(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106304
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】高強度金属基複合体及び高強度金属基複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20230101AFI20240731BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240731BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20240731BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240731BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20240731BHJP
【FI】
C22C1/10 Z
B22F1/00 N
B22F1/12
B22F1/00 S
B22F1/052
B22F1/00 R
B22F1/00 L
C22C1/05 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146058
(22)【出願日】2023-09-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2023010430
(32)【優先日】2023-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515243372
【氏名又は名称】アドバンスコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】林 睦夫
(72)【発明者】
【氏名】勝亦 修平
(72)【発明者】
【氏名】落合 翔悟
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018AB01
4K018AB02
4K018AC01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA08
4K018BA13
4K018BA17
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA11
4K018FA32
4K020AA21
4K020AC01
(57)【要約】
【課題】従来の製造技術では実現できていなかった、高強度でありながら良好な加工性を有し、さらに製造コストの抑制が可能な経済的な実用価値の高いアルミニウム合金基複合体及び該複合体の製造方法の提供。
【解決手段】平均粒径が0.3μm~8μmである金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm~300μmであるアルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末からなる多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)に、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸・充填されてなる複合体であり、前記微細粉末の充填率が10体積%~50体積%で、且つ、その曲げ強度が500MPa~800MPaである高強度金属基複合体及び該金属基複合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下である、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末からなる多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)に、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸・充填されてなる複合体であり、該複合体は、前記微細粉末の充填率が10体積%以上、50体積%以下で、且つ、その曲げ強度が500MPa以上、800MPa以下であることを特徴とする高強度金属基複合体。
【請求項2】
前記混合粉末の微細粉末を構成する、前記金属粉末が、シリコン粉末、鉄粉末、ステンレス粉末、銅粉末及びチタン粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、前記セラミックス粉末が、アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、炭化けい素粉末、窒化けい素粉末及び窒化アルミニウム粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、さらに、前記混合粉末を構成する、前記微細粉末と前記アルミニウム・アルミニウム合金粉末との配合割合が、10:90~90:10である請求項1に記載の高強度金属基複合体。
【請求項3】
さらに、前記混合粉末は、シリカ系バインダー及びアルミナ系の有機無機バインダーからなる群から選ばれる1種以上のバインダーが質量基準で、0.5%以上、10%以下の範囲内で外添加されてなる請求項1又は2に記載の高強度金属基複合体。
【請求項4】
平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下である、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末を用いて、多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)を得、得られた充填体又は成型体(プリフォーム)に、
アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を、圧力20MPa以上、200MPa以下の高圧で含浸・充填して複合化させて、
前記微細粉末の充填率が10体積%以上、50体積%以下であり、且つ、その曲げ強度が500MPa以上、800MPa以下である金属基複合体を得ることを特徴とする高強度金属基複合体の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下である、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末に、さらに、該混合粉末100質量部に、マグネシウム粉末を0.5質量部以上、10質量部以下の範囲で添加したMg粉末含有の混合粉末を用いて、多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)を得、得られた充填体又は成型体(プリフォーム)に、
非加圧で、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を含浸・充填して複合化させて、
前記微細粉末の充填率が10体積%以上、50体積%以下であり、且つ、その曲げ強度が500MPa以上、800MPa以下である金属基複合体を得ることを特徴とする高強度金属基複合体の製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末の微細粉末を構成する、前記金属粉末が、シリコン粉末、鉄粉末、ステンレス粉末、銅粉末及びチタン粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、前記セラミックス粉末が、アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、炭化けい素粉末、窒化けい素粉末及び窒化アルミニウム粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、さらに、前記混合粉末を構成する、前記微細粉末と前記アルミニウム・アルミニウム合金粉末との配合割合が、10:90~90:10である請求項4又は5に記載の高強度金属基複合体の製造方法。
【請求項7】
前記混合粉末として、さらに、シリカ系バインダー及びアルミナ系の有機無機バインダーからなる群から選ばれる1種以上のバインダーを質量基準で、0.5%以上、10%以下の範囲内で外添加して用いる請求項4又は5に記載の高強度金属基複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化材として機能する微細粉末の、セラミックス粉末及び/又は金属粉末と、マトリックス材としてのアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯とを複合化してなる金属基複合体に関する。詳しくは、上記微細粉末に加えて、該微細粉末よりも粒径の大きいアルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末(以下、「アルミニウム合金等の粉末」とも呼ぶ)を併用した混合粉末を用いたことで実現された、強度が高く且つ加工性に優れた高強度金属基複合体及びその製造方法を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウム又はアルミニウム合金にセラミックスを複合化させた材料(いわゆる、MMC)、カーボン繊維に樹脂を複合させたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)、或いは、セラミックス成型体にCVD等でセラミックスを複合させたCMC(Ceramic Matrix Composites)、アルミニウムにその他の金属粉末を複合化させた複合材料などが開発され、実用化されている。これらの中でも、2種類の異なる無機材料の特性を兼ね備えた、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、代表してアルミニウム合金等と呼ぶ)をマトリックス材としたMMCは、材料を軽量化できることもあって、下記に挙げるように開発がすすめられており、実用化もされている。例えば、軽量、高強度、高剛性、高耐熱性などの所望の特性を具備した機械部品や電子基板として、半導体液晶製造装置やロボットアーム、ガスタービン材料、パワーデバイス等として広く産業界に使用されている。
【0003】
特許文献1では、セラミックス粉末とそれに無機バインダーを加えて硬化させた中間成型体(プリフォーム)を製造し、粉末以外の気孔にアルミニウム合金等の溶湯を高圧プレス浸透させて複合化させる方法が提案されている。このアルミニウム高圧含浸法によれば、特有の中間成型体(プリフォーム)に、高圧で強制的にアルミニウム合金等の溶湯を含浸することで、セラミックス粉末が均一に分布したアルミニウム合金基複合材料(MMC)を簡便に作製することができる。上記した製造方法は、複合化させる材料に、セラミックス粉末からなる粉末充填体を用いるアルミニウム合金基複合材料(MMC)にも適用できる。
【0004】
特許文献2では、セラミックス粉末にMg粉末を添加した特有の中間成型体(プリフォーム)を窒素の雰囲気中置き、これにアルミニウム合金を非加圧で浸透させて複合化させる方法が提案されている。この方法の原理は、Mgと窒素の雰囲気でセラミックスとAl合金等の濡れ性を向上させて、いわゆる毛管現象を促進してプリフォームの空隙内にアルミニウム合金等の溶湯を浸透させることにある。この製造方法によれば、セラミックス充填率を高くして空隙を少なくすることでセラミックスの充填率を高くすることができ、その結果、ヤング率、熱伝導率、熱膨張係数等の物性値が高い、セラミックスとアルミニウム合金等とのアルミニウム合金基複合材料(MMC)を製造することができる。また、この製造方法によれば、プリフォームを使用することで、プリフォームの形状のままアルミニウム合金等を浸透させることができ、製品形状に近いニアネットでMMC複合体を製造することができる。
【0005】
また、上記した製造方法以外の、下記の鋳造方法によってもアルミニウム合金基複合材料(MMC)を製造することができる。この方法では、炭化けい素又はアルミナ等のセラミックス粉末をアルミニウム合金等の溶湯に入れて高速撹拌を行って、セラミックス粉末を含有させたアルミニウム合金等の溶湯を作製するか、セラミックス粉末にMgを加えた混合粉末に窒素雰囲気中、非加圧でアルミニウム合金等を含浸した複合体を均一に混合溶解して鋳造用溶湯を作製し、鋳砂型金、金型、ロストワックス型等の、慣用の型に鋳造して、セラミックスとアルミニウム合金との複合体を製造する。
【0006】
さらに、下記のHIP(熱間等方圧加圧法:Hot Isostatic Pressing)法を利用した製造方法によっても、アルミニウム合金基複合材料(MMC)を製造することができる。具体的には、セラミックス粉末にアルミニウム合金等をメカニカルアロイングコーティイングした粉末の成型体を、焼成及びそれに続くHIPによる高圧等方プレスをしてセラミックス粉末とアルミニウム合金等との複合体を製造する、いわゆるSupuremex法が知られている。また、これに類似した方法として、セラミックス粉末を混合したアルミニウム合金等の溶湯を噴霧堆積して複合体堆積体を製造し、この堆積物は気孔を含んでいるので、HIP処理してポアを除去して複合体を製造する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6837685号公報
【特許文献2】特許第6984926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らは、上記した従来のアルミニウム合金基複合材料(MMC)の製造方法では、下記に挙げるような課題があり、より機能性に優れたアルミニウム合金基複合材料に改善する余地があるとの認識をもった。
【0009】
先に説明したアルミニウム合金等の溶湯を高圧で含浸させる高圧含浸法では、粉末充填体又はプリフォームの粉末自体の体積%は、粉末の性状によって決まり、その体積率は、50体積%超のものしか製造できなかった。高圧含浸法では、粉末充填体又はプリフォームの隙間気孔にアルミニウム合金等の溶湯を含浸させるので、金属粉末、セラミックス粉末の体積を少なくし、アルミニウム合金等を多くすることは難しい。このため、高圧含浸法で、加工性がよく、しかもアルミニウム合金等の含浸量が多い複合体を製造することは困難であった。すなわち、アルミニウム合金等の溶湯を高圧で含浸させる方法では、セラミックス粉末、金属粉末の体積率が50%以下で、しかも加工性のよい複合体を製造することができなかった。また、通常、複合化させる強化材等として、約10μm以上の金属粉末やセラミックス粉末を使用するので、加工工具への負荷が大きくなり、上記した高圧含浸法で得られたアルミニウム合金基複合材料(MMC)は、加工性に劣るものになるという課題があった。
【0010】
また、先に説明したアルミニウム合金等の溶湯を、非加圧でプリフォームの空隙に浸透させて複合化させる方法の場合も、粉末を成形してプリフォームの空隙にアルミニウム合金等の溶湯を含浸させるが、空隙が50体積%超のプリフォーム、すなわち、粉末の充填率が50体積%以下であるアルミニウム合金基複合材料を製造することはできなかった。
【0011】
また、先に説明した鋳造方法においても下記の課題がある。まず、鋳造方法では、アルミニウム合金等の中のセラミックス粉末の含有量が高くなると溶湯の流れ性が悪くなるので、一般的に、セラミックスの含有体積量の上限は、30体積%程度であるとされている。一方、鋳造法に使用されているSiC粉末等のセラミックス粉末の粒径は、鋳造性を維持するため15μm以上と大きいことを要する。このため、SiC体積%が30%以下と低いにも係わらず加工性が低く、得られるアルミニウム合金基複合材料は、ダイヤモンド工具でしか加工できず、加工性に劣るものになる。また、別の問題として、溶湯が、鋳造時に空気を巻き込み易いので、欠陥のない複合材料が得られにくいとされている。
【0012】
また、先に説明したHIP法を利用した製造方法では、主成分の金属原料として金属粉末を使用しているので製造工程で金属粉末の表面が酸化され易く、複合体の強度がでにくい上に、複雑な工程のHIP処理が必要であるのでコストが高いという実用上の大きな課題がある。
【0013】
従って、本発明の目的は、従来の製造技術では実現できていなかった、高強度でありながら良好な加工性を有し、さらに製造コストの抑制が可能である、工業上の利用性の面でも有用な実用価値の高いアルミニウム合金基複合体及び該複合体の製造方法についての新たな技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の高強度金属基複合体を提供する。本発明における「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(メジアン径)である。
[1]平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下である、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末からなる多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)に、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸・充填されてなる複合体であり、該複合体は、前記微細粉末の充填率が10体積%以上、50体積%以下で、且つ、その曲げ強度が500MPa以上、800MPa以下であることを特徴とする高強度金属基複合体。
【0015】
上記高強度金属基複合体の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[2]前記混合粉末の微細粉末を構成する、前記金属粉末が、シリコン粉末、鉄粉末、ステンレス粉末、銅粉末及びチタン粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、前記セラミックス粉末が、アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、炭化けい素粉末、窒化けい素粉末及び窒化アルミニウム粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、さらに、前記混合粉末を構成する、前記微細粉末と前記アルミニウム・アルミニウム合金粉末との配合割合が、10:90~90:10である上記[1]に記載の高強度金属基複合体。
[3]さらに、前記混合粉末は、シリカ系バインダー及びアルミナ系の有機無機バインダーからなる群から選ばれる1種以上のバインダーが質量基準で、0.5%以上、10%以下の範囲内で外添加されてなる上記[1]又は[2]に記載の高強度金属基複合体。
【0016】
本発明は、別の実施形態として、下記の高強度金属基複合体の製造方法を提供する。
[4]平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下である、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末を用いて、多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)を得、得られた充填体又は成型体(プリフォーム)に、
アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を、圧力20MPa以上、200MPa以下の高圧で含浸・充填して複合化させて、
前記微細粉末の充填率が10体積%以上、50体積%以下であり、且つ、その曲げ強度が500MPa以上、800MPa以下である金属基複合体を得ることを特徴とする高強度金属基複合体の製造方法。
【0017】
[5]平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下である、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群から選ばれる1種以上のアルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末に、さらに、該混合粉末100質量部に、マグネシウム粉末を0.5質量部以上、10質量部以下の範囲で添加したMg粉末含有の混合粉末を用いて、多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)を得、得られた充填体又は成型体(プリフォーム)に、
非加圧で、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を含浸・充填して複合化させて、
前記微細粉末の充填率が10体積%以上、50体積%以下であり、且つ、その曲げ強度が500MPa以上、800MPa以下である金属基複合体を得ることを特徴とする高強度金属基複合体の製造方法。
【0018】
上記[4]又は[5]の高強度金属基複合体の製造方法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[6]前記混合粉末の微細粉末を構成する、前記金属粉末が、シリコン粉末、鉄粉末、ステンレス粉末、銅粉末及びチタン粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、前記セラミックス粉末が、アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、炭化けい素粉末、窒化けい素粉末及び窒化アルミニウム粉末からなる群から選ばれるいずれかであり、さらに、前記混合粉末を構成する、前記微細粉末と前記アルミニウム・アルミニウム合金粉末との配合割合が、10:90~90:10である上記[4]又は[5]に記載の高強度金属基複合体の製造方法。
[7]前記混合粉末として、さらに、シリカ系バインダー及びアルミナ系の有機無機バインダーからなる群から選ばれる1種以上のバインダーを質量基準で、0.5%以上、10%以下の範囲内で外添加して用いる上記[4]~[6]のいずれかに記載の高強度金属基複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
上記本発明によれば、金属粉末及び/又はセラミックス粉末からなる強化材の体積%が50体積%以下であり、その曲げ強度が500MPa以上と高強度で、しかも良好な加工性を示す、従来の製造技術では実現できていなかった実用価値の高い金属基複合体製品の提供が可能になる。さらには、上記した優れた特性の金属基複合体を簡便な方法で製造することができる、製造コストが抑制された実用性の面からも極めて有用な金属基複合体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の高強度金属基複合体を非加圧で製造する方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0022】
先に述べたように、これまで金属粉末及び/又はセラミックス粉末からなる強化材と、アルミニウム合金等のマトリックス材との複合体の製造方法としては、上記強化材の充填体或いは成型体(プリフォーム)に、高圧含浸又は非加圧浸透で、溶融したアルミニウム合金等の溶湯を含浸する方法が採用されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記した製造方法では、例えば、金属粉末やセラミックス粉末の充填率が50体積%以下のプリフォームを作製する場合に粒子の充填率が低いため、形状を保持することが難しく、高圧含浸法又は非加圧浸透法に耐え得るプリフォームを作製することは困難であった。すなわち、従来技術では、空隙が50体積%以上の多孔質のプリフォームを造ることが困難であるため、高圧含浸又は非加圧浸透でアルミニウム合金等のマトリックス材が50体積%超の金属基複合体は製造できていなかった。上記では、成型体(プリフォーム)を例に挙げて説明したが、成型体(プリフォーム)のようにプレスによる積極的な成形をすることなく、原料粉末を金属箱等に詰めて振動成形等した充填体も一般的に体積率が50%以上になるので、成型体(プリフォーム)を用いた複合体の場合と同様に複合体の加工性が悪くなるといった課題がある。以下、金属粉末やセラミック粉末の充填体或いは成型体(プリフォーム)のことを「プリフォーム等」とも呼ぶ。
【0023】
上記した従来技術における、金属粉末やセラミックス粉末からなる充填率が50体積%以下のプリフォーム等を作製することの困難性に対し、本発明者らは鋭意検討した結果、下記のように構成することで課題を解決できることを見出した。具体的には、金属基複合体を構成する、アルミニウム合金等の溶湯を含浸・充填させる金属粉末やセラミック粉末からなるプリフォーム等の構成を下記のようにすることで、上記課題を解決することができる。まず、上記の目的に対し、プリフォーム等の形成に用いる金属粉末やセラミック粉末に、平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である微細な材料を用いることが有効である。そして、上記した微細な金属粉末及び/又はセラミックス粉末に、平均粒径が10μm以上、300μm以下の、アルミニウム合金等の粉末を加えた混合粉末を用い、該混合粉末からなるプリフォーム等を作製することで、上記した課題を解決できることを見出した。先述したように、本発明で規定する「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径、いわゆる50%メジアン径である。
【0024】
具体的には、上記した微細な金属粉末及び/又はセラミックス粉末(以下、「金属粉末等の微細粉末」とも呼ぶ)に、これらの粉末よりも粒径サイズが大きいアルミニウム合金等の粉末をさらに加えた特有の混合材料でプリフォーム等を作製し、得られたプリフォーム等にアルミニウム合金等の溶湯を含浸させることで、金属基複合体を構成するアルミニウム合金等の量が50体積%超となることが実現できることを見出して本発明に至った。すなわち、本発明の金属基複合体を構成するアルミニウム合金等の量は、プリフォーム等の形成材料に予め添加したアルミニウム合金等の粉末に起因する量と、溶融して含浸させたアルミニウム合金等の溶湯の量の総和になる。上記のように構成することで、本発明の金属基複合体は、金属基複合体を構成するアルミニウム合金等が50体積%超となる従来にない新しい構成のものになる。
【0025】
上記した本発明の高強度金属基複合体は、「アルミニウム合金等の粉末」を加えた混合粉末からなる多孔質のプリフォーム等に、「溶融したアルミニウム合金等」を含浸・充填させてなる複合体であることから、上記「アルミニウム合金等の粉末」の一部又は全部が融解して形態が変化する場合があり得る。このため、本発明の高強度金属基複合体は、物の発明として構造又は特性によって直接特定できていない部分が存在するとえいえる。しかしながら、この点については、本発明の高強度金属基複合体を構成する多孔質のプリフォーム等の複雑な多孔に、アルミニウム合金等の溶湯が含浸・充填することで生じる、多孔質のプリフォーム等を形成している金属粉末の個々における溶解の程度や、溶解の状態は、当然のことながら様々であり、このような多孔質のプリフォーム等を形成している金属粉末に生じる個々に異なる微視的な溶解状態を、物の構造又は特性によって直接特定することは不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情がある。このような事情が存在することが明らかであることから、物の発明である本発明の高強度金属基複合体では、「アルミニウム・アルミニウム合金粉末を加えた混合粉末からなる多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)に、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸・充填されてなる複合体」とする、複合体の製造方法で物を特定した。
【0026】
本発明の金属基複合体の製造方法では、上記したように、従来の金属粉末或いはセラミックス粉末のみからなるプリフォーム等の作製方法とは異なり、原材料に、微細な金属粉末或いはセラミックス粉末よりも大きいサイズのアルミニウム合金等の粉末を加えて多孔質のプリフォーム等を作製し、さらに、プリフォーム等の空隙にアルミニウム合金等の溶湯を含浸することで、アルミニウム合金等の体積%を50%超とすることを実現し、この結果、加工性に優れ且つ高強度な金属基複合材を造ることを可能にしている。
【0027】
具体的には、上記した配合からなる本発明の金属基複合体は、その曲げ強度が500MPa以上、例えば、550MPa以上、さらには700MPa以上の強度の高い金属基複合体となる。さらに驚くべきことに、本発明の金属基複合体は、上記した高い曲げ強度を有するにもかかわらず、加工性が良好であり、従来の複合体では実現できていなかった超硬工具での加工が可能であることを確認した。上記曲げ強度は、JIS R1601に準じて測定した値である。具体的には、JIS R1601に準拠して、規定する寸法の試験片を作製し、3点曲げ試験とすることで測定した値である。また、25℃(室温)で測定した値である。
【0028】
本発明の金属基複合体の製造方法によれば、プリフォーム等の形成材料として、金属粉末等の微細粉末と、併用するアルミニウム合金等粉末の比率を自由に変えることができるので、最終的な金属基複合材における、金属粉末等の微細粉末とアルミニウム合金等の比率も自由に設計することができる。さらに、本発明の製造方法では、プリフォーム等の形成材料に用いる金属粉末等の微細粉末の、材質や、本発明で規定する範囲内で決定される粒径を自由に設計可能であるので、所望の特性の金属基複合を得ることができる。例えば、本発明者らの検討によれば、金属粉末等の微細粉末の平均粒径が小さい程、最終的な金属基複合材の強度が大きくなる。以下に、本発明の金属基複合体及び金属基複合体の製造方法の詳細について説明する。最初に本発明の金属基複合体の製造方法について説明する。
【0029】
[本発明の金属基複合体の製造方法]
先に説明したように、本発明の製造方法は、プリフォーム等の形成材料に、アルミニウム合金等の粉末を予め添加することで、最終的に得られる金属基複合体のアルミニウム合金等の体積%を50%超にすることを可能にした全く新しい製造方法である。すなわち、本発明では、原料に使用する金属粉末等の微細粉末の平均粒径によって最終的に得られる金属基複合体の物性値に及ぼす効果的な影響を、従来の、金属粉末又はセラミックス粉末のみからなるプリフォーム等を用いて金属基複合体を製造する方法とは異なり、下記の手順で金属基複合体を得ることで実現可能にした。
【0030】
(1)微細な金属粉末或いはセラミックス粉末
本発明の金属基複合体の製造方法では、多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)の形成材料として、平均粒径が0.3μm以上、8μm以下である金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末を使用する。金属粉末は特に限定されないが、例えば、シリコン粉末、鉄粉末、ステンレス粉末、銅粉末及びチタン粉末等からなる群から選ばれる少なくともいずれかなどが挙げられる。また、セラミックス粉末としては、例えば、アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、炭化けい素粉末、窒化けい素及び窒化アルミニウム粉末等からなる群から選ばれるいずれかなどが挙げられる。そして、上記いずれの材料を用いた場合も、本発明では、金属粉末或いはセラミックス粉末として、本発明で規定する平均粒径の範囲内の微細なものを用いることを要する。具体的には、平均粒径が、0.3μm以上、8μm以下の範囲内のものを用いる。金属粉末或いはセラミックス粉末の粒子径を8μm以下にする理由は、それよりも大きい材料を用いると、アルミニウム合金等の溶湯を含浸後、金属粉末或いはセラミックス粉末とのアルミニウム合金等の界面が大きくなり過ぎて、最終製品である金属基複合体の強度が落ちるからである。一方、0.3μm以上とするのは、これよりも小さくしても得られる金属基複合体の強度があまり変わらないのと、粉末が微細過ぎると凝集しやすく、混合粉末から形成されてなるプリフォーム等中への強化材の均一分散が損なわれる恐れがあるからである。
【0031】
(2)アルミニウム粉末・アルミニウム合金粉末
本発明の金属基複合体の製造方法では、多孔質の充填体又は成型体(プリフォーム)の形成に、上記した金属粉末等の微細粉末に、平均粒径が10μm以上300μm以下のアルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末を加えた混合粉末を用いることを特徴とする。本発明者らの検討によれば、このように構成することで、本発明の金属基複合体では、強化材として機能する金属粉末等の微細粉末の体積率を所望するものにコントロールすることができる。すなわち、多孔質のプリフォーム等の形成材料にアルミニウム合金等の粉末を加えることにより、次の工程で、多孔質のプリフォーム等の空隙に含浸させた溶融したアルミニウム合金等の溶湯と合わせて、最終製品である金属基複合体のアルミニウム合金等の全体量をコントロールすることができる。このように、本発明によれば、最終製品である金属基複合体を構成する、金属粉末及びセラミックス粉末からなる群から選ばれる1種以上の微細粉末と、アルミニウム合金等の比率を変えて所望の物性値にすることができる。
【0032】
本発明の金属基複合体を構成する、本発明を特徴づける多孔質のプリフォーム等の形成に用いるアルミニウム合金等の粉末には、平均粒径が10μm以上、300μm以下の粉末を使用する。10μm未満では凝集しやすくなり、併用する金属粉末等の微細粉末との均一の混合できにくくなる。一方、300μm超ではアルミニウム合金等の粉末が大き過ぎて、混合粉末に併用する金属粉末等の微細粉末との均一性が損なわれ、プリフォーム等の強度が低下する恐れがある。下記に説明するように、多孔質のプリフォーム等を形成する混合粉末に上記した特有の粒径のアルミニウム合金等の粉末を添加することで、最終製品である金属基複合体を構成する、強化材として機能する金属粉末及び/又はセラミックス粉末の体積率をコントロールすることができる。
【0033】
例えば、本発明で使用する、セラミックス粉末及び/又は金属粉末と、アルミニウム合金等の粉末の混合粉末から作製した成型体(プリフォーム)の粉末体積%は、使用する粉末の粒度、混合比率で異なるものの、全体で50~60体積%、空隙が40~60体積%となるのが一般的である。従って、多孔質のプリフォーム等の空隙に含浸させるアルミニウム合金等の溶湯と、本発明を特徴づける、成型体等に添加したアルミニウム合金等の粉末で、金属粉末等の体積%をコントロールすることができることになる。すなわち、アルミニウム合金等の粉末の添加量が多くなれば、最終製品である金属基複合体に占める金属粉末等の微細粉末の体積%を低減させることができる。この結果、本発明によれば、金属粉末及び/又はセラミックス粉末だけではできなかった体積率50%以下の良好な金属基複合体の製品の製造が可能になる。本発明を特徴づけるアルミニウム合金等の粉末は、最終的に所望する金属粉末及び/又はセラミックス粉末の体積率にするために、添加量を変えて用いればよい。その添加量は特に限定されない。概略ではあるが、使用する金属粉末及び/又はセラミックス粉末と、添加するアルミニウム合金等の粉末の全体積%が50~70%であるので、必要に応じてアルミニウム合金等の粉末の添加割合を変えて、多孔質の空隙に含浸させる溶融したアルミニウム合金等の溶湯の含浸量を加味して、全体のアルミニウム合金等の量をコントロールすることができる。
【0034】
本発明の金属基複合体を構成する微細な金属粉末としては、例えば、シリコン粉末、鉄粉末、ステンレス粉末、銅粉末及びチタン粉末等が挙げられる。また、本発明の金属基複合体を構成する微細なセラミックス粉末としては、例えば、アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、炭化けい素粉末、窒化けい素粉末及び窒化アルミニウム等が挙げられる。本発明では、上記に挙げたような金属粉末やセラミックス粉末から選ばれた1種類又は2種類以上の粉末を用いることができる。
【0035】
本発明の金属基複合体は、上記に挙げたような金属粉末やセラミックス粉末と、先に説明したアルミニウム合金等の粉末との混合粉末からなる多孔質のプリフォーム等に、アルミニウム合金の溶湯が加圧或いは非加圧で含浸・充填されて、上記混合粉末が下記のような割合で配合されてなるものであることが好ましい。すなわち、混合粉末における金属粉末等の微細粉末とアルミニウム合金等の粉末との配合割合が、10:90~90:10であることが好ましい。上記アルミニウム合金等の粉末に対する金属粉末等の微細粉末の比率が、10:90よりも少ない場合は、最終製品の金属基複合体において強化材として機能する金属粉末等の微細粉末の割合が少なくなり過ぎて、所望する強度向上効果が得られない場合があるので好ましくない。一方、アルミニウム合金等の粉末に対する金属粉末等の微細粉末の比率が、90:10を超える場合は、金属基複合体を構成する金属粉末等の微細粉末の割合が多くなり過ぎて、最終製品の金属基複合体の加工性が劣ることになるので好ましくない。
【0036】
本発明の金属基複合体では、該複合体の強度を向上させるために、0.3μm以上、8μm以下の微細な、金属粉末等の微細粉末を使用し、一方、このような微細粉末を使用すると静電気による凝集が発生しやすいので、10μm~300μmの比較的大きいアルミニウム合金等の粉末を添加した混合粉末を用いる。このように構成することで、強化材である金属粉末及び/又はセラミックス粉末の凝集を押さえる副次的な効果も得られ、最終的に、均一に分散した金属粉末及び/又はセラミックス粉末と、アルミニウム合金等からなる良好な金属基複合体を実現することができる。また、非加圧浸透の方法でアルミニウム合金等の溶湯を成型体等に含浸させる場合、従来技術では、多孔質のプリフォーム等の作製に平均粒径が1μm以下の金属粉末やセラミックス粉末を使用すると、気孔が小さ過ぎて溶湯が含浸しくいといった課題があった。しかし、本発明の技術によれば、下記の効果もあり、課題を解決できる。すなわち、本発明の金属基複合体では、多孔質のプリフォーム等の作製に平均粒径が10μm以上、300μm以下のアルミニウム合金等の粉末を加えることで気孔が大きくなるので、上記した非加圧浸透の方法を適用した場合においても、アルミニウム合金等の溶湯が含浸しやすくなる。
【0037】
(3)混合粉末の調製
上記で説明した、金属粉末等の微細粉末に、添加させる平均粒径が10μm~300μmのアルミニウム合金等の粉末からなる混合粉末は、慣用の混合機を使用して均一に混合することで容易に得られる。そして、本発明では、調製した特有の混合粉末を用いて多孔質のプリフォーム等を得る。上記したような微細粉末を使用すると充填性が低いので、例えば、プレス成形、CIP及び沈降法等の方法で成型体(プリフォーム)を得る際には、必要に応じて、混合粉末にバインダーを併用するとよい。バインダーとしては、エチルシリケート、シリコーン、水ガラス等の無機バインダーや、アルミニウムアルコキシド等アルミナ系の無機バインダーや有機無機バインダーを好適に用いることができる。バインダーの使用量としては、質量基準で、0.5%以上、10%以下の範囲内で混合粉末に添加することが好ましい。成型体(プリフォーム)の成形性をより高めるために、上記に挙げたような無機系のバインダーに加えて、例えば、PVA、PVB等の有機バインダーを追加添加してもよい。
【0038】
(4)プリフォーム等の作製
上記のような構成の混合粉末を用いて作製したプリフォーム等は、その後の操作がし易いように、例えば、200℃~700℃程度の温度で焼成するとよい。強化材として金属粉末を使用する場合は、酸化されないように焼成温度は700℃以下とすることが望ましい。また、非加圧浸透法を用いてアルミニウム合金等の溶湯を含浸させるため、混合粉末にMg粉末を添加して使用する場合は、焼成した際にMgが酸化劣化しないように、焼成温度を500℃以下にすることが望ましい。
【0039】
(5)アルミニウム合金等の溶湯の高圧含浸
本発明の高強度金属基複合体の製造方法では、高圧含浸又は非加圧浸透のいずれの方法であっても、上記のようにして得た多孔質のプリフォーム等に、アルミニウム合金等の溶湯を良好な状態に含浸・充填させて金属基複合体を得ることができる。高圧含浸の方法を用いる場合は、例えば、約700℃~800℃のアルミニウム合金等の溶湯を、例えば、20MPa~200MPa程度の圧力で含浸させる。20Mpa未満の圧力では圧力が低過ぎるので、十分に含浸しないことが懸念される場合があるので好ましくない。一方、200MPa超でも含浸することが可能であるが、エネルギーコストや圧力容器のライフを考慮すると200MPa以下の圧力で十分である。
【0040】
(6)アルミニウム合金等の溶湯の非加圧浸透
非加圧浸透の方法、いわゆるランクサイド法でアルミニウム合金等の溶湯を含浸させる場合は、使用する混合粉末として、金属粉末等の微細粉末と、アルミニウム合金等の粉末との合計100質量部に対して、Mg粉末を0.5~10質量部を添加したものを用いることを要す。そして、上記の混合粉末を用いて得られた多孔質のプリフォーム等に、例えば、窒素雰囲気下、700℃~900℃で、非加圧でアルミニウム合金等の溶湯を浸透さて含浸させることで、良好な金属基複合体を得ることができる。
【実施例0041】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
平均粒径5μmのSiC粉末1200gと、平均粒径25μmのA6061系アルミニウム合金粉末800gをプラスチック製のポットに入れ、アルミナボールを入れ2時間混合した。これに、エチルシリケート加水分解液100gをSiO2に換算して40g含まれるように加えて、さらに30分間混合した。これを内寸200mm×200mmの型に入れて、45tの圧力でプレス成形した。さらに500℃で2時間焼成して、SiC粉末とアルミニウム合金粉末とを含む成型体(プリフォーム)を作製した。得られた成型体を金属型に入れ、750℃で溶融したA6061系のアルミニウム合金の溶湯を流し込んで、100MPaの圧力でプリフォームに含浸させて複合体を鋳造した。
【0043】
上記した方法で得られた複合体は、SiC微粉末が30体積%、残部が70体積%の、アルミニウム合金基複合体であった。得られた複合体から規定する寸法の測定用の試験片を切り出し、試験片を用いてJIS R1601に準じて複合体の曲げ強度を、室温で測定した。他の例についても同様の方法で測定した。測定結果は740MPaであり、かなり高強度であった。また、得られた複合体は加工性が良好であり、超硬工具で加工することができることが確認された。
【0044】
[実施例2]
実施例1で使用したと同じ平均粒径が5μmのSiC粉末を1200g、平均粒径が25μmのA6061系アルミニウム粉末を800g、これに平均粒径が50μmのMg粉末40gを添加して、実施例1と同様にして2時間混合した。これに、イソプロピルアルコールに溶かしたシリコーン樹脂(商品名:KR-220L、信越化学社製)液を、SiO
2に換算して30g%となる量で添加して、30分間混合した。これを実施例1で行ったと同じ操作でプレス成形及び焼成して、成型体(プリフォーム)を作製した。この成型体から、100mm×100mm×30mmのサイズのプリフォームを切り出した。そして、
図1に示したようにして、非加圧で、プリフォーム1にA6061系のアルミニウム2の溶湯を含浸・充填させて複合化してアルミニウム合金基複合体を作製した。具体的には、
図1に示したように、プリフォーム1と、A6061系アルミニウム2をカーボン製容器4内に設置し、この容器を窒素雰囲気の炉内に入れて、100℃/時間の速度で昇温後、780℃で2時間保持した後、複合体を取り出した。
図1中の3は、プリフォーム1と同材の浸透道を示している。取り出した複合体を測定用に加工して、実施例1と同様の方法で物性値を測定した。
【0045】
実施例2で得られた複合体も、実施例1と同様に、SiC微粉末が30体積%、アルミニウム合金が70体積%のアルミニウム合金基複合体であった。実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は650MPaであり、高強度な複合体であった。また、得られた複合体は加工性が良好であり、超硬工具で加工することができた。
【0046】
[実施例3]
平均粒径が3μmのSiC粉末を800g、平均粒径が30μmのA1050系アルミニウム合金粉末1200gに対し、さらに、エチルシリケート加水分解液100gを、SiO2に換算して40g含まれるように配合して混合し、さらに、実施例1で行ったと同じ要領で、SiC粉末とアルミニウム合金粉末とを含むプリフォームを作製した。そして、得られたプリフォームを用い、実施例1と同じ操作で、A1050系アルミニウム合金の溶湯を高圧含浸させて、本例の複合体を得た。
【0047】
上記で得られた複合体について物性値を測定したところ、SiC微粉末が20体積%、残部が80体積%のアルミニウム合金基複合体であった。実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は700MPaであり、かなり高強度な複合体であった。また、得られた複合体は加工性が良好であり、超硬工具で加工することができた。
【0048】
[実施例4]
平均粒径が5μmの金属シリコン粉末1200gに、平均粒径が25μmのA6061系アルミニウム合金粉末200gを実施例1と同様にして混合し、これにエチルシリケート加水分解液100gをSiO2に換算して40g含まれるように加え、さらに30分混合した。得られた混合物を用い、実施例1と同じ操作で成型体(プリフォーム)を作製した。そして、得られたプリフォームを用い、実施例1と同じ操作で、A6061系アルミニウム合金の溶湯を高圧含浸させて複合体を得た。
【0049】
上記で得られた複合体について物性値を測定したところ、複合体は、シリコン粉末が25体積%、アルミニウム合金粉末が75体積%のアルミニウム合金基複合体であった。実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は580MPaであり、高強度であった。また、得られた複合体は加工性が良好であり、超硬工具で加工することができた。
【0050】
[比較例1]
本発明で規定するよりも平均粒径が大きい14μmのSiC粉末2000gに、実施例1で行ったと同じように、エチルシリケート加水分解物液100gをSiO2に換算して40g含まれるように加え、混合した材料でプリフォームを作製した。そして、得られたプリフォームに、実施例1で用いたと同様のアルミニウム合金の溶湯を含浸して複合体を作製した。比較例1は、SiC粉末の平均粒径が本発明で規定するよりも大きい点と、原料の混合物にアルミニウム粉末等を用いない点で、本発明とは構成が異なる。
【0051】
上記で得られた複合体について物性値を測定したところ、得られた複合体は、SiCが55体積%であり、アルミニウム合金が45体積%の複合体であった。実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は320MPaであり、一般的なアルミニウム合金並みであり、高強度の複合体ではないことが確認された。また、得られた複合体は加工性に劣り、超硬工具で加工することができなかったため、加工をダイヤモンドエンドミルで行った。
【0052】
[比較例2]
本発明で規定するよりも平均粒径が大きい14μmのSiC粉末1200gと、平均粒径25μmの6061系アルミニウム合金粉末800gの混合物を用いた以外は実施例1と同じ操作で、本例の複合体を作製した。得られた複合体の物性値は、SiCが28体積%でアルミニウムが72体積%の複合体であった。実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は330MPaであり、一般的なアルミニウム合金並みであり高強度の複合体ではなかった。また、得られた複合体は加工性に劣り、超硬工具では加工ができず、ダイヤモンドエンドミルで加工を行う必要があった。
【0053】
[比較例3]
本発明で規定するよりも平均粒径が大きい22μmのSiC粉末1200gと、平均粒径が25μmのA6061系アルミニウム合金粉末800gの混合物を用いたこと以外は実施例1と同じ操作で成型体(プリフォーム)を作製した。そして、実施例1と同じ操作で、上記で得られたプリフォームにA6061系アルミニウム合金の溶湯を含浸させて、本例の複合体を得た。
【0054】
得られた複合体の物性値を測定したところ、SiC粉末が31体積%、残部が69体積%のアルミニウム基複合体であった。また、実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は410MPaであり、実施例1~4の複合体よりも低く、一般的なアルミニウム程度の曲げ強度であり、高強度の複合体ではなかった。また、得られた複合体は加工性に劣り、ダイヤモンドの工具でしか加工ができなかった。
【0055】
[比較例4]
本発明で規定するよりも平均粒径が大きい45μmの金属シリコン粉末1200gに平均粒径25μmのA6061系アルミニウム合金粉末800gを用い、実施例1と同じ操作で成型体(プリフォーム)を作製し、実施例1と同じ操作で、該プリフォームにA6061系アルミニウム合金を含浸して複合体を得た。
【0056】
得られた複合体の物性値を測定したところ、45μmの金属シリコン粉末が29体積%、A6061系アルミニウム合金が71体積%の複合体であった。また、実施例1と同様の方法で測定した曲げ強度は270MPaであり、強度の低い複合体であった。
【0057】
[比較例5]
市販されている米国デュラルキャン社製の、SiC粉末30体積%/アルミニウム70体積%の複合材のインゴットを用い、該インゴットを730℃で溶解して、砂型内に鋳造して200mm×200mm×50mm(厚み)の複合体を製造した。これから、実施例1で使用したと同様に測定用の試験片を切り出して、同様の方法で曲げ強度を測定した。その結果、上記で得られた複合体は、曲げ強度が380MPaで強度が低く、また、加工性に劣り、ダイヤモンド工具でしか加工ができなかった。
【0058】
[評価結果のまとめ]
表1に、実施例及び比較例の複合体の調製条件と、得られたそれぞれの複合体についての評価結果をまとめて示した。加工性の評価は、超硬工具で加工ができる複合体については「良好」と評価し、超硬工具での加工ができず、ダイヤモンド工具による加工しかできなかった場合を「不良」と評価した。比較例5では、SiC粉末とアルミニウム金属との市販されている複合材(市販品)を用いた。また、実施例2では、アルミニウム合金の溶湯をプリフォームに非加圧で含浸させた。実施例2以外の例では、いずれも、アルミニウム合金の溶湯をプリフォームに、100MPaの高圧で含浸・充填させた。
【0059】