(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106326
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20240731BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240731BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240731BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L101/00
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007714
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023010014
(32)【優先日】2023-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF07X
4J002CL01X
4J002CL03X
4J002CN01W
4J002CN03X
4J002DL006
4J002EX067
4J002EX077
4J002FA046
4J002FB276
4J002FD207
(57)【要約】
【課題】リサイクル材含有率と優れた特性を両立するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る。
【解決手段】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を99~30重量%、および(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂を1~70重量%配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を99~30重量%、および(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂を1~70重量%配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(C)無機フィラーを1~70重量%配合してなる、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(D)熱可塑性エラストマーを1~50重量%配合してなる請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物100重量部に対して、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物0.1~10重量部を配合してなる請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂が、オレフィン系共重合体、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくともいずれかである請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂が、繊維由来のリサイクル熱可塑性樹脂である請求項5に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記(D)熱可塑性エラストマーが、オレフィン系共重合体である請求項3に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の相構造が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂が分散相を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の相構造が、(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂の分散相の数平均分散粒子径が1000nm以下であることを特徴とする請求項8に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーキュラーエコノミーに貢献するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、熱可塑性樹脂のリサイクルが加速しており、リサイクルされた原料を含む熱可塑性樹脂組成物が注目されている。
【0003】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気特性を有するエンジニアリングプラスチックであり、多くがガラス繊維等の無機フィラーと混合された繊維強化PPS樹脂組成物として、自動車部品、水廻り部品、電気電子部品を中心に使用されている。
【0004】
リサイクルされた原料を含むPPS樹脂組成物(以下、リサイクルPPS樹脂組成物と略すことがある)としては、PPS樹脂組成物の成形品の粉砕品をリサイクル原資として、原料PPS樹脂と樹脂用添加剤および粉砕品を含む混合物を溶融混練したリサイクルPPS樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、繊維強化PPS樹脂組成物をリサイクル原資として、溶媒で処理して、溶解および沈殿操作によってリサイクルPPS樹脂を得ることが提案されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-26719号公報
【特許文献2】特開平10-507223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載されたリサイクルPPS樹脂組成物は、PPS樹脂を含むリサイクル原資の回収が難しく原料としての絶対量が少ないため、リサイクルPPS樹脂組成物の市場流通量の拡大が難しい課題があった。
【0008】
PPS樹脂を含むリサイクル原資の回収が難しい理由は、PPS樹脂は主に繊維強化PPS樹脂組成物として射出成形、押出成形等により得られる成形品として使用されるため、繊維製造時の工程端材やフィルム製造時の工程端材といった回収が容易なリサイクル原資の絶対量が少ないためである。さらに、繊維強化PPS樹脂組成物は金属とのインサート成形によって複合成形品として使用されることが多く、製品として市場で使用後に回収された複合成形品をリサイクルする場合には、金属とPPS樹脂組成物の分別・選別にかかるコストが高いことも課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、PPSを除くリサイクル熱可塑性樹脂とPPS樹脂を高度に混合することにより、PPS本来の特性を損なうことなく上記課題が解消されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂を99~30重量%、および(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂を1~70重量%配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
2.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(C)無機フィラーを1~70重量%配合してなる1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
3.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を100重量%として、(D)熱可塑性エラストマーを1~50重量%配合してなる1または2項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
4.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物100重量部に対して、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物0.1~10重量部を配合してなる1~3項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
5.前記(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂が、オレフィン系共重合体、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくともいずれかである1~4項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
6.前記(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂が、繊維由来のリサイクル熱可塑性樹脂である1~5項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
7.前記(D)熱可塑性エラストマーが、オレフィン系共重合体である3項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
8.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の相構造が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂が分散相を形成することを特徴とする1~7項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
9.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の相構造が、(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂の分散相の数平均分散粒子径が1000nm以下であることを特徴とする8項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
10.1~9項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PPS本来の特性を損なうことなくリサイクル熱可塑性樹脂を含有するPPS樹脂組成物、およびそれからなる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いられる(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、(A)PPS樹脂と略すことがある)とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0013】
【0014】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(A)PPS樹脂は、その繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記式で表される繰り返し単位の内の少なくとも1種で構成されていてもよい。
【0015】
【0016】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の重量平均分子量は、(B)ポリフェニレンスルフィドを除くリサイクル熱可塑性樹脂(以下、(B)リサイクル熱可塑性樹脂と略すことがある)の分散性とPPS本来の特性を両立するために、20000~100000であることが好ましい。このような重量平均分子量のPPS樹脂は、後記するポリハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤のモル比を調整することや、重合助剤の添加量を調整することで得られる。なお、ここでの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0017】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂はこれらの特徴を有するのであれば、複数のPPS樹脂を併用してもよい。
【0018】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、有機極性溶媒中でポリハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤を用いて脱塩重縮合する方法やジヨードベンゼンと硫黄を用いて溶融条件下で合成する方法など、公知の方法で得られるPPS樹脂を使用することができる。以下に代表的な原料およびPPS樹脂の後処理工程について詳細を説明する。
【0019】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する芳香族化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのジハロ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。
【0020】
ポリハロゲン化芳香族化合物の添加量は、適切な重量平均分子量のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9~2.0モル、好ましくは0.95~1.5モル、更に好ましくは1.005~1.2モルの範囲が例示できる。
【0021】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物が挙げられる。アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0022】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0023】
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために、重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0024】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0025】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル~0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0026】
[PPS樹脂の後処理工程]
PPS樹脂は、(B)リサイクル熱可塑性樹脂との反応性を高めたPPS樹脂を得るために、重合後、酸処理が施されることが好ましい。
【0027】
PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。
【0028】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80℃~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0029】
本発明のPPS樹脂組成物は、(B)リサイクル熱可塑性樹脂とPPS樹脂を高度に混合することにより、PPS本来の特性を損なうことなく、PPS樹脂組成物のリサイクル材含有率を向上する。本発明における「リサイクル材含有率」とは、PPS樹脂組成物中に含まれるリサイクル材の配合比率であり、(B)リサイクル熱可塑性樹脂の重量/PPS樹脂組成物重量×100[%]で求められる。また、リサイクルPPS樹脂は(A)PPS樹脂として扱い、その場合のリサイクル材含有率は((A)PPS樹脂中におけるリサイクルPPS樹脂の重量+(B)リサイクル熱可塑性樹脂の重量)/PPS樹脂組成物の重量×100[%]で求められる。また、後記する(C)無機フィラーが含まれ、(C)無機フィラーがリサイクル材を含むリサイクル無機フィラーの場合、((A)PPS樹脂中におけるリサイクルPPS樹脂の重量+(B)リサイクル熱可塑性樹脂の重量+(C)無機フィラー中におけるリサイクル無機フィラーの重量)/PPS樹脂組成物重量×100[%]で求められる。ここでいうリサイクル材とは、工程端材であってもよく、製品として市場で使用後に回収された成形品であってもよい。
【0030】
工程端材とは、たとえば、熱可塑性樹脂の製造工程、熱可塑性樹脂組成物の製造工程および熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の成形工程から選択される少なくともいずれかの工程で発生した工程端材であって、たとえば、ブロー成形工程、成膜工程、紡糸工程といった押出成形工程で発生した工程端材の破砕物や、射出成形工程等で成形した際に回収されたスプルー、ランナー等の破砕物を含む。リサイクル原資として確保できる数量や品質の観点で、紡糸工程で発生した繊維由来であることが好ましい。
【0031】
サーキュラーエコノミー実現の観点で、(B)リサイクル熱可塑性樹脂は、製品として市場で使用後に回収された成形品であることが好ましい。製品として市場で使用後に回収された成形品である場合は、汚れ成分による機械特性の低下や臭気を抑制する観点で、破砕の前または後のいずれかで溶媒で洗浄し、付着物を除去することが好ましい。溶媒としては、水や有機溶媒が挙げられ、コストの観点からは水が好ましく、汚れ成分を効率的に除去する観点からは有機溶媒が好ましく、溶媒は複数種を混合して用いてもよく、有機溶媒で洗浄後、水で洗浄するなど2段階で洗浄してもよい。洗浄の方法としては、溶媒により付着物を除去することができる方法であれば特に制限はないが、槽に成形品を浸漬し、撹拌後に成形品を取り出すバッチ式洗浄方法や、ベルトコンベアーやロータリースクリーンで成形品を搬送中に溶媒をかける連続式洗浄方法が挙げられる。また、洗浄効率の向上を目的に、洗浄前に予め粗く破砕することも可能である。
【0032】
リサイクル熱可塑性樹脂は、工程端材および市場で使用後の製品由来の熱可塑性樹脂であることを証明するトレーサビリティが確保されていることが好ましく、認証機関による認証であってもよく、ブロックチェーンシステムを用いたトレーサビリティであってもよい。
【0033】
リサイクル熱可塑性樹脂は、具体例として、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、およびそれらの共重合体、ならびにこれらのうち複数の樹脂からなるポリマーアロイが代表例として挙げられる。相溶性や加工温度といったPPS樹脂との相性の観点でオレフィン系共重合体、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。オレフィン系共重合体の例としては、PPS樹脂との相溶性を高めることができるエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有するオレフィン系共重合体や、靱性を飛躍的に向上させることができる未変性のオレフィン系共重合体が挙げられ、それらの併用も有効である。ポリアミドの具体例としては、PPS樹脂の加工温度に耐えうる観点からポリアミド66が挙げられる。また、製品として市場で使用後の成形品が広く流通している観点で、例えば、食品・衣料品・トイレタリー等の分野で用いられるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートや、家電、OA機器等の分野で用いられるポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネートや、自動車部材、スポーツ用品等の分野で用いられるオレフィン系共重合体や、衣料用繊維、産業用繊維、自動車部材等の分野で用いられるポリアミド、産業用繊維、自動車部材、医療機器等の分野で用いられるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが好ましい。PPSとの相性およびリサイクル原資の入手性を両立させる観点で、自動車部材、スポーツ用品等のオレフィン系共重合体や、衣服、エアバッグ、魚網、ロープ、タイヤコード等の繊維由来のポリアミドや、ダイアライザー用中空糸膜等の繊維由来のポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが特に好ましい。
【0034】
(B)リサイクル熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物100重量%として、(A)PPS樹脂99~30重量%に対して、1~70重量%含有することが必要であり、サーキュラーエコノミーへ貢献する観点でその下限は5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上がさらに好ましい。その上限は、PPSの特性と両立させる観点で60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。
【0035】
本発明のPPS樹脂組成物は、(C)無機フィラーとして、繊維状充填材であるガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、ならびにアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、および金属繊維等を配合して機械強度を向上することができる。性能やコストの観点で特にガラス繊維、炭素繊維が好ましい。
【0036】
繊維状充填材の繊維径は、繊維状充填材の種類に依るため一概には言えないが、1~50μmが好ましく、3~30μmが更に好ましく、5~20μmがより好ましい。繊維状充填材の繊維径が小さいほど、引張強度や曲げ強度の向上効果を得ることができ、繊維径が大きいほど、成形時にガラス繊維が折れにくく、衝撃強度の向上効果を得ることができると共に、繊維間の空隙が増えることで樹脂の含浸性が向上する傾向がある。繊維径を上記範囲内とすることで、機械強度と含浸性を両立でき好ましい。
【0037】
(C)無機フィラーとして、非繊維充填材であるフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが配合されていてもよく、これらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、電気特性、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
【0038】
上記無機フィラーを配合することで、PPS樹脂組成物の特性発現のボトルネックが樹脂と無機フィラーの界面となるため、(B)リサイクル熱可塑性樹脂を配合することによる特性低下が抑制できるため、無機フィラーを配合することが好ましい。
【0039】
(C)無機フィラーは、PPS樹脂組成物を100重量%として、1~70重量%配合されることが好ましい。PPS樹脂組成物が十分な強度を発現する観点からその下限は10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。その上限はPPS樹脂組成物の流動性の観点から、60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。
【0040】
本発明のPPS樹脂組成物は、所望の機能を付与するために、(D)熱可塑性エラストマーを配合することが好ましい。(D)熱可塑性エラストマーとしては、一般的に熱可塑性エラストマーと称されるものであればどれを用いてもよく、オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体、ウレタン系共重合体、エステル系共重合体およびアミド系共重合体などが挙げられ、これらを2種以上併用することも可能である。
【0041】
PPS樹脂成形材料に優れた靭性や応力緩和によるヒートサイクル耐性等を付与する観点から、オレフィン系共重合体が好ましい。オレフィン系共重合体の例としては、PPS樹脂との相溶性を高めることができるエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有するオレフィン系共重合体や、靱性を飛躍的に向上させることができる未変性のオレフィン系共重合体が挙げられ、それらの併用も有効である。なお、オレフィン系共重合体がリサイクル材である場合は、本発明においては(B)リサイクル熱可塑性樹脂として扱う。
【0042】
(D)熱可塑性エラストマーは、PPS樹脂組成物を100重量%として、1~50重量%配合されることが好ましい。また、(D)熱可塑性エラストマーの種類によるため一概には言えないが、優れた靭性を付与する観点から、その下限は3重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、様々な機能を付与する観点から、10重量%以上がさらに好ましい。PPS樹脂組成物の耐熱性や耐薬品性を両立する観点から、その上限は40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0043】
本発明のPPS樹脂組成物は、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物(以下、(E)化合物と表記する場合がある。)を添加することが好ましい。(B)リサイクル熱可塑性樹脂は、熱履歴を受けていることにより、熱可塑性樹脂が本来有する官能基が変性し、リサイクルされていない熱可塑性樹脂(バージン熱可塑性樹脂ともいう)に比べて(A)PPS樹脂との反応性および相溶性が低下する傾向にある。これらの(E)化合物は、(A)PPS樹脂と、(B)リサイクル熱可塑性樹脂の反応性および相溶性を向上させる相溶化剤として機能する。
【0044】
エポキシ基含有化合物としてはビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ-ジフェニルジメチルメタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,5-ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5,-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの代わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N-グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0045】
またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p-ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
【0046】
また、(E)化合物として、エポキシ基を有するオレフィン系共重合体も挙げられるが、係るオレフィン系共重合体がリサイクル品である場合は(B)リサイクル熱可塑性樹脂として扱い、リサイクル品でない場合は(D)熱可塑性エラストマーとして扱う。
【0047】
さらにエポキシ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物などが例示できる。
【0048】
アミノ基含有化合物としてはアミノ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0049】
イソシアネート基を1個以上含む化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,5-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネート化合物やγ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を例示することができる。
【0050】
(A)PPS樹脂と(B)リサイクル熱可塑性樹脂との相溶化剤としての機能だけでなく、(A)PPS樹脂と(C)無機フィラーとの接着性を向上させる観点で、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物は、アルコキシシラン化合物であることが好ましい。アルコキシシラン化合物を用いる場合、リサイクル原資にコンタミしたシリコーン系不純物を補足する効果も奏するため好ましい。
【0051】
(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物は、PPS樹脂組成物100重量部に対して、0.1~10重量部を配合してなることが好ましい。PPS樹脂組成物の流動性を確保する観点で、その上限は5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、1重量部以下が特に好ましい。
【0052】
本発明のPPS樹脂組成物の溶融粘度は、機械強度と流動性を両立させる観点で、50~1000Pa・sであることが好ましい。
【0053】
なお、本発明におけるPPS樹脂組成物の溶融粘度は、試験温度310℃で5分間滞留させた後に、せん断速度1216/sの条件下で、キャピラリーレオメーター(例えば、東洋精機製キャピログラフ(登録商標))を用いて測定した値である。
【0054】
このような溶融粘度を有するPPS樹脂組成物を得るためには、(A)PPS樹脂や(B)リサイクル熱可塑性樹脂の重量平均分子量や溶融粘度を変更すること、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物の種類や量を変更して高分子反応を調整することが好ましい手段として選定される。
【0055】
本発明のPPS樹脂組成物の発生ガス量は、リサイクル原資を含まないPPS樹脂組成物と同様の成形性を得る観点で2.0重量%以下が好ましく、1.5重量%以下がより好ましく、金型汚れを抑制する観点1.0重量%以下が特に好ましく、0.5重量%以下が殊更に好ましい。
【0056】
なお、本発明におけるPPS樹脂組成物の発生ガス量は、PPS樹脂組成物ペレットを試験温度320℃で2時間乾燥処理した前後における重量変化の比である重量減少率(%)の値である。
【0057】
このような発生ガス量を有するPPS樹脂組成物を得るためには、PPS樹脂と同様の耐熱性を有する(B)リサイクル熱可塑性樹脂を選定する他、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を添加して低分子成分を補足することや、(B)リサイクル熱可塑性樹脂のリサイクル時に適切な洗浄や熱履歴をかけることによって不純物を除去することが好ましい手段として選定される。
【0058】
本発明のPPS樹脂組成物は、PPS樹脂の耐熱性や耐薬品性を発現させる観点で、その樹脂組成物ペレットまたは成形品を透過型電子顕微鏡により観察した相構造において、(A)PPS樹脂が連続相を形成し、(B)リサイクル熱可塑性樹脂が分散相を形成することが好ましい。このような相構造を得るためには、(A)PPS樹脂の体積分率を(B)リサイクル熱可塑性樹脂の体積分率以上とすることが有効である。一方、(A)PPS樹脂の溶融粘度を(B)リサイクル熱可塑性樹脂の溶融粘度以下とすることで(A)PPS樹脂の体積分率が(B)リサイクル熱可塑性樹脂の体積分率以下であっても(A)PPS樹脂を連続相とすることも可能である。上記のようにPPS樹脂組成物の相構造を相反転構造とすることは、(A)PPS樹脂の耐熱性や耐薬品性を発現させながら(B)リサイクル熱可塑性樹脂の配合量を増やすことができ、好ましい。特に(B)リサイクル熱可塑性樹脂が繊維由来である場合、高い溶融粘度を示す傾向にあり、その場合は、例えば(B)リサイクル熱可塑性樹脂よりも溶融粘度の小さい(A)PPS樹脂を使用することで、相反転構造とすることが好ましい。
【0059】
本発明のPPS樹脂組成物は優れた靱性とPPS樹脂由来の耐薬品性を得る観点で(B)リサイクル熱可塑性樹脂の分散相の数平均分散粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、500m以下であることがより好ましく、300nm以下であることが特に好ましい。分散相の数平均分散粒子径の下限は10nm以上が好ましい。このような数平均分散粒子径を得るためには、(A)PPS樹脂と(B)リサイクル熱可塑性樹脂を適切に反応させて相溶化剤を生成させることで、両成分間の界面張力を低下させることが有効である。特にリサイクル時の熱履歴によって官能基が変性しやすい(B)リサイクル熱可塑性樹脂の反応性を高めるために、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を添加することが好ましい。
【0060】
なお、連続相および分散相の同定および数平均分散粒子径は、以下の方法により求められる。PPS樹脂組成物のペレットから、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片について、無染色のサンプルを、透過型電子顕微鏡にて5000~10000倍の倍率にて観察する。得られた画像から任意の異なる分散相を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求めて平均値を取り、分散相の平均粒子径を求め、それらの平均値の数平均値を分散相の数平均分散粒子径として算出することができる。分散相を構成する成分の同定は、無染色のサンプルにおける相のコントラスト差で決定することができる。
【0061】
本発明のPPS樹脂組成物は、フェノール系酸化防止剤や、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。このような添加剤は(A)PPS樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部配合することが好ましい。
【0062】
本発明のPPS樹脂組成物の製造方法については、特に制限は無く、単軸、二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、およびミキシングロールなど公知の溶融混練機に原料を供給し、樹脂温度が(A)PPS樹脂の融解ピーク温度+5℃~100℃になるように溶融混練する方法などを代表例として挙げることができる。中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。なお、ここでの樹脂温度は、押出機から吐出される樹脂の温度を直接測定した値である。
【0063】
本発明のPPS樹脂組成物は、公知のPPS樹脂組成物と同様に、様々な成形方法に適用可能であり、例えば押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられ、特に射出成形に好適である。
【0064】
本発明のPPS樹脂組成物を成形して得られる成形品は、公知のPPS樹脂組成物と同様に、PPS樹脂組成物に関する多くの特許に見られる公知の用途へ適用可能である。
【実施例0065】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
(1)溶融粘度
各実施例および比較例により得られたPPS樹脂組成物について、東洋精機製キャピログラフ(登録商標)を用いて温度310℃で5分滞留後、温度310℃せん断速度1216/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下で溶融粘度を測定した。
【0067】
(2)射出成形による試験片作成
各実施例および比較例により得られたPPS樹脂組成物について、130℃熱風乾燥機中で3時間乾燥し、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度310℃、金型温度140℃、スクリュー回転数100rpmの条件で、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。
【0068】
(3)機械特性
上記(2)項で得たISO(1A)ダンベル試験片について、23℃条件下、オートグラフAG-Xplus20kN試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度5mm/minの条件で引張特性を評価した。
【0069】
次いで、ISO178(2010)に従い、支点間距離64mm、速度2mm/minの条件で曲げ特性を評価した。
【0070】
次いで、上記(2)項で得たISO(1A)ダンベルを切削して得た試験片で、ISO179(2010)に従い、シャルピー衝撃強さ(ノッチあり、または、ノッチなし)を評価した。
【0071】
(4)発生ガス量
各実施例および比較例により得られたPPS樹脂組成物ペレットをアルミカップに10g秤量し、320℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて2hr処理し、室温で放冷した。次いで、重量を測定し、乾燥処理前の重量に対する乾燥処理前後における重量変化の比である重量減少率(%)を発生ガス量とした。
【0072】
(5)数平均分散粒子径
各実施例および比較例により得られたPPS樹脂組成物ペレットから、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片について、無染色のサンプルを、透過型電子顕微鏡にて5000~10000倍の倍率にて観察した。得られた画像から任意の異なる分散相を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求めて平均値を取り、分散相の平均粒子径を求め、それらの平均値の数平均値を分散相の数平均分散粒子径として算出した。分散相を構成する成分の同定は、無染色のサンプルにおける相のコントラスト差を比較することで決定した。
【0073】
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下に示す。
【0074】
[参考例1](A-1)ポリフェニレンスルフィド樹脂
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム0.513kg(6.25モル)、及びイオン交換水3.82kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水8.09kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0075】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.34kg(70.32モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.67kg(148.4モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0076】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0077】
得られたPPS樹脂(A-1)は重量平均分子量が40000であった。
【0078】
[参考例2](A-2)ポリフェニレンスルフィド樹脂
用いる酢酸ナトリウムを1.89kg(23.1モル)とし、p-ジクロロベンゼンを10.42kg(70.86モル)としたこと以外は参考例1と同様にしてPPS樹脂を得た。
【0079】
得られたPPS樹脂(A-2)は重量平均分子量が50000であった。
【0080】
[参考例3](A-3)ポリフェニレンスルフィド樹脂
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.10モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0081】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.45kg(71.07モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0082】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0083】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0084】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0085】
上述で得られたPPSを撹拌機付き加熱装置に入れ、酸素濃度2%にて200℃×2時間の条件で熱処理を施した。なお、酸素濃度2%での熱処理は、空気0.18リットル/分、窒素1.78リットル/分を加熱装置に導入し、酸素濃度計を加熱装置内に設置して酸素濃度を測定した。得られたPPS樹脂(A-3)は重量平均分子量が60000であった。
(B-1)廃魚網由来のポリアミド6として、リファインバース製“リアミド”RA6H00を用いた。
(B-2)エアバッグコート工程端材由来のポリアミド66として、リファインバース製“リアミド”RA7C00を用いた。
(B-3)ダイアライザーに用いられる中空糸工程端材由来のポリスルホンを用いた。
(B-4)固有粘度(IV値)が0.70dl/gの回収ペットボトル由来のポリエチレンテレフタレートを用いた。
(B’-1)バージン材のポリアミド6として、東レ製“アミラン”CM1001を用いた。
(B’-2)バージン材のポリアミド66として、東レ製“アミラン”CM3001-Nを用いた。
(C-1)繊維長3mm、平均繊維径10.5μmのエポキシ系化合物で集束されたチョップドガラスを用いた(日本電気硝子社製T760H)。
(D-1)オレフィン系共重合体:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体を用いた(住友化学製“ボンドファースト”E)。
(D-2)オレフィン系共重合体:エチレン・1-オクテン共重合体を用いた(ダウケミカル製“エンゲージ”8842)。
(E-1)イソシアネート基を含有するアルコキシシラン化合物:3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランを用いた(信越シリコーン製:KBE9007N)。
(E-2)エポキシ基を含有するアルコキシシラン化合物:2-(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用いた(信越シリコーン製:KBM303)
【0086】
[参考例4~11、実施例1~15]
PPS樹脂組成物を得るために、メインフィード用の原料ブレンドとして(C)無機フィラーを除く各原料を表1、2および3に示す割合でドライブレンドした。(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネートから選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物の配合量は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物100重量部に対する配合量である。次いで、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所)へメインフィード用の原料ブレンドを元込め位置から投入し、日本製鋼所製サイドフィーダーを用いて、表1、2および3の重量%となるように(C)無機フィラーを投入して、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、PPS樹脂組成物のペレットを得て、溶融粘度を測定した。
【0087】
次いで得られたペレットを、上記(2)項に記載の条件で射出成形し、ISO(1A)ダンベル試験片を得た。得られたISO(1A)ダンベル試験片について、機械特性を測定した。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
上記表1~3の参考例と実施例の比較により以下が明らかである。
【0092】
参考例4~6と実施例1~3の比較により、PPSとリサイクルポリアミド樹脂からなるPPS樹脂組成物は、PPS単体の機械特性には劣るものの、PPSとバージンポリアミド樹脂からなるPPS樹脂組成物と同等の機械特性を示しながらリサイクル材含有率を向上でき、特に(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を添加することで機械特性の向上が認められた。
【0093】
参考例7~9と実施例4~6の比較により、(C)無機フィラーを配合することで、PPSとリサイクルポリアミド樹脂と無機フィラーからなるPPS樹脂組成物は、PPS単体と無機フィラーからなるPPS樹脂組成物と同等の機械特性を示しながらリサイクル材含有率を向上できた。
【0094】
また、(C)無機フィラーの配合の有無にかかわらず、PPSとリサイクルポリアミド樹脂からなるPPS樹脂組成物は、PPSとバージンポリアミド樹脂からなるPPS樹脂組成物と同等のガス発生量およびPPS樹脂組成物の成形品の(B)成分の分散状態を示した。
【0095】
参考例7、10と実施例7~10の比較により、PPSとリサイクルポリスルホン樹脂からなるPPS樹脂組成物は、(C)無機フィラーの配合の有無に関わらず、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を添加することで、PPS単体と同等の機械特性を示しながらリサイクル材含有率を向上できた。また、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物の添加の有無にかかわらず、PPS単体と同等の発生ガス量を示した。
【0096】
参考例10と実施例11、12の比較により、PPSとリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂からなるPPS樹脂組成物は、(E)エポキシ基、アミノ基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を添加することで、PPS単体と同等の機械特性を示しながらリサイクル材含有率を向上できた。
【0097】
参考例7、11と実施例13~15の比較により、(C)無機フィラーおよび(D)熱可塑性エラストマーを配合した場合でも、PPS単体に比べて機械物性の低下を抑制しつつリサイクル材含有率を向上できた。