(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106443
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】炭素電極、その製造方法、微生物燃料電池、及びそれを用いた廃水処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20240801BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20240801BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240801BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240801BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240801BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M8/16
H01M4/86 M
H01M4/88 C
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010692
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】大窪 修一
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 果歩
(72)【発明者】
【氏名】福島 寿和
【テーマコード(参考)】
4D040
5H018
【Fターム(参考)】
4D040DD03
4D040DD11
5H018AA07
5H018AS07
5H018BB01
5H018BB09
5H018BB11
5H018EE05
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH04
5H018HH06
5H018HH08
5H018HH10
(57)【要約】
【課題】 微生物燃料電池の用途分野で、廃水を効率的かつ経済的に処理するために、微生物が高濃度で付着できる細孔特性を有して、高い発電能力を発現する炭素電極を提供する。
【解決手段】 廃水処理用微生物燃料電池のアノードとして用いる炭素電極であって、炭素電極は石炭を乾留して得られる粒状石炭コークスを充填した集合体からなり、前記粒状石炭コークスは、細孔径10μm以上の細孔含有率が70%以上であり、細孔径1μm以上の比表面積が0.05~0.2m
2/gであることを特徴とする炭素電極である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水処理用微生物燃料電池のアノードとして用いる炭素電極であって、炭素電極は石炭を乾留して得られる粒状石炭コークスを充填した集合体からなり、前記粒状石炭コークスは、細孔径10μm以上の細孔含有率が70%以上であり、細孔径1μm以上の比表面積が0.05~0.2m2/gであることを特徴とする炭素電極。
【請求項2】
前記粒状石炭コークスの粒度範囲が1~40mmであり、前記粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノードの抵抗率が16000μΩm以下である請求項1に記載の炭素電極。
【請求項3】
前記粒状石炭コークスを充填した集合体を水に浸漬して150日以上経過時の吸水率が30%以上である請求項1に記載の炭素電極。
【請求項4】
請求項1に記載の炭素電極を製造する方法であって、石炭を乾留して石炭中の揮発分を1%未満に揮発させた石炭コークスを粉砕した後篩い分けし、粒度範囲1~40mmの粒状石炭コークスを選別してアノードとして充填し、前記粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノードの抵抗率を16000μΩm以下にすることを特徴とする炭素電極の製造方法。
【請求項5】
前記粒状石炭コークスを選別した後に、400℃~700℃の酸化性ガス雰囲気で熱処理する請求項4に記載の炭素電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素電極をアノードに用いた微生物燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の微生物燃料電池による廃水処理方法。
【請求項8】
コークス炉から排出された安水を処理する請求項7に記載の微生物燃料電池による廃水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池のアノードとして用いられる炭素電極に関し、好適には微生物を利用した廃水処理分野において、従来の活性汚泥法と比べて低コストで処理することができ、廃水中に含まれる有機物等の汚濁物質を効率よく分解し、同時に電気エネルギーを生成することができる微生物燃料電池のアノードとして用いられる炭素電極及びその製造方法並びに微生物燃料電池及びそれを用いた廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生活廃水や工場廃水を処理する方法として、活性汚泥法や嫌気的廃水処理法など微生物を利用した生物処理法が利用されている。なかでも好気性微生物を利用した活性汚泥法は、大量の廃水を安定して連続処理することが可能であり、処理された水質も良好である利点を有するが、好気性微生物が必要とする酸素を大量に供給(曝気)するための電気エネルギーや、廃水処理に伴い大量に発生する余剰汚泥を処理するためのコストが問題となっている。
【0003】
これらの問題を解決するために微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell)が注目されている。微生物燃料電池は、微生物が生育するための栄養源となる有機物が溶けた廃水に、微生物が付着したアノードと電子を消費するためのカソードを浸漬して結線した回路で構成される。
微生物燃料電池の仕組みは、アノードで微生物が嫌気性条件下で有機物を二酸化炭素と水素イオンに分解して電子を生成し、外部回路を経由してカソードに電子が流れて水素イオンを還元し、酸素と反応して水を生成することによって発電される。
微生物燃料電池の形状は大きく分けて2槽型と1槽型のものが存在する。2槽型はアノード槽とカソード槽がイオン交換膜などの隔壁で仕切られており、アノード槽は微生物による有機物の分解処理が行われ、カソード槽では酸素などの酸化剤が供給される。一方、1槽型は隔壁による仕切りが存在せず、アノードとカソードが同じ槽内にあり、カソードは大気中の酸素を透過することができる膜タイプのエアカソードが利用される。両形状共に、微生物による有機物の分解で生じた電子が、アノードから外部回路を経由してカソードに流れて、水素イオンを還元して電子が消費される。
微生物燃料電池のアノードは導電性の炭素材料や金属材料が電極として使用される。これらの材料を用いたアノード電極の表面には発電菌を含む微生物が生育しており、廃水中の有機物を分解して、生成した電子をカソードで消費することで、微生物は有機物の分解を促進することができる。このように、微生物燃料電池は、発電と同時に廃水中の有機物を微生物によって分解する廃水処理装置としての機能を併せ持ち、活性汚泥法で必要とされる曝気の必要がなく、産業廃棄物となる余剰汚泥の発生が抑制される点でメリットがある。
一方で、活性汚泥法と比べて廃水に含まれる有機物の処理速度が遅いために、微生物を電極の表面に高濃度に定着させる必要があり、且つ安価で大量に供給できる電極であることが望まれる。
【0004】
微生物燃料電池のアノードは、高い表面積と電気伝導性を有するカーボンクロス、カーボンフェルトなどの炭素繊維製品が電極として使われている(特許文献1)。しかしながら、炭素繊維は、弾性率が高いが捻りには弱いため、水流や生物の付着等、局部的な力で折れるという欠点や、繊維径が細いため、折れた繊維が皮膚や粘膜に刺激を与え、痛み・かゆみを生じることもあり、取り扱いには注意が必要とされるなど、実用化に向けて耐久性や環境への影響の問題を解決する必要があった。また、炭素繊維は高価であり、廃水処理向けに微生物燃料電池のアノードとして大量に利用するにはコストの点で課題があった。
炭素繊維を利用することなく微生物を担持する多孔質な炭素材料としては、結晶サイズが小さい低結晶性炭素の成形体が開示されている(特許文献2)。低結晶性炭素は親水性であり微生物との親和性が高く微生物が付着しやすくなるとしているものの、その製法は炭素骨材に有機バインダーを配合して混合し、その混合物を成形したものを非酸化性雰囲気で焼成して炭素成形体を得るものであり、廃水処理向けに微生物燃料電池の炭素電極として大量に供給するにはコストの点で課題がある。
工業的に大量生産される炭素材料としては、製鉄プロセスで鉄鉱石の還元材として使用される石炭コークスがあり、これは粘結炭を主成分とする原料石炭を高温で乾留して得られる乾留物である。乾留物として得られる石炭コークスは、圧縮強度が高く多孔質であることから悪臭物質を分解する微生物生育床用の脱臭装置用多孔質充填材(特許文献3)としての利用が開示されているが、廃水処理向け微生物燃料電池の炭素電極としての利用は想定されていない。
【0005】
微生物を多く担持する方法として、表面積を広くできる粒状の充填材をアノードとして適用することが考案されている。これは充填型炭素電極(グラニュール状電極)と呼ばれており、一般的に数mmオーダーの粒状の炭素材料を微生物燃料電池のアノード槽に充填して使用し、アノード槽の中の充填材に接触するように導電性の炭素棒を差し込むことで集電することができる(非特許文献1、非特許文献2)。充填型炭素電極は微生物が生育可能な表面積を増やすことができ、成形の工程が不要で任意の形状でアノードを構成することができるなど、実用性の高い炭素電極として期待される。
【0006】
石炭コークスは工業的に大量生産されている炭素材料であり、充填型炭素電極として廃水処理向け微生物燃料電池のアノードとして適用することができれば、コスト的な課題の解決と共に、実用性の高い微生物燃料電池を提供可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-154106号公報
【特許文献2】特開2019-164978号公報
【特許文献3】特開平7-284659号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】微生物燃料電池による廃水処理システム最前線 2013 株式会社エヌ・ティー・エス
【非特許文献2】Jincheng Wei, Peng Liang, Xia Huang,2011. Recent progress in electrodes for microbial fuel cells Bioresource Technology 102,9335-9344.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
石炭コークスの細孔は、石炭を高温で乾留したときにタール成分等が揮発することによって多孔質化して形成される。しかしながら、石炭コークスは使用する原料石炭や乾留するときの温度分布等によって多孔質性が変動するため、微生物が生育するのに適した細孔を備えていない場合には、微生物が充分に生育することができず、微生物燃料電池のアノードに利用して廃水処理を行うには効率が低い。
従って、微生物燃料電池のアノードとして石炭コークスを利用するには、微生物が安定して生育することができる細孔特性等を特定して、この特定された特性を備えていない石炭コークスに対しては、必要に応じて改質処理を行うことでアノードに適用することができる。微生物が生育するのに適した細孔を備えた石炭コークスを炭素電極に適用すれば、微生物燃料電池のアノードとして効率的に廃水処理を行うことが可能となる。
一般に微生物の大きさは1~2μm以上であり、微生物が細孔の中に円滑に進入していくためには、微生物の大きさの数倍である10μm以上の細孔径を多く備えた炭素電極が望まれる。また、微生物が物理的に進入可能な細孔径は1μm以上であることから、微生物が多く生育するには細孔径1μm以上の比表面積が大きい炭素電極が望まれる。従って、石炭コークスを炭素電極に適用する場合、微生物が物理的に生育できる細孔特性は、細孔径10μm以上の細孔含有率と、細孔径1μm以上の比表面積を検討する必要がある。
廃水に含まれる有機物は微生物によって嫌気的に分解処理されるが、同時に電子を生成して炭素電極に電子を受け渡す。炭素電極が受け取った電子は、アノードからカソードに流れて消費されることによって、微生物は有機物の分解処理を継続的に行うことができる。従って、石炭コークスを炭素電極に適用する場合、石炭コークスを充填した集合体としてのアノードは、電子が流れやすいように電気抵抗率も考慮する必要がある。
微生物が細孔に進入して生育するには細孔内に水が必要である。微生物が増殖して廃水に含まれる有機物を実用的な速さで分解処理するには数カ月の育成期間が必要であるが、この期間は微生物が生育する期間であると同時に細孔に水が浸透していく期間でもある。従って、石炭コークスを炭素電極に適用する場合、微生物が細孔内で充分に生育するための環境を作り出すためには吸水率も考慮する必要がある。
【0010】
本発明は、上記の知見にもとづいて開発されたものであり、工業的に生産される石炭コークスを微生物燃料電池のアノードに適用することで、微生物の生育に適した環境が整い、効率的に廃水処理が可能な炭素電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために見出された本発明の炭素電極は、廃水処理用微生物燃料電池のアノードとして用いる炭素電極であって、炭素電極が石炭を乾留して得られる粒状石炭コークスを充填した集合体からなり、前記粒状石炭コークスは、細孔径10μm以上の細孔含有率が70%以上であり、細孔径1μm以上の比表面積が0.05~0.2m2/gであることを特徴とする。
本発明の炭素電極は、前記粒状石炭コークスの粒度範囲が1~40mmであり、前記粒状石炭コークスを充填した集合体の抵抗率は16000μΩm以下が望ましく、前記粒状石炭コークスを充填した集合体を水に浸漬して150日以上経過時の吸水率が30%以上であることが好適である。
【0012】
本発明の炭素電極を製造する方法は、石炭を乾留して石炭中の揮発分を1%未満に揮発させた石炭コークスを粉砕した後篩い分けし、粒度範囲1~40mmの粒状石炭コークスを選別してアノードとして充填し、前記粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノードの抵抗率を16000μΩm以下にすることを特徴とする。また、前記粒状石炭コークスを400℃~700℃の酸化性ガス雰囲気で熱処理することが好適である。
【0013】
さらに、本発明は、上記炭素電極をアノードに用いた微生物燃料電池であり、その微生物燃料電池による廃水処理方法であり、特にコークス炉から排出された安水を処理するために好適に利用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による炭素電極は、工業的に大量生産可能な石炭コークスを利用するため、微生物燃料電池のアノードとして経済的に実用性の高いものであり、微生物が充分に生育することができる細孔特性、吸水性、電気的な抵抗特性を備えていることから、廃水中の有機物を効率的に分解処理することが可能であり極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の炭素電極を備えた微生物燃料電池の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の排水処理用微生物燃料電池のアノード用炭素電極は、石炭を乾留して得られる粒状石炭コークスを充填した集合体からなり、粒状石炭コークスが所定の細孔含有率及び所定の比表面積である。
微生物燃料電池用のアノード電極は、有機物の分解と同時に電子を放出する嫌気性の電流発生菌と呼ばれる微生物の速やかな付着と増殖と、微生物による有機物の分解に伴って発生する電子の捕捉を円滑に行なえることが求められる。このため、廃水と接触する面積が大きく、機械強度に優れた導電性の材料により構成されることが望ましい。
このような特性を有する材料としては、金属材料や炭素材料、これら両者を組み合わせた複合材料等が挙げられるが、廃水の処理に際しては長期安定稼動の面から電極の交換頻度を減らせる耐腐食性の強い炭素材料が適している。また、微生物燃料電池としての能力(出力)を向上させるためには、電極と廃水との接触や微生物の付着する面積が大きいことも求められる。かかる観点から本発明では電気抵抗率が低く、多孔質であり、材料強度の高い粒状石炭コークスをアノードとして充填した集合体を炭素電極として用いる。
【0017】
粒状石炭コークスは多孔質であるが、1~2μm程度の大きさの微生物が、石炭コークスの細孔に円滑に進入して生育するには少なくとも細孔径が10μm以上あることが望ましく、10μm未満の細孔径では微生物が粒状石炭コークスの細孔の中に進入していくには狭いので細孔内で生育しにくい。従って、廃水処理を効率的に行うには、粒状石炭コークスの細孔径10μm以上の細孔量(細孔含有率)が全細孔量の70%以上の割合で存在する必要があり、好ましくは75%以上である。10μm以上の細孔量が70%未満では微生物が細孔に進入して生育しても廃水を効率的に処理するには十分でない。
なお、粒状石炭コークスの細孔量は、一般的に多孔質材料の細孔分布を測定するときに利用される水銀圧入法によって測定することができる。
【0018】
また、粒状石炭コークスにおける細孔径1μm以上の比表面積は0.05~0.2m2/gであり、好ましくは0.05~0.15m2/gである。細孔径1μm以上の比表面積が0.05m2/gを下回ると、微生物が付着して生育する表面積が少ないため廃水を効率的に処理することができず、比表面積が0.2m2/gを超えると、細孔が多すぎて、粒状石炭コークスを充填した集合体である炭素電極の強度が低くなり、廃水処理槽の中で崩壊しやすくなり廃水処理の効率が低下する。
【0019】
粒状石炭コークスが微生物を生育できる細孔特性を備えていても、微生物が細孔に進入して生育するには粒状石炭コークスが吸水して細孔内に水が存在している必要がある。微生物燃料電池で微生物が有機物を実用的な分解速度で処理するには半年以上の育成期間が必要であるが、この期間は粒状石炭コークスが吸水して細孔に水が浸透していく期間でもある。
乾燥した粒状石炭コークスは、水に浸漬すると15分間ほどで吸水率10~40%程度まで吸水し、そこからさらに徐々に吸水して吸水率が比較的安定するまでに数日から数カ月を要する。このとき粒状石炭コークスの粒度範囲が大きいほど吸水率の増加速度は遅く、吸水率が安定するまで長期間を要する。従って、微生物が実用的な廃水処理を行うまでに必要とされる生育期間(約半年)より短い期間で、微生物が生育する細孔内を水で満たすための吸水率が望まれる。
粒状石炭コークスの吸水率は、水に浸漬して150日後で30%以上あることが望ましく、より好ましくは40%以上である。なお、150日間の水浸漬は、微生物が実用的に廃水処理を行うまでの生育期間(約半年)より以前に粒状石炭コークスが到達すべき吸水率に必要な期間である。吸水率が30%以上であれば、粒状石炭コークスの細孔内が広く水で満たされているために微生物が必要な廃水処理効率を満たすほど充分に生育することができるが、吸水率が30%未満では、物理的に微生物が進入できる細孔であっても水が存在せず、微生物が生育できない環境となり廃水処理の効率が低下する。一方、吸水率の上限については粒状石炭コークスの開気孔率に相当する。
粒状石炭コークスの開気孔率は、水に浸漬して真空に減圧したときに飽水した吸水率を測定することによって得ることができる。開気孔率は35~70%であることが望ましく、より好ましくは45~60%である。開気孔率が35%を下回ると、吸水率が十分ではなく微生物が生育できない環境となり廃水処理の効率が低下する。一方、開気孔率が70%を上回ると、細孔が多すぎて粒状石炭コークスの強度が低くなり、廃水処理槽の中で崩壊しやすくなり廃水処理の効率が低下する。
【0020】
粒状石炭コークスの細孔に生育した微生物は、廃水に含まれる有機物を分解処理すると電子を生成して石炭コークスに電子を受け渡す。石炭コークスが受け取った電子は集電され炭素電極からカソードに流れて消費されることで、微生物は継続して有機物を分解処理して電子を生成し続けることができる。従って、炭素電極を構成する粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノード(炭素電極)は、電子が流れやすいように電気的に低い抵抗率が望まれる。
粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極(アノード)の抵抗率は、微生物が生成した電子がカソードに流れることが出来れば特に制限はないものの、集合体からなる電極であることから、16000μΩm以下が望ましく、好ましくは10000μΩm以下、より好ましくは5000μΩm以下である。抵抗率の下限については特に制限はないものの、粒状の石炭コークスの集合体であることを考慮すると接触抵抗による影響から500μΩmを下回ることは無い。
【0021】
粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノードの抵抗率は、粒状石炭コークスの粒度範囲と充填率によって変化する。石炭コークスは、抵抗率が50~150μΩmの導電性材料なので本来は電子が流れやすいが、粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極は、粒状石炭コークスの粒子同士の接点を介するため、接触抵抗によって電子の流れが妨げられる。このため、充填する粒状石炭コークスの粒度が大きければ充填時に粒子同士の接点が少なくなり炭素電極の抵抗率の増加を抑えることができる。例えば、粒状石炭コークスとして粒度範囲の最大と最小の差が2~3mm以内に揃った粒状石炭コークスを使用した場合、抵抗率はおよそ4000~16000μΩmとなり、粒度が大きいほど抵抗率は4000μΩmに漸近していく。
粒状石炭コークスの粒度が大きいほど充填した集合体からなる炭素電極の抵抗率は小さくなるので一般的には電極として望ましい方向に向かうが、粒度が大きいと粒状石炭コークスの充填率が低下して微生物の生育量が少なくなるので廃水処理の効率化には不利である。微生物燃料電池向けの炭素電極として好ましい粒状石炭コークスの充填率はおよそ40~70vol%であるが、大きい粒度同士のすき間に入ることができる小さい粒度の粒状石炭コークスが接触するように粒度配合することで充填率が大きくなり、電流が流れる断面積が拡大することができる。例えば、粒度13mm以上の粒状石炭コークスに粒度11mm以下の粒状石炭コークスを配合すると、充填率はおよそ40vol%以上を維持しつつ、抵抗率はおよそ2000~4000μΩmとなる。
【0022】
粒状石炭コークスは、異なる粒度を有する粒状石炭コークスを配合した後の粒度範囲が1~40mmである。粒度が1mm未満になると、廃水処理槽に充填したときにアノード(炭素電極)としての抵抗率が16000μΩmを超えて微生物による水処理効率が低下しやすく、また、充填率も70%を超えるため粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノード槽に廃水が流れるときに圧力損失が高くなり、所定の廃水流量を確保することが困難になる。粒度範囲の下限は、好ましくは3mm、より好ましくは6mmである。一方、粒状石炭コークスの粒度が40mmを超えると、粒状石炭コークスの中心部まで微生物の生育が進まなくなって利用効率が落ちるため、水処理効率が低下する。粒度範囲の上限は、30mmが望ましく、より望ましくは20mmである。
【0023】
次に、本発明の炭素電極の製造方法を説明する。
(石炭コークス)
炭素電極に使用する石炭コークスは、石炭の粉末を900℃~1300℃の高温で乾留したものである。乾留する温度が900℃未満であると、石炭の粉末が溶融しても焼結せずに硬い石炭コークスが得られず、揮発分が十分に揮散しないので多孔質化せずに必要とされる細孔特性が得られない。一方、1300℃を超えると、石炭に含まれる灰分が還元されて分解ガスが急激に発生するので、焼結した石炭コークスに大きな亀裂が発生して強度的に脆くなり、比表面積が低下する。石炭の粉末を乾留する温度は1000℃~1200℃が望ましく、より望ましくは1100℃~1200℃である。また、石炭コークスの揮発分は1%未満が望ましく、揮発分が1%以上であるとタール系の有機物が残留している可能性があり、微生物が生育するのを阻害すると共にアノードを構成したときの抵抗率が大きくなりすぎる。
本発明における揮発分の測定方法は、石炭コークスを目開き3.35mmと4.75mmの金網で篩って得た粒度範囲3.35~4.75mmの石炭コークスを120℃で2時間乾燥した後、乾燥した石炭コークスをアルミナルツボに入れて管状炉に設置して窒素500ml/minを流しながら900℃で30分間熱処理した。揮発分は次式で算出される。
揮発分(%)=(乾燥後の石炭コークス重量―熱処理後の石炭コークス重量)÷(乾燥した石炭コークス重量)×100
【0024】
石炭コークスは、石炭の粉末を大量に乾留することができるコークス炉で製造することが効率的であるが、コークス炉以外の乾留装置を用いてもよい。石炭コークスの原料となる石炭は粘結成分を多く含む瀝青炭を使用することが望ましいが、本発明の炭素電極の細孔特性を満足することができるのであれば石炭の種類は問わず、石炭コークスとしては製鉄用の還元材である高炉用コークス、金属溶解のための鋳物用コークス、または前記以外の一般用コークスを利用することができる。
【0025】
(粒度調整)
粒状石炭コークスの粒度範囲は、所望の粒度が得られる目開きの金網に石炭コークスを通して篩分けすることで調整することができる。例えば、粒度範囲1mm~40mmの粒状石炭コークスは、目開き1mm平方の金網の篩い上から目開き40mm平方の金網の篩い下にすることによって得ることができる。
石炭コークスは、必要とされる粒状石炭コークスの粒度範囲に調整するために機械的に破砕してよい。石炭コークスの破砕は二軸破砕機、ハンマークラッシャーなどで行うことができ、破砕した石炭コークスを篩分けすることで必要とされる粒状石炭コークスの粒度範囲に調整できる。
【0026】
(酸化処理)
所定の粒度範囲に調整した粒状石炭コークスは、本発明の細孔特性の範囲内であればそのまま充填してアノードとして使用することができるが、微生物をより多く生育させるための細孔を得るために400~700℃の酸化性ガス雰囲気で熱処理してよい。酸化性ガスは、例えば空気、酸素、二酸化炭素を挙げることができ、経済的な点で空気が好ましい。この処理により粒状石炭コークスが酸化消耗して開気孔率が増加すると共に、細孔内が親水化して吸水しやすくなり、微生物が多く生育することができる細孔を備えたアノード(炭素電極)を得ることができる。
熱処理はマッフル炉等のバッチ炉やロータリーキルン等の連続炉を使用することができ、炉内温度は400~700℃であり、450~650℃が好ましく、500~600℃がより好ましい。炉内温度が下限値以上であれば開気孔率が増加し、上限値以下であれば充分な強度をもったアノード(炭素電極)が得られる。熱処理時間は0.5~30時間の範囲で行えばよく、熱処理時間が下限値以上であれば開気孔率が増加し、上限値以下であれば充分な強度をもったアノード(炭素電極)が得られる。酸化処理した粒状石炭コークスは、必要に応じて篩い分けしてもよく、酸化消耗によって粒子サイズが小さくなり過ぎた微粒子(例えば1mm未満の粒子)を除去するのが望ましい。
【0027】
続いて、本発明の微生物燃料電池と、これを用いた廃水の処理方法を、以下に説明する。
本発明の微生物燃料電池は、廃水を処理するための微生物燃料電池であって、カソード電極と一対で使用されるアノード電極として、本発明のアノード用炭素電極を用いる。微生物燃料電池の構造は公知の構造でよく、好ましくはアノードおよびカソード、両極間を隔離するイオン伝導性を有する隔膜で主に構成される。なお、これらを容器内に収納することがよく、隔膜は設けなくともよいが設けることが望ましい。
【0028】
微生物燃料電池におけるアノード電極は、微生物の呼吸によって生じた電子を微生物から直接、または間接に受け取る。アノード電極は導電性であり、処理対象である廃水に対して安定な材質であれば特に限定されるものではなく、ステンレスなどの金属や炭素繊維フェルトといった黒鉛材料の使用が一般的である。しかし、金属電極は処理廃水の液性により電極材質を選択する必要や、化学的に安定な金属は高価であるという問題があり、黒鉛材料は化学的な安定性は高いものの高結晶性であるがゆえに表面状態が疎水性なため、電子供与微生物の付着や増殖はあまり速くないのが実情である。これらに対して、本発明の多孔質であり非黒鉛質の粒状石炭コークスを充填した集合体からなるアノード電極は、高い親水性および微生物の活動に適した大きさの気孔径を備えているため、微生物がアノード電極表面に広く、かつ、速やかに付着し、増殖するため、電池として出力する電力を向上でき、微生物燃料電池のアノードとして特に好ましく使用できる。
微生物燃料電池のアノード電極は、微生物による廃水の処理効率を向上させるためには電極の表面積が大きいことが好ましいため、粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極をアノード電極とする。
図1のように廃水を収容するアノード槽に粒状石炭コークスを直接投入して充填することによってアノード電極とすることができるが、粒状石炭コークスを通水性と導電性を備えたメッシュ状の袋や容器等の収納体に充填して、これらをアノード槽に設置してアノード電極としてもよい。本発明の炭素電極によるアノード電極は、集合体として使用される粒状石炭コークスの材料強度が4mm粒の圧壊荷重で50N以上という高い値のため、水流などの外力に対して破損しにくいこともまた好ましい一面である。
【0029】
アノード電極が受け取った電子は、外部回路を経由してカソード電極に送られる。また、微生物の呼吸によって水素イオンが生じた場合は、水素イオンがカソード電極の表面に到達する場合がある。カソード電極では、電子によって酸素を還元させる。従ってカソード電極は、上記還元反応を阻害しないものであればその構成に特に制限はなく、アノード電極と同様に処理槽中の廃水に浸漬させてもよいし、廃水と液絡する別の電解液に浸漬させてもよい。このように、実施形態によっては、本発明の微生物燃料電池は、それが廃水の処理装置となることがある。また、本発明の微生物燃料電池が、廃水の処理装置の一部に組み込まれた実施形態でもよい。
【0030】
廃水を処理するための微生物燃料電池の実施形態の例を、以下、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態である廃水を処理するための微生物燃料電池の一例を示す模式図である。
図1において、微生物燃料電池1は、廃水を収容するアノード槽2に粒状石炭コークス3を充填し、カソード槽4の大気側の側面にはエアカソード5が備えられている。アノード槽2とカソード槽4の間はカチオン交換膜6で仕切られ、充填した粒状石炭コークス3には集電のための黒鉛棒7が接触して挿し込まれている。
【0031】
廃水の流れは、アノード槽2に廃水の導入部と排出部とが設けられており、アノード槽2から排出された廃水はカソード槽4に導入してから排出することで、循環供給又は流通供給できるように構成されている。
粒状石炭コークス3はアノード槽2の内部に充填されている。粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極3は黒鉛棒7を介して導線によって外部回路(抵抗、データロガー)8に接続されている。
エアカソード5は、カソード槽4の大気側の側面に配置されている。エアカソード5は導線によって外部回路8に接続されている。エアカソード5は、電子伝導性の電極部と、電極部に保持されて酸素還元能を有する触媒とから構成されている。電極部の材質として例えば、カーボンフェルトや多孔質の炭素材料を例示でき、本発明の粒状石炭コークスを利用してもよく、カソード槽4の内部に配置する。触媒としては、白金の微粒子を例示できる。より具体的には、例えば、フッ素樹脂と炭素粉末を混合、成形することによりシート状のカソード電極部とし、電極部の表面及び内部に白金の微粒子を担持させる。触媒は必要に応じて利用してよい。カソード電極部の漏水を防止する場合は、例えば酸素透過性のシリコンフィルムをカソード槽4の大気側に配置して電極部と接触させる。
【0032】
次に、上記微生物燃料電池1による廃水の処理方法について説明する。
廃水は、生分解性の汚濁物質を含む一般家庭や畜産業、鉱工業などの各種産業より排出される廃水であり、生分解性の汚濁物質の一例としてフェノール類や酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪族カルボン酸などの有機化合物などが挙げられる。
微生物は、例えば、廃水を活性汚泥法によって処理する際に用いられる活性汚泥中に存在している場合があるので、この活性汚泥とともに廃水中に添加すると良い。
廃水及び微生物を、アノード槽2とカソード槽4にセットして、廃水の処理を開始する。微生物が廃水中の有機酸等の分解を開始すると、二酸化炭素と水素イオンと電子とが少なくとも生成される。生成した水素イオンは、廃水中に拡散する。一方、電子は、微生物から直接または間接に、本発明の粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極(アノード)3に供与され、この電子は、外部回路8を介してエアカソード5に移動する。
エアカソード5では、外部回路8を経て移動した電子によって、大気中の酸素を還元させる。炭素電極(アノード)3で生成した水素イオンが、酸素の還元に係わる場合もある。酸素は大気中に多量にあるため、曝気等の手段で強制的に供給する必要はない。本実施形態の場合は、エアカソード5における酸素の還元速度は、エアカソード5の面積に依存するので、エアカソードの面積は可能な限り大きいほうが好ましい。
微生物の呼吸によって生成した電子は、炭素電極(アノード)3から外部回路8を経てエアカソード5に至る。ここで、エアカソード5はこの還元反応の場として機能する。例えば、本実施形態の一つとして、酸素の還元が例示される。このように本発明によれば、廃水中の有機酸等の分解が行われる。
【0033】
上記廃水処理方法によれば、廃水中の有機酸等が分解されるとともに、エアカソード5からアノードの炭素電極3に電流が流れる。
エアカソード5を廃水と大気とに接触させた状態とすることで、エアカソード5と廃水と大気との三元界面を形成させる。これにより、大気から取り込まれた酸素がエアカソード5表面で還元されるようになり、外部から強制的に酸素を供給することなくエアカソード5における酸素の還元反応を進行させ、微生物の呼吸が進み、廃水の処理を円滑に行うことができる。
【実施例0034】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、実施形態に記した内容により本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。
実施例1~2
石炭粉末をコークス炉で乾留して得られた製鉄用に利用される石炭コークス(揮発分1%未満)を準備した。この石炭コークスを目開き11.2mmと19mmの篩を用いて篩分けすることによって、粒度範囲11.2~19mmの粒状石炭コークスの集合体からなる炭素電極(アノード)を調製した(実施例1)。
前記の篩分けによって得た粒度範囲11.2~19mmの粒状石炭コークスを磁性皿に載せて、大気雰囲気のマッフル炉の中で600℃、4時間熱処理することによって、酸化処理した粒状石炭コークスを調製した。このとき粒状石炭コークスの酸化消耗による重量減少率は14%であった。酸化処理した粒状石炭コークスを、再び、目開き11.2mmと19mmの篩を用いて篩分けすることによって、粒度範囲11.2~19mmの酸化粒状石炭コークスの集合体からなる炭素電極(アノード)を調製した(実施例2)。
【0035】
炭素電極(アノード)を構成する(酸化)粒状石炭コークス又は集合体の特性は、以下の方法によって測定を行った。
(平均気孔径)
平均気孔径は水銀圧入法で測定した。篩分け粒度以外は実施例と同様の手順によって粒度範囲6.7~8mmに調製して任意の1粒を測定に使用した。(細孔含有率、比表面積においても同様)
水銀ポロシメータ―(Quantachrome製 PoreMaster 60-GT)によって、水銀の接触角を140°として細孔径に対する累積細孔容積を測定した。細孔径の測定範囲は400μm~0.0036μm(水銀圧力0.5psia~60000psia)とし、水銀が浸入した累積細孔容積の50%のときの細孔径を平均気孔径(メジアン径)とした。
【0036】
(細孔含有率)
細孔径10μm以上の細孔含有率は、水銀ポロシメータ―により測定された細孔径10μm以上の累積細孔容積(V
10)と、全細孔径で測定された累積細孔容積(V
0)を用いて以下の式で計算した。
【数1】
ここで、 V
10は細孔径400μm~10μmの範囲で測定された累積細孔容積であり、V
0は細孔径400μm~0.0036μmの範囲で測定された累積細孔容積である。
【0037】
(比表面積)
水銀ポロシメータ―により測定された細孔径(2r)に対する累積細孔容積(V
2r)は単位重量あたりの細孔の累計容積であり、細孔を底面のない一つの円柱形(高さL)と仮定して、底面の面積(Φ2r)を除外した円柱の側面面積(S=2πrL)、円柱の体積(V
2r=πr
2L)の2式を使い、S=2×(V
2r/r)という形にする。V
2r(cm
3/g)=V
2rx10
-6(m
3/g)、r(μm)=rx10
-6(m)であるから、単位重量あたりの表面積(m
2/g)として、下記式を用いて細孔径400μm~2r(μm)までの比表面積を計算した。細孔径1μm以上の比表面積は、細孔半径(r)0.5μmと細孔径1μmに対する累積細孔容積(V
2r)を用いた。
【数2】
ここで、V
2r (cm
3/g):試料1gあたりの細孔径(2r)に対する累積細孔容積、r(μm):細孔半径
【0038】
(開気孔率)
粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極の乾燥重量(A)を測定した後、炭素電極を水に沈めてデシケーター中で真空に減圧して60分間保持して飽水させた。水中から取り出した炭素電極を網ザルに移して水を切り、飽水した炭素電極をメスシリンダーに充填して重量を測定し、メスシリンダーの空重量を差し引くことで飽水した炭素電極の重量(B)を得た。このとき炭素電極の開気孔の体積は次式で算出される。
【数3】
飽水した炭素電極を充填したメスシリンダーに炭素電極の上端まで水を入れて、水面までの体積C(充填体積)と注入した水の重量D(すき間体積)の差を計算することで、炭素電極の体積を得た。
【数4】
開気孔率は、開気孔の体積と炭素電極の体積を用いて以下の通り算出した。
【数5】
【0039】
(吸水率)
粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極の乾燥重量(A)を測定した後、炭素電極を水に沈めて吸水させて142日後と218日後に水中から取り出して炭素電極を網ザルに移して水を切り、吸水した炭素電極の重量(B)を得た。炭素電極は水に沈めてから時間の経過に伴い徐々に吸水して重量が増加するが、このとき炭素電極が吸水した体積は次式で算出される。
【数6】
前記の開気孔率を測定する過程で得られた炭素電極の体積を用いて吸水率を以下の通り算出した。
【数7】
【0040】
(かさ密度)
前記の開気孔率を測定する過程で得られた炭素電極の乾燥重量と炭素電極の体積を用いて以下の通り算出した。
【数8】
【0041】
(抵抗率)
内径21mm(断面積3.46cm
2)、長さ100mmのアクリル管の端面入口に銅板(φ21mm、厚さ5mm)を嵌め込んで、アクリル管を軽く叩いて振動を与えながら反対側の入口から、粒状石炭コークスを充填して炭素電極とし、銅板(φ21mm、厚さ5mm)を嵌め込むことで炭素電極と銅板とを接触させた。このとき、アクリル管に充填した炭素電極の重量をそのかさ密度で割り算することで体積を求め、アクリル管内の空間体積(31.1cm
3)に対して計算した炭素電極の充填率は、実施例1は41%、実施例2は44%であった。
両端の銅板を介して、粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極に電流0.5A(一定)を流して電圧降下法による抵抗率を測定した。アクリル管の側面にはスパン6.5cmでφ5mmの穴を2カ所開けており、この穴の外側から電圧測定用の端子を、内部に粒状石炭コークスを充填した集合体からなる炭素電極に押し当てて電圧を測定した。抵抗率は以下の式を用いて算出した。
【数9】
【0042】
(圧壊荷重)
篩分け粒度以外は実施例と同様にして粒度範囲3.35~4.75mmの粒状石炭コークスを調製して粒度4mm粒の試験片を得た。木屋式硬度計を用いて、粒度4mm粒の試験片に荷重を加えて圧壊したときの加圧重(n=10)の平均値を圧壊荷重とした。
【0043】
実施例1、2の炭素電極について、細孔特性、抵抗率、吸水率等を表1に示した。
【表1】
【0044】
表1から判るように、本発明の炭素電極は、それを構成する粒状石炭コークスについて、細孔径10μm以上の細孔含有率が70%以上であり、細孔径1μm以上の比表面積が0.05~0.2m2/gの範囲の細孔特性を備えていた。本発明の炭素電極は、抵抗率が約5000μΩmであり、アノードとしての抵抗率は低く良好であった。また、142日後の吸水率が30%を越えており、微生物が充分生育するための生育環境を作り出すことができた。
【0045】
(微生物燃料電池による廃水処理)
図1は、本発明の炭素電極を用いて廃水処理を行った微生物燃料電池の模式図を示した。
図1に示された微生物燃料電池は、塩化ビニール製の内寸法60x60x50mm(内容積180cm
3)の密閉可能なリアクターの中にカチオン交換膜を設置して2槽に仕切り、アノード槽に本発明の炭素電極を設置し、カソード槽には片面中央の貫通孔(25x25mm)にシート状のエアカソードを取付けて、外部抵抗(1000Ω)、電圧測定用のデータロガーを介して、黒鉛棒とエアカソードが導線で接続されている。アノード槽で発生する電子は、粒状石炭コークスの集合体からなる炭素電極に黒鉛棒を差し込んで接触させて集電した。廃水は点線で示した矢印の方向に流れることで槽内を循環する。
アノードの炭素電極として、実施例で調製した粒度範囲11.2~19mmの粒状石炭コークスを充填した集合体(50cm
3)を用い、比較例は5cmx5cmx1cmのカーボンフェルト(25cm
3)を用いた。
【0046】
表2は、廃水として用いた模擬安水の成分と濃度を示した。模擬安水は工業用水と自然海水とを体積比2:3で混合して得られた溶媒中に、表2に示す物質を溶解して調製した。微生物燃料電池のアノード槽とカソード槽には、土壌から採取した微生物を植種源として培養した培養液と模擬安水を同じ体積で混合した溶液を入れ、1週間静置してアノードの炭素電極に微生物を定着させた。
【0047】
【0048】
実施例1、2の炭素電極をアノードとして用いた微生物燃料電池により、廃水処理を行った。比較例として、カーボンフェルトの炭素電極を用いた。
すなわち、実施例1、2及び比較例の炭素電極に、微生物を定着させた後、微生物燃料電池のアノード槽に模擬安水を貯蔵した容器(2L)からポンプで模擬安水を0.1ml/minで供給を開始し、1週間毎に新しい模擬安水に交換しながら微生物燃料電池の運転を218日間行った。1週間毎に新しい模擬安水で運転を開始して2日後に、アノード槽に供給される処理前の模擬安水と、アノード槽とカソード槽を通過した処理後の模擬安水を同時期に採水して、それぞれの模擬安水に含まれるフェノール濃度を4-アミノアンチピリン吸光光度法で測定した。
処理前後のフェノール濃度と、模擬安水がアノード槽とカソード槽を通過するときの滞留時間を用いて、次式より微生物によるフェノール分解速度を算出して、廃水処理能力を評価した。
【数10】
ここで、アノード槽とカソード槽の滞留時間は、内容積180cm
3に対して模擬安水の供給量0.1ml/minであることから1.25日とした。
【0049】
【0050】
微生物が生育してフェノールを安定的に分解し始めるまでに約半年を要するので、運転開始後の142日から218日の期間で1週間毎に測定されたフェノール分解速度の平均値を、表3に示した。表3から判るように、実施例1,2の炭素電極(50cm3)は、共に運転200日を過ぎるとフェノール分解速度が100mg/L/dayを超えた。
比較例のカーボンフェルトは電極としての体積が25cm3であり、実施例1,2の電極体積50cm3と比較して1/2の体積である。このため、カーボンフェルトの電極で得られた比較例のフェノール分解速度を2倍すると、運転218日では138 mg/L/day(=69x2)であった。これより、実施例1,2はカーボンフェルト(比較例)と同等のフェノール分解速度である。環境負荷が大きく高価なカーボンフェルトをアノードとして利用することなく、本発明の炭素電極を用いることによって、低コストで廃水処理を行うことができる。
【0051】
微生物燃料電池の発電による運転開始218日目の電圧と電力密度を、表3に示した。電圧は運転時に測定された値であり、電力密度は次式より算出した。微生物燃料電池の外部抵抗は1000Ωなので、電流は電圧を外部抵抗で割り算した値とした。
【数11】
表3から判るように、実施例2の石炭コークスを空気で酸化処理した炭素電極は、実施例1の石炭コークスによる炭素電極よりも高い電圧を発生して電力密度は大きく、また、比較例のカーボンフェルトの電極よりも電力密度が大きいことから、石炭コークスを空気酸化処理することによって発電能力の高い炭素電極を得ることができる。
本発明の炭素電極は、石炭コークスを利用するので大規模かつ経済的に廃水処理を行うことが可能であり、細孔に微生物が多く生育して廃水中の有機物を効率的に分解処理すると共に発電能力も高いことから、微生物燃料電池のアノードとして好適である。