(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106367
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20240801BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240801BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240801BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20240801BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240801BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08L7/00
B60C1/00 A
B60C11/00 F
B60C11/00 D
B60C11/13 B
B60C11/03 Z
C08L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010590
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 直也
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA12
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131BC01
3D131BC02
3D131BC08
3D131BC33
3D131BC51
3D131EA10V
3D131EA10Z
3D131EB07U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB11Z
3D131EB19V
3D131EB19X
3D131EB19Z
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB24Z
3D131LA28
4J002AC01W
4J002AC03X
4J002AC05X
4J002AC11X
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】低燃費性能および耐摩耗性能の総合性能が向上したロシアタンポポ由来の天然ゴムを含有するゴム組成物により構成されたタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部を備えたタイヤであって、トレッド部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、ゴム成分が、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有し、ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dが370nm以下である、タイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備えたタイヤであって、
前記トレッド部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記ゴム成分が、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有し、
前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dが370nm以下である、タイヤ。
【請求項2】
前記トレッド部の厚みTが15.0mm以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
Dと前記トレッド部の厚みT(mm)との積(D×T)が2750以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物の70℃における0.25%ねじりせん断時の複素弾性率G*a(MPa)と70℃における1.0%ねじりせん断時の複素弾性率G*b(MPa)との差ΔG*が、0.5MPa以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部の厚みT(mm)と、ΔG*との積(T×ΔG*)が、5.0以下である、請求項4記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)が0.15以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部の厚みT(mm)と、前記ゴム組成物の70℃におけるtanδとの積(T×70℃tanδ)が2.25以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記ロシアタンポポ由来天然ゴムのFFF-MALSによって測定される重量平均分子量(Mw)が500万以上である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記ロシアタンポポ由来天然ゴムのFFF-MALSによって測定される分子量分布(Mw/Mn)が2.0以上である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)が0.30以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の周方向溝が設けられ、前記周方向溝の最深部の溝深さが1.0mm超3.0mm未満である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の周方向溝が設けられ、前記周方向溝の少なくとも一つの溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられた、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記トレッド部のトレッド面のランド比をCとするとき、前記ゴム組成物におけるゴム成分中のロシアタンポポ由来天然ゴムの含有量(質量%)AとCとの積(A×C)が、81以下である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項14】
重荷重用である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項15】
ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含むゴム成分を含有するタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法であって、
前記ゴム組成物の、前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dは370nm以下であり、
前記製造方法は、ロータを備えた混練機でゴム成分と添加剤とを混練するものであり、
(1)前記混練機にロシアタンポポ由来天然ゴムおよび加硫促進剤を含む原料を投入し混練する工程
(2)工程(1)によって得られた混練物、および硫黄を混練する工程
を含むゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の観点から、タイヤにおいても低燃費性能や耐摩耗性能の向上が要求されている。他方、世界的なタイヤ生産量は増加傾向にあり、それに伴い天然ゴムの使用量も増加傾向が続いているが、ゴムノキは、亜熱帯地域でしか栽培されておらず、安定供給や価格の面で不安定である。そのため、ゴムノキに代わる天然ゴムの原料が求められている。
【0003】
ロシアタンポポは、温帯地域で生息する単年草であり、耕作可能地がアジア、北米、欧州と広いため、天然ゴムの供給リスクを分散することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロシアタンポポ由来の天然ゴムは分子量が大きい傾向があり、他のゴム成分と均一に混練することが難しく、カーボンブラックなどのフィラーの分散性が悪くなることで、ゴム組成物の機械的強度が担保されず、タイヤの耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0006】
本発明は、低燃費性能および耐摩耗性能の総合性能が向上したロシアタンポポ由来の天然ゴムを含有するゴム組成物により構成されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のタイヤ、および、ゴム組成物の製造方法に関する。
トレッド部を備えたタイヤであって、
前記トレッド部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記ゴム成分が、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有し、
前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dが370nm以下である、タイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低燃費性能および耐摩耗性能の総合性能が向上したロシアタンポポ由来の天然ゴムを含有するゴム組成物により構成されたタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの子午断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るタイヤのトレッド部の横断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る周方向溝の一部が示された拡大断面図である。
【
図4】フィラーの分配状態を示す原子間力顕微鏡写真の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
理論に拘束されることは意図しないが、本発明の効果が発揮されるメカニズムとしては、例えば以下のように考えられる。
【0011】
まず、耐摩耗性能に関し、ブタジエンゴムを含有することで、ロシアタンポポ由来の天然ゴムを含有する場合にも、カーボンブラックなどのフィラーの分散性が向上し、ゴム組成物の機械強度が担保され、耐摩耗性能が向上する(1)。また、低燃費性能に関し、発熱が抑制されるので、低発熱性能が向上する(2)。また、ブタジエンゴムとロシアタンポポ由来の天然ゴムでは、本来ポリマーの硬さが異なるため均一に混練しづらいが、所定の平均ドメイン幅Dを370nm以下とすることにより、ゴム相中で各ゴム成分が偏らないようにすることができる(3)。そして、上記(1)~(3)が協働することによって、低燃費性能および耐摩耗性能の総合性能が向上したロシアタンポポ由来の天然ゴムを含有するゴム組成物により構成されたタイヤが提供されるという特筆すべき効果が達成される。
【0012】
本発明の第一の実施態様は、トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、前記ゴム成分が、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有し、前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dが370nm以下である、タイヤに関する。
【0013】
トレッド部の厚みTは15.0mm以下であることが好ましい。
【0014】
Tが15.0mm以下であることで、タイヤ全体のゴム量が減少するため、低発熱性能がさらに向上すると考えられる。
【0015】
Dと前記トレッド部の厚みT(mm)との積(D×T)は2750以下であることが好ましい。
【0016】
D×Tが2750以下であることで、ポリマーの均一性が高く応力が分散するため、低燃費性能および耐摩耗性能がさらに向上すると考えられる。
【0017】
前記ゴム組成物の70℃における0.25%ねじりせん断時の複素弾性率G*a(MPa)と70℃における1.0%ねじりせん断時の複素弾性率G*b(MPa)との差ΔG*は、0.5MPa以下であることが好ましい。
【0018】
ΔG*は、0.5MPa以下であることで、カーボンブラックなどのフィラーの分散性が向上し、ゴム組成物の破壊特性が向上し、耐摩耗性能がさらに向上すると考えられる。
【0019】
T(mm)とΔG*との積(T×ΔG*)は、フィラーの分散性の観点から、5.0以下であることが好ましい。
【0020】
前記ゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)は、低燃費性能の観点から、0.15以下であることが好ましい。
【0021】
T(mm)と、70℃tanδとの積(T×70℃tanδ)は、低燃費性能の観点から、2.25以下であることが好ましい。
【0022】
前記ロシアタンポポ由来天然ゴムのFFF-MALSによって測定される重量平均分子量(Mw)が500万以上であることが好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)は2.0以上であることが好ましい。
【0023】
ロシアタンポポ由来天然ゴムの分子量を大きくすることで、ゴム組成物の破壊特性が向上し、耐摩耗性能がさらに向上すると考えられる。
【0024】
前記ゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)は、低燃費性能の観点から、0.30以下であることが好ましい。
【0025】
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の周方向溝が設けられ、前記周方向溝の最深部の溝深さが1.0mm超3.0mm未満であることが好ましい。
【0026】
周方向溝の最深部の溝深さを上記の範囲とすることで、低燃費性能および耐摩耗性能がさらに向上すると考えられる。
【0027】
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の周方向溝が設けられ、前記周方向溝の少なくとも一つの溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられることが好ましい。
【0028】
周方向溝の溝壁にかかる凹部を設けることで、トレッド内部に空隙を形成させ、当該空隙部で衝撃の吸収および伝播の抑制を行うことができると考えられる。
【0029】
前記トレッド部のトレッド面のランド比をCとするとき、前記ゴム組成物におけるゴム成分中のロシアタンポポ由来天然ゴムの含有量(質量%)AとCとの積(A×C)が、81以下であることが好ましい。
【0030】
A×Cを上記の範囲とすることにより、ロシアタンポポ由来天然ゴムの含有量が増えても、ランド比が下がるため、耐摩耗性能をさらに向上できると考えられる。
【0031】
本発明の第二の実施態様は、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含むゴム成分を含有するタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法であって、
前記ゴム組成物の、前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dは370nm以下であり、
前記製造方法は、ロータを備えた混練機でゴム成分と添加剤とを混練するものであり、
(1)前記混練機にロシアタンポポ由来天然ゴムおよび加硫促進剤を含む原料を投入し混練する工程
(2)工程(1)によって得られた混練物、および硫黄を混練する工程
を含むゴム組成物の製造方法、に関する。
【0032】
材料の投入順序として、通常仕上げ練りで投入する加硫促進剤を、ベース練りで投入することにより、加硫促進剤の分散性が向上し、耐摩耗性能が向上すると考えられる。
【0033】
<定義>
「平均ドメイン幅D(nm)」とは、原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化後、フィラーに相当する部分を抜き出し、残ったポリマー相界面の長さを合計した値である。1つのポリマー相にフィラーが入っている場合には抜けた部分を埋め、フィラーが2種のポリマー成分の境界面にある場合には抜けた状態のままで算出する。
【0034】
ここで3値化とは、AFMによって得られる画像の画素を256階調(8ビット)で表現したとき、白画素(255)、黒画素(0)の2値に加えて灰色画素(128)に識別することを意味する。
【0035】
「トレッド部の厚みT(mm)」とは、タイヤ子午線を通る面でタイヤを切断したときの断面(タイヤ子午線断面)において、タイヤ赤道において測定されるトレッド面に対し垂直な方向での厚みである。タイヤ赤道上に周方向溝を有する場合においては、当該溝を埋めたものとして認識される厚みである。なお、トレッド部の厚みは、タイヤを周方向に72°ずつ回転させ、5か所の位置で求めたトレッド部の厚みの平均値である。
【0036】
「ランド比」とは、トレッド部接地面における、総接地面積に対する実接地面積の比をいう。総接地面積および実接地面積の測定方法は後述する。
【0037】
<測定方法>
「G*a」は、TAInstruments社製のレオメーターARESを用いて、温度70℃、周波数10Hz、0.25%ねじりせん断の条件下で測定する複素弾性率(MPa)である。「G*b」は、温度70℃、周波数10Hz、1.0%ねじりせん断の条件下で測定する複素弾性率(MPa)である。複素弾性率測定用サンプルは、直径10mm、厚さ2.0mmの円盤状の加硫ゴム組成物である、タイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部から、タイヤの半径方向が厚み方向となるように切り出す。
【0038】
「70℃tanδ」は、粘弾性測定装置、例えばGABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される損失正接である。損失正接測定用サンプルは、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物である。タイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ幅方向が厚さ方向となるように切り出す。
【0039】
「30℃tanδ」は、粘弾性測定装置、例えばGABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定する損失正接である。測定用サンプルは、70℃tanδと同様に作製される。
【0040】
「ロシアタンポポ由来天然ゴムの重量平均分子量(Mw)」は、フィールド・フロー・フラクネーション(FFF)システム、およびFFFに接続した多角度光散乱検出器(MALS)により測定・分析し、算出される。FFF-MALSの各装置と条件は以下の通りとする。
FFF装置:Pоstnоva社製のTF2000(測定条件:移動相にはTHFを用い、ろ液の流速は0.3L/分とする)
MALS検出器:Pоstnоva社製のPN3150(測定条件:7°~168°の計21角度で測定する)
RI検出器:Pоstnоva社製のPN3621(測定条件:検出温度37℃)
装置の配管の連結方法:FFF装置-MALS検出器-RI検出器の順に連結
【0041】
「トレッド部の接地形状」は、タイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を加え、25℃で24時間静置した後、タイヤトレッド表面に墨を塗り、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で紙に押しつけ、紙に転写させることで得られる。転写は、タイヤを周方向に72°ずつ回転させ、5か所で行う。よって、接地形状は5回得られる。
【0042】
「総接地面積」は、トレッド部の接地形状において、外輪郭により得られる面積の5か所平均値とする。「実接地面積」は、トレッド部の接地形状において、墨部分の面積の5か所平均値とする。すなわち、ランド比は下記式により求められる。
ランド比C=墨部分の面積の5か所平均値/接地形状の外輪郭により得られる面積の5か所平均値
【0043】
「N2SA」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。N2SAは、カーボンブラック等に適用される。
【0044】
「ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)」は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。例えば、ブタジエンゴム(BR)等に適用される。
【0045】
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。重量平均分子量(Mw)は、ロシアタンポポ由来天然ゴム以外のゴム成分、例えば、SBR、BR等に適用される。
【0046】
「シス1,4-結合含有率(シス含量)」は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。例えば、BR等に適用される。
【0047】
「軟化点」は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。例えば、樹脂成分等に適用される。
【0048】
<タイヤ>
図1~
図3に、本発明の一実施形態であるタイヤを例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1~
図3には、タイヤ子午線による断面の一部が示されている。
図1~
図3において、上下方向がタイヤ半径方向であり、左右方向がタイヤ軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤ周方向である。
【0049】
図1は、本発明の一実施形態のタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸(図示省略)を含む子午断面図である。タイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4と、一対のビードコア5と、カーカス層6と、ベルト層7とを含んでいる。前記トレッド部2には、4本の周方向溝8、9が形成されている。トレッド端Teから他方のトレッド端Teまでのタイヤ軸方向の距離がトレッド幅TWである。
【0050】
本発明において、トレッド部2の厚みTは、耐摩耗性能の観点から、15.0mm以下が好ましく、10.0mm以下がより好ましく、9.0mm以下がさらに好ましく、8.8mm以下が特に好ましい。また、低燃費性能の観点からは、トレッド部の厚みTは、6.0mm以上が好ましく、6.0mm以上がより好ましく。7.0mm以上がさらに好ましい。
【0051】
[周方向溝]
図2に示されるように、トレッド部2には、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝8が設けられている。
図2では、タイヤ赤道Cと各トレッド端Teとの間に、計4本の周方向溝8が設けられているが、このような態様に限定されるものではない。トレッド部2は、タイヤ幅方向で、周方向溝8によって仕切られた陸部11を有している。
【0052】
各周方向溝8の溝幅W1は、トレッド表面での開口幅が2.0mm以上である場合には、例えば、トレッド幅TWの3.0%以上15.0%以下とすることができる。なお、本明細書において、周方向溝8の溝幅とは、タイヤ子午線断面においてトレッド部2の踏面に表れる溝縁間の長さを意味する。
【0053】
周方向溝3の溝深さHは、周方向溝8のトレッド最表面の溝縁10からの延長線と周方向溝の溝底(最深部12)との距離によって求められる。なお、溝深さHは、例えば、周方向溝8が複数ある場合、周方向溝のトレッド最表面の溝縁からの延長線と周方向溝の溝底との距離が最も長い周方向溝の溝深さとする。
【0054】
本発明において、周方向溝の溝深さHは、本発明の効果の観点から、1.0mm超が好ましく、1.5mm超がより好ましく、2.0mm超がさらに好ましく、2.5mm超が特に好ましい。また、周方向溝の溝深さは、耐久性能の観点から、5.0mm未満が好ましく、4.5mm未満がより好ましく、3.5mm未満がさらに好ましく、3.0mm未満が特に好ましい。
【0055】
図2において、周方向溝8の溝壁には、前記トレッド最表面の溝縁10よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられている。トレッド部2には、周方向溝8の少なくとも一つの溝壁に、トレッド部2の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられることが好ましい。凹部が設けられた周方向溝最深部溝深さH(mm)も、周方向溝の溝深さと同様に求められる。
【0056】
図3では、周方向溝8は、両側の溝壁に、凹み量がタイヤ周方向に一定の凹部13が設けられている。凹部13は、例えば、最深部12と溝縁10との間に平面15が構成されているが、このような態様に限定されない。
【0057】
周方向溝8の合計凹み量(
図3ではc1+c2)は、周方向溝8の溝幅W1の0.10~5.00倍が好ましく、0.15~3.50倍がより好ましく、0.20~2.00倍がさらに好ましい。なお、当該凹部を有する周方向溝が複数存在する場合には、いずれかの周方向溝の合計凹み量が上記の関係を満たしていればよく、全ての凹部を有する溝が上記関係を満たしていてもよい。
【0058】
トレッド部2の踏面に表れる溝縁10よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられた周方向溝は、サイプと該サイプを通じてトレッド面と連通した隠れ溝を組み合わせた周方向溝(例えば、
図1の周方向溝9)であってもよい。
【0059】
本発明の第一実施形態であるタイヤのランド比Cは、耐摩耗性能の観点から0.60超が好ましく、0.65超がより好ましく、0.70超がさらに好ましい。ランド比が0.60未満であると、トレッド部の変形が大きくなり、耐摩耗性能の向上効果が低下すると考えられる。一方、ランド比Cは、0.90未満が好ましく、0.85未満がより好ましく、0.80未満がさらに好ましい。ランド比Cが0.90超であると、トレッド部のゴムが充分に変形することができず、低燃費性能の向上効果が低下する傾向がある。
【0060】
[ゴム組成物]
本発明の第一の実施形態であるタイヤは、トレッド部を有し、前記トレッド部はロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含むゴム成分を含むゴム組成物から構成される。
【0061】
本発明において、ブタジエンゴムのAFMによって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dは370nm以下であり、該平均ドメイン幅Dは、360nm以下が好ましく、350nm以下がより好ましく、340nm以下がさらに好ましく、330nm以下がさらに好ましく、320nm以下が特に好ましい。また、上記平均ドメイン幅Dの下限値は特に制限されないが、例えば、250nm以上、280nm以上、300nm以上等とすることができる。
【0062】
図4は、フィラーの分配状態を示す原子間力顕微鏡写真の概念図である。
図4において、ブタジエンゴムの平均ドメイン幅Dは、フィラーに相当する部分30を抜き出し、残ったブタジエンゴム相に相当する部分31の界面Iの長さを合計した値である。
【0063】
ブタジエンゴムのAFMによって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dは、ブタジエンゴムの種類やMw、ブタジエンゴム以外のゴム成分の種類やMw等によって調節することができる。
【0064】
Dとトレッド部の厚みTとの積(D×T)は、フィラーの分散性の観点から、3000以下が好ましく、2900以下がより好ましく、2750以下がさらに好ましく、2600以下が特に好ましい。また、D×Tはトレッド部の厚みを確保し、低燃費性能を担保する観点から、1000以上が好ましく、1500以上がより好ましく、2000以上がさらに好ましい。
【0065】
本発明のゴム組成物の70℃における0.25%ねじりせん断時の複素弾性率G*aは、走行の安定性の観点から、4.0MPa以上が好ましく、4.5MPa以上がより好ましく、5.0MPa以上がさらに好ましい。また、破壊強度の観点からは、G*aは、11.0MPa以下が好ましく、11.5MPa以下がより好ましく、12.0MPa以下がさらに好ましい。
【0066】
本発明のゴム組成物の70℃における1.0%ねじりせん断時の複素弾性率G*bは、走行の安定性の観点から、4.0MPa以上が好ましく、4.5MPa以上がより好ましく、5.0MPa以上がさらに好ましい。また、破壊強度の観点からは、G*aは、11.0MPa以下が好ましく、11.5MPa以下がより好ましく、12.0MPa以下がさらに好ましい。
【0067】
ねじりせん断時の複素弾性率G*は、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、フィラー等を増量することで大きくなる傾向があり、フィラー等を減らすことで小さくなる傾向がる。G*は、前記方法により測定される。
【0068】
本発明のゴム組成物において、G*aとG*bとの差(G*a-G*b)ΔG*は、カーボンブラック等のフィラーの分散性を向上し、耐摩耗性能を向上する観点から、0.50MPa以下が好ましく、0.45MPa以下がより好ましく、0.40MPa以下がさらに好ましい。なお、ΔG*の下限値は、特に制限されない。
【0069】
トレッド部の厚みTと、ΔG*との積(T×ΔG*)は、本発明の効果の観点から、5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.5以下が特に好ましい。なお、T×ΔG*の下限値は、特に制限されない。
【0070】
本発明のゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)は、低燃費性能の観点から、0.17以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.13以下がさらに好ましく、0.11以下が特に好ましい。また、耐久性能の観点からは、70℃tanδは、0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.04以上がさらに好ましい。
【0071】
トレッド部の厚みTと、70℃tanδとの積(T×70℃tanδ)は、本発明の効果の観点から、2.25以下が好ましく、2.20以下がより好ましく、2.15以下がさらに好ましく、2.10以下が特に好ましい。なお、T×70℃tanδの下限値は、特に制限されない。70℃tanδは、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、フィラーやオイルの量を増量することで大きくなる傾向がある。
【0072】
本発明のゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)は、低燃費性能の観点から、0.3以下が好ましく、0.29以下がより好ましく、0.28以下がさらに好ましく、0.27以下が特に好ましい。また、耐久性能の観点からは、30℃tanδは、0.10以上が好ましく、0.11以上がより好ましく、0.12以上がさらに好ましい。30℃tanδは、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、フィラーやオイルの量を増量することで大きくなる傾向がある。
【0073】
<ゴム成分>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有し、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムのみからなるゴム成分とすることもできるし、さらにロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴム以外のゴム成分を含有するゴム成分とすることもできる。以下、天然ゴムをNRと称す場合がある。
【0074】
(ロシアタンポポ由来NR)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、ロシアタンポポ由来NRを含有する。ロシアタンポポ由来のNRを使用することで、天然ゴムの供給リスクを分散できる。ロシアタンポポ由来のNRは、ゴムノキ(ヘベア)由来の天然ゴムと比較し、高分子量成分を多量に含み、分岐度が低く、直鎖状ポリマーを多く含むという特徴を有する。直鎖状ポリマーを多く含むため、ポリマーの分子末端が少なく、自由分子末端が少なくなることで、ヒステリシスロスを生じる成分が少ないという特徴を有する。
【0075】
ロシアタンポポ由来NRは、例えば、米国特許出願公開第US2019/0048101号明細書、米国特許出願公開第2019/0046895号明細書に記載の抽出方法により得ることができる。
【0076】
ロシアタンポポ由来NRの重量平均分子量Mwは、前記測定方法のとおり、FFF-MALSにより測定・分析し、算出される。FFF-MALSによって測定されるロシアタンポポ由来NRのMwは、400万以上が好ましく、450万以上がより好ましく、500万以上がさらに好ましく、510万以上がさらに好ましく、520万以上が特に好ましい。また、FFF-MALSによって測定されるロシアタンポポ由来NRのMwは特に制限されないが、通常400万以下である。
【0077】
ロシアタンポポ由来NRのゴム成分中の含有量Aは、本発明の効果の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。また、該含有量Aは、ブタジエンゴム等他のゴム成分を含有し、耐摩耗性および低燃費性能を向上させる観点からは、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0078】
ロシアタンポポ由来NRのゴム成分中の含有量Aとタイヤのランド比Cとの積(A×C)は、耐摩耗性能の観点から、81以下が好ましく、70以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。また、A×Cの下限値は特に制限されないが、例えば、20以上、25以上、30以上等とすることができる。
【0079】
(BR)
本発明のゴム組成物は、ブタジエンゴム(BR)を含有する。BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、95モル%以上が好ましく、96モル%以上がより好ましく、97モル%以上がさらに好ましい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0081】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0082】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0083】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、BRの重量平均分子量は、前記測定方法により測定される。
【0084】
BRのゴム成分中の含有量は、本発明の効果の観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。また、該含有量は、他のゴム成分を含有し、耐摩耗性および低燃費性能を向上させる観点からは、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0085】
(その他のゴム成分)
本実施形態に係るゴム成分として、前記のロシアタンポポ由来天然ゴムおよびBR以外のゴム成分を含有してもよい。その他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のジエン系ゴム;ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴムが挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、ロシアタンポポ由来のNR以外のNR、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。ロシアタンポポ由来のNR以外のNRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム等を、変性NRとしてはエポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等を、変性IRとしてはエポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等を挙げることができる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、未変性の溶液重合SBR(S-SBR)や乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加されたSBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
<フィラー>
本発明のゴム組成物は、フィラーとしてカーボンブラックを含有することが好ましく、カーボンブラックのみからなるフィラーとしてもよい。
【0089】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なお、一般的な鉱油を燃焼させて生成されるカーボンブラック以外に、リグニン等のバイオマス材料を用いたカーボンブラックを用いてもよい。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびグリップ性能の観点から、50m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましく、120m2/g以上が特に好ましい。また、分散性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0091】
本発明のゴム組成物のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、耐摩耗性能および発熱性を向上させる観点から、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましく、50質量部以上が特に好ましい。また、低燃費性能の観点から、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、70質量部以下がさらに好ましく、65質量部以下が特に好ましい。
【0092】
(その他のフィラー)
びカーボンブラック以外のフィラーとしては、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。これらのフィラーの他、バイオ炭(BIOCHAR)を適宜用いてもよい。
【0093】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。なお、上記のシリカの他に、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたシリカを適宜用いてもよい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、可塑剤、ワックス、加工助剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0095】
<可塑剤>
本発明のゴム組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては、例えば、オイル、樹脂成分、液状ゴム、エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0096】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンに用いられた後の廃油や、飲食店で使用された廃食用油を精製したものを用いてもよい。
【0097】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、カーボンブラックの分散性の観点から、2.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0098】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0100】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0101】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0102】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。
【0103】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えばトールロジン、ガムロジン、ウッドロジン等の天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0104】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0105】
樹脂成分の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、軟化点は、前記方法により測定される。
【0106】
液状ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられ、これらが水素添加されたものであってもよく、これらの主鎖および/または末端が変性基で変性された変性液状ポリマー(好ましくは末端変性液状ポリマー)であってもよい。これらの液状ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
変性液状ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、片末端または両末端が変性された液状ブタジエンポリマー(末端変性液状BR)、片末端または両末端が変性されたが変性された液状スチレンブタジエンポリマー(末端変性液状SBR)等が挙げられ、これらが水素添加されたものであってもよい。なかでも、水素添加されていてもよい末端変性液状BRが好ましい。
【0108】
エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等が挙げられる。これらのエステル系可塑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
<その他の配合剤>
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0110】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0111】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0112】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(2種以上の老化防止剤を併用する場合には、合計含有量)は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。
【0114】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物などが挙げられ、脂肪酸アミドが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。
【0116】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0117】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0118】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0119】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を併用することがより好ましい。
【0120】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0121】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0122】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0123】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、3.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0124】
<製造>
本発明に係るタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でトレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0125】
本発明の第一の実施形態に係るタイヤを構成するゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。
【0126】
<用途>
本発明に係るタイヤは、重荷重用空気入りタイヤの他、例えば、乗用車用や自動二輪車用の空気入りタイヤとしても用いることができる。また、本発明に係るタイヤは、空気入りタイヤに限られることなく、例えば、エアレスタイヤにも適用され得る。このうち、本発明の効果の観点から、重荷重用の空気入りタイヤに用いることが好ましい。なお、重荷重用タイヤとは、その最大負荷能力が1400kg以上のタイヤを指す。ここで、最大負荷能力とは正規荷重と同じ意味である。
【0127】
[ゴム組成物の製造方法]
本発明の第二の実施形態に係るゴム組成物の製造方法は、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含むゴム成分を含有するゴム組成物の製造方法であって、前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dが370nm以下であり、前記製造方法は、ロータを備えた混練機でゴム成分と添加剤とを混練するものであり、
(1)前記混練機にロシアタンポポ由来天然ゴムおよび加硫促進剤を含む原料を投入し混練する工程
(2)工程(1)によって得られた混練物、および硫黄を混練する工程
を含むゴム組成物の製造方法である。
【0128】
<混練工程>
本発明のゴム組成物の製造方法は、工程(1)および工程(2)を含むものであり、工程(1)はベース練り工程ともいい、工程(2)は、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤を加えてさらに混練りする、仕上げ練り工程ともいう。
【0129】
<混練機>
混練機としては、従来からタイヤ工業で使用されている公知の密閉式混練機を用いることが好ましい。このような密閉式混練機は、一般に、ロータが設置された混練室上に昇降可能なラムウェイトが設置されている。ロータは、その両端または片端に軸部を備え、軸部は、軸受けで回転可能に支持されており、その軸部が回転することにより、ロータが回転する。ロータは、二つを1対として、混練室内に設置されているのが一般的である。そして、当該ラムウェイトの下降により混練室にゴム成分等の原料を押し込みながら、混練室内のロータを回転することにより混練を行う。このような混練機としては、例えば、バンバリーミキサーやニーダー等があげられる。なかでも、作業性や生産性に優れるという理由から、バンバリーミキサーが好ましい。ロータの形状は、接線式、噛み合い式のいずれであってもよい。また、ロータは、2枚羽根ロータ、4枚羽根ロータ、6枚羽根ロータのいずれであってもよい。密閉式混練機の容量は特に限定されず、例えば1.7~619Lの範囲の各種容量のものを用いることができる。
【0130】
(ベース練り工程)
ベース練り工程は、上記密閉式混練機で、硫黄を含まない原料を混練する工程とすることができる。
【0131】
ベース練り工程で使用する混練機は、排出温度の調節が可能な混練機であれば特に限定されない。
【0132】
ベース練り工程における排出温度は、カーボンブラックの分散性の観点から、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。また、熱によるゴムの収縮(シュリンク)を抑制する観点からは、130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましい。
【0133】
ベース練り工程の混練時間は、特に限定されないが、カーボンブラックの分散性の観点から、50秒以上が好ましく、70秒以上がより好ましく、90秒以上がさらに好ましい。また、シュリンクを抑制する観点からは、180秒以下が好ましく、150秒以下がより好ましい。
【0134】
ベース練り工程におけるロータ回転数は特に限定されず、タイヤ工業で従来から使用されている回転数に設定すればよい。
【0135】
ベース練り工程における原料には、ロシアタンポポ由来天然ゴム、ブタジエンゴムおよび加硫促進剤の他に、フィラー、可塑剤、その他配合剤を含むことが好ましい。ベース練り工程におけるフィラー、可塑剤、その他配合剤の添加量は、分散性の観点から、ゴム組成物中の全含有量の100質量%が好ましい。
【0136】
(仕上げ練り工程)
仕上げ練り工程は、ベース練り工程によって得られた混練物および硫黄を混練する工程とすることができる。
【0137】
仕上げ練り工程で使用する混練機は、排出温度の調節が可能な混練機であれば特に限定されず、密閉式混練機であっても、オープンロールであってもよい。
【0138】
仕上げ練り工程における排出温度は、特に限定されないが、各成分の分散性の観点から、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、85℃以上がさらに好ましい。また、過度な加硫反応を抑制する観点からは、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、105℃以下がさらに好ましい。
【0139】
仕上げ練り工程の混練時間は、特に限定されないが、例えば、1~10分とすることができる。
【0140】
仕上げ練り工程におけるロータ回転数は特に限定されず、タイヤ工業で従来から使用されている回転数に設定すればよい。
【0141】
仕上げ練り工程における硫黄の添加量は、ゴム組成物中の全ゴム成分含有量の50質量%超が好ましく、75質量%超がより好ましく、90質量%超がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0142】
仕上げ練り工程における硫黄以外のゴム成分の添加量は、ゴム組成物中の全ゴム成分含有量の50質量%未満が好ましく、25質量%未満がより好ましく、10質量%未満がさらに好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0143】
本発明の第二の実施形態にかかるゴム組成物の製造方法は、上記の混練工程を含むこと以外は従来の製造方法とすることができる。
【実施例0144】
以下に示す各種薬品を用いて表1~表2に従って配合を変化させて得られるゴム組成物を用いて作製されるトレッド部を備えるタイヤを検討して、下記の各種分析・評価方法に基づいて算出した結果を表1~表2に示す。
【0145】
ロシアタンポポ由来の天然ゴム1:後述の製造例で製造されるロシアタンポポ由来の天然ゴム(Mw:586万)
ロシアタンポポ由来の天然ゴム2:後述の製造例で製造されるロシアタンポポ由来の天然ゴム(Mw:511万)
BR1:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(未変性BR、シス含量:97モル%、Mw:44万)
BR2:JSR(株)製のBR730(Nd系触媒を用いて合成したBR、シス含量:95モル%、Mw:60万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N2SA:111m2/g)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:川口化学工業(株)製のアンテージRD(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)
【0146】
製造例:ロシアタンポポ由来天然ゴムの合成
米国特許出願公開第2019/0048101号明細書、米国特許出願公開第2019/0046895号明細書に記載の抽出方法により、ロシアタンポポ由来天然ゴムを調製する。THF中に、調整した天然ゴムを溶液中のゴム濃度が0.2質量%となるように添加し、1週間振とうする。得られた溶液をPTFE製のフィルター(孔径1.0または5.0μm)を用いてろ過する。ろ液をFFF-MALSにより測定・分析し、ゴム成分のMwを算出する。算出したMwから、ロシアタンポポ由来天然ゴム1およびロシアタンポポ由来天然ゴム2を区別する。なお、FFF-MALSの各装置と条件は以下の通りとする。
FFF装置:Pоstnоva社製のTF2000(測定条件:移動相にはTHFを用い、ろ液の流速は0.3L/分とする)
MALS検出器:Pоstnоva社製のPN3150(測定条件:7°~168°の計21角度で測定する)
RI検出器:Pоstnоva社製のPN3621(測定条件:検出温度37℃)
装置の配管の連結方法:FFF装置-MALS検出器-RI検出器の順に連結
【0147】
表1および表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、トレッド部の形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して各試験用タイヤを得る。
【0148】
<BRの平均ドメイン幅Dの測定>
AFMにより得られた画像を3値化後、フィラーに相当する部分を抜き出し、残ったポリマー相界面の長さを合計した値をドメイン幅D(nm)とする。1つのポリマー相にフィラーが入っている場合には抜けた部分を埋め。フィラーが2種のポリマー成分の境界面にある場合には抜けた状態のままで算出する。
【0149】
<70℃tanδの測定>
各試験用タイヤのトレッド部から試験片を切り出し、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%で、損失正接(tanδ)を測定する。
【0150】
<カーボン分散指数>
各試験用タイヤのトレッド部からタイヤの半径方向が厚み方向となるように、直径10mm、厚さ2.0mmの円盤状の試験片を切り出し、TAInstruments社製のレオメーターARESを用いて、温度70℃、周波数10Hzの条件下で、ねじりせん断時の複素弾性率G*a(0.25%せん断変形時)およびG*b(1.0%せん断変形時)を測定する。G*aとG*bとの差ΔG*(G*a-G*b)の逆数の値について、比較例2を100として指数表示する。指数が大きいほどカーボン分散性に優れることを示す。
(カーボン分散指数)=(比較例6のΔG*)/(各試験用タイヤのトレッド部のΔG*)×100
【0151】
<低燃費性能指数>
各試験用タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製される各加硫ゴム試験片について、動的粘弾性測定装置(GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪1%、伸長モードの条件下で複素弾性率E*および損失正接tanδを測定する。各タイヤの30℃tanδの逆数の値について比較例2を100として指数表示する(低燃費性能指数)。指数が大きいほど低燃費性能に優れることを示す。
(低燃費性能指数)=(比較例8の30℃tanδ)/(各試験用タイヤのトレッド部の30℃tanδ)×100
【0152】
<耐摩耗性能指数>
各試験用タイヤのトレッド部からタイヤ周方向が長辺となる様に長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの試験片を切り出し、LAT試験機(Laboratory Abrasion and Skid Tester)を用い、荷重100N、速度20km/h、スリップアングル6°の条件にて、各試験片の容積損失量を測定し、次の式に基づき、指数で表示する。指数が大きいほど、耐摩耗性能に優れる。
耐摩耗性能=(比較例8の容積損失量)/(各試験片の容積損失量)×100
【0153】
<総合性能>
各試験用タイヤについて、低燃費性能および耐摩耗性能の各指数を合計した数を総合性能指数とし、各試験用タイヤの評価に用いる。
【0154】
次に、前述の各種薬品を用いて表3に従って配合を変化させて得られるゴム組成物を用いて作製されるトレッド部を備えるタイヤを検討して下記評価方法に基づいて算出する。
【0155】
表3のベース練り工程に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、ベース練り工程で得られた混練物に、表3の仕上げ練り工程に示す成分を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、トレッド部の形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して各試験用タイヤを得る。
【0156】
<耐摩耗性能指数>
各試験用タイヤのトレッド部からタイヤ周方向が長辺となる様に長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの試験片を切り出し、LAT試験機(Laboratory Abrasion and Skid Tester)を用い、荷重100N、速度20km/h、スリップアングル6°の条件にて、各試験片の容積損失量を測定し、次の式に基づき、指数で表示する。指数が大きいほど、耐摩耗性能に優れる。
耐摩耗性能=(比較例9の容積損失量)/(各試験片の容積損失量)×100
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
<実施形態>
本発明の実施形態の例を以下に示す。
〔1〕トレッド部を備えたタイヤであって、
前記トレッド部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記ゴム成分が、ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有し、
前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dが370nm以下である、タイヤ。
〔2〕前記トレッド部の厚みTが15.0mm以下である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕Dと前記トレッド部の厚みT(mm)との積(D×T)が2750以下である、上記〔1〕または〔2〕に記載のタイヤ。
〔4〕前記ゴム組成物の70℃における0.25%ねじりせん断時の複素弾性率G*a(MPa)と70℃における1.0%ねじりせん断時の複素弾性率G*b(MPa)との差ΔG*が、0.5MPa以下である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔5〕前記トレッド部の厚みT(mm)と、ΔG*との積(T×ΔG*)が、5.0以下である、上記〔4〕記載のタイヤ。
〔6〕前記ゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)が0.15以下である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔7〕前記トレッド部の厚みT(mm)と、前記ゴム組成物の70℃におけるtanδとの積(T×70℃tanδ)が2.25以下である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔8〕前記ロシアタンポポ由来天然ゴムのFFF-MALSによって測定される重量平均分子量(Mw)が500万以上である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔9〕前記ロシアタンポポ由来天然ゴムのFFF-MALSによって測定される分子量分布(Mw/Mn)が2.0以上である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔10〕前記ゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)が0.30以下である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔11〕前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の周方向溝が設けられ、前記周方向溝の最深部の溝深さが1.0mm超3.0mm未満である、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔12〕前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の周方向溝が設けられ、前記周方向溝の少なくとも一つの溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられた、上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔13〕前記トレッド部のトレッド面のランド比をCとするとき、前記ゴム組成物におけるゴム成分中のロシアタンポポ由来天然ゴムの含有量(質量%)AとCとの積(A×C)が、81以下である、上記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔14〕重荷重用である、上記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔15〕ロシアタンポポ由来天然ゴムおよびブタジエンゴムを含むゴム成分を含有するタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法であって、
前記ゴム組成物の、前記ブタジエンゴムの原子間力顕微鏡(AFM)によって得られる画像を3値化することにより測定した平均ドメイン幅Dは370nm以下であり、
前記製造方法は、ロータを備えた混練機でゴム成分と添加剤とを混練するものであり、
(1)前記混練機にロシアタンポポ由来天然ゴムおよび加硫促進剤を含む原料を投入し混練する工程
(2)工程(1)によって得られた混練物、および硫黄を混練する工程
を含むゴム組成物の製造方法。