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特開2024-106508ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106508
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240801BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240801BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N30/88 M
G01N30/86 G
G01N30/86 E
G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010791
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 祐子
(72)【発明者】
【氏名】小森 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐美
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏明
(57)【要約】
【課題】ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法等を提供する。
【解決手段】ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法は、以下のことを含む。
・ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得すること
・前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出すること
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得することと、
前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出することと、
を含む、
ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法。
【請求項2】
前記導出されたノルマル炭化水素の分布に基づき、前記ゴム配合物中の前記ワックスの含有量を推定すること
をさらに含む、
請求項1に記載のゴム配合物中のワックスの状態の推定方法。
【請求項3】
前記ノルマル炭化水素の分布を導出することは、
前記クロマトグラムに基づき、前記抽出成分から分離された成分について、炭素数ごとのピークを特定することと、
前記ピークのうち、前記ワックス以外の夾雑物に由来する成分が支配的な特異ピークを除去することと、
前記除去された特異ピークの面積を、当該特異ピークに対応する炭素数の前後の炭素数に対するピークの面積に基づいて補間することと
を含む、
請求項1または2に記載のゴム配合物中のワックスの状態の推定方法。
【請求項4】
前記特異ピークの面積を補間することは、前記炭素数の前後の炭素数に対するピークの面積の平均値を算出することを含む、
請求項3に記載のゴム配合物中のワックスの状態の推定方法。
【請求項5】
前記クロマトグラムは、ガスクロマトグラフを用いて作成される、
請求項1または2に記載のゴム配合物中のワックスの状態の推定方法。
【請求項6】
ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得することと、
前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出することと
をコンピュータに実行させる、
ゴム配合物中のワックスの状態の推定プログラム。
【請求項7】
ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得する取得部と、
前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出する導出部と
を備える、
ゴム配合物中のワックスの状態の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法、推定プログラム及び推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、タイヤ等のゴム製品を、オゾンによる劣化から保護するためのワックス組成物を開示する。ゴム成分に配合されたワックス組成物は、ゴム製品において徐々に表面へと移動し、ワックス膜を形成する。これにより、ゴム製品の耐オゾン性等の品質が向上する。
【0003】
上記ワックス組成物は、全体として15~110の範囲内の炭素原子数を有する、鎖長の異なる炭化水素を含有し、炭化水素1分子あたりの炭素原子の数に基づく炭化水素の分布を有する。特許文献1中、ワックス組成物の組成の分析は、欧州ワックス連盟の「ガスクロマトグラフィーによる炭化水素ワックス分析のための標準試験法」(Standard Test Method for Analysis of Hydrocarbon Waxes by Gas Chromatography)(EWF Method 001/03)に記載の方法に従って行われたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-523726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワックス組成物の析出量は、時間経過とともに変化する。このため、ゴム製品の上記品質を評価するためには、現時点のゴム製品中のワックスの含有量等を推定することが重要である。しかしながら、特許文献1では、ワックス組成物単体の組成についての分析が記載されているのみであり、上記点は考慮されていない。
【0006】
本開示は、ゴム配合物中のワックスの状態の推定方法、推定プログラム及び推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1観点に係るゴム配合物中のワックスの状態の推定方法は、以下のことを含む。
・ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得すること
・前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出すること
【0008】
第2観点に係る推定方法は、第1観点に係る推定方法であって、前記導出されたノルマル炭化水素の分布に基づき、前記ゴム配合物中の前記ワックスの含有量を推定することをさらに含む。
【0009】
第3観点に係る推定方法は、第1観点または第2観点に係る推定方法であって、前記ノルマル炭化水素の分布を導出することは、前記クロマトグラムに基づき、前記抽出成分から分離された成分について、炭素数ごとのピークを特定することと、前記ピークのうち、前記ワックス以外の夾雑物に由来する成分が支配的な特異ピークを除去することと、前記除去された特異ピークの面積を、当該特異ピークに対応する炭素数の前後の炭素数に対するピークの面積に基づいて補間することとを含む。
【0010】
第4観点に係る推定方法は、第3観点に係る推定方法であって、前記特異ピークの面積を補間することは、前記炭素数の前後の炭素数に対するピークの面積の平均値を算出することを含む。
【0011】
第5観点に係る推定方法は、第1観点から第4観点のいずれかに係る推定方法であって、前記クロマトグラムは、ガスクロマトグラフを用いて作成される。
【0012】
第6観点に係るゴム配合物中のワックスの状態の推定プログラムは、以下のことをコンピュータに実行させる。
・ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得すること
・前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出すること
【0013】
第7観点に係るゴム配合物中のワックスの状態の推定装置は、取得部と、導出部とを備える。取得部は、ワックスを含むゴム配合物について、該ワックスが抽出された抽出成分を成分分離したクロマトグラムを取得する。導出部は、前記クロマトグラムに基づき、前記ワックス中のノルマル炭化水素の分布を導出する。
【発明の効果】
【0014】
以上の観点によれば、ゴム配合物中のワックスの状態を推定する推定方法、推定プログラム及び推定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】夾雑物の影響を受けたピークに基づいて作成されたノルマル炭化水素の分布を示すグラフ。
図2】作業者によるクロマトグラムのピーク修正のばらつきを示すグラフ。
図3】推定装置の電気的構成を示すブロック図。
図4】推定方法の流れを示すフローチャート。
図5】各炭素数に対するノルマル炭化水素のピークの面積をプロットしたグラフの例。
図6】補間されたノルマル炭化水素のピークの面積のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の一実施形態に係るゴム配合物中のワックスの状態の推定方法、推定プログラム及び推定装置について説明する。
【0017】
<1.概要>
以下で説明するゴム配合物とは、ゴム成分と、それ以外の非ゴム成分とが配合された配合物であり、例えばタイヤが挙げられる。ゴム成分としては、例えば天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、またはイソプレンゴム等が挙げられ、これらの混合物もゴム成分に含まれる。ゴム成分は、加硫済みであっても未加硫であってもよい。非ゴム成分としては、添加剤、ワックス、及びオイル等が挙げられる。添加剤としては、例えばカーボン、シリカ及び酸化亜鉛等が挙げられる。
【0018】
本実施形態では、対象となるゴム配合物中のワックスの状態を分析するため、ゴム配合物から抽出された抽出成分のクロマトグラムのデータが取得される。この抽出成分は、ゴム配合物から非ゴム成分の少なくとも一部を抽出したものであり、ワックスの他、オイル等に由来する夾雑物も含まれる。非ゴム成分の抽出方法は特に限定されないが、例えば、細断されたゴム配合物をクロロヘキサンやシクロヘキサンに室温下で8~24時間浸漬し、その後ろ過した抽出液を得る方法が挙げられる。
【0019】
ワックスは、分子量が数百程度の脂肪族炭化水素であり、1分子あたりの炭素数が20~50程度の炭化水素の混合物である。これら炭化水素の分布は、例えば上記欧州ワックス連盟「ガスクロマトグラフィーによる炭化水素ワックス分析のための標準試験法(EWF Method 001/03)」に記載の方法に従って特定することができる。この方法によれば、各炭素数に対するノルマル炭化水素及びイソ炭化水素の存在比率である、ノルマル-イソ比率まで特定することができる。ここで、ノルマル炭化水素は、分岐鎖を有さない直鎖状炭化水素であり、イソ炭化水素は、分岐鎖を有する炭化水素である。
【0020】
一方、ゴム配合物からの抽出成分をガスクロマトグラフにより成分分離した成分には、ワックス由来のものと夾雑物由来のものとが含まれる。このため、得られるクロマトグラムには、ワックス由来の成分と、夾雑物由来の成分とが重なったピークが出現し、炭素数に対応するピークピッキングを従来のプログラムで行うと、本来は滑らかであるはずの炭化水素の分布を示すグラフ形状が歪となる(図1参照。ただし、図1はノルマル炭化水素のみについての分布を示すグラフである)。このような炭化水素の分布は、実情とは乖離していると考えられ、この分布に基づいてワックスの状態を推定することは現実的ではない。
【0021】
そこで、ワックス単体の炭化水素の分布が既知である場合は、抽出成分の炭化水素の分布が、既知の分布に近くなるよう、クロマトグラムのピーク(幅やトップの値)を人が修正する方法がある。しかし、人手によりピークを修正する方法は、多くの時間を要する上、作業者による修正程度のばらつきが生じ、修正後のピークの面積に基づいて導出された炭化水素の分布の信頼性が低下する(図2参照)。特に、存在比率が比較的小さいイソ炭化水素のピークについては、作業者によるピーク修正のばらつきがより顕著となる。また、既知の分布と抽出成分の分布とを比較する方法では、時間経過によるワックス中の炭化水素の分布の変化を考慮することができない。加えて、この方法は、ワックス単体の炭化水素の分布が既知でない場合には適用することができない。
【0022】
本実施形態に係る推定装置1によれば、より効率的でより信頼性が高いゴム配合物中のワックスの状態の推定方法が実行される。この推定方法は、ワックス単体のクロマトグラムが未知であるゴム配合物にも適用が可能である。なお、「ワックスの状態」には、ワックス中の炭素数ごとのノルマル炭化水素の分布、ワックス中のノルマル炭化水素の総量、ワックスのゴム配合物中における含有率及びその含有量の少なくとも1つが含まれるものとする。以下、説明する。
【0023】
<2.推定装置>
図3は、推定装置1の電気的構成を示すブロック図である。推定装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップパソコン、ラップトップパソコン、タブレット、またはスマートフォンとして実現される。推定装置1は、例えば、CD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体16から、或いはネットワークを介して、推定プログラム130(以下、単に「プログラム」とも称する)を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。
【0024】
推定装置1は、制御部10、表示部11、入力部12、記憶部13、及び通信部14を備える。これらの部10~14は、互いにバス線15を介して接続されており、相互に通信可能である。また、表示部11、入力部12及び記憶部13の少なくとも一部は、推定装置1の本体(制御部10等を収容する筐体)に一体的に組み込まれていてもよく、外付けであってもよい。
【0025】
表示部11は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、液晶素子等で構成することができ、各種情報をユーザに向けて表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、推定装置1に対するユーザの操作を受け付ける。通信部14は、様々な形式の通信接続を確立する通信インターフェースとして機能する。
【0026】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、ROM及びRAM等で構成することができる。制御部10は、記憶部13内のプログラム130を読み出して実行することにより、仮想的に取得部10A、特定部10B、導出部10C及び推定部10Dとして機能し、後述する動作を実行する。これらの部10A~10Dの機能は、1または複数のプロセッサによって実現される。
【0027】
記憶部13は、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置で構成することができる。記憶部13内には、推定プログラム130が格納されている他、取得部10Aにより取得されたクロマトグラムのデータ131等も格納される。
【0028】
<3.推定方法>
図4は、推定装置1によって実行される、ゴム配合物中のワックスの含有量の推定方法の流れを示すフローチャートである。図4の処理は、例えば、ユーザから推定処理を開始するための指示が入力部12を介して入力され、制御部10に受け付けられたときに開始する。
【0029】
まず、取得部10Aが、分析対象となる抽出成分のクロマトグラムを取得し、これをデータ131として記憶部13またはRAMに保存する(ステップS1)。クロマトグラムは、本実施形態では、ゴム配合物の上記抽出液をガスクロマトグラフにより成分分離し、各成分を検出器で検出することにより生成される、保持時間に対する信号強度のチャートのデータである。検出器としては特に限定されないが、水素炎イオン化検出器(FID)が好ましい。クロマトグラムのデータの取得方法は特に限定されず、例えば有線または無線データ通信によりガスクロマトグラフ-検出器から読み出してもよいし、当該データが保存された記録媒体から取得してもよい。
【0030】
続いて、特定部10Bが、ステップS1で保存されたデータ131を読み出し、クロマトグラムで特定されるピークに基づいて、所定の炭素数を有するノルマル炭化水素のピークを特定する(ステップS2)。所定の炭素数は、特に限定されないが、例えば20~50の範囲とすることができる。より具体的には、特定部10Bは、各炭素数のノルマル炭化水素について、これらの標準品の分析により予め判明している保持時間に基づき、ピークを特定する。なお、各ピークの面積は、抽出液中の各炭素数のノルマル炭化水素の濃度に比例する。
【0031】
次に、特定部10Bが、ステップS2で特定されたピークのうち、ワックス以外の夾雑物に由来する成分が支配的なピークを、特異ピークとして特定し、データ131から除去する(ステップS3)。特異ピークの特定は、ワックス単体のクロマトグラムが既知である場合は、当該ワックスの既知のクロマトグラムと比較することにより行うことができる。例えば、ステップS2で特定されたある炭素数のノルマル炭化水素のピークの面積が、既知のクロマトグラムに基づいて特定された同じノルマル炭化水素のピークの面積から所定の割合以上乖離していれば、これを特異ピークとして除去することができる。あるいは、ステップS2で特定されたピークトップの値が、既知のクロマトグラムのピークトップの値から所定の割合以上乖離していれば、これを特異ピークとして除去することもできる。
【0032】
一方、ワックス単体のクロマトグラムが既知ではない場合や、ノルマル炭化水素の分布が大きく変化していると考えられる場合は、特定部10Bは、各炭素数におけるピークを、その前後の炭素数におけるピークと比較することにより特異ピークを特定する。より具体的には、注目するピークが前後のピークと比較して突出して大きなピークトップの値を示す、または注目するピークの面積が前後のピークと比較して突出して大きな面積となる等の場合、これを特異ピークとして除去することができる。このことは、ワックス単体におけるノルマル炭化水素の含有率は、炭素数1つの増減に対して急激に増減することはなく、各炭素数のノルマル炭化水素の分布は、滑らかな分布形状を示すという仮定に基づいている。
【0033】
なお、ステップS3で除去されるピークは、2以上の連続した炭素数にわたってもよい。このため、特異ピークを除いて、各炭素数に対するノルマル炭化水素のピークの面積をプロットしたグラフは、例えば図5に示すグラフのようになる。
【0034】
続いて、導出部10Cが、ステップS3で除去された特異ピークの面積を補間する(ステップS4)。この補間は、除去されたピークの前後の炭素数に対するピークの面積に基づいて行われる。なお、除去されたピークが2以上の連続した炭素数にわたる場合は、除去された範囲の前後の炭素数に対するピークの面積に基づいて、2以上のピークの補間が行われる。以下、補間の詳しい方法について説明する。
【0035】
いま、炭素数Cnに対するピークが除去され、その前後の炭素数Cn-1及びCn+1に対するピークの面積が、それぞれPn-1及びPn+1であったとする。この場合、導出部10Cは、Pn-1及びPn+1の平均値(Pn-1+Pn+1)/2を算出し、これを炭素数Cnのピークの面積Pnとする。また例えば、炭素数Cn,Cn+1,…,Cn+kに対する(k+1)個のピークが除去され、その前後の炭素数Cn-1及びCn+k+1に対するピークの面積が、それぞれPn-1及びPn+k+1であったとする(ただし、k≧1)。この場合、導出部10Cは、炭素数Cn,Cn+1,…,Cn+kのピークの面積Pn,Pn+1,…,Pn+kをそれぞれ以下のように算出する。ただし、d=(Pn+k+1-Pn-1)/(k+1)とする。
n=Pn-1+d
n+1=Pn-1+2d

n+k=Pn-1+(k+1)d
【0036】
すなわち、除去された1または複数のピークの面積は、その前後のピークの面積を含めた平均値が、元の前後のピークの面積の平均値と等しくなるように補間される。さらに、除去された複数のピークに関しては、補間されたピークの面積が、炭素数に応じて一定値ずつ増加または減少するように補間が行われる。つまり、前後のピークの面積の大小関係に応じて、ピークの面積が一方向に変化するように補間が行われる。これにより、図5のグラフから、図6に示すように滑らかな形状のグラフが生成され、上記仮定に沿ったワックスのノルマル炭化水素の分布が導出される。
【0037】
再び図4を参照して、推定部10Dが、ステップS4で導出されたノルマル炭化水素の分布に基づき、ゴム配合物中のワックスの含有量を推定する(ステップS5)。推定部10Dは、各炭素数に対するノルマル炭化水素のピークの面積に基づき、ノルマル炭化水素のピークの面積の合計を、ワックス中のノルマル炭化水素の含有量に換算する。この換算は、ノルマル炭化水素の標準品の分析により予め特定される、ノルマル炭化水素のピークの面積と、ノルマル炭化水素の調整液中の濃度との関係に基づいて行うことができる。なお、本発明者らの検討によれば、ノルマル炭化水素の調整液中の濃度が同じであれば、そのピークの面積は炭素数によらず概ね一定となる。このため、いずれか1つの炭素数のノルマル炭化水素について上記関係が特定されていれば、これに基づき、全ての炭素数のノルマル炭化水素について、含有量を算出することができる。
【0038】
さらに、推定部10Dは、換算されたノルマル炭化水素の含有量を、ワックスの含有量に換算する。この換算は、本実施形態では、ノルマル炭化水素の含有量を定数倍することにより行われる。換算の定数は、例えば、目的のワックスに対して仮定されるノルマル炭化水素とイソ炭化水素との存在比率に基づいて予め定めることができる。すなわち、換算されるワックスの含有量は、イソ炭化水素の含有量を補った値とすることができる。
【0039】
以上の手順により、ゴム配合物中のワックスの含有量、及び当該ワックスのノルマル炭化水素の分布を含むワックスの状態が推定される。推定部10Dは、ステップS5で推定されたワックスの含有量を表示する画面を作成し、これを表示部11に表示してもよい。
【0040】
<4.特徴>
上記実施形態に係る推定方法は、ワックス単体中のノルマル炭化水素の分布が滑らかな形状になるとの仮定の下に実行される。このため、夾雑物の影響が支配的な特異ピークを特定することが比較的容易である。さらに、除去されたピークの値を、簡易な方法で補間することができる。これにより、ワックスの状態推定に要する作業時間が大幅に削減されるとともに、作業者によるばらつきが排除され、ワックスの状態推定の信頼性が向上する。
【0041】
上記実施形態に係る推定方法によれば、ゴム配合物中に含まれるワックス単体のクロマトグラムが未知である場合や、ワックスが変質していると考えられる場合でも、ゴム配合物中のワックスの状態を推定することが可能になる。また、ゴム配合物中に含まれるワックス単体のクロマトグラムが既知である場合、既知のノルマル炭化水素の分布と、上記方法により導出されたノルマル炭化水素の分布とを比較することで、ゴム配合物中のワックスの劣化状態を推定することができる。
【0042】
<5.変形例>
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下に示す変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0043】
(1)上記実施形態では、ガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器(GC-FID)によりゴム配合物の抽出成分のクロマトグラムが取得された。しかし、クロマトグラムの取得方法はこれに限定されない。例えば、ガスクロマトグラフは、液体クロマトグラフであってもよい。また、検出器は、質量分析器(MS)、熱伝導度型検出器(TCD)、バリア放電イオン化検出器(BID)等の他の検出器であってもよい。
【0044】
(2)特異ピークの特定は、作業者が抽出成分のクロマトグラムを確認することにより行われてもよい。つまり、推定装置1は、ステップS1で取得したクロマトグラムを表示部11に表示し、これを確認した作業者が、入力部12を介して特異ピークを指定し、特定部10Bがこの入力を受け付け、クロマトグラムから除去するように構成されてもよい。特異ピークの特定作業は、特異ピークの修正作業と比較して、作業者によるばらつきが少なく、所要時間も短くて済む。このため、特異ピークの特定が作業者により行われたとしても、推定の信頼性の向上と効率化を図ることができる。あるいは、特異ピークの特定は、学習済みの機械学習モデルにより行われてもよい。
【0045】
(3)ゴム配合物からワックスを含む非ゴム成分を抽出する方法は、シクロヘキサンを用いた方法に限られず、適宜変更することができる。また、ゴム配合物はタイヤに限られず、ワックスを含有する、他のゴム配合物であってもよい。
【実施例0046】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。ただし、本開示は、これらの実施例に限定されない。
【0047】
<実験>
ゴム成分、オイル及びワックスが配合されたゴム配合物のサンプル1~3を準備した。サンプル1~3では、ワックスの含有量(質量%)が、それぞれ0.5倍、1倍、2倍となるように変更した。このワックスにおけるノルマル炭化水素全体の含有量(質量%)は予め判明しており、表1のとおりであった。
【表1】
【0048】
サンプル1~3をそれぞれ細断し、シクロヘキサンに24時間浸漬したのち、これをろ過して非ゴム成分が抽出された抽出液を作製した。サンプル1~3の抽出液の定量を、それぞれガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器(GC-FID)に供し、クロマトグラムを得た。また、炭素数の異なるノルマル炭化水素(C20,C29,C31,C39)の標準品を、それぞれ0.1mg/mlになるようにシクロヘキサンに溶解し、溶解液を作製した。この溶解液をGC-FIDに供し、各標準品のピーク面積を算出した。これらピーク面積の平均値を、ノルマル炭化水素の濃度0.1mg/ml相当値とした。
【0049】
上記0.1mg/ml相当値と、サンプル1~3について得られたクロマトグラムとに基づいて、サンプル1~3のノルマル炭化水素の含有量(質量%)を推定した。実施例に係る推定方法は、上記実施形態に係る推定方法とした。比較例に係る推定方法では、作業者が、得られた各クロマトグラム中の特異ピークを特定し、ワックス単体のクロマトグラムにおける炭化水素のピークに近くなるように修正した。
【0050】
GC-FIDを用いた分析条件は、以下の通りであった。
ガスクロマトグラフ:島津製作所製 GC2010
オートインジェクター:島津製作所製 AOC-20is
注入量:1.0μL
試料気化室温度:380℃
キャリアガス:He
圧力:100.0kPa
カラム寸法:膜厚0.25μm、内径0.25mm、長さ15m
カラム昇温条件:160℃で2分保持;10℃/分で昇温;360℃で20分保持
検出器温度:400℃
メイクアップガス:He
メイクアップ流量:30.0ml/分
水素流量:40.0ml/分
Air流量:400.0ml/分
【0051】
<結果>
サンプル1~3について推定されたノルマル炭化水素含有量は、以下の表2に示すとおりであった。
【表2】
【0052】
表2から分かるように、実施例に係る推定方法では、比較例に係る推定方法と比較して、より精度よくノルマル炭化水素の含有量が推定できていた。これにより、上記実施形態に係る推定方法の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0053】
1 推定装置
10A 取得部
10B 特定部
10C 導出部
10D 推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6