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特開2024-106166走査プローブ顕微鏡用の探針とその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106166
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】走査プローブ顕微鏡用の探針とその作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/16 20100101AFI20240731BHJP
   G01Q 60/60 20100101ALI20240731BHJP
【FI】
G01Q60/16 111
G01Q60/60 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010322
(22)【出願日】2023-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的研究推進事業(さきがけ)」における「ナノテクノロジー・材料[革新光] 革新的光科学技術を駆使した最先端科学の創出」に関する「電気化学デバイスの分子スケール制御に向けた近接場基盤技術の創成」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】横田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】小林 柚子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康史
(57)【要約】
【課題】電気化学走査トンネル顕微鏡等の走査プローブ顕微鏡用の探針の強度を、探針に使用される金属の種類によらずに確保できるようにする。
【解決手段】走査プローブ顕微鏡用の探針10は、絶縁材料で形成された針本体1と導電性材料部3と金属部2を備える。針本体1は、絶縁材料で形成されている。針本体1は、内部領域4を区画する内周面1aと、先端面1bとを有する。内部領域4は、針本体1の中心軸Cの方向に先端面1bまで延びている。導電性材料部3は、内部領域4に設けられる。金属部2は、探針10の先端部を構成するように導電性材料部3に結合されている。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査プローブ顕微鏡用の探針であって、
絶縁材料で形成された針本体と、
金属材料で形成され、前記針本体の先端側に位置して前記探針の先端部となる金属部と、を備える、探針。
【請求項2】
前記針本体は、内部領域を区画する内周面と、先端面とを有し、前記内部領域は、前記針本体の中心軸の方向に前記先端面まで延びており、
前記内部領域に設けられた導電性材料部を備え、
前記金属部は、前記探針の前記先端部を構成するように前記導電性材料部に結合されている、請求項1に記載の探針。
【請求項3】
前記針本体は、石英を含む前記絶縁材料で形成されたピペットである、請求項2に記載の探針。
【請求項4】
前記内部領域は、前記針本体の中心軸の方向に前記針本体を貫通するように形成されている、請求項2に記載の探針。
【請求項5】
前記金属材料は、金、銀、銅、又はアルミニウムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の探針。
【請求項6】
前記金属材料は、超伝導を示す金属であり、又は、磁性を示す金属である、請求項1~4のいずれか一項に記載の探針。
【請求項7】
絶縁材料で形成された針本体を用いて走査プローブ顕微鏡用の探針を作製する方法であって、
前記針本体は、内部領域を区画する内周面と、先端面とを有し、
前記内部領域は、前記針本体の中心軸の方向に前記先端面まで延びており、
(A)前記内部領域に導電性材料部が設けられた前記針本体を用意し、
(B)前記針本体の先端側に位置する、前記導電性材料部の露出面に、前記探針の先端部となる金属部を形成する、探針の作製方法。
【請求項8】
前記(A)において、
(A1)石英を含む前記絶縁材料で形成されたピペットを前記針本体として用意し、
(A2)前記ピペットの内部空間である前記内部領域に前記導電性材料部を設ける、請求項7に記載の探針の作製方法。
【請求項9】
前記(B)において、前記導電性材料部の前記露出面を、溶液中に位置させ、電析又は無電解メッキにより、前記溶液中における金属イオン又は金属の錯イオンから前記露出面に前記金属を析出させることにより、前記金属部を形成する、請求項7又は8に記載の探針の作製方法。
【請求項10】
前記(B)において、前記導電性材料部を陰極として、前記導電性材料部の前記露出面と陽極を前記溶液中に位置させた状態で、前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加する電析により、前記溶液中の金属イオン又は金属の錯イオンから前記露出面に前記金属を析出させる、請求項9に記載の探針の作製方法。
【請求項11】
前記(B)において、前記電析により前記金属部を形成する場合に、前記露出面に析出した前記金属の部分にレーザ光を照射し、当該金属の部分を経由した当該レーザ光に対する、前記試料からのラマン散乱光を検出する、請求項10に記載の探針の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)、電気化学走査トンネル顕微鏡(EC-STM:Electrochemical STM)などに代表される走査プローブ顕微鏡用の探針とその作製方法に関する。また、本発明は、走査プローブ顕微鏡において探針増強ラマン散乱(TERS:Tip-enhanced Raman Spectroscopy)分光法に使用可能な探針とその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査プローブ顕微鏡では、測定対象である試料の表面に探針を近づけ又は接触させて、試料の表面形状等を測定する。
【0003】
走査プローブ顕微鏡が走査トンネル顕微鏡(STM)である場合には、金属製の探針の先端を、試料の表面に近づけて、探針と試料との間にバイアス電圧を印加する。その結果、トンネル効果により探針と試料との間に、非常に小さなトンネル電流(ナノアンペアオーダーの電流)が流れる。このようなトンネル電流に基づいて試料の表面形状を測定する。例えば、トンネル電流が一定になるように、試料の表面を探針で走査することで、試料の表面形状を測定する。
【0004】
STMと電気化学を組み合わせたEC-STMの場合には、試料、探針の先端部、対極、および参照電極を、電解液中に配置した状態で、試料と対極との間の電圧により電気化学反応を生じさせながら、試料表面と探針先端との間のトンネル電流に基づいて試料表面の形状を測定できる。これにより、例えば、電気化学反応による試料表面の変化を、その場で観察できる(例えば下記の特許文献1を参照)。
【0005】
また、走査プローブ顕微鏡において、探針増強ラマン散乱(TERS)分光法を行うことも提案されている。この場合、探針を用いて試料の表面形状を測定することに加えて、特定の波長のレーザ光を探針の先端部に照射する。このレーザ光により、当該先端部で局在光を生じさせ、当該局在光により、レーザ光に対する試料でのラマン散乱が誘起される。すなわち、探針の先端部により、レーザ光に対する試料からのラマン散乱光を増強する(この性能を以下で単にラマン散乱光増強性能ともいう)。このように増強されたラマン散乱光のスペクトルを検出し、検出したスペクトルに基づいて、試料の物性などを分析することができる(例えば下記の特許文献2を参照)。
【0006】
EC-STMにおいてTERS分光法を行う場合には、増強されたラマン散乱光のスペクトルに基づいて、電気化学反応により試料表面で何が行っているのかを調べることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-276488号公報
【特許文献2】特開2022-122577号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Song Jiang et al., “Investigation of Cobalt Phthalocyanine at the Solid/Liquid Interface by Electrochemical Tip-Enhanced Raman Spectroscopy”, The Journal of Physical Chemistry C 123(15):9852-9859, April 2019
【非特許文献2】Yasufumi Takahashi et al., “Multifunctional Nanoprobes for Nanoscale Chemical Imaging and Localized Chemical Delivery at Surfaces and Interfaces”, Angewandte Chemie International Edition, Volume 50, Issue 41, Pages 9638-9642, 4 October 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来において以下の課題(a)及び(b)がある。
【0010】
(a)従来におけるEC-STM等に用いられる探針は、金(Au)などの金属で形成された針本体と、当該針本体の先端部以外の外面に形成された絶縁体被膜とを有する。絶縁体被膜は、電解液中の探針における漏れ電流を抑えるために設けられる。すなわち、探針の先端と試料との間のトンネル効果によらない漏れ電流を抑えるために、針本体の先端以外を絶縁体被膜で覆う。このように金属製の針本体の先端を露出しつつ、漏れ電流を抑えるように針本体の先端以外を絶縁体被膜で覆う被覆処理は、困難であり、その成功率は低かった。すなわち、金属製の針本体の先端の露出と、漏れ電流を抑えるための絶縁体被膜の形成とを両立させることは困難であった。従来において、例えば蝋を絶縁体被膜とする場合に、蝋を溶かした状態で被覆処理を行うが、上記のような両立を達成するには高度な職人技が必要だった。
【0011】
(b)TERS分光法において、上述のようにラマン散乱光を増強させる探針先端の光学的性質を変えるのは困難であった。例えば、TERS分光法に使用するレーザ光の波長に応じて、探針先端の寸法や形状を良好なラマン散乱光増強性能が得られるように変えることは困難であった。
【0012】
本発明の目的は、上述した課題(a)及び(b)の少なくとも一方を解決できる等の新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による探針は、走査プローブ顕微鏡用の探針であって、
絶縁材料で形成された針本体と、
金属材料で形成され、前記針本体の先端側に位置して前記探針の先端部となる金属部と、を備える。
【0014】
本発明による探針の作製方法は、絶縁材料で形成された針本体を用いて走査プローブ顕微鏡用の探針を作製する方法であって、
前記針本体は、内部領域を区画する内周面を有し、当該内部領域は、前記針本体の先端側において前記針本体の外部への開口部を含み、
(A)前記開口部を塞ぐように導電性材料部が前記内部領域に設けられた前記針本体を用意し、
(B)前記導電性材料部において前記針本体の外部に露出する露出面に、金属で形成され前記探針の先端部となる金属部を形成する、探針の作製方法。
【0015】
このように、上述した探針またはその製造方法によると、針本体自体が絶縁材料で形成されるので、針本体を通した漏れ電流を防止できる。また、金属部が探針の先端部として(例えば電析又は無電解メッキによって)形成される。これにより、探針の先端部としての金属部を露出させることができる。よって、探針において、漏れ電流を抑えるための絶縁と、探針の先端部となる金属部の露出とを確実に両立させることができる。
【0016】
また、上述の作製方法において、前記導電性材料部の前記露出面を、溶液中に位置させ、電析又は無電解メッキによって、前記溶液中における金属イオン又は金属の錯イオンから前記露出面に前記金属を析出させることで、探針の先端部となる前記金属部を形成してよい。
【0017】
この場合、金属部を形成するための上記電析の条件を変えることで、探針先端の光学的性質を変えることができる。例えば、TERS分光法に使用するレーザ光の波長に応じて、電析の条件を調整することにより、当該波長のレーザ光に関して良好なラマン散乱光増強性能を有する探針先端を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、次の効果1、2の少なくともいずれかを奏する等の探針が得られる。
【0019】
(効果1)
漏れ電流を抑えるための絶縁と、探針の先端部となる金属部の露出とを確実に両立させることができる。
【0020】
(効果2)
探針先端の光学的性質を変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】本発明の実施形態による探針の全体を示す。
図1B図1Aの1B-1B線断面図である。
図2A図1Bの部分拡大図であり、探針の先端部を示す。
図2B図2Aにおいて、導電性材料部が設けられていない状態を示す。
図3図2BのIII-III矢視図である。
図4】本発明の実施形態による、探針の作製方法を示すフローチャートである。
図5図5は、探針の作製方法において電析を行う場合の説明図である。
図6】電析中にラマン散乱光を検出する場合の説明図である。
図7A】本発明の実施例による探針を用いたEC-STMにより取得した試料表面の画像を示す。
図7B図7Aの画像中に表示した白線上の各位置での試料表面の高さを示す。
図8】本発明の実施例による探針を用いたTERS分光法で得られたラマン散乱光の検出データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
本発明の実施形態による探針は、走査プローブ顕微鏡に用いられるものである。ここで、走査プローブ顕微鏡は、測定対象である試料の表面に、本実施形態による探針の先端を近づけ又は接触させて当該探針の先端と試料との間の相互作用を検出し、検出した相互作用に基づいて試料の表面形状又は物性を測定するものである。
【0024】
より詳しくは、上記の走査プローブ顕微鏡は、例えば、走査トンネル顕微鏡(STM)、電気化学走査トンネル顕微鏡(EC-STM)、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)、又は電気化学原子間力顕微鏡(EC-AFM)であってよいし、他の走査プローブ顕微鏡であってもよい。本実施形態による探針が、STM用またはEC-STM用のものである場合には、上記相互作用は、探針(後述の導電性材料部3)と試料との間に印加したバイアス電圧により、探針の先端と試料との間に流れるトンネル電流である。本実施形態による探針が、AFM用またはEC-AFM用のものである場合には、上記相互作用は、探針の先端と試料との間に生じる原子間力である。なお、本実施形態による探針が、AFM用またはEC-AFM用のものである場合は、探針は、カンチレバーの自由端や音叉(quartz tuning fork)などの先端に設けられるものであってよい。
【0025】
また、本実施形態による探針は、上記の走査プローブ顕微鏡において上述した探針増強ラマン散乱(TERS)分光法に使用可能な探針であってもよい。この場合、探針により試料の表面形状等を測定しつつ、レーザ光を探針の先端部に照射する。探針の先端部(後述の金属部2)により、レーザ光に対する試料でのラマン散乱光が増強される。したがって、探針による試料の表面形状等の測定に加えて、増強されたラマン散乱光のスペクトルを検出できる。
【0026】
(探針の構成)
図1Aは、本発明の実施形態による探針10の全体を示す。図1Bは、図1Aの1B-1B線断面図である。図2Aは、図1Bの部分拡大図であり、探針10の先端部を示す。図2Bは、図2Aにおいて、後述の導電性材料部3が設けられていない状態を示す。図3は、図2BのIII-III矢視図である。
【0027】
探針10は、図1Aなどに示すように、針本体1と金属部2と導電性材料部3を有する。
【0028】
針本体1は、電気に対して絶縁性を有する材料(以下で単に絶縁材料という)で形成されている。針本体1を形成する絶縁材料は、金よりも硬度の高い材料であってよい。この絶縁材料は、石英を含むものであってよい。この場合、針本体1は、石英のみから形成されていてもよいし、石英を主成分とするガラスから形成されていてもよい。なお、絶縁材料は、他の材料であってもよい。
【0029】
針本体1を形成する絶縁材料が石英を含む場合、針本体1は、ピペットであってよい。この場合、当該ピペットは、石英のみから形成されたピペット(石英ガラスピペット)であってよい。このように、石英によって高い強度を有しているピペットを、針本体1として用いることができる。
【0030】
針本体1は、内部領域4を区画する内周面1aと、先端面1bを有する。内部領域4は、針本体1の中心軸Cの方向に先端面1bまで延びている。すなわち、内部領域4は、針本体1の先端側において針本体1の外部への開口部4aを有する。開口部4aは、針本体1の先端面1bにおいて開口している。また、針本体1の外周面1cは、探針10の外周面であってよい。なお、開口部4aは、針本体1の先端面1b近傍の領域であり、針本体1の先端面1bに形成された開口1dを含む。なお、内部領域4は、針本体1の中心軸Cの方向に針本体1を貫通していてよい。このような針本体1は、従来において金属(例えば金)の針本体の外周面に形成される絶縁体被膜と違って、単体で存在し得るもの(例えば上述のピペット)であってよい。
【0031】
上述の開口1dの寸法D(図2B)は、例えば、200nm以下または100nm以下であってよい。この場合、開口1dの寸法Dは、10nm以上、30nm以上、または50nm以上であってよい。ただし、本発明によると、開口1dの寸法Dは、これらの範囲に限定されない。なお、開口1dの寸法Dとは、開口1dが図3のように円形である場合には、開口1dの直径である。開口1dが円形以外の形状を有する場合には、開口1dの寸法Dは、針本体1の中心軸Cに直交する各方向における開口1dの寸法のうち最大の寸法である。
【0032】
針本体1は、以下の厚みを有していてよい。ここで、針本体1の厚みは、針本体1の中心軸Cと直交する方向における、針本体1の内周面1aから外周面1cまでの距離を意味する。針本体1の厚みTは、例えば、数十nm以上数百nm以下であってよく、針本体1の先端では、数十nm以上(例えば20nm以上)であり100nm以下であってよい。ただし、針本体1の厚みは、これらの数値範囲に限定されない。
【0033】
針本体1は、針本体1の後端側部分を構成する胴体部11と、針本体1の先端側部分を構成するテーパ部12を有していてよい。
【0034】
胴体部11において、針本体1の中心軸Cに直交する平面による内部領域4の断面(以下で単に断面という)の面積と形状は、針本体1の中心軸Cの方向における位置によらず一定であってもよい。この場合、胴体部11は、例えば円筒形状を有していてよい。胴体部11において、内部領域4の断面の寸法は、例えば数百nm以上であり数百μm以下であってよいが、この数値範囲に限定されない。ここで、寸法とは、針本体1の中心軸Cに直交する各方向における内部領域4の断面の寸法うち最大の寸法である。
【0035】
テーパ部12は、胴体部11の先端から探針10の先端側に延びている。テーパ部12は、探針10の先端側に向かって先細りする形状を有する。すなわち、テーパ部12において内部領域4の断面は、探針10の先端側に移行するにつれて小さくなっている。テーパ部12の先端面が、針本体1の先端面1bである。
【0036】
導電性材料部3は、開口部4a(例えば開口部4a全体)を塞ぐように針本体1の内部領域4に設けられる。導電性材料部3は、導電性を有する材料で形成されている。当該材料は、例えば固体炭素(焼成カーボン)であってよい。
【0037】
導電性材料部3は、図1Bのように、内部領域4のうち少なくとも針本体1の先端側部分に設けられる。この場合、導電性材料部3は、一例では、図1Bのように当該先端側部分の全体に隙間なく充填されていてよい。図1Bのように、導電性材料部3が、内部領域4のうち針本体1の先端側部分のみに設けられる場合には、内部領域4における針本体1の後端側部分は、空間となっていてよい。なお、導電性材料部3は、内部領域4の全体に設けられてもよい。この場合、導電性材料部3は、一例では、内部領域4の全体に隙間なく充填されていてよい。
【0038】
なお、探針10がSTM、EC-STM等に用いるものである場合には、針本体1の後端側から導電性材料部3に導線が接続されてよい。この場合、当該導線を介して導電性材料部3と試料との間にバイアス電圧が印加されてよい。
【0039】
金属部2は、針本体1の先端側に位置して探針10の先端部を構成する。金属部2は、上記の走査プローブ顕微鏡において、試料との間で上述の相互作用を生じさせる機能を有する。
【0040】
金属部2は、導電性材料部3に結合されている。より詳しくは、金属部2は、針本体1の中心軸Cの方向における導電性材料部3の先端面3aに結合している。なお、中心軸Cの方向において、導電性材料部3の先端面3aの位置は、図2Aのように針本体1の先端面1b(開口1d)の位置と実質的に一致していてもよいし、針本体1の先端面1bから針本体1の先端側又は後端側にずれていてもよい。
【0041】
金属部2は、ラマン散乱光増強性能を得ることを可能にする金属材料で形成されてよい。このような金属材料は、例えば、金、銀、銅、又はアルミニウムであってよいが、これらに限定されない。
【0042】
また、金属部2は、ラマン散乱光増強性能を得ることを可能にする寸法を有してよい。この場合、金属部2の寸法(例えば、針本体1の中心軸Cの方向における寸法、又は、針本体1の中心軸Cと直交する方向における寸法)は、10nm程度以上であってよく、或いは、100nm程度以下であってよく、或いは、10nm程度以上であり100nm程度以下であってよい。
【0043】
(探針の作製方法)
図4は、本発明の実施形態による、探針の作製方法を示すフローチャートである。上述した探針10は、この作製方法により作製されるものであってよい。この作製方法では、上述した内部領域4としての内部空間を有する針本体1を用いて走査プローブ顕微鏡用の探針10を作製する。この内部空間4は、上述したように、針本体1の先端側において針本体1の外部への開口部4aを有している。
【0044】
本実施形態による、探針10の作製方法は、ステップS1~S4を有する。
【0045】
ステップS1において、絶縁材料で形成された針本体1を用意する。すなわち、その内部空間4に導電性材料部3がまだ設けられていない上述した針本体1を用意する。例えば、針本体1として、上述のピペットを用意してよい。
【0046】
ステップS2において、ステップS1で用意した針本体1の開口部4aを塞ぐように、針本体1の内部空間4に導電性材料部3を設ける。ステップS2により針本体1の内部空間4に設けた導電性材料部3は、針本体1の先端側へ針本体1の外部に露出する露出面3aを有している。この露出面3aは、導電性材料部3の先端面であってよい。また、露出面3aは、例えば、針本体1の中心軸Cの方向において、針本体1の先端面1bと実質的に同じ位置にあってよい。ただし、この露出面3aは、針本体1の軸方向において、針本体1の先端面1bから針本体1の先端側又は後端側にずれて位置していてもよい。
【0047】
また、ステップS2により内部空間4に設けられた導電性材料部3は、針本体1の内部空間4に保持される。例えば、導電性材料部3は、針本体1の内周面1aに結合されていてよい。
【0048】
ステップS2では、例えば、内部空間4にブタンガスを供給した状態で、針本体1を加熱することにより、ブタンガスから固体炭素(焼成カーボン)を導電性材料部3として針本体1の内部空間4に堆積させることにより、針本体1の内部空間4に導電性材料部3を設ける。この時、針本体1(例えばテーパ部12)を加熱することにより、針本体1(例えばテーパ部12)の内部空間4に固体炭素(焼成カーボン)を形成することができる。このような固体炭素の形成方法は、例えば非特許文献2に記載されている。
【0049】
なお、他の方法により、ステップS2を行ってもよい。例えば、ステップS1とステップS2を同時に行ってよい。この場合、石英を主成分とするガラスから形成され又は石英のみから形成された細管の内部に金属細線を封入する。この状態で、細管の中間部をレーザ等により加熱する。これにより当該中間部(及びその内側の金属細線)が柔らかくなる。この状態で、細管を引き延ばすように細管の端部(例えば両端部)を引っ張る。これにより、細管の中間部(及びその内側の金属細線)は更に細く引き伸ばされる。その後、当該中間部を適宜の手段(例えば集光イオンビーム)で切断することにより、導電性材料部3が上述のように内部領域4に設けられた2つの針本体が得られる。
【0050】
ステップS3において、上述のように針本体1の内部領域4に設けた導電性材料部3の露出面3aに、探針10の先端部となる金属部2を形成する。例えば、ステップS3において、導電性材料部3の露出面3aを、溶液中に位置させ、電析又は無電解メッキによって、当該溶液中の金属イオン又は金属の錯イオンから露出面3aに金属を析出させることで金属部2を形成する。なお、金属イオン又は金属の錯イオンは、金属部2を形成する金属のイオン又は当該金属の錯イオンを意味する(以下同様)。
【0051】
ステップS3の電析又は無電解により露出面3aに析出させる金属は、ラマン散乱光増強性能を得ることを可能にする金属であってよい。当該金属は、例えば、金、銀、銅、又はアルミニウムであるが、これらに限定されない。
【0052】
或いは、ステップS3の電析又は無電解により露出面3aに析出させる金属は、超伝導を示す金属であってもよい。当該金属は、例えば液体ヘリウムの沸点温度(-268.8℃)以下で超伝導を示すものであってよいが、他の温度で超伝導を示すものであってもよい。このような金属は、例えば鉛又はニオブであってよいが、これらに限定されない。
【0053】
或いは、ステップS3の電析又は無電解により露出面3aに析出させる金属は、低温で磁性を示す金属であってもよい。当該金属は、例えば液体ヘリウムの沸点温度(-268.8℃)以下で磁性を示すものであってよいが、温度に関わらず磁性を示すものであればよい。このような金属は、例えばクロムであってよいが、これに限定されない。
【0054】
<電析の場合>
ステップS3において電析により金属部2を形成する場合には、ステップS3において、導電性材料部3を陰極として、導電性材料部3の露出面3aと陽極を溶液中に位置させた状態で、当該陰極と当該陽極との間に電圧を印加する電析により、当該溶液中の金属イオン又は金属の錯イオンから露出面3aに金属を析出させる。
【0055】
図5は、ステップS3を電析で行う場合の説明図である。図5のように、上述の溶液21を所定の容器22内に保持させ、この溶液21内に上述のように導電性材料部3の露出面3aと上記陽極23を溶液21中に位置させる。
【0056】
また、図5のように、導電性材料部3と陽極23は、電源装置24に接続される。例えば、針本体1の後端側から内部空間4に導線25を挿入することにより、導線25の一端部を導電性材料部3に接触させる。導線25の他端部は、電源装置24の負極に接続する。また、電源装置24の正極を陽極23に接続する。
【0057】
図5のように各部を配置したら、電源装置24のスイッチ(図示せず)をオンすることにより、導電性材料部3と陽極23との間に電圧を印加する。これにより、溶液21中の金属イオン又は金属の錯イオンは、陰極としての導電性材料部3の露出面3aにおいて電子を受ける。その結果、露出面3aにおいて、金属イオン又は金属の錯イオンから金属が析出して金属部2が形成される。
【0058】
電析で行うステップS3で用いる溶液21は、金属イオン又は金属の錯イオンを予め含むものであってもよい。この場合、陽極23は不活性な電極であってよい。金属部2を金で形成する場合には、溶液21は、一例では、金の錯イオンであるテトラクロロ金(III)酸イオン[AuClを硫酸HSOで希釈したものであってよい。
【0059】
或いは、電析で行うステップS3において、溶液21中の金属イオン又は金属の錯イオンは、陽極23から供給されてもよい。すなわち、電源装置24の電圧により、陽極23を構成する当該金属が電子を放出して金属イオン又は金属の錯イオンとなって溶液21中に溶ける。
【0060】
<電析中にラマン散乱光を測定する場合>
ステップS3の電析を行っている時に、ステップS4において、、露出面3aに析出した当該金属の部分にレーザ光を照射し、当該金属の部分を経由した当該レーザ光に対する、試料からのラマン散乱光を検出してもよい。ここで、レーザ光は、単一波長のレーザ光であってよい。また、針本体1の先端を、例えば、試料の表面に近づけた状態で、ステップS4を行ってもよい。ただし、ステップS4において、後述のように良好なラマン散乱光増強効果の有無を確認できれば、針本体1の先端は、試料の表面から離れていてもよい。
【0061】
図6は、このようにラマン散乱光を検出する場合の説明図である。試料31の表面31aを溶液21中に位置させる。例えば、図6のように、試料31の表面31aが容器22の底面を形成してもよい。この場合、容器22は、試料31と、溶液21を収容する内側を囲む壁部22aと、壁部22aの下端と試料31の表面31a(上面)とを液密に結合させるシール部材22bとにより構成されてよい。
【0062】
また、容器22内の溶液21中において、針本体1の先端を試料31の表面31aに近づけた状態でステップS3の電析を行ってもよい。例えば、後述のレーザ照射装置26からのレーザ光のスポット内(回折限界のレーザスポット)内に針本体1の先端と試料31の表面31aが位置するようにしてもよい。
【0063】
更に、図6のように、レーザ照射装置26と検出装置27を配置する。ステップS3の電析を行っている時に、レーザ照射装置26は、針本体1の先端側に位置する露出面3aに析出する上記金属の部分に単一波長のレーザ光を照射する。検出装置27は、当該レーザ光に対する、試料31からのラマン散乱光(例えば当該ラマン散乱光のスペクトル)を検出する。レーザ照射装置26と検出装置27は、例えば公知のものであってよいので、これらの構成の詳しい説明を省略する。
【0064】
ステップS4で検出したラマン散乱光(例えば特定の波長でのラマン散乱光)の強度が、所定値以上となったら、電源装置24による、導電性材料部3と陽極23との間への電圧印加を停止してステップS3の電析を終了させてよい。例えば、ステップS3を行っている時に、ステップS4を継続的に又は繰り返し行い、所定値以上の強度のラマン散乱光が検出されたら、ステップS3の電析を終了させてよい。これにより、ラマン散乱光増強性能が確認された探針10が得られる。
【0065】
なお、検出装置27により検出されたラマン散乱光の強度(例えばラマン散乱光のスペクトル)を表示するディスプレイ28が設けられてよい。ステップS4において、ディスプレイ28に表示されたラマン散乱光の強度に基づいて人が電源装置24を操作することにより、電源装置24から陽極23への電流を停止してステップS3の電析を終了させてよい。或いは、検出装置27により検出されたラマン散乱光の強度が制御装置29に入力され、制御装置29は、入力された当該強度が所定値以上になったら、電源装置24から陽極23への電流を停止するように電源装置24を制御してもよい。
【0066】
一方、予め定めた電析処理時間にわたってステップS3を行っても、所定値以上の強度のラマン散乱光が検出されない場合には、電析の条件を変更して、前回のステップS3で用いた針本体1とは別の新たな針本体1とのその内側の導電性材料部3に対してステップS3を再び行う。この再度のステップS3を行っている時に上述のようにステップS4を行う。このように、ステップS4で所定値以上の強度のラマン散乱光が検出されるまで(すなわち、良好なラマン散乱光増強効果が確認されるまで)、ステップS3を繰り返してよい。
【0067】
上述した電析の条件は、以下の(1)~(7)のうち、少なくともいずれかを含んでよい。
(1)電源装置24が導電性材料部3と陽極23との間に印加する電圧の大きさ
(2)電源装置24が陽極23に供給する電流の大きさ
(3)電源装置24が導電性材料部3と陽極23との間に印加する電圧の種類(例えば直流電圧、交流電圧、又はパルス電圧)
(4)電源装置24が陽極23に電流を供給する時間(すなわち、上述の電析処理時間)
(5)適宜の温度調節装置により調節される、容器22内の溶液21の温度
(6)溶液21の組成
(7)溶液21中における上記金属イオン又は金属の錯イオンの濃度
【0068】
なお、上記(3)について、電圧の種類が交流電圧である場合、金属部2が形成されるように、交流の各サイクルにおいて、陽極23に負電圧が印加される時間を、陽極23に正電圧が印加される時間よりも短くしてよい。
【0069】
(実施形態の効果)
<EC-STM等に用いられる探針としての効果>
本実施形態による探針10では、針本体1自体が絶縁材料で形成されているので、針本体1を通した漏れ電流を確実に防止できる。また、導電性を有する金属部2を、針本体1の内側領域4の導電性材料部分3の先端面3a(露出面)に電析又は無電解メッキによって形成できる。これにより、探針10の先端部としての金属部2を確実に露出させることができる。よって、漏れ電流を抑えるため絶縁と、探針10の先端部となる金属部2の露出とを確実に両立させることができる。
【0070】
本実施形態による探針10は、絶縁材料で形成された針本体1の先端側に探針10の先端を構成する金属部2を設けたものである。したがって、針本体1が強度を有していればよいので、柔らかく物理的安定性に欠ける材料(例えば金)で金属部2が形成される場合でも、針本体1の強度により、物理的安定性の高い探針10を実現できる。例えば、上記絶縁材料としての石英で針本体1を形成することにより、石英の強度で非常に安定した探針10を実現できる。
【0071】
本実施形態では、探針10の先端を構成する金属部2を電析又は無電解メッキで形成する。これにより、バルク量で得にくい金属や、電気化学的なエッチングによる加工が困難な金属であっても、当該金属により先端が構成された探針10を得ることが可能となる。
【0072】
電析又は無電解めっきにより露出面3aに析出した金属の量で、EC―STM用の探針10の先端と試料とのトンネル効果によらない漏れ電流量を制御することが可能となる。
【0073】
電析又は無電解メッキにより金属部2を形成できさせすれば、金属の種類によらず、探針10の先端としての金属部2を形成できる。
【0074】
金により金属部2を形成する場合には、探針10を濃硫酸、ピランハ溶液、有機溶媒等で洗浄することができるので、長期に保存した探針10であっても清浄な探針として利用できる。これに対し、従来のように有機系の絶縁体で被膜した探針の場合には、濃硫酸等で洗浄することができない。
【0075】
なお、このような効果の全て又は一部が得られる探針10は、EC-STM用に限定されず、大気中などで試料の表面形状を測定するSTM用や、AFM用、EC-AFM用の探針として用いることも可能である。また、金属部2を、超伝導または磁性を示す金属で形成する場合には、本実施形態の探針10を、物性物理系のSTM用の探針とすることができる。
【0076】
<ラマン散乱光増強性能を有する探針としての効果>
金属部2を形成する金属が、ラマン散乱光増強性能を得ることを可能にする金属(例えば、金、銀、銅、又はアルミニウム)である場合には、本実施形態による探針10は、走査プローブ顕微鏡においてTERS分光法に使用可能である。
【0077】
電析により金属部2を形成する場合に、上述のステップS4のように、金属部2の形成中に、検出したラマン散乱光からラマン散乱光増強性能の有無を確認できる。したがって、金属部2の形成中に、ラマン散乱光増強性能を確認できたものを、作製された探針10とすることができる。よって、良好なラマン散乱光増強性能を有する探針10を安定的に作製することが可能となる。
【0078】
針本体1の先端面1bにより区画される開口1dの寸法により、露出面3aや金属部2の実質的な大きさが定まる。これにより、金属部2により増強される光の実質的な波長を定めることができる。
【0079】
金属部2を形成するための電析の条件を変えることで、探針先端(金属部2)の光学的性質を変えることができる。例えば、TERS分光法に使用するレーザ光の波長に応じて、電析の条件を調整することにより、当該波長のレーザ光に関して良好なラマン散乱光増強性能を有する探針先端を形成することができる。例えば、電析の条件を変えることにより、探針10の先端を構成する金属部2の形状や寸法を変えることができる。これにより、金属部2の光学的性質を制御することが可能となる。例えば、ラマン散乱光増強性能が得られやすい形状の金属部2を形成することが可能となる。
【0080】
<EC-STM等においてTERS分光法を行える探針としての効果>
本実施形態による探針10を、EC-STMまたはEC-AFMにおいてTERS分光法を行える探針10とすることができる。この場合、例えば、EC-STM用の探針10としての上述の効果と、ラマン散乱光増強性能を有する探針10としての上述の効果の両方を得ることができる。
【0081】
<SECM)等に用いる場合の効果>
TERS分光法に利用可能な本実施形態による探針10を、走査型電気化学顕微鏡(SECM:Scanning Electrochemical. Microscope)、走査型イオン伝導顕微鏡(SICM:Scanning Ion Conductance Microscope)、又は走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM:Scanning Electrochemical Cell Microscope)に適用又は追加できる。これにより、これらの顕微鏡において、TERS分光法を行えるという付加価値が得られる。
【0082】
(実施例)
上述した探針10の実施例を説明する。実際に作製した実施例の探針10では、針本体1は石英で形成されたピペットであり、導電性材料部3は、上述のようにブタンガスから形成された固体炭素であり、金属部2は、電析により金で形成されたものである。
【0083】
この探針10を、EC-STM顕微鏡の探針として用いて、試料の表面形状を測定した。ここで、試料は、ターフェニルチオール単分子膜である。
【0084】
図7Aは、測定された試料の表面を表わすEC-STM画像である。図7Bは、図7Aの画像中に表示した白線全体わたる表面の凹凸を示す。図7Bにおいて、横軸は、図7Aの白線上における位置を示し、縦軸は、試料表面の高さ(凹凸)を示す。
【0085】
図7A図7Bのように、作製した探針10をEC-STM顕微鏡の探針として使用できることが確認された。
【0086】
また、実施例の探針10を用いたEC-STMにおいて、探針10の先端部(金属部2)にレーザ光を照射して、当該レーザ光に対する上記試料のラマン散乱光を検出した。図8にその検出結果を示す。図8において、横軸は、検出されたラマン散乱光のラマンシフトを示し、縦軸は、ラマン散乱光の強度を示す。実施例の探針10によるラマン散乱光増強効果が、図8の検出結果から確認された。
【0087】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態による探針とその作製方法は、上述した複数の要素の全て有していなくてもよく、上述した複数の要素のうち一部のみを有していてもよい。また、本発明の実施形態による探針は、上述した効果の全てを有するものであってもよいし、上述した効果の一部のみを有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 針本体
1a 内周面
1b 先端面
1c 外周面
1d 開口
2 金属部
3 導電性材料部
3a 先端面(露出面)
4 内部領域(内部空間)
4a 開口部
10 探針
11 胴体部
12 テーパ部
21 溶液
22 容器
22a 壁部
22b シール部材
23 陽極
24 電源装置
25 導線
26 レーザ照射装置
27 検出装置
28 ディスプレイ
29 制御装置
31 試料
31a 試料の表面
C 中心軸
D 開口の寸法
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8