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特開2024-106557検査方法、検査装置及び検査プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106557
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】検査方法、検査装置及び検査プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01N22/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010869
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一聡
(57)【要約】
【課題】木造部分を含む建築物内部の状態を容易に検査することができるので、使用性を向上させることが可能な検査方法、検査装置及び検査プログラムを提供する。
【解決手段】本願開示の検査方法は、木造部分を含む建築物の壁体3に対し外部から内部に向けて電磁波を放射し、反射波を受信するレーダ装置1を用い、反射波を受信して得られた受信波情報に基づいて建築物内部の状態を検査する。受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてある。検査装置2は、マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造部分を含む建築物の壁体に対し外部から内部に向けて電磁波を放射し、反射波を受信するレーダ装置を用い、反射波を受信して得られた受信波情報に基づいて建築物内部の状態を検査する検査方法であって、
前記受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、
マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する状態判定ステップを実行する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の検査方法であって、
建築物の内部の配置を示す配置情報を取得するステップと、
取得した配置情報に基づいて、マッピングされた受信波情報のうちで検査対象とする領域を特定するステップと
を実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、特定した領域内の状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の検査方法であって、
受信波情報としてマッピングされた数値群の極大値を選出するステップを実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、選出した極大値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の検査方法であって、
受信波情報としてマッピングされた数値群から所定の選出基準値以上となる部位を計数するステップを実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、
計数した部位に基づく面積を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の検査方法であって、
木造部分に用いられている樹種を取得するステップと、
取得した樹種に対応付けて記憶されている基準値を抽出するステップと
を実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、
抽出した基準値を所定の基準値として、状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項6】
建築物に向けて放射された電磁波を受信して得られた受信波情報に基づいて、建築物内部の状態を検査する検査装置であって、
前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、
マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する手段を備える
ことを特徴とする検査装置。
【請求項7】
コンピュータに、建築物に向けて放射された電磁波を受信して得られた受信波情報に基づいて、建築物内部の状態を検査する処理を実行させる検査プログラムであって、
前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、
コンピュータに、
マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定するステップを実行させる
ことを特徴とする検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、レーダ装置を用いて建築物内部の状態を検査する検査方法、そのような検査方法に用いられる検査装置、及びそのような検査装置を実現するための検査プログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
構造物の内部状態を、電磁波レーダを利用して非破壊で診断する技術が普及している。また、建築、土木等の分野では、コンクリート構造物の内部の鉄筋の位置確認の他、空洞、クラック等の異常の有無の検査に電磁波レーダを利用した非破壊検査が用いられている。電磁波レーダを利用した非破壊検査では、主に、マイクロ波、ミリ波、センチ波、テラヘルツ波(サブミリ波)等の周波数帯の電磁波が利用される。
【0003】
また、例えば、特許文献1として、本願出願人は、レーダ装置を用い、木造建築物の壁体について、木材の腐朽が生じているおそれのある部位を合理的に発見することができる劣化診断方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-183919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1として提案された劣化診断方法は、実用性が高く、様々な技術レベルの技術者が簡便に判断できるように、様々な改良が求められている。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされてものであり、使用性を向上させる検査方法の提供を主たる目的とする。
【0007】
また、本発明は、本発明に係る検査方法にて用いられる検査装置の提供を他の目的とする。
【0008】
また、本発明は、本発明に係る検査装置を実現する検査プログラムの提供を更に他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本願開示の検査方法は、木造部分を含む建築物の壁体に対し外部から内部に向けて電磁波を放射し、反射波を受信するレーダ装置を用い、反射波を受信して得られた受信波情報に基づいて建築物内部の状態を検査する検査方法であって、前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する状態判定ステップを実行することを特徴とする。
【0010】
また、前記検査方法において、建築物の内部の配置を示す配置情報を取得するステップと、取得した配置情報に基づいて、マッピングされた受信波情報のうちで検査対象とする領域を特定するステップとを実行するようにしてあり、前記状態判定ステップは、特定した領域内の状態を判定することを特徴とする。
【0011】
また、前記検査方法において、受信波情報としてマッピングされた数値群の極大値を選出するステップを実行するようにしてあり、前記状態判定ステップは、選出した極大値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定することを特徴とする。
【0012】
また、前記検査方法において、受信波情報としてマッピングされた数値群から所定の選出基準値以上となる部位を計数するステップを実行するようにしてあり、前記状態判定ステップは、計数した部位に基づく面積を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定することを特徴とする。
【0013】
また、前記検査方法において、木造部分に用いられている樹種を取得するステップと、取得した樹種に対応付けて記憶されている基準値を抽出するステップとを実行するようにしてあり、前記状態判定ステップは、抽出した基準値を所定の基準値として、状態を判定することを特徴とする。
【0014】
更に、本願開示の検査装置は、建築物に向けて放射された電磁波を受信して得られた受信波情報に基づいて、建築物内部の状態を検査する検査装置であって、前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する手段を備えることを特徴とする。
【0015】
更に、本願開示の検査プログラムは、コンピュータに、建築物に向けて放射された電磁波を受信して得られた受信波情報に基づいて、建築物内部の状態を検査する処理を実行させる検査プログラムであって、前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、コンピュータに、マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定するステップを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願開示の検査方法等は、レーダ装置から建築物に電磁波を放射して得られた受信波情報に基づいて、受信波情報にマッピングされた数値を所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する。これにより、本願開示の検査方法等は、建築物内部の状態を所定の基準値を基準に判定するので、使用性を向上させることが可能である等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願開示の検査方法の実施例を概念的に示す説明図である。
図2】本願開示の検査方法の実施例を概念的に示す説明図である。
図3】本願開示の検査方法にて用いられるレーダ装置から送信される受信波情報の一例を概念的に示す説明図である。
図4A】本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。
図4B】本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。
図4C】本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。
図5A】本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。
図5B】本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。
図6】本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報における含水率及び輝度の関係の一例を示すグラフである。
図7】本願開示の検査方法にて用いられるレーダ装置及び検査装置の内部回路の概要の一例を示すブロック図である。
図8】本願開示の検査方法において、検査装置が実行する検査準備処理の一例を示すフローチャートである。
図9】本願開示の検査方法において、レーダ装置が実行する計測処理の一例を示すフローチャートである。
図10】本願開示の検査方法において、検査装置が実行する判定処理の一例を示すフローチャートである。
図11】検査装置が実行する判定処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳述する。なお、以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であって、本発明の技術範囲を限定する性格のものではない。
【0019】
<適用例>
本願開示の検査方法は、木造建築物等の木造部分を含む建築物を検査の対象とし、建築物内部の状態の検査に適用される。内部状態の検査は、建築物の外部から内部へ向けて、電磁波を放射し、その結果得られる受信波情報に基づいて、含有水分に起因する劣化状態を判定することにより行う。以下では、図面を参照しながら、図面に記載された電磁波を放射するレーダ装置1及び受信波情報に基づいて劣化状態を判定する検査装置2を用いて、建築物の壁体3を検査する検査方法を実行する形態を例示して説明する。
【0020】
<概要>
図1及び図2は、本願開示の検査方法の実施例を概念的に示す説明図である。図1及び図2は、本願開示の検査方法を、木造建築物の壁体3の検査に用いた形態を例示している。図1は、建築物の外側からの視点で示す斜視図であり、図2は、上方からの視点で壁体3及びレーダ装置1の配置を概念的に示す上面図である。図1及び図2において、X軸は、壁体3の外面に平行な水平方向を示し、Y軸は、電磁波を放射する外部から内部への深度方向を示している。図1及び図2に例示する形態において、レーダ装置1は、建築物の壁体3に対し、外部から内部に向けて電磁波を放射する。レーダ装置1から放射された電磁波は、壁体3内部の水分等の反射物にて反射され、レーダ装置1は、水分等の反射物にて反射された反射波を受信する。レーダ装置1には、検査装置2が通信可能に接続されており、レーダ装置1は、受信した反射波にて得られた受信波情報を検査装置2へ送信する。検査装置2は、受信波情報に基づいて建築物内部の状態の検査として、建築物の内部の状態、例えば、異常の有無を判定する。なお、図2では、建築物の内側となる放射側の反対側に、鉄板等の反射材4を配置した形態を例示している。図2に例示するように反射材4を配置して、レーダ装置1は、壁体3内の水分で反射された反射波の他、反射材4にて反射された反射波をも受信し、建築物内部の状態を検査する形態とすることも可能である。
【0021】
図3は、本願開示の検査方法にて用いられるレーダ装置1から送信される受信波情報の一例を概念的に示す説明図である。レーダ装置1から検査装置2へ送信する受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値を示す数値データをマッピングした情報として示すことができる。図3に例示した受信波情報は、図中の横方向を建築物の壁体3に平行な走査方向(X軸方向)とし、縦方向を外部から内部へ向かう深度方向(Y軸方向)として、反射波の振幅の大きさに基づく数値を示す数値データを、反射した位置に対応付けてマッピングした二次元画像である。なお、図3に示した受信波情報は、反射波の振幅の大きさに基づく数値データを輝度の高さに変換したものであり、振幅の大きさに起因する輝度にて示されるモノトーンの点の集合を用いて構成された画像として示されている。図3に例示する受信波情報は、輝度が高い部分ほど、反射波の振幅が大きいことを示しており、反射波の振幅を視認し易いように表現している。即ち、受信波情報は、位置に対応付けられた数値データの集合である数値群として処理することが可能であり、受信波情報に基づく数値群から、振幅の大きさを輝度として示した点を位置に対応付けてマッピングした画像データを作成することができる。振幅の大きさは、反射物の比誘電率に起因しており、比誘電率が高い水が存在すると振幅が大きくなる。即ち、建築物中に水分を多く含む滞水箇所では、放射された電磁波が水に反射されることにより振幅が大きい反射波となるため、受信波情報としてマッピングされた部分の輝度が高くなる。
【0022】
図3に例示した受信波情報に基づく二次元画像から明らかなように、壁体3内の比誘電率にて示される含水率は一様ではない。壁体3等の建築物内部の含水率は、例えば、サッシの下の柱等の特定の領域が高含水となりやすく、腐朽が進み易い等、構造に基づく傾向がある。
【0023】
図4A図4B及び図4Cは、本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。図4A乃至図4Cは、含水率が異なる壁体3に電磁波を放射して得られた受信波情報を比較して示している。図4Aは、含水率99%の高含水材、図4Bは、含水率53%の高含水材、そして、図4Cは、含水率12%の健全材に関する受信波情報をマッピングした二次元画像として示している。図4A乃至図4Cに例示するように、含水率が高いほど、輝度が高く表示される。
【0024】
図5A及び図5Bは、本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報の一例を示す説明図である。図5A及び図5Bは、含水率が異なる腐朽材に電磁波を放射して得られた受信波情報を比較して示している。図5Aは高含水腐朽材、そして、図5Bは低含水腐朽材に関する受信波情報をマッピングした二次元画像をそれぞれ示している。図5A及び図5Bに例示するように、含水率が高いほど、輝度が高く表示される。図4A乃至図4C並びに図5A及び図5Bの各図に例示するように、本願開示の検査方法は、壁体3の外側からでも、高含水材、高含水腐朽材等の状態を判別することが可能である。
【0025】
図6は、本願開示の検査方法にて用いられる受信波情報における含水率及び輝度の関係の一例を示すグラフである。図6は、横軸に含水率(%)をとり、縦軸に反射波の振幅の大きさに基づく輝度の最大値をとって、その関係を示している。図6では、含水率と輝度の最大値との関係を樹種毎に示している。図6に例示するグラフは、スギについての含水率と輝度の最大値とが決定係数(R^2)=0.7の一次回帰式で関連付けられることを示している。また、スプルースについての含水率と輝度の最大値とは、決定係数=0.8の一次回帰式で関連付けられることを示している。図6に例示するように、含水率と輝度の最大値とは、樹種毎に、高い相関を有している。
【0026】
<構成例>
次に、本願開示の検査方法にて用いられるレーダ装置1及び検査装置2の構成例について説明する。図7は、本願開示の検査方法にて用いられるレーダ装置1及び検査装置2の内部回路の概要の一例を示すブロック図である。レーダ装置1は、制御部10、放射部11、受信部12、変換部13、入力部14、表示部15、通信部16等の各種構成を備えている。
【0027】
制御部10は、装置全体を制御する処理を実行するCPU(Central Processing Unit )等のプロセッサであり、情報処理回路、計時回路、レジスタ回路等の各種回路を備えている。
【0028】
放射部11は、発振器、増幅器、アンテナ等の回路を備え、電磁波を放射するデバイスである。放射部11から放射する電磁波には、例えば、2.7GHz等の周波数のマイクロ波が用いられる。なお、放射する電磁波は、マイクロ波に限らず、センチ波、ミリ波、サブミリ波、テラヘルツ波等の様々な周波数帯の電磁波の使用が可能である。
【0029】
受信部12は、アンテナ、増幅器等の回路を備え、反射波を受信するデバイスである。変換部13は、A/D変換部、マッピング部等の回路を備え、受信部12が受信したアナログ信号の反射波をデジタルデータに変換し、マッピング処理等の各種処理を行うモジュールである。
【0030】
変換部13によるマッピング処理は、電磁波を放射してから反射波を受信するまでの反射時間を反射物までの深度に換算して反射物の位置を特定し、特定した位置に対応付けて反射波の振幅の大きさを示す数値を対応付けた受信波情報を生成する処理である。
【0031】
入力部14は、操作者からの入力操作を受け付ける押しボタン、タッチパネル等のデバイスである。表示部15は、受信波情報に基づく二次元画像等の各種情報を表示する液晶パネル等のデバイスである。通信部16は、受信波情報を検査装置2へ有線通信又は無線通信により送信するデバイスである。
【0032】
検査装置2は、例えば、ノート型コンピュータ等のコンピュータを用いて構成されており、制御部20、記憶部21、入力部22、表示部23、通信部24等の構成を備えている。
【0033】
制御部20は、装置全体を制御する処理を実行するCPU等のプロセッサであり、情報処理回路、計時回路、レジスタ回路等の各種回路を備えている。
【0034】
記憶部21は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive )、RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks )、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、及び各種RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリを用いて構成される記憶用ユニットである。記憶部21には、基本プログラム(OS:Operating System)、基本プログラム上で動作する応用プログラム(アプリケーションプログラム)等のプログラムが記録されている。応用プログラムの一つとして、記憶部21には、コンピュータを、検査装置2として機能させるための検査プログラム210が記憶されている。
【0035】
また、記憶部21の記憶領域の一部は、建築物に関する情報を記憶している建物情報データベース211、基準値データベース212、結果データベース213等の各種データベースとして用いられている。建物情報データベース211は、建築物に関する構造及び内部配置に関する情報を記憶している。建物情報データベース211に記憶されている構造及び内部配置は、木造、鉄骨等の構造種別、外壁の種別、各種構造の配置を示す配置情報等の情報である。例えば、構造種別が、木造の場合、木造部分の位置、木造部分に用いられている樹種等の情報が記憶されている。基準値データベース212には、建築物内部の状態判定に用いられる樹種毎の基準値等の各種情報が記憶されている。結果データベース213は、検査の結果等の各種情報を記憶している。
【0036】
入力部22は、操作者の操作を受け付けるキーボード、マウス、タッチパネル等のデバイスである。表示部23は、受信波情報に基づく二次元画像等の各種情報を表示する液晶パネル等のデバイスである。通信部24は、LANポート、アンテナ等の通信用ユニットであり、有線通信又は無線通信にてレーダ装置1と通信することが可能である。なお、検査装置2は、通信網を介して他の記憶装置と通信可能に接続し、通信網上に位置する記憶装置に記憶された建物情報データベース211、基準値データベース212、結果データベース213等の各種データベースにアクセスするように構成することも可能である。
【0037】
<処理例>
以上のように構成されたレーダ装置1及び検査装置2を用いた検査方法の処理の例について説明する。図8は、本願開示の検査方法において、検査装置2が実行する検査準備処理の一例を示すフローチャートである。検査準備処理として検査装置2を操作する操作者は、検査対象とする建築物を指定する情報を入力する。検査装置2は、記憶部21に記憶された検査プログラム210を実行する制御部20の制御により、以下に例示する検査準備処理を実行する。
【0038】
検査装置2の制御部20は、指定された建築物に関する建物情報を、記憶部21の建物情報データベース211から取得し(S101)、取得した建物情報に基づいて、木造部分を含む木造躯体か否かを判定する(S102)。
【0039】
ステップS102において、木造躯体であると判定した場合(S102:YES)、制御部20は、建物情報に基づいて測定の対象とすべき壁面(壁体3)を示す壁面情報を表示部23に表示し(S103)、検査準備処理を終了する。検査装置2は、壁面情報を表示部23に表示することにより、測定する壁面を特定する。
【0040】
ステップS102において、木造躯体ではないと判定した場合(S102:NO)、制御部20は、検査対象となる建築物ではない旨を表示部23に表示し、検査準備処理を終了する。
【0041】
以上のようにして、検査準備処理が実行される。
【0042】
操作者は、検査準備処理において、特定された壁面に対し、レーダ装置1を用いて、検査対象となる建築物の壁面を走査して計測する操作を行う。図9は、本願開示の検査方法において、レーダ装置1が実行する計測処理の一例を示すフローチャートである。レーダ装置1は、制御部10の制御により、放射部11から電磁波を放射し(S201)、受信部12にて反射波を受信し(S202)、受信した反射波に基づいて受信波情報を生成する(S203)。更に、レーダ装置1は、制御部10の制御により、生成した受信波情報に基づく画像を表示部15に表示し(S204)、かつ受信波情報を通信部16から検査装置2へ送信する(S205)。ステップS204において、レーダ装置1は、受信波情報に含まれる数値を輝度として示した画像情報を表示部15に表示する。
【0043】
以上のようにして、計測処理が実行される。
【0044】
図10は、本願開示の検査方法において、検査装置2が実行する判定処理の一例を示すフローチャートである。検査装置2は、記憶部21に記憶された制御プログラムを実行する制御部20の制御により、以下に例示する判定処理を実行する。
【0045】
検査装置2の制御部20は、レーダ装置1から送信された受信波情報を通信部24にて受信し(S301)、受信した受信波情報に示された建築物内部の位置に応じてマッピングされた数値群を取得する(S302)。
【0046】
制御部20は、記憶部21の建物情報データベース211から建築物内部の配置を示す配置情報を取得し(S303)、取得した配置情報にて示される配置と、マッピングされた数値群とを対応付ける(S304)。
【0047】
制御部20は、対応する配置に基づいて、マッピングされた数値群のうちから検査対象とする領域を特定領域として特定する(S305)。ステップS305において、特定領域には、柱材の位置、壁の種類に応じた柱の表面部分に相当する部分等の含水率の検査が必要な領域が選定される。例えば、配置に基づいて、柱の位置と壁の位置とが交差する領域が、特定領域として設定される。
【0048】
制御部20は、特定領域に含まれる数値群のうちで、極大値となる数値を選出する(S306)。ステップS306における選出は、一つの最大値のみを選出してもよく、また複数のピークがある場合、最大値を含む複数の極大値を選出するようにしてもよい。
【0049】
制御部20は、特定領域に含まれる柱等の木造部分に用いられる樹種を建物情報データベース211から取得し(S307)、取得した樹種に関する基準値を基準値データベース212から取得する(S308)。
【0050】
制御部20は、ステップS307にて選出した極大値を、ステップS308にて取得した基準値と比較し、極大値が基準値以上か否かを判定する(S309)。ステップS309において、極大値が複数の場合、制御部20は、一つでも基準値以上の極大値が存在するとき、基準値以上であると判定する。
【0051】
ステップS309において、極大値が基準値以上であると判定した場合(S309:YES)、制御部20は、表示部23に異常ありを示す表示をし(S310)、判定結果を記憶部21の結果データベース213に記憶し(S311)、判定処理を終了する。
【0052】
ステップS309において、極大値が基準値未満であると判定した場合(S309:NO)、制御部20は、表示部23に異常なしを示す表示をし(S312)、ステップS311へ進み、以降の処理を実行する。
【0053】
以上のようにして、本願開示の検査方法における判定処理は、レーダ装置1から電磁波を放射して得られた受信波情報に基づいて、特定領域に含まれる数値群のうちの数値データが基準値以上である場合、又は数値データに対応する輝度の高さに基いて、異常ありと判定する。
【0054】
上述の判定処理は、特定領域に含まれる数値群のうちの極大値、例えば、最大値が、樹種に基づく基準値以上である場合、異常ありと判定する形態であるが、判定基準は適宜設定することが可能である。以降では、他の判定基準を用いた判定処理の一例を説明する。
【0055】
図11は、本願開示の検査方法において、検査装置2が実行する判定処理の他の例を示すフローチャートである。検査装置2は、記憶部21に記憶された制御プログラムを実行する制御部20の制御により、以下に例示する判定処理を実行する。
【0056】
検査装置2の制御部20は、受信波情報を受信し(S401)、数値群を取得し(S402)、配置情報を取得し(S403)、配置及び数値群を対応付け(S404)、数値群のうちから特定領域を特定する(S405)。
【0057】
制御部20は、特定領域に係る樹種を建物情報データベース211から取得し(S406)、取得した樹種に関する選出基準値を基準値データベース212から取得し(S407)、更に、取得した樹種に関する基準値を基準値データベース212から取得する(S408)。
【0058】
制御部20は、特定領域に含まれる数値群のうちで、取得した選出基準値以上となる部位を計数する(S409)。ステップS409の計数により、反射波の振幅に基づく数値データが選出基準値以上、即ち、二次元画像として示した場合に輝度の高さが所定値以上となる部位の面積が計算される。
【0059】
制御部20は、ステップS409にて計数した部位に基づく面積を、ステップS408にて取得した基準値と比較し、輝度が選出基準値以上の部位の面積が基準値以上か否かを判定する(S410)。
【0060】
ステップS410において、面積が基準値以上であると判定した場合(S410:YES)、制御部20は、表示部23に異常ありを示す表示をし(S411)、判定結果を記憶部21の結果データベース213に記憶し(S412)、判定処理を終了する。
【0061】
ステップS410において、面積が基準値未満であると判定した場合(S410:NO)、制御部20は、表示部23に異常なしを示す表示をし(S413)、ステップS412へ進み、以降の処理を実行する。
【0062】
以上のようにして、本願開示の検査方法における判定処理は、レーダ装置1から電磁波を放射して得られた受信波情報に基づいて、選出基準値以上の輝度の面積が基準値以上である場合、異常ありと判定する。
【0063】
以上のように、本願開示の検査方法は、レーダ装置1から電磁波を放射することにより得られた受信波情報に基づいて、振幅の大きさに基づく輝度を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する。これにより、本願開示の検査方法は、含水量が高く腐朽が進んでいる可能性が高い状態の建築物を外部から非破壊で検査することが可能である等、優れた効果を奏する。しかも、本願開示の検査方法は、このような検査を容易に行うことができるので、使用性を向上させることが可能である等、優れた効果を奏する。
【0064】
更に、本願開示の検査方法は、樹種に応じた基準値で検査するので、高精度な検査を行うことが可能である等、優れた効果を奏する。
【0065】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、他のいろいろな形態で実施することが可能である。そのため、かかる実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。更に、請求の範囲の均等範囲に属する変形及び変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0066】
例えば、本願開示の検査方法にて、検査対象となる木造建築物は、構造躯体の全てが木造である建築物に限らず、主たる構造躯体が鉄筋コンクリート造、鉄骨造等の建築物の中に部分的に木造部分を含む建築物も包含する。
【0067】
また、例えば、本願開示の検査方法は、構造躯体としての壁体3に限らず様々な建築物の面に対して適用することが可能である。例えば、本願開示の検査方法は、水回り空間に接する屋内の間仕切り壁、更に、バルコニー、屋上等の外部床の周囲に立設された手摺壁、腰壁、外構空間に設けられた柵体等の簡易な壁体3の検査に対して用いることが可能である。更に、電磁波を放射する向きを変えることにより、床下部分、屋根周り等の壁体3の含水状態を検査することも可能である。即ち、本願開示の検査方法において、壁体3とは、屋根、床組み等の外殻構造体をも含む。
【0068】
また、前記実施形態では、レーダ装置1及び検査装置2を通信可能に接続して検査方法を実現する形態を示したが、本願開示の検査方法は、適宜システムを設計することが可能である。例えば、本願開示の検査方法は、レーダ装置1に検査装置2の機能を組み込んで一体化することも可能である。更には、本願開示の検査方法は、半導体メモリ等の記憶媒体を介してレーダ装置1にて得られた受信波情報を検査装置2に取得させる等、様々な形態に展開することが可能である。
【0069】
更に、前記実施形態では、建築物の壁体3に対し、外部から内部へ向けて電磁波を照射し、外部にて反射を受信する形態を示したが、本願開示の検査方法は、内部にて受信する形態等、様々な形態に展開することが可能である。
【0070】
(付記1)
木造部分を含む建築物の壁体に対し外部から内部に向けて電磁波を放射し、反射波を受信するレーダ装置を用い、反射波を受信して得られた受信波情報に基づいて建築物内部の状態を検査する検査方法であって、
前記受信波情報は、
放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、
マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する状態判定ステップを実行する
ことを特徴とする検査方法。
【0071】
(付記2)
付記1に記載の検査方法であって、
建築物の内部の配置を示す配置情報を取得するステップと、
取得した配置情報に基づいて、マッピングされた受信波情報のうちで検査対象とする領域を特定するステップと
を実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、特定した領域内の状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【0072】
(付記3)
付記1又は付記2に記載の検査方法であって、
受信波情報としてマッピングされた数値群の極大値を選出するステップを実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、選出した極大値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【0073】
(付記4)
付記1又は付記2に記載の検査方法であって、
受信波情報としてマッピングされた数値群から所定の選出基準値以上となる部位を計数するステップを実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、
計数した部位に基づく面積を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【0074】
(付記5)
付記1乃至付記4のいずれか1つに記載の検査方法であって、
木造部分に用いられている樹種を取得するステップと、
取得した樹種に対応付けて記憶されている基準値を抽出するステップと
を実行するようにしてあり、
前記状態判定ステップは、
抽出した基準値を所定の基準値として、状態を判定する
ことを特徴とする検査方法。
【0075】
(付記6)
建築物に向けて放射された電磁波を受信して得られた受信波情報に基づいて、建築物内部の状態を検査する検査装置であって、
前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、
マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定する手段を備える
ことを特徴とする検査装置。
【0076】
(付記7)
コンピュータに、建築物に向けて放射された電磁波を受信して得られた受信波情報に基づいて、建築物内部の状態を検査する処理を実行させる検査プログラムであって、
前記受信波情報は、放射の深度方向を含む座標上に、受信した反射波の振幅の大きさに基づく数値をマッピングしてあり、
コンピュータに、
マッピングされた数値を、所定の基準値と比較することにより、建築物内部の状態を判定するステップを実行させる
ことを特徴とする検査プログラム。
【符号の説明】
【0077】
1 レーダ装置
10 制御部
11 放射部
12 受信部
13 変換部
14 入力部
15 表示部
16 通信部
2 検査装置
20 制御部
21 記憶部
210 検査プログラム
211 建物情報データベース
212 基準値データベース
213 結果データベース
22 入力部
23 表示部
24 通信部
3 壁体
4 反射材
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11