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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106273
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/055 20060101AFI20240731BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240731BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B41J2/055
B41J2/14 301
B41J2/01 403
B41J2/14 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010532
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜地 保仁
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EC07
2C056EC28
2C056EC38
2C056FA04
2C057AF08
2C057AG44
2C057AM16
2C057AM40
2C057AR16
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】キャンセル波形によって発生する寄生振動を抑制する液体吐出ヘッドを提供すること。
【解決手段】実施形態の液体吐出ヘッドは、ノズルプレートと、圧力室と、アクチュエータと、駆動回路と、を備える。ノズルプレートは、液体を吐出するノズルを備える。圧力室は、前記ノズルに連通する。アクチュエータは、駆動信号に応じて前記圧力室の容積を可変する。駆動回路は、前記アクチュエータを駆動する前記駆動信号を生成する。前記駆動信号の吐出波形の後に入力されるキャンセル波形は、前記圧力室の容積を拡張させる拡張電位差、前記圧力室の容積を縮小させる縮小電位差、並びに、前記拡張電位差及び前記縮小電位差の間の少なくとも一以上の中間電位差を含む。前記駆動回路は、前記キャンセル波形の電位差の変更により生じる前記圧力室内の液体の主音響共振周波数より高い周波数領域の音響共振周波数の振動を、前記電位差変更の後に行う少なくとも1回以上の電位差変更により打ち消す。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを備えるノズルプレートと、
前記ノズルに連通する圧力室と、
駆動信号に応じて前記圧力室の容積を可変するアクチュエータと、
前記アクチュエータを駆動する前記駆動信号を生成する駆動回路と、を備え、
前記駆動信号の吐出波形の後に入力されるキャンセル波形は、前記圧力室の容積を拡張させる拡張電位差、前記圧力室の容積を縮小させる縮小電位差、並びに、前記拡張電位差及び前記縮小電位差の間の少なくとも一以上の中間電位差を含み、
前記駆動回路は、前記キャンセル波形の電位差変更により生じる前記圧力室内の液体の主音響共振周波数より高い周波数領域の音響共振周波数の振動を、前記電位差変更の後に行う少なくとも1回以上の電位差変更により打ち消す、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧力室内の液体の主音響共振周波数より高い周波数領域の音響共振周波数の周期をλnとし、前記駆動信号に含まれる電位差変更の回数をh回としたときの前記圧力室の容積の拡張又は前記圧力室の容積の縮小である電位差変更のうち、1回目からh-1回目の電位差変更の一つをi回目の電位差変更とし、i+1回目からh回目の電位差変更の一つをj回目の電位差変更としたときに、前記h回のうちいずれか2回であるi回目とj回目の電位差変更の時間間隔Tijは、
(k/2-1/6)λn≦Tij≦(k/2+1/6)λn
であり、この式におけるkは1以上の奇数である、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記時間間隔Tijは、前記キャンセル波形の終了時点から主音響振動の1周期前までの範囲内である、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記拡張電位差、前記中間電位差及び前記縮小電位差は、前記アクチュエータの電極間に入力される電位差であり、
前記駆動回路は、電極及び電圧源を接続するスイッチング回路を有し、前記拡張電位差、前記中間電位差及び前記縮小電位差を前記スイッチング回路の切り替えにより生成する請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧力室内の液体の主音響共振周波数より高い周波数領域の音響共振周波数が、前記主音響共振周波数の略3倍以上の略奇数倍である、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記アクチュエータの電極間に前記電位差が入力されることで前記圧力室の容積を変化させる、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて駆動波形の立ち上がり時間あるいは立ち下り時間を調整する事でメニスカス振動のタイミングを制御しサテライトを抑制する技術が知られていた。このような液体吐出ヘッドは、液体を吐出した後に残留振動が発生する。そこで、駆動波形後にキャンセル波形を入力することで、残留振動を抑制する技術も知られている。しかしながら、キャンセル波形においても、寄生振動が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5712710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、キャンセル波形によって発生する寄生振動を抑制する液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の液体吐出ヘッドは、ノズルプレートと、圧力室と、アクチュエータと、駆動回路と、を備える。ノズルプレートは、液体を吐出するノズルを備える。圧力室は、前記ノズルに連通する。アクチュエータは、駆動信号に応じて前記圧力室の容積を可変する。駆動回路は、前記アクチュエータを駆動する前記駆動信号を生成する。前記駆動信号の吐出波形の後に入力されるキャンセル波形は、前記圧力室の容積を拡張させる拡張電位差、前記圧力室の容積を縮小させる縮小電位差、並びに、前記拡張電位差及び前記縮小電位差の間の少なくとも一以上の中間電位差を含む。前記駆動回路は、前記キャンセル波形の電位差の変更により生じる前記圧力室内の液体の主音響共振周波数より高い周波数領域の音響共振周波数の振動を、前記電位差変更の後に行う少なくとも1回以上の電位差変更により打ち消す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成を一部省略して示す断面図。
図2】実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成を一部省略して示す断面図。
図3】実施形態に係る液体吐出ヘッドの駆動回路の構成を模式的に示すブロック図。
図4】実施形態に係る液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置の構成を示す説明図。
図5】実施形態に係る液体吐出装置の構成の一例を示すブロック図。
図6】実施形態に係る液体吐出ヘッドの吐出波形及びキャンセル波形を含む駆動波形の一例を示す説明図。
図7】実施形態に係る液体吐出ヘッドの駆動波形及び音響振動の一例を示す説明図。
図8】実施形態に係る液体吐出ヘッドの一例における、駆動波形と吐出液滴の関係を示す説明図。
図9】実施形態に係る液体吐出ヘッドの吐出液滴の一例を示す説明図。
図10】比較例に係る液体吐出ヘッドの周波数分析の一例を示す説明図。
図11】比較例に係る液体吐出ヘッドの主音響振動及び寄生振動を合成した例を示す説明図。
図12】比較例に係る液体吐出ヘッドの周波数分析の一例を示す説明図。
図13】比較例に係る液体吐出ヘッドの駆動波形及び音響振動の一例を示す説明図。
図14】比較例に係る液体吐出ヘッドの駆動波形及び音響振動の一例を示す説明図。
図15】他の実施形態の駆動波形及びキャンセル波形の一例を示す説明図。
図16】他の実施形態の駆動波形の一例を示す説明図。
図17】他の実施形態の駆動波形の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、実施形態に係る液体吐出ヘッド1及び液体吐出ヘッド1を用いた液体吐出装置100の構成を、図1乃至図5を参照して説明する。図1は、実施形態に係る液体吐出ヘッド1の構成を一部省略して示す断面図であり、図2は、液体吐出ヘッド1の構成を一部省略して示す断面図である。図3は、液体吐出ヘッド1の駆動回路70の構成を模式的に示すブロック図である。図4は、実施形態に係る液体吐出ヘッド1を用いた液体吐出装置100の構成を示す説明図であり、図5は、液体吐出装置100の構成の一例を示すブロック図である。なお、各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0008】
本実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、例えば、液体としてのインクを吐出するインクジェットヘッドである。図1及び図2に示すように、液体吐出ヘッド1は、ベース10と、アクチュエータ20と、振動板30と、流路プレート40と、複数のノズル51を有するノズルプレート50と、駆動回路70と、を備える。
【0009】
ベース10は、例えば、矩形板状に形成される。ベース10には、アクチュエータ20が接合される。
【0010】
アクチュエータ20は、例えば、複数の圧電柱21と、複数の圧電柱21と交互に配置された非駆動圧電柱22と、を備える圧電部材である。アクチュエータ20は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22が所定の間隔で一方向に並ぶことで、櫛歯状に形成される。例えば、このようなアクチュエータ20は、ベース10に接合された積層型圧電部材を、ベース10側とは反対側の端面からダイシングによって溝を加工して、1つの圧電部材に対して矩形の柱状に形成された複数の圧電素子を所定の間隔で形成する。そして、形成された複数の圧電素子は、電極等が設けられることで、圧電素子としての、交互に配置された複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22を構成する。即ち、アクチュエータ20は、形成された複数の溝により、一端側(振動板30側)が複数に分割され、他端側(ベース10側)が連結する。
【0011】
例えば、アクチュエータ20を構成する積層型圧電部材は、シート状の圧電材料を積層して焼結することで形成される。具体例として、図1及び図2に示すように、圧電柱21及び非駆動圧電柱22は、例えば駆動素子としての積層圧電体である。圧電柱21及び非駆動圧電柱22は、積層された複数の圧電体層と、各圧電体層の主面に形成される複数の内部電極と、複数の外部電極と、を備える。なお、一例としては、圧電柱21及び非駆動圧電柱22は同じ構成である。
【0012】
圧電体層は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系、または無鉛のKNN(ニオブ酸ナトリウムカリウム)系等の圧電材料から薄板状に構成される。複数の圧電体層は、厚さ方向に積層され、焼結することにより接着される。なお、ここで、複数の圧電体層の積層方向は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22の並び方向に対して直交する。
【0013】
内部電極は、銀パラジウムなどの焼成可能な導電性材料で所定形状に構成される導電膜である。内部電極は、各圧電体層の主面の所定領域に形成される。複数の内部電極は、並び方向で交互に異なる極に構成される。
【0014】
外部電極は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22の表面に形成され、内部電極の端部を集めて構成される。外部電極はメッキ法やスパッタ法など既知の方法で、Ni、Cr、Auなどにより成膜される。複数の外部電極は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22の異なる側面部にそれぞれ配置され、異なる極に構成される。なお、異なる極の外部電極は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22の同じ側面部のうち、異なる領域に取り回されていてもよい。
【0015】
本実施形態において一例として、複数の外部電極は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22のそれぞれに形成される個別電極、及び、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22に連続して形成される共通電極を有する。複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22のそれぞれに形成される複数の個別電極は、互いに独立して配置される。共通電極は、例えば、接地される。
【0016】
これら外部電極は、例えば、駆動回路70に接続される。例えば、個々の外部電極は、配線により駆動回路70の後述すドライバ723を介して、駆動部としての制御部150に接続され、プロセッサ151による制御によって駆動制御可能に構成される。
【0017】
圧電柱21及び非駆動圧電柱22は、外部電極を介して内部電極に電圧が印加されることで、圧電体層の積層方向に沿って縦振動する。ここで言う縦振動とは、例えば「圧電定数d33で定義される厚み方向の振動」である。例えば、図2に示すように、1つおきに配される複数の圧電柱21が振動板30を挟んで圧力室46に対応して配置され、残りの非駆動圧電柱22は振動板30を挟んで隔壁部42に対向する位置に配置される。
【0018】
圧電柱21は、電圧が印加されることで縦振動し、振動板30を変位させる。即ち、圧電柱21は、圧力室46を変形させる。非駆動圧電柱22は、隔壁部42に対向する位置に配置される。非駆動圧電柱22には電圧を印加しない。即ち、各圧電柱21は、駆動することで圧力室46を変形させるアクチュエータを構成し、各非駆動圧電柱22は、支柱を構成する。即ち、圧電柱21は、圧力室46を拡張及び縮小させて圧力室の容積を可変する。
【0019】
振動板30は、複数の圧電柱21、22の圧電体層の積層方向の一方側、即ち、ノズルプレート50側の面に接合される。振動板30は、例えば、圧電柱21の駆動によって変形する。振動板30は、アクチュエータ20の圧電柱21及び非駆動圧電柱22に接合される。
【0020】
振動板30は、例えば、厚さ方向が圧電体層の積層方向となるように配された平板状である。振動板30は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22の並び方向に面方向が延びる。振動板30は、例えば金属板である。振動板30は、各圧力室46に対向するとともに個別に変位可能な複数の振動部位301を有する。振動板30は、複数の振動部位301が一体に連なって形成される。
【0021】
例えば、振動板30は、1枚の平板状に構成され、圧電柱21に接合された領域がそれぞれ個別に変位する。振動板30は、例えばSUS板で構成される。振動板30は、複数の振動部位301が、変位しやすいように、振動部位301と隣接する部位あるいは互いに隣接する振動部位301間に、折り目や段差が形成されていてもよい。
【0022】
振動板30は、圧電柱21の縦振動によって生じる圧電柱21の伸長と圧縮によって、当該圧電柱21に対向配置された部位が変位することで、圧力室46を拡張及び縮小させて、圧力室46の容積を可変させる。
【0023】
振動板30は、一方側の主面がアクチュエータ20に接合され、他方側の主面が流路プレート40に接合される。振動板30と流路プレート40との間にはインクが収容可能な圧力室46が形成される。
【0024】
振動板30は、一方側の主面が圧電柱21、22にそれぞれ面し、他方側の主面が圧力室46及び隔壁部42に、それぞれ面している。
【0025】
流路プレート40は、振動板30に接合される。流路プレート40は、ノズルプレート50と振動板30との間に配される。流路プレート40は、複数の隔壁部42を有する。また、流路プレート40は、所定の流路45を形成する。流路プレート40は、例えば、一部が開口する複数のプレート401を積層することで複数の隔壁部42及び所定の流路45を形成する。
【0026】
隔壁部42は、複数の圧電柱21、22の並び方向に複数配置され、振動板30を介して非駆動圧電柱22と対向する。隔壁部42は、所定の流路45の後述する複数の圧力室46間、並びに、複数の個別流路47間を隔てる。
【0027】
所定の流路45は、流路プレート40の隔壁部42によって隔てられる複数の圧力室46と、隔壁部42によって隔てられる複数の個別流路47と、複数の個別流路47と連通する共通流路48と、を含む。
【0028】
複数の圧力室46は、複数の圧電柱21及び複数の非駆動圧電柱22の並び方向に並び、振動板30を介して複数の圧電柱21と対向する。一方向に並ぶ複数の圧力室46は、隔壁部42によって隔てられる。複数の圧力室46の間に配置される複数の隔壁部42は、振動板30を介して複数の非駆動圧電柱22と対向する。複数の圧力室46は、流路プレート40が圧電体層の積層方向において、一方側が振動板30で閉塞され、他方側がノズルプレート50で閉塞されることで形成される。また、圧力室46には、ノズルプレート50に形成されたノズル51が配置される。
【0029】
複数の圧力室46は、個別流路47を介して共通流路48に連通する。圧力室46は、共通流路48から個別流路47を経て供給される液体を保有し、圧力室46の一部を形成する振動板30の振動によって変形することで、ノズル51から液体を吐出する。個別流路47は、共通流路48及び圧力室46を接続する。個別流路47は、圧力室46と同数設けられる。個別流路47の流路断面形状は、圧力室46の流路断面形状と異なる。個別流路47の流路断面積は、圧力室46の流路断面積よりも小さい。共通流路48は、複数の個別流路47に流体的に接続され、各個別流路47を通じて圧力室46に連通する。
【0030】
ノズルプレート50は、例えばSUS・Niなどの金属やポリイミド等の樹脂材料により形成される。ノズルプレート50は、流路プレート40に接合され、複数の圧力室46を覆う。ノズルプレート50は、複数の圧力室46と対向する位置に形成され、厚さ方向に貫通する複数のノズル51を有する。複数のノズル51によりノズル列が形成される。
【0031】
図5に示すように、駆動回路70は、データバッファ721、デコーダ722、ドライバ723を備えている。データバッファ721は、印字データを圧電柱21、22毎に時系列に保存する。デコーダ722は、圧電柱21、22毎に、データバッファ721に保存された印字データに基づいて、ドライバ723を制御する。ドライバ723は、デコーダ722の制御に基づき、各圧電柱21、22を動作させる駆動信号を出力する。駆動信号は、各圧電柱21、22に印加する電圧である。
【0032】
具体例として、図1に示すように、駆動回路70は、一端が外部電極に接続される配線フィルム71と、配線フィルム71に搭載されたドライバIC72と、配線フィルム71の他端に実装されたプリント配線基板と、を備える。例えば、ドライバIC72は、データバッファ721、デコーダ722、ドライバ723を有する。なお、データバッファ721、デコーダ722、ドライバ723の一部をドライバIC72が有し、残りの一部をプリント配線基板等が有する構成であってもよい。
【0033】
駆動回路70は、ドライバIC72により駆動電圧を外部電極に印加することで、圧電柱21を駆動し、圧力室46の容積を可変させて、ノズル51から液滴を吐出させる。
【0034】
配線フィルム71は、複数の個別電極及び共通電極に接続される。例えば、配線フィルム71は、外部電極の接続部に熱圧着等により固定されるACF(異方導電性フィルム)である。配線フィルム71は、例えば、ドライバIC72が実装されたCOF(Chip on Film)である。
【0035】
ドライバIC72は、配線フィルム71を介して外部電極に接続される。なお、ドライバIC72は、配線フィルム71ではなく、ACP(異方導電ペースト)、NCF(非導電性フィルム)、及びNCP(非導電性ペースト)のような他の手段によって、外部電極に接続されても良い。
【0036】
ドライバIC72は、各圧電柱21、22に印加し、圧電柱21を動作させるための制御信号及び駆動信号を生成する。ドライバIC72は、液体吐出装置100の制御部150から入力された画像信号に従い、インクを吐出させるタイミング及びインクを吐出させる圧電柱21を選択するなどの制御のための制御信号を生成する。また、ドライバIC72は、制御信号に従って圧電柱21に印加する電圧、すなわち駆動信号(電気信号)を生成する。ドライバIC72が圧電柱21に駆動信号を印加すると、圧電柱21は、振動板30を変位させて圧力室46の容積が拡張及び縮小するように可変させて駆動する。これにより、圧力室46に充填されたインクは、圧力振動を生じる。圧力振動により、圧力室46に設けられたノズル51からインクが吐出する。なお、液体吐出ヘッド1は、1画素に着弾するインク滴の量を変更することで階調表現を実現できるようにしてもよい。また、液体吐出ヘッド1は、インクの吐出回数を変えることで、1画素に着弾するインク滴の量を変更できるようにしてもよい。このように、ドライバIC72は、駆動信号を圧電柱21に印加する印加部の一例である。
【0037】
次に、図3に示すように、駆動回路70の一例を説明する。駆動回路70は、例えば、ドライバIC72内に、電圧制御部724と、圧力室46と同数の電圧切替え部725と、を備える。ただし、図3においては、二つの電圧切替え部725を図示し、他の電圧切替え部725の図示を省略する。
【0038】
駆動回路70は、第1電圧源81と第2電圧源82と第3電圧源83とに接続される。駆動回路70は、第1電圧源81から供給された電圧を各配線電極726に与える。また、駆動回路70は、第1電圧源81、第2電圧源82及び第3電圧源83から供給された電圧を、選択的に各配線電極727に与える。ここで、アクチュエータ20が積層型PZTである場合に、両極性の電圧をかけると劣化する傾向があることから、第1電圧源81、第2電圧源82及び第3電圧源83で供給される電圧は、グランド電圧及びグランド電圧に対してプラス及びマイナスの一方の極性とする。
【0039】
第1電圧源81の出力電圧は、例えば、グランド電圧であり、その電圧値はV0(V0=0[V])とする。また、第2電圧源82の出力電圧が示す電圧値は、V1とする。なお、電圧値V1は、V0よりも高い電圧とする。第3電圧源83の出力電圧が示す電圧値は、例えば、V2とする。例えば、電圧値V2は、V0よりも高く、V1よりも低い電圧とする。
【0040】
配線電極726は、アクチュエータ20のアース電極としての共通電極に接続される。複数の配線電極727は、アクチュエータ20の非アース電極としての個別電極にそれぞれ接続される。
【0041】
電圧制御部724は、複数の電圧切替え部725のそれぞれと接続されている。電圧制御部724は、第1電圧源81、第2電圧源82及び第3電圧源83のうちどの電圧源を選択するかを示す命令を各電圧切替え部725に出力する。例えば、電圧制御部724は、制御部150から画像信号を受信し、各電圧切替え部725における電圧源の切替えタイミングを決定する。そして、電圧制御部724は、決定した切換えタイミングで、電圧切替え部725に対し、第1電圧源81、第2電圧源82及び第3電圧源83の何れかを選択する命令を出力する。電圧切替え部725は、電圧制御部724からの命令に従って、配線電極727と接続する電圧源を切替える。
【0042】
電圧切替え部725は、例えば、半導体スイッチにより構成される。電圧切替え部725は、電圧制御部724の制御により、第1電圧源81、第2電圧源82及び第3電圧源83の何れかと配線電極727とを接続する。したがって、圧電柱21の異なる極の内部電極は、外部電極(共通電極及び個別電極)を介して、配線電極726及び配線電極727と接続する。
【0043】
このような駆動回路70は、駆動回路は電圧源81、82、83とアクチュエータ20との接続配線を、電圧制御部724及び複数の電圧切替え部725により構成されるスイッチング回路で切り替えることで、駆動信号として、少なくとも3種の電位差をもつ駆動波形をアクチュエータ20の電極間に入力する。ここで、駆動波形は、アクチュエータ20が駆動することで液滴を吐出する吐出波形と、吐出波形の入力によって駆動した圧力室46に生じる残留波形を打ち消すキャンセル波形である。なお、本実施形態において、最も大きい電位差と最も小さい電位差以外の電位差を中間電位差と呼ぶ。
【0044】
プリント配線基板は、各種電子部品やコネクタが搭載されたPWA(Printing Wiring Assembly)である。プリント配線基板は、液体吐出装置100の制御部150に接続される。
【0045】
次に、液体吐出ヘッド1を備える液体吐出装置100の一例について、図4及び図5を参照して説明する。液体吐出装置100は、例えば、インクジェット記録装置である。液体吐出装置100は、筐体111と、媒体供給部112と、画像形成部113と、媒体排出部114と、搬送装置115と、を備える。また、液体吐出装置100は、制御部150を備える。
【0046】
液体吐出装置100は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る所定の搬送路Aに沿って、吐出対象物である印刷媒体として例えば用紙Pを搬送しながらインク等の液体を吐出することで、用紙Pに画像形成処理を行う液体吐出装置である。
【0047】
筐体111は、液体吐出装置100の外郭を構成する。筐体111の所定箇所に、用紙Pを外部に排出する排出口を備える。
【0048】
媒体供給部112は複数の給紙カセットを備え、各種サイズの用紙Pを複数枚積層して保持可能に構成される。
【0049】
媒体排出部114は、排出口から排出される用紙Pを保持可能に構成された排紙トレイを備える。
【0050】
画像形成部113は、用紙Pを支持する支持部117と、支持部117の上方に対向配置された複数のヘッドユニット130と、を備える。
【0051】
支持部117は、画像形成を行う所定領域にループ状に備えられる搬送ベルト118と、搬送ベルト118を裏側から支持する支持プレート119と、搬送ベルト118の裏側に備えられた複数のベルトローラ120と、を備える。
【0052】
支持部117は、画像形成の際に、搬送ベルト118の上面である保持面に用紙Pを支持するとともに、ベルトローラ120の回転によって所定のタイミングで搬送ベルト118を送ることにより、用紙Pを下流側へ搬送する。
【0053】
ヘッドユニット130は、液体吐出ヘッド1と、液体吐出ヘッド1上にそれぞれ搭載された液体タンクとしての複数のインクタンク132と、液体吐出ヘッド1とインクタンク132とを接続する接続流路133と、供給ポンプ134と、を備える。
【0054】
本実施形態において、ヘッドユニット130は、複数設けられる。各ヘッドユニット130は、異なる色のインクが用いられる。例えば、複数のヘッドユニット130として、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色の液体吐出ヘッド1と、これらの各色のインクをそれぞれ収容するインクタンク132を備える。インクタンク132は接続流路133によって液体吐出ヘッド1の共通流路48に接続される。
【0055】
また、インクタンク132には、図示しないポンプなどの負圧制御装置が連結される。そして、液体吐出ヘッド1とインクタンク132との水頭値に対応して、負圧制御装置によりインクタンク132内を負圧制御することで、液体吐出ヘッド1の各ノズル51に供給されたインクを所定形状のメニスカスに形成させている。
【0056】
供給ポンプ134は、例えば圧電ポンプで構成される送液ポンプである。供給ポンプ134は、供給流路に設けられている。供給ポンプ134は、配線により制御部150に接続され、制御部150によって制御される。供給ポンプ134は、液体吐出ヘッド1に液体を供給する。
【0057】
搬送装置115は、媒体供給部112から画像形成部113を通って媒体排出部114に至る搬送路Aに沿って、用紙Pを搬送する。搬送装置115は、搬送路Aに沿って配置される複数のガイドプレート対121と、複数の搬送用ローラ122と、を備えている。
【0058】
複数のガイドプレート対121は、それぞれ、搬送される用紙Pを挟んで対向配置される一対のプレート部材を備え、用紙Pを搬送路Aに沿って案内する。
【0059】
搬送用ローラ122は、制御部150の制御によって駆動されて回転することで、用紙Pを搬送路Aに沿って下流側に送る。なお、搬送路Aには用紙の搬送状況を検出するセンサが各所に配置される。
【0060】
制御部150は、例えば、制御基板である。制御部150は、プロセッサ151、ROM(Read Only Memory)152、RAM(Random Access Memory)153、入出力ポートであるI/Oポート154、画像メモリ155を搭載している。
【0061】
プロセッサ151は、コントローラであるCPU(Central Processing Unit)等の処理回路である。プロセッサ151は、I/Oポート154を通して、液体吐出装置100に設けられるヘッドユニット130、駆動モータ161、操作部162、及び各種センサ163等を制御する。プロセッサ151は、画像メモリ155に保存した印字データを描画順に駆動回路70に送信する。
【0062】
ROM152は、各種のプログラムなどを記憶する。RAM153は、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶する。なお、ROM152及びRAM153は、記憶媒体としての一例であり、各種プログラムやデータ等を記憶可能であれば、他の記憶媒体であってもよい。I/Oポート154は、外部接続機器200等の外部からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部である。外部接続機器200からの印字データは、I/Oポート154を通じて制御部150へ送信され、画像メモリ155に保存される。
【0063】
以下、実施形態に係る液体吐出装置100に用いられる液体吐出ヘッド1の特性及び液体吐出ヘッド1の駆動波形として、駆動信号の吐出波形及びキャンセル波形について説明する。
【0064】
先ず、本実施形態の液体吐出ヘッド1の駆動波形について、図6乃至図14を用いて説明する。なお、図6は、液体吐出ヘッドの吐出波形及びキャンセル波形を含む駆動波形の一例を示す説明図である。図7は、実施形態に係る液体吐出ヘッド1の駆動波形及び音響振動の一例を示す説明図であり、図8は、液体吐出ヘッド1の一例における、駆動波形と吐出液滴の関係を示す説明図であり、図9は、液体吐出ヘッド1の吐出液滴の一例を示す説明図である。図10乃至図14は、比較例として従来の液体吐出ヘッドの説明を行う図面であり、図10は、比較例に係る液体吐出ヘッドの圧力振動の周波数分析の一例を示す説明図であり、図11は、図10の主音響振動及び寄生振動を合成した例を示す説明図である。図12は、比較例に係る液体吐出ヘッドの周波数分析の一例を示す説明図であり、図13は比較例に係る液体吐出ヘッドの駆動波形及び音響振動の一例を示す説明図であり、図14は、比較例に係る液体吐出ヘッドの駆動波形及び音響振動の一例を示す説明図である。
【0065】
先ず、従来技術の液体吐出ヘッドは、圧力室の主音響振動の半周期ALに合わせて圧電柱21を駆動することで、吐出力を高める、所謂引き打ちと呼ばれる駆動方法がある。しかし、図10のノズル部圧力振動の周波数分析の例に示すように、液体吐出ヘッド(アクチュエータ)を駆動し、ノズルから液滴を吐出させた場合には、圧力室には、インクの流体的な振動による主音響振動の他に、主音響振動よりも高い周波数領域で寄生振動が生じる場合がある。
【0066】
アクチュエータを駆動してノズルから液滴の吐出を行うときに、主音響振動より高い周波数の寄生振動が生じた場合、図11に示すように、圧力室の圧力は主音響振動の半周期と比べより短い周期の圧力ピークが生じる。即ち、主音響振動及び寄生振動を合成した合成波は、振動初期が鋭くなる。短い周期の圧力ピークは、吐出液滴の先端部分の吐出速度を上昇させる一方、吐出の最後まで持続せず吐出液滴の後端部分の吐出速度を低下させる。すると、図9の上図(a)に示すように、液滴が吐出されたときに、先端液滴に対するサテライトの体積を大きくし、印字品質の悪化を招く。ここで、サテライトとは、圧電柱21を駆動し、圧力室が変形することでノズルから液体が吐出されるときに、最初に吐出される液滴(先端液滴)に追従して、先端液滴と間を空けて吐出される液滴である。
【0067】
また、例えば、本実施形態の液体吐出ヘッド1と同様の従来技術の液体吐出ヘッドにおいては、図12の周波数分析に示すように、主音響振動に加えて、約3倍(例えば、2.8倍)の寄生振動が生じる。ここで、液体吐出ヘッドの圧力室に主音響振動より高い周波数の寄生振動が生じる原因としては、以下のものが考えられる。
【0068】
原因の一例は、閉管の液柱振動における3以上の奇数倍振動であり、このような液体吐出ヘッドの例は、図12に示すように、実施形態の液体吐出ヘッド1と同様に、共通流路との接続点を開口端とするエンドシューターである。
【0069】
原因の他の例は、開管の液柱振動における2以上の整数倍振動であり、このような液体吐出ヘッドの例は、図13に示すように、共通流路との接続点を開口端とするサイドシューターである。なお、開管の主音響振動では開管の中心部で最も圧力振動の振幅が大きくなるため、開管の中心部付近にノズルが設けられる。図13に示すように、開管の液柱振動における2以上の偶数倍振動が発生した場合、開管の中心部は圧力振動の振幅が小さい振動の節となるため、開管の中心部付近にノズルが設けられた場合は吐出される液滴の形状は2以上の偶数倍振動の影響を受けにくい。このため、開管の中心部付近にノズルが設けられた場合は、2以上の偶数倍振動よりも3以上の奇数倍振動の方が、サテライトの体積を大きくし印字品質を悪化させる要因になりやすい。
【0070】
原因の他の例は、圧力室と個別流路との流路断面が異なる場合に、各流路の音速が変わり圧力振動の反射を要因とした振動である。
【0071】
また、原因の他の例は、圧力室と比べ個別流路の壁面又は壁面の一部の剛性が小さい場合に、圧力室で発生した圧力が剛性の小さい流路で減圧し圧力室と剛性の小さい流路の間に圧力振動の節が生じること要因とした振動である。これは、例えば、図1に二点鎖線で示すPZT等のアクチュエータ(圧電柱21)の設置範囲が、図1中実線で示すアクチュエータ(圧電柱21)のように、圧力室の壁面の振動板の範囲に対し製造誤差等で偏り、圧力室壁面のうち振動板のみでアクチュエータの支えのない範囲の面積が比較的大きい場合等である。なお、図1の圧力室の右上の振動板のみでアクチュエータの支えのない範囲が、圧力室長手方向長さ(図1の圧力室46の横幅)の3割弱ほどの範囲とした場合のヘッドについて、PZTや圧力室の変形を構造解析し流路の液体挙動を圧縮性流体解析し、ノズルからの液滴吐出を流体表面解析するシミュレーションを実施した際のノズル部圧力振動の周波数分析の結果が、図10図12に示すグラフである。
【0072】
そして、図14に示すように、吐出波形の矩形波幅ULをALとした場合、吐出前のあらかじめの圧力室拡張(立上波形)により生じる3倍高調波振動AIと吐出時の圧力室縮小(立下波形)により液柱振動の3倍高調波振動AIIが強め合うため、3倍高調波振動により短い周期の圧力ピークが生じ、印字品質の悪化を招く。
【0073】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッド1の駆動及び駆動波形の一例を説明する。本実施形態の例では、液体吐出ヘッド1の圧力室46の圧力振動を、閉管の液柱振動に見立て、圧力室46内の液体の主音響共振周波数(主音響振動)より高い周波数領域の音響共振周波数(寄生振動)が、前記主音響共振周波数の略3倍以上の略奇数倍である3倍高調波振動を抑制する駆動波形とする。ここで、略3倍には、図10に示すように、2.8倍が含まれる。
【0074】
先ず、液体吐出ヘッド1は、最も電位差が大きい場合に、アクチュエータ20の圧電柱21により圧力室46が最も大きく拡張され、最も電位差が小さい場合に、アクチュエータ20の圧電柱21によりインクの圧力室が最も小さく縮小する。そして、液体吐出ヘッド1でインクを吐出する場合、吐出前に圧力室46をあらかじめ拡張し、吐出時点で圧力室46を縮小することでインクの吐出を行う。本実施形態の例では、液体吐出ヘッド1の駆動波形の吐出波形は、吐出前のあらかじめの圧力室46の拡張時に中間電位差を含む電位差(拡張電位差)を複数回として2回連続で大きくするか、又は、吐出時の圧力室46の縮小時に中間電位差を含む電位差(縮小電位差)を複数回として2回連続で小さくする。より好適には、吐出波形は、圧力室46の拡張時と縮小時の双方で電位差を2回連続変化させる。
【0075】
また、液体吐出ヘッド1でインクを吐出するために吐出波形を入力した後においては、キャンセル波形を入力し、インクの吐出後に生じる残留振動を打ち消す。本実施形態の例では、液体吐出ヘッド1の駆動波形のキャンセル波形は、キャンセル波形の波形幅(キャンセル幅)CpをALより小さくし、圧力室46の拡張時に中間電位差を含む電位差(拡張電位差)を複数回として2回連続で大きくし、圧力室46の縮小時に中間電位差を含む電位差(縮小電位差)を複数回として2回連続で小さくする。より好適には、キャンセル波形は、吐出波形と同様に、圧力室46の拡張時と縮小時の双方で電位差を2回連続変化させる。
【0076】
図6及び図7に、液体吐出ヘッド1のインクを吐出するときの駆動波形の例を示す。図6及び図7中、縦軸は電圧(電位差)であり、横軸は時間である。なお、駆動波形は、駆動回路70のドライバIC72により生成される。図6に示すように、駆動波形は、吐出波形及びキャンセル波形の双方において、圧力室46の拡張時に拡張電位差を2回に分けて大きくし、そして、吐出時の圧力室46の縮小時に縮小電位差を2回に分けて小さくする。また、圧力室46の拡張時及び縮小時ともに、電位差を変えるときに、1回目の電位差を印加した後、所定の時間だけ1回目の電位差を維持し、その後、2回目の電位差を印加する。尚、電圧(電位差)を小さくした場合に圧力室が拡張する場合、吐出波形入力前に事前に圧力室を縮小させておくために電圧(電位差)を大きくしておく。次に吐出波形入力により電圧(電位差)を2回に分けて小さくする事で圧力室を2回に分けて拡張し、そして、吐出時の圧力室46の縮小時に電圧(電位差)を2回に分けて大きくし圧力室を縮小する事になる。
【0077】
先ず、吐出波形の例について、図7を用いて具体的に説明する。図7に示すように、インクの吐出前にあらかじめ圧力室46の拡張を行うときに、電位差を2回連続で大きくする場合の1回目の拡張電位差による拡大開始時点から、拡張電位差を2回連続大きくした後に1回目の縮小電位差による縮小開始時点までの時間間隔をULとする。また、図7に示すように、吐出時の圧力室46の縮小をおこなうときに、電位差を小さくする前の2回連続で大きくする場合の二回目の拡張電位差による拡大開始時点から、拡張電位差を2回連続大きくした後に縮小電位差を2回連続小さくする場合の二回目の縮小電位差による縮小開始時点までの時間間隔をULとする。なお、図6及び以下の説明において、電位差を2回連続で大きくする場合の1回目の拡張電位差による拡大開始時点から、拡張電位差を2回連続大きくした後に1回目の縮小電位差による縮小開始時点までの時間間隔ULをDpとして、以下説明する場合もある。
【0078】
即ち、図7に示すように、圧力室46を変形させてノズル51からインクを吐出する駆動波形は、圧力室46の拡張時と縮小時の双方で電位差を2回連続変化させる。また、駆動波形は、圧力室46の拡張時に1回目に電位差を大きくする時点から圧力室46の縮小時に1回目に電位差を小さくする時点までの時間間隔、並びに、圧力室46の拡張時に2回連続して電位差を大きくする二回目の拡大開始時点から圧力室46の縮小時に2回連続して電位差を小さくする二回目の縮小開始時点との時間間隔をULとする。そして、時間間隔ULは、0.5ALより大きく、且つ、1.5AL未満である。より好適には、UL=ALである。これは、ULを0.5ALより大きく1.5AL未満にすれば、吐出前にあらかじめの圧力室46を拡張することで発生した主音響振動と、吐出時の圧力室46を縮小することにより発生した主音響振動とによる強め合いが生じるためである。
【0079】
ここで、駆動波形は、3倍高調波等の寄生振動の周期をλnとし、電位差を2回連続大きくする場合あるいは電位差を2回連続小さくする場合の1回目の電位差変更開始時間と2回目の電位差変更開始時間の時間間隔をTmとした場合に、Tm=λn/2とする。このような駆動波形で圧電柱21(アクチュエータ)を駆動すると、図7に示すように、1回目の電位差変更時に発生する寄生振動と2回目の電位差変更時に発生する寄生振動の位相差が180度となり打ち消し合う。これにより3倍高調波等の寄生振動による印字品質の悪化を抑制できる。
【0080】
より好適には、駆動波形は、図7に示すように、1回目の電位差変更の電位差変化量と2回目の電位差変更の電位差変化量を同じにすることで、圧力室46での振幅がほぼ同じで位相差が180度異なる寄生振動同士が打ち消し合い、その後の寄生振動由来の残留振動を大幅に抑制できる。
【0081】
このように、電位差を2回連続大きくする場合あるいは電位差を2回連続小さくする場合の吐出波形(駆動波形)の時間間隔ULをALとし、時間間隔Tmをλn/2とする場合、図7に示すように、1回目の電位差変更時の圧力室縮小(立下波形)により発生する寄生振動(3倍高調波振動AI)と2回目の電位差変更時の圧力室縮小(立下波形)により発生する寄生振動(3倍高調波振動AII)の位相差が180度となり打ち消し合う。尚、電位差を2回連続大きくする事で圧力室を2回連続拡大する場合の時間間隔Tmもλn/2とする事で、同様に1回目の電位差変更時の圧力室拡大(立上波形)により発生する寄生振動(3倍高調波振動AI)と2回目の電位差変更時の圧力室拡大(立上波形)により発生する寄生振動(3倍高調波振動AII)の位相差が180度となり打ち消し合う。またULをALとすることで、吐出前のあらかじめの圧力室拡張(立上波形)により生じる主音響振動と吐出時の圧力室縮小(立下波形)により生じる主音響振動が強め合い主音響振動による吐出力が高まる。尚、電圧(電位差)を小さくした場合に圧力室が拡張する場合、吐出波形入力前に事前に圧力室を縮小させておくために電圧(電位差)を大きくしておく。次に吐出波形入力により電圧(電位差)を2回に分けて小さくする事で圧力室を2回に分けて拡張し、そして、吐出時の圧力室46の縮小時に電圧(電位差)を2回に分けて大きくし圧力室を縮小することになる。
【0082】
ここで、駆動波形において、周期λnの寄生振動が弱め合うTmの条件について説明する。先ず、1回目の電位差変更時に発生した周期λnの振動をAとし、Aの時間Tm後の振動ベクトルをA’とする。Tm後に2回目の電位差変更時に発生した周期λnの振動ベクトルをBとする。Tmがλn/2の奇数倍(A’とBの位相差が180度)の時にA’とBの合成ベクトルの絶対値は最小となる。周期λnの単振動の合成の式からA’とBの合成ベクトルの絶対値がA’とBの絶対値の大きい方以下(A’の絶対値とBの絶対値が同値の場合は、それ以下)となる条件を求めると、振動ベクトルA’とBの位相差が180度±60度以内となる。
【0083】
A’とBの合成ベクトルの絶対値は以下の式に変形できる。ここで、θAはA’の位相、θBはBの位相とすると、A’とBの合成ベクトルの絶対値は、
√(|A’|^2+|B|^2+2*|A’|*|B|*cos(θA-θB))・・・(数式1)
となる。ここで|A’|≦|B|とすると|B|≧数式1が成立するA’とBの位相差(θA-θB)が周期λnの振動が弱め合う条件となる。|B|≧数式1を両辺2乗して変形すると、
0≧|A’|+2*|B|*cos(θA-θB)・・・(数式2)
となる。以上から、A’とBの位相差(θA-θB)が180度±60度の範囲内であれば数式2が成立する。
【0084】
また、|B|≦|A’|の場合、|A’|≧数式1を両辺2乗して変形すると、
0≧|B|+2*|A’|*cos(θA-θB)・・・(数式3)
となる。以上から、A’とBの位相差(θA-θB)が180度±60度の範囲内であれば数式3が成立する。
【0085】
これらから、周期λnの寄生振動が弱め合う条件は、
(k/2-1/6)λn ≦ Tm ≦ (k/2+1/6)λn・・・(数式4)
となる。ここで、kは1以上の奇数である。
【0086】
また、圧力室46の拡張時と縮小時の双方で電位差を2回連続変化させる場合は、駆動波形のTmは、圧力室拡張時の中間電位差保持時間と圧力室縮小時の中間電位差保持時間を双方ともに、(k/2-1/6)λn ≦ Tm ≦ (k/2+1/6)λn(kは1以上の奇数)とすることが好ましい。
【0087】
また、該当中間電位差のひとつ前の電位差からの変化時と次の電位差への変化時に発生する主音響振動を強め合う様にし、消費電力を低減する観点では、Tmは短い方が望ましい。
【0088】
以上の点から消費電力の低減も考慮する場合、駆動波形のTmは、
(k/2-1/6)λn≦Tm≦kλn/2・・・(数式5)
となる。ここで、kは1以上の奇数である。
【0089】
次に、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1の駆動波形の評価として、図8に、2AL=5.24μsの液体吐出ヘッド1を各種波形で駆動し、インクを1drop吐出した場合の結果を示す。なお、図8中の各種波形のすべての結果で先頭滴速度が略8m/sとなるように電圧を調整した。
【0090】
図8中で一番上の駆動波形は、比較例として、立ち上がり時間trが0.2μsの図14に示すような台形状の駆動波形で、それ以外は図7に示したような、2回電位差変更を行う駆動波形とし、Tmをそれぞれ異ならせ、立ち上がり時間はすべて0.2μsとした。また吐出電圧は、拡張電位差と縮小電位差の差を示している。なお、中間電位差は、拡張電位差と縮小電位差の中間値としている。
【0091】
実施形態の液体吐出ヘッド1及び比較例の液体吐出ヘッドは、図12の周波数分析で示す通り、主音響振動のほかに略3倍の寄生振動が生じる。寄生振動の周期λnは1.85μsでありλn/2は0.925μsとなる。
【0092】
また、図9に、インクを1dropしたときの、吐出液滴の状態をシミュレーションした結果を示す。図9中、上の図(a)は、比較例のtr=0.2μsとした台形状の駆動波形による吐出液滴を示す例であり、中央の図(b)は、実施形態のTm=0.62μsとした2回電位差変更を行う駆動波形による吐出液滴を示す例であり、下の図(c)は、実施形態のTm=0.93μsとした2回電位差変更を行う駆動波形による吐出液滴を示す例である。
【0093】
図8及び図9の下図(c)に示すように、寄生振動の半周期にもっとも近いTm=0.93μsの波形は全吐出体積に対する先頭滴体積の割合が最も大きく、図8及び図9の中央図(b)に示すように、Tmが0.925μsから乖離するほど先頭滴体積の割合が低くなる傾向が見て取れる。またTmが小さいほど単位体積当たりの吐出電圧(吐出電圧/全吐出体積)が低くなる傾向がわかる。これらの結果からも、実施形態の液体吐出ヘッド1の駆動波形によれば、消費電力を抑えつつ主音響振動より高い周波数の振動を抑制できる。
【0094】
次に、キャンセル波形の例について、図6を用いて具体的に説明する。なお、説明の便宜上、図6において、吐出波形における電位差変更の1回目~4回目を(1)~(4)とし、キャンセル波形における電位差変更の1回目~4回目を(11)~(14)として、以下説明する。また、吐出波形の位相の基準点を(0)とし、キャンセル波形の位相の基準点を(0’)として、以下説明する。なお、ここで、吐出波形の位相の基準点(0)は、電位差変更の(2)及び(3)の中間とし、キャンセル波形の位相の基準点(0’)は、電位差変更の(12)及び(13)の中間とする。また、図6の例において、電圧降下時間tfは、電圧上昇時間trと略同一とする。
【0095】
先ず、吐出波形の主音響振動について示す。吐出波形において、電位差変更が行われ(1)に示すように圧力室46の拡張のための中間電圧が入力されると、(1)の電位差で圧力室46は拡張し、圧力室46内が減圧する。これにより生じる振動は、-π+(Dp+Tm)/2だけ位相が進んだ振動となる。さらに、(2)に示す電位差変更が行われると、(2)においては-π+(Dp-Tm)/2だけ位相が進んだ振動となる。(1)と(2)の合成波は-π+Dp/2だけ位相が進んだ振動となる。
【0096】
圧力室46の縮小のための電位差変更である(3)と(4)は、拡張のための電位差変更である(1)や(2)とは電位差が逆の変化をしており、圧力室46は縮小し、圧力室46内を加圧する。このため、(3)は-(Dp-Tm)/2だけ位相が進んだ振動となる。また、(4)は-(Dp+Tm)/2だけ位相が進んだ振動と考えることがきできる。このため、(3)と(4)の合成波は-Dp/2だけ位相が進んだ振動となる。
【0097】
ここで(0)時点における(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波を仮定すると(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波は-π/2だけ位相が進んだ振動となる。
【0098】
次に、キャンセル波形の主音響振動について示す。キャンセル波形において、電位差変更が行われ、(11)に示すように圧力室46の拡張のための中間電圧が入力されると、(11)の電位差で圧力室46は拡張し、圧力室46内が減圧するため、キャンセル幅をCpとすると、-π+(Cp+Tm)/2だけ位相が進んだ振動となる。さらに、(12)に示す電位差変更が行われると、(12)においては、-π+(Cp-Tm)/2だけ位相が進んだ振動と考えることがきできる。
【0099】
圧力室46の縮小のための電位差変更である(13)と(14)は、拡張のための電位差変更である(11)や(12)とは電位差が逆の変化をしており、圧力室46は縮小し、圧力室46内を加圧する。このため、(13)は-(Cp-Tm)/2だけ位相が進んだ振動となる。また、(14)は、-(Cp+Tm)/2だけ位相が進んだ振動となる。このため、(13)と(14)の合成波は-Cp/2だけ位相が進んだ振動となる。
【0100】
ここで(0’)時点における(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波を仮定すると、(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波は-π/2だけ位相が進んだ振動となる。
【0101】
このため、(0)と(0’)の時間差(時間間隔)をπ/2(AL)の奇数倍にすると(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波と(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波は位相が逆となり弱め合う。さらに(11)と(13)の時間幅Cpを小さくする事で(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波(キャンセル波形)の振幅を調整でき、(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波による残留振動を(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波で打ち消す事ができる。
【0102】
以上から(0)と(0’)の時間差を1ALとすることで(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波による残留振動を打ち消す事が可能だが、(0)と(0’)の時間差を1ALとした場合、吐出波形の入力による液滴吐出中に残留振動を打ち消す事になり、液滴の吐出力を弱めてしまうため、吐出波形の位相の基準点(0)とキャンセル波形の位相の基準点(0’)との時間差は3AL以上のALの奇数倍に設定することが望ましい。
【0103】
また、圧力室を減圧する(11)、(12)の時間間隔がTmとなっており、圧力室46を加圧する(13)、(14)の時間間隔もTmとなっているためTmを寄生振動の周期λnの半分とすれば、(11)と(12)の寄生振動が打ち消し合い、(13)と(14)の寄生振動も打ち消し合う。
【0104】
以上のように、キャンセル波形を吐出波形に対し中間値電圧保持時間Tmが寄生振動の周期λnの半分となるCp幅のキャンセル波形に設定することで、キャンセル波形は、吐出波形による主音響振動の残留振動、及び、キャンセル波形により生じる寄生振動の両方を抑制することができる。これにより、キャンセル波形を入力した後に入力される次の吐出波形により吐出される液滴が主音響振動による残留振動や寄生振動の影響を受けることを低減できる。
【0105】
なお、キャンセル波形は、吐出波形のグランド電圧に対して吐出波形とは異なる極性である、例えばマイナスの極性における電位差変更であってもよい。例えば、図15に、他の実施形態として、マイナスの電位差変更のキャンセル波形の例を示す。図15に示す例では、(11)、(12)においてマイナスの電位差変更で圧力室が収縮し、(13)、(14)の電位差変更で圧力室がもとに戻るキャンセル波形である。このようなキャンセル波形は、(12)から(13)までの電位が駆動波形の中で最も低い電位となるためこれらをグランド電圧とし、他の電位はグランド電圧より高い電位を持つものとする。また、図15の例においては、吐出波形及びキャンセル波形において、グランド電圧より高い電位を有する電位差が4つある。このため、このようなキャンセル波形を用いる場合には、例えば、駆動回路70は、第1電圧源81乃至第3電圧源83に加え、第4電圧源、第5電圧源に接続され、電圧制御部724の制御により、第1電圧源81、第2電圧源82、第3電圧源83、第4電圧源及び第5電圧源の何れかと配線電極727とを接続する構成としてもよい。
【0106】
尚、電圧(電位差)を小さくした場合に圧力室が拡張する場合、吐出波形入力前に事前に圧力室を縮小させておくために電圧(電位差)を大きくしておく。次に吐出波形入力により電圧(電位差)を2回に分けて小さくする事で圧力室を2回に分けて拡張し、そして、吐出時の圧力室46の縮小時に電圧(電位差)を2回に分けて大きくし圧力室を縮小する事になる。キャンセル波形は、電圧(電位差)を2回に分けて大きくする事で圧力室を2回に分けて縮小し、その後、圧力室46の拡大時に電圧(電位差)を2回に分けて小さくし圧力室を拡大する事になる。この場合、吐出波形で圧力室拡張のため電圧(電位差)を2回に分けて小さくした後から圧力室縮小を開始する直前までの電位が駆動波形の中で最も低い電位となるためこれらをグランド電圧とし、他の電位はグランド電圧より高い電位を持つものとする。
【0107】
図15の例のキャンセル波形においても、キャンセル波形の(12)と(13)との間の位相の基準点を(0’)として、主音響振動について以下説明する。(0’)時点における(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波を仮定すると、図6の例のキャンセル波形とは符号が逆となり、(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波はπ/2だけ位相が進んだ振動となる。
【0108】
このため、(0)と(0’)との時間差をπ/2(AL)の偶数倍、例えば2ALにすると(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波と(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波は位相が逆となり弱め合う。さらに(11)と(13)との時間幅Cpを小さくする事で(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波(キャンセル波形)の振幅を調整でき、(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波による残留振動を(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波で打ち消す事ができる。また、圧力室を減圧する(13)、(14)の時間間隔がTmであり、圧力室を加圧する(11)、(12)の時間間隔もTmであるため、Tmを寄生振動の周期λnの半分とすれば、(13)と(14)との寄生振動が打ち消し合い、(11)と(12)との寄生振動も打ち消し合う。
【0109】
次に、キャンセル波形において、周期λnの寄生振動が弱め合うTmの条件について説明する。先ず、1回目の電位差変更時に(11)の波形で発生した周期λnの振動をA11とし、A11の時間Tm後の振動ベクトルをA11’とする。Tm後に2回目の電位差変更時に(12)の波形で発生した周期λnの振動ベクトルをA12とする。(11)の波形と(12)の波形は、図6ではともに立上げ波形のため、Tmがλn/2の奇数倍(A11’とA12の位相差が180度)の時にA11’とA12の合成ベクトルの絶対値は最小となる。周期λnの単振動の合成の式からA11’とA12の合成ベクトルの絶対値がA11’とA12の絶対値の大きい方より小さくなる条件を求めると、振動ベクトルA11’とA12の位相差が180度±60度以内となる。
【0110】
このため、周期λnの振動が弱め合う条件は
(k/2-1/6)λn≦Tm≦(k/2+1/6)λn・・・(数式6)
となる。ここで、kは1以上の奇数である。
【0111】
Tmを上記条件で設定することで、キャンセル波形後の次の吐出液滴が寄生振動による残留振動の影響を受けることを低減できる。図6の(13)、(14)の立下げ波形、図15の(11)、(12)の立下げ波形、図15の(13)、(14)の立上げ波形でも周期λnの振動が弱め合う条件は上記と同様となる。
【0112】
なお、主音響振動については吐出波形の残留振動をキャンセル波形で打ち消す際に(0)と(0’)との時間間隔を、図6の例では3ALとしているが、キャンセル波形((11)、(12)、(13)及び(14))が吐出波形((1)、(2)、(3)及び(4))と同様に最初に減圧、のちに加圧する場合、(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波と(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波について周期2ALの振動が弱め合う条件を単振動の合成の式から周期λnの場合と同様に求めると、
(kkkk/2-1/6)2AL≦(0)と(0’)との時間間隔≦(kkkk/2+1/6)2AL
となり、ここでのkkkkは1以上の奇数となる。
【0113】
また、図15の例では、(0)と(0’)との時間間隔を2ALとしているが、キャンセル波形((11)、(12)、(13)及び(14))が吐出波形((1)、(2)、(3)及び(4))と逆に最初に加圧、のちに減圧するため、(1)、(2)、(3)及び(4)の合成波と(11)、(12)、(13)及び(14)の合成波について周期2ALの振動が弱め合う条件を単振動の合成の式から周期λnの場合と同様に求めると、
(kkkk-1/6)2AL≦(0)と(0’)との時間間隔≦(kkkk+1/6)2AL
となり、ここでのkkkkは1以上の整数となる。
【0114】
図6の例である、吐出波形と同様に最初に減圧のちに加圧するキャンセル波形、図15の吐出波形と逆に最初に加圧、のちに減圧するキャンセル波形のそれぞれの場合で、上記条件のように(0)と(0’)との時間間隔を調整し、かつCp幅を調整する事で、キャンセル波形後の次の吐出波形により吐出する液滴がキャンセル波形により発生する主音響振動の残留振動の影響を受けることを低減できる。このように、吐出波形により液滴の吐出後に生じた残留振動をキャンセル波形による圧力振動で打ち消し、吐出波形による残留振動を小さくする。なお、インク粘度が高い場合は吐出波形による液滴の吐出後の残留振動の減衰が大きいため、その分キャンセル幅Cpを小さく調整する。但し、キャンセル幅Cpは、Tm+Tr未満にすることはできない。
【0115】
このように構成された液体吐出ヘッド1は、吐出波形に対し中間値電圧保持時間Tmが寄生振動の周期λnの半分となるCp幅のキャンセル波形を設定することで、吐出波形による主音響振動の残留振動とキャンセル波形による寄生振動を両方抑制することができる。よって、液体吐出ヘッド1は、キャンセル波形後の次の吐出液滴が主音響振動による残留振動の影響を受けることを低減できる。また、キャンセル波形は、キャンセル波形により発生する寄生振動を抑制できることから、寄生振動による残留振動が次の吐出波形により吐出する液滴に影響を与えることを抑制できる。
【0116】
また、液体吐出ヘッド1は、アクチュエータ20を駆動する駆動波形の電位差を、中間電位差を含む2回に分けて変化させることで、消費電力を抑えつつ主音響振動より高い周波数の振動による印字品質の悪化を抑えることができる。
【0117】
上述した実施形態に係る液体吐出ヘッド1によれば、キャンセル波形によって発生する寄生振動を抑制することができる。
【0118】
なお、実施形態は、上述した例に限定されない。上述した例では、液体吐出ヘッド1に用いられる駆動波形は、1つの中間電位差を含む構成を説明したが、これに限定されない。駆動波形は、一以上の中間電位差を含む構成であってもよい。
【0119】
以下、他の実施形態として、駆動回路70の駆動波形の電位差(拡張電位差)を2回以上のh回連続して大きくする液体吐出ヘッド1の駆動波形を、図16及び図17を用いて説明する。
【0120】
先ず、他の実施形態に係る駆動波形のうち、吐出波形について説明する。この実施形態の液体吐出ヘッド1の吐出波形は、1からh-1回目の電位差変更の一つをi回目の電位差変更とし、i+1からh回目の電位差変更の一つをj回目の電位差変更とし、i回目とj回目の電位差変更開始時間の時間間隔をTijとすると、いずれかの時間間隔Tijは、
(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ (k/2+1/6)λn・・・(数式7)
となる。ここで、kは1以上の奇数である。
【0121】
この数式7を満す吐出波形によれば、該当する2回以上の電位差変更により生じる周期λnの寄生振動が弱め合い、圧力室に生じる周期λnの寄生振動を抑制できる。これは圧力室46の縮小変化させる回数が3回以上のh回である場合も同様である。
【0122】
また、i+1=jの場合、即ち、Tijが連続する電位差変更の時間間隔である場合に、消費電力の低減も考慮すると、時間間隔Tijは、
(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ kλn/2・・・(数式8)
であることが望ましい。ここで、kは1以上の奇数である。
【0123】
また、吐出波形が、1回目からh回目のすべての電位差変更において、時間間隔Tijが(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ (k/2+1/6)λn (kは1以上の奇数)を満たすか、あるいは(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ kλn/2 (kは1以上の奇数)を満たす他の電位差変更が存在する場合、圧力室46に生じる周期λnの寄生振動をさらに抑制することができる。
【0124】
また、(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ (k/2+1/6)λn (kは1以上の奇数)を満たす時間間隔Tijとなるi回目とj回目の電位差変更の電位差変化量を同じにすることで、その後の寄生振動由来の残留振動をさらに抑制できる。より好適には、各段の電位差が同じで、圧力振動が減衰しないと仮定した場合の各段の最適の保持時間はλn/段数(h)のため、すべての連続する電位差変更の時間間隔Tijをλn/段数(h)とすればよい。
【0125】
また、主音響振動を強め合う様にして消費電力を低減する観点では、吐出波形は、圧力室を連続で拡張変化させる電位差変更の回数が2回以上のh回である場合、1回目の電位差変更とh回目の電位差変更時間の時間間隔Tijは主音響振動周期の0.5倍以内である事が望ましい。これは、1回目の電位差変更とh回目の電位差変更の時間間隔Tijを主音響振動周期の0.5倍以内にする事で1回目からh回目のすべての電位差変更で生じた主音響振動が強め合うことになり、消費電力の低減に寄与するためである。
【0126】
上述した吐出波形の例として、立上波形で段数(回数)を4段(4回)とした例を図16に示し、立上波形の段数を3段とした例を図17に示す。図16において、各段数であるhを括弧内に示す。なお、立下波形についても同様にすればよいことは当然である。これら図16及び図17に示すように、各段の電位差が同じであり、圧力振動が減衰しないと仮定した場合の各段の最適の保持時間はλn/段数(h)となる。よって、1段目からh段目までの電位差変位のうち、いずれか2つの位相差(時間間隔)が(k/2-1/6)λnから(k/2+1/6)λnの範囲であれば、該当する2つの電位差変位で生じた寄生振動は弱め合うことになる。例えば、図16の1回目と3回目の電位差変位の時間間隔はλn/2となり、i=1&j=3の場合のTijは数式7を満たしている。また、図16の2回目と4回目の電位差変位の時間間隔もλn/2となり、i=2&j=4の場合のTijも数式7を満たしている。よって寄生振動は弱め合うことになる。
【0127】
なお、圧力室46内の圧力振動は、インクの粘性抵抗により時間経過で減衰する。また、通常は主音響振動より寄生振動の方が時間経過による減衰は大きい。このため、吐出前0.5ALから吐出直後の電位差変化の方が吐出の1.5AL前から0.5AL前までの時間範囲の電位差変化よりサテライトや印字品質に及ぼす影響が大きく、吐出の1.5AL前から0.5AL前(上述した主音響振動が強め合う範囲)の方が1.5AL以前の時間範囲の電位差変化よりサテライトや印字品質に及ぼす影響が大きい。よって、吐出波形は、いずれか2回の電位差変更時間の時間間隔のうち、より吐出直前直後に近いTm又はTijについて、寄生振動が弱め合う条件を満たすようにTm又はTijの値を調整する事が望ましい。
【0128】
次に、他の実施形態に係る駆動波形のうち、キャンセル波形について説明する。この実施形態の液体吐出ヘッド1のキャンセル波形は、1からh-1回目の電位差変更の一つをi回目の電位差変更とし、i+1からh回目の電位差変更の一つをj回目の電位差変更とし、i回目とj回目の電位差変更開始時間の時間間隔をTijとすると、吐出波形と同様に、いずれかの時間間隔Tijは、
(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ (k/2+1/6)λn・・・(数式7)
となる。ここで、kは1以上の奇数である。
【0129】
この数式7を満すキャンセル波形によれば、該当する2回以上の電位差変更により生じる周期λnの寄生振動が弱め合い、圧力室に生じる周期λnの寄生振動を抑制できる。これは圧力室46の縮小変化させる回数が3回以上のh回である場合も同様である。なお、キャンセル波形においては、残留振動抑制を優先し、時間間隔Tijは、数式8の範囲に限定されない。
【0130】
また、キャンセル波形が、1回目からh回目のすべての電位差変更において、時間間隔Tijが(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ (k/2+1/6)λn (kは1以上の奇数)を満たす他の電位差変更が存在する場合、圧力室46に生じる周期λnの寄生振動をさらに抑制することができる。
【0131】
また、(k/2-1/6)λn ≦ Tij ≦ (k/2+1/6)λn (kは1以上の奇数)を満たす時間間隔Tijとなるi回目とj回目の電位差変更の電位差変化量を同じにすることで、その後の寄生振動由来の残留振動をさらに抑制できる。より好適には、各段の電位差が同じで、圧力振動が減衰しないと仮定した場合の各段の最適の保持時間はλn/段数(h)のため、すべての連続する電位差変更の時間間隔Tijをλn/段数(h)とすればよい。
【0132】
上述したキャンセル波形の例として、吐出波形と同様に、立上波形で段数(回数)を4段(4回)とした例を図16に示し、立上波形の段数を3段とした例を図17に示す。図16において、各段数であるhを括弧内に示す。なお、立下波形についても同様にすればよいことは当然である。これら図16及び図17に示すように、各段の電位差が同じであり、圧力振動が減衰しないと仮定した場合の各段の最適の保持時間はλn/段数(h)となる。よって、1段目からh段目までの電位差変位のうち、いずれか2つの位相差(時間間隔)が(k/2-1/6)λnから(k/2+1/6)λnの範囲であれば、該当する2つの電位差変位で生じた寄生振動は弱め合うことになる。例えば、図16の1回目と3回目の電位差変位の時間間隔はλn/2となり、i=1&j=3の場合のTijは数式7を満たしている。また、図16の2回目と4回目の電位差変位の時間間隔もλn/2となり、i=2&j=4の場合のTijも数式7を満たしている。よって寄生振動は弱め合うことになる。
【0133】
なお、圧力室46内の圧力振動は、インクの粘性抵抗により時間経過で減衰する。また、通常は主音響振動より寄生振動の方が時間経過による減衰は大きい。このため、次の吐出波形により近い電位差変位、すなわちキャンセル波形の最後に近い電位差変位であるほど、次の吐出波形に与える残留振動の影響が大きいためキャンセル波形の最後により近い電位差変位のTm又はTijについて、寄生振動が弱め合う条件を満たすようにTm又はTijの値を調整することが望ましい。
【0134】
例えば、寄生振動の周期λnは主音響振動の周期2ALより小さいため、キャンセル波形の最後から2AL以前に入力された電位差変位による寄生振動はキャンセル波形の最後の時点で大きく減衰していることが期待される。そのためキャンセル波形の最後から2AL以内の電位差変更について優先的に寄生振動が弱め合う条件を満たすようにTm又はTijの値を調整することが望ましい。またキャンセル波形の最後から寄生振動の周期λn以内の電位差変更については、キャンセル波形の最後から2AL以内よりも優先的に寄生振動が弱め合う条件を満たすようにTm又はTijの値を調整することが望ましい。
【0135】
また、上述した例では、吐出波形は、複数段の階段波形の例を説明したがこれに限定されない。即ち、吐出波形は、台形波形であってもよい。即ち、上述したキャンセル波形は、また、吐出波形が台形波形であっても、3段以上の階段波形であってもよく、キャンセル波形は、吐出波形と同じ段数(同数の中間電位差)でなくてもよい。また、吐出波形が前後対称形状の波形であれば、該当吐出波形の合成波の位相は対称形状の中心位置(0)を位相の基準とした場合に-π/2だけ位相が進んだ振動と考えることができる。よって、キャンセル波形は、吐出波形の合成波の位相に対し逆の位相となる合成波となるように設定することで、吐出波形によって生じる残留振動を弱めることができる。また、複数段の階段波形のキャンセル波形は、キャンセル波形で発生する寄生振動を抑制できることから、次の吐出波形により吐出する液滴に影響を及ぼすことが抑制できる。
【0136】
以上説明した少なくともひとつの実施形態の液体吐出ヘッドによれば、キャンセル波形によって発生する寄生振動を抑制することができる。
【0137】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0138】
1…液体吐出ヘッド、10…ベース、20…アクチュエータ、21…圧電柱、22…非駆動圧電柱、30…振動板、40…流路プレート、42…隔壁部、45…流路、46…圧力室、47…個別流路、48…共通流路、50…ノズルプレート、51…ノズル、70…駆動回路、71…配線フィルム、72…ドライバIC、81…第1電圧源、82…第2電圧源、83…第3電圧源、100…液体吐出装置、111…筐体、112…媒体供給部、113…画像形成部、114…媒体排出部、115…搬送装置、117…支持部、118…搬送ベルト、119…支持プレート、120…ベルトローラ、121…ガイドプレート対、122…搬送用ローラ、130…ヘッドユニット、132…インクタンク、133…接続流路、134…供給ポンプ、150…制御部、151…プロセッサ、154…I/Oポート、155…画像メモリ、161…駆動モータ、162…操作部、163…種センサ、200…外部接続機器、301…振動部位、721…データバッファ、722…デコーダ、723…ドライバ、724…電圧制御部、725…電圧切替え部、726…配線電極、727…配線電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17