(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106591
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】スリ板組体整備システム
(51)【国際特許分類】
B60L 5/26 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
B60L5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010939
(22)【出願日】2023-01-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年12月13日に、JR九州エンジニアリング株式会社が、自社の新幹線熊本車両事業所での竣工式にて、スリ板組体整備システムについて公開した。 令和4年12月13日に、JR九州エンジニアリング株式会社が、自社の新幹線熊本車両事業所での竣工式にて添付資料1に記載の報道機関各社から取材を受け、スリ板組体整備システムについて公開した。 令和4年12月13日に、JR九州エンジニアリング株式会社が、自社ホームページにて、スリ板組体整備システムについて公開した。 令和4年12月19日に、株式会社ケーメックが、同社ホームページにて、スリ板組体整備システムについて公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】507293505
【氏名又は名称】JR九州エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】田辺 努
(72)【発明者】
【氏名】山本 将也
(72)【発明者】
【氏名】千代森 充
(72)【発明者】
【氏名】原 順治
(72)【発明者】
【氏名】有井 悠介
【テーマコード(参考)】
5H105
【Fターム(参考)】
5H105AA12
5H105BB01
5H105CC12
5H105DD04
5H105DD14
5H105EE03
5H105EE13
(57)【要約】
【課題】作業者の作業負担を軽減することのできるスリ板組体の整備システムを提供する。
【解決手段】パンタグラフの集電舟を構成するスリ板組体の整備システムであって、前記スリ板組体の整備を行うロボットと、同ロボットの制御部と、前記ロボットの可動範囲を包含する立入制限区域と、前記ロボットの可動範囲と重畳させて前記立入制限区域の辺縁に沿って配設した解体・組立部と、を備え、前記制御部は、前記ロボットにより前記解体・組立部に配された整備前のスリ板組体からスリ板の固定ボルトを螺脱させ、ベース部材から古いスリ板を取り外し可能な状態とする解体実行手段と、所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置してなる前記解体・組立部に配された仮組体に対し前記ロボットにより固定ボルトを螺入させて前記新たなスリ板が固定された締結体を構築する組立実行手段と、を備えることとした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンタグラフの集電舟を構成するスリ板組体の整備システムであって、
前記スリ板組体の整備を行うロボットと、
同ロボットの制御部と、
前記ロボットの可動範囲を包含する立入制限区域と、
前記ロボットの可動範囲と重畳させて前記立入制限区域の辺縁に沿って配設した解体・組立部と、を備え、
前記制御部は、
前記ロボットにより前記解体・組立部に配された整備前のスリ板組体からスリ板の固定ボルトを螺脱させ、ベース部材から古いスリ板を取り外し可能な状態とする解体実行手段と、
所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置してなる前記解体・組立部に配された仮組体に対し前記ロボットにより固定ボルトを螺入させて前記新たなスリ板が固定された締結体を構築する組立実行手段と、
を備えることを特徴とするスリ板組体整備システム。
【請求項2】
前記組立実行手段は、
前記固定ボルトを螺脱方向に回転させながら挿通孔に挿入させて前記新たなスリ板の締結孔の孔縁に同軸状に固定ボルトの先端を当接させる逆回転当接実行手段と、
先端が孔縁に当接した状態の固定ボルトを螺合方向に回転させながら第1のトルクに至るまで前記スリ板に螺入する正回転螺入実行手段と、
前記第1のトルクに達した固定ボルトを螺脱方向に所定角度回転させて前記スリ板の位置の微調整が可能な状態の半固定体とする逆回転ゆるめ実行手段と、
前記半固定体のスリ板の位置の微調整が行われる間、ロボットを待機させる微調整待機実行手段と、
前記微調整が施された半固定体に対し、前記第1のトルクよりも大きい第2のトルクに至るまで前記固定ボルトを螺合方向に回転させて締結体を構築する締結実行手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のスリ板組体整備システム。
【請求項3】
前記解体・組立部から前記ロボットを挟んだ対向位置となる前記ロボットの可動範囲内に配設した研磨部を更に備え、
前記制御部は、前記研磨部に配された前記締結体の所定部位に対し前記ロボットにより研磨を施して整備済のスリ板組体とする研磨実行手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスリ板組体整備システム。
【請求項4】
前記立入制限区域の少なくとも一部を覆うトンネル状の集塵ブースを有する集塵装置を備え、
前記研磨部を前記集塵ブース内に配置したことを特徴とする請求項3に記載のスリ板組体整備システム。
【請求項5】
前記立入制限区域の辺縁のうち、前記解体・組立部が沿設された辺縁と前記研磨部が沿設された辺縁との間の辺縁であって前記ロボットの可動範囲と重畳する位置には、複数枚の前記締結体及び/又は前記整備済のスリ板組体を収容可能な架台部が沿設されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のスリ板組体整備システム。
【請求項6】
前記解体・組立部に配されているベース部材から取り外し可能な状態となった古いスリ板を取り外す作業及び/又は前記解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業を行う領域を、前記解体・組立部が沿設された立入制限区域の辺縁の外側に沿設したことを特徴とする請求項1~5いずれか1項に記載のスリ板組体整備システム。
【請求項7】
前記解体・組立部に配されているベース部材から取り外し可能な状態となった古いスリ板を取り外す作業、前記解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業及び/又は前記締結体を前記架台部に配置する作業を行う領域を、前記立入制限区域の辺縁のうち前記解体・組立部が沿設された辺縁から前記架台部が沿設された辺縁にかけて、前記立入制限区域の外側に沿設したことを特徴とする請求項5に記載のスリ板組体整備システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリ板組体整備システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力を駆動エネルギーとする軌道車両では、架空電車線方式の場合は軌道上に架設されたトロリ線から受電するため、車両の屋根上に集電装置が備えられている。
【0003】
なかでもパンタグラフは他の集電装置に比して高速走行にも対応可能であり、現在の鉄道車両において広く用いられている。
【0004】
パンタグラフは、トロリ線との接点を構成する集電舟や、トロリ線に対する集電舟の接離等を行う支持部を備えており、走行中の安定的な受電を実現している。
【0005】
ところで、集電舟は車両の走行中は常にトロリ線と接触しており、また、メンテナンスの容易性を勘案してトロリ線に比して摩耗しやすいように設計されているため、定期的な整備が重要である。
【0006】
特に、スリ板は集電舟の中でもトロリ線と直接接触する部位であり、整備の際は集電舟を分解し、複数枚のスリ板を一体的に纏めたスリ板組体を得て、更にこのスリ板組体を分解して摩耗したスリ板を新たなスリ板に交換する作業が行われる。
【0007】
すなわち、この整備作業では、ボルト取り外しによるスリ板組体の解体や、ボルト締結によるスリ板組体の再組立、グラインダーによるスリ板の研磨などの作業が行われるのであるが、いずれも作業者が工具等を用いて手作業で行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、専ら手作業で行われるこれまでのスリ板組体の整備は、幾つかの問題が存在している。
【0010】
例えばスリ板組体を分解するためには複数のボルトの取り外しが必要であり、整備対象となるスリ板組体が多数ある場合、人力での作業に相当の労力を要していた。
【0011】
また、新たなスリ板を用いてスリ板組体を再組立する場合も同様に複数のボルトの締結が必要であり、配置したスリ板の微妙な位置関係や規定のトルクでの締結など、更に管理すべき事項も増えることから、作業者の技量の違いにより整備後のスリ板組体の品質に差が生じる可能性が否定できない状況であった。
【0012】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、作業者の作業負担を軽減することのできるスリ板組体の整備システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るスリ板組体の整備システムでは、(1)パンタグラフの集電舟を構成するスリ板組体の整備システムであって、前記スリ板組体の整備を行うロボットと、同ロボットの制御部と、前記ロボットの可動範囲を包含する立入制限区域と、前記ロボットの可動範囲と重畳させて前記立入制限区域の辺縁に沿って配設した解体・組立部と、を備え、前記制御部は、前記ロボットにより前記解体・組立部に配された整備前のスリ板組体からスリ板の固定ボルトを螺脱させ、ベース部材から古いスリ板を取り外し可能な状態とする解体実行手段と、所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置してなる前記解体・組立部に配された仮組体に対し前記ロボットにより固定ボルトを螺入させて前記新たなスリ板が固定された締結体を構築する組立実行手段と、を備えることとした。
【0014】
また、本発明に係るスリ板組体の整備システムでは、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記組立実行手段は、前記固定ボルトを螺脱方向に回転させながら挿通孔に挿入させて前記新たなスリ板の締結孔の孔縁に同軸状に固定ボルトの先端を当接させる逆回転当接実行手段と、先端が孔縁に当接した状態の固定ボルトを螺合方向に回転させながら第1のトルクに至るまで前記スリ板に螺入する正回転螺入実行手段と、前記第1のトルクに達した固定ボルトを螺脱方向に所定角度回転させて前記スリ板の位置の微調整が可能な状態の半固定体とする逆回転ゆるめ実行手段と、前記半固定体のスリ板の位置の微調整が行われる間、ロボットを待機させる微調整待機実行手段と、前記微調整が施された半固定体に対し、前記第1のトルクよりも大きい第2のトルクに至るまで前記固定ボルトを螺合方向に回転させて締結体を構築する締結実行手段と、を備えること。
(3)前記解体・組立部から前記ロボットを挟んだ対向位置となる前記ロボットの可動範囲内に配設した研磨部を更に備え、前記制御部は、前記研磨部に配された前記締結体の所定部位に対し前記ロボットにより研磨を施して整備済のスリ板組体とする研磨実行手段を更に備えること。
(4)前記立入制限区域の少なくとも一部を覆うトンネル状の集塵ブースを有する集塵装置を備え、前記研磨部を前記集塵ブース内に配置したこと。
(5)前記立入制限区域の辺縁のうち、前記解体・組立部が沿設された辺縁と前記研磨部が沿設された辺縁との間の辺縁であって前記ロボットの可動範囲と重畳する位置には、複数枚の前記締結体及び/又は前記整備済のスリ板組体を収容可能な架台部が沿設されていること。
(6)前記解体・組立部に配されているベース部材から取り外し可能な状態となった古いスリ板を取り外す作業及び/又は前記解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業を行う領域を、前記解体・組立部が沿設された立入制限区域の辺縁の外側に沿設したこと。
(7)前記解体・組立部に配されているベース部材から取り外し可能な状態となった古いスリ板を取り外す作業、前記解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業及び/又は前記締結体を前記架台部に配置する作業を行う領域を、前記立入制限区域の辺縁のうち前記解体・組立部が沿設された辺縁から前記架台部が沿設された辺縁にかけて、前記立入制限区域の外側に沿設したこと。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスリ板組体の整備システムによれば、パンタグラフの集電舟を構成するスリ板組体の整備システムであって、前記スリ板組体の整備を行うロボットと、同ロボットの制御部と、前記ロボットの可動範囲を包含する立入制限区域と、前記ロボットの可動範囲と重畳させて前記立入制限区域の辺縁に沿って配設した解体・組立部と、を備え、前記制御部は、前記ロボットにより前記解体・組立部に配された整備前のスリ板組体からスリ板の固定ボルトを螺脱させ、ベース部材から古いスリ板を取り外し可能な状態とする解体実行手段と、所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置してなる前記解体・組立部に配された仮組体に対し前記ロボットにより固定ボルトを螺入させて前記新たなスリ板が固定された締結体を構築する組立実行手段と、を備えることとしたため、作業者の作業負担を軽減することのできるスリ板組体の整備システムを提供することができる。
【0016】
また、前記組立実行手段は、前記固定ボルトを螺脱方向に回転させながら挿通孔に挿入させて前記新たなスリ板の締結孔の孔縁に同軸状に固定ボルトの先端を当接させる逆回転当接実行手段と、先端が孔縁に当接した状態の固定ボルトを螺合方向に回転させながら第1のトルクに至るまで前記スリ板に螺入する正回転螺入実行手段と、前記第1のトルクに達した固定ボルトを螺脱方向に所定角度回転させて前記スリ板の位置の微調整が可能な状態の半固定体とする逆回転ゆるめ実行手段と、前記半固定体のスリ板の位置の微調整が行われる間、ロボットを待機させる微調整待機実行手段と、前記微調整が施された半固定体に対し、前記第1のトルクよりも大きい第2のトルクに至るまで前記固定ボルトを螺合方向に回転させて締結体を構築する締結実行手段と、を備えることとすれば、適切な螺合状態を実現すると共に、締結過程の中途にてスリ板を正しい位置に調整し配置することができる。
【0017】
また、前記解体・組立部から前記ロボットを挟んだ対向位置となる前記ロボットの可動範囲と重畳させて配設した研磨部を更に備え、前記制御部は、前記研磨部に配された前記締結体の所定部位に対し前記ロボットにより研磨を施して整備済のスリ板組体とする研磨実行手段を更に備えることとすれば、粉塵の発生や危険を伴う研磨作業をロボットに実行させることができ、作業者が負うべきリスクを低減することができる。
【0018】
また、前記立入制限区域の少なくとも一部を覆うトンネル状の集塵ブースを有する集塵装置を備え、前記研磨部を前記集塵ブース内に配置すれば、研磨作業にて生ずる粉塵の周辺への影響を抑制することができる。
【0019】
また、前記立入制限区域の辺縁のうち、前記解体・組立部が沿設された辺縁と前記研磨部が沿設された辺縁との間の辺縁であって前記ロボットの可動範囲と重畳する位置には、複数枚の前記締結体及び/又は前記整備済のスリ板組体を収容可能な架台部が沿設されていることとすれば、締結体を架台部に複数枚ストックしておき順次研磨作業に供することができるのは勿論のこと、研磨作業を終えた整備済のスリ板組体についても同様に一時的にストックしておくことができるため、研磨部にて整備済のスリ板組体が仕上がる毎に、次に研磨作業に供する新たな締結体を研磨部に配するというような人手作業を要することなく、複数枚の締結体の研磨作業を一気に行わせることができる。
【0020】
また、前記解体・組立部に配されているベース部材から取り外し可能な状態となった古いスリ板を取り外す作業及び/又は前記解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業を行う領域を、前記解体・組立部が沿設された立入制限区域の辺縁の外側に沿設すれば、スリ板の取り外しや、新たなスリ板の配置など、柔軟な目視判断が必要な作業について人による関与を可能にすることができ、人と協働でスリ板組体の整備を行うことができる。
【0021】
また、前記解体・組立部に配されているベース部材から取り外し可能な状態となった古いスリ板を取り外す作業、前記解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業及び/又は前記締結体を前記架台部に配置する作業を行う領域を、前記立入制限区域の辺縁のうち前記解体・組立部が沿設された辺縁から前記架台部が沿設された辺縁にかけて、前記立入制限区域の外側に沿設すれば、スリ板取り外しや、新たなスリ板の配置など、柔軟な目視判断が必要な作業であったり、解体・組立部での処理によって構築された締結体を架台部へ移動させる作業について人による関与を可能にすることができ、人と協働でスリ板組体の整備を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】スリ板組体を構成する各パーツを示した説明図である。
【
図4】スリ板組体整備システムの構成を示した平面図である。
【
図8】解体・組立部及びパーツフィーダ部の構成を示す説明図である。
【
図9】パーツフィーダ部の構成を示す説明図である。
【
図10】スリ板組体整備システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図11】制御部にて実行される各種処理を示したフローである。
【
図12】制御部にて実行される各種処理を示したフローである。
【
図13】制御部にて実行される各種処理を示したフローである。
【
図14】制御部にて実行される各種処理を示したフローである。
【
図15】制御部にて実行される各種処理を示したフローである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明はパンタグラフの集電舟を構成するスリ板組体の整備システムであり、作業者の作業負担を軽減することのできるスリ板組体の整備システムを提供するものである。
【0024】
本実施形態に係るスリ板組体整備システム(以下、本整備システムともいう。)にて整備可能なスリ板組体は特に限定されるものではなく、様々なパンタグラフのもの、例えば新幹線のものであったり、在来線にて使用されているものなどの集電舟を構成するスリ板組体を供することができる。
【0025】
また、本整備システムによる整備によって交換されるスリ板の種類も特に限定されるものではなく、鉄系焼結合金や銅系焼結合金、カーボン系のものなどあらゆる素材のスリ板を対象とすることができる。
【0026】
ここで、本整備システムの理解に供すべくパンタグラフやスリ板組体の構成について簡単に説明する。
【0027】
図1はパンタグラフの外観を示す説明図であり、一例として高速鉄道車両(新幹線車両)で使用されるシングルアーム式のパンタグラフ10を示している。パンタグラフ10は、同パンタグラフ10の基部として車両の上部に取り付けられる本体部11と、架線に接触させる集電舟12と、本体部11から斜め上方に伸延する揺動可能なロッド13aを備え架線に対して集電舟12を接離可能に支持しつつ集電舟12で得た電力を本体部11へ送給する支持部13とで構成しており、車両の走行中など電力を要する際は支持部13を立ち上げて集電舟12を架線に接触させ受電する一方、車両を給電設備から切り離す場合には支持部13を倒伏させて集電舟12を架線から離隔するよう構成している。
【0028】
また集電舟12は、支持部13の先端に水平に取り付けられた基台部14と、基台部14の左右両端より側方へ突出し斜め下方へ屈曲するホーン15と、基台部14上にに配設され架線と接するスリ板組体16とで構成している。本整備システムは、このスリ板組体16のメンテナンスを行うためのシステムである。
【0029】
図2は集電舟12より取り外されたスリ板組体16の外観を示す説明図であり、
図3はスリ板組体16を構成する各パーツを示した説明図である。
【0030】
図2及び
図3に示すように、スリ板組体16はスリ板取付板17と、スペーサー18と、スリ板19とを重畳させた状態でボルト20により締結し構成している。
【0031】
スリ板取付板17は、整列配置したスペーサー18やスリ板19を一体的に保持するための板体であり、スリ板組体16の基台部14に対する取付部としての役割を有する。
【0032】
またスリ板取付板17にはスペーサー18に形成された後述の挿通孔22bやスリ板19に形成された後述の雌ネジ孔22cと対応する位置に挿通孔22aが穿設されている。この挿通孔22aはボルト20を挿通させてスペーサー18やスリ板19を締結させるための孔であるが、組立の際にスペーサー18やスリ板19の位置の微調整を可能とすべくスリ板取付板17の長手方向(左右方向)にやや伸延する長穴とし、また短手方向(幅方向)にも径に若干の余裕が設けられていてボルト20とは螺合しない孔としている。なお、以下の説明において、挿通孔22aや挿通孔22b、雌ネジ孔22cを総称してボルト穴ともいう。
【0033】
スペーサー18は、スリ板取付板17とスリ板19との間に介設される平行四辺形の板状部材であり、左右略中央に配される中央スペーサー18aと、同中央スペーサー18aの左右にそれぞれ配置される左右スペーサー18bとで構成している。左右スペーサーは、中央スペーサーに比して厚く形成されており、左右スペーサー上に配される後述の左右主スリ板19bの厚みを中央主スリ板19aに比して薄くしつつも、中央主スリ板19aや左右主スリ板19bの表面が略面一となるようにしている。
【0034】
また各スペーサー18にはそれぞれ挿通孔22bが設けられており、ボルト20を挿通可能としている。なお、挿通孔22bもまた、組立の際にスペーサー18やスリ板19の位置の微調整を可能とすべく、ボルト20の径よりも大径としボルト20とは螺合しない孔としている。
【0035】
スリ板19は架線と摺接する部材であり、中央主スリ板19aと、左右主スリ板19bと、補助スリ板19cとで構成している。
【0036】
中央主スリ板19aはスリ板組体16の左右方向略中央に配される平行四辺形状のスリ板であり、スリ板取付板17上に配された中央スペーサー18aの上に、幅方向(短手方向)に二分して2枚配置される。
【0037】
また中央主スリ板19aは、車両が走行する際に架線との接触が最も多く行われるスリ板であって、3種のスリ板の中では摺動摩擦等による摩耗が最も激しいスリ板である。従って、中央主スリ板19aは左右主スリ板19bに比してより肉厚としており、多少摩耗しても強度が低下しないよう形成されている。
【0038】
左右主スリ板19bは、中央主スリ板の左右両側にそれぞれ近接して配置されるスリ板であって、左右スペーサー18bの上に幅方向(短手方向)に二分して左右それぞれ2枚ずつ配置される。
【0039】
左右主スリ板19bは中央主スリ板19aに次いで架線との接触が多いスリ板である。スリ板組体16の整備において中央主スリ板19aや左右主スリ板19bは摩耗量にかかわらず定期的に交換される場合が多いのであるが、中央主スリ板19aと比較すると摩耗量は比較的少ないため、中央主スリ板19aと同様に肉厚に形成した場合、まだ大して摩耗してないにもかかわらず廃棄することとなり経済的とは言い難い。そこで前述の如く左右主スリ板19bは中央主スリ板19aよりも肉薄として経済性を向上しつつも、スペーサーの厚みを変えて表面が略面一となるようにしている。
【0040】
補助スリ板19cはスリ板組体16の左右両端に配される補助的なスリ板である。補助スリ板19cは摩耗や損傷の状態などに応じて再度使用されたり、交換が行われる。
【0041】
また各スリ板19にはそれぞれ雌ネジ孔22cが設けられており、ボルト20と螺合可能としている。従って、スリ板組体16の表裏面のうちスリ板取付板17が配された面(裏面ともいう。)からスリ板19が配された面(表面ともいう。)に向けて挿通孔22aや挿通孔22bを挿通させたボルト20により、スリ板取付板17及びスペーサー18を通じてスリ板19と一体的に締結されスリ板組体16が構成されるようにしている。なお、以下の説明において、ボルト20で締結する前の状態のスリ板組体16のうちスリ板19以外の部分、例えば本実施形態であればスリ板取付板17上にスペーサー18が配された状態のものを説明の便宜上「ベース部材21」ともいう。
【0042】
本整備システムは上述の如きスリ板組体の整備を行うためのシステムであり、スリ板組体の解体や組立、研磨の作業に関しその作業を実施したり補助するものである。
【0043】
本整備システムは、その具体的な構成として、スリ板組体の整備を行うロボットと、同ロボットの制御部と、前記ロボットの可動範囲を包含する立入制限区域と、前記ロボットの可動範囲と重畳させて前記立入制限区域の辺縁に沿って配設した解体・組立部と、を備えている。
【0044】
ここでロボットは、同ロボットの制御部によって制御可能なロボットであって後述する各作業の実施や補助が可能であれば特に限定されるものではなく、種々のロボットを採用することができる。本実施形態ではアーム型の人協働ロボットを採用している。
【0045】
制御部はロボットの動作を制御可能な構成を備えたものであれば良く、CPUやROM、RAM等により構成されたコンピュータが一般的には採用される。
【0046】
立入制限区域は、作業者がロボットと接触することを避けるために作業者の立入を制限すべく規定された区域であり、その区域には少なくともロボットの可動範囲の全体が包含される。なお、ここでロボットの可動範囲とは、当該ロボットの構造上動かすことができる最大範囲を意味するのではなく、制御部による制御下で実現される動きの範囲であって、例えばロボットを動かすプログラムによって規定されている全ての動作の軌跡の和の外縁と解することができる。
【0047】
解体・組立部は、スリ板組体16の解体や組立を行うための部位であり、より具体的には使用されて整備が必要となった状態のスリ板組体16(以下、要整備スリ板組体ともいう。)からロボットによってボルト20を螺脱させ、ベース部材21から古いスリ板を取り外し可能な状態の整備対象物(以下、分離可能体ともいう。)としたり、ベース部材21に新たなスリ板19を配置した状態の整備対象物である仮組体に対しロボットによって固定ボルトを螺入させて新たなスリ板が固定された状態の整備対象物である締結体の構築が行われる。また後述するが、人(作業者)が作業する作業台としての役割も有している。
【0048】
そして、本整備システムの更なる特徴として、前述した制御部は、解体作業時の動作を実現する解体実行手段や、締結体構築作業を実現する組立実行手段を備えている。
【0049】
すなわち、解体実行手段は、解体・組立部に配された要整備スリ板組体からロボットにより固定ボルトを螺脱させ分離可能体とする作業(解体作業)を実現する手段であり、組立実行手段は、ロボットにより解体・組立部に配された仮組体に固定ボルトを螺入させて締結体を構築する作業(締結体構築作業)を実現する手段である。これら各実行手段は、例えばロボットの制御プログラムが制御部にて実行されることで実現しても良い。
【0050】
そして、本整備システムはこのような構成を備えることにより、複数のボルトの取り外し作業や、規定のトルクでの締結作業の如き煩雑な作業に由来する作業者の作業負担を軽減可能なスリ板組体の整備システムを提供することができる。
【0051】
また、組立実行手段は、逆回転当接実行手段と、正回転螺入実行手段と、微調整待機実行手段と、締結実行手段とを備えるようにしても良い。
【0052】
ここで逆回転当接実行手段は、仮組体に対し固定ボルトを螺脱方向に回転させながら挿通孔に挿入させて新たなスリ板の締結孔の孔縁に同軸状に固定ボルトの先端を当接させる動作を実現するための手段である。この動作により重畳された複数のパーツのボルト穴、すなわち、スペーサー18の挿通孔22bやスリ板19の雌ネジ孔22cが、対応するスリ板取付板17の挿通孔22aと略同軸状に一致することとなり、ボルト20の円滑な螺入がより堅実化される。
【0053】
正回転螺入実行手段は、先端が孔縁に当接した状態の固定ボルトを螺合方向に回転させながら第1のトルクに至るまでスリ板の雌ネジ孔22cに螺入させる動作を実現するための手段である。
【0054】
ここで第1のトルクは特に限定されるものではないが、次に説明する逆回転ゆるめ実行手段の実行の際に要するトルクが過大とならない程度のトルクとするのが望ましい。一定の締め付け力を超えるような第1のトルクは過大であってスペーサーとスリ板の位置の微調整が行えなくなる。なお本整備システムでは、その一例として第1のトルクを1Nmとし、螺脱方向への回転角度は360度としている。
【0055】
このような正回転螺入実行手段が行われることで、引き続き行われる逆回転ゆるめ実行手段の適切な実行が堅実なものとなる。
【0056】
逆回転ゆるめ実行手段は、第1のトルクに達した固定ボルトを螺脱方向に所定角度回転させてスリ板の位置の微調整が可能な状態の整備対象物(以下、半固定体ともいう。)とする動作を実現するための手段である。
【0057】
ここで微調整が可能な状態とは、作業者が木槌やプラスチックハンマーなどで軽く叩くことにより、スペーサーやスリ板の位置を僅かに移動させる(数ミリ程度ずらす)ことができ、整列状態などを補正できるような状態を意味している。なお、作業者が上述のようにして半固定体に対し微調整を施す作業を微調整作業ともいう。
【0058】
そして、このような逆回転ゆるめ実行手段が実行されることで、次に微調整待機実行手段が実行された際に、作業者は微調整作業を行うことができる。
【0059】
すなわち、微調整待機実行手段は、半固定体のスリ板の位置の微調整が作業者によって行われる間、ロボットの待機動作を実現するための手段である。
【0060】
本整備システムでは、この微調整待機実行手段の実行により、人(作業者)による解体・組立部での微調整作業を許容して、ロボットと作業者との協働を実現し、整備品であるスリ板組体(以下、整備済スリ板組体ともいう。)の均一性と作業者が有している職人的な技術との融合による整備作業を実現している。
【0061】
締結実行手段は、微調整が施された半固定体に対し、前述した第1のトルクよりも大きい第2のトルクに至るまで固定ボルトを螺合方向に回転させて締結体を構築する動作を実現するための手段である。第2のトルクは、使用時(車両の走行時など)にスリ板組体の一体的な状態を安全に保つために十分なトルクであって特に限定されるものではないが、本実施形態では一例として12.7Nmとしている。
【0062】
すなわち、この締結実行手段が実行されることにより、スリ板取付板17とスペーサー18(ベース部材21)とスリ板19とがボルト20によって一体的に結合した締結体が構築される。なお、整備済スリ板組体は、研磨部を備える整備システムの場合は、この締結体に対し研磨作業を施したものであり、研磨部を備えない整備システムの場合は締結体自体が整備済スリ板組体となる。
【0063】
すなわち本整備システムは、先述の解体実行手段や組立実行手段を備える制御部と、これにより制御されるロボットと、立入制限区域と、解体・組立部とで構成し、要整備スリ板組体の解体作業や、半固定体の固定ボルトでの締結による締結体の構築作業を主に行ってこれを整備済スリ板組体として供給させるよう構成しても良いが、更に研磨部を配置し、ロボットに研磨作業を行わせるようにして、締結体に研磨作業を施したものを整備済スリ板組体として供給させるよう構成することもできる。
【0064】
具体的には、先述の解体・組立部からロボットを挟んだ対向位置となるロボットの可動範囲と重畳させて配設した研磨部を更に備え、制御部は、研磨部に配された締結体の所定部位に対しロボットにより研磨を施して整備済のスリ板組体とする研磨実行手段を更に備えることとしても良い。
【0065】
このような構成とすることで、粉塵の発生や危険を伴う研磨作業をロボットに実行させることができ、作業者が負うべきリスクを低減することができる。
【0066】
また研磨部は、解体・組立部からロボットを挟んだ対向位置となるロボットの可動範囲と重畳する位置であって、更に立入制限区域の辺縁に沿って配設しても良い。
【0067】
このような構成とすれば、研磨部の近くで安全な場所から作業者がロボットによる作業を容易に視認することが可能となる。
【0068】
また立入制限区域の辺縁に沿って配設した場合、研磨部に締結体を配置したり、研磨作業が施された整備済スリ板組体を回収する等の作業を人(作業者)が行えるようにすべく、それらの作業のための領域を、立入制限区域の辺縁のうち解体・組立部が沿設された辺縁から研磨部が沿設された辺縁にかけて、立入制限区域の外側に必要に応じて沿設することも可能である。なお、このような立入制限区域の外側に設けられた作業者が所定の作業を行うために立ち入る領域を人作業領域ともいう。上述の場合は、解体・組立部前に設定された解体・組立部人作業領域と、研磨部前に設定された研磨部人作業領域とを立入制限区域の辺縁の外側に沿って連続的とした領域(以下、解体・組立部-研磨部人作業領域ともいう。)が設けられている。
【0069】
このような構成とすれば、作業者による研磨部へのアクセス、すなわち締結体の配置や整備済スリ板組体の回収などの作業を許容して、ロボットと作業者との協働を実現することができる。
【0070】
また本整備システムでは、立入制限区域の少なくとも一部を覆うトンネル状の集塵ブースを有する集塵装置を備え、研磨部を集塵ブース内に配置すべく構成することもできる。
【0071】
このトンネル状の集塵ブースは、集塵装置の吸気口より略気密状に伸延させた大型のダクトの如き構成であり、集塵効果が及ぶ範囲を規定しつつ、効果的に集塵が行われるようにするものである。なお集塵ブースは、同集塵ブース内の略全体に集塵装置の吸気口に向かう気流が発生すれば良いから、前方開口以外の場所(例えばトンネル壁部など)における完全な気密性が求められるものではなく、例えば本整備システムの研磨部やロボット近傍までが収容できるくらいの大きさのビニルハウスの如きを採用し、一方の妻面に集塵装置の吸気口を配置し、他端の妻面は開放した構造に構成しても良い。
【0072】
このような構成を備えることとすれば、研磨作業にて生ずる粉塵の周辺への影響を抑制することができる。また特に、研磨部人作業領域と排他的にこの集塵ブースを設ければ、作業者に対する粉塵による害をできるだけ抑制することができる。
【0073】
また本整備システムでは、立入制限区域の辺縁のうち、解体・組立部が沿設された辺縁と研磨部が沿設された辺縁との間の辺縁には、複数枚の前記締結体及び/又は前記整備済のスリ板組体を収容可能な架台部を沿設しても良い。
【0074】
このような構成とすることにより、締結体を架台部に複数枚ストックしておき順次研磨作業に供することができるのは勿論のこと、研磨作業を終えた整備済のスリ板組体についても同様に一時的にストックしておくことができるため、研磨部にて整備済のスリ板組体が仕上がる毎に、次に研磨作業に供する新たな締結体を研磨部に配するというような人手作業を要することなく、複数枚の締結体の研磨作業を一気に行わせることができる。なお架台部は、研磨部近傍の人作業領域と排他的に設けても良いが、双方の構成を備えることを妨げるものでもない。
【0075】
また本整備システムでは、解体・組立部に配されている分離可能体に対する作業や、所定の処置が施されたベース部材21に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業を行う人作業領域を解体・組立部が沿設された立入制限区域の辺縁の外側に沿設しても良い。すなわち、このような解体・組立部人作業領域を設けても良い。
【0076】
ここで、解体・組立部に配されている分離可能体に対する作業の作業内容としては、例えば、ロボットの作業により生成された分離可能体を別の場所、例えばスリ板取付板やスペーサーの清掃や洗浄等を行うために本整備システムとは別に設けられた場所に移動させる作業であったり、ロボットの作業により生成された分離可能体から古いスリ板を取り去ってベース部材21の状態とする作業が挙げられる。
【0077】
また、所定の処置が施されたベース部材21に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業に関し、ベース部材21に施される所定の処置とは、例えば上述の如くスリ板取付板やスペーサーの清掃や洗浄、目視や器具等を用いた点検などが挙げられる。
【0078】
そして、このような解体・組立部人作業領域を設けることにより、人(作業者)による解体・組立部での分離可能体に対する作業や、仮組体を構築する作業、更には前述した微調整作業を許容して、ロボットと作業者との協働を実現し、整備済スリ板組体の均一性と作業者が有している職人的な技術との融合による整備作業を実現している。また、スリ板の取り外しや、新たなスリ板の配置など、柔軟な目視判断が必要な作業について人による関与を可能にすることができ、人と協働でスリ板組体の整備を行うことができる。
【0079】
また本整備システムでは、解体・組立部に配されている分離可能体に対する作業や、解体・組立部に配されている所定の処置が施されたベース部材21に新たなスリ板を配置して仮組体を構築する作業、締結体を架台部に配置する作業を行う人作業領域を、解体・組立部が沿設された辺縁から前記架台部が沿設された辺縁にかけて、前記立入制限区域の外側に沿設しても良い。すなわち、架台部が沿設された立入制限区域の辺縁の外側に架台部人作業領域を設定すると共に、解体・組立部人作業領域と架台部人作業領域とを立入制限区域の辺縁の外側に沿った連続的な領域(以下、解体・組立部-架台部人作業領域ともいう。)としても良い。
【0080】
このような解体・組立部-架台部人作業領域を設けることにより、人(作業者)によるスリ板取り外しや、新たなスリ板の配置など、柔軟な目視判断が必要な作業であったり、解体・組立部での処理によって構築された締結体を架台部へ移動させる作業について人による関与を可能にすることができ、人と協働でスリ板組体の整備を行うことができる。
【0081】
上述のように、本整備システムによれば、作業者の作業負担を軽減することのできるスリ板組体の整備システムを提供することができる。
【0082】
なお先述したように、本整備システムは要整備スリ板組体の整備を目的とするシステムであるが、必ずしも締結体に対し研磨作業を施した状態のものを最終的な生産物である整備済スリ板組体として生成するシステムである必要はない。
【0083】
すなわち、これまで人手で行われていた要整備スリ板組体の整備の一部作業、例えば固定ボルトを螺脱させ分離可能体とする作業や、仮組体に固定ボルトを螺入させて締結体を構築する作業がロボットによって行われることでスリ板組体の整備に要する作業者の作業負担、例えば複数のボルトの取り外し作業や、規定のトルクでの締結作業の如き煩雑な作業などの負担を軽減することができれば良く、最終的な生産物の整備済スリ板組体として締結体を生産するものであっても良いのは勿論である。この場合の本整備システムは、スリ板組体の一連の整備作業のうち分離可能体の生成や締結体の生成を行って整備作業を実施するスリ板組体の整備システムと解すべきである。
【0084】
以下、本実施形態に係るスリ板組体の整備システムに関し、図面を参照しながら更に説明する。なお、ここで説明するスリ板組体整備システムは研磨部を備えており、締結体に対し研磨作業を施した状態のものを整備済スリ板組体として供給する。また、以下の説明において、整備済スリ板組体や整備対象物をその状態にかかわらずワークWと称する場合がある。
【0085】
図4は、本実施形態に係るスリ板組体整備システムA(以下、整備システムAともいう。)の構成を平面視にて示した説明図である。
図4に示すように整備システムAは、作業部30と、制御部31と、パーツフィーダ部32と、操作表示部33と、集塵部34とで構成している。
【0086】
作業部30は整備作業が実施される部位であり、立入制限区域35と人作業領域36とで構成している。
【0087】
立入制限区域35は、
図4にてドットの網掛けで示す部位であってロボットによる作業が行われる領域の全部が含まれるよう設定された区域であり、ロボット40と、解体・組立部41と、架台部42と、研磨部43とが配設されている。
【0088】
ロボット40はアーム型の人協働ロボットであり、制御部31の制御下で破線で示す可動範囲48内にて各種作業を実行可能としている。
【0089】
またロボット40は、アーム40aの先端の各種作業ヘッドを付け替えることで、複数の機能を発揮することが可能である。
【0090】
具体的には、アーム40aの先端に取付可能な作業ヘッドとして、立入制限区域35内のロボット40の近傍位置に、高トルクナットランナーヘッド44と、低トルクナットランナーヘッド45と、ハンドヘッド46と、グラインダーヘッド47とが配置されている。
【0091】
高トルクナットランナーヘッド44は、スリ板取付板17やスペーサー18、スリ板19を一体的に締結するボルト20の取り外しや締付を相対的に高トルクにて行うためのナットランナーを備えた作業ヘッドである。
【0092】
この高トルクナットランナーヘッド44は、要整備スリ板組体からボルト20の取り外しを行う際や、半固定体に取り付けられているボルト20の本締めを行う際に使用されるものであり、本実施形態では最大20Nmのトルクで螺脱や螺合の作業を行うことができる。
【0093】
低トルクナットランナーヘッド45は、相対的に低トルクでボルト20の締付を行うためのナットランナーを備えた作業ヘッドである。仮組体に対しボルト20を螺入させて締結体を構築する際に使用されるものであり、本実施形態では最大5Nmのトルクで螺合作業を行うことができる。
【0094】
ハンドヘッド46は、ワークである整備対象物を下から保持しつつ目的の場所へ移動させるための作業ヘッドである。本実施形態においてハンドヘッド46は、架台部42に配置された締結体を研磨部43へ移動させる際や、研磨部43にて研磨を終えた整備済スリ板組体を架台部42へ移動させる際に使用される。なお、本実施形態に係る整備システムAの機能としては実装していないが、ハンドヘッド46は、例えば架台部42に載置された要整備スリ板組体を解体・組立部41へ移動させる際や、解体・組立部41にて作業を終えた締結体を架台部42に移動させる際に使用することも可能である。
【0095】
グラインダーヘッド47は、研磨部43にて締結体に対し研磨作業を行うためのグラインダーを備えた作業ヘッドである。
【0096】
解体・組立部41は、ロボット40や作業者により、整備対象物に対して各種作業が行われる人とロボットの共通作業スペースとして機能する部位である。
【0097】
具体的には、要整備スリ板組体からロボットによってボルト20を螺脱させ分離可能体にする作業(解体作業)や、分離可能体を作業者により解体・組立部41から別の場所へ移動させる作業(分離可能体撤去作業)、解体・組立部41にベース部材21を配置しスリ板19を所定の位置に配置して仮組体を構築する作業(仮組体構築作業)又は別の場所にて構築した仮組体を解体・組立部41に配置する作業(仮組体配置作業)、仮組体に対しロボットによって固定ボルトを螺入させて締結体を構築する作業(締結体構築作業)、半固定体に対し作業者が微調整を行う作業(微調整作業)などが行われる。
【0098】
本実施形態において解体・組立部41は、可動範囲48と重畳する位置にて立入制限区域35の辺縁に沿って配設している。
【0099】
また、解体・組立部41には
図4及び
図5に示すように、解体・組立台41aが配設されている。なお本実施形態では、解体・組立台41aの長手方向略中央部にハンドヘッド46との幅よりも広幅で平面視において略凹字状の切欠部41fを形成しており、ワークWが切欠部41f上に架空配置されるよう構成しているが、これは必要に応じてロボット40によりワークWの移動ができるよう設けられたものである。
【0100】
またこの解体・組立台41aには、
図6に示すように整備対象物のボルト挿通孔やボルト穴と対応する位置に、ナットランナーのソケットが挿通可能な程度の径を有するソケット穴41eが設けられており、この穴を介して解体・組立台41aの下面側からナットランナーを接近させ、解体・組立台41aの上に配置した整備対象物のボルト20の取り外しや締付が行われる。
【0101】
また、
図5及び
図6に示すように、解体・組立部41には解体作業や仮組体構築作業、締結体構築作業を行う際に整備対象物の上に配置する抑えカバー41bが備品として備えられており、解体・組立台41aにはクランプ41cが配設されている。
【0102】
この抑えカバー41bとクランプ41cは、高トルクナットランナーヘッド44や低トルクナットランナーヘッド45のソケットがソケット穴を介して整備対象物のボルト20と接触した際の押し上げの力に抗するための部材である。
【0103】
すなわち、解体作業にあたり作業者が解体・組立台41aに要整備スリ板組体を配置する作業(要整備スリ板組体配置作業)を行った際や、仮組体構築作業又は仮組体配置作業を終えて半固定体を構築する際、微調整作業を終えて締結体構築作業を行う際に、解体・組立台41aの上の整備対象物に抑えカバー41bを配置し、その上からクランプ41cにて押圧することで、ロボット40による押し上げの力によって解体・組立台41aから整備対象物が浮き上がることを防止している。
【0104】
なお、本実施形態では、解体作業の際に使用する抑えカバー41bと、その他の構築作業の際に使用する抑えカバー41bは異なるものを使用している。図示は省略するが、解体作業の際に使用する抑えカバー41bは、ロボット40による螺脱の際の整備対象物の動きを殆ど許容しないものを使用しているが、構築作業の際に使用する抑えカバー41bは前述したねじ穴の同軸位置への移動を可能とすべく、水平方向に数mm程度(最大10mm程度)の動きを許容する遊び構造が設けられている。
【0105】
また解体・組立台41aの下にはボルト廃棄ボックス41dが配置されており、解体作業にてロボット40が取り外したボルト20は、このボルト廃棄ボックス41dに集められる。
【0106】
なお、
図4における解体・組立部41の近傍は要整備スリ板組体の解体作業が行われている状態を示しており、アーム40aの先端には低トルクナットランナーヘッド45が装着され、解体・組立台41aの裏面からナットランナーによってボルト20の取り外しが行われている。
【0107】
架台部42は、ロボット40や作業者による整備対象物の配置のための共通作業スペースとして機能する部位である。
【0108】
具体的には、解体・組立部41にて構築された締結体を作業者が架台部42に移動させる作業(締結体移動作業)の際の移動先としてや、研磨部43で研磨を終えた整備済スリ板組体をロボットが架台部42に移動させる作業(整備済スリ板組体移動作業)の際の移動先として用いられる。
【0109】
本実施形態において架台部42は、解体・組立部41が沿設された辺縁と研磨部43が沿設された辺縁との間の辺縁であって、ロボット40の可動範囲48と重畳する位置に配設している。
【0110】
また架台部42は、ワークW(例えば、整備対象物や整備済スリ板組体)の長手一端側を保持する複数段の棚板42aを備えた一側架台42bと、同棚板42aの対向位置にて他端側を保持するための複数段の棚板42cを備えた他側架台42dとを前述のハンドヘッド46の幅よりも広幅に離隔して設け、両架台に架け渡すように整備対象物を配置する分割型の架台としており、各棚板間に架空配置された整備対象物の略中央部をハンドヘッド46にて下方より保持し、持ち上げ移動できるようにしている。
【0111】
研磨部43は、ロボット40により締結体に対して研磨作業を行うスペースとして機能する部位である。
【0112】
研磨部43は
図4に示すように解体・組立部41からロボット40を挟んだ対向位置となる可動範囲48内に、特に本実施形態では立入制限区域35の周縁に沿って配設している。
【0113】
また研磨部43には研磨台43aが配設されている。研磨台43aには、長手方向略中央部にハンドヘッド46との幅よりも広幅で平面視において略凹字状の切欠部43dが形成されており、締結体が切欠部43d上に架空配置されるよう構成している。
【0114】
またこの研磨台43aには、
図7に示すように、位置決め台43bとオートクランプ43cとが備えられている。
【0115】
位置決め台43bは、締結体を研磨台43aの所定の位置に位置決めするための台である。
【0116】
オートクランプ43cは、所定の位置に配置された締結体の研磨中の移動を規制するための固定具である。本実施形態において研磨部43での作業はロボットが担当し、作業者は立ち入らないようにしているため、クランプも制御部31によって自動的に固定や解除がなされるようにしている。
【0117】
また、立入制限区域35の全体的な構成の一つとして、解体・組立部41が延設された立入制限区域35の辺縁部35aと、架台部42が延設された立入制限区域35の辺縁部35bには、人感センサ49が配設されている。
【0118】
この人感センサ49は、立入制限区域35の辺縁のうち辺縁部35aや辺縁部35bを介した作業者(人)の立入制限区域35内への侵入を検知するためのセンサであり、解体・組立部41が沿設された辺縁部35aから架台部42が沿設された辺縁部35bにかけて侵入監視面50a,50bを構築している。
【0119】
人作業領域36は、作業者(人)が作業を行うための領域である。具体的には、要整備スリ板組体配置作業や分離可能体撤去作業、仮組体構築作業又は仮組体配置作業、微調整作業、締結体移動作業、整備済スリ板組体移動作業のときに作業者による作業が行われる。
【0120】
特に本実施形態において人作業領域36は、解体・組立部41が沿設された立入制限区域35の辺縁部35aの外側に沿設した解体・組立部人作業領域36aと、架台部42が沿設された立入制限区域35の辺縁部35bの外側に延設した架台部人作業領域36bとで構成すると共に、解体・組立部人作業領域36aと架台部人作業領域36bとを立入制限区域35の辺縁の外側に沿った連続的な領域として解体・組立部-架台部人作業領域としている。
【0121】
また、解体・組立部人作業領域36aは、立入制限区域35の辺縁部35aの外側に沿った解体・組立部沿設領域36cと、作業者が解体・組立台41a上のワークWを取り扱うために設けられた拡張領域である解体・組立部拡張領域36dとで構成しており、同解体・組立部拡張領域36dはロボット40の可動範囲48と解体・組立部41にて重複するよう構成している。
【0122】
同様に、架台部人作業領域36bもまた、立入制限区域35の辺縁部35bの外側に沿った架台部沿設領域36eと、作業者が架台部42のワークWを取り扱うために設けられた拡張領域である架台部拡張領域36fとで構成しており、同架台部拡張領域36fはロボット40の可動範囲48と架台部42にて重複するよう構成している。
【0123】
このように整備システムAは、作業部30をロボット40が作業する範囲である可動範囲48(立入制限区域35)と、人作業領域36との両方により構成し、しかも解体・組立部41や架台部42において人作業領域36が立入制限区域35(侵入監視面50a,50b)を越えて可動範囲48と双方が重複する協働領域(解体・組立部拡張領域36dや架台部拡張領域36f)を設けることで、人とロボットとの協働システムとしている。
【0124】
制御部31は、整備システムA全体の制御を行うための部位であり、特にロボット40の動作制御を行うべく設けられている。また制御部31は、人感センサ49と接続されており、侵入監視面50a,50bを越えた立入制限区域35内への作業者の侵入や、人作業領域36の作業者の有無を検知可能としている。
【0125】
パーツフィーダ部32は、ロボット40が解体・組立部41にて締結体構築作業を実施する際にボルト20を受渡位置に倒立状態(先端を上に頭部を下にした状態)で受渡可能な位相にて供給するための部位である。
【0126】
パーツフィーダ部32は、
図4及び
図8に示すように、パーツフィーダ本体51と、位相変更装置52とを備えている。
【0127】
パーツフィーダ本体51は、作業者により投入されたボルト20を、倒立状態で供給レール51a上に整列させつつ位相変更装置52に対し供給するする装置である。なお、本実施形態におけるパーツフィーダ本体51は、平座金とばね座金にボルト20を挿通させた組ボルト20aとして供給する。
【0128】
位相変更装置52は、
図9に示すように、供給レール51aに供給された組ボルト20aを取得し、同組ボルト20aの軸回りの位相を、ロボット40に装着された低トルクナットランナーヘッド45のソケットに受渡可能な位相とするための装置であり、移送アーム52aと、位相変更台52bとを備えている。
【0129】
移送アーム52aは、組ボルト20aが倒立状態のまま、すなわち、ボルトの頭部(六角部分)が下の状態で、供給レール51aの端部から一つ摘まみ上げ、位相変更台52bに移動させる未変更ボルト移動動作と、位相が変更された組ボルト20aを位相変更台52bから摘まみ上げて受渡位置まで移動させると共に、ロボット40が低トルクナットランナーヘッド45のソケットを受渡位置に配置した際に開口を上に向けた状態のソケットに対し、摘まんでいた倒立状態の組ボルト20aを開放し、ソケット内に受け渡す受渡動作とを行う。なお、パーツフィーダ部32は、受渡位置がロボット40の可動範囲48に含まれるよう配置しており、本実施形態では解体・組立部41の近傍位置としている。
【0130】
位相変更台52bは、移送アーム52aの未変更ボルト移動動作により倒立状態で載置された組ボルト20aを、上述の受渡時のソケットの位相に整合する位相となるよう軸回りに所定角度回転させる動作を行う部位である。
【0131】
操作表示部33は、作業者に対して制御部31による整備システムAの制御状態を確認したり、制御部31に対して指示を入力し操作するための部位である。本実施形態ではタッチパネルを採用しており、作業者はグラフィカルな画面を参照して制御状態を把握しつつ、必要に応じてロボット40の動作等の指示を入力できるようにしている。
【0132】
集塵部34は、主に研磨部43での研磨作業時に発生する粉塵の飛散を抑制するための部位であり、集塵機55と、集塵幌56とで構成している。
【0133】
集塵機55は、集塵幌56内に構成した集塵空間56a内の空気を吸気口55aから吸引するための装置であり、内部に備えられたフィルタ(図示せず)を介して粉塵を除去した後に、ダクト55bを通じて屋外に排気するよう構成している。
【0134】
集塵幌56は、集塵機55の吸気口55aより略気密状に伸延させた大型のダクトの如き構成であり、集塵効果が及ぶ範囲を規定しつつ、効果的に集塵が行われるトンネル状の集塵ブースを構築するものである。本実施形態において集塵幌56は、研磨部43やロボット40近傍までが収容される大きさとしている。
【0135】
次に、本実施形態に係るスリ板組体整備システムAの電気的構成について説明する。
図10は、整備システムAの主要な電気的構成の一つである制御部31とその周辺機器との接続を示したブロック図である。
【0136】
図10に示すように制御部31は、その構成としてCPU60、ROM61、RAM62、RTC63等を備えており、整備システムAの稼動に必要なプログラムを実行可能としている。
【0137】
具体的には、ROM61はCPU60の処理において必要なプログラム等が格納されており、RAM62はそのプログラム等の実行に際し一時的な記憶領域として機能する。
【0138】
例えばROM61の所定領域には、整備システムAを解体作業モードとして稼働させるためのプログラムや、組立作業モードとして稼働させるためのプログラム、研磨作業モードとして稼働させるためのプログラムなどが格納されている。
【0139】
またRAM62の所定領域には、作業者が介入して作業を行う状況(人協働状況)であるか否かを示す人協働状況フラグが記憶される。
【0140】
RTC63(Real Time Clock)は、後述の割込処理を実行するための基準となるクロックパルスを発生させるためのものである。CPU60は、処理を実行している状態であっても、このRTC63から所定の周期(例えば2ミリ秒)毎に発生されるクロックパルスに応じて処理を中断させ割込処理を実行する。
【0141】
また制御部31には、操作表示部33や人感センサ49が接続されており、作業者からの入力を受け付けたり、制御部31におけるプログラムの実行状況に応じて参照されるよう構成している。
【0142】
また、制御部31には、ロボット40やパーツフィーダ部32、オートクランプ43cが接続されており、制御部31におけるプログラムの実行状況に応じて制御駆動するよう構成している。
【0143】
次に、制御部31において実行される処理について、
図11~
図15を参照しつつ説明する。
図11は制御部31にて実行される割込処理を示したフローであり、
図12は整備システムAが解体作業モードの時に制御部31のCPU60にて実行される解体作業処理を示したフローであり、
図13は組立作業モードの時に実行される組立作業処理を示したフローであり、
図14は仮締め実行処理を示したフローであり、
図15は研磨作業モードの時に実行される研磨作業処理を示したフローである。なお、本実施形態に係る整備システムAでは、例えば各種処理を統括するためのメイン処理であったり、作業者が各モードを選択する際の処理など様々な処理が実装されているが、ここではスリ板組体の整備処理を中心に説明し、付帯機能の処理については説明を省略する。
【0144】
まず、
図11を参照しつつ割込処理について説明する。CPU60は、処理を実行している状態であっても処理を中断させ割込処理を実行する。RTC63から所定の周期(例えば2ミリ秒)毎に発生されるクロックパルスに応じて、以下の割込処理を実行する。
【0145】
割込処理においてCPU60は、割込処理前の処理の実行状況を確認し、人協働状況フラグが立っているか否かについて判断を行う(ステップS11)。ここでCPU60が人協働状況フラグが立っていると判断した場合(ステップS11:Yes)には、CPU60は処理を分岐前のアドレスに戻す。一方、人協働状況フラグが倒れている(立っていない)と判断した場合(ステップS11:No)には、CPU60は処理をステップS12へ移す。
【0146】
ステップS12においてCPU60は、人感センサ49からの入力信号を参照し、人作業領域36に作業者が存在している状況か否かについて判断を行う。ここでCPU60が人作業領域36に作業者が存在していると判断した場合(ステップS12:Yes)には、CPU60は制御部31に付属しているスピーカ(図示せず)等を使用して作業者に対し「ロボット稼働中です。整備システムに近づかないでください。」などの警告を発報する処理を実行し(ステップS13)、処理を分岐前のアドレスに戻す。一方、人作業領域36に作業者が存在していないと判断した場合(ステップS12:No)には、CPU60は処理をステップS14へ移す。
【0147】
ステップS14においてCPU60は、人感センサ49からの入力信号を参照し、侵入監視面50aや侵入監視面50bが作業者により侵されたか否かについて判断を行う。ここで侵入監視面50a,50bが作業者により侵されたとCPU60が判断した場合(ステップS14:Yes)には、CPU60は作業者が立入制限区域35から出て、更に操作表示部33にて復帰信号を制御部31へ送信するまでロボット40を停止させる処理を行い(ステップS15)、処理を分岐前のアドレスに戻す。一方、侵入監視面50aや侵入監視面50bは作業者により侵されていないと判断した場合(ステップS14:No)には、CPU60は処理を分岐前のアドレスに戻す。
【0148】
次に、
図12を参照しつつ解体作業処理について説明する。制御部31にてCPU60が本解体作業処理を実行することにより、解体実行手段が実現される。
【0149】
解体作業処理においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40のアーム40aの先端に高トルクナットランナーヘッド44を装着させる処理を実行する(ステップS21)。
【0150】
ステップS21を終えると、次にCPU60は、人協働状況フラグを立て、作業者による要整備スリ板組体配置作業が完了するまで、ロボット40を所定の待機位置にて待機させる処理を実行する(ステップS22)。
【0151】
このステップS22においてCPU60は、例えば作業者が操作表示部33を操作することにより、要整備スリ板組体配置作業が完了した旨の信号を制御部31に対して送信したか否かの判断を行う。ここで、信号は送信されていないと判断した場合には、CPU60は再び本ステップS22を実行する。すなわち、作業者により要整備スリ板組体配置作業の完了信号が送信されるまで待機する。一方、信号が送信されたと判断した場合には、CPU60は処理をステップS24へ移す。
【0152】
ステップS24においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、要整備スリ板組体からボルト20を順次螺脱させるボルト螺脱処理を実行する。
【0153】
ステップS24を終えると、次にCPU60は、人協働状況フラグを立て、作業者により分離可能体撤去作業が完了するまで、ロボット40を所定の待機位置にて待機させる処理を実行する(ステップS25)。この待機処理もまた、作業者により分離可能体撤去作業の完了信号が送信されるまで繰り返し実行される。
【0154】
次にCPU60は、例えば作業者によって別の要整備スリ板組体の解体作業を行う旨の指示が予めなされている等、解体作業を再度行う必要があるか否かの判断を行う(ステップS26)。ここで再度行う必要がある判断した場合は、CPU60は処理をステップS22へ移す。一方、再度行う必要はないと判断した場合は、CPU60は本解体作業処理を終了し、人協働状況フラグを立て、例えばモード選択処理など分岐前のアドレスに処理を戻す。
【0155】
次に、
図13を参照しつつ組立作業処理について説明する。制御部31にてCPU60が本組立作業処理を実行することにより、組立実行手段が実現される。
【0156】
組立作業処理においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40のアーム40aの先端に低トルクナットランナーヘッド45を装着させる処理を実行する(ステップS31)。
【0157】
ステップS31を終えると、次にCPU60は、人協働状況フラグを立て、作業者による仮組体構築作業や仮組体配置作業が完了するまで、ロボット40を所定の待機位置にて待機させる処理を実行する(ステップS32)。
【0158】
このステップS32においてCPU60は、例えば作業者が操作表示部33を操作することにより、仮組体構築作業や仮組体配置作業が完了した旨の信号を制御部31に対して送信したか否かの判断を行う。ここで、信号は送信されていないと判断した場合には、CPU60は再び本ステップS32を実行する。すなわち、作業者により仮組体構築作業や仮組体配置作業の完了信号が送信されるまで待機する。一方、信号が送信されたと判断した場合には、CPU60は処理をステップS34へ移す。
【0159】
ステップS34においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40により仮組体に対し後述の第2のトルクよりも相対的に低トルクである第1のトルクに至るまでボルト20(組ボルト20a)を螺入させて半固定体を構築する仮締め実行処理を行う。なお、この仮締め実行処理については、追って
図14を参照しつつ更に説明する。
【0160】
ステップS34を終えると、次にCPU60は、ロボット40のアーム40aに装着されているヘッドを、低トルクナットランナーヘッド45から高トルクナットランナーヘッド44に付け替える処理を実行する(ステップS35)。
【0161】
ステップS35を終えると、次にCPU60は、人協働状況フラグを立て、作業者による微調整作業が完了するまで、ロボット40を所定の待機位置にて待機させる処理を実行する(ステップS36)。制御部31にてCPU60が本微調整作業待機処理を実行することにより、微調整待機実行手段が実現される。
【0162】
このステップS36においてCPU60は、例えば作業者が操作表示部33を操作することにより、微調整作業が完了した旨の信号を制御部31に対して送信したか否かの判断を行う。ここで、信号は送信されていないと判断した場合には、CPU60は再び本ステップS36を実行する。すなわち、作業者により微調整作業の完了信号が送信されるまで待機する。一方、信号が送信されたと判断した場合には、CPU60は処理をステップS38へ移す。
【0163】
ステップS38においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40により半固定体に挿入されているそれぞれのボルト20を前述の第1のトルクよりも相対的に大きな第2のトルクに至るまで螺入させて締結体を構築する本締め実行処理を行う。制御部31にてCPU60がこの本締め実行処理を行うことにより、締結実行手段が実現される。
【0164】
ステップS38を終えると、次にCPU60は、ロボット40のアーム40aに装着されている高トルクナットランナーヘッド44を所定の位置にて取り外す処理を実行する(ステップS39)。
【0165】
ステップS39を終えると、次にCPU60は、人協働状況フラグを立て、作業者による締結体移動作業が完了するまで、ロボット40を所定の待機位置にて待機させる処理を実行する(ステップS40)。この待機処理もまた、作業者により締結体移動作業の完了信号が送信されるまで繰り返し実行される。
【0166】
次にCPU60は、例えば作業者によって別の仮組体の組立作業を行う旨の指示が予めなされている等、組立作業を再度行う必要があるか否かの判断を行う(ステップS41)。ここで再度行う必要がある判断した場合は、CPU60は処理をステップS32へ移す。一方、再度行う必要はないと判断した場合は、CPU60は本組立作業処理を終了し、人協働状況フラグを立て、例えばモード選択処理など分岐前のアドレスに処理を戻す。
【0167】
次に、
図14を参照しつつステップS34の仮締め実行処理について説明する。仮締め実行処理においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40が装着している低トルクナットランナーヘッド45のソケットをパーツフィーダ部32の受渡位置まで移動させ、位相変更装置52の移送アーム52aから位相変更済みの組ボルト20aを受け取る処理を実行する(ステップS51)。
【0168】
ステップS51を終えると、次にCPU60は、まだボルト20が挿入されていない挿入孔の位置に組ボルト20aを載せた低トルクナットランナーヘッド45を移動させる移動処理を実行する(ステップS52)。
【0169】
ステップS52を終えると、次にCPU60は、ボルト20を螺脱方向に回転させながら挿通孔(挿通孔22aや挿通孔22b)に挿入させ、仮組体に配された例えば新品など交換済みのスリ板19の締結孔(雌ネジ孔22c)の孔縁に同軸状にボルト20の先端を当接させる逆回転当接処理を実行する(ステップS53)。制御部31にてCPU60がこの逆回転当接処理を行うことにより、逆回転当接実行手段が実現される。
【0170】
ステップS53を終えると、次にCPU60は、スリ板19の締結孔(雌ネジ孔22c)の孔縁に先端が当接した状態のボルト20を螺合方向に回転させながら第1のトルクに至るまでスリ板19に螺入する正回転螺入処理を実行する(ステップS54)。制御部31にてCPU60がこの正回転螺入処理を行うことにより、正回転螺入実行手段が実現される。
【0171】
ステップS54を終えると、次にCPU60は、第1のトルクに達したボルト20を螺脱方向に所定角度回転させて、スリ板取付板17に対してスリ板19やスペーサー18の位置の微調整が可能な状態の半固定体とする逆回転ゆるめ処理を実行する(ステップS55)。制御部31にてCPU60がこの逆回転ゆるめ処理を行うことにより、逆回転ゆるめ実行手段が実現される。
【0172】
ステップS55を終えると、次にCPU60は、仮組体の全ての挿通孔にボルト20が挿入されて半固定体となり全てのボルト20の仮締めが完了したか否かについて判断を行う(ステップS56)。ここで仮締めは完了していないと判断した場合は、CPU60は処理をステップS51へ移す。すなわち、まだボルト20が螺入されていない挿入孔位置での仮締めを行う。一方、仮締めが完了したと判断した場合は、CPU60は仮締め実行処理を終了し、分岐前のアドレスに処理を戻す。
【0173】
次に、
図15を参照しつつ研磨作業処理について説明する。制御部31にてCPU60がこの研磨作業処理を実行することにより、研磨実行手段が実現される。
【0174】
研磨作業処理においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40のアーム40aの先端にハンドヘッド46を装着させる処理を実行する(ステップS61)。
【0175】
ステップS61を終えると、次にCPU60は、人協働状況フラグを立て、作業者による架台部42での締結体の配置作業、例えば解体・組立部41にて構築された締結体を解体・組立台41aやその他予め規定された場所から架台部42に移動させる作業(締結体移動作業)が完了するまで、ロボット40を所定の待機位置にて待機させる処理を実行する(ステップS62)。
【0176】
このステップS62においてCPU60は、例えば作業者が操作表示部33を操作することにより、締結体の配置作業が完了した旨の信号を制御部31に対して送信したか否かの判断を行う。ここで、信号は送信されていないと判断した場合には、CPU60は再び本ステップS62を実行する。すなわち、作業者により締結体の配置作業の完了信号が送信されるまで待機する。一方、信号が送信されたと判断した場合には、CPU60は処理をステップS63へ移す。なお、架台部42に配置される締結体の数は1本であっても良いし、複数本であっても良い。
【0177】
ステップS63においてCPU60は、人協働状況フラグを倒し、ロボット40を作動させ、架台部42に配置されている締結体の架空部分をハンドヘッド46により下方から掬い上げるように保持し、研磨部43の研磨台43aまで移動させ、位置決め台43bの上に載置する締結体移動処理を実行する。
【0178】
ステップS63を終えると、次にCPU60は、ロボット40のアーム40aに装着されているヘッドを、ハンドヘッド46からグラインダーヘッド47に付け替える処理を実行する(ステップS64)。また、このヘッド付替処理と同じタイミングで、CPU60はオートクランプ43cを作動させ、自動的にワークの固定を行う。
【0179】
ステップS64を終えると、次にCPU60は、締結体の所定箇所を研磨する研磨処理を実行する。なお本実施形態における研磨処理では、締結体上面の雌ネジ孔22cの周縁や、幅方向へ斜めに伸延する各スリ板19の境界部の段差を緩和するよう研磨が行われる。
【0180】
ステップS65を終えると、次にCPU60は、ロボット40のアーム40aに装着されているヘッドを、グラインダーヘッド47からハンドヘッド46に付け替える処理を実行する(ステップS66)。また、このヘッド付替処理と同じタイミングで、CPU60はオートクランプ43cを作動させ、自動的にワークの解除を行う。
【0181】
ステップS66を終えると、次にCPU60は、ロボット40を作動させ、位置決め台43b上に載置されている整備済スリ板組体をハンドヘッド46により下方から掬い上げるように保持し、架台部42まで移動させ、空いている棚板42a,42c部分、例えば,元の棚板42a,42cの部分に載置する整備済スリ板組体移動処理を実行する(ステップS67)。
【0182】
次にCPU60は、例えば作業者によって複数の締結体が架台部42に配置されているなど、研磨作業を再度行う必要があるか否かの判断を行う(ステップS68)。ここで再度行う必要がある判断した場合は、CPU60は処理をステップS63へ移す。一方、再度行う必要はないと判断した場合は、CPU60は研磨作業処理を終了し、人協働状況フラグを立て、例えばモード選択処理など分岐前のアドレスに処理を戻す。
【0183】
次に、このような構成を備えた本実施形態に係るスリ板組体整備システムAに関し、スリ板組体を実際に整備する際の動作について説明する。
【0184】
要整備スリ板組体の解体作業を行う場合、作業者は操作表示部33を操作して、スリ板組体整備システムAを解体作業モードに設定する。これにより、制御部31では解体作業処理が実行され、ロボット40のアーム40aには高トルクナットランナーヘッド44が装着され、作業者による要整備スリ板組体配置作業の待機状態となる。
【0185】
次に作業者は、解体・組立部人作業領域36aに侵入し、要整備スリ板組体配置作業を行う。このとき人協働状況フラグが立っているため、作業者が侵入監視面50aを侵し、解体・組立部拡張領域36dにて作業を行っても警報発報は行われず、またロボット40自体は動作を停止しているが実行処理自体は継続される。このように、本整備システムAでは、要整備スリ板組体配置作業の点において作業者による作業を許容し、人とロボットとの協働を実現している。
【0186】
次に作業者は、操作表示部33を操作して制御部31に対し要整備スリ板組体配置作業の完了信号を送信する。これにより制御部31は、ボルト螺脱処理を実行し整備対象物を分離可能体の状態とする。
【0187】
なおこのときは、人協働状況フラグは倒れているため、作業者が人作業領域36に侵入すると警報の発報が行われ、また侵入監視面50aや侵入監視面50bが侵された場合にはロボット停止処理が実行され、作業者が復帰操作を行わない限り解体作業処理の実行は中断される。このような警報の発報動作やロボットの停止処理は、人協働状況フラグが倒れている状況では同様である。
【0188】
そして、ボルト螺脱処理を終えると、制御部31(ロボット40)は、作業者による分離可能体撤去作業の待機状態となる。
【0189】
次に作業者は、人協働状況フラグが立った状況下にて解体・組立部人作業領域36aに侵入し、侵入監視面50aを侵し、解体・組立部拡張領域36dにて分離可能体撤去作業を実施する。この点においても、人とロボットとの協働が実現されている。
【0190】
そして、作業者の指示等により、繰り返しの解体作業が必要な場合は、制御部31にて解体作業処理が再び実行されることになる。またその一方、繰り返しの作業が不要な場合は、解体作業処理を終えて人協働フラグが立ち、作業者による整備システムA内での作業が許容される。
【0191】
次に、仮組体の組立作業を行う場合、作業者は操作表示部33を操作して、スリ板組体整備システムAを組立作業モードに設定する。これにより、制御部31では組立作業処理が実行され、ロボット40のアーム40aには低トルクナットランナーヘッド45が装着され、作業者による仮組体構築作業や仮組体配置作業の待機状態となる。
【0192】
次に作業者は、人協働状況フラグが立った状況下にて解体・組立部人作業領域36aに侵入し、侵入監視面50aを侵し、解体・組立部拡張領域36dにて仮組体構築作業や仮組体配置作業を実施する。この点においても、人とロボットとの協働が実現されている。作業者は作業を終えると、仮組体構築作業や仮組体配置作業の完了信号の送信操作を行う。これにより制御部31は、仮締め実行処理を開始する。
【0193】
仮締め実行処理では、ロボット40がパーツフィーダ部32から組ボルト20aを受け取ると、仮組体のボルト挿通孔の位置に移動し、まずボルト20を螺脱方向に逆回転させながらスリ板取付板17とスペーサー18を挿通させ、スリ板19の雌ネジ孔22cに当接させる。
【0194】
次いでロボット40は、正回転にて第1のトルクに達するまでボルト20を螺入させ、所定角度だけ逆回転させて締結状況を一時的に緩和させる。これを整備対象物たる仮組体の全てのボルト挿通孔に対し実行して半固定体を構築し、ヘッドを高トルクナットランナーヘッド44に付け替えた上で、作業者による微調整作業の待機状態となる。
【0195】
次に作業者は、人協働状況フラグが立った状況下にて解体・組立部人作業領域36aに侵入し、侵入監視面50aを侵し、解体・組立部拡張領域36dにて半固定体に対して微調整作業を実施する。この点においても、人とロボットとの協働が実現されている。作業者は作業を終えると、微調整作業の完了信号の送信操作を行う。
【0196】
これにより制御部31は、本締め実行処理を開始し、ロボット40が本締めを終えるとヘッドを取り外し、作業者による締結体移動作業の待機状態となる。
【0197】
次に作業者は、人協働状況フラグが立った状況下にて解体・組立部人作業領域36aに侵入し、侵入監視面50aを侵し、解体・組立部拡張領域36dにて締結体移動作業を実施する。この点においても、人とロボットとの協働が実現されている。
【0198】
そして、作業者の指示等により、繰り返しの組立作業が必要な場合は、制御部31にて組立作業処理が再び実行されることになる。またその一方、繰り返しの作業が不要な場合は、組立作業処理を終えて人協働フラグが立ち、作業者による整備システムA内での作業が許容される。
【0199】
次に、締結体の研磨作業を行う場合、作業者は操作表示部33を操作して、スリ板組体整備システムAを研磨作業モードに設定する。これにより、制御部31では研磨作業処理が実行され、ロボット40のアーム40aにはハンドヘッド46が装着され、作業者による架台部42への締結体の配置作業の待機状態となる。
【0200】
次に作業者は、人協働状況フラグが立った状況下にて架台部人作業領域36bに侵入し、侵入監視面50bを侵し、架台部拡張領域36fにて架台部42に締結体の配置作業を実施する。この点においても、人とロボットとの協働が実現されている。
【0201】
作業者は作業を終えると、締結体配置作業の完了信号の送信操作を行う。これにより制御部31は、締結体移動処理やヘッドをグラインダーヘッド47に付け替える処理、研磨処理、ヘッドを再びハンドヘッド46に付け替える処理を実行し、整備済スリ板組体を研磨部43から架台部42へ移動させる処理を実行する。
【0202】
この動作は、例えば架台部42に配置されている締結体の数だけ連続して行われ、作業者が介入することなく、煩雑で粉塵を伴う研磨作業を締結体に対して連続的に施して、整備済スリ板組体を構築することができる。
【0203】
上述してきたように、本実施形態に係るスリ板組体整備システムAによれば、パンタグラフの集電舟を構成するスリ板組体の整備システムであって、前記スリ板組体の整備を行うロボットと、同ロボットの制御部と、前記ロボットの可動範囲を包含する立入制限区域と、前記ロボットの可動範囲と重畳させて前記立入制限区域の辺縁に沿って配設した解体・組立部と、を備え、前記制御部は、前記ロボットにより前記解体・組立部に配された整備前のスリ板組体からスリ板の固定ボルトを螺脱させ、ベース部材から古いスリ板を取り外し可能な状態とする解体実行手段と、所定の処置が施されたベース部材に新たなスリ板を配置してなる前記解体・組立部に配された仮組体に対し前記ロボットにより固定ボルトを螺入させて前記新たなスリ板が固定された締結体を構築する組立実行手段と、を備えることとしたため、作業者の作業負担を軽減することのできるスリ板組体の整備システムを提供することができる。
【0204】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0205】
例えば、本実施形態では
図2や
図3に示した構成を有するスリ板組体16を整備対象としたが、これに限定されるものではなく、スリ板とベース部材(スリ板を一体的に保持するための部材やその周辺パーツ)との関係にあるような、スリ板の交換が主な整備作業である一体的な組体であれば良い。例えば、スペーサが存在しない組体や、スリ板がより細かく分割されたものであったり、スリ板がスプリングに支持された構造を有するスリ板組体なども、本発明に係るスリ板組体整備システムの整備対象たるスリ板組体に含まれるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0206】
10 パンタグラフ
12 集電舟
16 スリ板組体
17 スリ板取付板
18 スペーサー
19 スリ板
20 ボルト
21 ベース部材
22a ボルト挿通孔
22b ボルト挿通孔
22c ボルト穴
31 制御部
34 集塵部
35 立入制限区域
35a 辺縁部
35b 辺縁部
36 人作業領域
36a 解体・組立部人作業領域
36b 架台部人作業領域
40 ロボット
41 解体・組立部
42 架台部
43 研磨部
48 可動範囲
50a,50b 侵入監視面
55 集塵機
56a 集塵空間
A スリ板組体整備システム