(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106054
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】積層フィルムのはく離起点の形成方法、及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 41/00 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B65H41/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010126
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗本 順二
【テーマコード(参考)】
3F108
【Fターム(参考)】
3F108JA02
(57)【要約】
【課題】 第1層を第2層からはく離するためのはく離起点を簡単に形成できるようにする。
【解決手段】 第1層11と第2層12とを有する積層フィルム1Bの、前記第1層11と前記第2層12の間にはく離起点を形成する方法であって、軸部材6を前記第1層11の厚み方向に進入させた後、前記軸部材6を回転させ、前記軸部材6によって前記第1層11の一部分に前記軸部材6の回転方向の圧縮力を付加することにより、前記第1層11の一部分が前記第2層12から浮き上がったはく離起点111を形成する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と第2層とを有する積層フィルムの、前記第1層と前記第2層の間にはく離起点を形成する方法であって、
軸部材を前記第1層の厚み方向に進入させた後、前記軸部材を回転させ、前記軸部材によって前記第1層の一部分に前記軸部材の回転方向の圧縮力を付加することにより、前記第1層の一部分が前記第2層から浮き上がったはく離起点を形成する、積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項2】
前記軸部材が、鋭利な刃先縁を有する刃先部と、前記刃先部に形成された溝部と、を有し、前記溝部が、凹状の面によって画成されており、
前記軸部材の刃先部を前記第1層の厚み方向に進入させて前記溝部に第1層の一部分を食い込ませた後、前記軸部材を軸芯周りに回転させることにより、前記第1層の前記溝部に食い込んだ部分に対して前記軸部材の回転方向の圧縮力を付加する、請求項1に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項3】
前記溝部が、前記軸部材の軸芯に対して傾斜しつつ軸芯方向に延在されている、請求項2に記載の積層フィルムのはく離方法。
【請求項4】
前記溝部の、前記軸部材の軸芯に対する傾斜角度が、10度以上80度以下である、請求項3に記載の積層フィルムのはく離方法。
【請求項5】
前記溝部を画成する面の下縁が、鋭利であり、前記刃先縁に連続して形成されている、請求項2に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項6】
前記溝部が、前記軸部材の刃先部側から見て、前記軸部材の軸芯周りに少なくとも2箇所形成され、
第1溝部を画成する下縁と第2溝部を画成する下縁が、いずれも鋭利であり、前記刃先縁に連続して形成されている、請求項2に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項7】
前記第1溝部の下縁と第2溝部の下縁が、いずれも前記軸部材の軸芯に対して鋭角に傾斜されており、前記第1溝部の下縁と第2溝部の下縁との成す角度が、30度以上150度以下である、請求項6に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項8】
前記第1層を貫通するまで、前記軸部材の刃先部を前記第1層に進入させる、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項9】
前記第1層と第2層が、直接的に接合されている、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項10】
前記第1層の厚みが、20μm以上であり、前記第2層の厚みが、10μm以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層フィルムのはく離起点の形成方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のはく離起点の形成方法によってはく離起点を形成した後、前記第1層を第2層からはく離することによって光学フィルムを作製する、光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムから一部の層をはく離する際の起点となる、はく離起点を形成する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2種以上の層が接合された積層フィルムが存在する。積層フィルムは、そのまま使用される場合もあれば、任意の層間ではく離して使用される場合もある。
例えば、特許文献1には、次のような事項が開示されている。熱可塑性樹脂フィルムの片面にポリビニルアルコール系樹脂を塗工し、乾燥させてポリビニルアルコール系樹脂層を形成した後、延伸してポリビニルアルコール系樹脂層を透明皮膜素子層とする。前記熱可塑性樹脂フィルム層と透明皮膜素子層との二層からなる積層フィルムの、前記透明皮膜素子層側に光学透明樹脂フィルム層を接着剤を用いて貼り合せた後、前記熱可塑性樹脂フィルム層を剥離除去する。さらに、前記透明皮膜素子層を染色固定して偏光素子層とする。
このような方法によれば、非常に薄い偏光素子層を形成できるという利点がある。
しかしながら、ポリビニルアルコール系樹脂を熱可塑性樹脂フィルム層に塗工して形成されるポリビニルアルコール系樹脂層は、当該熱可塑性樹脂フィルム層に比較的強固に密着しているため、熱可塑性樹脂フィルム層をポリビニルアルコール系樹脂層(透明被膜素子層)から容易にはく離することができない。
【0003】
この点、例えば、特許文献2には、保護フィルムと絶縁層を有する積層フィルムの、前記保護フィルムの端部にロッドを押し付け、これを移動させることにより、保護フィルムに浮きを形成し(きっかけ工程)、浮きが入った部分に粘着テープを用いて捲ることにより、浮きが入った部分を絶縁層から引き起こし、保護フィルムの端部にはく離きっかけ部を形成する(起こし工程)ことが開示されている。
また、特許文献3には、セパレータで被覆された接着剤層を有する接着性シートの前記セパレータの端部に吸着パッドを吸着させ、さらに前記セパレータにニードルを突き刺し、ニードルを上方に引き上げることにより、吸着パットの吸着力とニードルの引き上げ力によって、セパレータの端部にはく離きっかけ部を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4279944号公報
【特許文献2】特開2021-104889号公報
【特許文献3】特開2011-131954号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献2及び3の方法では、はく離きっかけ部(はく離起点と同義)を形成するために、2つの工程(特許文献2では、ロッドの押し付け移動と粘着テープによる捲りという2つの工程。特許文献3では、吸着パッドによる吸着と突き刺したニードルの引き起こしという2つの工程。)が必要である。このため、これらの方法を実施する装置が複雑な構造となる。
また、特許文献3のように、セパレータにはく離起点を形成することは比較的容易である(セパレータは、剥離剤の塗布などのはく離処理が施されているため)。しかしながら、例えば、特許文献1のように、透明被膜素子層が熱可塑性樹脂フィルム層に直接的に接合されている場合、両層が比較的強固に密着している。このため、特許文献1及び2の方法では、透明被膜素子層にはく離起点を形成することができないおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、第1層を第2層からはく離するためのはく離起点を簡単に形成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、第1層と第2層とを有する積層フィルムの、前記第1層と前記第2層の間にはく離起点を形成する方法であって、軸部材を前記第1層の厚み方向に進入させた後、前記軸部材を回転させ、前記軸部材によって前記第1層の一部分に前記軸部材の回転方向の圧縮力を付加することにより、前記第1層の一部分が前記第2層から浮き上がったはく離起点を形成する。
【0008】
本発明の第2の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1の形成方法において、前記軸部材が、鋭利な刃先縁を有する刃先部と、前記刃先部に形成された溝部と、を有し、前記溝部が、凹状の面によって画成されており、前記軸部材の刃先部を前記第1層の厚み方向に進入させて前記溝部に第1層の一部分を食い込ませた後、前記軸部材を軸芯周りに回転させることにより、前記第1層の前記溝部に食い込んだ部分に対して前記軸部材の回転方向の圧縮力を付加する。
【0009】
本発明の第3の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1又は第2の形成方法において、前記溝部が、前記軸部材の軸芯に対して傾斜しつつ軸芯方向に延在されている。
本発明の第4の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第3の形成方法において、前記溝部の、前記軸部材の軸芯に対する傾斜角度が、10度以上80度以下である。
本発明の第5の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1乃至第4のいずれかの形成方法において、前記溝部を画成する面の下縁が、鋭利であり、前記刃先縁に連続して形成されている。
【0010】
本発明の第6の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1乃至第5のいずれかの形成方法において、前記溝部が、前記軸部材の刃先部側から見て、前記軸部材の軸芯周りに少なくとも2箇所形成され、第1溝部を画成する下縁と第2溝部を画成する下縁が、いずれも鋭利であり、前記刃先縁に連続して形成されている。
本発明の第7の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第6の形成方法において、前記第1溝部の下縁と第2溝部の下縁が、いずれも前記軸部材の軸芯に対して鋭角に傾斜されており、前記第1溝部の下縁と第2溝部の下縁との成す角度が、30度以上150度以下である。
本発明の第8の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1乃至第7のいずれかの形成方法において、前記第1層を貫通するまで、前記軸部材の刃先部を前記第1層に進入させる。
本発明の第9の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1乃至第8のいずれかの形成方法において、前記第1層と第2層が、直接的に接合されている。
本発明の第10の態様に係る積層フィルムのはく離起点の形成方法は、前記第1乃至第9のいずれかの形成方法において、前記第1層の厚みが、20μm以上であり、前記第2層の厚みが、10μm以下である。
【0011】
本発明の別の局面によれば、光学フィルムの製造方法を提供する。
本発明の光学フィルムの製造方法は、前記第1乃至第9のいずれかに記載の形成方法によってはく離起点を形成した後、前記第1層を第2層からはく離することにより、光学フィルムを作製する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のはく離起点の形成方法によれば、第1層の一部分を第2層から浮き上がらせ、簡単にはく離起点を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】積層フィルムの1つの層構成例を示す概略側面図。
【
図2】積層フィルムの他の層構成例を示す概略側面図。
【
図3】積層フィルムの更なる他の層構成例を示す概略側面図。
【
図4】積層フィルムの更なる他の層構成例を示す概略側面図。
【
図5】積層フィルムの作製方法の一例を示す概略側面図。
【
図6】はく離起点の形成装置の一例を示す概略側面図。
【
図7】(a)は、軸部材の側面図、(b)は、軸部材の刃先部の正面図、(c)は、
図7のVIIc-VIIc線で切断した端面図。
【
図8】(a)は、
図7とは異なる方向から軸部材の刃先部を見たときの拡大側面図(ただし、軸部材の棒状部を省略)、(b)は、その向きから見た刃先部の拡大正面図。
【
図9】(a)は、
図7及び
図8とは異なる方向から軸部材の刃先部を見たときの拡大側面図(ただし、軸部材の棒状部を省略)、(b)は、その向きから見た刃先部の拡大正面図。
【
図10】積層フィルムに軸部材の刃先部を進入させたときの状態の平面図。
【
図12】軸部材を回転させて、はく離起点が形成された状態を表した拡大断面図。
【
図14】更なる変形例に係る軸部材の刃先部の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「下方」又は「下」は、軸部材の刃先部を積層フィルムに進入させる状態を基準にして、積層フィルムに近い側を指し、「上方」又は「上」は、その反対側を指す。
本明細書において、「略」という表現は、本発明の技術分野で許容される範囲を含むことを意味する。さらに、本明細書において、「下限値X以上上限値Y以下」で表される数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値以上任意の上限値以下」を設定できるものとする。
各図は、参考的に表したものであり、各図に表された層などの寸法、縮尺及び形状は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。
【0015】
[積層フィルム]
積層フィルムは、はく離対象となるフィルムであり、第1層と第2層とを有する。前記第1層と第2層は、はく離可能な程度のはく離強度で接合されている。
本発明は、積層フィルムの第1層を第2層からはく離する際のきっかけとなる、はく離起点を形成する。はく離起点は、第1層が第2層から離れた部分をいう。そのはく離起点から第1層を捲ることによって、第1層を第2層から容易にはく離できる。
積層フィルムは、はく離可能に接合された前記第1層と第2層を有し、必要に応じて、さらに、別の層を有していてもよく、或いは、別の層を有していなくてもよい。
前記第1層、第2層及び別の層などの積層フィルムを構成する各層の厚みは、特に限定されず、各層の機能や材質などに応じて適宜設定される。例えば、前記各層の厚みは、それぞれ独立して、1μm以上300μm以下である。
また、積層フィルムの厚みは、各層の厚みの総計であり、例えば、20μm以上2mm以下である。
【0016】
図1乃至
図4は、積層フィルムの層構成の幾つかの例である。
図1の積層フィルム1は、紙面上側から順に、第1層11と、第2層12と、からなる。第1層11と第2層12は、厚み方向に直接的に重ねられ且つはく離可能な状態で接合されている(以下、同様)。なお、本明細書において、はく離可能な状態は、2つの層間に関して、一方の層を手で捲れば、はく離できる程度のはく離強度で接合されていることをいい、はく離困難な状態は、2つの層間に関して、一方の層を手で捲ろうとしても捲れない又は捲ることが非常に困難なはく離強度で接合されていることをいう。
【0017】
図2の積層フィルム1は、紙面上側から順に、第1層11と、第2層12と、さらに、別の層として第3層13と、を有する。第2層12と第3層13は、厚み方向に直接的に重ねられて接合されている。第2層12と第3層13は、はく離困難な状態で接合されていてもよく、或いは、はく離可能な状態で接合されていてもよい(以下、同様)。第2層12と第3層13がはく離可能な状態で接合されている場合、第1層11と第2層12のはく離強度<第2層12と第3層13のはく離強度、の関係を満たしていることが好ましい(以下、同様)。
【0018】
図3の積層フィルム1は、紙面上側から順に、第1層11と、第2層12と、さらに、別の層として第3層13と、第4層14と、第5層15と、を有する。第3層13と第4層14と第5層15は、厚み方向に直接的に重ねられて接合されている。第3層13と第4層14は、はく離困難な状態で接合されていてもよく、或いは、はく離可能な状態で接合されていてもよい(以下、同様)。第4層14と第5層15は、はく離困難な状態で接合されていてもよく、或いは、はく離可能な状態で接合されていてもよい(以下、同様)。第3層13と第4層14、及び、第4層14と第5層15がそれぞれはく離可能な状態で接合されている場合、第1層11と第2層12のはく離強度<第3層13と第4層14のはく離強度、の関係を満たしていることが好ましく、第1層11と第2層12のはく離強度<第4層14と第5層15のはく離強度、の関係を満たしていることが好ましい(以下、同様)。
【0019】
図4の積層フィルム1は、紙面上側から順に、第1層11と、第2層12と、さらに、別の層として第3層13と、第4層14と、第5層15と、第6層16と、を有する。第3層13と第4層14と第5層15と第6層16は、厚み方向に直接的に重ねられて接合されている。第5層15と第6層16は、はく離困難な状態で接合されていてもよく、或いは、はく離可能な状態で接合されていてもよい。第5層15と第6層16がはく離可能な状態で接合されている場合、第1層11と第2層12のはく離強度<第5層15と第6層16のはく離強度、の関係を満たしていることが好ましい。
なお、
図1乃至
図4の層構成では、第1層11の表面が積層フィルム1の表面を成しているが、第1層11の表面に別の層が重ねられて接合されていてもよい。
【0020】
第1層11及び第2層12の材質は、特に限定されない。機能的な観点で分類すれば、第1層11及び第2層12は、それぞれ独立して、例えば、光学機能層などの光学層;はく離ライナーなどの光学層以外の層;粘着剤層;接着剤層;などが挙げられる。第1層11及び第2層12の厚みも、上述のように特に限定されない。第1層11は、第2層12から剥がす際に材料破壊を起こさない程度の厚み及び材質の層であることが好ましい。例えば、第1層11の厚みは、20μm以上であり、好ましくは、40μm以上である。第1層11の厚みの上限は、特にないが、例えば、100μm以下である。材質の観点では、第1層11は、例えば、樹脂フィルムであることが好ましい。第2層12は、厚みが非常に小さくてもよく、或いは、比較的厚みが大きいものでもよい。特に、本発明の方法では、非常に厚みの小さい第2層12に接合されている第1層11を、第2層12の材料破壊を生じさせることなく、第2層12からはく離できる。このような第2層12の厚みは、例えば、20μm以下であり、好ましくは、10μm以下である。第2層12の厚みの下限は、理論上零を超える。現実的な数値では、第2層12の厚みは、1μm以上である。また、材質の観点では、前記のような厚みの小さい第2層12としては、樹脂又は/及び液晶ポリマーを含むコーティング層などを例示できる。
なお、第1層11は、単層であってもよく、異なる材料から構成される2種以上の層からなる複層であってもよい。第1層11が複層である場合、その複層を構成する2種以上の層は、はく離困難な状態で強固に接合されている。
【0021】
別の層(図示例では、第3層13乃至第6層16)の材質についても、特に限定されない。機能的な観点で分類すれば、別の層(図示例では、第3層13乃至第6層16)としては、それぞれ独立して、例えば、光学機能層や表面保護層などの光学層;はく離ライナーなどの光学層以外の層;粘着剤層;接着剤層;などが挙げられる。前記別の層の厚みも、上述のように特に限定されない。
【0022】
前記光学層は、例えば、光学機能層、表面保護層などが含まれる。前記光学機能層としては、偏光素子層、位相差層、反射防止層、光拡散層、輝度向上層、光反射層などが挙げられる。前記偏光素子層は、特定の1つの方向に振動する光(偏光)を透過し、それ以外の方向に振動する光を遮断する性質を有する。偏光素子層としては、代表的には、ヨウ素などの二色性物質で染色したポリビニルアルコール系樹脂層(又はポリビニルアルコール系樹脂フィルム)などが挙げられる。位相差層は、光学異方性を有し、代表的には、例えば、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂などの延伸フィルム;液晶性ポリマーを含む層;などが挙げられる。
【0023】
前記表面保護層としては、例えば略等方性の無色透明なフィルムなどが挙げられる。前記略等方性の無色透明なフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレンなどのスチレン系樹脂;ポリエチレン、環状若しくはノルボルネン構造を有するポリオレフィンなどのオレフィン系樹脂;塩化ビニル系樹脂;ナイロン6などのアミド系樹脂;イミド系樹脂;スルホン系樹脂;ビニルアルコール系樹脂;塩化ビニリデン系樹脂;ビニルブチラール系樹脂;アリレート系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;などを主たる樹脂成分とする樹脂フィルムを用いることができる。
【0024】
前記はく離ライナーは、粘着剤層の粘着力を隠蔽するためのフィルムである。はく離ライナーは、粘着剤層に対するはく離性を有し、通常、使用時に剥離される。はく離ライナーは、特に限定されないが、通常、光学層以外のフィルムが用いられる。
また、前記光学層以外の層としては、汎用的な樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0025】
前記粘着剤層は、常温で粘着性を有し、その粘着性が長期間持続するものである。粘着剤層は、公知の粘着剤によって構成される。前記粘着剤は、無色透明であり、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤などが挙げられる。
前記接着剤層は、2つの層間に介在してそれらを接合するための層である。接着剤層は、例えば、紫外線硬化型接着剤などの活性エネルギー線硬化型接着剤、溶剤揮発型接着剤などの公知の接着剤によって構成される。前記接着剤は、無色透明である。
【0026】
[はく離起点の形成方法]
本発明のはく離起点の形成方法は、第1層と第2層とを有する積層フィルムの前記第1層に、軸部材を前記第1層の厚み方向に進入させた後、前記軸部材を回転させ、前記軸部材によって前記第1層の一部分に前記軸部材の回転方向の圧縮力を付加することにより、前記第1層の一部分を前記第2層から浮き上がらせる。このように浮き上がった部分(浮き上がった第1層の一部分)がはく離起点である。
【0027】
<積層フィルムの具体例>
以下、積層フィルムとして、
図4に示すような第1層11乃至第6層16が順に積層接合された積層フィルム1を例に採って説明する。
各層を例示すると、例えば、第1層11が汎用的な樹脂フィルム、第2層12が偏光素子層、第3層13が粘着剤層、第4層14が位相差層、第5層15が粘着剤層、第6層16がはく離ライナーである。この例で、各層のはく離強度の大小を表すと、第5層15(粘着剤層)と第6層16(はく離ライナー)のはく離強度<第1層11(樹脂フィルム)と第2層12(偏光素子層)のはく離強度<第2層12(偏光素子層)と第3層13(粘着剤層)のはく離強度、である。第3層13(粘着剤層)と第4層14(位相差層)のはく離強度及び第4層14(位相差層)と第5層15(粘着剤層)のはく離強度は、第2層12(偏光素子層)と第3層13(粘着剤層)のはく離強度と略同等又はそれ以上である。
前記第5層15と第6層16は、はく離可能に接合されており、第1層11と第2層12も、はく離可能な状態で接合されている。第2層12と第3層13、第3層13と第4層14及び第4層14と第5層15は、いずれも、はく離困難な状態で接合されている。
前記偏光素子層は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂のコーティング層をヨウ素などの二色性物質で染色した薄膜状である。ただし、対象となる積層フィルムは、
図4の層構成に限られず、また、各層の種類も前記のような偏光素子層や位相差層などに限定されるわけではない。
【0028】
ここで、前記積層フィルムの作製方法の一例を簡単に説明する。
図5は、2つの基材の貼り合わせによって積層フィルムを作製する装置の一例である。
図5には、層構成を明確にするために、一部分を拡大した部分拡大図が含まれている。
図5を参照して、長尺帯状の第1貼り合わせ基材21と、長尺帯状の第2貼り合わせ基材22を準備する。第1貼り合わせ基材21は、図示のように、第1層11(樹脂フィルム)/第2層12(偏光素子層)の層構成からなり、第2貼り合わせ基材22は、第7層17(はく離ライナー)/第3層13(粘着剤層)/第4層14(位相差層)/第5層15(粘着剤層)/第6層16(はく離ライナー)の層構成からなる。
第1貼り合わせ基材21は、例えば、特許文献1(特許第4279944号公報)、特許第4751486号などに開示された公知の方法によって得ることができる。簡単に説明すると、樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂を塗布してポリビニルアルコール系樹脂層(コーティング層の一例)を形成し、前記ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質の染色液に浸漬して、ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性物質を吸着させて延伸することによって、樹脂フィルムに直接的に偏光素子層(染色したポリビニルアルコール系樹脂層)が形成された基材を得ることができる。
【0029】
図5を参照して、第2貼り合わせ基材22から第7層17を引き剥がして粘着剤層である第3層13を露出させ、第3層13に、第1貼り合わせ基材21の第2層12を貼り合わせることにより、第1層11/第2層12/第3層13/第4層14/第5層15/第6層16からなる積層フィルム1Aが得られる。得られた長尺帯状の積層フィルム1Aは、必要に応じて、ロール状に巻き取られる。
【0030】
<はく離起点の形成装置>
図6は、積層フィルムのはく離起点の形成装置(以下、「起点形成装置」という)を有するシステム一例である。
図6のシステムは、起点形成装置の前に、長尺帯状の積層フィルムを所定の平面視形状に打ち抜く又は切断する切断装置と、起点形成装置の後に、はく離起点が形成された第1層を引き剥がすはく離装置と、をさらに有する。なお、前記切断装置及び/又ははく離装置は、1つのシステム(製造ライン)に含まれていなくてもよい。
【0031】
(切断装置)
前記切断装置3は、カッター31を有し、例えば、長尺帯状の積層フィルム1Aを所定の平面視形状に切断する。前記切断により、枚葉状の積層フィルム1Bが順に形成される。前記枚葉状の積層フィルム1Bは、コンベアベルトなどの搬送手段32を介して、起点形成装置の作業台に搬送される。なお、図中、符号Cは、長尺帯状の積層フィルム1Aを枚葉状の積層フィルム1Bに切断したときに生じる残余フィルムを示す。残余フィルムCは、回収される。
【0032】
(起点形成装置)
前記起点形成装置4は、はく離起点を形成するために用いられる軸部材6と、前記軸部材6が固定されている支持部81と、積層フィルム1Bを載せる作業台82と、を有する。軸部材6は、鋭利な刃先縁を有する刃先部と、前記刃先部に形成された溝部と、を有する。軸部材6の詳細は、後で説明する。
前記支持部81は、軸部材6を支持するために設けられている。支持部81は、図示しない昇降装置によって、作業台82に対して近づける又は遠ざけることが可能である(以下、近づく及び遠ざかることを「出退」という)。積層フィルム1Bは、作業台82上に平行に載せられるので、前記支持部81は、積層フィルム1Bの表面に対して出退可能である。また、支持部81は、図示しない回転装置によって、軸周りで回転可能である。必要に応じて、支持部81は、図示しない駆動装置によって、作業台82に対して平行移動できるようになっていてもよい。従って、軸部材6は、支持部81を介して、作業台82に対して出退可能であり且つその軸芯周りで回転可能である。また、必要に応じて、軸部材6は、作業台82(積層フィルム1Bの表面)に対して平行移動可能である。なお、前記昇降装置や回転装置に前記軸部材6を直接的に取り付けることも可能であり、この場合、前記支持部81は省略される。作業台82は、軸部材6を進入させた際に、積層フィルム1Bが厚み方向に撓まないようにするための台である。作業台82は、例えば、金属板、硬質樹脂板、セラミック板などの硬い材料から形成されている。なお、図示例では、作業台82は、積層フィルム1Bを搬送するコンベアベルト83の裏面に接するように配置されている。また、起点形成装置4には、積層フィルム1Bを作業台82の所定位置に位置決めするための保持手段(図示せず)が設けられていてもよい。
【0033】
(はく離装置)
前記はく離装置5は、はく離起点が形成された積層フィルム1Bの第1層を第2層からはく離する装置である。はく離装置5は、第1層の一部分(はく離起点)を吸着する吸着部91と、前記吸着部91が取り付けられている支持部92と、はく離作業台93に搬送される積層フィルム1Bの位置決めを行なう保持手段と、を有する。吸着部91が取り付けられている支持部92は、図示しない駆動装置によって、第1層を第2層から捲り取る動作をするように移動可能である。なお、図示例では、はく離作業台93は、積層フィルム1Bを搬送するコンベアベルト95の表面であるが、これに限定されない。前記吸着部91は、積層フィルム1Bの表面(図示例では第1層の表面)を吸着し、且つその吸着を解除できる構成であれば、特に限定されない。例えば、吸着部91としては、エアーによる吸着、粘着性を有する部材による吸着などが挙げられる。
【0034】
前記はく離装置5の保持手段は、積層フィルム1Bをはく離作業台93の所定位置から動かないように一時的に固定する。前記保持手段としては、例えば、エアーによって積層フィルム1Bをはく離作業台93上に吸引する構成、チャック部によって積層フィルム1Bの端部を把持する構成、粘着性を有する部材で積層フィルム1Bをはく離作業台93上に保持する構成、などが挙げられる。図示例では、エアーによって積層フィルム1Bをはく離作業台93上に吸引する保持手段が採用されている。かかる保持手段は、例えば、コンベアベルト95の裏面に配置され且つコンベアベルト95と協働して空間を形成するケース体94と、前記コンベアベルト95とケース体94とから形成される空間内のエアーを吸引するポンプ(図示せず)と、を有する。前記コンベアベルト95には、複数の穴が形成されており、前記エアーの吸引により、コンベアベルト95がケース体94に密着して前記空間が負圧になり、コンベアベルト95の穴に積層フィルム1Bが吸引されて位置決めされる。他方、前記エアーの吸引を解除をすることにより、コンベアベルト95がケース体94から離れ、コンベアベルト95を駆動させることができる。コンベアベルト95の駆動により、第1層をはく離した後の積層フィルム1Bを次工程に搬送できる。
【0035】
(刃先部を有する軸部材)
図7(a)は、軸部材の側面図であり、同図(b)は、軸部材の刃先部側から軸部材を見た正面図であり、同図(c)は、軸部材の刃先部を軸芯と直交する方向で切断した端面図(端面図は、切断面のみの形状を表し、切断面より奥側の形状を表していない図)である。また、
図8(a)は、
図7(b)の矢印VIII方向から見た軸部材の刃先部の拡大側面図であり、同図(b)は、
図8(a)の向きから見た軸部材の刃先部の拡大正面図である。
図9(a)は、
図7(b)の矢印IX方向から見た軸部材の刃先部の拡大側面図であり、同図(b)は、
図9(a)の向きから見た軸部材の刃先部の拡大正面図である。
【0036】
軸部材6は、棒状部61と、前記棒状部61の下端側に設けられた刃先部62と、前記刃先部62に形成された溝部63と、を有する。棒状部61は、軸芯方向に沿って直線状に延びている。棒状部61は、軸芯と直交する方向で切断して、略円形状に形成されている。なお、棒状部61は、軸芯と直交する方向で切断して、略正方形状などに形成されていてもよい。
前記刃先部62の下端部は尖っている。刃先部62は、鋭利な刃先縁62aを有する。前記刃先縁62aは、軸部材6の刃先部62を第1層に進入させる際、第1層に最初に切り目を生じさせて刃先部62の進入を円滑にするカッターとして機能する。刃先縁62aは、
図8(b)に示すように、正面視で、軸部材6の軸芯Oを通り且つその軸芯Oを中心にして径方向一方側及び反対側に同長さで直線状に延びている。
【0037】
刃先部62は、側面図に示すように、側面視で下方に向かうに従って次第に幅狭となっている。立体的には、刃先部62は、
図8に示すように、刃先縁62aの延びる方向から見て、略逆円錐状となっている。刃先部62の長さL1(刃先部62の軸芯方向における長さ)は、積層フィルムの厚み以上であれば特に限定されない。積層フィルムの厚みは比較的小さいので、刃先部62の長さL1は、例えば、2mm以上である。また、刃先部62の最大径L2は、特に限定されないが、余りに小さいと、相対的に溝部63が小さくなり、第1層に対して圧縮力を十分に付加できないおそれがある。かかる観点から、刃先部62の最大径L2(最大直径)は、例えば、1.5mm以上であり、好ましくは2mm以上であり、より好ましくは3mm以上である。図示例では、刃先部62の最大径L2は、棒状部61に繋がった箇所における直径である。なお、刃先部62の形状は、略逆円錐状に限定されず、例えば、略逆六角錐状などでもよい。略逆円錐状でない場合の刃先部62の最大径L2は、円相当径とする。
【0038】
溝部63は、軸芯に向かって凹状に凹んだ面64によって画成される空間である(この関係は、
図7(c)によって明示されている)。軸部材6の刃先部62を第1層の厚み方向に進入させたときに、前記溝部63に第1層の一部分(第1層の形成材料)が食い込む。換言すると、刃先部62を第1層に進入させたときに、第1層の一部分が溝部63を画成する面64に接して囲われる。前記溝部63は、刃先部62に少なくとも1箇所形成される。軸部材6を回転させたときに、第1層を第2層から浮き上がらせ易くできることから、溝部63は、軸芯周りに少なくとも2箇所形成されていることが好ましい。図示例では、溝部63は、
図8(b)に示すように、軸芯Oを中心にして向かい合う2箇所に形成されている。以下、説明上、2つの溝部63を区別する必要がある場合、その一方を「第1溝部631」といい、もう一方を「第2溝部632」という。前記溝部63を画成する面64は、例えば、円弧面と平面とがなだらかに連続した流線形とされている。前記溝部63を画成する面64の下縁64bは、刃先縁62aに連続している。軸部材6の刃先部62を第1層に進入させる際、刃先縁62aと連続して第1層に切り目を生じさせて刃先部62の進入を円滑にするために、前記下縁64bは、鋭利に形成されていることが好ましい。
図8(b)において、カッターとなる鋭利な刃先縁62a及び下縁64bを判りやすく図示するために太線で表している。
第1溝部631の下縁64bと第2溝部632の下縁64bは、いずれも軸部材6の軸芯Oに対して鋭角に傾斜されている。前記第1溝部631の下縁64bと第2溝部632の下縁64bとの成す角度θ1は、特に限定されないが、刃先部62を第1層に進入させ易くする観点から、例えば、
図8(a)の側面視で、30度以上150度以下であり、好ましくは、60度以上100度以下である。
【0039】
また、前記溝部63(溝部63を画成する凹状の面64)は、下方及び径外方向において開放(開口)されている。前記溝部63の下方が開放されていることにより、積層フィルムの表面(第1層の表面)から厚み方向に軸部材6の刃先部62を進入させたときに、溝部63に第1層の一部分が食い込むようになる。また、前記溝部63が径外方向において開放されていることにより、前記溝部63に第1層の一部分が食い込んだ状態で軸部材6を軸芯周りに回転させたときに、前記第1層に軸部材6の回転方向の圧縮力を付加することができる。
【0040】
前記溝部63は、軸部材6の軸芯Oに対して傾斜しつつ軸芯方向に延在されている。換言すると、溝部63を画成する凹状の面64の外縁64cが、側面視で軸芯Oに対して傾斜しつつ延在されている。
図7に示すように、溝部63は、例えば、刃先部62から棒状部61に亘って形成されている。この場合、軸芯方向に延在する溝部63は比較的長く、溝部63は、軸芯周りに螺旋状を成しながら軸芯方向に延在されている。この螺旋状を成した溝部63のうち刃先部62に形成された溝部63を観念すると、前記のように、溝部63は、軸部材6の軸芯Oに対して傾斜しつつ軸芯方向に延在されている。前記刃先部62に形成された溝部63の、軸部材6の軸芯Oに対する傾斜角度θ2(符号θ2は、
図9参照)は、鋭角であれば特に限定されないが、余りに小さい又は大きいと、後述する持ち上げる効果を十分に発揮できないおそれがある。かかる観点から、刃先部62に形成された溝部63の、軸部材6の軸芯Oに対する傾斜角度θ2は、10度以上80度以下であることが好ましく、さらに、30度以上60度以下であることがより好ましい。
【0041】
上記のような溝部63の形成された刃先部62を有する軸部材6は、本発明を実施するための専用材として作製してもよいが、例えば、市販の穿孔用スパイラルドリルを使用してもよい。図示例では、木材などに穴を開ける市販の穿孔用スパイラルドリルを軸部材6として使用している。ただし、本発明は、積層フィルムに穴を開けることを目的としていないので、前記穿孔ドリルは、(穴を開けるためではなく)第1層にはく離起点を形成するために使用される。本発明では、はく離起点を形成するための軸部材6として前記のように市販のドリルを使用できるので、設備コストの低減を図ることができる。
【0042】
<はく離起点の形成工程>
次に、はく離起点の形成工程を説明する。
図10は、積層フィルムに軸部材を進入させたときの状態を上方から見た平面図であり、
図11は、積層フィルムに軸部材の刃先部を進入させたときの状態を積層フィルムの厚み方向に沿って切断した拡大断面図である。
図12は、進入させた軸部材を軸芯周りに回転させたときの拡大断面図である。
図11及び
図12において、積層フィルムに進入した刃先部は、積層フィルムに隠れるため、断面図では破線で表すべきと言えるが、刃先部を便宜上実線で表している。
【0043】
上記<はく離起点の形成装置>の欄で説明したように、作業台82上に枚葉状の積層フィルム1Bを載せる。枚葉状の積層フィルム1Bの平面視形状は、特に限定されない。例えば、
図10に示すように、前記枚葉状の積層フィルム1Bは、平面視矩形状である。
軸部材6を積層フィルム1Bの厚み方向に下降させ、刃先部62を積層フィルム1Bに進入させる。この際、軸部材6をその軸芯周りに実質的に回転させずに下降させ、軸部材6の刃先部62を積層フィルム1Bの第1層11の厚み方向に進入させる。前記実質的に回転させないとは、軸部材6を回転させないで進入させる場合の他、軸部材6を極めて遅い回転速度で僅かに回転させながら進入させることを含む意味である。軸部材6を進入させる箇所は、特に限定されないが、はく離起点を形成する趣旨から、
図10に示すように、積層フィルム1Bの端部であることが好ましい。図示例のように角部を有する平面視形状の積層フィルム1Bにあっては、その角部に軸部材6を進入させることが好ましい。
刃先部62を進入させると、刃先部62の溝部63に第1層11の一部分が食い込むようになる。
【0044】
前記軸部材6の刃先部62が少なくとも第1層11の厚み方向に進入していれば、刃先部62の進入程度は特に限定されない。例えば、刃先部62が第1層11を貫通するまで刃先部62を進入させてもよく、或いは、刃先部62が第1層11を貫通しない程度(この場合、刃先縁62aが第1層11の厚み方向中途部に位置する)に刃先部62を進入させてもよい。はく離起点を確実に形成できることから、
図11に示すように、刃先部62が第1層11を貫通するまで、刃先部62を進入させることが好ましい(この場合、刃先縁62aが第1層11と第2層12の境界を越える)。図示例では、刃先縁62aが第5層15の厚み方向中途部に位置するまで、刃先部62を進入させている。従って、刃先部62は、第1層11乃至第4層14を貫通していると共に第5層15の一部にまで進入している。1つの例示的な積層フィルム1Bにあっては、上述のように、第1層11と第2層12及び第5層15と第6層16がそれぞれはく離可能に接合され、第2層12と第3層13、第3層13と第4層14及び第4層14と第5層15がそれぞれはく離困難な状態で接合されている。従って、刃先部62を進入させた層中ではく離可能な層間は、第1層11と第2層12の層間だけである。このため、進入させた刃先部62を軸芯周りに回転させることにより、第1層11と第2層12で層間はく離が生じるようになる(つまり、はく離起点が形成される)。
【0045】
なお、特に図示しないが、刃先部62を第6層16まで進入させてもよい。例えば、刃先縁62aが第6層16の厚み方向中途部に位置する又は刃先縁62aが第6層16を貫通するまで刃先部62を進入させてもよい(図示せず)。このように進入させた場合、刃先部62を進入させた層中ではく離可能な層間は、第1層11と第2層12及び第5層15と第6層16の2つの層間である。この場合、進入させた刃先部62を軸芯周りに回転させると、第1層11と第2層12で層間はく離が生じるだけでなく、第5層15と第6層16でも層間はく離が生じる可能性がある。第5層15と第6層16で層間はく離が生じたとしても、第1層11を第2層12からはく離すること自体に支障は生じない。もっとも、不必要な層間においてはく離を生じさせないようにするため、刃先部62を第3層13以降にまで進入させる場合、はく離可能な層間にまで進入させないことが好ましい。つまり、刃先部62を進入させた層中において、第1層11と第2層12のみがはく離可能であることが好ましい。
【0046】
前記積層フィルム1Bの第1層11に進入させた軸部材6を、その軸芯周りに回転させる。軸部材6の回転方向を、
図6、
図7、
図10及び
図11に矢印で示している。前記軸部材6の回転によって、前記第1層11の一部分(第1層11のうち溝部63に食い込んだ部分)に対して前記軸部材6の回転方向の圧縮力が付加される。第1層11の一部分に、前記回転方向の圧縮力を付加することによって、刃先部62付近の第1層11が歪み、第1層11が第2層12から部分的に浮き上がって隙間Xを生じる。この隙間Xの部分が、はく離起点111となる(
図12参照)。特に、溝部63が下方から上方に向かって傾斜されていることにより、軸部材6を回転させたときに前記第1層11の一部分(第1層11のうち溝部63に食い込んだ部分)を上方に持ち上げる効果を期待でき、はく離起点を確実に形成111できる。
本発明の方法によれば、軸部材6の刃先部62を第1層11に進入させて回転させるだけで、第1層11が浮き上がるので、簡単にはく離起点111を形成できる。
【0047】
前記軸部材6を回転させる際、進入させた刃先部62がそれ以上厚み方向に移動しないように、実質的に位置を保った上で回転させることが好ましい。前記実質的に位置を保って回転させるとは、軸部材6を下方に進ませないで回転させる場合の他、軸部材6を僅かに進ませながら回転させることを含む意味である。
前記軸部材6の回転角度θ3(符号θ3は、
図10参照)は、特に限定されないが、余りに小さいと、第1層11に対する圧縮力が相対的に小さくなる。かかる観点から、軸部材6の回転角度は、例えば、30度以上であり、好ましくは、60度以上であり、より好ましくは90度以上である。前記回転角度の上限は特にないが、本発明は積層フィルム1Bに穴を開けるために軸部材6を回転させるわけではないので、はく離起点が生じた時点で回転させることを止めればよい。通常、360度以下で軸部材6を回転させれば十分にはく離起点を形成できる。
【0048】
また、前記軸部材6の回転速度は、適宜設定される。回転速度が余りに速い又は遅いとと、十分なはく離起点を形成できないおそれがある。かかる観点から、軸部材6の回転速度は、例えば、3rpm以上50rpm以下であり、好ましくは5rpm以上45rpm以下であり、より好ましくは10rpm以上30rpm以下である。
【0049】
<はく離工程>
はく離起点が形成された積層フィルム1Bは、上記<はく離起点の形成装置>の欄で説明したように、はく離作業台93に送られ、はく離起点から第1層11がはく離される。
第1層11がはく離された後のフィルムは、必要に応じて、任意の加工が施される。任意の加工としては、そのフィルムに別のフィルムを貼り合わせること、そのフィルムに別のコーティング層を形成すること、そのフィルムをさらに所定形状に切断すること、などが挙げられる。
はく離工程によって、積層フィルム1Bから第1層11をはく離することにより、第2層12を有するフィルムが得られる。第2層12及び/又は別の層が偏光素子層などの光学層である場合、前記得られたフィルムは、光学フィルムとして利用できる。
【0050】
[変形例]
上記では、棒状部61に溝部63が形成されている軸部材6を例示したが、例えば、
図13に示すように、棒状部61に溝部63が形成されていない軸部材6を用いてもよい。また、軸部材6は第1層11を含む積層フィルム1Bに進入させることができる刃先部62を有していればよいので、棒状部61を有していなくてもよい。或いは、棒状部61に代えて何らかの部材の先端に上記溝部63が形成された刃先部62を有する軸部材6を用いてもよい。
さらに、上記では、刃先縁62aは線状であるが、例えば、
図14に示すように、刃先縁62aが点状(針先状)であってもよい。
また、上記では、刃先部62に形成された溝部63は傾斜されているが、例えば、
図15に示すように、溝部65が軸芯方向と平行に延びて形成されていてもよい。このような溝部65が軸芯方向に直線状に延びる刃先部62を有する軸部材6として、例えば、市販の直刃タイプのバニシングドリルを使用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,1A,1B 積層フィルム
11 第1層
12 第2層
6 軸部材
62 刃先部
62a 刃先縁
63,631,632,65 溝部
64 溝部を画成する面
64b 溝部を画成する面の下縁
O 軸芯