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特開2024-105737口腔用パウチ製品、及び口腔用パウチ製品の製造方法
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  • 特開-口腔用パウチ製品、及び口腔用パウチ製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105737
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】口腔用パウチ製品、及び口腔用パウチ製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24B 13/00 20060101AFI20240731BHJP
   A24B 15/30 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
A24B13/00
A24B15/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058554
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古越 雅之
(72)【発明者】
【氏名】宮内 正人
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 創介
(72)【発明者】
【氏名】中尾 彰宏
【テーマコード(参考)】
4B043
【Fターム(参考)】
4B043BC02
4B043BC12
4B043BC19
4B043BC26
(57)【要約】
【課題】べたつきが少なく、良好な香味を与えることのできる口腔用パウチ製品を提供することを課題とする。
【解決手段】ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を含む口腔用組成物と、該口腔用組成物を包装するパウチとを有し、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリンの脂肪酸エステルである口腔用パウチ製品により、上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を含む口腔用組成物と、該口腔用組成物を包装するパウチとを有し、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリンの脂肪酸エステルである、口腔用パウチ製品。
【請求項2】
前記口腔用組成物中の前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有率が、0.1重量%以上20.0重量%以下である、請求項1に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項3】
前記口腔用組成物中の前記離型剤の含有率が、0.05重量%以上3.0重量%以下である、請求項1又は2に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項4】
前記離型剤が、二酸化ケイ素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項5】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が6.0以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項6】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル及びデカグリセリン脂肪酸エステルから選択される一種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項7】
前記ポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが、ジグリセリンモノオレエート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリンオレエート、及びデカグリセリンステアレートから選択される一種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項8】
前記基材が、セルロース、微結晶セルロース、球状セルロース及び多孔質セルロースからなる群から選ばれる一種以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の口腔用パウチ製品。
【請求項9】
少なくとも、ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を混合して口腔用組成物を製造する組成物製造工程を含み、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリンの脂肪酸エステルである、口腔用パウチ製品の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程において、前記ニコチン供給源、前記セルロース系基材、前記糖アルコール、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び前記離型剤の総量に対する前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの割合が0.1重量%以上20.0重量%以下であり、前記離型剤の割合が0.05重量%以上3.0重量%以下である、請求項8に記載の口腔用パウチ製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用パウチ製品、及び口腔用パウチ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔用たばこ組成物等の口腔用組成物を、不織布のような材料により包装して形成する口腔用パウチ製品が知られている。使用者はその口腔用パウチ製品を口腔内に入れて使用する。
口腔用パウチ製品は、それを使用者の口腔内に投入することで、内容物の口腔用組成物中に含まれる、例えばニコチン等の香味成分が包装材の外部に染み出ることにより、使用者に対して香味成分がデリバリーされる。
【0003】
口腔用パウチ製品において、その使用時における使用者に与える香味感は重要であり、例えば口腔用パウチ製品に界面活性剤及び/又は乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、フレーバーを保持する技術が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019-115778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
口腔用パウチ製品の使用時に使用者が受ける香味感は、口腔用パウチ製品に含まれる口腔用組成物中の各成分が均一に混合され、安定的に存在しているか否かに影響されるものである。特許文献1では、グリセリン脂肪酸エステルを配合することで、各成分の安定的な混合状態を保ち、良好な香味の保持を図られているが、グリセリン脂肪酸エステルに起因するべたつきにより、香味感が阻害されるため、さらなる香味感の改善が求められている。
また、口腔用組成物に所望の量のグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、口腔用組成物を製造する際に、口腔用組成物が混合機等の製造装置に付着して作業性や歩留まりが低下するという問題が残されている。
【0006】
本発明の課題は、べたつきが少なく、良好な香味を与えることのできる口腔用パウチ製品を提供することである。
また、本発明の他の課題は、口腔用パウチ製品の製造において、口腔用組成物の製造装置への付着等の不都合を軽減でき、かつ、口腔用パウチ製品の香味を改善することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、口腔用組成物に特定の乳化剤及び離型剤を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
〔1〕
ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を含む口腔用組成物と、該口腔用組成物を包装するパウチとを有し、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリンの脂肪酸エステルである、口腔用パウチ製品。
〔2〕
前記口腔用組成物中の前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有率が、0.1重量%以上20.0重量%以下である、〔1〕に記載の口腔用パウチ製品。
〔3〕
前記口腔用組成物中の前記離型剤の含有率が、0.05重量%以上3.0重量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の口腔用パウチ製品。
〔4〕
前記離型剤が、二酸化ケイ素である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の口腔用パウチ製品。
〔5〕
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が6.0以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の口腔用パウチ製品。
〔6〕
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル及びデカグリセリン脂肪酸エステルから選択される一種以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔用パウチ製品。
〔7〕
前記ポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが、ジグリセリンモノオレエート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリンオレエート、及びデカグリセリンステアレートから選択される一種以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔用パウチ製品。
〔8〕
前記基材が、セルロース、微結晶セルロース、球状セルロース及び多孔質セルロースからなる群から選ばれる一種以上である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の口腔用パウチ製品。
〔9〕
少なくとも、ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を混合して口腔用組成物を製造する組成物製造工程を含み、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリンの脂肪酸エステルである、口腔用パウチ製品の製造方法。
〔10〕
前記混合工程において、前記ニコチン供給源、前記セルロース系基材、前記糖アルコール、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び前記離型剤の総量に対する前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの割合が0.1重量%以上20.0重量%以下であり、前記離型剤の割合が0.05重量%以上3.0重量%以下である、〔8〕に記載の口腔用パウチ製品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、べたつきが少なく、良好な香味を与えることのできる口腔用パウチ製品を提供することができる。
また、本発明により、口腔用パウチ製品の製造において、口腔用組成物の製造装置への付着等の不都合を軽減でき、かつ、口腔用パウチ製品の使用感や香味を改善することのできる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、3、5~8及び比較例1で得た口腔用組成物の垂直応力と剪断応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0012】
<口腔用パウチ製品>
本発明の実施形態に係る口腔用パウチ製品は、ニコチン、基材、糖アルコール、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を含む口腔用組成物と、該口腔用組成物を包装するパウチとを有する。
【0013】
[口腔用組成物]
本実施形態における口腔用組成物は、ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を含む。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリンの脂肪酸エステル(以下、単に「ポリグリセリン脂肪酸エステル」と称することがある。)である。本実施形態における口腔用組成物は、パウチ内に含まれる任意の物質の総称である。また、パウチ外への口腔用組成物の漏れを防ぐ観点から、口腔用組成物は液体でないことが好ましく、例えば、ゲル状のゲル粒子、固体の複数の粒状物、又はそれらの混合物であることが好ましい。
【0014】
(ニコチン)
口腔用組成物は、ニコチンを含有する。ニコチンを含む態様は特段制限されず、例えば、化合物としてのニコチンを含有させてもよく、ニコチン塩や安定化させたニコチン(例えばイオン交換樹脂に担持させたニコチン)等のニコチン担持物質を含有させてもよい。
【0015】
ニコチン担持物質としては、上記のようにイオン交換樹脂にニコチンを担持させた物質を挙げることができる。
イオン交換樹脂にニコチンを担持させる場合、担持体としてイオン交換樹脂を用いる。イオン交換樹脂として、弱酸性陽イオン交換樹脂を挙げることができる。ニコチンが担持されたイオン交換樹脂については、ニコチンポラクリレックスと呼ばれる、例えば10重量%以上、20重量%以下のニコチンを含有する樹脂複合体を用いることができる。ニコチンポラクリレックスで用いられるイオン交換樹脂は弱酸性陽イオン交換樹脂である。
ニコチンポラクリレックスを用いる場合、口腔用組成物に対する添加量は、口腔用組成物に対して、通常0.5重量%以上であり、1.0重量%以上であることが好ましく、2.0重量%以上であることがより好ましい。一方、口腔用組成物の風味の観点から、口腔用組成物に対して、ニコチンポラクリレックスの添加量は、通常15.0重量%以下であり、12.0重量%以下であることが好ましく、10.0重量%以下であることがより好ましい。
【0016】
また、ニコチン供給源として、例えばたばこ葉を粉砕したたばこ粉末を含むたばこ材料を含有させてもよい。
たばこ粉末とは、乾燥したたばこ葉のラミナの刻み、微粉、繊維などを含んでもよく、下記の方法によって調製できるものである。本明細書において、たばこ葉は、葉肉(ラミナ)、葉脈(ステム)、根を含んでもよい。上記のたばこ充填物には、基本的にたばこ葉のラミナから得られるたばこ粉末の他に、たばこ葉の中骨や根に由来する要素が含まれてもよい。
たばこ粉末の粒径に特に制限はないが、口腔内でのなじみを良好にして使用感を高めることと、たばこ粉末に含まれる香味成分の口腔内への放出を良好にする観点から、1.2mmのメッシュを通過したものであることが好ましく、1.0mmのメッシュを通過したものであることがより好ましい。
たばこ粉末の原料となるたばこ種は特に限定されるものではなく、例えばニコチアナ属であり、ニコチアナ・タバカムの黄色種、バーレー種、ニコチアナ・ルスチカのブラジリ
ア種などを挙げることができる。後述するたばこ材料及びたばこ葉についてもこれらと同じ種を使用できる。
【0017】
たばこ粉末は以下のようにして得ることが好ましい。まず、たばこ葉を粉砕して得たたばこ粉末に対して、塩基を添加して混合する。添加する塩基は炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを挙げることでき、水溶液として添加することが好ましい。また、例えば口腔用パウチ製品製造時のニコチン安定化のため、リン酸二水素ナトリウムのようなpH調整剤を添加してもよい。塩基の添加後の混合物のpHを8.0~9.0に調整することが好ましい。
この混合物における、たばこ粉末の含有率は、60~90重量%を挙げることができる。
塩基を添加した後、例えば品温が65~90℃、好ましくは品温が70~80℃となる条件で、例えば0.5~3時間、好ましくは0.8~2時間加熱を行う。これにより、たばこ粉末の殺菌が行われる。
加熱は、蒸気注入による加熱と、ジャケットによる加熱のどちらか一方又は両方により行うことができる。
加熱後の混合物のpHは8.0~9.0であることが好ましく、加熱後の混合物の含水率は10~50重量%であることが好ましい。
加熱後、得られた処理たばこ粉末に対して必要に応じて蒸気注入を止めてジャケットのみの加熱を行ない、乾燥処理を行う。
その後、15~25℃程度で1時間程度、冷却する態様を挙げることができる。
【0018】
たばこ粉末を含むたばこ材料を用いる場合、口腔用組成物に対する添加量は、口腔用組成物に対して、通常0.001重量%以上であり、0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましい。一方、口腔用組成物の風味の観点から、口腔用組成物に対して、たばこ粉末を含むたばこ材料の添加量は、通常90重量%以下であり、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。さらに、口腔用組成物に対して、たばこ粉末を含むたばこ材料の添加量は、45重量%以下であってもよく、40重量%以下であってもよく、30重量%以下であってもよい。
【0019】
或いは、ニコチンの供給源として、たばこ葉等のニコチン含有物質を抽出することにより得られるニコチン含有抽出液を含有させてもよい。
【0020】
上記の態様の中でも、的確なニコチンの供給や、取扱い易さの観点から、ニコチン担持物質の添加が好ましい。また、通常、たばこ粉末を添加した場合、口腔用組成物やパウチ製品の色がたばこ葉の色となる傾向がある一方で、無色のニコチン含有化合物を用いた場合、白色の組成物やパウチ製品を提供することが可能となる。白色のパウチ製品を好む使用者にとって、このような態様は利点である。
上記の態様は、1つの態様を単独で適用してもよく、また、2つ以上の態様を併用して適用してもよい。
【0021】
口腔用組成物中のニコチンの含有率は、特段制限されないが、ユーザーの嗜好性の観点から、通常0.1重量%以上であり、また、通常15.0重量%以下である。
このニコチンの含有率については、ニコチンの供給源として、例えば上記のイオン交換樹脂にニコチンを担持させた物質、たばこ粉末を含むたばこ材料、ニコチン含有抽出液のいずれを用いる場合でも同じ範囲を適用できる。
なお、ニコチンがイオンとして存在する場合、上記の含有率は、ニコチンイオンとしての含有率である。
口腔用組成物中のニコチンの含有率は、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-M
S)、液体クロマトグラフィー(LC、UV検出)等で測定することができる。
【0022】
(基材)
口腔用組成物は、基材を含有する。基材の種類は、特段制限されず、水分を吸着及び保持できる多糖類、多孔質構造体等を採用することができる。具体的には、基材は、セルロース、微結晶セルロース(MCC)、球状セルロース及び多孔質セルロースからなる群から選択される一種以上であることが好ましく、口腔用組成物のかさ密度調整の自由度の観点及び白色を呈する点で、セルロースであることがより好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
口腔用組成物中の基材の含有率(基材を2種類以上含有する場合は、それらの総含有率)は、特段制限されないが、製造中又は製品保管中における水分の溶出の抑制という品質向上、及び製品の白色度を高めることで使用者にとって望ましい外観を付与する観点から、通常10重量%以上であり、15量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、また、特段上限を制限する必要はないが、その他の原料を配合できる限界の観点から、通常70重量%以下であり、68重量%以下であることが好ましく、65重量%以下であることがより好ましい。
【0023】
(糖アルコール)
口腔用組成物は、糖アルコールを含有する。糖アルコールの種類は特段制限されず、例えば、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトールラクチトール等が挙げられる。これらのうち、口腔用組成物に良好な風味を付与する観点から、糖アルコールは、マルチトールであることが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0024】
口腔用組成物中の糖アルコールの含有率(糖アルコールを2種類以上含有する場合は、それらの総含有率)は、特段制限されないが、口腔用組成物の風味の調節の観点から、通常1重量%以上であり、5量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、また、通常80重量%以下であり、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
口腔用組成物は、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化剤として機能する。そのため、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することにより、口腔用組成物の各成分の均一な混合状態が保持され、口腔用組成物中の香味成分を安定に保つことができるため、口腔用組成物の香味を改善することができる。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、口腔用組成物に適度な粘性を付与し、各成分を一体に結着させることができるため、口腔用組成物のぱさつきを抑え、使用感、香味等を良好なものとすることができる。加えて、口腔用組成物が水の含有量(含水率)の少ないドライタイプの場合でも、口腔用組成物をパウチに充填する際に、口腔用組成物の飛散を抑制することができる。このように、口腔用組成物にポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることで、口腔用パウチ製品の製造における作業効率、歩留まり等の製造効率を向上することができる。
【0026】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの脱水縮合体の脂肪酸エステルであり、グリセリンの重合度は、通常2以上であり、3以上であってもよく、また、通常10以下であり、8以下であってよい。
【0027】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸エステル基(RCO-基)は、脂肪酸に由来する基であり、脂肪酸は特段制限されず、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。また、該脂肪酸の炭素数は、良好な香味及び製造効率の観点から、通常10
以上であり、12以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましく、16以上であることがさらに好ましく、また、通常30以下であり、26以下であることが好ましく、22以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。なお、当該脂肪酸は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。
【0028】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル一分子が有する脂肪酸エステル基の数は、ポリグリセリン脂肪酸エステルが乳化剤としての機能を発揮し得る構造、すなわち、親油基となる脂肪酸部及び親水基となる多価アルコール部の両方を有する構造をとり得る限り特段限定されず、グリセリンの重合度及びグリセリン由来の水酸基の数に応じて適宜選択することができる。具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル一分子あたりの脂肪酸エステル基の数は、通常1以上であればよい。また、グリセリン由来の水酸基の数は、1以上であればよい。
【0029】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるグリセリンの重合度、並びに脂肪酸エステル基の種類及び数は、上述したものを任意に組み合わせることができる。
より具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、又はデカグリセリンのラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸等の脂肪酸のモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル等が挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0030】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、良好な香味及び製造時の作業性の観点から、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル及びデカグリセリン脂肪酸エステルから選択される一種以上であることが好ましい。ジグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート及びジグリセリンモノオレエートから選択されることが好ましく、ジグリセリンモノオレエートであることがより好ましい。デカグリセリン脂肪酸エステルとしては、デカグリセリンラウレート、デカグリセリンミリステート、デカグリセリンパルミテート、デカグリセリンステアレート及びデカグリセリンオレエートから選択されることが好ましく、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノパルミテート、デカグリセリンモノステアレート及びデカグリセリンモノオレエートから選択されることがより好ましい。
【0031】
口腔用組成物中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有率(ポリグリセリン脂肪酸エステルを2種類以上含有する場合は、それらの総含有率)は、特段制限されないが、良好な香味を得る観点及び口腔用パウチ製品の製造効率向上の観点から、通常0.1重量%以上であり、0.2量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましい。また、口腔用組成物中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有率は、口腔用組成物に適度な粘性を付与する観点から、通常20.0重量%以下であり、15.0重量%以下であることが好ましく、10.0重量%以下であることがより好ましく、8.0重量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、特段制限されないが、良好な香味を得る観点及び口腔用パウチ製品の製造効率向上の観点から、通常6.0以上、好ましくは7.0以上、また、通常20.0以下、好ましくは18.0以下、より好ましくは16.0以下である。
【0033】
(離型剤)
口腔用組成物は、離型剤を含有する。離型剤は、口腔用組成物を製造する際に口腔用組成物が混合機、混錬機等の製造装置に付着したり、パウチに充填する際に口腔用組成物が充填機等に付着したりする不都合を軽減し、製造効率を向上させることができる。また、離型剤は、口腔用組成物を構成する材料間の付着性を低減してケーキング(当該材料間の凝集や固化)を抑制し、また、口腔用組成物のべたつきを抑制することもできる。その結果、本実施形態に係る口腔用パウチ製品の外観、口触りといった使用感、香味等が向上したり、口腔用組成物のパウチ外への漏れが抑制されたりするなどのように、本実施形態に係る口腔用パウチ製品の特性を向上することができる。
【0034】
離型剤の種類は、上記作用効果を奏する限り特段制限されず、例えば、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の化合物が挙げられる。これらのうち、上記効果が高く、香味への影響も少ない点で、離型剤は二酸化ケイ素であることが好ましい。離型剤は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
これらの化合物の形状は、上記効果を十分発揮する観点から、粒子形状であることが好ましい。また、当該粒子の平均粒径は、製造効率向上の観点から、通常20.0μm以下であり、15.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることがより好ましく、また、通常0.2μm以上であり、0.3μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、離型剤粒子の平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定により求めた粒度分布における体積基準累積50%での粒径(D50)を意味する。レーザー回折粒度分布測定には、マルバーン・パナリティカル社製「マスターサイザー3000」のような汎用の装置を用いることができる。また、本明細書では、このような平均粒径を有する二酸化ケイ素を、「微粒二酸化ケイ素」と称することがある。
【0035】
口腔用組成物中の離型剤の含有率(離型剤を2種類以上含有する場合は、それらの総含有率)は、特段制限されないが、良好な香味を確保し、かつ、上記効果を十分発揮する観点から、通常0.05重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、また、通常3.0重量%以下であり、2.5重量%以下であることが好ましく、2.0重量%以下であることがより好ましい。
【0036】
また、口腔用組成物中の離型剤及びポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量比は、本発明の効果を奏する限り特段限定されないが、べたつき及びぱさつきのバランス、適度な粘性確保の観点等の観点から、離型剤1.0重量部(離型剤を2種類以上含有する場合は、それらの総含有量)に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量(ポリグリセリン脂肪酸エステルを2種類以上含有する場合は、それらの総含有量)は、好ましくは1.5重量部以上、より好ましくは2.5重量部以上、また、好ましくは12.5重量部以下、より好ましくは7.5重量部以下である。
【0037】
(水)
口腔用組成物中の水の含有率(含水率)は、口腔用組成物の製造容易性の観点から、通常5重量%以上である。さらに、口腔用組成物の製造効率向上、耐ケーキング性向上、べたつき抑制等の観点から、水の含有率は30重量%以上であることが好ましく、45重量%以上であることがより好ましく、また、通常60重量%以下であり、50重量%以下であることが好ましい。また、水の含有率は40重量%以下であってもよく、30重量%以下であってもよく、20重量%以下であってもよい。該水の含有率は、添加する水の量を調整したり、製造段階で加熱処理や乾燥処理を設けたりすることによって調整することができる。
口腔用組成物の水の含有率は、製品のタイプ(モイストまたはドライ)に応じて、適宜
調整できる。例えばモイストタイプの場合、水の含有率は通常20重量%以上、60重量%以下であり、30重量%以上、50重量%以下であることが好ましい。一方、ドライタイプの場合、水の含有率は通常5重量%以上、20重量%以下であり、10重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。
【0038】
口腔用組成物の水の含有率(含水率)は、加熱乾燥式水分計(例えば、METTER TOLEDO社製:HB 43-S)を用いて測定する。測定に際し、試料を所定容器に投入し到達温度100℃まで加熱する。測定は60秒間で1mg以下の変化量となった時点で終了し、加熱前後の秤量値より含水率を算出する。
【0039】
(その他の物質)
口腔用組成物は、ニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤に加え、その他の物質を含んでいてもよい。その他の物質としては、例えば、香料、pH調整剤、甘味料(糖アルコールを除く)、保湿剤、苦味抑制剤、白色剤(二酸化ケイ素を除く)、乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステルを除く)等が挙げられる。
口腔用組成物中のその他の物質の含有率は、特段制限されず、製品設計に応じて適宜配合を調整することができる。
【0040】
香料の種類は、特段制限されず、例えば、メンソール、葉たばこ抽出エキス、天然植物性香料(例えば、シナモン、セージ、ハーブ、カモミール、葛草、甘茶、クローブ、ラベンダー、カルダモン、チョウジ、ナツメグ、ベルガモット、ゼラニウム、蜂蜜エッセンス、ローズ油、レモン、オレンジ、ケイ皮、キャラウェー、ジャスミン、ジンジャー、コリアンダー、バニラエキス、スペアミント、ペパーミント、カシア、コーヒー、セロリー、カスカリラ、サンダルウッド、ココア、イランイラン、フェンネル、アニス、リコリス、セントジョンズブレッド、スモモエキス、ピーチエキス等)、糖類(例えば、グルコース、フルクトース、異性化糖、カラメル、蜂蜜、糖蜜等)、ココア類(パウダー、エキス等)、エステル類(例えば、酢酸イソアミル、酢酸リナリル、プロピオン酸イソアミル、酪酸リナリル等)、ケトン類(例えば、メントン、イオノン、ダマセノン、エチルマルトール等)、アルコール類(例えば、ゲラニオール、リナロール、アネトール、オイゲノール等)、アルデヒド類(例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド等)、ラクトン類(例えば、γ-ウンデカラクトン、γ-ノナラクトン等)、動物性香料(例えば、ムスク、アンバーグリス、シベット、カストリウム等)、炭化水素類(例えば、リモネン、ピネン等)が挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0041】
pH調整剤の種類は、特段制限されず、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、無水リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、製品の呈味への影響の観点から、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二水素ナトリウムが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0042】
甘味料(糖アルコールを除く)の種類は、特段制限されず、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム等が挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0043】
苦味抑制剤は、特段制限されず、例えば、大豆レシチンが挙げられる。大豆レシチンとはリン脂質であり、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸などが挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0044】
保湿剤の種類は、特段制限されず、例えば、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられ、製品保存性の観点から、グリセリンが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0045】
白色剤の種類は、特段制限されず、例えば、二酸化チタン、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0046】
乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステルを除く)の種類は、特段制限されず、例えば、食品に添加される乳化剤を挙げることができる。乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、およびポリグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンからなる群から選ばれる一種以上を挙げることができる。ショ糖脂肪酸エステルとして、ショ糖パルミチン酸エステルおよびショ糖ステアリン酸エステルをあげることできる。有機酸グリセリン脂肪酸エステルとして、コハク酸グリセリン脂肪酸エステルおよびジアセチル酒石酸グリセリン脂肪酸エステルを挙げることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、デカグリセリン脂肪酸エステルを挙げることができる。
口腔用組成物における乳化剤の含有率は、ポリグリセリン脂肪酸エステルとの合計含有率が、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有率として上述した範囲内となる量であることが好ましい。
【0047】
上記の各成分の含有率(水の含有率を除く)は、原料の仕込み量から算出することもできる。
【0048】
(口腔用組成物の流動性)
本明細書では、口腔用組成物の粘性、製造装置への付着性、耐ケーキング性及びべたつきは、口腔用組成物の流動性により評価することができる。口腔用組成物の流動性は、測定温度22℃における垂直応力5.0kPaでの剪断応力の値を相対比較して評価する。なお、垂直応力5.0kPaとは、口腔用組成物の製造装置への付着、ケーキング、べたつきが生じ得る条件として、製造中、搬送中、保管中等に自重により口腔用組成物に加わる圧力負荷を想定したものである。該剪断応力は、好ましくは4.15kPa以上、より好ましくは4.20kPa以上、さらに好ましくは4.25kPa以上、また、好ましくは5.85kPa以下、より好ましくは5.80kPa以下である。
【0049】
上記の垂直応力5.0kPaでの組成物の剪断応力は、レオメーターを用いて測定することができる。例えば、レオメーターとしてフリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4を用いた場合、下記の測定条件で測定する。
・測定モード:stantard program (25mm_shear_9kPa)
・測定温度:22℃
・測定湿度:60%RH
・測定容器:内径25mmの円筒容器、容積10ml
・垂直荷重:3~9kPa
測定原料をそれぞれ篩(1.18mm目開き)にかけ、粒子を細かく均一にしたものを測定サンプルとし、上記レオメーターの手順に沿って測定を行う。
【0050】
(口腔用組成物の構成物の粒度)
口腔用組成物は、固体の複数の粒状物から構成されることが好ましいが、その粒状物のサイズは、特段制限されない。例えば、乾燥させた口腔用組成物の構成物が下記の分級の条件を充たすものであることが好ましい。
乾燥した口腔用組成物は、以下の篩目を有する篩により分級されたものであることが好
ましい。ユーザーの使用時の口触りの良さをはじめ、製造時の扱いやすさ、品質のばらつきを制御する観点から、通常15mmの篩目を有する篩を通過するもの(<15mm)であり、10mmの篩目を有する篩を通過するもの(<10mm)であることが好ましく、5mmの篩目を有する篩を通過するもの(<5mm)であることがより好ましく、3.2mmの篩目を有する篩を通過するもの(<3.2mm)であることがさらに好ましい。例えば、含水率が5重量%以下となるよう乾燥した口腔用組成物の全てが3.2mmの篩目の篩を通過した場合、口腔用組成物の構成物の乾燥時の最大粒度が3.2mm以下であることを表す。
乾燥時の口腔用組成物の構成物の粒度の下限を設定する必要はないが、パウチからの漏れを防ぐ観点から、通常3μm以上である。
上記の乾燥した口腔用組成物の調製方法は、口腔用組成物の含水率を5重量%以下まで低下させることができる限り特段制限されず、例えば口腔用組成物を常温、70℃~80℃等の温度条件で所定の時間静置することにより調製する方法が挙げられる。
口腔用組成物の構成物の最大粒度は、例えばニコチンが担持されたイオン交換樹脂の粒度、含水率等を調整することにより適宜増加/減少させることができる。
【0051】
[パウチ]
パウチ(包装材)は、口腔用組成物を包装することができ、水に溶解しないものであり、かつ、液体(水や唾液等)や組成物中の水溶性成分の透過性があることがあれば、特段制限されず、公知のものを用いることができる。パウチの材料としては、例えば、セルロース系の不織布等が挙げられ、市販の不織布を用いてもよい。このような材料からなるシートを袋形状に成形し、その中に上記の組成物を投入し、ヒートシール等の手段によりシールすることによりパウチ製品を作製することができる。
上記のシートの坪量は、特段制限されず、通常12gsm以上、54gsm以下であり、24gsm以上、30gsm以下であることが好ましい。
上記のシートの厚さは、特段制限されず、通常100μm以上、300μm以下であり、175μm以上、215μm以下であることが好ましい。
【0052】
パウチの内面及び外面の少なくとも一方に部分的に撥水材料が塗布されていてもよい。撥水材料としては撥水性フッ素系樹脂が好適である。具体的には、この種の撥水性フッ素系樹脂としては、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)が挙げられる。撥水性フッ素系樹脂は、例えば、菓子類、乳製品、惣菜、ファストフードやペットフードなどの油脂類を含んだ食品や製品のための包材に塗布されているものである。それ故、この種の撥水性フッ素系樹脂は、口腔内に置かれるパウチに塗布されても安全である。なお、この撥水材料としてはフッ素系樹脂に限ることなく、例えば、パラフィン樹脂、シリコン系樹脂又はエポキシ系樹脂等の撥水作用を有するものであればよい。
【0053】
パウチは、任意の成分を含んでいてよく、例えば、香りや味を調節する原料や、香料、添加物、たばこ抽出液、色素等が挙げられる。また、これらの成分を含有させる態様は特段制限されず、パウチ表面に塗布したり、しみこませたり、繊維からなる場合には該繊維に含有させる態様等が挙げられる。
さらに、パウチの外観も特段制限されず、非透明なものだけでなく、半透明や透明なものであってもよく、この場合には、パウチに包装される組成物が透けてみえる。
【0054】
[口腔用パウチ製品]
口腔用パウチ製品は、上記口腔用組成物と、該口腔用組成物を包装する上記パウチとを有するもの(上記のパウチに上記の口腔用組成物を封入したもの)であれば、特段制限されない。
口腔用パウチ製品のサイズや重量は、特段制限されず、使用前の口腔用パウチ製品のサイズは、長辺が25mm(28mm、35mm、38mm)以上、40mm以下としても
よく、28mm以上、38mm以下としてもよく、短辺が10mm以上、20mm以下としてもよく、14mm以上、18mm以下としてもよい。また、使用前の口腔用パウチ製品の重量は、0.1g以上、2.0g以下としてもよく、0.3g以上、1.0g以下としてもよい。
口腔用パウチ製品の全重量に対する口腔用組成物の重量の割合は、特段制限されないが、通常80重量%以上であり、85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、また、通常99重量%以下であり、97重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましい。
【0055】
本明細書における各特性の測定では、測定前に、測定する環境と同様の環境に測定サンプルを48時間以上保持する。また、測定温度、測定湿度、及び測定圧力については、特段特定されていない場合には、常温(22±2℃)、常湿(60±5%RH)、及び常圧(大気圧)とする。
【0056】
<口腔用パウチ製品の製造方法>
本実施形態に係る口腔用パウチ製品の製造方法(単に「製造方法」とも称する)は、少なくともニコチン、基材、糖アルコール、グリセリンの重合度が2以上10以下のポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を混合して口腔用組成物を製造する組成物製造工程、及び組成物製造工程で得られた口腔用組成物を包装材で包装し、口腔用パウチ製品を製造する包装工程を含む。
【0057】
[組成物製造工程]
組成物製造工程は、少なくともニコチン、基材、糖アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤を混合して上記の口腔用組成物を製造することができる限り、特段制限されない。例えば、全原料をミキサーに投入して混合することで、口腔用組成物を製造できるが、組成物製造工程の好適な態様は以下に示す通りである。なお、組成物製造工程における各原料としては、上述した各成分を用いることができる。
【0058】
まず、ニコチン、基材、糖アルコール、離型剤、並びに必要に応じて水及びその他の物質である甘味料、香料、保湿剤等を混合して第1の混合物を得る。このとき、必要に応じて加熱を施してもよい。また、各原料の混合の順序は、特段制限されず、任意の順序又は同時にミキサーに投入して混合してもよく、固形の原料を均一に混合した後に液体の原料を添加してさらに混合してもよく、好ましくは後者である。
【0059】
次に、得られた第1の混合物を撹拌しながら、第1の混合物にポリグリセリン脂肪酸エステル溶液を噴霧することで、第1の混合物とポリグリセリン脂肪酸エステルとを混合し、第2の混合物を得る。ポリグリセリン脂肪酸エステルがアンチケーキング効果を発揮するため、以降の工程において、ケーキングが生じにくくなる。上記ポリグリセリン脂肪酸エステル溶液の溶媒は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解させることができる限り特段制限されないが、エタノール等のアルコール溶媒であることが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステル溶液の溶媒を第2の混合物中に多量に残存させないため、第1の混合物にポリグリセリン脂肪酸エステル溶液を噴霧している間又は噴霧終了後に加熱処理を施してもよい。
【0060】
また、第2の混合物の調製後、第2の混合物を乾燥する処理を行ってもよい(乾燥工程)。その後、冷却する処理を行ってもよい。冷却は自然冷却でもよいし、何らかの冷却手段を用いて行ってもよい(冷却工程)。乾燥を行うことで、例えば第2の混合物の含水率を5~60重量%の間の所望の数値に調整することができる。これにより、目的物としての口腔用組成物における含水率の調整が容易になる。
【0061】
上記の工程(又は乾燥工程、冷却工程)で得られた混合物に、必要に応じてpH調整剤を含む水溶液、アセスルファムカリウム等の甘味料、メンソール等の香料、大豆レシチン等の苦味抑制剤、グリセリン等の保湿剤を添加し(添加剤添加工程)、所望の口腔用組成物を得る。
なお、上記の添加物等を添加する際には、固体でもよいし水に溶解した水溶液での添加でもよい。水溶液で添加する場合は、口腔用パウチ製品の最終水分含量になるように予め所定量の水に溶解して添加してもよい。
【0062】
[包装工程]
上記の組成物製造工程で得られた口腔用組成物を包装材で包装し、口腔用パウチ製品を得る(包装工程)。包装する方法は特段制限されず、公知の方法を適用することができ、例えば、袋形状の不織布に上記の口腔用組成物を投入した後シールする方法等、公知の方法を用いることができる。
包装工程において、包装材に口腔用組成物を投入した後、包装材をシールした後において、所望の水分含有率を有する口腔用組成物を得るため、さらに水を加えてもよい(水添加工程)。例えば、目的の口腔用組成物の水の含有率が50重量%であり、上記の組成物製造工程で得られた口腔用組成物の水の含有率が15重量%である場合、残りの35重量%分の水を添加する。
【0063】
<口腔用パウチ製品の用途>
口腔用パウチ製品の用途(使用態様)は、特段制限されないが、例えば、かみたばこやかぎたばこ、圧縮たばこ等の口腔用たばこ、またはニコチンパウチといわれる、ニコチン含有製剤等が挙げられる。これらは、口腔内で唇と歯茎の間に挿入し、味や香りを愉しむものである。
【実施例0064】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0065】
<口腔用組成物の製造I:ポリグリセリン脂肪酸エステル及び離型剤の効果の検討>
(実施例1)
まず、ニコチンポラクリレックス(Contraf nicotex社製のNicotine Polacrilex 20%) 10.2g、微結晶セルロース(MCC) 27.8g、マルチトール 38.5g、微粒二酸化ケイ素 2.1g、リン酸三ナトリウム 12.5g、香料 3.3g、及び増粘多糖類 2.1gを混合して混合物を得た。なお、微粒二酸化ケイ素の平均粒径D50は、3.3μmであった。
次に、得られた混合物を撹拌しながら、この混合物にジグリセリンモノオレエート(理研ビタミン株式会社製のポエムDO-100V)を約70重量%含有するエタノール溶液
約6mLを、ジグリセリンモノオレエートの当該混合物への添加量が3.5gとなるよう噴霧した。その後、加温によりエタノールを除去し、口腔用組成物を得た。
【0066】
(実施例2~5、比較例1)
口腔用組成物の組成が表1に示す通りとなるよう原料の使用量を変更した以外は、実施例1と同様にして口腔用組成物を得た。
【0067】
(比較例2)
ニコチンポラクリレックス(Contraf nicotex社製のNicotine Polacrilex 20%) 10.1g、微結晶セルロース(MCC) 23.5g、マルチトール 34.7g、リン酸三ナトリウム 12.4g、香料 3.3g、及び増粘多糖類 2.1gを混合した。混合を継続しながら、これらの混合物にグリセリン 13
.8gを加えてさらに混合することで、口腔用組成物を得た。
【0068】
(比較例2)
各原料の使用量を表1に示す通りに変更した以外は、比較例1と同様にして口腔用組成物を得た。
【0069】
(口腔用組成物の製造装置への付着性、粘性及びべたつき)
口腔用組成物の製造装置への付着性は、口腔用組成物を製造した後の製造装置に口腔用組成物が付着しているか否かを、口腔用組成物の粘性は、各成分が結着して一体となっているか否かを目視で観察することにより評価した。また、口腔用組成物のべたつきを、目視で観察することにより評価した。評価基準は下記の通りである。なお、下記評価基準において、S、A又はBであれば、実用上問題はない。
評価結果を表1に示す。
S:口腔用組成物の製造装置への付着がほとんど観察されなかった。また、口腔用組成物は、べたつきがなく、適度な粘性を有し、各成分が一体に結着していた。
A:口腔用組成物の製造装置への付着がほとんど観察されなかった。また、口腔用組成物にべたつきはないが、粘性がやや不足して各成分が一体に結着しておらず、ぱさつきがあった。
B:口腔用組成物の製造装置への付着がやや観察された。また、口腔用組成物は、粘性がやや高く各成分は一体に結着していたが、多少のべたつきがあった。
C:口腔用組成物の製造装置への付着が観察された。また、口腔用組成物は、過度な粘性を有し、各成分は一体に結着していたが、強いべたつきがあった。
【0070】
【表1】
【0071】
(結果)
表1より、口腔用組成物に、微粒二酸化ケイ素及びジグリセリンモノオレエートのうちいずれも配合されていない比較例1、及びジグリセリンモノオレエートのみ配合されている比較例2では、口腔用組成物の粘度が高く製造装置への付着が見られた。また、比較例
1、2で得た口腔用組成物は、べたつきが強かったことから、良好な使用感及び香味が得られないことがわかる。
【0072】
一方、微粒二酸化ケイ素及びジグリセリンモノオレエートの両者が配合された口腔用組成物は(実施例1~5)、粘度が適度な範囲内に調整されて各成分が一体に結着していた。また、口腔用組成物の製造装置への付着も生じておらず、高い製造効率を実現できることが示された。
さらに、表1より、微粒二酸化ケイ素に対するジグリセリンモノオレエートが少ないほどぱさつき易く、多いほどべたつき易いことが確認された。より具体的には、微粒二酸化ケイ素2.0重量%に対し、ジグリセリンモノオレエートの量を3.0~25.0重量%程度とすると、ぱさつき及びべたつきも実用上問題なく(実施例1~5)、5.0~15.0重量%とすることで、ぱさつき及びべたつきがなく、口触りといった使用感及び香味の良好な口腔用組成物が得られることがわかった(実施例2~4)。
【0073】
<口腔用組成物の作製II:ポリグリセリン脂肪酸エステルの種類の検討>
(実施例6~10)
オリゴグリセリン脂肪酸エステルを、ジグリセリンモノオレエートから表2に示すものに変更した以外は、実施例3と同様にして口腔用組成物を得た。
【0074】
(口腔用組成物の製造装置への付着性、粘性及びべたつき)
実施例1と同様の手法及び基準で、口腔用組成物の製造装置への付着性、粘性及びべたつきの評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2及び図1には、比較のため、実施例3、実施例1、及び比較例1の結果も併せて示す。
【0075】
(流動性)
垂直応力3~7kPaでの口腔用組成物の剪断応力を、レオメーターとしてフリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4を用い、下記の測定条件で測定した。
・測定モード:stantard program (25mm_shear_9kPa)
・測定温度:22℃
・測定湿度:60%RH
・測定容器:内径25mmの円筒容器、容積10ml
・垂直荷重:3~9kPa
測定原料をそれぞれ篩(1.18mm目開き)にかけ、粒子を細かく均一にしたものを測定サンプルとし、上記レオメーターの手順に沿って測定を行った。測定結果を表2及び図1に示す。なお、表2及び図1には、比較のため、実施例1~5のうち最も評価結果の高かった実施例3、多少ぱさつきのあった実施例1、多少べたつきのあった実施例5、及びべたつきが強かった比較例1の口腔用組成物の測定結果も併せて示す。
【0076】
【表2】
【0077】
(結果)
表2及び図1より、垂直応力5.0kPaでの剪断応力を比較すると、微粒二酸化ケイ素及びジグリセリンモノオレエートのいずれも含まず、強いべたつきがあった比較例1の口腔用組成物は5.89kPaと高く、多少べたつきのあった実施例5の口腔用組成物は比較例1よりも低い5.81kPaであり、多少ぱさつきのあった実施例1の口腔用組成物ではさらに低い4.25kPaであり、ぱさつき及びべたつきのない実施例3の口腔用組成物は、実施例1及び5の概ね中央値となる4.81kPaであった。
これらの結果から、べたつきが強いほど剪断応力が高く、ぱさつきが強いほど剪断応力が低いことが確認された。そして、口腔用組成物の剪断応力が、実施例1と実施例5における剪断応力の間、特に中央値付近であることにより、口腔用組成物の高い製造効率、良好な香味等を達成できることがわかった。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、ジグリセリンモノオレエートに代えてデカグリセリンラウレート、デカグリセリンオレエート、又はデカグリセリンステアレートを使用した場合にも(実施例6~8)、製造装置への付着がなく、剪断応力が実施例1及び5の口腔用組成物の間の値であった。これらの結果から、離型剤に加え、グリセリンの
重合度2以上10以下の種々のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、口腔用組成物の製造効率、香味等が向上することが示された。
【0078】
<口腔用パウチ製品の作製>
上記の各口腔用組成物を、例えば、0.65g/個となるように不織布(BFF technical fabrics社製、坪量27.0g/m)に投入した後、ヒートシールでシールして密封することにより口腔用パウチ製品を作製した。
【0079】
以上に示す通り、本発明によれば、べたつきが少なく、良好な香味を与えることのできる口腔用パウチ製品を提供することができる。
また、本発明によれば、口腔用パウチ製品の製造において、口腔用組成物の製造装置への付着等の不都合を軽減でき、かつ、口腔用パウチ製品の香味を改善することのできる方法を提供することができる。
図1