(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106250
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】除草方法および装置
(51)【国際特許分類】
A01M 21/04 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
A01M21/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010493
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】723000671
【氏名又は名称】南方 尚
(72)【発明者】
【氏名】南方 尚
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA19
2B121DA33
2B121DA70
2B121EA21
2B121FA15
2B121FA16
(57)【要約】
【課題】 除草剤を一切使用せず、エネルギー消費を伴わず、非接触型の除草方法を提供する。
【解決手段】太陽光を集光した高強度の光を雑草類に照射することを特徴とする除草方法である。この除草装置として、集光と光収束を行う集光収束部と雑草類に収束光を照射する照射部から構成される除草装置が用いられる。また、本発明の除草装置はその移動もしくは除草装置から照射される収束光の走査の少なくとも1つが可能な除草装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束光を雑草に照射して雑草の生育を阻害もしくは枯死させる除草方法であり、該光源が太陽光であることを特徴とする除草方法。
【請求項2】
請求項1の除草方法において、集光と光収束を行う集光収束部と雑草に収束光を照射する照射部から構成されることを特徴とする除草装置。
【請求項3】
除草装置の移動もしくは除草装置から照射される収束光の走査の少なくとも1つが可能であることを特徴とする請求項1,2の除草方法および除草装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雑草類の除草に関し、光を用いた除草方法および除草装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
穀物、野菜、果樹、花木などの育成には育成を阻害する雑草類の除草が求められる。
除草方法として、刈払機、耕運機などで雑草を機械的に切除去、掘起し・埋設する方法、除草剤を散布して雑草の生育を抑制もしくは枯死させる方法はよく知られている。前者の方法が雑草への接触が必要なことに比べ、後者の方法である除草剤散布は、非接触で大面積を短時間、低労力で実施できるため利用価値が高い。ところが除草剤は目標とする雑草の生育抑制だけでなく周囲環境の汚染、散布者の被ばく、土壌に残存・拡散する除草剤やその分解物の動植物への生化学的影響が懸念されいる。特に、環境への大量散布は動物昆虫類の絶滅や生態系連鎖の破壊、環境全体の多様性で安定化された生態バランス破壊、さらに環境不安定性の誘起を気候変動につながることが懸念される。従って、除草剤に依存しない除草方法が求められている。
【0003】
従来技術として、雑草に電極を接触させ通電により雑草を不活性化させる装置が提案されている(特許文献1)。この方法によれば除草剤の投与なしで除草が実施できるが、駆動電力とこれに伴う配線や蓄電の機能が必要となる。また電極を接触させる必要があるため除草場所が装置搬入可能箇所に限定される。別の方法として、波長の異なる複数の光源から光を照射、反射光を検出する装置により植物を検出し、選択的に検出体に除草剤を投与して除草を実施する装置が提案されている(特許文献2)。この方法は、検出した対象ターゲットに除草剤を選択投与でき不要な除草剤の投与を低減できる点が特徴であるが、除草剤脱却はできない。植物に非接触で除草剤を使用しない除草方法はこれまで提案例がない。
【0004】
一方、植物工場や室内植物育成を目的として、植物照射光に蛍光ランプ、冷陰極蛍光ランプ、高輝度放電ランプ、LEDなど各種光源が利用されることや光源により効果が異なることが述べられている(非特許文献1)。また植物育成の光源としてLEDの照射光波長、強度、光周期の適正条件が研究され、他の光源と比べたエネルギー消費についても議論されている(非特許文献2)。ここで植物育成用の照射光量として、100μmol/m2・s前後が好ましいことが記載されている。この光強度より1桁以上の高強度光の植物への影響についての報告例はない。
太陽光の光強度はAM1.5条件で100W/m2であり、照射光量400μmol/m2・sに対応する。真夏昼光の最高強度は2000μmol/m2・s、曇天時の光強度は50~200μmol/m2・sの範囲である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】公開特許公報:特表2021-503874 雑草不活性化装置
【特許文献2】公開特許公報:特表平8-501385 ある対象を他の対象から認識するための装置および方法
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E. Goto, Plant production in a closed plant factory with artifitial lighting, Acta Hort., Vol. 956, pp37-49 (2012)
【非特許文献2】S. Sase, C. Mito, L. Okushima, N. Fukuda, N.Kanesawa, K. Sekiguchi, N. Odawara, Effect of overnight supplemental lighting with different spectral LEDs on the growth of some leafly vegetables, Acta Hort., Vol. 956, pp328-334(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
除草剤を一切使用せず、エネルギー消費を伴わず、非接触型の除草方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は太陽光を集光した高密度エネルギーに着目し、これをエネルギー源とする種々の応用を検討し、本発明を得るに至った。
本発明は、収束光を雑草に照射して雑草の生育を阻害もしくは枯死させる除草方法であり、該光源が太陽光であることを特徴とする除草方法である。
また、この除草方法において、集光と光収束を行う集光収束部と雑草に収束光を照射する照射部から構成されることを特徴とする除草装置に関する。また、本発明の除草装置はその移動もしくは除草装置から照射される収束光の走査の少なくとも1つが可能であることを特徴とする前記記載の除草方法および除草装置である。
【0009】
本発明の除草方法、これを実施する除草装置とこの構成、特徴について説明する。
本発明の除草装置は太陽光の集光と光収束を行う集光収束部、雑草に収束光を照射する照射部から構成される。
太陽光集光部は、鏡、レンズ、導波路など公知の集光方法を適用して太陽光を集光し、収束部を通じて集光された輻射エネルギーとしての熱または/および紫外、可視、赤外領域の光エネルギーが照射部に提供される。
集光の方法として鏡、フィルムなどによる反射体、フレネルレンズ、非フレネルレンズ、平面レンズ、凹レンズ、凸レンズなどのレンズ類、プリズム、光ファイバー、ビームコレクターなどの導波路が利用可能である。これらの集光方法を用い、照射部に光エネルギーを伝達する配置構造を設ける。必要があれば輻射エネルギーや光の分光、フィルター、シャッターにより光エネルギーの範囲を選択することや、連続/逐次、パルスにより時間・空間的に分割、集合した光エネルギーを照射部に伝達することができる。光収束部は集光された光を照射部に伝達する構造を有し、収束部外部への光拡散を抑制するミラーで囲まれた構造体、導光部が照射部に近づくほど導波する光路が絞られる構造体、集光部の複数の箇所に分割されたレンズによりそれぞれが偏極した光が照射部に集まられる構造などが挙げられ、これらに限定されるものでない。従って収束部は、光を導波する媒体が様々な構造体で構成され、媒体は固体、液体、気体あるいは真空で構成することができる。
【0010】
照射部は集光収束された太陽光を除草対象の雑草類に照射するポートである。本発明の除草装置において照射部と除草対象の雑草とは非接触の構成となることは好ましい。ただし操作条件によって雑草類や土壌に照射部が接触しうるため、耐えうる構造を有することが好ましい。照射部では集光光を照射対象の雑草類に照射するため集光光を透過伝播する材料が好ましく、集光光が継続して透過伝播する光吸収に耐えうる耐熱性を光伝播部分や照射部の周辺部分が有することが好ましい。ただし、集光した光の伝搬は前記の固体、液体、ガス、真空いずれも可能であり、これらを照射部の光透過部に利用できる。
本発明の除草装置は太陽光の集光収束部と照射部から構成され、このユニットを形成する除草装置が移動可能/照射光が走査可能の少なくとも一つである。前記ユニットを移動可能な移動体に収載された構成、放出される照射光が照射部の光放出角度変更や照射部の変形可能な構成のいずれかあるいは両方によって照射部を移動、変位して標的となる雑草類に光照射することができる。
【0011】
本発明の除草装置における照射部から放出される集光光の光強度は、本発明の除草装置の移動速度、照射光の走査速度、照射部位への保持時間などの要因により変化するため限定されないが、対象とする雑草類の生育限界を超える光強度であることが好ましい。本発明の雑草類の生育限界を超える事象とは、雑草の細胞破壊、乾燥、枯死、変色、熱分解、炭化、焼失に至る事象である。太陽光は高密度集光により容易に数百℃以上の高温生成が可能であり、集光部の露光時間によって雑草類の生育限界を超える事象の種類、割合が調整可能である。除草装置の集光部面積/照射光面積を集光倍率は、照射箇所変位速度(装置移動速度あるいは照射光走査速度に該当。この逆数が照射時間に対応する。)、転送照射における損失率を考慮した係数(光損失係数)、ターゲット雑草類の生育限界を超えるために必要な照射強度(生育限界超光強度)から下記の相関関係を有する。
【0012】
(集光倍率)×(太陽光強度)×(光損失係数)=(照射箇所変位速度)×(生育限界超光強度)
【0013】
この相関から計算して装置の集光倍率、走査・移動速度、光照射強度などパラメータを設計することができる。太陽光強度は晴天/曇天、季節変動、太陽の仰角などにともなって変化するため、本発明の除草装置を連続して安定的に稼働させるためには、前記の光損失係数を調整して集光倍率に余裕を持たせることが可能である。また装置から複数の集光収束部/照射部ユニットから目的の除草対象に複合照射させて生育限界を超える事象を達成することで除草が達成である。
また本発明の除草装置では、平坦な土壌表面に生育する雑草にとどまらず、斜面や高所など通常の方法で除草が困難な場合にも光照射による除草が実施できる点は従来技術にない本発明の特長として挙げられる。本発明は光照射の照射部を除草対象から隔離した状態においても、照射部から除草対象に光照射を行うことが可能で除草が実施される。照射部の先端位置からの照射光照射方向を除草対象に合わせることが可能である。また照射対象の位置整合や照射光強度増強の目的で複数の照射部から目標の除草対象に光照射して除草を実施することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の除草方法は、除草剤を一切使用しないため環境にやさしい除草方法である。また除草のためのエネルギー源は太陽光のみで電力、化石燃料の消費がない点で経済性に優れるとともに炭酸ガス発生を伴わず、地球温暖化や地球環境保護の観点で優れている。また本発明の除草方法は、従来の方法で困難であった平坦地以外の斜面、高所の除草にも適用可能であり利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】2組の集光収束部/照射部ユニットを用いた除草の構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の除草方法、除草装置の実施例を示すがこれに限定されるものでない。
【実施例0017】
フレネルレンズ(アクリル樹脂製、集光部1m角、焦点距離1200mm)を移動可能な架台に設置し、焦点距離の近傍が地表面となる配置にフレネルレンズの高さを固定し、架台を走査して雑草類(ナズナ、オオイヌノフグリ等)に集光太陽光を照射した。雑草類に照射される集光光の大きさは概ね10cm程度であった。雑草類への光照射保持時間は数秒未満の照射により雑草類の葉茎は照射熱により脱水後褐色に変色、一部が炭化した。このフレネルレンズが配置された課題の照射部に耐火煉瓦を配置し太陽光の集光による煉瓦表面の温度を放射温度計で測定した結果、500℃を超過することが確認できた。数日後光照射した箇所の雑草類を観察した結果、新たな葉茎の生長は認められなかった。
フレネルレンズ(アクリル樹脂製、集光部30cm径、焦点距離60cm)を30cm径塩化ビニル樹脂筒(長さ50cm)の片面に配置、この筒の開口部を地表側になるよう架台に固定し、架台を移動させて実施例1と同様に雑草類(ナズナ、オオバコ等)への光照射を行った。雑草類に照射される集光光の大きさは目視で約5cm径程度であった。光照射の結果、ナズナは葉が緑色から茶色に変色、オオバコは葉が乾燥収縮、茶灰色への変色が認められた。またこれら雑草類は手で触るだけで葉茎などが粉々に破損することがわかった。