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特開2024-106370旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法
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  • 特開-旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法 図1
  • 特開-旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法 図2
  • 特開-旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法 図3
  • 特開-旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106370
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/028 20060101AFI20240801BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20240801BHJP
   F16K 17/06 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
F15B11/028 A
E02F9/22 C
F16K17/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010601
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】澤田 直樹
【テーマコード(参考)】
2D003
3H059
3H089
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003BA01
2D003BB03
2D003CA02
2D003DA02
2D003DB02
3H059BB05
3H059BB22
3H059CE00
3H059EE01
3H059FF03
3H089AA02
3H089AA81
3H089BB15
3H089BB17
3H089BB20
3H089BB27
3H089CC08
3H089CC12
3H089DA02
3H089DA03
3H089DB03
3H089DB33
3H089FF08
3H089GG02
3H089JJ02
(57)【要約】
【課題】上部旋回体を旋回させることなく、各リリーフ弁のリリーフ圧を高精度に設定できる旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法を提供する。
【解決手段】各旋回モータ17a,17bの回転を強制停止し、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧がその他の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧より低圧の状態で、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプ11から作動油を供給しつつ、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する工程を、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁を順次切り替えて実施する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の旋回体を旋回させる複数の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法であって、
各旋回モータの回転を強制停止し、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧がその他の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧より低圧の状態で、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプから作動流体を供給しつつ、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する工程を、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁を順次切り替えて実施する
ことを特徴とする旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法。
【請求項2】
旋回モータは対をなして設定され、
各旋回モータの回転を強制停止した状態で、
一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を、他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧よりも高圧に設定して、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプから作動流体を供給しつつ他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整し、
一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を、第一工程で調整された他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧よりも低圧に設定して、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプから作動流体を供給しつつ一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する
ことを特徴とする請求項1記載の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法。
【請求項3】
一方の旋回モータは、他方の旋回モータよりもポンプからの作動流体の供給路が短い
ことを特徴とする請求項2記載の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法。
【請求項4】
リリーフ圧の調整時に供給する作動流体の流量を、それぞれ旋回モータの最大流量とする
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一記載の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の旋回体を旋回させる複数の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧駆動式の作業機械において、油圧回路に備えられる各種リリーフ弁は、リリーフ圧の適切な設定により、駆動される各部において所望の性能を得ることが可能である(例えば、特許文献1および2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-94105号公報
【特許文献2】特開平5-60105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、作業機械の上部旋回体を旋回させるための流体圧アクチュエータ(流体圧モータ)である油圧モータにおいてもリリーフ弁が設定され、そのリリーフ圧が旋回トルクの性能と直結している。例えばリリーフ圧が低く設定されると、傾斜地での加速トルク不足に起因して傾斜方向に旋回できなくなったり、ブレーキトルク不足に起因して旋回の流れが大きくなったりしやすくなる。
【0005】
特に、大型の作業機械の場合、旋回モータユニットが2つ設定されている場合がある。これらユニットには、それぞれにリリーフ弁が設けられており、同じシステム上に2つのリリーフ弁があることとなる。そして、ポンプから供給された作動油が各ユニットに等配されることで、それぞれのリリーフ弁が旋回モータの最大流量の和であるポンプ流量の1/2の流量で作動する。そのため、リリーフ圧は、この流量条件下で設定することが望ましい。
【0006】
しかしながら、旋回モータユニットの場合、リリーフ弁の調圧の際に他のポンプやモータのように作動油を流して駆動すると、上部旋回体が旋回することとなるため、特に大型の作業機械の場合、広大なスペースが必要となり、現実的でない。そのため、実際にリリーフ弁を調圧する際には、上部旋回体が旋回しないように旋回モータユニットが強制的に停止状態とされる。その場合、配管圧損などのバランスによってポンプ流量が等配されずにいずれか一方のリリーフ弁側の流量が過大または過小となりやすく、高精度な調圧が困難である。
【0007】
また、調圧のための回路を追加すると、配管の追加が必要となって複雑となったり、部品点数が増えたり、油漏れのリスクが増したりする。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、旋回体を旋回させることなく、各リリーフ弁のリリーフ圧を高精度に設定できる旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、作業機械の旋回体を旋回させる複数の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法であって、各旋回モータの回転を強制停止し、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧がその他の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧より低圧の状態で、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプから作動流体を供給しつつ、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する工程を、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁を順次切り替えて実施するものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法において、旋回モータが対をなして設定され、各旋回モータの回転を強制停止した状態で、一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を、他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧よりも高圧に設定して、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプから作動流体を供給しつつ他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整し、一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を、第一工程で調整された他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧よりも低圧に設定して、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプから作動流体を供給しつつ一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整するものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法における一方の旋回モータが、他方の旋回モータよりもポンプからの作動流体の供給路が短いものである。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3いずれか一記載の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法におけるリリーフ圧の調整時に供給する作動流体の流量を、それぞれ旋回モータの最大流量とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、複数の旋回モータ用のリリーフ圧の設定に優先順を持たせ、調整対象となる旋回モータ用のリリーフ弁に全流量を集中させて、旋回体を旋回させることなく、各リリーフ弁のリリーフ圧を高精度に設定できる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、一方の旋回モータ用のリリーフ弁と、他方の旋回モータ用のリリーフ弁と、でリリーフ圧の設定に優先順を持たせてそれらの一方に全流量を集中させ、旋回体を旋回させることなく、各リリーフ弁のリリーフ圧を高精度に設定できる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、作動流体の供給路の圧力損失が極力小さい状態での調圧が可能になり、リリーフ圧をより高精度に設定できる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、旋回体の実旋回時における一方の旋回モータまたは他方の旋回モータに対して供給される流量の最大の状態でリリーフ圧を設定できるため、旋回体の実旋回時に、狙った通りの旋回トルクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法の一実施の形態を示し、(a)は第一工程を示す流体圧回路図、(b)は第一工程におけるリリーフ弁のリリーフ圧設定を示すグラフである。
図2】(a)は第二工程を示す流体圧回路図、(b)は第二工程におけるリリーフ弁のリリーフ圧設定を示すグラフである。
図3】同上旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧調整方法により設定されたリリーフ圧下での動作状態を示す流体圧回路図である。
図4】同上流体圧回路を備える作業機械を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図1乃至図4に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0019】
図4において、1は作業機械である。本実施の形態において、作業機械1は、作動流体圧である作動油圧により作動される油圧駆動式のものであり、図示される例では、例えば油圧ショベル型の作業機械とする。本実施の形態の作業機械1は、例えば49トンクラス以上の大型のものを例に挙げる。
【0020】
作業機械1は、下部走行体3およびこの下部走行体3に旋回可能に設けられた旋回体である上部旋回体4を備える旋回型作業機械である。上部旋回体4には、運転室であるキャブ5と、作業装置6とが搭載されている。上部旋回体4には、キャブ5の側方に作業装置6が軸連結される。また、上部旋回体4には、エンジンやポンプ、コントロールバルブなどが収容された機械室7が設けられ、作業装置6を挟んでキャブ5と反対側の側方に、作動油タンクや燃料タンクなどの各種タンクなどが設けられ、かつ、機械室7や各種タンクに対して作業装置6とは反対側の端部に、カウンタウエイト8が搭載される。
【0021】
作業機械1に用いられる流体圧回路である油圧回路10は、図1(a)に示されるように、エンジンにより駆動されるポンプ(メインポンプ)11により作動油タンクから吸い上げて吐出する作動油を、流体圧アクチュエータである油圧アクチュエータに供給し、その供給する作動油の流量および方向を、図4に示されるキャブ5に搭乗したオペレータによるレバーやペダルなどの操作体の操作に応じて動作されるコントロールバルブによって制御することで、下部走行体3による走行の前後および停止、上部旋回体4の下部走行体3に対する左右の旋回および旋回の停止、および、作業装置6による各種作業を行うことを可能とする。
【0022】
図1(a)に戻って、ポンプ11には、コントロールバルブを介して、複数、例えば対をなす旋回モータユニット13a,13bが接続されている。旋回モータユニット13aは、ポンプ11からの作動油が供給される出力通路15a,16a間に、1つの旋回モータ17aと、相互に逆向きの対をなすリリーフ弁18a,19aと、相互に逆向きの対をなすメイクアップ用のチェック弁20a,21aと、が接続され、リリーフ弁18a,19a間およびチェック弁20a,21a間に、メイクアップ通路23aが接続されている。同様に、旋回モータユニット13bは、ポンプ11からの作動油が供給される出力通路15b,16b間に、1つの旋回モータ17bと、相互に逆向きの対をなすリリーフ弁18b,19bと、相互に逆向きの対をなすメイクアップ用のチェック弁20b,21bと、が接続され、リリーフ弁18b,19b間およびチェック弁20b,21b間に、メイクアップ通路23bが接続されている。メイクアップ通路23a,23bは、例えばオイルクーラやスプリング付きチェック弁などを介して、タンクと接続されている。
【0023】
出力通路15a,15bと、出力通路16a,16bと、は、コントロールバルブを介して、一方が通路25に接続され、他方が通路26に接続されるように切り換えられる。出力通路15bは、出力通路15aから分岐され、出力通路15aよりも長く形成されている。また、出力通路16bは、出力通路16aから分岐され、出力通路16aよりも長く形成されている。したがって、旋回モータ17aは、旋回モータ17bよりもポンプ11に近く、ポンプ11からの作動油の供給路が短く形成されている。また、旋回モータ17bへと作動油が分岐する前は、出力通路15a,16aに大流量(2つの旋回モータ17a,17b分の流量)が流れるため、圧力損失の観点から、一般的に、出力通路15a,16aの油圧配管径は、出力通路15b,16bより大きく設計される。
【0024】
通路25,26は、コントロールバルブの切り換えにより、一方がポンプ11からの作動油を供給する通路、他方がタンクへの戻し通路となる。通路25,26には、圧力センサ28,29が設けられている。本実施の形態では、基本的に、圧力センサ28によりポンプ圧を検出し、圧力センサ29については必須の構成ではない。
【0025】
旋回モータ17a,17bは、上部旋回体4(図4)を下部走行体3(図4)に対して左右に旋回可能とする流体圧モータとしての油圧モータである。旋回モータ17a,17bは、例えば上部旋回体4(図4)の回動中心に対して互いに反対側に配置される。旋回モータ17a,17bには、旋回モータ17a,17bの回転を制動するためのブレーキ手段31a,31bが設けられている。ブレーキ手段31a,31bは、駐車ブレーキ機構などとも呼ばれる。ブレーキ手段31a,31bは、旋回モータ17a,17bの回転を停止させることで、例えば作業機械1(図4)の運転停止時などに上部旋回体4(図4)を下部走行体3(図4)に対して強制的に回転停止状態に保持するものである。本実施の形態において、ブレーキ手段31a,31bとしては、旋回モータ17a,17bの回転を機械的に制動するメカニカルブレーキを例に挙げる。例えば、ブレーキ手段31a,31bは、ブレーキ荷重をかけるスプリング33a,33bを内部に有するシリンダ34a,34bと、スプリング33a,33bのブレーキ荷重を旋回モータ軸に伝えるピストン35a,35bと、を備え、シリンダ34a,34bのスプリング室が、ドレン通路36a,36bによりタンクに連通され、シリンダ34a,34bのピストン室が、ブレーキ解除圧導入通路37a,37bおよびブレーキ解除電磁弁を介して、共通のパイロットポンプに連通可能となっている。
【0026】
そして、リリーフ弁18a,19aおよびリリーフ弁18b,19bは、設定されたリリーフ圧以上の圧力が加わると開いて作動油をメイクアップ通路23a,23bからタンクに流して圧を逃がすことで、ポンプ11からの供給圧力の上限をそれらのリリーフ圧に設定するものである。そのため、リリーフ弁18a,19aおよびリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧に応じて、旋回モータ17a,17b、つまり上部旋回体4(図4)の旋回トルクが設定される。リリーフ弁18a,19aおよびリリーフ弁18b,19bは、可変リリーフ弁であり、一例として、電流値に応じてリリーフ圧が設定される電磁式可変リリーフ弁が用いられる。
【0027】
チェック弁20a,21aおよびチェック弁20b,21bは、出力通路15a,16aおよび出力通路15b,16bとメイクアップ通路23a,23bとの圧力差に応じて開いてメイクアップ通路23a,23bを介して作動油をタンクから出力通路15a,16a、あるいは出力通路15b,16b(旋回モータ17a,17b側)に補充することにより、旋回モータ17a,17bの回転停止時の上部旋回体4(図4)の慣性回転などに起因するバキュームの発生を防止するものである。
【0028】
なお、図1乃至図3において、旋回モータ15以外の油圧シリンダや油圧モータなどの油圧アクチュエータとポンプ11とを接続する油圧回路については、図示を省略している。
【0029】
次に、図示された実施の形態によるリリーフ弁のリリーフ圧調整方法について説明する。
【0030】
図3に示されるように、上部旋回体4(図4)の実旋回中においては、ポンプ11から吐出される作動油が2つの旋回モータ17a,17bに対して等配され、これら旋回モータ17a,17bが同じ回転数で回転することによりバランスしている。
【0031】
このように、ポンプ11から吐出される作動油が2つの旋回モータ17a,17bに対して等配されるためには、旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧と、旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧と、が予め設定された同一または略同一の目標圧に設定されている必要がある。これらのリリーフ圧が異なっていると、ポンプ11から吐出される作動油が、相対的に圧が低い方の旋回モータに多く流れるため、流量バランスが崩れる。
【0032】
しかしながら、実際に旋回モータ17a,17bに作動油を流して駆動させつつ、リリーフ弁18a,19aのリリーフ圧と、旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧と、を設定しようとすると、旋回モータ17a,17bの回転により上部旋回体4(図4)が旋回することとなり、特に大型の作業機械1(図4)の場合、広大なスペースが必要になるため、ブレーキ手段31a,31bにより旋回モータ17a,17bを強制的に停止させた状態でリリーフ圧を設定することが望ましい。
【0033】
但し、旋回モータ17a,17bを強制的に停止させた状態では、ポンプ11から旋回モータ17a,17bへと同時に作動油を送ると、配管圧損、つまりポンプ11からの作動油の供給路の長短の影響により、作動油の流量が旋回モータ17a側と旋回モータ17b側とで偏り、リリーフ圧の高精度な設定が困難である。
【0034】
そこで、本実施の形態では、ポンプ11からの作動油の流量を旋回モータ17a,17bの最大流量以下に絞り、リリーフ弁18a,19aと、リリーフ弁18b,19bと、でリリーフ圧の設定に優先順を持たせて一方に全流量を集中させることで、リリーフ圧を高精度に設定可能とする。
【0035】
つまり、各旋回モータの回転を強制停止し、調整対象の旋回モータ用のリリーフ圧が、その他の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧より低圧、好ましくは目標圧より低圧の状態で、旋回モータの最大流量以下の流量でポンプ11から作動油を供給しつつ、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する工程を、調整対象の旋回モータ用のリリーフ弁を順次切り替えて実施する。
【0036】
具体的に、対をなす旋回モータ17a,17bを有する本実施の形態では、まず、旋回モータ17a,17bの回転をブレーキ手段31a,31bにより強制停止した状態において、第一工程として、一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を、他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧よりも高圧に設定して、旋回モータの最大流量以下に流量を絞ってポンプ11から作動油を供給しつつ他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する。
【0037】
この場合、好ましくは、一方の旋回モータを、ポンプ11からの作動油の供給路が短い側、本実施の形態では旋回モータ17aとし、他方の旋回モータを、ポンプ11からの作動油の供給路が長い側、本実施の形態では旋回モータ17bとする。
【0038】
つまり、第一工程として、図1(a)および図1(b)に示されるように、ポンプ11からの作動油の供給路が短い旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧Paを、ポンプ11からの作動油の供給路が長い旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧Pbよりも高圧に設定して固定し、ポンプ11から旋回モータ17a,17bの最大流量の和Qの半分以下に流量を絞って作動油を供給しつつ旋回モータ17bのリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧Pbを目標圧PTに調整する。このようにすることで、旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧Pbが旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧Paよりも低いため、ポンプ11から吐出された作動油は、実質的に全流量が旋回モータ17b側に流れる。
【0039】
このときのポンプ11の流量は、実旋回時に旋回モータ17bに流れる流量、つまり旋回モータ17bの最大流量である1/2Q以下の流量とするが、リリーフ弁のリリーフ量つまり流量の増加に伴うリリーフ圧の上昇、すなわちオーバーライド特性の影響を考慮し、好ましくは1/2Qとすることで、リリーフ弁18b,19bのリリーフ圧を実旋回時の目標圧に精度よく設定することを可能とする。ポンプ11からの作動油の流量を絞るにあたっては、リリーフ圧の設定にコントロールバルブによる圧力損失の影響を極力与えないように、コントロールバルブは基本的に全開とし、ポンプ11自体の吐出流量を絞ることが好ましい。
【0040】
本実施の形態において、リリーフ圧の調整は、圧力センサ28によりポンプ圧を監視しつつ行う。つまり、リリーフ弁18bのリリーフ圧は、圧力センサ28により検出したポンプ圧が目標圧となっているか否かに応じて設定する。また、リリーフ弁19bのリリーフ圧は、圧力センサ28により検出したポンプ圧が目標圧となっているか否かに応じて設定する。
【0041】
なお、リリーフ弁18bのリリーフ圧を設定するときと、リリーフ弁19bを設定するときと、で、コントロールバルブによりポンプ11からの作動油の供給方向を逆に切り換える。
【0042】
次いで、第二工程として、一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を、第一工程で調整された他方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧よりも低圧に設定して、ポンプ11から対をなす旋回モータの最大流量の和よりも流量を絞って作動油を吐出しつつ一方の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧を調整する。
【0043】
上記の通り、本実施の形態では、一方の旋回モータを旋回モータ17aとし、他方の旋回モータを旋回モータ17bとしているので、第二工程では、図2(a)および図2(b)に示されるように、旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧Paを、第一工程で調整された旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧Pbよりも低圧に設定し、ポンプ11から旋回モータ17a,17bの最大流量の和Qの半分以下に流量を絞って作動油を吐出しつつ旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧Paを目標圧PTに調整する。このようにすることで、旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧Paが旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧Pbよりも低いため、ポンプ11から吐出された作動油は、実質的に全流量が旋回モータ17a側に流れる。
【0044】
このときのポンプ11の流量は、実旋回時に旋回モータ17aに流れる流量、つまり旋回モータ17aの最大流量である1/2Q以下の流量であれば、第一工程と同一でもよいし、異なっていてもよいが、好ましくは第一工程と同様に、リリーフ弁のオーバーライド特性を考慮して1/2Qとすることで、リリーフ弁18a,19aのリリーフ圧を実旋回時の目標圧に精度よく設定することを可能とする。ポンプ11からの作動油の流量を絞るにあたっては、リリーフ圧の設定にコントロールバルブによる圧力損失の影響を極力与えないように、コントロールバルブは基本的に全開とし、ポンプ11自体の吐出流量を絞ることが好ましい。
【0045】
本実施の形態において、リリーフ圧の調整は、圧力センサ28,29によりポンプ圧を監視しつつ行う。つまり、リリーフ弁18aのリリーフ圧は、圧力センサ28により検出したポンプ圧が目標圧となっているか否かに応じて設定する。また、リリーフ弁19aのリリーフ圧は、圧力センサ28により検出したポンプ圧が目標圧となっているか否かに応じて設定する。
【0046】
なお、リリーフ弁18aのリリーフ圧を設定するときと、リリーフ弁19aを設定するときと、で、コントロールバルブによりポンプ11からの作動油の供給方向を逆に切り換える。
【0047】
このようにすることで、複数の旋回モータ用のリリーフ弁のリリーフ圧の設定に優先順を持たせ、調整対象となる旋回モータ用のリリーフ弁に全流量を集中させて、上部旋回体4を旋回させることなく、各リリーフ弁のリリーフ圧を高精度に設定できる。
【0048】
本実施の形態では、旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aと、旋回モータ17b用のリリーフ弁18b,19bと、でリリーフ圧の設定に優先順を持たせて一方に全流量を集中させ、上部旋回体4を旋回させることなく、リリーフ弁18a,19aおよびリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧を高精度に設定できる。
【0049】
また、例えばポンプ11から近い側、つまり作動油の供給路が短い側の旋回モータ17aのリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧を先に設定し、その後、ポンプ11から遠い側、つまり作動油の供給路が長い側の旋回モータ17bのリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧を設定する場合には、リリーフ弁18b,19bのリリーフ圧の設定の際に、ポンプ圧の上昇にしたがい、旋回モータ17b側への作動油の供給路の圧力損失の影響によって、先にリリーフ圧を設定したリリーフ弁18a,19a側にポンプ11からの作動油が分流しやすくなり、調圧中のリリーフ弁18b,19b側に作動油を全量流すことができなくなる可能性、また、旋回モータ17a側と比較して供給路の油圧配管径が小さいことおよびポンプ11から遠い位置にある関係で圧力損失がより大きくなりやすい側である旋回モータ17b側のリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧が著しく低い状態にあっても検知できない可能性があるのに対し、本実施の形態では、ポンプ11から遠く圧力損失が相対的に大きい旋回モータ17bのリリーフ弁18b,19bのリリーフ圧を先に設定し、その後、ポンプ11から近く圧力損失が相対的に小さい旋回モータ17aのリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧を設定することにより、旋回モータ17a用のリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧の設定の際には、作動油の供給路の圧力損失の影響が少なく、ポンプ11からの作動油の全量を調圧完了の寸前までリリーフ弁18a,19a側に流すことができ、ポンプ圧の変化をリリーフ弁18a,19aのリリーフ圧の変化とみることが可能になる。したがって、本実施の形態の順番で調圧することにより、作動油の供給路の圧力損失が極力小さい状態での調圧が可能になり、リリーフ圧をより高精度に設定できる。
【0050】
さらに、第一工程および第二工程で供給する作動油の流量を、各旋回モータ17a,17bの最大流量である1/2Qとすることにより、上部旋回体4の実旋回時における旋回モータ17aまたは旋回モータ17bに対して供給される流量の最大の状態でリリーフ圧を設定できる。そのため、上部旋回体4の実旋回時に、狙った通りの旋回トルクを得ることができる。
【0051】
この結果、上部旋回体4の十分な加速トルクおよびブレーキトルクを確保でき、傾斜地において上部旋回体4を傾斜方向に確実に旋回させたり、上部旋回体4の旋回の流れつまり停止時の慣性回転を少なくしたりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、旋回体を備える作業機械等の製造業、販売業等に携わる事業者にとって産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
1 作業機械
4 旋回体である上部旋回体
11 ポンプ
17a,17b 旋回モータ
18a,18b,19a,19b リリーフ弁
図1
図2
図3
図4