(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106319
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】キャビティ内変調器を有するレーザ
(51)【国際特許分類】
G02F 1/025 20060101AFI20240731BHJP
H01S 5/14 20060101ALI20240731BHJP
H01S 5/0239 20210101ALI20240731BHJP
【FI】
G02F1/025
H01S5/14
H01S5/0239
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024000835
(22)【出願日】2024-01-05
(31)【優先権主張番号】63/441,424
(32)【優先日】2023-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520078248
【氏名又は名称】マーベル アジア ピーティーイー、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオグアン ヘ
(72)【発明者】
【氏名】ラダクリシュナン ナガラジャン
【テーマコード(参考)】
2K102
5F173
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102AA28
2K102AA29
2K102BA16
2K102BB02
2K102BC04
2K102BC06
2K102BC10
2K102BD02
2K102DA04
2K102DB02
2K102DC07
2K102DD03
2K102EA02
2K102EA16
2K102EA21
2K102EB20
5F173AB34
5F173MC30
5F173MF12
5F173MF15
5F173MF40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅するように構成された利得媒質を備える光電子デバイスを提供する。
【解決手段】光電子デバイスは、所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅するように構成された利得媒質を含む。共振光キャビティは、利得媒質を収容し、且つ、利得媒質の第1及び第2の側に配設された第1及び第2の反射器を含む。第1及び第2の反射器の間のコムフィルタは、利得帯域内の別個の波長サブ帯域のセットを通過させるように構成されており、別個の波長サブ帯域のセットは、コムを画定する。第1及び第2の反射器の間の、コムフィルタと直列の複数の光リング共振器は、コムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接した調整可能な共振波長を有する。制御回路は、それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整するように、それぞれの制御電圧を光リング共振器に印加し、デバイスから出力されるレーザ放射におけるサブ帯域を変調する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅するように構成された利得媒質;
前記利得媒質を収容し、且つ、
前記利得媒質の第1の側に配設された第1の反射器;
前記第1の側に対向する、前記利得媒質の第2の側に配設された第2の反射器;
前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に配設され、前記利得帯域内の別個の波長サブ帯域のセットを通過させるように構成されており、別個の波長サブ帯域の前記セットは、コムを画定する、コムフィルタ;及び
前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に、前記コムフィルタと直列に配設され、前記コムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接した調整可能な共振波長を有する、複数の光リング共振器
を有する共振光キャビティ;及び
それぞれの共振波長を前記それぞれの波長サブ帯域に対して調整するよう、それぞれの制御電圧を前記光リング共振器に印加するように結合され、それにより、光電子デバイスから出力される前記レーザ放射における前記波長サブ帯域を変調する、制御回路
を備える、光電子デバイス。
【請求項2】
光学基板を備え、前記コムフィルタ及び前記複数の光リング共振器は前記光学基板上に配設され、前記光学基板上の導波路によって前記利得媒質と相互接続されている、請求項1に記載の光電子デバイス。
【請求項3】
前記利得媒質及び前記第1の反射器は、アクティブ光チップ上で反射型半導体光増幅器(RSOA)を画定し、前記導波路及び前記第2の反射器は、前記アクティブ光チップの外部で前記RSOAに結合され、前記コムフィルタ及び前記光リング共振器を収容するレーザキャビティを画定する、請求項2に記載の光電子デバイス。
【請求項4】
前記利得媒質は、III-V族半導体材料を有し、前記アクティブ光チップの外部で結合された前記レーザキャビティは、前記コムフィルタ及び前記光リング共振器が配設されているシリコンフォトニック集積回路(PIC)を有する、請求項3に記載の光電子デバイス。
【請求項5】
前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に、前記コムフィルタと直列に配設された帯域通過フィルタを備え、前記帯域通過フィルタは、前記コム内の前記波長サブ帯域のサブセットを包含する通過帯域を有する、請求項1に記載の光電子デバイス。
【請求項6】
前記共振光キャビティの位相を調整するために、前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に、前記コムフィルタと直列に配設された位相調整器を備える、請求項1に記載の光電子デバイス。
【請求項7】
前記光リング共振器の各々は、それぞれの共振リングを備え、前記制御回路は、前記制御電圧を調節して前記共振リングの有効屈折率を修正し、それにより、前記それぞれの共振波長を調整するように構成されている、請求項1に記載の光電子デバイス。
【請求項8】
前記光リング共振器の各々は、前記それぞれの共振リングに近接した半導体接合部を備え、前記制御電圧は、前記半導体接合部にバイアスをかけることによって前記有効屈折率を修正する、請求項7に記載の光電子デバイス。
【請求項9】
前記制御回路は、前記それぞれの共振波長を前記それぞれの波長サブ帯域に対して調整することにより、前記波長サブ帯域をオン及びオフに切り替えるように構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項10】
前記制御回路は、前記それぞれの共振波長を前記それぞれの波長サブ帯域に対して調整することにより、前記波長サブ帯域のそれぞれの強度を調節するように構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の光電子デバイス。
【請求項11】
共振光キャビティにおける所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅するように構成された利得媒質を挿入する段階、前記共振光キャビティは、前記利得媒質の第1の側に配設された第1の反射器、及び、前記第1の側に対向する、前記利得媒質の第2の側に配設された第2の反射器を有する;
前記共振光キャビティ内の前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間にコムフィルタを挿入する段階、前記コムフィルタは、前記利得帯域内の別個の波長サブ帯域のセットを通過させるように構成されており、別個の波長サブ帯域の前記セットは、コムを画定する;
前記共振光キャビティ内の前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に、前記コムフィルタと直列に複数の光リング共振器を挿入する段階、前記光リング共振器は、前記コムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接した調整可能な共振波長を有する;及び
それぞれの共振波長を前記それぞれの波長サブ帯域に対して調整するよう、それぞれの制御電圧を前記光リング共振器に印加し、それにより、光電子デバイスから出力される前記レーザ放射における前記波長サブ帯域を変調する段階
を備える、放射線を生成するための方法。
【請求項12】
前記コムフィルタ及び前記複数の光リング共振器を挿入する段階は、光学基板上に前記コムフィルタ及び前記光リング共振器を形成する段階、及び、前記光学基板上の導波路を通じて前記利得媒質を前記コムフィルタ及び前記光リング共振器に結合する段階、を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記利得媒質を挿入する段階は、前記利得媒質及び前記第1の反射器を含む反射型半導体光増幅器(RSOA)をアクティブ光チップ上に提供する段階を有し、前記利得媒質を前記コムフィルタ及び前記光リング共振器に結合する段階は、前記アクティブ光チップの外部にあり、前記導波路及び前記第2の反射器によって画定され、前記コムフィルタ及び前記光リング共振器を収容するレーザキャビティを前記RSOAに結合する段階を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記利得媒質は、III-V族半導体材料を有し、前記レーザキャビティを結合する段階は、前記コムフィルタ及び前記光リング共振器が配設されているシリコンフォトニック集積回路(PIC)を提供する段階を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に、前記コムフィルタと直列に帯域通過フィルタを挿入する段階を備え、前記帯域通過フィルタは、前記コム内の前記波長サブ帯域のサブセットを包含する通過帯域を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記共振光キャビティ内の前記レーザ放射の位相を調整するために、前記第1の反射器及び前記第2の反射器の間に、前記コムフィルタと直列に位相調整器を挿入する段階を備える、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記光リング共振器の各々は、それぞれの共振リングを含み、前記それぞれの制御電圧を印加する段階は、前記制御電圧を調節して前記共振リングの有効屈折率を修正し、それにより、前記それぞれの共振波長を調整する段階を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記光リング共振器の各々は、前記それぞれの共振リングに近接した半導体接合部を含み、前記制御電圧を調節する段階は、前記半導体接合部にバイアスをかける段階を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記それぞれの制御電圧を印加する段階は、前記それぞれの共振波長を前記それぞれの波長サブ帯域に対して調整することにより、前記波長サブ帯域をオン及びオフに切り替える段階を有する、請求項11から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記それぞれの制御電圧を印加する段階は、前記それぞれの共振波長を前記それぞれの波長サブ帯域に対して調整することにより、前記波長サブ帯域のそれぞれの強度を調節する段階を有する、請求項11から18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2023年1月26日に出願された米国仮特許出願63/441,424の利益を主張するものであり、これは、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して光電子デバイスに関し、特に半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0003】
波長領域多重(Wavelength Domain Multiplexing:WDM)は、異なるキャリア波長を有する複数の通信信号が同じ光ファイバを介して伝送されることを可能にするために、高速光通信において一般的に使用されている。一部のWDMデバイスは、複数の波長でキャリア波を同時に提供するために、単一のレーザを使用して、波長のコム(comb)で放射線を放出する。本明細書及び特許請求の範囲において使用される「コム」という用語は、波長において等しいステップだけ離間されたそれぞれの中心波長を有する、別個のスペクトルサブ帯域のセットを指す。「コムフィルタ」という用語は、そのようなコムで構成された通過帯域を有する光フィルタを指し、従って、コムフィルタは、セット内のサブ帯域間の波長を遮断しながら、セット内の別個のスペクトルサブ帯域のいずれかにおいて波長を有する光を通過させる。「光」及び「光放射」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲において同義的に使用され、赤外、可視、及び紫外スペクトル範囲のいずれかにおける電磁放射を指す。
【0004】
殆どのレーザは単一波長で動作するが、コム出力を有するレーザが当技術分野において知られている。例えば、Zhangらは、Optics Express23:4(2015年)、4666~4671頁に掲載された「Quantum dot SOA/silicon external cavity multi-wavelength laser」と題する論文において、多波長レーザについて説明している。本論文において説明されているデバイスは、量子ドット反射型半導体光増幅器、及び、サニャックループミラー及びマイクロリング波長フィルタを有するシリコンオンインシュレータチップで構成されている。著者らは、単一のキャビティからの4つの主要なレーザ発振ピークを示した。
【0005】
別の例として、Chenらは、Optics Express23:16(2015年)、21541~21548頁に掲載された"A comb laser-driven DWDM silicon photonic transmitter based on microring modulators"において、リング変調器を有するコムレーザについて説明している。DWDM伝送器は、単一の量子ドットコムレーザ及びマイクロリング共振器ベース変調器のアレイに基づいている。マイクロリングの共振波長は、コムレーザによって提供される波長と整合するように熱的に調整される。
【発明の概要】
【0006】
本明細書の以下で説明される本発明の幾つかの実施形態は、波長のコムで光放射を出力する半導体レーザデバイス、並びに、そのようなデバイスを製造し、動作させるための方法を提供する。
【0007】
従って、本発明の実施形態に従い、所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅するように構成された利得媒質を備える光電子デバイスが提供される。利得媒質を収容する共振光キャビティは、利得媒質の第1の側に配設された第1の反射器、及び、第1の側に対向する、利得媒質の第2の側に配設された第2の反射器を有する。第1及び第2の反射器の間に配設されたコムフィルタは、利得帯域内の別個の波長サブ帯域のセットを通過させるように構成されており、別個の波長サブ帯域のセットは、コムを画定する。第1及び第2の反射器の間にコムフィルタと直列に配設された複数の光リング共振器は、コムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接した調整可能な共振波長を有する。制御回路は、それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整するよう、それぞれの制御電圧を光リング共振器に印加するように結合され、それにより、デバイスから出力されるレーザ放射におけるサブ帯域を変調する。
【0008】
幾つかの実施形態において、デバイスは、光学基板を備え、コムフィルタ及び複数の光リング共振器は光学基板上に配設され、光学基板上の導波路によって利得媒質と相互接続されている。開示された実施形態において、利得媒質及び第1の反射器は、アクティブ光チップ上で反射型半導体光増幅器(Reflective Semiconductor Optical Amplifier:RSOA)を画定し、導波路及び第2の反射器は、アクティブ光チップの外部でRSOAに結合され、コムフィルタ及び光リング共振器を収容するレーザキャビティを画定する。一実施形態において、アクティブ光チップの外部で結合されたレーザキャビティは、コムフィルタ及び光リング共振器が配設されているシリコンフォトニック集積回路(Silicon Photonic Integrated Circuit:PIC)を有する。
【0009】
開示された実施形態において、デバイスは、第1及び第2の反射器の間にコムフィルタと直列に配設された帯域通過フィルタを備え、帯域通過フィルタは、コム内の波長サブ帯域のサブセットを包含する通過帯域を有する。追加的又は代替的に、デバイスは、共振光キャビティの位相を調整するために、第1及び第2の反射器の間にコムフィルタと直列に配設された位相調整器を備える。
【0010】
幾つかの実施形態において、光リング共振器の各々は、それぞれの共振リングを含み、制御回路構成は、制御電圧を調節して共振リングの有効屈折率を修正し、それにより、それぞれの共振波長を調整するように構成されている。開示された実施形態において、光リング共振器の各々は、それぞれの共振リングに近接した半導体接合部を含み、制御電圧は、半導体接合部にバイアスをかけることによって有効屈折率を修正する。
【0011】
一実施形態において、制御回路は、それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整することによりサブ帯域をオン及びオフに切り替えるように構成されている。追加的又は代替的に、制御回路は、それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整することにより、サブ帯域のそれぞれの強度を調節するように構成されている。
【0012】
本発明の実施形態による、放射線を生成するための方法も提供される。方法は、共振光キャビティにおける所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅するように構成された利得媒質を挿入する段階を備える。共振光キャビティは、利得媒質の第1の側に配設された第1の反射器、及び、第1の側に対向する、利得媒質の第2の側に配設された第2の反射器を有する。コムフィルタは、共振光キャビティ内の第1及び第2の反射器の間に挿入される。コムフィルタは、利得帯域内の別個の波長サブ帯域のセットを通過させるように構成されており、別個の波長サブ帯域のセットは、コムを画定する。複数の光リング共振器は、共振光キャビティ内の第1及び第2の反射器の間に、コムフィルタと直列に挿入される。光リング共振器は、コムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接した調整可能な共振波長を有する。それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整するよう、それぞれの制御電圧が光リング共振器に印加され、それにより、デバイスから出力されるレーザ放射におけるサブ帯域を変調する。
【0013】
本発明は、図面と併せて、本発明の実施形態に関する以下の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による、多波長レーザデバイスを概略的に示すブロック図である。
【0015】
【
図2】本発明の実施形態による、調整可能なリング共振器の概略詳細図である。
【0016】
【
図3】本発明の実施形態による、
図2のリング共振器の通過帯域及び阻止帯域スペクトルを概略的に示すスペクトルプロットである。
【0017】
【
図4】本発明の実施形態による、
図2のリング共振器の阻止帯域の調整を概略的に示すスペクトルプロットである。
【0018】
【
図5】本発明の実施形態による、
図1のデバイスの出力を概略的に示すスペクトルプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
WDMアプリケーションにおいて使用される多波長半導体レーザは、通常、広いスペクトル範囲にわたり、波長サブ帯域のコムを放出する。レーザキャビティの外部にある追加的なスイッチ又は変調器は、WDMチャネルを介して伝送される波長サブ帯域の強度を選択及び制御するために使用される。レーザによって出力される光電力の多くが廃棄されるため、この手法はエネルギー効率が低い。
【0020】
本明細書で説明される本発明の実施形態は、レーザデバイスの光キャビティ内に配設されたコムフィルタ及び光リング共振器を使用して、波長サブ帯域を生成及び変調する。これらの実施形態において、所与の利得帯域内でレーザ放射を増幅する利得媒質は、利得媒質の対向する第1及び第2の側に第1及び第2の反射器を有する共振光キャビティ内に収容される。キャビティはまた、直列に配列されたコムフィルタ及び複数の光リング共振器を収容する。コムフィルタは、利得帯域内の別個の波長サブ帯域のセットを通過させる。光リング共振器は、コムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接した調整可能な共振波長を有する。
【0021】
レーザデバイスのスペクトル出力を制御するために、制御回路は、それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整するように、それぞれの制御電圧を光リング共振器に印加する。光リング共振器は、それぞれの共振波長によって決定される波長範囲内のそれぞれの阻止帯域及び通過帯域を有するフィルタとして機能する。制御回路は、従って、各サブ帯域及び対応するリング共振器の共振の間の重なりを制御することによって、デバイスから出力されるレーザ放射におけるコムの波長サブ帯域を変調することができる。このようにして、リング共振器に印加される電圧を切り替えることにより、個々のサブ帯域を迅速にオン及びオフにすることができる。代替的又は追加的に、リング共振器の共振波長をコム内の対応するサブ帯域に対して調整することにより、サブ帯域の強度を、例えば強度を等しくするように、制御することができる。
【0022】
調整可能な光リング共振器を、コムフィルタと共に、外部要素としてではなくレーザキャビティ内に組み込むことにより、レーザによって出力される全ての光電力がコムの所望の波長サブ帯域に集中するため、電力効率の観点において特に有利である。更に、リング共振器を調整し、ひいてはレーザ出力を変調するために必要とされる電力の投資は、ごくわずかである。対照的に、コムのサブ帯域がオン及びオフに切り替えられる、又はそうでなければレーザキャビティの外部で変調される場合、サブ帯域において放出された未使用の又は減衰した電力が無駄になる。本実施形態は、従って、変調された多波長レーザ出力を生成するためのシンプルで効率的な解決策を提供する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態による、多波長レーザデバイス20を概略的に示すブロック図である。デバイス20は、GaAs又はInPなどのIII-V族半導体基板26上のアクティブ光チップ22、及び、光学基板40、例えばシリコンオンインシュレータ(SOI)基板上のフォトニック集積回路(PIC24)を備える。機械的安定性及びコンパクトなパッケージングのために、チップ22は、例えば好適な接着剤を用いて光学基板40に接合され得る。代替的に、チップ22及びPIC24は、別々に取り付けられ、例えば好適な光ファイバによって接続され得る。
【0024】
チップ22は、特定の利得帯域内でレーザ放射を増幅する光利得媒質30、及び、利得媒質30の内端で形成された反射器36を備える反射型半導体光増幅器(RSOA28)を有する。チップ22上の電極32及び34の間に駆動電圧を印加することで、特定の利得帯域にまたがって、例えば、使用される利得媒質のタイプに応じて約1310nm又は1550nmを中心とする数十ナノメートルの帯域にわたって、媒質30内に光利得を生じさせる。利得媒質30は、例えば、これらの利得帯域において光を放出するGaInAsP、AlGaInAs量子井戸、又はInAs量子ドットを有し得る。反射器36は、例えば、分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)、又は、RSOAの後面上の反射防止膜を含み得る。基板26上の導波路38は、反射器36に対向する端部で、RSOAに、又はRSOAから、レーザ放射を伝達する。
【0025】
PIC24は、導波路38に光結合され、反射器50において終端する外部レーザキャビティ42を含む。(キャビティ42は、それが光利得媒質30を収容するチップ22上に位置していないという意味において「外部」である。)反射器50は、デバイス20によって生成される多波長レーザビームがキャビティから出射することを可能にすべく、部分的に反射している。キャビティ42は、キャビティ位相を調節するための位相調整器48と共に、コムフィルタ44及び帯域通過フィルタ46を直列に収容する。この実施形態におけるコムフィルタ44は、フィルタ44がRSOA28の利得帯域内の波長サブ帯域のコムを通過させるように選択されたリング長を有する光リング共振器を有する。従って、多波長レーザデバイス20は、例えば、コム内のサブ帯域間の波長間隔がWDMチャネル間の間隔と等しく設定された、WDM通信アプリケーションのためのビーム源として機能し得る。
【0026】
帯域通過フィルタ46は、コムフィルタ44によって画定されるコム内の波長サブ帯域のサブセットを包含する通過帯域を有する。例えば、帯域通過フィルタによって包含されるサブ帯域のサブセットは、WDMチャネルの波長のセットに対応し得、一方、コムの残りは通過帯域の範囲から外れる。換言すれば、帯域通過フィルタの通過帯域は、帯域通過フィルタがこのサブセット内の波長を最小限にのみ減衰し、一方、サブセット外の波長により強い減衰を適用するという意味において、波長サブ帯域のサブセットを包含する。通常、帯域通過フィルタ46の通過帯域は、利得媒質30の利得帯域よりも狭い。帯域通過フィルタ46はレーザキャビティ内に収容されていることから、通過帯域外の波長でのレーザ活動を抑制するには、(約1~10dBの)弱い減衰のみが必要とされる。帯域通過フィルタ46は、吸収フィルタ、回折フィルタ、又は、1つ又は複数の光リング共振器など、PIC24上での実装に好適な任意の種類のフィルタを有し得る。
【0027】
PIC24上の外部レーザキャビティ42はまた、複数の光リング共振器52、54、...、56を備える多帯域光変調器47をコムフィルタ44と直列に収容する。リング共振器52、54、...、56は、帯域阻止フィルタとして構成されており、コムフィルタ44によって生成されたコムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接したそれぞれの共振波長で、調整可能な阻止帯域を有する。本例において、多帯域光変調器47は、k個の光リング共振器、例えばk=8を有すると仮定される。制御回路58は、それぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整するように、それぞれの制御電圧Vb1、Vb2、...、Vbkを光リング共振器52、54、...、56に印加し、それにより、デバイスから出力されるレーザ放射におけるサブ帯域を変調する。光リング共振器の詳細及びそれらの動作の様式は、以下の図を参照して説明される。
【0028】
「帯域通過フィルタ」及び「帯域阻止フィルタ」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲において、用語の従来の意味で使用される。帯域通過フィルタは、フィルタの「通過帯域」と称される特定の範囲内の波長を通過させ、通過帯域外の波長を減衰させるデバイスである。帯域阻止フィルタは、フィルタの「阻止帯域」と称される特定の範囲内の波長を減衰させ、一方、阻止帯域外の波長を通過させる。通過帯域又は阻止帯域の内側及び外側でフィルタによって適用される減衰の差は、適用要件に応じて大きく又は小さくなり得る。
図1におけるPIC24上のフィルタなどのキャビティ内フィルタの利点は、所与の波長での減衰のごくわずかな差が、所与の波長でのレーザ出力電力に大きな変化を生じさせ得ることである。
【0029】
変調制御回路58は、通常、光リング共振器に制御電圧を印加するための好適なインタフェースを有する、ハードワイヤード又はプログラマブルであり得る電子ハードウェアロジックを備える。以下で説明される実装において、これらの制御電圧はバイアス電圧であり、光リング共振器内の共振リングの有効屈折率を修正し、ひいては、それらのそれぞれの共振波長を調整するために印加される。制御回路58はまた、PIC24から、及び/又は他のソースから、光及び/又は電子フィードバック信号を受信し、それに応じて制御電圧を修正する入力インタフェース(図示せず)を備え得る。代替的又は追加的に、制御回路58は、ソフトウェア又はファームウェアにおけるプログラム命令の制御下で、本明細書で説明される機能の少なくとも幾つかを実行するプログラマブルプロセッサを備え得る。
【0030】
図2は、本発明の実施形態による、調整可能なリング共振器52の概略詳細図である。PIC24上の他のリング共振器54、...、56は、通常、同様の設計である。
【0031】
光リング共振器52は、共振リング64、及び、4つのポート:入力として機能するポート60、出力として機能するポート62及び66、及び、本実施形態においては使用されていない追加ポート67、を備える。ポート66は「ドロップポート」と称され、一方、ポート62は「パスポート」と称される。リング共振器52、54、...、56における場合のように、ポート62が出力ポートとして使用されるとき、リング64上の破壊的干渉は、光リング共振器を、コムフィルタ44の波長サブ帯域のうちの1つに近接した阻止帯域を有するノッチ型帯域阻止フィルタとして機能させる。
【0032】
各光リング共振器52、54...、56の動作は、共振リング64の長さに依存し、これにより、リングの共振波長間の間隔、ゆえに通過又は遮断されるサブ帯域が決定される。阻止帯域の中心波長λCは、共振公式λc=nL/mにより与えられ、ここで、nは共振リング64の有効屈折率、Lは共振リングの長さ(円周)、及びmは整数である。これを基に、光リング共振器の阻止帯域のそれぞれの中心波長が、コムフィルタ44によって生成されたコムの異なるそれぞれの波長サブ帯域に近接したように、光リング共振器52、54...、56における共振リング64の長さが選択される。
【0033】
光リング共振器52の阻止帯域を調整するために、制御回路58(
図1)は、共振リング64の有効屈折率nを修正する制御電圧70を印加する。本例において、光リング共振器52は、共振リング64に近接した半導体接合部68を有する。制御電圧70は、半導体接合部68にバイアスをかけることにより、有効屈折率nを修正する。高速変調の場合、制御電圧70は通常、接合部68にまたがって逆バイアスを印加するように設定されている。
【0034】
代替的に、適用要件に応じて、共振リング64の有効長を調整するために、他の機構、例えば熱調整又は圧電調整が適用され得る。
【0035】
更に代替的に、リング共振器52は、各リング共振器の出力がパスポート62ではなくドロップポート66から取得されるノッチフィルタとして構成され得る。しかしながら、この場合、リング共振器52は、
図1で示される実施形態における場合のように、直列ではなく並列に共に結合され、パスポートからの出力は、単一の導波路へと共に多重化される。
【0036】
図3は、本発明の実施形態による、光リング共振器52の阻止帯域スペクトル72及び通過帯域スペクトル74を概略的に示すスペクトルプロットである。スペクトル72は、入力ポート60から出力ポート62(パスポート)への誘導ビームの透過率(T)を周波数の関数として表し、一方、スペクトル74は、入力ポート60からドロップポート66への透過率を表す。スペクトル72は、それぞれの共振周波数f1、f2、...において複数の阻止帯域を有し、これらは、周波数間隔Δf=c/nLだけ離間しており、ここでcは光の速度である。阻止帯域のうちの1つの中心周波数は、コムフィルタ44(
図1)によって生成されたコムの対応する周波数サブ帯域に近接している。
【0037】
図4は、本発明の実施形態による、光リング共振器52の阻止帯域72の調整を概略的に示すスペクトルプロットである。阻止帯域72の中心波長は、コムフィルタ44によって生成されたコム内の波長サブ帯域のうちの1つの中心波長76、λコムの近くにある。図の例において、制御電圧70をオンに切り替えることにより、シフトされた阻止帯域72aが生じ、これは波長76で最小限の減衰のみを生じさせる。制御電圧70をオフに切り替えることにより、デフォルトの阻止帯域72bがもたらされ、これは中心波長76と一致するため、対応する波長サブ帯域は強く減衰され、ひいてはレーザ出力においてオフに切り替えられる。
【0038】
実際に、中心波長76に対する阻止帯域72のシフトは、制御電圧70の値を調節することによって調整され得る。この調整は、阻止帯域を波長サブ帯域と整合させるため、及び、阻止帯域の端部で波長サブ帯域に適用される減衰(例えば、シフトされた阻止帯域72aによって適用される微小な減衰)を調節するため、の両方に使用され得る。阻止帯域のこの調節は、リング発振器のそれぞれの共振波長をそれぞれの波長サブ帯域に対して調整することにより、デバイス20からの出力におけるサブ帯域のそれぞれの強度を調節する際に有用であり得る。例えば、制御回路58は、コム内の全てのサブ帯域が等しい強度を有するよう、フィードバックに基づき、光リング共振器52、54...、56に印加される制御電圧を設定し得る。
【0039】
図5は、本発明の実施形態による、レーザデバイス20の出力スペクトル78を概略的に示すプロットである。スペクトル78は、等間隔の波長サブ帯域82、84のコムを有し、これは、帯域通過フィルタ46の通過帯域80によって包含される。それぞれの光リング共振器52、54、...、56に印加される電圧の適切な制御により、制御回路58は、サブ帯域82をオンに切り替え、一方、サブ帯域84をオフに切り替えた。スペクトル78におけるサブ帯域は、切り替え電力の最小限の投資のみを伴って、制御電圧70の変調の速度でオン及びオフに切り替えられ得る。
【0040】
このように、上記で説明された実施形態は例として引用されたものであり、本発明は、本明細書の上記で特に示され、説明されたものに限定されない。むしろ、本発明の範囲は、本明細書の上記で説明された様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに、当業者であれば前述の説明を読んで想到するであろう、従来技術において開示されていないそれらの変形及び修正を含む。
【外国語明細書】