(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106212
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】高耐候性熱処理木材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/22 20060101AFI20240731BHJP
B27K 3/02 20060101ALI20240731BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20240731BHJP
E04B 1/92 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B27K3/22
B27K3/02 B
B27K5/00 F
E04B1/92
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010406
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(71)【出願人】
【識別番号】519430745
【氏名又は名称】株式会社長谷川興産
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】栗▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】榊原 伸泰
【テーマコード(参考)】
2B230
2E001
【Fターム(参考)】
2B230AA01
2B230AA04
2B230AA12
2B230AA15
2B230BA01
2B230CA06
2B230DA02
2B230EB02
2B230EB05
2B230EB13
2B230EC02
2E001DH14
2E001DH25
2E001HC01
(57)【要約】
【課題】熱処理による防腐性と寸法安定性、及び薬剤による防腐・防蟻性を併せ持ち、退色し難く、耐候性に優れた高耐候性熱処理木材とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】木材中のヘミセルロースが熱処理により分解・変性され、内部の水酸基が疎水化された状態であり、保存処理剤が木材の表面から内部に浸透している。保存処理剤は銅化合物を含むものである。密閉タンク内に無垢の未処理木材本体12を収容し、密閉タンク内を減圧する減圧処理を行い、次に密閉タンク内に水蒸気を導入して昇温する熱処理を行い、次に注入処理を行って保存処理剤を浸透させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材中のヘミセルロースが熱処理により分解・変性され、内部の水酸基が疎水化された状態であり、且つ保存処理剤が前記木材の表面から内部に浸透していることを特徴とする高耐候性熱処理木材。
【請求項2】
前記木材の表面の色が暗褐色である請求項1記載の高耐候性熱処理木材。
【請求項3】
前記木材の種類はスギであり、前記保存処理剤は銅化合物を含む保存処理剤である請求項1記載の高耐候性熱処理木材。
【請求項4】
密閉タンク内に無垢の未処理木材本体を収容し、前記密閉タンク内を減圧する減圧処理を行い、次に前記密閉タンク内に水蒸気を導入して昇温する熱処理を行い、木材中のヘミセルロースを分解・変性し、内部の水酸基が疎水化された状態にし、この後保存処理剤を浸透させることを特徴とする高耐候性熱処理木材の製造方法。
【請求項5】
前記木材の熱処理の温度は、190~220℃である請求項4記載の高耐候性熱処理木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木材に熱処理を施した高耐候性熱処理木材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
丸太から製材した無垢の木材に、水蒸気等による熱処理を施し、防腐性と寸法安定性を向上させた熱処理木材がある。このような熱処理木材は、含水率が低く、また木材中のヘミセルロースが熱処理により分解・変性された状態であり、木材の性質が変化している。またヘミセルロースの分解産物がリグニン等の他の成分と反応して濃い色の着色物質を生じ、落ち着いた暗褐色を呈する。スギに熱処理を行うと、特有の心材・辺材間のコントラストを落ち着かせ、全体を暗褐色に調色することができる。しかしながら、熱処理木材を屋外に施工した事例では、上記のような着色物質は太陽光等の紫外線により分解され、その分解に起因して色に変化が生じ、屋外では比較的短期間で退色して灰白色に変色する。
【0003】
従来、このような熱処理木材の屋外使用時の紫外線による変色を抑制する方法が考えられている。例えば、特許文献1に開示されている熱処理木材の製造方法は、密閉空間内に無垢材である被処理木材を収容して、密閉空間の内圧を50kPa以下に維持する減圧処理工程と、減圧処理工程により酸素含有量が低下した被処理木材を収容する密閉空間に過熱水蒸気を導入して、被処理木材を170℃以上の温度に加熱する加熱水蒸気処理工程と、該加熱水蒸気処理工程後の被処理木材に対して変色促進処理を施す変色促進工程とを含む。変色促進工程は、被処理木材に、塩素系又は酸素系の酸化剤を含む液を塗布した後、加熱又は紫外線の照射を行う。この熱処理木材の製造方法によれば、着色物質の分解に伴う被処理木材の変色を促進させることにより、被処理木材の経年変化を強制的に生じさせ、使用時の光による経年変色を抑制することができる。
【0004】
一方、無垢の木材に、木材保存剤による保存処理を施した処理木材がある。一般的な処理方法としては、保存処理剤を水または有機溶剤に溶解した液体に木材を浸漬し、密閉容器内で圧力を加えることによって、保存処理剤成分を木材中へ浸透させる加圧注入処理が、JISA9002木質材料の加圧式保存処理方法として制定されている。使用する保存処理剤は、例えば銅化合物と塩化ベンザルコニウム、またはジデシルジメチルアンモニウムクロリドを配合したACQ(Alkaline Copper Quaternary)、銅化合物にシプロコナゾールを配合したCUAZなどである。この保存処理木材は、防腐性やシロアリの食害を防ぐ防蟻性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景技術の場合、特許文献1の熱処理木材は、熱処理した木材を強制的に灰白色に退色させるものであり、熱処理した木材の暗褐色の色合いを生かすことができない。また、この熱処理木材は防蟻性が不十分であり、防蟻性の改善が求められている。一方、一般的な保存処理木材は、防腐性と防蟻性は得られるが、熱処理木材のような寸法安定性の向上は得られない。また、保存処理剤として銅化合物を含むACQやCUAZを使用する場合は木材が緑色に変化し、人工的な違和感を受ける。
【0007】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、熱処理による防腐性と寸法安定性、及び薬剤による防腐・防蟻性を併せ持ち、退色し難く耐候性に優れた高耐候性熱処理木材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、木材中のヘミセルロースが熱処理により分解・変性され、内部の水酸基が疎水化された状態であり、且つ保存処理剤が前記木材の表面から内部に浸透している高耐候性高耐候性熱処理木材である。前記木材の表面の色が暗褐色であり、18か月経過しても退色しない耐候性を有する。前記木材の種類はスギであり、前記保存処理剤はACQ又はCUAZ等の銅化合物を含む保存処理剤である。
【0009】
また本発明は、密閉タンク内に無垢の未処理木材本体を収容し、前記密閉タンク内を減圧する減圧処理を行い、次に前記密閉タンク内に水蒸気を導入して昇温する熱処理を行い、炭化しない程度であって、木材中のヘミセルロースを分解・変性し、内部の水酸基が疎水化された状態にし、この後保存処理剤を浸透させることを特徴とする高耐候性高耐候性熱処理木材の製造方法である。前記木材の熱処理の温度は、190~220℃が好ましいものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高耐候性熱処理木材とその製造方法は、熱処理した木材の特長である防腐性と寸法安定性、及び保存処理剤により処理した木材の特長である防蟻性を併せ持ち、なおかつ熱処理した木材特有の暗褐色の色合いが長期間維持され、紫外線の影響を受け退色することがない。木材の種類がスギの場合、熱処理した木材特有の暗褐色がスギ特有の心材・辺材間のコントラストを落ち着かせ、全体を暗褐色に調色することができ、調色した状態を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の一実施形態の高耐候性熱処理木材の製造方法を示す概略図である。
【
図2】この実施形態の高耐候性熱処理木材のオオウズラタケによる防腐試験の結果を示すグラフであり、ACQを使用した高耐候性熱処理木材を(a)、CUAZを使用した高耐候性熱処理木材を(b)に示す。
【
図3】この実施形態の高耐候性熱処理木材のカワラタケによる防腐試験の結果を示すグラフであり、ACQを使用した高耐候性熱処理木材を(a)に、CUAZを使用した高耐候性熱処理木材を(b)に示す。
【
図4】この実施形態の高耐候性熱処理木材のイエシロアリによる防蟻試験の結果を示すグラフであり、ACQを使用した高耐候性熱処理木材を(a)に、CUAZを使用した高耐候性熱処理木材を(b)に示す。
【
図5】この実施形態の高耐候性熱処理木材の寸法安定性試験の結果を示すグラフである。
【
図6】この実施形態の高耐候性熱処理木材で作られた屋外デッキの18ヶ月経過後の画像である。
【
図7】この実施形態の高耐候性熱処理木材の色指数の初期値を示すグラフ(a)と、屋外に18ヶ月(1.5年)暴露した色指数を示すグラフ(b)と、色指数の初期値と18ヶ月(1.5年)暴露した色指数との色差を示すグラフ(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について説明する。この実施形態の高耐候性熱処理木材10は、木材中のヘミセルロースが熱処理により分解・変性され、内部の水酸基が疎水化された状態であり、防腐・防蟻効果を発揮する保存処理剤が木材の表面に浸透している。
【0013】
さらに、高耐候性熱処理木材10は、熱処理によって高耐候性熱処理木材10中の水分が低く抑えられている。水分を低く抑えることで、寸法の変化が起こりにくく、また腐朽しにくくなり防腐性が向上する。内部の水酸基が疎水化され、水分と結合しにくい状態になり、木材を腐らせる菌は利用できる水分が無く、このことからも防腐性が高い。また、吸湿により寸法を大きく変化させる成分であるヘミセルロースが、熱処理により分解・変性され、このことからも高い寸法安定性を有する。保存処理剤が木材の表面に浸透して取り付けられているため、防腐性と防蟻性が付与される。水分が少ないことから、断熱性も向上する。
【0014】
また、高耐候性熱処理木材10は、熱処理により生成されるヘミセルロースの分解産物がリグニン等の他の成分と反応して濃い色の着色物質を生じ、暗褐色を呈する。そして保存処理剤の成分が影響して耐候性が向上し、時間が経過しても退色しない。暗褐色の色合いを維持し、経年変化で灰白色等に変色することが無い。
【0015】
高耐候性熱処理木材10の木材の種類は特に制限されない。大きさや形状も特に制限されず、製品であるデッキ材等の形状でもよい。高耐候性熱処理木材10を製造するための、後述する密閉タンクに入る大きさであれば良い。使用する保存処理剤は、JISK1570における銅・アルキルアンモニウム化合物系のACQや、JISK1570における銅・アゾール系のCUAZ等である。
【0016】
次に、この実施形態の高耐候性熱処理木材10の製造方法について
図1に基づいて説明する。まず材料である無垢の未処理木材本体12を所定の形状、大きさにカットする。未処理木材本体12の形状と大きさは特に制限されず、例えば製品であるデッキ材等の形状でもよい。高耐候性熱処理木材10の製造には、密閉タンクを有する処理装置を使用する。処理装置の密閉タンクに、カットした未処理木材本体12を入れる。未処理木材本体12は、例えば密閉タンク内に設置した金属などの耐熱性の素材からなる棚や台等の支持体上に複数並べて配置する。そして、未処理木材本体12の配置後、密閉タンクの扉を閉鎖して内部を密閉する。
【0017】
次に、真空ポンプ等を作動し密閉タンク内の空気を排出して内部を減圧して、所定時間、減圧処理を行う。減圧処理の条件は、例えば大気圧から80kPa減圧した状態で、90℃、22.5時間保持する。減圧処理により、未処理木材本体12中に含まれる空気の含有量が大幅に低下し、それに伴い酸素含有量も低下する。
【0018】
次に、減圧処理を行った密閉タンクを、水蒸気で満たして昇温し、目標とする温度に達した後、所定の時間をおいて未処理木材本体12に熱処理を行う。熱処理の条件は、例えば0.01MPaの加圧条件下で、10℃/時間で、220℃まで昇温し、220℃に到達した後、3時間保持する。熱処理の温度、時間は適宜に設定され、熱処理温度は190~220℃が好ましく、熱処理時間は、少なくとも60分以上が好ましく、熱処理温度により適宜設定され、未処理木材本体12のヘミセルロースが、熱処理により分解・変性されるとともに、炭化しない程度の温度・時間であれば良い。昇温過程は、ゆっくり昇温する乾燥工程と、その後に高温まで急激に昇温する熱処理工程に分かれていてもよい。この乾燥工程では、水蒸気中で所定の温度までゆっくりと100℃程度まで昇温し、未処理木材本体12の含水率がほぼ0%になるまで徐々に乾燥させる。熱処理中の密閉タンク内の圧力は常圧でも良い。
【0019】
熱処理後、水蒸気の導入を停止し、密閉タンク内を冷却する。冷却は、未処理木材本体12の含水率を調整しながら水スプレーをあてて温度を下げ、熱処理が完了し、未処理木材本体12は熱処理済みの熱処理木材本体14となり、密閉タンクから取り出す。
【0020】
熱処理木材本体14は、熱処理によって水分が低く抑えられている。水分を低く抑えることで、寸法の変化が起こりにくく、また腐朽しにくくなり防腐性が向上する。内部の水酸基が疎水化され、水分と結合しにくい状態になり、木材を腐らせる菌は利用できる水分が無く、このことからも防腐性が高い。また、吸湿により寸法を大きく変化させる成分であるヘミセルロースが、熱処理により分解・変性され、このことからも高い寸法安定性を有する。水分が少ないことから、断熱性も向上する。熱処理により生成されるヘミセルロースの分解産物がリグニン等の他の成分と反応して濃い色の着色物質を生じ、暗褐色を呈する。
【0021】
次に、熱処理木材本体14に、保存処理剤を浸透させる保存処理を行う。使用する保存処理剤は、上述の通りACQやCUAZ等である。この実施形態における保存処理は、熱処理木材本体14にACQ6%水溶液を減圧注入する。注入条件は、熱処理木材本体14を注入缶内でACQ6%水溶液に浸漬した状態で、大気圧から例えば-0.085MPaまで減圧して30分間保持した後、缶内を1.3MPaに加圧して180分間保持し、再度-0.085MPaまで減圧して30分間保持する。常圧に戻した後、60時間程度注入缶内に静置する。これで保存処理が完了し、熱処理木材本体14は保存処理済みの高耐候性熱処理木材10となり、密閉タンクから取り出す。
【0022】
高耐候性熱処理木材10は、保存処理剤が表面から最大で数センチまで浸透して取り付けられ、高い防腐性と防蟻性を有する。そして、色は熱処理木材本体14と変わらず、暗褐色を呈する。
【0023】
この実施形態の高耐候性熱処理木材10によれば、熱処理した木材の特長である防腐性と寸法安定性と、保存処理した木材の特長である防蟻性を併せ持ち、なおかつ熱処理した木材特有の暗褐色の色合いが長期間維持され、耐候性に優れている。このような性質を生かして、木造建築や屋外設備等の構成部材として好ましく用いることができる。熱処理の温度を高くすると寸法安定性、防腐性、断熱性が高くなるため、屋内や屋外、雨がかかる場所等、用途に合わせた性能の高耐候性熱処理木材10を製造することができる。
【0024】
高耐候性熱処理木材10は暗褐色で落ち着いた雰囲気を持つ。この暗褐色は太陽光等の紫外線にさらされても退色することが無く、耐久性があり、建築当初の外観を維持することができる。木材の種類がスギの場合、暗褐色となることでスギ特有の心材・辺材間のコントラストを落ち着かせ、全体を暗褐色に調色する効果がある。またこの暗褐色は、熱処理の温度が高いほど重厚な暗褐色となり、温度を調節して所望の色味にすることができる。
【0025】
なお、この発明の高耐候性熱処理木材は、木造建築や屋外設備等の種々の用途に使用することができる。屋内や屋外、雨がかかる場所等の用途に合わせて、処理温度や処理時間等を適宜設定し、用途に適した性能の高耐候性熱処理木材を製造することができる。木材保存剤である保存処理剤の種類も自由に選択可能であり、保存処理の方法は適宜変更可能である。処理条件は、未処理木材本体12の厚みや用途に応じて適宜に決定する。木材の種類は自由に選択可能である。
【実施例0026】
以下に、本発明の実施例について説明する。上記実施形態の高耐候性熱処理木材10について、耐久性試験、寸法安定性試験、耐候性試験を行った。
【0027】
各試験に供する試験体について説明する。木材の種類はボカスギであり、ボカスギは、富山県等で植栽されたスギの品種である。ボカスギで作られた未処理木材本体12は、木表に波加工を施したもので、長さ2m、厚さ30mm、幅150mmのボカスギ辺材デッキ材である。まず、未処理木材本体12に減圧処理を施す。減圧処理の条件は、上述の実施形態の通り大気圧から80kPa減圧した状態で、90℃で22.5時間保持する。次に熱処理を行う。熱処理の条件も、上述の実施形態の通り0.01MPaの加圧条件下で、10℃/時間で、220℃まで昇温し、220℃に到達した後、3時間保持する。熱処理が施されて未処理木材本体12は熱処理木材本体14となる。
【0028】
次に、熱処理木材本体14から、20mm×20mm×10mmの試験片を採取し、保存処理を行う。使用する保存処理剤は、ACQである。保存処理は、上述の実施形態の通り、試験片をACQ6%水溶液を減圧注入した。注入条件は、試験片をACQ6%水溶液に浸漬した状態で、大気圧から0.09MPa減圧し、到達後30分減圧を保持し、常圧に戻した後、30分静置し、高耐候性熱処理木材10の試験体となる。試作した試験体名はHACQとする。
【0029】
また、熱処理木材本体14から採取した別の試験片に、CUAZ0.6%水溶液(通常使用の約1/5の低濃度)を、HACQと同じ保存処理で高耐候性熱処理木材10の試験体を試作した。試験体名はHCUAZとする。その他、比較のために熱処理工程のみ(試験体名H)、ACQ処理のみ(試験体名ACQ)、CUAZ処理のみ(試験体名CUAZ)の各試験体を試作した。
【0030】
まず、H、ACQ、HACQ、CUAZ、HCUAZの各試験体について耐久性試験、すなわちJISK1571室内防腐性能試験と防蟻試験を実施した。防腐性能試験では、試験体を木材腐朽菌(オオウズラタケ、カワラタケの2種)が繁茂した容器中に入れて12週間培養し、強制的に腐朽させる。防蟻試験では、試験体を、イエシロアリ職蟻150頭を入れた容器に入れて3週間飼育し、強制的に摂食させる。いずれの試験でも、強制腐朽、または強制摂食による試験体の質量減少を、防腐性、または防蟻性の指標とし、質量減少率3%以下が防腐性能、ならびに防蟻性能の基準とされる。長期的な防腐性や防蟻性を検討するため、試験体に水中攪拌8時間+60℃攪拌16時間を10回繰り返して耐侯操作を施した後に、上述の強制腐朽、または強制摂食試験を行った。比較のため、無処理スギ辺材(Ctrl)で同じ試験を行った。以下の式(1)で質量減少率を算出した。
質量減少率
=((腐朽前乾燥質量-腐朽後乾燥質量)/腐朽前乾燥質量)×100(%) (1)
【0031】
オオウズラタケによる防腐試験の結果を
図2に示す。無処理スギ辺材(Ctrl)は、40%超の質量減少率を示したのに対し、H、ACQの試験体は質量減少を3%前後に抑制し、HACQの試験体はさらに高い抑制効果を示した。CUAZの試験体では低濃度であることから質量減少が28%に達したが、熱処理を併用したHCUAZの試験体では5%に抑制され、ACQの試験体と同様に併用による防腐効果の補完が認められた。
【0032】
カワラタケによる防腐試験の結果を
図3に示す。H、ACQ、CUAZの試験体はいずれも高い防腐効果を示し、HACQ、HCUAZの試験体もいずれも高い防腐効果を示した。
【0033】
防蟻試験の結果を、
図4に示す。Hの試験体のシロアリ食害による質量減少率は23%で、Ctrlの14%を大きく上回っており、熱処理はシロアリ食害を促進することが明らかになった。しかしACQ処理を併用したHACQの試験体では質量減少率は0%に低下した。低濃度のCUAZ処理と併用したHCUAZの試験体でも質量減少率は8%まで低下し、Hの試験体の防蟻性はACQ、CUAZの各処理の併用によって大きく改善されることが確認された。
【0034】
以上の耐久性試験結果から、高耐候性熱処理木材10は高い防腐性能と防蟻性能を有していることが確認された。
【0035】
次に、H、ACQ、HACQ、CUAZ、HCUAZの各試験体について、寸法安定性試験を実施した。これは、全乾時、ならびにイオン交換水を減圧注入した飽水時の寸法を測定して体積膨潤率を求め、各試験体のASE(抗膨潤能)を、以下の式(2)で算出した。
ASE
=(無処理材の膨潤率-処理材の膨潤率)/(無処理材の膨潤率)×100(%) (2)
【0036】
寸法安定性試験の結果を、
図5に示す。HのASEは67%で、高い寸法安定性が認められた。ACQとCUAZの試験体のASEは10%以下で、寸法安定性の向上は認められなかったが、熱処理を併用したHACQとHCUAZの試験体のASEは、それぞれ62%、65%で、熱処理とほぼ同じ高い寸法安定性が確認された。熱処理を併用することにより、寸法安定性が大きく向上することが確認された。
【0037】
また、ASEの向上、すなわち寸法安定性の向上は、デッキ材として使用した場合、割れやささくれの発生抑制効果が期待される。そこでデッキサイズ、すなわち長さ2m、厚さ30mm、幅150mmの熱処理木材本体14をACQ6%水溶液に浸漬した状態で-0.085MPaで減圧して30分保持した後、1.3MPaで180分加圧し、さらに再度0.085MPaで減圧して30分保持して、デッキサイズの高耐候性高耐候性熱処理木材10を試作した。また未処理木材12に、上記と同じ条件でACQを注入処理してACQ処理木材を試作した。未処理木材12、ACQ処理木材、熱処理木材本体14、ならびに高耐候性高耐候性熱処理木材10の4種類のデッキ材を用いて4区画からなる屋外デッキを試験施工し、それぞれCtrl区、ACQ区、H区、HACQ区として、18ヶ月経過後の干割れ発生状況を比較した。デッキに用いた材は、木表側に波加工を施したボカスギ(上小節、一等材)で、各区上小節10枚について、材面の干割れの有無を目視で調べた。その結果を以下の表1に示す。また、
図6に、各区デッキ材の画像を例示した。
【表1】
【0038】
この結果、H区とHACQ区では、干割れ発生が顕著に抑制されていることが確認された。以上の寸法安定性試験から、高耐候性熱処理木材10は高い寸法安定性を有し、そのことが干割れの抑制に寄与することが確認された。
【0039】
次に、H、ACQ、HACQ、Ctrlの各試験体について、耐候性試験を実施した。H、HACQ、ACQ、Ctrlの4種類のデッキ材テストピースを、屋外に18ヶ月間(1.5年間)暴露し、色指数L
*,a
*,b
*を測定した。別途室内に保管しておいた各種類のテストピースの色指数L
*,a
*,b
*を初期値として色差ΔL
*,Δa
*,Δb
*,ΔEを算出し、
図7に示す。
【0040】
図7(a)は初期値である。HとHACQのL
*,a
*,b
*はいずれもCtrlより低下しているが、3指数の大小関係はほぼ同じである。一方、ACQはa
*値が極端に低下しており、L
*,a
*,b
*のバランスがCtrlとは大きく異なっている。曝露前のHとHACQの材色はCtrlと同系列で落ち着いた色だが、ACQは全く異なる緑色であることが、数値的に示されている。18か月曝露したテストピースのL
*,a
*,b
*は、
図7(b)に変化した。
図7(c)の色差をみると、CtrlやHは色差が大きく、著しく退色していることが示唆されたが、HACQの試験体の色差は極めて小さく、退色しにくいことが、数値的に確認された。
【0041】
また、この高耐候性熱処理木材10の耐候性を実際のデッキのスケールで実証するため、前記の試験施工した屋外デッキの各区について施工直後と、18ヶ月経過後の外観を観察した。木材のグレードは、上小節と一等材の2種類である。施工直後の外観を比較すると、いずれのグレードでもCtrl区は淡黄色で自然な好印象である。H区とHACQ区は、落ち着いた暗褐色を呈し、Ctrl区よりさらに好印象である。ACQ区は銅により人工的な緑色に変化し、違和感がある。一方、18ヶ月後の外観を比較すると、Ctrl区とH区は著しく退色して灰色に変化した。しかし、HACQ区は施工直後に近い暗褐色を維持しており、Ctrl区より好印象である。ACQ区は、施工直後の人工的な緑色が褐色に変化して、印象は好転していた。以上のように、施工直後の材色が好印象で、なおかつ18カ月後も施工直後の材色を維持した区、すなわち高い耐候性を示した区はHACQ区であった。