。図示のように、DSP16は、受信フィルタ71と、ピーク検出器72と、判定部73と、フォーマッタ74とを備える。DSP16は、受信セグメントメモリ15から受信セグメントyを順次的に読み出して、これに対して処理を行う。受信セグメントyはベクター長wGateの実数ベクトルであり、次式で表される。
【0066】
【数3】
受信フィルタ71は、受信セグメントyに対して、所定のインパルス応答を畳み込んで、フィルタードセグメントzを算出する。ピーク検出部72は、フィルタードセグメントz内で振幅が最大となる点、即ちピーク点を検出し、当該ピーク点の遅延Dと振幅Aを出力する。判定部73は、振幅Aが所定の閾値tDetより大きい点のみを選択的にフォーマッタ74に送る。フォーマッタ74は、遅延Dと振幅A、及び当該セグメントのフレームインデックスfrm、セグメントインデックスsegを、適切なフォーマットに変換して外部に出力する。以下、各ブロックについて詳しく説明する。
【0067】
受信フィルタ部71は、受信セグメントyに対して、所定のインパルス応答hを畳み込んで(巡回畳みこみ)、フィルタードセグメントzを算出する。受信フィルタ部71のインパルス応答はWレジスタで設定可能であり、フィルタ出力でのSNRが大きくなるように予めシステムCPU5によって設定される。
【0068】
例えば、フィルタインパルス応答hは、次式を満たすように設定される。このように設定することで、雑音が白色である場合で、かつシステム総合インパルス応答がwGateに対して有意に短い場合には、オプティマルな性能(高SNR)を実現できる。
【0069】
【数4】
上式において、リファレンスパルスgは走査原点(R=0m)に物体を置いた場合に観測される受信セグメント波形であり、トランスミッタ30とレシーバ40を含むシステム全体の総合インパルス応答を代表している。実際に走査原点に物体を置くことが困難な場合には、例えば「R=1m」での受信セグメント波形を観測し、これを数学的に時間シフトすることで、等価的にリファレンスパルスを測定すれば良い。
【0070】
ピーク検出部72は、フィルタードセグメント内で振幅が最大となる点、即ち、ピーク点をサブサンプル精度で検出し、当該ピーク点の遅延Dと振幅Aを出力する。判定部73は、ピーク検出部72から出力されるピーク点情報D,A(遅延D,振幅A)に基づいて、当該検出点に物体が存在するか否かの判定を行う。この判定は、ピーク点の振幅Aと判定閾値tDecとを比較することによって行われる。具体的には、判定部73は、A>tDecの場合に「物体が存在する」と判定し、当該ピーク点情報を出力する。一方、判定部73は、A≦tDecの場合は「物体が存在しない」と判定し、当該ピーク点情報を出力しない。フォーマッタ74は、判定部73から出力されるピーク点情報D,Aと当該ピーク点に対応する走査情報(フレームインデックスfrm、セグメントインデックスseg)をユーザー(上位システム)が使いやすい形式に変換する。
【0071】
なお、受信フィルタ71の巡回畳み込み演算は、DFTを用いて周波数領域で実現されてもよい。こうすることで、演算量を大幅に削減できる。この場合、インパルス応答hをWレジスタで設定可能とする代わりに、インパルス応答hを予めDFT演算して周波数応答Hを求めて、周波数応答Hを設定可能にしておくとよい。
図10(B)は、受信フィルタ71の巡回畳み込み演算を、DFTを用いて周波数領域で実現した場合のDSP16の行う信号処理のブロックダイアグラムを示す。
【0072】
また、DSP16は、射出光Loの走査方向に応じ、射出光Loの射出パワー及び射出間隔(即ち走査角度分解能)を調整する制御(単に「射出制御」とも呼ぶ。)を行う。この場合、DSP16は、制御信号Ct、Csを用いて射出制御を行う。
【0073】
具体的には、まず、DSP16は、走査方向検出部53から受信する走査方向情報SDIに基づき走査方向を検出する。そして、DSP16は、検出した走査方向に応じ、TXHV17が生成する高電圧VTXを調整するための制御信号CtをTXHV17に供給することで、LD35の射出パワーを調整する。さらに、DSP16は、検出した走査方向に応じ、セグメント周期nSegを調整するための制御信号Csを同期制御部13に供給することで、射出間隔を調整する。この場合、例えば、DSP16は、走査方向ごとに設定すべき高電圧VTX及びセグメント周期nSegの組み合わせを示すテーブル等を予めWレジスタ等に記憶しておき、当該テーブルを参照することで、検出した走査方向に応じて制御信号Ct、Csを生成する。なお、走査方向ごとの具体的な射出光Loの射出パワー及び射出間隔の設定については次のセクションで説明する。なお、DSP16は、本発明における「第1取得部」、「第2取得部」、「制御部」及び本発明におけるプログラムを実行するコンピュータの一例である。
【0074】
[走査方向に応じた射出パワー及び射出間隔の設定]
次に、走査方向に応じた射出パワー及び射出間隔の設定例について説明する。DS16は、車両の通常走行時においては、全方位に対し均一に(同一の強度・頻度で)光を射出する制御モード(「通常モード」とも呼ぶ)を実行する。本実施例においては、DSP16は、通常モードに変えて、以下の第1~第4制御モードを実施するようにしても良い。
以下に、射出パワー及び射出間隔の設定例について、それぞれ説明する。
【0075】
(1)
第1制御モードでの設定
図11は、第1制御モードでの360度の走査における射出光Loの射出パワー及び射出間隔を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
図11では、破線矢印の長さは射出パワーを示し、破線矢印の間隔は射出光Loの射出間隔(射出頻度)を示している。なお、
図11に示す破線矢印の長さは、射出光Loが実際に到達する範囲を示すものではなく、かつ、破線矢印の数は、360度の走査において実際に射出される射出光Loの数とは一致しない。
【0076】
図11に示すように、DSP16は、第1制御モードでは、車両の前方方向(
図11では進行方向に対し左右約30度分の範囲の方向)において、射出光Loの射出パワーを通常よりも強く、かつ射出光Loの間隔を粗く(即ち走査角度分解能を低く)している。このように、DSP16は、より遠方の障害物を検出する観点から、車両の前方方向に射出する射出光Loの射出パワーを通常より強くする。また、この場合、DSP16は、アイセーフ等の観点から、車両の前方方向に射出する射出光Loを粗く射出する。これにより、DSP16は、制動距離以上の距離範囲で前方に位置する比較的大きめの物体を優先的に検知しつつ、アイセーフの基準を好適に満たすことができる。言い換えれば、アイセーフの基準を好適に満たしつつ、車両前方の物体については、側方や後方よりも、遠方のものを検知することが可能となる。
【0077】
また、
図11に示すように、DSP16は、第1制御モードでは、車両の後方方向(
図11では後進方向に対し左右約30度分の方向)において、射出光Loの射出パワーを通常より弱く、かつ、射出光Loを粗く射出する。このように、DSP16は、障害物検出の必要性が比較的低い後方方向では、車両の後方に存在する遠方の物体を不要に検出するのを防ぐ。
【0078】
さらに、
図11に示すように、DSP16は、第1制御モードでは、車両の側面方向(右側面方向、左側面方向)において、射出光Loの射出パワーを通常より弱く、かつ、射出光Loの間隔を密に(即ち走査角度分解能を高く)する。一般に、側面方向において遠くに存在する物体については、道路から離れており、検出する必要性が低い。一方、側面方向において比較的近くに存在するキロポスト、その他の標識や看板等については、例えば自己位置推定におけるランドマーク等として検出する必要性があり、かつ、比較的細い形状を有している場合がある。また、側面方向に存在する移動体(例えば他車線の車両や歩道の歩行者など)についても、障害物検出の観点から検出する必要性が高い。また、単純に射出の頻度だけを高くしてしまうと、アイセーフの基準を満たすことができなくなる可能性がある。以上を勘案し、DSP16は、車両の側面方向において、射出光Loの射出パワーを通常より弱く、かつ、射出光Loを密に射出することで、アイセーフ基準を好適に満たしつつ、比較的近くに存在する車両の側面方向の物体を高精度に検出する。
【0079】
(2)第2~第4制御モードでの設定
次に、所定の条件を満たした場合における走査方向ごとの射出パワー及び射出間隔の設定例について説明する。以下では、具体例として3つのモード(第2~第4制御モード)について順に説明する。
【0080】
(2-1)歩道に隣接した道路を走行する場合
DSP16は、現在位置情報IP及び地図情報IMに基づき、歩道に隣接した道路(複数車線がある道路の場合には、歩道に最も近い車線)を車両が走行していることを検知した場合、以下に説明する第2制御モードにより射出光Loの射出パワー及び走査角度分解能の制御を行う。この場合、例えば、DSP16は、現在位置情報IP及び地図情報IMに基づき、現在走行中の道路を認識すると共に、当該道路に隣接する歩道の有無を、地図情報IMを参照して判定する。
【0081】
図12は、第2制御モードでの360度の走査における射出光Loの射出パワー及び射出間隔を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
図12の例では、DSP16は、地図情報IMに登録された歩道80に隣接する車線81を走行中であることを現在位置情報IP及び地図情報IMに基づき認識し、第2制御モードを実行する。
【0082】
図12の例では、DSP16は、歩道80が存在する側面方向である左側面方向では、射出光Loの射出パワーを右側面方向よりも少し強くし、かつ、かつ射出光Loを密に(即ち走査角度分解能を高く)射出する。言い換えると、DSP16は、左側面方向では、射出光Loを密に射出しつつ、アイセーフの基準を満たす範囲内において射出光Loの射出パワーを強くする。
【0083】
このように、第2制御モードでは、DSP16は、歩道80が存在する左側面方向での射出光Loの射出パワーを、反対側の右側面方向での射出光Loの射出パワーよりも強くし、かつ、左側面方向での射出光Loの走査角度分解能を、反対側の右側面方向での射出光Loの走査角度分解能よりも高くする。このようにすることで、DSP16は、安全上正確に捕捉する必要がある歩行者等が存在する歩道上の物体検出精度を好適に高めることができる。
【0084】
また、第2制御モードでは、DSP16は、車両の前方方向において、上述の第1制御モードと同様に、射出光Loの射出パワーを通常よりも強く、かつ射出光Loの間隔を粗く(即ち走査角度分解能を低く)するようにしてもよい。これにより、DSP16は、第1制御モードと同様、アイセーフの基準を満たしつつ、制動距離以上の距離範囲で前方に位置する比較的大きめの障害物を優先的に検知する。また、第2制御モードでは、DSP16は、障害物検出の必要性が比較的低い車両の後方方向では、第1制御モードと同様に、射出光Loの射出パワーを通常より弱く、かつ、射出光Loの間隔を粗くしてもよい。
【0085】
(2-2)交差点を右折する場合
DSP16は、現在位置情報IP及び地図情報IM及び経路情報IRに基づき、車両が右折すべき交差点に所定距離以内に近付いたことを検知した場合、以下に説明する第3制御モードにより射出制御を行う。この場合、例えば、DSP16は、現在位置情報IPと地図情報IMに基づき、現在走行中の道路を認識すると共に、経路情報IRに基づき、認識した道路上での右折地点の有無を判定する。そして、DSP16は、右折地点が存在すると判定した場合、現在位置から右折地点までの距離が所定距離以内であるか否か判定し、当該距離が所定距離以内である場合に、第3制御モードを実行する。
【0086】
図13は、第3制御モードでの360度の走査における射出光Loの射出パワー及び射出間隔を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
図13の例では、DSP16は、次の右折地点に相当する交差点82に所定距離以内に近付いたことを、現在位置情報IP、地図情報IM及び経路情報IRに基づき認識し、第3制御モードを実行する。
【0087】
図13の例では、DSP16は、対向車が存在すると推定される方向である右前方方向(
図13では直進方向から右へ約45度以内の方向)において、射出光Loの射出パワーを通常よりも強くしている。また、アイセーフ基準を満たすことを考慮して、射出光Loを粗く(即ち走査角度分解能を低く)射出する。このように、第3制御モードでは、対向車を優先的に検出すべき右折時に、対向車が高速移動場合も勘案し、ある程度遠くに存在する対向車についても検出できるように射出パワーを通常よりも強くする。これにより、DSP16は、アイセーフの基準を好適に順守しつつ、対向車を好適に検出することが可能である。
【0088】
なお、
図13の例では、DSP16は、対向車が存在すると推定される方向である右前方方向以外の方向では、射出光Loの射出パワー及び走査角度分解能を通常の設定又は通常よりも低い設定にしている。
【0089】
(2-3)交差点を左折する場合
DSP16は、現在位置情報IP及び地図情報IM及び経路情報IRに基づき、車両が左折すべき交差点に所定距離以内に近付いたことを検知した場合、以下に説明する第4制御モードにより射出光Loの射出パワー及び走査角度分解能の制御を行う。この場合、例えば、DSP16は、現在位置情報IPと地図情報IMに基づき、現在走行中の道路を認識すると共に、経路情報IRに基づき、認識した道路上での左折地点の有無を判定する。そして、DSP16は、左折地点が存在すると判定した場合、現在位置から左折地点までの距離が所定距離以内であるか否か判定し、当該距離が所定距離以内である場合に、第4制御モードを実行する。
【0090】
図14は、第4制御モードでの360度の走査における射出光Loの射出パワー及び走査角度分解能を破線矢印により概略的に示した車両周辺の平面図である。
図14の例では、DSP16は、現在位置情報IP、地図情報IM及び経路情報IRに基づき、次の左折地点に相当する交差点83に所定距離以内に近付いたことを認識し、第4制御モードを実行する。
【0091】
図14の例では、DSP16は、交差点83を直進する横断歩道を渡る歩行者や交差点83を直進する二輪車等が存在すると推定される方向である左側面方向(
図14では車両の左方向を中心とした約120度の範囲)の射出パワーを弱く、かつ、射出光Loを密に射出する。
【0092】
一般に、左折時では、特に横断中の歩行者や二輪車の巻き込みを防ぐために、車両の左側面方向に存在する比較的近くの物体を優先的に検出する必要がある。以上を勘案し、第4制御モードでは、左側面方向において、射出パワーを通常よりも弱くしつつ、横断中の歩行者や二輪車を確実に検出できるように走査角度分解能を高くする。これにより、DSP16は、左折時において、アイセーフの基準を好適に満たしつつ、注意すべき歩行者や二輪車などを精度良く検出することができる。
【0093】
また、
図14の例では、DSP16は、左側面方向以外の方向では、射出光Loの射出パワー及び走査角度分解能を通常の設定又は通常よりも低い設定にしている。
【0094】
以上説明したように、実施例に係るライダ1は、パルストリガ信号PTに応じて射出光Loを照射する走査部55と、射出光Loの戻り光Lrを受光するAPD41と、DSP16とを備える。DSP16は、車両の位置を示す現在位置情報IP等を車載機2から取得する。そして、DSP16は、現在位置情報IP等に基づいて、走査部55が射出する射出光Loの強度及び射出頻度を制御する。これにより、ライダ1は、自動運転等に必要な物体検出の性能を好適に高めることができる。
【0095】
[変形例]
次に、実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、組み合わせて上述の実施例に適用してもよい。
【0096】
(変形例1)
DSP16は、車載機2から経路情報IR等を受信する代わりに、CANなどの所定の通信プロトコルにより車両からウィンカー情報を受信することで、第3又は第4制御モードの実行の要否を判定してもよい。
【0097】
この場合、DSP16は、右折することを示すウィンカー情報を受信したときに第3制御モードを実行すべきと判断し、左折することを示すウィンカー情報を受信したときに第4制御モードを実行すべきと判断する。この態様によっても、ライダ1は、車両が右折地点又は左折地点に近付いたことを好適に検知し、状況に適した射出制御を実行することができる。この場合、ウィンカー情報は、本発明における「経路情報」の一例である。
【0098】
(変形例2)
DSP16は、射出制御として、射出光Loの射出パワー又は射出間隔のいずれか一方のみを制御してもよい。
【0099】
例えば、DSP16は、射出光Loの射出パワーのみを調整する場合、第1制御モードでは、前方方向の射出パワーを他の方向の射出パワーよりも強くし、第3制御モードでは、右前方方向の射出パワーを他の方向の射出パワーよりも強くする。また、DSP16は、射出光Loの射出間隔のみを調整する場合、第1制御モードでは、側面方向を他の方向よりも密に射出光Loを射出し、第2及び第4制御モードでは、左側面方向を他の方向よりも密に射出光Loを射出する。このように、本変形例によっても、DSP16は、優先して検出すべき対象の検出精度を好適に高めることができる。