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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106253
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ロタンドンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/42 20060101AFI20240731BHJP
   C07C 49/427 20060101ALI20240731BHJP
   C07C 45/28 20060101ALI20240731BHJP
   C07C 281/12 20060101ALI20240731BHJP
   C07C 249/16 20060101ALI20240731BHJP
   C07C 251/84 20060101ALI20240731BHJP
   C07C 251/20 20060101ALI20240731BHJP
   C07C 251/44 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C07C45/42 CSP
C07C49/427
C07C45/28
C07C281/12
C07C249/16
C07C251/84
C07C251/20
C07C251/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010501
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小西 俊介
(72)【発明者】
【氏名】武田 明積
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 久美子
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC44
4H006AC59
4H006BA20
4H006BA32
4H006BB11
4H006BB14
4H006BB25
4H006BW30
4H006BW31
(57)【要約】
【課題】ロタンドンの製造方法を提供する。
【解決手段】(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程と、(工程2)当該組成物中のロタンドンとアミノ基を有する特定の結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体の固体を得る工程と、(工程3)結晶性ロタンドン誘導体を再結晶させる工程と、(工程4)工程3で得られた結晶中の前記結晶性ロタンドン誘導体のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体からロタンドンを遊離させる工程を含む製造方法とし、好ましくは、結晶化化合物を、結晶化化合物群Iから選択される場合にはセミカルバゾン塩酸塩または2,4-ジニトロフェニルヒドラジンとし、前記結晶化化合物群IIから選択される場合にはt-ブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、またはヒドロキシルアミン塩酸塩とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、ロタンドンの製造方法。
(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程
(工程2)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンとアミノ基を有する結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させる工程であって、下記2Aまたは2Bを行う工程
(工程2A)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【化1】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
(工程2B)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群IIから選択される結晶化化合物とを反応させ結晶性ロタンドン誘導体前駆体を生成させた後、前記前駆体と酸とを反応させて前駆体の塩を結晶性ロタンドン誘導体として生成させる工程
(結晶化化合物群II)
【化2】
[式中、(c)においてnは0~4の整数を表す。]
(工程3)前記結晶性ロタンドン誘導体を再結晶させる工程
(工程4)前記工程3で得られた結晶中の前記結晶性ロタンドン誘導体のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体からロタンドンを遊離させる工程
【請求項2】
前記結晶化化合物が、前記結晶化化合物群Iから選択される場合にはセミカルバゾン塩酸塩または2,4-ジニトロフェニルヒドラジンであり、前記結晶化化合物群IIから選択される場合にはt-ブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、またはヒドロキシルアミン塩酸塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程2Bの酸が塩酸である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程3は、再結晶溶媒と前記結晶性ロタンドン誘導体とを混合する工程を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記再結晶溶媒が、酢酸エチル、メタノール、エタノール、水、アセトン、シクロヘキサン、トルエン、ヘキサン、またはこれらの2種以上の混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程4の加水分解が塩化銅(II)を用いた加水分解である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程1が、α-グアイエン含有組成物中に含まれるα-グアイエンの全部または一部を酸化してロタンドンに変換してロタンドン含有組成物を用意する工程である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸化に供するα-グアイエン含有組成物が、パチュリ油、パチュリ油を単蒸留および/または精密蒸留したもの、グアイアクウッド油、あるいはグアイアクウッド油を単蒸留および/または精密蒸留したもの、のいずれかである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記α-グアイエンの酸化が、空気酸化、t-ブチルヒドロペルオキシドおよび酸化クロム触媒を用いた酸化、ラッカーゼを用いた酸化、亜塩素酸ナトリウム・N-ヒドロキシフタルイミドを用いた酸化および電解酸化からなる群から選択される1種の酸化である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記空気酸化は、無触媒で行うか、酢酸コバルト(II)四水和物、2-エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、酸化クロム(VI)からなる群から選択される触媒を用いる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ロタンドン含有組成物のロタンドン濃度が20~80質量%の範囲内である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記α-グアイエン含有組成物のα-グアイエン濃度が20~60質量%の範囲内である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項13】
前記工程3と前記工程4との間に、さらに前記結晶性ロタンドン誘導体の結晶を洗浄溶媒によって洗浄する工程を含み、前記洗浄溶媒が炭化水素溶媒、水、70~99%エタノール水溶液、またはエーテル類である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項14】
前記洗浄溶媒がヘプタンである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記工程3を2回以上行う、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項16】
下記の工程を含む、ロタンドンの製造方法。
(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程
(工程2)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと、下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物と、を反応させて結晶性ロタンドン誘導体を得て、該結晶性ロタンドン誘導体と酸とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体の塩を生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【化3】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
(工程3)前記結晶性ロタンドン誘導体の塩を再結晶させる工程
(工程4)前記工程3で得られた結晶中の前記結晶性ロタンドン誘導体の塩のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体の塩からロタンドンを遊離させる工程
【請求項17】
式Aで表される化合物またはその塩。
【化4】
[式中、RはRa、Rb、Rc、Rd、Reのいずれかであり、RaにおいてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、RbにおいてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表し、Rcにおいてnは0~4の整数を表す。]
【請求項18】
前記化合物またはその塩が、前記化合物の塩酸塩である、請求項17に記載の塩。
【請求項19】
前記化合物またはその塩が、下記の式Aa1またはAb1で表される化合物である、
【化5】
あるいは、下記の式Ac1、Ac2、Ad1、またはAeで表される化合物の塩酸塩である、請求項17に記載の化合物またはその塩。
【化6】
【請求項20】
前記化合物またはその塩が、下記の式Aa1またはAb1で表される化合物の塩酸塩である、請求項17に記載の化合物またはその塩。
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロタンドンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロタンドン(Rotundone、(3S,5R,8S)-3,8-dimethyl-5-(prop-1-en-2-yl)-3,4,5,6,7,8-hexahydroazulen-1(2H)-one)はシラー種のブドウ、黒コショウおよび白コショウなどに含まれ、柑橘香味(特許文献1)、果実香味(特許文献2)、塩味増強(特許文献3)、コク味増強(特許文献4)、渋味増強(特許文献5)などの香味付与や不快味のマスキング(特許文献6)の有効成分として注目される化合物である。
【0003】
そこで、ロタンドンの有機化学的製造方法について、様々な検討がなされている。例えば、特許文献7には、酸素源の存在下で、ラッカーゼと、α-グアイエンおよび/またはα-ブルネセンを含む材料、具体的にはパチョリ油などとを反応させることにより、これらの水酸基付加体(ロタンドンの1位のカルボニル基がアルコールとなったロタンドールなど)を製造する方法が記載されている。さらに特許文献8には、その際の副生成物としてロタンドンを含む多数のα-グアイエン酸化物の混合物(文献中の例3、例4、例5参照)が得られることや、この混合物がフローラル、ウッディなにおいを保有することが記載されている。また、特許文献9には、グアイエンリッチな原料油等、具体的にはグアヤック木質油等の蒸留、加熱還流、再蒸留等を経てロタンドンを含む多数のグアイエン酸化物を得ることが記載されている。特許文献10には、貴金属触媒(Au、Pd/TiO)を用いてα-グアイエンのアリル位酸化を行ってロタンドンを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6262170号公報
【特許文献2】特許第6262171号公報
【特許文献3】特開2021-171024号公報
【特許文献4】特開2021-171025号公報
【特許文献5】特開2021-171026号公報
【特許文献6】特開2021-171023号公報
【特許文献7】特開2017-216974号公報
【特許文献8】特表2013-534927号公報
【特許文献9】特表2020-511128号公報
【特許文献10】国際公開第2011/106166号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来のα-グアイエンの酸化によるロタンドンの製造方法では、ロタンドンと沸点の非常に近い異性体を含む多種多様な副生物とロタンドンとの混合物が得られるに過ぎず、新たなロタンドンの製造方法の開発が望まれていた。従って本発明の課題は、不純物の少ないロタンドンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意研究したところ、第1級アミンまたはそれと同様の挙動を示す特定の窒素原子含有化合物を用いた結晶化工程を採用することにより、上記課題が解決されることを見出した。
【0007】
かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
[1] 下記の工程を含む、ロタンドンの製造方法。
(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程
(工程2)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンとアミノ基を有する結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させる工程であって、下記2Aまたは2Bを行う工程
(工程2A)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【0008】
【化1】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
(工程2B)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群IIから選択される結晶化化合物とを反応させ結晶性ロタンドン誘導体前駆体を生成させた後、前記前駆体と酸とを反応させて前駆体の塩を結晶性ロタンドン誘導体として生成させる工程
(結晶化化合物群II)
【0009】
【化2】
[式中、(c)においてnは0~4の整数を表す。]
(工程3)前記結晶性ロタンドン誘導体を再結晶させる工程
(工程4)前記工程3で得られた結晶中の前記結晶性ロタンドン誘導体のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体からロタンドンを遊離させる工程
[2] 前記結晶化化合物が、前記結晶化化合物群Iから選択される場合にはセミカルバゾン塩酸塩または2,4-ジニトロフェニルヒドラジンであり、前記結晶化化合物群IIから選択される場合にはt-ブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、またはヒドロキシルアミン塩酸塩である、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記工程2Bの酸が塩酸である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記工程3は、再結晶溶媒と前記結晶性ロタンドン誘導体とを混合する工程を含む、[1]または[2]に記載の製造方法。
[5] 前記再結晶溶媒が、酢酸エチル、メタノール、エタノール、水、アセトン、シクロヘキサン、トルエン、ヘキサン、またはこれらの2種以上の混合物である、[4]に記載の方法。
[6] 前記工程4の加水分解が塩化銅(II)を用いた加水分解である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[7] 前記工程1が、α-グアイエン含有組成物中に含まれるα-グアイエンの全部または一部を酸化してロタンドンに変換してロタンドン含有組成物を用意する工程である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[8] 前記酸化に供するα-グアイエン含有組成物が、パチュリ油、パチュリ油を単蒸留および/または精密蒸留したもの、グアイアクウッド油、あるいはグアイアクウッド油を単蒸留および/または精密蒸留したもの、のいずれかである、[7]に記載の製造方法。
[9] 前記α-グアイエンの酸化が、空気酸化、t-ブチルヒドロペルオキシドおよび酸化クロム触媒を用いた酸化、ラッカーゼを用いた酸化、亜塩素酸ナトリウム・N-ヒドロキシフタルイミドを用いた酸化および電解酸化からなる群から選択される1種の酸化である、[7]に記載の製造方法。
[10] 前記空気酸化は、無触媒で行うか、酢酸コバルト(II)四水和物、2-エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、酸化クロム(VI)からなる群から選択される触媒を用いる、[9]に記載の製造方法。
[11] 前記ロタンドン含有組成物のロタンドン濃度が20~80質量%の範囲内である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[12] 前記α-グアイエン含有組成物のα-グアイエン濃度が20~60質量%の範囲内である、[7]に記載の製造方法。
[13] 前記工程3と前記工程4との間に、さらに前記結晶性ロタンドン誘導体の結晶を洗浄溶媒によって洗浄する工程を含み、前記洗浄溶媒が炭化水素溶媒、水、70~99%エタノール水溶液、またはエーテル類である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[14] 前記洗浄溶媒がヘプタンである、[13]に記載の製造方法。
[15] 前記工程3を2回以上行う、[1]または[2]に記載の製造方法。
[16] 下記の工程を含む、ロタンドンの製造方法。
(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程
(工程2)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと、下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物と、を反応させて結晶性ロタンドン誘導体を得て、該結晶性ロタンドン誘導体と酸とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体の塩を生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【0010】
【化3】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
(工程3)前記結晶性ロタンドン誘導体の塩を再結晶させる工程
(工程4)前記工程3で得られた結晶中の前記結晶性ロタンドン誘導体の塩のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体の塩からロタンドンを遊離させる工程
[16] 式Aで表される化合物またはその塩。
【0011】
【化4】
[式中、RはRa、Rb、Rc、Rd、Reのいずれかであり、RaにおいてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、RbにおいてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表し、Rcにおいてnは0~4の整数を表す。]
[18] 前記化合物またはその塩が、前記化合物の塩酸塩である、[17]に記載の塩。
[19] 前記化合物またはその塩が、下記の式Aa1またはAb1で表される化合物である、
【0012】
【化5】
【0013】
あるいは、下記の式Ac1、Ac2、Ad1、またはAeで表される化合物の塩酸塩である、[17]に記載の化合物またはその塩。
【0014】
【化6】
【0015】
[20] 前記化合物またはその塩が、下記の式Aa1またはAb1で表される化合物の塩酸塩である、[17]に記載の化合物またはその塩。
【0016】
【化7】
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、従来よりも純度の高いロタンドンの製造方法を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度(ppt、ppb、ppmなど)、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表し、濃度とは特に断りのない限り最終濃度とする。
【0019】
本発明はロタンドンを従来よりも高純度で得ることができるロタンドンの製造方法であるが、これまで、ロタンドンの純度が上がらない以下の原因が存在していた。
【0020】
既知のロタンドン製造方法として上述のα-グアイエンの酸化(空気酸化や過酸化物などによる酸化)があるが、α-グアイエンを選択的に酸化してロタンドンを生成できる酸化反応条件が発見されておらず、沸点の近い異性体を含む多種多様な副生物とロタンドンとの混合物が得られるに過ぎない。そのため、仮に高純度のα-グアイエンを用意できたとしても、結局複雑な混合物の一成分としてロタンドンを得ることになる。
【0021】
また、一般に異性体でも沸点差がある程度あれば精密蒸留で除去可能だが、従来のように単にα-グアイエンを酸化しただけでは、上述のとおりロタンドンと沸点の非常に近い異性体が多く生成し、高純度のロタンドンを得るに至っていない。
【0022】
また、有機化学合成分野では、目的化合物の純度向上方法が多数知られており、その一例として、目的化合物の再結晶化による純度向上が知られている。ただし目的化合物(本件の場合はロタンドン)が結晶性化合物でない場合においては、目的物を得るためには目的化合物の結晶性誘導体化、誘導体の再結晶精製、目的化合物に戻す工程と最低でも3工程を要するため必ずしも採用しやすい方法ではないところ、さらに、目的化合物によっては、(1)結晶化できる誘導体の発見自体が困難、(2)再結晶によっても純度が上がらない、(3)そもそも固化せず結晶を得られないなどの問題があった。しかし、本発明者らは、ロタンドンの場合に適切な結晶化化合物を発見し、これを使用することで、後述の実施例のとおり、ロタンドンを従来よりも高純度で製造することができることを見出し、本発明に至った。
【0023】
[ロタンドンの製造方法]
<製造方法1>
本発明の一態様に係るロタンドンの製造方法は、下記の工程を含むことを特徴とする。以下この方法を「製造方法1」または「本件製造方法1」ということがあり、製造方法1および後述の製造方法2を総称して、またはそれぞれについて「本件製造方法」ということがある。
(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程
(工程2)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンとアミノ基を有する結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体を得る工程であって、下記2Aまたは2Bを行う工程
(工程2A)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体として生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【0024】
【化8】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
または
(工程2B)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群IIから選択される結晶化化合物とを反応させ結晶性ロタンドン誘導体前駆体を生成させ、該前駆体と酸とを反応させて前駆体の塩を結晶性ロタンドン誘導体として生成させる工程
(結晶化化合物群II)
【0025】
【化9】
[式中、(c)においてnは0~4の整数を表す。]
(工程3)前記結晶性ロタンドン誘導体を再結晶させる工程
(工程4)前記工程3で得られた結晶中の結晶性ロタンドン誘導体のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体からロタンドンを遊離させる工程
【0026】
以下、本件製造方法1の各工程の具体例について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0027】
(工程1)
工程1はロタンドンを含有する組成物(本明細書ではロタンドン含有組成物ということがある。)を用意する工程である。工程1で用意するロタンドン含有組成物の調達方法は特に限定されず、ロタンドンの濃度は任意であり、ロタンドンを含有する天然物(代表例としてハマスゲ(香附子とも呼ばれる。)、ブドウの一種であるシラーズなどが挙げられる。)、有機化学合成によって得られたロタンドンを含む組成物、微生物または酵素を用いた合成によって得られたロタンドンを含む組成物、などが例示できるが、これらに限定されない。これらは適宜蒸留に供してロタンドン濃度を所望のものとすることができるが、本件製造方法の効果は高純度のロタンドンを得られることであるという観点、製造費用の観点から、ロタンドン含有組成物中のロタンドン濃度はある程度の低濃度であってよく、それによりロタンドン含有組成物の調達費用が抑えられる。ロタンドン濃度は例えば80質量%以下、50質量%以下または40質量%以下であってよいが、過度に低濃度であっても本件製造方法で得られるロタンドンの収率が低くなるため、20質量%以上が好ましい。前記ロタンドン収率およびロタンドン含有組成物の調達コストの両方の観点からは、20~80質量%、好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~35質量%が例示できる。
【0028】
工程1の一態様として、下記工程1Aによってロタンドン含有組成物を用意してもよい。
(工程1A)α-グアイエンを含有する組成物(本明細書ではα-グアイエン含有組成物ともいう。)中に含まれるα-グアイエンの全部または一部を酸化してロタンドンに変換して、ロタンドン含有組成物を用意する工程
酸化方法は、α-グアイエンのアリル位酸化によってロタンドンに変換される方法であれば任意であり、公知の酸化方法として空気酸化(例えばJ. Nat. Prod. 2015,78,131)、t-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)および酸化クロム触媒を用いた酸化(例えばJ. Agric. Food Chem. 2014,62,10809)、ラッカーゼを用いた酸化(例えば特開2017-216974号公報、特表2022-500018号公報)、亜塩素酸ナトリウム・N-ヒドロキシフタルイミドを用いた酸化(例えば国際公開第2019-110299号公報)、電解酸化(例えばNature,2016,533,77)などが挙げられ、このうち1種の酸化を行ってよいが、これらに限定されない。工程2の結晶性ロタンドン誘導体の収率の観点から、工程1Aの酸化によって、ロタンドンを20~80質量%含有するロタンドン含有組成物を得ることが好ましい。
【0029】
以下、代表的な酸化方法である空気酸化について具体例を示す。
【0030】
空気酸化では、空気酸化の反応系の温度を通常60~80℃程度とし、酸素を含む気体を系に吹き込んで、系内の化合物を酸化する。吹き込み時間は目的物の生成量に応じて調整できるが、通常10~40時間の間で行われる。
【0031】
空気酸化終了後に、不純物を除去する目的で副生した過酸化物を除去する操作を行ってもよく、その例として、120℃程度に熱して過酸化物を分解する操作、120℃程度で窒素を作用させて過酸化物を分解する操作などが例示できるが、これらに限定されない。
【0032】
空気酸化で用いる触媒としては、酢酸コバルト(II)四水和物(Co(OAc)・4HO)、2-エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどの各種コバルト塩、酸化クロム(VI)が例示でき、好ましい例としては酢酸コバルト(II)四水和物が挙げられるがこれに限定されない。無触媒でも空気酸化によるα-グアイエンからのロタンドンへの変換は進行するため、製造コストの面からは無触媒での空気酸化が好ましいが、ロタンドン収率の観点からは触媒を用いることが好ましい。
【0033】
α-グアイエン含有組成物の好ましい例として安価で入手容易な精油が挙げられ、具体例としてパチュリ油(patchouli、パチョリなどと表記される場合もある。)、グアイアクウッド油(guaiac wood、グアヤクウッド、グアヤックウッド、グアイアックウッドなどと表記される場合もある。)が挙げられ、安価に調達できる観点からパチュリ油が特に好ましい。
【0034】
α-グアイエン含有組成物中のα-グアイエン濃度は特に限定されず、α-グアイエン含有組成物の調達費用の観点からはある程度低い濃度、例えば50質量%以下または40質量%以下であってよいが、過度に低濃度であってもロタンドンの収率が低くなるため、15~80質量%、好ましくは20~60質量%、より好ましくは25~35質量%が例示できる。
【0035】
工程1Aとしてα-グアイエン含有組成物の酸化を行ってロタンドン含有組成物を用意する場合、本件製造方法で得られるロタンドンの純度をより高くする観点から、α-グアイエン含有組成物の酸化前後に蒸留の追加工程を設けることが望ましく、蒸留として単蒸留や精密蒸留(精留ともいう。)が例示でき、これらのいずれかまたは両方を実施することができる。
【0036】
本発明において、当該酸化に供するα-グアイエン含有組成物は、購入品をそのまま用いても、購入品を蒸留(例えば、単蒸留および/または精留したもの)したものを用いてもよい。好ましくは、当該酸化に供するα-グアイエン含有組成物は、パチュリ油を単蒸留および/または精留したもの、グアイアクウッド油を単蒸留および/または精留したもの、のいずれかである。
【0037】
また、本発明において、工程1で用意したα-グアイエン含有組成物中のα-グアイエンを酸化してロタンドンに変換して得た組成物は、当該酸化前後の蒸留の有無や種類に関わらず、工程2に供するロタンドン含有組成物として使用することができる。換言すれば、本発明において、未蒸留のα-グアイエン含有組成物の酸化によって得た組成物、蒸留したα-グアイエン含有組成物の酸化によって得た組成物、未蒸留のα-グアイエン含有組成物を酸化し、それを蒸留に供して得た組成物、蒸留したα-グアイエン含有組成物を酸化し、それを蒸留に供して得た組成物、のいずれも、工程2に供するロタンドン含有組成物として使用することができる。
【0038】
蒸留の追加工程の具体例として、下記のいずれかの追加工程を採用することができる。下記工程ではα-グアイエン含有組成物が精油である場合を例にしている。
(工程1A-1) 精油の酸化→酸化済精油の単蒸留および精留
(工程1A-2) 精油の酸化→酸化済精油の単蒸留
(工程1A-3) 精油の酸化→酸化済精油の精留
(工程1A-4) 精油の精留→精留済精油の酸化→酸化済精油の精留
(工程1A-5) 精油の精留→精留済精油の酸化→酸化済精油の単蒸留および精留
(工程1A-6) 精油の精留→精留済精油の酸化→酸化済精油の単蒸留
(工程1A-7) 精油の単蒸留→精留済精油の酸化→酸化済精油の精留
(工程1A-8) 精油の単蒸留→精留済精油の酸化→酸化済精油の単蒸留および精留
(工程1A-9) 精油の単蒸留→精留済精油の酸化→酸化済精油の単蒸留
工程1A-1~1A-3のいずれかを行う場合、酸化によって生じた不純物量を蒸留によって低減させることで、工程2に供するロタンドン含有組成物中のロタンドン濃度を高くしておくことができる。
【0039】
工程1A-4~1A-9を行う場合、精油(すなわちα-グアイエン含有組成物)中のα-グアイエンの濃度を蒸留によって高めることができ、酸化による不純物の生成を少なくすることで工程2に供するロタンドン含有組成物中のロタンドン濃度を高くしておくことができる。
【0040】
一方で、例えば精油(すなわちα-グアイエン含有組成物)の単蒸留および/または精留を行った後に酸化を行ってα-グアイエンをロタンドンに変換し、その酸化済精油をそのまま工程2以降に供した場合、工程1A-1~1A-9のいずれかを行った場合に比べると本件製造方法によって得られるロタンドンの純度が低くなる場合がある。いかなる理論に拘泥するものではないが、精油の酸化によって多種多様な化合物(不純物)が生じてロタンドン濃度が低い状態になり、工程1A-1~1A-9のように単蒸留および/または精留を行う場合より、不純物の存在によって結晶化化合物とロタンドンとの反応による結晶性ロタンドン誘導体が生成しづらくなると推測される。
【0041】
単蒸留および精留の方法は限定されず、当業者に公知の方法を採用してよい。なお、ロタンドンは高沸点であるため、減圧度は1kPa以下(好ましくは0.4kPa以下)で行うことが好ましい。
【0042】
単蒸留として減圧蒸留が例示でき、その方法は任意であり、好適な例としてマントルヒーターを用いた減圧蒸留が挙げられる。
【0043】
工数および製造費用の観点からは、工程1A-1~9のいずれかを行うと工数が増加するため採用しなくてもよいが、本件製造方法で得られるロタンドンの純度、収量、工数および製造費用の観点を総合すると、工程1A-1を採用することが好ましい。
【0044】
(工程2)
本工程は、ロタンドン含有組成物中のロタンドンと、結晶化化合物群IまたはIIに特定されるアミノ基を有する結晶化化合物とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させる工程であって、以下の工程2Aおよび2Bのいずれかを行う。本明細書において、結晶化化合物とは、ロタンドンと反応(結合)することでそのものまたはその塩が再結晶可能なイミン化合物を生じるものであって、当該イミン化合物そのものが工程3において再結晶可能な場合は工程2Aの結晶化化合物群Iの化合物とし、当該イミン化合物の塩が工程3において再結晶可能な場合は工程2Bの結晶化化合物群IIの化合物とする。
【0045】
(工程2A)
工程2Aでは、前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物とを反応させて、結晶性ロタンドン誘導体を生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【0046】
【化10】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
【0047】
工程2Aにおいて、結晶化化合物群Iに属する結晶化化合物は、ロタンドンと反応しヒドラゾン構造を生じるものであり、生成する結晶性ロタンドン誘導体は適宜溶媒除去によって固体として得ることもできる。当該群Iにおいて、結晶化化合物(a)はセミカルバジド類の塩であり、そのうちセミカルバジド塩酸塩(Xが塩素である場合)が特に好ましい。結晶化化合物(b)はフェニルヒドラジン類であって、好ましくはR~Rの1箇所または2箇所、より好ましくは2箇所がニトロ基でその他が水素であり、さらに好ましくはRおよびRがニトロ基でその他が水素である。その具体例としては、フェニルヒドラジン、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンが挙げられ、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンが特に好ましい。
【0048】
結晶化化合物群Iに属する結晶化化合物をロタンドンと反応させて結晶性ロタンドン誘導体を得る際の条件は、ロタンドンのケトン基が当該結晶化化合物のアミノ基と反応しイミノ基を形成することが可能な条件であればよく、適切な酸触媒、脱水剤、pH、温度などを選択することができる。酸触媒としては硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、塩化亜鉛、塩化ホスホリル、三フッ化ホウ素、塩化チタン、酢酸が例示できるがこれらに限定されない。脱水に際しては、水酸化カリウム、モレキュラーシーブ、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムもしくは共沸脱水操作から選択される試薬または操作が例示できるがこれらに限定されないが、例えば結晶化化合物としてセミカルバジド塩酸塩を使用する場合には、pHを低くしすぎないことが好ましく、酢酸ナトリウムが好適な例として挙げられる。また、本件結晶化化合物の量はロタンドンに対し1~3等量、好ましくは1.5~1.7等量が例示できるが、これらに限定されず、反応が進むよう適宜調整できる。溶媒は、反応系内の化合物と反応しない任意の溶媒を用いてよく、代表例としてメタノールおよびトルエンが挙げられるが、これらに限定されない。反応温度も、使用する結晶化化合物や酸触媒の性質に応じて公知の条件を選択できるが、結晶化化合物1の場合は氷冷下および窒素雰囲気下反応を進行させることができる。
【0049】
(工程2B)
工程2Bでは、前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと下記結晶化化合物群IIから選択される結晶化化合物とを反応させ結晶性ロタンドン誘導体前駆体を生成させ、該前駆体と酸とを反応させて前駆体の塩を結晶性ロタンドン誘導体として生成させる工程
(結晶化化合物群II)
【0050】
【化11】
[式中、(c)においてnは0~4の整数を表す。]
【0051】
結晶化化合物群IIにおいて、結晶化化合物(c)は炭素数6~10の第1級アリールアミンおよび炭素数1~4の直鎖アルキル基でベンゼン環と結合したアミノ基を有する第1級アラルキルアミンということができ、その好ましい具体例としては、n=0の場合、すなわち窒素原子とベンゼン環が直接結合している場合であるフェニルアミン、n=1の場合であるベンジルアミンが挙げられる。結晶化化合物(d)である炭素数1~10の直鎖または分岐アルキル基を有する第1級アルキルアミンの好ましい具体例としては、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ブチルアミン、ブチルアミン、プロピルアミンが挙げられ、ブチルアミンがより好ましく、t-ブチルアミンが特に好ましい。結晶化化合物(e)のヒドロキシルアミンはNHOHで表される第1級アミンである。ヒドロキシルアミンの塩の具体例としては、ヒドロキシルアミン塩酸塩が特に好ましい。
【0052】
結晶化化合物群IIに属する結晶化化合物をロタンドンと反応させて結晶性ロタンドン誘導体前駆体を生成させる際の条件は、ロタンドンのケトン基が当該結晶化化合物のアミノ基と反応しイミノ基を形成することが可能な条件であればよく、適切な酸触媒、脱水剤、pH、温度などを選択することができる。酸触媒としては硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、塩化亜鉛、塩化ホスホリル、三フッ化ホウ素、塩化チタン、酢酸が例示できるがこれらに限定されない。脱水に際しては、水酸化カリウム、モレキュラーシーブ、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムもしくは共沸脱水操作から選択される試薬または操作が例示できるがこれらに限定されないが、例えば結晶化化合物としてセミカルバジド塩酸塩を使用する場合には、pHを低くしすぎないことが好ましく、酢酸ナトリウムが好適な例として挙げられる。また、本件結晶化化合物の量は例えばロタンドンに対し1~3等量、好ましくは1.5~1.7等量が例示できるが、これらに限定されず、反応が進むよう適宜調整できる。溶媒は、反応系内の化合物と反応しない任意の溶媒を用いてよく、代表例としてメタノールおよびトルエンが挙げられるが、これらに限定されない。反応温度も、使用する結晶化化合物や酸触媒の性質に応じて公知の条件を選択できるが、結晶化化合物(c)~(d)の場合は氷冷下および窒素雰囲気下で、結晶化化合物(e)の場合は室温下で、反応を進行させることができる。工程2Bにおいて、結晶性ロタンドン誘導体前駆体は室温では油状で得られる場合があり、次で説明するように塩にすることで固体として得ることができ、工程3において再結晶が可能となる。
【0053】
結晶性ロタンドン誘導体前駆体の塩の生成については、通常、室温または加熱条件下(加熱の場合は温度20~80℃程度への加熱が例示できる。)で大過剰の酸(代表的には塩化水素)を結晶性ロタンドン誘導体前駆体に作用させればよく、セミカルバジド塩類は室温もしくは加熱条件下で大過剰の酸を結晶性ロタンドン誘導体前駆体に作用させればよい。
【0054】
(工程3)
工程3は、結晶性ロタンドン誘導体を再結晶させる工程であり、この工程によって、結晶性ロタンドン誘導体の純度を上げることができる。
【0055】
再結晶の方法は特に限定されないが、代表的な方法としては、工程2で得られた結晶性ロタンドン誘導体(結晶化していてもよい)を溶媒(本明細書では、この溶媒を再結晶溶媒ということがある。)と混合して(混合前に結晶が生成していた場合は、完全に溶解させた後に)、適宜種結晶を添加し、その再結晶溶媒を適当な方法で濃縮して、結晶を得ることができる。再結晶溶媒は、通常、目的物(本発明においては結晶性ロタンドン誘導体)の溶解度が低温で小さく高温で大きい溶媒であって、ある程度沸点の高いものとして水または有機溶媒から選択できる。
【0056】
再結晶溶媒の具体例として、酢酸エチル、メタノール、エタノール、水、アセトン、シクロヘキサン、トルエン、ヘキサンなどの有機溶媒、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。2種以上の混合物の好ましい例としては、ヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒が挙げられ、2種の溶媒の比率は本件各種結晶性ロタンドン誘導体の溶解度などに応じて調整できるが、通常1:50~50:1、好ましくは1:40~40:1、より好ましくは1:30~30:1の範囲内である。再結晶溶媒の種類および混合溶媒の場合の各溶媒の比率は、結晶性ロタンドン誘導体の溶解度を確認しながら好適なものを選択してよい。各種の結晶性ロタンドン誘導体に使用できる特に好適な再結晶溶媒の例として、酢酸エチルが挙げられる。
【0057】
工程3は複数回実施してもよく、2回以上行うことで、エピマーが微量混在していた場合にそのエピマーの除去量が1回の実施より増えるため、ロタンドンの純度をより高めることができる。その場合、得られるロタンドンの純度および製造費用の観点からは、2回の実施が好ましい。
【0058】
(洗浄工程)
さらに、工程3と後述の工程4との間、すなわち工程3の実施後、工程4の前に、溶媒による結晶性ロタンドン誘導体の結晶の洗浄(本明細書において、この洗浄に用いる溶媒を洗浄溶媒ということがある。)を実施してもよく、それにより、特に工程1で用意したロタンドン含有組成物が精油などの香りを有する組成物(例えばパチュリ油などのα-グアイエン含有組成物)から製造されたものの場合に、そのロタンドン含有組成物および/またはα-グアイエン含有組成物に由来する香りが低減できるという利点がある。洗浄溶媒には結晶性ロタンドン誘導体の結晶が過度に溶解して失われないものを使用することができ、代表的な例として、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒;水、含水エタノール(エタノール濃度は通常70~99%)などの高極性溶媒;エーテル類;などが挙げられるが、これらに限定されず、結晶性ロタンドン誘導体の結晶の溶解度や洗浄後の結晶の香りの質などに応じて選択できる。
【0059】
(工程4)
工程4は工程3で得られた結晶に含まれる結晶性ロタンドン誘導体から、結晶性ロタンドン誘導体のイミノ基を加水分解してロタンドンを遊離させる工程である。
【0060】
ロタンドンの遊離にはイミン化合物の加水分解によってケトン基を有する化合物を遊離可能な任意の方法を採用できる。
【0061】
代表的な方法としては、まず結晶性ロタンドン誘導体の結晶を溶剤に室温もしくは加熱条件下で(加熱の場合は40~60℃程度への加熱が例示できる。)溶解した後、加水分解を室温もしくは加熱条件下で(加熱の場合は40~60℃程度への加熱が例示できる。)進行させればよい。なお、室温での加水分解は加熱時よりゆっくり進行するが純度が高くなることがあるため、純度をより高める観点からは室温での加水分解が好ましい。溶媒は特に限定されず、代表的な例としてテトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。加水分解に用いる化合物は特に限定されず、水溶液中で酸性または塩基性を示す化合物から選択できる。具体的には、水溶液が弱酸性もしくは弱塩基性を示す各種塩(代表的には塩化銅(II))、または塩酸、硫酸、硝酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが例示でき、好ましい例は塩化銅(II)、塩酸、水酸化ナトリウムであり、特に好ましい例は塩化銅(II)である。いかなる理論に拘泥するものではないが、塩酸や水酸化ナトリウムのように強酸または強塩基では、大過剰の水素イオンまたはヒドロキシイオンによってロタンドンのエピマー化(エピメリ化、エピ化とも呼ばれる。)が進行する場合があるが、塩化銅(II)のように弱酸または弱塩基では水素イオンまたはヒドロキシイオンによるエピマー化が進行しづらく、得られるロタンドンの純度をより高くできる場合があると考えられる。加水分解に用いる溶媒は特に限定されず、イミノ基の加水分解において使用される任意の溶媒から選択することができるが、含水アセトニトリル(通常アセトニトリルは70~99質量%)、含水メタノール(通常メタノールは70~99質量%)、テトラヒドロフラン(THF)が好ましい例として挙げられる。反応速度の観点からは含水アセトニトリルが好ましい。エピマー化を抑制する観点からは、含水メタノール、テトラヒドロフランが好ましく、特に含水メタノールが好ましい。
【0062】
イミノ基の加水分解によってロタンドンを遊離させた後は、その系に有機溶媒を加え有機層にロタンドンを移し、適宜炭酸水素ナトリウム水溶液や飽和食塩水などによる洗浄し、溶媒を減圧留去などによって除去してロタンドンを得てよく、さらに減圧蒸留によって精製をしてもよい。
【0063】
工程4によって遊離させたロタンドンは、適宜溶媒除去や蒸留に供して、高い純度のロタンドンとして得ることができる。蒸留方法は特に限定されず、減圧蒸留や分子蒸留を選択できるが、加熱によるエピマー化の進行を抑制する観点からは、可能な限り高い真空度で加熱を抑えられる方法が好ましく、その例としてクーゲルロール蒸留や分子蒸留が挙げられる。
【0064】
<製造方法2>
本発明の別の一態様として、以下の工程を含むロタンドンの製造方法が提供される。本明細書ではこれを「製造方法2」または「本件製造方法2」ということがある。
(工程1)ロタンドン含有組成物を用意する工程
(工程2)前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと、下記結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物と、を反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させ、該結晶性ロタンドン誘導体と酸とを反応させて結晶性ロタンドン誘導体の塩を生成させる工程
(結晶化化合物群I)
【0065】
【化12】
[式中、(a)においてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、(b)においてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表す。]
(工程3)前記結晶性ロタンドン誘導体の塩を再結晶させる工程
(工程4)前記工程3で得られた結晶中の前記結晶性ロタンドン誘導体の塩のイミノ基を加水分解して、前記結晶性ロタンドン誘導体の塩からロタンドンを遊離させる工程
本件製造方法2の工程1は、上述した本件製造方法1の工程1と同様に行うことができる。
【0066】
本件製造方法2の工程2において、結晶化化合物群Iの結晶化化合物は本件製造方法1の工程2Aで定義した結晶化化合物1と同じであり、前記ロタンドン含有組成物中のロタンドンと、結晶化化合物群Iから選択される結晶化化合物と、を反応させて生成させる結晶性ロタンドン誘導体は、本件製造方法1の工程2Aで結晶性ロタンドン誘導体として得たものであって、本件製造方法1の工程2と同様に生成させることができる。この結晶性ロタンドン誘導体は本件製造方法1の項で説明したようにそれ自体結晶生成可能なものであるが、得られるロタンドン純度や結晶の取扱性などの観点から、本件製造方法2のように、更に塩にしてその塩を工程3に供して結晶性ロタンドン誘導体の塩の結晶を得ることができる。塩の生成は、本件製造方法1の工程2Bで例示した方法を採用することができ、塩は好ましくは塩酸塩である。
【0067】
本件製造方法2の工程3は、本件製造方法1の工程3と同様に行うことができる。
【0068】
本件製造方法2の工程4は、本件製造方法1の工程4と同様に行うことができる。
【0069】
[ロタンドンのジアステレオマーへの本件製造方法の適用]
ロタンドンのジアステレオマーにも本件製造方法が適用できる。例として、ロタンドンのエピマーである(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンが知られている(特許第6339128号公報)が、この化合物についても、本件製造方法によって高純度で製造することができる。
【0070】
[ロタンドン誘導体]
本発明の一態様において、ロタンドン誘導体(本明細書では、本件ロタンドン誘導体ということがある。)は、下記の式Aで表される化合物またはその塩であり、それ自体、またその塩が室温で結晶生成可能なものである。塩は好ましくは塩酸塩である。
【0071】
本件ロタンドン誘導体は、上述の本件製造方法1または2の工程2によって生成させることができ、それ自体またはその塩を上述の再結晶(本件製造方法1または2の工程3)及びイミノ基の加水分解(本件製造方法1または2の工程4)に供することによって、高純度のロタンドンの製造に使用することができる。
【0072】
【化13】
【0073】
式中、RはRa、Rb、Rc、Rd、Reのいずれかであり、RaにおいてR~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、RbにおいてR~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表し、Rcにおいてnは0~4の整数を表す。
【0074】
すなわち、本件ロタンドン誘導体は下記式Aa~Aeで表される化合物のいずれかまたはその塩である。塩は好ましくは塩酸塩である。
【0075】
【化14】
【0076】
式Aa中、R~Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、好ましくは、R~Rの少なくとも1箇所が水素であり、より好ましくは、R~Rのすべてが水素である。式Ab中、R~Rはそれぞれ独立して水素またはニトロ基を表し、好ましくは、R~Rの1箇所または2箇所、より好ましくは2箇所がニトロ基であり、さらに好ましくはRおよびRがニトロ基である。式Ac中、nは0~4の整数を表し、好ましくは、nは0または1である。なお、式Acにおいてn=0の場合は窒素原子とベンゼン環が直接結合している場合、すなわちフェニルアミンであることを意味する。式Ad中、Rは炭素数1~10の直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、好ましくは炭素数3~6の直鎖または分岐アルキル基であり、より好ましくは炭素数4の直鎖または分岐アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数4の分岐アルキル基であり、特に好ましくはt-ブチル基である。
【0077】
本発明の一態様において、好ましくは、本件ロタンドン誘導体は下記の式Aa1またはAb1で表される化合物であり、本件製造方法1の工程2Aに従って得ることができる。式Aa1は式AaにおいてR~Rのすべてが水素の場合である。式Ab1は式AbにおいてR~RのうちRおよびRがニトロ基でありそれ以外が水素の場合である。
【0078】
【化15】
【0079】
本発明の一態様において、好ましくは、本件ロタンドン誘導体は下記の式Ac1、Ac2、Ad1またはAeで表される化合物であり、本件製造方法1の工程2Bに記載した結晶性ロタンドン誘導体前駆体の生成方法に従って得ることができる。式Ac1は式Acにおいてn=0の場合であり、式Ac2は式Acにおいてn=1の場合である。式Ad1は式AdにおいてRがt-ブチル基の場合である。より好ましくは、下記の式Ac1~Aeで表される各化合物の塩酸塩であり、本件製造方法1の工程2Bに従って得ることができる。
【0080】
【化16】
【0081】
本発明の別の一態様において、好ましくは、本件ロタンドン誘導体は下記の式Aa1またはAb1で表される化合物の塩であり、本件製造方法2の工程2に従って得ることができる。塩は好ましくは塩酸塩である。より好ましくは、本件ロタンドン誘導体は式Aa1で表される化合物の塩酸塩である。
【0082】
【化17】
【0083】
[ロタンドンを含む香味付与組成物]
ロタンドンは、それ自体で、各種物品にスパイス様、コショウ様、および/またはウッディな香味または香気を付与し得て、濃度によって付与し得る香味または香気を変えることができる。代表的には、物品に微量添加する場合には、柑橘類を含む果実類のフレッシュ感、果汁感などを付与または増強できる。そこで、本発明の一態様において、本件製造方法で得られたロタンドンを含む組成物を、各物品の香味付与に用いることができる(本明細書ではロタンドンを含む香味付与組成物、または本件香味付与組成物ということがある。)。なお、本明細書においてロタンドンを含む香味付与組成物(本件香味付与組成物)はロタンドンのみからなるものであっても、ロタンドン以外の成分を含むものであってもよい。ロタンドン以外の成分の例は後述する。
【0084】
また、本明細書において「添加」とは、ある対象に噴霧、滴下などによって単に加えること、およびある対象と混ぜ合わせることの、少なくとも1つを含み、「香味」とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚と味覚などを含む感覚を意味する。 本件香味付与組成物がロタンドン以外の成分を含む場合、本件香味付与組成物中のロタンドン含有量は、特に制限はなく、混合される他の成分により異なり一概にはいえないが、通常、香味付与組成物の全質量を基準として0.5ppt~0.5ppm、好ましくは1ppt~0.2ppmの濃度範囲とすることができる。
【0085】
本件香味付与組成物は、飲食品、香粧品、保健衛生品など各種の喫食可能な消費財に添加できる。例えば、ロタンドンを含む香味付与組成物を、柑橘香味増強(例えば特開2016-198025号公報または特許第6262170号公報参照)、果実香味増強(例えば特開2016-198026号公報または特許第6262171号公報参照)、塩味増強(例えば特開2021-171024号公報参照)、コク味増強(例えば特開2021-171025号公報参照)、渋味増強(例えば特開2021-171026号公報参照)の1種以上に使用することができる。また、添加対象の残香性を向上させること(例えば特開2018-184507号公報)や不快味をマスキングすること(例えば特開2021-171023号公報参照)に使用することもできる。
【0086】
ロタンドンを含む香味付与組成物は、ロタンドンに加えて、溶媒、分散媒、ロタンドン以外の香味付与成分、抗酸化成分などの補助成分など任意の他の成分(具体例は後述)を含み得るが、実質的にロタンドンのみからなるものであってもよい。本件香味付与組成物がロタンドン以外の成分も含む場合、本件香味付与組成物中のロタンドンの濃度は、不快香味改善組成物の添加対象や香気特性に応じて任意に決定できる。
【0087】
本件香味付与組成物において、ロタンドンに加えてさらに含有し得る任意の他の成分の具体例として、各種類の香料化合物、香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、動植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物タンパク質分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0088】
[ロタンドンを含む香味付与組成物の製造方法]
ロタンドンを含む香味付与組成物(本件香味付与組成物)は、ロタンドンを含む組成物を公知の方法によって適切な溶媒に添加して調製した、ロタンドンやその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液であってよく、さらにそれを乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)としたものであってもよい。
【0089】
使用する溶媒の種類に特に制限はない。水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドなどを例示することができる。これらのうち、飲食品へ使用する場合には、エタノールまたはプロピレングリコールが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂)、ハーコリン、各種精油などを例示することができる。
【0090】
本件香味付与組成物を乳化製剤とするためには、ロタンドンを含む組成物を、水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、化工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、ロタンドン1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を添加することができる。
【0091】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜添加することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0092】
[ロタンドンを含む香味付与組成物の消費財への添加]
ロタンドンを含む香味付与組成物(本件香味付与組成物)を各種消費財に添加して香味を付与することができる。
【0093】
消費財の具体的な例として、香粧品または保健衛生品であれば、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディー用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの洗浄剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの空間のための空間用芳香消臭剤、日用品や家具などのための各種物品用芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香剤;虫除け剤、防虫剤、殺虫剤などの有害動物忌避殺虫剤;などを挙げることができるが、これらに限定されない。特に、布、皮膚、毛髪などの物品に対して香料組成物を付着可能な使用形態の消費財が好ましい。ここでいう物品としては、表面に繊維状構造を有する物品が好ましく、タオル類、手ぬぐい、布巾、寝具、カーテン、敷物、衣類などの各種繊維製品が好適な例として挙げられる。
【0094】
飲食品であれば、せんべい、餅などの米菓、餡を含む菓子、ういろう、羊かん、ゼリー、カステラ、ビスケット、クッキー、パイ、ケーキ、チップスなどの焼きまたは揚げ菓子、プリン、クリーム、チョコレート、ガム、キャラメル、キャンディー、ディップ、スプレッド、ペーストなどの菓子類;パン類;うどん、そば、拉麺などの麺類;すし、五目飯、チャーハン、ピラフなどの米飯類;餃子、シューマイ、春巻などの中華食品類;お好み焼き、たこ焼きなど粉物類;漬物類および漬物の素;魚介類の加工飲食物類;畜肉を用いた加工飲食物類;塩、調味塩、醤油類、味噌類、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、酢類、つゆ類、ソース、ケチャップ、タレ類、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、複合調味料、新みりん、ミックス粉などの調味料類;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;野菜煮物、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;果物の果汁、果汁飲料または果汁入り清涼飲料、果物の果肉や果粒入り果実飲料;野菜類を含む飲料、スープなどの野菜含有飲食品;スポーツドリンク、ハチミツ飲料、栄養補助飲料、乳酸菌飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ビールテイスト飲料等の嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;ワイン、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)などのアルコール飲料類;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
また、その他嗜好品としては、たばこ、電子タバコなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財中のロタンドンの濃度は、消費財の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定でき、例えば、柑橘香味増強であれば特開2016-198025号公報または特許第6262170号公報を、果実香味増強であれば特開2016-198026号公報または特許第6262171号公報を、塩味増強であれば特開2021-171024号公報を、コク味増強であれば特開2021-171025号公報を、渋味増強であれば特開2021-171026号公報を、添加対象の残香性向上であれば特開2018-184507号を、不快味のマスキングであれば特開2021-171023号公報を、それぞれ参照して決定することができる。
【実施例0097】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
[実施例1] 結晶化化合物として結晶化化合物群Iの(a)セミカルバジド塩類を使用した例
実施例1では、本件製造方法1において、工程1として工程1A(1A-1~1A-6のいずれか)を行ってα-グアイエン含有組成物としてパチュリ油を用意してそれを空気酸化に供してロタンドン含有組成物を用意し、工程2として工程2Aを行って結晶化化合物としてセミカルバジド塩酸塩を用いた各種の例を示す(実施例1-1~1-10)。
【0099】
(実施例1-1)
(工程1A-1:精油の酸化→酸化済精油の単蒸留および精留)
α-グアイエン含有組成物として市販のパチュリ油を用意し、そこに含まれるα-グアイエンを空気酸化してロタンドン含有組成物を用意した。
【0100】
【化18】
【0101】
ガラスボールフィルターを装着した5Lフラスコに、α-グアイエン含有組成物としてパチュリ油(4000g、α-グアイエン濃度29.0%、19.6mol)、および酢酸コバルト(II)四水和物(48.7g、0.196mol)を投入し、65℃で空気を約32時間吹き込み続けた。空気の吹込み中には適時サンプリングにより原料消費及びロタンドン生成量を追跡し、ロタンドン生成量が頭打ちとなったことを確認後に空気酸化終了とした。その後、120℃で20分間加熱を行って不純物としての過酸化物を分解し、粗製物を得た。
【0102】
得られた粗製物にMCT(1000g)を添加して単蒸留を行い、内温が240℃達温するまで蒸留を継続した。次いでスルーザーパッキン充填蒸留塔を用い、0.4kPaで、留出温度65~147℃、加熱温度145~196℃の条件により精密蒸留し、得られた精留物をロタンドン含有組成物として得た(ロタンドン収量315.3g、1.44mol、収率7.4%、ロタンドン濃度45.6%)。
[ロタンドン濃度測定条件]
装置:GC-2025(株式会社島津製作所製)
カラム: TC-1(30mL. x 0.53mmI.D. x 1μm df)
温度条件: 140℃-10℃/min-300℃
スプリット比: 20:1
線速度: 60cm/s
注入口温度: 300℃
検出器温度: 300℃
【0103】
(工程2A)
本実施例では、工程2の一態様である工程2Aとして、工程1で得られたロタンドン含有組成物に含まれるロタンドンと、結晶化化合物群Iの結晶化化合物(a)の一例であるセミカルバジド塩酸塩と、を反応させて結晶性ロタンドン誘導体を生成させた。
【0104】
【化19】
【0105】
3Lの4径フラスコにメカニカルスターラーを装着し、ロタンドン含有組成物(工程1で得た精留物)157.7g(濃度45.6%、全てロタンドンと仮定して0.722mol)、およびメタノール(722mL)を投入し、室温下にセミカルバジド塩酸塩(120.8g、1.08mol)、酢酸ナトリウム(100.7g、1.23mol)、酢酸(64.9g、1.08mol)を順次投入した後加熱を開始した。還流到達後5時間で反応終了とし、次いで常圧下にメタノール(360mL)を回収し、結晶性ロタンドン誘導体(式Aa1の化合物)を含むフラスコ内容物を得た。
【0106】
(工程3)
再結晶溶媒を用いて工程2で得られた結晶性ロタンドン誘導体を再結晶させた。
【0107】
工程2で得られた結晶性ロタンドン誘導体を含むフラスコ内容物を室温程度まで冷却後10%炭酸ナトリウム水(2.9kg)をフラスコ中に注ぎ、酢酸エチル(3.61kg)を加えて50℃まで加温した後、有機層と水層を分離した。得られた有機層を50℃に加温しながら約50℃の湯(1.4L)で3回洗浄した。得られた有機層に対し常圧下に酢酸エチル及び水を回収し、酢酸エチル(2.2L)を回収したところで種結晶を添加して撹拌下に室温まで放冷したところ、結晶が析出した。その結晶を濾過して香りをかいだところ、ロタンドン様の香りであったが、わずかにパチュリ油様の香りも感じさせるものであった。
【0108】
(洗浄工程)
次いで、結晶をヘプタンで数回洗浄(ヘプタン総量500mL)し、減圧下に溶媒除去を行い、白色固体の結晶(49.61g)を得た。洗浄後の白色結晶の香りは、洗浄前に感じられたパチュリ油様の香りが感じられなくなった。このヘプタンによる洗浄によって、最終的に得られる高純度ロタンドンにおいて工程1で使用したパチュリ精油由来の香りを低減できるのでヘプタン洗浄することが好ましい。
【0109】
得られた結晶の純度をHPLCで確認したところ、検出波長254nmで96.0%であった(収量49.6g、0.180mmol、収率24.9%)。
【0110】
結晶性ロタンドン誘導体(式Aa1、ロタンドン-セミカルバゾン誘導体、(3S,5R,8S)-2-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)hydrazinecarboxamide)の物性は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) δ (ppm) 1.05(3H, d, J=4.0 Hz), 1.07(3H, d, J=3.2 Hz), 1.58(1H, m), 1.76(3H, s), 1.75-1.98(5H, m), 2.21(1H, d, J=15.6 Hz), 2.43(1H, dd, J=12.8, 14.4 Hz), 2.64(1H, dd, J=7.2, 17.2 Hz), 2.75(1H, br s), 3.04(1H, br s), 4.68(1H, s), 4.72(1H, s), 7.54(1H, s).
13C-NMR(CDCl, 100 MHz)δ (ppm) 17.33, 19.82, 20.35, 27.70, 30.71, 32.83, 33.60, 35.48, 41.10, 46.40, 108.63, 141.35, 151.49, 157.97, 158.45, 159.62.
(工程4)
【0111】
【化20】
【0112】
1Lの4径フラスコに工程3で得られた結晶性ロタンドン誘導体(式Aa1、ロタンドン-セミカルバゾン)の結晶49.6g(0.180mol)、テトラヒドロフラン(THF)410mLおよび2mol/L塩酸136mL(0.272mol)を投入し、還流を3時間行い、次いで室温まで冷却後、20%食塩水500gおよび2N塩酸136mLを再び加え、振盪後、有機層と水層とを分離し、有機層を得た。水層の方を、酢酸エチル(250mL)抽出に供し、抽出液を前記有機層と混合し、その混合液を5%炭酸水素ナトリウム水(400g)、20%食塩水(400g)で順次洗浄後、減圧下に溶媒を留去した。得られた粗製(44.4g)を減圧蒸留にて精製し、目的のロタンドンを得た。収量は34.89g(0.160mol)、収率88.7%、純度86%であった。
[純度測定条件]
装置:Agilent 7890B
カラム:CHIRAMIX(登録商標)(長さ30m、内径0.25mm、液層膜厚0.25μm)
オーブン温度:150~180℃(+1.0℃/min)、180℃30分保持
キャリアガス:窒素(0.7mL/min)
【0113】
(実施例1-2)
実施例1-1において、工程1A-1に代えて工程1A-5(パチュリ油の精留→精留済パチュリ油の酸化→酸化済パチュリ油の単蒸留および精留)によってロタンドン含有組成物を用意した。
【0114】
すなわち、α-グアイエン含有組成物として市販のパチュリ油3000gを用意し、それを、スルーザーパッキン充填蒸留塔を用い、0.4kPaで、留出温度95~99℃、加熱温度129~133℃の条件により精留した。精留済のα-グアイエン含有組成物中のα-グアイエン濃度は約45%であった。
【0115】
その後、実施例1-1と同様の条件で精留済パチュリ油の酸化、ならびに酸化済パチュリ油の単蒸留および精留を行ってロタンドン含有組成物を得た。
【0116】
続けて実施例1-1と同様の条件で工程2A~工程4を行い、純度88%のロタンドンを得ることができた。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0117】
(実施例1-3~1-6)
実施例1-1または2において、工程1Aでα-グアイエン含有組成物を空気酸化する前後の単蒸留および精留を以下の工程1A-2、1A-3、1A-4または1A-6のように行った以外は実施例1-1または2と同様にして、ロタンドンを得た。また、ロタンドン純度を実施例1-1と同様に測定した。
・実施例1-3(工程1A-2:パチュリ油の酸化→酸化済パチュリ油の単蒸留)
実施例1-1において、工程1A-1に代えて工程1A-2を実施した、すなわち工程1A-1で酸化済パチュリ油の単蒸留を行った後に精留を行わなかった以外は実施例1-1と同様にしてロタンドンを得た。得られたロタンドンの純度は81%であった。
・実施例1-4(工程1A-3:パチュリ油の酸化→酸化済パチュリ油の精留)
実施例1-1において、工程1A-1に代えて工程1A-3を実施した、すなわち工程1A-1で酸化済パチュリ油の単蒸留を行わず精留のみ行った以外は実施例1-1と同様にしてロタンドンを得た。得られたロタンドンの純度は84%であった。
・実施例1-5(工程1A-4:パチュリ油の精留→精留済パチュリ油の酸化→酸化済パチュリ油の精留)
実施例1-2において、工程1A-5に代えて工程1A-4を実施した、すなわち酸化済パチュリ油の単蒸留を行なわず精留のみ行った以外は同様にしてロタンドンを得た。得られたロタンドンの純度は86%であった。
・実施例1-6(工程1A-6:パチュリ油の精留→精留済パチュリ油の酸化→酸化済パチュリ油の単蒸留)
実施例1-2において、工程1A-5に代えて工程1A-6を実施した、すなわち酸化済パチュリ油の精留を行なわず単蒸留のみ行った以外は同様にしてロタンドンを得た。得られたロタンドンの純度は87%であった。
【0118】
(実施例1-7)
実施例1-7として、工程1で用意するロタンドン含有組成物として、実施例1-1において酸化時間を短くした以外は実施例1-1と同様の方法で市販のパチュリ油を酸化して、ロタンドン濃度が24.3%であるロタンドン含有組成物を得た。その後、実施例1-1と同様の条件で工程2A~工程4を行ったところ、純度82%のロタンドンを得ることができた。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0119】
(実施例1-8~9)
実施例1-8として、実施例1-1において結晶性ロタンドン誘導体のヘプタンによる洗浄を行わなかった以外は同様にして、ロタンドンを得た。また、ロタンドン純度を実施例1-1と同様に測定した。得られたロタンドンの純度は88%であったが、パチュリ油のような香りがわずかに感じられた。
【0120】
また、実施例1-9として、実施例1-1において結晶性ロタンドン誘導体のヘプタンによる洗浄を行わず、工程4で得られたロタンドンに対し200質量%の水を加えて常圧下に水蒸気蒸留を行った以外は実施例1-1と同様にして、ロタンドンを得た。また、ロタンドン純度を実施例1-1と同様に測定した。得られたロタンドンの純度は81%であったが、ごくわずかにパチュリ油のような香りが感じられ、実施例1-7よりはパチュリ油様の香りは弱かった。
【0121】
(実施例1-10)
実施例1-10では、工程1A-6(パチュリ油の精留→精留済パチュリ油の酸化→酸化済パチュリ油の単蒸留)、工程2A、および工程3については実施例1-6と同様に行い、工程4について下記を実施して、ロタンドンを得た。また、ロタンドン純度を実施例1-1と同様に測定した。
【0122】
工程4においては、300mLの4径フラスコに、工程3で得られた結晶性ロタンドン誘導体(式Aa1、ロタンドン-セミカルバゾン)の結晶2.22g(8.06mmol)、メタノール68gおよび水3.4gを投入し、加熱して結晶性ロタンドン誘導体を溶解した。次いで、50℃で塩化銅(II)二水和物2.75g(16.1mmol)を投入して2時間半かけて加水分解を行った。その後、フラスコ内容物を室温程度に冷ましてから0.5M希塩酸(160mL)に注ぎ入れ、酢酸エチル80mLで抽出を行い、有機層(酢酸エチル層)と水層を分離した。水層についても酢酸エチル40mLで2回抽出を行い、得られた酢酸エチル抽出液と分離した有機層と合わせ、合わせた有機層を飽和食塩水、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過処理後、溶媒を減圧留去して粗製物を得て、その粗製物をクーゲルロール蒸留し、ロタンドンを得た。得られたロタンドンの純度は92%であった。
【0123】
このように、塩化銅(II)を用いた加水分解によって、ロタンドンの純度をさらに高いものとすることができる。
【0124】
(実施例1-11)
実施例1-11では、実施例1-10において、工程3の再結晶を実施例1-6(すなわち実施例1-1)と同様の方法で2回行った以外は実施例1-10と同様にして、ロタンドンを得た。また、ロタンドン純度を実施例1-1と同様に測定した。
【0125】
工程3において、工程2で得られた結晶性ロタンドン誘導体を含むフラスコ内容物を室温程度まで冷却後、濾紙濾過して得られた固体をヘプタンで洗浄し、洗浄後に得られた白色固体の9.3gに対し、酢酸エチル140gおよび5%炭酸ナトリウム水溶液120gを加えて加熱下で洗浄した後、有機層を水で2回洗浄し、得られた有機層から常圧下で溶媒を除去し、種結晶を添加して攪拌下に室温まで放冷したところ、結晶を得た。
【0126】
2回目の再結晶として、得られた結晶を再び酢酸エチル146gに50℃程度で加熱溶解し、種結晶を加え室温まで放冷した。放冷後の反応液を濾紙濾過しヘプタンで洗浄して、結晶性ロタンドン誘導体の白色結晶を2.22g得た。この純度をHPLCで測定したところ、検出波長254nmで98%であった。
【0127】
この結晶性ロタンドン誘導体の結晶を、実施例1-9と同様にして工程4に供した。得られたロタンドンの純度は96%であった。このように、2回の再結晶および塩化銅(II)を用いた加水分解を行うことによって、ロタンドンの純度をさらに高いものとすることができる。
【0128】
[実施例2] 結晶化化合物として結晶化化合物群Iの(b)フェニルヒドラジン類を使用した例
本実施例では本件製造方法1の工程2Aにおいて結晶化化合物群Iとして(b)フェニルヒドラジン類を用いる例を示す。
【0129】
(工程1)
実施例1-1の工程1A-1と同様にしてα-グアイエン含有組成物であるパチュリ油を酸化に供してロタンドン濃度が約45%であるロタンドン含有組成物を得て、それをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(ヘキサン/酢酸エチル=8:1)、ロタンドン濃度が約71%のロタンドン含有組成物を得た。
(工程2A)
【0130】
【化21】
【0131】
ナスフラスコに2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(0.60g,1.5mmol)、メタノール(6mL)及び濃硫酸(0.11g,1.1mmol)を投入し、50℃加熱後に前記ロタンドン含有組成物(ロタンドン濃度71%,0.22g,1.0mmol)を投入した。同温2時間で加水し、固形物を濾別した。得られた固体を炭酸水素ナトリウム水、次いで水で洗浄し、0.40g(1.0mmol)の赤褐色固体の結晶性ロタンドン誘導体を得た。
【0132】
(工程3)
工程2Aで得られた結晶性ロタンドン誘導体を、メタノールに溶解させた後、メタノールの留去および種結晶の添加を行って再結晶させ、結晶性ロタンドン誘導体である式Ab1の化合物(ロタンドン-ジニトロフェニルヒドラゾン誘導体、(3S,5R,8S)-3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenone 2-(2,4-dinitrophenyl)hydrazone)の結晶を純度95%で得た。式Ab1の化合物の物性値は以下のとおりであった。当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
H-NMR(CDCl,400MHz) (ppm) : 1.13(3H, d, J=7.2 Hz), 1.14(3H, d, J=6.0 Hz), 1.65(1H, m), 1.78(3H, s), 1.78-1.92(3H, m), 2.03(1H, dd, J=11.2, 11.2 Hz), 2.22(1H, m), 2.31(1H, d, J=16.0 Hz), 2.51(1H, dd, J=12.0, 15.6 Hz), 2.89-2.94(2H, m), 3.26(1H, m), 4.71(1H, s), 4.75(1H, s), 7.97(1H, d, J=9.6 Hz), 8.28(1H, dd, J=2.0, 9.6 Hz), 9.14(1H, d, J=2.4 Hz), 10.90(1H, s).
13C-NMR(CDCl,100MHz) (ppm) :17.4, 19.7, 20.3, 27.9, 30.7, 32.8, 34.2, 35.8, 41.4, 46.3, 108.9, 116.3, 123.8, 128.6, 129.8, 137.1, 141.9, 144.9, 151.2, 162.8, 166.5.
【0133】
(工程4)
工程3で得られた結晶状の式Ab1の結晶性ロタンドン誘導体から、実施例1-1と同様に希塩酸でイミノ基の加水分解を行うことでロタンドンを遊離させ、得られたロタンドンの純度は約84%であった。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。なお、実施例1-9と同様に工程4のイミノ基の加水分解に塩化銅(II)を用いるか、実施例1-10と同様に工程3の再結晶の複数回実施および工程4のイミノ基の加水分解における塩化銅(II)の使用をすれば、純度をさらに上げることができる。以降の実施例も同様である。
【0134】
[実施例3] 結晶性ロタンドン誘導体前駆体の塩の製造例
本実施例では、本件製造方法1において工程2の一態様として工程2Bを行う場合の一例を示す。
【0135】
(1)結晶化化合物が結晶化化合物群IIの(d)(アルキルアミン)の例
(工程1)
実施例2と同様にして、α-グアイエン含有組成物中のα-グアイエンを空気酸化してロタンドンに変換することで、ロタンドン含有組成物を用意した。
【0136】
(工程2B)
工程2Bを以下の通り実施した。
(i) 結晶性ロタンドン誘導体前駆体(ロタンドン-t-ブチルイミン誘導体)の合成
【0137】
【化22】
【0138】
ナスフラスコに工程1で用意したロタンドン含有組成物(ロタンドン濃度71%,2.18g,10.0mmol)、t-ブチルアミン(2.93g,40mmol)及びトルエン(100mL)を投入し、窒素雰囲気下で氷冷下に四塩化チタン(1.0Mジクロロメタン溶液、10mL,10mmol)を投入した。1時間氷冷下で反応させ、その後室温に上げて終夜反応させた。飽和炭酸ナトリウム水で反応停止した後セライト濾過し、得られた濾液を層分離し、水層をトルエンで抽出した。合わせた有機層に対しヘキサン及び2mol/L塩酸で水相に分配し、25%水酸化ナトリウム水でアルカリ性にした後トルエン抽出し、飽和食塩水で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥させた。濾過後減圧下溶媒を留去し、得られた粗製をクーゲルロール蒸留にて精製し、0.47g(1.72mmol)の褐色油状の式Ad1の結晶性ロタンドン誘導体前駆体(式Ad1、ロタンドン t-ブチルイミン、(3S,5R,8S)-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)-1,1-dimethylethylamine)を得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl,400MHz)(ppm) :0.95(3H, t, J=7.6 Hz), 1.00(3H, d, J=7.2 Hz), 1.25(9H, s), 1.27-1.57(3H, m), 1.75 (3H, s), 1.84(1H, m), 1.95-2.25(3H, m), 2.39(1H, m), 2.62-2.72(2H, m), 3.13(1H, m), 4.66(1H, s), 4.71(1H, s)
13C-NMR(CDCl,100MHz)(ppm): 17.47, 20.04, 20.40, 27.43, 30.29, 31.30, 33.00, 35.49, 37.69, 40.85, 46.66, 40.17, 54.61, 108.27, 146.43, 152.12, 156.74, 170.66. MS(EI, 70 eV):273(M+, 100), 258(84), 216(52), 202(64), 176(27), 174(27), 160(50), 134(30).
(ii) 結晶性ロタンドン誘導体(ロタンドン-t-ブチルイミン塩酸塩誘導体)の合成
得られた式Ad1の結晶性ロタンドン誘導体前駆体にテトラヒドロフラン(THF)を加えた後、氷冷下に2mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液を加えて、ロタンドンt-ブチルイミン塩酸塩((3S,5R,8S)-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)-1,1-dimethylethylamine hydrochloride)の固体を、結晶性ロタンドン誘導体として得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl,400MHz)(ppm) :1.15(3H, d, J=7.2 Hz), 1.20(3H, d, J=7.2 Hz), 1.71(9H, s), 1.73(3H, s), 1.83-1.93 (3H, m), 2.01(1H, m), 2.44-2.50(3H, m), 2.52-2.70(2H, m), 2.96(1H, m), 3.26(1H, m), 4.72(1H, m), 4.72(2H, s).
13C-NMR(CDCl,100MHz)(ppm): 17.14, 18.55, 20.24, 27.59, 29.27, 30.67, 31.55, 36.53, 38.78, 42.72, 44.96, 60.69, 109.67, 143.79, 150.02, 184.02, 185.78.
【0139】
(工程3)
工程2Bで得られた結晶性ロタンドン誘導体を、アセトンに溶解させた後、アセトンの留去および種結晶の添加を行って再結晶させ、結晶性ロタンドン誘導体の結晶を得た。
【0140】
(工程4)
工程3で得られた結晶状の結晶性ロタンドン誘導体から、実施例1-1と同様に希塩酸でイミノ基の加水分解を行うことでロタンドンを遊離させ、得られたロタンドン結晶の純度は約85%であった。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0141】
(2)結晶化化合物が結晶化化合物群IIの(c)の例1(アリールアミン)
(工程1)
実施例2と同様にして、α-グアイエン含有組成物中のα-グアイエンを空気酸化してロタンドンに変換することで、ロタンドン含有組成物を用意した。
【0142】
(工程2B)
工程2Bを以下の通り実施した。
(i) 結晶性ロタンドン誘導体前駆体(ロタンドン-フェニルイミン誘導体)の合成
【0143】
【化23】
【0144】
ナスフラスコに工程1で用意したロタンドン含有組成物(ロタンドン濃度71%,2.18g,10.0mmol)、フェニルアミン(3.73g,40mmol)及びトルエン(100mL)を投入し、窒素雰囲気下で氷冷下に四塩化チタン(1.0Mジクロロメタン溶液、10mL,10mmol)を投入した。同温1時間で反応終了とし、飽和炭酸ナトリウム水で反応停止した後セライト濾過し、得られた濾液を層分離し、水層をトルエンで抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で2回洗浄後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥させた。濾過後減圧下溶媒を留去し、得られた粗製に対しシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(ヘキサン/酢酸エチル=20:1)、2.19g(7.46mmol)の黄色油状の式Ac1の結晶性ロタンドン誘導体前駆体((3S,5R,8S)-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)benzenamine)を得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) (ppm): 1.00(3H, d, J=7.6 Hz), 1.12(3H, d, J=7.6 Hz), 1.66(1H, m), 1.77(3H, s), 1.77-1.95(4H, m), 2.05(1H, dd, J=11.2, 11.2 Hz), 2.27(1H, d, J=15.6 Hz), 2.48-2.66(3H, m), 3.28(1H, dddd, J=3.6, 3.6, 10.8, 14.4 Hz ), 6.81(2H, d, J=7.6 Hz), 7.01(1H, dd, J=7.2, 7.2 Hz), 7.28(2H, dd, J=7.2, 7.2 Hz).
13C-NMR(CDCl, 100 MHz)(ppm): 17.41, 19.43, 20.26, 27.46, 30.80, 32.77, 35.75, 36.26, 40.19, 46.31, 108.60, 119.81, 122.64, 128.74, 144.43, 151.43, 153.03, 164.10, 177.47. MS(EI, 70 eV):293(M+, 100), 278(52), 252(23), 236(49), 210(35), 201(33), 77(20).
(ii) 結晶性ロタンドン誘導体(ロタンドン-フェニルイミン塩酸塩誘導体)の合成
得られた式Ac1の結晶性ロタンドン誘導体前駆体にテトラヒドロフラン(THF)を加えた後、氷冷下に2mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液を加えて、固体のロタンドンフェニルイミン塩酸塩((3S,5R,8S)-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)benzenamine hydrochloride)を結晶性ロタンドン誘導体としてとして得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl,400MHz) (ppm) :1.18(3H, d, J=7.6 Hz), 1.27(3H, d, J=7.2 Hz), 1.72(1H, m), 1.77(3H, s), 1.90-2.01(3H, m), 2.11(1H, dd, J=10.4, 10.4 Hz), 2.42-2.58(2H, m), 2.72(1H, dd, J=12.0, 15.6 Hz), 3.03(1H, m), 3.19(1H, d, J=5.2 Hz), 4.16(1H, m), 4.75-4.76(2H, m), 5.29 (1H, br s), 7.30-7.55 (5H m).
13C-NMR(CDCl,100MHz) (ppm): 17.20, 18.24, 20.04, 27.93, 30.41, 31.76, 37.20, 39.15, 42.52, 45.02, 109.79, 124.70, 129.61, 136.59, 142.84, 149.46, 149.74, 88.22, 188.63.
【0145】
(工程3)
工程2Bで得られた結晶性ロタンドン誘導体を、アセトンに溶解させた後、アセトンの留去および種結晶の添加を行って再結晶させ、結晶性ロタンドン誘導体の結晶を得た。
【0146】
(工程4)
工程3で得られた結晶状の結晶性ロタンドン誘導体から、実施例1-1と同様に希塩酸でイミノ基の加水分解を行うことでロタンドンを遊離させ、得られたロタンドン結晶の純度は約85%であった。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0147】
(3)結晶化化合物が結晶化化合物群IIの(c)の例2(アラルキルアミン)
(工程1)
実施例2と同様にして、α-グアイエン含有組成物中のα-グアイエンを空気酸化してロタンドンに変換することで、ロタンドン含有組成物を用意した。
【0148】
(工程2B)
工程2Bを以下の通り実施した。
(i) 結晶性ロタンドン誘導体前駆体(ロタンドン-ベンジルイミン誘導体)の合成
【0149】
【化24】
【0150】
ナスフラスコに実施例2で用意したロタンドン含有組成物(ロタンドン濃度71%,2.18g,10.0mmol)、ベンジルアミン(4.29g,40mmol)及びトルエン(100mL)を投入し、窒素雰囲気下で氷冷下に四塩化チタン(1.0Mジクロロメタン溶液、10mL,10mmol)を投入した。同温1.5時間、室温1時間で反応終了とし、飽和炭酸ナトリウム水で反応停止した後セライト濾過し、得られた濾液を層分離し、水層をトルエンで抽出した。合わせた有機層に対し5%クエン酸水で水相に分配し、得られた水層を25%水酸化ナトリウム水でアルカリ性にしてトルエン抽出し直し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥させた。濾過後減圧下溶媒を留去し、1.78g(5.79mmol)の橙色油状の式Ac2の結晶性ロタンドン誘導体前駆体((3S,5R,8S)-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)benzylamine)を得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) (ppm) :1.05(3H, d, J=5.2 Hz), 1.07(3H, d, J=7.2 Hz), 1.60(1H, m), 1.77(3H, s), 1.77-1.92(3H, m), 1.98-2.04(2H, m), 2.24(1H, d, J=15.6 Hz), 2.49(1H, dd, J=12.0, 15.6 Hz), 2.67-2.71(2H, m), 3.28(1H, m), 4.56(2H, s), 4.69(1H, s), 4.73(1H, s), 7.22(1H, m), 7.30-7.35(4H, m)
13C-NMR(CDCl, 100 MHz)(ppm): 17.51, 19.91, 20.37, 27.39, 30.91, 32.91, 35.70, 35.77, 40.34, 46.50, 56.45, 108.49, 126.24, 127.40, 128.22, 141.05, 144.59, 151.82, 161.24, 177.81. MS(EI, 70 eV):307(M+, 72), 286(37), 250(44), 226(20), 91(100).
(ii) 結晶性ロタンドン誘導体(ロタンドン-ベンジルイミン塩酸塩誘導体)の合成
得られた式Ac2の結晶性ロタンドン誘導体前駆体にテトラヒドロフラン(THF)を加えた後、氷冷下に2mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液を加えて、淡黄色~褐色固体のロタンドンベンジルイミン塩酸塩((3S,5R,8S)-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)benzylamine hydrochloride)を結晶性ロタンドン誘導体として得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) (ppm): 1.02-1.07(6H, m), 1.49(1H, m), 1.62(3H, s), 2.40-2.48(3H, m), 2.87(1H, m), 3.10(1H, d, J=18.4 Hz), 3.69(1H, s), 4.60(2H, s), 4.76(1H, s), 4.82(1H, s), 7.16-7.24(3H, m), 7.45-7.48(2H m), 13.27(1H, s).
13C-NMR(CDCl, 100 MHz) (ppm): 16.81, 17.88, 19.59, 27.35, 29.74, 31.49, 36.61, 37.05, 42.17, 44.60, 50.18, 109.31, 127.87, 128.06, 128.50, 133.47, 141.05, 149.11, 185.81, 188.27.
【0151】
(工程3)
工程2Bで得られた結晶性ロタンドン誘導体を、アセトンに溶解させた後、アセトンの留去および種結晶の添加を行って再結晶させ、結晶性ロタンドン誘導体の結晶を得た。
【0152】
(工程4)
工程3で得られた結晶状の結晶性ロタンドン誘導体から、実施例1-1と同様に希塩酸でイミノ基の加水分解を行うことでロタンドンを遊離させ、得られたロタンドン結晶の純度は約83%であった。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0153】
(4)結晶化化合物が結晶化化合物群IIの(e)(ヒドロキシルアミンの塩)の例
(工程1)
実施例2と同様にして、α-グアイエン含有組成物中のα-グアイエンを空気酸化してロタンドンに変換することで、ロタンドン含有組成物を用意した。
【0154】
(工程2B)
工程2Bを以下の通り実施した。
(i) 結晶性ロタンドン誘導体前駆体(ロタンドン-オキシム誘導体)の合成
【0155】
【化25】
【0156】
ナスフラスコにヒドロキシルアミン塩酸塩(1.01g,15mmol)及びメタノール(5mL)を投入し、室温下に酢酸ナトリウム(1.20g,15mmol)を加えて20分撹拌後に工程1で用意したロタンドン含有組成物(ロタンドン濃度71%,2.18g,10.0mmol)を10分かけて滴下した。室温で3日反応させることで変換率99%に至ったため反応終了とし、脱イオン水を加えた後濾紙濾過し、得られた濾過物をヘキサンで洗い込み、濾液を濃縮することで粗製を得た。シリカゲルクロマト精製(ヘキサン/酢酸エチル=8:1~6:1)を行い、無色油状の式Aeの結晶性ロタンドン誘導体前駆体((3S,5R,8S)-3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-2H-azulen-1-one oxime)を得た(収量2.31g,9.90mmol,収率99.0%)。その物性は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) δ (ppm) 1.04(3H, d, J=6.8 Hz), 1.07(3H, d, J=6.8 Hz), 1.59-1.65(2H, m), 1.75(3H, s), 1.77-1.88(2H, m), 1.99(1H, m), 2.19-2.30(2H, m), 2.40(1H, dd, J=11.6, 15.2 Hz), 2.68(1H, dd, J=7.6, 7.6 Hz), 2.86(1H, dd, J=7.6, 18.0 Hz), 2.92(1H, m), 4.67(1H, s), 4.71(1H, s), 8.37(1H, br s).
13C-NMR(CDCl, 100 MHz) δ (ppm)17.34, 19.75, 20.37, 28.39, 30.70, 32.91, 33.26, 35.52, 41.29, 46.35, 108.59, 139.33, 151.59, 158.62, 167.37. MS(EI, 70 eV):233(M+, 52), 216(100), 202(35), 176(48), 160(62), 146(42), 134(37), 91(39).
(ii) 結晶性ロタンドン誘導体前駆体(ロタンドン-オキシム塩酸塩誘導体)の合成
得られた式Aeの結晶性ロタンドン誘導体前駆体にテトラヒドロフラン(THF)を加えた後、氷冷下に2mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液を加えて、白色~淡黄色固体のロタンドンオキシム塩酸塩((3S,5R,8S)-3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-2H-azulen-1-one oxime hydrochloride)を結晶性ロタンドン誘導体として得た。その物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDOD, 400 MHz) (ppm): 1.16(3H, dd, J=0.8, 7.2 Hz), 1.19(3H, dd, J=1.2, 7.6 Hz), 1.71(1H, m), 1.78(3H, s), 1.86-2.01(3H, m), 2.12(1H, m), 2.52-2.88(3H, m), 3.03(1H, dddd, J=6.8, 6.8, 6.8, 6.8 Hz), 3.26(1H, m), 4.74(1H, s), 4.79(1H, s).
13C-NMR(CDOD, 100 MHz) (ppm):17.21, 18.63, 20.34, 29.74, 31.47, 33.33, 36.87, 37.95, 43.74, 46.69, 110.04, 137.45, 151.72, 179.66, 183.42.
【0157】
(工程3)
工程2Bで得られた結晶性ロタンドン誘導体を、アセトンに溶解させた後、アセトンの留去および種結晶の添加を行って再結晶させ、結晶性ロタンドン誘導体の結晶を得た。
【0158】
(工程4)
工程3で得られた結晶状の結晶性ロタンドン誘導体から、実施例1-1と同様に希塩酸でイミノ基の加水分解を行うことでロタンドンを遊離させ、得られたロタンドン結晶の純度は約82%であった。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0159】
[実施例4]本件製造方法2において結晶化化合物が(a)(セミカルバジド塩類)である例
(工程1)
製造方法1における実施例2と同様にして、α-グアイエン含有組成物中のα-グアイエンを空気酸化してロタンドンに変換することで、ロタンドン含有組成物を用意した。
【0160】
(工程2)
実施例1で得られた式Aa1の結晶性ロタンドン誘導体(ロタンドン-セミカルバゾン誘導体)にテトラヒドロフラン(THF)を加えた後、氷冷下に2mol/Lの塩化水素ジエチルエーテル溶液を加えて塩酸塩に変換し、減圧下に溶媒回収を行うことで白色~淡黄色固体の結晶性ロタンドン誘導体の塩(ロタンドン-セミカルバゾン塩酸塩誘導体、(3S,5R,8S)-2-(3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-1(2H)-azulenylidene)hydrazinecarboxamide hydrochloride)を固体として得た。
【0161】
得られたロタンドン-セミカルバゾン塩酸塩誘導体の物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) δ (ppm): 1.16(3H, d, J=6.0 Hz), 1.16(3H, d, J=6.0 Hz), 1.65(1H, m), 1.74(3H, s), 1.80-1.90(3H, m), 2.04(1H, m), 2.45-2.66(3H, m), 2.94(1H, ddd, J=6.0, 6.0, 6.0 Hz), 3.29(1H, dd, J=4.0, 20.0 Hz), 3.40(1H, m), 4.72(1H, m), 4.73(1H, s), 6.18(1H, br), 8.77 (1H, br), 10.39(1H, br).
13C-NMR(CDCl, 100 MHz) δ (ppm):17.17, 18.39, 20.16, 28.21, 30.34, 32.10, 37.19, 37.50, 42.41, 45.31, 109.74, 139.67, 149.93, 156.76.
【0162】
(工程3)
工程2で得られた結晶性ロタンドン誘導体を、アセトンに溶解させた後、アセトンの留去および種結晶の添加を行って再結晶させ、結晶性ロタンドン誘導体の結晶を得た。
【0163】
(工程4)
工程3で得られた結晶状の結晶性ロタンドン誘導体から、実施例1-1と同様に希塩酸でイミノ基の加水分解を行うことでロタンドンを遊離させ、得られたロタンドン結晶の純度は約84%であった。なお、当該純度は実施例1-1と同様に測定した。
【0164】
[比較例1]他の精製法によるロタンドン精製の確認
化合物の純度を上げる方法として、逆抽出法が知られている。本件製造方法のとおり結晶化を行う場合に比べてどの程度高い純度が得られるかを確認した。
【0165】
実施例1-2で得た精留パチュリ油をα-グアイエン含有組成物として用意し(α-グアイエン濃度40%)、2-エチルヘキサン酸コバルトを酸化触媒として無溶媒で空気酸化を50℃で10時間にて行ってα-グアイエンをロタンドンに変換してロタンドン含有組成物を用意した。得られたロタンドン含有組成物にトルエンを加えて常法に従って共沸脱水処理を行った後、実施例2の(2)(i)に従いn-ブチルアミンを四塩化チタン存在下でロタンドンと反応させてイミンのロタンドン誘導体を得た。そして、本件製造方法のように再結晶処理を行わずに、5%クエン酸水及びトルエンで逆抽出した後に25%水酸化ナトリウム水によりアルカリ性にしてトルエンで抽出することでロタンドン誘導体の精製を行った。溶媒回収後の濃縮物に対し、20%含水テトラヒドロフラン及びシリカゲルを加えて50℃で加水分解することによりロタンドンを遊離させた。遊離により得られたロタンドンの純度をGCにより測定したところ、純度は65%にとどまり、GCチャートによれば、ロタンドンのピーク近傍に分子量が同じ異性体類と思われるピークが複数見られた。
[純度測定条件]
カラム: TC-WAX(30mL. x 0.53mmI.D. x 1μm df)
温度条件: 160℃-10℃/min-220℃
スプリット比: 20:1
線速度: 60cm/s
注入口温度: 220℃
検出器温度: 220℃
【0166】
[比較例2]本件結晶化化合物以外の化合物の例
工程2で本件結晶化化合物に代えてO-メチルヒドロキシルアミン塩酸塩を使用し、ロタンドン-オキシムメチルエーテル誘導体を生成させた場合について示す。
【0167】
【化26】
【0168】
ナスフラスコにロタンドン(2.18g,10.0mmol)及びピリジン(10ml)を投入し、室温下にO-メチルヒドロキシルアミン塩酸塩(1.67g,20.0mmol)を投入した。室温下に終夜反応させた後、飽和食塩水に注いでトルエン抽出を行った。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥させた。濾過後減圧下溶媒を留去し、得られた粗製をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(ヘキサン/酢酸エチル=20:1)、無色油状の(3S,5R,8S)-3,8-dimethyl-5-prop-1-en-2-yl-3,4,5,6,7,8-hexahydro-2H-azulen-1-one O-methyloxime (1.91g,7.72mmol,収率77.2%)を得た。この化合物は実施例3(1)と同様にして塩酸塩に変換しても塩酸塩にはならず、従って結晶性の塩には誘導出来なかった。
【0169】
式10の化合物の物性値は以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl, 400 MHz) (ppm) 1.02(3H, d, J=6.8 Hz), 1.07(3H, d, J=7.2 Hz), 1.74-1.89(4H, m), 1.75(3H, s), 1.97(1H, m), 2.14(1H, dd, J=2.0, 18.8 Hz), 2.19(1H, m), 2.39(1H, m), 2.60(1H, m), 2.78(1H, dd, J=7.2, 18.8 Hz), 2.98(1H, m), 3.87(3H, s), 4.67(1H, s), 4.71(1H, s). 13C-NMR(CDCl, 100 MHz) (ppm)17.32, 19.71, 20.37, 28.01, 29.68, 30.78, 32.84, 33.78, 35.44, 41.22, 46.38, 61.50, 108.52, 139.54, 151.68, 158.18, 166.32. MS(EI, 70 eV):247(M+, 81), 216(100), 201(20), 190(24), 160(27), 146(32), 91(23).
【0170】
[実施例のまとめ]
以上の実施例および比較例に示すように、ロタンドンの製造方法においては、公知の純度向上方法である逆抽出法では、同じ分子量の異性体類が存在しやすい場合にそれらを除去できない問題が発生し得る一方で、本件製造方法では結晶化によって不純物の非常に少ない結晶が得られるためロタンドンを高純度で得られるという有利な効果を奏することが確認された。
【0171】
なお、本明細書の実施例はいずれもロタンドン含有組成物としてα-グアイエン含有組成物を酸化したものを用いたが、本件製造方法の原理に基づけば、ロタンドン含有組成物がα-グアイエン含有組成物の酸化物でなくともロタンドンを含有する組成物であれば、本件製造方法を適用可能である。