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特開2024-106573係合装置、及びそれを備えた車両用駆動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106573
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】係合装置、及びそれを備えた車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 11/10 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
F16D11/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010905
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平賀 俊郎
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056AA63
3J056BB22
3J056BD13
3J056CC03
3J056CC32
3J056GA12
(57)【要約】
【課題】第1係合機構及び第2係合機構を共通のシフトドラムの回転により駆動させる構成において、係合不良状態となった係合機構がいずれであるかを容易に特定可能な技術を提供する。
【解決手段】噛み合い式の第1係合機構及び第2係合機構を駆動する駆動装置は、シフトドラムと、当該シフトドラムの回転運動を直線運動に変換して、第1被係合部材に係合する第1係合部材に伝達する第1カム機構と、シフトドラムの回転運動を直線運動に変換して、第2被係合部材に係合する第2係合部材に伝達する第2カム機構と、を備え、第1カム機構及び第2カム機構は、第1係合部材を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第1係合部材及び第2係合部材の一方を他方よりも遅らせて移動させるように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛み合い式の第1係合機構と、
噛み合い式の第2係合機構と、
前記第1係合機構及び前記第2係合機構を駆動する駆動装置と、を備えた係合装置であって、
前記第1係合機構は、第1被係合部材と、前記第1被係合部材に係合する第1係合位置及び前記第1被係合部材との係合が解除される第1解除位置の間で移動する第1係合部材と、を備え、
前記第2係合機構は、第2被係合部材と、前記第2被係合部材に係合する第2係合位置及び前記第2被係合部材との係合が解除される第2解除位置の間で移動する第2係合部材と、を備え、
前記駆動装置は、
駆動源により回転駆動されるシフトドラムと、
前記シフトドラムの回転運動を直線運動に変換して前記第1係合部材に伝達する第1カム機構と、
前記シフトドラムの回転運動を直線運動に変換して前記第2係合部材に伝達する第2カム機構と、を備え、
前記第1カム機構及び前記第2カム機構は、前記第1係合部材を前記第1解除位置から前記第1係合位置に移動させると共に、前記第2係合部材を前記第2解除位置から前記第2係合位置に移動させる場合に、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の一方を他方よりも遅らせて移動させるように構成されている、係合装置。
【請求項2】
前記第1係合機構が配置された軸心である第1軸心に沿う方向を軸方向として、
前記第1係合部材及び前記第2係合部材は、前記軸方向に移動自在に構成され、
前記シフトドラムは、円筒状に形成され、
前記シフトドラムの回転軸心である第2軸心は、前記第1軸心と平行に配置され、
前記第1カム機構は、前記シフトドラムの外周面に設けられて、当該外周面の周方向の位置に応じて前記軸方向の位置が変化する第1カム溝と、前記第1カム溝に案内される第1カムフォロアと、前記第1カムフォロアの前記軸方向の運動と前記第1係合部材の前記軸方向の運動とを連動させる第1連結部材と、を備え、
前記第2カム機構は、前記外周面に設けられて、前記周方向の位置に応じて前記軸方向の位置が変化する第2カム溝と、前記第2カム溝に案内される第2カムフォロアと、前記第2カムフォロアの前記軸方向の運動と前記第2係合部材の前記軸方向の運動とを連動させる第2連結部材と、を備え、
前記第1カム溝における前記第1係合部材を前記第1解除位置から前記第1係合位置に移動させるための区間と、前記第2カム溝における前記第2係合部材を前記第2解除位置から前記第2係合位置に移動させるための区間との前記周方向の位置がずれている、請求項1に記載の係合装置。
【請求項3】
前記第1被係合部材と前記第2被係合部材とが、互いに一体的に回転するように構成されている、請求項1又は2に記載の係合装置。
【請求項4】
前記第1被係合部材と前記第2被係合部材とが、1つの対象ギヤに対して互いに反対側に配置されていると共に、前記対象ギヤと一体的に回転するように構成されている、請求項3に記載の係合装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の係合装置と、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
ロータを備えた回転電機と、
第1分配用回転要素、第2分配用回転要素、及び第3分配用回転要素を備え、前記第1分配用回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3分配用回転要素が前記ロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
特定回転部材と前記出力部材との間で駆動力を伝達する動力伝達機構と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記第1係合機構は、前記第2分配用回転要素と前記特定回転部材との間の動力伝達を断接するように構成され、
前記第2係合機構は、前記第1分配用回転要素と前記特定回転部材との間の動力伝達を断接するように構成され、
前記第1分配用回転要素、及び当該第1分配用回転要素と一体的に回転する回転要素の回転抵抗が、前記第2分配用回転要素、及び当該第2分配用回転要素と一体的に回転する回転要素の回転抵抗よりも大きく、
前記第1カム機構及び前記第2カム機構は、前記第1係合部材を前記第1解除位置から前記第1係合位置に移動させると共に、前記第2係合部材を前記第2解除位置から前記第2係合位置に移動させる場合に、前記第2係合部材を前記第1係合部材よりも遅らせて移動させるように構成されている、車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噛み合い式の第1係合機構及び第2係合機構と、それらを駆動する駆動装置と、を備えた係合装置、及びそれを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような技術の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、背景技術の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1に開示された係合装置の第1係合機構は、第1被係合部材と、当該第1被係合部材に係合する第1係合位置及び第1被係合部材との係合が解除される第1解除位置の間で移動する第1係合部材(C2)と、を備えている。そして、特許文献1に開示された係合装置の第2係合機構は、第2被係合部材と、当該第2被係合部材に係合する第2係合位置及び第2被係合部材との係合が解除される第2解除位置の間で移動する第2係合部材(C3)と、を備えている。
【0004】
また、特許文献1に開示された係合装置の駆動装置は、駆動源(32b)により回転駆動されるシフトドラム(32a)と、当該シフトドラム(32a)の回転運動を直線運動に変換して第1係合部材(C2)に伝達する第1カム機構(d2,32c)と、シフトドラム(32a)の回転運動を直線運動に変換して第2係合部材(C3)に伝達する第2カム機構(d3,32d)と、を備えている。
【0005】
シフトドラム(32a)が駆動源(32b)により回転駆動されることにより、第1カム機構(d2,32c)を介して第1係合部材(C2)が第1係合位置と第1解除位置との間で移動すると共に、第2カム機構(d3,32d)を介して第2係合部材(C3)が第2係合位置と第2解除位置との間で移動する。こうして、第1係合機構及び第2係合機構のそれぞれの係合の状態が切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-154208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の係合装置では、第1係合部材(C2)が第1解除位置から第1係合位置に移動すると共に、第2係合部材(C3)が第2解除位置から第2係合位置に移動する場合(例えば、特許文献1の図4(c)におけるFの状態からEの状態に遷移する場合)に、第1係合部材(C2)及び第2係合部材(C3)の少なくとも一方が引っ掛かり等により係合位置に移動できない係合不良状態となると、他方も係合位置に移動できない係合不良状態となる。そのため、第1係合機構及び第2係合機構のうちのいずれが係合不良状態となったのかを特定することが難しく、係合不良状態を解消するための処理等を適切に実行することが困難であった。
【0008】
そこで、第1係合機構及び第2係合機構を共通のシフトドラムの回転により駆動させる構成において、係合不良状態となった係合機構がいずれであるかを容易に特定可能な技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑みた、係合装置の特徴構成は、
噛み合い式の第1係合機構と、
噛み合い式の第2係合機構と、
前記第1係合機構及び前記第2係合機構を駆動する駆動装置と、を備えた係合装置であって、
前記第1係合機構は、第1被係合部材と、前記第1被係合部材に係合する第1係合位置及び前記第1被係合部材との係合が解除される第1解除位置の間で移動する第1係合部材と、を備え、
前記第2係合機構は、第2被係合部材と、前記第2被係合部材に係合する第2係合位置及び前記第2被係合部材との係合が解除される第2解除位置の間で移動する第2係合部材と、を備え、
前記駆動装置は、
駆動源により回転駆動されるシフトドラムと、
前記シフトドラムの回転運動を直線運動に変換して前記第1係合部材に伝達する第1カム機構と、
前記シフトドラムの回転運動を直線運動に変換して前記第2係合部材に伝達する第2カム機構と、を備え、
前記第1カム機構及び前記第2カム機構は、前記第1係合部材を前記第1解除位置から前記第1係合位置に移動させると共に、前記第2係合部材を前記第2解除位置から前記第2係合位置に移動させる場合に、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の一方を他方よりも遅らせて移動させるように構成されている点にある。
【0010】
この特徴構成によれば、シフトドラムの回転により、第1係合機構の第1係合部材が第1カム機構を介して第1係合位置と第1解除位置との間で移動すると共に、第2係合機構の第2係合部材が第2カム機構を介して第2係合位置と第2解除位置との間で移動する。また、その場合における、第1係合部材が第1解除位置から第1係合位置に移動するタイミングと、第2係合部材が第2解除位置から第2係合位置に移動するタイミングとが互いにずれている。これにより、第1係合機構及び第2係合機構を共通のシフトドラムの回転により駆動させる構成において、第1係合機構及び第2係合機構の少なくとも一方が係合不良状態となった場合に、係合不良状態となった係合機構がいずれであるかを容易に特定することができる。その結果、係合不良状態を解消するための処理等を適切に実行することができる。
【0011】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の特徴構成は、
上記の係合装置と、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
ロータを備えた回転電機と、
第1分配用回転要素、第2分配用回転要素、及び第3分配用回転要素を備え、前記第1分配用回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3分配用回転要素が前記ロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
特定回転部材と前記出力部材との間で駆動力を伝達する動力伝達機構と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記第1係合機構は、前記第2分配用回転要素と前記特定回転部材との間の動力伝達を断接するように構成され、
前記第2係合機構は、前記第1分配用回転要素と前記特定回転部材との間の動力伝達を断接するように構成され、
前記第1分配用回転要素、及び当該第1分配用回転要素と一体的に回転する回転要素の回転抵抗が、前記第2分配用回転要素、及び当該第2分配用回転要素と一体的に回転する回転要素の回転抵抗よりも大きく、
前記第1カム機構及び前記第2カム機構は、前記第1係合部材を前記第1解除位置から前記第1係合位置に移動させると共に、前記第2係合部材を前記第2解除位置から前記第2係合位置に移動させる場合に、前記第2係合部材を前記第1係合部材よりも遅らせて移動させるように構成されている点にある。
【0012】
この特徴構成によれば、第1分配用回転要素及びそれと一体的に回転する回転要素の回転抵抗が、第2分配用回転要素及びそれと一体的に回転する回転要素の回転抵抗よりも大きいため、第2分配用回転要素の回転により相対回転する第1係合部材と第1被係合部材とは、第1分配用回転要素の回転により相対回転する第2係合部材と第2被係合部材とに比べて、回転し易い構成となり易い。そのため、第1係合機構と第2係合機構との双方が係合状態ではない場合において、第3分配用回転要素に入力される回転電機の駆動力により、先に係合状態とする第1係合機構の第1係合部材と第1被係合部材とを相対回転させて係合不良状態を解消する処理を適切に実行し易い。そして、第1係合機構が係合状態である場合には、第3分配用回転要素に入力される回転電機の駆動力により、第2係合機構の第2係合部材と第2被係合部材とを相対回転させて係合不良状態を解消する処理を適切に実行し易い。したがって、本特徴構成によれば、第1係合機構と第2係合機構との双方について、係合不良状態を解消するための処理を適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
図2】実施形態に係る車両用駆動装置の各動作モードにおける係合機構の状態を示す図
図3】実施形態に係る係合装置が備える駆動装置を示す図
図4】第1カム溝及び第2カム溝の構成を示す図
図5】第1係合部材が第1解除位置から第1係合位置に移動すると共に、第2係合部材が第2解除位置から第2係合位置に移動する場合におけるタイムチャート
図6】実施形態に係る車両用駆動装置の軸方向に沿う断面図の一部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、実施形態に係る車両用駆動装置100について、図面を参照して説明する。図1に示すように、車両用駆動装置100は、入力部材Iと、出力部材Oと、回転電機MGと、分配用差動歯車機構SPと、動力伝達機構TMと、係合装置10と、を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置100は、出力用差動歯車機構DFを更に備えている。
【0015】
入力部材Iは、内燃機関EGに駆動連結されている。本実施形態では、入力部材Iは、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置DPを介して、内燃機関EGの出力軸に駆動連結されている。内燃機関EGは、車輪Wの駆動力源として機能する。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。
【0016】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、遊星歯車機構における複数の回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0017】
以下の説明では、入力部材Iの回転軸心である第1軸X1に沿う方向を「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、他方側を「軸方向第2側L2」とする。また、入力部材I等の回転部材の回転軸心に直交する方向を、各回転軸心を基準とした「径方向R」とする。なお、どの回転軸心を基準とするかを区別する必要がない場合やどの回転軸心を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0018】
本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lに沿って延在する軸部材である。そして、入力部材Iは、内燃機関EGに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0019】
回転電機MGは、車輪Wの駆動力源として機能する。回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、回転電機MGは、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置(図示を省略)との間で電力の授受を行うように、当該蓄電装置と電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、蓄電装置に蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、回転電機MGは、内燃機関EGの駆動力、又は車輪Wに駆動連結される出力部材Oの側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置を充電する。
【0020】
回転電機MGは、ステータST及びロータRTを備えている。本実施形態では、回転電機MGは、第1軸X1とは別軸であって、第1軸X1と平行な第2軸X2上に配置されている。ステータSTは、非回転部材(例えば、後述するケースCS)に固定されている。ロータRTは、ステータSTに対して回転自在に支持されている。本実施形態では、ロータRTは、第1ギヤG1と一体的に回転するように連結されている。第1ギヤG1は、第2軸X2上に配置された外歯のギヤである。本実施形態では、第1ギヤG1は、回転電機MGに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0021】
分配用差動歯車機構SPは、第1分配用回転要素E1、第2分配用回転要素E2、及び第3分配用回転要素E3を備えている。分配用差動歯車機構SPは、第1軸X1上に配置されている。第1分配用回転要素E1は、入力部材Iに駆動連結されている。第3分配用回転要素E3は、ロータRTに駆動連結されている。本実施形態では、第2分配用回転要素E2は、動力伝達機構TMを介して出力部材Oに駆動連結されている。
【0022】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPの回転要素の回転速度の順は、第1分配用回転要素E1、第2分配用回転要素E2、第3分配用回転要素E3の順となっている。ここで、「回転速度の順」とは、各回転要素の回転状態における回転速度の順番のことである。各回転要素の回転速度は、差動歯車機構(ここでは、遊星歯車機構)の回転状態によって変化するが、各回転要素の回転速度の高低の並び順は、差動歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。
【0023】
また、本実施形態では、分配用差動歯車機構SPは、サンギヤSG、キャリヤCR、及びリングギヤRGを備えた遊星歯車機構である。本実施形態では、第1分配用回転要素E1は、サンギヤSGである。そして、第2分配用回転要素E2は、キャリヤCRである。また、第3分配用回転要素E3は、リングギヤRGである。本例では、分配用差動歯車機構SPは、ピニオンギヤPGを支持するキャリヤCRと、ピニオンギヤPGに噛み合うサンギヤSGと、当該サンギヤSGに対して径方向Rの外側に配置されてピニオンギヤPGに噛み合うリングギヤRGと、を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0024】
本実施形態では、リングギヤRGは、第2ギヤG2と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2ギヤG2は、第1軸X1上であって、リングギヤRGに対して径方向Rの外側に配置された外歯のギヤである。そして、第2ギヤG2は、第3軸X3上に配置されたアイドラギヤIGを介して、第1ギヤG1に駆動連結されている。つまり、本実施形態では、第1ギヤG1と第2ギヤG2とが、アイドラギヤIGの周方向の互いに異なる位置において、アイドラギヤIGに噛み合っている。第3軸X3は、第1軸X1及び第2軸X2とは別軸であって、それらと平行な軸である。
【0025】
また、本実施形態では、サンギヤSGは、伝達軸部材TSと一体的に回転するように連結されている。伝達軸部材TSは、軸方向Lに沿って延在するように形成されている。伝達軸部材TSは、第1軸X1上に配置されている。本実施形態では、伝達軸部材TSは、サンギヤSGから軸方向第2側L2に向けて延在するように形成されている。
【0026】
動力伝達機構TMは、特定回転部材RSと出力部材Oとの間で駆動力を伝達するように構成されている。本実施形態では、動力伝達機構TMは、分配用差動歯車機構SPからの回転を変速して出力部材Oに伝達する変速機である。本実施形態では、動力伝達機構TMは、第3ギヤG3と、第4ギヤG4と、第5ギヤG5と、第6ギヤG6と、第7ギヤG7と、第8ギヤG8と、を備えている。
【0027】
第3ギヤG3及び第4ギヤG4は、第1軸X1上に配置されている。第3ギヤG3及び第4ギヤG4は、伝達軸部材TSに対して相対回転自在に支持されている。本実施形態では、第4ギヤG4が第3ギヤG3よりも大径に形成されている。また、第4ギヤG4が第3ギヤG3よりも軸方向第2側L2に配置されている。本実施形態では、第3ギヤG3が特定回転部材RSに相当する。
【0028】
第5ギヤG5、第6ギヤG6、及び第7ギヤG7は、第1軸X1~第3軸X3とは別軸であって、それらと平行な第4軸X4上に配置されている。第5ギヤG5、第6ギヤG6、及び第7ギヤG7は、互いに一体的に回転するように連結されている。第5ギヤG5は、第3ギヤG3に噛み合っている。第6ギヤG6は、第4ギヤG4に噛み合っている。本実施形態では、第6ギヤG6が第5ギヤG5よりも小径に形成されている。そして、第7ギヤG7が第6ギヤG6よりも小径に形成されている。また、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2に向けて、第5ギヤG5、第7ギヤG7、及び第6ギヤG6が記載の順に配置されている。
【0029】
第8ギヤG8は、第1軸X1~第4軸X4とは別軸であって、それらと平行な第5軸X5上に配置されている。第8ギヤG8は、第7ギヤG7に噛み合っている。本実施形態では、第8ギヤG8が第7ギヤG7よりも大径に形成されている。本実施形態では、第8ギヤG8が出力部材Oに相当する。
【0030】
第3ギヤG3と出力部材O(ここでは、第8ギヤG8)との間の第1動力伝達経路と、第4ギヤG4と出力部材Oとの間の第2動力伝達経路とは、互いに変速比が異なっている。本実施形態では、第5ギヤG5が第3ギヤG3よりも大径に形成されている。そして、第6ギヤG6が第4ギヤG4よりも小径に形成されている。そのため、本実施形態では、第1動力伝達経路は、第2動力伝達経路よりも変速比が大きい。
【0031】
出力用差動歯車機構DFは、出力部材Oの回転を一対の車輪Wに分配するように構成されている。出力用差動歯車機構DFは、第5軸X5上に配置されている。本実施形態では、出力用差動歯車機構DFは、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、出力用差動歯車機構DFは、中空の差動ケースと、当該差動ケースと一体的に回転するように支持された差動ピニオンシャフトと、当該差動ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された差動ピニオンギヤと、当該差動ピニオンギヤに噛み合う一対の差動サイドギヤと、を備えている。
【0032】
差動ピニオンギヤ及び一対の差動サイドギヤは、差動ケースに収容されている。差動ピニオンシャフトは、差動ケースに固定されている。本実施形態では、差動ケースは、出力部材Oとしての第8ギヤG8と一体的に回転するように連結されている。また、一対の差動サイドギヤのそれぞれには、車輪Wに駆動連結されたドライブシャフトDSが一体的に回転するように連結されている。
【0033】
図1に示すように、係合装置10は、噛み合い式の第1係合機構C1と、噛み合い式の第2係合機構C2と、を備えている。本実施形態では、係合装置10は、噛み合い式の第3係合機構C3と、噛み合い式の第4係合機構C4と、噛み合い式の切離用係合機構K0と、を更に備えている。
【0034】
第1係合機構C1は、第1軸心A1上に配置されている。本実施形態では、第1軸心A1は、第1軸X1と一致する。そのため、第1係合機構C1が配置された軸心である第1軸心A1に沿う方向が軸方向Lである。また、本実施形態では、第1係合機構C1、第2係合機構C2、第3係合機構C3、第4係合機構C4、及び切離用係合機構K0が同軸上に配置されている。そして、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2に向けて、第3係合機構C3、第1係合機構C1、第2係合機構C2、第4係合機構C4、及び切離用係合機構K0が記載の順に配置されている。
【0035】
第1係合機構C1は、第1被係合部材11と、第1係合部材12と、を備えている。第1係合部材12は、第1被係合部材11に係合する第1係合位置P11と、第1被係合部材11との係合が解除される第1解除位置P12との間で移動自在に構成されている。本実施形態では、第1係合部材12は、第1支持部材121により軸方向Lに移動自在に支持されている。第1支持部材121は、キャリヤCRと一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1支持部材121は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成された連結部材CMを介して、キャリヤCRと一体的に回転するように連結されている。連結部材CMは、伝達軸部材TSを径方向Rの外側から覆うように配置されている。
【0036】
本実施形態では、第1被係合部材11は、第1支持部材121に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。また、本実施形態では、第1被係合部材11は、第3ギヤG3に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。そして、第1被係合部材11は、第3ギヤG3と一体的に回転するように連結されている。
【0037】
本実施形態では、第1係合部材12は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、第1係合部材12の内周部には内歯が形成されており、この内歯に対応する外歯が第1支持部材121に形成されている。これらの内歯及び外歯は、互いに軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合している。こうして、第1係合部材12は、第1支持部材121と一体的に回転すると共に、第1支持部材121に対して軸方向Lにスライド移動するように支持されている。
【0038】
また、本実施形態では、第1被係合部材11は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、第1被係合部材11の外周部には、第1係合部材12の内歯に対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合する外歯が形成されている。こうして、第1係合部材12が第1係合位置P11に位置した場合、第1係合部材12の内歯が第1支持部材121の外歯及び第1被係合部材11の外歯の双方に係合した状態となる。その結果、第1支持部材121に連結されたキャリヤCRと、第1被係合部材11に連結された第3ギヤG3とが、互いに一体的に回転するように連結される。一方、第1係合部材12が第1解除位置P12に位置した場合、第1係合部材12の内歯が第1被係合部材11の外歯には係合しない状態となる。その結果、第1支持部材121に連結されたキャリヤCRと、第1被係合部材11に連結された第3ギヤG3とが、互いに相対回転自在となる。
【0039】
第2係合機構C2は、第2被係合部材21と、第2係合部材22と、を備えている。第2係合部材22は、第2被係合部材21に係合する第2係合位置P21と、第2被係合部材21との係合が解除される第2解除位置P22との間で移動自在に構成されている。本実施形態では、第2係合部材22は、第2支持部材221により軸方向Lに移動自在に支持されている。第2支持部材221は、伝達軸部材TSを介してサンギヤSGと一体的に回転するように連結されている。
【0040】
本実施形態では、第2被係合部材21は、第2支持部材221に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。また、本実施形態では、第2被係合部材21は、第3ギヤG3に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。そして、第2被係合部材21は、第3ギヤG3と一体的に回転するように連結されている。つまり、本実施形態では、第1被係合部材11と第2被係合部材21とが、第3ギヤG3に対して互いに反対側に配置されていると共に、第3ギヤG3と一体的に回転するように構成されている。このように、本実施形態では、第1被係合部材11と第2被係合部材21とが、互いに一体的に回転するように構成されている。なお、本実施形態では、第3ギヤG3が対象ギヤGtに相当する。
【0041】
本実施形態では、第2係合部材22は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、第2係合部材22の内周部には内歯が形成されており、この内歯に対応する外歯が第2支持部材221に形成されている。これらの内歯及び外歯は、互いに軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合している。こうして、第2係合部材22は、第2支持部材221と一体的に回転すると共に、第2支持部材221に対して軸方向Lにスライド移動するように支持されている。
【0042】
また、本実施形態では、第2被係合部材21は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、第2被係合部材21の外周部には、第2係合部材22の内歯に対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合する外歯が形成されている。こうして、第2係合部材22が第2係合位置P21に位置した場合、第2係合部材22の内歯が第2支持部材221の外歯及び第2被係合部材21の外歯の双方に係合した状態となる。その結果、第2支持部材221に連結されたサンギヤSGと、第2被係合部材21に連結された第3ギヤG3とが、互いに一体的に回転するように連結される。一方、第2係合部材22が第2解除位置P22に位置した場合、第2係合部材22の内歯が第2被係合部材21の外歯には係合しない状態となる。その結果、第2支持部材221に連結されたサンギヤSGと、第2被係合部材21に連結された第3ギヤG3とが、互いに相対回転自在となる。
【0043】
第3係合機構C3は、第3被係合部材31を備えている。本実施形態では、第1係合機構C1と第3係合機構C3とで、第1係合部材12が共用されている。そのため、本実施形態では、第1係合部材12は、第1係合位置P11及び第1解除位置P12に加えて、第3被係合部材31に係合する第3係合位置P31にも移動自在に構成されている。こうして、本実施形態では、第1係合機構C1と第3係合機構C3とが、それらの係合の状態を第1係合部材12により排他的に切り替える第1ドグクラッチDG1を構成している。
【0044】
本実施形態では、第3被係合部材31は、第1支持部材121に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。そして、第3被係合部材31は、リングギヤRGと一体的に回転するように連結されている。
【0045】
また、本実施形態では、第3被係合部材31は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、第3被係合部材31の外周部には、第1係合部材12の内歯に対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合する外歯が形成されている。こうして、第1係合部材12が第3係合位置P31に位置した場合、第1係合部材12の内歯が第1支持部材121の外歯及び第3被係合部材31の外歯の双方に係合した状態となる。その結果、第1支持部材121に連結されたキャリヤCRと、第3被係合部材31に連結されたリングギヤRGとが、互いに一体的に回転するように連結される。一方、第1係合部材12が第1解除位置P12に位置した場合、第1係合部材12の内歯が第3被係合部材31の外歯には係合しない状態となる。その結果、第1支持部材121に連結されたキャリヤCRと、第3被係合部材31に連結されたリングギヤRGとが、互いに相対回転自在となる。
【0046】
第4係合機構C4は、第4被係合部材41を備えている。本実施形態では、第2係合機構C2と第4係合機構C4とで、第2係合部材22が共用されている。そのため、本実施形態では、第2係合部材22は、第2係合位置P21及び第2解除位置P22に加えて、第4被係合部材41に係合する第4係合位置P41にも移動自在に構成されている。こうして、本実施形態では、第2係合機構C2と第4係合機構C4とが、それらの係合の状態を第2係合部材22により排他的に切り替える第2ドグクラッチDG2を構成している。
【0047】
本実施形態では、第4被係合部材41は、第2支持部材221に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。そして、第4被係合部材41は、第4ギヤG4と一体的に回転するように連結されている。
【0048】
また、本実施形態では、第4被係合部材41は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、第4被係合部材41の外周部には、第2係合部材22の内歯に対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合する外歯が形成されている。こうして、第2係合部材22が第4係合位置P41に位置した場合、第2係合部材22の内歯が第2支持部材221の外歯及び第4被係合部材41の外歯の双方に係合した状態となる。その結果、第2支持部材221に連結されたサンギヤSGと、第4被係合部材41に連結された第4ギヤG4とが、互いに一体的に回転するように連結される。一方、第2係合部材22が第2解除位置P22に位置した場合、第2係合部材22の内歯が第4被係合部材41の外歯には係合しない状態となる。その結果、第2支持部材221に連結されたサンギヤSGと、第4被係合部材41に連結された第4ギヤG4とが、互いに相対回転自在となる。
【0049】
切離用係合機構K0は、入力部材Iと分配用差動歯車機構SPとの間の動力伝達を断接するように構成されている。切離用係合機構K0は、被係合部材51と、係合部材52と、を備えている。係合部材52は、被係合部材51に係合する連結位置P51と、被係合部材51との係合が解除される切離位置P52との間で移動自在に構成されている。本実施形態では、係合部材52は、支持部材521により軸方向Lに移動自在に支持されている。支持部材521は、伝達軸部材TSを介してサンギヤSGと一体的に回転するように連結されている。
【0050】
本実施形態では、被係合部材51は、支持部材521に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。そして、被係合部材51は、入力部材Iと一体的に回転するように連結されている。
【0051】
本実施形態では、係合部材52は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、係合部材52の内周部には内歯が形成されており、この内歯に対応する外歯が支持部材521に形成されている。これらの内歯及び外歯は、互いに軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合している。こうして、係合部材52は、支持部材521と一体的に回転すると共に、支持部材521に対して軸方向Lにスライド移動するように支持されている。
【0052】
また、本実施形態では、被係合部材51は、第1軸心A1を軸心とする筒状に形成されている。そして、被係合部材51の外周部には、係合部材52の内歯に対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合する外歯が形成されている。こうして、係合部材52が連結位置P51に位置した場合、係合部材52の内歯が支持部材521の外歯及び被係合部材51の外歯の双方に係合した状態となる。その結果、支持部材521に連結されたサンギヤSGと、被係合部材51に連結された入力部材Iとが、互いに一体的に回転するように連結される。一方、係合部材52が切離位置P52に位置した場合、係合部材52の内歯が被係合部材51の外歯には係合しない状態となる。その結果、支持部材521に連結されたサンギヤSGと、被係合部材51に連結された入力部材Iとが、互いに相対回転自在となる。
【0053】
図2に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、動作モードとして、第1EVモード(EV1)と、第2EVモード(EV2)と、後進モード(REV)と、第1HVモード(HV1)と、第2HVモード(HV2)と、eTCモード(eTC)と、充電モード(PC)と、を備えている。
【0054】
図2は、車両用駆動装置100の各動作モードにおける係合機構の状態を示している。図2において、「ON」は対象の係合機構が係合状態であることを示し、「-」は対象の係合機構が解放状態であることを示している。また、「L」は、対象のドグクラッチが、それを構成する2つの係合機構のうちの軸方向第1側L1(図1における左側)に位置する方が係合状態であることを示している。そして、「R」は、対象のドグクラッチが、それを構成する2つの係合機構のうちの軸方向第2側L2(図1における右側)に位置する方が係合状態であることを示している。
【0055】
第1EVモード及び第2EVモードは、内燃機関EG及び回転電機MGのうち、回転電機MGのみのトルクにより車両を走行させるモードである。第1EVモード及び第2EVモードでは、切離用係合機構K0が解放状態とされることにより、内燃機関EGと分配用差動歯車機構SPとの間での動力伝達が遮断された状態となる。
【0056】
第1EVモードでは、第1ドグクラッチDG1の第1係合機構C1が係合状態とされると共に、第2ドグクラッチDG2の第2係合機構C2が係合状態とされる。そのため、キャリヤCRとサンギヤSGとが連結され、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。更に、第3ギヤG3がキャリヤCR及びサンギヤSGと一体的に回転するように連結される。その結果、回転電機MGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま第3ギヤG3に伝達される。そして、第3ギヤG3に伝達された回転は、比較的変速比が大きい第1動力伝達経路において変速されて、出力部材Oの側に伝達される。
【0057】
第2EVモードでは、第1ドグクラッチDG1の第3係合機構C3が係合状態とされると共に、第2ドグクラッチDG2の第4係合機構C4が係合状態とされる。そのため、リングギヤRGとキャリヤCRとが連結され、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。更に、第4ギヤG4がサンギヤSGと一体的に回転するように連結される。その結果、回転電機MGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま第4ギヤG4に伝達される。そして、第4ギヤG4に伝達された回転は、比較的変速比が小さい第2動力伝達経路において変速されて、出力部材Oの側に伝達される。
【0058】
後進モードは、車両を後進させるモードである。後進モードでは、切離用係合機構K0が解放状態とされることにより、内燃機関EGと分配用差動歯車機構SPとの間での動力伝達が遮断された状態となる。
【0059】
後進モードでは、第1ドグクラッチDG1の第1係合機構C1が係合状態とされると共に、第2ドグクラッチDG2の第4係合機構C4が係合状態とされる。そのため、第3ギヤG3がキャリヤCRと一体的に回転するように連結される。更に、第4ギヤG4がサンギヤSGと一体的に回転するように連結される。その結果、回転電機MGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転は、当該分配用差動歯車機構SPにより減速されて、第3ギヤG3及び第4ギヤG4に伝達される。そして、第3ギヤG3に伝達された回転は、第1動力伝達経路を介して出力部材Oの側に伝達され、第4ギヤG4に伝達された回転は、第2動力伝達経路を介して出力部材Oの側に伝達される。このように、後進モードでは、回転電機MGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、当該分配用差動歯車機構SPにより減速されて、並列の第1動力伝達経路及び第2動力伝達経路を介して出力部材Oの側に伝達される。
【0060】
第1HVモード及び第2HVモードは、内燃機関EG及び回転電機MGのうち、少なくとも内燃機関EGのトルクにより車両を走行させるモードである。第1HVモード及び第2HVモードでは、切離用係合機構K0が係合状態とされることにより、内燃機関EGと分配用差動歯車機構SPとの間で動力伝達が可能な状態となる。その結果、内燃機関EGの側からの回転がサンギヤSGに入力される。なお、第1HVモード及び第2HVモードでは、第1ドグクラッチDG1及び第2ドグクラッチDG2の係合の状態が第1EVモード及び第2EVモードと同様であるため、回転電機MGと出力部材Oとの間の動力伝達についての詳細な説明は省略する。
【0061】
eTCモードは、分配用差動歯車機構SPにより、回転電機MGのトルクを反力として内燃機関EGのトルクを増幅して出力部材Oに伝達することで車両を走行させるモードである。eTCモードは、内燃機関EGのトルクを増幅して出力部材Oに伝達することができるため、所謂、電気式トルクコンバータモードと称される。
【0062】
eTCモードでは、切離用係合機構K0が係合状態とされることにより、内燃機関EGと分配用差動歯車機構SPとの間で動力伝達が可能な状態となる。その結果、内燃機関EGの側からの回転がサンギヤSGに入力される。また、eTCモードでは、第1ドグクラッチDG1の第1係合機構C1が係合状態とされると共に、第2ドグクラッチDG2が解放状態(第2係合機構C2及び第4係合機構C4の双方が解放状態)とされる。そして、回転電機MGが、内燃機関EGからサンギヤSGに伝達されるトルクの反力トルクを発生させ、リングギヤRGに伝達する。これにより、内燃機関EGのトルクと回転電機MGのトルクとが合成されてキャリヤCRに伝達され、当該キャリヤCRから出力部材Oに伝達される。
【0063】
充電モードは、内燃機関EGのトルクにより回転電機MGに発電を行わせて、上記の蓄電装置を充電するモードである。充電モードでは、切離用係合機構K0が係合状態とされる。また、第1ドグクラッチDG1の第3係合機構C3が係合状態とされると共に、第2ドグクラッチDG2が解放状態(第2係合機構C2及び第4係合機構C4の双方が解放状態)とされる。そして、内燃機関EGがトルクを出力し、回転電機MGが内燃機関EGのトルクによって回転するロータRTの回転方向とは反対方向のトルクを出力することにより発電するように制御される。
【0064】
図3に示すように、係合装置10は、第1係合機構C1及び第2係合機構C2を駆動する駆動装置Dを更に備えている。駆動装置Dは、シフトドラム6と、第1カム機構7と、第2カム機構8と、を備えている。
【0065】
シフトドラム6は、駆動源9により回転駆動される部材である。本実施形態では、シフトドラム6は、円筒状に形成されている。そして、シフトドラム6の回転軸心である第2軸心A2は、第1軸心A1(図1参照)と平行に配置されている。なお、駆動源9としては、例えば、複数相の交流電力で駆動される交流回転電機等の電動モータを採用することができる。
【0066】
第1カム機構7は、シフトドラム6の回転運動を直線運動に変換して、第1係合部材12に伝達するように構成されている。本実施形態では、第1カム機構7は、第1カム溝71と、第1カムフォロア72と、第1連結部材73と、を備えている。
【0067】
第1カム溝71は、シフトドラム6の外周面に設けられている。第1カム溝71は、シフトドラム6の外周面の周方向Cの位置に応じて、軸方向Lの位置が変化するように形成されている。なお、周方向Cは、第2軸心A2を周回する方向である。
【0068】
第1カムフォロア72は、第1カム溝71に案内されるように、第1カム溝71内に配置されている。第1カムフォロア72は、周方向Cの一定の位置に配置されている。第1カムフォロア72は、シフトドラム6の回転に伴い、第1カム溝71の形状に応じて軸方向Lに移動する。
【0069】
第1連結部材73は、第1カムフォロア72と一体的に移動するように連結されている。また、第1連結部材73は、第1係合部材12に対する軸方向Lへの相対移動が規制された状態で、第1係合部材12を保持している。こうして、第1連結部材73は、第1カムフォロア72と一体的に軸方向Lへ移動し、それに伴って第1係合部材12を軸方向Lへ移動させる。このように、第1連結部材73は、第1カムフォロア72の軸方向Lの運動と、第1係合部材12の軸方向Lの運動とを連動させる。
【0070】
第2カム機構8は、シフトドラム6の回転運動を直線運動に変換して、第2係合部材22に伝達するように構成されている。本実施形態では、第2カム機構8は、第2カム溝81と、第2カムフォロア82と、第2連結部材83と、を備えている。
【0071】
第2カム溝81は、シフトドラム6の外周面に設けられている。第2カム溝81は、周方向Cの位置に応じて、軸方向Lの位置が変化するように形成されている。
【0072】
第2カムフォロア82は、第2カム溝81に案内されるように、第2カム溝81内に配置されている。第2カムフォロア82は、周方向Cの一定の位置に配置されている。第2カムフォロア82は、シフトドラム6の回転に伴い、第2カム溝81の形状に応じて軸方向Lに移動する。
【0073】
第2連結部材83は、第2カムフォロア82と一体的に移動するように連結されている。また、第2連結部材83は、第2係合部材22に対する軸方向Lへの相対移動が規制された状態で、第2係合部材22を保持している。こうして、第2連結部材83は、第2カムフォロア82と一体的に軸方向Lへ移動し、それに伴って第2係合部材22を軸方向Lへ移動させる。このように、第2連結部材83は、第2カムフォロア82の軸方向Lの運動と、第2係合部材22の軸方向Lの運動とを連動させる。
【0074】
図4は、第1カム溝71及び第2カム溝81を周方向Cに沿って平面上に展開させたものの一例を示す図である。図4において、位相θ0~θ12は、第1カム溝71及び第2カム溝81の周方向Cの位置であり、第1カムフォロア72及び第2カムフォロア82がシフトドラム6の回転に伴って記載の順に経由する。なお、図4においては、第1係合部材12の軸方向Lの位置を示す、第1係合位置P11、第1解除位置P12、及び第3係合位置P31を、第1カム溝71の軸方向Lの位置に対応させて示している。また、第2係合部材22の軸方向Lの位置を示す、第2係合位置P21、第2解除位置P22、及び第4係合位置P41を、第2カム溝81の軸方向Lの位置に対応させて示している。
【0075】
図4に示すように、本実施形態では、第1カム溝71に対応する第1係合部材12は、位相θ0では第3係合位置P31に位置している。第1係合部材12は、位相θ0から位相θ1に向かうに従って第3係合位置P31から第1解除位置P12に向けて移動し、位相θ1において第1解除位置P12に位置する。第1係合部材12は、位相θ1から位相θ2に向かうに従って第1解除位置P12から第1係合位置P11に向けて移動し、位相θ3において第1係合位置P11に位置する。
【0076】
第1係合部材12は、位相θ3から位相θ9までは、第1係合位置P11を維持した状態で軸方向Lに移動しない。
【0077】
第1係合部材12は、位相θ9から位相θ10に向かうに従って第1係合位置P11から第1解除位置P12に向けて移動し、位相θ10において第1解除位置P12に位置する。第1係合部材12は、位相θ10から位相θ11までは、第1解除位置P12を維持した状態で軸方向Lに移動しない。
【0078】
第1係合部材12は、位相θ11から位相θ12に向かうに従って第1解除位置P12から第3係合位置P31に向けて移動し、位相θ12において第3係合位置P31に位置する。第1係合部材12は、位相θ12から位相θ0に戻るまでは、第3係合位置P31を維持した状態で軸方向Lに移動しない。
【0079】
また、本実施形態では、第2カム溝81に対応する第2係合部材22は、位相θ0では第2解除位置P22に位置している。第2係合部材22は、位相θ0から位相θ2までは、第2解除位置P22を維持した状態で軸方向Lに移動しない。第2係合部材22は、位相θ2から位相θ3に向かうに従って第2解除位置P22から第2係合位置P21に向けて移動し、位相θ4において第2係合位置P21に位置する。
【0080】
第2係合部材22は、位相θ4から位相θ5までは、第2係合位置P21を維持した状態で軸方向Lに移動しない。第2係合部材22は、位相θ5から位相θ6に向かうに従って第2係合位置P21から第2解除位置P22に向けて移動し、位相θ6において第2解除位置P22に位置する。
【0081】
第2係合部材22は、位相θ6から位相θ7までは、第2解除位置P22を維持した状態で軸方向Lに移動しない。第2係合部材22は、位相θ7から位相θ8に向かうに従って第2解除位置P22から第4係合位置P41に向けて移動し、位相θ8において第4係合位置P41に位置する。
【0082】
第2係合部材22は、位相θ8から位相θ12までは、第4係合位置P41を維持した状態で軸方向Lに移動しない。第2係合部材22は、位相θ12から位相θ0に戻るまでは、第4係合位置P41から第2解除位置P22に向けて移動する。
【0083】
このように、第1カム機構7及び第2カム機構8は、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第1係合部材12及び第2係合部材22の一方を他方よりも遅らせて移動させるように構成されている。本実施形態では、位相θ1において第1係合部材12が第1係合位置P11へ向けて移動を開始し、位相θ1よりも遅れた位相である位相θ2において第2係合部材22が第2係合位置P21へ向けて移動を開始する。また、位相θ3において第1係合部材12が第1係合位置P11に到達し、位相θ3よりも遅れた位相であるθ4において第2係合部材22が第2係合位置P21に到達する。つまり、本実施形態では、第1カム機構7及び第2カム機構8は、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第2係合部材22を第1係合部材12よりも遅らせて移動させるように構成されている。
【0084】
ここで、第1解除位置P12から第1係合位置P11までの第1係合部材12の移動経路(本実施形態では、軸方向Lに沿った移動経路、以下同様)を第1移動経路とし、第1移動経路の全長に対する、第1移動経路に沿った第1解除位置P12からの第1係合部材12の移動距離の比を、第1係合部材12の移動進行度とする。また、第2解除位置P22から第2係合位置P21までの第2係合部材22の移動経路を第2移動経路とし、第2移動経路の全長に対する、第2移動経路に沿った第2解除位置P22からの第2係合部材22の移動距離の比を、第2係合部材22の移動進行度とする。本実施形態では、第1カム機構7及び第2カム機構8は、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、各時点において第2係合部材22の移動進行度が第1係合部材12の移動進行度よりも小さくなるように、第2係合部材22を第1係合部材12よりも遅らせて移動させる。
【0085】
また、本実施形態では、第1係合部材12は、位相θ1から位相θ3の間で第1解除位置P12から第1係合位置P11まで移動し、第2係合部材22は、位相θ2から位相θ4の間で第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動する。このように、第1係合部材12が第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動する期間である第1期間と、第2係合部材22が第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動する期間である第2期間とが重複している。具体的には、第1期間が第2期間よりも早く開始し、第1期間が第2期間よりも早く終了するように、第1期間と第2期間とが重複している。また、本実施形態では、第1カム溝71に案内される第1カムフォロア72と、第2カム溝81に案内される第2カムフォロア82との周方向Cの位置が同一である(図3参照)。そのため、第1カム溝71における第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させるための区間(ここでは、第1カム溝71における位相θ1~θ3に対応する区間)と、第2カム溝81における第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させるための区間(ここでは、第2カム溝81における位相θ2~θ4に対応する区間)との周方向Cの位置がずれている。
【0086】
本実施形態では、位相θ0において、車両用駆動装置100の動作モードが充電モード(PC)となる。位相θ4~θ5において、切離用係合機構K0の係合の状態に応じて車両用駆動装置100の動作モードが第1EVモード(EV1)又は第1HVモード(HV1)となる。位相θ6~θ7において、車両用駆動装置100の動作モードがeTCモード(eTC)となる。位相θ8~θ9において、車両用駆動装置100の動作モードが後進モード(REV)となる。位相θ12において、切離用係合機構K0の係合の状態に応じて車両用駆動装置100の動作モードが第2EVモード(EV2)又は第2HVモード(HV2)となる。
【0087】
図5は、第1係合部材12が第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動すると共に、第2係合部材22が第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動する場合におけるタイムチャートである。図5のタイムチャートでは、位相θ0から位相θ4に対応する範囲でシフトドラム6が回転する場合における、回転電機MGの出力トルク(図5の「回転電トルク」参照)、第1カム溝71及び第2カム溝81の周方向Cの位置を基準としたシフトドラム6の回転位置(図5の「シフトドラム位相」参照)、第1係合部材12の軸方向Lの位置(図5の「第1係合部材ストローク位置」参照)、及び第2係合部材22の軸方向Lの位置(図5の「第2係合部材ストローク位置」参照)の時間経過に伴う変化が示されている。
【0088】
図5に示すように、時刻t0において、回転電機MGの出力トルクはゼロである。そして、シフトドラム6は、位相θ0に対応する回転位置にある。また、第1係合部材12は、第3係合位置P31にあり、第2係合部材22は、第2解除位置P22にある。
【0089】
時刻t1において、シフトドラム6が回転を開始する。これに伴い、第1係合部材12が、第3係合位置P31から第1解除位置P12に向けて移動する。そして、時刻t2において、第1係合部材12が第1解除位置P12に到達する。
【0090】
シフトドラム6が更に回転すると、第1係合部材12が第1解除位置P12から第1係合位置P11に向けて移動する。そして、時刻t3において、第1係合部材12が第1係合不良発生領域A11内に位置する。また、時刻t3において、第2係合部材22が、第2解除位置P22から第2係合位置P21に向けて移動する。なお、第1係合不良発生領域A11は、第1係合部材12が引っ掛かり等により第1係合位置P11に移動できず、第1係合機構C1が係合不良状態となる可能性がある領域である。
【0091】
時刻t4から時刻t5までの間、シフトドラム6が回転を停止する。これに伴い、時刻t4から時刻t5までの間、第1係合部材12が第1係合不良発生領域A11内における一定の位置に維持されると共に、第2係合部材22が一定の位置に維持される。
【0092】
時刻t5において、シフトドラム6が再び回転を開始する。これに伴い、第1係合部材12が再び第1係合位置P11に向けて移動すると共に、第2係合部材22が再び第2係合位置P21に向けて移動する。そして、時刻t6において、第1係合部材12が第1係合不良発生領域A11外に出て、第1係合領域A12内に位置する。また、時刻t6において、第2係合部材22が第2係合不良発生領域A21内に位置する。なお、第1係合領域A12は、第1係合位置P11、及び第1係合位置P11近傍の位置を含む領域であって、第1被係合部材11と第1係合部材12との間でトルク伝達が適切に行われる領域である。また、第2係合不良発生領域A21は、第2係合部材22が引っ掛かり等により第2係合位置P21に移動できず、第2係合機構C2が係合不良状態となる可能性がある領域である。
【0093】
シフトドラム6が更に回転すると、第1係合部材12が第1係合位置P11に向けて更に移動すると共に、第2係合部材22が第2係合位置P21に向けて更に移動する。その後、時刻t7から時刻t8までの間、シフトドラム6が回転を停止する。これに伴い、時刻t7から時刻t8までの間、第1係合部材12が第1係合領域A12内における一定の位置に維持されると共に、第2係合部材22が第2係合不良発生領域A21内における一定の位置に維持される。
【0094】
時刻t8において、シフトドラム6が再び回転を開始する。これに伴い、第1係合部材12が再び第1係合位置P11に向けて移動すると共に、第2係合部材22が再び第2係合位置P21に向けて移動する。そして、時刻t9において、第1係合部材12が第1係合位置P11に到達する。また、時刻t9において、第2係合部材22が第2係合不良発生領域A21外に出て、第2係合領域A22内に位置する。このとき、シフトドラム6は、位相θ3に対応する回転位置となる。なお、第2係合領域A22は、第2係合位置P21、及び第2係合位置P21近傍の位置を含む領域であって、第2被係合部材21と第2係合部材22との間でトルク伝達が適切に行われる領域である。
【0095】
シフトドラム6が更に回転すると、第1係合部材12が第1係合位置P11に維持されると共に、第2係合部材22が第2係合位置P21に向けて更に移動する。そして、時刻t10において、第2係合部材22が第2係合位置P21に到達する。また、時刻t10において、シフトドラム6が回転を停止する。
【0096】
本実施形態では、時刻t2から時刻t9までの間、回転電機MGが正トルクと負トルクとを交互に出力するように制御される。この制御は、回転電機MGの出力トルクにより第1係合部材12を第1被係合部材11に対して回転させて、第1係合機構C1が係合不良状態となっている場合に当該係合不良状態を解消すると共に、回転電機MGの出力トルクにより第2係合部材22を第2被係合部材21に対して回転させて、第2係合機構C2が係合不良状態となっている場合に当該係合不良状態を解消するために実行される。
【0097】
以上のように、係合装置10は、
噛み合い式の第1係合機構C1と、
噛み合い式の第2係合機構C2と、
第1係合機構C1及び第2係合機構C2を駆動する駆動装置Dと、を備えた係合装置10であって、
第1係合機構C1は、第1被係合部材11と、当該第1被係合部材11に係合する第1係合位置P11及び第1被係合部材11との係合が解除される第1解除位置P12の間で移動する第1係合部材12と、を備え、
第2係合機構C2は、第2被係合部材21と、当該第2被係合部材21に係合する第2係合位置P21及び第2被係合部材21との係合が解除される第2解除位置P22の間で移動する第2係合部材22と、を備え、
駆動装置Dは、
駆動源9により回転駆動されるシフトドラム6と、
シフトドラム6の回転運動を直線運動に変換して第1係合部材12に伝達する第1カム機構7と、
シフトドラム6の回転運動を直線運動に変換して第2係合部材22に伝達する第2カム機構8と、を備え、
第1カム機構7及び第2カム機構8は、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第1係合部材12及び第2係合部材22の一方を他方よりも遅らせて移動させるように構成されている。
【0098】
この構成によれば、シフトドラム6の回転により、第1係合機構C1の第1係合部材12が第1カム機構7を介して第1係合位置P11と第1解除位置P12との間で移動すると共に、第2係合機構C2の第2係合部材22が第2カム機構8を介して第2係合位置P21と第2解除位置P22との間で移動する。また、その場合における、第1係合部材12が第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動するタイミングと、第2係合部材22が第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動するタイミングとが互いにずれている。これにより、第1係合機構C1及び第2係合機構C2を共通のシフトドラム6の回転により駆動させる構成において、第1係合機構C1及び第2係合機構C2の少なくとも一方が係合不良状態となった場合に、係合不良状態となった係合機構がいずれであるかを容易に特定することができる。その結果、係合不良状態を解消するための処理等を適切に実行することができる。
【0099】
また、上述の通り、本実施形態では、第1係合部材12及び第2係合部材22は、軸方向Lに移動自在に構成され、
シフトドラム6は、円筒状に形成され、
シフトドラム6の回転軸心である第2軸心A2は、第1係合機構C1が配置された軸心である第1軸心A1と平行に配置され、
第1カム機構7は、シフトドラム6の外周面に設けられて、当該外周面の周方向Cの位置に応じて軸方向Lの位置が変化する第1カム溝71と、当該第1カム溝71に案内される第1カムフォロア72と、当該第1カムフォロア72の軸方向Lの運動と第1係合部材12の軸方向Lの運動とを連動させる第1連結部材73と、を備え、
第2カム機構8は、外周面に設けられて、周方向Cの位置に応じて軸方向Lの位置が変化する第2カム溝81と、当該第2カム溝81に案内される第2カムフォロア82と、当該第2カムフォロア82の軸方向Lの運動と第2係合部材22の軸方向Lの運動とを連動させる第2連結部材83と、を備え、
第1カム溝71における第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させるための区間と、第2カム溝81における第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させるための区間との周方向Cの位置がずれている。
【0100】
この構成によれば、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第1係合部材12及び第2係合部材22の一方を他方よりも遅らせて移動させる構成を適切に実現することができる。
【0101】
また、上述の通り、本実施形態では、第1被係合部材11と第2被係合部材21とが、互いに一体的に回転するように構成されている。
【0102】
この構成によれば、第1係合部材12の係合対象である第1被係合部材11と、第2係合部材22の係合対象である第2被係合部材21とが、同じ回転位置となる。そのため、第1係合機構C1及び第2係合機構C2が係合不良状態となり易い。したがって、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第1係合部材12及び第2係合部材22の一方を他方よりも遅らせて移動させる上記の構成が有効である。
【0103】
また、上述の通り、本実施形態では、第1被係合部材11と第2被係合部材21とが、1つの対象ギヤGt(ここでは、第3ギヤG3)に対して互いに反対側に配置されていると共に、当該対象ギヤGtと一体的に回転するように構成されている。
【0104】
この構成によれば、第1被係合部材11と第2被係合部材21との径を近付け易い。したがって、第1被係合部材11に係合する第1係合部材12を移動させるための駆動力と、第2被係合部材21に係合する第2係合部材22を移動させるための駆動力とを近付け易い。
【0105】
図6に示すように、本実施形態では、分配用差動歯車機構SPの第1分配用回転要素E1(ここでは、サンギヤSG)と一体的に回転する伝達軸部材TSは、第1軸受B11を介して、分配用差動歯車機構SPを収容するケースCSに対して回転自在に支持されている。そして、伝達軸部材TSは、第2軸受B12を介して、入力部材Iに対して回転自在に支持されている。また、伝達軸部材TSは、第3軸受B13を介して、第3ギヤG3に対して回転自在に支持されている。そして、伝達軸部材TSは、第4軸受B14を介して、第4ギヤG4に対して回転自在に支持されている。本例では、第1軸受B11及び第2軸受B12は、ラジアル荷重を受ける玉軸受である。そして、第3軸受B13及び第4軸受B14は、ラジアル荷重を受ける針状ころ軸受である。
【0106】
また、本実施形態では、分配用差動歯車機構SPの第2分配用回転要素E2(ここでは、キャリヤCR)と一体的に回転する連結部材CMは、第5軸受B2を介して、分配用差動歯車機構SPの第3分配用回転要素E3(ここでは、リングギヤRG)に対して回転自在に支持されている。本例では、第5軸受B2は、ラジアル荷重を受ける針状ころ軸受である。
【0107】
このように、本実施形態では、第1分配用回転要素E1、及び当該第1分配用回転要素E1と一体的に回転する回転要素(ここでは、伝達軸部材TS)を径方向Rに支持する軸受の数が、第2分配用回転要素E2、及び当該第2分配用回転要素E2と一体的に回転する回転要素(ここでは、連結部材CM)を径方向Rに支持する軸受の数よりも多い。そのため、本実施形態では、第1分配用回転要素E1、及び当該第1分配用回転要素E1と一体的に回転する回転要素(ここでは、伝達軸部材TS)の回転抵抗が、第2分配用回転要素E2、及び当該第2分配用回転要素E2と一体的に回転する回転要素(ここでは、連結部材CM)の回転抵抗よりも大きい。なお、回転要素の回転抵抗は、上記のように対象となる回転要素を支持する軸受の数の他、対象となる回転要素が摺動する他の回転要素の数にも依存する。
【0108】
以上のように、車両用駆動装置100は、
上記の係合装置10と、
内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、
車輪Wに駆動連結される出力部材Oと、
ロータRTを備えた回転電機MGと、
第1分配用回転要素E1、第2分配用回転要素E2、及び第3分配用回転要素E3を備え、第1分配用回転要素E1が入力部材Iに駆動連結され、第3分配用回転要素E3がロータRTに駆動連結された分配用差動歯車機構SPと、
特定回転部材RS(ここでは、第3ギヤG3)と出力部材Oとの間で駆動力を伝達する動力伝達機構TMと、を備えた車両用駆動装置100であって、
第1係合機構C1は、第2分配用回転要素E2と特定回転部材RSとの間の動力伝達を断接するように構成され、
第2係合機構C2は、第1分配用回転要素E1と特定回転部材RSとの間の動力伝達を断接するように構成され、
第1分配用回転要素E1、及び当該第1分配用回転要素E1と一体的に回転する回転要素(ここでは、伝達軸部材TS)の回転抵抗が、第2分配用回転要素E2、及び当該第2分配用回転要素E2と一体的に回転する回転要素(ここでは、連結部材CM)の回転抵抗よりも大きく、
第1カム機構7及び第2カム機構8は、第1係合部材12を第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動させると共に、第2係合部材22を第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動させる場合に、第2係合部材22を第1係合部材12よりも遅らせて移動させるように構成されている。
【0109】
この構成によれば、第1分配用回転要素E1及びそれと一体的に回転する回転要素の回転抵抗が、第2分配用回転要素E2及びそれと一体的に回転する回転要素の回転抵抗よりも大きいため、第2分配用回転要素E2の回転により相対回転する第1係合部材12と第1被係合部材11とは、第1分配用回転要素E1の回転により相対回転する第2係合部材22と第2被係合部材21とに比べて、回転し易い構成となり易い。そのため、第1係合機構C1と第2係合機構C2との双方が係合状態ではない場合において、第3分配用回転要素E3に入力される回転電機MGの駆動力により、先に係合状態とする第1係合機構C1の第1係合部材12と第1被係合部材11とを相対回転させて係合不良状態を解消する処理を適切に実行し易い。そして、第1係合機構C1が係合状態である場合には、第3分配用回転要素E3に入力される回転電機MGの駆動力により、第2係合機構C2の第2係合部材22と第2被係合部材21とを相対回転させて係合不良状態を解消する処理を適切に実行し易い。したがって、本構成によれば、第1係合機構C1と第2係合機構C2との双方について、係合不良状態を解消するための処理を適切に実行することができる。
【0110】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、第1係合部材12が第1解除位置P12から第1係合位置P11に移動すると共に、第2係合部材22が第2解除位置P22から第2係合位置P21に移動する場合に、第2係合部材22が第1係合部材12よりも遅れて移動する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1係合部材12が第2係合部材22よりも遅れて移動する構成としても良い。この構成は、第1分配用回転要素E1、及び当該第1分配用回転要素E1と一体的に回転する回転要素の回転抵抗が、第2分配用回転要素E2、及び当該第2分配用回転要素E2と一体的に回転する回転要素の回転抵抗よりも小さい場合に適用すると好適である。
【0111】
(2)上記の実施形態では、2つの係合機構(第1係合機構C1及び第2係合機構C2)が1つのシフトドラム6により駆動する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1係合機構C1及び第2係合機構C2を含む3つ以上の係合機構が1つのシフトドラム6により駆動する構成としても良い。
【0112】
(3)上記の実施形態では、第1カム機構7が、第1カム溝71、第1カムフォロア72、及び第1連結部材73を備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、シフトドラム6の外周面に、第1カム溝71の代わりに凹凸が設けられた構成としても良い。この構成では、シフトドラム6の回転軸心である第2軸心A2が、第1軸心A1に対して交差(例えば、直交)するように配置され、凹凸に応じて第1カムフォロア72が第2軸心A2に対して交差する方向(例えば、軸方向L)に移動すると好適である。なお、第2カム機構8についても同様である。
【0113】
(4)上記の実施形態では、分配用差動歯車機構SPがシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、第1分配用回転要素E1がサンギヤSG、第2分配用回転要素E2がキャリヤCR、第3分配用回転要素E3がリングギヤRGである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1分配用回転要素E1がリングギヤRG、第2分配用回転要素E2がキャリヤCR、第3分配用回転要素E3がサンギヤSGである構成としても良い。また、分配用差動歯車機構SPがダブルピニオン型の遊星歯車機構であっても良い。この場合、第1分配用回転要素E1がサンギヤSG、第2分配用回転要素E2がリングギヤRG、第3分配用回転要素E3がキャリヤCRであっても良いし、第1分配用回転要素E1がキャリヤCR、第2分配用回転要素E2がリングギヤRG、第3分配用回転要素E3がサンギヤSGであっても良い。
【0114】
(5)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本開示に係る技術は、噛み合い式の第1係合機構及び第2係合機構と、それらを駆動する駆動装置と、を備えた係合装置、及びそれを備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0116】
100:車両用駆動装置、10:係合装置、C1:第1係合機構、C2:第2係合機構、D:駆動装置、11:第1被係合部材、12:第1係合部材、21:第2被係合部材、22:第2係合部材、6:シフトドラム、7:第1カム機構、71:第1カム溝、72:第1カムフォロア、73:第1連結部材、8:第2カム機構、81:第2カム溝、82:第2カムフォロア、83:第2連結部材、I:入力部材、O:出力部材、MG:回転電機、ST:ステータ、RT:ロータ、SP:分配用差動歯車機構、E1:第1分配用回転要素、E2:第2分配用回転要素、E3:第3分配用回転要素、TM:動力伝達機構、RS:特定回転部材、Gt:対象ギヤGt、EG:内燃機関、W:車輪、P11:第1係合位置、P12:第1解除位置、P21:第2係合位置、P22:第2解除位置、A1:第1軸心、A2:第2軸心、L:軸方向、C:周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6