(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106009
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ボールペン用油性インキ及びボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20240731BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010044
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 稜介
(72)【発明者】
【氏名】吉川 勝教
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 元
(72)【発明者】
【氏名】清水 英明
(72)【発明者】
【氏名】関口 圭美
(72)【発明者】
【氏名】山崎 あかり
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA10
4J039AB02
4J039AB08
4J039AD07
4J039AE01
4J039AF01
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC13
4J039BC14
4J039BC15
4J039BC35
4J039BC52
4J039BC56
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE05
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA07
4J039EA42
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】ペン先からのインキ洩れを効果的に抑制可能なボールペン用油性インキ及びボールペンを提供する。
【解決手段】ボールペン用油性インキは、分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールおよびベンゾトリアゾール誘導体から選ばれる1種類以上と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体と、
ベンゾトリアゾールおよびベンゾトリアゾール誘導体から選ばれる1種類以上と、
を含むことを特徴とするボールペン用油性インキ。
【請求項2】
リン酸エステルをさらに含む
請求項1に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項3】
前記2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは、炭素数が3以上のヒドロキシアルコキシ基を有する
請求項1に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項4】
前記2種以上のセルロース誘導体の全ては、炭素数が3以上のヒドロキシアルコキシ基を有する
請求項3に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項5】
前記2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは、全ての官能基がヒドロキシ基を有する
請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項6】
前記2種以上のセルロース誘導体の全ては、全ての官能基がヒドロキシ基を有する
請求項5に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項7】
前記2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上150以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項8】
前記2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上10.0以下である
請求項7に記載のボールペン用油性インキ。
【請求項9】
筆記部と、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の油性インキを収容するインキ収容部と、を備え、
前記インキ収容部からの前記油性インキが前記筆記部に供給されるように構成された
ことを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールペン用油性インキ及びボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールペン用油性インキのペン先からのインキ洩れ出し抑制技術として、特許文献1には、ヒドロキシプロピルセルロースを含有して成る油性ボールペン用インキ組成物が開示されている。特許文献2には、ヒドロキシプロピルセルロースを2種含有して成る油性インキ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-73604号公報
【特許文献2】特開2005-336411号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明では、ペン先部の溶剤が揮発することで表面にヒドロキシプロピルセルロースの被膜を形成し、インキがペン先から洩れ出すのを防ぐようになっている。しかしながら、湿度の低い乾燥環境下ではペン先において空気中の水分によるインキ成分中のヒドロキシプロピルセルロースの析出による流動性の低下によるインキ洩れ抑制の支援を受けることが出来ないため、ペン先からインキが洩れ出してしまう。
【0005】
特許文献2の発明では、ヒドロキシプロピルセルロースによるゲル状粒子がペン先部において被膜化することで、ペン先先端部からのインキが滲み出しを防止している。しかしながら、湿度の低い乾燥環境下ではペン先において空気中の水分によるインキ成分中のゲル状粒子の析出による流動性の低下によるインキ洩れ抑制の支援を受けることが出来ないため、ペン先からインキが洩れ出してしまう。
【0006】
また、ペン先を収納せずにペン立てやディスプレイ用ペンホルダー等にペンを立てて収納した場合、ペン先がペン立て等の底部に突き当たった状態となり、ペン先のボールがボール受け座に押し当てられることでインキ流路が開いた状態になってしまう。このとき、特許文献1又は2に記載の油性インキでは、多量のインキがペン先からの洩れ出すことがあった。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、ペン先からのインキ洩れを効果的に抑制可能なボールペン用油性インキ及びボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペン用油性インキは、分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体と、ベンゾトリアゾールおよびベンゾトリアゾール誘導体から選ばれる1種類以上と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペンは、
筆記部と、
上述の油性インキを収容するインキ収容部と、を備え、
前記インキ収容部からの前記油性インキが前記筆記部に供給されるように構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、ペン先からのインキ洩れを効果的に抑制可能なボールペン用油性インキ及びボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のボールペン用油性インキが含むセルロース誘導体は、セルロースのヒドロキシ基をメトキシ基等の官能基に修飾させた分子構造を有するものをいう。
セルロースは隣接するグルコースのヒドロキシ基間あるいはヒドロキシ基と環状構造中の酸素原子との間で水素結合を形成してしまうため、それ単体で凝集してしまう。そこで、セルロースのヒドロキシ基をメトキシ基等の官能基に修飾して、セルロース誘導体とすることで、その凝集が緩和できる。このためインキ中において分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体を添加することで、分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体同士が分子内に複数有するヒドロキシ基同士の水素結合やアルキル基等の疎水部の疎水的相互作用によって結合することが可能となると考察される。結合するセルロース誘導体の分子量には差があるため、長いセルロース誘導体と短いセルロース誘導体が混在し、長いセルロース誘導体には短いセルロース誘導体がより多く結合できると考察される。このため「セルロース誘導体単独の場合の構造と比較し密な構造体を形成することが可能」であると考察される。長いセルロース誘導体と、短いセルロース誘導体が密に結合した構造体は、ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体との結合点を密に有しているので、多数のベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体と結合すると考察される。構造体が有する多数のベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体がペン先部(チップやボールの金属部)に選択的に吸着すると考察される。
乾燥の影響を受けやすいペン先部にこの構造体が吸着していることと、密な構造でみかけの分子量が大きいことから、湿度の低い乾燥環境下においても、少量の溶剤揮発で、ペン先表面に、ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体が結合した分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体の構造体が析出して膜を形成する。この膜は「密であること」、「ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体を介すことでボールとチップに強固に吸着していること」、「セルロース由来の膜の効果である柔軟性」の3つの特徴を併せ持った膜であるため、ペン先をディスプレイ等に直接接触されて大きくなったインキ流路でも塞ぐことができると考察される。そのため、湿度の低い乾燥環境下で、ペン先をディスプレイ等に直接接触させている場合でも洩れを抑えることできるものと考察される。
なお、湿度の低い乾燥環境とは、相対湿度が50%未満の環境のことである。
【0013】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキが含むセルロース誘導体は、セルロースのヒドロキシ基をメトキシ基等の官能基に修飾させた分子構造を有するものをいう。
【0014】
セルロースはグルコースがβ1-4結合して形成したものである。グルコースのβ結合では直線性がよくなり、結晶構造をつくるようになることから、丈夫で安定な構造体を作ることができる。そのため、その誘導体であるセルロース誘導体も丈夫で安定な構造体を作り出すと考察される。
【0015】
さらにセルロース誘導体は、セルロースのヒドロキシ基をメトキシ基等の官能基に修飾させることで、分子間の水素結合が緩和され、分子間に隙間が生じその凝集が緩和されたものであるため、分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体をインキ中において添加することで、分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体同士が結合し、セルロース誘導体単一よりも構造が密で丈夫な構造体を作ることが可能であると考察される。セルロース誘導体の具体例としては、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース等が挙げられる。
【0016】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキに含まれる分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体の各々は、酢酸セルロース等のセルロースエステル、メチルセルロース又はエチルセルロース等のアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のカルボキシアルキルセルロースの金属塩、又は、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロースを含んでもよい。
【0017】
酢酸セルロースの具体的なものは、L-20(重量平均分子量(MW)39547)、同-30(重量平均分子量(MW)42183)、同-50(重量平均分子量(MW)47456)、同-70(重量平均分子量(MW)50092)、LT-35(重量平均分子量(MW)76402)、同-105(重量平均分子量(MW)99039)、以上、(株)ダイセル製)が挙げられる。
【0018】
メチルセルロースとして具体的なものは、メトローズSM-4(重量平均分子量(MW)24200)、同-15(重量平均分子量(MW)48730)、同-25(重量平均分子量(MW)59280)、同-100(重量平均分子量(MW)94080)、同-400(重量平均分子量(MW)144400)、同-1500(重量平均分子量(MW)216600)、同-4000(重量平均分子量(MW)292200)、同-8000(重量平均分子量(MW)360400)(以上、信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0019】
エチルセルロースとして具体的なものは、エトセルSTD-4(重量平均分子量:44046)、同-7(重量平均分子量:55205)、同-10(重量平均分子量:77180)、同-20(重量平均分子量:105059)、同-45(重量平均分子量:135021)、同-100(重量平均分子量:180000)、同-200(重量平均分子量:187800)、同-300(重量平均分子量:300000)(以上、The Dow Chemical Company製)等が挙げられる。
【0020】
カルボキシメチルセルロースナトリウムとして具体的なものは、CMCダイセル1110(重量平均分子量(MW)250000)、同1130(重量平均分子量(MW)300000)、同1140(重量平均分子量(MW)620000)、同1170(重量平均分子量(MW)680000)、同1190(重量平均分子量(MW)820000)(以上、ダイセルミライズ(株)製)、CEKOL30(重量平均分子量(MW)80000)、同30000(重量平均分子量(MW)750000)、FINNFIX4000(重量平均分子量(MW)450000)(以上、三晶(株)製)等が挙げられる。
【0021】
カルボキシメチルエチルセルロースとして具体的なものは、CMEC(重量平均分子量(MW)49000、フロイント産業(株)製)が挙げられる。
【0022】
ヒドロキシエチルセルロースとして具体的なものは、AL-15F(重量平均分子量(MW)159000)、AG-15F(重量平均分子量(MW)456000)、AH-15F(重量平均分子量(MW)667000)、AW-15F(重量平均分子量(MW)1038000)、SW-25F(重量平均分子量(MW)1158000)、SZ-25F(重量平均分子量(MW)1504000)(以上、住友精化(株)製)、SP200(重量平均分子量(MW)120000)、同400(重量平均分子量(MW)25000)、同500(重量平均分子量(MW)380000)、同600(重量平均分子量(MW)1020000)、同850(重量平均分子量(MW)1480000)、同900(重量平均分子量(MW)1560000)(以上、ダイセルミライズ(株)製)、SANHEC LT(重量平均分子量(MW)90000)、同 GT(重量平均分子量(MW)300000)、同 MT(重量平均分子量(MW)720000)、同 HT(重量平均分子量(MW)1000000)、同 HHT(重量平均分子量(MW)1300000)(以上、三晶(株)製)等が挙げられる。
【0023】
ヒドロキシエチルメチルセルロースとして具体的なものは、メトローズSEB-04T(重量平均分子量(MW)292200)、同SNB-30T(重量平均分子量(MW)532700)、(以上、信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0024】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースとして具体的なものは、メトローズ60SH-3(重量平均分子量(MW)19130)、同-6(重量平均分子量(MW)31450)、同-15(重量平均分子量(MW)48730)、同-50(重量平均分子量(MW)75290)、同-4000(重量平均分子量(MW)292200)、同-10000(重量平均分子量(MW)385300)、メトローズ65SH-50(重量平均分子量(MW)75290)、同-400(重量平均分子量(MW)144400)、同-1500(重量平均分子量(MW)216600)、同-4000(重量平均分子量(MW)292200)、同-15000(重量平均分子量(MW)434700)、メトローズ90SH-100(重量平均分子量(MW)94080)、同-400(重量平均分子量(MW)144400)、同-4000(重量平均分子量(MW)292200)、同-15000(重量平均分子量(MW)434700)、同-30000(重量平均分子量(MW)532700)、同-100000(重量平均分子量(MW)750000)(以上、信越化学工業(株)製等が挙げられる。
【0025】
ヒドロキシプロピルセルロースとして具体的なものは、HPC-SSL(重量平均分子量(MW)40000)、同-SL(重量平均分子量(MW)100000)、同-L(重量平均分子量(MW)140000)、同-M(重量平均分子量(MW)700000)、同-H(重量平均分子量(MW)1000000)、同-VH(重量平均分子量(MW)2500000)(以上、日本曹達(株)製)、クルーセル-E(重量平均分子量(MW)80000)、同-L(重量平均分子量(MW)95000)、同-J(重量平均分子量(MW)140000)、同-G(重量平均分子量(MW)370000)、同-M(重量平均分子量(MW)850000)、同-H(重量平均分子量(MW)1150000)(以上、Ashland製)が挙げられる。
【0026】
分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体は、分子内に有するヒドロキシ基同士の水素結合やアルキル鎖等の疎水部の疎水的相互作用によって結合することから、セルロース誘導体としては、分子内にヒドロキシアルコキシ基を有するセルロース誘導体が好ましい。ヒドロキシアルコキシ基を有するセルロース誘導体の具体例として、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース等が挙げられる。
【0027】
分子内にヒドロキシアルコキシ基を有するセルロース誘導体の中でも、インキ中において該構造体がより安定的に存在できることで、該構造体が乾燥の影響を受けやすいペン先部に膜をより形成しやすくなることから、有機溶剤への溶解性および、または分散性を考慮しセルロース誘導体としては、ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上のものがより好ましい。炭素数が3以上のヒドロキシアルコキシ基としては、ヒドロキシプロポキシ基、ヒドロキシブトキシ基、ヒドロキシペントキシ基、ヒドロキシヘキソキシ基、ヒドロキシへプトキシ基、ヒドロキシオクトキシ基等が挙げられる。
【0028】
また分子内にヒドロキシアルコキシ基を有するセルロース誘導体であり、ヒドロキシ基を有しない官能基を含まず、ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上のものは、該構造体中の結合点であるヒドロキシ基が増加することから、該構造体がさらに密となり、該構造体の安定性の観点からさらに好ましい。ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上のセルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース等が挙げられ、分子内にヒドロキシアルコキシ基を有するセルロース誘導体であり、ヒドロキシ基を有しない官能基を含まず、ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上のセルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース等が挙げられる。
【0029】
本明細書におけるセルロース誘導体の分子量とは重量平均分子量である。重量平均分子量は高分子の分布において、最も体積を占める分子の分子量を考慮した値である。つまりでどれくらい分子量の大きな分子が存在しているかを示している。
【0030】
幾つかの実施形態では、分子量が異なる2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上150以下、又は、1.1以上10.0以下であってもよい。即ち、分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体の重量分子量の組み合わせとしては、重量平均分子量の最も大きなセルロース誘導体の重量平均分子量をaとしたとき、それより重量平均分子量が小さいセルロース誘導体の重量平均分子量をb、c・・・としたとき、a/b、a/c、a/・・・の値が1.1以上150以下が好ましい。中でも、a/b、a/c、a/・・・の値が1.1以上10.0以下のものは一方のセルロース誘導体分子が他方のセルロース誘導体と比較し長さの差が大きすぎないことから密な構造体を作るのにさらに適しており、さらに好ましい。
【0031】
尚、セルロース誘導体の重量平均分子量はGPC法等で算出され、機器としては、例えば、送液ポンプ:Shodex DS-4(昭和電工製)、カラム:Shodex SB-806MHQ(昭和電工製)、光散乱検出器:DOWN(Wyat Technologie 社製)、濃度検出器:Shodex RI―71(昭和電工製)が用いられる。
【0032】
分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体の使用量は、インキ組成物全量中0.010重量%以上10.0重量%以下が好ましく、筆記性能を鑑みて0.050重量%から3.00重量%の範囲がさらに好ましい。
【0033】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキを得るために、上述のセルロース誘導体は、直接インキ(セルロース誘導体以外の成分を含む液体)に添加しても、溶剤等に溶解または分散したものをインキ(セルロース誘導体以外の成分を含む液体)に添加しても良い。セルロース誘導体を溶剤等に溶解および、または分散する際の攪拌方法としては通常一般的な方法で可能である。例えば、セルロース誘導体と、溶剤とを混合し、プロペラ撹拌機等で均一に撹拌することで溶解および、または分散する。使用できる機器としては、プロペラ撹拌機、ヘンシェルミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、薄膜旋回型高速ミキサー等が使用でき、溶剤量や、セルロース誘導体の濃度によって適宜選択する。
【0034】
セルロース誘導体を溶解および、または分散させた溶液をインキに添加する際、インキ中の成分とのソルベントショックを防ぐために、セルロース誘導体を溶解または分散時に少量のインキ中の成分をあらかじめセルロース誘導体を含む溶液中に添加しておくこともできる。
【0035】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキにおいて、ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体は、分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体の構造体と結合することで、2種類の性質をその構造体に付与することが可能となる。
【0036】
付与する1つ目の性質はセルロース誘導体の構造体をペン先部(チップやボールの金属部)に選択的に吸着する性質を付与することが出来る。このため少量の溶剤揮発においても洩れを抑制できる膜をチップ・ボール表面部に作成することが可能となる。
【0037】
付与する2つ目の性質は、分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体の構造を更に密な構造にすることが出来る。ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体がセルロース誘導体の作り出す構造間に入り込むことで、ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体骨格中のベンゼン環と窒素原子上のローンペアに由来するマイナスの電荷が、セルロース誘導体構造中のヒドロキシ基と静電相互作用により引き合うことで2種以上のセルロース誘導体に由来する構造を更に密にすることが可能となる。このため、ペン先をディスプレイ等に直接接触した場合の洩れに対しても強い構造の膜を少量の溶剤揮発で形成することが可能となる。
【0038】
ベンゾトリアゾール誘導体としてはベンゾトリアゾール骨格を有するものであれば好ましい。またベンゾトリアゾール誘導体中にヒドロキシ基等の水素結合できる官能基を有すると、分子量の異なる2種類以上のセルロース誘導体の構造体と水素結合できることからさらに好ましい。ベンゾトリアゾール誘導体の具体例としては、1-(イソシアノメチル)-1H-ベンゾトリアゾール、1-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニルオキシ]ベンゾトリアゾール、1-(メトキシメチル)-1H-ベンゾトリアゾール、1-(クロロメチル)-1H-ベンゾトリアゾール、1-(トリメチルシリル)-1H-ベンゾトリアゾール、2-n-オクチルベンゾトリアゾール、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール-1-カルボキシアルデヒド (以上、東京化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0039】
ベンゾトリアゾールまたはベンゾトリアゾール誘導体中にヒドロキシ基等の水素結合できる官能基を有するものの具体例としては、ベンゾトリアゾール(E-CHEM ENTERPRISE CORPORATION製)、1-ヒドロキシ-6-(トリフルオロメチル)ベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-アミノベンゾトリアゾール、メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール-1-メタノール、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、1-アミノベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2、ヒドロキシ-3,5-ビス(a,a-ジメチルベンジル)フェニル〕-2Hベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、5-ベンゾトリアゾールカルボン酸、2-(3,5-ジ-tert-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(以上、東京化成工業(株)製)、1-(1′,2′-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2,3-ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、2,2′-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-〔3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル〕-5-クロロベンゾトリアゾール、2-〔3-ドデシル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル〕ベンゾトリアゾール、2-〔3-t-ブチル-5-プロピルオクチレート-2-ヒドロキシフェニル〕-5-クロロベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシフェニル-3,5-ジ-(1,1′-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔3-t-ブチル-5-オクチルオキシルボニルエチル-2-ヒドロキシフェニル〕-ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-5-テトラオクチルフェニル〕-ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-4-オクトオキシ-フェニル〕-ベンゾトリアゾール、2-〔2′-ヒドロキシ-3′-(3″,4″,5″,6″-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5′-メチルフェニル〕-ベンゾトリアゾール、メチル-3-〔3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート-ポリエチレングリコール、メチル-3-〔3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート-ポリエチレングリコール(以上、適宜合成する。)、4-メチルベンゾトリアゾール(富士フィルム和光純薬(株))等が挙げられる。
【0040】
ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体の使用量は、インキ組成物全量中0.10重量%以上10.0重量%以下の範囲が好ましく、筆記性能を鑑みて0.50重量%以上5.00重量%以下の範囲がさらに好ましい。
【0041】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキにおいて、一般的な洩れ防止粒子を使用できる。洩れ防止粒子の具体例としては、シリコーン複合粒子としては、KMP-600、同601、同602、同605、X-52-7030、シリコーンゴム粒子として、KMP-597、シリカ粒子として、QSG-170(以上、信越化学工業(株)製)、シリコーンレジン粒子として、Tospearl 120FL Silicone Beads(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、酸化チタンとして、JR-800(テイカ(株)製)等が挙げられる。
【0042】
特にシリコーン複合粒子は、シリコーンゴム粒子を、シリコーンレジンにて被覆した構造を有するため、変形した際の復元に優れることから、分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールまたは、およびベンゾトリアゾール誘導体からなる構造体中にシリコーン複合粒子が共存することで、該構造体を密にするだけでなく、該構造体の柔軟性が向上し、インキがペン先から洩れ出すことおよびペン先を収納せずにディスプレイ等に突き当てた状態に起こる洩れに対する効果が向上すると考察されるため好ましい。
【0043】
洩れ防止粒子をインキ中に添加する際は、直接添加をしても良いし、あらかじめ分散体としたものを添加しても良い。
【0044】
分散媒としてはボールペン用油性インキに用いられている有機溶剤を用いることができ、特に、安全性や臭気の問題から、アルコール、グリコール、グリコールエーテルが好ましい。
【0045】
有機溶剤の一例としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール等のグリコール類、ベンジルアルコール、β-フェニルエチルアルコール、α-メチルベンジルアルコール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシペンタノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等のアルコール類、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル等のエーテル類、酢酸-2-エチルヘキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類を挙げることができる。
【0046】
また分散剤としては活性剤や分散樹脂を用いることができ、ノニオン活性剤、アクリルコポリマー、ポリビニルブチラール樹脂、リン酸ポリエステル、リン酸系ポリマー、酸性基を有するコポリマー、酸基を含む共重合物のアルキロールアンモニウム塩、水酸基含有カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0047】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキにおける有機溶剤としては従来ボールペン用油性インキに使用されるものなら特に限定なく使用出来、特に、安全性や臭気の問題から、アルコール、グリコール、グリコールエーテルが好ましい。
【0048】
有機溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール等のグリコール類、ベンジルアルコール、β-フェニルエチルアルコール、α-メチルベンジルアルコール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシペンタノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等のアルコール類、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル等のエーテル類、酢酸-2-エチルヘキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類を挙げることができる。低沸点有機溶剤を一部使用するとインキを低粘度化しやすく、書き味を軽くするために好適である。好適に使用できる低沸点有機溶剤は沸点が140℃以上200℃以下のグリコール、グリコールエーテルから選ばれる有機溶剤であり、具体的には、へキシレングリコール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0049】
低粘度化による書き味向上とペン先耐乾燥性を考慮して沸点が80℃以上200℃以下のアルコール、グリコール、グリコールエーテルから選ばれる低沸点有機溶剤と沸点が200℃を越える高沸点有機溶剤を併用することが好ましく。重量比で低沸点有機溶剤/高沸点有機溶剤の値が1.0以上30.0以下が好ましく、1.3以上6.0以下がより好ましい。
【0050】
これらの有機溶剤は単独あるいは組み合わせて使用出来、その使用量はボールペン用油性インキ全量に対し10.0重量%以上90.0重量%以下が好ましい。
【0051】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキでは、着色剤は特に制限なく水性染料や油溶性染料、顔料を使用することができる。
【0052】
水溶性染料として具体的には直接染料、酸性染料、塩基性染料などいずれも用いることができる。直接染料の具体例として、ジャパノールファストブラックDコンク(C.I.ダイレクトブラック17)、ウォーターブラック100L(同19)、ウォーターブラックL-200(同19)、ダイレクトファストブラックB(同22)、ダイレクトファストブラックAB(同32)、ダイレクトディープブラックEX(同38)、ダイレクトファストブラックコンク(同51)、カヤラススプラグレイVGN(同71)、カヤラスダイレクトブリリアントエローG(C.I.ダイレクトエロー4)、ダイレクトファストエロー5GL(同26)、アイゼンプリムラエローGCLH(同44)、ダイレクトファストエローR(同50)、アイゼンダイレクトファストレッドFH(C.I.ダイレクトレッド1)、ニッポンファストスカーレットGSX(同4)、ダイレクトファストスカーレット4BS(同23)、アイゼンダイレクトローデュリンBH(同31)、ダイレクトスカーレットB(同37)、カヤクダイレクトスカーレット3B(同39)、アイゼンプリムラピンク2BLH(同75)、スミライトレッドF3B(同80)、アイゼンプリムラレッド4BH(同81)、カヤラススプラルビンBL(同83)、カヤラスライトレッドF5G(同225)、カヤラスライトレッドF5B(同226)、カヤラスライトローズFR(同227)、ダイレクトスカイブルー6B(C.I.ダイレクトブルー1)、ダイレクトスカイブルー5B(同15)、スミライトスプラブルーBRRコンク(同71)、ダイボーゲンターコイズブルーS(同86)、ウォーターブルー#3(同86)、カヤラスターコイズブルーGL(同86)、カヤラススプラブルーFF2GL(同106)、カヤラススプラターコイズブルーFBL(同199)などが挙げられる。
【0053】
酸性染料の具体例としてアシッドブルーブラック10B(C.I.アシッドブラック1)、ニグロシン(同2)、スミノールミリングブラック8BX(同24)、カヤノールミリングブラックVLG(同26)、スミノールファストブラックBRコンク(同31)、ミツイナイロンブラックGL(同52)、アイゼンオパールブラックWHエクストラコンク(同52)、スミランブラックWA(同52)、ラニルブラックBGエクストラコンク(同107)、カヤノールミリングブラックTLB(同109)、スミノールミリングブラックB(同109)、カヤノールミリングブラックTLR(同110)、アイゼンオパールブラックニューコンク(同119)、ウォーターブラック187-L(同154)、カヤクアシッドブリリアントフラビンFF(C.I.アシッドエロー7:1)、カヤシルエローGG(同17)、キシレンライトエロー2G140%(同17)、スミノールレベリングエローNR(同19)、ダイワタートラジン(同23)、カヤクタートラジン(同23)、スミノールファストエローR(同25)、ダイアシッドライトエロー2GP(同29)、スミノールミリングエローO(同38)、スミノールミリングエローMR(同42)、ウォーターエロー#6(同42)、カヤノールエローNFG(同49)、スミノールミリングエロー3G(同72)、スミノールファストエローG(同61)、スミノールミリングエローG(同78)、カヤノールエローN5G(同110)、スミノールミリングエロー4G200%(同141)、カヤノールエローNG(同135)、カヤノールミリングエロー5GW(同127)、カヤノールミリングエロー6GW(同142)、スミトモファストスカーレットA(C.I.アシッドレッド8)、カヤクシルクスカーレット(同9)、ソーラールビンエクストラ(同14)、ダイワニューコクシン(同18)、アイゼンボンソーRH(同26)、ダイワ赤色2号(同27)、スミノールレベリングブリリアントレッドS3B(同35)、カヤシルルビノール3GS(同37)、アイゼンエリスロシン(同51)、カヤクアシッドローダミンFB(同52)、スミノールレベリングルビノール3GP(同57)、ダイアシッドアリザリンルビノールF3G200%(同82)、アイゼンエオシンGH(同87)、ウォーターピンク#2(同92)、アイゼンアシッドフロキシンPB(同92)、ローズベンガル(同94)、カヤノールミリングスカーレットFGW(同111)、カヤノールミリングルビン3BW(同129)、スミノオールミリングブリリアントレッド3BNコンク(同131)、スミノールミリングブリリアントレッドBS(同138)、アイゼンオパールピンクBH(同186)、スミノールミリングブリリアントレッドBコンク(同249)、カヤクアシッドブリリアントレッド3BL(同254)、カヤクアシッドブリリドブリリアントレッドBL(同265)、カヤノールミリングレッドGW(同276)、ミツイアシッドバイオレット6BN(C.I.アシッドバイオレット15)、ミツイアシッドバイオレットBN(同17)、スミトモパテントピュアブルーVX(C.I.アシッドブルー1)、ウォーターブルー#106(同1)、パテントブルーAF(同7)、ウォーターブルー#9(同9)、ダイワ青色1号(同9)、スプラノールブルーB(同15)、オリエントソルブルブルーOBC(同22)、スミノールレベリングブルー4GL(同23)、ミツイナイロンファストブルーG(同25)、カヤシルブルーAGG(同40)、カヤシルブルーBR(同41)、ミツイアリザリンサフィロールSE(同43)、スミノールレベリングスカイブルーRエクストラコンク(同62)、ミツイナイロンファストスカイブルーB(同78)、スミトモブリリアントインドシアニン6Bh/c(同83)、サンドランシアニンN-6B350%(同90)、ウォーターブルー#115(同90)、オリエントソルブルブルーOBB(同93)、スミトモブリリアントブルー5G(同103)、カヤノールミリングウルトラスカイSE(同112)、カヤノールミリングシアニン5R(同113)、アイゼンオパールブルー2GLH(同158)、ダイワギニアグリーンB(C.I.アシッドグリーン3)、アシッドブリリアントミリンググリーンB(同9)、ダイワグリーン#70(同16)、カヤノールシアニングリーンG(同25)、スミノールミリンググリーンG(同27)などが挙げられる。
【0054】
塩基性染料の具体例として、アイゼンカチロンイエロー3GLH(C.I.ベーシックイエロー11)、アイゼンカチロンブリリアントイエロー5GLH(同13)、スミアクリルイエローE-3RD(同15)、マキシロンイエロー2RL(同19)、アストラゾンイエロー7GLL(同21)、カヤクリルゴールデンイエローGL-ED(同28)、アストラゾンイエロー5GL(同51)、アイゼンカチロンオレンジGLH(C.I.ベーシックオレンジ21)、アイゼンカチロンブラウン3GLH(同30)、ローダミン6GCP(C.I.ベーシックレッド1)、アイゼンアストラフロキシン(同12)、スミアクリルブリリアントレッドE-2B(同15)、アストラゾンレッドGTL(同18)、アイゼンカチロンブリリアントピンクBGH(同27)、マキシロンレッドGRL(同46)、アイゼンメチルバイオレット(C.I.ベーシックバイオレット1)、アイゼンクリスタルバイオレット(同3)、アイゼンローダミンB(同10)、アストラゾンブルーG(C.I.ベーシックブルー1)、アストラゾンブルーBG(同3)、メチレンブルー(同9)、マキシロンブルーGRL(同41)、アイゼンカチロンブルーBRLH(同54)、アイゼンダイヤモンドグリーンGH(C.I.ベーシックグリーン1)、アイゼンマラカイトグリーン(同4)、ビスマルクブラウンG(C.I.ベーシックブラウン1)などが挙げられる。これらは単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0055】
油溶性染料として具体的には、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料、造塩染料、アジン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料などが使用でき、具体例として、ニグロシンベ-スEE、同EEL、同EX、同EXBP、同EB、オイルイエロー101、同107、オイルピンク314、オイルブラウンBB、同GR、オイルグリーンBG、オイルブルー613、オイルスカーレット308、同BOS、オイルブラックHBB、同860、同BS、バリファストイエロー1101、同1105、同1109、同1120、同3104、同3105、同3108、同4120、同AUM、バリファストオレンジ2210、同3209、同3210、バリファストレッド1306、同1308、同1320、同1364、同1355、同1360、同2303、同2320、同3304、同3306、同3320、バリファストピンク2310N、バリファストブラウン2402、同3405、バリファストグリーン1501、バリファストブルー1603、同1605、同1607、同1631、同2606、同2610、同2620、バリファストバイオレット1701、同1702、同1731、バリファストブラック1802、同1805、同1807、同3804、同3806、同3808、同3810、同3820、同3830、スピリットレッド102、スピリットブラックAB、オスピーイエローRY、ROB-B、MVB3、SPブルー105(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンイエロー3RH、同GRLHスペシャル、同C-2GH、同C-GNH new、アイゼンスピロンオレンジ2RH、同GRHコンクスペシャル、アイゼンスピロンレッドGEH、同BEH、同GRLHスペシャル、同C-GH、同C-BH、アイゼンスピロンバイオレットRH、同C-RH、アイゼンスピロンブラウンBHコンク、同RH、アイゼンスピロンマホガニーRH、アイゼンスピロンブルーGNH、同2BNH、同C-RH、同BPNH、アイゼンスピロングリーンC-GH、同3GNHスペシャル、アイゼンスピロンブラックBNH、同MH、同RLH、同GMHスペシャル、同BHスペシャル、S.B.N.オレンジ703、S.B.N.バイオレット510、同521、S.P.T.オレンジ6、S.P.T.ブルー111、SOTピンク1、SOTブルー4、SOTブラック1、同6、同10、同12、13リキッド、アイゼンローダミンBベース、アイゼンメチルバイオレットベース、アイゼンビクトリアブルーBベース(以上、保土谷化学工業(株)製)、オイルイエローCH、オイルピンク330、オイルブルー8B、オイルブラックS、同FSスペシャルA、同2020、同109、同215、ALイエロー1106D、同3101、ALレッド2308、ネオスーパーイエローC-131、同C-132、同C-134、ネオスーパーオレンジC-233、ネオスーパーレッドC-431、ネオスーパーブルーC-555、ネオスーパーブラウンC-732、同C-733(以上、中央合成化学(株)製)、オレオゾールファストイエロー2G、同GCN、オレオゾールファストオレンジGL、オレオゾールファストレッドBL、同RL(以上、田岡化学工業(株)製)、サビニールイエロー2GLS、同RLS、同2RLS、サビニールオレンジRLS、サビニールファイアレッドGLS、サビニールレッド3BLS、サビニールピンク6BLS、サビニールブルーRN、同GLS、サビニールグリーン2GLS、サビニールブラウンGLS(以上、サンド社製、スイス国)、マゼンタSP247%、クリスタルバイオレット10B250%、マラカイトグリーンクリスタルコンク、ブリリアントグリーンクリスタルH90%、スピリットソルブルレッド64843(以上、ホリディ社製、英国)、ネプチューンレッドベース543、ネプチューンブルーベース634、ネプチューンバイオレットベース604、バソニールレッド540、バソニールバイオレット600、ビクトリアブルーF4R、ニグロシンベースLK(以上、BASF社製、独国)、メチルバイオレット2Bベース(以上、National Anilne Div.社製、米国)などが挙げられる。これらは単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0056】
顔料として具体的には、ファーネストブラック、コンタクトブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン、金粉、銀粉、銅粉、アルミニウム粉、真鍮粉、錫粉、雲母系顔料、C.I.PIGMENT RED 2、同3、同5、同17、同22、同38、同41、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同206、同207、同209、同216、同245、同254、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同16、同17、同22、同25、同60、同66、C.I.PIGMENT BROWN 25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同139、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36などが挙げられる。これらは、1種もしくは2種以上混合して用いることができる。
【0057】
また、これらの顔料の他に加工顔料も使用可能である。それらの一例を挙げると、Renol Yellow GG-HW30、同HR-HW30、同Orange RL-HW30、同Red HF2B-HW30、同FGR-HW30、同F5RK-HW30、同Carmine FBB-HW30、同Violet RL-HW30、同Blue B2G-HW30、同CF-HW30、同Green GG-HW30、同Brown HFR-HW30、Black R-HW30(以上、クラリアントジャパン(株)製)、UTCO-001エロー、同012エロー、同021オレンジ、同031レッド、同032レッド、同042バイオレット、同051ブルー、同052ブルー、同061グリーン、同591ブラック、同592ブラック(以上、大日精化工業(株)製)、MICROLITH Yellow 4G-A、同MX-A、同2R-A、Brown 5R-A、Scarlet R-A、Red 2C-A、同3R-A、Magenta 2B-A、Violet B-A、Blue 4G-A、Green G-A(以上、チバ・スペシャリティケミカルズ(株)製)等がある。
【0058】
顔料の分散性を良好なものとするために、アニオン、カチオン、ノニオン、両性の界面活性剤や、高分子樹脂を補助的に使用することができる。具体的には、高級脂肪酸、高級アルコール硫酸エステル塩類、脂肪酸硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸類、リン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等のアニオン、ノニオン、カチオン性の界面活性剤や、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、などの顔料分散用の樹脂やオリゴマーなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0059】
インキの粘度調整や筆跡の定着性を目的に、樹脂を適宜調整してインキ中に添加することができる。
具体例を挙げると、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、アクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸-メタクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸-メタクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ロジンエステル、変性ロジン、変性ロジンエステル、マレイン化ロジン、マレイン化ロジンエステル、フマル化ロジン、フマル化ロジンエステル、N-ビニルアセトアミド重合架橋物等の合成高分子、無機粘土鉱物などが挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0060】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキは、ボール受座摩耗防止や運筆性改良のための潤滑剤として、オレイン酸などの高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、モノアルキルリン酸、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルリン酸、ジアルキルリン酸、ポリオキシエチレンジアルキルエーテルリン酸、トリアルキルリン酸、ポリオキシエチレントリアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル又はパーフルオロアルキル基・リン酸基含有リン酸エステル等のリン酸エステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩などを含んでもよい。上述の潤滑剤を分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールまたは、およびベンゾトリアゾール誘導体と併せて使用することで、分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールまたは、およびベンゾトリアゾール誘導体からなる構造体表面に潤滑剤分子が吸着して、潤滑剤分子膜に覆われた構造体が形成されることで、一層のボール受座摩耗防止や運筆性改良が発揮できる。
【0061】
市販の潤滑剤としては、フォスファノールBH-650、同SM-172、同ED-200、同GF-339、同RA-600、同GF199、同ML-200、同ML-220、同ML-240、同RD-510Y、同GF-185、同RS-410、同RS-610、同RS-710、同RL-210、同RL-310、同RB-410、同RP-710、同AK-25、同GF702、同RS-610NA、同SC-6103、同RD-720、同LP-700、同LS-500、同LB400(以上、東邦化学工業(株)製)や、プライサーフA207H、同A208B、同A219B、同A208S、同A212S、同A215C、同AL、同AL12(以上、第一工業製薬(株)製)、NIKKOL DLP-10、同DOP-8NV、同DDP-2、同DDP-4、同DDP-6、同DDP-8、同DDP-10、同TLP-4、同TCP-5、同TOP-0V、同TDP-2、同TDP-6、同TDP-8(以上、日光ケミカルズ(株)製)、メガファック F-510(以上、DIC株式会社製)を挙げることが出来る。
【0062】
上述の潤滑剤として、モノアルキルリン酸、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルリン酸、ジアルキルリン酸、ポリオキシエチレンジアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステルを用いることが好ましい。潤滑剤としてリン酸エステルを用いることで、ボール受座摩耗防止や運筆性改良の効果が特に向上する。これは、上述のリン酸エステルは、リン酸基を有することから、リン酸基の二重結合している酸素原子や、ヒドロキシ基が、金属部へ吸着しつつ、分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールまたは、およびベンゾトリアゾール誘導体からなる構造体表面へも強く吸着できるので、潤滑剤分子膜強度が一層強固になるためであると考察される。
【0063】
さらに、リン酸エステルに含まれるアルキル基の炭素数が10以上20以下であると、強荷重筆記においてもボールとボール受け座との摩耗が少なく好適である。
【0064】
さらにボールとボール受け座の摩耗防止を向上させるためにリン酸エステルにエチレンオキサイド基を導入したものを使用したものが好ましい。リン酸エステル構造中にエチレンオキサイド基が1モル以上20モル以下導入されているものが好ましい。
【0065】
ボールペン用油性インキに用いるためにリン酸エステルのHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)を適切にすることでインキ中においてリン酸エステルが分離しないことで長期にわたりボールとボール受け座の摩耗防止を良好に保つことが可能となる。好適なHLBの範囲としては5以上12以下である。
【0066】
リン酸エステルの使用量はボールペン用油性インキ全量に対し0.050重量%以上20.0重量%以下の使用が好ましく、更に好ましくは0.10重量%以上10.0重量%以下であり、最も好ましいのは0.30重量%以上2.00重量%であり、ボールペンチップと分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールまたは、およびベンゾトリアゾール誘導体からなる構造体への吸着状態が最適化され潤滑性が大幅に向上する。使用量が0.05重量%よりも少ないと、書き味の向上は十分ではなく、20.0重量%を越えると、インキ中の有機溶媒の含有量が減ってしまい、染料や樹脂などインキ中の固形分の溶解性が不足し、文字掠れが生じやすくなる恐れがある。
【0067】
幾つかの実施形態では、ボールペン用油性インキのpHが2.5以上7.0以下であることが好ましく、4.0以上6.0以下であることがより好ましい。ボールペン用油性インキのpHを上述の範囲に保つことによって、金属ボールペンチップへの酸性物質の吸着力を高め、筆跡の点線抑制や書き味をより確実に向上することができる。
【0068】
さらに、幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキは、水を含んでもよい。水はミネラルウォーター、水道水、イオン交換水、精製水、蒸留水、純水等からいずれを選んで用いても良い。中でも、カルシウムやマグネシウムの濃度がインキ中で100ppm以下に抑えることでインキ中の成分と反応して、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、カルシウム-酸化合物、マグネシウム-酸化合物のようなインキに不溶解の析出物が発生しないように、イオン交換水、精製水、蒸留水、純水が好ましい。その使用量はインキが経時的に不安定にならない範囲で添加出来、ボールペン用油性インキ全量に対し0.1重量%以上15.0重量%以下が好ましい。更に好ましくは0.5重量%以上10.0重量%以下が好ましい。尚、水の添加方法は特に限定されないが、水以外の成分を適宜混合したインキ中に水をそのままの状態で添加しても、着色剤や樹脂などのボールペン用油性インキに用いる成分に予め水分を吸湿や吸水させておいても良い。
【0069】
幾つかの実施形態では、ボールペン用油性インキのインキ粘度は、25℃、筆記時を想定した剪断速度100sec-1におけるインキ粘度が30mPa・s以上、3000mPa・s以下であることが好ましい。30mPa・s未満であると油性インキの潤滑膜強度が低くなり筆記感やボール受け座の摩耗性が低下する恐れがある。3000mPa・sを越えると再筆記した際の筆跡カスレ、すなわち初筆カスレが悪化する恐れがある。
【0070】
幾つかの実施形態に係るボールペンは、ボールペンチップを含む筆記部と、上述の油性インキを収容するインキ収容管(インキ収容部)と、を備え、インキ収容管からの油性インキが筆記部に供給されるように構成される。ボールペンチップのボールの縦軸方向(ボールペンの長手方向)の移動量は、3μmより大きく60μm以下とするのが好ましい。これは、3μm以下であると、濃い筆跡や良好な書き味が得られづらくなり、60μmを越えると、インキの吐出量が多くなりすぎるため筆跡の滲みがひどくなってしまうためである。
【0071】
上述したボールペン用油性インキをインキ収容管内に直に収容し、筆記部材としてのボールと、このボールを貫通孔であるインキ通孔の先端開口部から一部突出して抱持し、インキ通孔の先端開口部をボールの直径よりも小径に形成すると共にインキ通孔の内壁中腹部分に複数の内方突出部を形成することによってボールの前後移動可能範囲を規定するボールハウス部を形成したボールホルダーとで成るボールペンチップをインキ収容管内の先端に直接、またはチップホルダーを介して装着した油性ボールペンリフィルとする。上記ボールペンチップのボールホルダーは、主にステンレス等の円柱状金属部材にインキ通孔となる貫通孔、及び内方突出部をドリルやブローチなどの切削刃を用いて形成するものであるが、予め貫通孔が形成されたパイプ材を使用することもできる。パイプ材を使用した場合は、パイプ材の外側壁部にピンによる押圧変形加工を施して凹部を形成することによって、該部に対応する内側壁部に凸部を形成し、その凸部が内方突出部となるものである。
【0072】
前記ボールペンチップで使用できるボールの材質としては、炭化タングステンを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミ、スチール等の金属や、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、炭化クロム、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスなどが使用できるが、筆記ボールに関しては、インキに対する濡れ性や耐食性、中間ボールとの摺動性や耐磨耗性、を考慮すると超硬合金やセラミックスが好ましく、ベンゾトリアゾールがボールに吸着しやすいという観点から、超硬合金がさらに好ましい。ボールのビッカース硬さ(HV)は1000以上2000以下のものが使用できる。ボール表面の算術平均高さ(Sa)はSa 1.0(nm)以上20.0(nm)以下のものが使用できる。尚、算術平均高さ(Sa)は、国際規格ISO 25178に準拠したものであり、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を面に拡張したパラメーターに相当し、任意の範囲の表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表すパラメーターである。
【0073】
前記ボールペンチップで使用できるボールホルダーの材質として、ステンレス鋼や、洋白、真鍮などの銅合金などが使用できる。筆記時の耐磨耗性やインキの耐食性を考慮するとステンレス鋼が好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、フェライト系ステンレス鋼であるSUS430が好ましく用いられる。また、良好な加工性を有しつつボールホルダー先端部の打痕や摩耗などの変形等を抑制する為にビッカース硬さ(HV)を150以上300以下とすることが好ましい。また、自然環境への配慮から、切削性の向上を目的として添加される鉛を、同程度の加工性を付与できるビスマスに置き換えて用いることが好ましい。
【0074】
そして、ボールをボールホルダーの先端開口部の内縁に押し当てることでボールホルダーの密閉性を向上させ、ボールペンチップ先端からのインキのにじみ出しを防止する事を目的としてボールホルダーの内部には複数の内方突出部の中心に形成される中孔部を通じてボールを背面より押圧して前方付勢するコイルスプリングを備えたボールペンチップとすることもできる。コイルスプリングの材質としては主にSUS304などのステンレス鋼線を使用するが、硬鋼線やピアノ線材も使用できる。また、ポリカーボネートやポリエーテルエーテルケトン等の樹脂も使用することができる。ステンレス鋼線、硬鋼線などの表面にニッケル(元素記号:Ni)メッキを施したものも使用できる。ボールホルダー内にコイルスプリングを設置した状態におけるボールの押圧荷重は0.01N以上1.50N以下で使用できる。
【実施例0075】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0076】
実施例中の粘度はMCR302(Anton Paar社製)で、ローター CP50-1にて25℃でせん断速度5s-1、100s-1時の粘度測定を行った。(単位「mPa・s」)
【0077】
実施例中のpHはPICCOLO plus(ハンナ インスツルメンツ・ジャパン(株)製)にて25℃で測定を行った。
【0078】
表1に示すとおり、実施例1~30、比較例1~6に示した油性インキを作製した。なお、使用した材料は下記の通りである。
【0079】
顔料(1):カーボンブラック#1000 (着色剤、三菱化学(株)製)
顔料(2):C.I.Pigment Red 254(着色剤)
顔料(3):FUJI FAST RED 8800(着色剤、C.I.Pigment Red 254、冨士色素(株)製)
顔料(4):プリンテックス35(着色剤、カーボンブラック、オリオンエンジニアドカーボンズ(株)製))
顔料(5):CROMOPHTAL Blue A3R(着色剤、C.I.Pigment Blue 60、BASFジャパン(株)製)
【0080】
染料(1):アイゼンスピロンレッドC-GH(着色剤、キサンテン系塩基性染料とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸との造塩染料、保土ヶ谷化学工業(株)製)
染料(2):バリファストレッド1364(C.I.Basic Red 1:1とアルキルベンゼンスルホン酸とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸との造塩染料、オリヱント化学工業(株)製)
染料(3):バリファストイエロー1120(着色剤、塩基性染料と無色有機酸とのオニウム塩、オリヱント化学工業(株)製)
染料(4): new(着色剤、インドリノン系塩基性染料とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸との造塩染料、保土ヶ谷化学工業(株)製)
染料(5):オイルブルー613(着色剤、C.I.Solvent Blue 5とロジン変性樹脂との混合物、オリヱント化学工業(株)製)
染料(6):バリファストブルー1631(C.I.Basic Blue 7と無色有機酸との造塩染料、オリヱント化学工業(株)製)
染料(7):バリファストバイオレット1731(C.I.Acid Violet 17とメチン系染料との造塩染料、オリヱント化学工業(株)製)
染料(8):バリファストブルー1605(着色剤、Solvent Blue38とアミンとの混合物、オリヱント化学工業(株)製)
染料(9):オイルピンク314(着色剤、Solvent Redと酸性樹脂との混合物、オリヱント化学工業(株)製)
【0081】
有機溶剤(1):n-プロパノール(有機溶剤)
有機溶剤(2):n-ブタノール(有機溶剤)
有機溶剤(3):プロピレングリコール
有機溶剤(4):エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(有機溶剤)
有機溶剤(5):エチレングリコールモノフェニルエーテル(有機溶剤)
有機溶剤(6):トリプロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル(グリコールエーテル系有機溶剤)
有機溶剤(7):ジプロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル(グリコールエーテル系有機溶剤)
有機溶剤(8):トリプロピレングリコールメチルエーテル(グリコールエーテル系有機溶剤)
有機溶剤(9):PPH トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル
有機溶剤(10):ベンジルアルコール(有機溶剤)
【0082】
リン酸エステル(1):フォスファノール LB-400(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)オレイルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB8.6、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(2):フォスファノール GF-199(リン酸エステル、ラウリルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB5.5、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(3):フォスファノール LS-500(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)トリデシルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB9.0、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(4):フォスファノール RP-710(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(6)フェニルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB11.9、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(5):NIKKOL DDP-2(リン酸エステル、ジ(C12-15)パレス-2リン酸、HLB6.5、日光ケミカルズ(株)製)
【0083】
活性剤(1):ソルゲン30(ソルビタンセスキオレート、HLB3.7、第一工業製薬(株)製)
活性剤(2):ペグノールST-7(ポリオキシエチレン(7)アルキル(C12~14)エーテル、HLB12.8、東邦化学工業(株)製)
活性剤(3):NIKKOL HCO-10(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、HLB6.5、日光ケミカルズ(株)製)
活性剤(4):NIKKOL Decaglyn 1-ISV(モノイソステアリン酸デカグリセリル、HLB12.0、日光ケミカルズ(株)製)
活性剤(5):NIKKOL BO-10V(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、HLB14.5、日光ケミカルズ(株)製)
活性剤(6):レオドールSP-O30 (花王(株)製ソルビタントリオレエート受座摩耗防止剤)
【0084】
有機アミン(1):トリイソプロパノールアミン(東京化成工業(株)製)
有機アミン(2):ナイミーンL201(ポリエチレングリコール-1ラウリルアミン、日油(株)
有機アミン(3):トリエタノールアミン(東京化成工業(株)製)
粒子:X-52-7030(シリコーン複合粒子、平均粒子径0.8μm、ゴム硬度75デュロメータA、真比重1.01g/cm3、信越化学工業(株)製)
【0085】
樹脂(1):エスレックBL-1(樹脂、ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製)
樹脂(2):TEGO Variplus SK(ポリオール樹脂、OH価325mgKOH/g、Tg90℃、エボニックジャパン(株)製)
樹脂(3):TEGO Variplus CA(ケトンアルデヒド縮合樹脂、OH価200mgKOH/g、Tg75℃、エボニックジャパン(株)製)
樹脂(4):マルキード3002(マレイン酸ロジン、酸価100mgKOH/g、Tg175℃、荒川化学工業(株)製)
樹脂(5):PVPK- 90 (ポリビニルピロリドン、I S P ジャパン(株)製)
樹脂(6):エスレックBH-3(樹脂、ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製)
樹脂(7):レジンSK (ケトン樹脂、ヒュルス社(独)製)
分散剤:DISPERBYK-102(酸性基を有するコポリマー、酸価101mgKOH/g、ビックケミー・ジャパン(株)製)
【0086】
セルロース誘導体(1):HPC-H(重量平均分子量:1000000、ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達(株)製)
セルロース誘導体(2):HPC-M(重量平均分子量:700000、ヒドロキシプロピルセルロース日本曹達(株)製)
セルロース誘導体(3):HPC-VH(重量平均分子量:2500000、ヒドロキシプロピルセルロース日本曹達(株)製)
セルロース誘導体(4):HPC-L(重量平均分子量:140000、ヒドロキシプロピルセルロース日本曹達(株)製)
セルロース誘導体(5):HPC-SSL(重量平均分子量:40000、ヒドロキシプロピルセルロース日本曹達(株))
セルロース誘導体(6):クルーセルH(重量平均分子量:1150000、ヒドロキシプロピルセルロース、Ashland製)
セルロース誘導体(7):クルーセルL(重量平均分子量:95000、ヒドロキシプロピルセルロース、Ashland製)
セルロース誘導体(8):メトローズ60SH-3(重量平均分子量:19130、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)
セルロース誘導体(9):メトローズ60SH-6(重量平均分子量:31450、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)
セルロース誘導体(10):メトローズ65SH-1500(重量平均分子量:216600、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)
セルロース誘導体(11):メトローズ90SH-4000(重量平均分子量292200、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)
セルロース誘導体(12):メトローズSEB-04T(重量平均分子量:292200、ヒドロキシエチルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)
セルロース誘導体(13):SANHEC HHT(重量平均分子量:1300000、ヒドロキシエチルセルロース、三晶(株)製)
セルロース誘導体(14):SANHEC LT(重量平均分子量:90000、ヒドロキシエチルセルロース、三晶(株)製)
セルロース誘導体(15):エトセルSTD-7(重量平均分子量:55205、エチルセルロース、The Dow Chemical Company製)
セルロース誘導体(16):メトローズSM-4(重量平均分子量:24200、メチルセルロース、信越化学工業(株))
セルロース誘導体(17):CMCダイセル1190(重量平均分子量:820000、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ダイセルミライズ(株))
【0087】
発酵セルロース:H-PX(発酵セルロース、三栄源エフ・エフ・アイ社製)
結晶セルロース:セオラスKG801(結晶セルロース、旭化成(株)製)
セルロースナノファイバー:BiNFI-s(セルロースナノファイバー、(株)スギノマシン社製)
【0088】
ベンゾトリアゾール:ベンゾトリアゾール(E-CHEM ENTERPRISE CORPORATION製)
ベンゾトリアゾール誘導体(1):2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(東京化成工業(株)製)
ベンゾトリアゾール誘導体(2):1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール(東京化成工業(株)製)
【0089】
イオン交換水
【0090】
なお、表1~表7中の、「重量平均分子量の比a/b」は、各実施例及び比較例のインキ組成物中に含まれる分子量の異なる複数のセルロース誘導体のうち、重量平均分子量の最も大きなセルロース誘導体の重量平均分子量aと、重量平均分子量が2番目に大きなセルロース誘導体の重量平均分子量bとの比a/bである。また、「重量平均分子量の比a/c」は、各実施例及び比較例のインキ組成物中に含まれる分子量の異なる複数のセルロース誘導体のうち、重量平均分子量の最も大きなセルロース誘導体の重量平均分子量aと、重量平均分子量が3番目に大きなセルロース誘導体の重量平均分子量cとの比a/cである。
【0091】
油性インキの作製手順としては、有機溶剤または、およびイオン交換水と着色剤と樹脂とベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体をプロペラ撹拌機で60℃で攪拌した後に、その他の添加材とセルロース誘導体を直接またはプロペラ撹拌機等で溶剤等に均一に溶解または分散したもの添加しプロペラで2時間攪拌して油性インキを得た。
【0092】
(試験用ボールペンの作製)
実施例1~30、比較例1~6の油性インキを、ボールペンのペン先を備える水性ボールペン(ノック式エナージェル、製品符号BLN75、ぺんてる(株)製、ペン先の材質:ステンレス、ボールの材質:超硬、ボール径:φ0.5mm、ボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量30μm、ボールの表面粗さ(Sa)2nm、チップスプリングの押圧荷重は0.157N(16gf))と同構造のリフィルに1.0mL充填し、ペン先を取りつけ、パッキン(HM200、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系ホットメルト接着剤)でペン先に封をして遠心した。
【0093】
(ペン先インキ洩れ確認試験1)
上記の試験用ボールペンを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度30%の環境下にて、手書きで「国会の年日」を筆記した後、台紙に貼り付けて下向きで3日間静置した後のペン先からのインキ洩れの大きさをデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、VHX-7000)を用いて50倍にて確認し直径を記録し平均値を求めた。(単位「mm」)。試験結果を、表1~表7中の「確認試験1」の欄に示す。「確認試験1」に記載されるA,B,Cは、上述のインキ洩れの大きさの計測結果を以下の3段階で示すものである。
A:洩れなしから0.30mm以下
B:0.31mm以上0.50mm以下
C:0.51mm以上
【0094】
(ペン先インキ洩れ確認試験2)
上記の試験用ボールペンに50gのおもりを付けたものを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度30%の環境下にて、手書きで「国会の年日」を筆記した後、アクリル樹脂板に垂直状態でペン先を突き当てた状態で3日間静置した後のペン先からアクリル樹脂板に洩れ出したインキの大きさをデジタルマイクロスコープを用いて20倍にて確認し直径を記録し平均値を求めた。(単位「mm」)。試験結果を、表1~表7中の「確認試験2」の欄に示す。」「確認試験2」に記載されるA,B,Cは、上述のインキ洩れの大きさの計測結果を以下の3段階で示すものである。
A:洩れなしから5.0mm以下
B:5.1mm以上10mm以下
C:10.1mm以上
【0095】
結果を表1~表7に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
実施例1~31のボールペンは、インキ中に、重量平均分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体とベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体子を含むことから、インキ中において2種以上のセルロース誘導体からなる構造体にベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体が結合する。この構造体は「密であること」、「ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体を介すことでボールとチップに強固に吸着していること」、「セルロース由来の膜の効果である柔軟性」の3つの特徴を併せ持つことから、湿度の低い乾燥環境下においても、少量の溶剤揮発で、ペン先表面に上記の特徴をもつ膜を析出させることでき、ペン先からの洩れのみならず、ペン先をディスプレイ等に直接接触されて大きくなったインキ流路でも塞ぐことができたものと考察される。
【0104】
さらに実施例1~11、15~20、22~31のボールペンは、インキ中のセルロース誘導体として2種以上のヒドロキシアルキルセルロースを含むことから、構造体が密になりやすくペン先インキ洩れ確認試験1、2の結果が良好だったと考察される。
【0105】
さらに実施例1、3、6~7、10、15~19、25~31のボールペンは、インキ中のセルロース誘導体として2種以上のヒドロキシアルキルセルロースを含み、そのヒドロキシアルキルセルロースの重量分子量の比a/b、a/c、a/・・・の値が1.1以上10.0以下であることから、一方のセルロース誘導体分子が他方のセルロース誘導体と比較し長さの差が大きすぎず、より密な構造体を作るのに適していることから、よりペン先インキ洩れ確認試験1、2の結果が良好だったと考察される。
【0106】
さらに実施例1、6~7、10、15~19、25~31のボールペンは、インキ中のセルロース誘導体として2種以上のヒドロキシアルキルセルロースを含み、そのヒドロキシアルキルセルロースの重量分子量の比a/b、a/c、a/・・・の値が1.1以上10.0以下であり、インキ中にヒドロキシ基等の水素結合ができる官能基を有するベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体中を含むことから、2種以上のセルロース誘導体からなる構造体にベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体がより結合しやすくなることで、構造体がさらに密となり、ボールとチップに対する吸着効果も向上することから、さらにペン先インキ洩れ確認試験1、2の結果が良好だったと考察される。
【0107】
さらに実施例1、6、10、15~17、25~30のボールペンは、インキ中のセルロース誘導体として分子内にヒドロキシアルコキシ基を有し、ヒドロキシ基を有しない官能基を含まず、ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が3以上のものを2種以上含み、そのセルロース誘導体の重量分子量の比a/b、a/c、a/・・・の値が1.1以上10.0以下であり、インキ中にヒドロキシ基等の水素結合できるが官能基を有するベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体中を含むことから、最も構造体が密となり、ボールとチップに対する吸着効果も向上することから、最もペン先インキ洩れ確認試験1、2の結果が良好だったと考察される。
【0108】
また実施例10、16、19のボールペンは、重量平均分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体、ベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体子を含むインキ中にさらにシリコーン複合粒子を添加したことで、重量分子量の異なるセルロース誘導体2種以上と、ベンゾトリアゾールまたは、およびベンゾトリアゾール誘導体からなる構造体中にシリコーン複合粒子が共存することで、該構造体を密にするだけでなく、該構造体の柔軟性が向上し、ペン先インキ洩れ確認試験1、2の結果が良好だったと考察される。
【0109】
比較例1のボールペンはインキ中にセルロース誘導体を1種しか含んでいないことから、ペン先部で生じるセルロース誘導体由来の膜の強度がなく、また低湿において膜の析出が少ないことから、ペン先インキ洩れ確認試験1、2においてインキが洩れ出したと考察できる。
【0110】
比較例1のボールペンはインキ中にベンゾトリアゾールは含まれるが、セルロース誘導体を1種しか含んでいないことから、ペン先部で生じるセルロース誘導体由来の膜の強度がなく、ペン先インキ洩れ確認試験1、2においてインキが洩れ出したと考察できる。
【0111】
比較例3のボールペンはインキ中にベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体を含まないことから、2種のセルロース誘導体由来の構造体が密にならず、ボールとチップに対する吸着効果も弱いことから、ペン先インキ洩れ確認試験1、2においてインキが洩れ出したと考察できる。
【0112】
比較例4、5、6のボールペンはインキ中にセルロース誘導体もベンゾトリアゾールおよび、またはベンゾトリアゾール誘導体を含まないことから、ペン先インキ洩れ確認試験1、2においてインキが洩れ出したと考察できる。
【0113】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0114】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペン用油性インキは、
分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体と、
ベンゾトリアゾールおよびベンゾトリアゾール誘導体から選ばれる1種類以上と、
を含む。
【0115】
上記(1)のボールペン用油性インキは、分子量の異なるセルロース誘導体を2種以上含むので、比較的長いセルロース誘導体と比較的短いセルロース誘導体とが、分子間での水素結合や疎水的相互作用によって結合可能である。ここで、比較的長いセルロース誘導体には比較的短いセルロース誘導体がより多く結合できるため、セルロース誘導体単独の場合の構造と比較して密な構造体を形成することが可能であると考えられる。
また、上記(1)のボールペン用油性インキは、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を含むので、ベンゾトリアゾール又はその誘導体に含まれるベンゼン環のπ電子又は窒素原子のローンペア電子に由来するマイナス電荷が、セルロース誘導体のヒドロキシ基と静電相互作用により引き合うことで、分子量が異なる2種以上のセルロース誘導体が形成する構造体に入り込み、2種以上のセルロース誘導体とともにより密な構造体を形成することが可能であると考えられる。また、ベンゾトリアゾール又はその誘導体は、金属に対する吸着性が高いので、ボールペンのペン先部(チップやボールの金属部)に選択的に吸着しやすい。
したがって、上記(1)の構成によれば、ペン先部に、密な構造を有し、見かけの分子量が大きな構造体が吸着されるため、ペン先からの少量の溶剤の揮発で、ペン先表面に密な構造体の膜が形成される。よって、例えば低湿度環境下であっても、あるいは、意図せずにペン先におけるインキの流路が開放された場合であっても、上述の構造体の膜でインキの流路が塞がれるため、ペン先からのインキの洩れを効果的に抑制することができる。
【0116】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記ボールペン用油性インキは、
リン酸エステルをさらに含む。
【0117】
リン酸エステルは、分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体とベンゾトリアゾール又はその誘導体から形成される構造体表面や、金属への吸着力が強い。この点、上記(2)の構成によれば、ボールペン用油性インキがリン酸エステルを含むので、分子量の異なる2種以上のセルロース誘導体とベンゾトリアゾール又はその誘導体から形成される構造体表面に、潤滑性を有するリン酸エステルが吸着し、強度が高い潤滑剤分子膜が形成されるとともに、該潤滑剤分子膜で覆われた構造体が、ボールペンのペン先部(チップやボールの金属部)により吸着しやすい。このため、ペン先からのインキの洩れをより効果的に抑制することができるとともに、ペン先部の金属部品の摩耗が効果的に抑制され、また、ボールペンの運筆性が効果的に向上される。
【0118】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは、炭素数が3以上のヒドロキシアルコキシ基を有する。
【0119】
上記(3)の構成によれば、2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは炭素数が3以上のヒドロキシアルコキシ基を有するので、有機溶媒への分散性および溶解性が良好となる。
【0120】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記2種以上のセルロース誘導体の全ては、炭素数が3以上のヒドロキシアルコキシ基を有する。
【0121】
上記(4)の構成によれば、2種以上のセルロース誘導体の全てが炭素数3以上のヒドロキシアルコキシ基を有するので、有機溶媒への分散性および溶解性がより良好となる。
【0122】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの構成において、
前記2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは、全ての官能基がヒドロキシ基を有する。
【0123】
上記(5)の構成では、2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは、全ての官能基がヒドロキシ基を有する。言い換えると、2種以上のセルロース誘導体の少なくとも1つは、ヒドロキシ基を有しない官能基を含まない。全ての官能基がヒドロキシ基を有するセルロース誘導体は、ヒドロキシ基を有しない官能基を含むセルロース誘導体に比べて、他のセルロース誘導体やベンゾトリアゾールまたはその誘導体との結合点となるヒドロキシ基を多く含む。したがって、上記(5)の構成によれば、分子量が異なる2種以上のセルロース誘導体及びベンゾトリアゾール又はその誘導体が形成する構造体がさらに密となり、ペン先からのインキ洩れをより効果的に抑制できるとともに、該構造体の安定性が良好となる。
【0124】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記2種以上のセルロース誘導体の全ては、全ての官能基がヒドロキシ基を有する。
【0125】
上記(6)の構成では、2種以上のセルロース誘導体の全ては、全ての官能基がヒドロキシ基を有する。言い換えると、2種以上のセルロース誘導体の全ては、ヒドロキシ基を有しない官能基を含まない。したがって、上記(6)の構成によれば、分子量が異なる2種以上のセルロース誘導体及びベンゾトリアゾール又はその誘導体が形成する構造体がさらに密となり、ペン先からのインキ洩れをより効果的に抑制できるとともに、該構造体の安定性がより良好となる。
【0126】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの構成において、
前記2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上150以下である。
【0127】
上記(7)の構成によれば、2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上150以下であるので、2つのセルロース誘導体のうち一方のセルロース誘導体の分子が他方のセルロース誘導体の分子と比較し長さの差が過小または過大ではなく適度である。よって、2種以上のセルロース誘導体の密な構造体を形成するのに適している。
【0128】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、
前記2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上10.0以下である。
【0129】
上記(8)の構成によれば、2種以上のセルロース誘導体のうち、2つのセルロース誘導体の重量平均分子量の比が1.1以上10.0以下であるので、2つのセルロース誘導体のうち一方のセルロース誘導体の分子が他方のセルロース誘導体の分子と比較し長さの差がより適度である。よって、2種以上のセルロース誘導体の密な構造体を形成するのにより適している。
【0130】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペンは、
筆記部と、
上記(1)乃至(8)の何れか一項に記載の油性インキを収容するインキ収容部と、を備え、
前記インキ収容部からの前記油性インキが前記筆記部に供給されるように構成される。
【0131】
上記(9)のボールペンの油性インキは、分子量の異なるセルロース誘導体を2種以上含むので、比較的長いセルロース誘導体と比較的短いセルロース誘導体とが、分子間での水素結合や疎水的相互作用によって結合可能である。ここで、比較的長いセルロース誘導体には比較的短いセルロース誘導体がより多く結合できるため、セルロース誘導体単独の場合の構造と比較して密な構造体を形成することが可能であると考えられる。
また、上記(9)のボールペンの油性インキは、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を含むので、ベンゾトリアゾール又はその誘導体に含まれるベンゼン環のπ電子又は窒素原子のローンペア電子に由来するマイナス電荷が、セルロース誘導体のヒドロキシ基と静電相互作用により引き合うことで、分子量が異なる2種以上のセルロース誘導体が形成する構造体に入り込み、2種以上のセルロース誘導体とともにより密な構造体を形成することが可能であると考えられる。また、ベンゾトリアゾール又はその誘導体は、金属に対する吸着性が高いので、ボールペンのペン先部(チップやボールの金属部)に選択的に吸着しやすい。
したがって、上記(9)の構成によれば、ペン先部に、密な構造を有し、見かけの分子量が大きな構造体が吸着されるため、ペン先からの少量の溶剤の揮発で、ペン先表面に密な構造体の膜が形成される。よって、例えば低湿度環境下であっても、あるいは、意図せずにペン先におけるインキの流路が開放された場合であっても、この膜でインキの流路が塞がれるため、ペン先からのインキの洩れを効果的に抑制することができる。
【0132】
本明細書において、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。