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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106172
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240731BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G21/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010332
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 浩崇
(72)【発明者】
【氏名】前田 裕之
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
【Fターム(参考)】
2H033AA14
2H033AA35
2H033BA08
2H033BE03
2H033CA13
2H033CA16
2H033CA22
2H033CA36
2H033CA40
2H270KA35
2H270LA31
2H270LA37
2H270LA70
2H270LA98
2H270LC02
2H270MA34
2H270MB30
2H270MB33
2H270MD10
2H270ZC03
(57)【要約】
【課題】定着ローラーの個体差または劣化状態に基づいて、定着ローラーの駆動モーターの回転数を調整する。
【解決手段】画像形成装置20は、未定着画像を媒体150に定着させる定着ローラー110と、定着ローラー110の駆動モーターと、画像形成装置20の状態に関する情報又は媒体150の状態に関する情報を取得する取得部と、駆動モーターの回転数を予め設定された上限値と下限値との間で制御する制御部200とを備える。制御部200は、取得部が取得した情報に基づいて、上限値と下限値との差を維持しつつ、上限値と下限値を変更する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未定着画像を媒体に定着させる定着ローラーと、
前記定着ローラーの駆動モーターと、
画像形成装置の状態に関する情報又は媒体の状態に関する情報を取得する取得部と、
前記駆動モーターの回転数を予め設定された上限値と下限値との間で制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記取得部が取得した情報に基づいて、前記上限値と前記下限値との差を維持しつつ、前記上限値と前記下限値を変更する、画像形成装置。
【請求項2】
前記画像形成装置の状態に関する情報は、前記定着ローラーの情報であり、
前記媒体の状態に関する情報は、前記媒体の搬送速度に関する情報であり、
前記定着ローラーの状態を判定する第1判定部と、
前記駆動モーターの状態又は前記媒体の搬送速度を判定する第2判定部とをさらに備え、
前記駆動モーターの回転数を予め設定された上限値と下限値との間で制御することは、前記第1判定部により判定した前記定着ローラーの状態に基づいて、前記駆動モーターの回転数を、前記上限値と前記下限値によって予め設定された範囲内で制御することを含み、
前記上限値と前記下限値との差を維持しつつ、前記上限値と前記下限値を変更することは、前記第2判定部により判定した前記駆動モーターの状態又は前記媒体の搬送速度に基づいて、前記範囲を変更することを含む、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
像担持体上の未定着画像を媒体に転写する転写部と、
前記転写部および前記定着ローラー間における前記媒体のループ量またはループの発生頻度を検知するループ検知部とをさらに備え、
前記第1判定部は、前記ループ量または前記ループの発生頻度に基づいて、前記定着ローラーの状態を判定する、請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記媒体の搬送経路に設置され、前記媒体が通過したことを検知する第1検知部と、
前記媒体の搬送経路において前記第1検知部より下流側に設置され、前記媒体が通過したことを検知する第2検知部とをさらに備え、
前記第1判定部は、前記第1検知部が検知したタイミングと前記第2検知部が検知したタイミングとの差分に基づいて、前記定着ローラーの状態を判定する、請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記第2判定部は、前記第1検知部が検知したタイミングと前記第2検知部が検知したタイミングとの差分に基づいて、媒体の搬送速度を判定する、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
像担持体上の未定着画像を媒体に転写する転写部と、
前記転写部および前記定着ローラー間における前記媒体のループ量またはループの発生頻度を検知するループ検知部とをさらに備え、
前記定着ローラーの状態を判定することは、前記制御部は、前記第1検知部が検知したタイミングと前記第2検知部が検知したタイミングとの差分と、前記ループ量もしくは前記ループの発生頻度とに基づいて、前記定着ローラーの状態を判定することを含む、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記駆動モーターの状態は、前記駆動モーターの平均回転数である、請求項1~6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記駆動モーターの状態は、前記駆動モーターの予め定められた時間あたりの高速回転および低速回転の比率である、請求項1~6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御部は、搬送される前記媒体の種類により、前記駆動モーターの回転数の範囲の変更量を調整する、請求項1~6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記媒体の物性を検知する第3検知部と、
前記第3検知部の検知結果に基づき媒体の種別を判定する第3判定部とをさらに備える、請求項9に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記定着ローラーの少なくとも一部は、シリコーンスポンジである、請求項1~6のいずれかに記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像形成装置に関し、より特定的には、定着ローラーの駆動モーターの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
トナーを使用する画像形成装置は、定着ローラーを備える。定着ローラーは、トナーを転写された媒体を加熱して、画像を媒体に定着させる。定着ローラーは、媒体をニップして回転することで、媒体を排紙ローラーまで搬送する。媒体の搬送速度は、定着ローラーの製造時の個体差または劣化により変化する。従来、媒体の搬送速度が速すぎたり遅すぎたりする場合、技術者がマニュアルで定着ローラーの回転速度を調整する必要があった。技術者は、調整不可能な程に定着ローラーが劣化した場合、定着ローラー(定着部)を新品に交換していた。
【0003】
また、近年、画像形成装置の省エネルギー化が進められている。それにより、定着ローラーの部材として、シリコーンスポンジを使用されることもある。シリコーンスポンジは、熱伝導性が高い反面、硬度が低く寿命が短い。そのため、シリコーンスポンジを部材として含む定着ローラーは、従来の定着ローラーよりも劣化しやすい。そのため、シリコーンスポンジを部材として含む定着ローラーは、より頻繁に回転速度の調整を必要とする。
【0004】
定着モーターの回転速度の制御に関し、例えば、特開2006-309188号公報(特許文献1)は、「未定着画像を記録材に転写する転写ローラー対、転写された未定着画像を記録材に定着する搬送速度切替可能な定着ローラー対、記録材の異なる大きさのループを検知する複数のループ検知センサーと、記録材に関わる情報に応じて前記センサーの中からセンサーを選択し、センサーの検知信号に基づいて定着ローラー対の搬送速度を切り替えて記録材のループを一定の範囲内に維持させるように制御する制御基板と、を有し、制御基板は、記録材の後端が転写ローラー対を抜ける前に小さなループを形成するためのループ検知センサーに切り替えて制御することにより、転写ローラー対を記録材の後端が抜ける際の後端跳ねを防止する」画像形成装置を開示している([要約]参照)。
【0005】
また、定着モーターの回転速度の制御に関する他の技術が、例えば、特許文献2~特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-309188号公報
【特許文献2】特開2017-037097号公報
【特許文献3】特開2020-046689号公報
【特許文献4】特開2019-053242号公報
【特許文献5】特開2019-159184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~5に開示された技術によると、定着ローラーの個体差または劣化状態に基づいて、定着ローラーの駆動モーターの回転数を調整することができない。したがって、定着ローラーの個体差または劣化状態に基づいて、定着ローラーの駆動モーターの回転数を調整する技術が必要とされている。
【0008】
本開示は、上記のような背景に鑑みてなされたものであって、ある局面における目的は、定着ローラーの個体差または劣化状態に基づいて、定着ローラーの駆動モーターの回転数を調整する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある実施の形態に従うと、画像形成装置が提供される。画像形成装置は、未定着画像を媒体に定着させる定着ローラーと、定着ローラーの駆動モーターと、画像形成装置の状態に関する情報又は媒体の状態に関する情報を取得する取得部と、駆動モーターの回転数を予め設定された上限値と下限値との間で制御する制御部とを備える。制御部は、取得部が取得した情報に基づいて、上限値と下限値との差を維持しつつ、上限値と下限値を変更する。
【0010】
ある局面において、画像形成装置の状態に関する情報は、定着ローラーの情報である。媒体の状態に関する情報は、媒体の搬送速度に関する情報である。画像形成装置は、定着ローラーの状態を判定する第1判定部と、駆動モーターの状態又は媒体の搬送速度を判定する第2判定部とをさらに備える。駆動モーターの回転数を予め設定された上限値と下限値との間で制御することは、第1判定部により判定した定着ローラーの状態に基づいて、駆動モーターの回転数を、上限値と下限値によって予め設定された範囲内で制御することを含み、上限値と下限値との差を維持しつつ、上限値と下限値を変更することは、第2判定部により判定した駆動モーターの状態又は媒体の搬送速度に基づいて、範囲を変更することを含む。
【0011】
ある局面において、画像形成装置は、像担持体上の未定着画像を媒体に転写する転写部と、転写部および定着ローラー間における媒体のループ量またはループの発生頻度を検知するループ検知部とをさらに備える。第1判定部は、ループ量またはループの発生頻度に基づいて、定着ローラーの状態を判定する。
【0012】
ある局面において、画像形成装置は、媒体の搬送経路に設置され、媒体が通過したことを検知する第1検知部と、媒体の搬送経路において第1検知部より下流側に設置され、媒体が通過したことを検知する第2検知部とをさらに備える。第1判定部は、第1検知部が検知したタイミングと第2検知部が検知したタイミングとの差分に基づいて、定着ローラーの状態を判定する。
【0013】
ある局面において、第2判定部は、第1検知部が検知したタイミングと第2検知部が検知したタイミングとの差分に基づいて、媒体の搬送速度を判定する。
【0014】
ある局面において、画像形成装置は、像担持体上の未定着画像を媒体に転写する転写部と、転写部および定着ローラー間における媒体のループ量またはループの発生頻度を検知するループ検知部とをさらに備える。定着ローラーの状態を判定することは、制御部は、第1検知部が検知したタイミングと第2検知部が検知したタイミングとの差分と、ループ量もしくはループの発生頻度とに基づいて、定着ローラーの状態を判定することを含む。
【0015】
ある局面において、駆動モーターの状態は、駆動モーターの平均回転数である。
ある局面において、駆動モーターの状態は、駆動モーターの予め定められた時間あたりの高速回転および低速回転の比率である。
【0016】
ある局面において、制御部は、搬送される媒体の種類により、駆動モーターの回転数の範囲の変更量を調整する。
【0017】
ある局面において、画像形成装置は、媒体の物性を検知する第3検知部と、第3検知部の検知結果に基づき媒体の種別を判定する第3判定部とをさらに備える。
【0018】
ある局面において、定着ローラーの少なくとも一部は、シリコーンスポンジである。
【発明の効果】
【0019】
ある実施の形態に従うと、定着ローラーの個体差または劣化状態に基づいて、定着ローラーの駆動モーターの回転数を調整することが可能である。
【0020】
この開示内容の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解される本開示に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の技術を適用可能な画像形成装置100の一例を示す図である。
図2】本実施の形態に従う画像形成装置20の構成の一部を示す図である。
図3】本実施の形態に従う画像形成装置30の構成の一部を示す図である。
図4】媒体の搬送速度に影響を及ぼす要因の一例を示す図である。
図5】定着ローラーの状態ごとの各センサーおよびモータードライバーの出力信号の一例を示す図である。
図6】制御部200がループ制御を行う区間の一例を示す図である。
図7】制御部200による定着ローラー110の駆動モーターの速度範囲の調整の一例を示す図である。
図8】稼働時間と媒体の搬送速度の補正値との関係の一例を示す図である。
図9】媒体毎の搬送速度の差異の一例を示す図である。
図10】駆動モーターの速度範囲の調整処理の一例を時系列に表した図である。
図11】本実施の形態に従う画像形成装置が備える各センサー、および、媒体の各通過点への到達時間の実測値の一例を示す図である。
図12】本実施の形態に従う画像形成装置の内部処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る技術思想の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0023】
<A.適用例>
図1は、本開示の技術を適用可能な画像形成装置100の一例を示す図である。図1を参照して、画像形成装置100のトナーの転写部および定着部付近の構成について説明する。併せて、トナーの転写部および定着部付近で発生する課題について説明する。さらに、本明細書にて使用する主要な用語について説明する。
【0024】
(a.画像形成装置100の構成)
画像形成装置100は、トナーの転写処理および定着処理を行うために、次の構成を備える。画像形成装置100は、タイミングローラー130と、2次転写ローラー115と、中間転写ベルト120と、感光体125と、定着部105と、排紙ローラー135とを備える。定着部105は、定着ローラー110と、パッド107とを含む。画像形成装置100は、これらの構成以外にも、画像形成部、給紙部、制御部等の構成を含み得る。画像形成装置100は、これらの構成を用いて、媒体150に画像を印刷する。ある実施の形態に従うと、定着ローラー110の少なくとも一部は、シリコーンスポンジである。
【0025】
タイミングローラー130は、媒体を2次転写ローラー115に向けて搬送する。また、タイミングローラー130は、媒体へのトナー潜像の転写と、媒体の搬送とのタイミングを同期させる。そのために、タイミングローラー130は、媒体の搬送速度を調節したり、媒体の搬送を一時停止したりする。
【0026】
感光体125は、その表面にトナー潜像を形成する。感光体125の表面のトナー潜像は、中間転写ベルト120に転写される。画像形成装置100は、トナーの各色に対応する感光体125を備える。一例として、画像形成装置100は、Y(イエロー)、M()マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)用の感光体125を備える。
【0027】
中間転写ベルト120は、感光体125から転写されたトナー潜像を2次転写ローラー115まで搬送する。各感光体125のトナー潜像は、中間転写ベルト120上で重なり合い、フルカラー画像を形成する。
【0028】
2次転写ローラー115は、中間転写ベルト120上のトナー潜像を媒体150に転写する。また、2次転写ローラー115は、媒体150を定着部105に向けて搬送する。
【0029】
定着部105は、媒体150を加熱する。媒体150上のトナー潜像は、加熱されることで、媒体150に定着する。定着部105は、媒体150を排紙ローラー135に向けて搬送する。媒体150が定着部105を通過すると、媒体150の表面のトナーは冷えて固まる。これにより、媒体150の表面に画像が形成される。排紙ローラー135は、媒体150を排紙トレイに出力する。
【0030】
感光体125および中間転写ベルト120は、自身の表面にトナー潜像を形成するため、像担持体であるとも言える。ある実施の形態に従うと、画像形成装置100は、感光体125上のトナー潜像を媒体150に直接転写する。この場合、媒体150は、感光体125と2次転写ローラー115とにニップされる。
【0031】
媒体150は、最初に、タイミングローラー130により、2次転写ローラー115まで搬送される。媒体150は、2次転写ローラー115において、トナー潜像を転写される。次に、媒体150は、定着部105において、加熱される。これにより、媒体150の表面のトナーが溶ける。その結果、媒体150に画像が定着する。最後に、媒体150は、排紙ローラー135を経由して、排紙トレイに出力される。
【0032】
(b.2次転写ローラーおよび定着部の間で発生する課題)
次に、2次転写ローラー115および定着部105の間で発生し得る課題について説明する。媒体150は、2次転写ローラー115と定着部105とに挟まれて搬送される。状態A,B,Cは、媒体150が2次転写ローラー115と定着部105とに挟まれた状態の一例を示す。
【0033】
状態Aにおいて、媒体150は、ほとんどたわんでいない。このとき、定着部105の搬送速度が2次転写ローラー115の搬送速度を上回ったとする。この場合、媒体150は、定着部105によって引っ張られる。これにより、媒体150に印刷される画像に、段差またはゆがみ等の印刷不良が発生し得る。
【0034】
状態Cにおいて、媒体150は、大きくたわんでいる。言い換えれば、媒体150の一部は、想定される搬送経路から大きくずれている。この場合、媒体150のたわんだ部分は、画像形成装置100の内部部品のリブ等に接触することがある。これにより、媒体150に印刷される画像に、スジ等の印刷不良が発生し得る。
【0035】
よって、媒体150は、状態Bのように、すこしたわむことが望ましい。媒体150が適度にたわむことで、トナー潜像の転写の失敗を抑制し、また、媒体150がリブ等の部品に接触することを抑制し得る。
【0036】
画像形成装置100は、媒体150が2次転写ローラー115と定着部105とに挟まれている間、媒体150が状態Bを維持できるように、定着ローラー110の搬送速度を調整する。しかし、定着ローラー110の個体差または経年劣化により、定着部105が媒体150をニップする力は変化する。
【0037】
例えば、定着ローラー110が新品である場合と、定着ローラー110が劣化している場合とを比較する。各場合の定着ローラー110の回転速度は同一とする。この場合、新品の定着ローラー110による媒体150の搬送速度は、劣化した定着ローラー110による媒体150の搬送速度よりも速い。なぜならば、新品の定着ローラー110は、劣化した定着ローラー110と比較して、すり減っておらず、媒体150をニップする力が強いためである。すなわち、定着ローラー110の回転速度は同一であるにもかかわらず、定着ローラー110が劣化すると、媒体150の搬送速度は低下するという課題がある。
【0038】
もう1つの課題は、定着ローラー110の個体差により、媒体150の搬送速度が変化することである。定着ローラー110の表面が硬いほど、定着部105における媒体150をニップする力は強くなる。新品の定着ローラー(X)の表面が、通常の定着ローラー110の表面よりも一定以上硬いとする。そして、定着ローラー(X)が、画像形成装置100にセットされたとする。この場合、画像形成装置100は、新品である通常の定着ローラー110の硬さに合せて、定着ローラー110を回転させる。しかしながら、定着ローラー(X)は通常の定着ローラー110よりも硬い。そのため、媒体150は想定よりも速く搬送される。結果として、媒体150は、状態Aのようになる可能性がある。すなわち、定着ローラー110が硬すぎる場合、媒体150は、想定以上に速く搬送される可能性がある。
【0039】
以上の2つの課題を解決するために、画像形成装置100は、定着ローラー110の状態に応じて、定着ローラー110の回転速度を調整する。実際には、画像形成装置100は、定着ローラー110の回転速度を一定の範囲内になるように調整する。例えば、画像形成装置100は、定着ローラー110の回転速度を、第1速度基準値(上限値)および第2速度基準値(下限値)の範囲内になるように調整する。ある実施の形態に従うと、画像形成装置100は、定着ローラー110の駆動モーターの回転速度を、第1速度基準値および第2速度基準値の範囲内になるように調整する。これ以降、第1速度基準値(上限値)および第2速度基準値(下限値)の間の範囲を単に「(定着ローラー110または駆動モーターの)速度範囲」と呼ぶこともある。そして、画像形成装置100は、第1速度基準値および第2速度基準値を調整することにより、定着ローラー110(駆動モーター)の回転速度を調整する。なお、画像形成装置100は、速度範囲を変更する際に、第1速度基準値と第2速度基準値との差分(速度範囲)を変更せずに維持してもよい。すなわち、画像形成装置100は、上限値と下限値との差を維持しつつ、上限値と下限値を変更してもよい。
【0040】
(c.本明細書で使用する用語)
次に、本開示の技術を説明するための用語について説明する。
【0041】
本明細書において「像担持体」は、トナー潜像を担持する任意の構成を包含する。例えば、感光体125および中間転写ベルト120は、像担持体である。また、トナー潜像を転写される媒体150も像担持体であると言える。
【0042】
本明細書において「(定着ローラー110または駆動モーターの)速度範囲」は、定着ローラー110の回転速度の範囲を含む。また、同様に、「速度範囲」は、定着ローラー110の駆動モーターの回転速度の範囲を含む。画像形成装置100は、エンコーダー等により、定着ローラー110の回転数を検知してもよい。また、画像形成装置100は、エンコーダー等により、定着ローラー110の駆動モーターの回転数を検知してもよい。定着ローラー110および駆動モーターは、駆動ベルトまたはギア等を介して接続されることもある。この場合、定着ローラー110の回転数は、駆動モーター回転数と一致しないこともある。
【0043】
本明細書において「(定着ローラー110または駆動モーターの)回転数」は、定着ローラー110の回転数または定着ローラー110の駆動モーターの回転数である。特に断りのない場合、本明細書における回転数は、単位時間当たりの回転数であり、回転速度と読み替えることもできる。画像形成装置100は、駆動モーターの回転数から、定着ローラー110の回転数を求めることができる。そのため、定着ローラー110の回転数を駆動モーターの回転数と読み替えてもよい。
【0044】
本明細書において「定着ローラー110の状態」は、定着ローラー110の劣化具合および/または定着ローラー110の個体差を示す。ここでの個体差とは、定着ローラー110の物性、表面の硬度等である。すなわち、定着ローラー110の状態は、媒体150をニップする力に影響する任意の要素を含む。
【0045】
本明細書において「駆動モーターの状態」は、媒体150の搬送速度に影響を及ぼす要素を示す。例えば、駆動モーターの状態は、駆動モーターの回転数(回転速度)を含み得る。また、駆動モーターの状態は、一定時間内における駆動モーターの平均回転数を含み得る。さらに、駆動モーターの状態は、駆動モーターの予め定められた時間あたりの高速回転および低速回転の比率等を含み得る。
【0046】
本明細書において「媒体150の搬送の状態」は、媒体150がどの程度の速度で搬送されているかを示す。すなわち、媒体150の搬送の状態は、媒体の搬送速度であるとも言える。また、媒体150の搬送の状態は、媒体150のたわみ具体(ループ量)を含んでもよい。
【0047】
本明細書において「ループ量」は、媒体150のたわみの量を示す。例えば、状態A~Cは、それぞれ、ループ量が少ない、普通、多い。媒体150のたわみの量を検知するセンサーは、ループ量を検知するセンサーであるとも言える。
【0048】
<B.装置構成>
次に、図2および図3を参照して、図1を参照して説明した課題を解決するための方法について説明する。図2および図3に示される画像形成装置20,30は、画像形成装置100のバリエーションである。画像形成装置100は、画像形成装置20,30を包含する。
【0049】
図2は、本実施の形態に従う画像形成装置20の構成の一部を示す図である。画像形成装置20は、図1で説明した構成に加えて、加熱ベルト230と、ヒーター240と、ループ検知部220と、制御部200と、駆動部210とを備える。ループ検知部220は、光センサー222と、稼働部品224とを含む。制御部200は、第1判定部260と、第2判定部270とを含む。
【0050】
加熱ベルト230は、媒体150の表面のトナーを溶かす。加熱ベルト230は、ヒーター240で加熱される。加熱ベルト230は、定着ローラー110と共に、媒体150をニップして、媒体150を排紙ローラー135に向けて搬送する。その際、加熱ベルト230は、媒体150の表面のトナーを溶かす。
【0051】
ヒーター240は、加熱ベルト230を加熱する。一例として、ヒーター240は、ハロゲンヒーター等である。
【0052】
ループ検知部220は、媒体150のループ量(媒体150のたわみの量)またはループの発生頻度を検知する。より具体的には、ループした媒体150が稼働部品224に触れたとする。この場合、稼働部品224は、媒体150に押されて図の右側に倒れる。これにより、光センサー222に入る光の量が変化する。制御部200は、光センサー222の出力信号を取得する。光センサー222の出力信号は、光センサー222に入る光の量を示す。制御部200は、光センサー222の出力信号から、媒体150のループ量を算出する、または、ループの発生頻度を算出する。ある実施の形態に従うと、光センサー222は、光センサー222に入る光の量から、媒体150のループ量を算出する回路を備えていてもよい。この場合、光センサー222は、制御部200に、媒体150のループ量を示す情報を出力する。
【0053】
制御部200は、媒体150のループ量またはループの発生頻度に基づいて、駆動部210を介して、定着ローラー110の駆動モーターの回転速度を制御する。また、制御部200は、第1判定部260および第2判定部270をプログラムとして実行する。もしくは、制御部200は、第1判定部260および第2判定部270を回路として備えていてもよい。
【0054】
駆動部210は、制御部200からの信号に基づいて、駆動モーターに信号を出力する。一例として、駆動部210は、モータードライバー等である。駆動部210は、駆動モーターにPWM(Pulse Width Modulation)信号等を出力する。
【0055】
第1判定部260は、定着ローラー110の状態を判定する。すなわち、第1判定部260は、定着ローラー110の劣化具合および/または個体差を判定する。より具体的には、第1判定部260は、駆動モーターの回転数と、ループ量またはループの発生を検知する。第1判定部260は駆動モーターの回転数およびループの発生頻度に基づいて、定着ローラー110の状態を判定する。一例として、駆動モーターの回転数が初期値であり、ループ量が小さいまたはループがほとんど発生していないとする。この場合、第1判定部260は、定着ローラー110の劣化は進んでいないと判定する。他の例として、駆動モーターの回転数が初期値であり、ループ量が多いまたはループが頻繁に発生しているとする。この場合、第1判定部260は、定着ローラー110の劣化が進んでいると判定する。
【0056】
第2判定部270は、駆動モーターの状態又は媒体の搬送の状態を判定する。駆動モーターの状態は、例えば、駆動モーターの回転速度(単位時間当たりの回転数)である。駆動モーターの状態は、単位時間当たりの平均回転速度であってもよい。または、駆動モーターの状態は、駆動モーターの予め定められた時間あたりの高速回転および低速回転の比率であってもよい。第2判定部270は、駆動部210に出力される命令に基づいて、駆動モーターの状態を判定し得る。または、第2判定部270は、エンコーダー等から得た信号に基づいて、駆動モーターの状態を判定し得る。媒体の搬送の状態は、媒体150の搬送速度である。第2判定部は、図3または図11に示される各センサーの信号に基づいて、媒体150の搬送速度を算出し得る。
【0057】
第1判定部260および第2判定部270は、画像形成装置20の状態に関する情報又は媒体150の状態に関する情報を取得するための取得部であるとも言える。制御部200は、当該取得部により、画像形成装置20の状態に関する情報又は媒体150の状態に関する情報を取得する。画像形成装置20の状態に関する情報は、例えば、定着ローラー110の情報である。媒体150の状態に関する情報は、例えば、媒体150の搬送速度に関する情報である。媒体150の状態に関する情報は、媒体150のループ量を含んでいてもよい。また、制御部200は、駆動モーターの回転数を予め設定された上限値と下限値との間で制御する。さらに、制御部200は、取得部が取得した情報に基づいて、上限値と下限値との差を維持しつつ、上限値と下限値を変更する。上限値および下限値は、定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の上限値および下限値である。
【0058】
より具体的には、制御部200は、第1判定部260および第2判定部270の判定結果に基づいて、定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度(回転数)の範囲を調整する。制御部200は、第1判定部により判定した定着ローラーの状態に基づいて、駆動モーターの回転数を予め設定された範囲内で制御する。そして、制御部200は、第2判定部により判定した駆動モーターの状態又は媒体の搬送速度に基づいて、範囲を変更する。第1判定部260は、ループ量またはループの発生頻度に基づいて、定着ローラー110の状態を判定する。
【0059】
これにより、画像形成装置20は、媒体150が適度にたわんだ状態を維持しつつ、印刷処理を継続し得る。一例として、定着ローラー110が劣化して媒体150をニップする力が弱くなっているとする。この場合、画像形成装置20は、駆動モーターの回転数の範囲を高く設定することで、媒体150をより高速に搬送する。その結果、媒体150のループの発生頻度は下がる。または、媒体150のループ量は小さくなる。
【0060】
他の例として、定着ローラー110の表面が硬く、媒体150をニップする力が強すぎるとする。すなわち、媒体150が、図1の状態Aのようになっているとする。この場合、画像形成装置20は、駆動モーターの回転数の範囲を低く設定することで、媒体150をより低速に搬送する。その結果、媒体150は、適度にループする(たわむ)。
【0061】
図3は、本実施の形態に従う画像形成装置30の構成の一部を示す図である。画像形成装置30は、画像形成装置20と異なり、ループ検知部220の代わりに、第1検知部310と、第2検知部320とを備える。
【0062】
第1検知部310は、2次転写ローラー115と定着ローラー110との間に設けられる。また、第1検知部310は、媒体150の搬送路において、第2検知部320よりも上流に配置され、媒体150の通過を検知する。一例として、第1検知部310は、媒体150の先端が第1検知部310の前に到達したことを検知する。他の例として、第1検知部310は、媒体150の後端が第1検知部310の前を通過したことを検知する。
【0063】
第2検知部320は、2次転写ローラー115と定着ローラー110との間に設けられる。また、第2検知部320は、媒体150の搬送路において、第1検知部310よりも下流に配置され、媒体150の通過を検知する。一例として、第2検知部320は、媒体150の先端が第2検知部320の前に到達したことを検知する。他の例として、第2検知部320は、媒体150の後端が第2検知部320の前を通過したことを検知する。
【0064】
制御部200は、第1検知部310からの信号と、第2検知部320からの信号とを取得する。制御部200は、第1検知部310から信号を取得した時間と、第2検知部320から信号を取得した時間との差分を算出する。制御部200は、当該差分に基づいて、媒体150のループ量またはループの発生頻度を算出する。また、制御部200は、当該差分に基づいて、媒体150の搬送状態(搬送速度)を算出する。より具体的には、第1判定部260は、第1検知部310が検知したタイミングと第2検知部320が検知したタイミングとの差分に基づいて、定着ローラー110の状態(劣化度、個体差等)を判定する。例えば、第1検知部310は、駆動モーターの回転速度および媒体150の搬送速度から、定着ローラー110のニップの強さを推定し得る。そして、第1検知部310は、当該ニップの強さから、定着ローラー110の状態を判別し得る。
【0065】
また、第2判定部270は、第1検知部310が検知したタイミングと第2検知部320が検知したタイミングとの差分に基づいて、媒体150の搬送の状態を判定する。媒体150の搬送の状態は、例えば、搬送速度、ループが発生しているか否か等である。こうすることで、画像形成装置30は、画像形成装置20と同様に、駆動モーターの回転数の範囲を適切に調整し得る。
【0066】
ある実施の形態に従うと、画像形成装置30は、ループ検知部220を備えていてもよい。この場合、画像形成装置30は、第1検知部および第2検知部による検知タイミングの差分と、および、ループ量に基づいて、定着ローラー110の状態を判定する。または、画像形成装置30は、第1検知部および第2検知部による検知タイミングの差分、および、ループの発生頻度に基づいて、定着ローラー110の状態を判定する。
【0067】
<C.定着ローラーの回転数の制御手順>
次に、図4図9を参照して、媒体150の搬送速度に影響を与える要因について説明する。併せて、定着ローラー110またはその駆動モーターの回転数の制御手順に関連する項目について説明する。
【0068】
図4は、媒体の搬送速度に影響を及ぼす要因の一例を示す図である。テーブル400は、媒体150の搬送速度に影響を及ぼす要因の一例を示す。要因は、定着ローラー110の外形、硬度を含む。また、要因は、ニップ幅を含む。ニップ幅は、媒体150にかかる荷重に影響する。また、要因は、摺動抵抗を含む。摺動抵抗は、摺動シート、グリス、摩擦粉により変動する。摺動シートは、例えば、パッド107の表面に貼り付けられる。グリスは、パッド107の表面または摺動シートの表面に塗布される。摩擦粉は、例えば、加熱ベルト230とパッド107とがこすれ合うことで発生する。これらの要因は、定着部105ごとにバラつきがある。また、ニップ幅以外の要因は、画像形成装置100が稼働することにより、劣化する。グラフ410,420は、定着ローラー110の回転速度と媒体150の搬送速度との関係を示す。グラフ410は、定着部105または定着ローラー110が新品である場合の媒体の搬送速度を示す。グラフ420は、定着部105または定着ローラー110が劣化した場合の媒体の搬送速度を示す。グラフ410およびグラフ420によると、定着ローラー110の回転数が同一でも、定着部105が劣化することにより、媒体150の搬送速度は遅くなることが分かる。
【0069】
図5は、定着ローラーの状態ごとの各センサーおよびモータードライバーの出力信号の一例を示す図である。状態510,520,530は、オシロスコープの波形を示す。オシロスコープの波形は、定着ローラー110の駆動モーターの信号と、排紙センサーの信号と、通紙センサー信号と、モーター信号A(タイミングローラーの駆動モーターの信号)とを含む。ループ制御は、図2および図3の処理である。ループ制御区間は、図2および図3の処理を行う区間である。
【0070】
状態510は、定着ローラー110が新品である状態を示す。ループセンサー(ループ検知部220)は、ループの発生をほとんど検知していない。また、駆動モーターの信号は、HIGHよりもLOWの割合が高い。このことから、画像形成装置100は、駆動モーターを比較的低速に回転させていることが分かる。また、画像形成装置100は、媒体150を大きくループさせることなく搬送できていることが分かる。
【0071】
状態520は、定着ローラー110の劣化がある程度進んだ状態を示す。ループセンサー(ループ検知部220)は、状態1の場合と比較して、より頻繁にループの発生を検知している。また、駆動モーターの信号は、HIGHおよびLOWの割合が同程度となっている。このことから、画像形成装置100は、駆動モーターを比較的高速に回転させていることが分かる。また、媒体150のループがある程度発生していることがわかる。
【0072】
状態530は、定着ローラー110の劣化が大きく進んだ状態を示す。ループセンサー(ループ検知部220)は、状態1,2の場合と比較して、ほとんどの区間でループの発生を検知している。また、駆動モーターの信号は、ほとんどHIGHとなっている。このことから、画像形成装置100は、駆動モーターを極めて高速に回転させていることが分かる。また、媒体150のループが頻繁に発生していることが分かる。
【0073】
画像形成装置100は、ループ検知部220および駆動モーターの回転数等を参照することで、定着ローラー110の状態および媒体150の搬送状態を判定し得る。また、画像形成装置100は、これらの状態の判定結果に基づいて、定着ローラー110の回転速度を調整し得る。
【0074】
図6は、制御部200がループ制御を行う区間の一例を示す図である。一例として、画像形成装置100は、媒体150の先端が定着ローラー110のNmm(Nは任意の数値)手前に到達したことに基づいて、ループ制御を開始する。一例として、画像形成装置100は、媒体150の後端が2次転写ローラー115をNmm(Nは任意の数値)通過したことに基づいて、ループ制御を終了する。Nmmは、一例として、5mmである。駆動モーターの高速比率は、「駆動モーターの信号がHIGHの時間/ループ制御時間」として算出される。一例として、駆動モーターの高速比率は、駆動モーターの平均回転数の算出に使用される。一例として、駆動モーターの高速比率は、駆動モーターの予め定められた時間あたりの高速回転および低速回転の比率の算出に使用される。
【0075】
図7は、制御部200による定着ローラー110の駆動モーターの速度範囲の調整の一例を示す図である。図2及び図3を参照して述べたように、画像形成装置100は、定着ローラー110の状態に応じて、定着ローラー110の駆動モーターの回転数の範囲を調整する。図7を参照して、駆動モーターの回転数の範囲の調整の手順について説明する。
【0076】
状態700は、定着ローラー110が新品であることを示す。制御部200は、駆動モーターの回転速度730Aを第1速度基準値710A以下、かつ、第2速度基準値720A以上となるように調整する。
【0077】
状態702は、定着ローラー110が劣化した、または、定着ローラー110のニップ力が低いことを示す。制御部200は、駆動モーターの回転速度730Bを第1速度基準値710B以下、かつ、第2速度基準値720B以上となるように調整する。第1速度基準値710Bは、第1速度基準値710Aよりも高い。また、第2速度基準値720Bは、第2速度基準値720Aよりも高い。結果として、駆動モーターの回転速度730Bの平均値は、駆動モーターの回転速度730Aの平均値よりも高くなる。すなわち、画像形成装置100は、定着ローラー110が劣化した、または、定着ローラー110のニップ力が低い場合、駆動モーターの速度の範囲を高くする。こうすることで、画像形成装置100は、媒体150のループの発生を抑制する。
【0078】
状態704は、定着ローラー110が個体差により硬すぎることを示す。制御部200は、駆動モーターの回転速度730Cを第1速度基準値710C以下、かつ、第2速度基準値720C以上となるように調整する。第1速度基準値710Cは、第1速度基準値710Aよりも低い。また、第2速度基準値720Cは、第2速度基準値720Aよりも低い。結果として、駆動モーターの回転速度730Cの平均値は、駆動モーターの回転速度730Aの平均値よりも低くなる。すなわち、画像形成装置100は、定着ローラー110が硬すぎる、または、定着ローラー110のニップ力が高すぎる場合、駆動モーターの速度の範囲を低くする。こうすることで、画像形成装置100は、ループ制御区間において、媒体150が張り詰めることを抑制し、媒体150を適度にループさせる。
【0079】
ある実施の形態に従うと、画像形成装置100は、なお、画像形成装置100は、速度範囲を変更する際に、第1速度基準値と第2速度基準値との差分(速度範囲)を変更せずに維持してもよい。すなわち、画像形成装置100は、速度の上限値と下限値との差を維持しつつ、速度の上限値と下限値を変更してもよい。この場合、第1速度基準値710Aおよび第2速度基準値720Aの差分と、第1速度基準値710Bおよび第2速度基準値720Bの差分とは等しい。また、第1速度基準値710Aおよび第2速度基準値720Aの差分と、第1速度基準値710Cおよび第2速度基準値720Cの差分とは等しい。
【0080】
図8は、稼働時間と媒体の搬送速度の補正値との関係の一例を示す図である。画像形成装置100が一定時間以上稼働すると、定着部105の温度は上昇する。定着部105の温度が上昇すると、定着ローラー110の表面、芯金の温度が上昇する。その結果、定着ローラー110は膨張する。定着ローラー110が膨張すると、定着部105のニップ力は向上する。そのため、画像形成装置100は、定着ローラー110の温度または回転時間の長さに応じて、媒体速度の補正値を変更する。
【0081】
一例として、画像形成装置100は、定着ローラー110の駆動モーターの速度範囲の設定値に補正値を掛ける。これにより、画像形成装置100は、定着ローラー110の回転速度を調整する。画像形成装置100は、画像形成装置100の稼働から一定時間以内と、それ以降とにおいて、異なる速度補正値を使用する。その結果、画像形成装置100は、画像形成装置100の稼働から一定時間以内と、それ以降とにおいて、定着ローラー110の回転速度を変化させる。
【0082】
画像形成装置100の稼働から一定時間以内だと、定着ローラー110は熱で膨張していない。そのため、画像形成装置100の稼働直後(働開始からX秒未満)の補正値yは、それ以降(働開始からX秒以降)の補正値zよりも大きい。ある実施の形態に従うと、画像形成装置100は、画像形成装置100の稼働開始からX秒未満(任意の時間)と、それ以降とで補正値を変更してもよい。
【0083】
図9は、媒体毎の搬送速度の差異の一例を示す図である。媒体150の搬送速度は、媒体150の種類毎に異なる。例えば、再生紙等の表面の粗い紙の搬送速度は速い。また、媒体150の表面に細かい粉が付着している場合、媒体150と定着ローラー110との間の摩擦抵抗が下がる。そのため、表面に細かい粉が付着している媒体150の搬送速度は遅くなる。その他、幅が狭い媒体150の搬送速度は比較的速い。なぜならば、幅が狭い媒体150が定着ローラー110により搬送されると、定着ローラー110と加熱ベルト230との接触面積が増えるためである。このように、媒体150の種類が変ると、定着ローラー110による媒体150の搬送速度も変化する。
【0084】
そのため、画像形成装置100は、媒体の種類に応じて、媒体150の搬送速度を調整することが望ましい。画像形成装置100は、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度を調整することで、媒体150の搬送速度を調整する。画像形成装置100は、図1に示される構成以外にも、媒体の種類に応じて、媒体150の搬送速度を調整するための構成を備える。画像形成装置100は、媒体150の種類を検知するためのメディア検知部(第3検知部)(図示せず)と、温度センサー(図示せず)と、湿度センサー(図示せず)とを備える。さらに、画像形成装置100は、メディア検知部(第3検知部)の検知結果に基づき媒体150の種別を判定する第3判定部(図示せず)を備える。
【0085】
メディア検知部は、媒体150の搬送路に沿って設けられる。温度センサーおよび湿度センサーは、画像形成装置100の内部の任意の位置に設けられる。制御部200は、メディア検知部からの信号を取得する。そして、制御部200は、当該信号に基づいて、媒体150の種類を判定する。制御部200は、媒体150の種類に基づいて、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度を調整する。または、制御部200は、搬送される媒体150の種類に基づいて、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度の範囲を調整する。さらに、制御部200は、搬送される媒体150の種類に基づいて、図2および図3で説明された駆動モーターの回転速度の範囲の変更量を調整し得る。
【0086】
ある実施の形態に従うと、制御部200は、温度センサーおよび湿度センサーの各々から信号を取得する。そして、制御部200は、各信号に基づいて、画像形成装置100内部の温度および湿度を判定する。制御部200は、温度および湿度に基づいて、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度を調整する。または、制御部200は、温度および湿度に基づいて、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度の範囲を調整する。さらに、制御部200は、温度および湿度に基づいて、図2および図3で説明された駆動モーターの回転速度の範囲の変更量を調整し得る。
【0087】
他の実施の形態に従うと、制御部200は、メディア検知部、温度センサーおよび湿度センサーの各々から信号を取得する。制御部200は、各信号に基づいて、媒体150の種類、画像形成装置100内部の温度および湿度を判定する。そして、制御部200は、媒体150の種類、温度および湿度に基づいて、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度を調整する。または、制御部200は、媒体150の種類、温度および湿度に基づいて、定着ローラー110または駆動モーターの回転速度の範囲を調整する。さらに、制御部200は、媒体150の種類、温度および湿度に基づいて、図2および図3で説明された駆動モーターの回転速度の範囲の変更量を調整し得る。
【0088】
図10は、駆動モーターの速度範囲の調整処理の一例を時系列に表した図である。図10を参照して、画像形成装置100が図2および図3を参照して説明された処理を実行するタイミングについて説明する。
【0089】
閾値Aは、媒体150の搬送速度の閾値である。画像形成装置100は、図2又は図11に示される各センサーの信号等に基づいて、媒体150の搬送速度を算出する。画像形成装置100は、媒体150の搬送速度が閾値Aを下回っているか否かを判定する。画像形成装置100は、起動直後、または、起動直後から一定時間以内に、当該判定を実行する。画像形成装置100は、媒体150の搬送速度が閾値Aを下回っている場合、定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を高くする。
【0090】
図10を例に説明すると、タイミング1020において、画像形成装置100は、起動し、媒体150の搬送速度1040が閾値Aを下回っているか否かを判定する。タイミング1020では、媒体150の搬送速度1040は、閾値Aを下回っていない。よって、画像形成装置100は定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を変更しない。
【0091】
タイミング1021において、画像形成装置100は、起動し、媒体150の搬送速度1041が閾値Aを下回っているか否かを判定する。タイミング1020では、媒体150の搬送速度1041は、閾値Aを下回る。よって、画像形成装置100は定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を高くする。
【0092】
タイミング1022において、画像形成装置100は、起動し、媒体150の搬送速度1042が閾値Aを下回っているか否かを判定する。タイミング1022では、媒体150の搬送速度1042は、閾値Aを下回っていない。よって、画像形成装置100は定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を変更しない。
【0093】
タイミング1023において、画像形成装置100は、起動し、媒体150の搬送速度1043が閾値Aを下回っているか否かを判定する。タイミング1020では、媒体150の搬送速度1043は、閾値Aを下回る。よって、画像形成装置100は定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を高くする。
【0094】
このように、画像形成装置100は、媒体150の搬送速度が低下する毎に、画像形成装置100は定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を高くする。ある実施の形態に従うと、画像形成装置100は、媒体150のループの検知頻度が予め定められた閾値を超えたか否かを判定する。そして、画像形成装置100は、媒体150のループの検知頻度が閾値を超えたことに基づいて、定着ローラー110またはその駆動モーターの回転速度の範囲を高くする。
【0095】
図11は、本実施の形態に従う画像形成装置が備える各センサー、および、媒体の各通過点への到達時間の実測値の一例を示す図である。画像形成装置100は、タイミングセンサー、ループセンサー(ループ検知部220)、排紙センサー等の各種センサーを備える。画像形成装置100は、これらのセンサーの信号に基づいて、媒体150が各区間A,B,Cを通過する時間を算出する。ある実施の形態に従うと、各センサーの信号に基づいて、ループ制御区間における媒体150の搬送速度を算出してもよい。
【0096】
<D.フローチャート>
図12は、本実施の形態に従う画像形成装置の内部処理の一例を示す図である。ある実施の形態に従うと、制御部200は、図12の処理を行うためのプログラムを実行する。この場合、制御部200は、当該プログラムをストレージ(図示せず)からメモリー(図示せず)に読み込む。他の局面において、当該処理の一部または全部は、当該処理を実行するように構成された回路素子の組み合わせとしても実現され得る。
【0097】
ステップS1210において、制御部200は、印字指示を取得し、バックアップ補正値を読み込む。制御部200は、ネットワークを介して、または、操作パネル(図示せず)から、印字指示を取得する。また、制御部200は、ストレージからメモリーにバックアップ補正値を読み込む。バックアップ補正値は、駆動モーターの速度設定を補正するための補正値である。または、バックアップ補正値は、駆動モーターの速度範囲の設定値、もしくは、駆動モーターの速度範囲の設定値の補正値であってもよい。
【0098】
ステップS1220において、制御部200は、定着ローラー110の駆動モーターを回転させて、トナーの定着処理を実行する。
【0099】
ステップS1230において、制御部200は、定着ローラー110の回転速度の取得条件を満たすか否かを判定する。一例として、当該取得条件は、画像形成装置100の起動後一定時間以内であってもよい。制御部200は、定着ローラー110の回転速度の取得条件を満たすと判定した場合(ステップS1230にてYES)、制御をステップS1240に移す。そうでない場合(ステップS1230にてNO)、制御部200は、処理を終了する。
【0100】
ステップS1240において、制御部200は、印字処理の終了後に、定着ローラー110の回転速度を取得する。ある実施の形態に従うと、制御部200は、定着ローラー110の回転軸に設けられたエンコーダーから、定着ローラー110の回転速度に関する信号を取得する。または、制御部200は、定着ローラー110の駆動モーターの回転軸に設けられたエンコーダーから、定着ローラー110の回転速度に関する信号を取得する。
【0101】
ステップS1250において、制御部200は、定着ローラー110の駆動モーターの回転速度の平均値を算出する。当該平均値は、予め定められた時間あたりの定着ローラー110の駆動モーターの回転速度の平均値である。ある実施の形態に従うと、制御部200は、定着ローラー110の駆動モーターの予め定められた時間あたりの高速回転および低速回転の比率を算出してもよい。
【0102】
ステップS1260において、制御部200は、回転速度の平均値が第1速度基準値710を上回ったか否かを判定する。制御部200は、回転速度の平均値が第1速度基準値710を上回ったと判定した場合(ステップS1260にてYES)、制御をステップS1280に移す。そうでない場合(ステップS1260にてNO)、制御部200は、制御をステップS1270に移す。ある実施の形態に従うと、制御部200は、高速回転および低速回転の比率が第1速度基準値710を上回ったか否かを判定してもよい。この場合、第1速度基準値710は、比率の基準値である。
【0103】
ステップS1270において、制御部200は、回転速度の平均値が第2速度基準値720を下回ったか否かを判定する。制御部200は、回転速度の平均値が第2速度基準値720を下回ったと判定した場合(ステップS1270にてYES)、制御をステップS1280に移す。そうでない場合(ステップS1270にてNO)、制御部200は、処理を終了する。ある実施の形態に従うと、制御部200は、高速回転および低速回転の比率が第2速度基準値720を下回ったか否かを判定してもよい。この場合、第2速度基準値720は、比率の基準値である。
【0104】
ステップS1280において、制御部200は、定着ローラー110の駆動モーターの回転速度の補正量を算出して保存する。画像形成装置100は、次回以降の駆動モーターの制御において、新しく保存された補正量を使用する。これにより、画像形成装置100は、次回以降の駆動モーターの速度範囲を変更し得る。
【0105】
以上説明した通り、本実施の形態に従う画像形成装置100は、定着ローラー110の状態に基づいて、駆動モーターの回転数を予め設定された範囲内で制御する。そして、画像形成装置100は、駆動モーターの状態又は媒体の搬送の状態に基づいて、範囲を変更する。これにより、画像形成装置100は、媒体150が適度にたわんだ状態を維持しつつ、印刷処理を継続し得る。
【0106】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された開示内容は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0107】
20,30,100 画像形成装置、105 定着部、107 パッド、110 定着ローラー、115 2次転写ローラー、120 中間転写ベルト、125 感光体、130 タイミングローラー、135 排紙ローラー、150 媒体、200 制御部、210 駆動部、220 ループ検知部、222 光センサー、224 稼働部品、230 加熱ベルト、240 ヒーター、260 第1判定部、270 第2判定部、310 第1検知部、320 第2検知部、400 テーブル、410,420 グラフ、710,710A,710B,710C 第1速度基準値、720,720A,720B,720C 第2速度基準値、730A,730B,730C 回転速度、1020,1021,1022,1023 タイミング、1040,1041,1042,1043 搬送速度。
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