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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106453
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】振動装置および検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20240801BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20240801BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20240801BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N35/02 D
G01N21/03 Z
G01N35/10 D
G01N1/00 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010705
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】諏訪間 大
【テーマコード(参考)】
2G052
2G057
2G058
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052AB18
2G052AB20
2G052AD06
2G052AD46
2G052CA04
2G052DA06
2G052FB02
2G052FB08
2G052GA11
2G057AA04
2G057AB04
2G057AD05
2G057BA03
2G058CC02
2G058FA03
2G058GA01
(57)【要約】
【課題】マイクロウェル内をより液体で満たすことが可能な振動装置および検査装置を提供する。
【解決手段】検査装置1は、液体で覆われたマイクロウェル2021内に空隙Vを有する検査容器2に振動を与えることが可能な振動部材70と、振動部材70と検査容器2とが接触する接触状態と、振動部材70と検査容器2とが離間する離間状態とを切替可能に制御する制御部とを含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体で覆われた第1マイクロウェル内に空隙を有する容器に振動を与えることが可能な振動部材と、
前記振動部材と前記容器とが接触する接触状態と、前記振動部材と前記容器とが離間する離間状態とを切替可能に制御する制御部と
を備える振動装置。
【請求項2】
前記容器には、複数の前記第1マイクロウェルが設けられた第1検査部と、所定方向において前記第1検査部に隣り合うとともに、複数の第2マイクロウェルが設けられた第2検査部とが設けられ、
前記制御部は、前記離間状態のとき、前記所定方向において、前記容器と前記振動部材との相対位置を変更可能に制御する請求項1に記載の振動装置。
【請求項3】
前記容器はディスク形状を有し、
前記制御部は、前記容器を回転させることにより、前記容器と前記振動部材との相対位置を変更する請求項2に記載の振動装置。
【請求項4】
前記接触状態では、前記第1検査部に対向するとともに前記第2検査部に非対向の部分の前記容器に、前記振動部材が接触する請求項2に記載の振動装置。
【請求項5】
前記接触状態では、前記液体に対向する部分の前記容器に、前記振動部材が接触する請求項4に記載の振動装置。
【請求項6】
前記振動部材の前記容器との対向面は、前記第1検査部の面積以上の大きさを有する請求項2に記載の振動装置。
【請求項7】
前記接触状態および前記離間状態の切替に伴って、前記振動部材および前記容器の少なくとも一方を駆動する駆動部をさらに有する請求項1に記載の振動装置。
【請求項8】
前記駆動部は、前記振動部材を駆動するバネ部材を含む請求項7に記載の振動装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記接触状態で前記振動部材を所定時間振動させた後、前記振動部材の振動を停止して前記接触状態から前記離間状態に切り替える請求項1に記載の振動装置。
【請求項10】
前記振動部材は、振動子と、前記振動子と前記容器との間に設けられるとともに前記接触状態のとき前記容器に接する接触部分とを含む請求項1に記載の振動装置。
【請求項11】
前記接触部分の硬度は、前記振動子の前記容器との対向面の硬度よりも低く、かつ、前記接触状態のとき前記接触部分に接触する部分の前記容器の硬度よりも低くなっている請求項10に記載の振動装置。
【請求項12】
前記接触部分は、液体、ジェル、ペーストおよび弾性体の少なくともいずれか一つを含む請求項10に記載の振動装置。
【請求項13】
前記振動部材は、複数の異なる周波数で振動可能に構成されている請求項1に記載の振動装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記接触状態の間に、前記振動部材の周波数を変更可能である請求項13に記載の振動装置。
【請求項15】
前記振動部材は、共振周波数を含む範囲の周波数帯で振動可能に構成されている請求項13に記載の振動装置。
【請求項16】
前記振動部材は、20kHz以上の周波数で振動可能に構成されている請求項1に記載の振動装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記振動部材により前記容器に振動を与えた結果に基づいて、前記振動部材の周波数を決定する請求項1に記載の振動装置。
【請求項18】
前記第1マイクロウェルの開口面積は、2500μm以下である請求項1に記載の振動装置。
【請求項19】
請求項1に記載の振動装置と、
前記液体に含まれる被検査物の光学測定を行う光学測定部と
を備える検査装置。
【請求項20】
前記接触状態で前記容器に振動を与えた後、前記容器にオイルを供給するオイル供給部をさらに有する請求項19に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動装置および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
容器に設けられた微小なウェル、即ち、マイクロウェル内に被検査物および試薬等の液体を供給して、被検査物に含まれる検査対象物質を検出する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-78717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような検査では、マイクロウェル内の空隙を減らし、マイクロウェル内がより液体で満たされた状態で、検査対象物質の検出がなされることが望ましい。これにより、たとえば、検査対象物質をより高い精度で検出することが可能となる。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、マイクロウェル内をより液体で満たすことが可能な振動装置および検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記によって達成される。
【0007】
(1)液体で覆われた第1マイクロウェル内に空隙を有する容器に振動を与えることが可能な振動部材と、前記振動部材と前記容器とが接触する接触状態と、前記振動部材と前記容器とが離間する離間状態とを切替可能に制御する制御部とを備える振動装置。
【0008】
(2)前記容器には、複数の前記第1マイクロウェルが設けられた第1検査部と、所定方向において前記第1検査部に隣り合うとともに、複数の第2マイクロウェルが設けられた第2検査部とが設けられ、前記制御部は、前記離間状態のとき、前記所定方向において、前記容器と前記振動部材との相対位置を変更可能に制御する上記(1)に記載の振動装置。
【0009】
(3)前記容器はディスク形状を有し、前記制御部は、前記容器を回転させることにより、前記容器と前記振動部材との相対位置を変更する上記(2)に記載の振動装置。
【0010】
(4)前記接触状態では、前記第1検査部に対向するとともに前記第2検査部に非対向の部分の前記容器に、前記振動部材が接触する上記(2)に記載の振動装置。
【0011】
(5)前記接触状態では、前記液体に対向する部分の前記容器に、前記振動部材が接触する上記(4)に記載の振動装置。
【0012】
(6)前記振動部材の前記容器との対向面は、前記第1検査部の面積以上の大きさを有する上記(2)に記載の振動装置。
【0013】
(7)前記接触状態および前記離間状態の切替に伴って、前記振動部材および前記容器の少なくとも一方を駆動する駆動部をさらに有する上記(1)に記載の振動装置。
【0014】
(8)前記駆動部は、前記振動部材を駆動するバネ部材を含む上記(7)に記載の振動装置。
【0015】
(9)前記制御部は、前記接触状態で前記振動部材を所定時間振動させた後、前記振動部材の振動を停止して前記接触状態から前記離間状態に切り替える上記(1)に記載の振動装置。
【0016】
(10)前記振動部材は、振動子と、前記振動子と前記容器との間に設けられるとともに前記接触状態のとき前記容器に接する接触部分とを含む上記(1)に記載の振動装置。
【0017】
(11)前記接触部分の硬度は、前記振動子の前記容器との対向面の硬度よりも低く、かつ、前記接触状態のとき前記接触部分に接触する部分の前記容器の硬度よりも低くなっている上記(10)に記載の振動装置。
【0018】
(12)前記接触部分は、液体、ジェル、ペーストおよび弾性体の少なくともいずれか一つを含む上記(10)に記載の振動装置。
【0019】
(13)前記振動部材は、複数の異なる周波数で振動可能に構成されている上記(1)に記載の振動装置。
【0020】
(14)前記制御部は、前記接触状態の間に、前記振動部材の周波数を変更可能である上記(13)に記載の振動装置。
【0021】
(15)前記振動部材は、共振周波数を含む範囲の周波数帯で振動可能に構成されている上記(13)に記載の振動装置。
【0022】
(16)前記振動部材は、20kHz以上の周波数で振動可能に構成されている上記(1)に記載の振動装置。
【0023】
(17)前記制御部は、前記振動部材により前記容器に振動を与えた結果に基づいて、前記振動部材の周波数を決定する上記(1)に記載の振動装置。
【0024】
(18)前記第1マイクロウェルの開口面積は、2500μm以下である上記(1)に記載の振動装置。
【0025】
(19)上記(1)に記載の振動装置と、前記液体に含まれる被検査物の光学測定を行う光学測定部とを備える検査装置。
【0026】
(20)前記接触状態で前記容器に振動を与えた後、前記容器にオイルを供給するオイル供給部をさらに有する上記(19)に記載の検査装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る振動装置および検査装置では、振動部材によって、容器に振動が与えられると、マイクロウェル内の空隙が減少して液体が導入される。よって、マイクロウェル内をより液体で満たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態に係る検査装置および検査容器の構成の一例を表す模式図である。
図2図1に示した検査装置および検査容器の平面構成の一例を表す図である。
図3図1に示した載置台の位置の他の例を表す模式図である。
図4図1に示した保持部の下端部の構成の一例を表す図である。
図5図2に示した検査容器の断面構成の一例を表す図である。
図6図5に示した検査部の平面構成の一例を表す図である。
図7図6に示した検査部の断面構成の一例を表す図である。
図8】離間状態の振動部材および検査容器の断面構成を、振動部材駆動部とともに表す図である。
図9】接触状態の振動部材および検査容器の断面構成を、振動部材駆動部とともに表す図である。
図10図8に示した接触部分の平面構成の一例を、検査部とともに表す図である。
図11】(A)~(D)は、図1に示した検査装置の動作の一例を順に表す模式図である。
図12】(A)~(D)は、図11(A)~(D)に続く動作の一例を順に表す模式図である。
図13】(A)(B)は、図12(A)~(D)に続く動作の一例を順に表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付した図面を参照して本発明の検査装置の実施形態を説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0030】
(実施形態)
図1および図2は、本発明の一実施形態に係る検査装置1の全体構成の一例を、検査容器2とともに表している。図1は、検査装置1および検査容器2の側面の構成の一例、図2はこれらの上面の構成の一例を各々表している。この検査装置1は、検査容器2に生体試料等の被検査物および試薬を供給し、これらの反応物の光学測定を実施する。
【0031】
検査装置1は、たとえば、載置台10、保持部20、支持台30、被検査物供給部40、試薬供給部50、光学測定部60、振動部材70、振動部材駆動部70D、オイル供給部80、廃棄部90、保持部駆動部110および制御部120を含んでいる。この検査装置1では、上から、支持台30、載置台10および廃棄部90がこの順に設けられており、この上下方向に沿って保持部20が延在している。ここでは、振動部材70、振動部材駆動部70Dおよび制御部120が、本発明の振動装置の一具体例に対応する。
【0032】
検査容器2は、載置台10と支持台30との間に配置され、光学測定が実施される。検査容器2は、たとえば、円形の平面形状、即ちディスク形状を有しており、複数の被検査物を検査可能に構成されている。
【0033】
以下では、検査装置1の上下方向をZ方向といい、Z方向に垂直な方向をX方向およびY方向という場合がある。図1は検査装置1および検査容器2のXZ平面、図2はこれらのXY平面を各々表している。
【0034】
<検査装置1の構成>
載置台10は、検査容器2が載置される載置面(上面)を有しており、たとえば、検査実施者によって、この載置面に検査容器2が載せられる。載置面は、たとえば、XY平面であり、その面積は、検査容器2のXY平面の面積よりも大きくなっている。載置面の平面形状は、たとえば、四角形である。載置台10は、たとえば、X方向およびY方向に変位可能に構成されており、保持部20に対向する位置(図1)と、保持部20に非対向の位置(後述の図3)との間で移動する。
【0035】
図3は、保持部20に非対向の位置に配置された載置台10を表す。このとき、載置台10は、たとえば、平面(XY平面)視で、廃棄部90に重ならない位置に配置されていることが好ましい。これにより、保持部20に保持された検査容器2を廃棄部90に廃棄しやすくなる。載置台10は、たとえば、モーター等に駆動されることにより、X方向およびY方向に変位する。
【0036】
Z方向に延在する保持部20は、検査容器2を保持可能に構成されている。保持部20は、たとえば、制御部120からの指示に基づき、載置台10に載置された検査容器2を保持する。保持部20は、たとえば、検査容器2を軸回転可能に保持する。保持部20に保持された検査容器2は、孔部(後述の孔部210)を中心に、XY平面に沿って時計回りまたは反時計回りに回転する。
【0037】
図4は、保持部20の下端部の構成を表している。保持部20は、軸部材21、支持部材22および外装部材23を含んでいる。軸部材21は、検査容器2の孔部に挿通される。保持部20は、この軸部材21が挿通された検査容器2を、支持部材22と外装部材23との間に保持する。
【0038】
軸部材21は、Z方向に延在する円柱形状を有している。この軸部材21は、軸回転可能に構成されており、軸部材21が軸回転することにより、検査容器2が回転する。
【0039】
支持部材22は、軸部材21の周面に設けられており、軸部材21の周面から突出可能に構成されている。この支持部材22は、たとえば、ボールプランジャーおよびピンプランジャー等のプランジャーを含んでいる。支持部材22に荷重がかかると、支持部材22は、軸部材21の周面の内側に収まり、支持部材22から荷重が外れると、支持部材22は軸部材21の周面から突出する。軸部材21の周面から突出した支持部材22が、検査容器2の下面に接し、検査容器2を支持する。支持部材22は、軸部材21の回転方向に沿って複数設けられていることが好ましく、複数の支持部材22が回転対称の位置に配置されていることが好ましい。図4では、3つの支持部材22が、軸部材21に対して回転対称の位置に配置されている。これにより、検査容器2をより安定して支持することができる。
【0040】
外装部材23は、軸部材21を収容する筒形状を有している。即ち、外装部材23の外径は、軸部材21の外径よりも大きくなっている。この外装部材23は、Z方向に延在している。外装部材23は、載置台10側の端面S(XY平面)を有しており、この端面Sから、軸部材21の端部と、この軸部材21の端部に設けられた支持部材22が露出されている。端面Sは、軸部材21の周面から突出した支持部材22と対向している。換言すれば、端面Sは、軸部材21が挿通された検査容器2を間にして、支持部材22に対向する。このとき、検査容器2の上面は、端面Sに接する。即ち、支持部材22と外装部材23の端面Sとの間に、検査容器2が保持される。
【0041】
端面Sには、たとえば、弾性層231が設けられており、弾性層231が検査容器2の上面に接する。弾性層231は、たとえば、ゴム系材料等を含んでいる。端面Sに弾性層231を設けることにより、保持部20に保持された検査容器2が回転する際に、検査容器2が滑りにくくなり、検査容器2の回転を正確に制御しやすくなる。
【0042】
このような軸部材21、支持部材22および外装部材23を含む保持部20は、Z方向に移動可能に構成されている。保持部20は、たとえば、Z方向において、支持台30側の第1の位置(後述の図11(A)の第1の位置P1)と、載置台10側の第2の位置(後述の図11(C)の第2の位置P2)との間で移動する。保持部20は、たとえば、第2の位置において検査容器2を保持し、第1の位置と第2の位置との間の第3の位置(後述の図11(D)の第3の位置P3)に移動する。この第3の位置で、検査容器2に設けられた被検査物の検査がなされる。この後、保持部20は、第1の位置に移動し、第1の位置で検査容器2が廃棄される。
【0043】
載置台10に対向する支持台30は、被検査物供給部40、試薬供給部50、光学測定部60およびオイル供給部80を支持している。支持台30は、たとえば、板状部材を含んでおり、この板状部材に設けられた開口に、被検査物供給部40、試薬供給部50、光学測定部60およびオイル供給部80が挿入されている。検査容器2は、この支持台30と載置台10との間に配置され、検査容器2に設けられた被検査物の検査がなされる。
【0044】
支持台30に保持された被検査物供給部40は、所定量の被検査物を貯蔵しており、被検査物供給部40に貯蔵された被検査物が検査容器2に供給される。被検査物供給部40には、たとえば、希釈液により希釈された被検査物が貯蔵されている。希釈液は、たとえば、水等である。被検査物供給部40は、たとえば、Z方向の高さを有する略円柱型の容器である(図1)。この被検査物供給部40は、Z方向の端部に供給口を有している。
【0045】
被検査物供給部40に貯蔵された被検査物は、たとえば、被検者の粘膜部分から採取される体液等の生体試料であり、具体的には、鼻ぬぐい液および唾液等である。被検査物は、傷等の体液湿潤部分から採取された体液であってもよい。被検査物は、被検者から直接的に採取されてもよく、間接的に採取されてもよい。間接的に採取される被検査物は、たとえば、被検者が触れたドアノブ等から採取される。被検査物は、被検者から非侵襲的に採取されることが好ましい。被検査物は、生体試料以外の試料であってもよく、たとえば、薬品、環境水、上水および下水等であってもよい。検査装置1では、たとえば、この被検査物中に含まれるDNA、RNA、タンパク質、ウイルス、または菌等の検査対象物質が、後述の試薬と反応した反応物の光学測定が実施される。
【0046】
試薬供給部50は、所定量の試薬を貯蔵しており、試薬供給部50に貯蔵された試薬が検査容器2に供給される。試薬供給部50には、たとえば、溶媒中に分散または溶解された試薬が貯蔵されている。試薬供給部50は、たとえば、Z方向の高さを有する略円柱形型の容器であり、Z方向の端部には供給口が設けられている。試薬供給部50に貯蔵されている試薬は、この供給口を介して検査容器2に供給される。図2には、検査装置1が、2つの試薬供給部50を有している例を示したが、検査装置1は、1つの試薬供給部50を有していてもよく、あるいは、3つ以上の試薬供給部50を有していてもよい。
【0047】
試薬供給部50に貯蔵された試薬は、たとえば、色素、蛍光物質およびナノ粒子等であり、被検査物中に含まれる検査対象物質と物理的または化学的な結合を生成する。この試薬には、公知の試薬を用いることができる。蛍光物質は、たとえば、蛍光色素または量子ドット等である。ナノ粒子は、ポリスチレンビーズまたは金ナノ粒子等である。たとえば、このような試薬を検査対象物質に結合させることにより、光照射時に発生する光信号が大きくなり、検査対象物質の検出が容易となる。特に、検査対象物質単体の光信号が微弱であるとき、このような試薬が有効である。試薬は、光吸収または光散乱を生じる物質であってもよい。このとき、試薬を検査対象物質に結合させることにより、光照射時に発生する光強度が減少し、光信号が増幅される。
【0048】
試薬と検査対象物質との結合は、たとえば、物理吸着による結合、抗原-抗体反応による結合、DNAハイブリダイゼーションによる結合、ビオチン-アビジン結合、キレート結合またはアミノ結合等である。物理吸着による結合は、たとえば、静電気的な結合力を利用する水素結合等である。物理吸着による結合では、被検査物の前処理等が不要であり、容易に試薬および検査対象物質の結合体を生成することができる。抗原-抗体反応による結合は、たとえば、ウイルス等の検査対象物質と試薬との特異的な結合であり、被検査物に含まれる検査対象物質以外の夾雑物に由来するノイズの発生を抑えることができる。抗原-抗体反応を用いて検査対象物質の検出を行うときには、たとえば、抗体を結合させた試薬を事前に調製する。
【0049】
光学測定部60は、検査容器2に供給された被検査物および試薬の反応物の光学特性を測定する。この光学測定部60の測定結果から、被検査物に含まれる検査対象物質の存在または含有量が検出される。
【0050】
光学測定部60は、たとえば、被検査物および試薬の反応物に光を照射するとともに、この反応物で発生する光信号を検出する。光学測定部60は、たとえば、照射部および受光部を有している。
【0051】
照射部は、光源を含んでおり、光源から検査容器2に向けて光を照射する。照射部から検査容器2に照射される光は、たとえば、蛍光物質を励起可能な波長域の光である。光源は、たとえば、ランプ、LED(Light Emitting Diode)およびレーザー等である。光源で発生する光は単色光であってもよく、あるいは、広い波長帯域を有する光であってもよい。光源で発生する光が広い波長帯域を有するとき、照射部は、バンドパスフィルタ等の光学フィルターを有していることが好ましい。ランプまたはLED等を光源に使用するとき、照射部は、光源で発生した光の進行方向を規制するガイド部材を含んでいることが好ましい。ガイド部材は、たとえば、コリメートレンズ等である。
【0052】
受光部は、たとえば、フォトダイオード、光検出器、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサーおよびCMOS(Complementaly Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサー等の撮像デバイスを含んでいる。光検出器は、たとえば、光電子増倍管等である。受光部には、公知の撮像デバイスを用いることができる。この受光部により、光学測定部60に入射する光の光強度またはスペクトルが検出される。受光部は、単一の波長の光の強度を検出してもよく、複数の波長の光の強度を検出してもよい。照射部から照射された光が検査容器2に入射すると、たとえば、この光により、試薬および検査対象物質の結合体が励起されて光信号が発生する。発生した光信号が受光部に入射する。
【0053】
被検査物供給部40、試薬供給部50、光学測定部60およびオイル供給部80は、検査容器2の回転方向、即ち、検査容器2の周方向に並んで配置されている。たとえば、被検査物供給部40、試薬供給部50、オイル供給部80および光学測定部60は、この順に反時計回りに配置されている(図2)。被検査物供給部40、試薬供給部50、オイル供給部80および光学測定部60は、この順に時計回りに配置されていてもよい。
【0054】
光学測定部60は、載置台10に対して、被検査物供給部40および試薬供給部50と反対側、即ち、載置台10の下面側に配置されていてもよい。この光学測定部60は、たとえば、直上に配置される検査容器2に光を照射して、被検査物および試薬の反応物の光学特性を測定する。
【0055】
振動部材70は、検査容器2に振動を与えることが可能に構成されている。振動部材70は、制御部120の指示に基づいて、検査容器2に接触する接触状態と、検査容器2から離間する離間状態とをなし得る。ここでは、振動部材駆動部70Dにより振動部材70がZ方向に駆動され、接触状態と離間状態とが切り替えられる。接触状態は、振動部材70の外面と、検査容器2の外面とが接触した状態であり、離間状態は、振動部材70の外面と、検査容器2の外面とが離間した状態である。具体的には、接触状態では、振動部材70の上面が検査容器2の下面に接触し、離間状態では、これらが離間する。振動部材70および振動部材駆動部70Dの詳細な構成は、後述する。
【0056】
オイル供給部80は、所定量のオイルを貯蔵しており、オイル供給部80に貯蔵されたオイルが検査容器2に供給される。オイル供給部80は、たとえば、Z方向の高さを有する略円柱形型の容器であり、Z方向の端部には供給口が設けられている。オイル供給部80に貯蔵されているオイルは、この供給口を介して検査容器2に供給される。オイル供給部80から検査容器2に供給されたオイルは、複数のマイクロウェル(たとえば、後述の図7のマイクロウェル2021)を蓋状に覆う。これにより、マイクロウェルからはみ出た試薬が押し出され、マイクロウェル内のみに試薬が残存する。したがって、より高い精度で被検査物に含まれる検査対象物質を検出することが可能となる。
【0057】
廃棄部90は、たとえば、Z方向において保持部20に対向する位置、即ち、保持部20の直下に設けられている。この廃棄部90は、光学測定が実施された後の検査容器2、即ち使用済みの検査容器2の回収スペースである。廃棄部90は、たとえば、複数の検査容器2を回収可能に構成されている。廃棄部90は、たとえば、検査容器2を収容する袋等を含んでいる。検査実施者等は、この袋に収容された検査容器2を廃棄する。これにより、検査実施者等は、使用済みの検査容器2に触れることなく、検査容器2を廃棄することができる。廃棄部90は、検査容器2が収容された袋等を密閉する密閉機構を有していてもよい。密閉機構は、たとえば、複数の検査容器2が収容された袋等の開口部を熱圧着することにより、密閉する。廃棄部90は、使用済みの検査容器2に、次亜塩素酸等の殺菌剤を散布する散布機構を有していてもよい。廃棄部90は、所定の数の検査容器2を回収したとき、検査実施者等に報知する報知機構を有していてもよい。
【0058】
保持部駆動部110は、保持部20をZ方向(上下方向)に駆動する。保持部駆動部110は、軸部材21を軸回転させてもよい。保持部駆動部110は、たとえば、モーター等を含んでいる。
【0059】
制御部120は、たとえば、1つ、または複数のCPU(Central Procesing Unit)を有しており、プログラムにしたがって各種処理を実行する。この制御部120は、保持部20のZ方向の駆動および軸部材21の軸回転を保持部駆動部110に指示する。制御部120は、載置台10のX方向およびY方向の移動を制御してもよい。
【0060】
たとえば、制御部120の指示に基づいて、保持部駆動部110が保持部20を下方向に移動させたとき、検査容器2の孔部に軸部材21が挿入され、保持部20は検査容器2を保持する。具体的には、軸部材21の周面の支持部材22に検査容器2から荷重が加わると、支持部材22が軸部材21の周面の内部に収まり、検査容器2に軸部材21が挿通される。検査容器2が挿通されると、支持部材22が軸部材21の周面から突出し、支持部材22と外装部材23との間に検査容器2が保持される。
【0061】
たとえば、制御部120の指示に基づいて、保持部駆動部110が保持部20を上方向に移動させたとき、検査容器2を棒状部材(図示せず)が押し下げ、保持部20による検査容器2の保持が解除される。具体的には、軸部材21の周面の支持部材22に検査容器2から荷重が加わると、支持部材22が軸部材21の周面の内部に収まり、検査容器2の孔部(後述の孔部210)は軸部材21から抜け落ちる。
【0062】
制御部120は、たとえば、検査実施者等からの入力信号に基づいて、保持部20による検査容器2の保持および保持の解除を制御する。あるいは、制御部120は、検知部からの信号に基づいて、検査容器2の保持および保持の解除を制御してもよい。たとえば、検知部が、載置台10への検査容器2の載置を検知することにより、保持部20が検査容器2を保持し、検知部が、検査容器2に設けられた被検査物の検査の終了を検知することにより、検査容器2の保持を解除する。
【0063】
制御部120は、さらに、振動部材70のZ方向の駆動を振動部材駆動部70Dに指示して振動部材70および検査容器2の接触状態および離間状態を切り替えるとともに、振動部材70の振動を制御する。制御部120は、たとえば、振動部材70の振動の開始、停止、振動周波数および振動時間等を制御する。
【0064】
<検査容器2の構成>
ディスク形状を有する検査容器2の中央部には、検査容器2をZ方向に貫通する孔部210が設けられている(図2)。この孔部210の周囲には、たとえば、受入口201、検査部202および廃液部203が各々複数設けられている。受入口201、検査部202および廃液部203は、連通して設けられており、検査容器2の外周から中心に向かい、受入口201、検査部202および廃液部203がこの順に配置されている。たとえば、一組の受入口201a、検査部202a(第1検査部)および廃液部203aと、一組の受入口201b、検査部202b(第2検査部)および廃液部203bとはXY平面において、互いに円周方向の隣り合う位置に配置されている。
【0065】
図5は、検査容器2の断面(XZ断面)の構成の一例を表している。たとえば、検査容器2の上面に、受入口201および廃液部203が設けられている。検査部202は、この受入口201と廃液部203との間の連通路を含んでいる。換言すれば、検査容器2には、受入口201から検査部202を介して廃液部203に流れる液体Lの流路が形成されている。液体Lは、たとえば、被検査物および試薬を含んでいる。
【0066】
検査容器2は、たとえば、シリコン(Si)、ガラス材料または樹脂材料等により構成されている。ガラス材料は、たとえば、シリカガラス等である。樹脂材料は、たとえば、シクロオレフィンポリマー(COP)、ジメチルポリシロキサン、ポリスチレン、ポリカーボネート、およびアクリル等である。
【0067】
受入口201は、被検査物供給部40から供給される被検査物および試薬供給部50から供給される試薬を受け、検査部202に流す役割を担っている。受入口201は、漏斗形状を有していてもよい。被検査物および試薬は、たとえば、受入口201で混合された後、検査部202に流される。被検査物および試薬は、検査部202で混合されてもよい。検査容器2では、たとえば、複数の受入口201が円形に配置されている。検査容器2が孔部210を中心に回転することにより、複数の受入口201(たとえば、受入口201a,201b)が、順次、被検査物供給部40および試薬供給部50の直下に移動し、被検査物および試薬が供給される。
【0068】
検査部202には、光学測定部60から光が照射される。即ち、検査部202では、液体Lの光学検査が実施される。検査容器2では、たとえば、複数の検査部202が円形に配置されている。検査容器2が孔部210を中心に回転することにより、複数の検査部202(たとえば、検査部202a,202b)が、順次、光学測定部60の直下に移動し、光学測定が実施される。このように、検査容器2が複数の検査部202を有することにより、検査実施者は、被検査物毎に検査容器を交換せずに済む。したがって、より簡便に検査を行うことが可能となる。
【0069】
図6および図7は、検査部202の具体的な構成の一例を表している。図6は、検査部202の平面(XY平面)の構成の一例を表し、図7は、検査部202の断面(XZ断面)の構成の一例を表している。各検査部202には、複数のマイクロウェル2021が設けられている。即ち、検査容器2には、マイクロウェルアレイが形成されている。各検査部202では、複数のマイクロウェル2021内に導入された液体Lの光学検査が実施される。
【0070】
各マイクロウェル2021は、たとえば、平面(XY平面)視で四角形の開口を有している。各マイクロウェル2021は、たとえば、平面視で、一辺が50μm以下、好ましくは20μm以下の正方形の開口を有しており、各マイクロウェル2021の開口面積は2500μm以下、好ましくは400μm以下である。各マイクロウェル2021の開口の平面形状は、四角形以外の形状であってもよく、たとえば、円等であってもよい。各マイクロウェル2021の深さ(Z方向の大きさ)は、たとえば、50μm以下、好ましくは20μm以下である。
【0071】
受入口201から流入した液体Lは、各検査部202に設けられた複数のマイクロウェル2021の開口を覆っている。この液体Lで覆われたマイクロウェル2021内には、空隙Vが設けられている。空隙Vは、たとえば、受入口201から検査部202への液体Lの流入の際に形成される。空隙Vの空隙率は、マイクロウェル2021の開口面積が小さいほど、大きくなりやすく、また、検査容器2の撥液性が高いほど、大きくなりやすい。空隙Vの空隙率は、たとえば、各検査部202に設けられた複数のマイクロウェル2021の総容積に対して10%以上である。
【0072】
検査部202のうち、少なくともマイクロウェル2021が形成された面(以下、内壁面という。)は、高い撥液性を有していてもよい。たとえば、オイル供給部80が検査容器2にオイルを供給するとき、内壁面の撥液性を高めることにより、オイルによる封止効果を向上させることができる。このとき、液体Lに対して、内壁面の接触角が30度以上であることが好ましい。たとえば、シクロオレフィンポリマーは、水に対して80度以上の接触角を有する。このため、シクロオレフィンポリマーを用いて形成した検査容器2では、液体Lに対する高い撥液性が期待できる。
【0073】
検査部202で光学測定が実施された後、液体Lは廃液部203に排出される。廃液部203は、光学測定後の液体Lを貯留する廃液槽である。この廃液部203の上面は、蓋部材により覆われており、この蓋部材には通気孔203Hが設けられている。これにより、廃液部203からの被検査物の漏れを抑えることが可能となる。検査容器2では、たとえば、複数の廃液部203が円形に配置されている。
【0074】
<振動部材70の構成>
ここで、図8および図9を用いて振動部材70および振動部材駆動部70Dの詳細な構成について説明する。図8および図9は、各々、離間状態および接触状態の振動部材70および検査容器2を、振動部材駆動部70Dとともに表している。
【0075】
検査装置1では、検査容器2が孔部210を中心に回転することにより、複数の検査部202(たとえば、検査部202a,202b)が、順次、振動部材70の直上に移動する。本実施形態では、検査装置1が振動部材70を有しているので、振動部材70が各検査部202に接触して振動を効果的に与えることが可能となる。これにより、マイクロウェル2021内の空隙Vが減少して、マイクロウェル2021内に液体Lが導入される(図9)。よって、マイクロウェル2021内をより液体Lで満たすことが可能となる。
【0076】
振動部材70によって振動を与える前の空隙Vの存在は、たとえば、検査部202に振動を与えた後、検査部202からの気泡の発生により確認することができる。気泡の発生は、目視、画像処理または顕微鏡等によって確認することができる。あるいは、空隙Vは、振動を与える前の検査容器2を真空デシケーターに入れ、検査部202からの気泡の発生により確認してもよい。
【0077】
空隙Vの空隙率は、検査部202で発生した気泡の体積を求めることにより確認することができる。オイル供給部80から供給されたオイルによってマイクロウェル2021からはみ出た試薬(たとえば、蛍光試薬)を押し出し、マイクロウェル2021内に残存する試薬量を光学測定(例えば蛍光強度測定)により求めることにより、空隙Vの空隙率を求めるようにしてもよい。具体的には、空隙Vが実質的に存在しないように、マイクロウェル2021内に蛍光試薬を充填して蛍光強度測定を行い、このときの蛍光強度を用いて定量測定を行う。たとえば、検査容器2に蛍光試薬を供給した後、検査容器2を真空デシケーターに入れて、検査部202から気泡が発生しなくなるまで、吸引することにより、マイクロウェル2021内に空隙Vが実質的に存在しない状態を形成することができる。
【0078】
振動部材70は、たとえば、Z方向に積層された振動子71および接触部分72を有している。振動部材駆動部70Dは、振動部材70を間にして検査容器2に対向する位置に配置されている。
【0079】
振動子71は、たとえば、制御部120からの指示により、所定の周波数で振動する。振動子71は、たとえば、圧電材料により構成されている。振動子71には、たとえば、ブザーまたはランジュバン型の振動子を用いることができる。振動子71は、20kHz以上の周波数で振動することが好ましい。20kHzは、人間の一般的な可聴域の閾値である。振動子71が20kHz以上の周波数で振動することにより、騒音の発生を抑え、より静かな環境での検査が可能となる。
【0080】
振動子71は、たとえば、複数の異なる周波数で振動可能に構成されている。振動子71は、少なくとも1の共振周波数を含む範囲の周波数帯で振動可能に構成されていることが好ましい。これにより、より効果的に、検査容器2を振動させることが可能となる。
【0081】
接触部分72は、振動子71と検査容器2との間に設けられ、接触状態のとき検査容器2に接するように構成されている。離間状態のとき、この接触部分72が検査容器2から離間する。接触部分72の硬度は、振動子71の検査容器2との対向面(接触部分72の被覆面)の硬度よりも低くなっている。また、接触部分72の硬度は、接触状態のときに接触する部分の検査容器2の硬度よりも低くなっている。このような接触部分72を有することにより、接触状態のとき、振動部材70と検査容器2の下面との間に空気層が形成されにくくなり、振動部材70と検査容器2の下面とを密着させることができる。したがって、超音波の減衰を抑え、振動子71の振動をより効果的に検査容器2に伝搬することが可能となる。
【0082】
接触部分72は、たとえば、液体、ジェル、ペーストおよび弾性体の少なくともいずれか一つを含んでおり、弾性体を含むことが好ましい。弾性体としては、たとえば、ゴムシート等が挙げられる。接触部分72を弾性体により構成することにより、接触部分72の形状が維持されやすくなり、より簡便に検査装置1の状態を維持することが可能となる。
【0083】
図10は、検査部202a,202bとともに、接触部分72の平面(XY平面)形状を表している。接触部分72のXY平面の大きさは、各検査部202の面積よりも大きいことが好ましい。これにより、検査部202全体を効率的に振動させることが可能となる。また、接触部分72のXY平面の大きさは、振動を与える検査部202(たとえば、検査部202a)と隣り合う検査部202(たとえば、検査部202b)には重ならない大きさであることが好ましい。これにより、振動対象の検査部202を選択的に振動させ、これと隣り合う検査部202への影響を抑えることが可能となる。
【0084】
振動部材駆動部70Dは、たとえば、バネ部材およびモーターを含んでおり、振動部材70をZ方向に駆動する。振動部材駆動部70Dのバネ部材が、振動子71側から振動部材70を押圧することにより、接触部分72が検査容器2の下面に密着する。バネ部材は、モーターによりZ方向に駆動される。
【0085】
<検査装置1の動作>
図11図12および図13は、検査装置1の動作の流れの一例を順に表している。検査装置1は、たとえば、制御部120の指示により、以下のように動作する。
【0086】
まず、制御部120は、Z方向の第1の位置P1に保持部20を配置する(図11(A))。このとき、載置台10は、たとえば、保持部20に対向する位置に配置されている。
【0087】
次に、制御部120は、載置台10を、たとえば、X方向に移動させる(図11(B))。これにより、載置台10が保持部20と非対向の位置に配置される。たとえば、検査実施者は、この載置台10に検査容器2を載せる。
【0088】
続いて、制御部120は、検査容器2が載った載置台10を保持部20に対向する位置に戻した後、保持部20を、下方向に移動させ、第2の位置P2に配置する(図11(C))。これにより、軸部材21の下端部が検査容器2の孔部210に挿通され、保持部20が検査容器2を保持する。
【0089】
次に、制御部120は、保持部20を上方向に移動させる(図11(D))。これにより、保持部20は、Z方向において、第1の位置P1と第2の位置P2との間の第3の位置P3に配置される。このZ方向の第3の位置P3において、制御部120は、軸部材21を回転させて、検査容器2への被検査物および試薬の供給を実施する。たとえば、制御部120は、受入口201aを被検査物供給部40および試薬供給部50各々の直下に配置して被検査物および試薬を滴下する。
【0090】
続いて、制御部120は、振動部材70の直上に検査部202aを配置する(図12(A))。このとき、制御部120は、振動部材70および検査容器2を離間状態にして配置する。この後、制御部120は、振動部材駆動部70Dによって、振動部材70を上方向に変位させ、振動部材70の接触部分72を検査容器2の下面に接触させる(図12(B))。即ち、制御部120は、振動部材70および検査容器2を離間状態から接触状態に切り替える。このとき、制御部120は、検査容器2の下面のうち、検査部202aに対向するとともに検査部202aに隣り合う検査部202(検査部202b)には非対向の部分に、接触部分72を接触させる。この接触部分72が接触する部分は、たとえば、平面(XY平面)視で液体Lが存在している領域内である。即ち、接触部分72は、液体Lに対向する部分に接触する。
【0091】
制御部120は、振動部材70および検査容器2を離間状態から接触状態に切り替えた後、振動子71の振動を開始する。振動子71の振動は、接触部分72を介して検査部202aに伝搬される。検査装置1では、このように検査容器2の下面に接した振動部材70から検査部202aに振動が与えられるので、より効果的に検査部202aを振動させ、効率的にマイクロウェル2021内の空隙Vを減少させることが可能となる。
【0092】
制御部120は、たとえば、接触状態の間に、振動子71の周波数を変更してもよい。制御部120は、たとえば、接触状態の間に、振動子71の周波数をp-p20Vで、39.0kHzから41.0kHzまで0.1kHz毎に変化させる。各周波数の振動時間は、たとえば、2秒である。制御部120は、このように、デジタル式に振動子71の周波数を変化させてもよく、アナログ式に振動子71の周波数を変化させてもよい。制御部120は、接触状態の間、同じ周波数で振動子71を振動させてもよい。制御部120は、検査部202毎に振動子の周波数を変化させてもよい。
【0093】
制御部120は、振動部材70により検査容器2に振動を与えた結果に基づいて、振動子71の周波数を決定してもよい。即ち、検査装置1は、フィードバック回路を有していてもよい。制御部120は、たとえば、振動部材70に振動を与えたときの電流値に基づいて、振動子71の周波数を決定する。制御部120は、振動部材70に振動を与えたときのマイクロウェル2021からの空隙Vの減少度に基づいて、振動子71の周波数を決定してもよい。空隙Vの減少度は、たとえば、カメラ等を用いて振動を与えたときのマイクロウェル2021で発生する気泡の発生量を検知することにより決定する。あるいは、制御部120は、過去のデータに基づいて、振動子71の周波数を決定してもよい。
【0094】
振動部材70から検査部202aに振動が与えられると、液体Lで覆われたマイクロウェル2021内の空隙Vが減少し、マイクロウェル2021内に液体Lが導入される(図8および図9)。これにより、マイクロウェル2021内が液体Lで満たされ、より高い精度で検査対象物質を検出することが可能となる。
【0095】
制御部120は、接触状態で振動子71を所定時間振動させた後、接触状態のまま、振動子71の振動を停止する。この後、制御部120は、振動部材駆動部70Dによって、振動部材70を下方向に変位させ、振動部材70の接触部分72を検査部202aの下面から離間させる(図12(C))。即ち、制御部120は、振動部材70および検査容器2を接触状態から離間状態に切り替える。
【0096】
制御部120は、離間状態から接触状態に切り替えた後、離間状態のまま、保持部駆動部110によって、軸部材21を軸回転させ、XY平面における検査容器2と振動部材70との相対位置を変更する。具体的には、受入口201aをオイル供給部80の直下に配置して、受入口201aにオイルを供給する。検査装置1では、このように検査容器2と振動部材70とを離間させてから、検査容器2を回転させるので、検査容器2と振動部材70との間の相互作用の発生を抑えることが可能となる。また、受入口201aに供給されたオイルは、検査部202aのマイクロウェル2021からはみ出た試薬を押し出し、マイクロウェル2021内のみに試薬を残存させる。これにより、被検査物に含まれる検査対象物質をより高い精度で検出することが可能となる。
【0097】
制御部120は、受入口201aにオイルを供給した後、検査部202aを光学測定部60の直下に配置する。制御部120は、光学測定部60によって、検査部202aへの光の照射および受光を行い、光学測定を完了させる。
【0098】
制御部120は、検査部202aの光学測定を行った後、たとえば、受入口201bを被検査物供給部40および試薬供給部50各々の直下に順次配置して被検査物および試薬を滴下する。
【0099】
続いて、制御部120は、振動部材70の直上に検査部202bを配置する(図12(D))。この後、制御部120は、上記検査部202aで説明したのと同様にして、検査部202bに、振動部材70を用いて振動を与えた後、オイルの供給および光学測定を実施する。トラブル等が発生した場合、制御部120は、たとえば振動部材70の振動を停止した後、振動部材70および検査容器2を離間状態に配置する。
【0100】
このようにして、検査装置1は、複数の検査部202各々について光学測定を実施した後、保持部20を上方向に移動させ、第1の位置P1に配置する(図13(A))。これにより、棒状部材(図示せず)が検査容器2を押し下げ、検査容器2の保持が解除される。このとき、検査装置1は、載置台10を保持部20と非対向の位置に配置しておく。
【0101】
保持部20による保持が解除された検査容器2は、重力方向、即ち、下方向に移動し、廃棄部90に収容される(図13(B))。検査装置1は、たとえば、このようにして動作し、被検査物の検査を実施する。
【0102】
<検査装置1の作用効果>
本実施形態の検査装置1では、振動部材70によって、検査容器2に振動が与えられると、マイクロウェル2021内の空隙Vが減少して液体Lが導入される。よって、マイクロウェル2021内をより液体で満たすことが可能となる。これにより、マイクロウェル2021内の液体Lの量をより正確に制御できるので、より高い精度で被検査物に含まれる検査対象物質を検出することが可能となる。特に、マイクロウェル2021の開口が小さいとき、または、検査容器2が高い撥液性を有するとき、マイクロウェル2021内には空隙Vが生成されやすい。このため、検査装置1を好適に用いることができる。
【0103】
また、検査装置1では、制御部120が、振動部材70および検査容器2の接触状態および離間状態を制御するので、接触状態にして検査部202に効果的に振動を与えつつ、離間状態にしてXY平面における振動部材70および検査容器2の相対位置をスムーズに変化させることができる。したがって、相対位置の変化に起因する検査容器2および振動部材70間の相互作用(たとえば、摩擦など)を抑えつつ、XY平面の周方向に配置された複数の検査部202各々に、効果的に振動を与えることが可能となる。よって、安定して複数の検査部202の連続測定を行うことが可能となる。
【0104】
さらに、検査装置1では、制御部120が検査容器2の保持および保持の解除を制御し、保持の解除がなされた検査容器2が重力方向に移動する。重力方向に移動した検査容器2は、廃棄部90に収容される。よって、検査実施者が触れることなく、検査容器2を廃棄することが可能となる。これにより、生体試料等の被検査物の取り扱いに不慣れな検査実施者が、使用済みの検査容器2に触れることに起因する感染リスクを軽減することが可能となる。このような検査装置1は、医療機関以外の施設(たとえば、介護施設および商業施設等)への設置も容易となる。
【0105】
また、廃棄部90が、平面(XY平面)視で、保持部20に重なる位置に設けられているので、検査装置1の設置面積の増加を抑えつつ、検査容器2の廃棄スペースを確保することが可能となる。
【0106】
加えて、検査装置1は、検査容器2の保持から検査容器2の廃棄までを制御する。したがって、被検査物の取り扱いに不慣れな検査実施者であっても、高精度、かつ、安全に検査を行うことが可能となる。
【0107】
以上のように、実施形態において本発明の検査装置について説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0108】
たとえば、上記実施形態では、検査容器2が複数の検査部202を有する例を説明したが、検査容器2は1の検査部202を有していてもよい。たとえば、この1の検査部202に複数のマイクロウェル2021が設けられている。
【0109】
また、上記実施形態では、振動部材70がZ方向に変位することにより、振動部材70および検査容器2の接触状態および離間状態が切り替えられる例を説明したが、検査容器2がZ方向に変位することにより、振動部材70および検査容器2の接触状態および離間状態が切り替えられてもよい。即ち、制御部120が保持部駆動部110に指示することにより、振動部材70および検査容器2の接触状態および離間状態が切り替えられてもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、検査容器2が回転することにより、XY平面における振動部材70および検査容器2の相対位置が変化する例を説明したが、振動部材70がX方向およびY方向の少なくとも一方に変位することにより、振動部材70および検査容器2の相対位置が変化してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、振動部材70が振動子71および接触部分72を有する例を説明したが、振動部材70は少なくとも振動子71を有していればよく、振動子71の検査容器2との対向面が、検査容器2の下面に接触するようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、廃液部203に、光学測定後の廃液が貯留される例について説明したが、光学測定後の廃液は、検査容器2の外部に貯留されてもよい。
【0113】
また、上記実施形態で説明した制御部120は1つのCPUにより構成されていてもよく、複数のCPUにより構成されていてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、具体例を挙げて保持部20の構成を説明したが、保持部20は、他の構成を有していてもよい。たとえば、保持部20は、ロボットアーム等を含んでいてもよい。
【実施例0115】
次に、本実施形態の検査装置1を用いた実施例を説明する。
【0116】
(実施例1)
シクロオレフィン樹脂製の検査容器2を使用した。この検査容器2には、一辺が1mmの正方形の平面形状を有する1つの検査部202を形成した。検査部202には、直径10μm、深さ10μmの複数のマイクロウェル2021を形成した。振動部材70(振動子71)には、ランジュバン型振動子(株式会社富士セラミックス製、FBL40452)を使用し、接触状態では、このランジュバン型振動子の表面を検査容器2の下面に接触させた。検査容器2の下面のうち、検査部202に対向する部分に振動部材70を接触させて接触状態とした後、振動部材70をp-p20V、40.2kHz(実測の共振周波数)で30秒振動させた。振動部材70を振動させている間に、微小な気泡がマイクロウェル2021で発生することを確認した。振動部材70の振動を停止させた後、振動部材70を検査容器2の下面から離間させ、離間状態とした。
【0117】
(実施例2)
複数の検査部202を有する検査容器2を使用したことを除き、上記実施例1と同様にして、各検査部202に振動部材70を用いて振動を与えた。振動部材70を振動させている間に、微小な気泡がマイクロウェル2021で発生することを確認した。
【0118】
(実施例3)
振動子71に接触部分72を積層させたことを除き、上記実施例1と同様にして、検査部202に振動部材70を用いて振動を与えた。接触部分72には、硬度50、厚さ0.5mmのシリコーンゴムシートを用いた。振動子71と接触部分72とは、シリコーンゴム用接着剤を用いて接着した。振動部材70を振動させている間に、微小な気泡がマイクロウェル2021で発生することを確認した。
【0119】
(実施例4)
接触状態の間に振動子71の周波数を変化させたことを除き、上記実施例1と同様にして、検査部202に振動部材70を用いて振動を与えた。振動子71の周波数は、p-p20Vで、39.0kHzから41.0kHzまで、0.1kHz毎に変化させた。各周波数の振動時間は、2秒間であった。振動部材70を振動させている間に、微小な気泡がマイクロウェル2021で発生することを確認した。
【符号の説明】
【0120】
1 検査装置、
10 載置台、
20 保持部、
21 軸部材、
22 支持部材、
23 外装部材、
30 支持台、
40 試料供給部、
50 試薬供給部、
60 光学測定部、
70 振動部材、
71 振動子、
72 接触部分、
70D 振動部材駆動部、
80 オイル供給部、
90 廃棄部、
110 保持部駆動部、
120 制御部、
2 検査容器、
201 受入口、
202,202a,202b 検査部、
2021 マイクロウェル、
203 排出口、
210 孔部、
L 液体、
V 空隙。
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