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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105971
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 13/02 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
H04B13/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009996
(22)【出願日】2023-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム「大学・エコシステム推進型 大学推進型」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】野本 玲於奈
(72)【発明者】
【氏名】正留 康太
(57)【要約】
【課題】塩水においてデータを送受信可能な無線通信システム及び無線通信方法を提供する。
【解決手段】無線通信システム1が、電気伝導の媒体となる塩水から構成され、該塩水が電気的にフローティング状態にある伝導路30と、塩水の中に配置される送信電極11と、送信電極11に接続されて電気信号を送信電極11に出力する出力部12を備える送信装置10と、塩水の中に配置されて送信電極11から塩水の中を伝わる電気信号を受信する受信電極21と、受信電極21から入力された電気信号を処理する処理部22とを備える受信装置20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導の媒体となる塩水から構成され、該塩水が電気的にフローティング状態にある伝導路と、
前記塩水の中に配置される送信電極と、前記送信電極に接続されて電気信号を前記送信電極に出力する出力部を備える送信装置と、
前記塩水の中に配置されて前記送信電極から前記塩水の中を伝わる電気信号を受信する受信電極と、前記受信電極から入力された電気信号を処理する処理部とを備える受信装置と、
を備える、無線通信システム。
【請求項2】
前記受信電極と前記処理部との間に接続されたインダクタンスを有する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記インダクタンスに並列接続されたキャパシタンスを有する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記出力部は、一定の振幅で周波数を変化させて前記電気信号を前記送信電極に出力する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記送信装置は、前記塩水の中を移動するロボットに取り付けられる、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
電気伝導の媒体となる塩水を保持しつつ、該塩水が電気的にフローティング状態を有する伝導路の中に、送信電極及び受信電極を設けておき、
複数の周波数で前記送信電極から電気信号を出力し、前記伝導路の中を伝わる電気信号を前記受信電極で受信して、受信した受信信号について周波数解析することにより、データを送受信する際に使用する周波数を求め、
求めた前記周波数での交番電圧をキャリア波としデータ信号により変調して前記送信電極から出力し、前記伝導路の中を伝わる電気信号を前記受信電極で受信して、受信した受信信号について復調をすることにより、前記データ信号を送受信する、無線通信方法。
【請求項7】
前記受信信号は、インダクタンスを介在して処理する、請求項6に記載の無線通信方法。
【請求項8】
前記キャリア波が0.1MHz以上数十MHz以下の周波数の範囲の一定の周波数を有する、請求項6又は7に記載の無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中無線通信においては、超音波、可視光又は電波が使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水中における超音波による通信には通信速度の制限があり、水中における可視光による通信には可視光の送受信ができない場合が多く、水中における電波による通信では導電率による大きな吸収減衰から比較的長距離の通信ができないという課題がある。
【0004】
そこで、本発明では、塩水においてデータを送受信可能な無線通信システム及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は以下のコンセプトを有する。
【0006】
本発明における無線通信システムは、電気伝導の媒体となる塩水から構成され、該塩水が電気的にフローティング状態にある伝導路と、前記塩水の中に配置される送信電極と、前記送信電極に接続されて電気信号を前記送信電極に出力する出力部を備える送信装置と、前記塩水の中に配置されて前記送信電極から前記塩水の中を伝わる電気信号を受信する受信電極と、前記受信電極から入力された電気信号を処理する処理部とを備える受信装置と、を備える。
【0007】
本発明における無線通信システムは、好ましくは、前記受信電極と前記処理部との間に接続されたインダクタンスを有する。好ましくは、前記インダクタンスに並列接続されたキャパシタンスを有する。好ましくは、前記出力部は、一定の振幅で周波数を変化させて前記電気信号を前記送信電極に出力する。好ましくは、前記送信装置は、前記塩水の中を移動するロボットに取り付けられる。
【0008】
本発明における無線通信方法は、電気伝導の媒体となる塩水を保持しつつ、該塩水が電気的にフローティング状態を有する伝導路の中に、送信電極及び受信電極を設けておき、複数の周波数で前記送信電極から電気信号を出力し、前記伝導路の中を伝わる電気信号を前記受信電極で受信して、受信した受信信号について周波数解析することにより、データを送受信する際に使用する周波数を求め、求めた前記周波数で交番電圧をキャリア波としてデータ信号により変調して前記送信電極から出力し、前記伝導路の中を伝わる電気信号を前記受信電極で受信して、受信した受信信号について復調をすることにより、前記データ信号を送受信する。
【0009】
本発明における無線通信方法において、好ましくは、前記受信信号は、インダクタンスを介在して処理する。好ましくは、前記キャリア波が0.1MHz以上数十MHz以下の周波数の範囲の一定の周波数を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩水からなる電気伝導の媒体によりデータを送受信可能な無線通信システム及び無線通信方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る無線通信システムの概略図である。
図2図2A図1に示す無線通信システムが適用される場面の概略を示す図であり、図2B図1に示す無線通信システムが適用されない場面の概略を示す図である。
図3図3A及び図3Bは、図1に示す本発明の実施形態に係る無線通信システムの詳細な構成図である。
図4図4は実証実験で用いた無線通信システムの送信装置と受信装置の概略を示す図である。
図5図5A及び図5Bは、実証実験において伝導路として使用した第1塩水プールの平面図及び断面図であり、図5C及び図5Dは。実証実験において伝導路として使用した第2塩水プールの平面図及び断面図である。
図6A図6Aは、環境雑音の測定結果を示す図である。
図6B図6Bは、図6Aに示す環境雑音の測定結果の周波数依存性の一部を示す図である。
図6C図6Cは、図6Aに示す環境雑音の測定結果の周波数依存性を示す図である。
図7図7は、伝導路を第1プールとし、電極間距離1m~6m、振幅5Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図8図8は、伝導路を第1プールとし、電極間距離6m~15m、振幅15Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図9図9は、伝導路を第1プールとし、電極間距離11m、15m、25m、振幅50Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図10A図10Aは、送信電圧の振幅5Vの場合における、受信電圧のピーク値Vpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数1MHz、2MHz、5MHzの周波数成分に係る結果を示す図である。
図10B図10Bは、送信電圧の振幅5Vの場合における、受信電圧のピーク値Vpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数100kHz、200kHz、500kHz、10MHzでの周波数成分に係る結果を示す図である。
図11A図11Aは、送信電圧の振幅15Vの場合における、受信電圧のピーク値Vpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数500kHz、1MHz、2MHzでの周波数成分に係る結果を示す図である。
図11B図11Bは、送信電圧の振幅15Vの場合における、受信電圧のピーク値Vpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数100kHz、200kHz、5MHz、10MHzでの周波数成分に係る結果を示す図である。
図12A図12Aは、送信信号の電圧で規格化したVpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数1MHzでの電気信号に係る結果を示す図である。
図12B図12Bは、送信信号の電圧で規格化したVpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数2MHzでの電気信号に係る結果を示す図である。
図12C図12Cは、送信信号の電圧で規格化したVpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性のうち、周波数5MHzでの電気信号に係る結果を示す図である。
図13A図13Aは、伝導路を第1プールと第2プールとし、電極間距離を15mとし、振幅50Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図13B図13Bは、伝導路を第1プールと第2プールとし、電極間距離を25mとし、振幅50Vの電気信号を送信した際の受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図14図14は、伝導路を第2プールとし、電極間電極を15mとし、振幅50Vの電気信号を送信した際の、受信電圧を計測する際に計測器と受信電極との間にインダクタンス100μHの接続の有無における受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図15図15は、伝導路を第2プールとし、電極間距離を25mとし、振幅50Vの電気信号を送信した際の、受信電圧を計測する際に計測器と受信電極との間にインダクタンス10μHの接続の有無における受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果を示す図である。
図16図16は、比較例での測定環境を模式的に示す図である。
図17図17は、比較例における受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信システムの概略図である。本発明の実施形態に係る無線通信システム1は、送信装置10と、受信装置20と、伝導路30と、を備える。
【0014】
送信装置10は、送信電極11と出力部12を有する。送信電極11は、ロッド状の金属棒、板状の金属片などから選択される。出力部12は、送信電極11に電気的に接続され、電気信号を送信電極11に出力し、送信電極11から伝導路30としての塩水の中に電気信号を出力する。
【0015】
受信装置20は、受信電極21と処理部22を備える。受信電極21は、ロッド状の金属棒、板状の金属片などから選択される。受信電極21は、送信電極11と同様の寸法、素材で構成されることが好ましい。送信装置10と受信装置20との間で電極同士が電気的に対称となるからである。処理部22は、受信電極21に電気的に接続され、受信電極21で受信した信号を処理する。
【0016】
伝導路30は、電気伝導の媒体となる塩水から構成されている。伝導路30中に送信電極11と受信電極21とが離れて設けられている。送信電極11及び受信電極21の何れか又は双方は移動せずに固定されている場合だけはなく、水中ロボットなどに搭載されて伝導路30内を移動してもよい。
【0017】
伝導路30は、塩水が電気的にフローティング状態にある。ここでの「フローティング状態」とは、送信電極11から受信電極21への電気信号の送受信を妨げるような構成を採用していないという意味である。詳細については後述する。
【0018】
このような無線通信システム1によれば、送信装置10が送信電極11から電気信号を出力すると、当該電気信号が伝導路30の塩水を伝わり、受信装置20が受信電極21により電気信号を受信し、処理部22により受信信号を処理することができる。
【0019】
図2Aは、図1に示す無線通信システムが適用される場面の概略を示す図であり、図2Bは、図1に示す無線通信システムが適用されない場面の概略を示す図である。各図において右側に海2との関係を模式的に示しており、左側に伝導路30としての塩水プールの平面視を模式的に示す。
【0020】
本発明の実施形態に係る無線通信システム1が適用される場面を説明する。例えば図2Aに示すように、伝導路30としての塩水プールが臨海地域に設けられている。塩水プールは、海2とは物理的に繋がっていない。塩水プールの一端に送信電極11を配置し、塩水プールの他端に受信電極21を配置する。塩水プールは、3%前後のNaClが溶解している。送信電極11から出力された電気信号は、塩水中を伝わって受信電極21に伝わる。
【0021】
一方、本発明の実施形態に係る無線通信システム1が適用されない場面を説明する。図2Bに示すように、図2Aとは異なり、塩水プール30Aが海2と物理的に繋がっている。つまり、塩水プール30A中の塩水が、トンネル3を経由して海2と繋がっている。図2Aと同様に、塩水プール30Aに送信電極11と受信電極21とを距離をおいて配置しても、送信電極11から出力された電気信号は、抵抗率の少ない経路を伝わるため、受信電極21に伝わりにくい。ここで「伝わりにくい」というのは、送信電極11と受信電極21との距離、送信電極11から出力される電気信号に係る電圧の大きさ、送信電極11、受信電極21から海2までの距離にも依存するためであり、「伝わらない」を含む意味である。
【0022】
図2Bと異なり、図2Aのように、伝導路30が、電気伝導の媒体となる塩水から構成され、該塩水が海2とは物理的につながっておらず電気的にフローティング状態にあれば、送信電極11から受信電極21まで電気信号が塩水の媒体により電気伝導し得るからである。
【0023】
次に、無線通信システム1の詳細な構成について説明する。図3A及び図3Bは、図1に示す本発明の実施形に係る無線通信システム1の詳細な構成図である。
【0024】
送信装置10において、出力部12は、例えば、或る周波数の電圧信号を出力すると共に、その周波数を或る周波数範囲で可変し、掃引することができる。また、出力部12は、前述の或る周波数範囲のうち特定の周波数に係る交番電圧をキャリア波としてデータ信号により変調して出力する。つまり、特定の周波数の交番電圧をキャリア波として、データ信号により変調して出力する。データ信号は、例えば、送信装置10に接続された各種センサー(イメージセンサなど)から入力された、計測データとしての画像データなどが挙げられる。
【0025】
一方、受信装置20において、受信電極21からの電気信号を処理する処理部22を備えており、図3Aに示すように、受信電極21と処理部22との間に、インダクタンスLを備えていることが好ましい。これは、処理部22内の検出部22b内のキャパシタンスC0とインダクタンスLとで並列の共振回路22aとなり、受信電極21からの電気信号を感度よく受信することができるからである。この際、受信電極21と検出部22bとの配線によるインダクタンス成分やキャパシタンス成分を含めて共振回路22aとすることが望ましい。
【0026】
また、図3Bに示すように、受信電極21と処理部22との間に、インダクタンスLとキャパシタンスCとを並列に接続したLC回路を介在し、このLC回路と検出部22b内のキャパシタンスC0とにより共振回路22aを構成してもよい。インダクタンスL、キャパシタンスCの何れか一方又は双方を可変とすることにより、伝導路30の導電率等の影響を加味して、受信電極21からの電気信号を感度よく受信することができるからである。なお、インダクタンスLとキャパシタンスCとを直列に接続したLC回路を介在してもよい。
【0027】
LC回路は、より好ましくは、キャパシタンスCが可変である。μHの単位のインダクタンスLの調整よりもキャパシタンスCを可変にする方が調整しやすいためである。ここで、処理部22の検出部22bにおける検出信号の振幅が大きくなるように、キャパシタンスCを所定の範囲で自動調整としてもよい。
【0028】
処理部22は、検出部22bと、検出部22bで検出した信号を処理する信号処理部(図示せず)とを備える。信号処理部は、第1の処理として、送信装置10において周波数を変化させた場合に、検出部22bで検出した信号の周波数解析を行い、或る閾値以上の強度を有する周波数帯域を決める。第2の処理として、送信装置10において第1の処理で決められた周波数に係るキャリア波(搬送波)をデータ信号により変調して送信された信号を受信する場合、検出部22bで検出した信号を所謂復調してデータ信号として出力する。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る無線通信システムを用いた無線通信方法について詳細に説明する。
【0030】
STEP1として、電気伝導の媒体となる塩水の伝導路30中に送信電極11と受信電極21を設ける。その際、伝導路30は、電気的にフローティング状態を有している。送信電極11と受信電極21は、信号を送受信する部分が塩水中にあればよく、信号を送受信し難い又はしない部分が塩水中にない場合であってもよい。
【0031】
STEP2として、送信電極11から異なる周波数の電圧信号を電気信号として出力するか、又は、所定の範囲で周波数を変化させながら電圧信号を電気信号として出力するかして、塩水を伝わる電気信号を受信電極21により受信する。
【0032】
STEP3として、STEP2において受信電極21により受信した電気信号について周波数解析を行う。具体的には、受信した電気信号のうち電圧信号が高い周波数成分を求める。これにより、データを送受信する際に使用する周波数を求める。
【0033】
STEP4として、STEP3で求めた周波数に係る交番電圧をキャリア波としてデータ信号により変調して、送信電極11から出力する。受信電極21において、伝導路30の中を伝わる電気信号を受信し、受信した受信信号について復調する。これにより、データ信号を送受信することができる。
【0034】
次に、実証実験について説明する。図4は実証実験で用いた無線通信システム1の送信装置10と受信装置20の概略を示す図である。図1及び図3に示すコンポーネントと同一又は対応しているものには同一の符号を付して説明を省略する。
【0035】
送信装置10は、出力部12としてファンクションジェネレータ12a、ファンクションジェネレータ12aに接続されるアンプ12b、及び、アンプ12bに対するバッテリー12cと、これらを内蔵した電気的にシールド可能な筐体13とを備える。
【0036】
実証実験では、送信装置10のコンポーネントから送信電極11に例えば50V、10MHzの高周波電圧を印加しても、筐体13内から外に向けて電磁波が生じないように、シールドされている。なお、筐体13は配線コネクター13aが接続されており、配線コネクター13aにより筐体13の内外の配線を保持する。
【0037】
送信電極11として、直径3mm、長さ10cmのステンレス電極を用い、このステンレス電極を1mのアクリル製の支持板15に取り付けた。
【0038】
受信装置20は、受信電極21と検出部22bとして計測器とを含み、受信電極21と検出部22bとの間にインダクタンスLを接続して構成した。その際、インダクタンスLは、検出部22bとしての計測器に並列に接続した。計測器の入力端から見たキャパシタンス(浮遊容量)は、10pF以上20pF以下であった。受信電極21と検出部22bとの間で、検出部22b内のキャパシタンス及びこれらを接続する配線のキャパシタンスを用いてLC並列回路が設けられていることになる。
【0039】
受信電極21として、直径3mm、長さ10cmのステンレス電極を用い、このステンレス電極を1mのアクリル製の支持板25に取り付けた。
【0040】
図5A及び図5Bは、実証実験において伝導路30として使用した第1塩水プールの平面図及び断面図であり、図5C及び図5Dは。実証実験において伝導路30として使用した第2塩水プールの平面図及び断面図である。伝導路30として、北九州市和布刈塩水プールのうち、奥行幅Width11m、左右長さLength25m、水面下深さDepth0.35mの第1プール(幼児用プール)と、奥行幅Width15m、左右長さLength25m、水面下深さDepth0.95mの第2プール(25mプール)を用いた。第1プールでは塩水の体積は約90mであり、導電率σ53.63mS/cmであった。第2プールでは塩水の体積は約360mであり、導電率σは第1プールと同様であった。第1プール及び第2プールの何れの塩水も、外海とはつながっておらず、電気的にフローティング状態にある。
【0041】
環境雑音を測定した。送信電極11と受信電極21とを第1プール中に配置し、送信電極11から電気信号を出力しない状態で受信電極21での受信信号を測定した。図6A乃至図6Cは環境雑音の測定結果である。図6Aにおいて、横軸が時間(time[ms])であり、縦軸が受信電圧(output voltage[V])である。図6B及び図6Cにおいて、横軸が周波数(frequency[Hz])であり、縦軸が20log{受信電圧[V]/1[V]}(output voltage Vpeak[dB])である。図6B及び図6Cの縦軸の受信電圧はデシベル表示である。図6B図6Cにおける周波数0~2000Hzの拡大図である。
【0042】
図6A乃至図6Cから、60Hzにおいて-3.6dB(660mV)の雑音が生じていること、100kHz以下の周波数帯において雑音電圧が-60dB以上となり、100kHzから20MHzまでの周波数帯において平均雑音電圧振幅が-78dB(120μV)であること、100kHzから20MHzまでの周波数帯における雑音電圧振幅が4.6MHzにおいて最大-63dB(700μV)であることが分かった。この雑音は、測定環境にある60Hzの商用電源によるものであることが判明した。
【0043】
このことから、100kHz以上20MHzでの周波数帯での雑音電圧が、100kHz以下の周波数帯での雑音電圧よりも非常に小さいことが分かった。つまり、データ通信に使用することができる周波数帯域では雑音電圧が-60dB以下であることが分かった。
【0044】
伝導路30として第1プールを用いて、電極間距離を1m~6mとし、振幅5Vの電気信号を送信した結果について説明する。送信電極11と受信電極21は何れも塩水面近くで塩水中に配置した。送信電極11と受信電極21は、第1プールの平面視で半円弧状の部分を縁部とし、当該縁部の場所P11に送信電極11を配置し、場所P11から所定長離れた当該縁部の場所P12に受信電極21を配置した。所定長を1m、2m、3m、4m、5m、6mと順に変化させるように場所P11、P12を変えた。送信電極11から電圧振幅5Vで1kHz、2kHz、5kHz、10kHz、20kHz、50kHz、100kHz、200kHz、500kHz、1MHz、2MHz、5MHz、10MHzの周波数の電気信号として正弦波を送信し、塩水の伝導路30を伝わる電気信号を受信電極21で受信し、受信した電圧を測定した。測定した電圧波形を周波数解析した。
【0045】
図7は伝導30路を第1プールとし、電極間距離を1m~6mとし、振幅5Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果である。図7において、横軸が周波数(frequency[Hz])であり、縦軸が受信電圧のピーク値(output voltage Vpeak[dB])である。Vpeak[dB]は20log10|{受信電圧[V]/1[V]}|から求めた(図12A乃至図12Cを除き、以下同様。)。図7から次のことが分かった。受信電圧のピーク値Vpeakは送信電極11と受信電極21との距離に比較的依存することなく、周波数1kHzから100kHzまでの周波数成分は減少し、周波数100kHzから10MHzまでの周波数成分は500kHzから増加して約5MHzでピークを有した(電極間距離d=4、5、6mを除く。)。10kHz以下の周波数成分は、環境雑音以下であった。
【0046】
伝導路30として第1プールを用いて、電極間距離を6m~15mとし、振幅15Vの電気信号の送信した結果について説明する。送信電極11と受信電極21は何れも塩水面近くで塩水中に配置した。送信電極11と受信電極21との所定長が6m、8mでは、第1プールの平面視で半円弧状の縁部の位置に送信電極11を配置し、その位置から所定長離れた同じ半円弧状の縁部に受信電極21を配置した。送信電極11と受信電極21との所定長が11m、15mでは、第1プールの平面視で直線状の縁部の位置P21に送信電極11を配置し、位置P21の対岸の直線状の縁部の位置P22に受信電極21を配置した。15mの所定長の場合は、縁部の直線に対して斜めになるようにした。送信電極11から電圧振幅15Vで1kHz、2kHz、5kHz、10kHz、20kHz、50kHz、100kHz、200kHz、500kHz、1MHz、2MHz、5MHz、10MHzの周波数の電気信号として正弦波を送信し、塩水の伝導路30を伝わる電気信号を受信電極21で受信し、受信した電圧を測定した。測定した電圧波形を周波数解析した。
【0047】
図8は伝導路30を第1プールとし、電極間距離を6m~15mとし、振幅15Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果である。図8における縦軸及び横軸は図7と同様である。図8から次のことが分かった。受信電圧のピーク値Vpeakは送信電極11と受信電極21との距離に比較的依存することなく、周波数1kHzから100kHzまでの周波数成分は減少し、周波数100kHzから10MHzまでの周波数成分は200kHzから増加し、距離が6m、8mでは5MHzでピークを有した。
【0048】
伝導路30として第1プールを用いて、電極間距離を11m、15m、25mとし、振幅50Vの電気信号の送信結果について説明する。送信電極11と受信電極21は何れも塩水面近くで塩水中に配置した。送信電極11と受信電極21との間の距離を11m、15m、25mとした。所定長が11mでは、第1プールの平面視で直線状の第1の縁部の位置P21に送信電極11を配置し、第1の縁部と向かい合う直線状の第2の縁部の位置P22に受信電極21を配置した。所定長が15mでは、第1プールの平面視で直線状の第1の縁部に送信電極11を配置し、第1の縁部と向かい合う直線状の第2の縁部に第1の縁部の位置からみて斜めになるように受信電極21を配置した。所定長が25mでは、第1プールの平面視で円弧状の第1の縁部の位置P31に送信電極11を配置し、位置P31と向かい合う円弧状の第2の縁部の位置P32に受信電極21を配置した。送信電極11から電圧振幅50Vで1kHz、2kHz、5kHz、10kHz、20kHz、50kHz、100kHz、200kHz、500kHz、1MHz、2MHz、5MHz、10MHzの周波数の電気信号として正弦波を送信し、塩水の伝導路を伝わる電気信号を受信電極21で受信し、受信した電圧を測定した。測定した電圧波形を周波数解析した。
【0049】
図9は伝導路30を第1プールとし、電極間距離11m、15m、25m、振幅50Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果である。図9における縦軸及び横軸は図7と同様である。図9から次のことが分かった。電極間距離が11m、15mでは、受信電圧のピーク値Vpeakについては、周波数1kHzから100kHzまでの周波数成分は減少し、周波数1MHzから5MHzまでの周波数成分は比較的高い。電極間距離が25mでは、5MHzの周波数成分は観測できなかったが、7MHzの周波数成分はピークを有した。
【0050】
次に、図7乃至図9に示したFFTのピーク値の結果から、距離による減衰傾向を求めた。図7に示すFFTのピーク値の結果から、送信電極11と受信電極21との距離を変化させたときの受信電圧のピーク値Vpeakを求めた。図10A及び図10Bは、送信電圧の振幅5Vの場合における、受信電圧のピーク値Vpeak(20log|{受信電圧[V]/1[V]}|[dB])の送信電極と受信電極との間の距離依存性を示す図であり、図10Aは周波数1MHz、2MHz、5MHzの周波数成分に係る結果であり、図10Bは周波数100kHz、200kHz、500kHz、10MHzでの周波数成分に係る結果である。
【0051】
図10Aから次のことが分かった。周波数1MHzでは減衰率-2.7dB/m(R2=0.977)であり、周波数2MHzでは減衰率-3.4dB/m(R2=0.978)であり、周波数5MHzでは減衰率-5.9dB/m(R2=0.942)であった。1MHzから5MHzの周波数範囲では、一定の減衰率(R2>0.9)で距離に応じて減衰しており、周波数が増加するに従い減衰率が大きくなっていることが分かった。一方、図10Bから、周波数100kHz、200kHz、500kHz、10MHzの周波数成分については受信電圧のFFTピークは一定の割合で減衰していないことが分かった。
【0052】
図8に示すFFTのピーク値の結果から、送信電極11と受信電極21との距離を変化させたときの受信電圧のピーク値Vpeak(20log|{受信電圧[V]/1[V]}|[dB])を求めた。図11A及び図11Bは、送信電圧の振幅15Vの場合における、受信電圧のピーク値Vpeakの送信電極と受信電極との間の距離依存性を示す図であり、図11Aは周波数500kHz、1MHz、2MHzでの周波数成分に係る結果であり、図11Bは周波数100kHz、200kHz、5MHz、10MHzでの周波数成分に係る結果である。
【0053】
図11Aから次のことが分かった。周波数500kHzでは減衰率-1.5dB/m(R2=0.920)であり、周波数1MHzでは減衰率-2.2dB/m(R2=0.945)であり、周波数2MHzでは減衰率-3.2dB/m(R2=0.908)であった。500kHzから2MHzの周波数範囲では、一定の減衰率(R2>0.9)で距離に応じて減衰しており、周波数が増加するに従い減衰率が大きくなっていることが分かった。一方、図11Bから、周波数100kHz、200kHz、5MHz、10MHzの周波数成分については受信電圧のFFTピークは一定の割合で減衰していないことが分かった。
【0054】
図12A乃至図12Cは、送信信号の電圧で規格化したVpeak(20log|{受信電圧Vout[V]/送信電圧Vin[V]}|[dB])の送信電極11と受信電極21との間の距離依存性を示す図であり、図12Aは周波数1MHzでの電気信号に係る結果であり、図12Bは周波数2MHzでの電気信号に係る結果であり、図12Cは周波数5MHzでの電気信号に係る結果である。図12A乃至図12Cから、送信電極11と受信電極21との距離が増加するに従い、減衰係数α[dB/m]が減少することが分かった。減衰係数αは周波数に依存することも分かった。減衰係数αは減衰率と同じである。
【0055】
本実証実験によれば、減衰係数は、1MHzでは2.0dB/m~2.7dB/mであり、2MHzでは2.0dB/m~3.4dB/mであり、5MHzでは1.1dB/m~5.9dB/mであった。周波数10kHz~15kHzの超音波では減衰係数が0.1dB/m~4dB/mであり、周波数MHz帯域のRFでは3.5dB/m~5dBであることが知られている。本実証実験での減衰係数は、データ送受信の際に使用するキャリア波としては十分であることが分かった。
【0056】
第2プールにおいて、電極間距離を15m、25mとし、振幅50Vの電気信号の送信結果について説明する。第2プールを伝導路30として用いた。送信電極11と受信電極21は何れも塩水面近くで塩水中に配置した。送信電極11と受信電極21との間の距離が15mでは、第2プールの平面視で直線状の縁部の位置P41に送信電極11を配置し、位置P41に向かい合う直線状の縁部の位置P42に受信電極21を配置した。送信電極11と受信電極21との間の距離が25mでは、第2プールの平面視で直線状の縁部の位置P51に送信電極11を配置し、位置P51に向かい合う直線状の縁部の位置P52に受信電極21を配置した。送信電極11から電圧振幅50Vで1kHzから10MHzまで20秒でスイープさせ、或いは、1kHz、2kHz、5kHz、10kHz、20kHz、50kHz、100kHz、200kHz、500kHz、1MHz、2MHz、5MHz、10MHzと周波数を変化させて、電気信号として正弦波を送信し、塩水の伝導路30を伝わる電気信号を受信電極21で受信し、受信した電圧を測定した。測定した電圧波形を周波数解析した。
【0057】
図13Aは伝導路30を第2プールとし、電極間距離を15mとし、振幅50Vの電気信号を送信した際の受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果である。第1プールにおいて送信電極と受信電極との距離が15mとしたときの受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果も併せて示してある。縦軸及び横軸は図7と同様である。図13Aから、第1プール、第2プールの何れにおいても、受信電圧のピーク値は約100kHzまでは減少し、その後、ほぼ一定若しくは増加していることが分かった。
【0058】
図13Bは、第2プールにおいて電極間距離を25mとし、振幅50Vの電気信号を送信した際の受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果である。第1プールにおいて送信電極と受信電極との距離が25mとしたときの受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果も併せて示してある。縦軸及び横軸は図7と同様である。図13Bから、第1プールの場合と比べて、100kHz以上5MHz以下の受信電圧のピーク値が高いことが分かった。また、第2プールにおいて、受信電圧のピーク値は約100kHz以上約500kHzでは約40dB程度であり、5MHz前後でピークとなる。
【0059】
次に、第2プールにおいて、電極間距離を15m、25mとし、振幅50Vの電気信号を送信し、受信装置20において、受信電極21と計測器との間に、インダクタンスを介在させて計測した結果について説明する。計測器自体のキャパシタンスは10pF~20pFであり、計測器と受信電極21との間のケーブルなどの測定部品を含め100pF~200pFと推定されたので、インダクタンスを100μH、10μHとし、インダクタンスをキャパシタンスに並列接続させた。測定した電圧波形を周波数解析した。その際の条件は、インダクタンスを介在させた点を除いて図13A及び図13Bに示した結果に関する実験と同じである。
【0060】
図14は、第2プールにおいて、電極間距離を15mとし、受信電圧を計測する際に計測器と受信電極との間にインダクタンス100μHを接続したときのピーク値Vpeakの周波数解析結果である。インダクタンスを接続していないときの受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果も併せて示してある。縦軸及び横軸は図7と同様である。
【0061】
図14から、インダクタンス100μHが接続されていることにより、1kHzから40kHzの周波数成分が小さく、低周波数帯域の雑音が抑えられること、約1.5MHzの周波数成分が-26dBと大きいことが分かった。
【0062】
図15は、第2プールにおいて、電極間距離を25mとし、受信電圧を計測する際に計測器と受信電極との間にインダクタンス10μHを接続したときのピーク値Vpeakの周波数解析結果である。インダクタンスを接続していないときの受信電圧のピーク値Vpeakの周波数解析結果も併せて示してある。縦軸及び横軸は、図7と同様である。
【0063】
図15から、インダクタンス10μHが接続されていることにより、3.5MHzでの電圧ピークVpeakが、インダクタンス10μHを接続していない場合と比較して、約-55dBから約-40dBと増加した。10μHを接続することにより、4MHzでの電圧ピークVpeakが、インダクタンスを接続していない場合と比較して、約-50dBから約-40dBと増加した。
【0064】
次に、比較例として、塩水が外海とつながり、フローティング状態ではない場合の結果について説明する。実験は固定係留された海上設備にて行い、送信電極と受信電極を外海に配置した。図16は比較例での測定環境を模式的に示す図である。陸地71から離れた海70上に係留された平面視での寸法30m×13mの海上設備50において、平面視での寸法7.5m×3mの計測用開口部51から海水中に深さ約1mの位置に送信電極61と受信電極62を部材65で配置した。海上設備50から海底までは32mであった。送信電極61と受信電極62との電極間距離を1mとし、振幅50V、周波数1MHzの電気信号として正弦波を送信した際の受信信号を測定した。図17は、比較例に関する、受信信号のピーク値Vpeakの周波数解析結果である。縦軸は図7と同様である。1MHzにおける受信電圧のピーク値が環境雑音以下であり、送信電極61からの電気信号を検出することができなかった。
【0065】
以上の結果より次のことが分かった。送信電極と受信電極とを塩水中に配置することにより、送信電極からの電気信号が受信電極に伝わることができる。その際、送信電極からの電気信号が塩水を伝わることから、送信電極と受信電極との間に伝導路が形成されていることが必要であり、そのためには、外海とは塩水がつながっていないこと、つまり、塩水が電気的にフローティング状態である必要がある。
【0066】
送信電極からの受信電極へ伝わる電気信号は、周波数0.5MHz以上10MHz未満がよい。この周波数の範囲の電気信号をキャリア波として使用することができる。送信電極を取り付けたロボット(いわゆる水中ロボット、水中ドローンなどと呼ばれる)に、カメラを搭載しておき、カメラで撮像した画像データのデータ信号でキャリア波を変調して送信電極から出力する。一方、受信電極で送信電極から塩水を伝わった電気信号を受信し、復調することにより、画像データを再現することができる。このようにして、画像データをリアルタイムで送受信することができる。
【0067】
送信電極からの出力される電圧は、振幅100V以下、例えば50V程度で十分であり、送信電極と受信電極の距離が25mで、送受信できることが分かったが、出力される電圧を大きくすれば、送信電極と受信電極の距離が50mであっても送受信できると考えられる。なお、送信電極と受信電極との間の塩水は、送信電極と受信電極との方向に対して垂直な断面が矩形であることを想定すると、矩形の少なくとも1辺が1cm以上、さらには3cm以上、よりさらには35cm以上あればよい。また上限は特にないが、1mでも、25mでも、50mでも可能である。
【0068】
本発明の実施形態に係る無線通信システム1が適用される場面についてさらに説明する。無線通信システム1は、塩水が含まれる海水管(「塩水管」と呼んでもよい。)において、一又は複数の分岐や一又は複数の合流により構築されている場面で適用されることが好ましい。送信装置と受信装置とを有線で接続している有線通信と比較して、送信装置を搭載した水中ロボットが海水管の入口から或る位置まで移動した際に、その移動経路を逆にたどって入口に戻る必要がないからである。つまり、無線通信システム1では、水中ロボットの海水管への入口と海水管からの出口とが一致する必要がない。
【0069】
このような海水管として、第1として海水淡水化装置での淡水化のための海水管や濃縮塩水の排出のための海水管、第2として船体、原子力発電所、港湾設備などでの冷却のための海水管、第3として海底インフラ、海底探査機などでの排水のための海水管などが挙げられる。
【0070】
淡水化プラントでの海水管、発電プラントでの冷却用の海水管のように、海水管の内壁への生体物質の付着の有無、腐食等の検査などは径が大きい場合には検査者の目視、打音などでも可能であるが、径が小さい場合には本発明の実施形態に係る無線通信システムは、送信装置を搭載した水中ロボットを用いることが有効である。
【0071】
例えば、水中ロボットに取り付けたカメラによる撮影データをリアルタイムで送信装置により受信装置に液中無線通信することができる。
【0072】
本発明の実施形態に係る無線通信システムは、海水管内の液中を伝わる信号を送受信するため、海水管の材質が導電性でも絶縁性でもよく、適用場面がその材質に依存しなく、適用場面の制約がない。
【0073】
上述に例示した海水管のみならず、海水タンク、魚用いけす、醤油タンクなどにおいても適用される。また、本発明の実施形態に係る無線通信システムは、塩濃度が高い電解質中(例えば血液、体液)での通信にも適用でき、輸血用器具、マイクロ流路、人工血管、血管を通じた信号伝達、探索用プローブなどのようなミクロな応用も可能である。この意味において、本発明の実施形態に係る「塩水」とは、各種のイオンを含む液体中という意味に解釈される。
【符号の説明】
【0074】
1:無線通信システム
2:海
10:送信装置
11:送信電極
12:出力部
20:受信装置
21:受信電極
22:処理部
22a:共振回路
22b:検出部(計測部)
C:キャパシタンス
L:インダクタンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17