(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106285
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ヘリコプタ、ヘリコプタの垂直尾翼、ヘリコプタの垂直尾翼の改修方法及びヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法
(51)【国際特許分類】
B64C 27/82 20060101AFI20240731BHJP
B64C 27/06 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B64C27/82
B64C27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010561
(22)【出願日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 瑞城
(72)【発明者】
【氏名】白田 周三
(72)【発明者】
【氏名】塚本 紘理
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 龍介
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 拓海
(72)【発明者】
【氏名】福留 光紀
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏
(72)【発明者】
【氏名】田口 浩
(72)【発明者】
【氏名】横山 俊裕
(57)【要約】
【課題】ヘリコプタのテールロータでアンチトルクを発生させるために必要なエネルギを低減することである。
【解決手段】実施形態に係るヘリコプタの垂直尾翼は、メインロータと、前記メインロータの回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのテールロータを備えたものであって、後縁側が、前記テールロータの回転範囲となる円形の領域と、前記テールロータの回転軸方向にオーバーラップする範囲内において、前縁側に向かって凹んでいるものである。また、実施形態に係るヘリコプタは、上述した垂直尾翼を有するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインロータと、前記メインロータの回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのテールロータを備えたヘリコプタの垂直尾翼において、
後縁側が、前記テールロータの回転範囲となる円形の領域と、前記テールロータの回転軸方向にオーバーラップする範囲内において、前縁側に向かって凹んでいるヘリコプタの垂直尾翼。
【請求項2】
左右両舷に、前記垂直尾翼の表面における気流を隔離することによって前記垂直尾翼の凹んだ後縁側における渦の発生を抑制するためのスポイラを設けた請求項1記載のヘリコプタの垂直尾翼。
【請求項3】
前記垂直尾翼の凹んだ後縁側におけるカバーを平板で構成し、かつ前記平板を前記凹んだ後縁側から突出しないように配置した請求項1記載のヘリコプタの垂直尾翼。
【請求項4】
前記平板に、前記垂直尾翼の前縁側に向かって凹み、かつ長さ方向を前記垂直尾翼の厚さ方向とする複数のビードを形成した請求項3記載の垂直尾翼。
【請求項5】
メインロータと、前記メインロータの回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのテールロータを備えたヘリコプタの垂直尾翼において、
後縁側が前縁側に向かって凹んでおり、
左右両舷に、前記垂直尾翼の表面における気流を隔離することによって前記垂直尾翼の凹んだ後縁側における渦の発生を抑制するためのスポイラを設ける一方、
前記垂直尾翼の前記凹んだ後縁側におけるカバーを平板で構成し、かつ前記平板を前記凹んだ後縁側から突出しないように配置したヘリコプタの垂直尾翼。
【請求項6】
前記平板に、前記垂直尾翼の前縁側に向かって凹み、かつ長さ方向を前記垂直尾翼の厚さ方向とする複数のビードを形成した請求項5記載の垂直尾翼。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の垂直尾翼を有するヘリコプタ。
【請求項8】
ヘリコプタの垂直尾翼の後縁側における少なくとも一部を前縁側に向かって切欠くステップと、
切欠いた後の前記垂直尾翼の後縁側に形成される開口部に平板のカバーを取付けて塞ぐステップと、
を有するヘリコプタの垂直尾翼の改修方法。
【請求項9】
前記後縁側を切欠く前における前記垂直尾翼を構成するリブのうち、切断しなければ切欠いた後の前記垂直尾翼の後縁側から突出することになるリブを切断するステップを有し、
切断対象となる前記リブについては前記カバーとの間に隙間が形成されるように前記垂直尾翼の後縁側における端部を切断する請求項8記載のヘリコプタの垂直尾翼の改修方法。
【請求項10】
切欠いた後の前記垂直尾翼を構成する左右両舷側のスキンの内面に形材を介して平板からなる前記カバーを切欠いた後の前記垂直尾翼の後縁側から突出しないように取付ける請求項8又は9記載のヘリコプタの垂直尾翼の改修方法。
【請求項11】
切欠いた後の前記垂直尾翼の後縁側から前記垂直尾翼を構成するスパーが突出しない深さとなるように前記垂直尾翼を切欠き、前記スパーを切断せずに前記カバーで前記開口部を塞ぐ請求項8又は9記載のヘリコプタの垂直尾翼の改修方法。
【請求項12】
メインロータと、前記メインロータの回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのテールロータを備えたヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法であって、
前記テールロータが先端に取付けられる垂直尾翼の後縁側のうち、前記テールロータの回転範囲となる円形の領域と、前記テールロータの回転軸方向にオーバーラップする範囲内のみを前縁側に向かって凹ませて切り欠いた形状とし、前記テールロータから前記テールロータの回転軸方向に生じる噴流を遮る前記垂直尾翼の面積を減少させることによって前記アンチトルクを向上させるヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法。
【請求項13】
前記垂直尾翼を設けたテールブームの左舷側に前記メインロータからのダウンウォッシュを阻害するためのストレーキを設けて前記ヘリコプタの左舷側における圧力を前記ヘリコプタの右舷側における圧力よりも高くし、かつ前記ヘリコプタがホバリングしている状態と前記ヘリコプタが右横進飛行している状態との間において、前記左舷側における圧力と前記右舷側における圧力の差圧として生じる前記ヘリコプタの右舷方向への力の変動量が最小となるように前記ストレーキの高さを最適化することによって、更に前記アンチトルクを向上させる請求項12記載のヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ヘリコプタ、ヘリコプタの垂直尾翼、ヘリコプタの垂直尾翼の改修方法及びヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコプタには、メインロータの回転によってメインロータの回転方向と逆方向にトルクが生じる。このトルクを打消すため、ヘリコプタにはテールロータが設けられ、テールロータによってアンチトルクが生成される(例えば特許文献1乃至3参照)。典型的なテールロータは、ヘリコプタの胴体の後端に形成されるテールブームやテールブームに連結される垂直尾翼に取付けられる。テールロータには、メインロータと同様にブレードが保護されずに剥き出しの状態となっている一般的なロータの他、ダクトで保護されたダクテッドファンが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04-050099号公報
【特許文献2】特開平11-286300号公報
【特許文献3】特表2016-506335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヘリコプタのテールロータでアンチトルクを発生させるために必要なエネルギを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係るヘリコプタの垂直尾翼は、メインロータと、前記メインロータの回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのテールロータを備えたものであって、後縁側が、前記テールロータの回転範囲となる円形の領域と、前記テールロータの回転軸方向にオーバーラップする範囲内において、前縁側に向かって凹んでいるものである。
【0006】
また、本発明の実施形態に係るヘリコプタの垂直尾翼は、メインロータと、前記メインロータの回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのテールロータを備えたものであって、後縁側が前縁側に向かって凹んでおり、左右両舷に、前記垂直尾翼の表面における気流を隔離することによって前記垂直尾翼の凹んだ後縁側における渦の発生を抑制するためのスポイラを設ける一方、前記垂直尾翼の前記凹んだ後縁側におけるカバーを平板で構成し、かつ前記平板を前記凹んだ後縁側から突出しないように配置したものである。
【0007】
また、本発明の実施形態に係るヘリコプタは、上述した垂直尾翼を有するものである。
【0008】
また、本発明の実施形態に係るヘリコプタの垂直尾翼の改修方法は、ヘリコプタの垂直尾翼の後縁側における少なくとも一部を前縁側に向かって切欠くステップと、切欠いた後の前記垂直尾翼の後縁側に形成される開口部に平板のカバーを取付けて塞ぐステップとを有するものである。
【0009】
また、本発明の実施形態に係るヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法は、テールロータが先端に取付けられる垂直尾翼の後縁側のうち、前記テールロータの回転範囲となる円形の領域と、前記テールロータの回転軸方向にオーバーラップする範囲内のみを前縁側に向かって凹ませて切り欠いた形状とし、前記テールロータから前記テールロータの回転軸方向に生じる噴流を遮る前記垂直尾翼の面積を減少させることによって前記アンチトルクを向上させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るヘリコプタの構成を示す正面図。
【
図2】
図1に示すテールブームの一部と垂直尾翼の構造を示す拡大部分正面図。
【
図3】
図2に示すテールブームの一部と垂直尾翼の平面図。
【
図4】
図2に示すテールブームの一部と垂直尾翼の右側面図。
【
図5】
図2に示すテールブームの一部と垂直尾翼の斜視図。
【
図6】
図2に示す垂直尾翼を構成する主要な補強部材の配置例を示す図。
【
図7】
図6に示す垂直尾翼の位置A-Aにおける拡大断面図。
【
図8】
図6に示すスポイラの位置の決定方法を説明する垂直尾翼の位置B-Bにおける輪郭のみの拡大断面図。
【
図9】既存のヘリコプタの垂直尾翼に切欠きを形成する場合における改修方法の一例を説明する図。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係るヘリコプタの垂直尾翼を後縁側から見た図。
【
図11】
図10に示す垂直尾翼の後縁側におけるカバーの斜視図。
【
図12】
図10に示す垂直尾翼の位置C-Cにおける部分拡大断面図。
【
図13】
図12に示す垂直尾翼の後縁側におけるカバーの位置D-Dにおける拡大部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るヘリコプタ、ヘリコプタの垂直尾翼、ヘリコプタの垂直尾翼の改修方法及びヘリコプタのテールロータによるアンチトルクの向上方法について添付図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
(ヘリコプタ及び垂直尾翼の構成と機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係るヘリコプタの構成を示す正面図である。
【0013】
ヘリコプタ1は、胴体2、メインロータ3及びテールロータ4を有する。胴体2の後端側には後端に向かって徐々に細長くなるテールブーム5が形成され、テールブーム5の後端には垂直尾翼6が一体化される。そして、メインロータ3は胴体2の上方に連結される一方、テールロータ4は垂直尾翼6の先端に連結される。
【0014】
メインロータ3は揚力を発生させるためのロータである。一方、テールロータ4は、メインロータ3の回転によって生じるトルクを打消すためのアンチトルクを発生させるためのロータである。メインロータ3が反時計回りに回転する典型的なヘリコプタ1の場合には、メインロータ3の回転によってヘリコプタ1の垂直尾翼6には左舷方向にトルクが生じる。
【0015】
従って、メインロータ3のトルクを打消すためのアンチトルクは、垂直尾翼6の右舷方向に発生させることが必要となり、テールロータ4は垂直尾翼6の右舷側に取付けられる。そして、テールロータ4の回転によってヘリコプタ1の側面に生じるサイドウォッシュと呼ばれる噴流によって、テールロータスラストと呼ばれる右舷方向への推力が生じ、右舷方向に向かうテールロータスラストによってメインロータ3のトルクが打消される。
【0016】
ヘリコプタ1を右横進させる場合には、テールロータ4にはメインロータ3のトルクを打消すのみならず、ヘリコプタ1を右横進させるための右舷方向への推力が更に要求されることから、テールロータ4により発生させるべきテールロータスラストは最大となる。逆に、ヘリコプタ1を左横進させる場合には、テールロータ4により発生させるべきテールロータスラストは最小となる。いずれにせよ、テールロータ4の回転により発生するアンチトルク、すなわちテールロータスラストを向上させることができれば、テールロータ4を回転させるために必要なエネルギを低減することができる。
【0017】
テールロータ4を垂直尾翼6の右舷側に取付けると、必然的にテールロータ4の回転によって生じるサイドウォッシュの一部は垂直尾翼6によって遮られる。従って、テールロータスラストは減少する。つまり、テールロータ4の回転によって生じるサイドウォッシュと垂直尾翼6の干渉によって、テールロータスラストが減少する。
【0018】
そこで、ヘリコプタ1の垂直尾翼6の後縁側には、切欠き7が設けられる。すなわち、垂直尾翼6の後縁側は、垂直尾翼6の前縁側に向かって凹んでいる。但し、テールロータ4の回転範囲となる円形の領域Rと、テールロータ4の回転軸方向にオーバーラップする範囲内において、垂直尾翼6の後縁側が垂直尾翼6の前縁側に向かって凹んでいることが、垂直尾翼6の面積の減少量を最小限として機体を安定させる観点から好ましい。
【0019】
図2は
図1に示すテールブーム5の一部と垂直尾翼6の構造を示す拡大部分正面図、
図3は
図2に示すテールブーム5の一部と垂直尾翼6の平面図、
図4は
図2に示すテールブーム5の一部と垂直尾翼6の右側面図、
図5は
図2に示すテールブーム5の一部と垂直尾翼6の斜視図である。
【0020】
図2乃至
図5に例示されるような切欠き7を垂直尾翼6の後縁側に形成することによって、テールロータ4の回転によって生じるサイドウォッシュと垂直尾翼6との間における干渉領域を低減させることができる。その結果、垂直尾翼6による遮蔽を起因とするテールロータスラストの減少量も低減することができる。換言すれば、テールロータ4からテールロータ4の回転軸方向に生じるサイドウォッシュを遮る垂直尾翼6の面積を減少させることによってテールロータ4のアンチトルクを向上させることができる。その結果、あるアンチトルクを発生させるためのテールロータ4の回転に必要なエネルギを低減させることができる。
【0021】
但し、垂直尾翼6はヘリコプタ1の左右への揺れを低減させ、機体の安定性を確保する役割を担っているため、切欠き7の範囲が広がる程、機体の安定性が低下する。切欠き7の範囲が過剰となると、機体の安定性の低下を補償するために、テールブーム5の後端に機体の安定性を確保するための形状を有する突起を形成することが必要となる。
【0022】
そこで、切欠き7の範囲を、テールロータ4の回転範囲となる円形の領域Rと、テールロータ4の回転軸方向にオーバーラップする範囲内のみに限定することが望ましい。換言すれば、垂直尾翼6の後縁側のうち、テールロータ4の回転範囲となる円形の領域Rと、テールロータ4の回転軸方向にオーバーラップする範囲内のみを、垂直尾翼6の前縁側に向かって凹ませて切り欠いた形状とすることが好ましい。
【0023】
テールロータ4により生じるアンチトルクを向上させるための切欠き7を垂直尾翼6に限定的に設ければ、上述したように、垂直尾翼6の面積の減少量を最小限とし、機体を安定させるために必要な垂直尾翼6の面積を確保することができる。その結果、図示されるように、機体を安定させるために適切な形状を有するテールブームを垂直尾翼6よりも後端側に突出させることを不要とすることができる。
【0024】
一方、切欠き7の深さが過剰となるとテールロータスラストに耐えながらテールロータ4を支持する垂直尾翼6の機械的強度が不十分となる。従って、切欠き7の深さは、テールロータスラストに耐えながらテールロータ4を支持する垂直尾翼6の機械的強度が確保できるように決定される。
【0025】
典型的な垂直尾翼6は、外板(スキン)を桁(スパー)や小骨(リブ)等の補強部材で補強した構造を有しており、垂直尾翼6の機械的強度は、主に主要な補強部材が担っている。すなわち、垂直尾翼6を構成する外板はテールロータ4を支持するための垂直尾翼6の機械的強度に殆ど寄与しておらず、垂直尾翼6自体の幅を確保することは重要ではない。このため、垂直尾翼6の機械的強度を確保するためには、垂直尾翼6の機械的強度に支配的となる主要な補強部材を適切な位置に配置し、省略しないことが肝要である。そこで、切欠き7の深さについては、強度計算によって決定した桁等の補強部材と干渉しないように決定することができる。
【0026】
図6は
図2に示す垂直尾翼6を構成する主要な補強部材の配置例を示す図であり、
図7は
図6に示す垂直尾翼6の位置A-Aにおける拡大断面図である。
【0027】
図2に示す垂直尾翼6は、典型的な垂直尾翼と同様に、左右のスキン10を複数のスパー11と複数のリブ12で補強したボックス構造とすることができる。具体的には、スパー11の長さ方向が概ね垂直尾翼6の長さ方向となる一方、リブ12の長さ方向が概ねスパー11と直交する方向となるように垂直尾翼6の構造設計を行うことができる。
【0028】
そこで、垂直尾翼6の後縁側のスパー11と干渉しないように、垂直尾翼6の後縁側のスパー11から一定の距離だけ離れた位置に、切欠き7で凹んだ垂直尾翼6の後縁側のカバー13を配置することができる。これにより、切欠き7の深さを決定することができる。つまり、垂直尾翼6の機械的強度を確保するために必要なスパー11等の補強部材と干渉しない範囲で、テールロータ4により生じるアンチトルクを向上させる観点から切欠き7をできるだけ深くすることが望ましい条件となる。
【0029】
一方、リブ12については、垂直尾翼6の前縁側から後縁側に亘って配置される場合が多く、図示された例では、垂直尾翼6の切欠き7を形成する後縁側のカバー13とリブ12が干渉しないように、一部のリブ12の長さが、強度を確保できる範囲内において短く設計されている。すなわち、垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分については、リブ12が後縁側のカバー13まで到達しないように短くなっている。その結果、
図7に示す例のように、後縁側のスパー11と後縁側のカバー13との間におけるリブ12は、後縁側のスパー11よりも前縁側におけるリブ12の形状とは異なり、典型的なリブを切断したような形状を有している。
【0030】
もちろん、
図6及び
図7に示す例に限らず、仮に長さ方向に延伸させると切欠き7を横切ることになる各リブ12を後縁側のカバー13まで到達させるようにしても良い。但し、
図6及び
図7に例示されるように仮に長さ方向に延伸させると切欠き7を横切ることになる各リブ12の長さを、後縁側のカバー13まで到達しない長さにすると、切欠き7が設けられていない既存のヘリコプタの垂直尾翼を、図示されるような切欠き7を有する垂直尾翼6に改修することが容易となる。
【0031】
すなわち、垂直尾翼6の強度を確保する上で必要となるリブ12の長さだけ残して垂直尾翼6の後縁側におけるリブ12を切断し、左右のスキン10のトリム加工と後縁側のカバー13の取付けによって垂直尾翼6に切欠き7を形成することができる。このため、既存の垂直尾翼であっても、新たに切欠き7を形成してテールロータ4で生じるアンチトルクを改善することができる。逆に、新たにヘリコプタ1の設計と製造を行うような場合には、上述したように、切欠き7が無い典型的な垂直尾翼と同様に、切欠き7を形成する後縁側のカバー13まで各リブ12を到達させるようにしても良い。
【0032】
垂直尾翼6には、図示されるように、切欠き7に加えてスポイラ14を設けることが好ましい。具体的には、垂直尾翼6の左右両舷に、垂直尾翼6の表面における気流を隔離することによって、垂直尾翼6の切欠き7で凹んだ後縁側における渦の発生を抑制するためのスポイラ14を設けることが好ましい。
【0033】
垂直尾翼6の表面における気流を隔離することを目的とするスポイラ14は、垂直尾翼6の表面における気流が横切るように配置される立て板で構成することができる。
図7に示す例では、長さ方向が垂直尾翼6の後縁に概ね沿うように一方の面を垂直尾翼6の表面に接合することによって他方の面を垂直尾翼6の表面から切立つ立て板としたアングル材14Aでスポイラ14が構成されている。スポイラ14を構成するアングル材14Aは鋼材に限らずアルミニウム等の所望の材料で構成することができる。スポイラ14をアングル材14Aで構成する場合、アングル材14Aはファスナで垂直尾翼6の表面に固定することができる。もちろん、接着剤を併用しても良い。
【0034】
垂直尾翼6の後縁側における渦を抑制するためには、垂直尾翼6の後縁から適切な距離だけ離れた両舷の位置にそれぞれスポイラ14を配置し、かつ各スポイラ14の高さを垂直尾翼6の表面に形成される境界層の厚さよりも低くすることが適切である。すなわち、垂直尾翼6の両舷における表面の気流が後縁に到達する前に各スポイラ14で隔離されるように各スポイラ14の位置と高さを決定することが適切である。これにより、各スポイラ14で隔離された気流が垂直尾翼6の後縁に到達する前に一様流と混合し、垂直尾翼6の後縁付近では気流の速度勾配を緩やかにすることができる。
【0035】
図8は
図6に示すスポイラ14の位置の決定方法を説明する垂直尾翼6の位置B-Bにおける輪郭のみの拡大断面図である。
【0036】
スポイラ14の位置は、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)解析シミュレーションや風洞試験等によって渦が十分に抑制できる位置として求めることができる。実際にCFD解析シミュレーションを行った結果、スポイラ14の位置は、
図8に示すようにヘリコプタ1の機体軸に水平な垂直尾翼6の平均空力翼舷位置B-Bにおける長さを代表長さcとすると、垂直尾翼6の代表長さcの60%以上80%以下の距離Dだけ垂直尾翼6の前縁から離れた位置とすることが、垂直尾翼6の後縁側における渦を抑制するために好ましい条件であることが確認された。
【0037】
他方、スポイラ14の高さを決定するために必要となる境界層の厚さは公知の計算で求めることができる。試算した結果、スポイラ14の高さは境界層の厚さの40%以上60%以下とすることが適切であると考えられる。
【0038】
垂直尾翼6の後縁側における渦をスポイラ14で抑制すると、垂直尾翼6の凹んだ後縁側におけるカバー13を平板13Aで構成することが可能となる。すなわち、スポイラ14が取付けられていない従来の典型的な垂直尾翼の場合には、垂直尾翼の後縁側に生じる渦に起因するヘリコプタ1の前進時における空気抵抗の増加と振動を抑制する必要があることから、垂直尾翼の後縁側のカバーを湾曲させて凸形状とし、カバーの断面を翼形状とすることが現実的となる。
【0039】
これに対して、垂直尾翼6の後縁側における渦を抑制するためのスポイラ14が取付けられた垂直尾翼6の場合には、渦の発生がスポイラ14で抑制されるので、垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁側のカバー13を平板13Aにしても、ヘリコプタ1の前進時における空気抵抗の過剰な増加と振動を回避することができる。垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁側のカバー13を平板13Aにできれば、平板13Aを垂直尾翼6の凹んだ後縁側から切欠き7内に突出しないように配置することが可能となる。その結果、従来の典型的な凸状のカバーで垂直尾翼6の後縁側を閉塞すると、切欠き7の深さが浅くなってテールロータ4により生じるアンチトルクの改善効果が減少してしまうという不都合を回避することができる。
【0040】
図7に示す例では、垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁側のカバー13を構成する平板13Aが、垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁の輪郭を形成する両舷におけるスキン10の縁よりも垂直尾翼6の前縁側にずらして配置されている。すなわち、垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁側のカバー13が切欠き7の輪郭よりも内側となるように配置されている。
【0041】
垂直尾翼6の左右のスキン10の間隔は後縁程狭くなる。このため、平板13Aを容易に左右のスキン10の間に配置して組立てられるように、例えば、アルミニウム等の所望の材料で構成されるアングル材13Bで平板13Aを左右のスキン10の内面に固定することができる。このように垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁側のカバー13をアングル材13Bと平板13Aで構成することによって、カバー13を垂直尾翼6の後縁から突出させることなく垂直尾翼6の後縁をカバー13で閉塞することができる。平板13Aをアングル材13Bでスキン10の内面に固定する場合、アングル材13Bはファスナで平板13Aとスキン10の表面に固定することができる。もちろん、接着剤を併用しても良い。
【0042】
尚、
図7に示す例では、平板13Aの外表面の位置が垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁の輪郭よりも内側となっているが、平板13Aの外表面の位置を垂直尾翼6の切欠き7が形成された部分における後縁の輪郭と一致させても良い。また、
図7に示す例のように垂直尾翼6を構成するスキン10の縁が、平板13Aで構成される後縁側のカバー13よりも突出していたとしても、スキン10の縁の近傍はもちろん、平板13Aの外表面付近においてもスポイラ14で渦の発生が抑制されることから、空気抵抗の増加等のヘリコプタ1の安定性に与える悪影響は無視することができる。
【0043】
テールロータ4で発生させるアンチトルクは、上述したような垂直尾翼6の構造の他、テールブーム5の構造によっても向上させることができる。具体的には、回転方向が反時計回りである典型的なメインロータ3を有するヘリコプタ1の場合には、テールブーム5の左舷側にストレーキ15を設けることができる。ストレーキ15は、メインロータ3からのダウンウォッシュを阻害するためのフィンである。
【0044】
テールブーム5の左舷側を流れるメインロータ3のダウンウォッシュをストレーキ15で阻害すると、ヘリコプタ1の左舷側における圧力をヘリコプタ1の右舷側における圧力よりも高くすることができる。その結果、ヘリコプタ1の右舷方向への力が生じ、この右舷方向への力をアンチトルクの一部として利用することができる。これにより、あるアンチトルクを発生させるためのテールロータ4の回転に必要なエネルギを一層低減することができる。すなわち、ヘリコプタ1全体のアンチトルクを更に向上させることができる。
【0045】
テールブーム5の左舷側へのダウンウォッシュの流入角は、ヘリコプタ1の横進方向における速度に応じて変化する。具体的には、ヘリコプタ1がより速い速度で右横進する程、テールブーム5の左舷側へのダウンウォッシュの流入角度は、上方から左舷方向により大きな角度で傾斜することになる。逆に、ホバリング時のようにヘリコプタ1の横進方向における速度がゼロである場合には、テールブーム5の左舷側へのダウンウォッシュの流入角度は、上方から右舷方向に向かう角度となる。
【0046】
従って、最もアンチトルクの改善が望まれるヘリコプタ1の右横進時において、上方から左舷方向に向かって流れるダウンウォッシュをテールブーム5の左舷側におけるストレーキ15で受けて右舷方向への力を発生させるためには、少なくともテールブーム5の左舷側における上方、すなわち左舷側において上方に向かって凸となるように湾曲するテールブーム5の表面上にストレーキ15を配置することが適切である。
【0047】
加えて、ストレーキ15をテールブーム5の左舷側における下方、すなわち左舷側において下方に向かって凸となるように湾曲するテールブーム5の表面上にもストレーキ15を配置すれば、ホバリング時のようにヘリコプタ1の横進方向における速度がゼロである場合においても、テールブーム5の左舷側において上方から右舷方向に向かって流れるダウンウォッシュを下方側におけるストレーキ15で受けて右舷方向への力を発生させることができる。
【0048】
但し、ストレーキ15を取付けると、ヘリコプタ1の製造コストの増加に繋がるのみならず、ヘリコプタ1の重量も増加することになる。従って、ヘリコプタ1の製造コストと重量の増加を回避することを重視する場合には、テールブーム5の上方のみにストレーキ15を取付けることが好ましい条件となる。このため、図示された例では、テールブーム5の上方のみにストレーキ15が取付けられている。逆に、ヘリコプタ1のホバリング時等におけるアンチトルクの改善を重視する場合には、テールブーム5の上方と下方の双方にストレーキ15を取付けることが好ましい条件となる。
【0049】
上述したように、テールブーム5の左舷側へのダウンウォッシュの流入角度がヘリコプタ1の横進方向における速度に応じて変化することから、ダウンウォッシュのストレーキ15への流入角も、ヘリコプタ1の横進方向における速度に応じて変化することになる。従って、ストレーキ15によって生じる左舷側と右舷側との間における圧力差として発生する右舷方向への力の大きさもまた、ヘリコプタ1の横進方向における速度に応じて変化することになる。
【0050】
ストレーキ15で生じる右舷方向への力の大きさの変動が大きいと、テールロータ4で発生させるべき右舷方向への力の大きさの変動が大きくなり、ヘリコプタ1の操縦者による操縦負担の増加に繋がる。従って、ストレーキ15で生じる右舷方向への力の大きさの変動量は、ヘリコプタ1の飛行状態が変化しても、できるだけ小さくなることが望ましい。ヘリコプタ1の飛行状態のうち、アンチトルクの改善が特に寄与するのは、ヘリコプタ1のホバリング時と右横進時である。
【0051】
そこで、ヘリコプタ1がホバリングしている状態とヘリコプタ1が右横進飛行している状態との間において、ストレーキ15で生じる右舷方向への力の変動量が最小となるようにストレーキ15の位置、長さ及び高さの少なくとも1つを最適化することができる。これにより、ヘリコプタ1の飛行状態が、テールロータ4の回転に必要となるエネルギが最大となる右横進飛行からホバリングに変化する場合に、ストレーキ15で生じる右舷方向への力の大きさの変動量を低減することができる。その結果、ストレーキ15の取付けに伴うヘリコプタ1の操縦者への操縦負担の増加を低減することができる。
【0052】
尚、ストレーキ15の位置、長さ及び高さの最適化は、CFD解析を含むシミュレーションによって行うことができる。但し、ストレーキ15により生じる右舷方向への力の大きさに対しては、ダウンウォッシュを遮るストレーキの高さが支配的であると考えられる。このため、計算の簡易化の観点から最適化の対象をストレーキ15の高さに限定しても良い。
【0053】
その場合、ストレーキ15の位置及び長さについては、CFD解析シミュレーションや風洞試験等によって、メインロータ3からのダウンウォッシュをヘリコプタ1の左舷側において阻害する効果が確認できる任意の位置及び長さに決定することができる。また、ストレーキ15の長さについては、重量とダウンウォッシュの阻害効果のバランスを考慮して所望の長さに決定することができる。すなわち、ヘリコプタ1の重量軽減を重視する場合にはストレーキ15の長さを短くする一方、ダウンウォッシュの阻害効果を重視する場合には
図1に例示されるようにテールブーム5の長さの70%以上の範囲に亘ってストレーキ15を延伸させるなど、ストレーキ15の長さを長くすることができる。
【0054】
また、ストレーキ15の位置、長さ及び高さのいずれを最適化対象とするのかに関わらず、ストレーキ15で生じる右舷方向への力の大きさの変動量が最小化されれば、必然的にテールロータ4で発生すべき右舷方向への力の大きさの変動量も最小となることから、最小化対象をストレーキ15で生じる右舷方向への力の大きさの変動量として最適化計算を行うことは、最小化対象をテールロータ4で発生すべき右舷方向への力の大きさの変動量として最適化計算を行うことと等価である。
【0055】
(ヘリコプタの垂直尾翼の改修方法)
次に、既存のヘリコプタの垂直尾翼を改修することによって上述した垂直尾翼6を有するヘリコプタ1を製作する場合の一例について説明する。
【0056】
図9は既存のヘリコプタの垂直尾翼に切欠き7を形成する場合における改修方法の一例を説明する図である。
【0057】
切欠き7が無い既存のヘリコプタの垂直尾翼は、
図9(A)に示すように左右のスキン10を複数のスパー11と複数のリブ12で補強したボックス構造となっている。このような構造を有する垂直尾翼の強度を確保しつつ垂直尾翼に切欠き7を形成する場合には、上述したように垂直尾翼を構成するスパー11を切断しないことが重要である。従って、既存の垂直尾翼に切欠き7を形成するためには、切欠いた後の垂直尾翼の後縁側からスパー11が突出しない深さとなるように垂直尾翼の切欠き7の深さを決定した後、少なくとも左右のスキン10とリブ12を切断することが必要となる。
【0058】
しかしながら、左右のスキン10をトリム加工するために切欠き7の輪郭に沿って切削工具を移動させると、切削工具はリブ12の板厚方向に進行することになる。このため、左右のスキン10とともにリブ12を1回のトリム加工で切断することは切削抵抗の増減が大きく、かつリブ12が板厚方向に変形してしまう可能性が高い困難な切削加工となってしまう。
【0059】
そこで、リブ12の切断に先立って、ジグソーや電動丸鋸等の鋸やエンドミル等の所望の切削工具を用いて、先に左右のスキン10のトリム加工を1枚ずつ別々に行うことが現実的である。使用する切削工具によっては、スキン10の板厚方向への切削工具の切込深さを浅くし、切欠き7の輪郭に沿って切削工具を複数回移動させても良いし、スキン10の板厚方向への切削工具の切込深さをスキン10の板厚以上として、1回のトリム加工でスキン10を切断するようにしても良い。
【0060】
尚、ヘリコプタの垂直尾翼の後縁側は、左右のスキン10の間隔が徐々に狭くなって互いに接合される場合と、左右のスキン10の間に形成される隙間が翼形状を有する従来の凸状の後縁カバーで閉塞される場合がある。このため、後縁カバーが存在する場合には、後縁カバーも左右のスキン10と同様にトリム加工されることになる。
【0061】
左右のスキン10のトリム加工が完了すると、
図9(B)に示すように複数のリブ12が切欠き7に突出した状態で残る。このため、垂直尾翼の後縁側に切欠き7を完全に形成するためには、突出したリブ12を切断することが必要となる。そこで、切欠き7に突出したリブ12が切断される。より具体的には、垂直尾翼の後縁側を切欠く前における垂直尾翼を構成する複数のリブ12のうち、切断しなければ切欠いた後の垂直尾翼の後縁側から突出することになるリブ12が切断される。
【0062】
但し、
図7に例示されるように、切断後のリブ12と後縁側のカバー13との干渉を確実に回避しつつトリム加工後における左右のスキン10の内面に後縁側のカバー13を容易に取付けられるように十分な作業スペースを設けるためには、切欠き7に突出した各リブ12の先端が切欠き7の輪郭よりも垂直尾翼の前縁側、より望ましくは垂直尾翼の後縁側におけるスパー11付近となる程度まで十分に短くなるように、突出した各リブ12を切断することが肝要となる。
【0063】
そこで、切欠き7内に残った切断対象となる各リブ12の先端が少なくとも切欠き7の輪郭よりも垂直尾翼の前縁側となるように、より望ましくは垂直尾翼の後縁側におけるスパー11付近となる程度まで、各リブ12を鋸やエンドミル等の所望の切削工具で切断することができる。換言すれば、切断対象となるリブ12と、取付け予定となっている後縁側のカバー13との間に、
図7に例示されるような十分な隙間が形成されるように垂直尾翼の後縁側におけるリブ12の端部を切断することができる。
【0064】
尚、使用する切削工具が左右のスキン10と干渉する場合や切削抵抗が大きくなる場合には、一旦、各リブ12を切欠き7の輪郭に合わせて切断した後、各リブ12を更に短く切断するようにしても良い。いずれの場合においても、既に左右のスキン10のトリム加工は完了しているため、切削工具を各リブ12の板厚方向に概ね垂直な方向など、板厚方向と交差する方向に進行させて各リブ12を切断することができる。
【0065】
対象となる各リブ12の切断が完了すると、
図9(C)に示すように既存のヘリコプタの垂直尾翼の後縁側における少なくとも一部を前縁側に向かって完全に切欠くことができる。切欠いた後の垂直尾翼の後縁側には、開口部が形成されることになる。そこで、垂直尾翼の後縁側に形成された開口部にカバー13が取付けられて塞がれる。これにより、
図1乃至
図7に例示されるような垂直尾翼6及び垂直尾翼6を有するヘリコプタ1を製作することができる。
【0066】
より具体的な例として、
図7に例示されるように、切欠いた後の垂直尾翼を構成する左右両舷側のスキン10の内面に、アングル材13B等の形材を介してカバー13を取付けることができる。特に、
図9(C)に示すように垂直尾翼6の左右の翼面上にスポイラ14を取付ければ、上述したように垂直尾翼6の後縁側における渦の発生を抑制できることからカバー13を平板13Aで構成することができる。また、カバー13を平板13Aで構成すれば、カバー13を切欠いた後の垂直尾翼6の後縁側から突出しないように取付けることが可能となる。
【0067】
更に、上述した垂直尾翼の改修とは独立したヘリコプタの改修として、
図9(C)に示すようにテールブーム5にストレーキ15を取付けることもできる。その場合、上述したようにストレーキ15の位置、長さ及び高さを、ストレーキ15で生じる右舷方向への力の大きさの変動量が低減されるように、CFD解析を含むシミュレーションによって最適化することができる。
【0068】
(効果)
以上のヘリコプタ1は、垂直尾翼6の後縁側に、好ましくはテールロータ4とのオーバーラップ領域に限定して切欠き7を形成し、テールロータ4からのサイドウォッシュを遮る垂直尾翼6の部分を減少させることによって、テールロータ4で発生させるアンチトルクを向上させるようにしたものである。また、切欠き7を形成した部分における垂直尾翼6の後縁側のカバー13を切欠き7内に突出しない平板13Aで構成できるように、垂直尾翼6の後縁側における渦を抑制するためのスポイラ14を垂直尾翼6に取付けるようにしたものである。
【0069】
このため、ヘリコプタ1のテールロータ4でアンチトルクを発生させるために必要なエネルギを低減することができる。その結果、ヘリコプタ1のホバリング性能やヘリコプタ1が右横進する際におけるラダーのマージンを向上させることができる。
【0070】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係るヘリコプタの垂直尾翼を後縁側から見た図、
図11は
図10に示す垂直尾翼の後縁側におけるカバーの斜視図、
図12は
図10に示す垂直尾翼の位置C-Cにおける部分拡大断面図、
図13は
図12に示す垂直尾翼の後縁側におけるカバーの位置D-Dにおける拡大部分断面図である。
【0071】
図10に示された第2の実施形態におけるヘリコプタ1Aでは、垂直尾翼6Aの後縁側におけるカバー13を構成する平板13Aにビード20を形成した点が第1の実施形態におけるヘリコプタ1と相違する。第2の実施形態におけるヘリコプタ1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態におけるヘリコプタ1と実質的に異ならないため垂直尾翼6Aのみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0072】
図10乃至
図13に例示されるように垂直尾翼6Aの後縁側におけるカバー13を構成する平板13Aには複数のビード20を形成することができる。ビード20は、板厚を変更せずに板材に形成される細長い紐のような凹凸、より具体的には一方の面が隆起し、他方の面に溝が形成される凹凸である。ビード20は、プレス成形の一種であるビード加工によって形成される場合が殆どである。
【0073】
平板13Aにビード20を形成すれば、平板13Aの重量を増加させずに平板13Aの強度を向上させることができる。
図12に例示されるように平板13Aをアングル材14Aでスキン10に固定する場合には、平板13Aの強度がアングル材14Aの長さ方向に強化される。このため、図示されるようにビード20は、垂直尾翼6Aの前縁側に向かって凹み、かつ長さ方向がアングル材14Aの長さ方向と交差する垂直尾翼6Aの厚さ方向となるように形成することができる。そうすると、平板13Aの幅方向を長さ方向とするビード20と平板13Aの長さ方向を長さ方向とするアングル材14Aによって平板13Aを2方向に強化することができる。
【0074】
平板13Aの強度は、ビード20の数が多い程、ビード20の深さが深い程、ビード20の長さが長い程、増加し、ビード20の幅は平板13Aの強度にあまり寄与しない。その反面、ビード20の総長さが長い程、加工コストが増加する。従って、平板13Aの強度と、製造コストのバランスが適切となるように、ビード20の数、深さ及び長さを決定することが好ましい。このため、平板13Aをスキン10に固定するためにアングル材14Aを使用しない場合や、製造コストよりも平板13Aの強度を重視するような場合には、図示される例に限らず、向きを変えてビード20を形成しても良い。また、隆起させる面を平板13Aの外表面側としても良い。また、平板13Aを波形とすれば強度が向上するが、平板13Aとスキン10との間に雨水等が浸入する原因となる隙間が生じないようにすることが適切である。
【0075】
以上の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果に加えて、垂直尾翼6Aの後縁側におけるカバー13を構成する平板13Aの強度を、重量を増加させることなく向上できるという効果を得ることができる。
【0076】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0077】
1、1A ヘリコプタ
2 胴体
3 メインロータ
4 テールロータ
5 テールブーム
6、6A 垂直尾翼
7 切欠き
10 スキン(外板)
11 スパー(桁)
12 リブ(小骨)
13 カバー
13A 平板
13B アングル材
14 スポイラ
14A アングル材
15 ストレーキ
20 ビード
R 円形の領域