IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪ガスケミカル株式会社の特許一覧

特開2024-106164成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106164
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4242 20120101AFI20240731BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240731BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240731BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240731BHJP
   C01B 32/354 20170101ALN20240731BHJP
【FI】
D04H1/4242
C02F1/28 D
B01J20/20 B
B01J20/28 A
B01J20/28 Z
C01B32/354
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010317
(22)【出願日】2023-01-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】植田 興
(72)【発明者】
【氏名】浅田 拓哉
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
4G146
4L047
【Fターム(参考)】
4D624AA02
4D624AB04
4D624AB11
4D624BA02
4D624BB02
4D624BB05
4D624BB08
4D624BC01
4D624CA04
4D624CA11
4D624CB33
4D624CB34
4D624CC41
4G066AA05B
4G066AC17C
4G066BA16
4G066BA38
4G066CA01
4G066CA31
4G066DA07
4G066FA37
4G146AA06
4G146AB06
4G146AC09A
4G146AC09B
4G146AC10A
4G146AD17
4G146AD33
4G146BA22
4G146CB02
4G146CB08
4G146CB35
4G146CB39
4L047AA03
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA09
4L047BA22
4L047BB05
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】高い除去性能と低圧損化の両立を図る。
【解決手段】活性炭素繊維を含む成型体であって、前記活性炭素繊維の繊維長の個数分布が、繊維長100μm未満の活性炭素繊維を14.87%以上28%以下とする第1条件と、繊維長100μm以上1000μm未満の活性炭素繊維を72%以上85%以下とする第2条件と、繊維長1000μm以上の活性炭素繊維を0%以上0.13%以下とする第3条件とを満たし、フィブリル化繊維状バインダーを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭素繊維を含む成型体であって、
前記活性炭素繊維の繊維長の個数分布が以下の(第1条件)と(第2条件)と(第3条件)とを満たし、フィブリル化繊維状バインダーを含む成型体。
(第1条件)繊維長100μm未満の活性炭素繊維が14.87質量%以上28質量%以下。
(第2条件)繊維長100μm以上1000μm未満の活性炭素繊維が72質量%以上85質量%以下。
(第3条件)繊維長1000μm以上の活性炭素繊維が0質量%以上0.13質量%以下。
【請求項2】
前記フィブリル化繊維状バインダーがアクリル繊維である請求項1に記載の成型体。
【請求項3】
前記活性炭素繊維の平均繊維径が少なくとも30μm以下である請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項4】
窒素吸着等温線から算出した前記活性炭素繊維のBET比表面積が少なくとも1500m/gを超える請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項5】
前記活性炭素繊維がピッチ系活性炭素繊維である請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項6】
密度が0.10g/cc以上0.35g/cc以下である請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の成型体を有する浄水フィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載の浄水フィルタを有する浄水カートリッジ。
【請求項9】
請求項8に記載の浄水カートリッジを有する浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭素繊維を含む成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭を使用した浄水フィルタは、水道水中に含まれる遊離残留塩素、揮発性有機化合物などの有害物質を除去する目的で工業用、家庭用問わず、広く利用されている。
例えば、特許文献1には、活性炭素繊維を有する浄水フィルタが開示されており、当該浄水フィルタにより有毒物質等を高性能に除去可能な点が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-271832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述した浄水フィルタ等を有する家庭用浄水器では、浄水器本体の小型化のニーズが高まり、浄水フィルタを構成する活性炭成型体の高除去性能化、低圧損化が求められる。特許文献1記載の技術では、原材料としての活性炭素繊維を工業用ビーターの水槽内でせん断し、繊維長の短い活性炭素繊維を生成している。しかしながら、水槽が排出口を持たないため、活性炭素繊維が過剰にせん断され、粉末化した活性炭素繊維が発生し、粉末化した活性炭素繊維は、圧力損失を高めてしまうという課題があった。
また、活性炭素繊維の繊維長が整いにくいため、繊維長が長いものが発生し、成型体における活性炭素繊維の密度ムラによる偏流により、除去性能が低下する課題があった。
上記二点の課題により、特許文献1に記載の技術では、活性炭素繊維を含む成型体の高い除去性能と低圧損化の両立ができなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い除去性能と低圧損化の両立を図り得る活性炭素繊維を含む成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための成型体は、活性炭素繊維を含む成型体であって、その特徴構成は、
前記活性炭素繊維の繊維長の個数分布が以下の(第1条件)と(第2条件)と(第3条件)とを満たし、フィブリル化繊維状バインダーを含む点にある。
(第1条件)繊維長100μm未満の活性炭素繊維が14.87%以上28%以下。
(第2条件)繊維長100μm以上1000μm未満の活性炭素繊維が72%以上85%以下。
(第3条件)繊維長1000μm以上の活性炭素繊維が0%以上0.13%以下。
【0007】
発明者等は、活性炭素繊維を含む成型体である活性炭成型体(以下、単に成型体と呼ぶ場合がある)の低圧損化を実現するには、繊維長分布における繊維長100μm以下の個数分布の割合を下げる必要があると考えた。即ち、特許文献1に記載のような手法で作製した活性炭成型体は繊維長100μm以下の頻度が多い、即ち、過剰にせん断された粉末状の活性炭素繊維が多いことが、成型体の密度上昇につながり、低圧損化の障壁となっていると考えた。ただし、繊維長が長いものが多ければ、活性炭成型体に密度ムラが発生して除去性能が低下するため、高い除去性能と低圧損化を両立することができない。
そこで、上記特徴構成の如く、活性炭素繊維の繊維長を、第1条件を満たすものとすることで、粉末化した繊維長100μm以下の活性炭素繊維の割合を小さいものとし、圧力損失が高くなることを抑制している。
更に、上記特徴構成の如く、活性炭素繊維の繊維長を、第3条件を満たすものとすることで、成型体に含まれる繊維長が不要に長い活性炭素繊維の割合を抑制して、成型体における活性炭素繊維の密度ムラを抑制して、除去性能の低下を抑制している。
即ち、上記特徴構成による成型体は、活性炭素繊維の繊維長100μm以上1000μm未満の活性炭素繊維の割合を、第2条件に示すように、72%以上85%以下とすることで、高い除去性能と低圧損化を実現している。
【0008】
尚、活性炭素繊維の繊維長100μm以下の繊維の割合が28%より多い場合、繊維長が100μm以下の細かい繊維が多くなり、成型体の密度が上がることで圧力損失が高くなる。繊維長100μm以下の範囲に特に下限の制限はないが、10μm以上100μm以下であることが望ましい。
また繊維長100μm以下の繊維の割合は少ないほど、成型体の密度の上昇による圧力損失上昇を抑えられることから、28%以下であることがより好ましい。更には20%以下であることがより好ましい。
【0009】
また、繊維長1000μm以上の繊維の割合が0.13%より多い場合、長い繊維が多くなることで成型体の密度ムラが大きくなり、通水時に偏流が起きることで除去性能が低下する。繊維長1000μm以上の割合は少ないほど偏流が抑えられ、除去性能の低下を抑えられることから、繊維長1000μm以上の割合は0.13%以下が好ましく、より好ましくは0.09%以下である。
【0010】
ちなみに、発明者らは、上述の第1条件~第3条件を満たす活性炭素繊維を得るために、乾式せん断機により活性炭素繊維をせん断し、せん断された活性炭素繊維が順次排出される排出口に活性炭素繊維を篩い分けするスクリーン(濾過金網)を備える構成を採用した。これにより、せん断時に繊維が短くなった活性炭素繊維をスクリーンを介して排出できるから、活性炭素繊維が過剰にせん断され、粉末化した繊維長100μm以下の活性炭素繊維の発生量を抑制できる。
一方、スクリーン(濾過金網)により、繊維長が比較的長い活性炭素繊維は、せん断機から排出されず、所定の繊維長までせん断がされるため、繊維長1000μm以上の活性炭素繊維に発生を抑制でき、成型体内の密度ムラを抑制し、偏流等を抑制することで高性能化を実現できる。
【0011】
ここで、上記特徴構成において、フィブリル化とは、処理した繊維の中に含まれる少なくとも1本の単繊維が繊維軸の平行方向に分離して微細繊維になることをいう。フィブリル化繊維状バインダーは、例えば工業用ビーターなどで繊維状バインダーを叩解することにより得ることができる。繊維状バインダーをフィブリル化することで、活性炭素繊維や粒状活性炭などの炭素材料がフィブリル化繊維状バインダーに補足されて固着し、担持される。
【0012】
上記特徴構成において、個数分布とは、画像寸法測定法により、複数本の活性炭素繊維が含まれる領域の画像を、マイクロスコープにて取得し、取得した画像に含まれる繊維の全本数に対する所定の繊維長の本数の割合を導出したものであり、以下の〔式1〕によってあらわされる。
【0013】
〔式1〕
個数分布=(測定した所定の繊維長の本数)÷(測定した全本数)×100
【0014】
成型体の更なる特徴構成は、
前記フィブリル化繊維状バインダーがアクリル繊維である点にある。
【0015】
繊維状バインダーは、フィブリル化させて繊維をひだ状に叩解することによって、活性炭素繊維や粒状活性炭などの炭素質材料を絡めて賦形できるものであれば、特に限定されず、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能であるが、アクリル繊維を好適に用いることができる。
【0016】
成型体の更なる特徴構成は、
前記活性炭素繊維の平均繊維径が少なくとも30μm以下である点にある。
【0017】
活性炭素繊維の平均繊維径は、遊離残留塩素の高い除去性能を実現する観点から、例えば30μm以下、好ましくは5μm以上20μm以下程度、より好ましくは10μm以上20μm以下程度、更に好ましくは12μm以上14μm以下程度である。
【0018】
成型体の更なる特徴構成は、
窒素吸着等温線から算出した前記活性炭素繊維のBET比表面積が少なくとも1500m/gを超える点にある。
【0019】
本実施形態の活性炭素繊維は、遊離残留塩素の高い除去性能を実現する観点から、比表面積が高いものが好ましく、窒素吸着法により算出されるBET比表面積が1500m/gを超え2300m/g以下程度の範囲から選択できる。例えば、1600m/g以上2000m/g以下である。活性炭素繊維のせん断条件の観点から、好ましくは1750m/g以上1950m/g以下程度である。
【0020】
成型体の更なる特徴構成は、
前記活性炭素繊維がピッチ系活性炭素繊維である点にある。
【0021】
本発明において、活性炭素繊維前駆体の主原料(すなわち、本発明の活性炭素繊維の由来となる原料)としては、特に制限はないが、遊離残留塩素の除去性能の観点からピッチに由来することが好ましく、石炭ピッチに由来することがより好ましい。
【0022】
成型体の更なる特徴構成は、
密度が0.10g/cc以上0.35g/cc以下である点にある。
【0023】
上記特徴構成により、成型体の圧力損失が高くなりすぎることを良好に抑制できる。
【0024】
これまで説明してきた成型体を含む浄水フィルタ、当該浄水フィルタを有する浄水カートリッジ、当該浄水カートリッジを有する浄水器も、本願の権利範囲に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器は、高い除去性能と低圧損化の両立を図り得るものである。
以下、当該成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器について説明する。
【0026】
<成型体>
成型体は、活性炭素繊維を含むものであり、当該活性炭素繊維の繊維長の個数分布が以下の(第1条件)と(第2条件)と(第3条件)とを満たし、フィブリル化繊維状バインダーを含むものである。
【0027】
第1条件:繊維長100μm未満の活性炭素繊維が14.87%以上28%以下。
第2条件:繊維長100μm以上1000μm未満の活性炭素繊維が72%以上85%以下。
第3条件:繊維長1000μm以上の活性炭素繊維が0%以上0.13%以下。
【0028】
ここで、個数分布とは、画像寸法測定法により、複数本の活性炭素繊維が含まれる領域の画像を、マイクロスコープにて取得し、取得した画像に含まれる繊維の全本数に対する所定の繊維長の本数の割合を導出したものであり、以下の〔式1〕によってあらわされる。
【0029】
〔式1〕
個数分布=(測定した所定の繊維長の本数)÷(測定した全本数)×100
【0030】
尚、活性炭素繊維の繊維長100μm以下の範囲に特に下限の制限はないが、10μm以上100μm以下であることが望ましい。また繊維長100μm以下の繊維の割合は少ないほど、成型体の密度の上昇による圧力損失上昇を抑えられることから、28%以下であることがより好ましい。更には20%以下であることがより好ましい。
【0031】
また、活性炭素繊維の繊維長1000μm以上の割合は0.13%以下が好ましく、より好ましくは0.09%以下である。
【0032】
本実施形態では、上記繊維長の割合を満足する限り、二種類以上の異なる活性炭素繊維を含んでいてもよい。すなわち、二種類以上の異なる活性炭素繊維を混合して得られる最終混合物が、上記繊維長の割合を満足すれば使用可能である。例えば、活性炭素繊維の種類は特に制限されず、原料が異なっても良いし、繊維径、比表面積が異なっても良い。
【0033】
尚、上記繊維長の割合を満足する活性炭素繊維は、例えば、ボールミルやロールミル、工業用ビーターや乾式せん断機などによりせん断し、必要に応じて分級を行うことにより調製することができる。分級は必ずしも必要としない。
【0034】
活性炭素繊維前駆体の主原料(すなわち、本発明の活性炭素繊維の由来となる原料)としては、特に制限されず、例えば、不融化或いは炭素化した有機質材料、フェノール樹脂等の不融性樹脂等が挙げられ、当該有機質材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ピッチ、ポリビニルアルコール、セルロース等が挙げられる。これらの中でも、本発明の活性炭は、遊離残留塩素の除去性能の観点からピッチに由来することが好ましく、石炭ピッチに由来することがより好ましい。
【0035】
活性炭素繊維は、優れた遊離残留塩素除去性能を維持しつつ成型体の圧力損失を低くする観点からマイクロスコープの画像測定により算出した繊維長分布によるメジアン径は125μm以上190μm以下程度の範囲から選択でき、例えば130μm以上180μm以下程度、好ましくは135μm以上170μm以下程度、高い遊離残留塩素除去性能と低い圧力損失の両立の観点から、更に好ましくは140μm以上160μm以下程度である。
【0036】
活性炭素繊維の平均繊維径は、遊離残留塩素の高い除去性能を実現する観点から、例えば30μm以下、好ましくは5μm以上20μm以下程度、より好ましくは10μm以上20μm以下程度、更に好ましくは12μm以上14μm以下程度である。
【0037】
活性炭素繊維は、遊離残留塩素の高い除去性能を実現する観点から、比表面積が高いものが好ましく、窒素吸着法により算出されるBET比表面積が1500m/gを超え2300m/g以下程度の範囲から選択できる。例えば、1600m/g以上2000m/g以下である。活性炭素繊維のせん断条件の観点から、好ましくは1750m/g以上1950m/g以下程度である。
【0038】
尚、成型体の密度は、0.10g/cc以上0.35g/cc以下として、成型体の圧力損失が高くなりすぎることを抑制している。
【0039】
フィブリル化繊維状バインダーは、フィブリル化させて繊維をひだ状に叩解することによって、活性炭素繊維や粒状活性炭などの炭素質材料を絡めて賦形できるものであれば、特に限定されず、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能である。
他の例としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、パルプなどが挙げられる。好ましくはアクリル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維が挙げられる。
繊維状バインダーは2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に好ましくは、ポリアクリロニトリル繊維又はパルプをバインダーとして使用することである。それにより、成型体密度及び成型体強度をさらに上げ、性能低下を抑制することができる。
【0040】
ここで、フィブリル化とは、処理した繊維の中に含まれる少なくとも1本の単繊維が繊維軸の平行方向に分離して微細繊維になることをいう。フィブリル化繊維状バインダーは、例えば工業用ビーターなどで繊維状バインダーを叩解することにより得ることができる。繊維状バインダーをフィブリル化することで、活性炭素繊維や粒状活性炭などの炭素材料がフィブリル化繊維状バインダーに補足されて固着し、担持される。
【0041】
尚、フィブリル化繊維状バインダーの配合比は、成型体の全体を100質量%としたときに、2質量%以上14質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、塩素等の除去性能を確保する観点から、2質量%以上10質量%以下、更に好ましくは2質量%以上7質量%以下である。
【0042】
〔検討事項03に関する記載事項〕
成型体は、例えば、ボールミルやロールミル、工業用ビーターや乾式せん断機などにより活性炭素繊維をせん断し必要に応じて分級したものと、上述したフィブリル化繊維状バインダーと、水とを混合してスラリー状とし、成形金型に当該スラリーを吸入して成型し、金型から脱離した湿潤状態の成型体を、所定の温度(例えば、100℃以上140℃以下程度の温度)で所定時間(例えば、15時間以上24時間以下程度の時間)、加熱乾燥することにより得られる。
【0043】
<浄水フィルタ>
浄水フィルタは、これまで説明してきた成型体を円盤形状又は円筒状に成型したものを、公知の構成によりフィルタに用いることで、好適に実現できる。
浄水フィルタは、除去対象物質の除去性能などの点から、活性炭素繊維100質量部に対して、繊維状バインダーを好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下含む。
なお、浄水フィルタが、後述する他の機能性成分を含む場合、フィルタ組成についていう「炭素質材料100質量部に対して」は「炭素質材料と他の機能性成分の合計100質量部に対して」と読み替えて適用すればよい。
【0044】
浄水フィルタは、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、他の機能性成分を含んでもよい。他の機能性成分としては、例えば、溶解性鉛を吸着除去できるチタノシリケートやゼオライト系粉末などの鉛吸着材やイオン交換樹脂又はキレート樹脂、あるいは抗菌性を付与するために銀イオン及び/又は銀化合物を含んだ各種吸着材などが挙げられる。
【0045】
<浄水器>
浄水器は、例えば、上述の浄水フィルタを有する浄水カートリッジを備えて実現できる。好適な実施形態において、浄水器は、上述したような本実施形態に係る成型体又は浄水フィルタを含む。
【0046】
好適な一実施形態において、浄水器は浄水カートリッジを備え、その浄水カートリッジが、本実施形態に係る成型体又は浄水フィルタを用いて構成される。例えば、本実施形態に係る成型体をハウジングに充填して浄水カートリッジを構成してもよく、また、本実施形態に係る浄水フィルタをハウジングに充填して浄水カートリッジを構成してもよい。浄水カートリッジは、本実施形態に係る成型体又は浄水用フィルタに加えて、公知の不織布フィルタ、活性炭やイオン交換体などの各種吸着剤、ミネラル添加材、セラミック濾過材、中空糸膜などを組合せて含んでもよい。
【実施例0047】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。
【0048】
<評価方法>
[繊維長測定]
キーエンス社製VHX-7000を使用して測定した繊維長の個数分布から、所定の繊維長の割合を算出した。
【0049】
[窒素ガス吸着等温線の測定]
マイクロメトリクス社製Tristar3000を使用し、炭素質材料を窒素雰囲気下で150℃、2時間加熱したのちに、温度77Kの条件下での窒素ガス吸着等温線を測定した。
【0050】
[比表面積の測定]
上記で得られた窒素ガス吸着等温線を使用し、BET解析により、得られた曲線から多点法により相対圧P/P0=0.007以上0.1以下の領域での直線から比表面積を算出した。
【0051】
[遊離残留塩素ろ過能力試験]
JIS S3201「家庭用浄水器試験方法」に規定された遊離残留塩素ろ過能力試験の試験条件で下記「通水検体」をろ過流量10L/minで通水評価し、ろ過能力を算出した。
【0052】
[圧力損失測定]
上記「遊離残留塩素ろ過能力試験」の評価時通水圧損を測定した。
【0053】
[単位圧力当たりのろ過能力]
高い遊離残留塩素ろ過能力(高い除去性能)と低い圧力損失(低圧損化)を表す指標として単位圧力当たりのろ過能力を用いた。単位圧力当たりのろ過能力は以下の〔式2〕によってあらわされる。
【0054】
〔式2〕
(遊離残留塩素ろ過能力)÷(圧力損失)=(単位圧力当たりのろ過能力)
【0055】
[通水検体]
実施例、比較例に記載の活性炭素繊維を以下の寸法に成形したものを通水検体とした。
活性炭成型体外径:φ61mm
活性炭成型体内径:φ35mm
活性炭成型体長さ:245mm
【0056】
フィブリル化繊維状バインダーは、アクリル繊維状バインダーとして、日本エクスラン工業株式会社製のアクリル繊維Bi-PUL50TWFを、フィブリル化したものを用いた。
内部コアは、タキロンシーアイ株式会社製のトリカルパイプを用いた。
【0057】
[浄水フィルタの作製]
実施例に記載の活性炭素繊維とアクリル繊維状バインダーを所定の割合で、合計1.50kgとして、水道水を追加し、スラリー量を40リットルとした。
外径61mm、長さ245mmの成形金型にユニチカ株式会社製不織布エルベスWDO503を巻いた外径φ35mm、内径φ30mm、長さ245mmの前述の内部コアをセットし、内部コアをセットした成形金型でスラリーを吸引成形し、金型から脱離したものを湿潤状態の成型体として得た。
成形した湿潤状態の成型体を110℃で17時間加熱乾燥することにより外径がφ61mm内径φ35mm、長さ245mmの活性炭成型体を得た。
【0058】
[せん断条件]
比表面積が1700m/g以上1950m/g以下である株式会社アドール製のピッチ系活性炭素繊維H-15または比表面積が1100m/g以上1500m/g以下である株式会社アドール製のピッチ系活性炭素繊維A-10を乾式せん断機HOSOKAWA MICRON CROSS製AP-2を使用し、表1に示す条件でせん断を実施した。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例1]
表1で示すせん断条件2で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下の活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、実施例1とした。
【0061】
[実施例2]
表1で示すせん断条件2とせん断条件3で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下を50:50で混合した活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、実施例2とした。
【0062】
[実施例3]
表1で示すせん断条件1で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下の活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、実施例3とした。
【0063】
[実施例4]
表1で示すせん断条件1で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下の活性炭素繊維を日本エクスラン工業株式会社製 Bi-PUL50TWFを使用し、アクリル繊維状バインダーの配合比を2質量%とし、[通水条件]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、実施例4とした。
【0064】
[比較例1~3]
アドール製ピッチ系活性炭素繊維H-15を工業用ビーターを使用し、せん断したものを日本エクスラン工業株式会社製 Bi-PUL50TWFを使用し、[通水条件]に示すサイズの活性炭成型体を作製した。なお、工業用ビーターでのせん断条件を、活性炭成型体中の活性炭素繊維量が70g程度になるように調整したものを比較例1、活性炭素繊維量が80g程度に調整したものを比較例2、活性炭素繊維量が90gに調整したものを比較例3とした。
【0065】
[比較例4]
表1で示すせん断条件3で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下の活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、比較例4とした。
【0066】
[比較例5]
表1で示すせん断条件4で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下の活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、比較例5とした。
【0067】
[比較例6]
表1で示すせん断条件2で処理した比表面積1100m/g以上1500m/g以下の活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、比較例6とした。
【0068】
[比較例7]
表1で示すせん断条件3で処理した比表面積1100m/g以上1500m/g以下の活性炭素繊維を用いて、日本エクスラン工業株式会社製のBi-PUL50TWFにより、[通水検体]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、比較例7とした。
【0069】
[比較例8]
表1で示すせん断条件1で処理した比表面積1700m/g以上1950m/g以下の活性炭素繊維を日本エクスラン工業株式会社製 Bi-PUL50TWFを使用し、アクリル繊維状バインダーの配合比を15質量%とし、[通水条件]に示すサイズの活性炭成型体を作製し、比較例8とした。
【0070】
実施例、比較例における個数分布を表2、3に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
活性炭素繊維の繊維長データと遊離残留塩素のろ過能力を表4、5に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
表4、5から明らかなように、実施例に係る活性炭フィルタはいずれも単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力が高い(例えば、6.0ton/kPa以上)、すなわち圧力損失が低く、除去性能が高いことを示している。特に繊維長1000μm以上の繊維を含有していない実施例1では非常に優れた単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力を示した。また実施例3の結果より、せん断条件の異なる活性炭素繊維を混合した場合であっても繊維長の個数分布が所定の範囲であれば優れた単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力を示した。
これに対し、比較例1~3の工業用ビーターによる湿式せん断では繊維長100μm以下の割合と繊維長1000μm以上の割合が多く、単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力が劣っていた。
一方、乾式せん断機を使用した比較例4、5では繊維長1000μm以上の割合が多く、単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力が劣っていた。
【0077】
尚、バインダーの含有率に関しては、実施例1~3のバインダーの含有率が7質量%の場合に比べ、実施例4のようにバインダーの含有率を2質量%に減らした場合、単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力が向上した。
【0078】
活性炭素繊維の繊維長データ、比表面積と遊離残留塩素のろ過能力を表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
表6から明らかなように、比表面積が低い比較例6、7では実施例1に比べて単位圧力当たりの遊離残留塩素ろ過能力が劣っていた。
【0081】
本発明の活性炭成型体は、家庭用、業務用に係わらず、各種の浄水器等において、浄水フィルタとして広く利用することができる。
【0082】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器は、高い除去性能と低圧損化の両立を図り得る成型体、浄水フィルタ、浄水カートリッジ、及び浄水器として、有効に利用可能である。

【手続補正書】
【提出日】2023-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭素繊維を含む成型体であって、
前記活性炭素繊維の繊維長の個数分布が以下の(第1条件)と(第2条件)と(第3条件)とを満たし、フィブリル化繊維状バインダーを含む成型体。
(第1条件)繊維長100μm未満の活性炭素繊維が14.87%以上28%以下。
(第2条件)繊維長100μm以上1000μm未満の活性炭素繊維が72%以上85%以下。
(第3条件)繊維長1000μm以上の活性炭素繊維が0%以上0.13%以下。
【請求項2】
前記フィブリル化繊維状バインダーがアクリル繊維である請求項1に記載の成型体。
【請求項3】
前記活性炭素繊維の平均繊維径が少なくとも30μm以下である請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項4】
窒素吸着等温線から算出した前記活性炭素繊維のBET比表面積が少なくとも1500m/gを超える請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項5】
前記活性炭素繊維がピッチ系活性炭素繊維である請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項6】
密度が0.10g/cc以上0.35g/cc以下である請求項1又は2に記載の成型体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の成型体を有する浄水フィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載の浄水フィルタを有する浄水カートリッジ。
【請求項9】
請求項8に記載の浄水カートリッジを有する浄水器。