(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106122
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】三次元物体前駆体処理剤組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/40 20170101AFI20240731BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20240731BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240731BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240731BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010245
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和男
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA43
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL62
(57)【要約】
【課題】
三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、速やかに前記サポート材を除去することができ、加温しても白濁が生じにくい三次元物体前駆体処理剤組成物を提供すること。
【解決手段】
樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、前記サポート材を除去する為の三次元物体前駆体処理剤組成物であって、前記三次元物体前駆体処理剤組成物が、4級アンモニウム(成分A)、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールアルコキシレート(成分B)、及び水(成分C)を含有し、前記成分Bの曇点が35℃以上である、三次元物体前駆体処理剤組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、前記サポート材を除去する為の三次元物体前駆体処理剤組成物であって、
前記三次元物体前駆体処理剤組成物が、4級アンモニウム(成分A)、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールアルコキシレート(成分B)、及び水(成分C)を含有し、
前記成分Bの曇点が35℃以上である、三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項2】
前記成分Aが、下記式(I)に示す化合物を含む、請求項1に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【化1】
(式(I)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、炭化水素基であって、R
4はアルキル基、ヒドロキシアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示す。)
【請求項3】
アニオン界面活性剤(成分D)を含有する、請求項1又は2に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項4】
前記三次元物体前駆体処理剤組成物のpHが、10以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項5】
前記三次元物体前駆体処理剤組成物中の前記成分Bの含有量が、前記成分A100質量部に対して、0.1質量部以上100質量部以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項6】
前記三次元物体前駆体処理剤組成物中の前記成分Aの含有量が、30mmоl/L以上1000mmоl/L以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項7】
前記樹脂が、ポリカーボネートを含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項8】
前記サポート材に含まれる(メタ)アクリル酸系共重合体がアルカリ水溶液に可溶である、請求項1~6のいずれか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物。
【請求項9】
樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体を得る造形工程、及び当該三次元物体前駆体を三次元物体前駆体処理剤組成物に接触させ、前記サポート材を除去するサポート材除去工程を有する三次元物体の製造方法であって、
前記三次元物体前駆体処理剤組成物が、請求項1~6のいずれか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物である、三次元物体の製造方法。
【請求項10】
樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体を請求項1~6のいずれか1項に記載の三次元物体前駆体処理剤組成物に接触させ、前記サポート材を除去するサポート材除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元物体前駆体処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタは、ラピッドプロトタイピング(Rapid Prototyping)の一種で、3D CAD、3D CGなどの3Dデータを元に三次元物体を造形する立体プリンタである。3Dプリンタの方式としては、熱溶融積層方式(以下、FDM方式とも称する)、インクジェット紫外線硬化方式、光造形方式、レーザー焼結方式等が知られている。これらのうち、FDM方式は重合体フィラメントを加熱/溶融し、押し出して積層させて三次元物体を得る造形方式であり、他の方式とは異なり材料の反応を用いない。そのためFDM方式の3Dプリンタは小型かつ低価格であり、後処理が少ない装置として近年普及が進んでいる。当該FDM方式で、より複雑な形状の三次元物体を造形するためには、三次元物体を構成する造形材、及び造形材の三次元構造を支持するためのサポート材を積層して三次元物体前駆体を得て、その後、三次元物体前駆体からサポート材を除去することで目的とする三次元物体を得ることができる。
【0003】
三次元物体前駆体からサポート材を除去する手法として、サポート材に(メタ)アクリル酸系共重合体を用い、三次元物体前駆体をアルカリを含有する三次元物体前駆体処理剤に浸漬することによりサポート材を除去する手法が挙げられる(例えば、特許文献1~4)。当該手法は(メタ)アクリル酸系共重合体中のカルボン酸がアルカリにより中和され、アルカリ水溶液に溶解することを利用している。当該手法に用いられるサポート材に含有される(メタ)アクリル酸系共重合体は、3Dプリンタによる加熱/溶融押出と積層性の観点から疎水基と、前記三次元物体前駆体処理剤への溶解性の観点から親水基とをそれぞれ有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008-507619号公報
【特許文献2】特表2012-509777号公報
【特許文献3】国際公開第2017/199323号
【特許文献4】国際公開第2017/199324号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の三次元物体前駆体処理剤は、親水基と疎水基とを有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含有するサポート材の除去に時間がかかる。当該課題に対し、前記三次元物体前駆体処理剤の温度を上げて反応性を上げることが考えられる。
【0006】
しかし、反応性を上げるために前記三次元物体前駆体処理剤の温度を上げると当該三次元物体前駆体処理剤が白濁し、当該サポート材の除去の状態を目視で確認することが困難になる場合がある。
【0007】
本発明は、三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、速やかに前記サポート材を除去することができ、加温しても白濁が生じにくい三次元物体前駆体処理剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、前記サポート材を除去する為の三次元物体前駆体処理剤組成物であって、前記三次元物体前駆体処理剤組成物が、4級アンモニウム(成分A)、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールアルコキシレート(成分B)、及び水(成分C)を含有し、前記成分Bの曇点が35℃以上である、三次元物体前駆体処理剤組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、速やかに前記サポート材を除去することができ、加温しても白濁が生じにくい三次元物体前駆体処理剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】造形途中の三次元物体前駆体の形状を示す概略図である。
【
図2】実施例で製造した三次元物体の形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<三次元物体前駆体処理剤組成物>
本実施形態の三次元物体前駆体処理剤組成物は、
樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、前記サポート材を除去する為の三次元物体前駆体処理剤組成物であって、前記三次元物体前駆体処理剤組成物が、4級アンモニウム(成分A)、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールアルコキシレート(成分B)、及び水(成分C)を含有し、前記成分Bの曇点が35℃以上である。本実施形態の三次元物体前駆体処理剤組成物は、三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、速やかに前記サポート材を除去することができ、加温しても白濁が生じにくい。
【0012】
〔4級アンモニウム(成分A)〕
前記成分Aは、4級アンモニウムであり、速やかにサポート材を除去する観点から、好ましくは式(I)に示す化合物を含む。
【0013】
【化1】
(式(I)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、炭化水素基であって、R
4はアルキル基、ヒドロキシアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示す。)
【0014】
前記式(I)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、炭化水素基であって、速やかにサポート材を除去する観点から、アルキル基、及びフェニル基から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、炭素数1以上8以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数2以上4以下のアルキル基が更に好ましい。
【0015】
前記式(I)において、R4はアルキル基、ヒドロキシアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であって、速やかにサポート材を除去する観点から、炭素数1以上8以下のアルキル基、炭素数1以上8以下のヒドロキシアルキル基、又はベンジル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基、又はヒドロキシエチル基がより好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数2以上4以下のアルキル基が更に好ましい。
【0016】
前記式(I)に示す化合物としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、プロピルトリメチルアンモニウム、ブチルトリメチルアンモニウム、ペンチルトリメチルアンモニウム、ヘキシルトリメチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム等が例示でき、速やかにサポート材を除去する観点から、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、又はベンジルトリエチルアンモニウムが好ましい。前記成分Aは少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
前記処理剤組成物中の前記成分Aの含有量は、速やかにサポート材を除去する観点から、30mmоl/L以上が好ましく、50mmоl/L以上がより好ましく、100mmоl/L以上が更に好ましく、同様の観点から、1000mmоl/L以下が好ましく、500mmоl/L以下がより好ましく、200mmоl/L以下が更に好ましく、150mmоl/L以下が更に好ましい。
【0018】
〔式(II)の化合物(成分A’)〕
前記成分Aの由来としては第4級アンモニウム塩の下記式(II)に示す化合物(成分A’)であることが好ましい。
【化2】
(式(II)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、炭化水素基であって、R
4はアルキル基、ヒドロキシアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であって、M
-は対アニオンを示す。)
【0019】
前記式(II)において、R1、R2、R3、R4は、式(I)におけるR1、R2、R3、R4とそれぞれ同様であるため説明を省略する。
【0020】
前記式(II)において、M-は、対アニオンであって、具体的には水酸化物イオン、塩化物イオン又は臭化物イオン等のハロゲン化物イオン、メチル硫酸イオン等の硫酸エステルイオンが挙げられ、簡便に好適な範囲に、総生物のpHを調整し、速やかにサポート材を除去する観点から、水酸化物イオンが好ましい。
【0021】
前記式(II)に示す化合物は、具体的には、前記式(I)に示す化合物の水酸化物、塩化物、臭化物が挙げられ、速やかにサポート材を除去する観点から、水酸化物が好ましく、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドがより好ましい。前記成分A’は少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記処理剤組成物の前記成分A’の含有量は、前記成分Aの含有量を満たせる範囲であればよく、速やかにサポート材を除去する観点から、30mmоl/L以上が好ましく、50mmоl/L以上がより好ましく、100mmоl/L以上が更に好ましく、同様の観点から、10000mmоl/L以下が好ましく、500mmоl/L以下がより好ましく、200mmоl/L以下が更に好ましく、150mmоl/L以下が更に好ましい。
【0023】
〔炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールアルコキシレート(成分B)〕
前記成分Bは、炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールにアルキレンオキシドを付加したノニオン界面活性剤である。当該ノニオン界面活性剤としては、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
R5-O-{(EO)n/(PO)m}-H (III)
(式(III)において、R5は炭素数12以上22以下の炭化水素基を有するアルコールに由来する炭素数12以上22以下の炭化水素基、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基であり、nはEOの平均付加モル数、mはPOの平均付加モル数であり、nは1以上100以下、mは0以上10以下を満たす数であり、{ }内のPOとEOの付加形態はランダム配列、ブロック配列のいずれでもよい。)
【0024】
前記炭化水素基の炭素数は、速やかにサポート材を除去する観点から、12以上であり、同様の観点から、22以下であり、好ましくは18以下、より好ましくは14以下である。
【0025】
前記炭化水素基は、速やかにサポート材を除去する観点から、好ましくはアルキル基、より好ましくは2級アルキル基である。
【0026】
前記式(III)中のnは、三次元物体前駆体処理剤組成物の白濁を抑制する観点から、1以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、速やかにサポート材を除去する観点から、100以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。
【0027】
前記式(III)中のmは、速やかにサポート材を除去する観点から、0以上が好ましく、同様の観点から、10以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
【0028】
前記成分Bの曇点は、三次元物体前駆体処理剤組成物の白濁を抑制する観点から、35℃以上であり、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上である。前記成分Bの曇点は、例えば、特開2019-214564号公報の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0029】
前記処理剤組成物中の前記成分Bの含有量は、速やかにサポート材を除去する観点から、前記成分A100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましく、同様の観点から、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、70質量部以下が更に好ましい。
【0030】
前記処理剤組成物中の前記成分Bの含有量は、速やかにサポート材を除去する観点から、0.1g/100mL以上が好ましく、0.2g/100mL以上がより好ましく、0.4g/100mL以上が更に好ましく、同様の観点から、2g/100mL以下が好ましく、1.5g/100mL以下がより好ましく、1.2g/100mL以下が更に好ましい。
【0031】
〔水(成分C)〕
前記成分Cは、工業用水、水道水及び脱イオン水を用いることができ、供給性及びコストの観点から、工業用水が好ましく、速やかにサポート材を除去する観点から、脱イオン水が好ましい。
【0032】
前記処理剤組成物の前記成分Cの含有量は、90g/100mL以上が好ましく、99g/100mL以下が好ましい。前記処理剤組成物が前記成分Aと前記成分B以外の成分を含まない場合、当該処理剤組成物中の前記成分Cの含有量は、前記成分Aとその対イオン及び前記成分Bを除いた残部である。
【0033】
〔その他〕
前記処理剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、無機アルカリ、前記成分B以外の界面活性剤、キレート剤、水溶性溶剤、ビルダー成分、増粘剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤、顔料、着色剤等が含まれていてもよい。成分Cとしてカルシウムやマグネシウム等の金属イオンが比較的多く含まれている工業用水等を使用する場合、当該金属イオンによってサポート材の速やかな除去が阻害されるおそれがある。このような場合、前記処理剤組成物がエチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸四ナトリウムのようなキレート剤を含有することで、当該金属イオンの影響を低減することができる。また、着色剤を含有する処理剤組成物は、サポート材の種類によっては、サポート材が溶解することで色が変化するため、着色剤は、処理の進行程度や終了時期を示す指示薬としての機能も期待できる。
【0034】
[無機アルカリ]
前記無機アルカリは、無機アルカリであればいずれのものも使用できる。無機アルカリの具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等のアルカリ金属の珪酸塩、リン酸三ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のアルカリ金属のホウ酸塩等を用いることができる。二種以上の無機アルカリを組み合わせてもよい。速やかにサポート材を除去する観点から、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
【0035】
前記処理剤組成物の前記無機アルカリの含有量は、処理剤組成物のpHを10以上とし、速やかにサポート材を除去する観点から、0.01g/100mL以上が好ましく、0.02g/100mL以上がより好ましく、0.05g/100mL以上が更に好ましく、0.1g/100mL以上が更に好ましく、同様の観点から、5g/100mL以下が好ましく、3g/100mL以下がより好ましく、2g/100mL以下が更に好ましく、1g/100mL以下が更に好ましい。
【0036】
[前記成分B以外の界面活性剤]
前記処理剤組成物は、前記成分B以外の界面活性剤を含有してもよい。前記成分B以外の界面活性剤としては、前記成分B以外のノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤(成分D)、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0037】
(アニオン界面活性剤(成分D))
前記三次元物体に前記処理剤組成物を接触させると当該三次元物体が変色する場合がある。このような場合、前記処理剤組成物は、速やかにサポート材を除去しつつ当該三次元物体の変色を抑制する観点から、前記成分Dを含有してもよい。前記成分Dは、置換基を有していてもよい炭化水素基と酸基とを有する。
【0038】
前記三次元物体に含有される樹脂がポリカーボネート樹脂を含有する場合、当該三次元物体に前記処理剤組成物を接触させるとポリカーボネート樹脂が加水分解し、前記三次元物体が変色するおそれがある。このようなポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制し、ポリカーボネート樹脂を含有する三次元物体の変色を抑制する観点から、前記成分Dが有する炭化水素基は、アルキル基及び/又は芳香環を有する炭化水素基が好ましい。前記成分Dが有する炭化水素基の炭素数は、ポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制し、ポリカーボネート樹脂を含有する三次元物体の変色を抑制する観点から、6以上が好ましく、10以上がより好ましく、11以上が好ましく、12以上がより好ましく、同様の観点から、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下が更に好ましい。また、前記成分Bが有する酸基は、ポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制し、ポリカーボネート樹脂を含有する三次元物体の変色を抑制する観点から、スルホン酸基又は硫酸エステル基が好ましい。
【0039】
前記成分Dを構成する塩としては、ナトリウム及びカリウムから選ばれるアルカリ金属;アルギニン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等のアルカノールアンモニウム;アンモニウム等が挙げられ、これらの中でもサポート材の除去性を向上させる観点からアルカリ金属が好ましい。
【0040】
前記処理剤組成物中の前記成分Dの含有量は、三次元物体の損傷、及びそれに伴う三次元物体の変色を抑制しつつ水溶性サポート材を除去する観点から、0.01g/100mL以上が好ましく、0.02g/100mL以上がより好ましく、0.03g/100mL以上が更に好ましく、同様の観点から、0.7g/100mL以下が好ましく、0.6g/100mL以下がより好ましく、0.5g/100mL以下が更に好ましい。
【0041】
前記処理剤組成物の25℃におけるpHは、速やかにサポート材を除去する観点から、好ましくは10以上、より好ましくは11以上、更に好ましくは12以上、更に好ましくは13以上である。前記処理剤組成物のpHは実施例に記載の方法で測定する。
【0042】
前記処理剤組成物は、前記成分Aの由来としての前記成分A’、前記成分B、及び前記成分C、並びにその他の任意成分を配合することにより製造することができる。
【0043】
<三次元物体の製造方法>
本実施形態の三次元物体の製造方法は、樹脂を含有する三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体を得る造形工程、及び当該三次元物体前駆体を前記処理剤組成物に接触させ、前記サポート材を除去するサポート材除去工程を有する三次元物体の製造方法である。本実施形態の三次元物体の製造方法によれば、三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体から、速やかに前記サポート材を除去することができる。
【0044】
〔造形工程〕
前記三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体を得る造形工程は、公知の3Dプリンタによる三次元物体の製造方法における三次元物体及びサポート材を含む三次元物体前駆体を得る工程を利用することができる。公知の3Dプリンタによる三次元物体の製造方法の方式としてはFDM方式、インクジェット紫外線硬化方式、光造形方式、レーザー焼結方式等があり、これらの中でもFDM方式が好ましい。
【0045】
前記三次元物体の材料である樹脂は、従来の三次元物体の製造方法で造形材として用いられる樹脂であれば特に限定なく用いることが出来る。当該樹脂としては、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリフェニルサルフォン樹脂等の熱可塑性樹脂が例示でき、3Dプリンタによる造形性の観点からこれらの中でもABS樹脂及び/又はポリ乳酸樹脂がより好ましく、ABS樹脂が更に好ましい。
【0046】
サポート材の材料である三次元造形用可溶性材料は、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含む。
【0047】
[(メタ)アクリル酸系共重合体]
(親水性モノマー)
前記親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、α-ヒドロキシアクリル酸等が挙げられる。これらの中でも、サポート材の除去性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が好ましい。
【0048】
(疎水性モノマー)
前記疎水性モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸セチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、スチレン、α-メチレン-γ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0049】
前記(メタ)アクリル酸系共重合体は、前記親水性モノマー及び前記疎水性モノマー以外のモノマーユニットを含有していてもよい。
【0050】
〔サポート材除去工程〕
前記サポート材除去工程は、前記三次元物体前駆体を前記処理剤組成物に接触させ、前記サポート材を除去する工程である。三次元物体前駆体を前記処理剤組成物に接触させる手法は、処理液中に浸漬後撹拌したり、強い水流中に晒したり、該前駆体自体を動かしたりすることが考えられる。しかし、前駆体の棄損防止の観点、及び作業の容易さの観点から、三次元物体前駆体を前記処理剤組成物に浸漬させる手法が好ましい。サポート材の除去性を向上させる観点から、浸漬中に超音波を照射し、サポート材の溶解を促すこともできる。
【0051】
前記処理剤組成物の使用量は、サポート材の溶解性の観点から、当該サポート材に対して10質量倍以上が好ましく、20質量倍以上がより好ましい。前記処理剤組成物の使用量は、作業性の観点から、当該サポート材に対して10000質量倍以下が好ましく、5000質量倍以下がより好ましく、1000質量倍以下が更に好ましく、500質量倍以下が更に好ましい。
【0052】
当該サポート材除去工程における前記処理剤組成物の温度は、サポート材の溶解性の観点から、25℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。当該サポート材除去工程における前記処理剤組成物の温度は、サポート材の膨潤抑制の観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましい。
【0053】
前記サポート材を前記処理剤組成物に接触させる時間は、サポート材の除去性の観点から、2分以上が好ましく、60分以上がより好ましく、180分以上が更に好ましい。また、前記サポート材を前記処理剤組成物に接触させる時間は、三次元物体が受けるダメージを軽減する観点から、10時間以下が好ましく、8時間以下がより好ましく、6時間以下が更に好ましい。
【0054】
<サポート材除去方法>
本実施形態のサポート材除去方法は、三次元物体と、親水性モノマー及び疎水性モノマーをモノマー単位として有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含むサポート材とを含む三次元物体前駆体を前記処理剤組成物に接触させ、前記サポート材を除去する。本実施形態のサポート材除去方法によれば、従来よりも速やかに前記(メタ)アクリル酸系共重合体を含有するサポート材を除去することができる。このような効果を奏する理由としては前記処理剤組成物が前記効果を奏する理由と同様の理由が考えられる。当該三次元物体前駆体は、前記三次元物体の製造方法の三次元物体と同様なので説明を省略する。また、本実施形態のサポート材除去方法における処理条件は、前記三次元物体の製造方法のサポート材除去工程に記載の処理条件と同様なので説明を省略する。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0056】
<三次元物体前駆体処理剤組成物の調製>
〔実施例1~8、及び比較例1~5〕
実施例1~8、及び比較例1~5の三次元物体前駆体処理剤組成物は、表1~4に示した配合量になるように100mLスクリュー管瓶に各100gずつ調製した。各表に記載の数値は有効成分の量を示す。
【0057】
[各成分]
表1~4に記載の各成分は下記のものを使用した。なお、各表中の各成分の配合量の質量は有効分を示す。
・成分A’(式(II)に示す化合物)
テトラエチルアンモニウムヒドロキシド:東京化成工業社製、35%水溶液
・成分B
ノニオン界面活性剤1:ソフタノール120(日本触媒社製、C12~14第2級アルコールEO12モル付加物、曇点83℃)
ノニオン界面活性剤2:エマルゲン120(花王社製、C12~14第1級アルコールEO12モル付加物、曇点98℃)
ノニオン界面活性剤3:ソフタノール150(日本触媒社製、C12~14第2級アルコールEO15モル付加物、曇点は100℃を超える)
・成分B’
ノニオン界面活性剤4:ニューコール1004(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン-2-エチルへキシルエーテル(EО平均付加モル数4)、水に溶解せず曇点測定できない)
ノニオン界面活性剤5:ソフタノール70(日本触媒社製、C12~14第2級アルコールEO7モル付加物、曇点33℃)
・成分D(アニオン界面活性剤)
アニオン界面活性剤1:ドデシル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、エマール0)
・無機アルカリ
水酸化ナトリウム:関東化学社製、48%水溶液
・キレート剤
エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸四ナトリウム
・消泡剤
変性シリコーンのエマルション(花王社製、アンチフォーム E‐20)
【0058】
<評価方法>
〔pH測定〕
pHは、25℃における三次元物体前駆体処理剤組成物のpHであり、pHメータ(東亜ディーケーケー株式会社、HM-30G)の電極を三次元物体前駆体処理剤組成物に浸漬して3分後の数値を測定した。
【0059】
〔サポート材の除去性の評価〕
[評価サンプルの作製]
Stratasys社製のFDM方式3DプリンタFortus250MCにて、造形材としてABS(Stratasys社製ABS樹脂)、三次元造形用可溶性材料としてStratasys社製FDM用サポート材SR-30(アルカリ水溶性)を用い、サポート材の除去性の評価用の評価サンプル1(三次元物体前駆体)を作製した。
図1は、FDM方式3DプリンタFortus250MCによる造形途中の評価サンプル1を示す概略図である。
図1において、基板0上にFDM方式3DプリンタFortus250MCによって造形材及びサポート材を積層して三次元物体11及びサポート材12を有する評価サンプル1を作製した。
【0060】
[サポート材の除去性の評価手順]
(実施例1~7、比較例1~4)
各実施例及び比較例に係る処理剤組成物を各500g、500mLガラスビーカーに個別に調製した。マグネチックスターラーを入れ、60℃に加温し、回転数200rpmで攪拌し、評価サンプル1を各実施例及び比較例に係る処理剤組成物にそれぞれ浸漬し、評価サンプル1内のサポート材12が完全に除去されるまでの時間(hr)を測定した。
図2は当該評価サンプル1内のサポート材12が除去された後の三次元物体11の概略図である。評価結果を表1~3に示す。
【0061】
(実施例8、比較例5)
60℃に加温する代わりに、40℃に加温した以外は、実施例1~7、比較例1~4と同様の操作でサポート材の除去性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0062】
[処理剤の外観評価]
各実施例及び比較例に係る処理剤組成物を各500g、500mLガラスビーカーに個別に調製した。マグネチックスターラーを入れ、表に記載の温度に加温し、回転数200rpmで攪拌し、処理剤組成物の外観を目視で確認した。評価結果を表1~4に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】