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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106202
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240731BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20240731BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/49
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010384
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小日向 夏美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】前川 達也
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA29
5H770BA01
5H770BA11
5H770DA03
5H770DA23
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA02Z
5H770HA03X
5H770HA03Y
5H770HA05Y
5H770HA07Z
5H770JA11Y
5H770JA18Y
5H770LB05
5H770LB09
5H770LB10
(57)【要約】
【課題】各系統ラインに対する電力変換器の誤相接続を検出することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】系統電源の系統電圧の値および位相を推定し、この推定結果および各電流検知器の検知結果に基づいて電力変換器における各相交流電圧の生成を制御する。さらに、上記推定した位相に基づいて各系統ラインに対する電力変換器の誤相接続を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流系統と負荷との間の三相の系統ライン毎に一端が接続され他端が中性点として相互に共通接続された複数のクラスタを含み、これらクラスタのスイッチングによりマルチレベルの交流電圧を生成しそれを前記各系統ラインへ出力するマルチレベルの電力変換器と、
前記負荷に流れる電流を検知する電流検知器と、
前記系統ラインから前記電力変換器にかけての通電路と前記電力変換器における前記中性点との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部の検出電圧に基づいて前記系統電源の系統電圧の値および位相を推定する推定部と、この推定部による推定結果および前記電流検知器の検知結果に基づいて前記電力変換器における各相交流電圧の生成を制御する第1制御手段と、
前記推定部が推定した位相に基づいて前記各系統ラインに対する前記電力変換器の誤相接続を判定する第2制御手段と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記電圧検出部の検出電圧と前記電力変換器における前記中性点に重畳する零相電圧とに基づいて前記系統電源の系統電圧の値および位相を推定する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第2制御手段は、誤相接続ありを判定した場合に前記電力変換器の運転を禁止する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記各系統ラインにおける相ごとの負荷電力を算出する電力算定手段と、
前記電力算定手段で算出した各相負荷電力に基づき前記電流検知器の誤配線を判定し、誤配線なしを判定した場合は前記第1制御手段の制御を実行させ、誤配線ありを判定した場合は前記電力変換器の運転を禁止する第3制御手段と、
をさらに備える請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電力算定手段は、前記推定部の推定した前記系統電源の系統電圧の値および位相と、前記電流検知器の検知結果とに基づいて相ごとの負荷電力を算出する、
請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第3制御手段は、各相負荷電力のすべてが正の場合に前記誤配線なしと判定し、各相負荷電力のすくなくとも1つが負の場合に前記誤配線ありと判定する、
請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第3制御手段は、前記電流検知器の検知結果が第1閾値以上である場合に前記電力算定手段が算出した前記負荷電力を用いて前記誤配線を判定し、前記誤配線ありと判定した場合、前記電流検知器の検知結果が前記第1閾値以上の値である第2閾値以上であることを条件に前記第1制御手段の制御を実行させる、
請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第1閾値と前記第2閾値とが同じ値である、
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第2制御手段は、誤相接続ありを判定した場合に前記第1制御手段による前記各相交流電圧の生成処理の相順を入れ替える、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記各系統ラインにおける相ごとの負荷電力を算出する電力算定手段と、
前記電力算定手段で算出した各相負荷電力に基づき前記電流検知器の誤配線を判定し、誤配線なしを判定した場合は前記第1制御手段の制御を実行させ、誤配線ありを判定した場合は前記電力変換器の運転を禁止する第3制御手段と、
をさらに備える請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記第3制御手段は、前記各電流検知器の検知結果が第1閾値以上であることを条件に前記誤配線を判定し、前記誤配線なしを判定した場合、前記各電流検知器の検知結果が第2閾値以上であることを条件に前記第1制御手段の制御を実行させる、
請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記第1の閾値と第2の閾値とが同じ値である、
請求項11に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記各クラスタは、スイッチ素子およびコンデンサからなる複数の単位変換器を直列接続して構成された、
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記負荷は、空気調和機である、
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記空気調和機は、インバータと、このインバータによって駆動される圧縮機モータとを備える、
請求項14に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交流系統と負荷との間の複数相の系統ラインに接続される電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオード整流器など非線形な特性を持つ負荷を交流系統に接続した場合、負荷に流れる電流(負荷電流)に高調波が生じる。この高調波成分は交流系統を通して他の負荷へ悪影響を与える可能性があるため、それをいかに抑制するかが重要な課題となっている。
【0003】
その対策として、例えば負荷電流の高調波成分を抑制する電力変換装置(高調波抑制装置)が使用される。電力変換装置は、ノイズ除去用フィルタおよび変換器用リアクトルを介して交流系統と負荷との間の複数相の各系統ラインに接続される電力変換器を含み、負荷電流の高調波成分に対する抑制用の複数相の交流電圧をその電力変換器のスイッチングにより相ごとに生成し、生成した各相交流電圧を各系統ラインに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-207747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力変換器は、負荷である例えば空気調和機が設置される現場において、各系統ラインに負荷とは並列の関係に接続される。さらに、各系統ラインに流れる負荷電流を検出する複数の電流検知器が各系統ラインに配置され、これら電流検知器の信号線が電力変換装置の制御部に接続される。電力変換器には、三相交流系統と負荷との間の各系統ラインに一端が接続され他端が相互接続された複数のクラスタを含み、これらクラスタのスイッチングによりマルチレベルの交流電圧を生成し前記系統ラインへ出力するマルチレベルの電力変換器がある。
【0006】
このようなマルチレベルの電力変換器を使用した場合、各系統ラインの相と電力変換器の出力相とが一致しない状態で各系統ラインに接続される誤相接続が生じると、適正に運転できず、高調波を低減することができず、逆に高調波を増加させることになる。このような誤相接続は、設置現場での電力変換器の設置工事における各系統ラインへの電力変換装置の配線接続の誤りや元々の系統ライン途中の配電用配線の誤接続が原因で発生する。
本発明の実施形態の目的は、各系統ラインに対する電力変換器の誤相接続を検出することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電力変換装置は、三相交流系統と負荷との間の三相の系統ライン毎に一端が接続され他端が中性点として相互に共通接続された複数のクラスタを含み、これらクラスタのスイッチングによりマルチレベルの交流電圧を生成しそれを前記各系統ラインへ出力するマルチレベルの電力変換器と;前記負荷に流れる電流を検知する電流検知器と;前記系統ラインから前記電力変換器にかけての通電路と前記電力変換器における前記中性点との間の電圧を検出する電圧検出部と;前記電圧検出部の検出電圧に基づいて前記系統電源の系統電圧の値および位相を推定する推定部と;この推定部による推定結果および前記電流検知器の検知結果に基づいて前記電力変換器における各相交流電圧の生成を制御する第1制御手段と;前記推定部が推定した位相に基づいて前記各系統ラインに対する前記電力変換器の誤相接続を判定する第2制御手段と;を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は第1実施形態の構成を示すブロック図。
図2図2図1における単位変換器の構成を示す図。
図3図3は第1実施形態における制御部の一部である位相同期回路の構成を示す図。
図4図4は第1実施形態における制御部の要部の構成を示すブロック図。
図5図5は第1実施形態の制御を示すフローチャート。
図6図6は各実施形態においてマルチレベル変換器の誤相接続がない場合の各系統電圧と位相との関係を示す図。
図7図7は各実施形態においてマルチレベル変換器の誤相接続がある場合の各系統電圧と位相との関係を示す図。
図8図8は各実施形態において各電流検知器の誤配線がない場合の系統電圧、負荷電流、負荷電力を示す図。
図9図9は各実施形態において各電流検知器の誤配線がある場合の系統電圧、負荷電流、負荷電力を示す図。
図10図10は第2実施形態の制御を示すフローチャート。
図11図11は第3実施形態の制御を示すフローチャート。
図12図12は第4実施形態の制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]第1実施形態
本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、三相交流系統(商用三相交流電源、自家発電三相交流電源、配電系統などを含む)1の複数相(R,S,T)の系統ライン(電源ライン)Lr,Ls,Ltに負荷たとえば空気調和機2が接続されている。
【0010】
空気調和機2は、ブリッジ接続した複数のダイオードにより交流系統1の系統電圧(交流電圧)Vr,Vs,Vtを全波整流する全波整流回路(ダイオード整流器)3、この全波整流回路3の出力端に直流リアクトル4を介して接続された平滑用コンデンサ5、このコンデンサ5の両端に接続されたインバータ6、このインバータ6の出力により動作する圧縮機モータ7を含む。インバータ6は、コンデンサ5の直流電圧をスイッチングにより所定周波数の交流電圧に変換し、その交流電圧を圧縮機モータ7の駆動電力として出力する。
【0011】
交流系統1と空気調和機2との間の系統ラインLr,Ls,Ltに、本実施形態の電力変換装置10が、空気調和機2と並列の関係に接続される。電力変換装置10は、空気調和機2を負荷としたいわゆる高調波低減装置であって、必要に応じて据付け済みの空気調和機2に対して追加で設置して接続できるオプション装置である。また、空気調和機2の据付け時に同時に設置してもよいし、空気調和機2の出荷前にこの電力変換装置10を空気調和機2内に組み込んでおくことも可能である。
【0012】
電力変換装置10は、ノイズ除去用フィルタ11、変換器用リアクトル14r,14s,14t、このノイズ除去用フィルタ11および変換器用リアクトル14r,14s,14tから成るパッシブフィルタ、このパッシブフィルタを介して系統ラインLr,Ls,Ltに接続されたマルチレベル変換器(変換器)20を備える。
【0013】
さらに、電力変換装置10は、系統ラインLr,Lsにおけるノイズ除去用フィルタ11の接続位置より空気調和機2側の位置に配置され空気調和機2に接続された系統ラインLr,Lsのそれぞれを流れる電流(負荷電流)Ir,Isを検知する複数の電流検知器15r,15s、ノイズ除去用フィルタ11とマルチレベル変換器20との間の通電路に流れる電流(補償電流)Icr,Icsを検知する電流検知器16r,16s、系統ラインLr,Ls,Ltのうち2つの例えば系統ラインLr,Lsからパッシブフィルタ(ノイズ除去用フィルタ11及び変換器用リアクトル14r,14s,14t)にかけての各通電路とマルチレベル変換器20における後述の相互接続点(中性点)Aとの間の電圧Vrn,Vsnを検出する電圧検出部17、この電圧検出部17で検出される電圧Vrn,Vsnからマルチレベル変換器20のスイッチングに伴う矩形波成分を除去する矩形波除去フィルタ18、および制御部30を含む。電力変換装置10は、負荷である空気調和機2の運転中に系統ラインLr,Lsに生じる高調波を抑制する機器であることから、空気調和機2が運転を行っているとき、すなわち負荷電流が流れる場合にのみ動作を開始(起動)するようになっている。
【0014】
ノイズ除去用フィルタ11は、フィルタ用リアクトル12rとフィルタ用コンデンサ13rから成るLC回路、フィルタ用リアクトル12sとフィルタ用コンデンサ13sから成るLC回路、フィルタ用リアクトル12tとフィルタ用コンデンサ13tから成るLC回路を含み、マルチレベル変換器20のスイッチングにより生じる高周波ノイズが系統ラインLr,Ls,Ltに流れて他の電気機器に悪影響を与えないよう、その高周波ノイズをフィルタ用リアクトル12r,12s,12tよりもインピーダンスが小さいフィルタ用コンデンサ13r,13s,13tに導いて吸収する。変換器用リアクトル14r,14s,14tは、マルチレベル変換器20のスイッチングにより生じる電流リップルを抑制する。フィルタ用リアクトル12r,12s,12tは、それぞれ電源ラインLr,Ls,Ltと変換器用リアクトル14r,14s,14tとの間に直列に接続される。一方、フィルタ用コンデンサ13r,13s,13tは、それぞれ一端がフィルタ用リアクトル12r、12s、12tと変換器用リアクトル14r、14s、14tの接続ラインに接続され、他端が共通接続される。
【0015】
電圧検出部17は、2つの系統ラインLr,Lsから上記パッシブフィルタにかけての各通電路とマルチレベル変換器20における中性点Aとの間の電圧Vrn,Vsnを検出する。具体的には、電圧検出部17は、系統ラインLrからパッシブフィルタにかけての通電路と中性点Aとの間に接続された抵抗器R1,R2の直列回路、系統ラインLsからパッシブフィルタにかけての通電路と中性点Aとの間に接続された抵抗器R3,R4の直列回路を含み、抵抗器R1,R2の相互接続点と中性点Aとの間に生じる電圧Vrnを検出し、抵抗器R3.R4の相互接続点と中性点Aとの間に生じる電圧Vsnを検出する。
【0016】
矩形波除去フィルタ18は、電圧検出部17で検出される電圧Vrn,Vsnからマルチレベル変換器20のスイッチングに伴うPWM矩形波成分を除去するローパスフィルタ(LPF)である。この矩形波除去フィルタ18を経た電圧Vrn_f,Vsn_fが制御部30に供給される。
【0017】
電力変換装置10の設置に際し、マルチレベル変換器20の出力端が上記パッシブフィルタを介して系統ラインLr,Ls,Ltに接続される。そして、電流検知器16r,16sが系統ラインLr,Lsに配置され、その電流検知器16r,16sの信号線が制御部30に配線接続される。
【0018】
制御部30は、後述する図3に示す推定部である位相同期回路(PLL回路)32を用いて交流系統1の系統電圧Vr,Vs,Vtの値および位相θを推定する。この推定結果および電流検知器15r,15s,16r,16sの検知結果に応じてマルチレベル変換器20のスイッチングを制御する。この制御に際し、系統ラインLtを流れる負荷電流Itについては、電流検知器15r,15sで検知される負荷電流Ir,Isから算出する。同様に補償電流Ictについては、電流検知器16r,16sで検知される2つの補償電流Icr,Icsから算出する。
【0019】
マルチレベル変換器20は、系統ラインLr,Ls,Ltの相ごとに3つ以上のマルチレベルの直流電圧を選択的に生成し出力するクラスタ21r,21s,21tを含み、負荷である空気調和機2に流れる電流(負荷電流)の高調波成分を抑制するための複数相の交流電圧をクラスタ21r,21s,21tによって生成し、それを系統ラインLr,Ls,Ltへ出力するアクティブフィルタとして機能する。
【0020】
クラスタ21rは、それぞれがマルチレベルの直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数(3つ)の単位変換器(セル)22rを直列接続(カスケード接続)してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器22rの出力電圧(セル出力電圧)Vcrを足し合わせることにより交流電圧Vcr0を生成し出力する。同様に、クラスタ21sは、複数の単位変換器22sを直列接続してなり、各単位変換器22sの出力電圧Vcsを足し合わせることにより交流電圧Vcs0を生成し出力する。クラスタ21tは、複数の単位変換器22tを直列接続してなり、各単位変換器22tの出力電圧Vctを足し合わせることにより交流電圧Vct0を生成し出力する。出力される交流電圧Vcr0,Vcs0,Vct0は、高調波を低減するための補償電圧であり、後述する電力変換装置10の出力する交流電圧指令値でもある。この交流電圧Vcr0,Vcs0,Vct0は、交流系統1の系統電圧Vr,Vs,Vtとほぼ同じ正弦波に近い波形である。
【0021】
クラスタ21r,21sもクラスタ21tと同じ構成である。これらクラスタ21r,21s,21tの一端がフィルタ用リアクトル12r、12s、12tおよびパッシブフィルタ(ノイズ除去用フィルタ11および変換器用リアクトル14r~14t)を介して系統ラインLr,Ls,Ltに接続され、クラスタ21r,21s,21tの他端が中性点Aとして相互接続(スター結線)されている。
【0022】
クラスタ21r,21s,21tの代表例として、クラスタ21rの各単位変換器22rの構成を図2に示す。
各単位変換器22rは、一対の出力端子、それぞれ還流ダイオードDを有するブリッジ接続されたスイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4、これらスイッチ素子Q1~Q4を介して上記出力端子に接続された補償用コンデンサC、この補償用コンデンサCの電圧(コンデンサ電圧という)Vcを検出して制御部30に知らせる電圧検出部Cxを含む。直列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の中間接続点が出力端の一方となり、直列接続されたスイッチ素子Q3,Q4の中間接続点が出力端の他方となる。最上段の単位変換器22rの出力端の一方は変換器用リアクトル14rに接続され、その最上段の単位変換器22rの出力端の他方は中段の単位変換器22rの出力端の一方に接続されている。中段の単位変換器22rの出力端の他方は最下段の単位変換器22rの出力端の一方に接続され、最下段の単位変換器22rの出力端の他方は他のクラスタの出力端の他方に共通接続されている。これら単位変換器22rは、スイッチ素子Q1~Q4のスイッチング(オン,オフ)が制御部30で適宜に制御されることに基づく複数の通電路の選択的な形成により、複数レベル(マルチレベル)の直流電圧を生成し出力する。
【0023】
制御部30は、交流系統1の系統電圧Vrとほぼ同じ波形の交流電圧をクラスタ21rで生成させるための交流電圧指令値Vcr0を設定し、各単位変換器22rの個数と同じ個数で互いに位相が異なる三角波状の各キャリア信号の電圧レベルとその交流電圧指令値の電圧レベルとを比較するパルス幅変調(PWM)により、各単位変換器22rのスイッチ素子Q1~Q4に対するスイッチング用の駆動信号(ゲート信号)を生成する。この駆動信号の生成に際し、制御部30は、各単位変換器22rにおいて互いに直列に配置されているスイッチ素子Q1,Q2のオンとオフの間、および互いに直列に配置されているスイッチ素子Q3,Q4のオンとオフの間に、それぞれ短絡防止のためにオフ状態となるデッドタイムを確保する。
【0024】
2レベル変調によるスイッチングの場合、各単位変換器22rはそれぞれ“正レベル”“負レベル”の2レベルの直流電圧を選択的に生成し出力する。3レベル変調によるスイッチングであれば、各単位変換器22rはそれぞれ“正レベル”“零レベル”“負レベル”の3レベルの直流電圧を選択的に生成し出力する。
【0025】
クラスタ21rの各単位変換器22rの構成およびスイッチングは、クラスタ21sの各単位変換器22sおよびクラスタ21tの各単位変換器22tの構成およびスイッチングについても同じである。すなわち、制御部30は、クラスタ21rの制御と同様にクラスタ21s、21tに対してもそれぞれの交流電圧指令値Vcs0、Vct0を設定し、それぞれのクラスタ21s、21tを構成する複数の各単位変換器22s、22tのスイッチ素子Q1~Q4に対するスイッチング用の駆動信号を生成する。
【0026】
制御部30は、推定部である図3に示す位相同期回路32において、矩形波除去フィルタ18を経た電圧Vrn_f,Vsn_fとマルチレベル変換器20における零相電圧Voとに基づき、系統電源1の系統電圧Vr,Vs,Vtの値(瞬時値)および交流電源1の電源電圧の位相θを推定する。
【0027】
位相同期回路32内の減算部51,52は、矩形波除去フィルタ18を経た電圧Vrn_f,Vsn_fから、後段の零相電圧算出部59で算出される零相電圧(中性点Aの電位に重畳する零相電圧)Voを減算することにより、交流の系統電圧Vr,Vsの値を捕らえる。減算部53は、減算部51,52で算出した系統電圧Vr,Vsの合算値を符号反転した値を系統電圧Vtの値として算出する。
Vr=Vrn_f-Vo,Vs=Vsn_f-Vo,Vt=-(Vr+Vs)
マルチレベル変換器20がスイッチング動作を停止しているとき、系統電圧Vr,Vs,Vtの実効値もしくは振幅値の15%の値を有しかつ系統電圧Vr,Vs,Vtの周波数の3倍の周波数を有する零相電圧Voが、マルチレベル変換器20の中性点Aの電位に重畳する。
【0028】
系統電圧Vr,Vs,Vtの値を捕らえることに加え、制御部30内の位相同期回路32は、電源擾乱への耐性を向上させるため、かつ現時点の位相θを推定するため、座標変換部54、減算部55、PI制御部56、加算部57、積分部58、零相電圧算出部59を含む。
【0029】
座標変換部54は、上記捕らえた系統電圧Vr,Vs,Vtの値を後段の積分部58で求められる位相θによって座標変換することにより、系統電圧Vr,Vs,Vtの値に対応するd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqを得る。減算部55は、座標変換部54で得たq軸電圧Vqと目標値“0”との偏差を捕らえる。PI制御部56は、減算部55で捕らえた偏差を入力とするPI制御により、系統電圧Vr,Vs,Vtの周波数ωを求める。
【0030】
加算部57は、PI制御部56で求める周波数ωが運転開始時はまだ不明であることに対処し、PI制御部56で求めた周波数ωに対し、系統電源1の電源周波数に相当する基準周波数ωoを加える。この基準周波数ωoの加算は制御における収束を早めるためのもので、ここでは基準周波数ωoは国内の電源周波数の50Hzまたは60Hzのいずれに対しても対応可能なように55Hzを予め設定している。
積分部58は、加算部57を経た周波数ωを積分することにより、上記捕らえた系統電圧Vr,Vs,Vtの位相θを求める。
【0031】
零相電圧算出部59は、積分部58で求めた位相θおよび座標変換部54で得たd軸電圧Vdに基づき、中性点Aの電位に重畳する零相電圧Voを算出する。算出した零相電圧Voは減算部51,52にフィードバックされる。
【0032】
以上の構成により、系統電圧Vr,Vs,Vtの値および位相θを的確に捕らえることができる。系統電圧Vr,Vs,Vtの値および位相θの推定を、中性点Aの電位を基準に行うので、制御部30とマルチレベル変換器20との間の電気的な絶縁が不要であり、系統ラインLr,Ls,Lt間の各々に直接電圧検出器を設けるよりも構成が簡素化できる。
【0033】
制御部30は、図3の位相同期回路32に加え、主要な機能として図4に示す第1制御手段(第1制御部)34、第2制御手段(第2制御部)35、電力算出手段(電力算定部)36および第3制御手段(第3制御部)38を含む。
【0034】
第1制御手段34は、位相同期回路32により推定された系統電圧Vr,Vs,Vtの値、位相θおよび電流検知器15r,15s,16r,16sの検知結果に基づいてマルチレベル変換器20における各相交流電圧の生成を制御する(高調波抑制制御)。具体的には、電流検知器15r,15sで検知される負荷電流Ir,Isおよびその負荷電流Ir,Isから算出した負荷電流Itから高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流Icr,Ics,Ictの目標値を求め、その目標値と実際の補償電流Icr,Ics,Ict(電流検知器16r,16sの検知結果およびその検出結果から算出)との偏差に基づき、系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な複数相の補償電圧である交流電圧指令値Vcr0,Vcs0,Vct0を算出し、これをPWM信号に変換してマルチレベル変換器20の各単位変換器22に供給する。各単位変換器22は、第1制御手段34が出力するPWM信号によって駆動され、交流電圧指令値Vcr0,Vcs0,Vct0を生成することで、目標値である補償電流Icr,Ics,Ictを系統ラインLr,Ls,Ltに流す。この結果、高調波が抑制もしくは低減される。
【0035】
この第1制御手段34によるマルチレベル変換器20の駆動は、後述する第2制御手段35と第3制御手段38の両方から「許可」が得られた場合のみオンとなる。第2制御手段35または第3制御手段38のいずれかから「運転禁止」が出されると、第1制御手段は、制御動作を行わず、マルチレベル変換器20ひいては電力変換装置10そのものが停止状態になる。また後述するように第3制御手段38から「待機」信号を受信すると第1制御手段34は、マルチレベル変換器20の駆動を停止もしくは停止状態を維持する。
【0036】
第2制御手段35は、位相同期回路32が推定した位相θに基づいて系統ラインLr,Ls,Ltに対するマルチレベル変換器20の誤相接続を判定し、誤相接続ありを判定した場合に第1制御手段34に「運転禁止」である旨を伝えてマルチレベル変換器20の運転を強制的に禁止し、かつその誤相接続および運転禁止の旨を表示等出力39としてディスプレイ表示や通信によって報知する。
【0037】
誤相接続とは、系統ラインLr,Ls,Ltの相とマルチレベル変換器20の出力相とが一致しない状態のことである。誤相接続は、設置現場での電力変換器の設置工事における系統ラインLr,Ls,Ltとの配線接続の誤りや元々の系統ラインLr,Ls,Lt途中の配電用配線の誤接続が原因で発生する。ちなみに、空気調和機2そのものは、系統ラインLr,Ls,Ltから入力された交流電圧を全波整流回路3により直流に変換してからインバータ6やその他の機器、部品を駆動するため、誤相接続状態でも何ら問題なく運転が可能であり、誤相接続に配慮する必要はない。
【0038】
電力算定手段36は、第2制御手段35の出力、電流センサ15で検出した各系統ラインの負荷電流の値Ir,Is,It及び位相同期回路32の座標変換部54から出力されたd軸電圧Vdとq軸電圧Vq及び系統電圧の位相θを入力として、第2制御手段35で誤相接続なしが判定された場合、すなわち「許可」信号を受けて、系統ラインLr,Ls,Ltにおける相ごとの負荷電力Pr,Ps,Ptを算出する。
【0039】
続く第3制御手段38は、電力算定手段36が算出した各相負荷電力Pr,Ps,Ptの値に基づき電流検知器15r,15sの誤配線を判定し、誤配線なしを判定した場合は電流検知器15r,15sの検知および算出による負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ix以上であることを条件に第1制御手段の制御(高調波抑制制御)を「許可」する。負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ix以下であれば、第3制御手段38は、第1制御手段34に向けて「待機」信号を出力し、第1制御手段34の動作を停止状態に保持して運転を待機させる。なお、負荷電流Ir,Is,Itと閾値Ixの大小関係の判定は、3つの負荷電流の平均値と閾値Ixの大小比較でもよいし、負荷電流Ir,Is,It中の最大値と閾値Ixの比較でもよい。
【0040】
系統ラインLr,Ls,Ltに低減すべき高調波電流が発生するのは、負荷である空気調和機2の圧縮機モータ7が動作し、負荷電流Ir,Is,Itが所定の大きさになった場合である。このため電力変換装置10の運転は、負荷電流Ir,Is,Itが所定値である閾値Ixを超えた場合に限られる。一方、誤配線ありを判定した場合、第3制御手段38は、マルチレベル変換器20の運転を禁止するために、「運転禁止」信号を第1制御手段34に出力しかつその誤配線および運転禁止の旨を表示等出力39としてディスプレイ表示や通信によって報知する。なお、誤相接続と誤配線とはその原因の確認個所や対処方法が異なることから、誤相接続と誤配線の夫々を識別可能なように表示等出力39への発報出力内容を異ならせている。
【0041】
誤配線とは、系統ラインLr,Lsにおける電流検知器15r,15sの配置位置の相と電流検知器15r,15sの信号線が接続される制御部30の接続端子の相とが一致しない状態のことである。電流検知器15r,15sは、空気調和機2に対して電力変換装置10を設置する際に、3本の系統ラインLr,Ls,Ltの中から対応する系統ラインLr,Lsを選定して取り付ける必要がある。ここで、電流検知器15r,15sを取り付けるべき相の系統ラインを間違って、他の相の系統ラインに設置してしまった場合、誤配線となる。例えば、本来系統ラインLrに取り付けるべき電流検知器15rを系統ラインLtに取り付けてしまった場合や、電流検知器15r,15sの両方を同一の系統ラインLrに取付けてしまった場合等がある。このような誤配線は、3本の系統ラインLr,Ls,Ltに対する2つの電流検知器15r,15sの組み合わせにおいて極めて多数のパターンがあり、電力変換装置10の設置作業時に発生する可能性がある。
【0042】
上述の制御部30内の各手段が実行する制御を図5のフローチャートを参照しながら説明する。なお、これらの処理はマイクロコンピュータのプログラム処理もしくは適切な論理回路の組み合わせによって達成される。
電力変換装置10の設置後の例えば試運転に際し、制御部30は、位相同期回路32により推定される系統電圧Vr,Vs,Vtの位相θに基づいて系統ラインLr,Ls,Ltに対するマルチレベル変換器20の誤相接続を判定する(S1)。
【0043】
誤相接続がない場合の系統電圧Vr,Vs,Vtと位相θとの関係を図6に示す。系統電圧Vr,Vs,Vtの相順はR,S,Tであり、位相θは時間経過に伴って増加する正相の状態にある。
【0044】
誤相接続がある場合の系統電圧Vr,Vs,Vtと位相θとの関係を図7に示す。系統電圧Vr,Vs,Vtの相順はR,T,Sであり、位相θは時間経過に伴って減少する逆相の状態にある。
【0045】
制御部30の第2制御手段35は、系統電圧Vr,Vs,Vtが正相であるか逆相であるかを位相θの変化を微分し、その微分値の正負状態により判定する。正相(微分値が正)の場合(S2のYES)、マルチレベル変換器20の誤相接続がないとの判断の下に、電力算定手段36において系統ラインLr,Ls,Ltにおける相ごとの負荷電力Pr,Ps,Ptを算出する(S3)。
【0046】
負荷電力Pr,Ps,Ptは、位相同期回路32で算出されるd軸電圧Vdとq軸電圧Vq、負荷電流Ir,Is,Itを回転座標変換して得られるd軸電流Idとq軸電流Iqを用いる下式により算出する。
【0047】
【数1】
【0048】
【数2】
【0049】
【数3】

制御部30の第3制御手段38は、算出した各相の負荷電力Pr,Ps,Ptの対比により、電流検知器15r,15sの誤配線を判定する(S4)。
【0050】
電流検知器15r,15sの誤配線がない場合の系統電圧Vr,Vs,Vt、負荷電流Ir,Is,It、負荷電力Pr,Ps,Ptを図8に示す。負荷電力Pr,Ps,Ptの全てが正レベルとなる。
【0051】
電流検知器15r,15sの誤配線がある場合の系統電圧Vr,Vs,Vt、負荷電流Ir,Is,It、負荷電力Pr,Ps,Ptを図9に示す。負荷電力Pr,Ps,Ptのうち、1つが正レベルとなり、1つが正レベルと負レベルに振れる状態となり、残りの1つが負レベルとなる。
【0052】
負荷電力Pr,Ps,Ptの全てが正レベルの場合(S5のYES)、第3制御手段38は、電流検知器15r,15sの誤配線がないとの判断の下に、電流検知器15r,15sの検知および算出による負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ix以上であるか否かを判定する(S6)。
【0053】
負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ix以上の場合(S6のYES)、制御部30は、負荷電流Ir,Is,Itに抑制すべき高調波成分が含まれているとの判断の下に、マルチレベル変換器20の運転による高調波抑制制御を実行する(S7)。その後、負荷電流Ir,Is,Itの判定ステップ(S6)に戻る。これにより負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ix以上である限り高調波抑制制御を実行し続ける。
【0054】
負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ix未満の場合(S6のNO)、制御部30は、負荷電流Ir,Is,Itに抑制すべきレベルの高調波成分が含まれていないとの判断の下に、マルチレベル変換器20の運転による高調波抑制制御を実行させない停止または停止状態を維持する待機状態とし(S8)、ステップS6の負荷電流の判定に戻って高調波抑制制御の開始条件が成立することを待つ。
【0055】
一方、位相θが逆相の状態にある場合(S2のNO)、制御部30は、系統ラインLr,Ls,Ltに対するマルチレベル変換器20の誤相接続があるとの判断の下に、マルチレベル変換器20の運転を「運転禁止」としてかつその誤相配線および運転禁止の旨をディスプレイ表示や外部通信によって報知する(S9)。この報知状態になると、電力変換装置10がリセットされるまでは何ら動作しない。
【0056】
負荷電力Pr,Ps,Ptの全てが正レベルの状態にない場合(S5のNO)、制御部30は、電流検知器15r,15sの誤配線があるとの判断の下に、マルチレベル変換器20の運転を強制的に停止しかつその誤配線および運転禁止の旨をディスプレイ表示や外部通信によって報知して(S9)、電力変換装置10の運転を禁止する。なお、このステップS9による運転禁止後の運転再開は、保守点検作業者や据付け業者が誤相接続もしくは誤配線を修復して、電力変換装置10をリセット操作することで図4のフローの最初「開始」から再スタートする。
【0057】
以上のように、系統ラインLr,Ls,Ltの相とマルチレベル変換器20の出力相とが一致しない状態で系統ラインLr,Ls,Ltにマルチレベル変換器20が接続される誤相接続がある場合、マルチレベル変換器20の運転禁止しかつその運転禁止の旨を報知するので、マルチレベル変換器20の不適正な運転を未然に防止できるとともに、電力変換装置10の誤相接続による運転禁止が生じていることを作業員や管理者に迅速に知らせることができる。
【0058】
電力変換装置10の誤相接続が生じていなくても、系統ラインLr,Lsにおける電流検知器15r,15sの配置位置の相と電流検知器15r,15sの信号線が接続される制御部30の接続端子の相とが一致しない誤配線接続があれば、上記同様、マルチレベル変換器20の運転禁止しかつその内容を報知するので、マルチレベル変換器20の不適正な運転を未然に防止できるとともに、電流検知器15r,15sの誤相接続による運転禁止が生じていることを作業員や管理者に迅速に知らせることができる。
【0059】
[2]第2実施形態
第2実施形態では、制御部30の第1制御手段34、電力算定手段36および第2制御手段35が次のように異なる。
第2制御手段35は、上記推定した位相θに基づいて系統ラインLr,Ls,Ltに対するマルチレベル変換器20の誤相接続を判定し、誤相接続ありを判定した場合に第1制御手段34による各相交流電圧の生成処理(複数相の補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0をマルチレベル変換器20で生成する処理)の相順を入れ替える。すなわち、この実施形態においては、第1制御手段34は「運転禁止」信号を出力する代わりに図4中に破線で示すように第1制御手段34にマルチレベル変換器20で生成する補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0処理の相順を入れ替えように指示する。この指示に基づき第1制御手段34はマルチレベル変換器20の出力の相順を正しい組み合わせに自動的に修正する。この方式によれば、誤相接続があっても電力変換装置10は正常に運転が可能であるため、
誤相接続の報知を行わなくてもよい。
【0060】
また、第2制御手段35は、誤相接続ありを判定した場合でも電力算定手段36の動作を「許可」する。この場合、電力算定手段36は、系統ラインLr,Ls,Ltにおける相ごとの負荷電力Pr,Ps,Ptを算出し、その算出結果を第3制御手段38に供給する。他の構成は第1実施形態と同じである。
【0061】
制御部30が実行する制御を図10のフローチャートに示す。第1実施形態との相違点は相順入替を実行するステップS10が追加されているところである。位相θが逆相の状態にある場合(S2のNO)、制御部30は、系統ラインLr,Ls,Ltと電力変換装置10との間で誤相接続があるとの判断の下に、複数相の補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0をマルチレベル変換器20で生成する処理の相順を入れ替える(S10)。この入れ替えにより、マルチレベル変換器20の誤相接続があっても、見かけ上、誤相接続がない場合と同じようにマルチレベル変換器20の運転を続けることができる。このため、誤相接続がある場合でも運転禁止(S9)へは移行せず、次のステップで系統ラインLr,Ls,Ltにおける相ごとの負荷電力Pr,Ps,Ptを算出する(S3)。これ以降の処理は第1実施形態と同じである。
【0062】
[3]第3実施形態
上述の2つの実施形態においては、負荷電力Pr,Ps,Ptの算出(S3)および誤配線の判定(S4)を負荷である空気調和機2が運転していることのみを条件に実行している。しかしながら、誤配線には様々なパターンが存在し、その誤接続の形態によっては、負荷電力Pr,Ps,Ptの内で負になる電力量が小さいケースが存在する。この場合、第3制御手段38における誤配線の判定、すなわちステップS5による負荷電力Pr,Ps,Ptの全てが正レベルか否かの判定が難しくなる。負荷電力Pr,Ps,Ptは、空気調和機2の消費電力が大きくなれば、当然大きくなる。同様に誤接続状態においても、空気調和機2の消費電力が大きくなれば負荷電力Pr,Ps,Ptの内で負になる電力量も大きな負の値を示すようになる。
【0063】
そこで、第3実施形態においては、第3制御手段38における誤配線の判定を、負荷電流Ir,Is,Itがマルチレベル変換器20の動作を開始する閾値Ixを超えたことを条件に判定するようにした。この第3実施形態における変更は、第1実施形態及び第2実施形態のいずれに対しても適用可能であるが、ここでは、第1実施形態に適用した例を図11のフローチャートを用いて説明する。
【0064】
ここで第1実施形態との相違は、ステップS6の判定を負荷電力算出のステップS3の前にステップS20として移動している点である。この相違点を重点に動作を説明すると、 系統電圧Vr,Vs,Vtが正相であれば(S2のYES)、続いて負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ixを超えた否か判定される(S20)。負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ixを超えていれば(S20のYES)、各相の負荷電力Pr,Ps,Ptの算出が行われ(S3)、負荷電力Pr,Ps,Ptいずれかが負の閾値を下回るか否かが判定される(S5 )。負荷電力Pr,Ps,Ptのすべてが負の閾値以上の場合(S5のNO)、言い換えるとこれらの負荷電力Pr,Ps,Ptのすべてが正レベルであれば、制御部30は高調波抑制制御を実行する(S7)。なお、負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ixを超えていなければ(S20のNO)、マルチレベル変換器20の出力を停止状態として、高調波抑制制御を停止もしくは動作開始を待機する(S8)。ステップS7、S8の実行後、処理は負荷電流Ir,Is,Itの判定(S20)に戻り、これを繰り返す。
【0065】
[4]第4実施形態
続いて、第3実施形態よりも誤配線の判定(S5)を、早めに実行するために、負荷電流Ir,Is,Itの判定(S20)の閾値を引き下げた方式を図12のフローチャートを参照して説明する。ここでは、負荷電流Ir,Is,Itの判定の閾値をIy(第1閾値)に変更したステップS21を誤配線の判定(S5)の前に組み込んで、負荷電流Ir,Is,Itがこの閾値Iyを超えた時に誤配線の判定(S5)を実施するようにしている。すなわち、誤配線の判定に確実を期すために負荷電流Ir,Is,Itがある程度の大きさになって初めて誤配線の判定を行う。ここで、閾値Iyはマルチレベル変換器20の動作を開始する閾値Ix(第2閾値)より低い値が設定される。この設定により、早い段階で誤配線の有無の検出が可能となる。この変更は、図5に示す第1実施形態および図10に示す第2実施形態のいずれにも組み込み可能である。その一例として示す図12の第4実施形態に用いられるフローチャートは、図10に示す第2実施形態をベースとして誤配線の判定(S5)の前に新たなステップS21を組み込んだものである。
【0066】
系統電圧Vr,Vs,Vtが正相である場合(S2のYES)、または系統電圧Vr,Vs,Vtが逆相であって(S2のNO)その後に相順入替(S10)が実行された場合には、続く新たに追加されたステップS21で負荷電流Ir,Is,Itが閾値Iyを超えた否か判定される。ここで、負荷電流Ir,Is,Itが閾値Iyを超えるまではステップS21が繰り返される(S21のNO)。一方、負荷電流Ir,Is,Itが閾値Iyを超えると(S22のYES)、負荷電力Pr,Ps,Ptの算出が行われる(S3)。以後の処理は第2実施形態と同じであり、誤配線がなければ(S5のYES)、負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ixを超えた場合(S6のYES)、高調波抑制制御が実施される(S7)。負荷電流Ir,Is,Itが閾値Ixを超えなければ、高調波の発生量が少ない状態であるとして、高調波抑制制御が停止もしくは停止状態が維時される(S8)。ステップS7,S8の処理後、再びステップS6に戻り、負荷電流Ir,Is,Itの大きさに応じて高調波抑制制御の実施と停止が繰り返される。これ以外の各ステップは第2実施形態と同一であり、説明を省略する。
【0067】
このように第4実施形態では、第3実施形態よりも誤配線の判定が負荷電流Ir,Is,Itがより低い段階である閾値Iy(>Ix)以上で開始されるため、空気調和機2の運転開始からより早い段階で誤配線の有無が判定可能となる。
【0068】
なお、閾値Ixと閾値Iyを同じ値に設定(Ix=Iy)すれば、第3実施形態と同様に誤配線判定(図11のフローチャート中のS4)とマルチレベル変換器20の動作による高調波抑制制御の開始(図11のフローチャート中のS7)の条件が同じになる。しかしながら、図11のフローチャートのステップ順において、誤配線判定の方が先に実行されるため、誤配線状態下で高調波抑制制御が開始されることはない。
【0069】
以上のように各実施形態においては、電力変換装置10のマルチレベル変換器20の動作開始前に誤相接続及び誤配線を検出して、誤相接続または誤配線が生じている場合には、マルチレベル変換器20を動作させて高調波を増加させることがなく、事前にマルチレベル変換器20の運転を禁止できる。
【0070】
上述の各実施形態においては、電力算定手段36における負荷電力Pr,Ps,Ptの算出に位相同期回路32で算出したd軸電圧Vd、q軸電圧Vqおよび位相θを用いたが、他の方法を用いてもよい。例えば、電圧検出部17において、さらにT相の系統ラインLtと相互接続点(中性点)Aとの間の相間電圧Vtnの検出を追加して、すべての相間電圧Vrn,Vtn,Vsnを実際に検出する。この検出結果に基づき、d軸電圧Vd、q軸電圧Vqの値および位相θの推定を、零相電圧Voのデータを用いることなく実行することも可能である。
【0071】
なお、上記各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1…系統電源、Lr,Ls,Lt…系統ライン、2…空気調和機(負荷)、10…電力変換装置、11…ノイズ除去用フィルタ、14r,14s,14t…変換器用リアクトル、17…電圧検出部、18…矩形波除去フィルタ、20…マルチレベル変換器(変換器)、30…制御部、32…位相同期回路(推定部)、34…第1制御手段、35…第2制御手段、36…電力算定手段、38…第3制御手段、39…表示等出力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12