IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 石福金属興業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010642
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】塩素発生用電極
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20240117BHJP
   C25B 11/097 20210101ALI20240117BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20240117BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20240117BHJP
【FI】
C02F1/461 Z
C25B11/097
C25B11/063
C25B11/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185818
(22)【出願日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2022111645
(32)【優先日】2022-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】石亀 弘基
(72)【発明者】
【氏名】亀ヶ谷 洋一
(72)【発明者】
【氏名】島 朋助
【テーマコード(参考)】
4D061
4K011
【Fターム(参考)】
4D061DA03
4D061DB10
4D061EA02
4D061EB05
4D061EB28
4D061EB30
4D061EB31
4D061EB33
4D061EB39
4D061ED13
4D061GC12
4D061GC16
4K011AA04
4K011AA06
4K011AA11
4K011AA21
4K011AA28
4K011AA33
4K011AA35
4K011DA03
(57)【要約】
【課題】安定期の塩素発生効率が高い特性を有する塩素発生用電極を提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金よりなる基体上に中間層を介して触媒層を設けてなり,陽極と陰極の極性切替えを繰返しながら希薄塩水(塩素イオン濃度:100~20,000ppm)を電解し,殺菌水を生成するための装置に装着される電極であって,前記触媒層が,金属換算で,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%からなる,ことを特徴とする塩素発生用電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金よりなる基体上に中間層を介して触媒層を設けてなり,陽極と陰極の極性切替えを繰返しながら希薄塩水(塩素イオン濃度:100~20,000ppm)を電解し,殺菌水を生成するための装置に装着される電極であって,
前記触媒層が,金属換算で,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%からなる,
ことを特徴とする塩素発生用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,塩化ナトリウムを水道水に溶解し所定の濃度とした希薄塩水中で陽極として使用し,殺菌力がある電解水を生成するのに有用な塩素発生用電極に関し,さらに詳しくは,極性を切替える条件下において,安定期の塩素発生効率が高い特性を有する塩素発生用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水を電気分解し,殺菌水を生成する装置,特に塩化ナトリウムを水道水に溶解し所定の濃度とした希薄塩水中で陽極として使用し,殺菌力がある電解水を生成する装置では,極性切替えを行う条件下において,安定期における塩素発生効率が高い特性を有する塩素発生用電極が強く要望されている。
【0003】
所定の電流密度で陽極と陰極の極性切替えを繰返しながら食塩濃度が100~10000ppmの食塩水を電解し,塩素を生成するに際し,電極触媒層の電気化学的消耗・脱落が抑制でき,且つ,高い塩素発生効率特性を有する電解用電極が提案されている(特許文献1参照)。この提案の電極は,電気化学的消耗・膜脱落が抑制でき,且つ,塩素発生効率が高いという利点があるものの,極性切替えを行う条件下では安定期における塩素発生効率が十分ではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-119930公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩化ナトリウムを水道水に溶解し所定の濃度とした希薄塩水を直接電気分解し,殺菌水を生成する装置では,陰極側で発生するスケール成分の除去を目的とし,極性切替えを行うことがメンテナンスフリーの観点から好ましい。また,安定期の塩素発生効率がより高い特性を有する塩素発生用電極が強く要望されている。
すなわち,希薄塩水を,極性を切替える条件下で電解する電極において,安定期の塩素発生効率が高い特性を有する塩素発生用電極を開発することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,上記の課題を達成すべく鋭意検討した結果,塩化ナトリウムを水道水に溶解し所定の濃度とした希薄塩水を,極性を切替える条件下で電解する電極において,中間層上に形成した白金,酸化ルテニウム,酸化タンタル,および酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物とからなる触媒層において,金属換算で所定の配合比{Pt:Ru:Ta:(Fe,Co,Ni)=20モル%~85モル%:5モル%~50モル%:10モル%~50モル%:0モル%~20モル%}の混合物を担持させることにより,安定期の塩素発生効率が高い特性を有する塩素発生用電極を見い出し,本発明を完成するにいたった。
【0007】
かくして,本発明によれば,チタン又はチタン合金よりなる電極基体上に中間層を介して電極触媒層を設けてなり,陽極と陰極の極性切替えを繰返しながら希薄塩水を電解し,殺菌水を生成するための装置に装着される電極であって,前記触媒層が,金属換算で,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%からなる,ことを特徴とする塩素発生用電極が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,希薄塩水を,極性を切替える条件下で電解する電極であって,安定期の塩素発生効率が高い特性を有する塩素発生用電極を提供できる。
【0009】
以下,本発明の電極及びその製造法についてさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は,チタン又はチタン合金よりなる基体上に中間層を介して触媒層を設けてなり,陽極と陰極の極性切替えを繰返しながら希薄塩水を電解し,殺菌水を生成するための装置に装着される電極であって,触媒層が,金属換算で,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%からなる,ことを特徴とする塩素発生用電極である。なお,組成比の合計は100%である。
【0011】
ここで,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%とは,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物を添加しないか,または20モル%以下添加することを意味する。すなわち,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物は,任意成分である。また,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物を添加する場合には,いずれか一種の酸化物を添加してもよく,あるいは,いずれか二種以上の酸化物を添加してもよい。二種以上の酸化物を添加する場合には,合計で20モル%以下添加する。
【0012】
極性切替えとは,電解時間が所定の時間に達するごとに,2つの電極の間に印加する電圧の極性を反転させることをいう。電解を間欠的に行う場合には,電解時間の累積(累積電解時間)が所定の時間に達するごとに,2つの電極の間に印加する電圧の極性を反転させる。極性切替の「所定の時間」は例えば,1~60分間とすることができる。
【0013】
電流密度は例えば,0.01~0.25A/cmとすることができる。
【0014】
〈電極基体〉
本発明において使用される電極基体の材質としては,チタンまたはチタン基合金が挙げられる。チタン基合金としては,チタンを主体とする耐食性のある導電性の合金が使用され,例えば,Ti-Ta-Nb,Ti-Pd,Ti-Zr,Ti-Al等の組合わせからなる,通常電極材料として使用されているTi基合金が挙げられる。これらの電極材料は板状,有孔板状,棒状,網板状等の所望形状に加工して電極基材として用いることができる。
【0015】
〈電極基体の前処理〉
上記の如き電極基体には,通常行われているように,予め前処理をするのが望ましい。そのような前処理の好適具体例としては以下に述べるものが挙げられる。先ず,前述したチタン又はチタン基合金よりなる電極基体(以下「チタン基体」ということがある)表面を常法に従い,例えばアルコール,アセトン等で洗浄し及び/又はアルカリ溶液中での電解により脱脂した後,フッ化水素濃度が1~20重量%のフッ化水素酸又はフッ化水素酸と硝酸,硫酸等の他の酸との混酸で処理することにより,チタン基体表面の酸化膜を除去するとともにチタン結晶粒界単位の粗面化を行う。該酸処理は,チタン基体の表面状態に応じて常温ないし約40℃の温度において数分間ないし十数分間行うことができる。なお,粗面化を十分行なうためにブラスト処理を併用してもよい。
【0016】
〈水素化チタン化処理〉
このように酸処理されたチタン基体表面を濃硫酸と接触させて,該チタン結晶粒界内部表面を突起状に細かく粗面化するとともに該チタン基体表面に水素化チタンの薄い層を形成する。使用する濃硫酸は一般に40~80重量%,好ましくは50~60重量%の濃度のものが適当であり,この濃硫酸には必要により,処理の安定化を図る目的で少量の硫酸ナトリウム,その他の硫酸塩等を添加してもよい。該濃硫酸との接触は通常チタン基体を濃硫酸の浴中に浸漬することにより行うことができ,その際の浴温は一般に約100~約150℃,好ましくは約110~約130℃の範囲内の温度とすることができ,また浸漬時間は通常約0.5~約10分間,好ましくは約1~約3分間で十分である。この硫酸処理により,チタン結晶粒界内部表面を突起状に細かく粗面化するとともに,チタン基体の表面にごく薄い水素化チタンの被膜を形成させることができる。硫酸処理されたチタン基体は硫酸浴から取り出し,好ましくは窒素,アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で急冷してチタン基体の表面温度を約60℃以下に低下させる。この急冷には洗浄も兼ねて大量の冷水を用いるのが適当である。
【0017】
このようにしてごく薄い水素化チタンの被膜層を表面に形成せしめたチタン基体は,希フッ化水素酸又は希フッ化物水溶液(例えば,フッ化ナトリウム,フッ化カリウム等の水溶液)中で浸漬処理して該水素化チタン被膜を生長させ,該被膜の均一化及び安定化を図る。ここで使用しうる希フッ化水素酸又は希フッ化物水溶液中のフッ化水素の濃度は,一般に0.05~3重量%,好ましくは0.3~1重量%の範囲内とすることができ,また,これらの溶液による浸漬処理の際の温度は,一般に10~40℃,好ましくは20~30℃の範囲とすることができる。該処理はチタン基体表面に,通常0.5~10ミクロン,好ましくは1~3ミクロンの厚さの水素化チタンの均一被膜が形成されるまで行うことができる。この水素化チタン(TiHy,ここでyは1.5~2の数である)は水素化の程度に応じて灰褐色から黒褐色を呈するので,上記範囲の厚さの水素化チタン被膜の生成は,経験的に該基体表面の色調の変化を標準色源との明度対比によってコントロールすることができる。
【0018】
〈中間層の形成〉
このようにしてチタン基体表面を粗面化するとともに水素化チタンの被膜を形成したチタン基体は,適時水洗等の処理を行った後,例えば,その表面に多孔性白金被覆層を形成する。この多孔性白金被覆層の形成は通常電気めっき法により行うことができる。この電気めっき法に使用しうるめっき浴の組成としては,たとえばHPtCl,(NH4)PtCl,KPtCl,Pt(NH)(NO)等の白金化合物を,硫酸溶液(pH1~3)又はアンモニア水溶液に,白金換算で2~20g/L,特に5~10g/Lの濃度になるように溶解し,さらに必要に応じて浴の安定化のために硫酸ナトリウム(酸性浴の場合),亜硫酸ナトリウム,硫酸ナトリウム(アルカリ性浴の場合)等を少量添加した酸性又はアルカリ性のめっき浴が挙げられる。
【0019】
かかる組成のめっき浴を用いての白金電気めっきは,チタン基体表面に形成された水素化チタン被膜の分解をできるだけ抑制するため,所謂ストライクめっき等の高速めっき法を用い約30~約60℃の範囲内の比較的低温で行うのが望ましい。この電気めっきにより,チタン基体の水素化チタン被膜上に物理的密着強度の優れた多孔性の白金被覆層を形成せしめることができる。その際の白金被覆層の見掛密度は8~19g/cm,好ましくは12~18g/cmの範囲内にあるのが適当である。該多孔性白金被覆層の見掛け密度が8g/cmより小さいと白金の結合強度が低下して剥離しやすくなり,反対に19g/cmを越えると後述する熱分解で得られる白金と酸化イリジウムの安定な担持が困難となる。該多孔性白金被覆層の見掛密度のコントロールは,例えばチタンの前処理条件,白金めっき浴の浴組成及び/又はめっき条件(電流密度や電流波形等)を経験的に調節することによって行うことができる。なお,より多孔性の高い白金被覆層を得たい場合には,多孔性の白金被覆層を形成した後,更に化学的もしくは電気化学的方法によって多孔性を高めることができる。
【0020】
また,上記白金の電気めっきは上記基体上への白金の被膜量が通常少なくとも0.2mg/cm以上となるまで継続する。白金の被膜量が0.2mg/cmより少ないと,後述する焼成処理に際して水素化チタン被膜部の酸化が進み過ぎて導電性が低下する傾向がみられる。白金の被膜量の上限は特に制限されないが,必要以上に多くしてもそれに伴うだけの効果は得られず,かえって不経済となるので通常は5mg/cm以下の被膜量で十分である。白金の好適な被膜量は0.4~3mg/cmの範囲内である。ここで,多孔性白金被覆層における白金の被覆量は,ケイ光X線分析法を用い次の如くして求めた量である。すなわち,前述した如く前処理したチタン基体上に前記の方法で種々の厚さに白金めっき量を湿式分析法及びケイ光X線分析法により定量し,両方法による分析値をグラフにプロットして標準検量線を作成しておき,次いで実際の試料をケイ光X線分析にかけてその分析値及び標準検量線から白金の被覆量を求める。また,白金被覆量の密度(δ(g/cm))は,上記の如くして求めた白金の被覆量(w(g/cm))と試料の断面顕微鏡観察で求めた白金被覆層の厚さ(t (cm))からδ=w/tによって求めたものである。
【0021】
多孔性白金被膜層を設けたチタン基体は,次いで大気中で焼成する。この焼成により,該白金被覆層の下の水素化チタンの被膜の層を熱分解して,該層中の水素化チタンを実質的にほとんどチタン金属に戻し,さらに少なくとも白金被覆層の多孔部分であって白金で被覆されていない部分のチタンを低酸化状態の酸化チタンに変えることができる。この焼成は一般に約300~約600℃,好ましくは約300~約400℃の温度で10分~4時間程度加熱することにより行うことができる。これによりチタン基体表面にごく薄い導電性の酸化チタンが形成される。この酸化チタンの厚さは一般に10~100nm,好ましくは20~60nmの範囲内にあるのが好適であり,また,酸化チタンの組成はTiOx としてxが一般に1<x<2,特に1.9<x<2の範囲にあるのが望ましい。また別法として,白金の分散被覆を行ったチタン基体は,上記の如き焼成処理を行わずに直接次の工程に付してもよい。この場合には,次工程での熱分解処理時にチタン基体表面の水素化チタンの被膜の層は,チタン金属及び低酸化状態の酸化チタンに変換される。このようにして,多孔性白金被覆層とチタン界面との高い密着強度を維持し,更に電気伝導性のある酸化チタン(不働態化膜)が形成され化学的安定性をも高めることができる中間層を得る。
【0022】
〈触媒層の形成〉
しかる後,このように被覆された多孔性白金被覆面に,白金化合物,ルテニウム化合物,タンタル化合物および鉄化合物,コバルト化合物,ニッケル化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む溶液を塗布・浸透させ,乾燥した後焼成して,白金-酸化ルテニウム-酸化タンタル-酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物からなる層を形成せしめる。
【0023】
ここで使用する白金化合物,ルテニウム化合物,タンタル化合物および鉄化合物,コバルト化合物,ニッケル化合物から選ばれる少なくとも一種の金属化合物は,以下に述べる条件下で分解してそれぞれ白金,酸化ルテニウム,酸化タンタルおよび酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルに転化しうる化合物であり,白金化合物としては,ジニトロジアンミン白金,塩化白金酸,塩化白金等が例示され,特に塩化白金酸が好適である。ルテニウム化合物としては,例えば,塩化ルテニウム,硝酸ルテニウム等が挙げられる。タンタル化合物としては,例えば,塩化タンタル,タンタルエトキシド等が挙げられる。鉄化合物としては,塩化鉄,硝酸鉄等が挙げられる。コバルト化合物としては,塩化コバルト,硝酸コバルト等が挙げられる。ニッケル化合物としては,塩化ニッケル,硝酸ニッケル等が挙げられる。
【0024】
一方,これら白金化合物,ルテニウム化合物,タンタル化合物および鉄化合物,コバルト化合物,ニッケル化合物から選ばれる少なくとも一種の金属化合物を溶解するための溶媒としては,低級アルコールが好適であり,例えば,メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール又はこれらの混合物等が有利に用いられる。なお,ジニトロジアンミン白金は,低級アルコールに直接溶解しないので,はじめに硝酸水溶液に溶解し,白金金属換算で250~450g/Lの濃度に調整した後,低級アルコールに溶解するのが好ましい。
【0025】
低級アルコール溶液中における白金化合物,ルテニウム化合物及びタンタル化合物の金属化合物の合計の金属濃度は,一般に20~200g/L,好ましくは40~150g/Lの範囲内とすることができる。該金属濃度が20g/Lより低いと触媒担持効率が悪くなり,また200g/Lを越えると触媒が凝集しやすくなり,触媒活性,密着強度,担持量の不均一性等の問題が生ずる。
【0026】
また,白金化合物,ルテニウム化合物,タンタル化合物および鉄化合物,コバルト化合物,ニッケル化合物から選ばれる少なくとも一種の金属化合物の相対的使用割合は,それぞれ金属Pt,金属Ru,金属Taおよび金属Fe,金属Co,金属Niから選ばれる少なくとも一種の金属に換算して,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%とする。
【0027】
多孔性白金被覆層に該溶液を塗布・含浸させた基体は,必要により約20~約150℃の範囲内の温度で乾燥させた後,酸素含有ガス雰囲気中,例えば空気中で焼成する。焼成は,例えば電気炉,ガス炉,赤外線炉等の適当な加熱炉中で,一般に約450~約650℃,好ましくは約500~約600℃の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。加熱時間は,焼成すべき基体の大きさに応じて,大体3分~30分間程度とすることができる。この焼成により,多孔性白金被覆層の表面(孔の内部及び/又は外面)に白金-酸化ルテニウム-酸化タンタル-酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物からなる層を形成担持させることができる。
【0028】
そして,1回の担持操作で充分量の白金-酸化ルテニウム-酸化タンタルからなる層を形成担持することができない場合には,以上に述べた溶液の塗布・浸透-乾燥-焼成の工程を所望の回数繰り返し行うことができる。
【0029】
中間層層上に担持せしめられる白金-酸化ルテニウム-酸化タンタル-酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物からなる層における各成分の割合は,それぞれ金属Pt,金属Ru,金属Taおよび金属Fe,金属Co,金属Niから選ばれる少なくとも一種の金属に換算して,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%,とする。
【0030】
電極触媒層中の白金は,金属換算で20モル%より少ない,または85モル%を越えると,安定期の塩素発生効率が低くなってしまう。好ましくは25モル%~80モル%,より好ましくは35モル%~70モル%である。
酸化ルテニウムは,金属換算で5モル%より少ない,または50モル%を越えると,安定期の塩素発生効率が低くなってしまう。好ましくは10モル%~40モル%である。
酸化タンタルは,金属換算で10モル%より少ないと,消耗が大きくなってしまう。一方,または50モル%を越えると,安定期の塩素発生効率が低くなってしまう。好ましくは20モル%~45モル%,より好ましくは20モル%~35モル%である。
酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物は,金属換算で20モル%を超えると,消耗が大きくなってしまう。好ましくは,5モル%~15モル%,より好ましくは7モル%~12モル%である。
【0031】
このようにして,「触媒層(外層)/中間層(多孔性白金被覆層-酸化チタン)/基体」から構成される電極を製造することができる。すなわち,白金被覆層の多孔部分であって白金で被覆されていない部分のチタン基体の表面に酸化チタンが形成されている。
【0032】
次に実施例により,本発明の電極の製造法及び特性についてさらに具体的に説明する。
【実施例0033】
実施例1~16,比較例1~2
チタン基体として,JIS1種チタン板素材(t0.5mm×100mm×100mm)をアセトンに浸漬させ10分間超音波洗浄して脱脂した後,20℃の8重量%フッ化水素酸水溶液中で2分間処理し,次いで,120℃の60重量%硫酸水溶液中で3分間処理した。
次いでチタン基体を硫酸水溶液から取りだし,窒素雰囲気中で冷水を噴霧し急冷した。更に20℃の0.3重量%弗化水素酸水溶液中に2分間浸漬した後水洗した。
【0034】
水洗後ジニトロジアンミン白金を硫酸溶液に溶解して白金含有量5g/L,pH≒2,50℃に調整した状態の白金めっき浴中で,30mA/cmで約2分間のめっきを行って,見掛密度16g/cmで電着量が0.43mg/cmの多孔性の白金被覆層をチタン基体上に形成した。
【0035】
乾燥後,400℃の大気中で1時間焼成した。
【0036】
次に,白金濃度100g/Lに調整した塩化白金酸のブタノール溶液と,ルテニウム濃度100g/Lに調整した塩化ルテニウムのブタノール溶液と,タンタル濃度100g/Lに調整したタンタルエトキシドのブタノール溶液と,鉄濃度を100g/Lに調整した塩化鉄のエタノール溶液と,コバルト濃度を100g/Lに調整した塩化コバルトのエタノール溶液と,ニッケル濃度を100g/Lに調整した塩化ニッケルのエタノール溶液とをPt-Ru-Ta-(Fe-Co-Ni)の金属換算の組成比が表1に示すモル%になるようにそれぞれ秤量し,各金属成分の金属換算値を足した合計濃度が70g/Lになるようにブタノールにて希釈し,表1に示す金属換算の組成比で電極触媒層塗布溶液を作製した。塗布溶液をピペットで0.25mL秤量し,それをチタン基体上の白金被覆層に塗布・浸透させ,溶液をチタン基体全面に塗り拡げた後,室温で乾燥し,さらに550℃の大気中で10分間焼成した。この塗布・浸透・乾燥・焼成を4回繰り返し,実施例1~16,比較例1の電極を作製した。
【0037】
塩化ルテニウムを塩化イリジウム酸に変え,Pt-Ir-Taの金属換算の組成比が表1に示すモル%になるようにする以外上記と同様にして,比較例2の電極を作製した。
【0038】
作製した実施例1~16並びに比較例1~2の電極を用いて,0.2wt%NaCl水溶液中にて,電流密度0.015A/cmで20分間毎に極性切り替えしながら電解する電解試験を行い,電解試験前(初期値)と安定期における塩素発生効率を評価した。ここで安定期とは累積電解時間がおよそ50時間以上で電極の塩素発生効率が安定化する状態の期間である。ここでは安定期として電解試験100時間後の塩素発生効率を評価した。なお,塩素発生効率は,以下のようにして評価した。
電解液に0.2wt%NaCl水溶液を用い,電極間距離5mm,電流密度0.015A/cmにて20分間電解し,電解した液からヨウ素法により塩素発生量を求め,求めた塩素発生量と理論塩素発生量から塩素発生効率を算出した。
得られた実施例1~16,比較例1~2の塩素発生効率の電解試験前(塩素発生効率初期)と電解試験100時間後(塩素発生効率安定期)の値を表に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
各電極とも電解試験前の塩素発生効率は高い値を示すが,上記電解試験100時間後(塩素発生効率安定期)では,実施例1~16の電極は48%以上と高い塩素発生効率が得られていたが,比較例1の電極は18%,比較例2の電極は36%であった。
【0041】
以上の結果より,チタン基体上に設けられた中間層上に,触媒層が,金属換算で,白金20モル%~85モル%,酸化ルテニウム5モル%~50モル%,酸化タンタル10モル%~50モル%,酸化鉄,酸化コバルト,酸化ニッケルから選ばれる少なくとも一種の酸化物0モル%~20モル%からなる電極触媒層を備える電極は安定期の塩素発生効率が高い特性を示すことがわかる。