(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001060
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】抗体の選択方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20231226BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231226BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231226BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231226BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231226BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231226BHJP
C40B 40/10 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/6869 Z
G01N33/48 M
G01N33/50 P
G01N33/53 D
C12N15/13
C40B40/10
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159291
(22)【出願日】2023-09-23
(62)【分割の表示】P 2019548921の分割
【原出願日】2018-03-14
(31)【優先権主張番号】1704115.3
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】518305392
【氏名又は名称】オックスフォード ジェネティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD GENETICS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】ケイウッド ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ペイン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】パーカー‐マヌエル リチャード
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所望の標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を識別する方法を提供する。
【解決手段】(a)哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させるステップであり、それぞれの抗体又は抗体模倣物は、それが産生された哺乳類細胞集団の細胞から分泌され、標的ポリペプチドは、哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされ、標的ポリペプチドは哺乳類細胞集団の各細胞内で発現される内在性膜タンパク質であるステップ、(b)抗体又は抗体模倣物が標的ポリペプチドに結合した細胞を単離するステップ、及び(c)単離された細胞において、標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体模倣物をコードする全部又は一部のポリヌクレオチド配列を配列決定するステップ、を含む、標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナーである、抗体又は抗体模倣物を産生する細胞を識別する方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナーである、抗体又は抗体模倣物を産生する細胞を識別する方法であって、
(a)哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させるステップであり、それぞれの抗体又は抗体模倣物は、それが産生された前記哺乳類細胞集団の細胞から分泌され、前記標的ポリペプチドは、前記哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされ、前記標的ポリペプチドは前記哺乳類細胞集団の各細胞内で発現される内在性膜タンパク質であるステップ、
(b)前記抗体又は抗体模倣物を分泌した細胞上にディスプレイされた標的ポリペプチドにのみ前記抗体又は抗体模倣物が結合し得る時点の後に、前記哺乳類細胞集団のうち、前記標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナーである、前記抗体又は抗体模倣物が前記標的ポリペプチドに結合した細胞を単離するステップであって、
前記標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナーは、前記抗体又は抗体模倣物の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して前記標的ポリペプチドに結合するものであり、
前記抗体又は抗体模倣物が結合した前記単離された細胞は、前記標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体模倣物を産生する細胞であるステップ、及び
(c)前記単離された細胞において、前記標的ポリペプチドに結合する前記抗体又は抗体模倣物をコードする全部又は一部のポリヌクレオチド配列を配列決定するステップ、を含む前記方法。
【請求項2】
前記標的ポリペプチドは、前記細胞集団の各細胞内で、発現コンストラクトから発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的ポリペプチドは免疫チェックポイント分子である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳類細胞は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、サル、ウサギ、ロバ、ウマ、ヒツジ、ウシ及び類人猿由来のいずれかの臓器又は組織由来の細胞からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)前記抗体はscFV抗体である、又は
(ii)前記抗体模倣物はAffibody、DARPin、Anticalin、Avimer又はVersabodyである、又は
(iii)前記抗体又は抗体模倣物は、前記抗体又は抗体模倣物に結合する標識2次抗体を用いて検出される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は液体培地、半固形培地、固形培地において実施されるか、又は前記細胞は完全に又は部分的に固定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)は更に、
前記方法は連続的又は不連続に交換される液体培地において実施される、
という特徴を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(i)ステップ(a)が実施される前記液体培地の動的粘度は、25℃において少なくとも10×10-4Pa.sである、又は
(ii)ステップ(a)が実施される前記培地はヒドロゲルである、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(a)は、
(a1)哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させるステップであり、それぞれの抗体又は模倣物は、それが産生される前記細胞から分泌される、ステップと、
(a2)前記哺乳類細胞集団から、抗体又は抗体模倣物が結合する細胞を除去するステップと、次に、
(a3)前記哺乳類細胞集団の各細胞の外面上での前記標的ポリペプチドの発現をプロモーターから誘導するステップと、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロモーターは、Tetリプレッサータンパク質(TetR)が結合可能な複数のTetオペレータ配列を含む誘導性プロモーターである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体模倣物の全部又は一部のアミノ酸配列を取得する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を含み、更に、前記抗体又は抗体模倣物を精製するステップと、前記精製された抗体又は抗体模倣物の全部又は一部の配列を決定するステップと、を含む、前記方法。
【請求項12】
前記抗体が全長抗体であり、前記全長抗体の前記標的ポリペプチドへの結合が前記全長抗体のFc領域に結合する標識2次抗体を用いて検出される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体がscFV抗体であり、前記scFV抗体の前記標的ポリペプチドへの結合が前記scFV抗体上のタグに結合する標識抗体を用いて検出される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を識別するための方法に関する。特に、本方法は、哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させるステップであり、細胞集団の各細胞は細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイする、ステップと、細胞集団のうち、抗体又は抗体模倣物が結合した細胞を識別又は単離するステップと、を含む。
【背景技術】
【0002】
1986年のハイブリドーマ技術の発明以来、モノクローナル抗体は、標的選択性、効力、良好な生物学的半減期及び送達半減期、並びに比較的単純な大規模製造が組み合わさった、強力で多用途の生物学的治療薬として登場した。今日、およそ50のモノクローナル抗体が米国及び欧州で医療用に認可されており、他にも数多くが開発中である。モノクローナル抗体は、炎症(例えばリウマチ性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎など)、臓器移植、喘息、癌及び白血病、ウイルス及び細菌の感染、異常な血液凝固、その他多くを含む広範な疾患の治療に使用される。
【0003】
医学的には、モノクローナル抗体は通常、忍容性が高く、副作用がほとんどなく、人生を変えるような医学的メリットがあるといえる。しかしながら、治療可能性に対する評価の高まりにより、幅広い標的に対する新しいモノクローナル抗体の需要が高まっている。これにより、今度は、難易度の高い標的に対して、中でも注目すべきは内在性膜タンパク質などの細胞表面上の分子に対して十分な効力を有するモノクローナル抗体を定義する際に直面する困難が浮き彫りになった。このような標的は、抗体の選択中にその生理学的構成を保持する必要があり、これにより、それらを認識するモノクローナル抗体の産生に使用できる戦略が大幅に制限されてしまう(Jones,M.他、Scientific Reports,6,26240(2016))。開発中である多くの自己認識抗体のクローン除去が原因で、ヒト標的に結合する天然に存在するヒト抗体を定義することは特に困難である。
【0004】
GPCRは、その構成を保持するために膜結合性を維持する必要があるので、歴史的にモノクローナル抗体を産生することは困難であった。GPCRは、ヒトにおける膜タンパク質の最大ファミリーを構成し、ホルモン及び神経伝達物質、光感知、嗅覚及び味覚に対する細胞性応答を担う。現在の低分子量薬物の約半分がGPCRを標的としているが、標的にするには理解しづらいので、開発中の(研究中のものでさえ)モノクローナル抗体はほとんどない。良い例のひとつは、ニューロンの成長と発達、いくつかの行動反応を調節し、DRD2活性を調節するDRD1(ドーパミン受容体のD1サブタイプ)である。DRD1の調節解除は、統合失調症、ハンチントン病、パーキンソン病、高血圧、アルツハイマー病、その他多くで役割を果たすと考えられる。GPCR市場は現在16億ドルと推定される(http://www.transparencymarketresearch.com/g-protein-coupled-receptors-market.html)。DRD1を標的とする承認された47の薬剤のうち、モノクローナル抗体はない。これは、天然構成の膜抗原を認識する効果的なモノクローナル抗体を作製することの課題を示している。
【0005】
癌チェックポイント阻害抗体は現在、がん研究の最も刺激的な新しい局面であり、様々な標的に対していくつかの薬剤がすでに認可されている。これらの市場は2022年には驚異的な190億ドルに達すると予測される(http://immunecheckpoint-europe.com/partner/sponsorship-opportunities/)。これらの標的が共有するひとつの特徴は、それらが全て膜抗原であることである(例えばPD1、PDL1、CTLA4など)。
【0006】
抗体ディスプレイは、特定の標的ポリペプチドに対する抗体のスクリーニングに用いることができる。抗体ディスプレイの既存の技術としては、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、哺乳類ディスプレイ、リボソームディスプレイ、シス活性ベース(CIS)ディスプレイ、共有結合型抗体ディスプレイ(CAD)がある。これらの技術には全て、天然の折り畳まれた膜結合状態では膜標的ポリペプチド(「ベイト」)が提示されないという同じ制限がある。
【0007】
タンパク質相互作用のハイスループット・スクリーニングの古典的な方法は、ファージディスプレイである。このシステムでは、バクテリオファージコートタンパク質の遺伝子に抗体ライブラリが融合される。次に、ライブラリは大腸菌宿主株に変換され(ファージミドを使用)、その結果ファージ粒子の集団が得られ、それぞれがそのゲノム内に抗体の配列を含み、その表面にタンパク質自体をディスプレイする。はじめに、表面に固定された標的抗原でファージライブラリがスクリーニングされる。次に、未結合のファージは洗い流される。結合されたファージは回収され、バクテリアに感染させられ、その後ライブラリを強化するために増幅される。このプロセスは通常数回繰り返され、標的に対する親和性が徐々に向上する配列がもたらされる。ライブラリ内のファージのタンパク質配列(及び出現するコンセンサス又は相同性のレベル)は、個々のコロニーを単離し、適切な領域でそれらのDNAを配列決定することによって決定することができる。
【0008】
他のシステムも同様の概念を用いる。例えば、Isogenica独自のCISインビトロディスプレイ技術は、RepAと呼ばれるタンパク質の、自身のDNA配列に結合する能力を用いて、RepAが表現型と遺伝子型の間のリンカーとして機能できるようにする。このシステムの利点は、DNA配列をコードする抗体の選択ステップ後の迅速な回収を容易にすることである。しかしながら、このシステムの重大なデメリットは、インビトロ選択ステップ中にベイトタンパク質を固体担体に固定しなければならないことである。これにより、大きな複数回貫通型膜タンパク質などの特定のタンパク質の標的化ができなくなってしまう。
【0009】
細胞表面ディスプレイは、細胞外環境にさらされる細胞の機能的構成要素に融合させることにより、生細胞の表面に抗体タンパク質を発現させることである。細胞表面ディスプレイの原理はファージディスプレイに類似し、細胞表面にアンカリングされた組み換え抗体と、細胞内に存在するコード化DNAとを用いる。細胞表面ディスプレイの利点のひとつは、細胞がフローサイトメトリーによってスクリーニングされるのに十分な大きさであることである。非細胞アプローチとは対照的に、蛍光体で標識された抗原は、細胞ディスプレイされた抗体ライブラリと溶液中でインキュベートされ、その後、任意の抗原結合細胞が蛍光活性化細胞選別
(FACS)によって単離される。ディスプレイ戦略は、細菌、酵母及び哺乳類細胞を用いて使用できるように展開されてきた。哺乳類細胞を用いることの利点は、高い忠実度で、更には適切な翻訳後修飾により、そのライブラリの抗体を発現し折り畳むことができることである。
【0010】
細胞ディスプレイ技術のデメリットのひとつは、細胞にライブラリをトランスフェクトするという制限のせいで、非細胞技術と比べて比較的小さいサイズのライブラリしかできないことである。
【0011】
しかしながら、哺乳類細胞ディスプレイの重要なデメリットは、抗原が溶液中に存在しなくてはならないことである。これにより、抗原は比較的小さく親水性のタンパク質に制限され、抗体発見の標的の重要なクラスである大きな複数回貫通型膜タンパク質は本質的に除外されてしまう。これに対処する試みには、膜小胞という観点から抗原を提示することが含まれるが、このアプローチは面倒であり、これまでのところあまり成功していない。
【0012】
Chen Zhouのグループは、全長抗体cDNAベースのライブラリをスクリーニングするための哺乳類ディスプレイ系を開発した(Zhou他、Acta Biochimica et Biophysica Sinica,42(8),575-84.2010;US 2012/0101000)。彼らの系は、哺乳類細胞の表面にヒト抗体の重鎖と軽鎖を一緒に発現させる。血小板由来成長因子受容体の膜貫通ドメインが重鎖に融合されて、抗体を発現した細胞の膜に抗体をアンカリングする。ヒト重鎖(IgG-1)ライブラリは、PBMCから可変ドメインを増幅し、それをプラスミドベクターにクローニングするRT-PCRにより、個別に構築された。ヒト軽鎖(カッパ)ライブラリも同様に構築され、該系を用いることにより、可溶性標的抗原に対する抗体の選択が成功した。これは、哺乳類細胞において標的に対するスクリーニングを行うのに必要な規模で、全長抗体ライブラリを使用できることを示す。しかしながら彼らのアプローチでは、生物学的選択のために可溶性タンパク質を必要とするので、複雑な膜結合標的(最も一般に必要とされる)に対する抗体を得ることはできない。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、細胞上のタンパク質、特に内在性膜タンパク質を認識するモノクローナル抗体の生物学的選択のための新規且つ迅速な戦略を提供することにより、上記の問題の1つ又は複数を克服することを目的とする。このアプローチは、ポリペプチド結合パートナー、例えば抗体又は抗体模倣物のライブラリを分泌する細胞の表面に抗原を発現させ、その後、自己標識する細胞を単離することにより、既存の戦略を改善する。ライブラリの進化を可能にするために該プロセスが繰り返されることを受けて、有力候補のポリペプチド結合パートナーの親和性が成熟する。
【0014】
この解決策の利点のひとつは、膜結合型の標的ポリペプチドが、細胞の表面に提示される前に、適切な細胞折り畳み及び膜内挿入の経路を通過することである。ライブラリ内のポリペプチド結合パートナー(例えば抗体/模倣物)に対して提示される膜結合型の標的ポリペプチドのセグメントは、インビボ(細胞培養又は治療)設定において結合可能であり得るものと同じである。一般に膜タンパク質(免疫チェックポイント及びGタンパク質共役受容体を含む)は重要な治療標的であるので、膜タンパク質に結合する結合パートナー(例えば抗体/模倣物)を選択する能力は重要である。
【0015】
一実施形態において、本発明は、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞を識別する方法を提供する。本方法は、
(a)哺乳類細胞集団において結合パートナーのライブラリを発現させるステップであり、各結合パートナーはコアフレームワーク及び複数の可変領域を有し、複数の可変領域のそれぞれは該結合パートナーに標的に対する特異的な結合親和性を与え、各結合パートナーはそれが産生された細胞から分泌され、標的ポリペプチドは、哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされる、ステップと、
(b)哺乳類細胞集団のうち、特異的結合パートナーが結合した細胞を単離又は識別するステップと、
を含み、特異的結合パートナーが結合した細胞は、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞である。好ましくは、特異的結合パートナーは抗体又は抗体模倣物である。
【0016】
更なる実施形態では、本発明は、標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体模倣物を産生する細胞を識別する方法を提供する。本方法は、
(a)哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させるステップであり、それぞれの抗体又は抗体模倣物はそれが産生される細胞から分泌され、標的ポリペプチドは、哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされる、ステップと、
(b)哺乳類細胞集団のうち、抗体又は抗体模倣物が結合した細胞を単離又は識別するステップと、
を含み、抗体又は抗体模倣物が結合した細胞は、標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体模倣物を産生する細胞である。好ましくは、標的ポリペプチドは、細胞集団の各細胞内で、好ましくは発現コンストラクトから発現される。
【0017】
好ましくは、本方法は更に、
(c)単離された細胞において、標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体模倣物をコードする(一部または全部の)ポリヌクレオチド配列を配列決定するステップ、
を含む。
【0018】
本発明はまた、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)のヌクレオチド配列を取得する方法を提供する。本方法は、本発明の、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞を識別する方法のステップを含み、更に、細胞において特異的結合パートナーをコードする核酸(の全部又は一部)を配列決定するステップを含む。
【0019】
本発明はまた、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)のアミノ酸配列を取得する方法を提供する。本方法は、本発明の、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞を識別する方法のステップと、該特異的結合パートナーを精製するステップと、(全部又は一部の)該精製された特異的結合パートナーのアミノ酸配列を取得するステップと、を含む。
【0020】
別の更なる実施形態において、本発明は、細胞集団を作製するためのプロセスを提供する。本プロセスは、第2の哺乳類細胞集団を作製するために、
(a)複数の第1の発現コンストラクトであって、分泌性結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)のライブラリをコードする複数の第1の発現コンストラクト;および
(b)所望の標的ポリペプチドをコードする第2の発現コンストラクトであって、標的ポリペプチドは膜貫通ドメインを含む、第2の発現コンストラクト、
を用いて第1の哺乳類細胞集団を形質転換させるステップを含み、
第2の哺乳類細胞集団の各細胞は、1又は複数の結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を分泌するか又は分泌可能であり、第2の哺乳類細胞集団の各細胞は、哺乳類細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイするか又はディスプレイ可能である。
【0021】
好ましくは、複数の第1の発現コンストラクト(及び/又は第2の発現コンストラクト)は、哺乳類細胞に感染可能なウイルス(好ましくはレトロウイルス、より好ましくはレンチウイルス)により、哺乳類細胞集団に送達される。
【0022】
本発明の方法は、一般に、インビトロ又はエクスビボで実施される。哺乳類細胞集団の各細胞(又は実質的に各細胞)は、細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイする。標的ポリペプチドは細胞周辺の培地には分泌されず、標的ポリペプチドは細胞に結合したままである。
【0023】
標的ポリペプチドは、細胞の細胞外膜に標的ポリペプチドを位置づけるために、好ましくは1又は複数の膜貫通ドメインを有する。一実施形態において、標的ポリペプチドは内在性膜タンパク質である。好ましくは、細胞の外膜に直接的に組み込まれる。
【0024】
一実施形態において、標的ポリペプチドは、膜貫通ドメイン(例えば血小板由来増殖因子受容体ドメイン)に連結される抗原ポリペプチドを有する融合ポリペプチドである。膜貫通ドメインは、細胞膜に抗原ポリペプチドをアンカリングし、抗原ドメインがディスプレイされるようにする。抗原ポリペプチドのアミノ酸配列と膜貫通ドメインは、短いアミノ酸リンカー、例えば1~10個又は1~20個のアミノ酸によって連結されてよい。標的ポリペプチドは、糖化ポリペプチド又は非糖化ポリペプチドであってよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、1回膜貫通型膜タンパク質又は複数回貫通型膜タンパク質である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、1、2、3、4、5、6又は7個の膜貫通ドメインを有する。
【0026】
いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドはGタンパク質共役受容体(GPCR)(例えばDRD1)である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは免疫療法の標的(例えばCD19、CD40又はCD38)である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、細胞の増殖を増大/低減させるタンパク質、例えば増殖因子受容体である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドはイオンチャネルポリペプチドである。
【0027】
いくつかの好適な実施形態では、標的ポリペプチドは免疫チェックポイント分子である。好ましくは、免疫チェックポイント分子は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバー(例えばCD27、CD40、OX40、GITR又はCD137)、又は、B7-CD28スーパーファミリーのメンバー(例えばCD28、CTLA4又はICOS)である。好ましくは、免疫チェックポイント分子はPD1、PDL1、CTLA4、Lag1又はGITRである。
【0028】
いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、アビジン又はストレプトアビジンではない。他の実施形態では、標的ポリペプチドは、標的ポリペプチド/MHC1複合体として、細胞の外面にディスプレイされる。このような実施形態では、MHCの溝における標的ポリペプチドの提示を達成するために、標的ポリペプチドとMHC1は両方とも細胞内で過剰発現されてよい。
【0029】
標的ポリペプチドは、好ましくは、細胞集団の各細胞内で発現される。標的ポリペプチドは、好ましくは、発現コンストラクトから発現される。この発現コンストラクトは、宿主細胞ゲノムに組み込まれてよく、又は、(非組み込み)発現ベクターに存在するか、組み込み又は非組み込みのいずれかであり得るウイルスベクターゲノムに存在してよい。発現コンストラクトは、好ましくは、標的ポリペプチドを細胞外膜に向かわせる適切なシグナルポリペプチドを含む。
【0030】
適切なシグナルポリペプチドの例としては、BM-40(オステオネクチンSPARC)、水疱性口内炎ウイルスG(VSVG)タンパク質、キモトリプシノゲン、ヒトインターロイキン-2(IL-2)、ガウシアルシフェラーゼ、ヒト血清アルブミン、インフルエンザ血球凝集素及びヒトインスリンの由来のものがある。
【0031】
いくつかの実施形態では、発現コンストラクトは更に誘導性プロモーターエレメントを有する。好ましくは、誘導性プロモーターエレメントは、基本転写複合体を形成し転写を開始することのできるタンパク質に結合可能なDNA配列と、Tetリプレッサータンパク質(TetR)が結合可能な複数のTetオペレータ配列とを有する。この結合状態では、厳しい転写抑制が得られる。しかしながら、ドキシサイクリンの存在下では抑制が緩和されるので、プロモーターは完全な転写活性を獲得することができる。このような誘導性プロモーターエレメントは、好ましくは、別のプロモーター、例えばCMVプロモーターの下流に配置される。
【0032】
いくつかの実施形態では、細胞は、発現される標的ポリペプチドのレベルを高めるために、標的ポリペプチド発現コンストラクトの複数のコピーを有する。標的ポリペプチドの発現レベルの増大は、細胞培養の時間を長くすることによって達成されてもよい。
【0033】
標的ポリペプチド発現コンストラクトは、抗生物質耐性遺伝子、例えばピューロマイシンに対する耐性をコードする遺伝子を含んでもよい。
【0034】
標的ポリペプチドは哺乳類細胞集団にディスプレイされる。細胞は単離細胞であってよく、例えば生きている動物に存在するものではない。哺乳類細胞の例としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、サル、ウサギ、ロバ、ウマ、ヒツジ、ウシ及び類人猿由来の任意の臓器又は組織由来の細胞がある。好ましくは、細胞はヒト細胞である。細胞は、初代細胞又は不死化細胞であってよい。好適なヒト細胞としては、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293A細胞、PerC6細胞、911細胞、HeLa細胞及びCOS細胞がある。他の好適な細胞としては、CHO細胞及びVERO細胞がある。最も好ましくは、細胞はCHO細胞である。
【0035】
好ましくは、集団の全て又は実質的に全ての細胞が標的ポリペプチドをディスプレイする。好ましくは、集団の全ての又は実質的に全ての細胞は、10未満又は5未満、より好ましくは1、2又は3、最も好ましくは単一の結合パートナーを発現する。
【0036】
本発明の方法では、哺乳類細胞集団において結合パートナーのライブラリが発現される。その目的は、標的ポリペプチドの露出した領域又はドメインに結合する少なくとも1つの特異的結合パートナーを、係る特異的結合パートナーが結合される細胞が識別されることを可能にするような方法で、識別することである。
【0037】
本明細書で用いられるとき、「特異的結合パートナー」という用語は、結合パートナーの、所望の特異度及び/又は親和度で標的ポリペプチドに結合する能力に関する。特異的結合パートナーは、標的ポリペプチドのみに結合するわけではない。好ましくは、特異的結合パートナーは、その標的ポリペプチドに対する自身の親和性が非標的ポリペプチドに対する自身の親和性よりも約5倍大きい場合に、特異的に結合する。理想的には、望ましくない物質との有意な交差反応又は交差結合は存在しない。
【0038】
特異的結合パートナーの親和性は、例えば、非標的ポリペプチドに対する自身の親和性よりも、標的分子に対しては少なくとも約5倍、例えば10倍、25倍、特に50倍、特に100倍以上大きくてよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、特異的結合パートナーと標的ポリペプチドとの結合は、結合親和性が少なくとも106M-1であることを意味する。抗体は、例えば約108M-1~約109M-1、約109M-1~約1010M-1、又は約1010M-1~約1011M-1など、少なくとも約107M-1の親和性で結合してよい。
【0040】
抗体は、例えば、50nM以下、10nM以下、1nM以下、100pM以下、より好ましくは10pM以下のEC50で結合してよい。本明細書で用いられるとき、「EC50」という用語は、50%の最大応答/効果をもたらす濃度を定量化することにより、化合物の効力に言及することを意図する。EC50はスキャッチャード又はFACSによって決定されてよい。
【0041】
各結合パートナーはコアフレームワーク及び複数の可変領域を有し、複数の可変領域のそれぞれは該結合パートナーに標的に対する特異的な結合親和性を与える。コアフレームワークは1又は複数のポリペプチドを有してよい。好ましくは、2~10個、より好ましくは2~6個、3~6個、4~6個又は5~6個の可変領域が存在する。結合パートナーは一般にポリペプチドである。これらはグリコシル化されてもされなくてもよい。結合パートナーは、標的ポリペプチドの潜在的な結合パートナー、又は潜在的な特異的結合パートナーと見なされてよい。
【0042】
結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)は、それが産生される細胞によって分泌されるか、又は該細胞から分泌されるか、又は該細胞の外に分泌される。いくつかの実施形態では、結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)は、それが産生される細胞の外から細胞周辺の培地に分泌される。別の言い方では、本実施形態において、結合パートナーは細胞から放出される。
【0043】
他の実施形態では、結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)は、それが産生される細胞から分泌される。結合パートナーはその後、細胞周辺の培地に放出されてもされなくてもよい。
【0044】
ポリペプチド結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)及び標的ポリペプチドは、哺乳類細胞において粗面小胞体(ER)に付着したリボソームによって合成される。これらのポリペプチドは両方とも、細胞の分泌経路へのポリペプチドの通過を指示するために、シグナルペプチドを有する。合成後、これらのポリペプチドはER内腔に移行し、そこでグリコシル化されることがあり、分子シャペロンがタンパク質の折り畳みを補助する。その後、ポリペプチドを含む小胞はゴルジ体に入る。ゴルジ体では、ポリペプチドの任意のグリコシル化が修飾されることがあり、切断や機能付与などの更なる翻訳後修飾が発生することがある。次にポリペプチドは分泌小胞に移動し、細胞骨格に沿って哺乳類細胞の端まで移動する。分泌小胞において更なる修飾が発生することがある。最終的に、エキソサイトーシスと呼ばれるプロセスにおいて、ポロソームと呼ばれる構造における細胞膜との小胞融合があり、その結果、小胞の内容物が周囲の培地に放出される。膜内タンパク質は、小胞の内容物が流されたときに細胞の細胞膜に保持される。
【0045】
ポリペプチド結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)と標的ポリペプチドは両方ともこの分泌経路を介して産生されるので、一部の特異的結合パートナーの標的ポリペプチドへの結合がこの経路の進行中に発生する可能性がある。この場合、特異的結合パートナーは細胞から外部の培地に分泌されず、標的ポリペプチドに結合したままになる。したがって、特異的結合パートナーと標的ポリペプチドは(一緒に)細胞の外面に提示される。
【0046】
いくつかの実施形態では、抗体又は抗体模倣物は、それらのCDR配列が標的ポリペプチドに結合した形で、それらが産生される細胞から分泌される。他の実施形態では、抗体又は抗体模倣物は、それらのCDR配列が標的ポリペプチドに結合していない形で、それらが産生される細胞から分泌される。
【0047】
結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)は、直接的又は間接的に、細胞の表面に共有結合しない。結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)は、細胞周辺の培地内で自由に拡散する(分泌経路において標的ポリペプチドに結合する結合パートナーは別として)。
【0048】
本明細書で用いられるとき、「ライブラリ」という用語は、それぞれが異なる結合特異性及び/又は親和性をもつ複数の(潜在的な)結合パートナーを指す。各結合パートナーは、(共通の)コアフレームワークと、複数の異なる可変領域とを有する。好ましくは、「ライブラリ」という用語は、それぞれ異なる結合特異性及び/又は親和性をもつ複数のポリペプチドを指す。複数のポリペプチドは、一般に、複数のポリヌクレオチドによってコードされる。
【0049】
好ましくは、ライブラリは、哺乳類細胞に感染可能なウイルス(好ましくはレトロウイルス、より好ましくはレンチウイルス)により、哺乳類細胞集団に送達される。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態では、結合パートナーポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが細胞内で発現される。このようなポリヌクレオチドは、(例えばレトロウイルスベクターから)一時的に発現されてよく、又は発現ベクターから発現されてよい。いくつかの実施形態では、発現ベクターは細胞のゲノムに組み込まれる。
【0051】
特定の実施形態では、ポリペプチドのライブラリは、少なくとも106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014又は1015以上の異なるポリペプチドを含んでよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、ライブラリの異なるポリペプチドは、例えば、単一の動物種(例えばヒト、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ)、組織タイプ、臓器又は細胞タイプに由来する起源を通じて関連する。
【0053】
他の実施形態では、ライブラリは、天然に存在するポリペプチドのライブラリであり、改良されてよい。更に他の実施形態では、ライブラリは合成ポリペプチドのライブラリである。
【0054】
結合パートナーは、細胞から分泌されることができなければならない(好ましくは細胞の外に)。いくつかの実施形態では、このような分泌は、5’-シグナルポリペプチドを含めることによって補助されてよい。
【0055】
いくつかの好適な実施形態では、結合パートナーは抗体又は抗体模倣物である。本実施形態では、ステップ(a)は、哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させるステップであり、それぞれの抗体又は抗体模倣物はそれが産生される細胞から分泌される、ステップ、を含む。
【0056】
本明細書で用いられるとき、「抗体」は多種多様な構造を含み、当業者によって理解されるように、いくつかの実施形態では最低6個のCDRのセットを含み、限定ではないが例として、従来の抗体(モノクローナル抗体など)、ヒト化及び/又はキメラ抗体、抗体フラグメント、改変抗体、多特異性抗体(二重特異性抗体など)、本技術分野で既知の他の類似物がある。
【0057】
「抗体」は免疫グロブリン分子であり、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチド等の標的に特異的に結合することができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、抗体は異なる種の混合、例えばキメラ抗体及び/又はヒト化抗体であってよい。すなわち、CDRセットは、それらが元々取得されたもの以外のフレームワーク及び定常領域と共に用いることができる。
【0059】
一般に、「キメラ抗体」と「ヒト化抗体」は両方とも、複数の種由来の領域を組み合わせる抗体を指す。例えば、「キメラ抗体」は伝統的に、マウス(又は場合によってラット)由来の可変領域と、ヒト由来の定常領域とを有する。「ヒト化抗体」は一般に、可変ドメインフレームワーク領域をヒト抗体に見られる配列に交換した非ヒト抗体を指す。一般に、ヒト化抗体では、CDRを除く抗体全体が、ヒト由来のポリヌクレオチドによってコードされているか、CDR内を除いてそのような抗体と同一である。CDR(一部又は全部が非ヒト生物に由来する核酸によってコードされる)は、ヒト抗体可変領域のベータシートフレームワークに移植されて、抗体を作製する。抗体の特異性は、移植されたCDRによって決定される。
【0060】
一実施形態において、抗体は抗体フラグメントである。具体的な抗体フラグメントとしては、これらに限定されないが、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインで構成されるFabフラグメント、(ii)VH及びCH1ドメインで構成されるFdフラグメント、(iii)単一の抗体のVL及びVHドメインで構成されるFvフラグメント、(iv)単一の可変領域で構成されるdAbフラグメント(Ward他、1989、Nature341:544-546)、(v)単離されたCDR領域、(vi)F(ab’)2フラグメント(2つの連結されたFabフラグメントを含む二価フラグメント)、(vii)単鎖Fv分子(scFv)(VHドメインとVLドメインは、2つのドメインが結合して抗原結合部位を形成できるようにするペプチドリンカーによって連結されている)(Bird他、1988、Science242:423-426、Huston他、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:5879-5883)、(viii)二重特異性単一鎖Fv(例えば国際公開第03/11161号)、(ix)「ダイアボディ(diabody)」又は「トリアボディ(triabody)」(遺伝子融合によって構築された多価又は多特異性フラグメント)(Tomlinson他、2000、Methods Enzymol.326:461-479;国際公開第94/13804号;Holliger他、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448)が挙げられる。
【0061】
「抗体」という用語は、ドメイン抗体、ナノボディ及びユニボディも含む。「抗体」という用語は、抗体部分又はフラグメントと抗原認識部位を有する融合タンパク質も含む。最も好ましくは、抗体はscFv抗体である。
【0062】
抗体ライブラリは、例えば、特定のタイプ又はクラスの免疫グロブリンポリペプチドを含んでよい。例えば、ライブラリは、抗体μ、γ1、γ2、γ3、γ4、α1、α2、ε若しくはδの重鎖、及び/又は抗体κ若しくはλの軽鎖をコードし得る。抗体アイソタイプは、IgM、IgD、IgG、IgA又はIgEであってよい。好ましくは、抗体はIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である。
【0063】
本明細書に記載の任意の1つのライブラリの各メンバーは、同じ重鎖又は軽鎖の定常領域をコードしてよいが、ライブラリは合計で、少なくとも106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014若しくは1015、又はより多くの異なる可変領域、すなわち共通の定常領域に関連付けられた「複数の」可変領域を含んでよい。
【0064】
一実施形態において、細胞集団は、scFVライブラリをコードする複数のレトロウイルス(好ましくはレンチウイルス)粒子に初代(同種)細胞集団を感染させる(例えば一時的に感染させる)ことにより、作製される。scFvライブラリは、異なる結合特異性及び親和性をもつ複数のscFV抗体を含む。
【0065】
例えば、各レトロウイルス粒子は、プロモーター、シグナルペプチド(scFvの分泌を促進するため)及びscFvコーディング配列を有するレトロウイルス又はレンチウイルスのベクターを有してよい。また、二次抗体による認識を補助するために、ベクターはヘマグルチニンなどの3’タグを含んでもよい。レンチウイルスベクター(発現コンストラクト)は更に、抗アポトーシス因子をコードするポリヌクレオチド配列を含んでよい。
【0066】
本発明の特に好適な実施形態では、抗アポトーシス因子は、標的ポリペプチドをコードする核酸の最後の停止コドンのIRES下流(すなわち3’)の後(すなわち3’)に挿入される。これにより、転写を開始するプロモーターが標的ポリペプチド遺伝子のコード配列の上流(すなわち5’)に存在し、その後にIRESが続き(3’)、その後に抗アポトーシス因子遺伝子のコード領域が続く(3’)構成が提供される。この構成では、標的ポリペプチドと抗アポトーシス因子の両方が同じmRNAによってコードされるが、IRESを介した翻訳の効率は比較的低いので、標的ポリペプチドは抗アポトーシス因子よりも大量に翻訳される。
【0067】
本発明の方法は、抗体を伴う方法に限定されない。該方法は抗体模倣物を用いて実施されてもよい。多種多様な抗体模倣物技術が当技術分野で知られている。特に、Affibody、DARPin、Anticalin、Avimer、Versabodyなどの技術は、従来の抗体結合を模倣しつつ、異なるメカニズムから生成され、機能する結合構造を採用する。
【0068】
Affibody分子は、ブドウ球菌タンパク質AのIgG結合ドメインのうちの1つに由来する、58アミノ酸残基のタンパク質ドメインに基づいた新しいクラスの親和性タンパク質を表す。この3ヘリックスバンドルドメインは、コンビナトリアル・ファージミド・ライブラリの構築の足場として使用されており、そこから、所望の分子を標的とするAffibodyバリアントをファージディスプレイ技術を用いて選択することができる(Nord K,Gunneriusson E,Ringdahl J,Stahl S,Uhlen M,Nygren PA,Binding proteins selected from combinatorial libraries of an α-helical bacterial receptor domain(αヘリックス細菌受容体ドメインのコンビナトリアルライブラリから選択された結合タンパク質),Nat Biotechnol 1997;15:772-7.Ronmark J,Gronlund H,Uhlen M,Nygren PA,human immunoglobulin A(IgA)-specific ligands from combinatorial engineering of protein A(プロテインAのコンビナトリアルエンジニアリングによるヒト免疫グロブリンA(IgA)特異的リガンド),Eur J Biochem 2002;269:2647-55.)。Affibody及びその製造方法の更なる詳細は、米国特許第5,831,012号を参照することにより得ることができる。
【0069】
DARPin(Designed Ankyrin Repeat Protein)は、非抗体ポリペプチドの結合能力を活用するために開発された抗体模倣物DRP(Designed Repeat Protein)技術の一例である。アンキリン又はロイシンに富んだ反復タンパク質などの反復タンパク質は、偏在する結合分子であり、抗体とは異なり、細胞内及び細胞外で発生する。その独自のモジュラーアーキテクチャは反復する構造単位(反復)を特徴とし、それらが重なり合って、モジュラーを標的とする可変の結合表面をディスプレイする細長い反復ドメインを形成する。このモジュール性に基づき、高度に多様化された結合特異性をもつポリペプチドのコンビナトリアルライブラリを生成することができる。この戦略は、可変表面残基をディスプレイする自家和合性の反復とその反復ドメインへのランダムな会合のコンセンサス設計を含む。DARPin及びその他のDRP技術に関する追加情報は、米国特許出願公開第2004/0132028号及び国際公開第02/20565号を参照することができる。
【0070】
Anticalinは、更なる抗体模倣物技術である。しかしながら、この場合、結合特異性は、ヒトの組織及び体液で自然に豊富に発現される低分子量タンパク質のファミリーであるリポカリンに由来する。
【0071】
リポカリンは、化学的に敏感又は不溶性の化合物の生理学的輸送並びに貯蔵に関連する、生体内での様々な機能を実行するために進化してきた。リポカリンは、タンパク質の一方の末端で4つのループを支持する高度に保存されたβバレルを含む堅牢な固有の構造をもつ。これらのループは結合ポケットへの入り口を形成し、分子のこの部分の立体配座の違いが、個々のリポカリン間の結合特異性の変動の要因となる。
【0072】
保存されたβシートフレームワークによって支持される超可変ループの全体的な構造は免疫グロブリンを連想させるが、リポカリンは、サイズが抗体とはかなり異なり、単一の免疫グロブリンドメインよりもわずかに大きい160~180アミノ酸の単一ポリペプチド鎖で構成される。
【0073】
リポカリンはクローン化され、そのループはAnticalinを作製するためにエンジニアリングされている。構造的に多様なAnticalinのライブラリが生成されており、Anticalinディスプレイにより、結合機能の選択及びスクリーニングが可能になり、その後、原核生物系又は真核生物系での更なる分析のために可溶性タンパク質の発現と産生が続く。事実上あらゆるヒト標的タンパク質に特異的なAnticalinを開発し単離することができること、ナノモル以上の結合親和性を得ることができることが、研究により成功裏に実証されている。
【0074】
Anticalinは、二重標的化タンパク質、いわゆるDuocalinとしてフォーマットすることもできる。Duocalinは、その2つの結合ドメインの構造配向性に関係なく、標的特異性及び親和性を保持しながら、標準的な製造プロセスを用いて簡単に産生される1つの単量体タンパク質において2つの別々の治療標的に結合する。Anticalinに関する追加情報は、米国特許第7,250,297号及び国際公開第99/16873号を参照することができる。
【0075】
本発明の文脈において有用な別の抗体模倣物技術は、Avimerである。Avimerは、インビトロのエクソンシャッフリング及びファージディスプレイにより、ヒト細胞外受容体ドメインの大きなファミリーから進化し、結合特性及び阻害特性をもつマルチドメインタンパク質を生成する。複数の独立した結合ドメインを連結すると、結合活性が生まれることが示されており、従来の単一エピトープ結合タンパク質と比較して親和性及び特異性が向上する。他の潜在的な利点には、大腸菌でのマルチターゲット特異的分子の単純且つ効率的な産生、熱安定性の向上、プロテアーゼ耐性が含まれる。様々な標的に対して、ナノモル以下の親和性をもつAvimerが得られている。Avimerに関する追加情報は、米国特許出願公開第2006/0286603号、米国特許出願公開第2006/0234299号、米国特許出願公開第2006/0223114号,米国特許出願公開第2006/0177831号、米国特許出願公開第2006/0008844号、米国特許出願公開第2005/0221384号、米国特許出願公開第2005/0164301号、米国特許出願公開第2005/0089932号、米国特許出願公開第2005/0053973号、米国特許出願公開第2005/0048512号及び米国特許出願公開第2004/0175756号を参照することができる。
【0076】
Versabodyは、本発明の文脈で使用できる別の抗体模倣物技術である。Versabodyは3~5kDaの小さなタンパク質で、15%を超えるシステインを含み、高ジスルフィド密度の足場を形成し、典型的なタンパク質が有する疎水性コアを置換する。疎水性コアを含む多数の疎水性アミノ酸を少数のジスルフィドで置換すると、MHCの提示に最も寄与する残基は疎水性であるので、タンパク質がより小さく、親水性が高まり(凝集及び非特異的結合が少なくなり)、プロテアーゼ及び熱に対する耐性が高まり、T細胞エピトープの密度が低くなる。これらの4つの特性は全て免疫原性に影響を与えることがよく知られており、これらが合わさると、免疫原性が大幅に低下することが予想される。
【0077】
Versabodyの構造を考慮すると、このような抗体模倣物により、多価、多重特異性、多様な半減期メカニズム、組織標的化モジュール、抗体Fc領域の欠如を含む、多目的なフォーマットが提供される。Versabodyに関する追加情報は米国特許出願公開第2007/0191272号を参照することができる。
【0078】
他の実施形態では、結合パートナーは抗体又は抗体模倣物ではない。例えば、標的ポリペプチドの所望の特異的結合パートナーは、標的ポリペプチドが結合可能なポリペプチドリガンドであってよい。このような場合、結合パートナーのライブラリは、標的ポリペプチドに結合すると知られているポリペプチドリガンドのアミノ酸配列に基づくアミノ酸配列を有するポリペプチドのライブラリであってよい。例えば、そのようなライブラリのポリペプチドは、既知のポリペプチドリガンドとのアミノ酸配列の同一性が少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%であってよい。
【0079】
本発明の方法のステップ(b)は、哺乳類細胞集団のうち特異的結合パートナーが結合される細胞を識別且つ/又は単離することを含む。(特異的結合パートナーは、係る細胞にディスプレイされる標的ポリペプチドに結合する。)特異的結合パートナーが結合される細胞は、標的ポリペプチドの特異的結合パートナーを産生する細胞である。このように、標的ポリペプチドの所望の特異的結合パートナーを識別且つ/又は単離することができる。
【0080】
標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)の結合は、主として特異的結合パートナーの同一性によって、多くの異なる手段によって検出されてよい。このような手段は当該技術分野で周知であり、標識2次抗体(例えば蛍光標識、ビオチン標識、又は放射性標識)、酵素的手段(例えば比色分析)及び機能ドメイン(例えば特定の活性を促進又は抑制するポリペプチドドメイン)の使用を含む。
【0081】
特異的結合パートナーが抗体又は抗体模倣物である本発明の実施形態では、標的ポリペプチドに対する係る抗体又は抗体模倣物の結合は、標識2次抗体を用いて検出されてよい。例えば、特異的結合パートナーが全長抗体である場合、1次抗体のFc領域に結合する標識2次抗体が用いられてよい。特異的結合パートナーがscFV抗体である場合、scFV抗体上のタグ(例えばHAタグ)に結合する標識2次抗体が用いられてよい。
【0082】
いくつかの実施形態では、特異的結合パートナー(例えば1次抗体)又はそれに結合する2次抗体は、その存在及び/又は活性を確立且つ/又は定量化することのできる機能ドメインを含む。係る機能ドメインの例としては、細胞増殖を促進又は抑制するドメイン(例えば増殖因子の適切なドメイン)がある。
【0083】
本発明の方法は、液体培地、半固形培地、固形培地(例えばゲル)で実施されてよく、又は、細胞は完全に又は部分的に固定されてよい。好ましくは、本方法は、液体培地、例えば水性生理培地、例えば細胞培養と潜在的特異的結合パートナーの標的ポリペプチドへの結合とに適した水性生理培地で実施される。本実施形態では、分泌された結合パートナーは溶液中に存在するので、それらの分泌元の細胞だけでなく、他の(例えば隣接する)細胞にも自由に結合することができる。このような場合、細胞集団のうち特異的結合パートナーが結合された第1の細胞が、特異的結合パートナーを産生した細胞となる。経時的に、結合パートナーは、それらの分泌元の細胞以外の細胞に(例えばそれらに向かって対流又は拡散することによって)接触できるようになるが、かなり静的な系では、結合パートナーは最初に、それらの分泌元の細胞に結合する(結合パートナーが標的ポリペプチドに結合可能である場合)。
【0084】
したがって、本発明の方法が液体培地で実施される場合、内部で産生された特異的結合パートナーに細胞がいつ最初に結合されたかを確定するために、多くの異なる時点(例えば4時間、6時間、24時間、48時間など)で特異的結合パートナーの任意の結合について細胞をアッセイする必要がある場合がある。係る細胞はその後、選別又は単離されてよい(例えば蛍光標識された特異的結合パートナーの場合には、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって)。
【0085】
したがって、いくつかの実施形態では、ステップ(b)は、
(b)細胞集団のうち、特異的結合パートナーが最初に結合された細胞を識別又は単離するステップ、
を含む。したがって、他の実施形態では、ステップ(b)は、
(b)細胞集団のうち、特異的結合パートナーが、特異的結合パートナー自身が分泌された細胞上にディスプレイされた標的ポリペプチドのみに結合しうる時点の後に、特異的結合パートナーが結合された細胞を識別又は単離するステップ、
を含む。
【0086】
ほとんどの方法では、標的ポリペプチドに結合可能な結合パートナーを分泌する細胞はほとんど存在しないという事実に鑑みて、結合パートナーの他の細胞への対流又は拡散の問題は重大であるとは考えられない。
【0087】
このような拡散の影響を低減する更なる方法は、連続的又は不連続的に液体培地を交換することにより、任意の拡散している結合パートナーを液体培地から除去することである。したがって、他の実施形態では、ステップ(a)は更に、本方法は連続的又は不連続に交換される液体培地において実施される、という特徴を含む。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態では、結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)の、それらが産生された細胞から離れる動きを抑制することが望ましい。これにより、非特異的なバックグラウンド結合のレベルの低下、偽陽性細胞の産生の回避が助長される。これを行う1つの方法は、動的粘度が25℃において水の動的粘度よりも大きい液体培地を用いて、本発明の方法を実施することである。このようにして、結合パートナー(例えば抗体)がそれらが産生された細胞から離れる拡散が低減される。水の動的粘度は、25℃で8.9×10-4Pa.sである。好ましくは、本発明の方法のステップ(a)が実施される液体培地の動的粘度は、25℃で少なくとも10×10-4Pa.sである。
【0089】
より好ましくは、本発明の方法のステップ(a)が実施される液体培地の動的粘度は、25℃で1×10-4Pa.s~10Pa.s、より好ましくは25℃で0.01Pa.s~1Pa.s、最も好ましくは25℃で0.01Pa.s~0.1Pa.sである。例えば、液体培地の動的粘度は、中性の増粘剤、例えば砂糖、ポリビニルピロリジン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG、分子量最大20KDa、より好ましくは約8KDa、最大50%vol/vol)、又はポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](好ましくは10-100Kda、最大40%wt/vol)を用いて、増大されてよい。
【0090】
結合パートナーがそれらが産生された細胞から離れて拡散するのを防止する更なる方法は、本発明の方法をゲルで実施することである。ゲルは固体のゼリー状の材料であり、柔らかくて弱いものから硬くて頑丈なものまで様々な特性をもつことができる。ゲルは、実質的に希薄な架橋系として定義されており、定常状態では流動性を示さない。重量では、ゲルはほとんど液体であるが、液体内の3次元架橋ネットワークにより、固体のように挙動する。ゲルにその構造(硬度)を与え、粘着性接着力(タック)に寄与するのは、流体内の架橋である。このように、ゲルは固体内の液体の分子の分散であり、固体は連続相であり、液体は不連続相である。好ましくは、ゲルはヒドロゲル、すなわち親和性ポリマー鎖の架橋ネットワークである。
【0091】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリレートポリマー、又は親水基を豊富に含むポリマー若しくはコポリマー(ポリ[N(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]ベースのコポリマー、又はポリエチレングリコール若しくはオリゴペプチドベースのブロックコポリマーなど)から形成される。他の実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸塩、アガロース、メチルセルロース、ヒアルロン酸、又はその他の天然由来のポリマーから形成される。
【0092】
好ましくは、ゲルはアルギン酸ヒドロゲルであり、より好ましくはアルギン酸カルシウムヒドロゲルである。係るゲル内に閉じ込められた細胞は、二価カチオンキレート剤、例えばEDTA又はEGTAを加えると容易に放出することができ、その後「標識」された細胞は通常の方法で単離することができる(例えば流動選別により)。ヒドロゲルはビーズの形態であってよい。
【0093】
細胞に対する結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)の非特異的結合のバックグラウンドレベルは、ネガティブセレクションステップによって低減することができる。このステップでは、標的ポリペプチドが細胞上にディスプレイされる前に結合パートナーが(非特異的に)結合された細胞が、最初に細胞集団から除去される。したがって、いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、
(a1)細胞集団において結合パートナーのライブラリを発現させるステップであり、各結合パートナーはそれが産生された細胞から分泌される、ステップと、
(a2)細胞集団から、結合パートナーが結合した細胞を除去するステップと、その後、
(a3)細胞集団の各細胞の外面上での標的ポリペプチドの発現を(好ましくは誘導性プロモーターから)誘導するステップと、
を含む。
【0094】
好ましくは、誘導性プロモーターは、Tetリプレッサータンパク質(TetR)が結合可能な複数のTetオペレータ配列を含むものである。結合状態では、厳しい転写抑制が得られる。ステップ(a3)は、細胞をドキシサイクリンに接触させるという追加のステップを含んでよい(Tetリプレッサータンパク質を置換し、それにより、プロモーターが完全な転写活性を獲得できるようにする)。
【0095】
標的ポリペプチドの特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を産生する細胞が識別されると(すなわち特異的結合パートナーが結合する細胞)、その細胞は、任意の適切な手段によって精製されてよい。好ましくは、特異的結合パートナー(例えば抗体)が結合する細胞は、フローサイトメトリー(例えばFACS)によって精製される。
【0096】
いくつかの実施形態では、特異的結合パートナー(例えば抗体)が結合する細胞は、フローサイトメトリー(例えばFACS)により、複数回(すなわち反復して)精製される。
【0097】
精製細胞によって産生された特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)をコードするポリヌクレオチドは配列決定されてよく、それにより全部又は一部の特異的結合パートナーのアミノ酸配列が提供される。好ましくは、抗体又は抗体模倣物のCDR配列のうち1又は複数のアミノ酸配列が得られる。
【0098】
そして、標的ポリペプチドに対するより高い親和性又は特異性をもつ特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を産生するために、最も有望な特異的結合パートナーのアミノ酸配列は、例えば、アミノ酸配列の変異誘発により、親和性成熟を受けてよい。
【0099】
更なる実施形態では、本発明は、本発明の方法によって識別された特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を提供する。
【0100】
別の更なる実施形態では、本発明は、細胞集団を作製するためのプロセスを提供する。本プロセスは、
第2の哺乳類細胞集団を作製するために、
(a)複数の第1の発現コンストラクトであって、分泌性結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)のライブラリをコードする複数の第1の発現コンストラクト;および
(b)所望の標的ポリペプチドをコードする第2の発現コンストラクトであって、標的ポリペプチドは膜貫通ドメインを含む、第2の発現コンストラクト、
を用いて第1の哺乳類細胞集団を形質転換させるステップを含み、
第2の哺乳類細胞集団の各細胞は、1又は複数の結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を分泌するか又は分泌可能であり、
第2の哺乳類細胞集団の各細胞は、哺乳類細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイするか又はディスプレイ可能である。
【0101】
本明細書で用いられるとき、「形質転換」という用語は、発現コンストラクトが細胞に挿入される任意のステップを指す。したがって該用語は、とりわけ、エレクトロポレーション、接合、感染(例えばレトロウイルス粒子を介する)又はトランスフェクションの任意の形態を含む。
【0102】
好ましくは、結合パートナーは抗体であり、より好ましくはscFV抗体であり、又は抗体模倣物(好ましくはDARPins)である。第1の発現コンストラクトのライブラリは、好ましくは、本明細書で定義される抗体ライブラリをコードする。
【0103】
好ましくは、「複数の第1の発現コンストラクトを用いて細胞集団を形質転換させる」という表現は、scFVライブラリをコードする複数のレトロウイルス粒子(好ましくはレンチウイルス粒子)に細胞集団を感染させることを含み、scFvライブラリは、異なる結合特異性及び/又は親和性をもつ複数のscFV抗体を含む。
【0104】
第2の細胞集団の各細胞(又は実質的にそれぞれの細胞)は、1又は複数の結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を分泌するか、又は分泌可能である。好ましくは、細胞集団の各細胞(又は実質的にそれぞれの細胞)は、1~3、1~2、又は最も好ましくはただ1つの結合パートナー(例えば抗体)を分泌するか、又は分泌可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】EpCAMタンパク質を発現している細胞の抗EpCAM単鎖抗体を用いた標識化。棒グラフは、蛍光標識した抗HA抗体による染色とその後のフローサイトメトリー分析の後の各細胞集団の蛍光強度の中央値を示す。EpCAM及び抗EpCAM単鎖抗体を用いてHEK293細胞を同時トランスフェクトした(一番上の棒グラフ)。コントロールには、EpCAM単独又は抗体単独又は空のベクターでトランスフェクトした細胞を含めた(下)。
【
図2A】EpCAM及びGFPを発現する細胞を、EpCAM及び抗EpCAM scFvを発現する細胞と混合した。X軸はscFv標識の程度を示し、Y軸はGFP蛍光強度を示す。scFvではなくGFPを発現している細胞は、左上(UL)象限に現れ、scFvで自己標識されているがGFP陰性である細胞は右下(LR)象限に現れ、scFv発現細胞から可溶性scFvでトランス標識されたGFP陽性細胞は右上(UR)象限に現れる。EpCAM-scFv細胞に対するEpCAM-GFP細胞の比率が高い場合(25:1及び125:1)、任意の検出可能な抗体が集団の他の細胞に移行する機会が生じる前に、自己標識細胞の小さな亜集団が観察される。
【
図3】本発明の方法の一例であり、内在性膜タンパク質を認識する抗体を示す。A.分泌されたscFvライブラリー(細胞あたり平均1scFv)と同時の、ヒト細胞表面(白丸)でのベイトタンパク質の共発現。B.ベイトに結合するscFVを発現する細胞は、自己標識化される。C.細胞は、蛍光二次抗体により、表面に結合したscFvについて染色される(星印)。D.蛍光細胞は、FACSによりマイクロタイタープレートの個々のウェルに分類される。上清結合活性が特徴付けられ、有力候補は親和性成熟の前に配列決定される。
【
図4】標的ポリペプチド(ベイト)発現コンストラクトの一例。
【
図5】scFv発現コンストラクトの一例。発現は脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターによって駆動される。発現コンストラクトはC末端ヒトインフルエンザ血球凝集素(HA)タグをコードする。
【発明を実施するための形態】
【0106】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、別段の記載がない限り、部及びパーセントは重量によるものであり、温度は摂氏である。なお、これらの実施例は、本発明の好適な実施形態を示しているが、例示のみを目的とする。上記の議論とこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的な特徴を確認することができ、その主旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変更及び改変を行って、本発明を様々な用途及び条件に適合させることができる。よって当業者には、本明細書に図示及び記載されているものに加えて、本発明の様々な改変が前述の説明から明らかであろう。係る改変も、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0107】
本明細書に記載される各参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0108】
実施例1:抗EpCAM抗体を発現する細胞による自己標識の実証
【0109】
適切な標的ポリペプチド(ベイト抗原)として上皮細胞接着分子(EpCAM)を選択した。EpCAMは、3つの潜在的なN結合型糖鎖付加部位を含む、グリコシル化された30~40kDaのI型膜タンパク質である。
【0110】
HEK293細胞を、分泌されたHAタグ付き抗EpCAM単鎖抗体発現コンストラクトと共に、EpCAM発現コンストラクトでトランスフェクトした(HEK293細胞は通常EpCAM陰性である)。24時間のインキュベーション期間の後、細胞を蛍光標識抗HAタグ抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析して、どの細胞がコードされた抗EpCAM抗体で自身の膜EpCAMを自己標識したかを判定した。
【0111】
結果を
図1に示す。「ベイト」抗原(EpCAM)とscFvの両方を発現している細胞は強い蛍光を発している一方、他の細胞(EpCAMのみ又はscFvのみのいずれかを発現している)は全てそうではなかった。これは、scFvを分泌する細胞が自身の表面にある抗原を標識できることを示す。
【0112】
実施例2:無関係な細胞の標識を防ぐためのストリンジェンシーの最適化
【0113】
EpCAM発現細胞の2つの集団を作製した。抗EpCAM抗体を発現するものもあれば、代わりに緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するものもあった。細胞を異なる比率で混合し(抗体を発現する細胞を常に少数派とした)、異なる時間インキュベートし、固定された表面結合抗体を赤チャネルで染色することによって視覚化した。抗体を発現している少数の細胞は必ず最初に自身を標識し、フローサイトメトリープロットの右下の象限に細胞が生じた(細胞は赤色だが緑色ではなく、抗体産生細胞は無関係な細胞の前に標識されたことを示す)。
【0114】
結果を
図2に示す。1:125に希釈しても、かなりの数の細胞が右下の象限に現れる。これは、細胞表面の抗原に結合する抗体を発現している細胞を表す。
【0115】
実施例3:DRD1に対する抗体の産生
【0116】
本実施例では、標的ポリペプチド(ベイト)はDRD1であり、これはCHO細胞で発現される(概要については
図3を参照)。レトロウイルス転送ベクターは、標的ポリペプチド(ベイト)コンストラクト及び抗体ライブラリをCHO細胞にクローン化するために用いられる。
【0117】
標的ポリペプチド(ベイト)細胞株は、レトロウイルス系を用いて、選択可能なマーカーと共に宿主細胞(CHO)ゲノムに標的ポリペプチド(ベイト)の遺伝子を組み込むことによって作製される(
図4を参照)。標的ポリペプチドコンストラクトはTetリプレッサー(TetR)の遺伝子も含む。標的ポリペプチド(ベイト)発現はドキシサイクリン誘導性プロモーターによって駆動される。
【0118】
ヒト様scFv配列のヒトscFv配列のcDNAベースのライブラリをコードするレトロウイルス粒子のライブラリを用いて、CHO細胞を感染させる。scFvライブラリの場合、レトロウイルス転送ベクターは、構成的プロモーター(SFFV)とscFv抗体サブユニットの隣接領域とを含むように改変される(
図5を参照)。各scFVはHAタグも含む。
【0119】
24時間のインキュベーション期間の後、細胞を蛍光標識抗HAタグ抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析して、どの細胞がscFV抗体で自身の膜DRD1を自己標識したかを判定する。