(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106522
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】光センシング装置及び光センシング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240801BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01N21/45 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010816
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA02
2G059AA05
2G059BB12
2G059CC16
2G059EE04
2G059EE09
2G059JJ17
2G059JJ19
2G059JJ22
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】検出物質の光吸収による作用を抑制して、感度の高い検出を行う。
【解決手段】光源と、光源で生成された光を干渉させて干渉光を生成する干渉器200と、干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する受光部とを備えて構成される。光源は、特定波長の光を生成する特定波長光源100であり、受光部300は、干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段310と、干渉信号を規格化する規格化手段320と、規格化された干渉信号をN乗して出力信号を得るN乗手段330とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源で生成された光を干渉させて干渉光を生成する干渉器と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する受光部と
を備え、
前記光源は、特定波長の光を生成する特定波長光源であり、
前記受光部は、
前記干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、
前記干渉信号を規格化する規格化手段と、
規格化された前記干渉信号をN(Nは2以上の整数)乗して出力信号を得るN乗手段と
を備える光センシング装置。
【請求項2】
光源と、
前記光源で生成された光を干渉させて干渉光を生成する干渉器と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する受光部と
を備え、
前記光源は、特定波長の光を生成する特定波長光源であり、
前記受光部は、
前記干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、
前記干渉信号を規格化する規格化手段と、
N回の干渉光の受光により得られる、Nの規格化された前記干渉信号を乗算して出力信号を得る乗算手段と
を備える光センシング装置。
【請求項3】
光源と、
前記光源で生成された光を干渉させて干渉光を生成する干渉器と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する受光部と
を備え、
前記光源は、電気パルス信号に応答してパルス光を生成するパルス光源であり、
前記受光部は、
前記干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、
前記干渉信号の、前記電気パルス信号からの損失を補償する補償手段と、
補償された前記干渉信号を、新たに電気パルス信号として生成するパルス生成手段と、
N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号をフーリエ変換して出力信号を得るフーリエ変換手段と
を備える光センシング装置。
【請求項4】
光源と、
前記光源で生成された光を干渉させて干渉光を生成する干渉器と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する受光部と
を備え、
前記光源は、電気パルス信号に応答して複数波長のパルス光を生成する複数波長光源であり、
前記受光部は、
前記干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、
前記干渉信号の、前記電気パルス信号からの損失を補償する補償手段と、
補償された前記干渉信号を、新たに電気パルス信号として生成し、及び、N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号を出力信号とするパルス生成手段と
を備える光センシング装置。
【請求項5】
前記干渉器は、
入力される光を2分波する分波器と、
2分岐された干渉光がそれぞれ伝播する、第1アーム導波路及び第2アーム導波路と
前記第1アーム導波路及び第2アーム導波路を伝播した光を合波して干渉光を生成する合波器と
を備え、
前記第1アーム導波路に、測定対象領域が設けられている
請求項1~4のいずれか一項に記載の光センシング装置。
【請求項6】
前記干渉器に替えて、
入力される光を伝播し、測定対象領域が設けられている導波路と、
導波路を伝播した光の特定の偏光軸の光を選択して通過させる偏光子と
を有する偏光選択部を備える
請求項1~4のいずれか一項に記載の光センシング装置。
【請求項7】
特定波長の光を生成する過程と、
前記特定波長の光を干渉させて干渉光を生成する過程と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、
前記干渉信号を規格化する過程と、
規格化された前記干渉信号をN乗して出力信号を得る過程と
を備える光センシング方法。
【請求項8】
繰り返し行われる、
特定波長の光を生成する過程と、
前記特定波長の光を干渉させて干渉光を生成する過程と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、
前記干渉信号を規格化する過程と
を備え、
さらに、
N回の干渉光の受光により得られる、Nの規格化された前記干渉信号を乗算して出力信号を得る過程
を備える光センシング方法。
【請求項9】
繰り返し行われる、
電気パルス信号に応答してパルス光を生成する過程と、
前記パルス光を干渉させて干渉光を生成する過程と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、
前記干渉信号を規格化する過程と、
前記干渉信号の、前記電気パルス信号からの損失を補償する過程と、
補償された前記干渉信号を、新たに電気パルス信号として生成する過程と
を備え、
さらに、
N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号を、フーリエ変換して出力信号を得る過程
を備える光センシング方法。
【請求項10】
繰り返し行われる、
電気パルス信号に応答して、複数波長のパルス光を生成する過程と、
前記複数波長のパルス光を干渉させて干渉光を生成する過程と、
前記干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、
前記干渉信号の、前記電気パルス信号からの損失を補償する過程と、
補償された前記干渉信号を、新たに前記電気パルス信号として生成する過程と
を備え、
さらに、
N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号を出力信号とする過程
を備える光センシング方法。
【請求項11】
前記干渉光を生成する過程は、
光源で生成された光を2分波する過程と、
2分岐された光をそれぞれ、第1アーム導波路及び第2アーム導波路を伝播させる過程と、
前記第1アーム導波路及び第2アーム導波路を伝播した光を合波して干渉光を生成する過程と
を備え、
前記第1アーム導波路に、測定対象領域が設けられている
請求項7~10のいずれか一項に記載の光センシング方法。
【請求項12】
前記干渉光を生成する過程に替えて、
光源で生成された光を、測定対象領域が設けられている導波路を伝播させる過程と、
導波路を伝播した光の特定の偏光軸の光を選択して通過させる過程と
が行われる
請求項7~10のいずれか一項に記載の光センシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光センシング装置及び光センシング方法に関し、例えば、導波路周囲の屈折率変化を検知する素子による物質の検出、特に、バイオセンサに用いることができる、光センシング装置及び光センシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光導波路デバイスのプラットフォーム技術として、シリコン(Si)フォトニクスが注目を集めている。Siフォトニクスの特徴は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの半導体装置の製造プロセスを利用することによる、光導波路とそれに準ずる変調器や受光器など光デバイスの小型・集積性、及び、既存の半導体製造技術を流用して提供される200mmあるいは300mmウェハプロセスによる生産性の高さである。また、Siを導波路コア、Si酸化膜(SiO2)をクラッドとするSi導波路は比屈折率差が40%に達するので、高い光の閉じ込め効果が得られる。特にSi細線導波路では、曲げ導波路の曲率半径や並走配線ピッチを数ミクロンオーダーまで小さくでき、光回路レイアウトの小型化が可能となる。
【0003】
Si導波路の用途の一例として、導波路コア周囲の屈折率変化を検知する素子への適用が検討されている(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照)。Siを導波路材料として利用するときには、上述のように導波路寸法を小さくすることが可能である。また、導波路壁面付近でのエバネッセント波を用いれば、導波路コア表面へ吸着させた生体物質を検出することができる。生体物質を検出するのに用いられる素子は、いわゆるバイオセンサである。
【0004】
このSiを導波路材料として利用したバイオセンサにより、検出物質の化学的処理を少なくして、迅速な検出を行うことが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Advanced Material Technologies, vol.5, p.1901138, 2020年
【非特許文献2】Advances in Optics and Photonics, vol.13, No.3, p.584, September 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バイオセンサで用いられる、検出物質や生体物質は、光を吸収する性質がある。この性質が、光と検出物質との作用長を実効的に短くする作用を有する。このため、検出感度が低下するという問題がある。
【0007】
これまでに、非特許文献2に開示されている技術など、様々な検出方法が提案されているが、この検出感度が低下するという問題に対処する有効な手段は限られている。
【0008】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、検出物質の光吸収による作用を抑制して、検出感度の高い光センシング装置及び光センシング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、この発明の光センシング装置は、光源と、光源で生成された光を干渉させて干渉光を生成する干渉器と、干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する受光部とを備えて構成される。光源は、特定波長の光を生成する特定波長光源であり、受光部は、干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、干渉信号を規格化する規格化手段と、規格化された干渉信号をN乗して出力信号を得るN乗手段とを備える。
【0010】
また、上述の光センシング装置の他の好適実施形態によれば、光源は、特定波長の光を生成する特定波長光源であり、受光部は、干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、干渉信号を規格化する規格化手段と、N回の干渉光の受光により得られる、Nの規格化された干渉信号を乗算して出力信号を得る乗算手段とを備える。
【0011】
また、上述の光センシング装置の他の好適実施形態によれば、光源は、電気パルス信号に応答してパルス光を生成するパルス光源であり、受光部は、干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、干渉信号の、電気パルス信号からの損失を補償する補償手段と、補償された干渉信号を、電気パルス信号として生成するパルス生成手段と、N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号をフーリエ変換して出力信号を得るフーリエ変換手段とを備える。
【0012】
また、上述の光センシング装置の他の好適実施形態によれば、光源は、電気パルス信号に応答して、複数波長のパルス光を生成する複数波長光源であり、受光部は、パルス光を干渉させて干渉光を生成する干渉器と、干渉光を、電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段と、干渉信号の、電気パルス信号からの損失を補償する補償手段と、補償された干渉信号を、電気パルス信号として生成し、及び、N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号を出力信号とするパルス生成手段とを備える。
【0013】
また、上述した目的を達成するために、この発明の光センシング方法は、特定波長の光を生成する過程と、特定波長の光を干渉させて干渉光を生成する過程と、干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、干渉信号を規格化する過程と、規格化された前記干渉信号をN乗して出力信号を得る過程とを備える。
【0014】
また、上述の光センシング方法の他の好適実施形態によれば、繰り返し行われる、特定波長の光を生成する過程と、特定波長の光を干渉させて干渉光を生成する過程と、干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、干渉信号を規格化する過程とを備え、さらに、N回の干渉光の受光により得られる、Nの規格化された干渉信号を乗算して出力信号を得る過程を備える。
【0015】
また、上述の光センシング方法の他の好適実施形態によれば、繰り返し行われる、電気パルス信号に応答してパルス光を生成する過程と、パルス光を干渉させて干渉光を生成する過程と、干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、干渉信号を規格化する過程と、干渉信号の、電気パルス信号からの損失を補償する過程と、補償された干渉信号を、新たに電気パルス信号として生成する過程とを備え、さらに、N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号を、フーリエ変換して出力信号を得る過程を備える。
【0016】
また、上述の光センシング方法の他の好適実施形態によれば、繰り返し行われる、電気パルス信号に応答して、複数波長のパルス光を生成する過程と、複数波長のパルス光を干渉させて干渉光を生成する過程と、干渉光を受光して、電気信号である干渉信号に変換する過程と、干渉信号の、電気パルス信号からの損失を補償する過程と、補償された干渉信号を、新たに前記電気パルス信号として生成する過程とを備え、さらに、N回の干渉光の受光により得られる電気パルス信号を出力信号とする過程を備える。
【発明の効果】
【0017】
この発明の光センシング装置及び光センシング方法によれば、検出感度を高めるために、干渉光をN回干渉器に通す効果を、電気信号により得ている。このため、検出物質の光吸収による作用が抑制され、感度の高い検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1光センシング装置を説明するための模式図である。
【
図3】第2光センシング装置を説明するための模式図である。
【
図4】第3光センシング装置を説明するための模式図である。
【
図5】他の構成例1を説明するための模式図である。
【
図6】他の構成例2を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0020】
(第1光センシング装置)
図1を参照して、この発明の第1実施形態に係る光センシング装置(第1光センシング装置とも称する。)を説明する。
図1(A)は、第1光センシング装置の構成例を説明するための模式図である。
図1(B)は、第1光センシング装置の他の構成例を説明するための模式図である。
図1(C)は、第1光センシング装置の動作を説明するための模式図である。
【0021】
図1(A)に示される、第1光センシング装置は、特定波長光源100、干渉器200及び受光部300を備えて構成される。
【0022】
特定波長光源100は、特定の波長の光(特定波長光)を生成する。特定波長光源100は、特定波長光を生成する機能を有する任意好適な従来公知の光源で構成される。特定波長光源100で生成された特定波長光は、干渉器200に送られる。
【0023】
干渉器200の構成については、後述する。干渉器200は、特定波長光を干渉させて干渉光を生成する。干渉光は、受光部300に送られる。
【0024】
受光部300は、光信号である干渉光を電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段310と、電気信号である干渉信号を用いて所定の処理を行う電気信号処理手段とを有する。光電変換手段310は、例えば、フォトダイオード(PD)など、入力された光の強度に対応する信号強度の電気信号を生成する任意好適な従来公知のもので構成することができる。また、電気信号処理手段は、当業者であれば、任意好適な従来公知のアナログ処理回路、ディジタル処理回路、及び、アナログディジタル変換器を用いて、実現できる。
【0025】
電気信号処理手段は、機能手段として、規格化手段320と、N(Nは2以上の整数)乗手段330とを備える。規格化手段320は、干渉信号を規格化する。N乗手段330は、規格化された干渉信号をN乗して、出力信号を得る。
【0026】
図1(B)を参照して、第1光センシング装置の他の構成例を説明する。第1光センシング装置の他の構成例は、受光部の構成が異なる。他の構成例では、受光部301は、N乗手段に替えて、乗算手段332及び記憶手段340を備える。この場合、特定波長光源100は、繰り返し、特定波長光を生成する。干渉器は、特定波長光の生成ごとに、干渉光を生成する。光電変換手段310は、特定波長光の生成ごとに、干渉信号を生成する。規格化手段320は、特定波長光の生成ごとに、干渉信号を規格化する。規格化された干渉信号は、記憶手段340に送られ、記憶される。乗算手段332は、受光部301によるN回の干渉光の受光により得られて、記憶手段340で記憶されている、Nの規格化された干渉信号を乗算する。
【0027】
干渉器200での干渉条件が変化していない場合は、
図1(B)に示す構成による、Nの規格化された干渉信号を乗算したものと、
図1(A)に示す構成による、1の規格化された干渉信号をN乗したものとでは、出力信号は同様になる。
【0028】
図2を参照して、干渉器を説明する。
図2は、干渉器を説明するための模式図である。
図2(A)は、干渉器の概略的平面図であって、後述する支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。なお、他の概略的平面図においても後述する支持基板及びクラッドを省略する。
図2(B)は、第1の光センシング装置の概略的断面図である。
図2(B)は、
図2(A)のA-A線に沿った概略的断面図である。
【0029】
光導波路素子は、支持基板10上に下部クラッド20と、下部クラッド20上に導波路コア30を備えて構成される。光導波路素子は、例えば、SOI(Silicon On
Insulator)基板を利用することによって、簡単に製造することができる。支持基板層、SiO2層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板の、支持基板層が支持基板10となる。また、SiO2層が下部クラッド20となる。Si層が例えばドライエッチングなどを用いてパターニングされて導波路コア30が形成される。
【0030】
導波路コア30を伝搬する光が、支持基板10へ逃げるのを防止するため、支持基板10と光導波路子30の間の距離、すなわち、下部クラッド20の厚みは、1μm以上であるのがよい。また、導波路コア30の厚みは、厚さ方向でシングルモード条件を達成できる値である、200~400nmであることが望ましい。
【0031】
導波路コア30の平面形状に応じて、光が伝搬し、所望の機能を実現する。干渉器200は、分波器210、第1アーム導波路220、第2アーム導波路222、及び、合波器230を備えて構成される。分波器210及び合波器230は、例えば、カプラで構成される。第1アーム導波路220及び第2アーム導波路222は、なるべく狭い占有面積で、長い光路長を確保するのがよい。そのため、ここでは、第1アーム導波路220及び第2アーム導波路222を、蛇行した構造としている。また、波長依存性や温度依存性を抑制するために、第1アーム導波路220及び第2アーム導波路222の光路長が互いに等しくなるように設計されている。
【0032】
第1アーム導波路220が形成された領域に、センシング領域240を設ける。このセンシング領域240では、導波路コア30の周囲のクラッド20が除去されている。
【0033】
例えば、測定対象物250が生体物質である場合、周囲のクラッド20が除去されている第1アーム導波路220で光の吸収が生じる。干渉器200としては、合波器230に入力される、第1アーム導波路220からの光量と、第2アーム導波路222からの光量が同程度である方が、消光のよい干渉が生じる。従って、分波器210としてカプラを用いる場合、第1アーム導波路220への光量が、第2アーム導波路222への光量よりも多くなるように、分岐比を設定するのが良い。なお、分波器210として、光スイッチを用いてもよい。分波器210に光スイッチを用いる場合、分岐比をセンシング領域240での光の吸収量に応じて設定することができる。
【0034】
再び
図1を参照して、第1光センシング装置の動作を説明する。第1光センシング装置は、干渉器200において何度も光を周回させることで、感度が向上することを利用する。干渉器200での光損失がある場合には、周回のたびに光強度が低下していく。このため、感度の向上のために干渉器200での周回数を増やそうとしても、光のままでは限度がある。しかも、光の位相の影響で周回数が多いと極端な波長依存性が出る。
【0035】
これに対し、第1光センシング装置は、光のままでは干渉器200での周回数を多くできないという課題を、電気的手段で克服する。
【0036】
図1(A)に示される第1光センシング装置では、特定波長光源100で生成された特定波長光を、干渉器200に入力する。これを受光部300で受光するとともに、受信した干渉信号を標識値で規格化した後、規格化された干渉信号をN乗する。あるいは、
図1(B)に示される構成例では、N回の特定波長光の生成ごとに得られて記録されている、規格化された、Nの干渉信号を掛け合わせる。このようにして、第1光センシング装置は、干渉器200において光を周回させる効果を、電気信号のN乗又はN回の乗算により得る。
【0037】
この結果、第1図(C)に示されるように、もともと三角関数的な応答の干渉器200の応答が、急峻なスロープを持った応答に変換される。これによって、干渉器200での測定対象物による屈折率変化に対する出力の応答を高めることができる。
【0038】
また、受光部300では、光強度のみ検出する。このため、干渉器200において光を周回させた場合に生じる、光位相の情報が重なることによる、干渉器200の応答とは別の、細かい波長依存性の発生を抑えることができる。
【0039】
N乗された光は、ANcos2N(φ)のような応答になる。ここで、Aは振幅、φは光位相である。φによる変分をとると、2NΔφ[-ANsin(φ)cos2Nー1(φ)]を得る。
【0040】
従来技術では、N=1であるので、2Δφ[-Asin(π/4)cos(π/4)]で最大の感度になる。したがって、第1光センシング装置において、tan(φ)cos2N(φ)=0.5の動作点近傍を選べば、光損失や位相の影響を受けることなく、φの変動に対する感度をN倍にすることができる。
【0041】
なお、干渉器200の干渉条件は2mπ=2πnL/λである。ここでnは等価屈折率、Lは干渉器長、λは光波長である。上式から、測定対象物の屈折率変化に対する干渉次数mの変化が、(Δm/Δns)/(dN/dns)=L/λとして得られる。ここで、Δmは光強度変化の測定限度、dN/dnsは、等価屈折率のサンプル屈折率応答率である。このとき、検出したい屈折率変化Δnsで素子サイズL/λが決まる。例えば、Δns=10-7、Δm=0.01、dN/dns=0.26とすると、L=4×105λとなり、例えば、μmオーダーの光波長に対して、光路長Lが数十cm規模になる。ここで、第1光センシング装置を用いれば、φの変動に対する感度をN倍にすることができるので、従来技術と同じ感度の場合、光路長LをN分の1の長さにできる。
【0042】
このように、第1光センシング装置によれば、検出感度を高めるために、干渉光をN回干渉器に通す効果を、電気信号により得ている。このため、検出物質の光吸収による作用が抑制され、感度の高い検出が可能になる。従って、第1光センシング装置に、従来技術と同じ光路長Lの干渉器を用いる場合、感度がN倍になる。また、従来技術と同じ感度に設定する場合、光路長LをN分の1の長さにでき、干渉器を小型化できる。
【0043】
(第2光センシング装置)
図3を参照して、この発明の第2実施形態に係る光センシング装置(第2光センシング装置とも称する。)を説明する。
図3は、第2光センシング装置を説明するための模式図である。なお、第1光センシング装置と同様に構成されるものについては、重複する説明を省略することもある。
【0044】
第2光センシング装置は、パルス光源102、干渉器200及び受光部302を備えて構成される。
【0045】
パルス光源102は、電気パルス信号の入力に応答して、電気パルス信号のパルス形状に対応するパルス状の光(パルス光)を生成する。パルス光源102は、パルス光を生成する機能を有する任意好適な従来公知の光源で構成される。特定波長光源102で生成されたパルス光は、干渉器200に送られる。
【0046】
干渉器200の構成については、第1光センシング装置と同様なので説明を省略する。干渉器200に送られたパルス光は、干渉器200で干渉して干渉光を生成する。干渉光は、受光部302に送られる。
【0047】
受光部302は、光信号である干渉光を電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段310と、電気信号である干渉信号を用いて所定の処理を行う電気信号処理手段とを有する。
【0048】
電気信号処理手段は、機能手段として、補償手段350と、パルス生成手段360と、フーリエ変換手段390を備える。パルス生成手段360は、電気パルス信号を生成して、パルス光源102に送る。パルス生成手段360は、初期状態として、電気パルス信号のパルス形状を、矩形波状あるいは三角波状など、任意好適に設定できる。
図3中、初期状態における、パルス生成手段360からパルス光源102に送られる電気パルス信号のパルス形状を、上段に示す。
【0049】
また、パルス生成手段360は、補償手段350から入力される補償信号の形状に応じて、新たな電気パルス信号とすることができる。補償手段350は、干渉信号の、初期状態の電気パルス信号の強度からの損失を補償する機能を有する。
【0050】
パルス光源102において、初期状態の電気パルス信号で生成されたパルス光は、干渉器200の時間応答で変形した干渉信号となり、受光部302に送られる。
図3中、初期状態における、パルス光源102から干渉器200に送られるパルス光のパルス形状を、上段に示す。なお、パルス光の形状は、電気パルス信号の形状と同様になる。
【0051】
干渉器200で生成される干渉信号は、干渉器200の時間応答でパルス形状が変形する。受光部302では、干渉信号における損失を補償した新たな電気パルス信号を生成し、パルス光源102に送る。
図3中、初期状態における、干渉器200で生成される干渉信号の波形を、上段に示す。
【0052】
補償手段350から入力される補償信号の形状に応じて、新たな電気パルス信号とする処理をN回繰り返して得られた電気パルス信号は、フーリエ変換部400に送られる。
図3中、電気パルス信号の生成がN回繰り返された後の、電気パルス信号、パルス光、干渉光を下段に示す。フーリエ変換部390は、電気パルス信号をフーリエ変換して、波長に対する応答を出力信号として得る。
【0053】
このように、第2光センシング装置によれば、干渉器200をN回通過した信号を用いるが、フィードバックされるのは、電気パルス信号であるため、干渉器200において、光を周回させた場合に生じる、光位相の情報が重なることによる、干渉器200の応答とは別の細かい波長依存性の発生を抑えることができる。
【0054】
このように、第2光センシング装置によれば、第1光センシング装置と同様の効果が得られ、従来技術と同じ光路長Lの干渉器を用いる場合、感度がN倍になり、従来技術と同じ感度に設定する場合、光路長LをN分の1の長さにでき、干渉器を小型化できる。
【0055】
(第3光センシング装置)
図4を参照して、この発明の第3実施形態に係る光センシング装置(第3光センシング装置とも称する。)を説明する。
図4は、第3光センシング装置を説明するための模式図である。なお、第2光センシング装置と同様に構成されるものについては、重複する説明を省略することもある。
【0056】
第3光センシング装置は、複数波長光源104、干渉器200及び受光部304を備えて構成される。
【0057】
複数波長光源104は、電気パルス信号の入力に応答して、電気パルス信号のパルス形状に対応する、複数波長のパルス状の光(パルス光)を生成する。複数波長光源104は、複数波長のパルス光を生成する機能を有する任意好適な従来公知の光源で構成される。複数波長光源104で生成されたパルス光は、干渉器200に送られる。
【0058】
干渉器200の構成については、第1光センシング装置と同様なので説明を省略する。干渉器200に送られたパルス光は、干渉器200で干渉して干渉光を生成する。干渉光は、受光部304に送られる。
【0059】
受光部304は、光信号である干渉光を電気信号である干渉信号に変換する光電変換手段310と、電気信号である干渉信号を用いて所定の処理を行う電気信号処理手段とを有する。
【0060】
電気信号処理手段は、機能手段として、補償手段352と、パルス生成手段362とを備える。パルス生成手段362は、電気パルス信号を生成して、複数波長光源104に送る。パルス生成手段362は、初期状態として、電気パルス信号のパルス形状を、矩形波状あるいは三角波状など、任意好適に設定できる。
図4中、初期状態における、パルス生成手段362から複数波長光源104に送られる電気パルス信号のパルス形状を、上段に示す。
【0061】
また、パルス生成手段362は、補償手段352から入力される補償信号の形状に応じて、新たな電気パルス信号とすることができる。補償手段352は、干渉信号の、初期状態の電気パルス信号の強度からの損失を補償する機能を有する。
【0062】
複数波長光源104において、初期状態の電気パルス信号で生成されたパルス光は、干渉器200の波長特性で変形した干渉信号となり、受光部302に送られる。
図4中、初期状態における、複数波長光源104で生成されたパルス光、及び、干渉器200で生成される干渉信号の波形を、上段に示す。
【0063】
受光部304では、干渉信号における損失を補償した新たな電気パルス信号を生成し、複数波長光源104に送る。これをN回繰り返して得られた電気パルス信号は、波長に対する応答を示す出力信号となる。
図4中、電気パルス信号の生成がN回繰り返された後の、電気パルス信号、パルス光、干渉光を下段に示す。
【0064】
第2光センシング装置と同様に、第3光センシング装置によれば、干渉器200をN回通過した信号を用いるが、フィードバックされるのは、電気パルス信号であるため、干渉器200において光を周回させた場合に生じる、光位相の情報が重なることによる、干渉器200の応答とは別の、細かい波長依存性の発生を抑えることができる。
【0065】
従って、第3光センシング装置によれば、第2光センシング装置と同様の効果が得られ、従来技術と同じ光路長Lの干渉器を用いる場合、感度がN倍になり、従来技術と同じ感度に設定する場合、光路長LをN分の1の長さにでき、干渉器を小型化できる。
【0066】
(他の構成例1)
図5を参照して、他の構成例1として、干渉器の変形例を説明する。
図5は、干渉器の変形例を説明するための模式図である。
図5は、干渉器の変形例の概略的平面図であって、導波路コアのみを示している。
【0067】
図2を参照して説明した干渉器では、波長依存性や温度依存性を抑制するために、第1アーム導波路及び第2アーム導波路の光路長が等しくなるように設計されている。これに対し、他の構成例1では、第1アーム導波路と第2アーム導波路の光路長が異なるように設計されている。このように、2つのアーム導波路間で光路長が異なることで、干渉器には波長依存性が生じる。第3光センシング装置のように、干渉器での波長応答を利用する場合には、干渉器を他の構成例1のように設計するのがよい。
【0068】
(他の構成例2)
図6を参照して、他の構成例2として、干渉器に変えて偏光選択部を用いる例を説明する。
図6は、他の構成例2を説明するための模式図である。
図6は、他の構成例2の模式図である。
【0069】
偏光選択部は、導波路410と、偏光子430を備えて構成される。導波路410の途中に、センシング領域420が設けられる。偏光子430は、導波路410の出力側に配置される。
【0070】
導波路410を伝播する光は、センシング領域420において、測定対象物の旋光度に応じて偏光軸が回転する。偏光子430は、特定の偏光軸の光を通過させる。このため、偏光選択部では、入力された光に対し、センシング領域420での偏光軸の回転角に応じて偏光選択が行われ、三角関数的に出力強度が変化する。
【0071】
第1~3光センシング装置の干渉部に替えて、この偏光選択部を用いると、測定対象物による、旋光度変化の検出を高感度で行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
10 支持基板
20 下部クラッド
30 導波路コア
100 特定波長光源
102 パルス光源
104 複数波長光源
200 干渉器
210 分波器
220 第1アーム導波路
222、224 第2アーム導波路
230 合波器
240、420 センシング領域
250 測定対象物
300、301、302、304 受光部
310 光電変換手段
320 規格化手段
330 N乗手段
332 乗算手段
340 記憶手段
350、352 補償手段
360、362 パルス生成手段
390 フーリエ変換手段
410 導波路
430 偏光子