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特開2024-106038支保構造、ロックボルト及び支保構造を設ける方法
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  • 特開-支保構造、ロックボルト及び支保構造を設ける方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106038
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】支保構造、ロックボルト及び支保構造を設ける方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 20/00 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
E21D20/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010099
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】横田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】伊達 健介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 紗季
(72)【発明者】
【氏名】小池 胡楠
(72)【発明者】
【氏名】升元 一彦
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 保幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅子
(72)【発明者】
【氏名】栗原 啓丞
(72)【発明者】
【氏名】井本 厚
(72)【発明者】
【氏名】岡部 正
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
(72)【発明者】
【氏名】外川 雄大
(57)【要約】
【課題】所望の変位を生じさせる。
【解決手段】ロックボルト2は、地山101の変形に伴って定着材3に対して移動し、又は、地山101の変形に伴って伸びる棒状部材51と、地山101の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材8と、棒状部材51の外径よりも大きい内径であって棒状部材51が挿通するリング貫通孔63を有し、スリーブ部材8から削孔104の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、地山101の変形に対して定着材3に対する相対的な位置を保つリング部材6と、スリーブ部材8とリング部材6との間に配置されて、スリーブ部材8に対面するプレキャスト部材7と、を備える。スリーブ部材8が地山101の変形に伴って削孔104の開口に向かって移動するときに、スリーブ部材8がプレキャスト部材7を押圧することによって、プレキャスト部材7が押しつぶされて第1の抵抗力とは異なる第2の抵抗力が発生する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に設けられる支保構造であって、
前記地山に形成された地山孔に充填される定着材と、
前記地山孔に配置された所定方向に延在する棒体であり、前記地山の変形に伴って前記定着材に対して移動し、又は、前記地山の変形に伴って伸びる棒状部材と、
前記棒状部材より大きな外径を有し、前記棒状部材の基端に固定されると共に前記定着材が付着する部分を含み、前記地山の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材と、
前記棒体の外径よりも大きい内径であって前記棒体が挿通する貫通孔を有し、前記スリーブ部材から前記地山孔の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、前記地山の変形に対して前記定着材に対する相対的な位置を保つリング部材と、
前記スリーブ部材と前記リング部材との間に配置されて、前記スリーブ部材に対面する基端面を含む筒状部材と、を備え、
前記スリーブ部材が前記地山の変形に伴って前記地山孔の開口に向かって移動するときに、前記スリーブ部材が前記筒状部材の前記基端面を押圧することによって、前記筒状部材が押しつぶされて前記第1の抵抗力とは異なる第2の抵抗力が発生する、支保構造。
【請求項2】
軸線方向に沿った前記筒状部材の最大圧縮強度に達するまでの前記軸線方向に沿った前記筒状部材の変位量は、前記軸線方向に沿った前記定着材の最大圧縮強度に達するまでの前記軸線方向に沿った前記定着材の変位量より、大きい、請求項1に記載の支保構造。
【請求項3】
前記筒状部材の空隙率は、前記定着材の空隙率より大きい、請求項1に記載の支保構造。
【請求項4】
前記筒状部材の密度は、前記定着材の密度より小さい、請求項1に記載の支保構造。
【請求項5】
定着材が充填される地山孔が設けられた地山の支保構造のためのロックボルトであって、
前記地山孔に配置された所定方向に延在する棒体であり、前記地山の変形に伴って前記定着材に対して移動し、又は、前記地山の変形に伴って伸びる棒状部材と、
前記棒状部材より大きな外径を有し、前記棒状部材の基端に固定されると共に前記定着材が付着する部分を含み、前記地山の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材と、
前記棒体の外径よりも大きい内径であって前記棒体が挿通する貫通孔を有し、前記スリーブ部材から前記地山孔の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、前記地山の変形に対して前記定着材に対する相対的な位置を保つリング部材と、
前記スリーブ部材と前記リングとの間に配置されて、前記スリーブ部材に対面する基端面を含む筒状部材と、を備え、
前記スリーブ部材が前記地山の変形に伴って前記地山孔の開口に向かって移動するときに、前記スリーブ部材が前記筒状部材の前記基端面を押圧することによって、前記筒状部材が押しつぶされて前記第1の抵抗力とは異なる第2の抵抗力が発生する、ロックボルト。
【請求項6】
定着材が充填される地山孔が設けられた地山の支保構造を設ける方法であって、
前記地山孔に配置された所定方向に延在する棒体であり、前記地山の変形に伴って前記定着材に対して移動し、又は、前記地山の変形に伴って伸びる棒状部材と、前記棒状部材より大きな外径を有し、前記棒状部材の基端に固定されると共に前記定着材が付着する部分を含み、前記地山の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材と、前記棒体の外径よりも大きい内径であって前記棒体が挿通する貫通孔を有し、前記スリーブ部材から前記地山孔の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、前記地山の変形に対して前記定着材に対する相対的な位置を保つリング部材と、前記スリーブ部材と前記リングとの間に配置されて、前記スリーブ部材に対面する基端面を含む筒状部材と、を備えるロックボルトを準備する工程と、
前記定着材を前記地山孔に充填した後に、前記ロックボルトを前記地山孔に配置する工程と、を有する、支保構造を設ける方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支保構造、ロックボルト及び支保構造を設ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルといった掘削により施工する構造物は、構造物が設けられた地山の圧力や変形に抵抗するための構造を有する。このような構造は、支保構造と呼ばれている。支保構造は、地山に設けられた穴に充填されるモルタルといった充填材と、当該充填材に埋め込まれたロックボルトと、を有する。ロックボルトは、地山の変形に対して応力を発生し、当該応力によって地山を支持する。
【0003】
ロックボルトは、その剛性によって支保力を発生し、土被り圧やトンネルの変位に対抗する。例えば、大深度のトンネル掘削時には、土被り圧やトンネルの変位が大きくなりやすい。このような場所に従来用いられている剛性の高いロックボルトを用いると、ロックボルトに大きな応力が発生するので、ロックボルトの脆性的な破壊の原因となり得る。そこで、特許文献1は、広範な地山の特性に対応が可能なロックボルトを開示する。特許文献1のロックボルトは、土被り圧などに起因する荷重の負担と、トンネルの大変位の許容と、を両立する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6240360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたロックボルトは、荷重の負担と、地山の変位の許容と、を両立する。ロックボルトが発生する地山を支持する荷重の大きさは、ロックボルトに生じる変形の程度に応じる。従って、ロックボルトが発生する荷重の大きさを所望のものとするためには、ロックボルトに生じる変位を所望のものとすることが望まれる。
【0006】
本発明は、所望の変位を生じさせることが可能な支保構造、ロックボルト及び支保構造を設ける方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、地山に設けられる支保構造である。支保構造は、地山に形成された地山孔に充填される定着材と、地山孔に配置された所定方向に延在する棒体であり、地山の変形に伴って定着材に対して移動し、又は、地山の変形に伴って伸びる棒状部材と、棒状部材より大きな外径を有し、棒状部材の基端に固定されると共に定着材が付着する部分を含み、地山の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材と、棒体の外径よりも大きい内径であって棒体が挿通する貫通孔を有し、スリーブ部材から地山孔の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、地山の変形に対して定着材に対する相対的な位置を保つリング部材と、スリーブ部材とリング部材との間に配置されて、スリーブ部材に対面する基端面を含む筒状部材と、を備える。スリーブ部材が地山の変形に伴って地山孔の開口に向かって移動するときに、スリーブ部材が筒状部材の基端面を押圧することによって、筒状部材が押しつぶされて第1の抵抗力とは異なる第2の抵抗力が発生する。
【0008】
この支保構造は、スリーブ部材とリング部材との間に配置された筒状部材を有する。第2の抵抗力は、筒状部材がスリーブ部材によって押しつぶされることによって発生するから、第2の抵抗力は筒状部材の性状の影響を受ける。この筒状部材は、支保構造の部品として備えられるものである。そうすると、複数の支保構造を施工するときに、支保構造ごとに現場で施工される定着材の性状のばらつきと比べて、支保構造ごとの筒状部材の性状のばらつきを抑制することができる。その結果、支保構造ごとに発生する第2の抵抗力のばらつきも抑制されるから、第2の抵抗力に応じるロックボルトの変位のばらつきも抑制される。その結果、ロックボルトに所望の変位を生じさせることができる。
【0009】
上記の支保構造において、軸線方向に沿った筒状部材の最大圧縮強度に達するまでの軸線方向に沿った筒状部材の変位量は、軸線方向に沿った定着材の最大圧縮強度に達するまでの軸線方向に沿った前記定着材の変位量より、大きくてもよい。また、筒状部材の空隙率は、定着材の空隙率より大きくてもよい。さらに、筒状部材の密度は、定着材の密度より小さくてもよい。これらの構成によれば、所望の変位を確実に生じさせることができる。
【0010】
本発明の別の形態は、定着材が充填される地山孔が設けられた地山の支保構造のためのロックボルトである。ロックボルトは、地山孔に配置された所定方向に延在する棒体であり、地山の変形に伴って定着材に対して移動し、又は、地山の変形に伴って伸びる棒状部材と、棒状部材より大きな外径を有し、棒状部材の基端に固定されると共に定着材が付着する部分を含み、地山の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材と、棒体の外径よりも大きい内径であって棒体が挿通する貫通孔を有し、スリーブ部材から地山孔の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、地山の変形に対して定着材に対する相対的な位置を保つリング部材と、スリーブ部材とリング部材との間に配置されて、スリーブ部材に対面する基端面を含む筒状部材と、を備える。スリーブ部材が地山の変形に伴って地山孔の開口に向かって移動するときに、スリーブ部材が筒状部材の基端面を押圧することによって、筒状部材が押しつぶされて第1の抵抗力とは異なる第2の抵抗力が発生する。このロックボルトによれば、所望の変位を生じさせることができる。
【0011】
本発明のさらに別の形態は、定着材が充填される地山孔が設けられた地山の支保構造を設ける方法である。支保構造を設ける方法は、地山孔に配置された所定方向に延在する棒体であり、地山の変形に伴って定着材に対して移動し、又は、地山の変形に伴って伸びる棒状部材と、棒状部材より大きな外径を有し、棒状部材の基端に固定されると共に定着材が付着する部分を含み、地山の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材と、棒体の外径よりも大きい内径であって棒体が挿通する貫通孔を有し、スリーブ部材から地山孔の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、地山の変形に対して定着材に対する相対的な位置を保つリング部材と、スリーブ部材とリング部材との間に配置されて、スリーブ部材に対面する基端面を含む筒状部材と、を備えるロックボルトを準備する工程と、定着材を地山孔に充填した後に、ロックボルトを地山孔に配置する工程と、を有する。この方法によれば、所望の変位を生じさせることが可能な支保構造を設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の変位を生じさせることが可能な支保構造、ロックボルト及び支保構造を設ける方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態の支保構造を示す断面図である。
図2図2(a)は、図1に示すロックボルトの主要な部分を拡大して示す図である。図2(b)は、図1に示すロックボルトが備えるプレキャスト部材を示す図である。図2(c)は、図2(a)に示すロックボルトを分解して示す図である。
図3図3(a)は、支保構造を設ける方法の主要な工程を示す図である。図3(b)は、支保構造を設ける方法において図3(a)に示す工程に続く別の工程を示す図である。図3(c)は、支保構造を設ける方法において図3(b)に示す工程にさらに続く別の工程を示す図である。
図4図4(a)は、第2の状態であるときの支保構造を示す図である。図4(b)は、第3の状態であるときの支保構造を示す図である。図4(c)は、第4の状態であるときの支保構造を示す図である。
図5図5は、変位と支保力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1に示す支保構造1は、新オーストリアトンネル工法(NATM)といった山岳トンネル工法に用いられる。支保構造1は、ロックボルト2によって構成されている。ロックボルト2は、トンネル102の周囲における地山101に対して放射状に配置される。それぞれのロックボルト2は、定着材3によって地山101に定着されている。従って、ロックボルト2は、トンネル102の周囲における地山101と一体化しているとみなせる。例えば、ロックボルト2の先端側(地山側)は、掘削の影響が無視できる比較的硬い地山領域に一体化していることもある。そして、地山101とロックボルト2とが一体化した領域は、アーチ状の支保領域を形成し、トンネル102を支保する。
【0016】
以下、本実施形態の支保構造1について詳細に説明する。下の説明では、説明の便宜上、ロックボルト2において削孔104(地山孔)の開口側に配置される側を「基端」と称する。また、ロックボルト2において削孔104の奥側に配置される側を「先端」と称する。図1図2(a)及び図2(c)では、紙面右手を基端側とし紙面左手を先端としてロックボルト2を図示する。
【0017】
支保構造1は、ロックボルト2と、定着材3と、を有する。支保構造1は、地山101に設けられた削孔104の定着材3に埋め込まれたロックボルト2によって地山101を支保する。
【0018】
ロックボルト2は、その大部分が定着材3に埋め込まれ、基端側の一部が削孔104から突出する。ロックボルト2は、主要な構成要素として、定着ユニット4と、可動軸部5と、リング部材6と、プレキャスト部材7(筒状部材)と、スリーブ部材8と、ネジ定着部材9と、を有する。これらの構成要素は、削孔104の内部において、削孔104の奥側から削孔104の開口104aに向かう方向D1に沿って、ネジ定着部材9、スリーブ部材8、プレキャスト部材7、リング部材6、可動軸部5の順に配置されて、互いに連結されている。そして、削孔104から突出した可動軸部5の端部に定着ユニット4が取り付けられる。
【0019】
例えば、地山101が方向D1(紙面右方向)に変形しようとすると、定着ユニット4には方向D1に沿う力が作用する。その結果、定着ユニット4に連結された可動軸部5、スリーブ部材8及びネジ定着部材9にも、当該力に対応する引っ張り力が作用する。このとき、それぞれの構成要素は、定着材3との付着力や、それぞれの構成要素が有する引っ張り強さによって、当該引っ張り力に抵抗する。その結果、地山101の変形が抑制される。つまり、地山101が支保される。
【0020】
ここで、可動軸部5、スリーブ部材8及びネジ定着部材9に作用する力が大きくなり、当該力が構成要素の許容強度を超えると破断が発生し、ロックボルト2は支保機能を喪失する。より具体的には、作用する力に起因する応力が構成要素の許容応力を超えたときに支保機能を喪失する。
【0021】
この応力は、地山101と各構成要素との相対的な変位に応じる。例えば、ロックボルト2が地山101の変位と同等の変形を生じる場合には、ロックボルト2に作用する応力はごく僅か(或いはゼロ)である。しかし、この場合には、ロックボルト2は地山101の変形に抵抗しないので、実質的に、ロックボルト2が支保機能を発揮している状態とは言えない。
【0022】
ロックボルト2が地山101の変形に対して全く変形しない場合には、ロックボルト2に作用する応力は地山101の変位に応じて大きくなる。この場合には、ロックボルト2が支保機能を発揮していると言えるが、ロックボルト2に作用する応力が許容値を超えると破断が生じる。
【0023】
すなわち、ロックボルト2は、地山101の変形を妨げる支保機能を奏しながら、発生する応力が許容値を上回らないようにするため、地山101の変形に応じて移動或いは変形する。ロックボルト2は、以下に詳細に説明する構成要素によって、このような作用効果を奏することができる。
【0024】
<定着ユニット>
定着ユニット4は、削孔104の開口104aにおいて、可動軸部5に設けられ、地山101に対する相対的な位置を維持する。定着ユニット4は、座金41とナット42とを有する。座金41は、円板又は矩形状の板材である。座金41の面積は、開口104aの開口面積よりも大きい。座金41の中央部には貫通孔が設けられ、当該貫通孔には可動軸部5が挿通される。ナット42は、可動軸部5に取り付けられる。ナット42は、座金41を地山101側へ押し付ける力を発生する。
【0025】
<可動軸部>
可動軸部5は、スリーブ部材8よりも開口104a側に配置される。可動軸部5は、棒状部材51と、シース52と、を有する。
【0026】
棒状部材51は、一本の棒体である。棒状部材51は、スリーブ部材8及びネジ定着部材9と一体化されて、ボルトモジュール2Mを構成する。棒状部材51は、棒状基端首部511と、棒状本体部512と、棒状先端首部513と、を含む。棒状基端首部511は、棒状部材51の一方の端部である。棒状先端首部513は、棒状部材51の他方の端部である。
【0027】
棒状基端首部511は、削孔104から突出する雄ネジ部511aを含む。この雄ネジ部511aには、定着ユニット4のナット42が取り付けられる。
【0028】
棒状本体部512は、削孔104に配置される。棒状本体部512は、方向D1に沿って延びる棒体である。棒状本体部512の外周面には、らせん状に形成された突起が設けられる。棒状本体部512として、比較的剛性の高い高張力異形鋼棒が用いられる。棒状本体部512は、外径が20ミリメートル以上30ミリメートル以下であり、長さが3メートル以上6メートル以下としてよい。例えば、棒状本体部512の外径は、後述するスリーブ部材8におけるスリーブ基体部80の外径に対して、その比率が1/1.15~1/1.5であり、一例として1/1.3程度としてよい。なお、上記の外径寸法及び長さ寸法は例示であって、これらの寸法値に限定されることはなく、支保構造1に応じて適宜好適な寸法を選択してよい。また、棒状本体部512としては、ツイスト鋼、ツイストボルトの表面形状が再現されるように圧延加工した高強度軽量化ボルト、ネジ節棒鋼を含む異形棒鋼を採用してもよい。
【0029】
図2(c)に示すように、棒状先端首部513は、雄ネジ部513aと、円柱部513bと、を含む。雄ネジ部513aの外周面には雄ネジが設けられている。雄ネジ部513aは、スリーブ部材8に連結される。円柱部513bは、雄ネジ部513aと棒状本体部512との間に形成されている。円柱部513bの外径は、棒状本体部512の外径より小さい。従って、円柱部513bと棒状本体部512との境界には、棒状段差部514が形成されてもよい。この棒状段差部514は、円柱部513bの外周面に対して垂直に起立するものであってもよいし、円柱部513bの外周面に対して斜めに延びる傾斜面であってもよい。また、円柱部513bの外周面は、平滑な円筒面であってもよい。この円柱部513bには、リング部材6及びプレキャスト部材7が配置される。例えば、円柱部513bの長さは、リング部材6の厚みとプレキャスト部材7の長さの合計長さと同じであってもよい。
【0030】
再び図1に示すように、シース52は、棒状部材51が挿通される貫通孔を有する。シース52の形状は、筒状である。シース52の外周面には、必要に応じてリブ(凹凸部)を設けてもよい。シース52は、その外径が棒状部材51の外径よりも大きく、その内径も棒状部材51の外径より大きい。例えば、シース52の内周面と棒状部材51の外周面とは、互いに離間してもよい。シース52に棒状部材51を配置したとき、棒状部材51の一部は、シース52によって覆われる。この覆われた部分は、定着材3とは接触しない。棒状部材51において定着材3が定着しない部分を非定着領域R52と呼ぶ。この非定着領域R52は、定着材3に対して容易に相対的に移動可能である。この移動には、棒状部材51の全体が地山101に対して開口104a側へ動く態様と、非定着領域R52の長さが長くなる(伸びる)態様と、を含む。
【0031】
なお、シース52は、その外周面が平滑であってもよい。例えば、シース52の外周面には、リブといった凹凸構造が設けられていなくてもよい。この場合には、シース52と定着材3との縁が切れやすくなるので、定着材3に対してシース52が相対的に移動しやすくなる。
【0032】
この構成によれば、棒状部材51と定着材3との縁が切れているので、棒状部材51を確実にスライド(移動)又は伸ばすことができる。従って、地山101の大変形を許容することができる。
【0033】
シース52の長さL52は、棒状部材51の長さL51よりも短い。棒状部材51の棒状基端首部511及び棒状先端首部513は、シース52に覆われない。シース52は、棒状部材51において削孔104内に配置された部分を覆う。より詳細には、シース52は、棒状本体部512を覆う。そうすると、シース52の長さL52は、例えば、1.0メートル以上6.0メートル以下程度である。シース52は、棒状部材51の全長における1/1.18程度を覆う。シース52の長さL52と棒状部材51の全長との比率は、実施形態では1/1.2程度であるが、好ましくは3/4であってもよいし、最低1/2であってもよい。
【0034】
シース52のシース先端521には、シール部材53が設けられてもよい。このシール部材53は、シース52の内部に定着材3が浸入することを抑制する。例えは、シール部材53は、棒状部材51に配管接続用のシールテープ等を巻きつけたものとしてもよい。このシール部材53は、棒状部材51とシース52との相対的な移動を妨げない。つまり、シール部材53によって、棒状部材51とシース52とは互いに固定されない。
【0035】
シース基端522は、例えば、定着ユニット4に接触する。ここで、可動軸部5が棒状部材51とシース52との相対的な移動を意図するものである点に注目すれば、シース基端522は、定着ユニット4に対して固定されない。例えば、初期状態においてシース基端522は定着ユニット4に接触していても、定着ユニット4が移動するとシース基端522と定着ユニット4との間には隙間が生じ得る。
【0036】
このシース52によれば、棒状部材51に非定着領域R52が形成されるので、スリーブ部材8が滑った場合に、棒状部材51がシース52の内部を円滑にスライドし、その機能を損なうことなく地山101の大変形に追従できる。また、設計仕様のロックボルトを棒状部材51に利用できるので、ロックボルト2の外径の拡大を抑制できる。その結果、地山101における削孔104の内径を大きくする必要がなくなるので、支保構造1の施工性が向上する。そのうえ、棒状部材51は、汎用品を使用してよいので経済性に優れる。
【0037】
<リング部材>
図2(a)及び図2(c)に示すように、リング部材6は、プレキャスト部材7とシース52との間に配置されている。リング部材6は、スリーブ部材8の移動を阻害する。棒状部材51の棒状先端首部513は、シース先端521から突出し、スリーブ部材8に固定される。リング部材6は、このシース52から突出し、スリーブ部材8に固定されるまでの部分(棒状先端首部513)に配置される。
【0038】
リング部材6は、円筒状の形状であり、リング基端面61と、リング先端面62と、リング貫通孔63と、を有する。リング基端面61は、棒状段差部514に当接する。リング先端面62は、プレキャスト部材7に当接する。リング貫通孔63は、リング基端面61からリング先端面62へ貫通する。リング貫通孔63には、可動軸部5の棒状先端首部513が挿通される。リング貫通孔63の内周面は、棒状先端首部513の外周面に対して固定されていない。従って、ボルトモジュール2Mが開口104a側へ移動するとき、リング部材6はボルトモジュール2Mと共に移動することはなく、その位置を維持することができる。
【0039】
リング部材6は、軸線方向に沿って外径が一定である。リング部材6の外径は、スリーブ部材8の外径より大きい。リング貫通孔63の内径は、棒状部材51の外径よりも大きい。好ましくは、リング貫通孔63の内径は、棒状先端首部513の外径よりも僅かに大きい。一方、リング貫通孔63の内径は、スリーブ部材8の外径よりも小さいことが好ましい。なお、リング部材6は、地山101の変形に対して定着材3に対する相対的な位置を保つことができるものであれば、軸線方向に沿って外径が一定でなく若干のテーパが形成されていてもよい。また、完全な円筒状形状でなくとも外周が八角形等の多角形状に形成されていてもよい。
【0040】
<プレキャスト部材>
プレキャスト部材7は、リング部材6とスリーブ部材8との間に配置されている。スリーブ部材8が開口104a側へ移動するとき、プレキャスト部材7は、スリーブ部材8によって押しつぶされる。プレキャスト部材7は、スリーブ部材8がプレキャスト部材7を押しつぶしながら移動するとき、支保力(第2の抵抗力)を発生する。つまり、プレキャスト部材7によって、支保力を所望の値に制御する。さらに、プレキャスト部材7の長さに応じて、支保力を発揮することが可能な変位の量を設定できる。従って、プレキャスト部材7の長さは、制御したい変位に依存する。このプレキャスト部材7の長さは、スリーブ部材8からリング部材6までの距離ということもできる。例えば、プレキャスト部材7の長さは、100ミリメートルであってもよい。プレキャスト部材7によれば、意図した支保力を意図した長さに渡って発生させることができる。プレキャスト部材7と支保力との関係については、後述する動作の説明欄において詳細に説明する。
【0041】
プレキャスト部材7の形状は、円筒である。プレキャスト部材7の直径は、一例として40ミリメートルである。プレキャスト部材7の外径は、リング部材6の外径と同じであってもよい。プレキャスト部材7の外径は、スリーブ部材8の外径よりも大きくてもよい。プレキャスト部材7は、プレキャスト基端面71とプレキャスト先端面72とプレキャスト貫通穴73とを有する。なお、プレキャスト部材7は、スリーブ部材8がプレキャスト部材7を押しつぶしながら移動するとき、支保力(第2の抵抗力)を発生させることが出来るものであれば、多角筒状であってもよい。
【0042】
プレキャスト基端面71は、リング部材6に向いている。より詳細には、プレキャスト基端面71は、リング先端面62に向いている。初期状態(S10)であるとき、プレキャスト基端面71は、リング先端面62に接触してもよい。プレキャスト先端面72は、スリーブ部材8に向いている。
【0043】
プレキャスト部材7は、筒状を呈する一体の部材であってもよい。また、プレキャスト部材7は、図2(b)に示すように、いわゆる半割れの構成であってもよい。プレキャスト部材7は、2個のプレキャストピース7A、7Bによって構成されている。プレキャストピース7A、7Bは、互いに同じ形状を有する。従って、ひとつの型枠によって、プレキャスト部材7のためのプレキャストピース7A、7Bを容易に製作することができる。プレキャストピース7A、7Bは、それぞれ一対の当接面74、75を有する。一方の当接面74には、凸状部741が設けられている。他方の当接面75には、溝部751が設けられている。一方のプレキャストピース7Aの凸状部741は、他方のプレキャストピース7Bの溝部751にはめ込まれる。その結果、円筒状のプレキャスト部材7を得ることができる。
【0044】
プレキャスト貫通穴73には、円柱部513bが差し込まれている。プレキャスト貫通穴73の直径は、一例として24ミリメートル程度である。円柱部513bは、プレキャスト貫通穴73の内周面に対して固定されていない。従って、ボルトモジュール2Mが開口104a側へ移動するとき、プレキャスト部材7はボルトモジュール2Mと共に移動することはなく、その位置を維持することができる。
【0045】
プレキャスト部材7を構成する材料は、発泡体である。例えば、プレキャスト部材7を構成する材料は、ウレタン系の樹脂材料を発泡させたものであってもよい。つまり、プレキャスト部材7は、気泡を含む。プレキャスト部材7の空隙率は、定着材3の空隙率よりも大きい。換言すると、プレキャスト部材7の密度は、定着材3の密度よりも小さい。また、プレキャスト部材7に求められる変形量は、発生させたい支保力の大きさに依存する。例えば、プレキャスト部材7は、一軸圧縮強度試験を行ったときの最大圧縮強度に到達するまでの変位量が、定着材3が最大圧縮強度に到達するまでの変位量よりも大きいことが望ましい。
【0046】
発泡体により構成されたプレキャスト部材7が潰されるとき、発泡体が含む気泡のような隙間が潰されることによって、プレキャスト部材7の長さが縮む。従って、プレキャスト部材7が潰されたとしても、プレキャスト部材7の内部応力が高まったり、周囲に膨張すると言った現象は生じ難い。例えば、潰されたときに周囲に膨張するような材料を用いると、定着材3の充填率が過多であった場合に、スリーブ部材8に拘束力が作用する可能性がある。つまり、意図したとおりに変位を制御できない可能性がある。従って、潰されたときに周囲に膨張するような材料は、スリーブ部材8の移動が妨げられることがあり得るので、プレキャスト部材7の材料としては好ましくない。潰されたときに周囲に膨張するような材料としては、モルタルが例示できる。逆に、潰されたときに周囲に膨張することがなく、さらに、ある程度の強度を有する材料として、前述したようにウレタンといった発泡系の材料が挙げられる。
【0047】
<スリーブ部材>
地山101が変形したとき、スリーブ部材8は、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在するプレキャスト部材7を押しつぶしつつ方向D1に沿って移動する。
【0048】
スリーブ部材8は、削孔104の奥側において、可動軸部5とネジ定着部材9との間に設けられる。スリーブ部材8は、略円柱状の形状であり、スリーブ基体部80と、基端側テーパ部81と、先端側テーパ部82と、スリーブ貫通穴84と、を有する。スリーブ基体部80は、軸線方向に沿って外径が一定である。スリーブ基体部80は、円柱状の形状をなし、軸線方向に延びる外周面(付着面)を有する。この外周面には、複数のふしであるリッジが設けられており、初期状態(S10)において定着材3が付着している。従って、初期状態(S10)においてスリーブ基体部80の移動と定着材3の移動とは一致する。換言すると、スリーブ基体部80が定着材3に定着している状態では、スリーブ部材8は、定着材3に対して滑らない。一方、地山101の変形が進行すると、スリーブ基体部80と定着材3との間の付着が切れる。従って、この状態では、スリーブ基体部80の移動と定着材3の移動とは一致せず、スリーブ基体部80と定着材3との間に滑りが生じる。
【0049】
基端側テーパ部81及び先端側テーパ部82は、軸線方向に沿って外径が変化する。基端側テーパ部81は、開口104a側に設けられ、スリーブ部材8の基端を含む。従って、基端側テーパ部81は、可動軸部5と連結される。先端側テーパ部82は、削孔104の奥側に設けられ、スリーブ部材8の先端を含む。従って、先端側テーパ部82は、ネジ定着部材9と連結される。スリーブ基体部80の外径は、ネジ定着部材9の外径よりも大きい。基端側テーパ部81及び先端側テーパ部82のそれぞれにおいて、最大の外径は、スリーブ基体部80の外径と一致する。
【0050】
軸線方向に沿ったスリーブ基体部80の長さL80は、例えば、ロックボルト2の全長(長さL2)に対して0.01以上0.25以下(0.01≦(L80/L2)≦0.25)であってもよい。好ましくは、長さL80が、長さL2に対して0.025以上0.1以下(0.025≦(L80/L2)≦0.1)であってもよい。
【0051】
スリーブ貫通穴84は、基端側テーパ部81から先端側テーパ部82に至る。スリーブ貫通穴84の内周面には、雌ネジ部841が形成されている。
【0052】
基端側テーパ部81側の開口からは、可動軸部5の棒状先端首部513に設けられた雄ネジ部513aがネジ込まれる。スリーブ部材8へネジ込む棒状先端首部513の長さを調整することによって、スリーブ部材8から棒状段差部514までの距離を調整することができる。例えば、棒状先端首部513にリング部材6を差し込み、その後にプレキャスト部材7を差し込む。そしてプレキャスト部材7から突出している棒状先端首部513の雄ネジ部513aにスリーブ部材8を取り付ける。スリーブ部材8を回転させると、スリーブ部材8は、棒状段差部514に近づいていく。その結果、リング部材6が棒状段差部514に当接し、リング部材6にプレキャスト部材7が当接し、プレキャスト部材7にスリーブ部材8が当接した状態を形成することができる。この構成によれば、プレキャスト部材7による支保力(第2の抵抗力)を発生させる変位を容易に規定することができる。
【0053】
先端側テーパ部82側の開口からは、ネジ定着部材9に設けられた雄ネジ部513aがねじ込まれる。後述するように、先端側テーパ部82から突出した雄ネジ部513aは、定着材3との定着力を発揮する。定着力は、突出した雄ネジ部513aの長さに応じるから、スリーブ部材8へネジ込む長さを調整することによって、ネジ定着部材9が発揮する定着力を調整することができる。
【0054】
<ネジ定着部材>
ネジ定着部材9は、ロックボルト2において削孔104の最も奥側に配置される。ネジ定着部材9は、円柱状の形状を呈し、スリーブ部材8に連結される。ネジ定着部材9の軸線は、スリーブ部材8の軸線に重複する。ネジ定着部材9は、その外周面に設けられた雄ネジを有する。この雄ネジは、定着材3との定着力を発揮する。
【0055】
ネジ定着部材9の長さL9は、5センチメートル以上30センチメートル以下であり、一例として20センチメートルである。つまり、ネジ定着部材9の長さL9は、スリーブ部材8の長さL8と略同等としてよい。また、ネジ定着部材9の長さL9は、棒状部材51の長さL51よりも短い。例えば、ネジ定着部材9の長さL9は、棒状部材51の長さL51の1/11程度としてよい。さらに、例えば、ロックボルト2の全長(長さL2)に対してネジ定着部材の長さL9は、0.008以上0.10以下(0.008≦(L9/L2)≦0.10)であってもよい。好ましくは、0.017以上0.05以下(0.017≦(L9/L2)≦0.05)であってもよい。
【0056】
ネジ定着部材9の外径は、2センチメートル以上4センチメートル以下であり、一例として、2.4センチメートルである。つまり、ネジ定着部材9の外径は、スリーブ部材8の外径よりも小さい。例えば、ネジ定着部材9の外径は、スリーブ部材8の外径の1/1.15~1/1.5であり、一例として1/1.3程度としてよい。また、ネジ定着部材9の外径は、可動軸部5における棒状部材51の外径と略同等としてよい。
【0057】
<支保構造の施工方法>
次に、支保構造1を施工する方法について説明する。
【0058】
まず、ロックボルト2を準備する(S10:図2(a)参照)。ロックボルト2の製造は、任意の工程で実施してよい。例えば、異形棒鋼を準備する。次に、異形棒鋼の一方の端部に、棒状基端首部511を設けると共に、他方の端部に棒状先端首部513を設ける。その結果、棒状部材51を得る。次に、棒状部材51をシース52に挿入する。次に、シース基端522にシール部材53を設ける。次に、棒状先端首部513にリング部材6を取り付けた後にプレキャスト部材7を取り付ける。次に、棒状先端首部513の雄ネジ部513aにスリーブ部材8を取り付ける。そして、スリーブ部材8にネジ定着部材9を取り付ける。そして、棒状基端首部511に定着ユニット4を取り付ける。
【0059】
続いて、地山101にトンネル102を設ける。次に、トンネル102の掘削面にコンクリート壁103を設ける。次に、削岩機などを用いて、コンクリート壁103から地山101に延びる複数の削孔104を設ける(S11:図3(a)参照)。次に、モルタル等の定着材3を準備し、ポンプなどを用いて定着材を削孔104に充填する(S12:図3(b)参照)。そして、当該定着材3に対してロックボルト2を埋め込む(S21:図3(c)参照))。以上の工程により、支保構造1を得ることができる。
【0060】
<ロックボルトの状態とロックボルトの支保力との関係>
以下、地山101の変位に応じたロックボルト2の状態と、ロックボルト2の支保力(支保工作用圧)との関係について、図3図4及び図5を参照しつつ説明する。図3及び図4は、地山の変位に応じたロックボルト2の状態を概略的に示す図である。図5はロックボルト2の変位と支保力との関係を概略的に示すグラフである。図5の横軸は地山101の変位を示し、縦軸はロックボルト2が奏する支保力を示す。支保力は、ロックボルト2に作用する力への反力であるとも言えるので、縦軸はロックボルト2へ作用する力として見てもよい。
【0061】
図5において、グラフG5Aは実施形態のロックボルト2の特性を示す。また、グラフG5Bは比較例に係るロックボルトの特性を示す。
【0062】
図3の(c)部は、ロックボルト2の初期状態(S21)を示す。初期状態(S21)では、地山101の変位はゼロであり、ロックボルト2の支保力もゼロである。
【0063】
図4の(a)部は、初期状態(S21)から地山101が長さV22だけ変位した第2状態(S22)を示す。図4の(a)部において、仮想線K21は、初期状態(S21)における地山101の表面101cを示す。第2状態(S22)では、ロックボルト2は、ネジ定着部材9、スリーブ部材8及びシース52が定着材3に定着している。一方、棒状本体部512は定着材3に定着していない。
【0064】
第2状態(S22)であるとき、地山101の変位に伴って定着ユニット4が方向D1に移動する。そうすると、ロックボルト2において、ネジ定着部材9がアンカーとなる。従って、ネジ定着部材9及びスリーブ部材8を含むボルトモジュール2Mの移動は生じない。一方、地山101の変位(V22)は、棒状本体部512に伸び(T22)をもたらす。地山101の変位(V22)が大きいほど、棒状本体部512に作用する力も大きくなり、当該力に対抗する。その結果、棒状本体部512が発生する反力(支保力)も大きくなる(グラフG5Aの初期抵抗区間G5a参照)。棒状本体部512の支保力は、棒状本体部512の弾性係数(ヤング率)及び棒状本体部512の断面積に基づくフックの法則により示すことができる。この状態において、ロックボルト2には地山101の変位に応じた力が作用するが、棒状本体部512の伸び(T22)によって応力は低減される。
【0065】
ここで、ネジ定着部材9が定着材3に定着している状態であるとき、地山101の変形(V22)に伴って棒状本体部512が引っ張られるように変形する(T22)。従って、棒状本体部512の伸び(T22)に応じて地山101の変形(V22)が許容される。この棒状本体部512の伸び(T22)は、地山101の変形(V22)に伴って棒状本体部512に作用する応力を緩和する。その結果、ロックボルト2は支保機能を喪失することがない。つまり、ロックボルト2は地山101を支保し続けることができる。そして、棒状本体部512は、シース52によって形成された非定着領域R52によって、定着材3に対して確実に滑ることが可能である。その結果、ネジ定着部材9が地山101に対する固定点(アンカー)となる。従って、棒状本体部512は、地山101の変形(V22)に応じて確実に伸びることができる(T22)。
【0066】
そして、グラフG5Aにおける点P2の付近において、ネジ定着部材9の付着状態が切れるとする。ネジ定着部材9の定着力は、その外周面に形成された雄ネジの形状などによる。従って、雄ネジが形成されていないスリーブ部材8の定着力は、ネジ定着部材9の定着力よりも低い。そうすると、ネジ定着部材9の付着状態が切れたとき、スリーブ部材8の定着は、すでに切れていると想定することが妥当である。
【0067】
図4の(b)部は、地山101がさらに長さV23だけ変位した第3状態(S23)を示す。図4の(b)部において、仮想線K22は、第2状態(S22)における地山101の表面101cを示す。第3状態(S23)では、上述したようにネジ定着部材9及びスリーブ部材8における定着は切れており、プレキャスト部材7、リング部材6及びシース52が定着材3に定着しているだけである。第3状態(S23)において、地山101の変位に伴って定着ユニット4が方向D1に移動する。
【0068】
そうすると、ネジ定着部材9、スリーブ部材8及び棒状本体部512を含むボルトモジュール2Mは、地山101の変位(V23)に伴って開口104a側へ滑る。つまり、ボルトモジュール2Mは、定着材3に対して相対的に移動する。図4の(b)部では、これらの移動を代表して定着ユニット4の移動(T23)として示す。つまり、第2状態(S22)から第3状態(S23)へは、ネジ定着部材9、スリーブ部材8及び棒状本体部512に実質的な伸びが生じることなく、これらが方向D1に向かって一様に移動する。この移動(T23)に際し、ロックボルト2は、初期状態(S21)から第2状態(S22)へ移行するまでの支保力(第1の抵抗力)の態様(初期抵抗区間G5a)とは異なる態様(変位制御区間G5b)の支保力(第2の抵抗力)を発揮する。
【0069】
上述したように、スリーブ部材8は、プレキャスト部材7を押しつぶす或いはプレキャスト部材7を押し退けつつ削孔104の開口104aの方向に移動する。つまり、スリーブ部材8は、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在するプレキャスト部材7に妨げられながら、方向D1に沿って移動する。従って、支保力は、軸方向に直交する仮想面への基端側テーパ部81(図3参照)の投影面積、基端側テーパ部81の角度、プレキャスト部材7の材料特性などにより制御できる。第2状態(S22)から第3状態(S23)へ移行する間の変位と支保力との関係は、グラフG5Aにおける変位制御区間G5bに示す。変位制御区間G5bの傾きは、初期抵抗区間G5aにおける傾きよりも小さい。
【0070】
ここで、比較例としてプレキャスト部材7を備えないロックボルトを例示し、その挙動を検討する。比較例のロックボルトは、プレキャスト部材7を備えていない点のみが、実施形態のロックボルト2と相違するものとする。比較例のロックボルトでは、基端側首部の円柱部は、プレキャスト部材ではなく、定着材に覆われることになる。そうすると、第2状態(S22)から第3状態(S23)に移行するとき、比較例のロックボルトでは、スリーブ部材が定着材を押しつぶしながら削孔104の開口104aの方向に移動する。
【0071】
この場合において、注目すべきは、スリーブ部材とリング部材との間に存在する定着材の性状である。仮に、定着材がモルタルである場合には、一定の施工手順に従った場合であっても、定着材の最終的な性状にばらつきが生じる。このばらつきは、例えば、削孔104が設けられた地山101の影響に起因することがあり得る。
【0072】
例えば、モルタルの充填度合いが不足することがある。モルタルの充填度合いが不足するとき、スリーブ部材8の移動を過度に妨げることはない。従って、地山101の変形は許容できる。しかし、充填度合いが不足するモルタルを押しつぶす場合には、十分な反力が得られないことになる。従って、支保力が想定した大きさより小さくなることがあり得る。
【0073】
例えば、モルタルの充填度合いが過多となることがある。モルタルの充填度合いが過多であるとき、スリーブ部材8の移動が過度に妨げられる。換言すると、モルタルを押しつぶすために大きな力が作用するので、その力に応じて生じる反力も大きくなる。従って、支保力が想定した大きさより大きくなることがあり得る。つまり、所望の支保力は、確保できる。しかし、所望の許容変位(T22+T23+T24)に達する前に、破断強度(F3)に達してしまうので、所望の許容変位を確保することができない。
【0074】
このように、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在する部材は、支保力と許容変位に大きな影響を及ぼす。従って、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在する部材の性状を一定のものとすることが重要となる。性状を一定のものとするとは、複数の支保構造1を施工した場合において、支保構造1ごとに、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在する部材の性状のばらつきが小さいことを意味する。
【0075】
例えば、定着材3としてモルタルを採用する場合には、モルタルの充填量を適切に管理することで、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在するモルタルの性状のばらつきを抑制する可能性はある。しかし、モルタルの充填量を確実に管理することは一般に困難である。
【0076】
モルタルの強度が高すぎる(25~30N/mm)と、スリーブ部材8の移動(第2状態S22から第3状態S23)することが困難になる。そこで、そもそもの強度が低い特殊な低強度モルタルを利用することも考えられる。しかし、この場合には、スリーブ部材8の移動は許容されるものの、所望の支保力を発揮できない可能性があった。
【0077】
そこで、実施形態のロックボルト2は、スリーブ部材8とリング部材6との間に存在するプレキャスト部材7を備えている。つまり、実施形態のロックボルト2は、スリーブ部材8とリング部材6との間に定着材3(モルタル)とは別のプレキャスト部材7を設置する。プレキャスト部材7は、工場などにおいて製造されるので、その性状のばらつきは、削孔104に形成される定着材3の性状のばらつきよりも小さい。従って、複数の支保構造1を施工した場合であっても、グラフG5Aの変位制御区間G5bに示すような特性を確実に発揮させることができる。
【0078】
別の視点として、実施形態に係るロックボルト2では、スリーブ部材8が、地山101の変形に伴って、削孔104の開口104aの方向に移動する。従って、地山101の変形に伴ってロックボルト2に作用する応力が、ロックボルト2の移動によって緩和される。そうすると、ロックボルト2の支保工としての機能を喪失させるような応力の発生が抑制され、地山101のより大きな変形を許容できる。そして、棒状本体部512には、シース52に覆われた部分に非定着領域R52が形成されており、この非定着領域R52では、棒状本体部512が定着材3に定着していないので、定着材3との間で抵抗力が生じない。その結果、スリーブ部材8の移動を妨げないように、棒状本体部512を定着材3に対して確実に滑らせることが可能になる。従って、ロックボルト2は、支保工としての機能を喪失することなく、地山101の変形をさらに許容できる。従って、地山101の大きな変形にも確実に追従できる。
【0079】
図4の(c)部は、地山101がさらに長さV24だけ変位した第4状態(S24)を示す。図4の(c)部において、仮想線K23は、第3状態(S23)における地山101の表面101cを示す。第4状態(S24)では、スリーブ部材8がつぶされたプレキャスト部材7を介してリング部材6を押圧している。第4状態(S24)において、地山101の変位に伴って定着ユニット4が方向D1に移動すると、リング部材6がスリーブ部材8の移動を妨げる。従って、スリーブ部材8及びリング部材6がアンカーとなる。従って、スリーブ部材8を含むボルトモジュール2Mの方向D1へ沿う移動は、実質的に生じないと仮定できる。その結果、地山101の変位に起因する力は、再び棒状本体部512に伸び(E2)をもたらす。つまり、地山101の変位(V24)が大きいほど、棒状本体部512に作用する力も大きくなり、当該力に対抗するので、棒状本体部512が奏する反力(支保力)も大きくなる(グラフG5Aの最終抵抗区間G5c参照)。
【0080】
なお、第3状態(S23)から第4状態(S24)へ移行する際の支保力は、リング部材6の抵抗力を考慮してもよい。上記の説明では、地山101の変位に応じてスリーブ部材8及びリング部材6は移動しないものとした。しかし、リング部材6の形状や定着材3の材料特性によっては、地山101の変位に応じてリング部材6も開口104a側に移動する場合もあり得る。その場合には、抵抗力は、リング部材6が定着材3の抵抗力に逆らって移動するときに生じる力と、上記の棒状本体部512における力との合力であるとしてもよい。そして、支保力が力(F3)に達したとき、ロックボルト2はその支保機能を喪失するとする。
【0081】
そうすると、実施形態に係るロックボルト2は、地山101の変位(T22+T23+T24)において力(F3)までの支保力を奏することができる。
【0082】
<作用効果>
ロックボルト2は、定着材3が充填される削孔104が設けられた地山101の支保構造1のためのものである。ロックボルト2は、削孔104に配置された所定方向に延在する棒体であり、地山101の変形に伴って定着材3に対して移動し、又は、地山101の変形に伴って伸びる棒状部材51と、棒状部材51より大きな外径を有し、棒状部材51の基端に固定されると共に定着材3が付着するスリーブ基体部80を含み、地山101の変形に対して第1の抵抗力を発生するスリーブ部材8と、棒状部材51の外径よりも大きい内径であって棒状部材51が挿通するリング貫通孔63を有し、スリーブ部材8から削孔104の開口側に所定距離だけ離間する位置に配置されて、地山101の変形に対して定着材3に対する相対的な位置を保つリング部材6と、スリーブ部材8とリング部材6との間に配置されて、スリーブ部材8に対面する基端面を含むプレキャスト部材7と、を備える。スリーブ部材8が地山101の変形に伴って削孔104の開口に向かって移動するときに、スリーブ部材8がプレキャスト部材7を押圧することによって、プレキャスト部材7が押しつぶされて第1の抵抗力とは異なる第2の抵抗力が発生する。
【0083】
実施形態の支保構造1は、地山101に形成された削孔104に充填される定着材3と、削孔104に配置された上述のロックボルト2と、を備える。
【0084】
実施形態の支保構造1を設ける方法は、上述のロックボルト2を準備する工程S10と、定着材3を削孔104に充填した後に、ロックボルト2を削孔104に配置する工程S21と、を有する。
【0085】
上述のロックボルト2、支保構造1及び支保構造1を設ける方法は、スリーブ部材8とリング部材6との間に配置されたプレキャスト部材7を有する。第2の抵抗力は、プレキャスト部材7がスリーブ部材8によって押しつぶされることによって発生するから、第2の抵抗力はプレキャスト部材7の性状の影響を受ける。このプレキャスト部材7は、支保構造1の部品として備えられるものである。そうすると、複数の支保構造1を施工するときに、支保構造1ごとに現場で施工される定着材3の性状のばらつきと比べて、支保構造1ごとのプレキャスト部材7の性状のばらつきを抑制することができる。その結果、支保構造1ごとに発生する第2の抵抗力のばらつきも抑制されるから、第2の抵抗力に応じるロックボルト2の変位のばらつきも抑制される。その結果、ロックボルト2に所望の変位を生じさせることができるので、ロックボルト2の変位制御区間G5bの品質を高めることができる。
【0086】
さらに、プレキャスト部材7を備えることによって、定着材3の材料を選択するときにスリーブ部材8の移動のしやすさを考慮する必要がない。つまり、定着材3の充填量が不十分となることがない。その結果、支保構造1は、変位制御区間G5bであるときに、適切に荷重を担保しながら、設定した変位を吸収することができる。支保構造1が発揮する支保力が、定着材3の充填量に左右されることがなくなるので、ロックボルト2の変位のばらつきも抑制される。従って、現場での施工品質が向上する。
【0087】
そのうえ、プレキャスト部材7がつぶれるときに周囲に膨張することがないので、定着材3の充填量が過多であっても、周囲からの拘束の高まりを抑制することができる。その結果、荷重を担保しながら、適切な変位を制御することができる。
【0088】
また、プレキャスト部材7を備えることにより、定着材3の材料として特殊な材料(低強度モルタル)を使用しなくても、所望の変位を生じさせることが可能である。つまり、定着材3として一般的に用いられているロックボルト用充填モルタルを使用することもできる。一般的に用いられているモルタルを使用することによって、施工性が向上すると共に定着材3のコストも低下させることができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【符号の説明】
【0090】
1…支保構造、2…ロックボルト、3…定着材、6…リング部材、7…プレキャスト部材(筒状部材)、8…スリーブ部材、51…棒状部材、101…地山、104…削孔(地山孔)。
図1
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図3
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図5