(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106592
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60R 11/02 20060101AFI20240801BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20240801BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B60R11/02 A
A01B69/00 303M
A01B69/00 301
H01Q1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010940
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】嘉藤 悠人
【テーマコード(参考)】
2B043
3D020
5J047
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB13
2B043BA02
2B043BB01
2B043DA17
2B043EB05
2B043EB15
2B043ED12
2B043EE02
2B043EE05
2B043EE06
3D020BA13
3D020BC18
3D020BD01
3D020BD02
3D020BD05
5J047AA14
5J047EB01
(57)【要約】
【課題】走行機体の現在位置を取得するために走行機体の最も高い位置となる頂部に設けるGNSSアンテナの、帆布トラックシートやポリエチレンなどの合成樹脂製のシート等の作業車両に対するシート(覆い)掛けに伴って生ずる損傷や破損を防止する作業車両を提供する。
【解決手段】走行機体のGNSSアンテナを設ける頂部近傍に、作業車両に掛ける覆いを下方から受け止めるガード体を設けて、GNSSアンテナが覆いに直接接触して損傷や破損を生じないようにガードする。また、このガード体を格納姿勢に変更可能になす。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の頂部にGNSSアンテナを設け、このGNSSアンテナによって捕捉した測位衛星から出される電波に基づいて、走行機体の現在位置を取得する作業車両にあって、前記走行機体のGNSSアンテナを設ける頂部近傍に、前記作業車両に掛ける覆いを下方から受け止めるガード体を設けて、前記GNSSアンテナが覆いに直接接触して損傷や破損を生じないようにガードすることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ガード体は、その上部をGNSSアンテナより高くして、作業車両に掛ける覆いを下方から受け止める作用姿勢と、その全体をGNSSアンテナより低くして、測位衛星から出される電波を遮ることがない格納姿勢に変更可能になすことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記走行機体の始動の際にガード体が作用姿勢となっている場合には、ガード体の格納姿勢への変更を、或いは、走行機体の始動後に駐車ブレーキが掛けられた場合には、ガード体の作用姿勢への変更を促すメッセージを作業者に向けて出すことを特徴とする請求項2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタや乗用型田植機等の主に農業用の作業車両に係り、詳しくは、測位衛星から出される電波に基づいて走行機体の現在位置を取得する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタや乗用型田植機等の農業用の作業車両にあっては、田畑の耕耘作業や田植作業等を行う場合に、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いて走行機体(作業車両)の現在位置を取得し、また、この取得した位置情報を用いて走行機体を予め定めた直線状の目標走行経路に倣って自動走行させたり、或いは、枕地での旋回も含めた自動走行を行うことができるようにしている。
【0003】
そこで、このように自動走行を行わせる作業車両にあって、自らの位置情報を取得するために設けるアンテナは、その後の測位計算を行うために最低でも4機の測位衛星から出される電波を捕捉しなければならず、また、より一層に測位精度を上げるためには出来るだけ多くの測位衛星から出される電波を捕捉する必要があることから、多数の周波数帯に対応する高精度のGNSSアンテナを使用することが望ましい。
【0004】
さらに、測位衛星から出される電波は非常に微弱でGNSSアンテナ周辺に仮に遮蔽物があると電波の遮断が生じてしまい、また、周囲の構造物等によって反射・回析した電波を捕捉してしまうと、測位計算において誤差を生じてしまうので、従来よりアンテナの設置場所としては、空が良く見渡せて見晴らしの良い場所である事が推奨されている。
【0005】
そのため、例えば、操縦部をキャビンで覆っているトラクタにあっては、キャビンのルーフ上にGNSSアンテナを設けたり、キャビンを設けないトラクタにあっては、操縦部の後部に設ける安全フレームの上部にGNSSアンテナを設けて、測位衛星から出される電波を遮蔽物から遠ざけて適正に捕捉することができるようにしている。なお、この場合、GNSSアンテナは走行機体の一番高い位置で屋外となる頂部に設けるため、風雨に晒されても耐え得る全天候型となす必要がある。
【0006】
また、作業車両を納屋に格納する場合にアンテナ等を有する測位装置を納屋の天井に当てるおそれがあったり、作業車両をトラックに載せて運搬する場合にその測位装置をトラックの荷台の天井に当てるおそれがある。そこで、測位装置を設ける取付ステーを枢軸回りに回転することで、測位装置を使用位置より低い位置に移動させることにより、測位装置を障害物に当てるのを防止することが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-41745号公報
【特許文献2】特開2022-170826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように測位衛星から出される電波に基づいて走行機体の現在位置を取得する作業車両にあっては、自らの位置情報を取得するために設けるGNSSアンテナを、走行機体の最も高い位置となる頂部に設けることによって、少なくとも走行機体に設ける他の構造物等によって測位衛星から出される電波を遮られることがないので、多数の測位衛星から出される電波をGNSSアンテナが捕捉して、その測位精度を向上させることができる。
【0009】
しかし、GNSSアンテナを走行機体の頂部に設けると、前述の特許文献1に記載されているように、作業車両を納屋に格納する場合にアンテナ等を有する測位装置を納屋の天井に当てるおそれがあったり、作業車両をトラックに載せて運搬する場合にその測位装置をトラックの荷台の天井に当てるおそれがある。そこで、このような虞がある場合は、測位装置を使用位置より低い格納位置に移動させることによって、障害物との当接を防止しなければならない。
【0010】
但し、アンテナ等が納屋の天井やトラックの荷台の天井に当たるおそれが無い場合であっても、トラックに載せて運搬する場合に作業車両を風雨から避けるために耐候性に優れた重量のある帆布トラックシート(幌)や、それより比較的軽いポリエチレンなどの合成樹脂製のシート(ブルーシート)等で覆い、また、このシートのハトメにロープ等を通してシートを絞ってトラックに固定する場合に、アンテナを覆う樹脂製カバーにシートが直接接触してこのカバーに傷を付けたり、アンテナ毎破損させてしまうという虞が十分に考えられる。
【0011】
また、作業車両を納屋ではなく屋外駐車させたり、圃場近辺で一夜を明かす際に同様に作業車両をシート掛けして覆うと、GNSSアンテナを損傷させたり破損させる虞がある。そこで、本発明は係る問題点に鑑み、走行機体の現在位置を取得するために走行機体の最も高い位置となる頂部に設けるGNSSアンテナの、帆布トラックシートやポリエチレンなどの合成樹脂製のシート等の作業車両に対するシート掛けに伴って生ずる損傷や破損を防止する作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の作業車両は、前述の課題を解決するため第1に、走行機体の頂部にGNSSアンテナを設け、このGNSSアンテナによって捕捉した測位衛星から出される電波に基づいて、走行機体の現在位置を取得する作業車両にあって、前記走行機体のGNSSアンテナを設ける頂部近傍に、前記作業車両に掛ける覆いを下方から受け止めるガード体を設けて、前記GNSSアンテナが覆いに直接接触して損傷や破損を生じないようにガードすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の作業車両は第2に、前記ガード体は、その上部をGNSSアンテナより高くして、作業車両に掛ける覆いを下方から受け止める作用姿勢と、その全体をGNSSアンテナより低くして、測位衛星から出される電波を遮ることがない格納姿勢に変更可能になすことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の作業車両は第3に、前記走行機体の始動の際にガード体が作用姿勢となっている場合には、ガード体の格納姿勢への変更を、或いは、走行機体の始動後に駐車ブレーキが掛けられた場合には、ガード体の作用姿勢への変更を促すメッセージを作業者に向けて出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の作業車両によれば、走行機体の頂部にGNSSアンテナを設け、このGNSSアンテナによって捕捉した測位衛星から出される電波に基づいて、走行機体の現在位置を取得する作業車両にあって、前記走行機体のGNSSアンテナを設ける頂部近傍に、前記作業車両に掛ける覆いを下方から受け止めるガード体を設けて、前記GNSSアンテナが覆いに直接接触して損傷や破損を生じないようにガードするので、風雨から作業車両を守るために覆いを掛けても、ガード体によってGNSSアンテナの損傷や破損を効果的に防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の作業車両によれば、前記ガード体は、その上部をGNSSアンテナより高くして、作業車両に掛ける覆いを下方から受け止める作用姿勢と、その全体をGNSSアンテナより低くして、測位衛星から出される電波を遮ることがない格納姿勢に変更可能になすので、走行機体の現在位置を取得する際にはガード体を格納姿勢に変更しておくことによって、多数の測位衛星から出される電波を捕捉して高い測位精度を維持することができる。
【0017】
さらに、本発明の作業車両によれば、前記走行機体の始動の際にガード体が作用姿勢となっている場合には、ガード体の格納姿勢への変更を、或いは、走行機体の始動後に駐車ブレーキが掛けられた場合には、ガード体の作用姿勢への変更を促すメッセージを作業者に向けて出すので、ガード体の格納姿勢への戻し忘れによる走行機体の位置計測精度の低下、或いは、ガード体の作用姿勢への変更忘れによるGNSSアンテナの損傷や破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図6】ガード体によってGNSSアンテナを幌からガードする状態を示す斜視図である。
【
図7】ガード体を格納姿勢に変更した状態を示す斜視図である。
【
図9】アンテナガード報知制御のフローチャートである。
【
図10】作業者へのメッセージを示し、(a)はアンテナガードの格納要請、(b)はアンテナガードの設置要請である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように作業車両としての農業用のトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジング3、トランスミッションケース4等を一体的に連結して走行機体を構成する。また、走行機体の前部寄りには、エンジン2とエンジン2の補器類を覆うボンネット5とサイドーカバー6を設け、この内、ボンネット5は後部に設けるヒンジを介して前部側を開閉自在に構成する。
【0020】
さらに、エンジン2に固定して前方に延びるフロントブラケット7は、
図2に示すようにフロントアクスルケース8を左右揺動自在に軸支する。そして、このフロントアクスルケース8の左右端には、キングピンケース9及びファイナルケース10を取付ける。また、ファイナルケース10に軸支する前車軸11には前輪12を取付ける。
【0021】
一方、走行機体の後部寄りにはトランスミッションケース4の左右に連結するリアアクスルケースを設け、このリアアクスルケースに軸支する後車軸13に左右の後輪14を取付ける。また、走行機体の後部には、トップリンク15と左右のロワリンク16からなる周知の三点リンク機構や、ドローバ等の連結装置を設け、これらの連結装置にはロータリ耕耘装置、畝立機、或いは播種機や移植機等の作業機を連結し、トランスミッションケース4の後部に軸支するPTO軸(動力取出軸)から作業機にエンジン動力を伝達する。
【0022】
さらに、エンジン2より後方の走行機体には、防振ゴムを介して操縦部を覆うキャビン17を搭載する。ここで、キャビン17は、左右一対の前側の支柱であるフロントピラー18と、左右一対の後側の支柱であるリアピラー19と、両者の間に設ける左右一対の中間の支柱であるミッドピラー20と、この上下方向に延びる6本の各支柱18、19、20の上端部間を連結固定する方形枠状の上部フレーム21と、各支柱18、19、20の下端部間を連結固定する下部フレーム22等によってキャビンフレームを構成する。
【0023】
そして、キャビンフレームには、左右のドアガラス23を後部側に設けるヒンジ24を介して開閉自在に装着すると共に、前面側にフロントガラス25を、また、後面側にリヤガラス26をヒンジを介して開閉自在に装着し、更にミッドピラー20とリアピラー19の間にはヒンジ27を介してサイドガラス28を開閉自在に装着する。また、左右のリアピラー19の下端部から、前方斜め下方のフロア29側に向けて後輪14の前側上方を覆うフェンダ30を設ける。さらに、上部フレーム21にはルーフ31を設けて操縦部の上方を覆う。
【0024】
また、キャビン17内に設ける運転席32は、左右のフェンダ30間の中央に位置させて設ける。なお、
図3に示すように運転席32の右側や左側には、トランスミッションケース4に設ける走行変速装置を変速操作する主変速レバー33と副変速レバー34を設けると共に、作業機を昇降させるポジションコントロールレバー35、深さ設定ボリューム36、PTOスイッチ37、或いは、作業機の深さや傾きの自動スイッチ、傾きや上げ高さボリューム、代かきランプ等の自動制御関連の操作具を設ける。
【0025】
さらに、運転席32の前方には、左右の前輪12を操舵してトラクタ1の進行方向を変更するステアリングホイール38を設ける。そして、このステアリングホイール38は、キャビン17の前部に立設する操舵フレーム39に回動可能に設けるステアリングコラム40によって覆うステアリングシャフト41の上部に締結して設け(
図2参照)、その下方に設けるチルトペダル42の踏み込みによってチルト調節を行うことができる。
【0026】
また、ステアリングホイール38の前方には、操舵フレーム39の周囲を覆うパネルカバー43とリヤパネルカバー44を設け、この内、パネルカバー43にはタコメータや燃料計、或いは液晶ディスプレイ等を備えるメーターパネル45を設ける他、エンジンコントロールレバー46やトラクタ1の各種の自動制御の入り切りを行う操作スイッチ群47と、メーターパネル45に設ける液晶ディスプレイの操作スイッチ及び自動の一括スイッチ等を設ける。
【0027】
また、前述のステアリングコラム40に設けるブラケットには走行変速装置の前後進レバー48と、コンビネーションスイッチレバー49、或いは作業機の昇降を行うクイックアップレバー50を設ける。そして、このステアリングコラム40やブラケット等はコラムカバー51によって覆い、さらに、ステアリングホイール38の下方には主クラッチペダル52と左右のブレーキペダル53、PTO変速レバー54、駐車ブレーキレバー等を設ける。
【0028】
なお、
図2に示すように、ステアリングホイール38によって回転するステアリングシャフト41の下部は、ジョイントシャフトとヨーク55を介して全油圧式のパワーステアリングユニット56の入力軸に連結する。そして、このパワーステアリングユニット56はフロントアクスルケース8に設ける複動油圧シリンダ57を作動させ、また、複動油圧シリンダ57はタイロッド58を介して左右のナックルアーム59を回動させて左右の前輪12を操舵する。従って、ステアリングホイール38を回転させると、油圧を用いてその操作力を軽減させて左右の前輪12をスムーズに操舵して機体の進行方向を変更することができる。
【0029】
以上、トラクタ1の概要について説明したが、次に、全地球航法衛星システムを用いて走行機体の位置や方位を取得して、圃場における直進走行を行わせる自動操舵装置について説明する。
図4のブロック図に示すように自動操舵装置は、衛星から出される電波を捕捉する位置用と方位用の2つのGNSSアンテナ60、61と、リアルタイムキネマティック(RTK:Real Time Kinematic)測位に基づいて基地局62から出される電波を捕捉する無線アンテナ63を備え、これ等のアンテナは、後述するようにキャビン17のルーフ31の上方に設けるアンテナフレーム64等に設ける。
【0030】
また、前述の2つのGNSSアンテナ60、61が捕捉した電波を受け取って位置情報を出力する2つのGNSS受信モジュール65、無線アンテナ63が捕捉した電波を受け取って補正情報を出力する特定小電力無線モジュール66、タブレット端末又はスマートフォン67との間で位置情報等の送受信を行う近距離無線モジュール68、或いは、走行機体の姿勢を検出する慣性モジュール69や7セグメントディスプレイ70等を備えるマイクロコントローラユニット(MCU)によって構成する操舵コントローラ(制御装置)71は、前述のアンテナフレーム64に取り付けて設ける。
【0031】
また、自動操舵の開始や停止を指示する押ボタンスイッチ等の操作スイッチ群72、この操作スイッチ群72の入り切り状態を表示するLEDランプ群73、ステアリングシャフト41を駆動するステッピングモータ74と伝動部、このモータ74を制御する操舵マイクロコントローラユニット75等を樹脂製のカバーや底板で覆って構成する操舵ユニット76は、
図5に示すようにステアリングホイール38下方のステアリングコラム40の上部に取付け、ステアリングシャフト41をステアリングホイール38と共に回動させて前輪12を操舵する。
【0032】
なお、この操舵ユニット76の取付けにあたっては、先ずステアリングシャフト41の上部に設けるステアリングホイール38を取外し、次にステアリングシャフト41の上部に伝動部に設ける継手シャフト77の下部を嵌合させた状態で操舵ユニット76をステアリングコラム40の上部に取付ける。さらに、継手シャフト77の上部に取外したステアリングホイール38を取付けて、操舵ユニット76を既存のトラクタ1に後付けすることができる。
【0033】
そして、このように操舵ユニット76を取付けると、手動操作によってステアリングホイール38を回した際には、前述の継手シャフト77を介してステアリングシャフト41を回転させ、また、ステアリングシャフト41はパワーステアリングユニット56を介して前輪12を操舵する。一方、操舵ユニット76のステッピングモータ74が操舵マイクロコントローラユニット75からの指令に基づいて正逆回転すると、ステッピングモータ74は伝動部に設ける歯車減速機構78を介して継手シャフト77を回動させて、以下手動操作と同様に前輪12を操舵する。
【0034】
さらに、前述の操舵マイクロコントローラユニット75に接続する操舵角センサ79は、前輪12の操舵角度をポテンショメータによって検出するものであって、例えば、フロントアクスルケース8の左右何れか一方の端部寄りにポテンショメータを内蔵するケースを取り付ける一方、その側に設けるタイロッド58に一端部を連結するロッドの他端部をポテンショメータの作動軸に連係して、前輪12の操舵角度を取得するように構成する。
【0035】
そして、以上のようなメンバーによって構成する自動操舵装置は、自動操舵の要となる操舵コントローラ71が実行する直進走行の自動制御プログラムにおいて、前述のGNSS受信モジュール65から得られる位置情報や特定小電力無線モジュール66から得られる補正情報、或いは慣性モジュール69から得られる走行機体の姿勢情報等から、走行機体の現在の位置と方位を演算する。
【0036】
一方、タブレット端末又はスマートフォン67はナビゲーションソフトウェアを実行して、操舵コントローラ71が近距離無線モジュール68を用いて送信する走行機体の現在の位置と方位を随時受信する。また、作業者が行うティーチング走行等に基づいて直進走行を行う作業走行経路の作成を行って、走行機体の追従すべき走行経路と現在位置、並びにその間の偏差等をディスプレイに表示する。さらに、偏差に基づいてこの偏差を無くすための前輪12の操舵角を演算して、この値を操舵コントローラ71に返信する。
【0037】
そして、タブレット端末又はスマートフォン67から操舵角の指示が返信されると、操舵コントローラ71はCAN(Controller Area Network)を用いて情報のやり取りを行っている操舵マイクロコントローラユニット75に対して、その指示操舵角を与える。そこで、操舵マイクロコントローラユニット75は操舵角制御のプログラムを実行して、先ず作業者が開始/停止ボタン(72)によって自動操舵を選択しているかを判断し、ここで自動操舵を選択していれば、前輪12の操舵角が指示された値になるようにステッピングモータ74を回転させる。
【0038】
また、それにより歯車減速機構78を介してステアリングシャフト41が回転して前輪12は指示された操舵角に操舵されるので、走行機体は走行経路に倣って直進走行することになる。一方、走行機体が枕地に至ると、作業者は開始/停止ボタン(72)を押して自動操舵を停止させ、手動でステアリングホイール38を操作して走行機体の旋回を行う。そして、次行程の走行経路の始端部に至ると、作業者は開始/停止ボタン(72)を再び押して自動操舵を開始させ、以後、同様な操作の繰り返しによって作業走行を行う。
【0039】
以上、直進走行を自動制御によって行わせる自動操舵装置の概要について説明したが、次に、前述の自動操舵装置で用いるGNSSアンテナ60、61と操舵コントローラ71の走行機体への取付構造について説明する。
図6や
図7に示すように、キャビン17の左右リアピラー19の上部寄りに円筒で形成する短尺な左右の脚体80をボルトで取り付けて、その上端部がキャビン17のルーフ31上に臨むように立設する。
【0040】
また、この左右の脚体80の上端部にスチール角パイプをベースにして形成する長尺なアンテナフレーム64の両端部を夫々ボルトで取り付け、これによりキャビン17のルーフ31の後部寄り上方にアンテナフレーム64を横設することになる。そして、アンテナフレーム64の左右方向の略中央には、プレートを折り曲げて形成する台座64aを固着して設けるので、係る台座64aに操舵コントローラ71を内装するケースを載置して取付け、さらに、このケースの上方と左右側方を断面コ字状のカバー81によって覆う。
【0041】
また、アンテナフレーム64の左右端寄りには、四角皿状の基底部の上部にドーナツ状の円板を備える取付座64bを固着して設けるので、係る取付座64bにGNSSアンテナ60、61を上方から差し込んで、その基底部に下方からボルトによって取り付ける。そのため、2つのGNSSアンテナ60、61は、キャビン15のルーフ31の上方に設けるアンテナフレーム64より上方となる走行機体の最も高い頂部に設けることになって、走行機体の他の構造物に何等遮られることなく多数の衛星から出される電波を捕捉することができる。
【0042】
なお、GNSSアンテナ60、61はこのように走行機体の屋外となる頂部に設けるため、ある程度の風雨に晒されても耐え得る全天候型となす必要がある。そこで、GNSSアンテナ60、61はそのアンテナエレメントとしてパッチアンテナタイプを使用し、また、このエレメントを実装した基板を樹脂製の円盤状のカバー60a、61aで覆って風雨に耐えるように構成している。また、トラクタ1に限らず作業車両はトラック等に載せて長距離運搬したり、或いは納屋ではなく屋外駐車させたり、圃場近辺で一夜を明かすことがある。
【0043】
そして、このような場合に作業車両を風雨から避けるために耐候性に優れた重量のある帆布トラックシートや、それより比較的軽いポリエチレンなどの合成樹脂製のシート等で覆い、また、このシートのハトメにロープ等を通してシートを絞って、トラックや自らの走行機体のフック部に締着しようとすると、GNSSアンテナ60、61の樹脂製のカバー60a、61aに重量あるシートが直接接触して、このカバー60a、61aに傷を付けたり、アンテナ60、61毎破損させてしまうという虞が十分に考えられる。
【0044】
そこで、GNSSアンテナ60、61のこのような損傷や破損を防止するために、走行機体のGNSSアンテナ60、61を設ける頂部近傍に、作業車両に掛ける覆い(シート)を下方から受け止めるガード体82を新たに設けて、GNSSアンテナ60、61が覆いに直接接触して損傷や破損を生じないようにガードする。より詳細に説明すると、ガード体82は前述のアンテナフレーム64を取り付ける左右の脚体80に各1体ずつ設ける。
【0045】
すなわち、
図8に示すように、背面側と底面側を開放する直方体状にプレートを折り曲げて形成する取付ベース83を用意し、この取付ベース83の下部寄りを脚体80の下部寄りに2本のボルトで着脱自在に取り付ける。また、係る取付ベース83に取り付けるガード体82は、パイプの先端寄りを直角に折曲げた本体82aと、この本体82aの基部寄りに溶着する円盤状のプレート82bと、この円盤状のプレート82bに溶着する操作ハンドル82cを備えて、係る円盤状のプレート82bの真ん中に穿設する丸孔82dにカラー84を嵌めながら、ボルト85を用いて取付ベース83の左右方向となる外側面83aの中央寄りに螺着する。
【0046】
なお、前述の取付ベース83の外側面83aには、上下方向に離して2つのボール孔83b、83cを穿設すると共に、このボール孔83b、83cの内側に円筒状の弾機保持体83dを夫々溶着して設けている。そして、係る弾機保持体83dにボール孔83b、83cを通して図示しない圧縮コイルスプリングと鋼球(ボール)86を押し込んだうえで、前述のプレート82bの内側面でこれ等の脱落を防ぎながら、ガード体82を取付ベース83に取り付けている。
【0047】
そのため、ガード体82は先ず、取付ベース83にそのボルト85を中心として前後方向に回動自在に取り付けている。また、作業者が操作ハンドル82cを把持してガード体82を前後方向に回動操作すると、その本体82aの略水平となる上部が上方に高く持ち上がった作用姿勢となる位置で、上下の弾機保持体83dに嵌っている鋼球86が圧縮コイルスプリングの付勢力によってプレート82bに穿設したディテント用の小穴82e、82fに向けて移動して、それなりのトルクが加わらないとガード体82が不測に回動しないように位置決めすることができる。
【0048】
さらに、作用姿勢にあるガード体82は、作業者が操作ハンドル82cを把持してガード体82を圧縮コイルスプリングの付勢力に抗して略90度回動操作すると、本体82aの略水平となる上部を含む本体82aの全体が下方に下がった格納姿勢となる位置で、上側の弾機保持体83dに嵌っている鋼球86が圧縮コイルスプリングの付勢力によってプレート82bに穿設したディテント用の小穴82fに向けて移動して、それなりのトルクが加わらないとガード体82が不測に回動しないように位置決めすることができる。
【0049】
そして、このようにガード体82を作用姿勢に切り替えると、ガード体82の本体82aの略水平となる上部の高さはGNSSアンテナ60、61より高くなって、作業車両に掛ける覆いを下方から受け止めてGNSSアンテナ60、61が覆いに直接接触して損傷や破損を生じないようにガードする。より詳細に説明すると、作用姿勢における左右のガード体82の本体82aの配設位置は、平面視でアンテナフレーム64の左右端寄りに設ける左右夫々のGNSSアンテナ60、61の全幅以上に及び、また、側面視で左右夫々のGNSSアンテナ60、61の中程に位置させて設ける。
【0050】
そこで、左右内側を向く夫々の左右ガード体82の上部に覆いを掛け渡し、また、この覆いを引き絞るように下方に押し下げると、左右の本体82aの間に垂れ下がる覆いは左右に引き伸ばされて、或いは、真ん中寄りが操舵コントローラ71のカバー81によって多少浮き上がることによって、その下方に位置するGNSSアンテナ60、61には覆いが直接接触しないようにガードすることができる。なお、この場合、ガード体82の本体82aには覆いの重量やロープの固縛荷重が作用するが、これ等の荷重は専ら略真下に位置するボルト85に加わって、ガード体82を回動させようとするトルクはあまり多くないのでガード体82が不測に回動することはない。
【0051】
また、前述のように操作ハンドル82cを略90度回動操作すると、ガード体82を格納姿勢に保持することができる。そして、このようにガード体82を格納姿勢に切り替えると、ガード体82の全体の高さはGNSSアンテナ60、61より低くなって、測位衛星から出される電波をガード体82が遮ることがなくなるので、GNSSアンテナ60、61が多数の測位衛星から出される電波を捕捉して高い測位精度を維持することができる。
【0052】
さらに、ガード体82の格納姿勢や作用姿勢への切り替えはキャビン17のルーフ31の左右側方において、操作ハンドル82cを用いてガード体82を圧縮コイルスプリングの付勢力に抗して前後方向に向けて回動させればよいので、格別工具等を用いることなく難なく簡単に切り替えを行うことができる。また、トラクタ1をトラックを用いて輸送することがなかったり、トラクタ1を格納する納屋があって、シートによってトラクタ1を覆う機会が特になければ、ガード体82を取り外して保管しておくこともできる。
【0053】
なお、GNSSアンテナ60、61によって捕捉した測位衛星から出される電波に基づいて走行機体の現在位置を取得する際に、ガード体82が作用姿勢となっていると測位衛星から出される電波をガード体82が遮ってしまう虞がある。また、トラックを用いてトラクタ1に覆いを掛けて輸送する際等に、ガード体82が格納姿勢となっていればGNSSアンテナ60、61が損傷や破損する虞がある。そこで、このようなガード体82の格納姿勢や作用姿勢への変更忘れを防ぐために、作業者に向けてガード体82の姿勢変更を促すメッセージを用意する。
【0054】
即ち、左右のガード体82が共に作用姿勢となっているか、或いは、格納姿勢になっているかを検出するために、夫々のガード体82にガードスイッチ88を1つずつ設ける。また、トラクタ1に覆いを掛ける場合は、トラックにトラクタ1を駐車させた状態で運搬する場合や、屋外で駐車させたりする場合であることから、前提としてトラクタ1の駐車状態の有無を判断することが必要となるので、操縦部に設ける駐車ブレーキレバーに付設する駐車ブレーキスイッチ89のオン/オフから駐車ブレーキの入り切り状態を判断する。
【0055】
また、これ等のスイッチ88、89の信号は、何れも操舵コントローラ71から通信ネットワークを介してタブレット端末又はスマートフォン67に伝える。そして、タブレット端末又はスマートフォン67が実行するナビゲーションソフトウェアにアンテナガード報知制御を付け加えて、
図9に示すように、この制御では先ず、イニシャルセットにおいてtrueにセットした制御開始フラグの状態を判断することから開始する(ステップS1)。
【0056】
ここで、制御開始フラグがtrueであれば、左右のガード体82の何れか一方でも作用姿勢になっているかをガードスイッチ88のオン/オフから判断する(ステップS2)。そして、左右のガード体82の何れか一方でも作用姿勢になっている場合は、
図10に示すようにタブレット端末又はスマートフォン67のガイダンス画面に「アンテナガードを格納してください」と表示させる、ガード格納要請を出す(ステップS3)。
【0057】
つまり、以上のステップS1~S3では、キースイッチが切られてトラクタ1が停止している状態から、作業者がキースイッチを入りにしてトラクタ1を始動させる段階(操舵コントローラ71等を含む各種の機器に電源供給が開始されて制御装置が起動した段階)で、左右のガード体82の何れか一方でも作用姿勢になっていれば、これから測位衛星から出される電波に基づいて走行機体の現在位置を取得して、直進走行等を自動制御によって行う場合に、ガード体82が作用姿勢になっていて測位衛星から出される電波を遮ってしまう虞を無くすために、作業者に向けて前述の要請を行う。
【0058】
また、前述のステップS2で左右のガード体82が共に格納姿勢になっている場合は、駐車ブレーキスイッチ89のオン/オフから駐車ブレーキの入り切り状態を判断する(ステップS4)。そして、ここで駐車ブレーキが切りとなっていれば、制御開始フラグをfalseに設定(ステップS5)して復帰し、また、駐車ブレーキが入りとなっていれば、そのまま復帰する。
【0059】
従って、以上のルーチンでは、トラクタ1の駐車状態が解消されて走行が可能になった段階で左右のガード体82の格納忘れに基づく格納要請に関わるステップS1~S3のルーチンを終了させて、今後のガード設置要請に向けた制御に移行させるプログラム上の手続を実行し、また、作業者がトラクタ1を駐車させたままで走行させる意図が伺えない場合は、そのまま実質的な制御を行うことなく待機状態を維持する。
【0060】
そして、以上の経過によってステップS1で制御開始フラグがfalseとなれば、同様に駐車ブレーキの入り切り状態を判断する(ステップS6)。ここで駐車ブレーキが切りとなっていればそのまま復帰する。しかし、駐車ブレーキが入りとなっていれば、
図10に示すようにタブレット端末又はスマートフォン67のガイダンス画面に「幌掛けする場合はアンテナガードを設置してください」と表示させる、ガード設置要請を出す(ステップS7)。
【0061】
つまり、圃場における作業走行を終えて圃場の近辺や自宅の周辺でトラクタ1を駐車させたり、トラクタ1のトラック輸送のためにトラック荷台に移動させて駐車させるタイミングをもって、前述のガード設置要請のメッセージによって左右ガード体82の作用姿勢への変更を促すので、その後のトラクタ1を駐車させた状態で幌掛けによってGNSSアンテナ60、61が損傷や破損する虞があることを作業者に周知させて、そのような虞を未然に防止する。
【0062】
以上、GNSSアンテナ60、61と操舵コントローラ71の走行機体への取付構造、並びにGNSSアンテナ60、61に付設するガード体82について説明したが、基地局62から出される電波を捕捉する無線アンテナ63は、
図6及び
図7に示すようにキャビン17の右フロントピラー18の上部寄りに取り付ける。そのため、幌掛けした際にルーフ31に遮られて無線アンテナ63が幌によって直接、損傷したり破損する虞は少ない。
【0063】
但し、特許文献2に記載された第2実施形態の補正信号受信アンテナ25のように、障害物にあたる可能性を低減するためにアンテナフレーム50を使用位置から収納位置に回動させて、アンテナ25を左右方向に倒して高さを低く抑えるような場合に、幌掛けするとアンテナ25に幌がかかって損傷や破損を生じさせる虞がある。
【0064】
従って、このような場合には、横倒したアンテナ25の上方にガード体を設けて幌からアンテナ25を保護すると共に、アンテナフレーム50を使用位置に回動させてアンテナ25を起立させた際には、ガード体をアンテナ25の上方から遠ざけて補正信号の電波を遮らないように姿勢変更ができるように構成すれば良く、本発明のGNSSアンテナにガード体を設けるという技術的思想は、無線アンテナにあっても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 トラクタ(作業車両)
17 キャビン
31 ルーフ
60 GNSSアンテナ(位置)
61 GNSSアンテナ(方位)
64 アンテナフレーム
71 操舵コントローラ(制御装置)
80 脚体
82 ガード体