(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106256
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】磁性基体、コイル部品および回路基板
(51)【国際特許分類】
H01F 1/22 20060101AFI20240731BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20240731BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240731BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240731BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240731BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240731BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240731BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240731BHJP
【FI】
H01F1/22
H01F1/33
H01F27/255
H01F17/04 F
H01F27/29 120
C22C38/00 303S
B22F1/00 W
B22F1/16 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010505
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】三澤 一輝
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智也
(72)【発明者】
【氏名】冨田 龍也
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018BA15
4K018BB04
4K018BC28
4K018BD04
4K018HA08
4K018KA43
5E041AA11
5E041BC01
5E041NN05
5E070AA01
5E070AB08
5E070BA11
5E070BB01
5E070EB04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】絶縁性向上させる軟磁性合金を磁性材料とした磁性基体、コイル部品及び回路基板を提供する。
【解決手段】磁性基体は、金属磁性粒子301と、Fe及びCrを含んだ第1酸化部311を有し、金属磁性粒子311の表面に形成された酸化被膜302から成り、CIELab値でa
*(D65)が1.0より大きく、かつ、b
*(D65)が1.0より大きい外面と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粒子と、
FeおよびCrを含んだ第1酸化部を有し、前記金属磁性粒子の表面に形成された酸化被膜と、
前記金属磁性粒子および前記酸化被膜から成り、CIELab値でa*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が1.0より大きい外面と、
を備えることを特徴とする磁性基体。
【請求項2】
前記第1酸化部は、ラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおいて730cm-1にピーク強度を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記第1酸化部は、ラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおける730cm-1のピーク強度が、当該ラマンスペクトルにおける680cm-1のピーク強度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の磁性基体。
【請求項4】
前記酸化被膜は、SiおよびAlの少なくとも一方を含み、前記金属磁性粒子の表面を覆った第2酸化部を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性基体。
【請求項5】
前記第2酸化部は、前記金属磁性粒子の表面に、Siの酸化物からなる第1領域とAlの酸化物からなる第2領域とを有することを特徴とする請求項1に記載の磁性基体。
【請求項6】
前記第2酸化部は、前記金属磁性粒子の表面に複数の前記第1領域を有することを特徴とする請求項5に記載の磁性基体。
【請求項7】
前記金属磁性粒子は、Feを95wt%以上含有し、Fe以外の添加元素を合計で5wt%以下含有していることを特徴とする請求項1に記載の磁性基体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の磁性基体と、
前記磁性基体の内部に設けられた導体と、
前記磁性基体の表面に設けられて前記導体と接続された外部電極と、
を備えることを特徴とするコイル部品。
【請求項9】
前記外部電極はめっきで形成されることを特徴とする請求項8に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記外面は、CIELab値でa*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が2.0より大きいことを特徴とする請求項8に記載のコイル部品。
【請求項11】
請求項8に記載のコイル部品と、
前記コイル部品が実装された基板と、を備えることを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性基体、コイル部品および回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される高周波通信用システムにおいて、小型化および高性能化を促進するため、システムに搭載される電子部品にも小型化および高性能化が求められている。例えば、近年のシステムで搭載数が増えているコイル部品のひとつにパワーインダクタがあり、パワーインダクタにおいて小型化と共に求められる高性能化としては、大電流化が挙げられる。このため、一部のコイル部品では、使用される磁性基体の材料として、フェライト材料よりも磁気飽和しにくい金属磁性材料が使用され、金属磁性材料の使用範囲が広がっている。一方で、金属磁性材料を使用した磁性基体(磁心)はフェライトよりも電気抵抗率が低くなる傾向があり、金属磁性材料を使用した磁性基体の高抵抗化が重要となっている。
【0003】
例えば特許文献1には、Feと、Feよりも酸化しやすいAlやCrとを含んだ金属磁性粉を圧粉し、熱処理を行うことで高抵抗な酸化物層を備えた磁心を得る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の磁心では、酸化物層の厚みを薄くするために酸素量が調整された場合、酸化物層の表面に酸化鉄が形成され、一部にFe3O4を多く含むことで表面抵抗が低くなる虞がある。このため、酸化鉄を含む部分では、絶縁破壊を生じ易くなってしまう。
【0006】
また、表面抵抗の低下は、外部電極のめっきにおいてめっき伸びを生じる虞がある。めっき伸びは、表面に見えるものは寸法不良として不良品の原因となるし、表面に見えないものは外部電極においてショート不具合を生じる潜在的な原因となるので、発生の抑制が望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、軟磁性合金を磁性材料とした磁性基体の絶縁性向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、金属磁性粒子と、FeおよびCrを含んだ第1酸化部を有し、上記金属磁性粒子の表面に形成された酸化被膜と、上記金属磁性粒子および上記酸化被膜から成り、CIELab値でa*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が1.0より大きい外面と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、上記第1酸化部は、ラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおいて730cm-1にピーク強度を有する。
また、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、上記第1酸化部は、ラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおける730cm-1のピーク強度が、当該ラマンスペクトルにおける680cm-1のピーク強度よりも大きい。
【0010】
また、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、上記酸化被膜は、上記金属磁性粒子の表面を覆い、SiおよびAlの少なくとも一方を含む第2酸化部を有する。
また、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、上記第2酸化部は、上記金属磁性粒子の表面に、Siの酸化物からなる第1領域とAlの酸化物からなる第2領域とを有する。
【0011】
また、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、上記第2酸化部は、上記金属磁性粒子の表面に複数の上記第1領域を有する。
また、本発明の一態様に係る磁性基体によれば、上記金属磁性粒子は、Feを95wt%以上含有し、Fe以外の添加元素を合計で5wt%以下含有している。
【0012】
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、いずれかの上記磁性基体と、上記磁性基体の内部に設けられた導体と、上記磁性基体の表面に設けられて上記導体と接続された外部電極と、を備える。
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記外部電極はめっきで形成される。
【0013】
また、本発明の一態様に係るコイル部品によれば、上記外面は、CIELab値でa*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が2.0より大きい。
また、本発明の一態様に係る回路基板によれば、いずれかの上記コイル部品と、上記コイル部品が実装された基板と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軟磁性合金を磁性材料とした磁性基体の絶縁性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るコイル部品の正面図である。
【
図3】第1実施形態に係るコイル部品の断面図である
【
図4】磁性基体における微視的な構造を示す図である。
【
図5】磁性基体の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。
【0017】
本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。先に説明した図面に示された構成要素については、後の図面の説明で適宜に参照する場合がある。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
コイル部品1は、基板2aに実装されている。基板2aには、例えば2つのランド部3が設けられている。コイル部品1は、1つの磁性基体11と2つの外部電極12とを有する。コイル部品1は各外部電極12とランド部3とがはんだで接合されることで基板2aに実装される。
【0019】
本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装された基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に備えられる。回路基板2を備えた電子機器としては、自動車の電装品、サーバ、ボードコンピュータおよびこれら以外の様々な電子機器が想定される。
【0020】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、方向の説明は、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向および「H軸」方向を基準に用い、それぞれ、「長さ」方向、「幅」方向および「高さ」方向と称する。
コイル部品1は、直方体形状の外形を有する。即ちコイル部品1は、長さ方向Lの両端と、高さ方向Hの両端と、幅方向Wの両端とのそれぞれに外面を有する。
【0021】
直方体形状のコイル部品1における各辺の寸法は、長さ方向Lが例えば1.0~4.5mmの範囲にあり、幅方向Wが例えば0.5~3.2mmの範囲にあり、高さ方向Hが例えば0.5~1.0mmの範囲にある。また、高さ方向Hの寸法が長さ方向Lの寸法より小さく、更には高さ方向Hの寸法が幅方向Wの寸法より小さくなっている。
【0022】
コイル部品1の外面はいずれも、平坦な平面であってもよいし湾曲した湾曲面であってもよい。また、コイル部品1の8つの角部および12の稜線部は、丸みを有していてもよい。
本明細書においては、コイル部品1の外面の一部が湾曲している場合や、コイル部品1の角部や稜線部が丸みを有している場合にも、かかる形状を「直方体形状」と称することがある。つまり、本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」を意味するものではない。
【0023】
<コイル部品の構造>
図2は、
図1に示すコイル部品1の正面図であり、
図3は、
図1に示すコイル部品1の断面図である。
図3には、
図1に示すA-A線に沿った断面が示されている。以下、
図1~
図3を参照して説明する。
【0024】
本発明の第1実施形態におけるコイル部品1は、磁性基体11と外部電極12を有し、磁性基体11の内部に導体14を有する。
磁性基体11は、内部の比抵抗が非常に高く、外面でも同様で1MΩ/sq以上の表面抵抗率を有する。磁性基体11の外面におけるCIELab値は、a*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が1.0より大きい。
【0025】
磁性基体11は直方体形状を有し、高さ方向Hの一端に上面101を有し、高さ方向Hの他端に底面102を有し、長さ方向Lの両端それぞれに端面103を有し、幅方向Wの両端に前面104および後面105を有する。底面102は、コイル部品1が基板2aに実装される際に基板2aと対向する面である。
【0026】
磁性基体11の外面のうち、上面101や前面104や後面105など、外部電極12で覆われていない外面についてはコイル部品1の外面にもなっている。コイル部品1の外面としては、CIELab値のa*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が2.0より大きいことが望ましい。
磁性基体11は、例えば、磁性材料の粉末が潤滑剤と混合された混合材料が成形用の金型に充填されてプレス成形されることにより圧粉体が得られ、当該圧粉体が熱処理されることにより作製され得る。また、磁性基体11は、例えば、磁性材料の粉末が樹脂などと混合された混合材料が積層法などで成形されて成形体が得られ、当該成形体が熱処理されることによっても作製され得る。
【0027】
導体14は、導電性に優れた金属材料から成る。導体14用の金属材料としては、例えば、Ag、Pd、CuおよびAlのうちの1以上の金属、またはこれらの金属のいずれかを含む合金が用いられ得る。導体14は、表面に絶縁物の皮膜が設けられた金属の導線が巻回されたものでもよいし、基板やシートなどの表面にめっきや印刷などによって形成されたものでもよい。
【0028】
本実施形態の導体14は、1ターン以上周回した周回部402を有する。周回部402の周回数は、例えば1.5ターン以上、10.5ターン以下である。周回部402の形状は平面状でもよく螺旋状でもよい。周回部402は、例えば、2つの周回が上側と下側で対向し、1つの集合体となっていてもよい。
【0029】
導体14は、外部との電気的な導通を取るための引き出し部401を有する。引き出し部401は周回部402の両端に設けられており、外部電極12を導体14と接続するものである。導体14の作製には、巻線、薄膜、積層のいずれかのプロセスが用いられ、特に制限されることはない。
【0030】
図3には、導線が磁性基体11の底面102と上面101に沿って周回した、いわゆる水平巻きの周回部402が例示されている。導体14は、導線が磁性基体11の端面103に沿って周回した、いわゆる垂直巻きの周回部を有してもよい。
コイル部品1は、磁性基体11の底面102に2つの外部電極12を備えている。外部電極12は、Ag、Cu、Ti、Ni、Snのうちの1以上の金属からなる金属層を有する。金属層は、例えば厚みが1~5μmの層である。外部電極12は複数の金属層が組み合わされたものでもよく、合計の厚みは例えば5~10μmとなる。また、外部電極12は、一部に樹脂を含んだ金属層が組み合わされてもよく、合計の厚みは例えば10~20μmとなる。
【0031】
外部電極12は、導体14と同じ成分の層、および導体14よりも抵抗の高い成分の層の一方あるいは双方からなる。また、外部電極12は、導体14と同じ充填率の層、および導体14よりも低い充填率の層の一方あるいは双方からなる。
【0032】
図3に示す例の場合、外部電極12は、端面103から上面101、底面102、前面104および後面105におよんだ、いわゆる5面電極となっている。また、外部電極12は、下地層201とめっき層202とを有する。
下地層201には、Ag、Cu、Ti、Niなどの金属材料が用いられる。下地層201は、めっき、金属材料の塗布、スパッタリング法、あるいは蒸着法により磁性基体11の表面に設けられる。また、下地層201は、厚みが1μm以下であり、一部分が他の部分から離間して存在していてもよい。下地層201は、磁性基体11の表面および導体14の引き出し部401と密着することで、外部電極12を磁性基体11と一体化させるとともに外部電極12と導体14との導通を得る。
【0033】
めっき層202は、導電性に優れた金属材料から成る。金属材料としては、例えばCu、Agが用いられ、加えてNi、Pd、Snが用いられ得る。めっき層202は、それぞれの金属材料を主成分とする層、または一部で合金化した層が重なり、層状に形成される。
上述したように、磁性基体11は外面においても高い比抵抗を有する。このため、外面における絶縁破壊が抑制され、めっき層202の形成時におけるめっき伸びも抑制される。
【0034】
<磁性基体の構造>
図4は、磁性基体11における微視的な構造を示す図である。
磁性基体11は、軟磁性の磁性金属粒子301が酸化被膜302で結合された構造を有する。酸化被膜302は磁性金属粒子301を覆っていて、磁性金属粒子301同士は酸化被膜302によって結合されている。酸化被膜302は、磁性金属粒子301同士の距離を短く保って磁性基体11の磁気特性を保つとともに、高い電気抵抗によって磁性金属粒子301相互の絶縁を保つ。
【0035】
磁性金属粒子301は、Fe、Cr、SiおよびAlを含有しており、更にBやPを含有してもよい。金属磁性粒子301は、Feを95wt%以上含有し、Fe以外の添加元素を5wt%以下含有する。磁性金属粒子301の平均粒径は、例えば1μm以上20μm以下である。
金属磁性粒子301に含まれるFeの含有率は、一例として、磁性基体11の内部の断面における測定によって確認される。即ち、
図1のA-A線に沿って磁性基体11が切断されて露出された金属磁性粒子301の断面においてエネルギー分散型X線分光(EDS)分析が行われることによりFeの含有率が測定される。金属磁性粒子301に含まれる成分および含有率は、エネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)により測定され得る。分析の範囲は、金属磁性粒子301の大きさに応じて決められ、例えば、全体に占める酸素量が1wt%より少なくなる範囲が分析される。
【0036】
酸化被膜302は、FeCr2O4(クロマイト)を含有した第1酸化部311と、SiおよびAlを含有した第2酸化部312とを有する。そして、第2酸化部312は、Al酸化物312aの部分とSi酸化物312bの部分と有する。
第2酸化部312は磁性金属粒子301を覆っており、磁性金属粒子301の表面(即ち磁性金属粒子301と酸化被膜302との境界面)で第2酸化部312は、Al酸化物312aの領域とSi酸化物312bの領域とを有している。また、磁性金属粒子301の表面で、Si酸化物312bの領域は複数領域に分割されている。
【0037】
磁性金属粒子301が第2酸化部312で覆われているため、第1酸化部311は磁性金属粒子301の表面に接していない。酸化被膜302は、FeCr2O4(クロマイト)を含有した第1酸化部311によって高抵抗となっており、延いては磁性基体11の内部や外面も高抵抗となっている。第1酸化部311はFeCr2O4に加えて、Fe2O3(ヘマタイト)およびFe3O4(マグネタイト)を含む場合がある。第1酸化部311がFeCr2O4、Fe2O3およびFe3O4を含む場合、FeCr2O4の含有率が最も高く、Fe3O4の含有率が最も低い。第1酸化部311がFeCr2O4、Fe2O3およびFe3O4を含む場合、非磁性のFeCr2O4の含有率が高いことで、強磁性の酸化物(例えば、Fe3O4)が多く含まれる場合より、酸化被膜の比透磁率が小さくなり、磁性基体11としての磁気飽和特性が向上する。
第1酸化物311は、例えば、磁性基体11の外面において、金属磁性粒子301が露出していない部分の分析により容易に特定される。また、このような部分以外であっても、分析により同様の結果は得られる。また、磁性基体11の外面に金属磁性粒子301、第1酸化部311以外のものが存在する場合は、磁性基体11の断面における分析で特定されてもよい。
第1酸化物311は、例えば、ラマン分光測定によって特定される。即ち、ラマン分光測定で得られるラマンスペクトルにおいて、波数680cm-1付近に存在するピークがFe3O4に由来するピークであり、波数730cm-1付近に存在するピークがFeCr2O4に由来するピークであり、波数300cm-1付近に存在するピークがFe2O3に由来するピークである。従って、例えば第1酸化物311でFeCr2O4の含有率が高く、Fe3O4の含有率が低いことは、第1酸化物311の領域においてラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおける波数730cm-1のピーク強度が、当該ラマンスペクトルにおける波数680cm-1のピーク強度よりも大きいことで確認される。
【0038】
<磁性基体の製造工程>
以下、磁性基体の製造工程の一例として、積層法による製造工程について説明する。
図5は、磁性基体の製造工程を示すフローチャートである。
まず、ステップS101では、磁性体シートが作製される。磁性体シートは、磁性金属粒子301の原料となる軟磁性金属粉(原料粉)がバインダー樹脂および溶剤と混練されて得られる磁性材ペーストから生成される。原料粉は、Fe、Cr、SiおよびAlを含有し、Feを95wt%以上含有する。
【0039】
原料粉において、Cr、Si、Alおよびその他の添加元素の含有比率は、合計で5wt%以下である。原料粉は、Crを0.5wt%以上1.5wt%以下含有してもよく、Siを1.0wt%以上3.0wt%以下含有してもよく、Alを0.2wt%以上1.0wt%以下含有してもよい。
【0040】
Si由来の酸化物であるSiO2が高絶縁であるため、Si添加によって磁性基体11における体積抵抗が向上する。Crは不働態被膜であるCr2O3を形成するため、Cr添加によって磁性金属粒子301内部の酸化が防止される。Alは酸化されやすく磁性金属粒子301の表面で濃化しやすいため、Al添加によって磁性金属粒子301相互の間隔が均一化し、コイル部品1における直流重畳特性が向上する。
【0041】
磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、例えばアクリル樹脂である。また、磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、PVB樹脂、フェノール樹脂であってもよいし、バインダー樹脂として公知のその他の樹脂であってもよいし、更にこれらの混合物であってもよい。磁性材ペースト用の溶剤は、例えばトルエンである。
【0042】
磁性体シートの作製に際して磁性材ペーストは、ドクターブレード法または他の一般的な方法にてプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布される。ベースフィルムの表面に塗布された磁性材ペーストが乾燥されることで磁性体シートが得られる。磁性体シートには、一部に貫通孔が形成される。貫通孔の形成には、打ち抜き加工機やレーザ加工機などといった穿孔機が用いられる。
【0043】
ステップS101で磁性体シートが作製されると、次に、ステップS102で、磁性体シートのうち、導体14の形成が必要な磁性体シートに導電性ペーストが塗布される。
導電性ペーストは、Ag、Pd、CuおよびAlのうちの1以上の金属、またはこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉がバインダー樹脂および溶剤と混練されて生成される。導電性ペースト用のバインダー樹脂は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ種類の樹脂であってもよい。
【0044】
導体ペーストは磁性体シートに、例えばスクリーン印刷法にて所望のパターンで塗布される。また、磁性体シートに形成された貫通孔には導体ペーストが充填される。
ステップS102で導電性ペーストが塗布されると、次に、ステップS103で成形体が作製される。
【0045】
ステップS103では、導電性ペーストが塗布されていない磁性体シートが積層された上部積層体と、導電性ペーストが塗布された磁性体シートが積層された中間積層体と、導電性ペーストが塗布されていない磁性体シートが積層された下部積層体が作製される。そして、中間積層体が上部積層体および下部積層体で上下から挟み込まれて上部積層体および下部積層体が中間積層体に熱圧着される。これにより本体積層体が得られ、本体積層体が所定の大きさにカットされて成形体が得られる。成形体における原料粉の充填率は、85wt%以上となる。
【0046】
ステップS103で成形体が作製されると、次に、ステップS104で成形体に対して脱脂処理が行われる。
成形体に対する脱脂処理は、磁性材ペーストおよび導電性ペーストのバインダー樹脂として熱分解性樹脂が用いられる場合、窒素雰囲気等の非酸素雰囲気下で行われる。ここで非酸素雰囲気とは、酸素濃度が100ppm未満の雰囲気であるが、バインダー樹脂を炭化させずに分解するために必要最小限の酸素を含む。脱脂処理は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度で行われる。
【0047】
磁性材ペースト用のバインダー樹脂としてアクリル樹脂が用いられる場合、脱脂処理は、アクリル樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度で行われ、例えば300℃以上500℃以下で行われる。上記温度かつ非酸素雰囲気で脱脂処理が行われることで、脱脂と、原料紛に含まれるSiおよびCrの選択的な酸化が実現されて酸化被膜302の一部が形成される。
【0048】
ステップS104における脱脂処理の後、ステップS105で成形体に対して第1加熱処理が施される。
第1加熱処理は、5ppm以上1000ppm以下の範囲で酸素を含有する低酸素濃度雰囲気において、750℃以上900℃以下の第1加熱温度で行われる。原料粉が第1加熱温度で加熱されることにより、各原料粉においてAlおよびSiが熱拡散により表面付近に拡散し、雰囲気中の酸素と結合する。第1加熱処理では、各原料粉の表面に移動した添加元素のうち、酸化されやすいAlおよびSiの酸化物が生成されて酸化被膜302の形成が進む。第1加熱処理が行われる第1加熱時間は1時間以上6時間以下である。
【0049】
ステップS105における第1加熱処理の後、ステップS106で成形体に対して第2加熱処理が施される。
第2加熱処理では、第1加熱処理における酸素濃度よりも高い酸素濃度で処理が施される。第2加熱処理は、Feの酸化を抑制しつつSiおよびAlの酸化をさらに進めるために、1000ppmより大きく10000ppm以下の酸素雰囲気で行われることが望ましい。第2加熱処理は、第1加熱処理よりも高い酸素濃度で行われるため、SiおよびAlの酸化がさらに進み酸化被膜302の形成が完了する。
【0050】
上述したように、成型体における原料粉の充填率は85wt%以上と高いため、第2加熱処理において第1加熱処理よりも高い酸素濃度で加熱されても、原料粉中のFeの酸化が過剰に進行するほど多くの酸素は、成型体の外面から内部には供給されない。
第2加熱処理は、例えば、500℃以上700℃以下の第2加熱温度で行われる。第2加熱温度が高いほど酸化の進行が速いため、第2加熱処理が行われる第2加熱時間は第2加熱温度に応じて変わるが、第2加熱時間は30分以上6時間以下である。
【0051】
脱脂処理と第1加熱処理と第2加熱処理とを含む熱処理の結果、成形体に含まれる原料粉が酸化されて、
図4に示す構造の酸化被膜302が得られる。そして、当該熱処理の結果、表面が絶縁性の酸化被膜302に覆われた磁性金属粒子301が原料粉から生成されて磁性基体11が得られる。当該熱処理による原料粉の酸化によって磁性基体11の外面の組成が変化してCIELab値が変化する。つまり、磁性基体11の外面のCIELab値は磁性基体11の組成を反映している。
【0052】
ステップS106における第2加熱処理の後、ステップS107で、磁性基体11の外面に外部電極12が形成される。
外部電極12の形成では、Ag粒子を含む導体ペーストの塗布により下地層201が形成され、下地層201の表面に電界めっき法によりめっき層202が形成される。めっき層202は、例えば、Niを含むNiめっき層と、Snを含むSnめっき層の2層構造であってもよい。外部電極12は、磁性基体11内部の導体14と電気的に接続している。
【0053】
めっき層202の形成に際し、磁性基体11の表面抵抗率が1MΩ/sq以上であると電界めっきによるめっき伸びが抑制される。
なお、第2加熱処理後の成形体は、外部電極12の形成前に樹脂に含浸されてもよい。成形体は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸される。また、めっき層202の形成に際し、磁性基体11の外面に対して酸による表面処理が施されると、磁性基体11の外面においてFeが更に減少するので好ましい。
【0054】
<実施例>
第2加熱処理で得られた磁性基体11について、外面の色彩を色彩測定器で測定してCIELab値を得た。測定装置としては日本電色工業社製のVSS7700を用い、観察光源がD65、測定条件が反射、測定径が0.5mm、の条件で測定を行った。
【0055】
CIELab値と表面抵抗率との関係を評価したところ、a
*(D65)が1.0より大きく、かつ、b
*(D65)が1.0より大きい場合に、磁性基体11の表面抵抗率が1MΩ/sq以上となった。また、この場合、酸化被膜302には
図3に示す第1酸化部311が形成されていることを確認した。
【0056】
つまり、Fe3O4よりも高抵抗のFeCr2O4をFe3O4より多く含有した第1酸化部311が形成されることで、磁性基体11の外面でCIELab値のa*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が1.0より大きくなり、表面抵抗率が1MΩ/sq以上となることが分かった。
【0057】
従って、外面のCIELab値が上記値となった磁性基体11は、表面における絶縁破壊が抑制されるとともに、めっき層202の形成時のめっき伸びも抑制されて潜在的なショート要因が取り除かれる。磁性基体11の外面におけるCIELab値の上記値は、酸化によってFeCr2O4が生成されて高い表面抵抗率が得られていることを示す好適な指標となっている。
つまり、磁性基体11においてFeCr2O4が生成されていることは、磁性基体11の外面に対するD65光源による色彩測定により特定可能である。a*(D65)およびb*(D65)は、磁性基体11の外面の状態を反映し、a*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が1.0より大きいことは、色彩測定された面にFe3O4よりFeCr2O4が多く存在することの反映である。
【0058】
また、外部電極12のめっきに際して上記表面処理が施された場合、磁性基体11の外面におけるCIELab値は、a*(D65)が1.0より大きく、かつ、b*(D65)が2.0より大きくなり、表面抵抗率が更に向上した。
なお、比較例として、Crを含有せず、Fe、Si、Alを含有した原料紛を用いて作製した磁性基体について外面の色彩を測定したところ、CIELab値は、a*(D65)が1.0より小さく、かつ、b*(D65)が1.0より小さくなった。また、当該比較例では表面抵抗率が1MΩ/sqよりも小さくなった。これは、電気抵抗の低いFe3O4が多く生成されたためと考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1 コイル部品
2 回路基板
2a 基板
3 ランド部
11 磁性基体
12 外部電極
14 導体
401 引出部
402 周回部
101 上面
102 底面
103 端面
104 前面
105 後面
201 下地層
202 めっき層
301 磁性金属粒子
302 酸化被膜
311 第1酸化部
312 第2酸化部
312a Al酸化物
312b Si酸化物