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特開2024-105958プリプレグ及び炭素繊維強化プラスチック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105958
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】プリプレグ及び炭素繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
C08J5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009980
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】599011377
【氏名又は名称】株式会社アルメディオ
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典之
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 一貴
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AB10
4F072AB22
4F072AB33
4F072AD28
4F072AE01
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH21
4F072AH48
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】破壊靭性等の物理的強度が強く、安価で製造コスト的に有利なプリプレグ、及び、該プリプレグを用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を提供すること。
【解決手段】強化繊維としての炭素繊維、及び、「炭素質物群が熱硬化性樹脂に分散状態で含有されてなるマトリックス」を有するプリプレグであって、該炭素質物群は、繊維状炭素を粉砕して得られる、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群であることを特徴とするプリプレグ、該プリプレグを、2枚以上20枚以下で積層した後、加熱硬化してなるものである炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、並びに、該炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を有してなるものである、移動体の筐体又はスポーツ若しくはレジャー用品。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維としての炭素繊維、及び、「炭素質物群が熱硬化性樹脂に分散状態で含有されてなるマトリックス」を有するプリプレグであって、
該炭素質物群は、繊維状炭素を粉砕して得られる、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記カーボンナノファイバー群が、繊維状炭素を数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕をした後に、湿式粉砕をすることによって得られるものである請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記カーボンナノファイバー群が、ピッチ系繊維状炭素を原料として粉砕をすることによって得られるものである請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記カーボンナノファイバー群の原料である前記ピッチ系繊維状炭素が、メソフェーズピッチ系繊維状炭素である請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記メソフェーズピッチ系繊維状炭素が、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素である請求項6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を構成するフィラメントを構成する素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下である請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記フィラメントを構成する前記素フィラメントが2本以上20本以下の範囲で集合して前記カーボンナノファイバーが構成されている請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記乾式粉砕と前記湿式粉砕の間に加熱処理を行って混在樹脂を除去する請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記湿式粉砕が、界面活性剤Aが存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記界面活性剤Aの存在量が、前記繊維状炭素100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下である請求項11に記載のプリプレグ。
【請求項13】
更に、前記湿式粉砕をした後に得られる、カーボンナノファイバー群のスラリーの中に、金属含有凝集防止剤、コブロックポリマー、櫛型コブロックポリマー、及び、界面活性剤Bからなる群より選ばれた1種又は2種以上の凝集防止剤を含有させて凝集防止処理を行う請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記凝集防止剤を、湿式粉砕後のスラリー全体に対して、0.0001質量%以上0.1質量%以下で加える、又は、カーボンナノファイバー群である凝集防止対象物の全体量に対して、0.001質量%以上1質量%以下で加える請求項13に記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、ベンゾオキサジン樹脂、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項16】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂が1種又は2種以上のエポキシ樹脂からなり、該エポキシ樹脂全体の粘度が、60℃で、30Pa・s以上80Pa・s以下である請求項15に記載のプリプレグ。
【請求項17】
前記熱硬化性樹脂が2種以上のエポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂が、20℃で液体のビスフェノール型エポキシ樹脂、及び、20℃で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂全体で、エポキシ当量300g/eq以上550g/eq以下である請求項15に記載のプリプレグ。
【請求項18】
前記炭素質物群が、前記熱硬化性樹脂に、該炭素質物群と該熱硬化性樹脂の合計質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で分散状態で含有されている請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項19】
前記マトリックスを、前記プリプレグ全体に対して、25質量%以上50質量%以下で有する請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項20】
「前記炭素質物群と前記熱硬化性樹脂の合計」を、前記プリプレグ全体に対して、25質量%以上50質量%以下で有する請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項21】
繊維目付(FAW(Fiber Areal Weight))が、50g/m以上500g/m以下である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項22】
請求項1ないし請求項21の何れかの請求項に記載のプリプレグを、2枚以上20枚以下で積層した後、加熱硬化してなるものであることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック(CFRP)。
【請求項23】
請求項22に記載の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を有してなるものであることを特徴とする移動体の筐体又はスポーツ若しくはレジャー用品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維として炭素繊維を用い、マトリックスとして「特定の炭素質物群が分散状態で含有されている熱硬化性樹脂」を用いたプリプレグに関し、また、該プリプレグから得られる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの節約、環境負荷の低減等が叫ばれており、例えば、自動車、航空機、船舶等の移動体;土木建築材料;スポーツ用品;レジャー用品;等に使用される材料として、強度が高く、軽量で安価な材料が望まれている。
【0003】
中でも、自動車業界では、EV(電気自動車)、自動運転等の開発が加速しており、それに伴い、自動車の筐体(ボディー)や、その部品若しくは一部として、軽量で安価であると共に、靭性等の物理的強度が高い材料が望まれている。
【0004】
また、例えば、航空機業界では、航空機の筐体(ボディー)や、その部品若しくは一部の軽量化が強く望まれており、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量であるにもかかわらず、物理的強度が比較的高いために特に注目されている。
【0005】
一般に、炭素繊維や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(carbon fiber reinforced plastics)は、軽量であり、強靭さとしなやかさを合わせ持っているため、金属や金属含有樹脂等の代替として広く利用されている。
【0006】
中でも最も短い炭素繊維は、ミルドファイバーとも言われ、一般には平均繊維長は70μm~200μmであり、平均繊維径は約3μm~20μm(3000nm~20000nm)であり、その形状(サイズ)の小ささから、補強材、研磨剤等に利用されている。
【0007】
ミルドファイバーより長い平均繊維長を持つチョップドファイバーや長繊維は、プリプレグ、フォージド等の成型品に用いられることが主流である。
また、これ以外のサイズとして、ミルドファイバーを更に粉砕し、繊維長を短くした微粒CFRPは、例えばコンクリートの補強材等に利用されている。
【0008】
しかし、これらは、短くなるほど加工性が難しくなり、粉砕された後も凝集し易くなることから、良分散が要求される分野には、現在のところ利用できていない。
【0009】
炭素繊維の実際の分散性(1本1本で存在しているか否か)や、該炭素繊維の利用価値(実際に利用できる状態で存在しているか否か)から離れて、単純にその形状(サイズ)のみから定義すると、現在の一般的定義では、「直径3μm~10μm、長さ500μm~10000μmと定義されているカーボンファイバー」;「直径50nm~1000nm、長さ0.2μm~200μmのカーボンナノファイバー」;「直径0.4nm~100nm、長さ50nm~20000nmのカーボンナノチューブ」が知られている。
【0010】
炭素繊維の直径やアスペクト比が記載された文献はあるが、現在のところ、本発明における「カーボンナノファイバー群」のように、形状(サイズ)が実際に小さく、特にアスペクト比が非常に大きく、かつ、略1本ずつ単離(分離)可能な状態になっているか、又は、略1本ずつ分散媒等に(安定的に)分散可能な状態になっているカーボンナノファイバー群は存在しない。
【0011】
現在のところ、カーボンナノファイバーとして上記で定義される形状(サイズ)であって、分離・分散良好なカーボンナノファイバー群は、厳密には存在しないことに加え、該カーボンナノファイバーサイズの繊維状炭素の利用度は、その分散性又は再分散性が悪い等のために極めて低いのが現状である。
【0012】
また、アスペクト比が大きいナノサイズの繊維状炭素が分散している、又は、それが分散可能な状態になっているものは、少なくとも、市場には(商業的には)存在しない。その理由は、原料となる繊維状炭素の粉砕時に、特異的に縦にきれいに割る、言い換えれば、フィラメントから素フィラメントを好適に剥離させる、ことができていないからだと考えられる。
【0013】
一方、粉砕ではなく気相法で製造された気相法炭素繊維(vapor grown carbon fiber)では、上記した「カーボンナノファイバーのサイズ」になるものもあるが、製造コストが極めて高価になることに加え、分散媒やマトリックス樹脂に対する分散性が悪く、該分散性については改良の余地もなく、プリプレグ、塗料、種々の構造体等において分散体として使用できるものはなかった。
すなわち、主たる(汎用の)製造方法である気相法で製造される炭素質物であって、定義上カーボンナノファイバーと言われているものは、分散性が悪く、製造コストも高く、所謂「分散性の材料(炭素質物)」として劣っている。
【0014】
一方、マトリックスに微粒子が含有され、該マトリックスと強化繊維(骨材)を組み合わせたプリプレグとしては、幾つかの技術が知られている。
【0015】
特許文献1には、強化繊維として長繊維を用い、「樹脂微粒子」及び「該樹脂微粒子より弾性率の高い樹脂を素材とする樹脂微粒子」の2種の樹脂微粒子を含有する熱硬化性樹脂をマトリックスとして用い、該「2種の樹脂微粒子」を、該プレプレグの表面に局在化させたプレプレグが記載されている。
【0016】
しかしながら、マトリックスに分散された微粒子は有機高分子である樹脂であることに加え、該微粒子の形状も特定されておらず(考慮されておらず)、そのため、優れた物理的強度が出せるものではなかった。
【0017】
特許文献2には、強化繊維として炭素繊維を用い、マトリックスとして、エポキシ樹脂、特定の骨格を有する熱可塑性樹脂、芳香族アミン化合物、及び、特定の数平均粒径を有する粒子を用いたプレプレグが記載されており、該粒子は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を特定の比率で含む粒子であることが必須である。
【0018】
これによって、該プレプレグを自動積層装置を用いて積層する際に、装置内に、炭素繊維やマトリックスの一部が付着して堆積することが防止できるとしている。また、該粒子の含有によって、耐衝撃性が向上するとしている。
【0019】
しかしながら、マトリックスに分散されている該粒子は有機高分子である樹脂であることに加え、該微粒子の形状も特定されておらず(考慮されておらず)、そのため、優れた「靭性等の物理的強度」が出せるものではなかった。
【0020】
特許文献3には、強化繊維として炭素繊維を用い、マトリックスとして、エポキシ樹脂と樹脂粒子を含んでなるプレプレグであって、該樹脂粒子の平均粒子径、並びに、該プリプレグの最大引張伸度、亀裂を発生させ進展させたときの開口角度、及び、最大荷重と引張弾性率を特定したプレプレグが記載されており、該樹脂粒子として、エポキシ樹脂不溶性粒子、ポリアミド粒子、結晶性樹脂粒子等が好適である旨が記載されている。
【0021】
これによって、該樹脂粒子が層間粒子として作用して、高いモードI層間靭性(GIc)を有するプリプレグが得られるとしている。
【0022】
しかしながら、マトリックスに分散されている該粒子は有機高分子である樹脂であることに加え、該微粒子の形状も特定されておらず(考慮されておらず)、そのため、優れた「靭性等の物理的強度」が出せるものではなかった。
【0023】
上記したプリプレグ中の樹脂微粒子に代えて、炭素粒子を用いる技術も知られている。
特許文献4には、硬化性マトリックス樹脂で含浸された少なくとも2つの補強繊維の層と、該層の間の領域を有する硬化性複合材料であって、該層間領域は、(i)硬化性マトリックス樹脂の中に分散された炭素を主成分とするナノサイズ構造体と、(ii)前記硬化性マトリックス樹脂中に埋め込まれた不溶性ポリマー系強化用粒子とを含有しており、該炭素を主成分とするナノサイズ構造体は100nm(0.1μm)より小さい少なくとも一方向の寸法を有しており、該ポリマー系強化用粒子は該マトリックス樹脂に不溶であり、硬化後に離散粒子として残存し、衝撃後圧縮強度(CAI)とモードI(GIC)の層間破壊靭性が高い硬化性複合材料が記載されている。
【0024】
特許文献4では、該ポリマー系強化用粒子の含有が必須であり、好ましい「炭素を主成分とするナノサイズ構造体」の種類については全く記載(特定)されておらず、しかも、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましいと記載されている。
更に、特許文献4の[0100]、図9A図9Bは、ポリマー系強化用粒子なしの積層体にCNTを添加しても(対照4)、未修飾の積層体(対照2)と比較して、性能に関して殆ど改善がみられないことを示している。すなわち、該ポリマー系強化用粒子が配合されていないものでは、CNT配合の効果が得られない旨記載されている。
【0025】
一般に、上記したカーボンナノチューブ(CNT)や、前記したような公知の(汎用の)カーボンナノファイバー(CNF)は、極めて高価であることに加え、マトリックス樹脂に対する分散性が極めて悪く、好適に、プレプレグや、該プリプレグを用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が製造できなかった。
【0026】
そのため、結果として、十分に高い層間破壊靭性を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ができなかった。
具体的には、亀裂進展初期の開口モード(GIc)、亀裂進展過程の開口モード(GIR))、亀裂進展初期の剪断モード(GIIc)等の層間破壊靭性が高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開平07-041577号公報
【特許文献2】国際公開第2019/098243号公報
【特許文献3】特開2019-156981号公報
【特許文献4】国際公開第2015/130368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、破壊靭性等の物理的強度が強く、安価で製造コスト的に有利なプリプレグ、及び、該プリプレグを用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、強化繊維として炭素繊維を用い、マトリックスのベース樹脂として熱硬化性樹脂を用いた系において、該マトリックスの中に、繊維状炭素を粉砕して得られる「特定サイズ又は特定サイズ分布のカーボンナノファイバー(CNF)群」を分散させれば、該カーボンナノファイバー(CNF)群の分散性が良好で、該カーボンナノファイバー(CNF)群の製造コストが低減でき、その結果、物理的強度が強い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、及び、該炭素繊維強化プラスチック(CFRP)用のプリプレグが得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0030】
すなわち、本発明は、強化繊維としての炭素繊維、及び、「炭素質物群が熱硬化性樹脂に分散状態で含有されてなるマトリックス」を有するプリプレグであって、
該炭素質物群は、繊維状炭素を粉砕して得られる、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群であることを特徴とするプリプレグを提供するものである。
【0031】
また、本発明は、前記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である前記のプリプレグを提供するものである。
【0032】
また、本発明は、前記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下である前記のプリプレグを提供するものである。
【0033】
また、本発明は、前記カーボンナノファイバー群が、繊維状炭素を数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕をした後に、湿式粉砕をすることによって得られるものである前記のプリプレグを提供するものである。
【0034】
また、本発明は、前記カーボンナノファイバー群が、ピッチ系繊維状炭素を原料として粉砕をすることによって得られるものである前記のプリプレグを提供するものである。
【0035】
また、本発明は、前記カーボンナノファイバー群の原料である前記ピッチ系繊維状炭素が、メソフェーズピッチ系繊維状炭素である前記のプリプレグを提供するものである。
【0036】
また、本発明は、前記メソフェーズピッチ系繊維状炭素が、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素である前記のプリプレグを提供するものである。
【0037】
また、本発明は、前記湿式粉砕が、界面活性剤Aが存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である前記のプリプレグを提供するものである。
【0038】
また、本発明は、前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂である前記のプリプレグを提供するものである。
【0039】
また、本発明は、前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂が1種又は2種以上のエポキシ樹脂からなり、該エポキシ樹脂全体の粘度が、60℃で、30Pa・s以上80Pa・s以下である前記のプリプレグを提供するものである。
【0040】
また、本発明は、前記熱硬化性樹脂が2種以上のエポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂が、20℃で液体のビスフェノール型エポキシ樹脂、及び、20℃で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂全体で、エポキシ当量300g/eq以上550g/eq以下である前記のプリプレグを提供するものである。
【0041】
また、本発明は、前記炭素質物群が、前記熱硬化性樹脂に、該炭素質物群と該熱硬化性樹脂の合計質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で分散状態で含有されている前記のプリプレグを提供するものである。
【0042】
また、本発明は、前記のプリプレグを、2枚以上20枚以下で積層した後、加熱硬化してなるものであることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を提供するものである。
【0043】
また、本発明は、前記の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を有してなるものであることを特徴とする移動体の筐体又はスポーツ若しくはレジャー用品を提供するものである。
【発明の効果】
【0044】
強化繊維としての炭素繊維を用い、マトリックスとして熱硬化性樹脂を用いたプリプレグにおいて、該熱硬化性樹脂の中に、繊維状炭素を粉砕して得られる「特定のサイズ・形状・形状分布を有するカーボンナノファイバー群」を含有させると、該カーボンナノファイバー群が含有されていないものに比べて、格段に物理的硬度が高くなった。
本発明のプリプレグを積層し加熱硬化してなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、物理的強度が極めて高い。
【0045】
従来の、殆ど気相法で得られるカーボンナノファイバー(群)は、サイズ的にはカーボンナノファイバー(CNF)と言われるものであった(CNFに分類されていた)としても、そもそもマトリックス中に分散し難かった。少なくとも、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の物理的強度を高くさせる程には分散性が良くなかった。
【0046】
また、カーボンナノファイバー(CNF)に代えて、カーボンナノチューブ(CNT)を用いても、CNTはマトリックス中に分散し難く、また、そのサイズでは、後述する「アンカー効果」が得られない等のため、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の物理的強度を高くさせることはできない。
すなわち、カーボンナノチューブ(CNT)は、直径(繊維径)が細く分散性が悪く、長さが短いために「強化繊維としての炭素繊維」との相互作用も少ないため、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が破断し易い。
【0047】
本発明によれば、特定の繊維状炭素を粉砕して得られる(粉砕法で得られる)特定のカーボンナノファイバー(群)を用いることで、従来ない程に分散性が良くなり、その結果、それが分散されたマトリックス樹脂を用いたプリプレグを積層・加熱硬化してなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、物理的強度が極めて高くなった。
また、カーボンナノチューブ(CNT)に比較して、直径(繊維径)が太く分散性が良く、そのため、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が破断し難い。
【0048】
更に、従来の気相法で得られたカーボンナノファイバー(CNF)や、全てのカーボンナノチューブ(CNT)は、分散性が悪いことに加え、製造コストがかかり、高価格となり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)としては、現実的ではなかった。
特に、移動体の筐体(ボディー)用としては、上記CNFやCNTは、量産化ができないため、必然的に供給能力を満たすことはできない。
【0049】
一方、本発明におけるカーボンナノファイバー(CNF)は、粉砕(装置)のみで安価に量産が可能なので、大量に使用する移動体の筐体(ボディー)用として特に好適である(マッチングしている)。本発明は、移動体の筐体(ボディー)用の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)としては、初めての現実的な技術である。
【0050】
本発明によれば、粉砕法によるため製造コストがかからずに、カーボンナノファイバー(CNF)が得られるので、コスト的に初めて現実的なものとなった。
特に、移動体の筐体(ボディー)は、使用する体積(質量)が大きいため、その製造コストには敏感であるところ、本発明によれば、安価なプリプレグや、それを使用した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ができるので、特にその用途に対しては、本発明によって初めて現実的なものとなった。
なお、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のマトリックスに含有させるためのカーボンナノファイバー(CNF)群に関し、「粉砕法によって、本願発明の特定サイズ(分布)のカーボンナノファイバー(CNF)群が好適に得られること」自体、従来は知られていなかった。
【0051】
また、本発明における特殊なカーボンナノファイバー(CNF)は、アスペクト比が極めて大きいので(図9参照)、それを分散させた熱硬化性樹脂であるマトリックスで「強化繊維としての炭素繊維」を覆うことによって、該カーボンナノファイバー(CNF)と「強化繊維としての炭素繊維」が相互作用して「層間破壊靭性を含む物理的強度」が高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が得られた。なお、該相互作用としては、図2図12図13に示したように、カーボンナノファイバー(CNF)によるアンカー効果が考えられる。
【0052】
本発明によれば、具体的には、亀裂進展初期の開口モード(GIc)、亀裂進展過程の開口モード(GIR)、亀裂進展初期の剪断モード(GIIc)等の層間破壊靭性が極めて高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が得られる。
【0053】
すなわち、軽量で高いアスペクト比をもった「本発明における特定のカーボンナノファイバー(CNF)」を含有させることによって、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を軽量化させた上での層間高靭性化が、該CFRPの炭素繊維束内に「本発明における特定のカーボンナノファイバー(CNF)」が入り込んだことによるアンカー効果により達成できた(図2図12図13参照)。
一方、カーボンナノチューブ(CNT)では、その長さが短過ぎる等のために、該アンカー効果が得られない。
【0054】
本発明における「カーボンナノファイバー群」のように、アスペクト比が極めて大きい炭素質物群が、安定して良分散している「組成物、又は、成型体若しくは塗膜、又は、分散液若しくは塗料」は、何れも知られていない。
本発明によれば、「小サイズ(分布)であるにもかかわらず『熱硬化性樹脂からなるマトリックス』に対する分散性が良く、アンカー効果が得られる程にアスペクト比が大きく、コスト的にも有利な『粉砕法で得られる特定サイズ分布のカーボンナノファイバー(CNF)群』」を用いることによって、層間破壊靭性が極めて高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が得られる。
【0055】
本発明においては、更に、マトリックスを構成する熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を用いることによって、上記効果は助長される。
更に、マトリックスに関して、未硬化の(硬化前の)エポキシ樹脂の粘度を特定の範囲に調整したり、特定の型(化学構造)のエポキシ樹脂を用いたり、複数種類のエポキシ樹脂を混合して併用したり、特定範囲のエポキシ当量のエポキシ樹脂(の混合)を用いたりすることで、上記したカーボンナノファイバー群との相乗効果で、層間破壊靭性が極めて高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明のプリプレグの構成・製造方法と、それに次ぐ、該プリプレグを用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の構成・製造方法を示す概略断面図である。
図2】本発明のプリプレグと炭素繊維強化プラスチック(CFRP)における、特定のカーボンナノファイバー(CNF)(群)の、マトリックス中での分散状態や、「強化繊維としての炭素繊維」との相互作用を示す概略斜視図である。
図3】粉砕前の原料であるメソフェーズピッチ系繊維状炭素の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 (左)ラジアル型メソフェーズピッチ系繊維状炭素 (中)本発明において原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素 (右)オニオン型メソフェーズピッチ系繊維状炭素
図4】メソフェーズピッチ系繊維状炭素の横断面の概略図である。 (a)(a’)本発明において原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素 (b)ラジアル型メソフェーズピッチ系繊維状炭素 (c)オニオン型メソフェーズピッチ系繊維状炭素
図5】本発明において原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素1本の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6】原料として使用することが好ましいランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素(粉砕前)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)400倍 (b)1300倍
図7】本発明における乾式粉砕後の繊維状炭素の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)600倍 (b)1500倍
図8】本発明における湿式粉砕の途中の光学顕微鏡(生物顕微鏡)による700倍の写真である(参考図)。
図9】本発明における湿式粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)1500倍 (b)6500倍
図10】本発明において、原料として使用する(ランダム型)メソフェーズピッチ系繊維状炭素のフィラメントの製造工程を示す模式図である。
図11】本発明において、乾式粉砕に用いられる装置の一例を示す概略図である。
図12】本発明のプリプレグを用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の、亀裂進展初期の開口モード(GIc)(左図)、及び、亀裂進展初期の剪断モード(GIIc)(右図)の測定において、特定のカーボンナノファイバー(CNF)(群)がアンカー効果を奏することを示す概念断面図である。
図13】強化繊維としての炭素繊維に、特定のカーボンナノファイバー(CNF)(群)が相互作用(アンカー効果等)をして靭性(強度)を上げていることを示す、本発明の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の概略拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0058】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、強化繊維としての炭素繊維、及び、「炭素質物群が熱硬化性樹脂に分散状態で含有されてなるマトリックス」を有するプリプレグであって、
該炭素質物群は、繊維状炭素を粉砕して得られる、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群であることを特徴とする。
【0059】
<定義>
以下、本発明における「繊維状炭素を粉砕して得られる、『直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲』に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群」を、単に、「特定カーボンナノファイバー群」、又は、「特定CNF群」と略記する場合がある。
また、カーボンナノファイバー群を構成する炭素質物を、単に、「カーボンナノファイバー」、又は、「CNF」と略記する場合がある。
また、カーボンナノチューブを、単に、「CNT」と略記する場合がある。
【0060】
また、硬化剤が含有されていてもよい未硬化の熱硬化性樹脂をフィルム状にしたものを、「レジンフィルム」と略記する場合がある。
また、「強化繊維としての炭素繊維」の繊維目付(Fiber Areal Weight)を、単に、「FAW」と略記する場合がある。
また、炭素繊維強化プラスチックを、単に、「CFRP」と略記する場合がある。
【0061】
<プリプレグの構成・製造、CNFの分散方法>
本発明のプリプレグは、図1に示したように、強化繊維としての炭素繊維に、「特定CNFが分散した熱硬化性樹脂」が含浸されてなるものである。なお、特定CNFを分散させる際の熱硬化性樹脂は、未硬化のものである。
該含浸の方法としては、特に限定はなく、ホットメルト法、溶液付与法、レジンフィルムで「強化繊維としての炭素繊維」を挟み込む方法等が好適に用いられる。限定はされないが、中でも、レジンフィルムで「強化繊維としての炭素繊維」を挟み込む方法が、CNFが該炭素繊維間に侵入し易い点で好ましい。
【0062】
なお、本発明に好適な、熱硬化性樹脂の、好ましい型(化学構造の種類)、好ましい未硬化の熱硬化性樹脂の物性・構成;硬化剤の種類;等については後述する。
【0063】
熱硬化性樹脂中への特定CNFの分散は、特に限定はなく、常法により行うことができる。すなわち、例えば、加熱等して適度な粘度に設定した「未硬化の熱硬化性樹脂」中に、ニーダー、3本ロール、プラネタリーミキサー、撹拌羽根付き撹拌機等を用いて、分散させることができる。
また、熱硬化性樹脂を溶液として、そこに「カーボンナノファイバー群」を加えて撹拌して分散させた後に溶媒を留去する方法等も挙げられる。
【0064】
特定CNFを未硬化の熱硬化性樹脂や硬化剤中等に分散させる前に、該特定CNFの粉末に対して表面処理を行うことも好ましい。該表面処理としては、公知の方法が挙げられる。
【0065】
また、特定CNFの分散は、未硬化の熱硬化性樹脂中へ行ってもよいし、該熱硬化性樹脂の硬化剤や硬化助剤・硬化促進剤中へ行ってもよいし、別途、該未硬化の熱硬化性樹脂の一部を取り出して、そこに分散させてもよい。限定はされないが、粘度が高いこと、分散媒としての体積・質量が大きいこと等から、未硬化の熱硬化性樹脂中に分散させることが好ましい。
なお、特定CNFについては、後で詳述する。
【0066】
<<強化繊維としての炭素繊維>>
本発明における「強化繊維としての炭素繊維」としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、種々の(あらゆる)弾性率タイプの炭素繊維等が挙げられる。
【0067】
「強化繊維としての炭素繊維」の種類は、特に限定はなく、撚りあり・撚りなし・撚り戻し等のフィラメント;多数のフィラメントから構成されるトウ;紡績により得られるステープルヤーン;チョップド糸;サイジング剤での集束の有り若しくは無しの長繊維状原糸若しくは短繊維状原糸;それらの束;等が挙げられる。
中でも、多数の撚りなしフィラメントから構成されるトウが、含浸、開繊等の点から好ましい。
【0068】
本発明において、「強化繊維としての炭素繊維」の太さ(直径)は、特に限定はないが、3μm以上20μm以下が好ましく、4μm以上15μm以下がより好ましく、5μm以上12μm以下が特に好ましい。
太さ(直径)が細過ぎると、強度が低くなる場合等があり、一方、太過ぎると、しなやかさに欠け、座屈する場合等がある。
【0069】
本発明において、強化繊維として用いる際の上記炭素繊維の形状・構成としては、特に限定はなく、一方向に引き揃えたり、織ったり、編んだり、ランダムに紙状にしたりしたものが挙げられる。
限定はされないが、中でも、本発明においては、一方向に引き揃えたものが、CNF含浸の点から特に好ましい。
【0070】
本発明のプリプレグの厚み方向の炭素繊維の見掛け本数又は層数は、特に限定はないが、2層(本)~100層(本)が好ましく、5層(本)~50層(本)が特に好ましい。
また、下記する繊維目付(FAW(Fiber Areal Weight))の数値範囲に入る(数値範囲から必然的に決まる)層数又は「厚み方向の見掛け本数」が好ましい。
【0071】
本発明のプリプレグにおいては、FAWは、特に限定はないが、50g/m以上500g/m以下が好ましく、100g/m以上400g/m以下がより好ましく、150g/m以上300g/m以下が特に好ましい。
プリプレグのFAWが上記範囲であれば、該プリプレグを積層してなるCFRPの靭性強度(GIc、GIR、GIIc)や、物理的強度が好適になる。
【0072】
<<プリプレグの構成比>>
本発明のプリプレグにおいては、前記マトリックスを、前記プリプレグ全体に対して、22質量%以上50質量%以下で有することが好ましく、25質量%以上45質量%以下で有することがより好ましく、27質量%以上40質量%以下で有することが更に好ましく、30質量%以上38質量%以下で有することが特に好ましい。該マトリックスは、好ましくはレジンフィルムの形でプリプレグの製造に用いられる。
【0073】
本発明のプリプレグにおいては、「前記炭素質物群と前記熱硬化性樹脂の合計」を、前記プリプレグ全体に対して、22質量%以上50質量%以下で有することが好ましく、25質量%以上48質量%以下で有することがより好ましく、27質量%以上45質量%以下で有することが更に好ましく、30質量%以上40質量%以下で有することが特に好ましい。「炭素質物群と熱硬化性樹脂」は、好ましくはレジンフィルムの形でプリプレグの製造に用いられる。
【0074】
プリプレグ全体の質量に対して「前記炭素質物群と前記熱硬化性樹脂の合計」の質量が少な過ぎても多過ぎても、前記と同様のことが起こる場合がある。
【0075】
[カーボンナノファイバー(群)]
本発明のプリプレグや、それを積層してなる本発明のCFRPにおける「靭性強度等の物理的強度」を上げるために、カーボンナノファイバー(群)の性質(形状・サイズ、形状・サイズの分布、表面物性、製造方法等)は極めて重要である。
以下に詳述する。
【0076】
<CNF(群)の(数平均)直径、(数)平均長さ、サイズ・分布>
本発明は、熱硬化性樹脂中に炭素質物群が分散状態で含有されてなるものであるが、該炭素質物群は、繊維状炭素を粉砕して得られる、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群であることが必須である。
該炭素質物は、所謂カーボンナノファイバー(CNF)でも極めて特殊なものであり、繊維状炭素を粉砕して得られるものであることが必須である。
【0077】
繊維状炭素を粉砕して得られるものではない場合は、上記分布のカーボンナノファイバー群が得られなかったり、熱硬化性樹脂に対して分散性のあるものが得られなかったりして、結果として、アンカー効果も得られず、靭性強度等の物理的強度に優れた好適なCFRPを与えるプリプレグが得られない。
【0078】
原料となる上記繊維状炭素の種類、繊維状炭素の粉砕方法、粉砕時又は粉砕前後の処理、カーボンナノファイバー群の製造中に使用する化学物質やその使用量等の好ましい範囲については後述する。本発明におけるカーボンナノファイバー群の好ましい製造方法については後述する通りである。
なお、本発明における上記特定カーボンナノファイバー群は、分散性等に影響する個々のカーボンナノファイバーの表面状態等を含め、分析では特定できず、製造方法によってしか特定できない。すなわち、「不可能・非実際的事情」がある。
【0079】
本発明におけるカーボンナノファイバー群の「全体の50個数%以上が分布している直径や長さ」、数平均直径、数平均長さ、数平均アスペクト比等、形状・サイズの好ましい範囲等に関しては後述する。
本発明におけるカーボンナノファイバーの直径や長さ;該カーボンナノファイバー製造途中の直径や長さ;本発明におけるカーボンナノファイバー群の数平均直径や数平均長さ;等、直径や長さの測定、及び、その平均値の算出は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、無作為に100本選択し、1本ずつその直径と長さを測定して、それらの相加平均をとることによって求める。
【0080】
本発明における、直径、長さ、アスペクト比等のサイズと、それらの平均サイズは、上記のように測定・算出したものとして定義される。
本発明におけるカーボンナノファイバーは、アスペクト比が大きいので、粒度分布計による測定より、顕微鏡を用いて1本ずつその直径と長さを測定する。自動の粒度分布計では、直径と長さを好適には測定できないので、上記のようにせざるを得ない。
【0081】
本発明におけるカーボンナノファイバー(群)は、上記した通り、繊維状炭素を粉砕して得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の50個数%以上が分布しているものであることが必須である。
【0082】
本発明において、「繊維状炭素」とは、グラフェン構造を有するあらゆる炭素質物(炭素材)のうち細長いものを言い、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、及び、それらに近似するサイズの炭素質物(炭素材)等が含まれる。また、「繊維状炭素」には、グラフェン構造を有する炭素質物(炭素材)のフィラメント10、それを構成する素フィラメント20、該フィラメント10が縦に並列してなるストランド等が含まれる。
【0083】
本発明におけるカーボンナノファイバー群は、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、カーボンナノファイバー群全体の50個数%以上が分布しているものである。
上記範囲に全体の50個数%以上が分布していることが必須であるが、好ましくは70個数%以上、より好ましくは80個数%以上、更に好ましくは90個数%以上、特に好ましくは95個数%以上、最も好ましくは98個数%以上が分布しているものである。
本発明によれば、上記個数%以上のものは製造することができるので、CNF群の分散性や「CNFを含有するプリプレグやCFRP」の特性等を考えると分布はシャープなほど好ましいが、生産性等を考えるとブロードでもよい。
【0084】
上記「50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー」の直径は、30nm以上1000nm以下であるが、50nm以上850nm以下が好ましく、100nm以上700nm以下が特に好ましい。本発明によれば上記範囲の直径のものならば収率良く製造することができる。
【0085】
該直径が小さ過ぎると、製造が難しくなる場合や、同時に長さも短くなってしまうためにアスペクト比が小さくなってしまう場合等がある。アスペクト比が小さいとアンカー効果が得られず、プリプレグやCFRPの「靭性強度等の物理的物性」が劣る場合がある。
一方、直径が大き過ぎでも、プリプレグやCFRPの「靭性強度等の物理的物性」が劣る場合がある。
【0086】
上記「50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー」の長さは、0.2μm以上70μm以下であるが、1μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が更に好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。本発明によれば上記範囲の長さのものならば収率良く製造することができる。
長さが短過ぎると、アスペクト比が小さくなる場合、CFRPの物理的強度が出ない場合、凝集を防止し難くなる場合等がある。
一方、長さが長過ぎると、CFRPの物理的強度が出ない場合、アスペクト比を大きく保ったままでの製造が難しくなる場合等がある。
【0087】
上記は、カーボンナノファイバー群の中の多くの(例えば、50個数%以上、70個数%以上等の)カーボンナノファイバーが分布している直径範囲と長さ範囲から、サイズ分布を特定したものであるが、平均で特定すると、数平均直径は30nm以上1000nm以下であり、数平均長さは0.2μm以上70μm以下であることが好ましい。
言い換えると、本発明においては、カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下であることが好ましい。
【0088】
数平均直径は、50nm以上850nm以下がより好ましく、100nm以上700nm以下が特に好ましい。
数平均長さは、1μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が更に好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。
【0089】
本発明における単離・分散可能なカーボンナノファイバーは、直径と長さが前記範囲であるので(前記範囲が望ましいので)、そのアスペクト比が大きいことが特徴の一つである。
該カーボンナノファイバーの数平均アスペクト比は、3以上200以下が好ましく、5以上160以下がより好ましく、7以上130以下が更に好ましく、15以上100以下が特に好ましく、20以上70以下が最も好ましい。
【0090】
アスペクト比が小さ過ぎると、カーボンナノファイバー群が含有されているプリプレグを積層してなるCFRPの「靭性強度等の物理的物性」が劣る場合がある。
一方、アスペクト比が大き過ぎると、製造が難しくなる場合、製造コスト的に無駄になる場合等がある。
【0091】
ピッチ系繊維状炭素を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすれば、原料となる繊維状炭素の粉砕時に、特異的に縦にきれいに割れる、言い換えれば、長さをあまり短くさせずに、フィラメント10から素フィラメント20を好適に剥離させることができる。
本発明では、そのことによって、今までになかった分散可能でありつつ好適な平均アスペクト比を有するカーボンナノファイバー群が得られたが、このアスペクト比が大きいことやカーボンナノファイバー(群)の好適なサイズ・形状によって、靭性強度の高いCFRP、その材料となるプリプレグが実現できた。
【0092】
カーボンナノファイバー群を熱硬化性樹脂に含有・分散させるときには、固体(粉末)で含有させても、一旦分散液として含有させてもよい。
本発明によれば、固体(粉末)で存在している場合であっても、例えば、図9(a)(b)に示したように、カーボンナノファイバーが1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散が可能な状態になっている。
【0093】
本発明のプリプレグの内に存在している場合、カーボンナノファイバーは実質的に1本ずつの分散状態になっている。なお、後述する素フィラメントにまでは1本ずつに分離可能であるとは限らないが、カーボンナノファイバーは1本1本に分散可能である。
上記「実質的に1本ずつの分散状態になっている」、「分散状態で含有されている」とは、「略1本ずつの分散状態になっている」ことであり、並列して強く凝集していない状態で、カーボンナノファイバー間に熱硬化性樹脂が入り込んだ状態を言う。
本発明におけるカーボンナノファイバー群は、上記したような分散性や分散状態にすることが可能である。
【0094】
<カーボンナノファイバー(群)の製造>
本発明における、上記したような形状(直径と長さ)を有するカーボンナノファイバー、及び、上記したような分布を有するカーボンナノファイバー群は、少なくとも、乾式粉砕を行い、それに次いで湿式粉砕することによって得られる。更に、原料となる繊維状炭素を特定のものとすることによって、上記形状と分布を有する、(再)分散可能なカーボンナノファイバー群が得られる。
該乾式粉砕の前、上記2種の粉砕の間若しくは途中、又は、該湿式粉砕の後に、必要に応じて他の処理(操作)を加えることも好ましい。また、上記乾式粉砕と上記湿式粉砕は、それぞれ1段階でも2段階以上で行ってもよい。
【0095】
本発明におけるカーボンナノファイバー群の「特に好ましい製造工程」を以下に示すが、本発明におけるカーボンナノファイバー群は、下記する「好ましい製造工程で実際に製造されたもの」のみに限定される訳ではない。
ただし、本発明におけるカーボンナノファイバー群は、下記する「好ましい製造方法」で特定した、原料となる繊維状炭素(炭素素材)、粉砕方法・粉砕条件、使用する分散剤や界面活性剤等の種類、処理の種類等の製造項目や製造項目を、適宜、設定又は最適化させることで製造することができる。
本発明におけるカーボンナノファイバー(CNF)群は、「粉砕型カーボンナノファイバー(CNF)群」であるとも言える。そのように読み替えることも可能である。
【0096】
製造工程については、下記の処理を行う場合は、下記順番で行うことが特に好ましいが、必要なければ抜いてもよく、途中に他の処理を挟んでもよい。
すなわち、原料繊維状炭素用意、前粉砕、乾式粉砕、加熱処理、湿潤処理、湿式粉砕、凝集防止処理、水除去処理である。
【0097】
上記のうち、少なくとも、特定の原料繊維状炭素を用意すること、乾式粉砕、及び、湿式粉砕は、本発明におけるカーボンナノファイバー群を得るために特に重要であり、それを行えば、本発明における特定CNFが好適に得られ、本発明の物理的強度が大きいプリプレグやCFRPが得られる。
【0098】
上記のうち、前粉砕、加熱処理、湿潤処理、凝集防止処理、水除去処理は、何れも必須ではないが、良好に製造するために、必要に応じて、そのうちの幾つかを又は全部を行うことが好ましい。特に加熱処理は、原料が「サイジング材等の樹脂」を含有するときは行うことが好ましく、原料がサイジング処理等されていないときは行わなくてもよい。
以下、好ましい処理順に各処理工程を説明する。
【0099】
<<原料繊維状炭素>>
本発明は、粉砕前の繊維状炭素(原料の繊維状炭素)として、特に限定はないが、ピッチ系繊維状炭素を使用することが好ましく、メソフェーズピッチ系繊維状炭素を使用することがより好ましく、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を使用することが特に好ましい(図6参照)。
PAN系繊維状炭素では、どのような粉砕方法を用いても、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー群であって、前記したような高い数平均アスペクト比を有するものは得られ難い。
【0100】
また、ピッチ系繊維状炭素であっても等方性ピッチ系繊維状炭素では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群が得られ難い場合がある。
【0101】
一方、メソフェーズピッチ系繊維状炭素は、その断面形状(すなわち内部形状)から、少なくとも、ラジアル型(図3(左)、図4(b))、ランダム型(図3(中)、図4(a)(a’)、図5)、オニオン型(図3(右)、図4(c))に分類されている。「ランダム型」とは、繊維断面がランダム型になっているものである。そのことから、ランダム型と名付けられた。
【0102】
本発明において、メソフェーズピッチ系繊維状炭素であっても、ラジアル型メソフェーズピッチ系繊維状炭素又はオニオン型メソフェーズピッチ系繊維状炭素では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群がやや得られ難い場合がある。原料となる繊維状炭素として、ラジアル型やオニオン型を用いると、前記形状・形態・分布のものは、好適には得られない場合もあり、特に個数平均アスペクト比が大きいカーボンナノファイバー群が好適には得られない(例えばアスペクト比が3未満のものしか得られない)場合がある。
【0103】
「上記ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を構成するフィラメント」は、棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのものが集合してできている。例えば、図5では、板状(シート状)のものが縦に集合している。
本明細書では、フィラメント10を構成する該「棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのもの」を「素フィラメント」20と略記する。
1つの素フィラメント(内で)は、ベンゼン環の縮合したグラフェン構造が同方向を向いて積み重なって1つとなっているか、カーボンナノチューブの1本又は2本以上が同方向を向いて束ねられて1つとなっている、等と考えられる。
【0104】
本発明において原料である繊維状炭素は、フィラメント10を構成する該素フィラメント20の数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下のものであることが好ましい。より好ましくは15nm以上150nm以下であり、更に好ましくは20nm以上100nm以下であり、特に好ましくは30nm以上70nm以下である。
【0105】
図10に、メソフェーズピッチ系繊維状炭素のフィラメント10の製造工程の概略を示す。ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素も、図10において、紡糸粘度、ノズル形状、原料ピッチの流動状態等を調整することで得られる。
メソフェーズピッチ系繊維状炭素の製造工程には延伸工程が存在しない。紡糸工程で制御されたミクロ構造が、ほぼそのままフィラメント10の結晶構造となり、結晶構造の向きが異なる境界ができ、素フィラメント20が見られる(存在する)ようになる。
【0106】
図10において、原料となるフィラメント10の太さは、通常4000nm~20000nm、多くは5000nm~12000nmであり、一方、本発明において原料となる繊維状炭素フィラメント10中の素フィラメント20の数平均厚さ又は数平均太さは、好ましくは10nm以上200nm以下、より好ましくは15nm以上100nm以下であるので、原料となる繊維状炭素において、1本のフィラメント10中に、通常40~700本、殆どの場合60~400本の素フィラメント20が存在している。
結晶構造の向きが異なる境界で、1本の素フィラメント20を分ける(定義する)と、上記本数の素フィラメント20が束ねられて1本のフィラメント10ができている。なお、図10では、概略的に見易いように、前面から見て、たまたま3本の素フィラメントで、1本のフィラメントができているように描かれている。
【0107】
本発明において、原料としてランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を用いるときは、限定はされないが、上記のような態様のものであることが特に好ましい。
本発明におけるカーボンナノファイバー群の形状・分布等は、及び、そもそもそのようなカーボンナノファイバー群ができるか否かを含めて、原料である繊維状炭素の種類が何であるかに依存する。
【0108】
<<<本発明におけるカーボンナノファイバーと素フィラメントの関係>>>
本発明におけるカーボンナノファイバーは、「原料となる上記フィラメントを構成する上記素フィラメント」が2本以上20本以下の範囲で集合して構成されていることが好ましい。より好ましくは3本以上16本以下、特に好ましくは4本以上12本以下である。上記素フィラメントの数は、カーボンナノファイバー群において、カーボンナノファイバー毎に平均を採った値である。
カーボンナノファイバーを製造する際に、該素フィラメントの結晶性や外形等が若干崩れる場合もあるが、それを含めて上記のように「本数」と言う。また、素フィラメントがもともと板状の場合であっても、粉砕後には細長くなるので、上記のように「本数」と言う。
【0109】
<<前粉砕>>
原料となる繊維状炭素は、チョップドファイバー形状でも、ミルドファイバー形状でもよいが、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、長さが1μm程度の短いものが多く混在するので、アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーを得るために、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、例えば「平均長さ70μm」と言って(公表して)いても、長さが1μm程度の短いものが多く混在する場合がある。
【0110】
限定はされないが、前粉砕で原料となる繊維状炭素を、平均で1mm~15mmにすることが好ましく、2mm~10mmにすることがより好ましく、5mm~8mmにすることが特に好ましい。例えば、長繊維ボビンタイプの場合は、前粉砕する必要が生じる場合がある。最初から、上記範囲であれば、前粉砕は行わないことも好ましい。
【0111】
前粉砕の粉砕方式は特に限定はなく、市販の乾式粉砕機が何れも使用可能であるが、例えば装置としてカッターミル等が挙げられる。
【0112】
<<乾式粉砕>>
本発明において、「乾式粉砕」は、特に限定はないが、気流式粉砕、カッター式粉砕、又は、「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」であることが好ましい。「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」とは、「気流式粉砕機構・機能とカッター式粉砕機構・機能の両方を同時に有しているような粉砕」の意味である。
【0113】
<<<気流式粉砕>>>
気流式粉砕としては、例えば、サイクロンミル等の気流粉砕機や、ジェットミル等を用いた粉砕が挙げられる。
サイクロンミルによる気流式粉砕は、インペラ(回転翼)の回転によって気流を発生させ、気流中に投入された対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。また、ジェットミルによる気流粉砕は、衝突板に対象物を衝突させて対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。
インペラ、回転翼、ブレード、回転刃等の回転体を有さない粉砕機(ジェットミル等)より、それらを有する気流粉砕機や、<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>で後述する粉砕機の方が、湿式粉砕で所定の形状のカーボンナノファイバー群を得るために、「湿式粉砕の前の乾式粉砕」として好ましい。
【0114】
サイクロンミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販品としては、例えば、静岡製機株式会社製のサイクロンミル、株式会社西村機械製作所製のスーパーパウダーミル、三庄インダストリー株式会社製のトルネードミル、古河産機システムズ株式会社製のドリームミル等が挙げられる。
【0115】
上記サイクロンミルの構造は、特に限定はないが、1個又は2個以上のインペラを有し、該インペラが発生させる旋回気流によって主に粉砕対象物同士を衝突させて粉砕するものであることが、前記気流粉砕機を使用することによる前記効果を奏し易い;金属コンタミが非常に少ない;等の点から特に好ましい。
【0116】
ジェットミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販しているメーカーとしては、例えば、株式会社セイシン企業、ホソカワミクロン株式会社、日本ニューマチック株式会社、日清エンジニアリング株式会社が挙げられる。
【0117】
<<<カッター式粉砕>>>
また、カッター式粉砕としては、例えば、クラッシャーミル、ピンミル、カッターミル、ハンマーミル、軸流ミル等を用いた粉砕が挙げられる。
【0118】
<<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>>
本発明における乾式粉砕としては、気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕であることが特に好ましい。
特に、本発明における乾式粉砕は、ブレードを有し、剪断と衝撃とを与える乾式粉砕機で行うことが好ましい。又は、「ブレードによる剪断と衝撃」とを加える乾式粉砕機で行うことが好ましい。
かかる乾式粉砕機の一例の概略図を図11に示す。
【0119】
ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミル(登録商標)等の「インペラ等で粉砕させない全気流式粉砕機」の場合は、原料によっては、乾式粉砕の段階で直径が小さくなり過ぎる等のために、次の湿式粉砕でアスペクト比が小さくなり過ぎる(丸い形状になる)場合もあるため、限定はされないが、湿式粉砕の前に行う粉砕としては、あまり向かない場合もある。
【0120】
乾式粉砕する場合の雰囲気温度又は設定温度は、特に限定はなく使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。
また、インペラ回転数も、使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは4000rpm以上20000rpm以下、特に好ましくは8000rpm以上15000rpm以下である。
【0121】
上記したような装置を用いて、上記した粉砕方法で、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に、次の工程に供されることが好ましい。
100μm以下になるまで乾式粉砕してから湿式粉砕をすることによって、カーボンナノファイバーの、直径、長さ、アスペクト比、形状分布等が前記した必須の範囲又は好適な範囲に収まり易くなる。
【0122】
乾式粉砕によって、数平均長さを100μm以下にしておくことが好ましいが、より好ましくは5μm以上70μm以下、更に好ましくは7μm以上50μm以下、特に好ましくは10μm以上40μm以下にしておくことが望ましい。
乾式粉砕後の数平均長さが長過ぎると、次の工程である湿式粉砕で、該湿式粉砕の条件を調整しても、最終的にカーボンナノファイバーの直径や長さが、前記した範囲に入り難い場合がある。
一方、乾式粉砕後の長さが短過ぎると、湿式粉砕後にカーボンナノファイバーの長さがそれ以上にはなり得ないので、最終的にカーボンナノファイバーの長さや個数平均アスペクト比が前記した好ましい範囲になり難い場合等がある。特に、最終的に得られるカーボンナノファイバーのアスペクト比が小さくなり過ぎる場合がある。
【0123】
乾式粉砕後の数平均直径については、そもそも乾式粉砕のみでは小さくし難く、すなわちアスペクト比が大きくなるように粉砕し難く、また、乾式粉砕で無理に直径を小さくしてしまっては、長さも短くなってしまい、湿式粉砕後の最終的なアスペクト比が好適な範囲に収まり難くなる。
乾式粉砕後の平均直径は、3000nm以上が好ましく、5000nm以上15000nm以下がより好ましく、7000nm以上12000nm以下が特に好ましい。この範囲になるように乾式粉砕を行っておくことが望ましい。
【0124】
乾式粉砕後の数平均アスペクト比は、特に限定はないが、10以下であることが好ましく、より好ましくは1.2以上7以下、特に好ましくは1.5以上5以下である。
乾式粉砕によっては、そもそも平均アスペクト比を上記上限より大きくし難い。すなわち、平均アスペクト比を上記上限より大きくできる程度に平均繊維径を小さくし難い。
本発明において、乾式粉砕によって、数平均長さを、好ましくは100μm以下にしておき、比較的大きな直径や比較的小さな数平均アスペクト比にしておいても、或いは、しておくことによって、後の湿式粉砕によって、最終的に前記したような、好適な「直径や長さ、大きな数平均アスペクト比」のカーボンナノファイバー群が得られる。
【0125】
<<加熱処理>>
本発明においては、前記カーボンナノファイバー群が、粉砕前の原料である繊維状炭素に混在樹脂を実質的に有さないものであることが好ましい。
ここで、混在樹脂を有する場合とは、例えば、原料である繊維状炭素にサイジング剤等が含まれている場合等が挙げられる。すなわち、上記混在樹脂としては、限定はないが、例えばサイジング剤等が挙げられる。
【0126】
本発明おいては、前記した乾式粉砕物に樹脂が混在している場合、加熱処理を行って該樹脂を除去することが好ましい。
言い換えると、本発明におけるカーボンナノファイバー群は、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られるものであり、該乾式粉砕と該湿式粉砕の間に加熱処理を行うことで、原料に混在する混在樹脂が除去されたものであることが好ましい。
なお、例えばサイジング剤等の樹脂の混在がない場合には、該加熱処理を省略することができる。
【0127】
加熱処理の条件は、限定はされないが、例えば、炉の温度320℃~480℃で、5分~15分間加熱し、樹脂の含有を、好ましくは0.1質量%以下に、特に好ましくは0.01質量%以下にまでする。前記「混在樹脂を実質的に有さない」とは、(上記加熱処理等をして)上記含有量以下にした状態のことを言う。
該加熱処理をすることで、好ましくは、乾式粉砕の後であって湿式粉砕の前に該加熱処理をすることで、後の工程である(湿潤処理を行う場合は)湿潤処理や湿式粉砕の際に使用する湿潤剤や界面活性剤が有する粉砕・分散効果が上がる。
【0128】
<<湿潤処理>>
限定はされないが、更に湿潤処理をすることが好ましい。該湿潤処理は湿式粉砕の前に行うことが好ましく、乾式粉砕後又は加熱処理後に行うことが好ましい。
該湿潤処理では、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を含有する水溶液に、上記で得られたものを浸漬することが好ましい。なお、該界面活性剤は、後の湿式粉砕でも好適に使用できる。
【0129】
上記陰イオン界面活性剤は、高分子陰イオン界面活性剤(「高分子」にはオリゴマーも含まれる)であることが好ましく、酸基を有する(共)重合物の、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、アルキロールアンモニウム塩等であることがより好ましい。
上記した陰イオン界面活性剤は、単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0130】
上記「酸基を有する(共)重合物」は、(メタ)アクリル酸の(共)重合物、(無水)フタル酸の(共)重合物、ビニルベンゼンスルホン酸の(共)重合物、及び、ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の(共)重合物であることが特に好ましい。ここで、「(共)」、「(メタ)」、「(無水)」と言う記載は、括弧がある場合もない場合も含むことを示す。共重合物の場合の共重合モノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ) アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物とは、ホルムアルデヒド等のアルデヒドで環を結合したものが挙げられる。共縮合物の場合の共縮合モノマーとしては、フェノール、クレゾール、ナフトール等が挙げられる。
【0131】
また、上記陽イオン界面活性剤は、第四級アンモニウムが親水基である界面活性剤であることが好ましく、第四級アンモニウムの「N+」への置換基としては、特に限定はないが、ステアリル基、パルミチル基、ドデシル基、メチル基、ベンジル基、ブチル基等の(置換基を有していてもよい)アルキル基等が好ましい。また、炭素数が12個以上の長鎖アルキル基がより好ましい。
対アニオンとしては、特に限定はないが、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオンが特に好ましい。
【0132】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アミンオキシド型等が挙げられる。
【0133】
中でも、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることが好ましい。
界面活性剤の含有量、及び、水系の分散媒中の(乾式粉砕後の)繊維状炭素の含有量は、下記する<湿式粉砕>の数値範囲と同様である。
【0134】
界面活性剤を用いることによって、更には、上記した好ましい陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることによって、原料である繊維状炭素を、湿式粉砕によって縦に解く効果を奏し、長さを長いまま保ちつつ直径を細くすることができ、平均アスペクト比の大きなカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
【0135】
<<湿式粉砕>>
本発明におけるカーボンナノファイバー群の製造法としては、乾式粉砕の後に湿式粉砕をすることが好ましい。該湿式粉砕は、特に限定はされないが、ビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが好ましい。界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが特に好ましい。
なお、乾式粉砕と湿式粉砕の間には、上記した加熱処理、湿潤処理等の「他の処理」を挟んでもよい。「他の処理」としては、更に、例えば、予備混合、予備調液等が挙げられる。
【0136】
上記界面活性剤としては、上記湿潤処理をした場合であっても、上記湿潤処理をしなかった場合であっても、何れの場合でも、上の<湿潤処理>の項で記載した界面活性剤が挙げられる。
好ましい界面活性剤も同様のものが挙げられる。すなわち、<湿潤処理>の項で上記したような、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられる。なお、湿潤処理の際に用いた界面活性剤をそのまま湿式粉砕において用いてもよいし、湿式粉砕の際に、新たに配合したり、追加したり、湿潤処理のときとは異なる別種類の界面活性剤を配合したりすることができる。
【0137】
界面活性剤の使用量は、特に限定はないが、粉砕・分散の対象である繊維状炭素(粉砕途中のカーボンナノファイバー)100質量部に対して、(界面活性剤を2種以上併用するときはその合計量として)、好ましくは100質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上50質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以上30質量部以下であり、特に好ましくは0.2質量部以上10質量部以下である。
該界面活性剤の使用量が多過ぎると、繊維状炭素が縦に解けていく途中で凝集を招く場合がある。その結果、カーボンナノファイバーが凝集した状態の分散液になるので、対象物に付与した場合、得られたものの物性に影響がでる場合等がある。
【0138】
前記湿潤処理をした場合、湿式粉砕に際しては、新たに界面活性剤を加えてもよいし、該湿潤処理の際に配合してあった界面活性剤をそのまま使用してもよい。
湿式粉砕に際して新たに界面活性剤を加える場合は、湿潤処理の界面活性剤と同一のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0139】
<<<湿式粉砕の方式・装置・条件>>>
湿式粉砕をすることによって、はじめて、前記したような特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)や粒度分布を有しつつ、分散性のあるカーボンナノファイバー群を製造することができる。
湿式粉砕の条件は、本発明の前記した特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)のカーボンナノファイバー(群)が得られるように調整する。
【0140】
そのようにして得られる「分散性のあるカーボンナノファイバー群」を用いることによって、優れたプリプレグ、及び、該プリプレグを使用した優れたCFRPが得られるようになる。また、該CFRPを用いた優れた「移動体の筐体、スポーツ用品、その他の軽量と強度を要求される構造体」が得られるようになる。
【0141】
湿式粉砕に用いられる粉砕メディアの材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコン(ジルコニア・シリカ系セラミックス)、ジルコニア、金属(スチール)等が好ましいものとして挙げられる。
【0142】
ビーズミルを例にすると、用いられるビーズのビーズ径は、0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.2mm以上2mm以下がより好ましく、0.3mm以上1mm以下が特に好ましい。
ビーズ径が大き過ぎると、ビーズミル容器内のビーズ個数が減り、接触点が減ることになり、好適に粉砕・分散ができない場合、直径を十分小さく粉砕できない場合等がある。一方、ビーズ径が小さ過ぎると、好適に粉砕・分散できない場合、粉砕に時間がかかり過ぎる場合等がある。
【0143】
ビーズミルに用いられるビーズ充填率としては、45%以上90%以下が好ましく、55%以上87%以下がより好ましく、65%以上85%以下が特に好ましい。
ビーズ充填率が小さ過ぎると、繊維状炭素が縦割れし難くなり、アスペクト比の大きなカーボンナノファイバーができ難い場合等がある。一方、ビーズ充填率が大き過ぎると、ビーズミルの撹拌羽根が回り難くなる場合等がある。
【0144】
ビーズミル処理の対象となるスラリー全体に対して、乾式粉砕後の繊維状炭素が、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0145】
上記ビーズミル処理に用いる撹拌羽根の形状は、特に限定はされない。
撹拌羽根(アジテータ)の回転数は、撹拌羽根の差し渡し長さやビーズミルの容量にも依るが、容量2Lの場合に換算して、600rpm以上4500rpm以下が好ましく、800rpm以上4000rpm以下がより好ましく、1000rpm以上3500rpm以下が特に好ましい。
撹拌羽根(アジテータ)の先端の周速度は、撹拌羽根の差し渡し長さにも依るが、直径20cmとして、上記回転数から計算できる範囲が好ましい。具体的には、5m/s以上40m/s以下が好ましく、7m/s以上30m/s以下がより好ましく、9m/s以上20m/s以下が特に好ましい。
【0146】
ビーズミルの粉砕分散の運転方式は、循環式でもバッチ式でもよいが、循環式が好ましい。循環式の場合は、バッチ式のように容器に受け渡しすることがないので、その際に凝集が進んでしまうことがない。
循環式で行う場合、パス回数で微細化の程度が変わってくる。例えば、1パス当たりの滞留時間を長くした場合、処理物のショートパスがないことで、粒度分布はシャープになるが、カーボンナノファイバーのアスペクト比も小さくなってしまう。そのため、例えば、4Lに換算した場合、好ましくは70分以上270分以下、より好ましくは80分以上230分以下、特に好ましくは90分以上180分以下で、循環させてビーズミル処理する。
【0147】
湿式処理における温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。ビーズミルは、縦型でも横型でもよい。
また、ビーズミルは、市販の装置も使用できる。市販の装置としては、例えば、ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社のダイノーミル、ネッチ社(米)のビーズミル等が挙げられる。
【0148】
1パス当たりの時間(連続運転時間)、パス回数、及び、トータルの時間は、装置構造、スラリー濃度、粉砕分散条件、界面活性剤の種類等に依存する場合があるので、1パス毎に又は湿式粉砕の途中で抜き出し、粒子径分布測定装置、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等で逐一観察して適宜調節することが好ましい。
【0149】
前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を併用する製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
また、前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を併用する製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、数平均アスペクト比が3以上200以下のカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
【0150】
また、前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を併用する製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、カーボンナノファイバーが、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、後記する熱硬化性樹脂中で、実質的に1本ずつの分散状態になっている(分散状態にできる)カーボンナノファイバー群が得られる。
ここで、「実質的に1本ずつの分散状態」とは、「略1本ずつの分散状態」であり、カーボンナノファイバー同士が並列して密着していない状態で、カーボンナノファイバー間に熱硬化性樹脂が入り込んだ状態を言う。
【0151】
<<凝集防止処理>>
湿式粉砕した後、限定はされないが、更に、凝集防止処理をすることが特に好ましい。
該凝集防止処理としては、限定はされないが、更に、上記湿式粉砕をした後に得られる、カーボンナノファイバー群のスラリーの中に、金属含有凝集防止剤、コブロックポリマー、櫛型コブロックポリマー、及び、界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の凝集防止剤を含有させて凝集防止処理を行うことが望ましい。
【0152】
具体的には、特に限定はされないが、(複合)金属キレート化合物、(複合)金属酸化物の微粒子、金属を含有するワックス、(複合)金属イオン水等の金属含有凝集防止剤;ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン等を単位として有するコブロックポリマー;該ポリマーを単位として有する櫛型コブロックポリマー;又は;界面活性剤を配合することによって行うことが好ましい。
該凝集防止処理は、前記した湿式粉砕した直後に行ってもよいし、後記する水除去処理後に行ってもよく、両方の段階で行ってもよい。
【0153】
凝集防止処理において使用する凝集防止剤として、上記したような金属含有凝集防止剤を用いる場合は、(複合)金属キレート化合物がより好ましく、HEDTA、EDTA、PDTA、NTA、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン等の金属塩が更に好ましい。
中でも、HEDTA(hydroxyethyl ethylene diamine triacetic acid)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid))、PDTA(1,3-propanediamine tetraacetic acid)、NTA(nitrilo triacetic Acid)等の金属塩等が特に好ましい。
【0154】
また、凝集防止処理において使用する界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられ、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤がより好ましいものとして挙げられる。限定はされないが、特に好ましい具体的界面活性剤としては、前記<湿潤処理>や<湿式粉砕>の項に記載したものと同様のものが挙げられる。
【0155】
金属含有凝集防止剤、「凝集防止処理において使用する界面活性剤」、コブロックポリマー等の凝集防止剤については、該凝集防止処理直前の凝集防止対象物の表面状態を勘案してその種類を決定する。
金属含有凝集防止剤、界面活性剤、コブロックポリマー等の凝集防止剤の種類が上記であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0156】
「(複合)金属キレート化合物等の金属含有凝集防止剤;凝集防止処理において使用する界面活性剤;コブロックポリマー;等の凝集防止剤」の使用量は、特に限定はないが、湿式粉砕後のスラリー全体量に対して(凝集防止剤を2種以上併用するときはその合計量として)、0.2質量%以下で加えることが好ましく、0.0001質量%以上0.1質量%以下で加えることがより好ましく、0.0002質量%以上0.03質量%以下で加えることが更に好ましく、0.0003質量%以上0.01質量%以下で加えることが特に好ましい。
【0157】
また、上記凝集防止剤の使用量は、特に限定はないが、カーボンナノファイバー群と言った凝集防止対象物の全体量に対して(凝集防止剤を2種以上併用するときはその合計量として)、1質量%以下で加えることが好ましく、0.001質量%以上0.5質量%以下で加えることがより好ましく、0.002質量%以上0.3質量%以下で加えることが更に好ましく、0.003質量%以上0.1質量%以下で加えることが特に好ましい。
【0158】
すなわち、本発明のカーボンナノファイバー群の製造方法では、上記凝集防止剤を、湿式粉砕後のスラリー全体に対して、0.0001質量%以上0.1質量%以下で加える、又は、カーボンナノファイバー群である凝集防止対象物の全体量に対して、0.001質量%以上1質量%以下で加えることが望ましい。
【0159】
「金属含有凝集防止剤、界面活性剤、コブロックポリマー等の凝集防止剤」の使用量が上記範囲であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0160】
凝集防止処理中の撹拌は、特に限定はないが、例えば、ハンドミキサー等による撹拌が挙げられる。撹拌速度は、特に限定はないが、300~1200rpmが好ましく、500~1000rpmが特に好ましい。
凝集防止処理の温度は、特に限定はないが、20℃~100℃が好ましく、40℃~90℃がより好ましく、60℃~80℃が特に好ましい。
【0161】
<<水除去処理>>
熱硬化性樹脂中に分散させるカーボンナノファイバー群は、湿式粉砕後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、上記凝集防止処理をした後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよい。該スラリーから水を除去して粉末状にしたカーボンナノファイバー群を用いることが好ましい。
カーボンナノファイバー群を粉末として得るためには水除去処理を行う。
【0162】
水除去処理における方法は、特に限定はなく、減圧及び/又は昇温によって行うことができる。サイクロン分離回収方法で半ドライアップした後、オーブン内で減圧及び/又は昇温によって水を除去(乾燥)させることが特に好ましい。
水除去処理の温度は、特に限定はないが、40℃~160℃が好ましく、70℃~130℃が特に好ましい。
【0163】
更に、界面活性剤を除去するため、加熱処理をすることも好ましい。該加熱処理は、限定はないが、300~500℃が好ましい。
本発明におけるカーボンナノファイバー群を構成するカーボンナノファイバーは、該カーボンナノファイバー自体の分散性が良いので、その表面に分散剤や界面活性剤が付着していないものであることも好ましい。
【0164】
前記した凝集防止処理を、上記水除去処理の後に行うことも好ましい。すなわち、前記した凝集防止剤や界面活性剤を、上記水除去処理の後の、濃縮されたスラリー又は粉末に配合することも好ましい。
【0165】
本発明において使用されるカーボンナノファイバー群は、特に限定はされないが、体積抵抗率が2×10-3 Ω・cm以下のものであることが好ましく、7×10-4 Ω・cm以下のものであることがより好ましく、4×10-4 Ω・cm以下のものであることが特に好ましい。
ここで、体積抵抗率は、JIS R 7222、黒鉛素材の物理特性測定方法に従って測定し、そのように測定したものとして定義される。
【0166】
前記製造方法で製造されるような粉末状のカーボンナノファイバー群は、固形化したものであっても、マトリックスを構成する熱硬化性樹脂に、容易に分散し、凝集せず拡散して、好適な、マトリックス、プリプレグ、CFRPを与えることができる。図9(a)(b)に、最終のカーボンナノファイバー群のSEM写真の一例を示す。
2液性の熱硬化性樹脂においては、上記カーボンナノファイバー群は、主剤にでも、硬化剤(含有物)にでも、良好に分散する。
【0167】
<特定CNF群の含有率>
本発明のプリプレグには、前記炭素質物群が、前記熱硬化性樹脂に、該炭素質物群と該熱硬化性樹脂の合計質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で分散状態で含有されていることが好ましい。
本発明における、マトリックス、熱硬化性樹脂、レジンフィルムには、前記した炭素質物群(すなわち、前記した特定CNF群)が、該炭素質物群をも含めた全体に対して、0.1質量%以上5質量%以下で含有されていることが好ましい。
【0168】
より好ましくは0.15質量%以上3質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以上2質量%以下、特に好ましくは0.25質量%以上1.5質量%以下、最も好ましくは0.3質量%以上1.0以上質量%以下である。
【0169】
該炭素質物群(すなわち、特定CNF群)の含有量が多過ぎても少な過ぎても、得られるCFRPの「靭性強度等の物理的強度」が低下する場合がある。
【0170】
[熱硬化性樹脂]
本発明のプリプレグは、「強化繊維としての炭素繊維」、及び、「炭素質物群が熱硬化性樹脂に分散状態で含有されてなるマトリックス」を有してなるものである。
【0171】
該熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、ベンゾオキサジン樹脂、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂であることがより好ましく、エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0172】
<エポキシ樹脂>
該熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましいが、中でも、該エポキシ樹脂が1種又は2種以上のエポキシ樹脂からなり、該エポキシ樹脂全体の粘度が、60℃で、30Pa・s以上80Pa・s以下であるものが望ましい。
該エポキシ樹脂としては、グリシジル基等のエポキシ基を含むものであればよく、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、グリシジル基含有化合物等が挙げられ、これらの併用(混合)でもよい。
なお、上記「種」に関し、ビスフェノール型、ノボラック型等のように「型」が異なるものの他に、同じ型の中であっても、平均分子量やエポキシ当量が異なるものも「『種』が異なるもの」とする。
【0173】
該エポキシ樹脂は、1種の使用でもよいが、エポキシ樹脂の型、エポキシ当量、未硬化樹脂の粘度等が異なる2種以上を混合使用することがより好ましく、2種以上4種以下を混合使用することが特に好ましい。
2種以上を混合使用することによって、靭性強度に優れるCFRPを与えるプリプレグを提供し易い。また、レジンフィルムを調製し易い等の長所がある。
【0174】
該エポキシ樹脂全体としての粘度は、未硬化状態で、硬化剤や硬化促進剤を加えた状態で、すなわち、レジンフィルムを調製する際の状態で、60℃で30Pa・s以上80Pa・s以下が好ましいが、35Pa・s以上75Pa・s以下がより好ましく、40Pa・s以上70Pa・s以下が特に好ましい。
【0175】
粘度が上記範囲であると、靭性強度に優れるCFRPを与えるプリプレグを提供し易い。また、レジンフィルムを調製し易い等の長所がある。
【0176】
また、本発明で使用される熱硬化性樹脂に関しては、該熱硬化性樹脂が2種以上のエポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂が、20℃で液体のビスフェノール型エポキシ樹脂、及び/又は、20℃で固体のビスフェノール型エポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂全体で、エポキシ当量300g/eq以上550g/eq以下であるものが好ましい。
なお、平均分子量やエポキシ当量が異なるものも「種」が異なるものとする。更に、上記「及び/又は」は、「又は」でもよいが、「及び」であることが特に好ましい。
また、「2種以上」であるから、例えば3種でもよく、その「3種」として、例えば、20℃で液体のエポキシ樹脂が2種、20℃で固体のエポキシ樹脂が1種でもよい(上記範囲に含まれる)。
【0177】
該エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましいが、該ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、F、S、G、M、AP、B、BP、C、P、PH、Z、TMC等のビフェニル型エポキシ樹脂が挙げられる。
これらは、上記した型が異なるものでも、分子量やエポキシ当量が異なるものであってもよく、2種以上を混合使用することがより好ましく、2種以上4種以下を混合使用することが特に好ましい。
エポキシ樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含むと、好ましくは2種以上のビスフェノール型エポキシ樹脂を含むと、靭性強度に優れるCFRPを与えるプリプレグを提供し易い。また、レジンフィルムを調製し易い等の長所がある。
【0178】
該エポキシ樹脂全体としてのエポキシ当量は、未硬化状態で、すなわち、レジンフィルムを調製する際の状態で、300g/eq以上550g/eq以下が好ましいが、350g/eq以上500g/eq以下がより好ましく、400g/eq以上480g/eq以下が特に好ましい。
上記範囲であると、靭性強度に優れるCFRPを与えるプリプレグを提供し易い。また、レジンフィルムを調製し易い等の長所がある。
【0179】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、特に限定はなく、アミン類;ジシアンジアミド等のアミド類;酸無水物類;フェノール類;イミダゾール類;等が挙げられる。
硬化促進剤としても、特に限定はなく、公知のものが用いられ得る。
高融点で(常温で粉末で)、プリプレグを積層して加熱する際に融解して、マトリックス中に相溶する潜在性硬化剤も特に好ましい。
【0180】
<熱硬化性樹脂と特定CNFを含むマトリックス、プリプレグ>
本発明における前記したカーボンナノファイバー(群)は、熱硬化性樹脂の主剤(すなわち、官能基を有する未反応樹脂を含有する液)、及び/又は、硬化剤(該官能基を架橋・反応・重合させる物質)に、好適に分散されて、有機、無機若しくは他の炭素粉末(群)や、他のカーボンナノファイバー(群)や、カーボンナノチューブ(群)に比べて、「靭性強度等の物理的物性」に優れ、前記した優れた効果を奏するCFRP、及び、その材料となるプリプレグを提供することができる。
【0181】
<その他の成分>
本発明のプリプレグを構成するマトリックス、該マトリックスの材料となる(を構成する)レジンフィルムには、本発明の効果が得られる範囲で、必要に応じて、「その他の成分」を含有することができる。
【0182】
該「その他の成分」としては、例えば、無機顔料、有機染料等の着色剤;酸化防止剤;造核剤等の結晶化調節剤;ワックス等の離型剤;滑剤;帯電防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;無機フィラー、有機フィラー等の粒子;各熱硬化性樹脂用の加工助剤;難燃剤;可塑剤等が挙げられる。これらの「その他の成分」は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、「その他の成分」の含有量は、適宜決められる。
該「その他の成分」は、含有させないことも好ましく、含有させるときは、0.01質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下が特に好ましい。
【0183】
[本発明のプリプレグを積層してなるCFRP]
<CFRPの構成・製造方法>
本発明は、前記した本発明のプリプレグを、2枚以上20枚以下で積層した後、加熱硬化してなるものであることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でもある。
【0184】
上記積層方法や上記加熱硬化方法は、特に限定はなく、公知の方法が用いられ得る。
例えば、CFRPの成形方法としては、オートクレーブ成形、RTM成形、プレス成形、SMC、シートワインディング成形、引抜き成形、射出成形、真空バッグ成形等が挙げられる。
これら方法は、熱硬化性樹脂の種類、「強化繊維としての炭素繊維」をプリプレグ中に存在させる際の形態(形状・構成)、CFRPの用途、該用途に求められる特性、CFRPの生産規模、CFRPの製造コスト等によって決められる。
【0185】
CFRPを製造する際の該プリプレグの積層枚数は、要求性能、用途、CFRPの形状等によって決められ、特に限定はないが、2枚以上20枚以下が好ましい。
更に、例えば、「航空機等の移動体の筐体(ボディー)」に用いるときは、2枚以上20枚以下が好ましく、2枚以上15枚以下がより好ましく、3枚以上10枚以下が特に好ましい。
【0186】
<CFRPの用途>
本発明のCFRPの用途は、特に限定はなく、前記した性能が必要な(要求される)用途に用いられるが、前記した本発明の効果を発揮させるために、特に好ましくは、移動体の筐体、又は、スポーツ用品・レジャー用品等に用いられることが好ましい。
本発明は、前記した本発明の「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」を有してなるものであることを特徴とする移動体の筐体、又は、スポーツ若しくはレジャー用品でもある。
【実施例0187】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0188】
製造例1
[カーボンナノファイバー群の製造]
<乾式粉砕>
サイジング処理がなされていないランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素である「約6mmのチョップドファイバー」を、前粉砕をせずに、図11に示したような、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」を用いて、直径10μm、かつ、長さについては、10μm~40μmの範囲に全体の90個数%が入るように、1000gを、30℃で10分かけて乾式粉砕を行った。
【0189】
<湿潤処理>
乾式粉砕された繊維状炭素(例えば、図7(a)(b))で、加熱処理を行っていないもの100質量部;湿潤剤(界面活性剤)1質量部;及び;精製水1500質量部を混合し撹拌して、スラリーを得た。
ここで、上記湿潤剤(界面活性剤)は、酸基を有する化合物のアンモニウム塩とした。
【0190】
上記スラリーを、30℃で10分間、ハンドミキサーで800rpmで撹拌させることで湿潤処理を行った。
【0191】
<湿式粉砕>
容積0.6Lのビーズミルを用い、ビーズの直径0.3mmφ、ビーズ充填量60%、ベッセルモーター回転数1500rpm、循環ポンプはチューブ式ポンプを用い、移送量毎分500mLで、上記で得たスラリー4Lを90分以上循環させた。
【0192】
<凝集防止処理>
得られたスラリーを、3500mLだけ、上記ビーズミルの容器から別容器に移した後、凝集防止剤として、コブロックポリマーを、スラリー全体(3500mL)に対して、0.01質量%を添加した。
添加後、常温(15~25℃)にて、ハンドミキサーを用いて800rpmで5分間撹拌して、凝集防止処理を行った。
【0193】
<水除去処理>
加熱と減圧を加えて、サイクロン分離回収方法で、半ドライアップしたものを回収し、120℃のオーブンで240分間加熱して水を除去し、固体状のカーボンナノファイバー群を調製した。
【0194】
評価例1
[製造例1で得られたカーボンナノファイバー群の観察と分散性の評価]
製造例1で得られた固体状のカーボンナノファイバー群、及び、水除去処理前の分散液(スラリー)中のカーボンナノファイバー群を、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観測して前記のように測定したところ、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の90個数%が分布しているカーボンナノファイバー群が得られた(例えば図9参照)。
【0195】
上記のようにして得られたカーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは11μmであり、数平均アスペクト比は16であった。
【0196】
製造例1で得られたカーボンナノファイバーは、実質的に1本ずつの状態(分散状態)、又は、熱硬化性樹脂中に分散可能状態になっていた。なお、素フィラメントにまでは1本ずつに分離可能であるとは限らないが、カーボンナノファイバー自体は、1本1本に分散可能であった。すなわち、カーボンナノファイバー同士が並列して強く凝集していない状態であり、該カーボンナノファイバー間に熱硬化性樹脂が入り込める状態であった(図9(a)(b)参照)。
【0197】
得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、分散性の評価のためのモデル媒体として、アクリル樹脂の水性エマルジョン、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂の水性エマルジョン、ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンに、それぞれ投入し、通常に撹拌した。
その結果、固体状のカーボンナノファイバー群から、カーボンナノファイバーが、略1本ずつ好適に水中に分散した。分散中に凝集せず、経時でも凝集しなかった。
【0198】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱硬化性樹脂の硬化前の高粘度液体に、常用の混錬機(ニーダー)を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適に分散した。すなわち、得られた固体状のカーボンナノファイバー群は、マトリックス中に好適に分散可能であった。
【0199】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる「熱硬化性樹脂の硬化剤」側に、常用の撹拌機を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適に該硬化剤中に分散した。
カーボンナノファイバーが分散した硬化剤と、硬化前のエポキシ樹脂又は硬化前のウレタン樹脂をそれぞれ含有する主剤とを混合したところ、何れも分散が保持され凝集せずに、熱硬化性樹脂として好適に使用できた。
【0200】
原料として、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素に代えて、等方性ピッチ系繊維状炭素、ラジアル型メソフェーズピッチ系繊維状炭素、オニオン型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を使用した以外は、製造例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を調製した、又は、調製しようとした。
【0201】
「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下、好ましくは数平均アスペクト比が3以上のカーボンナノファイバー」の製造し易さは、以下の通りであった。
該「製造のし易さ」とは、分散可能な状態での製造のし易さを意味するので、分散性、分散安定性に関しても以下の通りであった。
【0202】
なお、「>>」「>」「≒」に関しては、上(左)に行く程、優れていることを示す。また、優劣の程度(優劣の差)についても、「>>」「>」「≒」のようであった。
【0203】
ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素
>>ラジアル型メソフェーズピッチ系繊維状炭素
≒オニオン型メソフェーズピッチ系繊維状炭素
>>PAN系繊維状炭素
【0204】
また、高濃度分散性、熱的特性、機械的特性についても、該特性は分散性に大きく依存するので、上記の順番であった。また、優劣の程度(差)についても、上記「>>」「>」「≒」のようであった。
【0205】
製造に際しての(製造時の)分散性;前記したエマルジョン(媒体は水)に対する分散性;熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化前の熱硬化性樹脂等に対する分散性;等は何れも強い相関があり、上記何れの該体・マトリックスに対しても、原料に関して上記した順番である。
すなわち、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を原料として、前記した粉砕工程を経て製造された特定NCFは、最も好適な分散性を示した。
【0206】
粉砕する「原料の繊維状炭素」として、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素に代えて、ラジアル型メソフェーズピッチ系繊維状炭素、オニオン型メソフェーズピッチ系繊維状炭素、又は、PAN系繊維状炭素を用いたものは、粉砕法では、本発明における所定のサイズ・形状・平均サイズ・平均形状のカーボンナノファイバー群ができ難かったり、熱硬化性樹脂に分散が良好なものができなかったりした。
そのため、以下の製造例では、ランダム型メソフェーズピッチ系繊維状炭素を粉砕して得られるカーボンナノファイバー群を用いた。
【0207】
製造例2
(A-エポキシ樹脂の調製)
粘度120~150[Pa・s/25℃]、エポキシ当量184~194[g/eq]の液状エポキシ樹脂1、粘度30~45[Pa・s/25℃]、エポキシ当量160~175[g/eq]の液状エポキシ樹脂2、及び、エポキシ当量600~700[g/eq]、数平均分子量1200、軟化点75~85℃の固形エポキシ樹脂3、更に、硬化剤5質量%、硬化促進剤3質量%を加えて、60℃~70℃にてプラネタリーミキサーにて1時間混合して混合エポキシ樹脂(以下、この混合エポキシ樹脂を「A-エポキシ樹脂」と記載する)を得た。
【0208】
上記エポキシ樹脂1、2、3は、全て、ビスフェノール型のエポキシ樹脂であった。
この混合エポキシ樹脂である「A-エポキシ樹脂」の粘度は、50℃で140~150[Pa・s]、60℃で50~60[Pa・s]、70℃で15~25[Pa・s]であった。
また、この「A-エポキシ樹脂」のエポキシ当量は、400~470g/eqであった。
【0209】
製造例3
(A-エポキシ樹脂のプリプレグ作製)
製造例2で製造したA-エポキシ樹脂を用いて、「強化繊維としての炭素繊維」の繊維目付(FAW(Fiber Areal Weight))200g/mに対してレジンコンテント33~35質量%となることを目標にレジンフィルムを作製した。
その際、製造例2で製造したA-エポキシ樹脂の中に、製造例1で製造したカーボンナノファイバー群を、含有量を変化させて配合してマトリックスとした。また、該カーボンナノファイバー群を含有させずに、製造例2で製造したA-エポキシ樹脂のみをマトリックスとしたものも製造した。
【0210】
ここで、「レジンコンテント」とは、プリプレグ全体に対してのA-エポキシ樹脂の含有割合である。以下、プリプレグ全体に対してのマトリックスの含有割合を「レジンコンテント」と記載する。
また、以下、プリプレグにおける、すなわち、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)における繊維目付(g/cm)を、単に、「FAW」と略記する。
【0211】
その後、具体的には、強化繊維として炭素繊維(東レ株式会社製、T-700S-12K)を引き揃え、上記レジンフィルムで上下面より挟み込み、加熱・加圧して、樹脂を炭素繊維内に染み込ませた。
このようにして、300mm幅でFAW192g/m、レジンコンテント35質量%のプリプレグを得た。
【0212】
評価例2
(A-エポキシ樹脂の靭性強度評価)
製造例3で作製したプリプレグを一方向に10枚積層して、JIS K7086、双片持ちはり試験[Double Cantilever Beam(DCB) Test](DCB試験)用のCFRP、及び、端面切欠き曲げ試験[End-Notched Flexure (ENF) Test](ENF試験)用のCFRPを、オートクレーブにて130℃にて製造した。
【0213】
上記DCB試験より、亀裂進展初期のモードI層間破壊靭性値(GIc)及び亀裂進展過程のモードI層間破壊靭性値(GIR)を測定した(図12の左図参照)。
また、上記ENF試験より、亀裂進展初期モードII層間破壊靭性値(GIIc)を測定した(図12の右図参照)。
得られた値又は結果を、後記の表1に、又は、後記の文章で示す。
【0214】
比較例1
<CNFの含有量変化、CNF含有なし>
製造例2において調製したA-エポキシ樹脂の中に、カーボンナノファイバー群を配合せず、A-エポキシ樹脂からなるレジンフィルムを調製した。すなわち、A-エポキシ樹脂のみをマトリックスとした。
その後は、製造例3と同様の方法で、FAW192g/m、レジンコンテント35質量%のプリプレグを製造し、評価例2の方法で靭性強度を測定した。
評価結果を表1に示す。このプリプレグについて、靭性強度は、実施例1~4の何れよりも劣っていた。
【0215】
実施例1
<CNFの含有量変化>
製造例2においてA-エポキシ樹脂の調製中に、製造例1で製造したカーボンナノファイバー群を0.25質量%配合した。
その後は、製造例3と同様の方法で、FAW199g/m、レジンコンテント34質量%のプリプレグを製造した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。評価結果を表1に示す。
【0216】
実施例2
<CNFの含有量変化>
製造例2においてA-エポキシ樹脂の調製中に、製造例1で製造したカーボンナノファイバー群を0.5質量%配合した。
すなわち、実施例1において、カーボンナノファイバー量を0.5質量%配合に変更し、FAW206g/m、レジンコンテント34質量%とした以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを製造した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。評価結果を表1に示す。
【0217】
実施例3
<CNFの含有量変化>
製造例2においてA-エポキシ樹脂の調製中に、製造例1で製造したカーボンナノファイバー群を1.0質量%配合した。
すなわち、実施例1において、カーボンナノファイバー群を1.0質量%配合に変更し、FAW206g/m、レジンコンテント33質量%とした以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを製造した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。評価結果を表1に示す。
【0218】
実施例4
<CNFの含有量変化>
製造例2においてA-エポキシ樹脂の調製中に、製造例1で製造したカーボンナノファイバー群を1.5質量%配合した。
すなわち、実施例1において、カーボンナノファイバー群を1.5質量%配合に変更し、FAW199g/m、レジンコンテント34質量%とした以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを製造した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。評価結果を表1に示す。
【0219】
実施例5
<レジンコンテント多い>
実施例1において、カーボンナノファイバー群を0.5質量%配合し、FAW206g/m、レジンコンテント45質量%とした以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを製造した。すなわち、実施例2において、特定CNF群の含有量を増やした以外は、実施例2と同様にしてプリプレグを製造した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。
このプリプレグは、実施例2よりも劣るものの、実施例2とほぼ同等の優れた値を示した。
【0220】
実施例6
<CNFを含有する粘度が高いエポキシ樹脂マトリックス>
製造例3において、A-エポキシ樹脂の代わりに、A-エポキシ樹脂より高粘度の、ENEOS社製の130℃硬化型ビスフェノール型エポキシ樹脂(タイプ:25R-7C、60℃での粘度:100~120[P・s])を用いて、FAW185g/m、レジンコンテント36質量%のプリプレグを、実施例1(CNFを0.25質量%含有)と同様にして作製した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。
このプリプレグは、A-エポキシ樹脂を用いた実施例1よりも劣るものの、CNTを含有しない下記の比較例2に比べて優れた値を示した。
【0221】
比較例2
<CNF含有なし/粘度が高いエポキシ樹脂含有マトリックス>
カーボンナノファイバ―群を加えずに、それ以外は実施例6と同様にして、プリプレグを作製し、評価例2の方法で靭性強度を測定した。
評価結果を表1に示す。このプリプレグは、実施例6(CNFを0.25質量%含有)のプリプレグに比べて、劣っていた。
【0222】
実施例7
<CNFを含有するベンゾオキサジン樹脂マトリックス>
製造例3において、A-エポキシ樹脂に代えて、高靭性とされるENEOS社製の185℃硬化型ベンゾオキサジン樹脂(TP(熱可塑性樹脂)入り)を用いて、FAW188g/m、レジンコンテント36質量%のプリプレグを実施例1(CNFを0.25質量%含有)と同様にして作製した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。
このプリプレグは、A-エポキシ樹脂を用いた実施例1と同等又は劣るものの、下記の比較例3に比べて優れた値を示した。
【0223】
比較例3
<CNF含有なし/ベンゾオキサジン樹脂マトリックス>
カーボンナノファイバ―群を加えずに、それ以外は実施例7と同様にして、プリプレグを作製し、評価例2の方法で靭性強度を測定した。
評価結果を表1に示す。このプリプレグは、実施例7(CNFを0.25質量%含有)のプリプレグに比べて、劣っていた。
【0224】
実施例8
<CNF群の含有量多い>
実施例1において、カーボンナノファイバー群を10質量%配合し、FAW206g/m、レジンコンテント34質量%とした以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを製造した。
評価例2の方法で靭性強度を測定した。その結果、このプリプレグについては、靭性強度は、実施例1~4の何れよりも劣るものの優れた値を示した。
また、カーボンナノファイバー群の含有量が大き過ぎても、靭性強度が低下することが分かった。
【0225】
比較例4
<CNT配合>
実施例2において、カーボンナノファイバー群に代えて、カーボンナノチューブ(CNT)群を0.5質量%を配合し、FAW206g/m、レジンコンテント34質量%とした以外は、実施例2と同様にしてプリプレグを製造した。
しかし、実施例2(実施例1~4)で用いたカーボンナノファイバー群(特定CNF群)に比べて極めて分散性が劣っていた。
【0226】
評価例2の方法で靭性強度を測定した。その結果、全ての靭性強度は、実施例2の何れよりも大きく下回っていた。
カーボンナノチューブ(CNT)群をマトリックス中に含有させたプリプレグ、それを積層してなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)では、靭性強度を高くすることができなかった。
【0227】
比較例5
<気相法VNT配合>
実施例2において、カーボンナノファイバー群の代わりに、気相成長法で製造したカーボンナノファイバーである昭和電工製VGCF-H(平均繊維径150nm、平均繊維長6μm)を0.5質量%配合し、FAW206g/m、レジンコンテント34質量%のプリプレグを製造した。
しかし、実施例2(実施例1~4)で用いたカーボンナノファイバー群(特定CNF群)に比べて分散性が劣っていた。
【0228】
評価例2の方法で靭性強度を測定した結果、全ての種類の靭性強度は、実施例2よりも大きく下回った。
【0229】
本発明における粉砕法ではなく、気相成長法で製造したカーボンナノファイバーをマトリックス中に含有させたプリプレグ、それを積層してなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)では、靭性強度を高くすることができなかった。
外形的な見掛けのサイズ・形状としては、本発明における「粉砕法で製造したカーボンナノファイバー(群)」と同等であっても、気相成長法で製造したカーボンナノファイバーは、外観の形状が略円柱状であったり、実質的には分散していなかったり、表面性状が異なっていたりするため、靭性強度を高くできなかった。
【0230】
【表1】
【0231】
【表2】
【0232】
【表3】
【0233】
【表4】
【0234】
実施例1~4と比較例1との比較比(比較例1の靭性強度(分母)に対する実施例1~4の靭性強度(分子))を表2に示す。
表2より、粉砕法で製造される特定のカーボンナノファイバー群(本発明における特定CNF群)は、マトリックスに分散含有させる炭素質物として特に優れていることが分かった。
【0235】
実施例1~4と比較例2との比較比(比較例2の靭性強度(分母)に対する実施例1~4の靭性強度(分子))を表3に示し、実施例1~4と比較例3との比較比(比較例3の靭性強度(分母)に対する実施例1~4の靭性強度(分子))を表4に示す。
【0236】
本発明の「粉砕法で製造される特定のカーボンナノファイバー群」を含有させれば靭性強度が上がり、優れたプリプレグと炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が得られたが、その中でも、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂がより優れていること、更に、特定の化学構造(ビスフェノール型エポキシ樹脂)、特定の粘度、特定のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂が特に優れていることが分かった。
【0237】
「A-エポキシ樹脂」に特定CNFを配合したものは、高い靭性強度を示すことが分かったが(表2参照)、更に、上記した通り、粘度やエポキシ当量が好適で、ビスフェノール型のエポキシ樹脂(「A-エポキシ樹脂」等)(実施例1)は、粘度が高過ぎる市販のエポキシ樹脂(実施例6)や、市販のベンゾオキサジン樹脂(実施例7)に比較して、良方向に行くことが分かった(表3、4参照)。
【0238】
比較例3(CNF不含有)で使用したベンゾオキサジン樹脂は、樹脂自体として高い靭性強度を有するものであるが、それと比較して、実施例1~4の「特定CNFを含有するA-エポキシ樹脂」は、更に高い靭性強度を有することが分かった(表4参照)。
【産業上の利用可能性】
【0239】
本発明のプリプレグを積層してなるCFRPは、マトリックスに特定CNFが良分散されているので、靭性強度が極めて高い。そのため、CFRPが使用される全ての分野に広く利用されるものである。
靭性強度が極めて高いことに加え、更に、製造コストが掛からないので、樹脂成型分野、移動体製造分野、移動体部品の製造分野、スポーツ用品の製造分野、レジャー用品の製造分野等に広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0240】
10・・・フィラメント
20・・・素フィラメント

図1
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図13