(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106512
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】磁極位置推定装置および磁極位置推定方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/18 20160101AFI20240801BHJP
H02P 6/16 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P6/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010799
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】平野 曜生
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG02
5H505GG04
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL39
5H505MM19
5H560BB04
5H560DA07
5H560DB20
5H560DC12
5H560RR03
5H560TT08
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA05
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供する。
【解決手段】磁極位置推定装置であって、同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器7と、電流検出器7で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器8と、電流指令とフィードバック側座標変換器8で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、電圧指令、または、電流指令を座標変換する指令側座標変換器4と、ロータの位置を検出する位置検出部9と、ロータの位置と位置指令、または、ロータの速度と速度指令とに基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する制御磁極位置算出部10と、磁極ずれ量推定値を算出する磁極位置ずれ算出器12を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定装置であって、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換器で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換器と、
前記ロータの位置を検出する位置検出部と、
前記ロータの前記位置と位置指令、または、前記ロータの速度と速度指令とに基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する制御磁極位置算出部と、
前記制御磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置と前記電流指令、または、前記制御磁極位置算出部で算出された前記磁極ずれ量と前記電流指令に基づき、磁極ずれ量推定値を算出する磁極位置ずれ算出器と、
を備え、
前記制御磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換器と前記指令側座標変換器が座標変換し、
互いに異なる2つの値を有する前記電流指令と、前記制御磁極位置算出部で算出され、前記電流指令のそれぞれの値に応じた前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量と、に基づいて、前記磁極位置ずれ算出器は前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算されることを特徴とする、磁極位置推定装置。
【請求項2】
前記磁極位置ずれ算出器は、互いに異なる2つの値を有する前記電流指令と、前記電流指令のそれぞれの値に応じた前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量と、に基づいた電流ベクトルの終点を結んだ直線の傾きを求め、前記ロータの磁極位置を推定する、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項3】
前記制御磁極位置算出部は、
前記ロータの前記位置と前記位置指令との偏差から前記制御磁極位置を算出する位置制御器、または、前記ロータの前記速度と前記速度指令との偏差から前記制御磁極位置を算出する速度制御器、を備える、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項4】
前記制御磁極位置算出部は、
前記磁極ずれ量に前記ロータの前記位置を加算することで、前記制御磁極位置を算出する、請求項1または3に記載の磁極位置推定装置。
【請求項5】
前記ディザ信号は正方向の振幅と負方向の振幅が同じ値である、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項6】
前記ディザ信号の大きさは、静止摩擦やクーロン摩擦より大きなトルクを発生させる値である、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項7】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法であって、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令、または、前記ロータの速度と速度指令とに基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を備え、
前記算出工程で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換工程と前記指令側座標変換工程において座標変換し、
互いに異なる2つの値を有する前記電流指令と、前記算出工程で算出され、前記電流指令のそれぞれの値に応じた前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量と、に基づいて、前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算されることを特徴とする、磁極位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極位置推定装置および磁極位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータの磁極位置に応じた電流をステータの巻線に流してトルクを発生させる同期電動機において、ロータの位置検出器としてインクリメンタルエンコーダを用いて、駆動開始時にロータの磁極位置の初期値を推定する技術が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、駆動開始時にロータの磁極位置の初期値を推定する技術が開示されている。具体的には、一定のdq軸電流を流した時にロータの磁極位置と制御磁極位置とのずれが存在すると、磁極位置ずれに応じてトルクが発生し、ロータの位置が移動する。移動したロータの位置を検出し、移動前のロータの位置に対する偏差をPI演算して座標変換位置を補正することで、磁極位置ずれを0に収束させ、ロータの磁極位置の初期値を推定する。
また、特許文献1には、同期電動機を用いた機械系の静止摩擦の影響を受けずにロータの磁極位置の初期値を推定する技術が開示されている。具体的には、非特許文献1に開示されている技術に加えて、ロータの位置を正方向に移動させた場合の磁極ずれ量の収束値と負方向に移動させた場合の磁極ずれ量の収束値の平均値を算出し、ロータの磁極位置の初期値を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電気学会論文誌D、Vol.122、No.9、2002 「インクリメンタルエンコーダ付きブラシレスDCサーボモータの磁極位置検出法と制御」
【特許文献1】特開2009-183022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同期電動機を垂直軸の機械に用いた場合において、非特許文献1に開示されている推定方法では、同期電動機に重力分の負荷がかかるため、磁極位置の推定誤差が大きいという課題があった。また、特許文献1に開示されている推定方法は、静止摩擦が大きい場合の推定誤差を改善したものであり、同期電動機にかかる重力分の負荷を考慮したものではないため、垂直軸の機械系には適用できないという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置、および、磁極位置推定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定装置は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換器で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換器と、
前記ロータの位置を検出する位置検出部と、
前記ロータの前記位置と位置指令、または、前記ロータの速度と速度指令とに基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する制御磁極位置算出部と、
前記制御磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置と前記電流指令、または、前記制御磁極位置算出部で算出された前記磁極ずれ量と前記電流指令に基づいて、磁極ずれ量推定値を算出する磁極位置ずれ算出器と、
を備え、
前記制御磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換器と前記指令側座標変換器が座標変換し、
互いに異なる2つの値を有する前記電流指令と、前記制御磁極位置算出部で算出され、前記電流指令のそれぞれの値に応じた前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量と、に基づいて、前記磁極ずれ位置算出器は前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算される。
【0008】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令、または、前記ロータの速度と速度指令とに基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を備え、
前記算出工程で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換工程と前記指令側座標変換工程において座標変換し、
互いに異なる2つの値を有する前記電流指令と、前記算出工程で算出され、前記電流指令のそれぞれの値に応じた前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量と、に基づいて、前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含む、または、前記制御磁極位置はディザ信号が加算される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置、および、磁極位置推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
【
図3】本発明の第一実施形態に係るロータの磁極位置の算出方法の説明図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
【
図6】本発明の第二実施形態に係るロータの磁極位置の算出方法の説明図である。
【
図7】本発明の第三実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された部材と同一の参照番号を有する部材については、説明の便宜上、その説明は省略する。
【0012】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、サーボモータMの制御装置(以下、磁極位置推定装置ともいう)は、dq軸電流指令設定器1と、q軸電流制御器2と、d軸電流制御器3(以下、q軸電流制御器2とd軸電流制御器3を、まとめて電流制御部ともいう)と、指令側座標変換器4と、PWM制御器5と、電力変換機6と、電流検出器7と、フィードバック側座標変換器8と、位置検出部(エンコーダ)9と、制御磁極位置算出部10と、フィルタ11と、磁極位置ずれ算出器12と、ディザ信号設定器13から構成される。制御磁極位置算出部10は、速度算出器14と、位置制御器15と、速度制御器16とを含む。dq軸電流指令設定器1とディザ信号設定器13は、磁極位置推定コントローラ20によって制御される。位置制御器15は例えば比例制御器で構成され、速度制御器16は例えば比例積分制御器で構成される。
【0013】
dq軸電流指令設定器1は、q軸電流指令設定値を出力する。ディザ信号設定器13は、ディザ信号を出力する。ここで、ディザ信号とは、三角波や正弦波等の正方向と負方向に交互に振動する波形であり、正方向の振幅と負方向の振幅が同じ値であり、静止摩擦やクーロン摩擦より大きなトルクを発生させる値である。次に、q軸電流指令設定値に、ディザ信号が加算されることで、q軸電流指令IqCが算出される。次に、q軸電流指令IqCとフィードバック側座標変換器8からのq軸電流フィードバックIqFとの偏差がq軸電流制御器2に入力される。q軸電流制御器2は、入力された偏差からq軸電圧指令VqCを算出する。
【0014】
また、dq軸電流指令設定器1は、d軸電流指令IdCであるd軸電流指令設定値を出力する。次に、d軸電流指令IdCとフィードバック側座標変換器8からのd軸電流フィードバックIdFとの偏差がd軸電流制御器3に入力される。d軸電流制御器3は、入力された偏差からd軸電圧指令VdCを算出する。
【0015】
算出されたq軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCは、指令側座標変換器4に入力される。指令側座標変換器4は、制御磁極位置算出部10からの制御磁極位置θcに基づいて、q軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCを、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換し、三相電圧指令VUC、VVC、VWCを算出する。三相電圧指令VUC、VVC、VWCはPWM制御器5に入力され、PWM制御器5は入力された三相電圧指令VUC、VVC、VWCからPWM制御信号を生成し、出力する。PWM制御信号は電力変換機6に入力され、電力変換機6はPWM制御信号に基づいてサーボモータMを駆動する。
【0016】
なお、本実施形態ではq軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCが、指令側座標変換器4に入力されて、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換される構成となっているが、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCが、指令側座標変換器4に入力されて、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換される構成であってもよい。
【0017】
電流検出器7はサーボモータMのU相のモータ電流IUと、V相のモータ電流IVを検出する。モータ電流IU、IVの電流検出値はフィードバック側座標変換器8に入力される。フィードバック側座標変換器8は、制御磁極位置算出部10からの制御磁極位置θcに基づいて、モータ電流IU、IVの電流検出値を、三相静止座標系からdq回転座標系へ座標変換し、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFを算出する。
【0018】
位置検出部(エンコーダ)9は、サーボモータMに搭載されていて、サーボモータMのロータの位置θFBを検出する。検出されたロータの位置θFBは、速度算出器14に入力される。速度算出器14は、検出されたロータの位置θFBを微分処理してモータ速度VFBを算出する。
【0019】
また、位置指令θcmdと検出されたロータの位置θFBの偏差が位置制御器15に入力され、位置制御器15は速度指令Vcmdを出力する。出力された速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの偏差が速度制御器16に入力され、速度制御器16は制御磁極位置θcを算出する。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4とフィードバック側座標変換器8とフィルタ11に入力される。フィルタ11は、ローパスフィルタ等で構成され、ディザ信号による制御磁極位置θcの変動を抑制する。フィルタ11にてフィルタ処理した制御磁極位置θcFと検出されたロータの位置θFBとの差である磁極ずれ量推定値θeFが、磁極位置ずれ算出器12に保存される。
【0020】
上記構成において、位置指令θcmdを0に設定し、速度制御器16を比例積分制御器で構成することで、速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの定常偏差が0になるように制御される。その結果、検出されたロータの位置θFBは最終的に0に収束される。
【0021】
なお、本実施形態では位置指令θcmdが入力される構成となっているが、位置制御器15を設けずに,速度指令Vcmdが入力される構成であってもよい。
【0022】
図2は、本発明の第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
磁極位置推定装置が磁極位置推定フローを開始すると、第一工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を一定値に設定し、d軸電流指令設定値を0に設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をOFFに設定し、同期電動機を駆動する(S101)。
【0023】
これにより、ロータの磁極位置θreと制御磁極位置θcとのずれに応じてロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そのため、位置指令θcmdと検出されたロータの位置θFBの偏差が発生し、位置制御器15から速度指令Vcmdが出力される。さらに、速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの偏差が発生し、速度制御器16によって制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、q軸電流のみ電流を流していることから磁極位置ずれはπ/2より少し小さく、モータ軸換算の重力トルクとモータ出力トルクがつり合う角度に収束する。位置偏差を抑制する方向に制御系が動作するため、検出されたロータの位置θFBは移動した位置から元の位置に戻る。なお,磁極位置ずれの初期値が-π/2より少し大きく、モータ軸換算の重力トルクとモータ出力トルクがつり合う角度であった場合、検出されたロータの位置θFBは移動せず、磁極位置ずれは-π/2より少し大きく、モータ軸換算の重力トルクとモータ出力トルクがつり合う角度のままである。
【0024】
第一工程において制御磁極位置θcが収束するまでの一定時間が経過した後、第二工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令(IdC1)の設定値を一定値Iconstに設定し、ディザ信号設定器13のディザ信号をONに設定し、同期電動機を駆動する(S102)。
【0025】
これにより、磁極位置ずれに応じてロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そのため、第一工程と同様に、速度制御器16によって制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、サーボモータMに発生するトルクとモータ軸換算の重力トルクがつりあう方向に制御され、制御磁極位置θcは、サーボモータMに発生するトルクとモータ軸換算の重力トルクがつりあう角度に収束する。収束後にフィルタ11にてフィルタ処理した制御磁極位置をθcF1として、磁極位置ずれ算出器12に保存する(S102)。
【0026】
第二工程において制御磁極位置θcF1が収束するまでの一定時間が経過した後、第三工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令(IdC2)の設定値を一定値Iconst×0.7に設定し、同期電動機を駆動する(S103)。
【0027】
これにより、磁極位置ずれに応じてロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そのため、第一工程、第二工程と同様に、速度制御器16によって算出された制御磁極位置θcが、指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、サーボモータMに発生するトルクとモータ軸換算の重力トルクがつりあう方向に制御され、制御磁極位置θcは、サーボモータMに発生するトルクとモータ軸換算の重力トルクがつりあう角度に収束する。収束後にフィルタ11にてフィルタ処理した制御磁極位置をθcF2として、磁極位置ずれ算出器12に保存する(S103)。
【0028】
第三工程において制御磁極位置θcF2が収束するまでの一定時間が経過した後、第四工程として、磁極位置ずれ算出器12は、互いに異なる値を有する2つのd軸電流指令IdC1、IdC2と、制御磁極位置算出部10で算出され、2つのd軸電流指令IdC1、IdC2のそれぞれの値に応じた制御磁極位置θcF1、θcF2と、に基づいて、ロータの磁極位置θaを推定する。推定されたロータの磁極位置θaは、ロータ位置θFBとの差を取り磁極ずれ量推定値θeFとして磁極位置ずれ算出器12に保存される(S104)。その後、磁極位置推定フローは終了する。磁極位置推定フロー終了後、磁極位置ずれ算出器12に保存されているロータの磁極ずれ量推定値θeFをロータの位置θFBに加算して制御磁極位置θcを算出することで、正確なロータの磁極位置での同期電動機の駆動が可能となる。
【0029】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置は、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0030】
図3は、本発明の第一実施形態に係るロータの磁極位置の算出方法の説明図である。
図3に示すように、αβ固定座標において原点を基準として2つの電流ベクトルIdC1、IdC2を設定する。2つの電流ベクトルIdC1、IdC2は、大きさが2つのd軸電流指令IdC1、IdC2のそれぞれの値、方向がα軸からの制御磁極位置θcF1、θcF2で定義される。2つの電流ベクトルIdC1、IdC2のそれぞれの終点をP1、P2とする。以下の数式(1)より、2つの電流ベクトルIdC1、IdC2のそれぞれの固定座標α軸、β軸の成分を算出する。
【式1】
【0031】
数式(1)より算出された固定座標α軸、β軸の成分から、終点P1、P2を結ぶ直線の傾きaを求める。傾きaは、モータ軸換算の重力トルクの影響を除いた推定d軸方向に相当する。傾きaから、以下の数式(2)によって、ロータの磁極位置θaが求められる。
【式2】
【0032】
なお、傾きaから求める角度θは、d軸方向とπだけ異なる可能性がある。そのため傾きaから求めた角度θが上述した第二工程の制御磁極位置θcF1と比較してπ/2~3π/2だけ異なる場合は、θからπだけ減算した値をロータの磁極位置θaとする。
【0033】
なお、d軸電流指令の大きさの代わりに,上述した第一工程~第四工程で流したd軸電流フィードバックを用いて算出してもよい。
【0034】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置は、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
(第二実施形態)
【0035】
図4は、本発明の第二実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置では、速度制御器16は制御磁極位置θcを算出し、算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8とフィルタ11に入力される。これに対して、
図4に示す第二実施形態に係る磁極位置推定装置では、速度制御器16は磁極ずれ量推定値θeを算出し、算出された磁極ずれ量推定値θeに検出されたロータの位置θFBが加算されて制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8に入力される。また、速度制御器16で算出された磁極ずれ量推定値θeはフィルタ11に入力される。本実施形態に係る磁極位置推定装置も、第一実施形態に係る磁極位置推定装置と同様に、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0036】
なお、速度制御器16と、指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8の間の経路以外の構成(dq軸電流指令設定器1、q軸電流制御器2、d軸電流制御器3、指令側座標変換器4、PWM制御器5、電力変換機6、電流検出器7、フィードバック側座標変換器8,位置検出部(エンコーダ)9、制御磁極位置算出部10、フィルタ11、磁極位置ずれ算出器12、およびディザ信号設定器13)は、
図1に示す第一実施形態の各構成と同様である。したがって、これらの説明については省略する。
【0037】
図5は、本発明の第二実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
図2に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートでは、第二工程、第三工程において、収束後にフィルタ11にてフィルタ処理した制御磁極位置をθcF1、θcF2として、磁極位置ずれ算出器12に保存する(S102、S103)。また、第四工程において、磁極位置ずれ算出器12は、2つのd軸電流指令IdC1、IdC2と、2つのd軸電流指令IdC1、IdC2のそれぞれの値に応じた制御磁極位置θcF1、θcF2と、に基づいて、ロータの磁極位置θaを推定する。推定されたロータの磁極位置θaは、ロータ位置θFBとの差を取り磁極ずれ量推定値θeFとして磁極位置ずれ算出器12に保存する(S104)。
これに対して、
図5に示す第二実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートでは、第二工程、第三工程において、収束後にフィルタ11にてフィルタ処理した磁極ずれ量をθeF1、θeF2として、磁極位置ずれ算出器12に保存する(S202、S203)。また、第四工程において、磁極位置ずれ算出器12は、2つのd軸電流指令IdC1、IdC2と、2つのd軸電流指令IdC1、IdC2のそれぞれの値に応じた磁極ずれ量θeF1、θeF2と、に基づいて、ロータの磁極ずれ量推定値θeFを算出して磁極位置ずれ算出器12に保存する(S204)。
【0038】
なお、本実施形態に係る第一工程は、
図2に示す第一実施形態に係る第一工程と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
図6は、本発明の第二実施形態に係るロータの磁極位置の算出方法の説明図である。
図3に示す第一実施形態に係るロータの磁極位置の算出方法では、αβ固定座標において原点を基準として2つの電流ベクトルIdC1、IdC2を設定し、上記で説明した数式(1)より、2つの電流ベクトルIdC1、IdC2のそれぞれの固定座標α軸、β軸の成分を算出する。数式(1)より算出された固定座標α軸、β軸の成分から、終点P1、P2を結ぶ直線の傾きaを求める。
これに対して、本実施形態に係るロータの磁極位置の算出方法では、d軸電流指令IdCのエンコーダ検出位置座標において、原点を基準として2つの電流ベクトルIdC1、IdC2を設定し、以下の数式(3)より、2つの電流ベクトルIdC1、IdC2のそれぞれのエンコーダ検出位置座標de軸、qe軸の成分を算出する。
【式3】
【0040】
数式(3)より算出されたエンコーダ検出位置座標de軸、qe軸の成分から、終点P1、P2を結ぶ直線の傾きaを求める。傾きaは、モータ軸換算の重力トルクの影響を除いた推定d軸方向に相当する。傾きaから、上記で説明した数式(2)によって、ロータの磁極位置θaが求められる。
(第三実施形態)
【0041】
図7は、本発明の第三実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す第一実施形態に係る磁極位置推定装置では、ディザ信号設定器13がdq軸電流指令設定器1とq軸電流制御器2の間に配置されているのに対して、本発明の第三実施形態に係る磁極位置推定装置では、ディザ信号設定器13が指令側座標変換器4及びフィードバック側座標変換器8と、速度制御器16との間に配置されている。
図7に示すように、速度制御器16は制御磁極位置推定値θdを算出し、算出された制御磁極位置推定値θdにディザ信号設定器13から出力されるディザ信号が加算され、制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器4とフィードバック側座標変換器8に入力される。また、速度制御器16で算出された制御磁極位置推定値θdはフィルタ11に入力される。本実施形態に係る磁極位置推定装置も、第一実施形態に係る磁極位置推定装置と同様に、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0042】
なお、ディザ信号設定器13以外の構成(dq軸電流指令設定器1、q軸電流制御器2、d軸電流制御器3、指令側座標変換器4、PWM制御器5、電力変換機6、電流検出器7、フィードバック側座標変換器8,位置検出部(エンコーダ)9、制御磁極位置算出部10、フィルタ11、および磁極位置ずれ算出器12)は、
図1に示す第一実施形態の各構成と同様である。したがって、これらの説明については省略する。
【0043】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置は、同期電動機を垂直軸の機械系に用いた場合でも、重力負荷や摩擦による影響を受けない、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0045】
1:dq軸電流指令設定器
2:q軸電流制御器
3:d軸電流制御器
4:指令側座標変換器
5:PWM制御器
6:電力変換機
7:電流検出器
8:フィードバック側座標変換器
9:位置検出部(エンコーダ)
10:制御磁極位置算出部
11:フィルタ
12:磁極位置ずれ算出器
13:ディザ信号設定器
M:サーボモータ