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特開2024-106300組成物、該組成物を含む親水化剤、該親水化剤を含む親水性コーティング組成物、及び該親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106300
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】組成物、該組成物を含む親水化剤、該親水化剤を含む親水性コーティング組成物、及び該親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240731BHJP
   C08G 77/30 20060101ALI20240731BHJP
   C08G 77/42 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C08G77/30
C08G77/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127602
(22)【出願日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2023010307
(32)【優先日】2023-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522189137
【氏名又は名称】佐藤 正洋
(71)【出願人】
【識別番号】517260331
【氏名又は名称】川瀬 芳人
(74)【代理人】
【識別番号】100161942
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨 みどり
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正洋
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 芳人
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA11
4J246AA19
4J246AB12
4J246AB15
4J246BA110
4J246BA11X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246BB270
4J246BB273
4J246BB27X
4J246BB380
4J246BB382
4J246BB38X
4J246CA650
4J246CA659
4J246CA65U
4J246CA65X
4J246EA05
4J246FA071
4J246FA461
4J246FA542
4J246FB081
4J246GC48
4J246GD08
4J246HA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポリオレフィン等に簡便に塗布可能で、耐水性等の耐久性が非常に優れた親水化剤を低コストで提供する。
【解決手段】ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と下記式(1)で表されるケイ素系化合物を含有する組成物を親水化剤として用いる。
(X3-K(CHSi-R-X(1)
{式中Xは炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基及びハロゲン原子のいずれかを表し、Xはアルキル基(ヘテロ原子、又は不飽和結合を含んでもよく、また環状構造であってもよい)、ビニル基、チオール基、アミノ基、ハロゲン原子、アクリル基、メタアクリル基、スチリル基、フェニル基、酸無水物基、カルボキシル基、グリシドキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、イソシアネート基及びブロック化イソシアネート基からなる群から選ばれる何れかの官能基であり、Rは炭素数1~10のアルキレン基を表し、Kは0又は1を表す。}
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物及び下記式(1)で表されるケイ素系化合物を含有することを特徴とする組成物。
(X3-K(CHSi-R-X (1)
{式中Xは炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基及びハロゲン原子のいずれかを表し、Xはアルキル基(該アルキル基は、ヘテロ原子、又は不飽和結合を含んでもよく、また環状構造であってもよい)、ビニル基、チオール基、アミノ基、ハロゲン原子、アクリル基、メタアクリル基、スチリル基、フェニル基、酸無水物基、カルボキシル基、グリシドキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、イソシアネート基及びブロック化イソシアネート基からなる群から選ばれる何れかの官能基であり、Rは炭素数1~10のアルキレン基を表し、Kは0又は1を表す。}
【請求項2】
さらに、界面活性剤及び/又は界面活性基を有するアルコキシシラン化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ケイ素系化合物がラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
さらに、ラジカル発生剤を含有することを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記ケイ素系化合物がイソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項6】
前記ケイ素系化合物がアミノ基を有するアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項7】
請求項1又は2記載の組成物を含有することを特徴とする親水化剤。
【請求項8】
請求項7記載の親水化剤を含有することを特徴とする親水性コーティング組成物。
【請求項9】
請求項8記載の親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性で親水効果が大きく、低コストでかつ簡便に製造できるコーティング可能な、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と所定のケイ素系化合物とを含有する組成物、該組成物を含む親水化剤、該親水化剤を含む親水性コーティング組成物、及び該親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体に関する。さらに詳しくは、無処理の基材にコーティングすることにより、上記基材と化学結合等の強い相互作用で結合する組成物等に関する。具体的な一例としては、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物とラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物とを含有する組成物等に関する。又、無処理のプラスチック類や金属等の無機材料にコーティングすることにより高耐久性の親水性を付与することが可能で、特に、生体内で使用する医療器具にコーティングした場合に血液や体液の付着が防止できる、ホスホリルコリン基及を有するアルコキシシラン化合物と上記所定のケイ素系化合物とを含有する組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、ベタイン基を有する親水化剤に関連して、特許文献1~特許文献2の発明を発明した。
すなわち、特許文献1の発明は、下記式(11)で表される化合物と炭素数3から10の環状スルホン酸エステルをイソプロピルアルコールに溶解させて、反応させることを特徴とする下記式(12)で表される化合物の製造方法である。
(X113-k11(CHk11Si-R11-(X12-R12m11-N(R13)(R14) (11)
(X113-k11(CHk11Si-R11-(X12-R12m11-N(R13)(R14)-(CHn11-SO (12)
{式中X11は同一又は異なっても良い炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基及びハロゲン原子のいずれかを表し、k11は0又は1を表し、R11は炭素数1~5のアルキレン基を表し、X12は-NHCOO-又は-NHCONH-を表し、m11は0又は1を表し、R12は炭素数1~10のエーテル結合を含んでも良いアルキレン基又は-CHCHN(CH)CHCHOCHCH-を表し、R13及びR14は同一又は異なっても良い炭素数1~3のアルキル基を表し、n11は3~10の整数を表す。}
【0003】
また特許文献2の発明は、下記式(13)で表される化合物の加水分解物及び/又は加水分解縮合物と界面活性シランカップリング剤との加水分解組成物である。
(X133-k12(CHk12Si-R15-(Y-R16m12-N(R17)(R18)-Z (13)
{式中X13は同一又は異なっても良い炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基及びハロゲン原子のいずれかを表し、k12は0又は1を表し、R15は炭素数1~5のアルキレン基を表し、Yは-NHCOO-、-NHCONH-、-S-又は-SO-を表し、m12は0又は1を表し、R16は炭素数1~10のエーテル結合、エステル結合又はアミド結合を含んでも良いアルキレン基又は-CHCH(CH)(Z)CHCHOCHCH-を表し、R17及びR18は同一又は異なっても良い炭素数1~3のアルキル基を表し、Zは(CHn12SO-、(CHn1CO-及びO-を表し、n12は1~5の整数を表す。}
【0004】
しかし、これら特許文献に記載の親水化剤の材料から得られる親水性コーティング組成液は、コーティング組成液中の親水性を発揮する化合物がベタイン基を多量有しているため、水以外の有機溶媒に溶けにくくなり、結果としてコーティング液中の水の量が多くなる。そのため、ポリエチレンやプロピレン等に塗布した場合、コーティング液を均一に塗布することが不可能で、結果としてこれら基材を親水化することは不可能である。すなわち、例えば、無極性で疎水性が高いポリエチレンやポリプロピレン等を親水化できる親水化剤が求められている。
【0005】
一方非特許文献1には、人工関節用ポリエチレン表面にホスホリルコリン系モノマー(MPCモノマー)を光照射下グラフト重合させることにより、表面を親水化する技術が記載されている。しかし、本技術は光が照射出来る場所には適用可能だが、光が照射できない箇所(例えば、チューブの内側)には適用不能で、該箇所を親水化することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6531124号公報
【特許文献2】特許6590875号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】人工臓器40巻1号 P57~P61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、例えば、無極性で疎水性の高いポリエチレン、ポリプロピレンのみならずヘテロ原子を有する極性ポリマーや金属等の無機材料等の基材に対して、耐水性や耐摩耗性が高くて親水効果が大きく、低コスト及び無処理(紫外線やプラズマの照射なし)でコーティング可能な組成物、該組成物を含む親水化剤、該親水化剤を含む親水性コーティング組成物、及び該親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上従来技術の問題点に留意しつつ鋭意検討を行った結果、親水性の成分の一つとして、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシランとある種のケイ素系化合物とを含有する組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
〔1〕ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物及び下記式(1)で表されるケイ素系化合物を含有することを特徴とする組成物。
(X3-K(CHSi-R-X (1)
{式中Xは炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基及びハロゲン原子のいずれかを表し、Xはアルキル基(該アルキル基は、ヘテロ原子、又は不飽和結合を含んでもよく、また環状構造であってもよい)、ビニル基、チオール基、アミノ基、ハロゲン原子、アクリル基、メタアクリル基、スチリル基、フェニル基、酸無水物基、カルボキシル基、グリシドキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、イソシアネート基及びブロック化イソシアネート基からなる群から選ばれる何れかの官能基であり、Rは炭素数1~10のアルキレン基を表し、Kは0又は1を表す。}
〔2〕さらに、界面活性剤及び/又は界面活性基を有するアルコキシシラン化合物を含有することを特徴とする〔1〕記載の組成物
〔3〕上記ケイ素系化合物がラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の組成物。
〔4〕さらに、ラジカル発生剤を含有することを特徴とする〔3〕記載の組成物。
〔5〕上記ケイ素系化合物がイソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の組成物。
〔6〕上記ケイ素系化合物がアミノ基を有するアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の組成物。
〔7〕〔1〕~〔6〕の何れか記載の組成物を含有することを特徴とする親水化剤。
〔8〕〔7〕記載の親水化剤を含有することを特徴とする親水性コーティング組成物。
〔9〕〔8〕記載の親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体。
【0011】
なお本明細書において、上記アルコキシシラン化合物及び上記ケイ素系化合物とは、それらの化合物そのもの、それらが加水分解したままのもの、それらが縮合したもの又はこれらの混合物を表し、本発明の組成物とは、各成分がそれぞれ加水分解したままの混合物、あるいは各成分の加水分解物が少なくとも1種類がランダムあるいはブロック状に重縮合したもの、あるいはこれらのものが混在した状態のものを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、無極性で疎水性の高いポリエチレン、ポリプロピレンのみならずヘテロ原子を有する極性ポリマーや金属等の無機材料等の基材に対して、耐水性や耐摩耗性が高くて親水効果が大きく、低コスト及び無処理(紫外線やプラズマの照射なし)でコーティング可能な組成物、該組成物を含む親水化剤、該親水化剤を含む親水性コーティング組成物、及び該親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体を提供できる。
【0013】
好ましくは、例えば、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物とラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物とを含有する組成物をポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチックに無処理でコーティング可能で、ホスホリルコリン基が親水性を発現し、ラジカル重合性基がポリエチレンやポリプロピレン等と共有結合を通して強固に結合することから、耐久性の高い親水性表面を有する表面改質されたポリエチレンやポリプロピレン等を得ることができる。
【0014】
また好ましくは、上記ケイ素系化合物が、イソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基や酸無水物基あるいはエポキシ基等を有するアルコキシシラン化合物の場合、ポリウレタン等分子内に活性水素を有するポリマーと共有結合を通して強固に結合することから、耐久性の高い親水性表面を有する表面改質されたポリウレタン等を得ることができる。
【0015】
さらに好ましくは、上記ケイ素系化合物がアミノ基を有するアルコキシシラン化合物の場合、ポリエチレンやポリウレタン等と強い物理的相互作用により強固に結合し、ポリ塩化ビニル等と共有結合を通して強固に結合することから、耐久性の高い親水性表面を有する表面改質されたポリエチレンやポリウレタン、ポリ塩化ビニル等などを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の組成物はホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と下記式(1)で表されるケイ素系化合物とを含有する組成物である。
(X3-K(CHSi-R-X (1)
{式中Xは炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基及びハロゲン原子のいずれかを表し、Xはアルキル基(該アルキル基は、ヘテロ原子、又は不飽和結合を含んでもよく、また環状構造であってもよい)、ビニル基、チオール基、アミノ基、ハロゲン原子、アクリル基、メタアクリル基、スチリル基、フェニル基、酸無水物基、カルボキシル基、グリシドキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、イソシアネート基及びブロック化イソシアネート基からなる群から選ばれる官能基であり、Rは炭素数1~10のアルキレン基を表し、Kは0又は1を表す。}
【0017】
上記ケイ素系化合物にラジカル重合性基が含まれる場合、即ち、上記式(1)におけるXが、ビニル基、チオール基、アクリル基、メタアクリル基、及びスチリル基からなる群から選ばれる何れかの官能基である化合物を含む場合、ラジカル重合性基が加熱されることによりポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック表面にラジカル付加し、ホスホリルコリン基がポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック表面を改質して親水性を与える。
【0018】
上記ケイ素系化合物にイソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基が含まれる場合、即ち、上記式(1)におけるXがイソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基である化合物を含む場合、ポリウレタン、ナイロン、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等の少量の活性水素を有するプラスチック表面に存在する活性水素と反応することにより、表面を改質して親水性を与えることが出来る。
【0019】
また上記ケイ素系化合物にアミノ基が含まれる場合、即ち、上記式(1)におけるXがアミノ基である化合物を含む場合、種々のプラスチック(上記プラスチック以外に、エポキシ、アクリル、ABS、EPDM、EPM、ポリ塩化ビニル、メラミン、ポリサルファイド、メラミン、ニトリルラバー、ネオプレンラバー等)との相互作用(共有結合や強い物理的相互作用等)により、これらのプラスチック等の表面を改質して親水性を与えることが出来る。
【0020】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物の例としては、以下の物質が挙げられる。
(1)日油株式会社製のリピジュア(登録商標)-CR3001(下記式(I)でXがアルコキシシランである化合物;日油株式会社のカタログより) (A)
【0021】
【化1】
【0022】
(2)日油株式会社製のリピジュア(登録商標)-NH01(上記式(I)でXがNHである化合物;日油株式会社のカタログより)と、該リピジュア(登録商標)-NH01のアミノ基と反応する基を有するアルコキシシラン化合物(例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)との、反応生成物及び/又は混合物 (B)
【0023】
(3)ホスホリルコリン基を有する、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルと、該リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルのメタクリロキシ基と反応する基を有するアルコキシシラン化合物(例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランや3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)との、反応生成物及び/又は混合物 (C)
【0024】
上記ケイ素系化合物としては、信越化学工業株式会社製:KBM-1003(ビニルトリメトキシシラン)、KBE-1003(ビニルトリエトキシシラン)、KBM-1083(長鎖ビニルシラン)、X-12-1290(オルガノシラン)、KBM-1403(p-スチリルトリメトキシシラン)、KBM502(3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)、KBM503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、KBE503(3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)、KBM-5803(長鎖メタクリルシラン)、KBM5103(3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、X-12-1048(多官能アクリルシラン)、X-12-1333A(重合性シラン)、X-12-1050(多官能アクリルシラン)、X-12-1303MS(短鎖メタクリルシラン)、KBM-802(3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン)、KBM-803(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、X-12-1307(メルカプトメチルトリメトキシシラン)、X-12-1056ES(メルカプト基保護型シランカップリング剤)、X-12-1154(多官能メルカプトシラン)、KBE-9007N(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)、X-12-1159L(多官能イソシアネートシラン)、X-12-1195(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基をエタノールで保護したもの)、X-12-1293(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基をカプロラクタムで保護したもの)、X-12-1308ES(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基を3,5-ジメチルピラゾールで保護したもの)、X-12-967C(3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物)、X-12-1135(カルボキシル基含有水系シランカップリング剤)、KBM-303(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)、KBM-402(3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン)、KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、KBE-402(3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン)、KBE-403(3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)、X-12-981S(多官能エポキシシラン)、X-12-984S(多官能エポキシシラン)、KBM-4803(長鎖エポキシシラン)、KBM-602(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン)、KBM-603(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBE-903(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBM-6103(N-2-(アミノエチル)-アミノメチルトリメトキシラン)、KBP-64(エチレンジアミノ基含有水系シランカップリング剤)、KBP-90(アミノ基含有水系シランカップリング剤)、KBE-9103P(ケミチン構造を有するシラン)、X-12-1172ES(ケミチン構造を有するシラン)、X-12-972F(多官能アミノシラン)、KBM-6803(長鎖エチレンジアミンシラン)、X-12-1214A(ベンゾトリアゾール基含有トリメトキシシラン)、X-12-1116(キレート官能型トリメトキシシラン)やN,N-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
上記ケイ素系化合物のうち、ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物の例としては、以下の物質が挙げられる。
ビニルトリエトキシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及び3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等。
【0026】
上記ケイ素系化合物のうち、イソシアネート基やブロック化イソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物の例としては、以下の物質が挙げられる。
KBE-9007N(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)、X-12-1159L(多官能イソシアネートシラン)、X-12-1195(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基をエタノールで保護したもの)、X-12-1293(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基をカプロラクタムで保護したもの)、X-12-1308ES(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基を3,5-ジメチルピラゾールで保護したもの)等。
【0027】
上記ケイ素系化合物のうち、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物の例としては、以下の物質が挙げられる。
KBM-602(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン)、KBM-603(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBE-903(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBM-6103(N-2-(アミノエチル)-アミノメチルトリメトキシラン)、KBP-64(エチレンジアミノ基含有水系シランカップリング剤)、KBP-90(アミノ基含有水系シランカップリング剤)、X-12-972F(多官能アミノシラン)、N,N-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン等。
【0028】
上記ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物〔上記(A)、(B)、(C)で示した化合物(以下、化合物(A)、(B)、(C)と称する)及び/又はこれらの混合物〕と上記ケイ素系化合物(好ましくは例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、X-12-1308ES(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基を3,5-ジメチルピラゾールでブロックしたもの)やX-12-972F(環状の化合物でその主鎖に複数のアミノ基とアルコキシシラン基が結合)等)とを反応あるいは混合することにより本発明の組成物を得ることが出来る。
【0029】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物等を含む組成物がエチルアルコール等の有機溶媒に溶けにくい場合、その組成物の均一性を上げて、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック基材や金属等の無機材料製の基材に塗布し易くするため、界面活性剤及び/又は界面活性基を有するアルコキシシラン化合物を反応あるいは混合させてもよい。
【0030】
上記界面活性基を有するアルコキシシラン化合物は、活性水素を有する界面活性剤とその活性水素と反応する官能基を有するシランカップリング剤とを反応させることにより得ることが出来る。
【0031】
原料である上記活性水素を有する界面活性剤は、通常、エチレンオキサイドの付加数は一定でなく、その結果として単一なものでなく、エチレンオキサイドの付加数が異なった混合物として存在する。
【0032】
原料である上記活性水素を有する界面活性剤に含まれる具体的な化合物の例としては、以下の物が挙げられる。
HO(CHCHO)
HO(CHCHO)
HO(CHCHO)
【0033】
CHO(CHCHO)
CHO(CHCHO)
CHO(CHCHO)
1225O(CHCHO)CHCOOH
1327O(CHCHO)CHCOOH
1225O(CHCHO)
1225O(CHCHO)
1225O(CHCHO)10
1735COO(CHCHO)
1733COO(CHCHO)
1733COO(CHCHO)14
1735CONHCHCHOH
【0034】
CHO(CHCHO)
CHCHO(CHCHO)
13CHO(CHCHO)
13CHCHO(CHCHO)
ただし、qは1~30の整数を表す。
【0035】
もう一つの原料である界面活性剤中の活性水素と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤としては、エポキシ基、イソシアネート基又は酸無水物基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0036】
エポキシ基、イソシアネート基又は酸無水物基を有する具体的なシランカップリング剤の例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン及び3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0037】
これらのうち好ましいのは、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン及び3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物である。
【0038】
界面活性剤中の活性水素と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤との反応で生成する、前記界面活性基を有するアルコキシシラン化合物の具体的な化合物としては以下の化合物が挙げられる。
CHO(CHCHO)CHCH(OH)CHOCHCHCHSi(OCH
CHO(CHCHO)CHCH(OH)CHOCHCHCHSi(CH)(OCH
CHO(CHCHO)CH(CHOH)CHOCHCHCHSi(OCH
CHO(CHCHO)CH(CHOH)CHOCHCHCHSi(CH)(OCH
1225O(CHCHO)CHCH(OH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CH(CHOH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CHCOOCHCH(OH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CHCOOCH(CHOH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CHCH(OH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CH(CHOH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CHOCOCHCH(OH)CHOCHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)CHOCOCH(CHOH)CHOCHCHCHSi(OCH
CHO(CHCHO)OCOCHCH(COOH)CHCHCHSi(OCH
CHO(CHCHO)OCOCH(CHCOOH)CHCHCHSi(OCH
CHO(CHCHO)OCONHCHCHCHSi(OC
1225O(CHCHO)OCOCHCH(COOH)CHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)OCOH(CHCOOH)CHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)OCOCHCH(COOH)CHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)OCOCH(CHCOOH)CHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)OCOCHCH(COOH)CHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)OCOCH(CHCOOH)CHCHCHSi(OCH
1225O(CHCHO)OCONHCHCHCHSi(OC
1735COO(CHCHO)OCOCHCH(COOH)CHCHCHSi(OCH
1733COO(CHCHO)OCOCH(CHCOOH)CHCHCHSi(OCH
13CHCHO(CHCHO)CH(CHOH)CHOCHCHCHSi(OCH
13CHCHO(CHCHO)CH(CHOH)CHOCHCHCHSi(CH)(OCH
【0039】
好ましくは、界面活性剤及び/又はこれらの界面活性基を有するアルコキシシラン類とホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物類と上記ケイ素系化合物(例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、X-12-1308ES(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基を3,5-ジメチルピラゾールでブロックしたもの)やX-12-972F(環状の化合物でその主鎖に複数のアミノ基とアルコキシシラン基が結合したもの)等)とを反応あるいは混合することによっても、本発明の好ましい形態の組成物を得ることが出来る。
【0040】
上記ケイ素系化合物が、ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物を有する場合、好ましくはラジカル発生剤を加えることにより、より低温で基材の表面に化学結合を通してコーティングすることが可能である。
【0041】
ラジカル発生剤としては、アゾ系重合開始剤及び過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。アゾ系重合開始剤としては例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド等)が挙げられ、過酸化物系重合開始剤としては例えば、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、di-tert-ブチルパーオキサイド、ジクメンパーオキサイド、過酸化ジベンゾイル、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0042】
これらのうち好ましいのは、アルコール又はアルコールと水の混合溶媒に可溶な重合開始剤である。
【0043】
好ましくは、上記重合開始剤を、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物とラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物等を含有した組成物に添加することにより、本発明の好ましい形態の組成物である、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と上記ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物を含有する組成物を得ることが出来る。
【0044】
本発明のホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と上記ケイ素系化合物とを含有する組成物は、例えば以下の製造方法で得ることができる。
【0045】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物が化合物(A)の場合、市販のリピジュア(登録商標)-CR3001を、上記ケイ素系化合物[例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、X-12-1308ES(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基を3,5-ジメチルピラゾールでブロックしたもの)やX-12-972F(環状の化合物でその主鎖に複数のアミノ基とアルコキシシラン基が結合)等]と反応あるいは混合することにより、本発明の組成物を得ることができる。
【0046】
上記反応(加水分解等)には、水とそれ以外の溶媒を用いることができ、水以外の溶媒としては、アルコール系溶媒(メチルアルコール、エチルアルコール等)、エーテル系溶媒(テトラハイドロフラン等)、ジオール系溶媒(エチレングリコール等)、グリコールエーテル系溶媒(エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、非プロトン系溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等)等が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、アルコール系溶媒及びエーテル系溶媒であり、特に好ましいのはアルコール系溶媒である。上記溶媒は、好ましくは、本発明の組成物に含まれる。
【0047】
溶媒中の、上記ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と上記ケイ素系化合物とを合わせた濃度は、好ましくは0.1質量%~50質量%であり、より好ましくは0.5質量%~40質量%である。
【0048】
上記反応における反応温度は室温から用いる溶媒の還流温度であることが好ましい。
【0049】
上記反応における反応時間は2時間から24時間であることが好ましい。
【0050】
リピジュア(登録商標)-CR3001 100質量%に対する上記ケイ素系化合物の割合は、好ましくは0.1質量%~200質量%であり、より好ましくは5質量%~30質量%である。
【0051】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物が化合物(B)の場合、分子内のアミノ基と反応可能でラジカル重合性のある基を有するアルコキシシラン化合物(例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)を、リピジュア(登録商標)-NH01より過剰に用いて反応(マイケル付加反応、加水分解及び/又は重縮合反応)と反応させることにより、本発明の組成物を得ることが出来る。
あるいは上記リピジュア-NH01に、あらかじめ加水分解したアミノ基と反応する基を有するアルコキシシラン化合物を加えて室温又は還流する温度で反応させることにより、本発明の組成物を得ることが出来る。
【0052】
上記反応(加水分解等)に用いる水以外の溶媒、濃度、反応温度及び反応時間は、化合物(A)の場合と同様である。
【0053】
上記リピジュア-NH01 100質量%に対するアミノ基と反応可能でラジカル重合性のある基を有するアルコキシシラン化合物の割合は、好ましくは101質量%~180質量%であり、より好ましくは105質量%~130質量%である。
【0054】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物が化合物(C)の場合、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルと、該リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルのメタクリロキシ基と反応する基を有するアルコキシシラン化合物(例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランや3-アミノプロピルトリエトキシシラン等)とを、不活性ガス雰囲気下加熱還流させて新たにアルコキシシラン基を分子内に導入した後、上記式(1)で表されるケイ素系化合物[例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、X-12-1308ES(イソシアネート基をジメチルピラゾールで保護したシランカップリング剤)等]と反応あるいは混合することにより、本発明の組成物であるホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物と上記ケイ素系化合物とを含有する組成物を得ることが出来る。
【0055】
上記反応(加水分解等)に用いる水以外の溶媒、濃度、反応温度及び反応時間は、化合物(A)の場合と同様である。
【0056】
ホスホリルコリン基とアルコキシシラン基を有する化合物(C)を得る場合、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルに対するメタクリロキシ基と反応可能なアルコキシシラン化合物の割合は、
アルコキシシラン化合物が3-メルカプトプロピルトリメトキシシランの場合は、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル100mol%に対して、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランの量は好ましくは95mol%~105mol%であり、より好ましくは97.5mol%~102.5mol%であり、
アルコキシシラン化合物が3-アミノプロピルトリメトキシシランの場合は、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル100mol%に対して、3-アミノプロピルトリメトキシシランの量は好ましくは47.5mol%~105mol%であり、より好ましくは50.0mol%~102.5mol%である。
【0057】
ホスホリルコリン基とラジカル重合性基とを有するアルコキシシラン化合物を得る場合、ホスホリルコリン基とアルコキシシラン基を有する化合物100mol%に対する、アルコキシシラン基と反応可能でラジカル重合性のある基を有するアルコキシシラン化合物(例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)の割合は、好ましくは0.1mol%~200mol%であり、より好ましくは5mol%~30mol%である。
【0058】
ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物及び上記式(1)で表されるケイ素系化合物の合計100質量%に対する、界面活性剤及び/又は界面活性基を有するアルコキシシラン化合物の割合は、好ましくは1質量%~900質量%であり、より好ましくは10質量%~100質量%である。
【0059】
本発明の好ましい形態における、上記ケイ素系化合物としてラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物を含む組成物は、基材に塗布して結合させる際の処理温度を低下させるために、ラジカル発生剤を含有していてもよい。
上記ラジカル重合性基を有するアルコキシシラン化合物100mol%に対するラジカル発生剤の割合は、好ましくは0.1mol%~1000mol%であり、より好ましくは1mol%~500mol%である。
【0060】
本発明の親水化剤は本発明の前記〔1〕~〔6〕に記載の何れかの組成物を含有させることにより得ることが出来る。
【0061】
また、本発明の親水性コーティング組成物は、本発明の親水化剤を含有させることにより得ることが出来る。好ましくは、作業性(取扱性及びコーティング性等)を向上させる為に、本発明の親水化剤を希釈溶剤により希釈することにより、親水性コーティング組成物を得ることが出来る。
【0062】
希釈溶媒としては、〔1〕~〔6〕に記載の組成物と反応せず、これらを溶解及び/又は分散させ、特にはポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン等)等のプラスチック基材や金属等の無機材料製の基材にコーティングできるものであれば制限がなく、例えば、エーテル系溶剤(テトラハイドロフラン、ジオキサン等)、アルコール系溶剤(メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)及び非プロトン性溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等)、水及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0063】
希釈溶媒を含有する場合、希釈溶媒の含有量は、例えば、上記親水性コーティング組成物中の全溶媒に対する、前記〔1〕~〔6〕記載の何れかの組成物[ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物及び上記式(1)で表されるケイ素系化合物、ならびに好ましい形態で含有される界面活性剤及び/又は界面活性基を有するアルコキシシラン化合物、ラジカル発生剤及び溶媒]の合計質量%[(前記〔1〕~〔6〕記載の何れかの組成物の合計質量)/{(前記〔1〕~〔6〕記載の何れかの組成物の合計質量)+希釈溶媒の質量}×100]が、好ましくは0.001~15質量%、より好ましくは0.01~10質量%、特に好ましくは0.05~7.5質量%となる量である。
【0064】
本発明の組成物及びそれを含有する本発明の親水化剤、ならびに該親水化剤を含有する親水性コーティング組成物では接着性を向上させているため、プライマーあるいはコロナ放電処理、プラズマ照射処理、紫外線照射処理等の表面活性化処理(基材表面の表面エネルギーを高くする手法)なしに、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、EPM、EPDM等)や不飽和ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、ナイロン、エポキシ、メラミン、ポリサルファイド、メラミン、ニトリルラバー、ネオプレンラバー、ポリ塩化ビニル等のプラスチック基材や金属等の無機材料製の基材の表面親水化等に適用出来る。
【0065】
本発明の親水性コーティング組成物の塗布方法としては、ディプコーティング、スピンコーティング、フローコーティング及びスプレーコーティング等が挙げられる。
【0066】
本発明の親水性コーティング組成物を基材に塗布した後、硬化させることにより親水性コーティング膜を得ることが出来る。
硬化させる温度は、室温から基材の耐熱温度であり、時間は5分から72時間である。
【0067】
本発明の構造体は、本発明の親水性コーティング組成物が硬化した層を有する。本発明の構造体は、本発明の親水性コーティング組成物を、基材にコーティング後硬化させることにより製造できる。本発明の構造体では、表面の親水性が向上し且つ耐水性に優れるという顕著な効果を奏する。上記基材としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、EPM、EPDM等)や不飽和ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン等のプラスチック基材や金属等の無機材料製の基材が挙げられる。
【実施例0068】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。実施例は、本発明を説明するものであり、制限を加えるものではない。以下特記しない限り、部は質量部を意味する。
【0069】
〔合成例1〕
三洋化成工業株式会社製界面活性剤(エマルミンLS-90、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加物、水酸基価:95.0)20.0gと3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物8.9gを、アルゴン雰囲気下、60℃で3時間反応させることにより、エマルミンLS-90と3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物がエステル結合を介して結合した界面活性基を有するアルコキシシラン化合物27.5gを得た。
【0070】
〔実施例1〕
日油株式会社製リピジュア(登録商標)-CR3001を5.0g及び信越化学工業株式会社製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-503)2.5gをエチルアルコール10.0g、水4.8g及び酢酸0.2gに溶かして2時間加熱還流した後、室温に冷却した。次いでアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.0g、10%含水エタノールを加えて200gにすることにより、本発明の一実施形態である親水化剤1を得、親水性コーティング組成物1とした。
【0071】
〔実施例2〕
(1)信越化学工業株式会社製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-503)5.0gをエチルアルコール3.5g、水1.4g及び酢酸0.1gに溶かして室温で24時間反応させることにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが加水分解及び/又は縮合したエチルアルコール溶液10.0gを得た。
(2)合成例1で得た界面活性基を有するアルコキシシラン化合物5.0gをエチルアルコール3.5g、水1.4g及び酢酸0.1gに溶かして室温で2時間加熱還流した後、室温に冷却することにより、界面活性基を有するアルコキシシラン化合物が加水分解及び/又は縮合したエチルアルコール溶液10.0gを得た。
(3)日油株式会社製リピジュア(登録商標)-NH01の5%水溶液を5.0g、(1)で得た3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが加水分解及び/又は縮合したエチルアルコール溶液1.0g、(2)で得た界面活性基を有するアルコキシシラン化合物が加水分解及び/又は縮合したエチルアルコール溶液0.2g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3g及びエチルアルコール24.0gを加えることにより、本発明の一実施形態である親水化剤2を得、親水性コーティング組成物2とした。
【0072】
〔実施例3〕
(1)東京化成工業株式会社製リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル5.0g、信越化学工業株式会社製3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン3.3g、アゾビスイソブチロニトリル56mgをテトラハイドロフラン11.7gに溶かしアルゴンガスで置換後8時間加熱還流することにより、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルのメタクリル基に3-メルカプトプロピルトリメトキシシランのチオール基が付加した、ホスホリルコリン基を有するアルコキシシラン化合物が溶解したテトラハイドロフラン溶液20.0gを得た。
(2)(1)で得たテトラハイドロフラン溶液20.0g中に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.2g、水3.5g及び酢酸0.3gを加えて2時間加熱還流することにより、本発明の一実施形態である親水化剤3を得、親水性コーティング組成物3とした。
【0073】
〔実施例4〕
日油株式会社製リピジュア(登録商標)-CR3001を5.0g及び信越化学工業株式会社製X-12-1308ES(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランのイソシアネート基を3,5-ジメチルピラゾールでブロックしたもの)2.0gをエチルアルコール10.5g、水4.8g及び酢酸0.2gに溶かして2時間加熱還流した後、室温に冷却した後、室温に冷却した。次に、10質量%含水エタノールを加えて200gにすることにより、本発明の一実施形態である親水化剤4を得、親水性コーティング組成物4とした。
【0074】
〔実施例5〕
日油株式会社製リピジュア(登録商標)-CR3001を5.0g及び信越化学工業株式会社製X-12-972F(環状の化合物でその主鎖に複数のアミノ基とアルコキシシラン基が結合したもの)1.5gをエチルアルコール10.5g、水4.8g及び酢酸0.2gに溶かして2時間加熱還流した後、室温に冷却した後、室温に冷却した。次に、10質量%含水エタノールを加えて200gにすることにより、本発明の一実施形態である親水化剤5を得、親水性コーティング組成物5とした。
【0075】
<親水性評価サンプルの調整>
実施例1~5で得られた親水性コーティング組成物1~5に、表1に示すスライドガラスサイズのポリエチレン板又はポリウレタン板をエチルアルコールで洗浄後それぞれ浸漬し、ポリエチレン板又はポリウレタン板を取り出した後、液切りをし、ポリエチレン板は80℃、ポリウレタン板は120℃でそれぞれ1時間加熱処理して、親水性コーティング組成物1~5をそれぞれ硬化させた層を有する構造体として表面改質ポリエチレン板又は表面改質ポリウレタン板を得た。
【0076】
<親水性評価>
得られた表面改質ポリエチレン板又は表面改質ポリウレタン板、未表面改質ポリエチレン板(ブランク)及び未表面改質ポリウレタン板(ブランク)を室温で24時間水に浸漬して放置した。
浸漬後、室温で1時間乾燥し、接触角の測定を行った。
【0077】
<親水性評価結果>
接触角測定装置{協和界面化学家具式会社 DROP MASTER 500、液滴量(水)2μL、測定間隔1000ms、測定回数30回}で、表面改質ポリエチレン板、表面改質ポリウレタン板、未表面改質ポリエチレン板(ブランク)及び未表面改質ポリウレタン板(ブランク)の表面の任意の5箇所について接触角(度)を測定し、平均値を算出した。結果を表1に示した。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1~5で得られた親水性コーティング組成物1~5で表面改質したポリエチレン板またはポリウレタン板は、24時間水に浸漬後も、親水性コーティング組成物を硬化させた層が保たれており、耐水性を有していた。
【0080】
表1から明らかなように、実施例1~5で得られた親水化剤を含む親水性コーティング組成物1~5で処理したポリエチレン板またはポリウレタン板は、親水性が向上しておりかつ耐水性に優れていることから、プラスチック用の親水化剤として非常に有用であることが示された。このように、本発明の親水性コーティング組成物が硬化した層を有する構造体は、親水性が向上し且つ耐水性に優れるという顕著な効果を奏することが示された。上記ポリオレフィンやポリウレタンのみならず、種々のプラスチックや金属の表面の親水化にも有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の親水化剤(本発明の組成物を含有)及びそれを含有する本発明の親水性コーティング組成物は、従来の親水化剤と比較して、例えば官能基を有していないポリオレフィンに前処理なしでコーティング可能で耐水性の高い親水処理が可能であることから、例えば医療器具や食品容器等に用いられるポリオレフィン等の基材に対して、簡便に耐久性の高い親水コート膜を付与できる材料として非常に有用である。また、上記ポリオレフィンやポリウレタンのみならず、種々のプラスチックや金属の表面の親水化にも有用である。