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特開2024-106222ポリエステル系樹脂組成物、その製造方法、成形品、及び、フィラメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106222
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物、その製造方法、成形品、及び、フィラメント
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240731BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240731BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240731BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240731BHJP
   C08G 64/00 20060101ALI20240731BHJP
   D01F 6/86 20060101ALI20240731BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20240731BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240731BHJP
【FI】
C08L67/00 ZBP
C08L69/00
C08L67/04
C08L67/02
C08G64/00
D01F6/86 304E
D01F6/84 303Z
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010428
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】山田 健史
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4J200
4L035
【Fターム(参考)】
4J002CF031
4J002CF181
4J002CG012
4J002FD010
4J002FD070
4J002FD140
4J002GB00
4J002GC00
4J002GG00
4J002GK01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J029AA09
4J029AB07
4J029AD01
4J029AD03
4J029AD05
4J029AD06
4J029AD07
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029BA07
4J029BA08
4J029BA09
4J029BA10
4J029BB04A
4J029BB05A
4J029BB13A
4J029BD03A
4J029BD04A
4J029BD06A
4J029BD07A
4J029HA01
4J029HC04A
4J029JA091
4J029JF021
4J200AA04
4J200BA14
4J200BA15
4J200BA19
4J200BA20
4J200CA01
4J200CA06
4J200DA16
4J200DA17
4J200DA18
4J200DA22
4J200DA24
4J200DA28
4J200DA29
4J200EA04
4J200EA05
4J200EA07
4J200EA09
4L035AA05
4L035BB31
4L035HH10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】曲げ耐性に優れた樹脂シートを与える、ポリエステル系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のポリエステル系樹脂組成物は、生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)を配合してなるポリエステル系樹脂組成物であって、ポリカーボネートポリオール(B)が、水酸基価が32~500mgKOH/gであり、主鎖に分岐構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)を配合してなるポリエステル系樹脂組成物であって、
ポリカーボネートポリオール(B)が、水酸基価が32~500mgKOH/gであり、主鎖に分岐構造を有する、ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカーボネートポリオール(B)が、25℃で液状である、請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリカーボネートポリオール(B)が、分岐状炭化水素鎖を有するポリオール由来の構成単位を有する、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)との縮合体を含む、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネートポリオール(B)の数平均分子量が、5,000以下である、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
ポリカーボネートポリオール(B)が、ポリエーテルポリオール由来の構成単位を含まない、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】
生分解性ポリエステル樹脂(A)が、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体、及び3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項8】
生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)の合計100質量部において、生分解性ポリエステル樹脂(A)を50~95質量部及びポリカーボネートポリオール(B)を5~50質量部を配合してなる、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項9】
生分解性ポリエステル樹脂(A)が、ポリ乳酸を含み、ポリ乳酸100モル%中、D体を0~7.0モル%含む、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物を含む成形品。
【請求項11】
フィラメントである、請求項10の成形品。
【請求項12】
3次元造形用の請求項11に記載のフィラメント。
【請求項13】
シート、フィルム又は繊維である、請求項10の成形品。
【請求項14】
生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)とを180~260℃で溶融混合する、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物、その製造方法、成形品、及び、フィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性樹脂及びその成型品が求められ、脂肪族ポリエステルなどの生分解性樹脂の研究開発が活発に行われている。特に、ポリ乳酸系樹脂は融点が170~180℃と十分に高く、しかも透明性に優れるため、包装材料や透明性を生かした成型品等の材料として大いに期待されている。しかし、ポリ乳酸系樹脂をはじめとする生分解性ポリエステル樹脂はその剛直な分子構造のために、耐衝撃性、耐屈曲性が劣り脆いという欠点があり、これら生分解性ポリエステル樹脂の改良が望まれている。
【0003】
ポリ乳酸に対し、可塑剤として、各種ポリマー、オリゴマー、有機分子を添加することで、ポリ乳酸の柔軟性が上がることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、ポリカーボネートポリオールを原料とした樹脂は、耐光性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性に優れる塗膜を与えることが知られている(特許文献1)。
【0005】
近年、ポリ乳酸の柔軟性、耐久性の低さを補うために、ポリカーボネートポリオールを導入する試みがなされている。特許文献2では、ポリカーボネートポリオールとカルボン酸とのエステルがポリ乳酸に添加されている。特許文献3では、ポリカーボネートポリオールのブロックとポリ乳酸のブロックを有するポリ乳酸系樹脂が記載されている。これらの文献において、例えば、1,5-ペンタンジオール、及び、1,6-ヘキサンジオールを構成成分として有する非晶性ポリカーボネートポリオールの使用が報告されている(特許文献2,3)。
【0006】
ポリエーテルポリオール、及び、ジメチルカーボネートから製造されるポリエーテルカーボネートポリオールをポリ乳酸系樹脂の添加剤として使用することが報告されている(特許文献4)
【0007】
1,4-ブタンジオールを構成成分として有する結晶性ポリカーボネートポリオールの使用が報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Poly.Sci.Part B,2011,49,1051
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-120757号公報
【特許文献2】特開2004-352973号公報
【特許文献3】特開2009-1637号公報
【特許文献4】特開2006-199799号公報
【特許文献5】特開平11-140292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2から5に記載のポリ乳酸、及び、特定のポリカーボネートポリオールからなるポリ乳酸系樹脂組成物から得られる樹脂シートは、曲げ耐性が十分ではなかった。
【0011】
本発明の課題は、成形品とした際に、曲げ耐性に優れる、ポリエステル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の[1]~[14]に関する。
[1]生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)を配合してなるポリエステル系樹脂組成物であって、
ポリカーボネートポリオール(B)が、水酸基価が32~500mgKOH/gであり、主鎖に分岐構造を有する、ポリエステル系樹脂組成物。
[2]ポリカーボネートポリオール(B)が、25℃で液状である、[1]のポリエステル系樹脂組成物。
[3]ポリカーボネートポリオール(B)が、分岐状炭化水素鎖を有するポリオール由来の構成単位を有する、[1]又は[2]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[4]さらに、生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)との縮合体を含む、[1]~[3]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物。
[5]ポリカーボネートポリオール(B)の数平均分子量が、5,000以下である、[1]~[4]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物。
[6]ポリカーボネートポリオール(B)が、ポリエーテルポリオール由来の構成単位を含まない、[1]~[5]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物。
[7]生分解性ポリエステル樹脂(A)が、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体、及び3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物。
[8]生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)の合計100質量部において、生分解性ポリエステル樹脂(A)を50~95質量部及びポリカーボネートポリオール(B)を5~50質量部を配合してなる、[1]~[7]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物。
[9]生分解性ポリエステル樹脂(A)が、ポリ乳酸を含み、ポリ乳酸100モル%中、D体を0~7.0モル%含む、[1]~[8]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物。
[10][1]~[9]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物を含む成形品。
[11]フィラメントである、[10]の成形品。
[12]3次元造形用の[11]のフィラメント。
[13]シート、フィルム又は繊維である、[10]の成形品。
[14]生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)とを180~260℃で溶融混合する、[1]~[9]のいずれかのポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル系樹脂組成物から得られる成形品は、曲げ耐性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ポリエステル系樹脂組成物]
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)を配合してなるポリエステル系樹脂組成物であって、ポリカーボネートポリオール(B)が、水酸基価が32~500mgKOH/gであり、主鎖に分岐構造を有する、ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【0015】
〔生分解性ポリエステル樹脂(A)〕
生分解性ポリエステル樹脂(A)としては特に限定されないが、脂肪族ポリエステル樹脂が好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体、及び3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、生分解性や成形性の観点から、ポリ乳酸を主体とすることがより好ましい。
【0016】
〔ポリ乳酸〕
ポリ乳酸としては特に限定されないが、例えば、L-乳酸、D-乳酸、D,L-乳酸、L-乳酸とD-乳酸の混合物からなるステレオコンプレックス系ポリ乳酸及びこれらの混合物等を好ましく用いることができる。中でも、生分解性や成形性の観点から、L-乳酸を主体とするポリ乳酸が好ましい。
【0017】
ポリ乳酸におけるD体含有量は、ポリ乳酸100モル%中、D体を0~7.0モル%含むことが好ましく、0.01~6.0モル%含むことがより好ましく、0.1~1.0モル%含むことがさらに好ましい。D体含有量が7.0モル%より多いと、生分解性が低下する場合がある。
【0018】
ポリ乳酸を構成するL体及びD体の割合(光学異性比率)は、それを加水分解して得られた乳酸を、光学異性体分離カラムを備えた高性能液体クロマトグラフィーを用いて、L-乳酸とD-乳酸とに分離した後、それらを定量することにより決定できる。前記加水分解の方法としては、例えば、D,L-乳酸と水酸化ナトリウム/メタノール混合溶液とを、例えば65℃に設定した水浴浸とう器を用いて混合する方法が挙げられる。高性能液体クロマトグラフィーを用いた定量の際には、予め希塩酸溶液等を用いて中和したものを用いることが好ましい。
【0019】
ポリ乳酸として、成形性の観点から、JIS K7210に従って測定した190℃、2.16kgにおけるメルトフローレートが0.3~30g/10分のものを用いればよく、1~25g/10分が好ましく、2~20g/10分がより好ましく、5~15g/10分であることがさらに好ましい。
【0020】
ポリ乳酸は、成形性の観点から、サイズ排除液体クロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が、下限値は50,000以上のものを用いることが好ましく、70,000以上のものがより好ましい。上限値は500,000以下のものを用いることが好ましく、300,000以下のものを用いることがより好ましい。
【0021】
ポリ乳酸は、成形性の観点から、示差走査熱量分析法(以降、DSCと言うことがある)で測定した融点が、140~210℃であることが好ましく、150~200℃であることがより好ましく、160~190℃であることがさらに好ましい。
【0022】
ポリ乳酸は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造することができる。乳酸の重縮合反応は、乳酸の有するカルボキシル基及び水酸基をエステル化反応させる方法であり、例えば、L-乳酸もしくはD-乳酸又はこれらの混合物を高沸点溶媒存在下、減圧下で共沸脱水させる方法が挙げられる。また、前記ラクタイドを用いた開環重合法とは、開環したラクタイド同士をエステル化反応する方法であり、例えば重合調節剤、及び重合触媒の存在下でL-ラクタイド又はD-ラクタイドを開環させる方法が挙げられる。さらに、L-乳酸とD-乳酸の2量体であるD,L-ラクタイドを本発明の目的を達成する範囲内で併用してもよい。
【0023】
本発明におけるポリ乳酸としては、強度、靭性を有するポリグリコール酸、柔軟性を有するポリカプロラクトン、植物度が高いポリヒドロキシブチレート及びポリヒドロキシバリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のヒドロキシカルボン酸誘導体とポリ乳酸との共重合体も好ましく用いることができる。
【0024】
〔ポリカーボネートポリオール(B)〕
ポリカーボネートポリオール(B)は、分子中にカーボネート結合を有するポリオールであり、水酸基価が、32~500mgKOH/gであり、主鎖に分岐構造を有する。
ここで、主鎖とは、ポリカーボネートポリオール(B)における隣接する構成単位中のそれぞれのカルボニル基の炭素間を結ぶ最小の炭素原子数で結ぶ複数の炭素鎖のうち、最大の炭素原子数の炭素鎖をいう。分岐構造とは、主鎖上の炭化水素基に炭化水素鎖が結合している構造をいい、炭化水素鎖は主鎖と複数点で結合し環を形成していてもよい。炭化水素鎖は、好ましくは主鎖と1点で結合し、より好ましくは主鎖と1点で結合し、結合する炭素が主鎖中の第三級炭素又は第四級炭素であり、さらに好ましくは、主鎖と1点で結合し、結合する炭素が主鎖中の第三級炭素である炭化水素鎖をいう。
ポリカーボネートポリオール(B)は、分岐状炭化水素鎖が酸素原子で中断されたポリエーテルポリオール由来の構成単位を含んでいてもよいが、耐水性、耐光性の観点からポリエーテルポリオール由来の構成単位を含まないことが好ましい。ポリカーボネートポリオール(B)は、例えば、ジオール等のポリオールモノマーがカーボネート結合したものであることが好ましい。また、ポリカーボネートポリオール(B)は、分子中のカーボネート結合の平均数以下の数のエーテル結合及び/又はエステル結合を含有していてもよいが、エーテル結合は含まないことが好ましく、エーテル結合及びエステル結合を含まないことがより好ましい。また、ポリカーボネートポリオール(B)は、ポリカーボネートジオールであることが好ましい。
ポリカーボネートポリオール(B)は、下記一般式(I)で表されることが好ましい。
【化1】

(Rは分岐状炭化水素鎖であり、酸素原子を含んでいてもよい。複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。nは1以上の整数である。)
曲げ耐性を付与する点から、nは、2~30であることが好ましく、2~10であることがより好ましい。
【0025】
ポリカーボネートポリオール(B)は、例えば、ポリオールモノマーと、炭酸エステル及び/又はホスゲンとを反応させて得られる。そのため、ポリカーボネートポリオール(B)は、ポリオールモノマーに由来する構成単位を有する。
【0026】
ポリカーボネートポリオール(B)は、主鎖に分岐構造を有する。そのため、ポリオールモノマーは、分岐状炭化水素鎖を有するポリオール並びに炭酸エステル及び/又はホスゲンと反応して分岐状炭化水素鎖を形成するポリオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも分岐状炭化水素鎖を有するポリオールを含むことがより好ましい。ここで、分岐状炭化水素鎖を有するポリオールとは、上記分岐構造の中でも、特に第三級炭素又は第四級炭素を含む炭化水素鎖を有するポリオールをいう。炭酸エステル及び/又はホスゲンと反応して分岐状炭化水素鎖を形成するポリオールについては、上記分岐構造と同様である。
【0027】
分岐状炭化水素鎖を有するポリオールとしては、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,1’-ジメチル-1,2-エタンジオール等の脂肪族構造を有するポリオール、ビスフェノールA等の芳香族構造を有するポリオール等が挙げられる。分岐状炭化水素鎖を有するポリオールとしては総炭素数3~20が好ましい。分岐状炭化水素鎖を有するポリオールは、ポリカーボネートポリオール(B)の主鎖と1点で結合し、結合する炭素が主鎖中の第三級炭素又は第四級炭素である炭化水素鎖を形成する。
【0028】
炭酸エステル及び/又はホスゲンと反応して分岐状炭化水素鎖を形成するポリオールとしては、1-メチル-1,2-エタンジオール、1-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1-メチル-2-メチル-1,2-エタンジオール、2-エチル-1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ダイマージオール等の脂肪族構造を有するポリオールが挙げられる。これらの脂肪族構造を有するポリオールは、ポリカーボネートポリオール(B)の主鎖と1点で結合する炭化水素鎖を形成する。
【0029】
さらに、炭酸エステル及び/又はホスゲンと反応して分岐状炭化水素鎖を形成するポリオールとしては、1,3-シクロペンタンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族構造を有するポリオールが挙げられる。さらに、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール等の等の芳香族構造を有するポリオールが挙げられる。これらは、主鎖と複数点で結合し環を含む分岐構造を形成する。
【0030】
相溶性の観点から、分岐状炭化水素鎖を有するポリオール並びに炭酸エステル及び/又はホスゲンと反応して分岐状炭化水素鎖を形成するポリオールの総炭素数は、3~20が好ましく、3~15がより好ましく、3~9がさらに好ましく、3~7が特に好ましい。ここで言う総炭素数とは、上記ポリオールモノマーに由来する構成単位に含まれる炭素原子の総数であり、主鎖、及び、分岐に存在する炭素原子の合計数を指す。
【0031】
分岐状炭化水素鎖を有するポリオールは、曲げ耐性向上の観点から、第三級炭素を少なくとも1個以上有することが好ましい。ここで言う第三級炭素とは、対象の炭素原子が他の炭素原子3個と結合している炭素原子のことを指す。
分岐状炭化水素鎖を有するポリオールの中でも、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールなどが好ましい。
【0032】
ポリオールモノマーとしては、分岐状炭化水素鎖を有するポリオール並びに炭酸エステル及び/又はホスゲンと反応して分岐状炭化水素鎖を形成するポリオール以外のポリオールモノマーを含んでいてもよい。その他のポリオールモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ポリオールモノマー、脂環構造を有するポリオールモノマー、ポリエステルポリオールモノマー、ポリエーテルポリオールモノマー等が挙げられるが、ポリエーテルポリオールモノマーは含まないことが好ましい。
脂肪族ポリオールモノマーとしては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
脂環構造を有するポリオールモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、シクロプロパン-1,1-ジオール等が挙げられる。
【0033】
ポリエステルポリオールモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシ酢酸とエチレングリコールとのポリエステルポリオール、シュウ酸とエチレングリコールとのポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0034】
ポリエーテルポリオールモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール等が挙げられる。
ポリオールモノマーは、それぞれ、単独であってもよく、複数種を併用してもよい。
【0035】
炭酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル等が挙げられる。ポリカーボネートポリオールの製造が容易になることから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
炭酸エステルは、単独であってもよく、複数種を併用してもよい。
【0036】
ポリオールモノマー及び炭酸エステルからポリカーボネートポリオールを製造するための方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。反応器中に炭酸エステルと、この炭酸エステルのモル数に対して過剰のモル数のポリオールモノマーとを加え、温度160℃~200℃、圧力50mmHg程度で5時間~6時間反応させた後、更に数mmHg以下の圧力において200℃~220℃で数時間反応させる方法が挙げられる。上記反応においては副生するアルコールを系外に抜き出しながら反応させることが好ましい。また、炭酸エステルが副生するアルコールと共沸することにより系外へ抜け出る場合には、過剰量の炭酸エステルを加えてもよい。上記反応において、チタニウムテトラブトキシド等の触媒を使用してもよい。
【0037】
ポリカーボネートポリオール(B)は、25℃で液状であることが好ましい。25℃で液状であると、生分解性ポリエステル樹脂(A)と効率的に溶融混練させることができるとともに、ポリエステル系樹脂組成物から得られる成形品の曲げ耐性が良好である。液状とは、25℃で流動性を有する状態を示す。
【0038】
ポリカーボネートポリオール(B)の水酸基価は、32~500mgKOH/gであり、40~300mgKOH/gが好ましく、45~150mgKOH/gがより好ましい。水酸基価が上記範囲にあると、ポリエステル系樹脂組成物から得られる成形品の曲げ耐性が良好である。なお、本明細書において、水酸基価は、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数であり、JIS K 1557のA法によって測定することができる。
【0039】
ポリカーボネートポリオール(B)の数平均分子量は、好ましくは5,000以下であり、より好ましくは400~5,000であり、さらに好ましくは600~3,000であり、特に好ましくは700~2,500である。ポリカーボネートポリオール(B)の数平均分子量が上記範囲である場合、ポリエステル系樹脂組成物を製造する場合に、ポリエステル系樹脂組成物の粘度を適切に調整できると共に、製造がしやすくなり、ポリエステル系樹脂組成物の取り扱い性が良好になる。
【0040】
なお、上記ポリカーボネートポリオール(B)の数平均分子量は、JIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した平均分子量とする。具体的には、平均分子量は、化合物の水酸基価を測定し、末端基定量法により、式(56.1×1,000×価数)/水酸基価(mgKOH/g)を用いて算出することができる。前記式中において、価数は1分子中の水酸基の数であり、ポリカーボネートポリオールがポリカーボネートジオールの場合は価数が2となる。
【0041】
ポリカーボネートポリオール(B)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0042】
〔その他ポリオール(C)〕
ポリエステル系樹脂組成物は、ポリカーボネートポリオール(B)に加えて、その他ポリオ―ル(C)を含んでいてもよい。
その他ポリオール(C)は、ポリカーボネートポリオール(B)以外のポリオールである。ポリオールは、1分子中に2つ以上の水酸基を有するものであれば特に限定されない。このようなその他のポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、低分子量ポリオール、低分子量多価アルコール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、ポリジエンポリオール等が挙げられる。
【0043】
ポリエステルポリオールとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、1,6-へキサンジオールとダイマー酸の重縮合物等のポリエステルジオール、2-ヒドロキシ酢酸とエチレングリコールとのポリエステルポリオール、シュウ酸とエチレングリコールとのポリエステルポリオールが挙げられる。
【0044】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリピロピレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体、又はエチレンオキシドとブチレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリテトラメチレングリール等が挙げられる。更に、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルポリエステルポリオール等をポリエーテルジオールとして用いてもよい。
【0045】
≪低分子量ポリオール≫
低分子量ポリオールの分子量は、特に限定はないが、60以上400未満であることが好ましい。低分子量ポリオールの具体例としては、例えば1,4-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の直鎖状脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン等の脂環式構造を有するジオール等、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコールを挙げることができる。
【0046】
その他ポリオール(C)は、単独であってもよく、複数種を併用してもよい。
【0047】
〔硬化剤(D)〕
ポリエステル系樹脂組成物は、硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤は、ポリエステル系樹脂組成物の硬化を促進させる成分である。ポリエステル系樹脂組成物が硬化剤を含むことにより、ポリエステル系樹脂組成物を用いて得られるフィラメント、繊維、樹脂シート、フィルム、成形体の耐水性、耐薬品性等を向上させることができる。
【0048】
硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、メラミン樹脂、カルボジイミド、ポリオールなどが挙げられる。
【0049】
アミノ樹脂としては、例えば、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分もしくは完全メチロール化アミノ樹脂が挙げられる。前記アミノ成分としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどが挙げられる。
アルデヒド成分としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
【0050】
ポリイソシアネートとしては、例えば、1分子中に2個以上のイソシアナト基を有する化合物が挙げられ、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0051】
ブロック化ポリイソシアネートとしては、前述のポリイソシアネートのイソシアナト基
にブロック剤を付加することによって得られるものが挙げられ、ブロック化剤としては、フェノール、クレゾールなどのフェノール系、メタノール、エタノールなどの脂肪族アルコール系、マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系、アセトアニリド、酢酸アミドなどの酸アミド系、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタムなどのラクタム系、コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどの酸イミド系、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム系、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン等のアミン系などのブロック化剤が挙げられる。
【0052】
メラミン樹脂としては、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミンなどのメチロールメラミン;これらのメチロールメラミンのアルキルエーテル化物又は縮合物;メチロールメラミンのアルキルエーテル化物の縮合物が挙げられる。
【0053】
〔その他添加剤(E)〕
【0054】
本発明のポリエステル系樹脂組成物には、必要に応じて、添加剤、その他の合成樹脂、エラストマー等を、本発明の目的を阻害しない範囲で配合することができる。
【0055】
前記添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系(亜リン酸エステル系、リン酸エステル系等)、アミン系等の酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系等の光安定剤;脂肪族カルボン酸エステル系、パラフィン系、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス等の内部滑剤、離型剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、着色剤、各種の有機フィラー、無機充填剤、ブロッキング防止剤、各種カップリング剤、界面活性剤、着色剤、発泡剤、天然材料などが挙げられる。
【0056】
本発明のポリエステル系樹脂組成物に無機充填剤を配合すると、機械的強度、寸法安定性等が向上するため好ましい。また、増量を目的で、本発明のポリエステル系樹脂組成物に無機充填剤を配合してよい。
【0057】
前記無機充填剤としては、例えば、硫酸亜鉛、硫酸水素カリウム、硫酸アルミニウムニウム、硫酸アンチモン、硫酸エステル、硫酸カリウム、硫酸コバルト、硫酸水素ナトリウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸ナトリウム、硫酸ニッケル、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム等の硫酸金属化合物;酸化チタン等のチタン化合物;炭酸カリウム等の炭酸塩化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化金属化合物;合成シリカ、天然シリカ等のシリカ系化合物;アルミン酸カルシウム、2水和石膏、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂;硝酸ナトリウム等の硝酸化合物、モリブデン化合物、ジルコニウム化合物、アンチモン化合物及びその変性物;二酸化珪素及び酸化アルミニウムニウムの複合体微粒子などが挙げられる。
【0058】
また、上記以外の無機充填剤として、例えば、チタン酸カリウムウイスカー、鉱物繊維(ロックウール等)、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維(ステンレス繊維等)、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、ボロン繊維、テトラポット状酸化亜鉛ウイスカー、タルク、クレー、カオリンクレー、天然マイカ、合成マイカ、パールマイカ、アルミ箔、アルミナ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、カーボンブラック、黒鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アスベスト、石英粉等を挙げられる。
【0059】
これらの無機充填剤は、無処理であっても、予め化学的又は物理的表面処理を施してもよい。その表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤系、高級脂肪酸系、脂肪酸金属塩系、不飽和有機酸系、有機チタネート系、樹脂酸系、ポリエチレングリコール系等が挙げられる。
【0060】
前記難燃剤としては、例えば、ホウ酸系難燃化合物、リン系難燃化合物、窒素系難燃化合物、ハロゲン系難燃化合物、有機系難燃化合物、コロイド系難燃化合物等が挙げられる。
【0061】
前記その他の合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂が挙げられる。また、前記エラストマーとしては、イソブチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリル系エラストマー等が挙げられる。
【0062】
〔ポリエステル系樹脂組成物の組成〕
ポリエステル系樹脂組成物は、生分解性ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネートポリオール(B)を配合してなる。生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の配合量は、生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の総質量を100質量部とした場合、生分解性ポリエステル樹脂(A)の配合量は、50~95質量部が好ましく、55~90質量部とすることがより好ましく、ポリカーボネートポリオール(B)の配合量は、5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがより好ましい。ポリカーボネートポリオール(B)の配合量を前記上限以下とすることで、繊維、フィラメント、フィルム、樹脂シート、成形体に、より成形しやすくなる。ポリカーボネートポリオール(B)の配合量を前記下限以上とすることで、曲げ耐性、耐薬品性が高くなる。
【0063】
ポリエステル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、生分解性ポリエステル樹脂樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の末端基同士が反応した生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)との縮合体を任意の割合で含んでいてもよい。縮合体とは、ポリエステル系樹脂組成物に含まれる生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の末端基の一部が反応したものである。ここで言う縮合体とは、共重合体であってもよいし、エステル交換による反応物であってもよいし、両者を任意の割合で含んでいてもよい。
【0064】
ポリエステル系樹脂組成物における生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の混合物の実施例記載の方法で測定した数平均分子量(Mn)は、2,000~20,000が好ましく、3,000~10,000がより好ましく、重量平均分子量(Mw)は、30,000~200,000が好ましく、50,000~100,000がより好ましい。両者から求められる分子量分布(Mw/Mn)は、1.5~30が好ましく、4~25がより好ましい。
生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の混合物の数平均分子量及び重量平均分子量は、生分解性ポリエステル樹脂(A)のそれぞれの値よりも低くなる傾向があり、分子量分布は、生分解性ポリエステル樹脂(A)のそれぞれの値よりも高くなる傾向がある。その理由として、上述のとおり、生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)の一部において、末端基同士の反応等によりエステル交換が生じているものと考えられる。
【0065】
〔ポリエステル系樹脂組成物の製造方法〕
ポリエステル系樹脂組成物は、生分解性ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネートポリオール(B)とを180~260℃で溶融混合することにより製造することが好ましい。曲げ耐性を向上させる観点では、185~220℃で混合するのがより好ましい。溶融混練の時間は特に制限はないが、生産性の観点から3~60分であればよく、好ましくは5~30分である。混練する方法は通常の方法で行えばよく、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。
【0066】
[ポリエステル系樹脂組成物の成形品]
ポリエステル系樹脂組成物の成形方法としては、各種押出成形(コールドランナー方式、ホットランナー方式成形法はもとより、さらには射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、及び超高速射出成形などの射出成形法)などが挙げられる。さらに、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また、本発明のポリエステル系樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより中空成形品とすることも可能である。
本発明のポリエステル系樹脂組成物の成形品としては、好ましくは、フィラメント、シート、フィルム、繊維等が挙げられる。
フィラメントの製造方法としては公知の製造方法が採用できるが、例えば、ポリエステル系樹脂組成物のペレットを押出機等によって溶融して紡糸ノズルから押し出し、水、トリクレンなどの冷媒浴中で冷却する方法が挙げられる。
シート、フィルムの成形には押出成形、インフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども用いることができる。
繊維の成形には、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸などを用いることができる。
【0067】
[ポリエステル系樹脂組成物の成形品の用途]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の成形品は、OA機器や家電製品の外装材、例えば、パソコン、ノートパソコン、ゲーム機、ディスプレー装置(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、及び有機ELなど)、マウス、並びにプリンター、コピー機、スキャナー及びファックス(これらの複合機を含む)などの外装材、キーボードのキー、スイッチ成形品、携帯情報端末(いわゆるPDA)、携帯電話、携帯書籍(辞書類等)、携帯テレビ、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスクなど)のドライブ、記録媒体(ICカード、スマートメディア、メモリースティックなど)の読取装置、光学カメラ、デジタルカメラ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、空気清浄機、マイナスイオン発生器、及びタイプライターなどに形成された樹脂製品を用いることができる。また、トレー、カップ、皿、シャンプー瓶、OA筐体、化粧品瓶、飲料瓶、オイル容器、射出成形品(ゴルフティー、綿棒の芯、キャンディーの棒、ブラシ、歯ブラシ、ヘルメット、注射筒、皿、カップ、櫛、剃刀の柄、テープのカセット及びケース、使い捨てのスプーンやフォーク、ボールペン等の文房具等)等に有用である。
【0068】
また、結束テープ(結束バンド)、プリペイカード、風船、パンティーストッキング、ヘアーキャップ、スポンジ、セロハンテープ、傘、合羽、プラ手袋、ヘアーキャップ、ロープ、チューブ、発泡トレー、発泡緩衝材、緩衝材、梱包材、煙草のフィルター等の多分野にわたる用途に用いることが可能である。
【0069】
さらに、各種容器、雑貨、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、インストルメンタルパネル、センターコンソールパネル、ディフレクター部品、カーナビケーション部品、カーオーディオビジュアル部品、オートモバイルコンピュータ部品などの車両用部品にも用いることができる。
【0070】
本発明のポリエステル系樹脂組成物を成形した樹脂成形品には、表面改質を施すことにより、他の機能を付与することが可能である。ここでいう表面改質とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等の樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂成形品に用いられる方法が適用できる。本発明の樹脂組成物は、その良好な色相により遮蔽性の低い塗装であっても1コートで良好な製品を提供することが可能である。
【0071】
本発明のポリエステル系樹脂組成物の成形品がフィラメントである場合、3次元造形に用いることが好ましい。フィラメントは、3次元造形物製造装置である3Dプリンターにより造形することで、成形体を製造することができる。3Dプリンターとしては、特に制限がないが、FDM法の装置が好ましく挙げられる。
【実施例0072】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
FY601;安徽豊原集団有限公司製ポリ乳酸、D体含有率<1モル%以下、融点170~180℃、MFR(190℃/2.16kg)7~12g/10分 (以上カタログ値)
【0074】
UH100;UBE株式会社製ETERNACOLL(登録商標)、数平均分子量1,000、水酸基価112mgKOH/g、融点45℃、1,6-ヘキサンジオールと炭酸ジメチルを反応させて得られたポリカーボネートポリオール
【0075】
[製造例1]
精留塔、攪拌装置、温度計及び窒素導入管を備えたガラス製丸底フラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオール2,206g(24.5モル、純度98%以上)、炭酸ジメチル2,309g(25.6モル、99%以上)及び水酸化リチウム0.017g(0.71ミリモル)を混合し、常圧下、低沸点成分を留去しながら90~190℃で7時間反応させた。更に、減圧下(0.1~6.7kPa)、2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む成分を留去しながら150~170℃で8時間反応を行い、粘ちょうな液体としてポリカーボネートポリオールを得た。
得られたポリカーボネートポリオールの数平均分子量は1,000、水酸基価は112mgKOH/gであった。
【0076】
[製造例2]
精留塔、攪拌装置、温度計及び窒素導入管を備えたガラス製丸底フラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオール425.5g(4.72モル、純度98%以上)、炭酸ジメチル445.6g(4.95モル、99%以上)及び水酸化リチウム0.003g(0.13ミリモル)を混合し、常圧下、低沸点成分を留去しながら120~200℃で12時間反応させた。更に、減圧下(0.1~6.7kPa)、2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む成分を留去しながら150~170℃で8時間反応を行い、粘ちょうな液体としてポリカーボネートポリオールを得た。
得られたポリカーボネートポリオールの数平均分子量は2,000、水酸基価は56.1mgKOH/gであった。
【0077】
[実施例1]
50℃で24時間真空乾燥したポリ乳酸FY601(80質量部)と製造例1で得られたポリカーボネートポリオール(20質量部)を190℃で10分溶融混錬し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形機に180℃で加圧成形し、140μmの樹脂シートを得た。樹脂組成物((A)+(B))の後述の測定条件によるGPC測定値は、重量平均分子量(Mw)は8.9×10、数平均分子量(Mn)は4.3×10、分子量分布は21であった。
【0078】
[実施例2]
50℃で24時間真空乾燥したポリ乳酸FY601(60質量部)と製造例2で得られたポリカーボネートポリオール(40質量部)を190℃で10分溶融混錬し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形機に180℃で加圧成形し、140μmの樹脂シートを得た。
【0079】
[比較例1]
50℃で24時間真空乾燥したポリ乳酸FY601(100質量部)を190℃で10分溶融撹拌した。得られた樹脂をプレス成形機に180℃で加圧成形し、140μmの樹脂シートを得た。樹脂の後述の測定条件によるGPC測定値は、重量平均分子量(Mw)は1.3×10、数平均分子量(Mn)は4.4×10、分子量分布は2.9であった。
【0080】
[比較例2]
50℃で24時間真空乾燥したポリ乳酸FY601(80質量部)とポリカーボネートポリオールUH100(20質量部)を190℃で10分溶融混錬し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形機に180℃で加圧成形し、140μmの樹脂シートを得た。
【0081】
実施例、比較例における測定値は、以下の方法により測定した。
(製造例及びUH100のポリカーボネートポリオールの数平均分子量)
JIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した。具体的には、化合物の水酸基価を測定し、末端基定量法により、式(56.1×1,000×価数)/水酸基価(mgKOH/g)を用いて算出した。
【0082】
(UH100のポリカーボネートポリオールの融点)
示差走査熱量分析法により測定した。
【0083】
(ポリエステル系樹脂組成物又は生分解性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布)
東ソー株式会社製HLC-8320GPCを用いて、下記条件にてGPC測定を行いポリスチレン(PS)換算にて、重量平均分子量、数平均分子量を算出した。算出された重量平均分子量及び数平均分子量から分子量分布を求めた。
カラム:Shodex K-G + K-805L ×2本 + K-800D
溶離液:クロロホルム
温度:40℃
流速:1.0ml/min
試料濃度:約0.2wt/vol%
注入量:100μl
【0084】
(曲げ耐性の評価)
(180°折れ曲げ試験)
実施例、比較例で得られた樹脂シートを180°折り曲げた後、折り曲げた箇所の変化を目視で観察した。「割れた」は、折り曲げた際に樹脂シートが割れたことを示す。「変化なし」は、折り曲げた際に、折り曲げた箇所に割れ、白化などが見られなったことを示す。
【0085】
(マンドレル曲げ試験)
実施例、比較例で得られた樹脂シートを円筒型マンドレル曲げ試験機を用いて、所定の曲率で屈曲させた。マンドレルの直径は、16mm、12mm、10mm、8mm、6mm、5mm、4mm、3mm、2mmを使用した。屈曲した際にシートに割れが発生しなかった最も小さい直径を結果として示す。数字が小さいほど、曲げ耐性が高いことを示す。例えば、「4」は、直径3mmのマンドレルを使用した場合に割れが発生したことを示す。「2」は、本試験においてすべてのマンドレルで割れが発生しなかったことを示す。
【0086】
(引張弾性率、引張伸び)
JIS K 7113に準じた方法で樹脂シートの弾性率を測定した。
【0087】
(水酸基価)
JIS K 1577に準拠して測定した。
【0088】
((B)の性状)
25℃におけるポリカーボネートポリオール(B)の状態を目視で観察した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より、以下のことが分かった。
実施例1、2と比較例1とを比較することで、生分解性ポリエステル樹脂(A)にポリカーボネートポリオール(B)を含有することで、曲げ耐性が上がることが分かった。
実施例1と、比較例2を比較することで、ポリカーボネートポリオール(B)として、主鎖に分岐構造を有するポリカーボネートポリオール(B)を使用することで、曲げ耐性が上がることが分かった。