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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106206
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240731BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010388
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 枝里香
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲韋▼
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4K013EA01
4K013EA03
4K013EA04
4K013EA05
(57)【要約】
【課題】 凝固シェルとモールドとの間の潤滑を確保しつつ、浸漬ノズルの溶損速度を低減することができる塩基度の高いモールドパウダーを提供すること。
【解決手段】 モールドパウダーは、SiOとCaOとを主成分として含み、T.CaO(ただし、T.CaOとは、含まれるCaをすべてCaOに換算したもの)のSiOに対する質量比(T.CaO/SiO)が1.7以上2.0以下であり、Alの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、MgOの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であり、NaOの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、Fの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOとCaOとを主成分として含み、
T.CaO(ただし、T.CaOとは、含まれるCaをすべてCaOに換算したもの)のSiOに対する質量比(T.CaO/SiO)が1.7以上2.0以下であり、
Alの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、
MgOの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であり、
NaOの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、
Fの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドパウダーにおいて、
LiOの含有量が4.0質量%以下(ゼロを除く)であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項3】
請求項1に記載のモールドパウダーにおいて、
SrOの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のモールドパウダーにおいて、
1300℃における粘度が0.04Pa・s以上0.20Pa・s以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、タンディッシュに貯留された溶鋼を、浸漬ノズルを介してモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をロールを用いてモールドの下方向に連続的に引き抜くことにより、スラブ、ブルーム、ビレット等の各種形状の鋳片を連続的に製造する。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが投入される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融して(以下、溶融状態のモールドパウダーを「パウダースラグ」という)溶鋼の表面を覆い、パウダースラグは凝固シェルとモールドとの間に流入して消費される。投入から消費までの間のモールドパウダーの主な役割は以下のとおりである。
(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止
(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化
(3)凝固シェルとモールドとの間の潤滑の確保
(4)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御
【0003】
凝固シェルとモールドとの間の潤滑を確保するためには、パウダースラグは低粘度の方が好ましい。パウダースラグを低粘度にするには、フラックス成分の含有量を増やす方法や、モールドパウダーの塩基度(CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO))を高める方法がある。いずれの方法も浸漬ノズルのパウダーライン部の溶損速度が早く、浸漬ノズルの交換頻度が多くなる。交換作業中は連続鋳造を止めなければならず、生産性が低下する。
【0004】
特許文献1は、特定の組成の浸漬ノズルを用いることにより、塩基度の高いモールドパウダーを使用しても溶損速度を低減できることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-159342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された特定の組成の浸漬ノズルを使用しなくても浸漬ノズルの溶損速度を低減することができ、かつ、塩基度の高いモールドパウダーが要求されている。
【0007】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、凝固シェルとモールドとの間の潤滑を確保しつつ、浸漬ノズルの溶損速度を低減することができる塩基度の高いモールドパウダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の一の態様は、
SiOとCaOとを主成分として含み、
T.CaO(ただし、T.CaOとは、含まれるCaをすべてCaOに換算したもの)のSiOに対する質量比(T.CaO/SiO)が1.7以上2.0以下であり、
Alの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、
MgOの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であり、
NaOの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、
Fの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であることを特徴とするモールドパウダーに関する。本開示のモールドパウダーを用いると、高い塩基度によって凝固シェルとモールド間の潤滑を確保しつつ、浸漬ノズルの溶損速度を低減することができる。
【0009】
(2)本開示の一の態様では、
LiOの含有量が4.0質量%以下(ゼロを除く)であることが好ましい。LiOを添加するとパウダースラグの粘度を調整しやすい。
【0010】
(3)本開示の一の態様では、
SrOの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であることが好ましい。SrOを添加するとノズルの溶損が低減する。
【0011】
(4)本開示の一の態様では、
1300℃における粘度が0.04Pa・s以上0.20Pa・s以下であることが好ましい。パウダースラグの粘度が低く、凝固シェルとモールドとの間の潤滑をより確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0013】
本実施形態のモールドパウダーは、SiOとCaOとを主成分として含み、T.CaO(ただし、T.CaOとは、含まれるCaをすべてCaOに換算したもの)のSiOに対する質量比(T.CaO/SiO)が1.7以上2.0以下であり、Alの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、MgOの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であり、NaOの含有量が10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、Fの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下である。本実施形態のモールドパウダーを用いると、高い塩基度によって凝固シェルとモールド間の潤滑を確保しつつ、浸漬ノズルの溶損速度を低減することができる。
【0014】
[原料]
本実施形態のモールドパウダーは、公知の原料の配合比率を調整することによって得ることができる。
【0015】
本実施形態のモールドパウダーに主成分として含まれるSiOとCaOの原料は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、CaO-SiO基材原料やシリカ原料を用いることができる。CaO-SiO基材原料としては、例えば、ポルトランドセメント、石灰石、生石灰、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム等を用いることができる。シリカ原料としては、例えば、珪砂、長石、珪石、珪藻土、パーライト、フライアッシュ、ガラス粉、シリカフューム、シリカフラワー等を用いることができる。
【0016】
本実施形態のモールドパウダーは副成分の原料として、一般にモールドパウダーに用いられるもの、例えば、フラックス原料及び/又はその他の原料を含んでもよい。フラックス原料は、軟化点、粘度及び/又は結晶化温度を調整する役割を有し、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、氷晶石、蛍石(フッ化カルシウム)、フッ化マグネシウム等の弗化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等を用いることができる。その他の原料としては、炭素原料、マグネシア、アルミナ等を用いることができる。炭素原料としては、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられ、モールドパウダーの溶融速度を調整する。本実施形態のモールドパウダーは、不可避成分として微量のFe、TiO、MnO、Cr、P、S等を含んでもよい。
【0017】
[質量比(T.CaO/SiO)]
上記の原料を適切に配合し、質量比(T.CaO/SiO)を調整する。ここで、T.CaOとは、本実施形態のモールドパウダーに含まれるCaをすべてCaOに換算したものである。例えば、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム等を起源とするCaをCaOに換算する。本実施形態のモールドパウダーの質量比(T.CaO/SiO)は1.7以上2.0以下であり、好ましくは1.8以上1.9以下である。高い塩基度によって潤滑を確保するのに適した低粘度のパウダースラグが得られる。T.CaOの含有量は特に限定されないが、好ましくは40.0質量%以上50.0質量%以下であり、より好ましくは42.0質量%以上47.0質量%以下である。SiOの含有量は特に限定されないが、好ましくは20.0質量%以上30.0質量%以下であり、より好ましくは23.0質量%以上27.0質量%以下である。
【0018】
[Al
本実施形態のモールドパウダーのAlの含有量は10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、好ましくは8.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下である。この範囲にするとパウダースラグの粘度を調整しやすい。
【0019】
[MgO]
本実施形態のモールドパウダーのMgOの含有量は5.0質量%以上15.0質量%以下であり、好ましくは7.0質量%以上13.0質量%以下であり、より好ましくは8.0質量%以上12.0質量%以下である。この範囲にするとノズルの溶損が低減する。
【0020】
[NaO]
本実施形態のモールドパウダーのNaOの含有量は10.0質量%以下(ゼロを除く)であり、好ましくは8.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下である。この範囲にするとパウダースラグの粘度を調整しやすい。
【0021】
[F]
本実施形態のモールドパウダーのFの含有量は5.0質量%以上15.0質量%以下であり、好ましくは6.0質量%以上14.0質量%以下であり、より好ましくは7.0質量%以上13.0質量%以下である。この範囲にするとパウダースラグの粘度を調整しやすい。
【0022】
[LiO]
本実施形態のモールドパウダーではLiOを選択的に使用することができる。LiOを添加するとパウダースラグの粘度を調整しやすい。LiOの含有量の上限は特に限定されないが、4.0質量%以下とすれば粘度を調整しやすく好ましい。
【0023】
[SrO]
本実施形態のモールドパウダーではSrOを選択的に使用することができる。SrOを添加するとノズルの溶損が低減する。SrOの含有量の上限は特に限定されないが、10.0質量%以下とすればノズルの溶損がより低減して好ましい。
【0024】
[粘度]
本実施形態のモールドパウダーの1300℃における粘度は0.04Pa・s以上0.20Pa・s以下であることが好ましい。この範囲にすると凝固シェルとモールドとの間の潤滑がより良好になる。
【0025】
[モールドパウダーの形態]
本実施形態のモールドパウダーの形態は一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等を用いることができる。
【実施例0026】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0027】
実施例1~15、比較例1~8に用いたモールドパウダーの組成を表1に示す。
【表1】
【0028】
実施例及び比較例のモールドパウダーを用いて、以下の測定と評価を行った。
【0029】
[溶損速度]
実施例及び比較例のモールドパウダーについて、浸漬ノズルの溶損速度を評価した。溶損速度の測定には、浸漬法による侵食試験を用いた。即ち、高周波誘導炉を用いて20kgの銑鉄を大気雰囲気で溶解し、1560℃に保持した。溶銑にモールドパウダー500gを投入し、供試体(25×25×200mm)を回転速度80rpmで回転させながら90分浸漬し、侵食試験前に対する溶損厚みを測定した。供試体には浸漬ノズルに一般的なジルコニア・カーボン材質(ジルコニア90質量%、カーボン10質量%)を用いた。モールドパウダーは30分毎に入れ替えた。
【0030】
溶損速度の評価は、溶損厚みが実施例1と同等の場合を優(◎)、実施例1よりやや大きいが、操業上問題とならない場合を良(○)、実施例1よりかなり大きく操業上問題が発生する場合を不可(×)とした。
【0031】
[潤滑性]
モールドパウダーの1300℃における粘度の測定には、白金球引き上げ法を用いた。即ち、1300℃のパウダースラグ約120g中に直径10mmの白金球を吊り下げ、8.5mm/sの速さで引き上げた際の抵抗力を測定し、ストークスの式を用いて粘度(η)(単位:Pa・s)を求めた。
【0032】
潤滑性の評価は、1300℃における粘度が0.05Pa・s以上0.19Pa・s以下の場合を優(◎)、0.04Pa・s又は0.20Pa・sの場合を良(○)、0.04Pa・s未満又は0.20Pa・s超の場合を不可(×)とした。
【0033】
[総合評価]
総合評価は、溶損速度の評価と潤滑性の評価がいずれも優(◎)の場合を優(◎)、溶損速度の評価と潤滑性の評価のいずれも不可(×)でなく、かつ、少なくとも一方が良(○)の場合を良(○)、溶損速度の評価と潤滑性の評価の少なくとも一方が不可(×)の場合を不可(×)とした。
【0034】
[評価結果]
測定、評価の結果を表2に示す。
【表2】
【0035】
実施例1~15は、いずれも溶損速度は小さく、安定した操業を行うことができた。
【0036】
比較例1、2は、浸漬ノズルの溶損が大きかった。MgOの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下の範囲を外れていたためと考えられる。比較例3、4は、適切な粘度が得られなかった。質量比(T.CaO/SiO)が1.7以上2.0以下の範囲を外れており、パウダースラグの粘度が高すぎ、又は、低すぎ、操業が不安定になったと考えられる。比較例5は、適切な粘度が得られなかった。Alの含有量が10.0質量%以下の範囲を外れており、パウダースラグの粘度が高すぎ、操業が不安定になったと考えられる。比較例6は、適切な粘度が得られなかった。NaOの含有量が10.0質量%以下の範囲を外れており、パウダースラグの粘度が低すぎ、操業が不安定になったと考えられる。比較例7、8は、適切な粘度が得られなかった。Fの含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下の範囲を外れており、パウダースラグの粘度が高すぎ、又は、低すぎ、操業が不安定になったと考えられる。
【0037】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。