(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106579
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】制御速応性を台形速度パターンから見積る方法
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20240801BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
G05B13/04
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010915
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】391051496
【氏名又は名称】CKD日機電装株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉木 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 進
(72)【発明者】
【氏名】楠美 三郎
【テーマコード(参考)】
5H004
5H501
【Fターム(参考)】
5H004GA02
5H004HA07
5H004HA08
5H004HA09
5H004HB07
5H004HB08
5H004HB09
5H004KB01
5H004KB09
5H004KB39
5H501BB09
5H501BB11
5H501DD01
5H501GG01
5H501GG03
5H501JJ23
5H501JJ24
5H501JJ26
5H501KK08
5H501LL01
5H501LL35
(57)【要約】
【課題】
本発明は、台形速度パターンの積分(S字目標値)に追従するために必要な制御系の速応性を見積るための方法を提供する。
【解決手段】
台形速度パターンの周波数成分は、周波数が上がるにつれて急峻に減少し、その多くが低周波域に集中する性質がある。この性質に注目し、この低周波域の周波数成分に追従するように制御系の速応性を見積る方法を示す。具体的には、規範モデルの速応性パラメータを、台形速度パターンの加速時間と定速時間の関数として与える方法を示す。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台形パターンを利用した目標値の周波数成分は、その多くが低周波域に集中する性質をもつことに着目し、その低周波域の周波数成分に追従するように制御系の速応性を見積る方式
【請求項2】
請求項1の方式に基づき、制御系の速応性を定めるパラメータを、台形速度パターンの主要パラメータである加速時間と定速時間の関数として与える方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御系の設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
位置決め制御等では、目標値として台形の速度パターン(
図1上段)を積分した信号を用いる場合が多い。これは最高速度や最大加速度などの設定に都合が良いためである。台形を積分した目標値はその形からS字目標値とも呼ばれる。
図1上段のaは加速時間(減速時間)、bは定速時間、vmは最高速度、vm/aが最大加速度である。この台形信号のフーリエ変換である数1を計算すると以下のようになり、周波数特性が分かる。
【数1】
時間領域での微分は周波数領域でjωをかけることに対応するので(jは虚数単位)、数1は数2となる。
【数2】
台形信号の2階微分は
図1下段のようにデルタ関数で表されるので、数2は数3となる。
【数3】
さらにデルタ関数の定義である数4より、数5となる。
【数4】
【数5】
さらに数6を用いると、数7の周波数特性を得る。
【数6】
【数7】
【0003】
制御系にもたせたい望ましい特性のモデルを規範モデルとよび、様々なものがある。本発明を説明するために、数8から導かれた数9の規範モデル(非特許文献1)を例として用いる。
【数8】
【数9】
ここでσは速応性を定めるパラメータであり、σが小さいほど応答波形が時間方向に圧縮され、速い応答になる。またσには次のような物理的意味がある。数9の一般形である数10のインパルス応答をg(t)とすると、一般に数11のように表される。
【数10】
【数11】
また、数10は分子を分母で割ることで数12のように展開できる。
【数12】
よって数11と数12の比較より、σは数13で表される。
【数13】
インパルス応答g(t)は数14を満たし確率密度関数ともみなせるので、数13より、σは平均値とみなせる。
【数14】
単位ステップ応答がその半分の0.5に達するまでの時間を考え、それをTDとすると、インパルス応答の積分が単位ステップ応答であるので、TDは数15を満たす。数15のTDは連続値g(t)の中央値の定義であるから、TDは中央値に等しい。
【数15】
エルモアディレイ(非特許文献2)は中央値を平均値で近似する方法であり、この方法により数16を得る。よってσは単位ステップ応答が0.5に達するまでの時間の近似値の1つと解釈できる。
【数16】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】速度フィードフォワードを加えたカスケード型モータ位置決め制御系の簡易設計法(特許第6149291号)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】北森,制御対象の部分的知識に基づく制御系の設計法,計測自動制御学会論文集,Vol.15,No.4,pp.549-555,1979
【非特許文献2】W.C. Elmore, The Transient Response of Damped Linear Networks with Particular Regard to Wideband Amplifiers, Journal of Applied Physics, Vol.19, No.55, pp.55-63, 1948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、制御系が台形速度パターンの積分(S字目標値)に追従するために少なくとも必要な速応性を見積る方法を提供する。具体的には、規範モデルの速応性パラメータを、台形速度パターンの加速時間aと定速時間bの関数として与える方法を示す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
数7より、台形速度パターンのゲイン特性は数17となる。
【数17】
台形速度パターンの積分である数18のゲイン特性は数19となる。ただしRv(s)はrv(t)のラプラス変換である。
【数18】
【数19】
ステップ信号にローパスフィルタをかけて簡易目標値とすることがあるが(数20)、このローパスフィルタの場合と比べながら本発明の方式を述べる。
【数20】
数20のゲイン特性は数21である。
【数21】
数18と数20による目標値信号の比較を
図2に示し、そのゲイン特性である数19と数21の比較を
図3に示す。ここでa,b,vm,Tの値は整定時間が同じ程度になるように選んだ。数19のゲイン特性は周波数が上がるにつれて急峻に減衰する。これはωの累乗が分母に入っているためといえる。
【0008】
さらに、
図3に現れたゲインの隆起が全体に対してどの程度の大きさなのか調べるために、数18の積分の順序を数22のように変えて、さらにRv(s)を定常ゲインRv(0)で割って正規化する。
【数22】
【数23】
【数24】
数22より、台形信号の積分はステップ信号を数23でフィルタリングしたものとみなせる。この正規化した数23を考えることで他のフィルタとも比較しやすくなるため、数23を台形フィルタと呼ぶことにする。台形フィルタのゲイン特性は数25である。
【数25】
【0009】
台形速度パターンの周波数成分は、周波数が上がるにつれて急峻に減少し、その多くが低周波域に集中する性質がある。この性質に注目し、この低周波域をカバーするように規範モデルの速応性パラメータ値を定めることを考える。そのための1つの方法として、数19(数25)のゲイン特性がゼロになる周波数をみると数26となることから、数27の周波数を採用する。
【数26】
【数27】
数27は、aがb以下のときは数19(数25)が2回目にゼロになる周波数であり(
図4)、aがbより大きいときは数19(数25)が3回目にゼロになる周波数である(
図5)。数27までの周波数帯域をカバーできるように、数28と数27を満たすように速応性パラメータσの値を定める。
【数28】
ただしρはバンド幅の指標の -3[dB]よりも大きな値を選び、数27までの周波数をより確実にカバーするようにする。
【0010】
数29より、数9の規範モデルのゲイン特性は数31となる。
【数29】
【数30】
【数31】
【0011】
数28に数31を代入して整理すると以下のようになる。
【数32】
【数33】
【数34】
さらに数34に数27を代入すると、台形速度パターンの加速時間aと定速時間bの関数である数35が得られる。
【数35】
【0012】
数35のxは数33の解であり、ρと規範モデルの係数αから定まる固定値である。数10の規範モデルの場合は数33がn次多項式になるので、解xを数値計算することになるが、数9の規範モデルの場合は3次多項式なので解の公式を利用できる。
【0013】
図6は、連続値に対する移動平均である数36を
図4に追加した場合である。
【数36】
【数37】
ここでTMVは移動平均をとる区間であり、数36を目標値に追加すると整定時間がTMVだけ遅くなるが、それが許される場合は、移動平均によって高周波成分がさらに減少するので本発明がより効果的となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方式をIPD, PID, カスケード制御系に適用した例を示す。
図8のIPD制御系の場合、閉ループ伝達関数は数39となり、数9の規範モデルを利用できる。
【数38】
【数39】
ここで制御対象は数40の高剛性モータモデルとした。Jはモータの慣性モーメント、Dは粘性摩擦係数である。
【数40】
数39と数9の係数比較より、数41のPIDパラメータを得る。
【数41】
数42と数43の数値例での応答を
図9に示す。速応性の下限を見積ることができていることが応答からも確認できる。
【数42】
【数43】
【0015】
次に
図10のPID制御系の場合を示す。閉ループ伝達関数は零点をもつ数44なので、規範モデルとして数45を用いる。
【数44】
【数45】
数46より、数45のゲイン特性は数48となる。
【数46】
【数47】
【数48】
【0016】
数28に数48を代入すると次のようになる。
【数49】
【数50】
PIDパラメータはIPDの場合と同じ数41で与えられるが、数45は共振点をもち、ゲインピークが0[dB]を超えるので(
図11)、数43のρの代わりにρ = 1(ρ = 0[dB])として計算した場合の応答を
図12に示す。元々ある零点の影響により応答が少し乱れているが,速応性を見積ることができていることが分かる。
【0017】
カスケード制御系の場合を示す。
図13のカスケード制御系は、数51を用いると、数52の2次遅れ系の特性になる(特許文献1)。
【数51】
【数52】
数52も規範モデルと考えることができ、この速応性パラメータはωnであり、本発明の方法で値を見積ることができる。数29より、数52のゲイン特性は数54となる。
【数53】
【数54】
数28に数54と数27を代入すると、速応性パラメータωnの見積値として数56が得られる。
【数55】
【数56】
さらに、Kpとωnの関係式(数52)に数56を代入すると、数57を得る。これはPIDパラメータの観点での速応性パラメータである。
【数57】
特に、ζを2の平方根の逆数に選ぶ場合、数57は数58となる。
【数58】
数58(および数51)を用いたカスケード制御系の応答例を
図15に示す。ここでρの値は-1[dB]としたが、もっと大きく、例えば-0.5[dB]などに選べばカバーする周波数帯域が広がるので、応答yは目標値rにより近づく。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図5】台形フィルタのゲイン特性(a > bの場合)
【
図7】規範モデルに追従させる周波数帯域(数27までの周波数)
【
図15】本発明を適用したカスケード制御系の応答例
【符号の説明】
【0019】
1 積分器
2 Iコントローラ
3 モータモデル
4 PDコントローラ
5 PIDコントローラ
6 Pコントローラ
7 PIコントローラ
8 モータ速度モデル
9 モータモデルの積分器