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特開2024-105741エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン、その製造方法、及び土壌侵食防止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105741
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン、その製造方法、及び土壌侵食防止剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 218/08 20060101AFI20240731BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20240731BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240731BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20240731BHJP
   C08K 5/46 20060101ALI20240731BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20240731BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C08F218/08
C08F210/02
C08L23/08
C08L31/04 S
C08K5/46
C08F2/22
C08F4/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085546
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純平
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB061
4J002BF031
4J002EV316
4J002FD186
4J002GL00
4J011AA05
4J011KA16
4J011KA29
4J011KB22
4J011KB29
4J015CA02
4J015CA05
4J100AA02Q
4J100AG04P
4J100CA04
4J100DA71
4J100FA02
4J100FA20
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】有効な防腐成分の保持性に優れるエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンを提供する。
【解決手段】本発明によれば、エチレン-酢酸ビニル系共重合体を含むエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンであって、前記エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンに防腐剤としてイソチアゾリノン誘導体を添加し、60℃の条件で48時間保管した場合に、保管後の前記防腐剤の減少率が50%以下である、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-酢酸ビニル系共重合体を含むエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンであって、
前記エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンに防腐剤としてイソチアゾリノン誘導体を添加し、60℃の条件で48時間保管した場合に、保管後の前記防腐剤の減少率が50%以下である、
エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン。
【請求項2】
イソチアゾリノン誘導体をさらに含む、請求項1に記載のエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン。
【請求項3】
エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンの製造方法であって、
重合工程を備え、
前記重合工程では、
エチレン及び酢酸ビニルを含む単量体混合物を、還元剤及び重合開始剤を含む重合液中で重合し、
前記還元剤は、二酸化チオ尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上を含み、
前記重合開始剤は、有機ラジカル重合開始剤及び無機ラジカル重合開始剤から選択される少なくとも1種以上を含み、
前記重合開始剤に対する前記還元剤の添加比率は、0.3~1.0(mol/mol)である、
製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンを含む土壌侵食防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン、その製造方法、及び土壌侵食防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-酢酸ビニル系(EVA系)エマルジョンは接着剤として、また土木建材分野、塗料分野、製紙分野、繊維分野、農業分野においても広く利用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4319779号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これまでのエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンは防腐性に問題があった。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、有効な防腐成分の保持性に優れるエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、エチレン-酢酸ビニル系共重合体を含むエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンであって、前記エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンに防腐剤としてイソチアゾリノン誘導体を添加し、60℃の条件で48時間保管した場合に、保管後の前記防腐剤の減少率が50%以下である、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンが提供される
【0007】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、イソチアゾリノン誘導体をさらに含む、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンである。
【0008】
本発明の別の観点によれば、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンの製造方法であって、重合工程を備え、前記重合工程では、エチレン及び酢酸ビニルを含む単量体混合物を、還元剤及び重合開始剤を含む重合液中で重合し、前記還元剤は、二酸化チオ尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上を含み、前記重合開始剤は、有機ラジカル重合開始剤及び無機ラジカル重合開始剤から選択される少なくとも1種以上を含み、前記重合開始剤に対する前記還元剤の添加比率は、0.3~1.0(mol/mol)である、製造方法が提供される。
【0009】
本発明の別の観点によれば、上記エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンを含む土壌侵食防止剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0011】
1.エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン
本発明の一実施形態に係るエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョン(以下、「EVAエマルジョン」とも称する)は、エチレン-酢酸ビニル系共重合体を含む。
【0012】
EVAエマルジョンは、防腐剤としてイソチアゾリノン誘導体を添加し、60℃の条件で48時間保管した場合に、保管後の防腐剤の減少率が50%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。特に、減少率は、防腐剤を1~200ppmの濃度となるように添加した場合に当該範囲で有ることが好ましく、防腐剤を30~80ppmの濃度となるように添加した場合に当該範囲で有ることがより好ましい。防腐剤の添加量との関係でこのような範囲であれば、防腐剤の添加量を抑制しつつ防腐効果を持続するEVAエマルジョンを提供することができる。
【0013】
ここで、防腐剤として添加されたイソチアゾリノン誘導体の含有量は、種々の方法で測定可能であるが、例えば、液体クロマトグラフィーにより測定することができる。このように測定した保管後の測定による含有量と初期値の添加量とに基づき減少率を算出することができる。
【0014】
エチレン-酢酸ビニル系共重合体は、エチレン単量体単位及び酢酸ビニル単量体単位を有する共重合体を含む。エチレン-酢酸ビニル系共重合体は、エチレン及び酢酸ビニルと共重合可能なその他の単量体に由来する単量体単位を有していてもよい。
【0015】
その他共重合可能な単量体としては、例えば、塩化ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、2-エチルヘキシルメタアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、スチレン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0016】
EVAエマルジョンは、防腐剤を含んでいてもよい。防腐剤は、例えば、イソチアゾリノン誘導体、ベンゾチアゾリノン誘導体、フェノール誘導体、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、チオゾアゾール誘導体、プロパンジオール誘導体等が挙げられる。イソチアゾリノン誘導体は、例えば、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CIT)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)、2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)等が挙げられる。
【0017】
EVAエマルジョンは、防腐剤を好ましくは1~200ppm含み、より好ましくは30~80ppm含む。このような範囲であれば、保管後も十分な防腐性が期待できる。このようなEVAエマルジョンは、防腐剤の添加後一定期間保管した場合(例えば、60℃の条件で48時間保管など)でも、防腐剤を好ましくは10~60ppm含む。
【0018】
また、EVAエマルジョンは、ポリビニルアルコール(以下「PVA」という。)やヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等の水溶性高分子、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン界面活性剤、ラウリル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩やメチルタウリン酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、リン酸エステル塩などのアニオン界面活性剤、ノニルフェニル系、ポリアルキレングリコール系、脂肪酸エステル系、等のノニオン界面活性剤、第4級アンモニウム塩やアミン塩類などのカチオン界面活性剤、その他の両性界面活性剤を含んでいてもよい。接着剤として使用する場合、トルエン不溶分を高め耐熱接着性に優れるという観点からは、PVAを含むことが好ましい。
【0019】
PVAとしては、通常使用されているものを用いることができ、例えば、平均重合度は200~4500、ケン化度についても特に制限なく、完全ケン化PVAや部分ケン化PVAやアセトアセチル基、スルホン基、カルボキシル基、アミド基等により変性もしくはオレフィンと共重合されたPVAを用いることができる。その中でもケン化度65~95%の部分ケン化PVAが特に有効に用いることができる。
【0020】
また、EVAエマルジョンは、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、硬化剤、可塑剤、粘着付与樹脂、増粘剤、消泡剤、pH調節剤等が挙げられる。
【0021】
2.エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンの製造方法
本発明の一実施形態に係るエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンの製造方法は、重合工程を備える。
【0022】
重合工程では、エチレン及び酢酸ビニルを含む単量体混合物を、還元剤及び重合開始剤を含む重合液中で重合する。
【0023】
還元剤は、二酸化チオ尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種以上を含む。二酸化チオ尿素の誘導体としては、N,N'-ジフェニルチオ尿酸、N,N'-ジベンジルチオ尿酸、N,N'-ジシクロヘキシルチオ尿素等のチオ尿素誘導体を過酸化水素で酸化させて得られたもの、特許2808489号公報のアミノ酸と二酸化チオ尿素を反応させて得られる水溶性の二酸化チオ尿素誘導体等が挙げられる。
【0024】
重合開始剤は、有機ラジカル重合開始剤及び無機ラジカル重合開始剤から選択される少なくとも1種以上を含む。有機ラジカル重合開始剤は、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンヒドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキシド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル、ビス(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。無機ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過硼酸カリウム等が挙げられる。中でも、過硫酸アンモニウム、t-ブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0025】
重合液に添加される重合開始剤に対する還元剤の割合である添加比率(還元剤/重合開始剤)は、EVAエマルジョンを60℃の条件で48時間保管した際の防腐剤の減少率を抑えられ、かつ、EVAエマルジョンの重合を安定して行うことができるという観点から、0.3~1.0(mol/mol)が好ましく、さらに0.4~8.0(mol/mol)である。添加比率は、具体的には例えば、0.30,0.35,0.40,0.45,0.50,0.55,0.60,0.65,0.70,0.75,0.80,0.85,0.90,0.95,1.00(mol/mol)であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
エチレン-酢酸ビニル系共重合体は、エチレン単量体単位及び酢酸ビニル単量体単位を有する共重合体を含む。エチレン-酢酸ビニル系共重合体は、エチレン及び酢酸ビニルと共重合可能なその他の単量体に由来する単量体単位を有していてもよい。
【0027】
重合工程における重合温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類により異なるが、例えば40~80℃とすることができる。重合はEVAエマルジョンに含有される未反応のモノマーが1質量%以下となるまで行うことが好ましい。
【0028】
重合方法は、乳化重合法を用いることができ、例えば、モノマー逐次添加法、一括仕込法、二段重合法等による乳化重合法が挙げられる。
【0029】
重合液には、乳化剤を添加することができる。乳化剤は、例えば、ポリビニルアルコール(以下「PVA」という。)やヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等の水溶性高分子、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン界面活性剤、ラウリル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩やメチルタウリン酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、リン酸エステル塩などのアニオン界面活性剤、ノニルフェニル系、ポリアルキレングリコール系、脂肪酸エステル系、等のノニオン界面活性剤、第4級アンモニウム塩やアミン塩類などのカチオン界面活性剤、その他の両性界面活性剤が挙げられる。中でも、PVAが好ましい(PVAについては上記と同様)。
【0030】
防腐剤の混合方法は特に限定されないが、高温下では防腐剤が消失することであるので、防腐剤を添加するときのEVAエマルジョンは、40℃以下、pH4~7であることが好ましい。また、EVAエマルジョンに防腐剤以外の添加剤を添加する場合、添加剤の種類によっては防腐剤が消失することがあるので、防腐剤以外の添加剤を添加後、15分程度間隔を空けてから、防腐剤を添加するのが好ましい。
【0031】
3.その他
本発明の一実施形態に係る土壌侵食防止剤は、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジョンを含む土壌侵食防止剤である。必要に応じて、可塑剤、粘着付与樹脂、増粘剤、消泡剤、pH調節剤、腐植酸、アミノ酸、除草剤、農薬等を配合することができる。
【0032】
土壌侵食防止剤を土壌に散布する方法に特に制限はないが、例えば、小面積に散布する場合では、じょうろや動力散布機等を使用することができ、大面積を散布する場合ではハイドロシーダーやブームスプレーヤ等を使用することができる。また、散布された土壌侵食防止剤は粉粒状堆積物に、粉粒状堆積物の粉粒体と土壌侵食防止剤とからなる固結層を形成する役割を果たすとともに、固結層に流入した雨水を保持し、固結層下に存在する粉粒状堆積物へ流入する水量を少なくすることにより、粉粒状堆積物の崩れ、流出防止に効果を示しうる。また、固結層を形成することにより、粉塵発生の防止にも効果を示しうる。
【0033】
また、土壌侵食防止剤は、保護すべき面に対して単独で吹き付けてもよく、土壌を主体とし、種子、バーク堆肥、又は肥料などを混合した吹付資材に配合して吹付資材と共に保護すべき面に対して吹き付けてもよい。吹付資材を対象面に吹き付ける工法に特に制限はなく、例えば、種子散布工、客土吹付工、基材吹付工などを挙げることができ、あるいは、対象面が広大な場合には、ヘリコプターなどの航空機から実播して吹き付けることもできる。
【実施例0034】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。また、これらはいずれも例示的なものであって、本発明の内容を限定するものではない。
【0035】
<EVAエマルジョンの調整>
表1の重合処方に基づき、次の方法によりEVAエマルジョンを調整した。
[実施例1]
攪拌機付きの高圧重合缶に、予め100質量部の純水に乳化剤としてポリビニルアルコール(デンカポバールB-05(鹸化度88mol%、平均重合度600、デンカ株式会社製)4.1質量部及びデンカポバールB-17(鹸化度88mol%、平均重合度1700、デンカ株式会社製)1.5質量部)、還元剤として二酸化チオ尿素0.076質量部、酢酸ソーダ0.21質量部、硫酸第一鉄七水和物0.0052質量部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム0.01質量部を溶解したものを投入後、攪拌下で酢酸ビニルモノマー83質量部及びエチレン20質量部を充填し内液温度を55℃とした後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム水溶液を連続添加し重合を行った。高圧重合缶内の圧力が4.3MPaまで低下した時点から、酢酸ビニルモノマー26質量部を2時間かけて分添した。重合末期に重合開始剤としてt-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を添加し、未反応の酢酸ビニルモノマー量が2%未満になるまで重合を継続した。重合後に残存するエチレンをパージし、生成したエマルジョン中の未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧除去した結果、未反応の酢酸ビニルモノマーが0.5%以下の樹脂エマルジョンを得た。
得られた樹脂エマルジョンの固形分率をJIS K 6828に準じて測定した。乾燥条件は、105℃で3時間とした。固形分率は55%であった。
【0036】
[実施例2、比較例1、参考例1]
表1に示す通り、二酸化チオ尿素、過硫酸アンモニウム、t-ブチルハイドロパーオキサイドの添加量を変える以外は、実施例1と同様の方法でEVAエマルジョンを調整した。
【0037】
【表1】
【0038】
<試験方法>
EVAエマルジョンに添加した防腐剤の減少率について以下の方法で試験した。
まず、調整した上記EVAエマルジョンに、防腐剤としてイソチアゾリノン誘導体をM(防腐剤初期含有量)となるように添加した。そして、防腐剤を添加したEVAエマルジョンを、60℃の条件で48時間保管し、保管後の防腐剤成分として、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CIT)及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)それぞれの残存量M(防腐剤60℃×48h後残存量)を測定した。減少率は、下記の式に基づき算出した。
減少率(%)=100×(M/M
【0039】
EVAエマルジョン中の残存量Mは、EVAエマルジョンを移動相溶媒(メタノール/水=15/85(wt%))で10倍希釈した後、遠心分離(24000rpm×20分間)を行い、上澄み液を0.45μmシリンジフィルターでろ過したものを測定試料として、下記条件による液体クロマトグラフィーを用いて、絶対検量線法により測定した。測定結果を表2に示す。
・移動相:メタノール/水=15/85(wt%)
・カラム:ODSカラム(長さ×直径:150×φ6mm、粒子径:5μm)
・分析波長:275nm
・カラム温度:35℃
・カラム流量:1.0ml/min
・注入量:20μl
【0040】
表2における各成分は次の通りである。
<還元剤>
FAS:二酸化チオ尿素 分子量108.12g/mol
<重合開始剤>
APS:過硫酸アンモニウム 分子量228.18g/mol
PBH:t-ブチルハイドロパーオキサイド 分子量90.12g/mol
<防腐剤>
LA5008:ソー・ジャパン株式会社製 ACTICIDE LA5008
(ACTICIDEは登録商標)
なお、上記LA5008は、下記のCIT及びMITを含む。
CIT:5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン
MIT:2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン
【0041】
表2に、還元剤と重合開始剤の添加量と、重合挙動及び防腐剤の含有量の経時変化について示す。
【表2】
【0042】
重合開始剤に対する還元剤の比率(「還元剤/重合開始剤比」)が所定の範囲内である実施例1~2においては、重合反応が進行し(重合挙動:○)、防腐剤の減少率を低く抑えることができた。一方、「還元剤/重合開始剤比」が高い比較例1では、重合反応は進行したものの(重合挙動:○)、防腐剤減少率が高かった。また、「還元剤/重合開始剤比」が低い参考例1では、重合反応が途中で停止してしまったため(重合挙動:×)目的とするEVAエマルジョンが得られなかった。