(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106006
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】駆動基板、インク吐出ヘッド及び吐出動作システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010039
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岩 賢嗣
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF21
2C057AG82
2C057AG91
2C057AR14
2C057AR16
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】インク吐出特性をより向上させることのできる駆動基板、インク吐出ヘッド及び吐出動作システムを提供する。
【解決手段】駆動基板(20)は、インク吐出ヘッド(10)へ出力される駆動電圧信号を生成する駆動回路(21)と、駆動電圧信号を複数の接続端子(23)からそれぞれ外部へ出力する配線部(P2)と、を備える。配線部(P2)は、複数の抵抗素子(22)を有する。駆動回路(21)から複数の接続端子(23)への駆動電圧信号の出力経路にそれぞれ含まれる抵抗素子(22)のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出ヘッドへ出力される駆動電圧信号を生成するある駆動回路と、
生成された前記駆動電圧信号を複数の出力端からそれぞれ外部へ出力する配線部と、
を備え、
前記配線部は、複数の抵抗素子を有し、
前記複数の出力端への前記駆動電圧信号の出力経路にそれぞれ含まれる前記抵抗素子のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている
駆動基板。
【請求項2】
前記配線部は、前記複数の出力経路ごとに互いに異なる抵抗素子を有する請求項1記載の駆動基板。
【請求項3】
前記複数の出力経路ごとに含まれる前記抵抗素子の抵抗値が個別に定められている請求項2記載の駆動基板。
【請求項4】
前記ある駆動回路を複数備え、
前記配線部は、前記ある駆動回路の各々に対してそれぞれ、複数の出力端への前記出力経路、及び前記複数の抵抗素子を有する
請求項1~3のいずれか一項に記載の駆動基板。
【請求項5】
駆動電圧信号に応じて変形してインクに圧力変動を付与する圧電素子をそれぞれ有する複数の圧力付与群と、
外部から各々入力された前記複数の圧力付与群に対する前記駆動電圧信号を前記複数の圧力付与群にそれぞれ伝える複数の入力経路を含む配線部と、
を備え、
前記配線部は、前記複数の入力経路ごとに異なる抵抗素子を有する
インク吐出ヘッド。
【請求項6】
前記抵抗素子の抵抗値は、前記複数の入力経路に各々つながる前記圧力付与群の合成容量に応じた値である請求項5記載のインク吐出ヘッド。
【請求項7】
前記入力経路ごとに、前記抵抗値と前記合成容量との積が500nsec以下である請求項6記載のインク吐出ヘッド。
【請求項8】
前記圧力付与群には、複数の圧電素子が含まれ、
前記複数の圧電素子によりそれぞれ前記圧力変動が付与されたインクを各々吐出可能な複数のノズルが、インク吐出面に対して二次元配列されており、
前記複数の圧力付与群の各々は、前記複数のノズルのうち互いに異なる一次元配列に属するものにそれぞれ対応する
請求項5記載のインク吐出ヘッド。
【請求項9】
駆動電圧信号に応じて変形してインクに圧力変動を付与する圧電素子をそれぞれ有する複数の圧力付与群を備えるインク吐出ヘッドと、
前記インク吐出ヘッドへ出力される前記駆動電圧信号を生成するある駆動回路と、
前記複数の圧力付与群のうち少なくとも2つに対して前記駆動電圧信号をそれぞれ伝える複数の信号経路を含む配線部と、
を備え、
前記配線部は、複数の抵抗素子を有し、
前記複数の信号経路にそれぞれ含まれる前記抵抗素子のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている
吐出動作システム。
【請求項10】
前記配線部は、前記複数の信号経路ごとに互いに異なる抵抗素子を有する請求項9記載の吐出動作システム。
【請求項11】
前記抵抗素子の抵抗値は、前記複数の信号経路に各々つながる前記圧力付与群の合成容量に応じた値である請求項10記載の吐出動作システム。
【請求項12】
前記信号経路ごとに、前記抵抗値と前記合成容量との積が500nsec以下である請求項11記載の吐出動作システム。
【請求項13】
前記圧力付与群には、複数の圧電素子が含まれ、
前記複数の圧電素子によりそれぞれ前記圧力変動が付与されたインクを各々吐出可能な複数のノズルが、インク吐出面に対して二次元配列されており、
前記複数の圧力付与群の各々は、前記複数のノズルのうち互いに異なる一次元配列に属するものにそれぞれ対応する
請求項9記載の吐出動作システム。
【請求項14】
前記ある駆動回路を複数備え、
前記配線部は、前記ある駆動回路の各々に対してそれぞれ前記複数の信号経路及び前記複数の抵抗素子を有する
請求項9記載の吐出動作システム。
【請求項15】
前記駆動回路は、駆動基板上に位置し、
前記抵抗素子は、前記駆動基板上に位置する
請求項9~14のいずれか一項に記載の吐出動作システム。
【請求項16】
前記駆動基板と前記インク吐出ヘッドとの間は、信号ケーブルにより接続されている請求項15記載の吐出動作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動基板、インク吐出ヘッド及び吐出動作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を用いたピエゾ式のインク吐出ヘッドでは、駆動電圧の印加に対する圧電素子の変形に応じてインクに圧力変動を付与してインク液滴をノズルから吐出させる。インクジェット記録装置において高画質を得るためには、ノズルから適量のインクを適切な速度でインクミストなどの発生を抑えながら吐出させる技術が要求される。
【0003】
圧電素子の容量成分や信号線の誘導成分などにより、駆動波形電圧の変化のなまりやオーバーシュートなどが生じて、インクが適正に吐出されない問題がある。引用文献1では、オーバーシュートの抑制のために駆動回路に終端抵抗とスイッチ回路とを並列に並べ、駆動波形の電圧値に応じて、いずれを経由して駆動波形電圧を出力するかを切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、駆動回路により駆動されるノズル数及び当該ノズルからインクを吐出させるための圧電素子の数が多くなると、駆動回路で出力信号の波形を改善するだけでは、最終的に各圧電素子に印加される電圧波形のなまりやオーバーシュートなどの波形乱れが十分に抑えきれなくなる。その結果、駆動回路のインク吐出特性が低下するという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、インク吐出特性をより向上させることのできる駆動基板、インク吐出ヘッド及び吐出動作システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一の態様は、
インク吐出ヘッドへ出力される駆動電圧信号を生成するある駆動回路と、
前記駆動電圧信号を複数の出力端からそれぞれ外部へ出力する配線部と、
を備え、
前記配線部は、複数の抵抗素子を有し、
前記駆動回路から前記複数の出力端への前記駆動電圧信号の出力経路にそれぞれ含まれる前記抵抗素子のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている
駆動基板である。
また、本発明の他の一の態様は、
駆動電圧信号に応じて変形してインクに圧力変動を付与する圧電素子をそれぞれ有する複数の圧力付与群と、
外部から各々入力された前記複数の圧力付与群に対する前記駆動電圧信号を前記複数の圧力付与群にそれぞれ伝える複数の入力経路を含む配線部と、
を備え、
前記配線部は、前記複数の入力経路ごとに異なる抵抗素子を有する
インク吐出ヘッドである。
また、本発明の他の一の態様は、
駆動電圧信号に応じて変形してインクに圧力変動を付与する圧電素子をそれぞれ有する複数の圧力付与群を備えるインク吐出ヘッドと、
前記インク吐出ヘッドへ出力される前記駆動電圧信号を生成するある駆動回路と、
前記複数の圧力付与群のうち少なくとも2つに対して前記駆動電圧信号をそれぞれ伝える複数の信号経路を含む配線部と、
を備え、
前記配線部は、複数の抵抗素子を有し、
前記複数の信号経路にそれぞれ含まれる前記抵抗素子のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている
吐出動作システムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従うと、インク吐出特性をより向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の吐出動作システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の吐出動作システム1を説明する図である。
図1(a)には吐出動作システム1の構成を示す。
図1(b)は吐出動作システム1の回路構成を説明する図である。
【0011】
図1(a)に示すように、吐出動作システム1は、インク吐出ヘッド10と、駆動基板20と、信号ケーブル30と、を含む。
インク吐出ヘッド10は、複数のノズルから各々インクを吐出させる。インク吐出ヘッド10は、圧力付与部11(ここでは一部のみ指示しているが、配列されている黒丸が全て対応する)と、IC12と、接続端子13などを備える。また、インク吐出ヘッド10は、特には限られないが、本体部101と、フレキシブルプリント基板(FPC102)と、リジッド基板103などがつながったものである。
【0012】
本体部101は、各ノズルに連通するインク流路と、当該インク流路ごとに位置する複数の圧力付与部11と、圧力付与部11を動作させるための電圧を印加する電気回路などを有する。電気回路には、各圧力付与部11に対応する個別電極と、複数の圧力付与部11と対応する共通電極と、個別電極及び共通電極へ駆動電圧信号を伝える信号線と、が含まれる。なお、個別電極及び/又は共通電極は、圧力付与部11の構成の一部であってもよい。
【0013】
圧力付与部11は、それぞれ圧電素子を有する。圧電素子は、個別電極と共通電極との間に位置し、両電極間に電圧が印加されることで変形する。この変形に応じてインク流路(その特定の部分(圧力室)のみであってもよい)が変形することで、インク流路内のインクに圧力変動が付与される。圧力変動のパターンが適切に定められることで、押し出された適量のインク液滴が適切な速さでノズルから吐出され得る(吐出可能)。圧力付与部11は、圧電素子に重ねてインクへ圧力変動を効率的に付与するための振動板などを含んでいてもよい。振動板は、圧電素子の変形に応じて振動する薄板状部材である。振動板が導体膜である場合には、振動板は、圧電素子に電圧を印加するための電極、特に複数の圧電素子の一方の側に沿って共通の電位面、例えば、接地電位面などをなす共通電極と併用されてもよい。複数の圧力付与部11は、それぞれ複数の圧力付与群110のいずれかに属している。
【0014】
本体部101は、インク吐出面に複数のノズルが一列に並んだノズル列(一次元配列)を複数列、ここでは例えば4列有する(二次元配列)。特には限られないが、あるノズル列のノズルにそれぞれ対応する圧力付与部11(複数の圧力付与群110)は、共通の信号線を経て、上記圧力変動のパターンに応じた駆動電圧信号が伝えられる。このように、インク吐出ヘッド10において、ある共通の信号線から駆動電圧信号を受ける圧力付与部11が同一の圧力付与群110に属する。
【0015】
IC12は、各個別電極に対して信号線によりインクを吐出させるための駆動電圧信号を送るか否かを切り替える。切り替えは、記録対象の画像データに応じた制御信号により行われる。ノズルのうち各吐出タイミングで適宜選択されたものからインクを吐出させていくことで、着弾インクのパターンが形成されて所望の画像などが得られる。ここでいう画像には、通常の画像に加えて立体的な構造、無色を含む被膜や、特定の材質の構造物、例えば、信号配線などが含まれてもよい。これに応じて、インクは、カラーインクに限られない。例えば、透明又は白色の被膜成分や、特定用途の液体、例えば、導体や接着剤などであってもよい。IC12は、FPC102に位置している。
【0016】
接続端子13は、駆動基板20から出力された駆動電圧信号を伝える信号ケーブル30が接続される入力端である。接続端子13は、IC12と同数(複数)、ここでは4個がリジッド基板103に位置している。信号線は各接続端子13からIC12を経て各圧力付与群110の圧電素子に対応する電極へと伸びている。すなわち、インク吐出ヘッド10には、同時に4系統の駆動電圧信号が入力され得る。これらは、例えば、圧力付与群110ごとの圧電素子の電気機械変換効率の差異などに応じて電圧振幅の異なる駆動電圧信号であってもよい。
上記接続端子13からIC12を経て各圧力付与群110に接続される点までの信号線(端子、電子部品を含む)が本実施形態の複数の入力経路の側の配線部P1に対応する。
【0017】
駆動基板20は、駆動回路21と、抵抗素子22と、接続端子23(出力端)とを備える。駆動基板20は、駆動回路21が生成した駆動電圧信号を接続端子23から信号ケーブル30(外部)へ出力する。接続端子23の数は、接続端子13の数と等しい。
【0018】
駆動回路21は、駆動波形データ(デジタルデータ)などに基づいて駆動波形に応じたアナログ信号である電圧信号を生成する。駆動回路21は、この電圧信号を出力対象のインク吐出ヘッド10の電気容量(圧力付与部11の数)などに応じて電圧及び電流を増幅して駆動電圧信号を生成、出力する。特に、駆動回路21は、駆動電圧信号を伝える圧力付与部11の数の変化に応じた出力電流の大きな変化に対応する調整回路を有していてもよい。調整回路は、電力不足などによる出力電圧の低下や本来の駆動波形からの乖離が抑えられるように出力を安定化させる。駆動波形は、矩形波(パルスは)であってもよいし、台形波形であってもよい。あるいは、駆動波形は、他の波形を含んでもよいし、複数の波形が組み合わされた複合波形であってもよい。
【0019】
駆動回路21の数は、駆動電圧信号の出力対象であるインク吐出ヘッド10が備える圧力付与群110の数、すなわち、接続端子13、23の数よりも少ない。したがって、ある駆動回路21から出力された駆動電圧信号は、分岐した信号線の各々を経て複数の接続端子13から出力される。この場合、ある駆動回路21に接続される複数の接続端子13から出力される駆動電圧信号は、同一であってもよいし、振幅などが各々別個に調整されたものであってもよい。
【0020】
駆動基板20では、分岐信号線に各々抵抗素子22が位置している。これらの複数の抵抗素子22は、後述のように終端抵抗として機能する。
駆動基板20では、駆動回路21の出力から上記抵抗素子22などを経て接続端子23までの信号線(信号線(分岐信号線)中の電子部品などを含む)が本実施形態の出力経路の側の配線部P2に対応する。
【0021】
信号ケーブル30は、接続端子13、23の間をつなぐケーブルである。信号ケーブル30は、汎用のケーブルであってもよい。信号ケーブル30は、屈曲が可能である。インク吐出ヘッド10と駆動基板20とは、しばしば離隔しており、特に大型のインクジェット記録装置では、これらの間の距離が大きくなる。しかしながら、信号ケーブル30があまり長いと、信号の遅延や、当該信号ケーブル30の撓み、曲がりなどに応じて駆動電圧信号中のパルスの立ち上がりなどに係る急激な電圧変化に応じた電磁誘導の影響が過大になる。したがって、信号ケーブル30は、これらの信号遅延や電磁誘導に応じたリンギングなどによる波形の崩れを大きく生じさせない範囲で設定可能である。例えば、信号ケーブル30の長さは、500~1500mmである。
上記配線部P1、P2、及び信号ケーブル30が本実施形態の信号経路を含む配線部Pに対応する。
【0022】
この信号ケーブル30のインダクタンス成分と、圧力付与部11の容量成分との組み合わせに応じた信号の遅延、反射や共振に伴う振幅の一時的な現象、揺れや超過(オーバーシュート)などによるリンギングが生じる。
【0023】
図1(b)において、圧力付与部11がキャパシターCに対応し、信号ケーブル30がインダクターLに対応する。これらにより、駆動回路21からの出力電圧には遅延や変動、特に、電圧変化が止まるタイミングでのオーバーシュート、アンダーシュートや振動などといった乱れ(リンギング)が生じ得る。この信号経路に対し、適切な抵抗値の抵抗素子22が終端抵抗として挿入されることで、これらの乱れが抑制される。
なお、駆動回路21の出力側端部に既に終端抵抗が入っている場合がある。その場合には、この抵抗値と抵抗素子22との合成抵抗が考慮されて抵抗素子22の抵抗値が定められてもよい。
抵抗素子22は、複数の抵抗路が切り替えられることで抵抗値が定められてもよいし、可変抵抗であってもよい。可変抵抗は、調整可能に構成された電子部品であってもよい。あるいは、例えば、配線部P2内に回路幅が局所的に狭くなった回路パターン部分を有し、この回路幅を微調整(主に削って更に抵抗値を上昇させる)する可変抵抗であってもよい。
抵抗値は、抵抗素子22の誤差やばらつきなどを考慮して、例えば、0.25Ω以上の差を有するように設定されてもよい。すなわち、0.25Ω未満のずれはばらつきとして許容されてもよい。
【0024】
しかしながら、駆動回路21から駆動電圧信号が供給される圧力付与部11の数が多くなっていくと、ほぼ正常な駆動波形の駆動電圧信号が単一の抵抗素子22(終端抵抗)を介して出力されても、下流側で個々の圧力付与部11に印加される電圧波形のなまり(乱れ)が大きくなっていく。これに対し、圧力付与部11の数(電気容量)に応じて駆動回路21自体を増やし、各々独立経路を介して圧力付与部11の一部ずつに駆動電圧信号を供給することも想定され得る。しかしながら、配線に比してサイズが大きくかつ高価な駆動回路21を増やすことは、コストやサイズの増大につながる。本実施形態の吐出動作システム1(駆動回路21)では、ある抵抗素子22により終端させる信号経路内の圧力付与部11による電気容量などが、適宜な範囲で制限される。具体的には、配線部P2が複数の抵抗素子22を有し、各抵抗素子22の下流にそれぞれ位置する圧力付与部11を分割してその数を減少させて、異なる抵抗素子22を含む複数の出力経路を定める。
【0025】
上記に関わらず、駆動基板20は、駆動回路21が供給可能な電力容量などに応じて、分割される圧力付与部11のグループ数より少ない範囲で複数の駆動回路21を備えていてもよい。ここでは、駆動基板20は、4グループの圧力付与部11への出力経路(接続端子13)に対して2つの駆動回路21を備え、各駆動回路21から2グループずつに電力が供給されている。
【0026】
一方、インク吐出ヘッド10では、圧力付与部11及び対応するノズルの数が顕著に多い場合、複数の圧力付与部11が上記のように複数の圧力付与群110に区分され得る。したがって、複数の抵抗素子22により終端される圧力付与部11は、各々が属する上記圧力付与群110ごと(対応するノズルの一次元配列ごと)に区切られてもよい。
【0027】
また、駆動回路21から複数の信号経路に分かれて並列に各圧力付与群110へ配線部Pを通って駆動電圧信号が送られる場合、信号経路ごとにインピーダンスなどの回路特性が異なり得る。例えば、圧力付与群110に区分された各圧力付与部11の間で、圧力付与部11を各々形成する圧電体部材(すなわち、当該圧電体部材が得られるウエハー上の部位など)の特性が大きく異なる場合がある。このような場合、全体に対して平均的な終端抵抗を一つ追加しただけでは、個々の信号経路では十分に乱れが抑制されにくくなる。また、1本の信号経路で生じた乱れは、他の信号経路へ伝わり得る。したがって、上記のように、ある駆動回路21から駆動電圧信号が出力される複数の圧力付与群110に各々対応する信号経路(出力経路)ごとに、別個の(互いに異なる)抵抗素子22が含まれ、各々個別に抵抗値(複数の抵抗素子22が含まれる場合には合成抵抗値)が定められることで、各信号経路の信号乱れをより抑えることができる。
【0028】
抵抗値の大きさは、例えば、抵抗素子22が接続されている(インク吐出ヘッド10の入力経路に含まれる)圧力付与群110に含まれる圧力付与部11の合成容量などに応じて定められてもよい。合成容量と抵抗素子22の抵抗値との積は、各圧力付与部11への印加電圧波形の駆動回路21からの駆動電圧信号の出力タイミングからの遅延時間に応じた値となる。したがって、この積の値の上限値が、インク吐出にとって悪影響を与えない範囲である必要がある。悪影響を与えない範囲は、インクの特性や駆動電圧信号の波形パターンなどの各種条件に依存する。しかしながら、例えば、積の値が500nsec以下であれば、現在の一般的なインク吐出ヘッドの大部分において悪影響が出づらい。
【0029】
抵抗素子22は、電流に応じて発熱する。インク吐出ヘッド10~10bでは、インクの温度や圧電素子(圧力付与部11)の温度などが適切に保たれることが好ましい。したがって、熱源となる抵抗素子22が駆動基板20上に位置することで、インク吐出ヘッド10~10bから離隔させることができる。
【0030】
図2及び
図3には、変形例の吐出動作システム1a~1cを示す。
図2(a)に示すように、駆動電圧信号は、1つの駆動回路21から3つ以上の信号経路、ここでは4つの信号経路に分岐されてもよい。吐出動作システム1aの駆動基板20aでは、配線部P2において4つの信号経路(出力経路)が分岐した下流すぐにそれぞれ抵抗素子22が位置している。これにより、各信号経路における波形の乱れが抑制される。
【0031】
あるいは、
図2(b)に示すように、駆動電圧信号は、2段階以上で分岐されてもよい。この場合、分岐の途中の段階で分岐済みの複数の信号経路部分に各々抵抗素子22が位置していてもよい。
【0032】
図2(b)の例では、駆動回路21の出力が、まず2つの信号経路部分に分岐され、これら分岐した2つの信号経路部分に各々抵抗素子22が位置している。抵抗素子22の下流側(駆動回路21とは反対側)では、各信号経路部分が更にそれぞれ2つに分岐されて、合計4つの信号経路(出力経路)となっている。インク吐出ヘッド10へ出力される最終的な信号経路(出力経路、圧力付与群110の数)のうち少なくとも一部に対して当該一部とは異なる抵抗素子22が含まれるように複数の抵抗素子22が位置していれば、従来に比して駆動電圧信号の波形の乱れが抑えられる。
【0033】
上記
図1及び
図2では、信号ケーブル30に対し、駆動回路21の近端側に終端抵抗としての抵抗素子22が位置していたが、抵抗素子が遠端側に位置していてもよい。
図3に示す吐出動作システム1cでは、インク吐出ヘッド10cのリジッド基板103cにおいて、信号ケーブル30の接続端子13の下流側に抵抗素子14が終端抵抗として位置している。
【0034】
インク吐出ヘッド10cでは、入力される信号線の本数は、原則的に圧力付与群110の数と等しい。したがって、インク吐出ヘッド10cでは、配線部P1の各信号経路に各々(異なる)抵抗素子14が並んでいればよい。この場合には、駆動基板20cは、抵抗素子22を有していなくてもよい。あるいは、信号ケーブル30の両端に終端抵抗を設けることも可能である。
【0035】
なお、上記実施の形態では、駆動基板20~20cとインク吐出ヘッド10、10cとが信号ケーブル30により接続されて一体化された状態の吐出動作システム1について説明した。しかしながら、これらの構成は、単体で販売、取引されてもよい。この場合、接続される対象、すなわち、駆動基板20~20bに対するインク吐出ヘッドや、インク吐出ヘッド10cに対する駆動基板20~20cは、予め指定されていてもよい。しかしながら、接続端子13、23の数が等しくかつ駆動基板の電力容量がインク吐出ヘッドに対して十分であれば、必ずしも特定の駆動基板とインク吐出ヘッドの組み合わせに限られなくてもよい。
【0036】
以上のように、本実施形態の駆動基板20~20bは、インク吐出ヘッド10へ出力される駆動電圧信号を生成するある駆動回路21(1つ又は複数のうちいずれか)と、駆動電圧信号を複数の接続端子23からそれぞれ外部へ出力する配線部P2と、を備える。配線部P2は、複数の抵抗素子22を有する。駆動回路21から複数の接続端子23への駆動電圧信号の出力経路にそれぞれ含まれる抵抗素子22のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている。
すなわち、ある駆動回路21から複数の信号経路で出力される駆動電圧信号に対しては、少なくとも一部で異なる抵抗素子22を通ることになる。これにより、駆動基板20~20bは、単一の抵抗素子を終端抵抗とする場合に比較して、インク吐出ヘッド10へ出力されて最終的に各圧電素子に印加される駆動電圧信号の波形乱れを抑えることができる。特に、電力容量に鑑みて必要な数以上に駆動回路21を増やさなくてもよいので、駆動基板20~20bのコストやサイズの増大を抑えることができる。
【0037】
また、配線部P1は、複数の出力経路ごとに互いに異なる抵抗素子22を有していてもよい。全ての出力経路に対して異なる抵抗素子22があることで、各出力経路から駆動電圧信号が出力される対象となる圧力付与群110に属する各圧力付与部11に対して、より安定してより精度の高い波形の駆動電圧信号を印加することができる。
【0038】
また、複数の出力経路ごとに含まれる抵抗素子22の抵抗値が個別に定められていてもよい。各出力経路から各圧力付与群110の各圧力付与部11へのインピーダンスなど信号の伝送条件は、互いに異なる。したがって、利用される信号ケーブル30や接続されるインク吐出ヘッド10が概ね特定又は限定される場合には、当該伝送条件に応じて抵抗値を定めることで、各圧力付与部11の圧電素子に印加される駆動電圧信号の波形をより精度のよいものとすることができる。
【0039】
また、駆動基板20は、駆動回路21を複数備えていてもよい。当該駆動回路21に対して各々複数の接続端子23が対応付けられて、それぞれ複数の駆動電圧信号が複数の抵抗素子22を介して出力される。このような駆動基板20であっても、上記と同様に駆動電圧信号の波形の乱れを従来よりも抑えることができる。
【0040】
また、本実施形態のインク吐出ヘッド10cは、駆動電圧信号に応じて変形してインクに圧力変動を付与する圧力付与部11をそれぞれ有する複数の圧力付与群110と、外部(駆動基板20)から各々入力された複数の圧力付与群110に対する駆動電圧信号を当該複数の圧力付与群110にそれぞれ伝える複数の入力経路を含む配線部P1と、を備える。配線部P1は、複数の入力経路ごとに異なる抵抗素子14を有する。
このように、インク吐出ヘッド10cが複数の圧力付与群110を備える場合に、圧力付与群110への入力経路ごとに、配線部P1が抵抗素子14を有していてもよい。この場合でも、インク吐出ヘッド10cは、従来よりも最終的に圧力付与部11の圧電素子に印加される駆動電圧信号の波形の乱れを低減させることができる。
【0041】
また、抵抗素子14の抵抗値は、複数の入力経路に各々つながる圧力付与群110の合成容量に応じた値であってもよい。合成容量と抵抗値の積は、印加される駆動電圧信号の遅延に応じた値となるので、この値が圧力付与群110の間で略一定となるように抵抗値を各々定めることができる。これにより、吐出されるインク液滴の媒体への着弾タイミングへの抵抗素子14の影響を小さく抑制することができる。
【0042】
また、インク吐出ヘッド10は、入力経路ごとに、抵抗素子14の抵抗値と合成容量との積が500nsec以下であるように抵抗素子14を定めてもよい。これにより、インク吐出ヘッド10は、上記のように駆動電圧信号の遅延時間を現在の一般的なインク吐出ヘッド10において悪影響が生じない範囲に留めることができる。
【0043】
また、圧力付与群110には、複数の圧力付与部11が含まれる。複数の圧力付与部11によりそれぞれ圧力変動が付与されたインクを各々吐出可能な複数のノズルは、インク吐出面に対して二次元配列されている。複数の圧力付与群110の各々は、複数のノズルのうち互いに異なる一次元配列に属するものにそれぞれ対応していてもよい。インク吐出ヘッド10では、ノズル列ごとに、圧電部材の特性が偏る場合が多い。したがって、ノズル列ごとに圧力付与群110を定めて、当該圧力付与群110ごとに抵抗素子14を定めることで、各ノズルからのインク吐出への影響を小さく抑えることができる。
【0044】
また、本実施形態の吐出動作システム1~1cは、駆動電圧信号に応じて変形してインクに圧力変動を付与する圧電素子をそれぞれ有する複数の圧力付与群110を備えるインク吐出ヘッド10と、このインク吐出ヘッド10へ出力される駆動電圧信号を生成するある駆動回路21(1つ又は複数のいずれか)と、複数の圧力付与群110のうち少なくとも2つに対する駆動電圧信号を当該複数の圧力付与群110にそれぞれ伝える複数の信号経路を含む配線部Pと、を備える。配線部Pは、複数の抵抗素子14、22を有する。複数の信号経路にそれぞれ含まれる抵抗素子14、22のうち少なくとも一部は、当該一部以外と異なっている。
このような吐出動作システム1~1cによれば、終端抵抗である抵抗素子14、22当たりの圧力付与部11の圧電素子の合成容量を各々制限することができる。これにより、吐出動作システム1~1cでは、最終的に圧力付与部11の圧電素子に印加される駆動電圧信号の波形の乱れを容易に従来よりも抑制することができる。
【0045】
また、配線部Pは、複数の信号経路ごとに互いに異なる抵抗素子14、22を有していてもよい。可能な数の抵抗素子14、22を備えることで、吐出動作システム1は、従来よりも、圧電素子に印加される駆動電圧信号の波形の乱れを抑制することができる。
【0046】
また、駆動回路21は、駆動基板20上に位置し、抵抗素子22は、駆動基板20上に位置する。抵抗素子22がインク吐出ヘッド10とは離隔して位置していることで、抵抗素子22が発した熱がインク吐出ヘッド10に及ぼす影響を抑え、かつ速やかにこの熱を発散しやすくすることができる。
【0047】
また、駆動基板20とインク吐出ヘッド10との間は、信号ケーブル30により接続されていてもよい。これにより、駆動基板20とインク吐出ヘッド10とを離隔して柔軟に配置することができる。また、このように信号ケーブル30を利用した場合に、当該信号ケーブル30の屈曲やその長さなどに応じてコンダクタンス成分や寄生容量成分(LC成分)が生じやすい。本実施形態の吐出動作システム1では、複数の抵抗素子14、22により、このようなLC成分の影響を容易かつ効果的に低減し、圧電素子に最終的に印加される駆動電圧の波形の乱れを抑えることができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、ノズルが二次元配列されて、一次元の各ノズル列に対応する圧力付与部11ごとに圧力付与群110が定められたが、これに限られない。異なるノズル列に跨って圧力付与群110が定められてもよい。あるいは、ノズルが二次元配列されておらず、一次元配列のノズル内で適宜に複数の圧力付与群110に区切られてもよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、抵抗素子14、22の抵抗値が個別に設定されることとしたが、圧力付与群110間で大きな合成容量の差がない場合や、合成容量が想定できない場合などには、一律に平均的な抵抗値が定められてもよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、駆動回路21が複数ある場合に、当該駆動回路21から同数の圧力付与群110にそれぞれ駆動電圧信号が供給されたが、これに限られない。駆動回路21の電力容量が異なるなどで、圧力付与群110の数が異なってもよい。あるいは、圧力付与群110に属する圧力付与部11の数が異なっていて、当該圧力付与部11の差異に応じて駆動回路21や抵抗素子22などの特性値が定められてもよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、汎用の信号ケーブル30で駆動基板20とインク吐出ヘッド10との間が接続されたが、これに限られない。駆動基板20とインク吐出ヘッド10との間のある程度の幅をつなぐ信号線の構成を有する吐出動作システム1であれば、本発明が有効である。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0052】
1~1c 吐出動作システム
10~10b インク吐出ヘッド
11 圧力付与部
12 IC
13 接続端子
14 抵抗素子
20~20b 駆動基板
21 駆動回路
22 抵抗素子
23 接続端子
30 信号ケーブル
101 本体部
103、103c リジッド基板
110 圧力付与群
P、P1、P2 配線部