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特開2024-106337フルオロリン酸イオンを含有する溶液からリン及びフッ素を除去する方法
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  • 特開-フルオロリン酸イオンを含有する溶液からリン及びフッ素を除去する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106337
(43)【公開日】2024-08-07
(54)【発明の名称】フルオロリン酸イオンを含有する溶液からリン及びフッ素を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20240731BHJP
【FI】
C02F1/58 M
C02F1/58 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009491
(22)【出願日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2023010436
(32)【優先日】2023-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「資源循環システムの構築へ向けたLIBのオンサイト型安全失活処理」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 匠人
(72)【発明者】
【氏名】安田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】宇田 哲也
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB40
4D038AB43
4D038BA02
(57)【要約】
【課題】強酸を使用せずとも、温和な条件で、フルオロリン酸イオンを含有する溶液からリン及びフッ素を十分に除去する方法を提供する。
【解決手段】(1)50~120℃において、フルオロリン酸イオンを含有する溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加して前記フルオロリン酸イオンを分解させる工程と、
(2)アルカリ化合物の存在下に、リン及びフッ素を含む沈殿を形成する工程と、
を備える、前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液から前記フルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を除去する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)50~120℃において、フルオロリン酸イオンを含有する溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加して前記フルオロリン酸イオンを分解させる工程と、
(2)アルカリ化合物の存在下に、リン及びフッ素を含む沈殿を形成する工程と、
を備える、前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液から前記フルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を除去する方法。
【請求項2】
前記工程(1)における反応を0.5~12時間行った後、前記溶液を室温まで冷却し、前記工程(2)を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)において前記イオン性アルミニウム化合物とともに前記アルカリ化合物も添加し、前記工程(1)及び前記工程(2)を同時に50~120℃において0.5時間以上実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フルオロリン酸イオン中に前記アルカリ化合物が含まれており、前記工程(1)及び工程(2)を同時に50~120℃において0.5時間以上実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(2)を実施後、さらにアルカリ化合物を追加添加する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン性アルミニウム化合物が、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム及び臭化アルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ化合物が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸水素塩及び炭酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロリン酸イオンが、PF 、PO2-及びPO よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液に添加する前記イオン性アルミニウム化合物の添加量が、アルミニウムイオン当量で、前記溶液1リットル当たり0.005~2.5モルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(1)における前記イオン性アルミニウム化合物の添加量をアルミニウム当量でAモルとするとき、前記アルカリ化合物の量は、水酸化物イオン当量換算し、前記工程(2)において添加する量と前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で、A×3モル~A×10モルである、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(2)を、室温で0.1時間以上行う、請求項2又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(1)における前記イオン性アルミニウム化合物の添加量をアルミニウム当量でAモルとするとき、前記アルカリ化合物の量は、水酸化物イオン当量換算し、前記工程(2)において添加する量と前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で、A×0.1モル~A×3モルである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(1)における前記イオン性アルミニウム化合物の添加量をアルミニウム当量でAモルとするとき、前記アルカリ化合物の量は、水酸化物イオン当量換算し、前記工程(2)実施後において追加添加する量と前記工程(2)において添加する量と前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で、A×3モル~A×10モルである、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記分解及び沈殿を形成する反応を室温で0.1時間以上行う、請求項3又は4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロリン酸イオンを含有する溶液からリン及びフッ素を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、各種の環境規制物質の処理方法はある程度確立されている。なかでも、リン、フッ素、ホウ素等は排水規制が厳しく、例えばリンは0.5mmol/L未満、フッ素は0.4mmol/L未満まで低減することが求められているため、リン化合物、フッ素化合物等の無害化のための処理が行われている。
【0003】
リン化合物は、リン酸排水の工業処理を、塩化第二鉄、水酸化カルシウム等によって、リン酸塩として固体沈殿を形成する方法が知られている。
【0004】
フッ素化合物は、塩化カルシウムや水酸化カルシウム等のカルシウム塩によって、フッ化カルシウムの固体沈殿を形成する方法等が知られている。
【0005】
リン化合物やフッ素化合物の製造業以外にも、リチウムイオン二次電池等の各種電池には電解質としてLiPFに代表される、リン及びフッ素の双方を含むフルオロリン酸イオンを有するフルオロリン酸化合物が含まれていることが多く、リチウムイオン二次電池をはじめとする各種二次電池の失活処理を湿式で行う際には、フルオロリン酸イオンを含有する廃液が排出される。
【0006】
フルオロリン酸イオンは水中での安定性が高いため、一旦、PO 3-イオンやFイオン等へ分解した後に、リンやフッ素を除去する必要性があった。しかしながら、フルオロリン酸イオンは水中での安定性が高いため、PO 3-イオンやFイオンへの分解速度が極めて遅い。このため、例えばカルシウム塩を添加しても、リン酸カルシウムやフッ化カルシウムの生成速度が遅く、リンやフッ素を高度に除去することが困難である。
【0007】
このため、フルオロリン酸イオンからリンやフッ素を除去するためには、通常、フルオロリン酸イオンを含む溶液に対して強酸を添加したり、高温で加熱したりして分解させた後に、フッ素及びリンを固定化するという多段階の方法が採用されており(例えば、特許文献1~4参照)、高濃度の強酸を用いることで分解工程で有害で腐食性のあるフッ化水素酸やフッ化水素ガスが発生するために反応槽等に耐酸性部材が必要であり、加えて一工程のみでフルオロリン酸イオンからリンやフッ素を除去することは困難であるうえに、フルオロリン酸イオンからリンを十分に除去できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/054875号
【特許文献2】特開平06-170380号公報
【特許文献3】特開平08-010775号公報
【特許文献4】特開2000-229280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、強酸を使用せずとも、温和な条件で、フルオロリン酸イオンを含有する溶液からリン及びフッ素を十分に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、フルオロリン酸イオンの分解速度が遅いことに着目し、50~120℃において、フルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液に対してイオン性アルミニウム化合物を添加することでフルオロリン酸イオンを分解させることができ、さらに、アルカリ化合物を添加することで沈殿を形成し、被処理溶液から十分にリン及びフッ素を除去できることを見出した。この方法によれば、強酸を使用せずとも、フルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液から前記フルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を除去することが可能である。これらの知見に基づいて、本発明者らは、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の態様を包含する。
【0011】
項1.(1)50~120℃において、フルオロリン酸イオンを含有する溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加して前記フルオロリン酸イオンを分解させる工程と、
(2)アルカリ化合物の存在下に、リン及びフッ素を含む沈殿を形成する工程と、
を備える、前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液から前記フルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を除去する方法。
【0012】
項2.前記工程(1)における反応を0.5~12時間行った後、前記溶液を室温まで冷却し、前記工程(2)を実施する、項1に記載の方法。
【0013】
項3.前記工程(1)において前記イオン性アルミニウム化合物とともに前記アルカリ化合物も添加し、前記工程(1)及び工程(2)を同時に50~120℃において0.5時間以上実施する、項1に記載の方法。
【0014】
項4.前記フルオロリン酸イオン中に前記アルカリ化合物が含まれており、前記工程(1)及び工程(2)を同時に50~120℃において0.5時間以上実施する、項1に記載の方法。
【0015】
項5.前記工程(1)及び(2)を実施後、さらにアルカリ化合物を追加添加する、項3又は4に記載の方法。
【0016】
項6.前記イオン性アルミニウム化合物が、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム及び臭化アルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0017】
項7.前記アルカリ化合物が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸水素塩及び炭酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0018】
項8.前記フルオロリン酸イオンが、PF 、PO2-及びPO よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0019】
項9.前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液に添加する前記イオン性アルミニウム化合物の添加量が、アルミニウムイオン当量で、前記溶液1リットル当たり0.005~2.5モルである、項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0020】
項10.前記工程(1)における前記イオン性アルミニウム化合物の添加量をアルミニウム当量でAモルとするとき、前記アルカリ化合物の量は、水酸化物イオン当量換算し、前記工程(2)において添加する量と前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で、A×3モル~A×10モルである、項2及び6~9のいずれか1項に記載の方法。
【0021】
項11.前記工程(2)を、室温で0.1時間以上行う、項2及び6~10のいずれか1項に記載の方法。
【0022】
項12.前記工程(1)における前記イオン性アルミニウム化合物の添加量をアルミニウム当量でAモルとするとき、前記アルカリ化合物の量は、水酸化物イオン当量換算し、前記工程(2)において添加する量と前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で、A×0.1モル~A×3モルである、項3~4及び6~9のいずれか1項に記載の方法。
【0023】
項13.前記工程(1)における前記イオン性アルミニウム化合物の添加量をアルミニウム当量でAモルとするとき、前記アルカリ化合物の量は、水酸化物イオン当量換算し、前記工程(2)実施後において追加添加する量と前記工程(2)において添加する量と前記フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で、A×3モル~A×10モルである、項5~9のいずれか1項に記載の方法。
【0024】
項14.前記分解及び沈殿を形成する反応を室温で0.1時間以上行う、項3~9及び12~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液から十分にフルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を除去することができる。本発明によれば、強酸を使用せずとも、温和な条件で、フルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液からフルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】LiPF濃度を10mmol/L、被処理溶液1Lに対するCa(OH)添加量を108mmol/Lに固定し、Al(SO・14-18HOのアルミニウムに換算した添加量、処理温度及び処理時間を種々変更した場合の上澄み液中の結果を示す。上図はAl(SO・14-18HOのアルミニウム換算添加量とリン濃度との相関性を示し、下図はAl(SO・14-18HO添加量とpHとの相関性を示す。なお、Al(SO・14-18HOの水和水の含有量は保存条件によって異なるため、Al(SO・14-18HOのアルミニウム換算添加量は16水和物として、添加重量から換算した。
図2】LiPF濃度を10mmol/L、被処理溶液1Lに対するCa(OH)添加量を43.2mmol/Lに固定し、Al(SO・14-18HOのアルミニウムに換算した添加量を種々変更し、90℃で1日間処理した場合の結果を示す。上図はAl(SO・14-18HOのアルミニウム換算添加量とリン濃度との相関性を示し、下図はAl(SO・14-18HOのアルミニウム換算添加量とpHとの相関性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で表示する場合、A以上B以下を意味する。また、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する。
【0028】
また、本明細書において、特に制限しない限り、「室温」とは、「5~40℃」を意味する。
【0029】
本発明のフルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液から前記フルオロリン酸イオンに由来するリンを除去する方法は、
(1)50~120℃において、前記被処理溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加して前記フルオロリン酸イオンを分解させる工程
を備える。
【0030】
また、本発明の方法では、工程(1)と同時、又は前記フルオロリン酸イオンを分解させたのちに、被処理溶液に対してアルカリ化合物の存在下に、リン及びフッ素を含む沈殿を形成する工程(2)を行う。
【0031】
また、工程(1)においてイオン性アルミニウム化合物とともに前記アルカリ化合物も添加し、工程(1)及び工程(2)を同時に行った場合、又は、フルオロリン酸イオン中にアルカリ化合物が含まれており、工程(1)及び工程(2)を同時に行う場合には、その後、
さらに、アルカリ化合物を添加し、さらに沈殿を追加形成する工程
を備えることもできる。
【0032】
このような本発明の方法によれば、フルオロリン酸イオンを分解しつつ、リン及びフッ素を沈殿として除去することが可能である。
【0033】
1.フルオロリン酸イオン
本発明において、除去対象となるフルオロリン酸イオンは、特に制限されるわけではないが、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、モノフルオロリン酸イオン(PO2-)、ジフルオロリン酸イオン(PO )等が挙げられる。溶液中に、これらのフルオロリン酸イオンが単独で含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。なかでも、本発明では、リチウムイオン二次電池をはじめとする各種電池の電解質中に含まれることが多いヘキサフルオロリン酸イオン(PF )から強酸を使用せずとも温和な条件でリン及びフッ素を除去できる点において、特に有用である。
【0034】
被処理溶液中に含まれるフルオロリン酸イオンの濃度は、特に制限されるわけではないが、リチウムイオン二次電池をはじめとする各種電池を使用後の廃液に通常含まれる濃度とすることができ、例えば、0.1~1000mmol/Lとすることができ、1~100mmol/Lであればより好ましい。
【0035】
2.イオン性アルミニウム化合物
本発明において、イオン性アルミニウム化合物としては、特に制限はなく、様々な化合物を使用することができ、例えば、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、臭化アルミニウム等が挙げられる。なかでも、フルオロリン酸イオンを分解させやすく、沈殿を十分に形成しやすく、フルオロリン酸イオンを含む溶液からリン及びフッ素を十分に除去しやすい観点から、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が好ましく、硫酸アルミニウムがより好ましい。これらのイオン性アルミニウム化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらのイオン性アルミニウム化合物は、そのまま使用することもでき、水和物を使用することもできる。また、これらのイオン性アルミニウム化合物は、公知又は市販品を使用することができる。
【0036】
なお、アルミニウムイオン以外に、フルオロリン酸イオンの分解に有効な金属イオンとして、Zr4+、Fe3+、Cr3+、Y3+、In3+、Ga3+、Ce3+、La3+等も挙げられる。これらのイオンは、Al3+に替えて利用することもできる。
【0037】
イオン性アルミニウム化合物の添加量は、特に制限されるわけではないが、被処理溶液中のフルオロリン酸イオンを十分に分解させるため、イオン性アルミニウム化合物におけるアルミニウム当量としての添加量が、フルオロリン酸イオンを含む被処理溶液1Lに対して、0.005~2.5モルが好ましく、0.01~0.5モル以下がより好ましい。同様に、イオン性アルミニウム化合物を、アルミニウムイオン濃度が、10mmol/L以上、好ましくは30~250mmol/L、より好ましくは40~130mmol/Lとなるように添加することもできる。
【0038】
3.アルカリ化合物
本発明において、アルカリ化合物は特に制限されるわけではないが、アルカリ金属としてリチウム、ナトリウム、カリウム等や、アルカリ土類金属としてマグネシウム、カルシウム等を含むアルカリ化合物の他、アンモニア等も挙げられる。
【0039】
アルカリ化合物としては、特に制限されるわけではないが、例えば、水酸化物、酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0040】
以上のような条件を満たすアルカリ化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アンモニウム等が挙げられる。中でも、水酸化カルシウムが特に好ましい。
【0041】
これらのアルカリ化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらのアルカリ化合物は、公知又は市販品を使用することができる。
【0042】
アルカリ化合物の量は、特に制限されるわけではないが、フルオロリン酸イオンの分解が十分進んだ後に添加する場合、つまり、工程(1)の後に工程(2)を実施する場合には、分解したリン及びフッ素を十分に沈殿させやすいため、イオン性アルミニウム化合物として添加されるAlイオンの量をAモルとして、アルカリ化合物のアニオン種(水酸化物イオン)に換算した量(つまり、水酸化物イオン当量)は、A×3モル~A×10モルが好ましく、A×3モル~(A×3+1)モルがより好ましく、(A×3+0.01)モル~(A×3+0.1)モルがさらに好ましい。この場合、アルカリ化合物の量は、工程(2)において添加する量とフルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0043】
一方、フルオロリン酸イオンを含む溶液に、イオン性アルミニウム化合物とアルカリ化合物とを同時に添加する場合、つまり、工程(1)及び(2)を同時に行う場合は、フルオロリン酸イオンの分解を阻害しにくいことから、イオン性アルミニウム化合物として添加されるAlイオンの量をAモルとして、アルカリ化合物のアニオン種(水酸化物イオン)に換算した量(つまり、水酸化物イオン当量)は、A×0.1モル~A×3モルとすることが好ましく、A×0.5モル~A×(A×3-0.01)モルとすることがより好ましい。この場合、アルカリ化合物の量は、工程(2)において添加する量とフルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0044】
この場合、反応後にさらにアルカリ化合物を追加で添加すれば、リン及びフッ素をさらに沈殿に取り込むことができる。この場合は、最終的に、アニオン種(水酸化物イオン)に換算した量(つまり、水酸化物イオン当量)は、イオン性アルミニウム化合物として添加されるAlイオンの量をAモルとして、A×3モル~A×10モルが好ましく、A×3モル~(A×3+1)モルがより好ましく、(A×3+0.01)モル~(A×3+0.1)モルがさらに好ましい。この場合、アルカリ化合物の量は、工程(2)実施後において追加添加する量と工程(2)において添加する量とフルオロリン酸イオンを含有する溶液中に含まれる量との総量で上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0045】
アルカリ化合物の量は、特に制限されるわけではないが、沈殿を十分に形成しやすく、フルオロリン酸イオンを含む溶液からリン及びフッ素を十分に除去しやすい観点から、溶液のpHが2.5~6.0、好ましくは3.0~5.5となるように、イオン性アルミニウム化合物及びアルカリ化合物の量を調整することが好ましい。なお、反応後、溶液のpHは1.0程度低下し、1.5~5.0、好ましくは2.0~4.5程度となることが多い。本発明においては強酸を使用せずともフルオロリン酸イオンの分解が可能であるため、強酸を必須とする従来技術と比較すれば、pHが高くなりやすいが、十分にフルオロリン酸イオンを分解し、リン及びフッ素を含む沈殿を形成することが可能である。
【0046】
4.添加順序
本発明においてはフルオロリン酸イオンを含有する溶液に対して、イオン性アルミニウム化合物及びアルカリ化合物は、同時に添加することもできるし、段階的に添加することもできる。また、フルオロリン酸イオンを含有する溶液中に、アルカリ化合物が含まれていてもよい。つまり、工程(1)において、フルオロリン酸イオンを含有する溶液に対してイオン性アルミニウム化合物及びアルカリ化合物を添加する(工程(1)及び(2)を同時に行う)こともできるし、工程(1)において、フルオロリン酸イオン及びアルカリ化合物を含有する溶液に対してイオン性アルミニウム化合物を添加する(工程(1)及び(2)を同時に行う)こともできるし、工程(1)において、フルオロリン酸イオンを含有する溶液に対してイオン性アルミニウム化合物を添加した後に、工程(2)において、アルカリ化合物を添加することもできる。
【0047】
フルオロリン酸イオンを含有する溶液に対して、イオン性アルミニウム化合物及びアルカリ化合物を同時に添加したりフルオロリン酸イオン及びアルカリ化合物を含有する溶液に対してイオン性アルミニウム化合物を添加したりする(工程(1)及び(2)を同時に行う)場合は、フルオロリン酸イオンの分解とリン及びフッ素を含む沈殿形成とを同時に行うことができ、従来の方法では不可能であった、わずか一工程のみで、フルオロリン酸イオンからリン及びフッ素を除去することも可能であり、非常に経済的である。
【0048】
なお、被処理溶液に最初から水酸化物イオンが含まれている場合には、その水酸化物イオンの含有量に対し、添加するアルミニウムイオンの量が3倍以上になるように、イオン性アルミニウム化合物の添加量を調整するか、被処理溶液を希釈することができる。その結果、イオン性アルミニウム化合物の添加量を上記した範囲とすることができる。
【0049】
一方、フルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加してフルオロリン酸イオンを分解した後に、得られた溶液にアルカリ化合物を添加して沈殿を生成する方法によれば、アルカリ化合物を過剰に使用してもリン及びフッ素が沈殿するため、操業条件の管理が容易となる。
【0050】
この場合には、工程(1)において、フルオロリン酸イオンを含有する被処理溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加してフルオロリン酸イオンを分解させる反応を0.5~12時間、好ましくは1~6時間行った後に、溶液を室温まで冷却した後に工程(2)を実施することができる。
【0051】
5.処理温度
上記のとおり、本発明において工程(1)は、処理温度を50~120℃、好ましくは70~100℃とする。処理温度が50℃未満では、十分にフルオロリン酸イオンを分解させることができず、十分にリン及びフッ素を除去することができない。なお、処理温度の上限値は、水の沸騰温度を考慮した温度であり、圧力によっては100℃以上とすることも可能である。
【0052】
なお、フルオロリン酸イオンを含有する溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加する工程(1)の後に、得られた溶液にアルカリ化合物を添加する工程(2)を行う場合には、後半の工程(2)では、処理温度を低く、例えば、0~120℃、好ましくは10~100℃とすることも可能である。
【0053】
6.処理時間
上記のとおり、本発明において沈殿を形成する際の処理時間は、フルオロリン酸イオンを分解させやすく、沈殿を十分に形成しやすく、フルオロリン酸イオンを含む被処理溶液からリン及びフッ素を十分に除去しやすい観点から、工程1については0.5時間以上とし、1時間以上とすることが好ましい。処理時間の上限は72時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。フルオロリン酸イオンを含有する溶液にイオン性アルミニウム化合物を添加する工程(1)の後に、沈殿工程として得られた溶液にアルカリ化合物を添加する工程(2)を行う場合、又は工程(1)(2)を同時に行った後にアルカリ化合物を追加する場合には、処理時間は0.1時間以上、特に1~6時間とすることが好ましい。
【0054】
7.用途
リチウムイオン二次電池等の各種電池には電解質としてLiPFに代表される、フルオロリン酸イオンを有するフルオロリン酸化合物が含まれていることが多く、リチウムイオン二次電池をはじめとする各種二次電池の失活処理を湿式で行う際には、フルオロリン酸イオンを含有する廃液が排出される。従来、この廃液は、可燃性であることもあって、焼却処理されることが多かったが、この廃液に対して、本発明の方法を採用した場合には、リン及びフッ素は沈殿(エトリンガイト)として固定化するためにセメント添加物として利用し、廃棄物を減容することや、本発明の方法によりリン及びフッ素を除去した後の廃液を、再度、リチウムイオン二次電池の失活処理に用いることも可能である。しかも、リチウムイオン二次電池を湿式法で失活処理をするにあたり、石灰水のようなアルカリ化合物を含む溶液を使用している場合には、イオン性アルミニウム化合物を添加して加熱するという極めて簡便な方法で、フルオロリン酸イオンから、フルオロリン酸イオンに由来するリン及びフッ素を沈殿として除去することも可能である。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
[実施例1~5及び比較例1~10]
比較例1
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmolを添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、pH12の水溶液とした。90℃に加熱し、3日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、9.94mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0057】
比較例2
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmolを添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、HSO濃度が108mmol/LとなるようにHSOを添加し、pH3.5の水溶液とした。90℃に加熱し、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、10.1mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0058】
比較例3
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、LiClを100mmol添加し、pH12の水溶液とした。90℃に加熱し、3日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、9.90mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0059】
比較例4
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、MgClを100mmol添加し、pH12の水溶液とした。90℃に加熱し、3日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、9.58mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0060】
比較例5
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol/添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、KClを100mmol添加し、pH12の水溶液とした。90℃に加熱し、3日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、10.2mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0061】
比較例6
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1Lあたりアルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH3の水溶液とした。90℃に加熱し、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿が生成しておらず、リンは除去できていないことが確認された。
【0062】
比較例7
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、pH12の水溶液とした。90℃に加熱し、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、9.534mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0063】
比較例8
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、アルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH4の水溶液とした。得られた水溶液を室温のまま、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、10.384mmol/Lであり、リンは除去できていないことが確認された。
【0064】
比較例9
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、アルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH3.95の水溶液とした。45℃に加熱し、3時間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認し、反応後の溶液のpHは3.94であった。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液及び沈殿のリン濃度を測定したところ、上澄み液は10.05mmol/L、沈殿は測定限界未満であり、リンは除去できていないことが確認された。
【0065】
比較例10
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、アルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH3.97の水溶液とした。45℃に加熱し、24時間(1日間)静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認し、反応後の溶液のpHは3.91であった。ただし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液及び沈殿のリン濃度を測定したところ、上澄み液は9.65mmol/L、沈殿したリンは被処理液1Lあたり0.35mmol/L相当であり、リンは除去できていないことが確認された。
【0066】
実施例1
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、アルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH4の水溶液とした。90℃に加熱し、3日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。また、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、0.205mmol/Lであり、リンがほとんど除去できていることが確認された。
【0067】
実施例2
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、アルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH3.945の水溶液とした。90℃に加熱し、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認し、反応後の溶液のpHは3.08であった。また、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液及び沈殿のリン濃度を測定したところ、上澄み液は0.305mmol/L、沈殿したリンは被処理溶液1Lあたり9.70mmol/L相当であり、リンがほとんど除去できていることが確認された。また、JIS K0102の方法を適用し、蒸留後、フッ化物イオン選択性電極により、上澄み液の全フッ素濃度を測定したところ、27.4mmol/Lであり、初期値(60mmol/L)と比較して低減されていることが確認された。
【0068】
実施例3
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりCa(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、アルミニウムに換算した添加量が200mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加し、pH4の水溶液とした。90℃に加熱し、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認した。また、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液のリン濃度を測定したところ、6.995mmol/Lであり、初期値(10mmol/L)と比較して低減されていることが確認された。
【0069】
実施例4
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1Lあたりアルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加して90℃に加熱し、1日間静置した。その後、室温まで冷却し、得られた溶液に、Ca(OH)を108mmol添加、即ちOHイオンとして216mmol添加し、pH4.02の水溶液とし、室温で1日間静置した。この結果、反応後の溶液のpHは3.99であり、沈殿の生成を確認した。また、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液及び沈殿のリン濃度を測定したところ、上澄み液は0.854mmol/Lであり、沈殿には被処理溶液1Lあたり9.15mmol/L相当のリンが含まれていることになり、リンがほとんど除去できていることが確認された。また、フッ化物イオン選択性電極により、上澄み液の全フッ素濃度を測定したところ、40.6mmol/Lであり、初期値(60mmol/L)と比較して低減されていることが確認された。
【0070】
実施例5
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1LあたりNaOHを216mmol(水酸化物イオン濃度としてCa(OH)添加量108mmolと同等)、アルミニウムに換算した添加量が100mmol/LとなるようにNaOH及びAl(SO・14-18HOを添加し、pH4.305の水溶液とした。90℃に加熱し、1日間静置して反応を試みた。この結果、沈殿の生成を確認し、反応後の溶液のpHは2.615であった。また、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、上澄み液及び沈殿のリン濃度を測定したところ、上澄み液は1.22mmol/Lであり、沈殿には被処理溶液1Lあたり8.78mmol/L相当のリンが含まれており、Ca(OH)ほどではないものの、被処理溶液からリンが除去できていることが確認された。また、フッ化物イオン選択性電極により、上澄み液のフッ素濃度を測定したところ、30.7mmol/Lであり、初期値(60mmol/L)と比較して低減されていることが確認された。
【0071】
実施例1及び比較例1~6の結果を表1に示す。表1から、フルオロリン酸イオンからリンを沈殿として除去するためには、イオン性アルミニウム化合物及びアルカリ化合物の双方が必要であることが確認された。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例2~3及び比較例7~8の結果を表2に示す。表2から、フルオロリン酸イオンからリンを沈殿として除去するためには、加熱する必要があることが確認された。また、リンとともにフッ素も除去するには、イオン化アルミニウム化合物とアルカリ化合物の両方が必要であることが確認された。
【0074】
【表2】
【0075】
LiPF濃度を10mmol/L、被処理溶液1LあたりのCa(OH)添加量を108mmolに固定し、Al(SO・14-18HOのアルミニウムに換算した被処理溶液1Lあたりの添加量、処理温度及び処理時間を種々変更した場合の結果を図1に示す。この結果からも、1/3[OH]=[Al3+]となる、アルミニウムに換算した添加量が72.1mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加した場合でリンの除去が進行し、中でもより少しアルミニウムが多い領域において特に効率的に進行し、フッ素も除去されることが理解できる。なお、図の説明にmmol/Lとあるのは、被処理溶液1Lあたりの添加量であることを示す。
【0076】
LiPF濃度を10mmol/L、被処理溶液1LあたりのCa(OH)添加量を43.2mmol、OHイオン換算で86.4mmolに固定し、Al(SO・14-18HOのアルミニウムに換算した濃度を種々変更し、90℃で1日間処理した場合の結果を図2に示す。図2からも、図1と同様の結果が得られることが理解できる。
【0077】
実施例2及び4の結果を表3に示す。この結果、フルオロリン酸イオンの分解及び沈殿を同時に行う方法(実施例2)でも、フルオロリン酸イオンの分解及び沈殿を段階的に行う方法(実施例4)でも、リン及びフッ素を除去することができることが確認できた。フルオロリン酸イオンの分解及び沈殿を段階的に行う方法(実施例4)によれば、アルカリ化合物であるCa(OH)を過剰に投入してもリン及びフッ素が沈殿する(むしろ、フッ素の沈殿量は増加すると予想される)ため、操業条件の管理が容易となる。また、フルオロリン酸イオンの分解及び沈殿を同時に行う方法を行って、アルカリ化合物が不足するために沈殿生成が不十分な場合には、追加でアルカリ化合物を添加してリン及びフッ素の沈殿を十分に進められることがわかる。
【0078】
【表3】
【0079】
実施例5の結果を表4に示す。この結果、アルカリ化合物としては、Ca(OH)のみならず、NaOHを使用した場合も、リン及びフッ素を十分に除去できることが理解できる。
【0080】
【表4】
【0081】
実施例2及び比較例9~10の結果を表5に示す。この結果、温度を50℃以上とすることで、リンを十分に除去できることが理解できる。
【0082】
【表5】
【0083】
参考例1及び2
実施例2及び4と同様の処理を行い、生成した上澄み液についてイオンクロマトグラフ法により分析を行い、リン及びフッ素がどのような形態で残存しているかを確認した。リンはわずかにPO 3-の形態で、フッ素はFの形態で残存し、それ以外のイオン形態は分析されなかった。その結果を表6に示す。なお、参考例1が実施例2、参考例2が実施例4と同一条件で得られた上澄み液を分析したものである。
【0084】
【表6】
【0085】
参考例3~10
被処理溶液からリン及びフッ素を沈殿分離するためには、まずフルオロリン酸イオンを分解する必要があるが、分解条件を比較した。参考例3及び4は、被処理液をそのまま各温度で放置した場合の分解状態を示す。評価はフッ化物イオン選択性電極により分解したフッ素濃度を測定する方法で行った。その結果を表7に示す。イオン性アルミニウム化合物の添加効果は、分解反応自体で比較しても、参考例7に示す濃塩酸を添加して加熱する方法と同等以上の効果を有することが分かる。
【0086】
【表7】
【0087】
実施例6及び7
LiPF水溶液(濃度10mmol/L)に対して、被処理溶液1Lあたりアルミニウムに換算した添加量が100mmolとなるようにAl(SO・14-18HOを添加して90℃に加熱し、1日間静置した。その後、室温まで冷却し、得られた溶液に、Ca(OH)を混合分散したスラリーを被処理溶液と等量混合し、室温で1時間静置した。前記スラリー中のCa(OH)の量は、被処理溶液1LあたりのOHイオン当量で、実施例6では300mmol、実施例7では800mmolとした。液量が元の被処理液の倍となるので、含まれるLiPFの濃度は5mmol/Lに相当する。この結果、いずれの実施例でも沈殿が生じ、得られた上澄み液中のリンおよびフッ素濃度を分析した。その結果を表8に示す。リンの濃度は誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、フッ素の濃度は蒸留後フッ化物イオン選択性電極により求めた。その結果、いずれの実施例でもリンは99%以上除去され、フッ素も実施例7においては97%以上除去された。この結果を表8に示す。
【0088】
【表8】
図1
図2