(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106468
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】衣料およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20240801BHJP
A61B 5/282 20210101ALI20240801BHJP
A61B 5/27 20210101ALI20240801BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240801BHJP
A61B 5/02 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
A61B5/256 210
A61B5/282
A61B5/27
A61B5/0245 A
A61B5/02 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010733
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 悠椰
(72)【発明者】
【氏名】大家 美穂子
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA09
4C017AA10
4C017AA14
4C017AA19
4C017AB04
4C017AB05
4C017AC16
4C017AC26
4C017BC11
4C017BC21
4C017BD04
4C017FF05
4C127AA02
4C127JJ00
4C127LL02
4C127LL08
4C127LL13
4C127LL22
(57)【要約】
【課題】生体信号を検出可能な衣料であって、シート状電極部と光学センサを有し、安定的に所望とする複数の生体信号、特に心電信号および脈波信号が明瞭に得られる衣料、および該衣料を用いてなるシステムを提供する。
【解決手段】生体信号を検出可能な衣料であって、身生地および高伸縮性構造布帛を含み、かつシート状電極部と光学センサとを含むことを特徴とする衣料、および該衣料を用いてなるシステムである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号を検出可能な衣料であって、身生地および高伸縮性構造布帛を含み、かつシート状電極部と光学センサとを含むことを特徴とする衣料。
【請求項2】
前記生体信号が、着用者の心電および脈波を含む、請求項1に記載の衣料。
【請求項3】
前記高伸縮性構造布帛が蛇腹状経編地である、請求項1に記載の衣料。
【請求項4】
前記高伸縮性構造布帛が衣料の身丈方向よりも身幅方向に伸縮するよう配されてなる、請求項1に記載の衣料。
【請求項5】
前記高伸縮性構造布帛が、後身頃の中央線上に配されてなる、請求項1に記載の衣料。
【請求項6】
前記シート状電極または光学センサの周囲に、導電繊維または/および単繊維径1μm以下の非導電繊維を含む、請求項1に記載の衣料。
【請求項7】
前記非導電繊維がポリエステル繊維からなる、請求項6に記載の衣料。
【請求項8】
シート状電極と身生地との間に、クッション材が介在している、請求項1に記載の衣料。
【請求項9】
2個のシート状電極が、前身頃の袖ぐりの最下点から裾ラインを結ぶ直線に対して、中央より上部に位置し、かつ前身頃を左右均等に分割する中央線と左右両端の脇線の中点に対して脇線側に位置する、請求項1に記載の衣料。
【請求項10】
ファスナーが、前身頃を左右均等に分割する中央線上に配されてなる、請求項1~9のいずれかに記載の衣料。
【請求項11】
身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを含む衣料と、前記シート状電極から得た生体信号および前記光学センサから得られた生体信号とを用いて着用者の生体情報を得ることを特徴とするシステム。
【請求項12】
身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを有する衣料と、前記衣料に一体または別体の外部機器とを含む、当該衣料を装着したユーザーの生体情報を取得するシステムであって、
前記衣料は、前記シート状電極から得た生体信号および前記光学センサから得られた生体信号を用いて着用者の生体情報を演算する演算部と、
前記演算部によって得られた生体情報を外部機器に送信する通信部と、を有することを特徴とするシステム。
【請求項13】
身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを有する衣料と、前記衣料に一体または別体の外部機器とを含む、当該衣料を装着したユーザーの生体情報を取得するシステムであって、
前記衣料は、前記シート状電極から得た生体信号と、前記光学センサから得られた生体信号を外部機器に送信する通信部を有し、
前記外部機器は、前記生体信号を用いて着用者の生体情報を演算する演算部を有することを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の生体信号を検出可能な衣料であって、肌面に接触する電極および1つまたは複数の光学センサにより、所望とする生体の電気信号、特に心電信号および脈波信号が明瞭に得られる衣料およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、腹部にジャイロセンサを配することで、腹部の変動に基づく脈波、脈拍、呼吸、鼓動、脈波伝搬速度、及び血流長のいずれかを測定可能な衣類が知られている。(特許文献3)。しかしながら、体動などにより測定部からセンサがずれ、運動時などにおいては、安定的に測定ができないことがある。また、センサが固定された衣服では、着用時に測定者の測定部にセンサが当たらず、生体の電気信号を取得できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-158709号公報
【特許文献2】特開2017-082361号公報
【特許文献3】特開2018-121928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、生体信号を検出可能な衣料であって、シート状電極部と光学センサを有し、安定的に所望とする複数の生体信号、特に心電信号および脈波信号が明瞭に得られる衣料、および該衣料を用いてなるシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。かくして、本発明によれば以下の発明が提供される。
【0006】
1.生体信号を検出可能な衣料であって、身生地および高伸縮性構造布帛を含み、かつシート状電極部と光学センサとを含むことを特徴とする衣料。
2.前記生体信号が、着用者の心電および脈波を含む、上記1に記載の衣料。
3.前記高伸縮性構造布帛が蛇腹状経編地である、上記1または2に記載の衣料。
4.前記高伸縮性構造布帛が衣料の身丈方向よりも身幅方向に伸縮するよう配されてなる、上記1~3のいずれかに記載の衣料。
5.前記高伸縮性構造布帛が、後身頃の中央線上に配されてなる、上記1~4のいずれかに記載の衣料。
6.前記シート状電極または光学センサの周囲に、導電繊維または/および単繊維径1μm以下の非導電繊維を含む、上記1~5のいずれかに記載の衣料。
7.前記非導電繊維がポリエステル繊維からなる、上記6に記載の衣料。
8.シート状電極と身生地との間に、クッション材が介在している、上記1~7のいずれかに記載の衣料。
9.2個のシート状電極が、前身頃の袖ぐりの最下点から裾ラインを結ぶ直線に対して、中央より上部に位置し、かつ前身頃を左右均等に分割する中央線と左右両端の脇線の中点に対して脇線側に位置する、上記1~8のいずれかに記載の衣料。
10.ファスナーが、前身頃を左右均等に分割する中央線上に配されてなる、上記1~9のいずれかに記載の衣料。
11.身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを含む衣料と、前記シート状電極から得た生体信号および前記光学センサから得られた生体信号とを用いて着用者の生体情報を得ることを特徴とするシステム。
12.身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを有する衣料と、前記衣料に一体または別体の外部機器とを含む、当該衣料を装着したユーザーの生体情報を取得するシステムであって、
前記衣料は、前記シート状電極から得た生体信号および前記光学センサから得られた生体信号を用いて着用者の生体情報を演算する演算部と、
前記演算部によって得られた生体情報を外部機器に送信する通信部と、を有することを特徴とするシステム。
13.身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを有する衣料と、前記衣料に一体または別体の外部機器とを含む、当該衣料を装着したユーザーの生体情報を取得するシステムであって、
前記衣料は、前記シート状電極から得た生体信号と、前記光学センサから得られた生体信号を外部機器に送信する通信部を有し、
前記外部機器は、前記生体信号を用いて着用者の生体情報を演算する演算部を有することを特徴とするシステム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体信号を検出可能な衣料であって、シート状電極部と光学センサを有し、安定的に所望とする複数の生体信号、特に心電信号および脈波信号が明瞭に得られる衣料、および該衣料を用いてなるシステムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】身生地内側に2wayストレッチメッシュ編地とファスナーノ(登録商標)を積層することを模式的に示す図である。
【
図4】光学センサの取り付けの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に詳細に説明する。本発明は、シート状電極部と光学センサを含み、複数の生体信号を検出可能な衣料であって、身生地および高伸縮性構造布帛を含む。
【0010】
ここで、シート状電極は、長方形の形状が好ましく例示される。もちろん、正方形、円形、三角形など任意の形状でよい。本発明において、シート状電極は導電部と非導電部とを含み、露出部(すなわち肌と直接接触する表面)を有する。シート状電極の厚みとしては1.0mm以下(より好ましくは0.1~0.5mm)であることが好ましい。これは、厚みが薄いほど肌の凹凸や湾曲に追従して密着し易いためである。
【0011】
前記シート状電極において、導電部と非導電部を構成する方法としては、導電繊維と非導電繊維を交編・交織する方法、非導電繊維からなる織編物に導電剤を部分的に含浸またはプリントにより塗布することで導電部を形成する方法、非導電性のフィルムに導電材を部分的にプリントすることで導電部を形成する方法、などが例示される。
【0012】
その際、非導電部が単繊維径1μm以下(好ましくは10~800nm)の繊維を含むと、シート状電極の表面がフラットになり肌との接触面積が高まり肌との密着性が高くなり好ましい。特に、非導電部が該繊維を30%以上(より好ましくは50%以上)含むことが好ましい。なお、前記繊維としては、単繊維径が700nmの帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標)が好ましい。
【0013】
また、シート状電極の導電部を構成する導電繊維としては、特に限定されず、導電性を備える公知の繊維を用いることができる。例えば、特許6185638号公報などに記載されたものでよい。すなわち、導電繊維の具体例としては、金属めっき繊維、導電性高分子繊維、金属繊維、炭素繊維、スリット繊維、導電材含有繊維などが挙げられる。導電繊維は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
金属めっき繊維としては、例えば、銀、銅、金、ステンレスなどの金属、またはこれらのうち少なくとも1種を含む合金などにより、合成繊維の表面が被覆された繊維が挙げられる。金属めっきが施される合成繊維としては、好ましくはナイロン繊維、ポリエステル繊維などが挙げられる。市販品では、ミツフジ社製「AGposs」(商品名)などの銀メッキナイロン糸でもよい。
【0015】
本発明において、シート状電極と衣料生地(身生地)の固定方法は特に限定されないが、片面タイプの熱転写シートを電極外周部に外枠状に貼り付ける方法、枠形状に切り抜いた両面タイプの熱転写シートをシート状電極と上記生地の間に挟み込んで接着する方法、シート状電極の外周部と上記生地を縫い糸で縫い合わせる方法、などが例示される。
【0016】
また、シート状電極と上記生地との間に厚み5mm以上(より好ましくは5~20mm)のクッション材が介在していることが好ましい。このクッション材の厚みにより、シート状電極が肌側へ押し付けられる効果があり、かつ肌の凹凸や湾曲に対してシート状電極の形状が追従して変形し易くなる効果がある。更に、このクッション材はシート状電極、上記生地の何れにも固定されていない方が上記の追従性の点から好ましい。
【0017】
また、衣料に対するシート状電極の位置については、
図1に示すように、前身頃の袖ぐりの最下点から裾ラインを結ぶ直線に対して、中央より上部に位置し、かつ前身頃を左右均等に分割する中央線と左右両端の脇線の中点に対して脇線側に位置することが好ましい。上記以外の位置では、心電信号が弱くなり過ぎたり、胸筋や腹筋など大きい筋肉の上に位置したりすることで筋電信号を拾い易くなるおそれがある。
【0018】
光学センサは、緑色光の波長であることが好ましく、脈波計測箇所は、頸動脈、大動脈、胸肩峰動脈、腋窩動脈などが挙げられるが、鎖骨下動脈であることが好ましい。また、光学センサの個数は1個でもよいし2個以上の複数個でもよい。
【0019】
前記光学センサの固定部へは単繊維径1μm以下(好ましくは10~800nm)の繊維を含む織編物を用いることで、肌との接触面積が高まり肌との密着性が高くなることが好ましい。なお、前記繊維としては、単繊維径が700nmの帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標)が好ましい。
【0020】
また、光学センサの周囲にクッション材を配することが好ましい。前記織編物と身生地との間に厚み5mm以上(より好ましくは5~20mm)のクッション材が介在していると、このクッション材の厚みにより、前記光学センサおよび前記織編物が肌側へ押し付けられる効果があり、かつ肌の凹凸や湾曲に対して前記織編物の形状が追従して変形し易くなる効果がある。
【0021】
一方、身生地へは、2wayストレッチメッシュ編地などの伸縮性布帛を配する(積層)ことが好ましい。この伸縮性布帛により、体動および運動時の関節または筋肉等の動きによるセンサへの力を緩和させ、測定部から光学センサがずれることを防ぐ効果がある。
【0022】
また、光学センサの取り付けに際し、面ファスナーを用いることが好ましい。前記伸縮性布帛および/または前記クッション材が、面ファスナーにより固定され、着用時にセンサ位置を簡便に調整できることが好ましい。ここで、前記面ファスナーとしては、例えば、特開2009-285144号公報に記載されているような単繊維径が1000nm以下(好ましくは10~800nm)のフィラメント糸Aを含む布帛aと、立毛布帛bとで構成される面ファスナーを用い、布帛aと立毛布帛bとのうち一方を前記伸縮性布帛に取り付け、他方 を前記クッション材に取り付けることが好ましい。
【0023】
なお、前記衣料の衣料生地(身生地)としては、特に限定されず、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、木綿などを用いた織編物でよい。特に、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレートを一成分として含む複合繊維、弾性繊維(例えば、ポリウレタン弾性糸など)などを含むストレッチ性織編物が好ましい。
【0024】
また、光学センサに用いられる可視光の乱反射を防ぐため、フルダル糸を使用し、濃色に染色した生地を用いることが好ましい。
また、配線を背部にまわし、ファスナーが、前身頃を左右均等に分割する中央線上に配されていると衣料の着脱が容易となり、好ましい。該ファスナーは脇部にあってもよい。
【0025】
前記高伸縮性構造布帛としては、前記身生地より15%以上少ない応力で、15%以上伸縮することが好ましい。かかる高伸縮性構造布帛は布帛構造により伸縮性を有する布帛であり、プリーツ加工が施された織編物、揚柳織物、蛇腹状織編物などが例示される。特に、低応力でも高伸縮性の布帛構造体である蛇腹状経編地が好ましい。なお、「蛇腹」とは山折りと谷折りが連続する構造であり、「アコーディオン構造」とも称する。
【0026】
蛇腹状の経編地の製造方法としては、例えば、特許第5451193号公報などに記載の方法によって製造することができる。すなわち、例えば、ダブルラッシェル編み機の表側の針で所定幅のデンビ編み部(表側主編成部)を緯方向に所定間隔で編成する一方、裏側の針でも同様に、所定幅のデンビ編み部(裏側主編成部)を緯方向に所定間隔で編成し、さらに、並列する裏側主編成部の位相が前記表側主編成部のそれに対して緯方向にシフトし、各裏側主編成部が、表側主編成部間の中間位置に位置するように編成するとよい。その際、近接する表側主編成部の側縁と裏側主編成部の側縁とをダブル鎖編みまたはダブルデンビ編みによって経方向に繋ぎ編みし(繋ぎ編み部)、編地の両側部に、繋ぎ編み部と同じ編組織で、それぞれ耳部を編成することが好ましい。市販品としては井上リボン工業株式会社のアコーディオ(商品名)などが例示される。
【0027】
ここで、高伸縮性構造布帛が、
図2に示すように、衣料背面の中心線上または/および前面に衣料の巾方向に伸縮するよう(すなわち、屈曲波の進行方向が巾方向である。)配されていることが好ましい。また、必要に応じて肩部体幹の巾方向に伸縮するよう配しても良い。また、前記高伸縮性構造布帛の寸法としては、外寸で巾5~20cm、長さ10~80cmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
本発明の衣料は高伸縮性構造布帛を含むので、安定的に所望とする生体の電気信号、特に心電信号が明瞭に得られる。その際、前記高伸縮性構造布帛が衣料の身丈方向よりも身幅方向に伸縮するよう配することが好ましい。特に、衣料生地の身丈方向(鉛直方向)に蛇腹状の経編地を配置すると、着用者に体型差があっても該経編地によって吸収され、安定的に所望とする生体の電気信号、特に心電信号が明瞭に得られる。
【0029】
本発明の衣料によれば、肌面に接触する電極および光学センサにより、所望とする生体信号(衣料につけたセンサが取得する信号、生データ)、特に心電信号および脈波信号などが明瞭に得られる。その結果、生体信号(生データ)を演算して得られたデータである生体情報(脈拍数、血圧など)や、これら生体信号(生データ)と生体情報とから得られる体調の推定などが明瞭に得られる。
【0030】
ここで、前記生体信号が、着用者の心電および脈波を含むことが好ましい。また、前記生体信号に基づいて着用者の脈拍数、心拍数、心拍変動、呼吸数、脈波伝搬速度、脈波伝播時間、血圧変動、血圧、血流量および血糖値の少なくともいずれかの生体情報の演算処理をすることが可能であることが好ましい。また、前記生体信号または前記生体情報に基づいて、着用者の体調、眠気、眠り、覚醒状態、心理状態、身体状態、感情、心身状態、精神状態、自律神経、ストレス状態、意識状態、血液成分、睡眠状態、および呼吸状態のうち少なくともいずれかに関する情報を推定することが可能であることが好ましい。例えば、血圧の変動につながる指数や、脈波の低周波の揺らぎにより呼吸の計測や、心電の周波数分布による自律神経の状態や眠気や疲労度などの複数の身体の状態を有意に検出できることが好ましい。
なお、衣料に加速度センサ、角速度センサ、方位センサのいずれかまたはすべてを含めて、着用者の体動、位置、姿勢情報を得られるようにしてもよい。
【0031】
次に、本発明によれば、以下のシステムが提供される。これらのシステムによれば、所望とする生体の電気信号、特に心電信号および脈波信号が明瞭に得られる。
(システムA)
身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを含む衣料と、前記シート状電極から得た生体信号(心電など)および前記光学センサから得られた生体信号(脈波など)とを用いて着用者の生体情報を得ることを特徴とするシステムである。
【0032】
(システムB)
身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを有する衣料と、前記衣料に一体または別体の外部機器とを含む、当該衣料を装着したユーザーの生体情報を取得するシステムであって、前記衣料は、前記シート状電極から得た生体信号(心電など)および前記光学センサから得られた生体信号(脈波など)を用いて着用者の生体情報を演算する演算部と、前記演算部によって得られた生体情報を外部機器に送信する通信部と、を有することを特徴とするシステムである。
【0033】
(システムC)
身生地、高伸縮性構造布帛、シート状電極部、および光学センサを有する衣料と、前記衣料に一体または別体の外部機器とを含む、当該衣料を装着したユーザーの生体情報を取得するシステムであって、前記衣料は、前記シート状電極から得た生体信号(心電など)と、前記光学センサから得られた生体信号(脈波など)を外部機器に送信する通信部を有し、前記外部機器は、前記生体信号(心電および脈波など)を用いて着用者の生体情報を演算する演算部を有することを特徴とするシステムである。
【0034】
通信部は、一般的な制御装置により制御され、外部機器へデータを送信する。通信部で使用する通信手法としては、例えば、Bluetooth(登録商標)、Bluetooth Low Energy(登録商標)、Zigbee(登録商標)、Sigfox(登録商標)、ELTRES(登録商標)、LoRa WAN(登録商標)、NB-IoT、Wi-Fi(登録商標)及び特定小電力無線等を用いることができるが、他の通信手法を用いても良い。
【0035】
外部機器は、携帯電話、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、ウェアラブルデバイス及びノートパソコンや、インターネット上に配置されているサーバ、及びクラウド上に分散配置されているサーバ又は仮想サーバなどがあげられるが、これに限定されない。
【実施例0036】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0037】
(1)心拍計測性
帝人フロンティアセンシング社製のDSPワイヤレスECG/HRロガー(加速度/角速度)SS-ECGHRAGを衣料に取り付けたスナップボタンを介して衣料に接続し、安静時、運動時の心電波形および心拍数を計測し、以下の基準にて心拍計測性を評価した。計測の周波数は1kHzに設定。
◎ ; 運動時すべてのデータで正確に心拍数を算出できた。
○ ; 運動時80%以上のデータで正確に心拍数が算出できた。
△ ; 運動時50~80%のデータで正確に心拍数が算出できた。
× ; 運動時50%未満のデータで正確に心拍数が算出できた。
計測の一連の工程は、安静1分間⇒体をねじる運動1分⇒全速力腕振り1分、の3分間で実施した。
【0038】
(2)脈波計測性
ローム社製のBH1792GLCを衣料に挿入し、イヤホンジャックを介して脈波計測機に接続した。安静時、運動時の脈波形を計測し、以下の基準にて脈波計測性を評価した。計測の周波数は1kHzに設定。
◎ ; 運動時すべてのデータで正確に脈波形を計測できた。
○ ; 運動時80%以上のデータで正確に脈波形を計測できた。
△ ; 運動時50~80%のデータで正確に脈波形を計測できた。
× ; 運動時50%未満のデータで正確に脈波形を計測できた。
計測の一連の工程は、安静1分間⇒体をねじる運動1分⇒全速力腕振り1分、の3分間で実施した。
【0039】
(3)厚さ
JIS L1096 8.4:2010 A法で規定される方法で測定した。
【0040】
(4)繊度
JIS L1013-2021 8.3.1正量繊度により測定した。
【0041】
(5)引張伸度
JIS L 1096 8.14.1ストリップ法を準用し、引張速度:400mm/min、つかみ間隔:4cm、試験片サイズ:幅5cm×長さ20cmで、18Nまで伸長し、15N時の伸度を測定した。初荷重:290mNで、機器は、AD Discover Precision社製テンシロン万能材料試験機を使用した。
【0042】
[実施例1]
フロント(表)側とバック(裏)側の2列の針床を有する公知のダブルラッセル編機(24ゲージ)を用い、表側の針で市販のポリエステル先染仮撚糸167dtex/48本を用いてダブルデンビ編を編み、同時にポリウレタン(ロイカ)235dtex/1本を2針振りで挿入編した表側主編成部を緯方向にそれぞれの糸入れが4IN4OUTの間隔で編成する。一方、裏側の針でも同様に、市販のポリエステル先染仮撚糸167T48を用いてダブルデンビ編を編み、同時にポリウレタン(ロイカ)235dtex/1本を2針振りで挿入編した裏側主編成部を緯方向にそれぞれの糸入れが4IN4OUTの間隔で編成し、更に、並列する裏側主編成部の位相が表側主編成部のそれに対して緯方向にシフトし、各裏側主編成部が、表側主編成部間の中間位置に位置するように編成するとともに、近接する表側主編成部の側縁と裏側主編成部の側縁とを市販のポリエステル先染仮撚糸167dtex/48本を用いダブル鎖編によって経方向に繋ぎ編をし、編地の両側部に市販の先染仮撚糸167dtex/48本の双糸を用い繋ぎ編部と同じダブル鎖編をフルセットで8針分編み、同時に市販の先染仮撚糸167dtex/48本を3針振りで挿入編した耳部を編成した生機を得た。得られた生機を乾熱セット(温度:150℃、時間:35秒)し、巾(屈曲波の進行方向)10cm×長さ48cmのサイズにカットし、蛇腹状の経編地(高伸縮性構造布帛)とした。
【0043】
次に、28Gのラッセル編機(細幅編機)にて、中央部(巾0.5cm)に78dtex/34本の銀メッキした導電性ナイロン糸を配し、それ以外の部分には単繊維の直径が約700nmである78dtex/16720本の超極細ポリエステル繊維(帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標))と33dtex/12本の通常のポリエステル繊維とのインターレース混繊糸を用いて、バック筬の組織を10/01、フロント筬の組織を12/10にて編地(全巾4cm)を作製した後、長さ6cmにカットしてシート状電極とした。
【0044】
一方、28Gのシングル丸編み機にて、84dtex/72本のポリエステル加工糸と44dtex/1本のポリウレタン弾性糸をポリウレタン弾性糸のドラフト率2.5倍にてベア天竺組織の編地を編成し、この編地を身生地(衣料生地)とし、後ろ見頃に高伸縮性構造布帛を巾(伸縮)方向が身体の横方向になるよう配した。
次いで、市販のファスナーを、前身頃を左右均等に分割する中央線上に配して、Mサイズの衣料を作製した。
【0045】
次いで、前身頃の袖ぐりの最下点から裾ラインを結ぶ直線に対して、中央より上部に位置し、かつ前身頃を左右均等に分割する中央線と左右両端の脇線の中点に対して脇線側に位置の身生地内側(人体側)にシート状電極を熱転写シートで取り付け、衣料生地とシート状電極との間にはクッション材として、厚み10mmの低反発ウレタンスポンジを挿入した。なお、熱転写シートは接着剤が塗布されたウレタンシートであり、160℃の熱プレスにより衣料生地とシート状電極とを熱接着させた。かかるシート状電極において、シート状電極の露出部は4.5cm×3cmのサイズであった。
【0046】
次いで、ポリエステル繊維製バインダーテープの片面に前記と同じ銀メッキナイロン糸(導電繊維)を縫い付けた導線部を用意し、
図2のようにシート状電極から背中上部のスナップボタンを内側(人体側)で連結し、スナップボタンを介して心電計測機に接続した。
【0047】
次いで、
図3に示すように、湾曲状に裁断した2wayストレッチメッシュ編地(全長21cm、巾10cm)を左肩部の身生地内側へ配(積層)した。さらに、全長10cm、巾5cmの帝人フロンティア社製ファスナーノ(登録商標)を配(積層)した。
一方、
図4に示すように、厚さ10mmの低反発ウレタンスポンジ(3cm×3cm)へ直径1cmの円形状の切り抜きを行い、波長600nmの緑色光センサ(ローム社製)を挿入した。
【0048】
次いで、前記低反発ウレタンスポンジおよび前記光学センサを挟むように帝人フロンティア社製ナノフロント布帛および帝人フロンティア社製ファスナーノ(登録商標)同士を縫製し、固定した。なお、前記ナノフロント(登録商標)布帛は、28Gのシングル丸編み機にて、単繊維の直径が約700nmである78dtex/16720本の超極細ポリエステル繊維(帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標))と33dtex/36本の通常のポリエステル繊維とのインターレース混繊糸と44dtex/1本のポリウレタン弾性糸をポリウレタン弾性糸のドラフト率2.5倍にてハニカムベア組織の編地を編成している。
【0049】
最後に、前記ファスナーノ(登録商標)同士を貼り付けることで固定し、前記緑色光センサをフォーンプラグを用いて脈波計測機と接続した。なお、ファスナーノ(登録商標)は生体信号が取得できるよう、測定者の任意の位置で固定した。
この衣料をシート状電極及び光学センサが直接肌に触れるように着用し、安静時と運動時の心電図を計測し、結果は「○」であった。また、安静時と運動時の脈波形を計測し、結果は「○」であった。
【0050】
さらに、心電信号と脈波信号の伝播時間の差を計ることで、血圧の変動につながる指数を有意にえることができた。
また、脈波の低周波の揺らぎにより呼吸の計測や、心電の周波数分布による自律神経の状態や眠気や疲労度などの複数の身体の状態を有意に検出でき、使用者にフィードバックし、事故や自己の状態を把握することができた。
【0051】
[実施例2]
実施例1において、衣料に高伸縮性構造布帛およびファスナー、シート状電極を配していること及び光学センサ固定部の生地構造は実施例1と同様にした。
【0052】
前記衣料の襟ぐりに巾1cmのパイピングテープを配した。次いで、後ろ見頃中央部の前記パイピングテープ下部に巾1cmの切り込みを入れた。また、前身頃中央から襟ぐりに沿いながら左肩部および右肩部へ8cmの箇所へ同様に巾1cmの切り込みを入れた。
次いで、前身頃の左肩部および右肩部のパイピングテープに入れた切り込み直下の身生地内側へ全長80mm、巾50mmの2wayメッシュ生地を配し、その上から全長50mm、巾30mmの帝人フロンティア社製ファスナーノ(登録商標)を配した。
一方、厚さ10mmの低反発ウレタンスポンジ(3cm×3cm)へ直径1cmの円形状の切り抜きを行い、波長600nmの緑色光センサ(ローム社製)を挿入した。
【0053】
次いで、前記低反発ウレタンスポンジおよび前記光学センサを挟むように帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標)布帛および帝人フロンティア社製ファスナーノ(登録商標)同士を縫製し、固定した。なお、前記ナノフロント布帛は、28Gのシングル丸編み機にて、単繊維の直径が約700nmである78dtex/16720本の超極細ポリエステル繊維(帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標))と33dtex/36本の通常のポリエステル繊維とのインターレース混繊糸と44dtex/1本のポリウレタン弾性糸をポリウレタン弾性糸のドラフト率2.5倍にてハニカムベア組織の編地を編成している。
【0054】
次いで、光学センサには伸縮性を持つ電線を接続し、センサ部が前記切り抜き部へ位置するように配した。伸縮性を持つ電線は、例えば、行田電線株式会社等から入手できる。
その後、切り込みを入れた前身頃の左肩部および右肩部のパイピングテープへ前記電線を挿入し、首周りの襟ぐりに沿いながら後身頃に切り込みを入れた箇所から抜き出し、フォーンプラグを用いて脈波計測機と接続した。
【0055】
この衣料をシート状電極及び光学センサが直接肌に触れるように着用し、安静時と運動時の心電図を計測し、結果は「○」であった。また、安静時と運動時の脈波形を計測し、結果は「○」であった。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、高伸縮性構造布帛および面ファスナーを用いず、光学センサを固定していること以外は実施例1と同様にした。結果は「×」であった。
本発明によれば、生体信号を検出可能な衣料であって、シート状電極部と光学センサを有し、安定的に所望とする複数の生体信号、特に心電信号および脈波信号が明瞭に得られる衣料、および該衣料を用いてなるシステムが提供され、その工業的価値は極めて大である。