(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106585
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】毛髪の酸化ダメージ評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240801BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240801BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010924
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高山 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】行方 昌人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 翔平
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045BA13
2G045BB03
2G045CB16
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】
毛髪の酸化ダメージは、紫外線照射、熱処理、過酸化水素によるブリーチ処理、酸化染毛剤処理、パーマ処理などにより惹起されるが、ダメージの初期段階では、タンパク質のカルボニル化が起きていることが知られている。タンパク質のカルボニル化は非酵素的に起こる不可逆的な酸化修飾であり、毛髪にカルボニル基が蓄積されることにより、毛髪内部の空隙の発生、キューティクルの劣化、引張強度の低下など認知できるダメージへと進行する。そのため、毛髪タンパク質のカルボニル化の抑制を目的とした防止剤を開発するための評価方法が求められている。
【解決手段】
毛髪からのタンパク質抽出および、その溶液からELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)を適用することで、カルボニル化タンパク質を定量し、酸化処理の程度に応じた酸化ダメージを測定できることを見出した。さらに酸化処理の前処理として、酸化抑制作用を有する有効成分を配合する製剤を毛髪に処理することにより、有効成分の酸化ダメージ抑制評価が可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪からタンパク質を抽出し、前記タンパク質の溶液に含まれるカルボニル化タンパク質量をELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)により測定することを特徴とする、酸化ダメージの評価方法。
【請求項2】
前記抽出が、変性剤、還元剤、及び低級アルコール等から選ばれる1種以上の混合溶液で処理されることを特徴する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)が、ジニトロフェニルヒドラジンによるカルボニル基の誘導体化、及び抗ジニトロフェニル抗体を用いたイムノブロットによる検出を特徴とする、請求項1に記載の評価方法。
【請求項4】
前記検出が、吸光、蛍光、及び化学発光のいずれかにより行われる、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の評価方法を用いて、酸化ダメージに対する抑制作用を有する有効成分を評価する方法。
【請求項6】
請求項3に記載の評価方法を用いて、酸化ダメージに対する抑制作用を有する有効成分を評価する方法。
【請求項7】
請求項4に記載の評価方法を用いて、酸化ダメージに対する抑制作用を有する有効成分を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪からのタンパク質を抽出し、そのタンパク質溶液を用いたELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によりカルボニル化タンパク質を検出・定量する評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪タンパク質のカルボニル化は主要な毛髪ダメージ指標の一つと知られており、毛髪の紫外線暴露や熱処理、および酸化剤を含む化学処理などにより引き起こされることが知られている。タンパク質のカルボニル化は軽微な毛髪損傷においても確認されることがあり、そのダメージが蓄積することよって、毛髪内部の空隙生成やキューティクルの剥離、引張強度の低下、髪色の変化などの様々なダメージが惹起される。この毛髪のカルボニル化の評価方法として、毛髪繊維を試料として蛍光標識物質と接触させることで、カルボニル基を蛍光標識してから蛍光顕微鏡下で検出する方法が開示されている(特許文献1)。
【0003】
さらに、特許文献2では、毛髪からアルカリ性の還元剤溶液を用いてケラチンタンパク質を溶解させて、その溶液に含まれるカルボニル基を蛍光標識により検出する方法が開示されている。これらのカルボニル化タンパク質の評価方法は、毛髪の実際の酸化ダメージを反映することが可能であり、酸化ダメージの抑制成分スクリーニングへの展開が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/057211号
【特許文献2】特開2019-86525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、毛髪の酸化ダメージの指標となるカルボニル化タンパク質を平均的かつ高感度に検出することにより、実際の酸化ダメージ度を反映するとともに、酸化ダメージの抑制作用を有する有効成分のスクリーニングを簡便に評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、毛髪からのタンパク質抽出および、その溶液からELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)を適用することで、カルボニル化タンパク質を絶対定量し、酸化処理の程度に応じた酸化ダメージを測定できることを見出した。さらに酸化処理の前処理として、酸化抑制作用を有する有効成分を配合する製剤を毛髪に適用することにより、有効成分の酸化ダメージ抑制評価が可能な方法を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明に記載の毛髪タンパク質の抽出およびELISAによる酸化ダメージ評価方法を用いることで、従来の方法に比べて、より平均的かつ高感度に毛髪のカルボニル化を検出することが可能になる。つまり、履歴の異なる複数の毛髪繊維を一元化してタンパク質を抽出することにより、毛束単位の平均的な評価が出来る。さらに、カルボニル化タンパク質を検出するELISAは、タンパク質やターゲット基質に特異的な抗原抗体反応を用いることで、pg~ngオーダーの高感度に定量することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、紫外線照射による毛髪カルボニル化タンパク質量(n=3)の結果を示す。
【
図2】
図2は、紫外線照射によるプレトリートメント処理毛髪のカルボニル化タンパク質量(n=1)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。
本発明で適用する毛髪の酸化ダメージとしては、毛髪の紫外線照射、熱処理、ブリーチ処理、酸化染毛剤処理、パーマ処理および次亜塩素酸に対する暴露のいずれか又は複数の組み合わせにより引き起こされるものが考えられる。
【0010】
本発明で用いる毛髪のタンパク質抽出としては、変性剤、還元剤、及び低級アルコール等から選ばれる1種以上の混合溶液を用いることができる。具体的には、変性剤としては、尿素、チオ尿素等から選ばれる1種以上が好ましく、さらに2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトールやチオグリコール酸等の還元剤を含ませることが好ましい。低級アルコールとしては、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、2-メチル-1-プロパノール等から選ばれる1種以上が好ましい。混合溶液のpHは、毛髪への浸透性を高めるためpH7以上のアルカリ条件が好ましく、特にpH8~10が好ましい。
【0011】
毛髪の処理時間は、時間に依存して回収されるタンパク質量が増加するが、1~3日間が望ましい。また、処理温度は20~60℃が好ましく、より短時間で効率よく回収できることと操作性の点で、50℃が好ましい。
【0012】
本発明で、毛髪と混合溶液の浴比は、1~60mg/mlの範囲で実施することが好ましい。
【0013】
本発明で適用するELISAとしては、ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH:dinitrophenylhydrazine)によるカルボニル基の誘導体化を行い、抗DNP(2′4‐dinitrophenol)抗体によるイムノブロット等で検出することができる。特に限定されるものではないが、市販されているカルボニル化タンパク検出を目的としたELISAキット(OxiSelect(tm) Protein Carbonyl ELISA kit, Cell BioLabs Inc.)を用いて行うことが可能である。
【0014】
ELISAの検出方法としては、マイクロプレートリーダーを用いた吸光、蛍光および化学発光の検出が好ましい。とりわけ、ジニトロフェニルヒドラジンを用いる場合は、吸光による検出がより好ましい。
【0015】
さらに、酸化処理の前処理として評価対象物質を毛髪試料に処理することで、酸化処理による毛髪ダメージに対する評価対象物質の抑制作用を評価することが可能である。評価対象物質は、主に化粧品、医薬部外品及び/又は医薬品に利用できる成分を対象とし、そのまま毛髪試料に塗布することもできるし、水、油性成分、各種溶媒などに溶解又は分散物として、さらに乳化製剤として適用することもできる。また、化粧品、例えば、頭髪用化粧品、サンスクリーン化粧品、抗老化用化粧品、保湿用化粧品、トイレタリー製品、医薬品製剤なども塗布することができる。
毛髪試料に塗布し、酸化処理によるダメージ抑制作用を評価するための化粧品及び/又は医薬品に利用できる有効成分としては、抗酸化剤、紫外線吸収剤・散乱剤などが挙げられる。
【実施例0016】
酸化処理として、紫外線照射によるカルボニル化タンパク質の定量評価、及び有効成分による毛髪酸化ダメージ抑制評価を行った。
【0017】
実施例1.紫外線照射による毛髪の酸化ダメージ評価
1、 試験の概要
紫外線照射に対する、毛髪のカルボニル化タンパク質の増加を評価した。
【0018】
2、 実験方法
2.1、毛髪のUV照射
UV照射毛髪は、メタルハライドランプ式促進耐候性試験機(スガ試験機株式会社製)を用いて作製した。株式会社ビューラックスより購入した人毛黒髪に対して、波長295nm~450nm、強度0.2W/cm2の紫外線を、温度40℃/湿度40RH%の環境下で1~6時間(720~4320J/cm2)照射した。さらに、UV照射時の熱による影響を把握するため、アルミホイルにより毛髪を包んで、同じ試験機内に静置した遮蔽毛髪を作製した。
2.2、タンパク質抽出
UV照射毛髪に対して、5M尿素/2.6Mチオ尿素/250mMジチオスレイトール(pH 8.5)を含んだ溶液を50mg/mlの濃度になるように加え、50℃で24時間インキュベーションした後、溶液は遠心後、上清を毛髪タンパク質溶液とした。Bradford法(株式会社同仁化学研究所製)により、抽出液のタンパク質量を測定した。
2.3、ELISA
OxiSelect Protein Carbonyl ELISA Kit(Cell Biolab社製)を用いて、カルボニル化タンパク質を検出した。
Bradford法により算出したタンパク質量をもとに、100μg/mlのタンパク質を96穴プレートに滴下して、タンパク質を吸着した。さらに、DNPH誘導体化、一次抗体、二次抗体および基質の反応を実施した後、マイクロプレートリーダーにより吸光度(450nm)を測定した。タンパク質サンプル中のタンパク質カルボニル量は、既知の還元型/酸化型 BSA スタンダードカーブと比較することによって算出した。
【0019】
3、結果
結果を
図1に示した。各UV照射条件で処理した毛髪からの抽出タンパク質溶液に含まれるカルボニル化量を測定したところ、照射時間に伴う有意なカルボニル化量の増加が認められた。一方で、遮蔽毛髪においても、未処理毛髪に比べて、カルボニル化量が増加していた。
つまり、UV照射中の熱の影響により酸化が起きていることが示唆された。熱による影響を受けている一方で、各処理時間の照射毛髪のカルボニル化量は、遮蔽毛髪と比較して有意に増加していることから、本発明の評価方法を用いることで、UV照射によるカルボニル化量の増加を検出することが可能である。
【0020】
実施例2.有効成分による毛髪の酸化ダメージ抑制評価
1、試験の概要
毛髪の酸化ダメージに対する、有効成分の抑制作用を評価した。
【0021】
2、実験方法
2.1、有効成分を用いた毛髪のプレトリートメント処理
人毛黒髪を洗浄、及び乾燥後、下記2成分の試料に15分間浸漬し、引き上げ乾燥させた。
試料1.グリシン亜鉛(3%:日光ケミカルズ社製)
試料2.NIKKOL ニコファインUV(15%:日光ケミカルズ社製)
2.2、毛髪のUV照射
UV照射毛髪は、UVB Broadbandroadband TL lamp(Philips社製)を用いて作製した。プレトリートメント処理した人毛黒髪に対して、波長290~315nm、強度360μW/cm2の紫外線を、室温下で10時間(12.96J/cm2)照射した。さらに、UV照射時の熱による影響を把握するため、アルミホイルにより毛髪を包んで、同じ試験機内に静置した遮蔽毛髪を作製した。
2.3、タンパク質抽出
UV照射毛髪に対して、5M尿素/2.6Mチオ尿素/250mMジチオスレイトール (pH 8.5)を含んだ溶液を50mg/mlの濃度になるように加え、50℃で24時間インキュベーションした後、溶液は遠心後、上清を毛髪タンパク質溶液とした。Bradford法(株式会社同仁化学研究所製)により、抽出液のタンパク質量を測定した。
2.4、ELISA
OxiSelect Protein Carbonyl ELISA Kit(Cell Biolab社製)を用いて、カルボニル化タンパク質を検出した。
Bradford法により算出したタンパク質量をもとに、100μg/mlのタンパク質を96穴プレートに滴下して、タンパク質を吸着した。さらに、DNPH誘導体化、一次抗体、二次抗体および基質の反応を実施した後、マイクロプレートリーダーにより吸光度(450nm)を測定した。タンパク質サンプル中のタンパク質カルボニル量は、既知の還元型/酸化型 BSA スタンダードカーブと比較することによって算出した。
【0022】
3、結果
結果を
図2に示した。UV照射処理した毛髪からの抽出タンパク質溶液に含まれるカルボニル化量を測定したところ、12.96J/cm
2のUV照射により、カルボニル化タンパク質が有意に増加していた。真夏の正午付近に約1時間、日光を浴びた積算光量が20J/cm
2とされているため、本評価方法により、日常レベルの紫外線照射による軽微なカルボニル化タンパク質量の変化を検出することが可能である。
さらに、試料1:グリシン亜鉛及び、試料2:ニコファインUVを用いたプレトリートメント処理を施した毛髪は、UV照射毛髪と比較して、カルボニル化タンパク質量が減少していた。本発明の方法を用いることで、有効成分の毛髪に対する酸化ダメージ抑制作用を評価することが可能である。
本発明の評価方法を用いることで、毛髪の酸化ダメージの指標になるカルボニル化タンパク質量を平均的かつ高感度に検出することが可能になる。紫外線などの日常的な毛髪ダメージを予測することが可能であると共に、これらのダメージ要因に対する抑制成分の評価が可能であることから、これらを有効成分とした化粧品あるいは医薬品を提供することが可能になる。