(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106504
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物およびその製造方法ならびに不織布、水処理用分離膜
(51)【国際特許分類】
C08G 63/672 20060101AFI20240801BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20240801BHJP
D04H 3/14 20120101ALI20240801BHJP
D04H 3/147 20120101ALI20240801BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20240801BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240801BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240801BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20240801BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08G63/672
D04H3/16
D04H3/14
D04H3/147
D04H3/011
B01D69/10
B01D71/02
B01D71/48
B01D71/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010785
(22)【出願日】2023-01-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】町田 華菜子
(72)【発明者】
【氏名】渡 一平
(72)【発明者】
【氏名】牧野 正孝
【テーマコード(参考)】
4D006
4J029
4L047
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA09
4D006MB20
4D006MC01
4D006MC18
4D006MC29
4D006MC45
4D006MC48
4D006MC56
4D006MC58
4D006MC62X
4D006MC63
4D006NA04
4D006NA40
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB03
4D006PB08
4J029AA03
4J029AB01
4J029AC03
4J029AD01
4J029AD06
4J029AE02
4J029BA03
4J029BF25
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029HB03A
4J029JA091
4J029JB171
4J029JC583
4J029JE182
4J029JF041
4J029JF043
4J029JF471
4J029JF571
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE06
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB07
4L047BA08
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA19
4L047CB01
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】 不織布へ加工した際に有機不純物の溶出抑制を示すポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】 重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールおよびモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物を含有するポリエステル組成物であって、ポリアルキレングリコールの結合率が70%以上であるポリエステル組成物により解決される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールと、
モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物と、
を含有するポリエステル組成物であって、
ポリアルキレングリコールの結合率が70%以上である、ポリエステル組成物。
【請求項2】
前記アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の含有量が、以下の式を満たす、請求項1に記載のポリエステル組成物。
0.30≦X/P≦2.50 ・・・式
ここで、Xはアルカリ金属化合物中のアルカリ金属量(mol)とアルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属量(mol)の合計(mol)であり、Pはポリアルキレングリコール量(mol)である。
【請求項3】
前記ポリエステル組成物に対する前記ポリアルキレングリコールの含有量が2質量%以上14質量%以下である、請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
前記アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル組成物を構成する全ジカルボン酸残成分に対してテレフタル酸残基が87.5mol%以上99.0mol%以下である、請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル組成物を構成する全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸残基が1.0mol%以上12.5mol%以下である、請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールの重縮合反応を行うポリエステル組成物の製造方法であって、
重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールと、
モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物と、
が混合処理された混合物を、前記複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールのエステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応開始時に添加し、ポリアルキレングリコールの結合率を70%以上とする工程を含む、ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載のポリエステル組成物により構成される、不織布。
【請求項9】
請求項8に記載の不織布を含む、水処理用分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布へ加工した際に有機不純物の溶出抑制を示すポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浄水場での水処理に用いられる精密濾過膜、限外濾過膜や、海水淡水化に用いられる逆浸透膜の基材(支持体)として、ポリエステルスパンボンド不織布が好適に用いられている。このような用途に用いられる場合、一般に、ポリエステルスパンボンド不織布上に微細多孔形成性の高分子溶液をコーティングし、その後溶液を除去して高分子成分を凝固させることで不織布上に濾過膜(分離膜)を形成させる。
【0003】
例えば、特許文献1では、2層以上の不織布シートが積層加工により一体化されてなる不織布であって、沸騰水中で5分間処理した後の沸騰水カール高さが特定の範囲である不織布が提案されている。そして、この不織布によれば、優れた製膜性、優れた加工性、機械的強度を有する不織布が得られる旨、記載されている。
【0004】
特許文献2では、ポリエステルを主成分とする熱可塑性樹脂からなる長繊維不織布であって、前記ポリエステルの少なくとも一部に1,2-プロパンジオール由来の成分が特定量含有されている長繊維不織布が提案されている。そして、この長繊維不織布によれば、耐摩耗性と強度に優れた長繊維不織布が得られること、長繊維不織布同士の接着性に優れ、膜形成後のカールを抑えた逆浸透膜等に好適な膜基材が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-29221号公報
【特許文献2】特開2018-138704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の水処理用途、すなわち、飲料水を得る目的でポリエステルスパンボンド不織布を基材(支持体)とした濾過膜(分離膜)を用いる場合、濾過精製後の溶液中の水質に一定の指標が設けられている。中でも有機不純物量を示す全有機体炭素(TOC:Total Organic Carbon)量が「水の汚れ」を示す指標の一つとして用いられる。一般に、TOC量は、水道水の水質の基準項目として、3.0mg/mL以下が規定されているため、支持体から溶出されるTOC量はその基準値(3.0mg/L)よりもさらに低い量が求められる。
【0007】
しかしながら、特許文献1や2で提案された技術は、融点制御成分のみを共重合したポリエチレンテレフタレートを鞘成分とした芯鞘型複合繊維を用いたスパンボンド不織布であり、TOC量は規定値以下とすることができるものの、スパンボンド不織布と分離膜との接着性に改善の余地があり、TOC量の制御と膜剥離強度の向上の両立が十分には得られていない。
【0008】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、TOC量の低減と高い膜剥離強度の両立可能な不織布を得ることができる、ポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するべく、国際公開第2019/146660号や特開2006-299424号公報に開示された、ポリエチレングリコールを共重合した長繊維不織布が分離膜支持体に適用できるかどうか試みた。しかしながら、これらの長繊維不織布は、条件によってはTOCが従来のものより増加してしまうという知見を得た。そこで、さらに鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル組成物が、ポリエチレングリコールおよびアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有するものであり、後述される結合率が一定以上であることにより、TOC量を極めて低い水準に制御可能であり、膜剥離強度の向上が可能であることを見出した。
【0010】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
[1] 重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールと、モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物と、を含有するポリエステル組成物であって、ポリアルキレングリコールの結合率が70%以上である、ポリエステル組成物。
【0012】
[2] 前記アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の含有量が、以下の式を満たす、前記[1]に記載のポリエステル組成物
0.30≦X/P≦2.50 ・・・式
ここで、Xはアルカリ金属化合物中のアルカリ金属量(mol)とアルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属量(mol)の合計(mol)であり、Pはポリアルキレングリコール量(mol)である。
【0013】
[3] 前記ポリエステル組成物に対する前記ポリアルキレングリコールの含有量が2質量%以上14質量%以下である、前記[1]または[2]に記載のポリエステル組成物。
【0014】
[4] 前記アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【0015】
[5] 前記ポリエステル組成物を構成する全ジカルボン酸残成分に対してテレフタル酸残基が87.5mol%以上99.0mol%以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【0016】
[6] 前記ポリエステル組成物を構成する全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸残基が1.0mol%以上12.5mol%以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【0017】
[7] 複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールの重縮合反応により得られるポリエステル組成物の製造方法であって、重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールと、モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物と、が混合処理された混合物を、前記複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールのエステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応開始時に添加し、ポリアルキレングリコールの結合率を70%以上とする工程を含む、ポリエステル組成物の製造方法。
【0018】
[8] 前記[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル組成物により構成される、不織布。
【0019】
[9] 前記[8]に記載の不織布を含む、水処理用分離膜。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリアルキレングリコールを共重合したポリエステル組成物であって、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有し、後述される結合率が一定以上であることにより、例えば、水処理用分離膜へ展開した際に、TOC量の低減と分離膜の剥離強度の向上が期待できる。このような組成物は、特に不織布へと加工することで、水処理用分離膜の他、防砂シート、断熱シート、遮音シート等の構成材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリエステル組成物は、重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールと、モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物と、を含有するポリエステル組成物であって、ポリアルキレングリコールの結合率が70%以上である。
【0022】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
[ポリエステル組成物]
<1>ポリアルキレングリコール
本発明のポリエステル組成物は、まず、重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールを含有する。
【0024】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、片末端メチル基封鎖型ポリエチレングリコール(MPEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)およびポリテトラメチレングリコール(PTMG)が挙げられ、特にポリエステル組成物の親水性を促進する効果を示し、不織布のウエブ形成性・製布性が良好である点において、PEG、またはMPEGであることが好ましく、PEGがより好ましい。
【0025】
前記のポリアルキレングリコールの重量平均分子量は7000以上25000以下である。前記重量平均分子量は、好ましくは15000以上、より好ましくは18000以上であることで、本発明のポリエステル組成物によって構成される不織布を水処理用の分離膜基材として採用した際において、分離膜形成成分との親和性が向上し、分離膜との接着性が強固になる。一方で、前記重量平均分子量は、好ましくは22000以下であることで、共重合時の反応性の低下を抑制することができ、例えば水処理用の分離膜基材として使用することを想定した際にTOC量を抑制することができる。また、本発明のポリエステル組成物を紡糸速度が速い条件にて紡糸する時に発生してしまう繊維径の変動(バラつき)による糸切れを抑制することができ、ひいては得られる不織布の強度を高めることができる。
【0026】
なお、前記のポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)を用いて、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) ポリアルキレングリコール含有量が6mgとなるように、ポリエステル組成物を秤量し(例えば、ポリアルキレングリコール共重合量が8質量%の時は、ポリエステル組成物を75mg採取する)、1mLの28%アンモニア水中にて120℃で5時間加熱溶解し、放冷後、6M塩酸1.5mLを加え、精製水で5mL定容、遠心分離後、0.45μmフィルターにて濾過する。
(2)(1)で得た溶液を60℃、200hPaの条件下でロータリーエバポレーター(例えば、東京理化器械株式会社製「N-1000」など)にて溶媒(水)を除去する。
(3) (2)で得られた析出物にメタノールを5mL加え、溶解させる。
(4) (3)で得た溶液を40℃、200hPaの条件下でロータリーエバポレーター(例えば、東京理化器械株式会社製「N-1000」など)にてメタノールを除去し、さらに60℃、200hPaの条件下でエチレングリコールを除去する。
(5) (4)で得られた析出物15mgを1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール-D2(重水素化HFIP)1mLに溶解させ、核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)を用い、13C-NMR、積算回数128回にて分析する。
(6) NMR測定で得られるポリアルキレングリコールのOH末端に結合している炭素(C)ピークの積分値とポリアルキレングリコール構造中のOH末端に結合していない炭素(C)の積分値より、ポリアルキレングリコ―ルの分子量を算出する。
【0027】
本発明のポリエステル組成物において、ポリアルキレングリコールの含有量は、ポリエステル組成物に対して2質量%以上14質量%以下であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの含有量を2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であることで、水処理用の分離膜基材として採用した際において、分離膜形成成分との親和性が向上し、分離膜との接着性が強固になるという効果を得ることができる。一方で、前記含有量は、14質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であることで、例えば水処理用の分離膜基材として使用することを想定した際にTOC量を抑制することができる。また、紡糸速度が速い条件にて紡糸する際に発生してしまう繊維径の変動(バラつき)による糸切れを抑制することができ、ひいては得られる不織布の強度を高めることができる。
【0028】
なお、前記のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)は、核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)を用いて、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) ポリエステル組成物を15mg採取し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール-D2(重水素化HFIP)1mLに溶解させる。
(2) 溶液を核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)を用い、積算回数128回にて分析し、ポリエチレングリコール中のCH2ピークの積分値とポリエステル構造中のベンゼン環(H)の積分値によりポリアルキレングリコールの含有量(質量%)を算出する。
【0029】
本発明のポリエステル組成物において、ポリアルキレングリコールの結合率は70%以上である。前記結合率は好ましくは72%以上、より好ましくは75%以上であることで、未反応のポリアルキレングリコールが減少し、本発明のポリエステル組成物によって構成される不織布を水処理用の分離膜基材として採用した際において、TOC量を抑制することができる。TOC量の抑制は後述するが、ポリアルキレングリコールに混合するアルカリ金属化合物量および/またはアルカリ土類金属化合物量を所望の範囲とし、後述する混合方法とすることで、ポリアルキレングリコールの反応性を向上させる効果を得ることができ、所望の結合率を達成できる。一方、結合率の上限は、100%である。
【0030】
なお、前記のポリアルキレングリコールの結合率は、ポリエステル組成物の精製前後におけるポリアルキレングリコールの含有量から算出される質量割合のことを指す。そして、この質量割合は、ポリエステル組成物中の全ポリアルキレングリコールのうち、ポリエステル組成物の主骨格(本発明における主骨格とは、ポリエステル組成物中に最も多く含む炭素鎖であるものとする。以下、同様)と結合されているものの質量割合とみなす。精製前のポリアルキレングリコール含有量(質量%)は前記の組成分析によって算出され、精製後のポリアルキレングリコール含有量(質量%)は以下の方法によって測定、算出される。
(1) ポリエステル組成物を1g採取し、100mLの1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶解し、メタノール500mLに滴下し析出させ、風乾する。
(2) 風乾後の析出物15mgを採取し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール-D2(重水素化HFIP)1mLに溶解させる。
(3) 溶液を核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)を用い、積算回数128回にて分析し、ポリエチレングリコール中のCH2ピークの積分値とポリエステル構造中のベンゼン環(H)の積分値により精製後のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)を算出する。
【0031】
そして、この精製後のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)を、前記の精製前のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)で除して百分率とし、小数点以下第1位で四捨五入することにより、結合率(%)を算出する。
【0032】
含有成分であるポリアルキレングリコールは、一般に、耐熱性が低く、重合反応中に熱分解し分子量が低下する。そのため、ポリエステル組成物中に分解ポリアルキレングリコール量が増加する。また、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量の増加に伴い、反応性も低下する。そのため、ポリエステル組成物中に未反応ポリアルキレングリコールが増加する。そして、前記分解ポリアルキレングリコールおよび未反応ポリアルキレングリコールが増加した場合、そのポリエステル組成物により構成される不織布を水処理用の分離膜基材として採用した際において、TOC量が増加する。
【0033】
前記のポリアルキレングリコールの熱分解は、一般に、公知の酸化防止剤、例えばBASFジャパン株式会社製の「IR1010(イルガノックス(登録商標)1010)」などを添加することで抑制することが可能である。しかしながら、公知の酸化防止剤では、ポリアルキレングリコールの熱分解を十分に抑制するためには多量の酸化防止剤を添加する必要があり、得られるポリエステル組成物の色調が黄色く着色してしまう。また、ポリアルキレングリコールの反応性は、一般に、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量を低下させることで向上させることが可能である。
【0034】
しかしながら、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量を低下させると、ポリアルキレングリコールを含有したポリエステル組成物の親水性が低下し、そのポリエステル組成物によって構成される不織布を水処理用の分離膜基材として使用した際において、分離膜形成成分との親和性が低下し、膜剥離強度が低下してしまう。
【0035】
これらの課題を解決するために鋭意検討した結果、後述するアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有することでポリアルキレングリコールの熱分解が抑制され、かつポリアルキレングリコールの反応性が向上することを見出したのである。
【0036】
<2>アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物
次に、本発明のポリエステル組成物は、モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物も含有する。
【0037】
アルカリ金属化合物とは、アルカリ金属、すなわち、周期表において第一族に属する元素の化合物であり、具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の化合物が挙げられる。また、アルカリ土類金属化合物とは、アルカリ土類金属、すなわち、周期表において第二族に属する元素の化合物であり、具体例として、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。中でも、イオン化エネルギーが小さく、アルカリ金属またはアルカリ土類金属がイオン化しやすい、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの化合物であることが好ましく、より好ましくはカリウム、ナトリウムの化合物であることで、ポリアルキレングリコールの熱分解抑制および反応性向上が可能となり、さらには異物化が抑制され濾過性評価時の濾圧上昇を抑制することができる。
【0038】
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物の好ましい具体例としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、または酢酸塩等が挙げられる。ここで、本発明においては、ポリエステル組成物中において、アルカリ金属、アルカリ土類金属がイオン状態で含有されるものも、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、または酢酸塩等として含有されるものであるとする。
【0039】
また、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物の中でも水酸化物はアルカリ金属、アルカリ土類金属がイオン化しやすく、ポリマーに溶解しやすいためポリアルキレングリコールの熱分解抑制および反応性向上効果が大きくなる。そのため、前記のアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物(以降、単に「アルカリ金属化合物等」と略記することがある)が、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物であることが好ましい。
【0040】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられる。
【0041】
そして、本発明のポリエステル組成物は、アルカリ金属化合物等のモル質量は40g/mol以上90g/mol以下である。アルカリ金属化合物等のモル質量は、好ましくは50g/mol以上80g/mol以下であることで、ポリアルキレングリコールの熱分解抑制と反応性が向上し、本発明のポリエステル組成物によって構成する不織布を水処理用の分離膜基材として採用した際において、TOC量を抑制することができる。
【0042】
熱分解抑制および反応性向上には一定以上のモル質量を有するアルカリ金属化合物等が必要であり、前記のモル質量が40g/molを下回ると、アルカリ金属化合物等の含有量を増加させないと十分な効果が得られず、その結果、ポリエステル組成物の色調が黄色くなってしまう傾向にある。また、異物が発生しやすくなり、紡糸時の口金部分に補足され、糸切れが発生しやすくなる傾向にあるため、好ましくない。一方で、モル質量が90g/molを上回ると、アルカリ金属化合物等がポリマーに溶解しにくくなり、異物が発生しやすくなり、紡糸時の口金部分に補足され、糸切れが発生しやすくなる傾向にあるため、好ましくない。
【0043】
なお、本発明において、ポリエステル組成物が「モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物を含有する」とは、アルカリ金属・アルカリ土類金属の含有量が後述する測定方法において、検出下限以上であって、対応する陰イオン(水酸化物イオン等)が検出されるポリエステル組成物であることを指す。
【0044】
本発明のポリエステル組成物は、前記のアルカリ金属化合物等が、以下の式を満たすことが好ましい
0.30≦X/P≦2.50 ・・・式
ここで、Xはアルカリ金属化合物中のアルカリ金属量(mol)とアルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属量(mol)の合計(mol)であり、Pはポリアルキレングリコール量(mol)である。
【0045】
上記のポリアルキレングリコール量に対するアルカリ金属量・アルカリ土類金属量の合計量の比(X/P、以降、単に「含有量比」と記載することがある)は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.70以上であることで、ポリアルキレングリコールのイオン化が進行し、反応を促進することにより、ポリアルキレングリコールの熱分解が抑制され、さらに、反応性が向上されるため、本発明のポリエステル組成物によって構成する不織布を水処理用の分離膜基材として採用した際において、TOC量を抑制することができる。一方で、前記の含有量比は、好ましくは2.50以下、より好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.50以下であることで、アルカリ金属化合物等によるポリエステル組成物の色調悪化を抑制でき、異物発生による紡糸時の糸切れも抑制することができる。
【0046】
なお、ポリエステル組成物中の、アルカリ金属化合物中のアルカリ金属量(mol)、アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属量(mol)、そしてポリアルキレングリコール量(mol)は、それぞれ、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。また、以下の方法で得られたアルカリ金属量(mol)とアルカリ土類金属量(mol)の合計X(mol)をポリアルキレングリコール量P(mol)で除し、小数点以下第3位で四捨五入することで、含有量比(X/P)を算出することができる。
【0047】
<アルカリ金属量(mol)、アルカリ土類金属量(mol)>
(1) 前処理として、試料をテフロン製容器に秤量し、硫酸、硝酸、フッ化水素酸および過塩素酸で加熱分解した後、硫酸白煙が生じるまで濃縮し、希硝酸に溶かし定容液とする。
(2) ICP質量分析装置(ICP-MS、例えば、AgilentTechnologies社製「Agilent8800」など、アルカリ金属元素量、アルカリ土類金属元素量の検出下限は0.02ppmである。)を用い、アルカリ金属元素量(ppm)およびアルカリ土類金属元素量(ppm)を測定する。
(3) 基準となる質量を1gとして、(2)で得られたアルカリ金属量およびアルカリ土類金属元素量(ppm)を乗じてアルカリ金属量およびアルカリ土類金属量(g)を算出し、それぞれの金属種について、各アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素のモル質量(g/mol)で除し、一の位で四捨五入することで各元素の含有量Xi(mol)を算出する。
(4) 各元素の含有量Xiを合計して、アルカリ金属化合物中のアルカリ金属量(mol)とアルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属量(mol)の合計X(mol)を算出する。すなわち、
X=XLi+XNa+・・・+XBe+XMg+・・・
である。ここで、XLiはリチウム元素の含有量(mol)であり、XNaはナトリウム元素の含有量(mol)であり以降、同様である。
【0048】
<ポリアルキレングリコール量(mol)>
基準となる質量を1gとして、前述の方法により算出したポリアルキレングリコールの含有量で乗じてポリアルキレングリコール量(g)を算出し、前述の方法で得たポリアルキレングリコールの分子量で除し、一の位で四捨五入することでモル量を算出する。
【0049】
<3>その他の含有成分、共重合成分など
本発明のポリエステル組成物は、重縮合反応させる際に複数のエステル形成性化合物を共重合させてなるポリエステル組成物であってもよい。具体的には、2種のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体と、2種のアルキレングリコールおよび/またはポリアルキレングリコールの重縮合反応により得られるポリエステル組成物であることが好ましい。
【0050】
なかでも、ポリエステル組成物の主骨格(本発明における主骨格とは、ポリエステル組成物中に最も多く含む炭素鎖であるものとする。)がポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートであるものが熱安定性や耐薬品性の観点から好ましい。特に、強度に優れる点からポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
以下に好適に使用される共重合成分を例示するが、それらは本発明の組成を限定するものではない。
【0051】
なお、本発明のポリエステル組成物において、その組成分析は、後述する特定の化合物については必要な前処理をした上で、核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)、重溶媒として1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール-D2(重水素化HFIP)を用い、重溶媒1mLに対し測定サンプル50mgのサンプル濃度で積算回数128回として行うこととする。
【0052】
本発明のポリエステル組成物に用いることのできるジカルボン酸としては、テレフタル酸やイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウムに代表される芳香族ジカルボン酸化合物、アジピン酸やセバシン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸化合物、シクロヘキサンジカルボン酸に代表される脂環式ジカルボン酸化合物が挙げられ、これらのエステル形成性誘導体、特にジメチル体も原料として好適に用いることができる。特に、最終的に得られる不織布の強度を向上させる目的で、テレフタル酸またはそのジメチル体とイソフタル酸またはそのジメチル体を用いることが好ましい。ポリエステル組成物に含有される全ジカルボン酸成分に対するテレフタル酸残基の割合は、好ましくは87.5%以上、より好ましくは88.5モル%以上でありことで、分子構造の直鎖から単繊維そのものの強度を向上させることができ、例えば水処理用の分離膜基材として使用することを想定した際に基材強度を向上させることができる。一方で、テレフタル酸残基の割合は好ましくは99.0モル%以下、より好ましくは95.0モル%以下、さらに好ましくは89.0モル%以下であることで、ポリエステル組成物の結晶量を抑制でき、例えば水処理用の分離膜基材として使用することを想定した際にカレンダー加工時の繊維間の接着性を向上させて強度を高めることができる。
【0053】
さらに、ポリエステル組成物に含有される全ジカルボン酸成分に対するイソフタル酸残基の割合は、好ましくは1.0モル%以上、より好ましくは5.0モル%以上、さらに好ましくは11.0モル%以上であることで、ポリエステル組成物の結晶量を抑制し、かつ融点を低下させることで、不織布としてカレンダー加工した際の繊維間の接着性を向上させて強度を高めることができる。一方、イソフタル酸残基の割合は、好ましくは12.5モル%以下、より好ましくは11.5モル%以下であることで、結晶量の過剰な低下を抑制し、単繊維そのものの強度を向上させることができる。また、イソフタル酸残基の一部が金属スルホネート基含有イソフタル酸残基、好ましくは5-スルホイソフタル酸ナトリウム残基に置き換えられていてもよい。
【0054】
前記ポリエステル組成物に含有されるジカルボン酸残基の構造・含有量の同定は、前記の組成分析の方法に基づいて組成分析を行う。
【0055】
本発明のポリエステル組成物には、他の特性を付与するために、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる紫外線吸収剤、ヒンダ―ドアミン系光安定剤、難燃剤、着色用の顔料や酸化防止剤などの添加物、あるいは、他の重合体が必要に応じて添加されていてもよい。例えば、顔料として、酸化チタン粒子を含んでいてもよく、この場合には、酸化チタン粒子を含むことによって繊維間摩擦が低減され、さらに熱圧着時の熱伝導性が高くなることで不織布の表面平滑性を向上させる効果が期待できる。また、酸化防止剤としては、例えば、[ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート)](例えば、BASFジャパン株式会社製IR1010(イルガノックス(登録商標)1010))を例示することができる。
【0056】
<4>ポリエステル組成物の特性
本発明のポリエスエル組成物の固有粘度IVは0.65以上0.70以下であることが好ましい。より好ましくは0.66以上0.69以下であることで、溶融紡糸挙動を安定化させ糸切れや繊度ムラを抑制することができる。
【0057】
なお、ポリエステル組成物の固有粘度IVは、得られたポリエステル組成物を、o-クロロフェノール溶媒に溶解し、0.5g/dL、0.2g/dL、0.1g/dLの濃度の溶液を調整し、得られた濃度Cの溶液の25℃における相対粘度ηrを、ウベローデ粘度計により測定し、(ηr
-1)/CをCに対してプロットし、得られた結果を濃度0に外挿することにより求めることができる。
【0058】
本発明のポリエステル組成物の融点は225℃以上235℃以下であることが好ましい。より好ましくは、228℃以上232℃以下であることで、不織布製造時、具体的にはカレンダー加工時に繊維間融着を速やかに完了させ、強度に優れた不織布を得ることができる。
【0059】
なお、本発明において、ポリエステル組成物の融点は、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 前処理として、ポリエステル組成物を窒素気流下290℃で5分間溶融後50℃/分で室温まで急冷する。
(2) 示差走査熱量計(DSC、例えば、TA Instruments社製「Q-2000」など)を用い、以下の条件で融点を測定する。
・昇温速度:16℃/分
・測定温度:-20℃から300℃まで
(3) (2)で得られた融点(℃)について、小数点以下第1位で四捨五入する。
【0060】
本発明のポリエステル組成物の粘度保持率は70%以上であることが好ましい。より好ましくは72%以上、さらに好ましくは74%以上であることで、不織布製造時の滞留安定性が向上し、糸切れの発生がなく紡糸性が安定化し、表面平滑性の優れる不織布を得ることができる。
【0061】
なお、本発明において、ポリエステル組成物の粘度保持率は、以下の方法によって、測定、算出される値のことを指す。
(1) 前処理として、チップ状に成型したポリエステル組成物を100Pa以下、130℃で12時間乾燥させる。
(2) 乾燥したポリエステル組成物を20g測り取り、キャピログラフ(例えば、株式会社東洋精機製作所製「PMD-C」など)を用い、押出速度を変化させて以下の条件で各剪断速度における粘度を測定する。
・温度:290℃
・キャピラリー長:40mm
・キャピラリー孔径:1mm
・測定剪断速度:60.8、243、608、1220、2430、6080sec-1
・滞留時間:4、20分
(3) (2)で得られた剪断速度243sec-1における粘度(poise)について、小数点以下第2位で四捨五入する。
(4) (3)で得られた滞留時間20分時の粘度を滞留時間4分時の粘度で除して、その小数点以下第1位を四捨五入する。
【0062】
本発明のポリエステル組成物の色調(L値)は、70以上であることが好ましい。L値は好ましくは70以上、より好ましくは72以上、さらに好ましくは75以上であることで、異物やポリアルキレングリコールの分解物が少ない指標となり、不織布製造時の着色がなく白色の不織布を得ることができる。
【0063】
なお、本発明において色調(L値)は、以下の方法におって測定される値のことを指す。
(1) ポリエステル組成物をチップ状に成型し、石英ガラス製の容器に充填する。
(2) ハンター型色差計(例えば、スガ試験機株式会社製「SM-カラーコンピューター型式SM-3」など)を用い、測定する。
(3) (2)で得られたL値について、小数点以下第1位で四捨五入する。
【0064】
本発明のポリエステル組成物の濾過性評価時における濾圧上昇値は、3.0MPa/時間以下が好ましい。濾圧上昇値を好ましくは3.0MPa/時間以下、より好ましくは1.5MPa/時間以下、さらに好ましくは0.9MPa/時間以下、特に好ましくは0.5MPa/時間以下であることで、濾過性評価時のフィルター捕集異物やゲル状物が少ない指標となり、不織布製造時の糸切れがなく紡糸性が安定化し、表面平滑性の優れる不織布を得ることができる。
【0065】
なお、本発明において、濾圧上昇値は以下の方法によって、測定、算出される値のことを指す。
(1) 前処理として、チップ状に成型したポリエステル組成物を100Pa以下、130℃で12時間乾燥させる。
(2) 乾燥したポリエステル組成物をプレッシャーメルター型やエクストルーダー型などの溶融紡糸機へ供給し、溶融しながら計量ポンプで計量する。
(3) 目開きが5μmのフィルターをセットした加温済の紡糸パックへ導入して、紡糸パック内で溶融ポリマーを濾過し紡糸口金から吐出して繊維糸条とする。
(4) 1時間濾過した時の濾圧(MPa)と初期圧(MPa)の差分を濾圧上昇値(ΔP)(MPa)とした。
【0066】
[ポリエステル組成物の製造方法]
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールの重縮合反応を行うポリエステル組成物の製造方法であって、重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコールと、モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物と、が混合処理された混合物を、前記複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールのエステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応開始時に添加し、ポリアルキレングリコールの結合率を70%以上とする工程を含む。
【0067】
まず、本発明のポリエステル組成物の製造方法は、複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールの重縮合反応により得られる。
【0068】
このポリエステル組成物の製造方法において、ポリエステル組成物を構成する全ジカルボン酸残成分に対してテレフタル酸残基が主となる場合を例にとって説明すると、その場合のポリエステル組成物は、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応、またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応によって、テレフタル酸のグリコールエステルまたはその低重合体を生成させる第一段階の反応、そして第一段階の反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱し、所望の重合度となるまで重縮合反応を行う第二段階の反応によって合成できる。
【0069】
エステル化反応は無触媒においても反応が進むが、エステル交換反応は通常、リチウム、マンガン、コバルト、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の化合物を触媒に用いて進行させる。エステル化反応、またはエステル交換反応が実質的に完結した後に、安定剤であるリン化合物添加が行われてもよい。このリン化合物としては、リン酸あるいはリン酸トリメチルが好ましく用いられる。
【0070】
重縮合反応触媒としては、アンチモン系化合物、チタン系化合物、ゲルマニウム系化合物などの化合物等を用いることができる。特に、三酸化アンチモンが重縮合活性に優れている。これら重縮合触媒の働きを補助でき、かつポリマー色調の調整が可能なコバルト化合物を重縮合反応触媒と同時に添加してもよい。コバルト化合物としては、酢酸コバルトが好ましく用いられる。
【0071】
本発明のポリエステル組成物において、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体と重縮合反応させるアルキレングリコールとしては、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、エチレングリコールのいずれか、またはそれらの組み合わせから選択されることが好ましい。特に、得られるポリエステル不織布の寸法安定性に優れる点において、エチレングリコールを主として用いることが最も好ましい。
【0072】
なお、ポリエステル組成物に含まれる各ジオール残基の構造・含有量の同定は、前記の[ポリエステル組成物]の<3>で記載した組成分析の方法に基づいて組成分析を行う。
【0073】
本発明のポリエステル組成物の熱特性を制御するため、例えばジカルボン酸成分としてテレフタル酸残基、イソフタル酸残基2種と、ジオール成分としてエチレングリコール残基、ポリアルキレングリコール残基の2種を上記記載の範囲で含むポリエステル組成物とすることが好ましい。これらを組み合わせることにより、相乗的に熱特性改質効果が得られるが、これらは例示で合って記載の共重合成分を含む組成物に限定されるものではない。
【0074】
2種のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、2種のジオール成分を原料としてポリエステル組成物を合成する場合、2種目のジカルボン酸成分やジオール成分の添加時期は、1種のジカルボン酸成分とジオール成分を用いてエステル化反応またはエステル交換反応を開始させるのと同時、あるいはエステル化反応またはエステル交換反応が開始してから重縮合反応が開始されるまで、さらには重縮合反応が実質的に終了するまでの任意の段階でよい。
【0075】
本発明のポリエステル組成物の製造方法においては、ポリアルキレングリコールの添加は、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を混合した後に一定時間撹拌した後に添加する方法が好ましい。事前に混合することで、ポリアルキレングリコールのイオン化が進行し、反応を促進することにより、ポリアルキレングリコールの結合率が高まり、例えば、水処理用分離膜へ展開した際に、TOC量の低減が期待できるため好ましい。
【0076】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、前記の混合物は、以下の<1>、<2>が混合処理されたものである。
<1>重量平均分子量が7000以上25000以下のポリアルキレングリコール
<2>モル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ金属化合物および/またはモル質量が40g/mol以上90g/mol以下のアルカリ土類金属化合物
ここで、<1>のポリアルキレングリコールは、前記の[ポリエステル組成物]の<1>で記載したポリアルキレングリコールであり、<2>のアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物は、前記の[ポリエステル組成物]の<2>で記載したアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物である。このように、混合処理をした混合物を添加することで、ポリアルキレングリコールのイオン化が進行し、反応を促進するため、ポリアルキレングリコールの結合率が高まり、例えば、水処理用分離膜に用いた際に、TOC量の低減が期待できるため好ましい。
【0077】
この混合物は、前記複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールのエステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応開始時に添加し、ポリアルキレングリコールの結合率を70%以上とする。ポリアルキレングリコールの結合率を70%以上とすることについては、前記の[ポリエステル組成物]の<1>で記載したとおりである。
【0078】
また、前記したとおり、本発明のポリエステル組成物について、他の特性を付与するために、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる紫外線吸収剤、ヒンダ―ドアミン系光安定剤、難燃剤、着色用の顔料や酸化防止剤などの添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができるのは言うまでもない。
【0079】
これら添加剤の添加時期は、エステル化反応またはエステル交換反応を開始させるのと同時、あるいはエステル化反応またはエステル交換反応が開始してから重縮合反応が終了するまでの任意の段階でよい。
【0080】
[不織布]
本発明のポリエステル組成物は、前述のとおり不織布へと加工した際には、優れた親水性を発現できることから、本発明の不織布は、前記ポリエステル組成物によって構成されることが好ましい。
【0081】
不織布としては、原料、ウエブの形成方法、シート化方法の違いにより、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの長繊維不織布、短繊維不織布、抄紙不織布が挙げられるが、特にスパンボンド不織布が生産性や加工性に優れ、長繊維を原料としているため、不織布強度も向上するため好ましい。
【0082】
ここで、本発明において「ポリエステル組成物により構成される」不織布とは、前記のポリエステル組成物単成分からなる繊維で構成された不織布に限定されず、本発明の目的を阻害しない範囲であるならば、前記のポリエステル組成物とは別の熱可塑性樹脂と複合化された態様の不織布、例えば、前記のポリエステル組成物と該別の熱可塑性樹脂との芯鞘型複合繊維で構成されてなる不織布についても含むこととする。
【0083】
特に、鞘成分が本発明のポリエステル組成物であって、芯成分がポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、および、これらの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種以上である、芯鞘型複合繊維で構成されてなる不織布は、製造時において親水性が損なわれにくく強度に優れる不織布となる。
【0084】
芯鞘型複合繊維の複合形態は、不織布として効率的に繊維同士の熱接着点を得られる点から、同心芯鞘型、偏心芯鞘型の複合形態を挙げることができる。複合形態が同心芯鞘型においては、繊維の横断面形状は円形断面や扁平断面が好ましく、熱圧着による繊維同士の接着が強固なものとなり、さらには表面平滑性に優れた不織布となる。
【0085】
本発明のポリエステル組成物が芯鞘型複合繊維の鞘成分である不織布において、その繊維全体に占める鞘成分の質量比率は、かかる不織布の強度をより高めることができるため、繊維全体に占める鞘成分比率は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。一方、表面平滑性が向上する点から、10質量%以上であることが好ましい。
【0086】
本発明のポリエステル組成物を特に水処理用分離膜の基材となる不織布に用いる場合、その不織布は内部物質の水への溶出量を抑制できることが好ましい。この溶出量は水道法試験(JIS S3200-7:2010「水道用器具-浸出性能試験方法」)の全有機体炭素量(TOC量)によって規定されている。TOC量は水の汚れを示す指標であり、水道水中の規定値は3mg/L以下とされており、水処理用途で使用される不織布はこの基準を満たす必要がある。そのため、本発明の不織布のTOC量は好ましくは3.0mg/L以下、より好ましくは2.0mg/L以下、さらに好ましくは1.7mg/L以下、特に好ましくは0.9mg/L以下、最も好ましくは0.6mg/L以下である。また、下限値は特にないが、TOC量が少なければ少ないほど、水の汚れがなく好ましいため、好ましくは0.0mg以上である。これらの範囲とすることで不織布を水処理用の分離膜基材として用いた場合、分離液中の不純物が少ないことを示すことができる。
【0087】
なお、不織布のTOC量は、不織布に対して浴比が100となるようにイオン交換水に不織布を25℃条件下で1時間浸漬させ、浸漬後の不織布をイオン交換水50mLで6回洗浄し、再度25℃条件下で16時間浸漬させ、浸漬後の溶液20mLに対して2mol/Lの塩酸を0.5mL滴下し、15分間バブリング後TOC測定器によって分析し、算出することができる。
【0088】
本発明のポリエステル組成物から得られる不織布は、紙おむつ、生理用ナプキン、ウェットシート等の衛生材料、フィルター、フィルター基材、電線押え巻材等の工業資材、壁紙、透湿防水シート、屋根下葺材、遮音材、断熱材、吸音材等の建築資材、ラッピング材、袋材、看板材、印刷基材等の生活資材、防草シート、排水材、地盤補強材、遮音材、吸音材等の土木資材、べたがけ資材、遮光シート等の農業資材、天井材、およびスペアタイヤカバー材等の車輌資材等に好適に用いることができ、水処理用の分離膜基材として用いることが最も好適であるが、これらに用途が限定されるものではない。
【0089】
[分離膜基材、水処理用分離膜]
本発明において、分離膜基材は、前記の不織布を含む、あるいは、前記の不織布であることが好ましい。より好ましくは、その不織布が、スパンボンド不織布である態様である。ここで、本発明において、分離膜基材とは、分離膜において、後述する高分子成分で構成されてなる半透膜を支持する基材のことを指し、水処理用分離膜とは、ろ液が水、かん水、海水、下排水などである、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、そして、逆浸透膜などの半透膜のことを指す。
【0090】
この分離膜基材である不織布は、所望の目的に合わせ、単層のものであっても、積層され熱圧着後のものであってもよい。もちろん、本発明における分離膜基材は、不織布のみからなるものでも、不織布と、後述する半透膜以外の他の構成要素、例えば、他の不織布や布帛、骨材などからなるものであってもよい。そして、この分離膜基材に含まれる不織布の上に、後述する高分子成分から構成されてなる半透膜が形成されることが好ましい。
【0091】
そして、本発明における水処理用分離膜は、前記の不織布を、つまり、前記の分離膜基材を含むことが好ましい。この水処理用分離膜は、前記の分離膜基材と、半透膜とで構成されてなる分離膜であることが好ましいものであるが、さらに、この半透膜が支持層と半透膜層とを含む複合膜である態様も好ましい。
【0092】
半透膜を構成する高分子成分は、分離膜において主として分離機能を担うものであり、微細多孔膜を形成して半透膜となるものである。前記高分子成分としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよび酢酸セルロースからなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましい。中でも特に、化学的、機械的および熱的安定性の観点から、ポリスルホンの溶液やポリアリールエーテルスルホンの溶液が好ましく用いられる。溶媒は、膜形成物質に応じて、適宜選定することができる。また、半透膜が支持層と半透膜層を含む複合膜の場合、半透膜層として、多官能酸ハロゲン化物と多官能アミンとの重縮合などによって得られる架橋ポリアミド膜などが好ましく用いられる。これら高分子成分で構成される半透膜と分離膜基材との接着性が高いほど、水処理用分離膜として優れたものとなる。
【0093】
本発明における水処理用分離膜において、不織布基材と半透膜との剥離強度は重要な指標であり、製造工程における剥離欠点の発生を抑制して製造効率を向上させ、さらに耐水圧にも優れ水処理効率を向上させる点から高いほど好ましい。
【0094】
なお、水処理用分離膜の剥離強度は以下の手順に従って測定される。なお、以下は水処理用分離膜の半透膜がポリスルホンの半透膜(PSf層)である水処理用分離膜(PSf膜)として、説明する。
(1) まず、作製した水処理用分離膜(PSf膜)を全幅方向に20mm長手方向40mmに切り出す。
(2)切り出した水処理用分離膜について、その一端のPSf層を長手方向2mm分、分離膜基材から引きはがし、オートコム万能試験機(例えば、株式会社T.S.E(ティー・エス・イー)製「AC-1KN-CM」)のつかみ部の一方にPSf層を、もう一方に分離膜基材を固定し、つかみ間隔が2mmで、引張速度50mm/分の条件で、強力を測定する。
(3)(2)において、強力が安定した範囲の平均値(N/20mm)を計算し、その平均値(N/20mm)について小数点以下第3位を四捨五入した値をその水処理用分離膜の剥離強度((N=5)の平均値)とする。
【0095】
本発明のポリエステル組成物から構成される水処理用分離膜において、分離膜基材と半透膜との剥離強度は、水処理用分離膜の製造効率および水処理効率を向上させる点から、0.40N/20mm以上が好ましく、0.80N/20mm以上がより好ましく、1.20N/20mm以上がさらに好ましい。
【0096】
本発明における水処理用分離膜は、前記の分離膜基材の少なくとも片方の表面上に、高分子溶液を流延して分離機能を有する膜を形成させ分離膜とする方法が挙げられる。分離膜を形成する方法としては、例えば、分離膜としてポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよび酢酸セルロースからなる群から選択される少なくとも1種類を用いる場合、それらを有機溶媒に溶解させて質量パーセント濃度が10%~50%の溶液とし、溶液を分離膜基材の表層に塗布したのち、分離膜基材の厚みに加えて更に10μm~100μm程度のクリアランスを設けたコーター装置を通過させることで流延し、0.1秒~30秒以内に貧溶媒中へ投入する方法が挙げられる。また、ポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよび酢酸セルロースからなる群から選択される少なくとも1種類を支持膜として更にその上層に半透膜としてポリアミド膜を形成させる方法としては、例えば、支持膜形成後に0.01%~10%の他官能アミン水溶液へ含浸し、その後、質量パーセント濃度が0.01%~10%の多官能酸ハロゲン化物のデカン溶液へ再含浸する方法が挙げられる。
【実施例0097】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0098】
[測定方法]
実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0099】
A.アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物の含有量
ポリエステル組成物に含まれるアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物の含有量(ppm)の測定には、ICP質量分析装置として、例えばAgilentTechnologies社製「Agilent8800」を用いて、前記の方法により測定、算出した。なお、このICP質量分析装置のアルカリ金属元素量、アルカリ土類金属元素量の検出下限は0.02ppmである。
【0100】
B.ポリエステル組成物の組成分析
ポリエステル組成物の組成(ジカルボン酸/ジオール成分の種類・共重合量、ポリアルキレングリコール成分の種類・含有量)分析は、核磁気共鳴装置(NMR)として、日本電子株式会社製「AL-400」を用いて、前記の方法により測定、算出した。なお、表1~10において、ジカルボン酸成分のTPA(mol%)、IPA(mol%)と表記されているのは、それぞれ、ポリエステル組成物を構成する全ジカルボン酸成分に占める、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の重合割合のことである。また、ジオール成分のEG(mol%)と表記されているのは、ポリエステル組成物を構成する全ジオール成分に占める、エチレングリコール残基の含有割合のことである。
【0101】
C.ポリエステル組成物の固有粘度(IV)測定
ポリエステル組成物の固有粘度(IV)の測定には、ウベローデ粘度計を用いて、前記の方法により測定、算出した。
【0102】
D.ポリエステル組成物の融点測定
ポリエステル組成物の融点(℃)の測定には、示差走査熱量計として、TA Instruments社製「Q-2000」を用いて、前記の方法により測定、算出した。
【0103】
E.ポリエステル組成物の粘度保持率
ポリエステル組成物の粘度保持率(%)の測定には、キャピログラフとして、株式会社東洋精機製作所製「PMD-C」を用いて、前記の方法により測定、算出した。
【0104】
F.ポリアルキレングリコールの重量平均分子量測定
ポリエステル組成物中に含まれるポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、核磁気共鳴装置(NMR)として、日本電子株式会社製「AL-400」を用いて、前記の方法により測定、算出した。
【0105】
G.ポリアルキレングリコールの結合率
ポリエステル組成物中に含まれるポリアルキレングリコールの結合率(%)は、核磁気共鳴装置(NMR)として、日本電子株式会社製「AL-400」を用いて、前記の方法により測定、算出した。得られた結合率の値に従ってポリエステル組成物中の未反応ポリアルキレングリコール量をS~Cの4段階で評価した。
S:結合率が75%以上であり、未反応ポリアルキレングリコール量が少なくTOC量が抑制できるため水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
A:結合率が72~74%あり、未反応ポリアルキレングリコール量は存在するがTOC量への影響を及ぼさない範囲であり、水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
B:結合率が70~71%であり、未反応ポリアルキレングリコール量が存在しTOC量が増加するが製品化前に水洗浄を実施することで水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
C:結合率が69%以下であり、未反応ポリアルキレングリコール量が多くTOC量増加に寄与するため、水処理用分離膜基材用途にはやや不向きである。
【0106】
H.ポリエステル組成物の色調(L値)
ポリエステル組成物の色調(L値)の測定には、ハンター型色差計として、スガ試験機株式会社製カラーメーター「SM-T」(三刺激値直読式、0°受光方式)を用いて、前記の方法により測定した。得られたL値の値に従ってS~Cの4段階で評価した。
S:L値が75以上であり、不織布への加工後に着色の影響がなく、あらゆる用途に好適に採用できる。
A:L値が72~74あり、不織布への加工後に着色の影響を及ぼさない範囲であり、あらゆる用途に好適に採用できる。
B:L値が70~71であり、不織布への加工後にやや着色するが、白色と大きな差が生じないため、あらゆる用途に採用できる。
C:L値が69以下であり、不織布への加工後に着色懸念があるため、白色を求める用途にはやや不向きである。
【0107】
I.ポリエステル組成物の濾圧上昇値(ΔP)
ポリエステル組成物の濾圧上昇値(ΔP)(MPa)は、前記の方法により測定、算出した。得られた濾圧上昇値(ΔP)の値に従ってポリエステル組成物中の異物量をS~Dの5段階で評価した。
S:濾圧上昇値(ΔP)が0.5MPa/時間以下であり、異物量は一般的なポリエステルと同等である。
A:濾圧上昇値(ΔP)が0.6~0.9MPa/時間であり、異物量は一般的なポリエステルと比較してわずかに劣るが、紡糸性に影響を及ぼさない範囲である。
B:濾圧上昇値(ΔP)が1.0~1.5MPa/時間であり、異物量は一般的なポリエステルと比較して劣るが、紡糸性に影響を及ぼさない範囲である。
C:濾圧上昇値(ΔP)が1.6~3.0MPa/時間であり、異物量は一般的なポリエステルと比較してかなり劣るが、紡糸性に影響を及ぼさない範囲である。
D:濾圧上昇値(ΔP)が3.1MPa/時間以上であり、異物量は極めて多く、既存設備での紡糸が困難である。
【0108】
J.不織布製布時の紡糸性
不織布製布時の糸切れ評価は、本発明のポリエステル組成物を口金温度300℃、エジェクターによる紡糸速度4000m/分で紡糸した際の糸切れがなかったものを「〇」、糸切れがあったものを「×」として判定した。
【0109】
K.不織布中の単繊維直径
不織布を構成する単繊維直径(μm)は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製「VHX-2000」)で500~3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の単繊維の直径を測定し、それらの平均値について小数点以下第1位を四捨五入して求めた。
【0110】
L.不織布のカレンダー処理温度測定
不織布のカレンダー処理温度(℃)は、以下のように評価した。
(1) ポリエステル組成物を口金温度300℃、エジェクターによる紡糸速度4000m/分で紡糸して得られた熱圧着前のウエブを採取した。
(2) (1)のウエブを2層に重ね合わせて、所定の温度に設定した上下1対のフラットロールで回転速度4m/分、線圧10kgf/cm(=98N/cm)の条件で熱圧着した。
(3) (2)において、目付が70g/m2、厚さが0.09mmのスパンボンド不織布が得られる際のフラットロールの温度が最適なカレンダー処理温度であるとした。表1~10に示した温度は、このカレンダー処理温度である。
【0111】
M.不織布の目付
不織布の目付(g/m2)は、30cm×50cmの不織布を3個採取して、各試料の質量重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、小数点以下第1位を四捨五入することで求めた。
【0112】
N.不織布の厚み
不織布の厚み(mm)は、ランダムに小片サンプル10枚を採取し、マイクロメーターを用いて、株式会社ミツトヨ製のものを用いて、直径6mmのアンビルとスピンドルとで不織布を挟み、小片サンプル内で2点を等間隔に0.01mm単位で測定し、合計20点の平均値の小数点以下第3位を四捨五入することで求めた。
【0113】
O.不織布のTOC量測定
不織布のTOC量(mg/L)は、卓上TOC測定器として、東レエンジニアリング株式会社製「TNC-6000」を用い、前記の方法で測定を行った。
得られたTOC量の値に従って不織布中の不純物量をS~Eの6段階で評価した。
S:TOC量が0.6mg/L以下であり、水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
A:TOC量が0.7mg/L~0.9mg/Lであり、製品化前に水洗浄を極めて短時間実施することで水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
B:TOC量が1.0mg/L~1.7mg/Lであり、製品化前に水洗浄を短時間実施することで水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
C:TOC量が1.8mg/L~2.0mg/Lであり、製品化前に水洗浄を長時間実施することで水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
D:TOC量が2.1mg/L~3.0mg/Lであり、水処理用分離膜基材用途にはやや不向きである。
E.TOC量が3.1mg/L以上であり、水処理用分離膜基材用途には不向きである。
【0114】
P.不織布の水との接触角
不織布の表面の水との接触角(°)は、不織布の表面にイオン交換水からなる2μLの液滴を着液させ、着液してから1秒後の画像より求めた。1水準につき測定位置を変更して10回測定し、最大値と最小値を除いた平均値の小数点第1位を四捨五入し算出した。接触角が低くなるほど不織布表面の親水性が向上することを意味し、親水性が高いほど分離膜構成成分の不織布への浸透率が向上し、不織布への半透膜の接着性が向上する。なお、表1~10では、不織布表面の水との接触角(°)の測定結果について、単に「接触角(°)」と略記した。
【0115】
Q.不織布の表面平滑性評価
不織布の表面平滑性評価は不織布の表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)(μm)を求めることによって評価した。表面粗さはレーザーマイクロスコープによる光透過法にて、1000μmでの線粗さにより求めた。1水準につき測定位置を変更して10回測定し、最大値と最小値を除いた平均値の小数点以下第1位を四捨五入し算出した。
装置:株式会社キーエンス製「VK-X200」。
算出した表面粗さの値に従って表面平滑性をS~Cの4段階で評価した。
S:表面粗さが7μm以下であり、表面平滑性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較して極めて優れる。
A:表面粗さが8μm~9μmであり、表面平滑性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較して十分優れる。
B:表面粗さが10μm~11μmであり、表面平滑性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較してわずかに優れる。
C:表面粗さが12μm以上であり、表面平滑性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布同等以下である。
【0116】
R.不織布の引張タフネス測定
不織布を80mm×5mmの短冊状に切り出し、以下の条件にて破断強度と破断伸度を測定した後、下式のとおり引張タフネス(単位なし)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を求めた。
引張タフネス=(破断強度(gf))×(破断伸度(%))1/2
装置:株式会社T.S.E(ティー・エス・イー)製オートコムAC-1KN-CM
引張速度:10mm/分
掴み間隔:20mm
荷重:50N
算出した引張タフネスの値に従って不織布の強度をS~Dの5段階で評価した。
S:引張タフネスは18以上であり、不織布の強度は一般的なポリエステルスパンボンド不織布同等である。
A:引張タフネスは14~17であり、不織布の強度は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較してわずかに劣るが、製造工程通過性に問題ない範囲である。
B:引張タフネスは10~13であり、不織布の強度は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較して劣るが、製造工程通過性に問題ない範囲である。
C:引張タフネスは6~9であり、不織布の強度は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較してかなり劣るが、製造工程通過性に問題ない範囲である。
D:引張タフネスは5以下であり、不織布の強度は極めて低く、既存量産設備での製布が困難である。
【0117】
S.水処理用分離膜の剥離強度測定
水処理用分離膜の剥離強度(分離膜基材(不織布)と半透膜との間の剥離強度)(N/20mm)は、オートコム万能試験機として、株式会社T.S.E(ティー・エス・イー)製オートコムAC-1KN-CMを用い、前記の方法で測定を行った。
引張速度:50mm/分
掴み間隔:2mm
荷重:50N
得られた剥離強度の値(表1~10では、水処理用分離膜の剥離強度(N/20mm)の測定結果について、「PSf膜の剥離強度(N/20mm)」と表記した。)に従って、剥離強度をS~Cの4段階で評価した。
S:剥離強度が1.20N/20mm以上であり、PSf膜の剥離性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較して極めて高く、水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
A:剥離強度が0.80N/20mm~1.19N/20mmであり、PSf膜の剥離性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較して高く、水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
B:剥離強度が0.40N/20mm~0.79N/20mmであり、PSf膜の剥離性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布と比較してわずかに高く、水処理用分離膜基材用途に好適に採用できる。
C:剥離強度が0.39N/20mm以下であり、PSf膜の剥離性は一般的なポリエステルスパンボンド不織布同等である。
【0118】
[実施例1]
(ポリエステル組成物)
エステル化反応槽においてビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート及びその低重合体120.0kgを常圧、250℃で融解させ、そこへテレフタル酸(TPA)78.1kg、イソフタル酸(IPA)23.6kg、およびエチレングリコール(EG)43.7kgの混合スラリーを常圧、240℃~250℃の温度制御下で150分かけて逐次的に添加しつつ、発生した水を留去することでエステル化反応を行い、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートイソフタレート及びその低重合体(テレフタル酸成分:88.5モル%、イソフタル酸成分:11.5モル%相当)260.4kgを得た。
【0119】
得られたビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート、ビス-2-ヒドロキシエチルイソフタレート及びそれらの低重合体234.0kgのうち114.0kgを重縮合槽へ移送した。80℃に加熱して溶融した重量平均分子量7000のポリエチレングリコール(PEG)(三洋化成工業株式会社製「PEG6000S」)9kgに水酸化カリウム(KOH、モル質量:56g/mol)28gをエチレングリコール1Lで希釈した水酸化カリウム水溶液を0.81L混合し(水酸化カリウム量として200ppm(カリウム量として140ppm))、スラリーとし10分撹拌し後、重縮合槽へ添加した(表1~10の「アルカリ金属化合物の添加方法」において、「重縮合反応」と記載した)。250℃への昇温完了後、安定剤として85%リン酸水溶液24g、重縮合触媒として三酸化アンチモン49g、助剤として酢酸コバルト4g、顔料として酸化チタン粒子360gを加え、真空下100分かけて285℃まで昇温し所望の溶融粘度となるまで重縮合反応を進行させた。
【0120】
重縮合槽を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、口金からストランド状に押出して水槽冷却し、ペレット状にカッティングをしてポリエステル組成物チップを得た。
【0121】
このポリエステル組成物中のポリエチレングリコールの含有量は8質量%であり、アルカリ金属(カリウム)量(mol)とポリエチレングリコール量(mol)の比率(X/P)は0.31であった。また、結合率は82%であり、反応性が向上し本発明の請求の範囲を満たすものであった。なお、L値は74、濾圧上昇値は0.5MPa/時間であった。
【0122】
(不織布)
得られた固有粘度(IV)0.66のポリエステル組成物を鞘成分、固有粘度(IV)が0.65、酸化チタンを0.3質量%含むポリエチレンテレフタレート(PET)を芯成分とし、芯成分および鞘成分をそれぞれ295℃と270℃の温度で溶融し、口金温度300℃、芯:鞘=80:20の質量比率で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸して平均単繊維直径14μmの同心芯鞘型フィラメント(円形断面)とし、移動するネットコンベアー上に繊維ウエブとして捕集した。捕集された繊維ウエブを、2枚重ね合わせて上下1対のフラットロールで回転速度4m/分、線圧100N/cm、そして、最適なカレンダー処理温度であった180℃の条件で熱圧着し、目付が70g/m2、厚さが0.09mmのスパンボンド不織布(表1~10では「SB」と略記した)を得た。得られたスパンボンド不織布のTOC量は0.5mg/L、接触角は60°であり、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は11μm、引張タフネスは16であった。
【0123】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
得られたスパンボンド不織布を分離膜基材とし、その分離膜基材にポリスルホン(PSf)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた高分子溶液を流延させて、40μmの半透膜を形成して水処理用分離膜を得た。得られた分離膜の基材からの剥離強度は、0.80N/20mmであった。
【0124】
得られたポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜の各特性を表1に示す。
【0125】
[実施例2-6]
(ポリエステル組成物)
重量平均分子量15000(実施例2)、重量平均分子量18000(実施例3)、重量平均分子量20000(実施例4)、重量平均分子量22000(実施例5)、重量平均分子量25000(実施例6)のPEGを8質量%含有させた以外は、実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0126】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が増加するにつれて、アルカリ金属とPEGのモル比は0.31(実施例1)から1.12(実施例6)へと増える傾向にある一方、ポリアルキレングリコールの結合率は82%(実施例1)から71%(実施例6)へと低下する傾向にあった。また、色調(L値)は74(実施例1)から71(実施例6)へとやや低下する傾向にあったが、濾圧上昇値(ΔP)は変わらず低い値(0.5MPa)であった。
【0127】
(不織布)
カレンダー処理温度を表1に記載の、各実施例の最適なカレンダー処理温度の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表1に示す。
【0128】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が増加するにつれて、TOC量は0.5mg/L(実施例1)から0.8mg/L(実施例6)へとやや増加する傾向にあり、接触角は60°(実施例1)から40°(実施例6)へと減少する傾向にあった。また、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は、11μm(実施例1)から7μm(実施例6)へと小さくなる(平滑になる)傾向にあり、引張タフネスは16(実施例1)から14(実施例6)へとやや低下する傾向にあった。
【0129】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表1に示す。
【0130】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が増加するにつれて、分離膜の剥離強度は0.80N/20mm(実施例1)から1.10N/20mm(実施例6)へと大きくなる傾向にあった。
【0131】
【0132】
[実施例7~10]
(ポリエステル組成物)
水酸化カリウム水溶液の添加量を変化させて、アルカリ金属とPEGのモル比が0.90になるように調整しながら、重量平均分子量20000のPEGを2質量%(実施例7)、5質量%(実施例8)、11質量%(実施例9)、14質量%(実施例10)含有させた以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表2に示す。
【0133】
ポリアルキレングリコールの添加量が増加するにつれて、ポリアルキレングリコールの結合率は80%(実施例7)から70%(実施例10)へと低下する傾向にあった。また、色調(L値)は75(実施例7)から70(実施例10)へとやや低下する傾向にあったが、濾圧上昇値(ΔP)は変わらず低い値(0.5MPa)であった。
【0134】
(不織布)
カレンダー処理温度を表2に記載の、各実施例の最適なカレンダー処理温度の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表2に示す。
【0135】
ポリアルキレングリコールの添加量が増加するにつれて、TOC量は0.4mg/L(実施例7)から1.7mg/L(実施例10)へと増加する傾向にあり、接触角は70°(実施例7)から20°(実施例10)へと減少する傾向にあった。また、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は、10μm(実施例7)から6μm(実施例10)へと小さくなる(平滑になる)傾向にあり、引張タフネスは19(実施例1)から9(実施例6)へと低下する傾向にあった。
【0136】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表2に示す。
【0137】
ポリアルキレングリコールの添加量が増加するにつれて、分離膜の剥離強度は0.73N/20mm(実施例7)から1.52N/20mm(実施例10)へと大きくなる傾向にあった。
【0138】
【0139】
[実施例11~16]
(ポリエステル組成物)
重量平均分子量20000のPEGを8質量%含有させ、水酸化カリウム水溶液の添加量を変化させた以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表3に示す。
【0140】
水酸化カリウム水溶液の添加量が増加するにつれて、アルカリ金属とPEGのモル比は0.32(実施例11)から2.50(実施例16)へと増える傾向にあり、ポリアルキレングリコールの結合率は71%(実施例11)から76%(実施例16)へとやや増加する傾向にあった。また、色調(L値)は74(実施例11)から70(実施例16)へとやや低下する傾向にあったが、濾圧上昇値(ΔP)は0.4MPa/時間(実施例11)から0.9MPa/時間(実施例16)へと増加する傾向にあった。
【0141】
(不織布)
カレンダー処理温度が175℃に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表3に示す。
【0142】
水酸化カリウム水溶液の添加量が増加するにつれて、TOC量は0.8mg/L(実施例11)から0.5mg/L(実施例16)へとやや減少する傾向にあった一方、接触角は40°、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は8μm、引張タフネスは14、と水酸化カリウム水溶液の添加量によって変わらなかった。
【0143】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表3に示す。
【0144】
分離膜の剥離強度は1.02N/20mmで、水酸化カリウム水溶液の添加量によって変わらなかった。
【0145】
【0146】
[実施例17~21]
(ポリエステル組成物)
重量平均分子量20000のPEGを8質量%含有させ、水酸化カリウム水溶液を用いていたところを、炭酸水素ナトリウム水溶液(実施例17)、酢酸ナトリウム水溶液(実施例18)、水酸化ナトリウム水溶液(実施例19)、水酸化マグネシウム水溶液(実施例20)、水酸化カルシウム水溶液(実施例21)に変更し、アルカリ金属またはアルカリ土類金属とPEGのモル比が0.90となるように変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表4に示す。
【0147】
水酸化カリウム水溶液を用いた同様の実施例(実施例4)と比較して、ポリアルキレングリコールの結合率はいずれの場合も70%とやや低く、色調(L値)は同じ72(実施例18、21)であるか、やや高い値(実施例17、19、20)であった。一方、濾圧上昇値はいずれの場合も大きい値を示し、2.5MPa/時間(実施例19)~8.0MPa/時間(実施例20)であった。
【0148】
(不織布)
カレンダー処理温度が175℃に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表4に示す。
【0149】
水酸化カリウム水溶液を用いた同様の実施例(実施例4)と比較して、TOC量はいずれの場合も0.9mg/Lとやや高かった一方、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は8μm、引張タフネスは14、とアルカリ金属、アルカリ土類金属の種類によって変わらなかった。
【0150】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表4に示す。
【0151】
分離膜の剥離強度は1.02N/20mmで、アルカリ金属、アルカリ土類金属の種類によって変わらなかった。
【0152】
【0153】
[実施例22]
(ポリエステル組成物)
重量平均分子量20000のPEGを8質量%含有させ、PEGと水酸化カリウム(KOH)水溶液の混合スラリー添加をエステル化反応前(表5では、「反応前」と略記した)に変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表5に示す。
【0154】
ポリエステル組成物中のPEGの結合率は76%であった。また、L値は70、濾圧上昇値は0.7MPa/時間であった。
【0155】
(不織布)
カレンダー処理温度を175℃に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表5に示す。
【0156】
TOCは0.6mg/L、接触角は40°、表面粗さは8μm、引張タフネスは14であった。
【0157】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表5に示す。
【0158】
分離膜の剥離強度は、1.02N/20mmであった。
【0159】
[実施例23-26]
(ポリエステル組成物)
テレフタル酸(TPA)の添加量、イソフタル酸(IPA)の添加割合を表5の通り変更したこと以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表5に示す。
【0160】
実施例23~26において、イソフタル酸の添加割合を1mol%(実施例23)から12.5mol%(実施例26)へと増加させたが、この範囲の中では、ポリエステル組成物中のPEGの結合率は75%、色調(L値)は72、濾圧上昇値は0.5MPa/時間とイソフタル酸の添加割合によって変わることはなかった。
【0161】
(不織布)
カレンダー処理温度を表5に記載の、各実施例の最適なカレンダー処理温度の通りとしたこと以外は実施例1と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表5に示す。
【0162】
TOC量は0.6mg/L、接触角は40°と、前記の範囲の中では、イソフタル酸の添加割合によって変わることはなかったが、イソフタル酸の添加割合が増えるにつれて、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は、11μm(実施例23)から7μm(実施例26)へと小さくなる(平滑になる)傾向にあり、引張タフネスは16(実施例23)から13(実施例26)へと低下する傾向にあった。
【0163】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表5に示す。
【0164】
前記の範囲の中で、イソフタル酸の添加割合が増えるにつれて、分離膜の剥離強度は0.50N/20mm(実施例23)から1.05N/20mm(実施例26)へと大きくなる傾向にあった。
【0165】
【0166】
[実施例27、28]
(ポリエステル組成物)
実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
【0167】
(不織布)
芯成分と鞘成分の比率を表6の通り変更し、カレンダー処理温度を175℃に変更した以外は実施例1と同様に実施し、スパンボンド不織布を得た。結果を表6に示す。
【0168】
鞘成分(実施例4のポリエステル組成物)の割合が増加するにつれて、スパンボンド不織布のTOC量は0.4mg/L(実施例27)から2.0mg/L(実施例28)へと増加する傾向にあったが、接触角は40°で鞘成分の割合によらず一定であった。一方、表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)は、9μm(実施例27)から7μm(実施例28)へと小さくなる(平滑になる)傾向にあり、引張タフネスは15(実施例27)から10(実施例28)へと低下する傾向にあった。
【0169】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表6に示す。
【0170】
鞘成分(実施例4のポリエステル組成物)の割合が増加するにつれて、分離膜の剥離強度は0.82N/20mm(実施例27)から1.10N/20mm(実施例28)へと大きくなる傾向にあった。
【0171】
[実施例29]
(ポリエステル組成物)
PEGを片末端メチル基封鎖型ポリエチレングリコール(MPEG)に変更したこと以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。結果を表6に示す。
【0172】
ポリエステル組成物中のMPEGの結合率は70%、L値は70、濾圧上昇値は0.4MPa/時間であった。
【0173】
(不織布)
カレンダー処理温度を180℃に変更したこと以外は実施例4と同様の方法でスパンボンド不織布を得た。結果を表6に示す。
【0174】
TOC量は0.8mg/L、接触角は45°、表面粗さは9μm、引張タフネスは14であった。
【0175】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表6に示す。
【0176】
分離膜の剥離強度は、1.05N/20mmであった。
【0177】
[実施例30]
(ポリエステル組成物)
実施例4同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
【0178】
(不織布)
鞘成分として、実施例4のポリエステル組成物(固有粘度(IV)は0.67)を、芯成分として、固有粘度(IV)が0.65、酸化チタンを0.3質量%含むポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、芯成分および鞘成分をそれぞれ295℃と270℃の温度で溶融し、口金温度300℃、芯:鞘=80:20の質量比率で細孔より紡出した後、紡糸速度1000m/分で巻き取ることで同心芯鞘型(円形断面)の未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を加熱したローラー間で延伸し、芯鞘型の繊維を得た。次いで、平均繊維長が5.0mmになるようにカッターで切断し、離解機によって水と均一に混合分散することで繊維分散液を調整した。この繊維分散液を熊谷理機工業株式会社製角型シートマシン(250mm角)を用いて抄紙し、回転型乾燥機にて乾燥・熱処理を施すことにより湿式の短繊維不織布を得た。結果を表6に示す。
【0179】
得られた短繊維不織布のTOC量は0.8mg/L、接触角は40°であり、表面粗さは7μm、引張タフネスは12であった。
【0180】
(分離膜基材、水処理用分離膜)
実施例1と同様に実施し、水処理用分離膜を得た。結果を表6に示す。
【0181】
分離膜の剥離強度は、1.08N/20mmであった。
【0182】
【0183】
[比較例1-4]
(ポリエステル組成物)
重量平均分子量を1000(比較例1)、重量平均分子量3400(比較例2)、重量平均分子量5000(比較例3)、重量平均分子量35000(比較例4)のPEGを8質量%含有させることとし、カレンダー処理温度を表7に記載の温度に変更した以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表7に示す。
【0184】
比較例1~3で得られるスパンボンド不織布は、PEGの分子量が低いため、接触角が高くなり、表面平滑性に劣るものであり、分離膜の剥離強度も低下した。
【0185】
比較例4で得られるポリエステル組成物は、PEGの分子量が高く、PEGの結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。それもあって、スパンボンド不織布のTOC量が増加し、引張タフネスが極めて低く、実用性のないものであった。
【0186】
【0187】
[比較例5-7]
重量平均分子量20000のPEG含有量、アルカリ金属化合物とPEGのモル比、カレンダー処理温度を表8に記載の通りに変更した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表8に示す。
【0188】
比較例5ではPEGを含有せず、アルカリ金属化合物の添加もしていないため、PEGの結合率算出はできなかった。また、スパンボンド不織布は、接触角が高く、表面平滑性に劣るものであり、分離膜の剥離強度も低下した。
【0189】
比較例6ではPEGを含有させず、アルカリ金属化合物のみ添加したため、PEGの結合率算出はできなかった。スパンボンド不織布は、接触角が高く、表面平滑性に劣るものであり、分離膜の剥離強度も低下した。
【0190】
比較例7で得られるポリエステル組成物は、PEGの含有量が多く、PEGの結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。それもあって、スパンボンド不織布のTOC量が増加し、引張タフネスが極めて低く実用性のないものであった。
【0191】
[比較例8-10]
アルカリ金属/アルカリ土類金属の金属量、カレンダー処理温度を表8に記載の通りに変更した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表8に示す。
【0192】
比較例8で得られるポリエステル組成物は、水酸化カリウムの添加をしていないため、PEG結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。それもあって、スパンボンド不織布のTOC量が増加した。
【0193】
比較例9で得られるポリエステル組成物は、水酸化カリウムの添加量が少なく、PEG結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。それもあって、スパンボンド不織布のTOC量が増加した。
【0194】
比較例10で得られるポリエステル組成物は、水酸化カリウムの添加量が多く、色調の低下および濾圧上昇値が高くなり、スパンボンド不織布の紡糸性が低下した。
【0195】
【0196】
[比較例11-14]
水酸化カリウム水溶液を用いていたところを、水酸化アルミニウム水溶液(比較例11)、炭酸水素カリウム水溶液(比較例12)、炭酸カリウム水溶液(比較例13)、酢酸カリウム水溶液(比較例14)に変更し、カレンダー処理温度を表9に記載の通り変更した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表9に示す。
【0197】
比較例11で得られるポリエステル組成物は、水酸化アルミニウム水溶液への変更により、PEG結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。それもあって、スパンボンド不織布のTOC量が増加した。
【0198】
また、比較例12~14で得られるポリエステル組成物は、PEG結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。また、濾圧が上昇し、スパンボンド不織布のTOC量が増加した。
【0199】
【0200】
[比較例15、16]
PEGとアルカリ金属化合物とを混合せずに添加(別添加)した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表10に示す。
【0201】
比較例15で得られるポリエステル組成物は、重縮合反応前にPEGを添加した後、水酸化カリウム水溶液を添加した(表10において、「別添加(重合)」と表記した。)ため、PEGの反応性が向上せず、PEG結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。それもあって、スパンボンド不織布のTOC量が増加した。
【0202】
比較例16で得られるポリエステル組成物は、エステル化反応前にPEGを添加した後に水酸化カリウム水溶液を添加した(表10において、「別添加(EI)」と表記した。)ため、PEGの反応性が向上せず、PEG結合率が本発明の記載の範囲を外れていた。また、スパンボンド不織布のTOC量が増加した。
【0203】
[比較例17、18]
テレフタル酸(TPA)の添加量、イソフタル酸(IPA)の添加量、カレンダー処理温度を表10に記載の通り変更した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表10に示す。
【0204】
比較例17で得られるスパンボンド不織布は、イソフタル酸を添加してないため、表面平滑性に劣るものであり、分離膜の剥離強度も低下した。
【0205】
比較例18で得られるスパンボンド不織布は、イソフタル酸添加量が多いため、引張タフネスに劣るものであり、分離膜の剥離強度も低下した。
【0206】
[比較例19]
重量平均分子量4000のポリプロピレングリコール(PPG)を8質量%含有し、カレンダー処理温度を表10に記載の通り変更した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表10に示す。
【0207】
比較例19で得られるスパンボンド不織布は、ポリアルキレングリコール種の変更により、引張タフネスが劣るものであった。
【0208】
[比較例20]
重量平均分子量3000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)を8質量%含有し、カレンダー処理温度を表10に記載の通り変更した以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物、スパンボンド不織布、水処理用分離膜を得た。結果を表10に示す。
【0209】
比較例20で得られるスパンボンド不織布は、ポリアルキレングリコール種の変更により、引張タフネスが劣るものであった。
【0210】