(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106499
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/04 20100101AFI20240801BHJP
H01L 33/10 20100101ALI20240801BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L33/04
H01L33/10
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010780
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA04
5F241CA05
5F241CA08
5F241CA12
5F241CA65
5F241CA77
5F241CA88
5F241CA92
5F241CA93
5F241CB05
5F241CB11
5F241CB36
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子において、電極での光吸収を抑制して光取出し効率を向上させる。
【解決手段】赤外LED素子は、n型の第一クラッド層と、第一クラッド層の上層に配置された発光層と、発光層の上層に配置されたp型の第二クラッド層と、第二クラッド層の上層に配置され第二クラッド層よりもp型のドーパント濃度が高濃度の第一トンネル層と、第一トンネル層の上層に配置され第一クラッド層よりもn型のドーパント濃度が高濃度であって第一トンネル層との間でトンネル接合を形成する第二トンネル層と、第二トンネル層の上層に配置されたn型のコンタクト層と、第一クラッド層に対して直接又は導電性を示す非合金材料からなる層を介して接触する第一電極と、コンタクト層に対して接触する第二電極とを備える。第一クラッド層及び発光層は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子であって、
n型の第一クラッド層と、
前記第一クラッド層の上層に配置された発光層と、
前記発光層の上層に配置されたp型の第二クラッド層と、
前記第二クラッド層の上層に配置され、前記第二クラッド層よりもp型のドーパント濃度が高濃度の第一トンネル層と、
前記第一トンネル層の上層に配置され、前記第一クラッド層よりもn型のドーパント濃度が高濃度であって前記第一トンネル層との間でトンネル接合を形成する第二トンネル層と、
前記第二トンネル層の上層に配置された、n型のコンタクト層と、
前記第一クラッド層に対して、直接又は導電性を示す非合金材料からなる層を介して接触する第一電極と、
前記コンタクト層に対して接触する第二電極とを備え、
前記第一クラッド層及び前記発光層は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなることを特徴とする、赤外LED素子。
【請求項2】
前記第二電極は、前記ピーク発光波長の光に対して反射性又は透過性を示す材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記コンタクト層の、前記第二トンネル層とは反対側の上面に配置された絶縁層と、
前記絶縁層の、前記コンタクト層とは反対側の上面に配置された金属層と、
前記金属層の、前記絶縁層とは反対側の上面に配置された導電性の支持基板とを備え、
前記第二電極は、前記支持基板の主面に平行な方向に離散的に分散した複数の箇所において、前記絶縁層内を貫通して、前記金属層と前記コンタクト層とを連絡するように形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記支持基板の前記主面に直交する方向から見たときに、前記発光層の面積に対する、前記第二電極の占有領域の総面積の割合が、10%~50%であることを特徴とする、請求項3に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層は、バンドギャップに相当する波長が前記ピーク発光波長よりも短波長を示す材料からなることを特徴とする、請求項3又は4に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層のうちの少なくとも一方の層が、Ga及びAsを含む材料からなることを特徴とする、請求項3又は4に記載の赤外LED素子。
【請求項7】
前記第二トンネル層を構成する材料のバンドギャップに相当する波長が、前記第一トンネル層を構成する材料のバンドギャップに相当する波長よりも長波長であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の赤外LED素子。
【請求項8】
前記第二トンネル層を構成する材料のGa組成が、前記第一トンネル層を構成する材料のGa組成よりも高いことを特徴とする、請求項7に記載の赤外LED素子。
【請求項9】
前記第二トンネル層を構成する材料のAs組成が、前記第一トンネル層を構成する材料のAs組成よりも高いことを特徴とする、請求項7に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特にピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサ、又は産業機器等の用途で幅広く用いられている。下記特許文献1には、InP結晶に格子整合する半導体層を含む、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LED素子を製造するに際しては、当該LED素子によって得たい光の波長(目標波長)に対応したバンドギャップエネルギーを有する材料の中から、半導体層の材料が選択される。更に、その選択された材料を発光層の材料として使用するためには、選択された材料と格子整合が可能で、且つ工業的に製造可能な単結晶基板が必要であり、選択された材料自体もその単結晶基板上に高品質でエピタキシャル成長できることが必要である。
【0005】
かかる事情により、実際には目標波長を実現するために利用できる半導体層の材料の選択肢は少ない。ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を製造するに際しては、発光層の材料は、InP単結晶と格子整合する単結晶材料から選択される。具体的には、GaInAsP、AlGaInAs、及びGaInAsからなる群に属する1種又は2種以上が想定される。
【0006】
しかしながら、上記の発光層材料を用いて作製されたLED素子は、その材料が持つ物理的な性質から、他の波長域のLED素子と比較して発光効率が低い。このため、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子においては、発光効率や光取出し効率を向上させることが重要となる。
【0007】
図10は、特許文献1に開示された赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。赤外LED素子100は、導電性材料からなる支持基板81と、金属材料からなる接合層82と、金属材料からる反射層83と、絶縁層84と、p型コンタクト層85と、p型クラッド層86と、発光層87と、n型クラッド層88とを備える。更に、赤外LED素子100は、n型クラッド層88の上面に形成されたn側電極91と、絶縁層84内を貫通してp型コンタクト層85と反射層83とを連絡するp側電極92と、支持基板81の裏面に形成された裏面電極93とを備える。
【0008】
発光層87は、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外光を発するように形成されており、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなる。発光層87を含む各半導体層(85,86,87,88)は、InP単結晶基板を成長基板として、エピタキシャル成長によって形成される。
【0009】
発光効率を向上させる観点からは、発光層87内の広い範囲に電流を流すことが重要となる。かかる観点から、
図10に示すように、支持基板81の主面に直交する方向(Z方向)に関して、p側電極92は、n側電極91と重ならない位置に形成されている。
【0010】
p側電極92は、p型コンタクト層85との間でオーミック接触を実現するために、形成時にアニール処理が行われる。言い換えれば、p側電極92の形成工程では、金属材料を成膜した後に、加熱処理が行われる。これにより、p側電極92のうち、特にp型コンタクト層85と接触する箇所については合金化され、p側電極92とp型コンタクト層85との界面における接触抵抗が低抵抗化される。
【0011】
しかしながら、上記の合金化した領域は、発光層87から発せられる光を吸収してしまう。
【0012】
光出力を向上させる観点からは、発光層87内に高い電流を注入したい事情がある。一方で、上述したように、発光層87内の広い領域に電流を流す観点からは、Z方向に関して、n側電極91とp側電極92とが重ならないような位置関係にするのが好適である。両者を総合考慮すると、p側電極92は、Z方向から見たときに、n側電極91が形成されている領域以外の領域の多くを占有するように配置するのが、好ましいとも考えられる。
【0013】
しかし上述したように、実際にはp側電極92とp型コンタクト層85との界面には、光吸収性を示す合金層が形成される。よって、p側電極92の占有領域を広げることは、光取出し効率を低下させることにつながる。このような事情から、従来は、Z方向から見たときに、発光層87内の面積に対する、p側電極92の占有領域の総面積の割合は、3%~5%程度にせざるを得ない状況であった。
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑み、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子において、電極での光吸収を抑制して光取出し効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る赤外LED素子は、ピーク発光波長が1000nm以上であって、
n型の第一クラッド層と、
前記第一クラッド層の上層に配置された発光層と、
前記発光層の上層に配置されたp型の第二クラッド層と、
前記第二クラッド層の上層に配置され、前記第二クラッド層よりもp型のドーパント濃度が高濃度の第一トンネル層と、
前記第一トンネル層の上層に配置され、前記第一クラッド層よりもn型のドーパント濃度が高濃度であって前記第一トンネル層との間でトンネル接合を形成する第二トンネル層と、
前記第二トンネル層の上層に配置された、n型のコンタクト層と、
前記第一クラッド層に対して、直接又は導電性を示す非合金材料からなる層を介して接触する第一電極と、
前記コンタクト層に対して接触する第二電極とを備え、
前記第一クラッド層及び前記発光層は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなることを特徴とする。
【0016】
本明細書において、「ピーク発光波長」とは、発光スペクトル上において最も光出力が高い波長を指す。
【0017】
InP単結晶を成長基板としてエピタキシャル成長される材料、具体的には、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する材料で構成される半導体層については、p型半導体層と比較して、n型半導体層の方がコンタクト抵抗を低抵抗化しやすい。このため、n型の第一クラッド層に対して電気的な接続が確保される電極(n側電極)については、光反射性を示す金属材料を用いることが可能となる。言い換えれば、n型の第一クラッド層に対して電気的に接続される第一電極は、合金層を介することなく、直接又は導電性を示す非合金材料からなる層を介して接触することで、低抵抗化が実現できる。
【0018】
更に、上記の構成によれば、p型の第二クラッド層の、発光層とは反対側の面には、トンネル接合を形成する第一トンネル層及び第二トンネル層を介して、n型のコンタクト層が形成されている。つまり、p型の第二クラッド層とn型のコンタクト層とが、トンネル接合を介して連絡されている。この結果、n型のコンタクト層側を正極性、p型の第二クラッド層側を負極性とする逆バイアスが印加されても、両者の間での電圧降下が抑制される。
【0019】
つまり、上記構成によれば、p型の第二クラッド層に対して電気的な接続を形成するための第二電極(p側電極)についても、n型の半導体層(前記コンタクト層)に対するオーミック接触が実現された電極を利用することができる。言い換えれば、n側電極と同様に、p側電極についても、合金層を介することなく、直接n型のコンタクト層と接触する構成とすることができる。
【0020】
この結果、第二電極と半導体層との界面に光吸収性を示す層を形成することなく、第二電極として、前記ピーク発光波長の光に対して反射性を示す金属材料や、前記ピーク発光波長の光に対して透過性を示す透明電極材料を利用することができる。これにより、従来よりも光取出し効率を向上することが可能となる。
【0021】
なお、p型の第二クラッド層、トンネル接合層(第一トンネル層、第二トンネル層)、及びn型のコンタクト層については、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなるものとしても構わないし、InP単結晶に対して格子整合しない材料からなるものとしても構わない。p型の第二クラッド層、トンネル接合層(第一トンネル層、第二トンネル層)、及びn型のコンタクト層については、発光層を形成した後に形成される層であるため、これらの層が仮にInP単結晶に対して格子整合しない材料であっても、発光層の膜質に対する影響は生じないためである。
【0022】
具体的には、n型の第一クラッド層については、InP、GaInAsP、AlGaInAs、及びAlInAsからなる群に属する1種又は2種以上からなるものとすることができる。
【0023】
具体的には、発光層については、GaInAsP、AlGaInAs、GaInAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はGaInAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、GaInAs又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0024】
具体的には、p型の第二クラッド層、第一トンネル層、第二トンネル層、及びn型のコンタクト層については、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する1種又は2種以上からなるものとすることができる。
【0025】
前記赤外LED素子は、
前記コンタクト層の、前記第二トンネル層とは反対側の上面に配置された絶縁層と、
前記絶縁層の、前記コンタクト層とは反対側の上面に配置された金属層と、
前記金属層の、前記絶縁層とは反対側の上面に配置された導電性の支持基板とを備え、
前記第二電極は、前記支持基板の主面に平行な方向に離散的に分散した複数の箇所において、前記絶縁層内を貫通して、前記金属層と前記コンタクト層とを連絡するように形成されているものとしても構わない。
【0026】
上述したように、前記第二電極は、p型半導体層に対する電気的な接続をとるための電極でありながらも、n型コンタクト層に対して接触する構成である。このため、p型半導体層に対するコンタクト抵抗を低抵抗化させるためのアニール処理が不要となるため、合金層が介在しない。したがって、第二電極として、絶縁層内を貫通する構造を採用する場合、第二電極が占有する領域を、従来よりも広く確保することができ、注入電流量を高めて光出力を向上することができる。より具体的には、前記支持基板の前記主面に直交する方向から見たときに、前記発光層の面積に対する、前記第二電極の占有領域の総面積の割合を10%~50%とすることができる。この値は、従来の赤外LED素子と比較して極めて高い値である。
【0027】
前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層は、バンドギャップに相当する波長が前記ピーク発光波長よりも短波長を示す材料からなるものとしても構わない。
【0028】
主として劈開面から光が取り出されるレーザダイオード素子とは異なり、LED素子の場合は、主として積層方向に光が取り出される。このため、LED素子から取り出される光の出力を高める観点からは、第一トンネル層及び第二トンネル層は、発光層から出射された光に対して透明であることが好ましい。上記の構成によれば、発光層から出射された光が、第一トンネル層及び第二トンネル層の一方又は双方で吸収されることが抑制される。
【0029】
ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子においては、半値幅が100nm以上に達することもある。かかる観点から、前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層のバンドギャップに相当する波長は、ピーク発光波長よりも50nm以上短波長であるのが好ましく、100nm以上短波長であるのがより好ましい。
【0030】
第一トンネル層及び第二トンネル層のバンドギャップに相当する波長は、各層を構成する材料の組成比を調整することで変更できる。
【0031】
前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層のうちの少なくとも一方の層が、Ga及びAsを含む材料からなるものとしても構わない。
【0032】
本発明者の鋭意研究の結果、前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層の双方をInPで形成した場合と比較して、前記第一トンネル層及び前記第二トンネル層の一方又は双方にGa及びAsを含めることで、赤外LED素子に同一量の電流を注入する際の印加電圧(順方向電圧)を低下させることができる。
【0033】
前記第二トンネル層を構成する材料のバンドギャップに相当する波長が、前記第一トンネル層を構成する材料のバンドギャップに相当する波長よりも長波長であるものとしても構わない。
【0034】
上記構成によれば、赤外LED素子に同一量の電流を注入する際の印加電圧(順方向電圧)を更に低下させることができる。この点については、「発明の詳細な説明」の項で後述される。
【0035】
前記第二トンネル層を構成する材料のバンドギャップに相当する波長を、前記第一トンネル層を構成する材料のバンドギャップに相当する波長よりも長波長とするためには、いくつかの方法が考えられる。具体的には、前記第二トンネル層を構成する材料のGa組成を、前記第一トンネル層を構成する材料のGa組成よりも高くする方法や、前記第二トンネル層を構成する材料のAs組成を、前記第一トンネル層を構成する材料のAs組成よりも高くする方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、LED素子あたりの光出力が従来よりも向上した、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の赤外LED素子の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図4】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図5】
図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図6】比較例1の赤外LED素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図7A】p型の第一トンネル層のドーパント濃度を変化させたときの、赤外LED素子の順方向電圧の変化の推移を示すグラフである。
【
図7B】n型の第二トンネル層のドーパント濃度を変化させたときの、赤外LED素子の順方向電圧の変化の推移を示すグラフである。
【
図8】本発明の赤外LED素子の別実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図9】本発明の赤外LED素子の別実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図10】従来の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明に係る赤外LED素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。以下の各図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0039】
本明細書において、「ある層Q1の上層に別の層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に薄膜を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚20nm以下の層を指し、好ましくは10nm以下の層を指すものとして構わない。なお、この段落及び次の段落で用いられた符号Q1、Q2は、一般的な層を指し示す符号として用いられており、図面内に登場するものではない。
【0040】
本明細書において、「ある層Q1の上層に別の層Q2が形成されている」という表現は、赤外LED素子の配置位置を回転させれば、層Q1の上方に層Q2が位置する場合を包含する概念であり、赤外LED素子がどの向きに設置されているかによって、「上」方向が限定されるものではない。
【0041】
本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0042】
[構造]
図1は、第一実施形態の赤外LED素子1の構造を模式的に示す断面図である。赤外LED素子1は、導電性の支持基板65と、金属層64と、絶縁層61と、n型のコンタクト層24と、トンネル接合用積層体30と、LED積層体20と、第一電極51と、第二電極52と、裏面電極66とを備える。以下、各要素の詳細について説明する。
【0043】
(支持基板65)
支持基板65は、導電性を有する材料からなり、例えばSi、InP、Ge、GaAs、SiC、又はCuWからなる。排熱性及び製造コストの観点からは、Siが好ましい。支持基板65の厚み、すなわち支持基板65の主面に直交する方向(図面内のZ方向)に係る長さは特に限定されないが、例えば50μm~500μmであり、好ましくは100μm~300μmである。一例として、支持基板65は、ホウ素(B)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩcm以下のSi基板であり、厚みが250μmである。
【0044】
(LED積層体20)
図1に示すように、LED積層体20は、複数の半導体層の積層構造からなる。具体的には、LED積層体20は、n型の第一クラッド層21と、発光層22と、p型の第二クラッド層23とを含む多層の半導体層が積層されてなる。これらのうち、少なくとも第一クラッド層21及び発光層22は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなる。
【0045】
具体的には、n型の第一クラッド層21は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、及びAlInAsからなる群に属する1種又は2種以上からなる。第一クラッド層21の厚みは限定されないが、例えば100nm~10000nmであり、好ましくは、500nm~5000nmである。第一クラッド層21のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3~5×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~4×1018/cm3である。第一クラッド層21にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。
【0046】
一例として、第一クラッド層21は、厚みが2000nmで、ドーパント材料としてのSiが濃度2×1018/cm3ドープされたn型InPである。
【0047】
発光層22は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つInP単結晶からなる成長基板11(後述する
図2参照)に格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。例えば、発光層22は、GaInAsP、AlGaInAs、GaInAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はGaInAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、GaInAs又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0048】
発光層22の膜厚は、発光層22が単層構造の場合は、例えば50nm~2000nmであり、好ましくは100nm~500nmである。また、発光層22がMQW構造の場合、発光層22は、膜厚5nm~20nmの井戸層及び障壁層が、2周期~50周期の範囲で積層されて構成される。
【0049】
発光層22は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては例えばSiを利用できる。
【0050】
一例として発光層22は、厚みが300nmで、ピーク発光波長が1300nmになるように組成比が調整された、アンドープのGaInAsPである。
【0051】
p型の第二クラッド層23は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する1種又は2種以上からなる。第二クラッド層23については、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなるものとしても構わないし、格子整合しない材料からなるものとしても構わない。ただし、後述するように、第二クラッド層23は、発光層22直上にエピタキシャル成長されるため、発光層22と第二クラッド層23の界面で格子不整合により結晶欠陥が発生した場合に、発光層22にも影響し発光効率が低下することが懸念されるため、第二クラッド層23についても、InP単結晶に対して格子整合可能な材料から選択されるものとするのが好適である。
【0052】
第二クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば1000nm~10000nmであり、好ましくは、2000nm~5000nmである。第二クラッド層23のp型ドーパント濃度は、発光層22から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3~3×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~3×1018/cm3である。
【0053】
第二クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。
【0054】
(トンネル接合用積層体30)
図1に示す赤外LED素子1が備えるトンネル接合用積層体30は、p型の第二クラッド層23の、支持基板65側の主面上に配置されており、p型の半導体層からなる第一トンネル層31と、n型の半導体層からなる第二トンネル層32とを含む。第一トンネル層31と第二トンネル層32との界面は、トンネル接合が形成されている。
【0055】
トンネル接合用積層体30を構成する、第一トンネル層31及び第二トンネル層32は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する1種又は2種以上からなる。第一トンネル層31及び第二トンネル層32は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなるものとしても構わないし、格子整合しない材料からなるものとしても構わない。
【0056】
第一トンネル層31のp型ドーパント濃度は、第二クラッド層23のp型ドーパント濃度より高濃度であり、好ましくは1×10
18/cm
3~1×10
20/cm
3であり、より好ましくは、5×10
18/cm
3~5×10
19/cm
3である。
図7Aを参照して後述されるように、第一トンネル層31のp型ドーパント濃度を、7×10
18/cm
3~3×10
19/cm
3とすることで、同一電流注入時における順方向バイアスを低下させる効果が顕著となる。
【0057】
第二トンネル層32のn型ドーパント濃度は、後述するn型のコンタクト層24のn型ドーパント濃度より高濃度であり、好ましくは1×10
18/cm
3~1×10
20/cm
3であり、より好ましくは、1×10
18/cm
3~2×10
19/cm
3である。
図7Bを参照して後述されるように、第二トンネル層32のn型ドーパント濃度を、5×10
18/cm
3~2×10
19/cm
3とすることで、同一電流注入時における順方向バイアスを低下させる効果が顕著となる。
【0058】
本発明において、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の膜厚は限定されない。ただし、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の膜厚が薄すぎると、結晶成長時にドーピングディレイによって、トンネル接合界面でトンネル接合を実現するのに必要なドーピング量が得られず、作製された赤外LED素子の順方向電圧が上昇する可能性がある。逆に、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の膜厚が厚すぎると、極めて高濃度にドープされた半導体層を厚く成長することになるため、結晶性の低下を招き、トンネル接合用積層体30内におけるフリーキャリア吸収に伴う光出力の低下を引き起こす可能性がある。かかる観点から、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の膜厚は、好ましくは5nm~500nmであり、特に好ましくは、10nm~200nmである。
【0059】
第一トンネル層31及び第二トンネル層32は、好ましくは、バンドギャップに相当する波長が、赤外LED素子1から出射される赤外光L1のピーク波長よりも短波長を示す材料からなる。このような材料で構成することで、発光層22で生成された光が、第一トンネル層31及び第二トンネル層32内で吸収されることが抑制できる。第一トンネル層31及び第二トンネル層32を構成する材料の、バンドギャップに相当する波長は、材料の組成比を調整することで設定できる。
【0060】
例えば、InP単結晶に格子整合するGaInAsPは、III族元素(In,Ga)と、V族元素(As,P)の比率を50%とすることで実現できる。ここで、Gaの組成を低下させると、バンドギャップエネルギーは上昇し、バンドギャップに相当する波長は短波長側にシフトする。ただし、InP単結晶に格子整合させるためには、GaInAsPのGa組成を低下させると共に、As組成を低下させる必要がある。
【0061】
赤外LED素子1から出射される、ピーク波長が1000nmを超える赤外光L1は、発光スペクトル上において半値幅が100nm以上となる場合がある。かかる観点から、第一トンネル層31及び第二トンネル層32を構成する材料のバンドギャップに相当する波長が、赤外LED素子1から出射される赤外光L1のピーク波長よりも50nm以上短いことが好ましく、100nm以上短いことがより好ましい。
【0062】
更に、第一トンネル層31及び第二トンネル層32のうち、少なくとも一方のトンネル層は、Ga及びAsを含む構成とするのが好適である。かかる構成とすることで、順バイアス電圧を低下させる効果が得られる。
【0063】
一例として、第一トンネル層31は、厚みが100nmで、ドーパント材料としてのZnが濃度1×1019/cm3ドープされたp型InPである。第二トンネル層32は、厚みが100nmで、ドーパント材料としてのSiが濃度1×1019/cm3ドープされたn型GaInAsP(バンドギャップ相当波長が1100nm)である。
【0064】
(n型のコンタクト層24)
図1に示す赤外LED素子1が備えるn型のコンタクト層24は、トンネル接合用積層体30の主面のうち、p型の第二クラッド層23とは反対側の主面上に配置されている。このコンタクト層24は、後述する第二電極52とのオーミック接触を確保する目的で設けられた半導体層である。コンタクト層24は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する1種又は2種以上からなる。コンタクト層24は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなるものとしても構わないし、格子整合しない材料からなるものとしても構わない。
【0065】
コンタクト層24の厚みは限定されないが、例えば、10nm~1000nmであり、好ましくは50nm~500nmである。また、コンタクト層24のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1018/cm3~1×1020/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~2×1019/cm3である。
【0066】
一例として、コンタクト層24は、厚みが200nmで、ドーパント材料としてのSiが濃度2×1018/cm3ドープされた、n型InPである。
【0067】
(第一電極51)
図1に示す赤外LED素子1は、n型の第一クラッド層21に対する電気的接続を形成するための、第一電極51を備える。なお、
図1では、第一クラッド層21の、発光層22とは反対側の主面上に第一電極51が配置されているが、第一クラッド層21と第一電極51との間に、第一クラッド層21よりもn型ドーパント濃度が高濃度のコンタクト層が介在しても構わない。
【0068】
第一電極51は、金属材料又は透明電極材料で構成される。一例として、第一電極51は、Au/Ge/Au、Au/Ge/Ni/Au、AuGe、及びAuGeNiからなる群に属する1種又は2種以上の金属材料であっても構わないし、ITO、ZnO、GZO、InO及びSnOからなる群に属する1種又は2種以上の透明電極材料であっても構わない。第一電極51は、赤外光L1に対して反射性又は透過性を示す材料で構成されるのが好ましい。第一電極51の厚みは限定されないが、例えば50nm~500nmであり、好ましくは100nm~300nmである。
【0069】
(第二電極52)
赤外LED素子1は、p型の第二クラッド層23に対する電気的接続を形成するための、第二電極52を備える。ただし、
図1に示すように、この第二電極52は、n型のコンタクト層24の、トンネル接合用積層体30が形成されている側とは反対側の主面上に配置されている。つまり、第二電極52は、n型のコンタクト層24に対してオーミック接触が実現されており、トンネル接合用積層体30に形成されたトンネル接合を介して、p型の第二クラッド層23に電位を供給する。
【0070】
第二電極52は、金属材料又は透明電極材料で構成される。一例として、第二電極52は、Au/Ge/Au、Au/Ge/Ni/Au、AuGe、及びAuGeNiからなる群に属する1種又は2種以上の金属材料であっても構わないし、ITO、ZnO、GZO、InO及びSnOからなる群に属する1種又は2種以上の透明電極材料であっても構わない。第二電極52は、赤外光L1に対して反射性又は透過性を示す材料で構成されるのが好ましい。
【0071】
図1に示すように、第二電極52は、一部箇所の絶縁層61内の領域を貫通して、コンタクト層24と反射層62とを電気的に接続している。後述するように、反射層62及び接合層63は、いずれも金属層64の一部を構成しており、導電層である。
【0072】
第二電極52は、
図1に示すように、支持基板65の主面に平行な方向に離散的に配置されているのが好ましい。更に支持基板65の主面に直交する方向(Z方向)に関して、第二電極52と第一電極51とが重ならないような位置に配置されるのが好ましい。これにより、発光層22を流れる電流を、発光層22の主面に平行な方向(Z方向に直交する面方向)に広げることができ、発光効率が向上する。
【0073】
上述したように、第二電極52は、n型のコンタクト層24の主面に接触して配置され、コンタクト層24に対してオーミック接触が形成される。InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する材料で構成される半導体層は、p型半導体層と比較して、n型半導体層の方がコンタクト抵抗を低抵抗化しやすい。つまり、アニール処理を行って合金化することなく、コンタクト層24と第二電極52とのオーミック接触を実現できる。したがって、第二電極52は、合金層を介することなく、直接コンタクト層24の上面に接触させることができる。これにより、発光層22から出射された赤外光L1のうち、支持基板65側に進行した光においても、第二電極52の形成箇所で吸収されることが抑制される。
【0074】
赤外LED素子1によれば、第二電極52の形成箇所において赤外光L1が吸収される量が抑制される。よって、
図10に示す従来の赤外LED素子100とは異なり、第二電極52の占有領域を広げることが可能となる。具体的には、Z方向から見たときの、発光層22の面積に対する第二電極52の占有領域の総面積の割合を、10%~50%とすることができる。この結果、従来の赤外LED素子100と比べて、赤外LED素子1に対して注入できる電流の量を高めることができ、光出力が向上する。
【0075】
(金属層64)
図1に示すように、赤外LED素子1は、支持基板65の上面に配置された金属層64を備える。金属層64は、反射層62及び接合層63を含む。
【0076】
反射層62は、
図1に示すように、発光層22で生成された赤外光L1のうち、支持基板65側に進行する光を反射させて、光取出し面側(n型の第一クラッド層21側)に導く機能を奏する。反射層62は、導電性材料であって、且つ赤外光L1に対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層62の赤外光L1に対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。赤外光L1のピーク波長が1000nm以上である場合、反射層62はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。反射層62の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm~2.0μmであり、好ましくは0.3μm~1.0μmである。ただし、赤外LED素子1において反射層62を備えないものとしても構わない。
【0077】
絶縁層61は、発光層22で生成された赤外光L1に対して透過性を示す。発光層22で生成され、支持基板65側へと進行した赤外光L1のうちの一部は、絶縁層61内を透過した後、反射層62で反射して、再び絶縁層61内を透過して第一クラッド層21側に進行する。
【0078】
上述したように、第二電極52とコンタクト層24の界面には合金層が介在しない。よって、第二電極52が金属等の赤外光L1に対する反射性を示す材料からなる場合には、発光層22で生成され、支持基板65側へと進行した赤外光L1のうちの一部は、第二電極52で反射して第一クラッド層21側に進行する。また、第二電極52が透明電極材料からなる場合には、発光層22で生成され、支持基板65側へと進行した赤外光L1のうちの一部は、第二電極52及び絶縁層61を透過した後、反射層62で反射して第一クラッド層21側に進行する。
【0079】
接合層63は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、Sn等で構成される。
図4を参照して後述されるように、この接合層63は、半導体の積層体が上面に形成された成長基板11と、支持基板65とを貼り合わせるために利用される。接合層63の厚みは、特に限定されないが、例えば500nm~5000nmであり、好ましくは1000nm~3000nmである。
【0080】
図1では図示しないが、反射層62と接合層63との間に、接合層63を構成するハンダ材料の拡散を抑制するためのバリア層を更に含むものとしても構わない。バリア層の材料としては、例えば、Ti、Pt、W、Mo、Ni等を含む材料で実現できる。一例として、Ti/Pt/Auの積層体で構成される。バリア層の厚みは、特に限定されないが、例えば50nm~3000nmであり、好ましくは200nm~1000nmである。このバリア層が介在することで、接合層63の材料が反射層62側に拡散して反射層62の反射率が低下するのを防止できる。バリア層は、接合層63と支持基板65との間にも設けられていても構わない。
【0081】
光取り出し効率を向上させる観点からは、
図1に示すように、赤外LED素子1が反射層62を備えるのが好適であるが、本発明において、赤外LED素子1が反射層62を備えるか否かは任意である。
【0082】
(裏面電極66)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板65の裏面側(半導体層が形成されている側とは反対側)に、裏面電極66を備える。裏面電極66は支持基板65に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極66は、一例として、Ti/Au、Ti/Pt/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。ただし、導電性の支持基板65と第一電極51との間に電圧を印加できる構成であれば、赤外LED素子1が裏面電極66を備えるか否かは任意である。
【0083】
赤外LED素子1は、例えば以下の手順で製造することができる。
【0084】
InPからなる成長基板11をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板11上に、上述した各半導体層(21,22,23,31,32,24)を順次エピタキシャル成長させる(
図2参照)。成長させる層の材料、導電型、及び膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。各半導体層(21,22,23,31,32,24)の材料例は上述した通りである。
【0085】
次に、エピタキシャルウェハをMOCVD装置から取り出し、コンタクト層24の表面に、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクを利用して、開口部を含む絶縁層61を形成する。その後、当該開口部内に第二電極52を形成する材料を成膜する(
図3参照)。上述したように、コンタクト層24は、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaAs、GaInAs、及びGaAsからなる群に属する1種又は2種以上からなる、n型の半導体層である。このため、アニール処理を行うことなく、第二電極52とコンタクト層24との間でオーミック接触が得られる。
【0086】
次に、絶縁層61及び第二電極52を覆うように金属材料を蒸着して反射層62が形成され、その後に金属材料を蒸着して接合層63が形成される。
【0087】
次に、成長基板11とは別の導電性の支持基板65が準備され、接合層63を介して、成長基板11と支持基板65とが、例えば280℃の温度、1MPaの圧力下で貼り合わせられる(
図4参照)。その後、成長基板11に対して、研削研磨処理又は塩酸系エッチャントによるウェットエッチング処理が行われ、成長基板11が剥離される(
図5参照)。
【0088】
その後、エピタキシャルウェハを素子毎に分離するためのメサエッチングが施された後、第一クラッド層21の上面に第一電極51、支持基板65の裏面に裏面電極66がそれぞれ形成される(
図1参照)。なお、第一クラッド層21の上面に凹凸加工が施されても構わない。
【0089】
以上の説明によれば、
図1に示す赤外LED素子1は、n型の第一クラッド層21を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、+Z方向に関して第一クラッド層21の上層に配置された発光層22を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、+Z方向に関して発光層22の上層に配置されたp型の第二クラッド層23を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、+Z方向に関して第二クラッド層23の上層に配置され、第二クラッド層23よりもp型のドーパント濃度が高濃度の第一トンネル層31を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、+Z方向に関して第一トンネル31層の上層に配置され、第一クラッド層21よりもn型のドーパント濃度が高濃度であって第一トンネル層31との間でトンネル接合を形成する第二トンネル層32を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、+Z方向に関して第二トンネル層32の上層に配置されたn型のコンタクト層を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、第一クラッド層21に対して、直接又は導電性を示す非合金材料からなる層を介して接触する第一電極51を備える。
図1に示す赤外LED素子1は、n型のコンタクト層24に対して接触する第二電極52を備える。
第一クラッド層21及び発光層22は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなる。
【0090】
[検証]
以下、上述した赤外LED素子1を用いて行われた検証について説明する。
【0091】
(検証1)
実施例1、実施例2、及び比較例1の赤外LED素子を作成し、それぞれの光出力を対比した。
【0092】
実施例1及び実施例2の赤外LED素子として、
図1に示す赤外LED素子1が採用された。実施例1の赤外LED素子は、Z方向から見たときの発光層22の面積に対する第二電極52の占有領域の総面積の比率(以下、「電極比率」と略記される。)が4%とされた。実施例2の素子は、前記電極比率が30%とされた点を除けば、実施例1の素子と共通とされた。なお、前記電極比率の調整は、Z方向から見たときの第二電極52の外径、言い換えれば、絶縁層61の開口領域の内径を変えることで行われた。
【0093】
比較例1の赤外LED素子として、
図6に示す赤外LED素子101が採用された。
図6に示す赤外LED素子101は、
図1に示す赤外LED素子1とは異なり、トンネル接合用積層体30を備えておらず、絶縁層61内を貫通するように形成されたp側電極92がp型コンタクト層85と接触している。つまり、p側電極92とp型コンタクト層85とのオーミック接触を実現させる観点から、p側電極92の形成時にはアニール処理が行われることで、p側電極92とp型コンタクト層85の界面に合金層が形成された。p型コンタクト層85としては、厚みが200nmで、ドーパント材料としてのZnが濃度2×10
18/cm
3ドープされた、p型GaInAsPが採用された。
【0094】
また、比較例1の赤外LED素子101においては、Z方向から見たときの発光層22の面積に対するp側電極92の占有領域の総面積の比率(電極比率)は、実施例1と同じく4%とされた。上述したように、従来の赤外LED素子100においては、絶縁層84の面積に対するp側電極92の占有面積の割合は3%~5%程度であることから、4%の値は、この数値に基づいて決定された。つまり、比較例1の赤外LED素子1は、
図10を参照して上述した、従来の赤外LED素子100を模擬したものである。
【0095】
実施例1、実施例2、及び比較例1の各赤外LED素子に対して、50mAの電流を注入して点灯させ、光出力を測定した。光出力は、積分球方式に基づき、受光センサで受光された赤外光L1の光量に基づいて測定された。この結果を、下記表1に示す。
【0096】
【0097】
表1によれば、電極比率の値が同じ比較例1と実施例1を対比すると、比較例1よりも実施例1の方が光出力が向上していることが確認される。比較例1の赤外LED素子101においては、絶縁層61内を貫通して形成されたp側電極92とp型コンタクト層85との界面に合金層が介在することで、この合金層において光の一部が吸収されたものと推察される。これに対し、実施例1の赤外LED素子1においては、絶縁層61内を貫通して形成された第二電極52は、n型のコンタクト層24と接触することから、上述したようにアニール処理が不要となり、両層の間に合金層が介在しない。この結果、電極比率の値が同じであるにもかかわらず、比較例1よりも実施例1の方が光出力が向上したものと考えられる。
【0098】
更に、
図6に示す赤外LED素子101と比べて、
図1に示す赤外LED素子1の場合、p側の電極(92,52)が配置された領域における光吸収が抑制される。この結果、従来の赤外LED素子100が備えるp側電極92と比べて、第二電極52の占有領域を広げることができる。実施例2の素子のように、電極比率を30%に高めることで、比較例1よりも光出力が大幅に上昇することが確認される。
【0099】
(検証2)
赤外LED素子1において、p型の第一トンネル層31及びn型の第二トンネル層32の組成を異ならせた複数のサンプルを作製し、同一の電流量を注入するために必要な順方向電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
表2によれば、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の双方をInPで形成した場合と比べて、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の少なくとも一方に、Ga及びAsを含めることで、順方向電圧を低下できることが分かる。更に、第一トンネル層31と第二トンネル層32とを対比すると、p型である第一トンネル層31よりも、n型である第二トンネル層32のGa組成及びAs組成を大きくすることで、順方向電圧を更に低下できることが確認される。
【0102】
トンネル層を形成する材料のGa組成及びおよびAs組成を大きくすることは、バンドギャップエネルギーを小さくすること、言い換えればバンドギャップに相当する波長を長波長化することに対応する。つまり、n型である第二トンネル層32を構成する材料のバンドギャップに相当する波長が、p型である第一トンネル層31を構成する材料のバンドギャップに相当する波長よりも長波長となるように、第一トンネル層31及び第二トンネル層32の材料を選択することで、順方向電圧を低下させながらも、光出力の高い赤外LED素子が実現できることが分かる。
【0103】
(検証3)
赤外LED素子1において、p型の第一トンネル層31をInP、n型の第二トンネル層32をGaInAsPとし、それぞれのトンネル層のドーパント濃度を異ならせた複数のサンプルを作製し、同一の電流量を注入するために必要な順方向電圧を測定した。結果を
図7A及び
図7Bに示す。
【0104】
図7Aは、n型の第二トンネル層32のドーパント濃度(Si濃度)を1×10
19/cm
3で固定して、p型の第一トンネル層31のドーパント濃度(Zn濃度)を変化させたときの順方向電圧の変化の推移を示すグラフである。
図7Aによれば、p型の第一トンネル層31のドーパント濃度を高めるに伴い、順方向電圧がやや低下する傾向が認められる。
【0105】
図7Bは、p型の第一トンネル層31のドーパント濃度(Zn濃度)を7.5×10
18/cm
3で固定して、n型の第二トンネル層32のドーパント濃度(Si濃度)を変化させたときの順方向電圧の変化の推移を示すグラフである。
図7Bによれば、n型の第二トンネル層32のドーパント濃度を高めるに伴い、順方向電圧が上昇する傾向が認められる。このような現象が生じた理由は定かではないが、トンネル層を形成するためにドープされる不純物の濃度は極めて高いため、半導体結晶の歪みの量が増加する等、結晶性が低下したことが原因の一つと推察される。
【0106】
[別実施形態]
上述した赤外LED素子1においては、エピタキシャル成長後に支持基板65を貼り合わせた後、成長基板11が除去された。これに対して、成長基板11をそのまま残存させた素子としても構わない。
【0107】
例えば、
図8に示す赤外LED素子1aのように、成長基板11の主面上に、エピタキシャル成長した各半導体層(21,22,23,31,32,24)を備え、n型のコンタクト層24の上面に、アニール処理を行わずに第二電極52を形成し、成長基板11の裏面にアニール処理を行わずに第一電極51を形成するものとしても構わない。この場合、成長基板11としては、n型のInP基板とすることができる。成長基板11にドープされるn型のドーパント材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Snが特に好ましい。
【0108】
別の例として、
図9に示す赤外LED素子1bのように、成長基板11の主面上に、エピタキシャル成長した各半導体層(21,22,23,31,32,24)を備え、n型のコンタクト層24の上面に、アニール処理を行わずに第二電極52を形成し、n型の第一クラッド層21の一部上面に、アニール処理を行わずに第一電極51を形成するものとしても構わない。
【0109】
なお、
図9に示す赤外LED素子1bは、例えば以下の手順で製造することができる。すなわち、
図2に示す状態から一部領域の半導体層がエッチングによって除去され、第一クラッド層21が露出される。その後、プラズマCVD法を用いて半導体積層体の全面に絶縁層59が成膜される。一例として、SiO
2からなる絶縁層59が膜厚200nm成膜される。
【0110】
その後、フォトリソグラフィ及びエッチングの技術を用いて、異なる位置において、それぞれ絶縁層59内を貫通するように、第一電極51及び第二電極52が形成される。より詳細には、第一電極51は、露出したn型の第一クラッド層21に接触するように配置され、第二電極52は、露出したn型のコンタクト層24に接触するように配置される。このとき、アニール処理が行われることなく、第一電極51とn型の第一クラッド層21との界面、及び第二電極52とn型のコンタクト層24との界面は、いずれもオーミック接触が形成される。その後、金属材料が各電極(51,52)の上面に蒸着され、パッド電極(55,56)が形成される。
【0111】
図8に示す赤外LED素子1a、及び
図9に示す赤外LED素子1bにおいても、p型の第二クラッド層23に対して電位を供給するための電極、すなわちp側の電極を構成する第二電極52が、n型のコンタクト層24の上面に配置される。よって、第二電極52の占有領域における、赤外光L1の吸収量が抑制され、従来よりも光出力が向上する。
【0112】
図8に示す赤外LED素子1a及び
図9に示す赤外LED素子1bは、いずれも、n型の第一クラッド層21と、+Z方向に関して第一クラッド層21の上層に配置された発光層22と、+Z方向に関して発光層22の上層に配置されたp型の第二クラッド層23と、+Z方向に関して第二クラッド層23の上層に配置され、第二クラッド層23よりもp型のドーパント濃度が高濃度の第一トンネル層31と、+Z方向に関して第一トンネル31層の上層に配置され、第一クラッド層21よりもn型のドーパント濃度が高濃度であって第一トンネル層31との間でトンネル接合を形成する第二トンネル層32と、+Z方向に関して第二トンネル層32の上層に配置されたn型のコンタクト層と、第一クラッド層21に対して、直接又は導電性を示す非合金材料からなる層を介して接触する第一電極51と、n型のコンタクト層24に対して接触する第二電極52とを備え、第一クラッド層21及び発光層22は、InP単結晶に対して格子整合可能な材料からなる。
【符号の説明】
【0113】
1,1a,1b :赤外LED素子
11 :成長基板
20 :LED積層体
21 :第一クラッド層
22 :発光層
23 :第二クラッド層
24 :コンタクト層
30 :トンネル接合用積層体
31 :第一トンネル層
32 :第二トンネル層
51 :第一電極
52 :第二電極
61 :絶縁層
62 :反射層
63 :接合層
64 :金属層
65 :支持基板
66 :裏面電極
L1 :赤外光