(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106084
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ウェザーストリップ
(51)【国際特許分類】
B60J 10/50 20160101AFI20240731BHJP
B60J 10/86 20160101ALI20240731BHJP
B60J 10/84 20160101ALI20240731BHJP
【FI】
B60J10/50
B60J10/86
B60J10/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010180
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】中島 克則
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】村井 友亮
【テーマコード(参考)】
3D201
【Fターム(参考)】
3D201AA06
3D201AA25
3D201BA01
3D201CA02
3D201CA23
3D201DA03
3D201DA23
3D201DA54
3D201DA61
3D201EA01D
(57)【要約】
【課題】透過音低減効果と同時に異音防止効果に優れたウェザーストリップを提供する。
【解決手段】車両の開閉体1周縁に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形され開閉体1の閉時にボディ2側の開閉体1開口周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部20を備えたウェザーストリップ500であって、中空シール部20のうちボディ2側の開閉体開口周縁に弾接する部分の表面に第一塗料50を,弾接しない部分の表面に第二塗料30を施し、第一塗料50は第二塗料30よりも異音防止性能に優れ、かつ第二塗料30は第一塗料50よりも遮音性能に優れる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開閉体周縁又は開口周縁に取付けられる取付基部と、その取付基部に一体成形され前記開閉体の閉時にボディ側の開閉体開口周縁又は開閉体周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部を備えたウェザーストリップであって、
前記中空シール部のうち前記ボディ側の開閉体開口周縁又は開閉体周縁に弾接する部分の表面に第一塗料を,弾接しない部分の表面に第二塗料を施し、
前記第一塗料は前記第二塗料よりも異音防止性能に優れ、かつ前記第二塗料は前記第一塗料よりも遮音性能に優れることを特徴とするウェザーストリップ。
【請求項2】
前記第一塗料の貯蔵弾性率は、前記第二塗料の貯蔵弾性率より低いことを特徴とする請求項1に記載のウェザーストリップ。
【請求項3】
前記第一塗料は、貯蔵弾性率が2.7MPa以下であり、前記第二塗料は、貯蔵弾性率が2.7MPa以上であることを特徴とする請求項2に記載のウェザーストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサイドドア,バックドア,トランクリッド,フード等の開閉体の周縁又は該開閉体の開口周縁に取付けられ、開閉体の閉時にボディ側又は開閉体に弾接して開閉体とボディとの間をシールするウェザーストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図3に示すように、車両のドアなどの開閉体1の周縁に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形され開閉体1の閉時にボディ2側の開閉体開口周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部20を備えたウェザーストリップ(ドアウェザーストリップ)100が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなウェザーストリップ100においては、スポンジゴム材料を低密度化、すなわち低比重化することができれば、製品原料の削減となり、資源の節約が図れ、環境にも優しい。
ただし、スポンジゴム材料を低比重化すると、質量則に従って、車外側から車内側に中空シール部20を透過する音(以後、透過音という。)が増大してしまう。
【0004】
そこで、
図3に示すように、スポンジゴム材料で構成された中空シール部20の表面全体に透過音低減塗料30を塗装することで、低比重化により悪化する遮音性を改善することができたが、これによれば振動時の異音が生じやすくなるという事象があり問題になっていた。
この事象について発明者らが推定したメカニズムは以下の通りである。透過音低減効果を発揮するには、塗料を塗布することにより中空シール部20の貯蔵弾性率を高める必要があるところ、貯蔵弾性率が高まると中空シール部20の剛性が高まる。そうすると、振動時に中空シール部20が車体板金と接触する部分で付着とすべりの繰返し現象、所謂スティックスリップが生じやすくなり、その結果、スティックスリップに起因する異音が生じるというものである。
【0005】
これに対して、
図4に示すウェザーストリップ200のように、スポンジゴム材料で構成された中空シール部20の表面全体に、従来の塗料50を塗装すると、異音防止効果に優れるが、透過音低減効果は劣るといった問題がある。
従来の塗料50としては、例えば、有機溶剤に溶解したウレタン樹脂やシリコーン樹脂をベースとし、滑り性などの付与や調整を目的として、酸化珪素、黒鉛、二硫化モリブデンなどの無機粉末や、四フッ化エチレン、ポリエチレン、ナイロン、グアナミン、ポリカーボネート、シリコーンレジンなどの樹脂粉末を添加したものがあげられる。
また、塗装面の傷つきを防止する観点から無機粉末や樹脂粉末を使用することなく、硬化型シリコーンポリマーを、水を媒質としたエマルジョンタイプの塗料ベースとし、この塗料ベース100重量部に対して、平均粒子径が1~20μmで、しかも硬さがJISAで60~80のシリコーンゴム球状微粉末10~100重量部を配合してなるものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
なお、中空シール部20の厚みを増大させることによっても遮音効果は得られるが、ウェザーストリップの圧縮荷重が増大しドア閉じ性が悪くなるので好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-99140号公報
【特許文献2】特許第3672172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的とするところは、透過音低減効果と同時に異音防止効果に優れたウェザーストリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のウェザーストリップは、車両の開閉体(1)周縁又は開口周縁に取付けられる取付基部(10)と、その取付基部(10)に一体成形され前記開閉体(1)の閉時にボディ(2)側の開閉体(1)開口周縁又は開口周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部(20)を備えたウェザーストリップ(500)であって、
前記中空シール部(20)のうち前記ボディ(2)側の開閉体開口周縁又は開閉体周縁に弾接する部分の表面に第一塗料(50)を,弾接しない部分の表面に第二塗料(30)を施し、
前記第一塗料(50)は前記第二塗料(30)よりも異音防止性能に優れ、かつ前記第二塗料(30)は前記第一塗料(50)よりも遮音性能に優れることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記第一塗料(50)の貯蔵弾性率は、前記第二塗料(30)の貯蔵弾性率より低いことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記第一塗料(50)は、貯蔵弾性率が2.7MPa以下であり、前記第二塗料(30)は、貯蔵弾性率が2.7MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の開閉体周縁又は開口周縁に取付けられる取付基部と、その取付基部に一体成形され前記開閉体の閉時にボディ側の開閉体開口周縁又は開閉体周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部を備えたウェザーストリップの中空シール部の表面全体を、遮音性能に優れた塗料を施すのでもなく、異音防止性能に優れた塗料を施すのでもなく、異音防止性能に優れた第一塗料と遮音性能に優れた第二塗料で塗り分けた、すなわち、開閉体開口周縁又は開閉体周縁に弾接する部分の表面に第一塗料を,弾接しない部分の表面に第二塗料を施したものであるので、透過音低減効果を保持し、かつ異音防止性を損なわないウェザーストリップを提供することができる。
【0014】
また本発明によれば、第一塗料の貯蔵弾性率は、第二塗料の貯蔵弾性率より低い、例えば、第一塗料は、貯蔵弾性率が2.7MPa以下であり、第二塗料は、貯蔵弾性率が2.7MPa以上であると規定することができるので、中空シール部を第一塗料と第二塗料で明確に塗り分けられ、効果的に透過音低減と異音防止性を両立することできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500を示す断面図である。
【
図2】
図1に示すウェザーストリップ500が撓んだ状態を示す断面図である。
【
図3】従来例に係るウェザーストリップ100が撓んだ状態を示す断面図である。
【
図4】別の従来例に係るウェザーストリップ200が撓んだ状態を示す断面図である。
【
図5】ウェザーストリップの透過音低減性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500について、
図1及び
図2を参照して説明する。
このウェザーストリップ500は、従来例で示したウェザーストリップ100,200(
図3,
図4)と同様に、車両の開閉体1、ここではサイドドア1に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形されサイドドア1の閉時に、ボディ2側のドア開口周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部20を備えたものであるが、特に中空シール部20の表面に施される塗料の組合せに特徴性を有するものである。
なお、従来例(
図3,
図4)と同様のものについては同一の符号を付した。
また、図面上の塗料30、50の厚みは分かりやすくするためのイメージであり、実際の塗料の厚みはμm(ミクロン)単位で、中空シール部20の厚みはmm(ミリ)単位のため、塗料の厚みは中空シール部20の厚みの約1000分の1になる。
【0017】
本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500の中空シール部20において、
図2に示すように、ボディ2側の開閉体開口周縁に弾接する部分の表面に第一塗料50を施し、かつ弾接しない部分の表面には第二塗料30を施している。ここでは、第一塗料50が、ボディ2側の開閉体開口周縁に弾接する部分のすべての表面に施されるように、弾接しない部分の表面にも第一塗料50が僅かにかかるように施している。
中空シール部20は、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)を主体とするゴム材料を使用したものであるが、EPDMに限らず、他の合成ゴムを主体とするゴム材料や、各種熱可塑性エラストマーでもよい。
【0018】
第一塗料50は、第二塗料30よりも異音防止性能に優れたものであり、本実施形態では、
図4で示した従来の塗料50を使用している。
従来の塗料としては、有機溶剤に溶解したウレタン樹脂やシリコーン樹脂をベースとし、滑り性などの付与や調整を目的として、酸化珪素、黒鉛、二硫化モリブデンなどの無機粉末や、四フッ化エチレン、ポリエチレン、ナイロン、グアナミン、ポリカーボネート、シリコーンレジンなどの樹脂粉末を添加したものがあげられるが、本実施形態では、塗装面の傷つきを防止する観点から無機粉末や樹脂粉末を使用することなく、硬化型シリコーンポリマーを、水を媒質としたエマルジョンタイプの塗料ベースとし、この塗料ベース100重量部に対して、平均粒子径が1~20μmで、しかも硬さがJISAで60~80のシリコーンゴム球状微粉末10~100重量部を配合してなるものを使用している。
【0019】
第二塗料30は、第一塗料50よりも遮音性能に優れたものであり、本実施形態では、
図3で示した透過音低減塗料30を使用している。
【0020】
第一塗料50の貯蔵弾性率は、第二塗料30の貯蔵弾性率よりも低く、本実施形態では、より具体的に、第一塗料50は、貯蔵弾性率が2.7MPa以下であり、第二塗料30は、貯蔵弾性率が2.7MPa以上であるものを使用している。
【0021】
なお、前記貯蔵弾性率は、測定対象の中空シール部20を、幅5mm、つかみ間長さ20mmとなるように試験体として切り出し、該試験体をJIS K 6394に準じて測定し、雰囲気温度摂氏23度、10Hz時の値を採用している。
【0022】
ここで、本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500(
図1),従来例に係るウェザーストリップ100(
図3),200(
図4)について透過音を測定した結果を、
図5に示す。
これによれば、本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500の周波数(Hz)に対する透過音(dB)は、中空シール部20の全体を透過音低減塗料30で塗装したウェザーストリップ100(
図3)と同等で、中空シール部20の全体を従来の塗料50で塗装したウェザーストリップ200よりも透過音低減効果が高いことがわかる。
周波数(Hz)が3000(Hz)付近を除くと、本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500の周波数(Hz)に対する透過音(dB)は、ウェザーストリップ100(
図3)とほぼ同一で、3000(Hz)付近であると、本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500の周波数(Hz)に対する透過音(dB)は、ウェザーストリップ100(
図3)の透過音(dB)と、ウェザーストリップ200(
図4)の透過音(dB)との間であるが、ウェザーストリップ100(
図3)の透過音(dB)側により寄った数値となっている。
【0023】
そして、本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500(
図1),従来例に係るウェザーストリップ100(
図3),200(
図4)について、従来例に係るウェザーストリップ200(
図4)を基準として、異音防止性,透過音改善効果,貯蔵弾性(動的粘弾性)をそれぞれ比較した結果を表1に示す。
【0024】
【0025】
表1から、本発明の実施形態に係るウェザーストリップ500は、従来例に係るウェザーストリップ200(
図4)と同等に異音防止性に優れるとともに、透過音改善効果の点では、従来例に係るウェザーストリップ200(
図4)より優れ、透過音低減と異音防止性を両立するものであり、しかも貯蔵弾性(動的粘弾性)の点でも従来例に係るウェザーストリップ200(
図4)より高いことがわかる。
【0026】
このように構成されたウェザーストリップ500によれば、中空シール部20の表面を異音防止性能に優れた第一塗料50と遮音性能に優れた第二塗料30で塗り分けたものであるので、透過音低減効果を保持し、かつ異音防止性を損なわないウェザーストリップを提供することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、サイドドア1の周縁に沿って取付けられ、ボディ2側のドア開口周縁に弾接するドアウェザーストリップ500を例に説明したが、それとは逆に、ボディ2側のドア開口周縁に沿って取付けられ、ドア閉時にサイドドア1に弾接するドアウェザーストリップでもよい。また、自動車のバックドア,トランクリッド,フード等の開閉体に取付けられるドアオープニングシール,トランク用ウェザーストリップなどのウェザーストリップなど、どのようなウェザーストリップにも適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 開閉体
2 ボディ
10 取付基部
20 中空シール部
30 透過音低減塗料(第二塗料)
50 従来の塗料(第一塗料)
100 ウェザーストリップ
200 ウェザーストリップ
500 ウェザーストリップ